○国務
大臣(河野一郎君) 大へん
委員会の方は早くからお開きをいただくように御要請もあったようでありますが、御
承知の
通り衆議院のほうで
予算が
審議されておりましたし、また参議院の方も
予算委員会が開かれておりましたために、私がこの
委員会に出席が遅れておりましたので、また私といたしましても、おあずかりいたしております
農林行政について、皆様方の御
了解を得るためにいろいろ申上げますことが遅れましたことを、この機会におわびを申上げます。
この機会に私から一言申上げて御
了解を得たいと思いますることは、昨年末
農林大臣に就任いたしましてから、その後新聞紙上もしくは各種の演説会等におきましていろいろ私が放言をしておる、ないしは私の演説をいたしましたこと等につきましていろいろ御批判なり、ないしはまた誤解なりがあるような点がありまするので、この機会に率直に私の所信を表明いたしまして皆様方の御参考に供したいと思うのであります。いろいろございますが、それらにつきましては機会を得まして、お尋ねによりまして申上げることにさせていただきたいと思いますが、まず第一に私の考え方といたしましては、今までのわが国の
農林行政の推進して参られました
あとを考えてみますると、私が今さら申上げるまでもなく、終戦以来国内的にもにわかに人口の増加もいたしましたし、またにわかに朝鮮、台湾が分離いたしました
関係から、わが国の食糧
政策に非常に大きな変化がありましたことは申上げるまでもありません。また世界的にも非常に食糧の
不足をいたしておりました
関係から、国内におきましてはまず何がなんでも食糧の
増産をして、そうして国民生活の安定を期する方向に向って行かなければなりませんという見地に立たれて、朝野をあげて
食糧増産に邁進せられましたことは、私は当然のことだと思うのであります。このためにはあらゆる犠牲を払ってこの確立に向って施策を講じ、努力をして参らなければならなかったことも、これまた
当りまえのことと思うのであります。ところが今や世界的に考えましても、相当に食糧に対する各般の条件が違ってきておることは、あえて私が申上げるまでもないことでございまして、たとえて申しますれば、この点が往々にして誤解を招くのでございますけれ
ども、あえて申上げますれば、世界的に食糧は非常に
増産せられまして、たとえば麦のごときはある
意味において私は生産過剰の状態に陥っておると思うのであります。米につきましても、今までぜひわが国であらゆる努力をして各国からの輸入に努力しなければならなかったというものが、今やわが国に対してどうして売り込もうか、どうして買ってもらおうかというような状態に変って参りましたことも御
承知の
通りであります。従いまして価格等につきましても相当に安くなっておりますことも事実であります。そういうように国際的に食糧事情が変って参りましたことと、かたがたわが国の農業事情といたしまして、戦争以後只今申上げましたような国内の食糧事情等を十分認識いたしまして、わが国の農民
諸君が
政府の戦争以来とって参りました供出制度について、十二分の協力をして参られましたことも今や以上申上げましたるような客観情勢の変化ないしは国内の各種の情勢の変化等によりまして、この食糧供出制度について供出の意欲がだんだん減退をして参りまするとともに、この制度に対して農民のあらゆる方面において協力の
意思が薄れて参ったこともこれまた私は
当りまえのことだと思うのであります。従って今日の段階におきまして、われわれ
どもといたしましては、この供出制度を相当の
意味において変えて行かなければならないということも考えなければならないことだと思うのであります。かたがたわが国の各種の産業にわたって考えてみますると、それぞれの産業が、戦争もしくは終戦を契機にいたしまして、国家の総力を一点に集中する
意味において、あらゆる努力を国民が傾けて参りました。それが終戦後十年になんなんとする今日におきましては、それぞれが各種各様にそれぞれの業界、それぞれの立場において、みずからの生活の安定の基準において努力しておられまするそのときに、農民だけが国家の要請に基いて
食糧増産にのみ専念するということを、その点においてのみ協力をしていただきまするということについても、われわれといたしましてはこの点に十分な施策を講じなければならないということも考えなければならないと思うのであります。これを別の
言葉で申上げますれば、米もしくはその他の主食の製造生産に従事しておられる農民
諸君が、これを生産、製造する、耕作することによってみずからが一番大きな収入を上げることができる、これが農業であると、この農業に従事することによって完全にみずからの生活の安定の基礎もしくは農家の経済の確立を期することができるということが、第一に
政府としても考えなければならぬことでございましょうし、また農民
諸君の立場におかれましては、他にそれぞれ適当な、有利、確実なものがありますれば、その方面に順次転換させるということに対しても、われわれとしてもこれを考えなければならぬことではなかろうか、こういうふうに私は考えるのであります。また私のこの考えが違えば、いろいろ御
意見を拝聴いたしまして、私は決してこれを修正するにやぶさかではございませんけれ
ども、たとえて申しますれば、米を作るという国家の要請、ないしはまたドル払いで外国から米を買うということはいけないという国家の要請、この国家の要請に基いて、農民自身は依然として、いつまでも米を作っていかなければならないものであるというような考え方でなしに、米を作るそのことが、農家経済の安定もしくは生活の向上になるという現実に立って、米の
増産の
指導をするということに考えていかなければなるまいと思うのであります。いわゆる従来とても私の今申上げたようなことになっておった面もあると考えますけれ
ども、多少その間に違った面もあるような気もいたしますので、私といたしましては農家経済の安定、農民生活の確立という面に重点をおきまして、そこでどういうふうに私は考えるかと申しますると、戦前にすでに十分先輩
諸君によって論議せられましたところでございまするように、農家の経営を多角的にいたしまして、たとえばサツマイモを作っておった畠に桑を作って、そうして蚕糸
政策を確立いたしまして、そうして生糸の輸出増進をする、生糸の輸出増進をすることによってこの生糸の代金によって米を買って参る、麦を買って参るということも、あらゆる面から勘案いたしましてそのような途をとることも決して差しつかえないのじゃなかろうか、これは一例にあげたのでございますが、畜産の振興につきましても、これを多角経営の見地から参りまして、農家の経営を確立するという面から考えていかなければならぬのではなかろうか。どこまでもわが国の農家経済、農業生産の確立という
意味から、農業
政策を推進して参るというふうに考えて行きたいと、実は私は考えるのでございます。
そういう見地に立ちまして、もう一つ誤解がありまする点が従来ありますので、この機会に御
了解を得ておきたいと考えますることは、外国の米が下った、麦が下った、安い米、安い麦を日本へ持ってきて、そうして日本の国内の麦の値を下げ、米の値を下げて、そうしてやっていこうというような考えを私が持っているやに伝えられる向きもありますけれ
ども、これはたびたび機会がありまする際に、両院において私が発言いたします
通り、絶対にそういうことは私は考えておりません。日本の米価の決定は、只今申上げますような
意味合いにおいて米価の決定も許されるなら、して参らなければならんし、麦の値段についての
指導についても、私は外国の麦の値段がどうあろうとも、それとこれとは別であって、わが国はわが国の独自の立場において全体の経済界の情勢、物価指数等その他いろいろ皆様方にすでに十分御
審議をいただいておりますような米価、農産物価格の決定の方向に従って決定すべきものであって、外国の米麦の価格、世界の農産物の価格の騰落によってにわかにこれが推進されるものではないということについては、私は深くその点については考えておりますから、もしこの点について誤解があったならば御了承いただきたいと思うのであります。
さらにそういうふうな
意味合いに立ちまして、私がしからばこれをどういうふうに具体的に
農林政策として進めて参るかと申しますると、以上述べましたような基本的な
原則に立ちまして、第一にやりたいと思いますることは、農家経済の確立のためには農家の一般農産物の生産費の引下げに深く施策を講じなければならない、生産費の引き下げに当っては、しからば何を考えて行くか、第一にこれは土地の改良におかなければならんことはあえて申上げるまでもありません。土地の改良をして反当収穫量の増大を期して、そうして生産費の引き下げをはかることは当然でございます。私はこの点について、よく世間に土地改良はもう放ってしまうのだというようなお話もございますけれ
ども、その私が土地改良に対する
意見は只今申上げますように生産費の引下げを基準にした土地改良はあくまでもこれは推進しなければならんのであって、ただそうでなしに、開墾によって、そうして非常に耕作の不便であるとか生産費の高くつくとかというようなものにまで入植者その他によって無理に雑穀その他のものを耕作させて行くようなことについては、多少考えて行かなければならんのではなかろうかと、この点については考えるのでございまして、土地改良その他によって生産費を引き下げ、反当収穫量を増して行くということについては、今後も引続いて全力をあげて行かなければ、生産費の引き下げにはならないということについては、私もそういう考えを持っておりますから、この点については御理解いただきたいとと思うのであります。
第二は、生産費引き下げの点に続き、農家経済の安定の点につきましては肥料、飼料、農器具、農薬、これら農業用
資材の価格を引き下げて参りたい。この機会に一言お許しをいただいて肥料のことについて申上げてみたいと思うのであります。わずか硫安の五円や七円下げたところでそれが何になる、その
通りでございます。その
通りでございますが、とかく従来一部独占資本家と申しますか、一部の資本家によって肥料の価格が一方的に決定せられて一方的にこれが運営せられるようなきらいがありました。そういうことに対してあるいは農村側として、これは誤解があるといけませんから申上げておきますが、肥料
審議会において決定せられます価格はどこまでも私はこれは最高価格と了承いたしております。従って、最高価格であります以上は最高価格にくぎづけになっておる肥料の価格が間違いなんでございまして、これは最高価格を幾分でも下廻って農家に取り引きされるということは絶対しなければならない、われわれが肥料の輸出を許可いたします場合において、最高価格を絶対に上廻ることは同意ができませんぞという一つの目安が肥料
審議会によって決定せられる価格でございます。これを取り違えて、これが肥料の公定価格であるかのごとくに誤伝せられており、誤解せられておる向きもあるように私は考えますけれ
ども、これは輸出の許可をいたします場合に、輸出してもこれより上には上らない、これより上に上るようなことがあったならば輸出に非常に
支障があるのであるというような目安からきめたのであって、生産状況がよくなった、その他の状況がよくなれば当然これは価格の引き下げがあることが
当り前だというような
意味で私は考えたのでございまして、これは硫安、石灰窒素、過燐酸、カリその他の肥料全体にわたって私はできるだけ可能な値下げをしていただきますると同時に、
政府といたしましても、この方面には格段の施策をいたしまして、今われわれが想像できまするような肥料の値下げでなしに、もっと大幅の肥料の値下げ、少くとも硫安を国際価格まではどうしても一日もすみやかに引き下げまして、そうしてわが国農家の生産せられるものにつきましては国際価格に近いとろまで生産費が下って、そうして価格が調節できるということに持って参らなければならないと思っておるのでございます。餌につきましてもいろいろ問題がございますけれ
ども、これについても格段の努力を払って参りたいと思うのでございます。これらにつきましてはお尋ねがあります際に申し上げることにいたします。
さらにまた農機具、農薬等につきましても同様に考えております。ある人からの御注意がありまして農薬に対する
補助金は思い切ってふやさなければいかん、こういう御注意もございましたが、私はこの機会に申し上げておきたいと思いますことは、農薬の問題については
補助金も入り用でございます。
補助金も入り用でございますけれ
ども、従来の農薬の行政につきまして私は少しく考えてみなければならぬ点があると思いますので、これらにつきましては行政の
指導その他によりまして、相当に効果を上げてみたいと考えておるのでございまして、もちろんそれだけでは十分でありませんから
補助金等についても考えるべきことはむろん考えなければならないと思っております。そういうふうにしてこれらの生産
資材の引き下げについて努力をいたし、さらに税金につきましても今農家の税金についてだんだん問題がありますることははなはだ遺憾でございまして、これにつきましては私といたしましては所期の
目的に反するような方向にいっておりますので、最善を尽してこの問題の解決に努力いたしまするとともに、今回の
内閣が考えておりまする減税に
当りましては、特に農家に対する減税の方向に相当に実効の上りまするように考えてみたいと思っております。そういうふうにしてあらゆる面において可能な許されましたる努力をいたしまして、生産費のまず軽減をはかり、そうしてそれに引き続いて取引の改善をはかりまして、そうして農家の手取りをふやす、農家の売った値段と現金の支出の差額を大きくいたしまして農家の経済に寄与して参りたい、そういうことによって農村の繁栄が期せられるのではなかろうか。従いまして今米の値段を上げる、麦の値段を上げる……下げるということは私はさしあたり考えておりません。将来相当に経済界の変化ないしは生産費の引き下げが相当に効果をあげて参りまして、誰が見ても少し下げてもいいじゃないかということになれば別でございますけれ
ども、私自身は米麦の価格を国際的な影響を受けて下げようというようなことは毛頭考えておりませんことも御
了解をいただきたいと思うのでございます。そういうふうにして現在の価格に安定をすることが私は労働問題解決等の諸点から勘案いたしましても、どうしても経済界の安定、国民生活の安定は、すなわちわれわれがおあずかりしておりまする農業生産、農産物の価格の安定が基準であると考えまするので、農家の方々にも非常に御迷惑と考えますけれ
ども、現在の価格になるべく安定できるものはがまんをしていただいて、そのかわりに
政府といたしましては生産費の引き下げに全力をあげて努力するという方向で基本的に……むろんそれぞれの
例外はございましょうけれ
ども、私に関する限りそういう方向で努力して参りたいと考えておるのでございます。また今までの農産物の価格の安定につきましては、皆さんも御
承知の
通りたとえば畜産物の価格のごときもここ数年間家畜の導入その他畜産振興というような
意味におきまして、畜産振興については相当の努力が払われて参りましたけれ
ども、畜産物の価格の安定の上において多少遺憾な点がございました。その盲点を突かれまして牛乳の価格の下落、卵の下落というような畜産製品の異常なる下落をみておりますることははなはだ遺憾に考えられますので、この点についてはこの機会を通じていずれ皆様方の御賛成、御協力を得まして、適当な施策を実現いたしたいと考えております。その他一般農産物につきまして、養蚕につきましては生糸の価格もしくは繭の価格等につきましてもこの
国会でできますればぜひ安定方策について力を入れて参り、これら養蚕、畜産その他一般の、先ほど来申し上げました多角経営を推進して参ります上におきまして、これらの農産物の価格の安定につきましては
政府としては特にこの機会に努力をいたしてみたいと考えておる次第でございまして、その他いろいろ申し上げなければならないこともあるかもしれませんが、大要申し上げまして皆様方の御
了解を得たいと思う次第でございます。
いずれ折に触れましてまたお尋ねがありますれば所信を披瀝いたしまして御
了解を得たいと思う次第であります。簡単にごあいさつを申上げまして御
了解を得たいと思います。