○
説明員(
白石正雄君) 中小
法人に対しまして特別に
軽減になるようにという
意味から、たとえば
所得五十万円以下につきまして三五%
程度の
税率にせよ、こういうような主張がありますることは私どもよく存じておりまするので、これらの点につきましていろいろ検討を重ねた次第でございます。
まず第一の問題といたしまして、この問題が持ち上っておりますることは、第一は先ほどから御議論がありまするように貸し倒れ準備金、その他の各種の準備金制度が、これが相当多額の額に達しておる。しかもこれが一部の大
法人のみに
適用せられておりまして、中小
法人には実質的には
適用になっていない。従って本当の負担という点から考えますと、中小
法人の方が重くなっておる、かような点から主張せられておるわけでございます。従ってこの点につきましては、まず第一にこれらの準備金制度というものが一体どういう性質のものであるかという、まず理論的な検討がなさるべきものであろうと考えるわけでございます。この点につきましては、これらの準備金のうち、ただいまお手元に配付いたしました
資料によりましても明らかでありまするように、貸し倒れ準備金のたとえば七十四億、退職給与の引当金が百八億というように相なっておりまして、貸し倒れ、退職及び価格変動準備金というこの三つが最も大きな数字を示しておるわけでございます。これらの三つは、この
法人に対する特別の優遇
措置と考えるよりも、むしろ原則的に見て、本来損金に落すべきものであろうというような
見地から設けられておるわけでございまして、そういう
意味において考えまするならば、これによって
軽減を受けておるというように考えることは必ずしも適当でないわけでございまして、本来損金として落すべきものを落したに過ぎない、かように考えるべきものではないかと思うのであります。もしそういたしまするならば、別にその
適用を受けていない中小
法人が、そのために負担が過重になっているという議論は必ずしも適当ではないのではないかというように考えられるわけであります。また少しくへ理屈みたいなことになるかとも思うわけでございますが、もしこれらの
措置が優遇
措置である、優遇
措置であるがゆえにその
適用を受けていないものに対して負担が不公平であるというような御見解に対しましては、本来これらの
措置がいいのか悪いのかという
見地からの検討がなされるべきものではなかろうか。もしこれらの負担の公平を害することがはなはだしいからこれらの
措置は適当でない、かようにお考えになりますならば、それはこれらの
措置を
改正して、廃止するなり何なりやられるということがむしろ適当であるべきでありまして、これらの
措置は、やはり現在の経済諸情勢その他方から考えましてやむを得ない
措置である、こういうようにお考えになりまするならば、その
適用を受けていないというものにつきましては、これはいろいろの問題がございまするけれども、直ちに負担の不公平をその面から論ずるということは必ずしも妥当ではないのではなかろうか。たとえば
輸出免税措置というものは、
輸出の振興という
見地から考えられておるわけでございますので、その
輸出免税措置の
適用を受けないものに対しましては、これが負担の公平上おもしろくないということは、これらの
措置を講ずるときにおいてもうすでに明らかなわけでございまして、そういう負担の公平を考えながらも、やはり
輸出免税措置をこの際採用すべきである、かような制度がとられました以上は、その
適用を受けないものが負担の不公平になっても、ある
意味におきましてそれはまあやむを得ないと考うべきものではなかろうか。
次に第二点といたしまして、これらの
措置は大
法人にのみ
適用があって、中小
法人には
適用がない、これがまあ中小
法人に対する負担不均衡の原因をなしておるようでございますが、これにつきまして先ほど衆議院の大蔵
委員会から御要求がございまして、
資料を提出いたしましたので、こちらの方にも同じ
資料が配付になっておると考えるわけでございますが、
資本金一億円以上の
法人の各種準備金等の繰入金額調、それから
資本金五百万円未満の
法人の各種準備金の繰入金額調という、横に長い表を提出いたしておるわけでございますが、それを見ていただきますと、これは
資本金一億円以上の大
法人につきまして六百三十六社につきまして調べた結果でございます。これの繰入金額が六百八十三億になっておりまして、このためにいわゆる負担が
軽減せられておるといわれておりまする率が一一%になっておるわけでございます。従いまして四十二がまあ三十二くらいの
税率になっておると、かように一応いえるわけでございます。これに対しまして、しからば中小
法人はどうなっておるか。これを東京都内の七税務署につきまして、
資本金五百万円未満につきまして調べましたものが、これは二百五社でございますが、この二百五社につきましての繰り入れの
状況は七千六百万円
程度の金額になっておりまして、そのために
軽減せられておりまする率は六・五%ということになっております。ただしこれらの
法人につきまして繰り入れ限度額まで繰り入れておりませんので、繰入限度額まで繰り入れたといたしますと、一一%になりまして、たまたま数字は前の大
法人の場合と一致したわけでございまするが、さような
状況になっておるわけでございます。
それから同じように次の
資料は、これは準備金を実際には利用していなかったわけでございますが、利用したとすればどのようになるかという点を調査いたしてみますと、その繰り入れ可能額は四千八百万円
程度になりまして、これによって一一・八%
程度の
軽減を受け得ると、かような数字になるわけでございます。で、中小
法人についてなぜ今まであまり利用がなかったかという問題でございますが、これは税務署の方にもその一半の責任はあるかと思うわけでございますが、まあ十分おわかりになっていないような点もあったのではないかと思うわけでございます。また次に制度が非常に複雑である、そのために大
法人には利用できるけれども、中小
法人には利用できない、かようなことがいわれておりますのでございますが、これは価格変動準備金につきましては、昨年度の
改正におきまして簿価を基準にして繰り入れをすることができるというように
改正いたしましたので、非常にこれは利用しやすくなっておるのではないか。またこれらの事情も反映いたしまして、最近の調査では、中小
法人につきましてもその利用
状況は非常に増加をしておる、かような
傾向にあると私どもは考えておる次第でございます。貸し倒れ準備金というようなものは、債権があればその一割なら一割、また価格変動準備金につきましては、たなおろし資産の簿価がわかれば、その簿価の一割なら一割というように繰り入れすることができるわけでございますから、決していろいろいわれておりまするような、制度が複雑なために利用できないというようなことは必ずしも言えないのではないかといように考えておる次第でございます。
で、かように考えてみますと、中小
法人といえどもこれらの準備金制度は利用できるのでありますし、また利用します結果は、ここに書かれておりまするように、平均いたしましても一一%
程度の
軽減になるわけでございまして、かつまたこれを個々の
法人について見てみますと、その負担の率は一〇%
程度になるものもあります。一五%
程度になるものもありますし、いろいろさまざまでございまして、それらの
法人の
状況によりまして、いわゆる負担率というものが変っているわけでございまして、従いましてこれらの点から考えまするならば、準備金制度に関連いたしまして、特別に中小
法人について
軽減税率を
適用するということは適当ではなかろうというように考える次第でございます。また中小
法人につきましては、個人との負担の
権衡ということがどうしてもこれは看過することができない問題であると思うのでございまして、御
承知のように
法人税と
所得税とがいわゆる一体的なものとして考えられて、
法人擬制説というような
立場がとられております
見地から申しますと、
法人と個人の負担の
権衡ということは、これは理論的にはおかしいということも言えるわけでございますが、現実には個人から
法人に組織変更をするという事例が非常に多くございまして、二十四年ごろ二十万
程度の
法人数でございましたのが、現在は四十万になんなんとする
法人になっておりまして、しかもその大部分は個人から
法人に変更をしたというものがその大部分を占めているというような
状況であります。この個人から
法人への組織変更という問題は、やはり税の面から、
法人になったほうが税負担が軽くなり得る余地があるという点に原因していると考えられる点がございまするので、かような点において個人と
法人との負担というものはやはり十分検討の余地がある。かような
見地から私どもは同族
会社の
法人につきまして、具体的に百件
程度のものを調べまして、そうしてそれについて、もしそれらの
法人が個人であった場合におきましてはどのような税負担になっているであろうかという点を調査してみたわけでございます。そういたしますと、その大部分は個人の場合の方が重いというような結果になっているわけでございまして、これは主として
法人企業になりますと役員報酬が払われまして、役員報酬は
法人の
所得上経費として落ちますので、その結果事業税の負担が非常に
軽減せられる。このような点に原因いたしまして、
法人企業の場合が個人
企業の場合に比較いたしまして国税、
地方税を通じて
企業体として払う租税負担が安くなる
傾向にあるということが考えられるわけであります。
法人企業になりますものは、個人
企業に比較いたしますと相当大きな
所得者が多いわけでございまして、個人営業者の平均
所得は現在三十万円
程度と大体考えられておりますが、
法人になっておりますものは五十万、百万、二百万というような大
所得者が
法人になる、組織変更しているというような
傾向を考えてみますると、やはり全体の租税負担の
権衡という
見地から
法人税を、
所得税との十分なる検討なしに中小
法人のための特別
軽減税率を設けるということは適当ではないのではないかというように考えている次第でございます。