○
説明員(
北島武雄君) 今回の
関税定率法の一部を
改正する
法律案は、
先ほど提案理由におきまして御
説明申しましたように
撮影済みの
映画用フィルムの
税率を
従量税に改めるとともに、これに伴いまして
関税定率法にそれらの
規定を挿入あるいは
改正しようということでございます。現在の
わが国の
映画フィルムに対する
関税率は、
昭和二十六年の
一般的関税率の
改正の際に、これを
従価税に改めまして、現在
従価三割の
課税ということに相なっております。ただ輸入されますところの
映画用フィルムにつきましては、取り引きの
方法が御
承知の
通りに非常に特殊なものでございまして、その八割がいわゆる
歩合制でございます。すなわち輸入いたしましてから興行いたしまして得ましたところの
興行収入の中から何割を支払うというような
歩合制の契約でございますので、この
鑑定価格をいかにつけるかということが非常にむずかしいのでございます。
昭和二十六年に
従価税に
改正いたしましてから、
税関といたしましては、この
課税価格をいかに把握するかにつきまして非常に苦労して参ったのでございますが、当時からただいままでは、暫定的に、とりあえず生フイルムの
値段と、それに
現像代、
焼付代。生
フィルムの代金に
現像代、
焼付代を加算いたしまして、これを、もととして
CIF値段を算出しておったのでございます。これはちょっとお考えいただきましても、きわめて不合理な
課税価格であると御了承いただけるものと存じます。たとえば、職業的なものとして、画家を営んでいる方の絵の評価に当りまして、
キャンバス代と
絵具代と
額ぶち代でとれを評価するような
方法と言って差しつかえないかと思います。そこで
税関におきましては、何とかこの適正な
価格を見出すべく、ただいままで努力して参りましたが、なかなか思うような
鑑定価格が出て参りませんので、場合によりましては、これを
従量税に変えた方がいいのではないかというふうに私ども思っておったのでありますが、ところが今回の
ガットにおきます
関税交渉におきまして、
アメリカからこの
撮影済みの
映画フィルムのうち、三十五ミリは――通常の、ごく普通の
映画用フィルムであります。との
フィルムにつきまして、現在の
鑑定価格の
つけ方をそのまま据え置いてもらいたい、そうして
税率は三割という
現行税率を据え置いてもらいたい。すなわち
アメリカとしては非常に
現行のやり方の盲点をついて参りまして、現在のままの
鑑定価格の
つけ方で、現在のままの
従価三割という
課税でいってほしいという
要求が出されたのでございました。ところが当方といたしましては、ただいま申しましたように、この
鑑定価格の
つけ方はきわめて不合理なものでございますので、
アメリカ側の
要求をこれを拒み続けまして、結局、
各国の
関税率が現在
従量税率であることを頭に入れまして、
各国の
関税率も参照いたしまして、一メートル当り三十円、まあ正確に申しますと、一メートル及びその
端数ごとに三十円という
協定税率を結んで参ったのでございます。この
協定税率で算出いたしますと、実は現在の、先ほど申しましたような不合理な
鑑定価格による
現行三割の
課税に比べまして、約四割以上の引き上げとなるのでございます。そういたしますと、
ガットの
規定の上から申しまして、ごく簡単に申し上げますけれども、
ガットの
規定の上では、
国定税率ではじいたところの
税額と、それから
協定税額と、いずれか低い方を適用することになっております。ところが一メートルまたはその
端数ごとに三十円、こういう
税率は、常に現在の
鑑定価格によるところの
従価三割よりも高い
課税に相なります。そうなりますと、せっかく
協定いたしました一メートル及びその
端数ごとに三十円という
従量税率が、
関税定率法の
輸入税表をそのままにしておいたのでは、実はそのまま動いてこないということになりますので、それで従来から研究いたしておりましたので、これを
機会に、
撮影済み映画用フィルムにつきましては、すべてこれを
従量税率に
国定税率を切りかえるというふうにいたしたのが、今回の
提案の
趣旨でございます。
法案にございますように、原則といたしまして
撮影済みの
映画用フィルムにつきましては、
フィルムの幅がいわゆる三十五ミリのものにつきましては、一メートル及びその
端数ごとに五十円という
税率を用います。ただし
ニュース用の
フィルムにつきましては、その
公共性にかんがみまして、その五分の一の、一メートル及びその
端数ごとに十円という
課税をいたすことに相なっております。またその他の
フィルムの
幅差につきましては、いわゆる十六ミリの
映画用フィルムにつきましては一メートル及びその
端数ごとに二十五円、さらにいわゆる八ミリの
映画用フィルムにつきましては一メートル及びその
端数ごとに十五円という
課税をいたすことに相なっております。このような
従量税率の
採用に伴いまして、
関税定率法の
本法の方におきまして、
規定をちょこちょこ整理する必要があったのでございます。現在は御
承知の
通りに
関税定率法の
輸入税表は
従価税一本でございまして、
従価税ということを前提として
関税定率法の
本法が
規定されております。
従量税率を一部導入いたすことによりまして、
関税定率法の
本法につきまして、
従量税率の
採用に伴いまして
規定を整理する必要があるわけでございます。
内容はほとんど字句の
修正程度で大したことはないのでございます。
なおこの際、本
法律案に関連いたしまして、先般行われました
ガットの
関税交渉につきまして、その経過、結果、今後の
見通し等につきまして一応御
説明申し上げたいと存じます。
ガットと申しますと
関税及び
貿易に関する
一般協定と訳しておりますが、英語ではゼネラル・アグリーメント・オン・タリフス・アンド・トレイド、G・A・T・T、
ガットと呼んでいるわけでございます。一九四七年、すなわち
昭和二十二年の十月に、
アメリカはじめ二十三カ国がジュネーブに集まりまして
協定された国際的な
協定でございまして、その意図するところは、戦後の
世界経済を復興するためには、
各国ともお互いに
関税その他通商上の障壁をできるだけ低減する必要があるという
趣旨のもとに、まず
各国、その当時二十三カ国でございましたが、二十三カ国が集まりまして
関税交渉をいたしまして、これを
最恵国約款によりまして全
加盟国に及ぼすという
仕組みで、
関税率の低減をはかって参った
仕組みでございます。その後二回にわたりまして
関税交渉が行われまして、そのつど
加盟国がふえて参りまして、現在では三十四カ国が加盟いたしております。このうちソ連圏に属しますのはチェコスロバキア一カ国でございまして、あとはいわゆる自由諸国家でございます。
わが国は
昭和二十七年にまず最初に
ガットへの加入を申請いたしたのでございますが、二十七年の秋の総会におきましてはまだ時期が至りませんで、
日本を国際社会に復帰させるということはこれは賛成であるけれども、
日本の
ガット加入の
条件とか時期等については、なお会
期間委員会において
審議する必要ありということになりまして、
昭和二十八年の二月に会
期間委員会が開催されたのでございます。その後、実は
アメリカのアイゼンハワー元帥の
政府におきましては、対外
経済政策を根本的に検討するまでは大規模な
関税交渉ができないということになりましたので、従来
ガットに加入いたします場合には必ず既
加盟国との間に
関税交渉を行なって参ったのでありますが、その
機会がございませんので、
昭和二十八年の秋の総会におきまして、とりあえず
現行税率のうち九二・五%に相当する品目につきまして、
税率を引き上げないという約束のもとに仮加入ということになって、ただいままでに至ったのであります。ところが昨年の上半期におきまして、
アメリカとしては
関税交渉を行う用意ありということを声明いたしましたので、いよいよ
日本を
ガットに加入させるための
関税交渉ができる機運となって参ったのであります。この昨年の秋の総会におきまして、
日本を
ガットに加入させるための
関税交渉を、ことしの二月二十一日からジュネーブにおいて行うということが総会できまりまして、その総会の決議に従って、本年の二月二十一日からジュネーブにおきまして
関税交渉が行なわれたわけでございます。
関税交渉を行いました国は結局
アメリカはじめ十七カ国でございまして、これを地域別に申しますと、
アメリカ州方面におきましては、北米において
アメリカ合衆国とカナダ、中米におきまして、ドミニカ共和国、ニカラグア、南米におきましてはチリ、ウルグァイ、ペルー、合計して北米、中南米におきまして七カ国、東亜地域におきましてはインドネシア、ビルマ、パキスタンの三カ国、ヨーロッパ地域におきましてはギリシア、イタリア、ドイツ、デンマーク、フィンランド、ノールウェー、 スエーデンの以上の七カ国に相なっております。合計いたしまして十七カ国になるわけでありますが、なおこのほかに、
関税交渉には至りませんでしたが、お互いに最恵国待遇を与え合おうという文書を交換した国が二カ国でございまして、すなわちセイロンとトルコでございます。すなわち、何らかの
意味におきまして、今回
協定をいたして参りましたのは十九カ国と相なるわけであります。今回の
関税交渉に当りましては、できるだけ多くの国を
関税交渉に引き込むことが、すなわち
日本の
ガット加入に賛成する国を確保することになりますので、代表団といたしましては、ただいまあげました国のほか、比較的
態度不明の国に対しましては、極力勧誘に努めたのでございまして、たとえばブラジル、ハイチ、インド、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ、オーストラリアといった国々でございますが、これらの国々は、あるいは国内的事情から、あるいはまた
日本商品に対する特殊な問題から、遂に
関税交渉に至らなかった次第でございます。
今回の
関税交渉の結果、お手元にたしかあると存じますが、
日本国の加入の
条件に関する議定書というのが
作成されまして、六月七日から諸国に回付されておりまして、目下すでに
日本を入れまして十五カ国がこれにサインいたしております。ただ
関税交渉が妥結いたしまして、議定書が回付されましたが、これによって直ちに
日本が
ガットに加入されたことにはならないのでありまして、八月十一日までに、
日本の加入に関する決定書というものがございます。この決定書に対しまして、八月十一日までに既
加盟国から
日本の加入に対して賛成かどうかという意思表示を
ガットの
事務局に通告することに相なっておりまして、八月十一日までに、現在の
加盟国三十四カ国のうちの三分の二以上、すなわち二十三カ国以上の国が
日本の加入に賛成の意思を
ガット事務局に通告いたしますれば、その八月十一日から三十日目の、九月十日に、
日本の
ガット加入が実現することに相なります。それとともに、
日本といたしましては、今回
協定いたしました
ガット税率を、いわば、いわゆる
ガット税率を九月十日から実施する必要があるのであります。今回の
関税交渉におきまして
協定されました、品目、
税率を総括して申し上げますと、
わが国が十七カ国から受けました
譲許税率は二百八十八でありまして、そのうち
現行税率の引き下げと相なりましたものが二百十五でございます。残りの七十三
税率が
現行税率の据置ということに相なります。これに対しまして、
わが国が譲許いたしました
関税率の数は二百四十八ございます。この二百四十八のうち、
現行税率の引き下げと相なりましたものが七十五ございました。残余の百七十三は
現行税率の据置ということに相なっております。今回の
関税交渉の結果、
日本が
ガットに加入できるかということは、先ほど御
説明いたしましたように、八月十一日までに現在の
加盟国のうちの三分の二以上が
日本の加入に賛成すればいいわけでございますが、すでに
日本は、十九カ国とは、あるいは
関税交渉、あるいは相互に最恵国待遇を与え合うという約束をしておりますが、この十九カ国が
日本の加入に賛成するととは、これは当然であろうかと私は存じますが、なお指折り数えましても、ただ
各国もまだ正式
態度を表明いたしておりませんので、国の名前を出すことはちょっと差し控えたいと思いますけれども、私たちの考えといたしましては、二十三カ国以上の多数を得られることは、これはほとんど疑うととができないというふうに考えております。従いまして、九月の十日から
日本の
ガット正式加入が実現するであろうということは、これは当然の帰結かと存ずるのであります。
ガット加入によりまして、一体どんな利益があるかということを、よく
説明を求められるのでございますが、
ガットに加入いたしますことによりまして、
ガットに
規定しております
譲許税率、現在の
加盟国との既往の三回の
関税交渉によりまして妥結いたしました
譲許税率に対して、
わが国は一挙に均霑することに相なるということが一つの効果でございます。これはただ現在の仮加入によりまして、相当数の国から
現行関税譲許税率の適用を受けておりますので、今度の正式加入によりましては、そう大きなプラスにはならないかと存じます。ただ今回の
関税交渉の結果、得ました
譲許税率は、これは
日本の加入が実現することによって、初めて適用があるわけでございます。
わが国として最も
貿易上関係の深い
アメリカその他の国からの
関税譲許は、
日本が九月十日に加入することによって初めて発動し得るようになるわけであります。これが実質的には一番大きな効果だと考えられるのであります。なお
ガットに加入いたしますと、
関税のみならず、一般的に通商上無差別的な待遇を受けることがまあ確保されるわけでありまして、そのほか、従来
日本が正式に
ガットに加入できなかったこと、すなわちまだ国際通商社会におきまして、
日本が正当な地位を認められなかったことが、今回の仮加入によりまして、初めて正式な地位を認められることに相なるわけであります。それから将来
ガットという機構を通じまして、
日本の通商上の諸政策を総会において堂々と主張することもできますし、あるいは将来の国際通商の動向に
日本が正式に関与できるというような、無形の利益があろうかと考えるのであります。
各国から得ました
譲許税率は、議定書の付属書Aに載っております
アメリカ初め
各国それぞれ国ごとに出ております。このうちで、一番重要なウエイトを持ちますものは、申すまでもなく
アメリカでございます。
アメリカにつきましては、
関税交渉に際しまして、代表団といたしましても最も大きなウエイトを置いたものでありまして、二月二十二日から開始されまして約三カ月を費しまして妥結をいたしました。交渉の過程におきましては種々双方の主張が繰り返されたのでありますが、これにつきましては後日またあらためまして御
説明申し上げます。
対米交渉の結果
アメリカが
関税を引き下げましたものは、
わが国の主要な対米輸出品のほとんど全部にわたっているかと存ずるのであります。たとえばマグロは
わが国の対米輸出の約一割を占める大きな品目でございます。しかも
アメリカの国内におきましては非常に
関税引き上げ運動の盛んな品目でありまして、何とかして
日本のマグロ及びなまマグロ及びマグロの缶詰が
アメリカに大きく流入しないようにというわけで、
アメリカの太平洋岸の漁業者及び缶詰業者等が極力反対をやっておったのであります。今回の
関税交渉におきまして、油づけのマグロ缶詰につきましては、現在四五%の
関税率が三五%に引き下げられる。また塩水づけの缶詰につきましては、現在一二・五%の
関税率を、一定の制限はございますが、ともかく、ある
限度までは引き上げないという約束を取りきめたわけでございます。また、なまマグロ及び冷凍マグロにつきましては現在無税でございます。これを有税にしろという運動が熾烈でございましたが、これも
わが国のなまマグロの輸出の大宗でありますビンチョー・マグロにつきまして、ともかく無税の据置をするといった工合に、なおこのほか陶磁器あるいは綿糸布、絹織物、光学機械類、玩具、竹製品その他農水産物につきまして、ほとんど
わが国の重要な対米輸出品につきまして、何らかの
意味におきまして
アメリカ側から譲許を得ております。
アメリカ側が
わが国に対しまして譲許をいたしました
税率の数は百九十六品目にわたりました。そのうち引き下げましたものは百七十九。据え置きが十七となっております。この引き下げた百七十九の
税率のうち九十という
税率は、減税の、減税と申しましても現在互恵通商
協定が変りましたが、
関税交渉をいたしました当時の互恵通商
協定における、
アメリカの大統領の
権限によって引き下げ得る最大
限度までの引き下げが行われております。
概括いたしまして対米交渉におきましては、
アメリカ側は、従来
各国に対しまして従来譲許いたしました
程度あるいはそれに近い
程度までの譲許を、今回の一回の
関税交渉によってしてくれたというように考えるのであります。
なおその他、カナダからは五品目の
関税率の引き下げ、ドイツからは九品目の引き下げ、その他、北欧諸国あるいは中南米諸国におきましても、品目の数は少いのでありますが、若干は引き下げがあります。
これに対しまして
わが国が譲許いたしました
税率につきましては、引き下げましたものの大部分は、原則といたしまして、
わが国において生産がなかったか、あるいは、ありましてもこの引き下げの
税率をもって対抗できるという見通しのもとにいたしたものであります。また、これによりまして
わが国の産業に悪影響を及ぼすことは万々あるまいかと考えておるわけであります。
今回の
関税交渉の結果、
日本の輸出がどの
程度伸びるだろうかということは、これはなかなか推定がむずかしいのでございまして、私どもも通産、農林の方々といっしょに作業をいたしたのでありますが、どうも、これも当るも八卦当らぬも八卦で、正確な数字を申し上げることは困難であるかと存じますが、私どもの側におきましては、年間約二千万
ドル乃至三千万
ドル程度の輸出増進は、これによって期待されようかというふうに考えておる次第であります。
はなはだ簡単でございますが、
関税交渉の経過、結果、影響等を簡単に御
説明申し上げました。