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説明員(岸本晋君) 閣議決定の趣旨に沿いまして具体的に
考え方を申し上げたいと思います。
第一にこの閣議決定の第一におきまして、本法案のねらいが恩給及び共済年金の二本建を一本の共済年金
制度に統一しようというような目的だと書いてございますが、問題はその点についてはある
程度公共企業体というものについての特殊性からやむを得ないのじゃないかというような感じがあるわけでございますが、問題はこの統一に際しまして、今日の年金なりあるいは恩給給付の水準を引き上げていこうという公社の、公社と言いますか、本法案の
内容につきまして問題にいたしておる点があるということを一に概括的に申しておるわけでございます。
問題になりますのは二の(イ)にある点でございますが、「新共済年金の給付水準が、現行の恩給及び共済年金のそれに
比較して三割以上割高であり、著しく
均衡を失する。そのまま実施すれば、国及び地方の恩給及び共済年金
制度にも波及する。」ということが書いてございます。この点につきましては現在の恩給、共済年金両方とも一番重要な年金であります
退職年金に例をとってみますると、恩給でございますと十七年勤めると普通恩給がつく。その際は最終俸給の三三%。また共済年金でございますと二十年でやはり三三%の年金がつくように相なっておりまするが、この法案によりますると二十年勤めて四〇%ということでございます。で、その二十年以上勤めますとさらに加算がついて参るということになっておりますが、その加算率の点におきましても現行よりはよくなっている。三十年を勤めて、これからだんだん人々が長
勤続になって参ります、なかなかやめない、長くなると三十年も勤める人がまた多くなるだろうと思いますが、その辺のところを
比較いたしますと、たとえば恩給でありますと三割以上現行より高くなって参る、こういう結果に相なって参るわけでございます。年金
制度が公共企業体
職員についてよくなっていくということはそれ自体また
一つの年金
制度全般として問題があるわけでございます。公共企業体
職員ばかりでなく、
国家公務員あるいは民間の勤労者、こういうものを含めまして、果してこの際含めて
考えました場合に、公共企業体
職員だけこの年金
給与水準の引き上げを行う積極的な理由があるであろうかということが問題になるわけであります。
職員の広い意味の待遇、つまりたとえば公共企業体
職員が
公務員に比していいのか悪いのか、あるいは民間勤労者よりも優遇されているかどうか、こういう問題はひとり年金
制度ばかりでなく、現実の
給与でございますとか、あるいは福利厚生施設の面、そうした面を総合的に
考えまして判断をいたさなければならないわけでございます。現在のそうした広い意味の待遇を取り上げて
考慮いたしますると、現在の公共企業体
職員の待遇が
国家公務員に比して劣るとは決して申されませんし、また民間勤労者に
比較いたしまして悪いということも申されないだろう、かように
考えるわけでございます。そうした場合に公共企業体
職員の年金だけを特に取り上げましてさらにベース・アップをやる、水準の引き上げをはかるということは広い意味の公平の原則から言ってもなかなか納得しがたいのじゃなかろうか、かように
考えるわけでございます。かりに現在のような
状況で公共企業体の年金だけを引き上げ、待遇の面で決して悪いとは言えない公共企業体
職員だけ年金の給付水準を引き上げるということにいたしますると、これは国及び地方の恩給年金
制度、これにも当然波及いたして参ってくるわけであります。たとえば電電公社と従来一体でありました郵政省など、こういうところはすぐ問題になって参ろうかと思います。
国家公務員、
地方公務員の年金
制度もこれをそのまま放置しておくということは非常にむずかしい情勢に相なろうかと、こう思うわけでございます。(ロ)の「新共済年金
制度実施に伴う公社の負担増加が大きく、経理に圧迫を加える。国及び地方に波及した場合の負担増加も極めて大きい。」経理面のことをうたっておるわけでございます。年金
制度を実施いたしました場合にどれだけの負担がかかってくるかという問題でございますが、これはいろいろ年金
制度の負担方式とか、あるいはそれに伴う積立金の方式と
かいろいろな
考え方があるわけでございます。現在の共済年金
制度、これは改正じゃなく現行の共済年金
制度では
一つの平準保険料方式という計算を使っております。これは長い目で見ました場合に、どの
程度の金がこの年金
制度を実施するためにかかるかという長期間の所要額を算出いたしまして、それを現在及び将来の
職員が均等に負担したとしたならば、どれくらい負担しなければならないだろうかという
関係から負担の点をきめておるわけでございますから、これを一応平準保険料方式をとっております。これでいきますと、当初の負担はほんとうの必要額よりは多くはなりますが、先にいくに従って逆に少くなる。長い
年限で見れば負担としては一定していると、こういう方式でございます。これを現在の共済年金法案で実施いたしておるわけでございますが、この新法案におきましては、こうした平準保険料方式——当初に金がかかるという方式——をとりませんで、これは非常に技術的な
説明になって恐縮でございますけれ
ども、修正賦課式と申しますか、年々の支出に必要な
金額に若干の余裕を見た
程度のものを公社として負担していこうという、こういう修正賦課式の
方法をとっているわけでございます。これによりますると、必ずしも現行よりは増さないという案も
考えられるわけでございます。つまり平準保険料方式で計算いたしますと、たとえば新法案実施で公社が百五、六十億負担しなければいかぬ。それが修正賦課式でやりまして、現実に必要な支出額だけまかなうに足るということにすれば、おそらく五十億前後であると思いますので、その間の幅をどれだけとるかということでございます。公社案としては承わっておりまするところによると、毎年五十億
程度を数年間負担すると、そういうふうに内輪に
考えておられます。そういう方式でとりますれば、なるほど現行よりは負担は減るということが
考えられるわけでございます。ただ現在において負担を軽くしておくということは、将来において負担が大きい、将来の国鉄の企業経営のいかんによって、将来大きくなった負担が払えるか払えないか、まかなえるかまかなえないかという点が出てくるわけでございます。その辺に若干の、私
どもといたしましては現行より負担が少くなるというような
考え方は、少し
危険性があるのじゃないかという感じがいたすわけでございます。そのほか公社で一応正式にはここに御提案になっておりませんが、いろいろな付属
資料で拝見いたしましたところ、その計算基礎に対しましてもいろいろ疑問があるわけでございます。必ずしも公社は五十億でいいとおっしゃったって、その
数字がかりに採用されるといたしましても、その
数字にさらにプラス・アルファとなるべき
数字が
考えられなければならない。当然
考えるべき
数字がオミットされて
考えられておるわけでございます。その点に関して私
どもといたしましては問題があるというふうに
考えるわけでございます。長い目からいたしますと、いずれにいたしましても、給付が、恩給適用者についてはたとえば三十年以上勤めて三割も高くなる、こういうことになるわけであります。長い目で見てこれだけの支出額、負担の増ということは決してこれは避けることができない当然のことのわけなのであります。それで公社の負担という問題につきましても今日のような経営
状況で果してそれでいいのかどうかということも疑問にいたしておるわけでございます。さらに同じような
制度を
国家公務員、
地方公務員に請求されてやると仮定いたしました場合に、相当なひどい増加が一般会計、特別会計あるは地方の団体に出て参るわけでございます。この点が第二点でございます。
第三点といたしましては、これは年金
制度の改正とは
関係ないのでございますが、これに付随して新共済法案では医療その他の短給の水準の引き上げをはかっております。特に結核性疾患の療養の期間を三年から五年に延長するという問題がございます。この点は現在のまあ社会保険の通念といたしましてこれは三年という建前で民間の健康保険も国の共済保険も皆同じようにやっておるわけでございまして、これを今くずすということには大きな問題があるわけでございます。ことに民間の
政府管掌の健康保険におきましてはすでに六十億でございますか赤字があります。これを解消し、再建、立て直しをやる場合にどうすればいいかということを
政府は真剣に
考えておるわけでございます。この
状況のときにさらにその療養費の負担を来たすような国の三年から五年延長というようなことを公社の
職員だけにやるということにはなかなか納得しがたい問題があるわけでございます。それから(ニ)に「以上のほか行き過ぎの点や、技術的に不備の点があり、
経過規定もきわめて不十分である。」ということが書いてあります。技術的に不備な点と申しますと、たとえば公社
職員がこの新年金
制度が実施になりまして公社
職員が国の、
国家公務員になるとこれは大幅に人事交流があるわけでございます。また
国家公務員から公社
職員に戻る、その場合の年金
制度については規定いたしておるのであります。逆に新法案実施によって公社
職員が
国家公務員に帰ってくるというような場合の年金の通算措置について何ら触れてないわけでございます。新法案を実施しますと国から公社へ行けなくなるという封鎖的な年金
制度になる、この点は若干問題があろうかと思います。まあそのほか技術的なこま
かい点がございます。ちょっと問題になる点もあるわけでございます。ただこの「
経過規定もきわめて不十分である。」この「
経過規定」という言葉の言い回しでありますが、これは実は雑則という意味であります。法案で雑則の点を言っておるわけでございます。(ホ)にもう
一つ大きな問題は、「本法案の主管大臣は各公社の主務大臣となっているが、
政府機関の共済年金
制度の統一的運営の上から適当でない。」これは役所の主管争いのようなことになって恐縮なことでございますが、今度の国鉄につきましては運輸大臣、それから専売について大蔵大臣、それから電電については郵政大臣、それぞれがこの新
制度の実施の主務大臣になっているということになっておりますが、これは広い意味の社会保険
制度の統一的運営という意味からはやはりどっかに統一して行なっていかなければならない問題じゃないか。現に厚生年金、あるいは健康保険というものはすべて厚生大臣の所管下にございます。それと同様にこの公社の社会保険
制度であるこの共済
制度につきましてもその監督官庁の所管大臣はどっかに一定しなければいかぬじゃないかという感じがいたすわけでございます。最後に(ヘ)「
公務員制度調査会において、
公務員の年金
制度についても検討中であり、その
結論を待つ必要がある。」この点は非常に重要な点でございます。現在恩給法と共済組合法は国鉄、電電、専売の三公社の年金
制度であるばかりでなく
国家公務員の年金
制度の基本でございまするし、また
地方公務員の年金
制度の基本となっているわけでございます。その共通の基本法である恩給、共済年金
制度をどう変えていくか、この問題につきましても
公務員制度調査会において現在検討中で近くその答申が出るわけでございます。その
結論を待ってどういうふうに処理していくか、これを待たないで早急に、先に公共企業体の
職員だけでそういう線を出してしまうということにはなかなか問題がございます。私
どもといたしましてはこの調面会の
結論を待った上でにらみ合せてさらにその
結論と公社の特殊性として何か
考慮すべきものであるとすればそれにどういうふうに影響を加えていくか、こうした面で
考慮いたしていくのがほんとうの筋道ではないか、かように
考えておるわけであります。
もう
一つ、これは閣議決定の線には乗ってない問題でございますが、
一つ大きな問題といたしましては、現在の民間の厚生年金保険
制度というのがございます。この厚生年金保険
制度は現在の
公務員の年金
制度でございます。恩給や共済年金に
比較いたしまして非常に
給与水準が低くなっております。大体恩給、共済年金の六割
程度のものとお
考えいただけばいいかと思いますが、これが現在のところは厚生年金保険には大した受給者は
発生いたしておりません。昭和三十五、六年になりますと
制度が本格的に動きまして相当最の受給者が
発生いたして参るわけでございます。その場合に現在の恩給、共済年金に比べても低位であるこの厚生年金保険
制度のレベルをどう
考えるかということが大きな問題として提起されてくるわけでございます。そうした問題を当面に控えておりながら公共企業体
職員の年金水準だけをさらに引き上げるということはなかなかこの点にも問題がございます。広い意味の民間
労務者、あるいは
国家公務員、公共企業体
職員、すべてをひっくるめまして年金
制度の将来というものをもう少し慎重に
考え、将来の国民所得の伸びでございますとか、あるいはそれぞれの財政負担力がどう変っていくか、そうしたものを十分な見通しを立てた上からでないと今公共企業体
職員だけさらに年金水準を引上げてしまうという点にはなかなか問題があるだろうと、かような感じがいたすわけでございます。
最後に「公共企業体の年金
制度については、国において以上の諸問題を
考慮しつつ、合理的な具体案を早急に策定する。」ということになっております。これはやはり年金
制度の統一の必要はやむを得ないということを認めておるわけでございます。では一体どういうラインで、ここに提起いたしましたような諸問題に触れない範囲で統一するにはどうしたらいいか、その具体案を現在研究いたしておるわけでございます。