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政府委員(江下孝君) 端的にお答えさしていただきたいと思うのですが、その点につきましては、この
改正案の第十条と第二十条の二、これによりましてこの点が表現されておると思うのであります。で、この
趣旨は大臣からも
お話いたしたと思いますが、失業保険につきましては、実は過去実施以来八年間相当失業対策として寄与したということは私
どもも承知いたしておるのであります。保険経済もまあ非常に好調でございますから、過去二回にわたりまして保険料の値下げを行なったことは御承知の
通りであります。ところが最近におきまして、二十九年度におきまして初めて約十億の赤字を生じたのでございます。で、この赤字が実は出ました原因でございますが、もちろんこの一般情勢が悪くなったということもございまするけれ
ども、しさいに検討いたしますと、今先生のおっしゃる
ような失業保険の本来の
趣旨の乱用とも言うべきものが非常に多いという事実を私
どもは見たのであります。で、御存じの
通り失業保険法の
趣旨は、これは不意の失業、思わざる失業に対してごく短期の生活の安定を立てしめるというのが目的でございます。しかるところこの
法律の
趣旨が、六カ月だけ被保険者であれば、あとたれもかれも百八十日を支給をするという建前に相なっております
関係上、これらの保険の本来の
趣旨が、最近におきましては没却されまして、もっぱらこの六カ月働いて六カ月もらう。あるいは毎年繰り返してこの失業保険金を支給を受ける。で、失業保険のほんとうの、この真の目的に沿った運営という点から
考えますればいかがかと思われる
ような点がたくさん出て参ったのでございます。これを数字で申し上げますと、二十九年度におきまして失業保険の給付を受けました人数は百五万人でございます。ところがこのうち六カ月から九カ月の被保険者期間しか有しない者が全体のうちの二七・七%、受給人員にいたしまして二十九万一千人という大きな数字に上っておるのでございます。で、この内容を検討いたしますと、これは主といたしまして東北地方でございますが、出かせぎ労務者というものがこの中の相当大きな部分を占めておる、そのほか都市等におきまするいわゆる循環雇用あるいは計画雇用と申しますか、計画的な失業保険の利用というものも、私
どもの調査によりますと相当ある。これらが合せましてこの二十九万の中に約二十二万余あるというふうに計算をされるのでございます。そういたしますと、失業保険のほんとうの必要なものに対する保険金が支給されない、そういう
人たちに支給されるために保険経済が危くなるということがある、そのために保険料の値上げまでしなければならぬという事態も起りまするので、これはどうしてもこの際におきまして
失業保険法について、もう少し合理的な受給についての基礎を与える、で、ある程度長期間この失業保険というものが収支相償う状態に持っていく必要があるということで
考えましたのが今回の
改正案でございます。そこで今おっしゃいました点でございますが、この二十条の二でございますが、「離職の日まで引き続き五年以上同一事業主に被保険者として雇用された者には、前条第一項の規定にかかわらず、」通算して百八十日を超えて支給することができる。しかし「超えて」というその超えた限界は三十日を超えてはならない。つまり合計いたしまして二百十日を超えてはならない、か
ようにいたしておるのでございます。さらに離職の日まで引き続き同一事業主に被保険者として雇用された期間が一年未満でありまして、離職の日まで十年以上の被保険者期間を持ちましたものに対しましては、通算して百八十日にプラス九十日のこのプレミアムと申しますか、さらにプラスの給付を与える、こういうふうに今回では
考えたのでございます。この
趣旨は、申し上げました
ように比較的長期間雇用されたという者は、相当他に転職等も困難な場合が多く、また保険経済等にも寄与もいたしておりまするし、これらの人に対してできるだけ手厚い
措置をしたいというのがねらいでございます。これに反しまして受給被保険者期間が六カ月から九カ月というごく短期のものにつきましては、先ほど申し上げました
ような
趣旨によりまして、できるだけこの乱用を防ぐということから、九十日というふうに従来の給付日数を半減いたしたのであります。実は毎年繰り返して一定の保険金をもらうということ、しかもこれが計画的に行われることを防ぎますためには、被保険者期間を一年ということにすることも、これは
一つの
方法であると私
どもは
考えたのでございますが、外国の立法例等を見ましても、六カ月だけで百八十日を出すという
ような非常に甘い規定につきましては、イギリスほかごく少数の国でございまして、一年というのが相当多いのでございます。さらに六カ月以上のものに支給いたします場合においても、給付期間を非常に制限しておるという例もあるのでございます。
そこで以上申し上げました
ような、一方におきまして乱用を防ぎ、さらに合理的な基礎を与えるということから、今回この九十日ということを
考えたのでございます。一年ということにいたしますることが筋は通るかもしれませんが、とにかく現在まで半年働けば百八十日出すという建前で運用されて参っておりまするので、これを急激な変化を与えるということは、今の雇用秩序に混乱を来たすというおそれもございます。そこで今回の
改正におきましては、その中をとりまして、九十日ということにいたし、幾らかでもこれによりまして乱用が防止されるという点をねらったのでございます。