○松浦清一君 私は社会党の第二控室を代表いたしまして、ただいま問題になっております
防衛三法案に対して
反対をするものであります。
吉田
内閣以来保守政権によりまして
計画をされて参りましたわが国の
防衛体制は、日米安全保障
条約に基きまして、わが国の
防衛力を漸増して、それにつれて
アメリカの駐留軍を漸減して行くという方向をとっておることは明らかであります。すなわち
昭和二十五年七万五千で出発をいたしました警察予備隊は、その後十一万名に増強をされ、保安隊となり、さらにそれが
自衛隊との切りかえに際しまして十三万名になり、さらにまた昨年は強い
アメリカの要請に基いてこれが十六万四千五百三十八人に増強されたのみならず、陸の
自衛隊、海の
自衛隊、空の
自衛隊といういわゆる三軍均衡の軍備体制が確立をされたのであります。この間
国会において論議の焦点となりましたことは、要約をいたしますると、第一が、このような軍備の違憲問題、第二には、このような軍備はわが国の自主的なものではなくて、
アメリカの強要によるものではないのか、第三には、わが国の経済力がこの漸増
方針にたえ得るかどうかということ、第四には、
政府側の繰り返して
説明される平和のためということは、かえって平和を乱す結果となりはしないかということでありました。私どもの憂慮もしたり、繰り返し、繰り返し
反対をいたして参りましたことは、大体この四点に集約されることは記録に明らかなところであります。ところが私どものこの意味における
反対にかかわらず、本年度においてはこれがさらに増強の
方針を進めつつあります。すなわちこの三法の改正案によって明らかにされた本年度の軍備
計画は、まず人員の点で見ますと、陸上
自衛隊では自衛官、非自衛官と合せて十六万一千六百五十八名、海上
自衛隊では自衛官、非自衛官と合せて二万薫百三十八名、
航空自衛隊では自衛官、非自衛官を合せて一万一千五百五名、その他官房、内局、統幕会議、
防衛研究所等を合計いたしますると、十九万五千八百十一名となるのであります。さらに
予備自衛官五千名を加えますと、その数は実に二十万八百十一名となるわけであります。さらにこのことのために部隊編成の増加するものは、陸上において方面隊一、混成岡三、独立大隊八、海上においては千二百五十トンの護衛駆逐艦二隻、潜水艦一隻を
アメリカから供与されるほか、
日本自身が時速三十ノット、五インチ砲三門の性能を持つ千六百トンの警備艦甲二隻、同乙千トンのもの三隻の就航、及び警備艦甲四隻の新発注、引き揚げられた旧駆逐艦「梨」の購入、
航空機
関係では大小各型対潜警戒攻撃機約三十六機、大小各型飛行艇十二機が
アメリカから供与されることになっております。
航空の
関係では初めて戦闘
航空団が新設されまして、実用機部隊が編成され、
アメリカからF86Fセーバー・ジェット戦闘機五十機が供与されることになっております。また本年度からはいよいよF86F及びT33というジェット練習機の国内生産が始ることになるのであります。さらに本年度内に増強される
航空機は、F86Fのほか、T6G八十四機、T33五十九機、C46輸送機など二百三機が
アメリカから供与されるのであります。さらに
日本で購入する練習機、連絡機二十七機を合せて二百三十機、そのほか教材用としてF86F及びT33各十一機、計二十二機、これを合計すると、本年度の
航空機の増加分は、私の計算によりますと、実に二百五十二機の増加となるのであります。もし数に間違いがあればいつでも訂正いたします。これによりまして
日本の陸海空三軍の陣容というものは、今日の
日本の経済力から判断をいたしまして不相応なものとなると思うのであります。すなわちこれを本年度の
予算面から見てみますると一千三百二十七億円が
防衛関係費としてすでに
承認され、そのほかに昨年度末使用分二百二十七億円、その他四月十九日の日米
共同声明によりまして明らかになりましたように、
防衛庁に対して、百五十四億円の国庫債務負担行為の権限が付与されることになっておりますので、本年度の
防衛関係総経費は合計一千七百八億円となるわけであります。この三法案、審議の過程を通して明らかになったことは、高碕企画庁
長官から本年度の
国民総所得六兆三千億円に対して、三十一年度は六兆六千億円と推定され、本年度より
防衛関係費を増額することが可能であるということが言明されておりまするので、現
内閣の自衛力漸増
方針は、吉田
内閣以来の
方針通り着々として進行しつつあることが明瞭となってきたのであります。
政府が総合経済六ヵ年
計画を立てるに当りまして、この
計画に並行して
防衛六ヵ年
計画があるだろうとの
国会の追及に対し、
杉原防衛庁長官を初め各
関係閣僚は、頑強にこれを否定して参りました。そうしてその長期
防衛計画の方向はきわめて不明瞭なままで、泣いても笑ってもこの三法案は本院を通過成立の運命にあるのであります。
政府がひた隠しに隠してきた
防衛六ヵ年
計画は、
政府の必死の隠蔽にかかわらず、すでに世上にはその情報は流布されておるのであります。すなわち本年度を起点として六ヵ年後には陸上
自衛隊は六管区二方面隊四混成団、総人員十八万人、海上
自衛隊は、警備艦二十隻を中心とする艦艇二百隻、約十二万トン総人員三万人、
航空自衛隊は、実用機七百機、練習機五百機、総人員四万人、合計陸海空の
自衛隊員二十五万人となり、
日本の陸上
自衛隊が十八万人になったときに
アメリカの地上軍は撤退を終る。残される
アメリカの海軍、空軍と
日本のこの三軍とが
日本を
防衛する総力であるということであります。従って
日本政府としては年々
防衛関係の
予算措置を拡大する必要があるので、
計画の最終年度には
アメリカに対する
防衛分担金を含めまして二千百億円程度を要することになっているのであります。このような実情でありまするので、私はこの三法案に賛成ができないのであります。
具体的な
反対の第一点は、
日本の自衛のためと称する軍術が、憲法第九条に違反しているかいないかということが明確になされない、ままに増強されて行く軍部には
反対であります。
国会の中では保守政党の諸君が違憲でないと結論をして、革新政党は違憲であると主張をいたしております。これは
昭和二十五年の警察予備隊創設以来の論争でございます。学界においても善意な学者はすべて違憲説を支持いたしております。国定の大勢はどうかと言えば、過ぐる二月選挙はこの問題を最高の論点として戦われましたが、その結果は憲法改正阻止の勢力を革新政党に与えたことによって、その
考え方の動向は明らかであります。これが
反対の
基本線であります。
第二には、伝えられる
防衛計画六ヵ年の最終年度における二千億円に余る
防衛費が、
日本の経済力ではたえることのできない大きな負担であるということであります。経済企画庁の立てられた総合経済六ヵ年
計画は、具体的な科学性のないものであって、単なる机上の作文に過ぎないことは世論の一致した見方であります。この作文にはっきりいたしておりますことは、経済の樹立ということと、完全雇用ということを
二つの目標に並列させて、総合的にかつ、長期的な
計画を立ててやることであります。そうしてこれが目標を達成するためには、鉱工業、農林水産、輸送、治山治水、労働、住宅、人口、社会保障、財政金融、税制、物価等各方面にわたって政策の総合性を保持しつつ長期にわたり一貫した施策の実施によって裏づけすることが必要であると、そう書いてあるのであります。まことに概念的な表現であります。私どもは鉱工業の中に石炭、石油等の燃料や鉄鉱や、
防衛産業の具体化が周到に解明せられ、農林水産の中に総合食糧対策、肥料の問題が具体的に
計画され、解明されなければ、この総合六ヵ年
計画が単なる思いつきの作文にすぎないとのそしりは当然と思うのであります。従って私どもはこの
計画の中から
昭和三十五年の最終年度に四千三百五十万人と想定される労働人口が完全に消化されるということを残念ながら信用することはできません。
日本の予想される経済力は、
計画の最終年度二十五万の
自衛隊を養ない、その装備と消耗品をまかなうだけの実力に成長することは絶対に不可能であります。わが国の経済を自立する方策についての論議は別の機会に譲ることといたしましても、この意味において軍備の漸増方向に対して私は
反対するのであります。
第三には、外敵から侵されないだけの軍備を持つことが平和を守る手段であるとの
考え方についてであります。この法案の審議の過程を通じて明らかにされたように、
日本を取り巻く列国の軍備は、情報として流布されている六ヵ年
計画の最終年度におけるわが国の軍備をもってしても、列国の現況と、
日本の六ヵ年後とを比べてみても、これは比較にならないのであります。自主独立の
防衛体制と
政府はよく申しますが、今から六ヵ年たてば列国はわが国のそれよりもさらに速度を早めて、軍備は増強されるのであります。
日本は世界のいずれの国に比べても人口の密度は高く、その数も多いのでありますから、
方法をもってすれば兵隊の数を作ることはできないことはないでありましょう。しかしながら兵隊の数だけでは戦力にならないことは論ずるまでもございません。いつまでも
アメリカの腰にぶら下っているわけにもいかないのでありますから、その真の戦力たる国の綜合的な経済力を、いわゆる戦力たらしめることができがたいとすれば、世界の平和を求める道は、ほかに求めるのが当然であります。世界に対して原爆の国際管理を強く要請することもその
一つの道であります。徹底的な軍備の縮小を要請し、国際連合による警察軍によって、侵略国に膺懲を加えて行くことについて、大きな無理をして軍備を強化して行くほどの努力を払えば、必ず効果はあると思うのであります。平和は軍備の強化にその道を求めるのではなくて、軍縮の方向への努力の中から生まれてくるものであるとの観点から、私はこの三法案に
反対するのであります。
第四には、一本の軍備は
アメリカに隷属している傾向がきわめて強いということであります。すなわち
航空力を中心として多くの艦艇の供与または貸与を受ける海上
自衛隊のごとき、全く
アメリカ依存の上に成り立っていることは周知の
通りであります。このことは日米安全保障
条約に基くものでありまして、これと対照的に中ソの間には、御
承知の中ソ友好同盟
条約が結ばれております。この
二つの
条約が相対立して背中合せになっているということが、件軍備論者をして軍備を急がしている理由となっていると思うのであります。しかしながら
日本の国は、前にも申し上げました
通りの実情にあるのでありますから、ただいま開かれておりまする日ソ交渉などの機会を通してまずソ連との平和を求め、それを契機として中共とも平和のための交渉を求めて、この
二つの対立した安全保障
条約を解きほぐして日米、中ソ一本の平和
条約、安全保障の
条約締結にまで推し進めるための最善の外交努力を払うべきだと思うのであります。この理想を実現するために努力を払うということは、万人
反対するものはないのであります。現在の
アメリカの隷属軍の増強は、およそこの理想実現への道とは
反対の方向をたどりつつあるのであります。従って、私は世界に平和を求め、
国民生活の安定を求めるがゆえに、この
防衛関係三法案に
反対するのであります。
以上をもって討論を終ります。