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参考人(後藤しづ君) 後藤です。私はつき添い婦の立場から、つき添い制度を
廃止することは現状ではできないことでありますので、反対いたします。
このたび出されました厚生省案が矛盾だらけだということについて申し上げたいと思います。先日来衆議院の諸先生方に大へんお骨折りをいただきまして、つき添い
制度廃止反対の決議をしていただいたんですけれ
ども、厚生大臣は、参議院の
社会労働委員会におきまして、あれはつき添い制度を残しておく決議ではない。つき添い制度を
廃止することについて、施設側に欠陥の出るのを防ぐためのものであると言われているんですけれ
ども、それではせっかく党派をこえて努力していただいた諸先生方の努力が水のあわになってしまったと同じだと思います。それで私はそれに対して大へん残念だと思っております。
それからなぜ反対かと申しますと、
政府は予算削減のためにつき添い制度を
廃止して、それを
常勤労務者にかえようとして、それが
完全看護だと言っておるのでございますけれ
ども、そのために全国の
結核患者が不安であるのと、私たちつき添い婦とその家族が
生活を奪われてしまうからです。また厚生省の言われるように、予算の削減でなくて
医療の前進であるならば、少くとも私たち四千二百人が、現在二十四時間から十六時間働いている
労働力を八時間
労働に切りかえた場合、約二倍の八千四百人から、三倍の一万二千六百人という
人員を雇わなければ何にもならないと思います。それで私も
常勤労務者というような不安定なものでなく、
看護婦の
定員として雇って初めてそれが
完全看護であるだろうと思います。そうでなければ、幾ら厚生大臣が
医療の低下ではないとか、
看護は
病院の管理下でするのが
完全看護であるとか、つき添い制度は世紀の遺物だと言われても、それは大臣の苦しい答弁であって、完全な
医療の後退であると思います。それから中国の
療養所でもそうだそうですけれ
ども、日本の聖路加
病院あたりでも、
患者一人に
職員が三人、
患者一人に対して
看護婦が二人ついているそうでございまして、聖路加
病院の
看護婦さんのおっしゃるのには、
看護というものは完全にするものであって、
完全看護というその名前自体がおかしいんではないかと言っているそうです。
次に、つき添い婦の仕事のことについて申し上げたいと思います。内科の場合ですと、朝出まして、それからたんコップをきれいにして、
尿器と
便器を取りかえまして、それが済みますと今度は洗面に取りかかって、洗面のお湯がぬるい場合などは火を起しまして、わざわざお湯を熱くして洗面してあげて、それからその
あとでもって、大ていの
結核患者というのは夜中に汗をかくもんですから、その汗ぬぐいをしてあげて、それが済みますとそのタオルや何かをちゃんときれいに洗って元の所へ始末して、そうしているうちに食料課からお
食事が来るもんですから、その間にやかんをかけておいてお湯を沸かすとか、それから先ほど井上さんからも申しましたように、給食費が少いもんですから、朝のお
食事というと大てい普通食であって、おたくわん二きれと、それからつくだ煮がほんの一つまみしかないんです。それからおみおつけも魚粉のおダシで作るもんですから、とてもまずいんです。それでどうしても
患者さんはそれでは食べられませんし、かゆ食の場合は梅干が一個なんです。朝は大ていそんな程度でございます。お昼と夕食はずっといいんですけれ
ども、朝はいつでもそうなんです。ですから大ていの
患者さんはお漬物をつけるとか、卵を焼いてくれとか、何とかかんとかいろいろおっしゃるもんですから、その
補食をしてあげて、それから御飯の世話をして、その跡片づけをいたしまして、それから
自分の
食事をして、
自分の
食事の跡片づけをして、それからお炊事当番が次々に私たちつき添いだけでもって回ってくるもんですから、五人のところは五日に一ぺん回ってきますし、四人のところは四日に一ぺん回ってくるようなわけです。それからそれが済みますと
病室のお掃除をしたり、手洗いの水を取りかえてあげたり、これを元の所に戻してあげたり、お花の水を取りかえるとか、そういうような細かいことをいたしまして、そうしているうちに、重症の
患者でたんの多い
患者さんなんかは、朝の御飯が済みましてからまたたんコップを取りかえなければならないほど、たんコップを使うのです。それからもう十一時になってまたたんコップをやって
尿器をやって、買物に行ったり、それからお
食事が出るとまたお
食事の世話をするわけです。それから昼食が大ていパン食とおうどんが交互に出るもんですから、大ていの
患者さんというのはそういうお
食事が食べられないのです。それから
結核患者というのは食欲が減退するのが特徴なもんですから、どうしても食べられないわけなんです。そのお
食事の世話をしてあげる。そうしてその跡始末をして、
自分の
食事をして跡始末をすると大てい一時になるわけです。それから一時から三時まで
安静時間だもんですから、
患者さんのそばに大ていは
看護婦さんも行っておりませんし、常時回診を要するものだけが個室にずっと入っておりますけれ
ども、
喀血したりなんかして、その
安静時間の二時間の間に……、その前に十時ごろになりますと蒸気が出るもんですから、ある
患者さんは
清拭するとか、
洗髪するとか、
ベッド払いする
患者さんもありますし、それからおふとんをほしてあげるとか、そういうことがない場合は洗たくをするとかいうので、大てい午前中は終ってしまうのです。それから
安静時間になりますと今度は買物に行って、それから今度は夕方のお
食事の世話をするわけです。それから冬場ですと朝、湯たんぽを入れてあげて、三時にまた湯たんぽを入れてあげる。冬場でない夏だと三時になりますと汗ふきをしてあげる。それから夕方になりましてまたたんコップと
尿器と
便器と、それを全部やるわけです。それから夕方のお
食事、
食事の始末、片づけ、それから
自分たちの
食事、
食事の始末、そしてまたたんコップと
尿器とずっとやるわけですから、一日にそのたんコップを取りかえるのを五回から六回、
尿器が三回から四回、少くとも三回、一番多くて四回、腸結の
患者ですと
便器を一日に六回も七回も取りかえなければならない。それからその間に熱発したり、
喀血患者の方は氷のう、氷枕を取りかえてあげなければなりませんし、夏ですと一度お部屋へちょっと帰りまして、またかやつりに出てくるわけです。そうして大てい朝の六時から夕方の七時ごろまでは完全にかかるわけなんです。そして
政府の言うところによりますと、六時から六時までの十二時間なんでございますけれ
ども、その間に十時から十一時までというのは午前中の
安静時間で、それから午後の
安静時間が一時から三時までのその二時間と、それが三時間で、
自分のお
食事の時間が一回二十分ずつでもって六十分取られるわけですが、その四時間を除くから八時間
労働だというわけなんです。これは大体内科の場合なんでございますけれ
ども、外科の場合ですと、それがまたとっても大変なんで、
手術日の第一日は
患者の衣類を
整理したり、
手術に必要な寝巻とか、傷ぶとんだとか油紙とか、いろいろなものを取りそろえまして、時間のある場合は
患者といろいろ話し合いをして、なるべく
患者と親しみを持つようにし、その際に
自分の
患者さんの
食事の好みとか、ふだんの習慣だとか、家族の様子などを知っておいて、
手術前二、三時間で高圧の浣腸をします。それから排便するとか排尿させて、それからいろいろ
手術に出かける際に検温、検脈、呼吸をはかって、その間に
看護婦さんは血圧をはかりに来るのですけれ
ども、それを
看護婦さんに報告し、それから
手術室に行った
あとは
病室の
整理をして、その間に脱ぎ捨てたものを全部洗たくをするわけです。それから
ベッドの位置だとか、電燈の位置や何かあれしまして、水や何か
患者さんが
手術した場合に飲んではいけませんから、手の届かない遠くの方へ置いておくとか、そういうようなことを注意して、それから
手術が完了して
病室に帰ってきた場合は、約十五分間ぐらいすると
看護婦さんが血圧の検査にすぐ来るものですから、それをまた検温、検脈、呼吸やなんかをはかりまして、輸血するとかリンゲルをするとか、とにかく絶対に目を放せないんです。
患者は、麻酔から意識不明の時間は大体二時間から四、五時間あるわけです。その間
患者から少しも目を放せませんし、
患者の症状は一刻も油断をしないで注意していなければなりませんし、
酸素吸入や吸引器を配って、麻酔のさめつつある場合に、
患者の
手術後の様子に始終注意して、
手術の終了したことを聞かせ、安心を与えること、その場合に呼吸困難に陥るおそれがあるので、なるべく声を出させないように、目の動きや口の動きに絶えず心を配って、
患者の意に沿うように努力する。麻酔がさめるに従って傷口の痛みとか、腰が痛い、口がかわいたとかいうことを訴えるものですから、たとえば腰が痛いときには腰のところに手を当ててあげるとか、気分を少しでもよくするために手当をするとか、口がかわいたときにはガーゼでもって口の中をぬぐってあげるとか、そういうことでもって絶対に目が放せません。
ずいぶん長くなりますからこのくらいであれしておきますけれ
ども、それで絶対目が放せないときが、先ほ
ども清瀬
病院長がおっしゃいましたように、五日ぐらい、ややもすると一週間たって抜糸が済むわけです。そういう場合に、外科
病棟のつき添いさんは、ほとんど二十四時間
勤務です。それから
看護婦さんや雑役さんが忙しいということは先ほど井上
委員長の方から報告されましたからそれは省きまして、次に
患者さんがどんなに苦しんでつき添いをたよりにしているかということをちょっとお話いたしたいと思います。これは一つの例なんでございますけれ
ども、十一
病棟でもって
手術をした
患者さんが、第一回に
手術したのが七月末で、一回目の
手術をしまして、
喀血をしたのです。
手術したにもかかわらず
喀血したのですね。それからそのときについていたつき添いが、
喀血をしたものですから血を手を入れてとっていたわけなんです。それでどうも変だというので第二回目の
手術は八月二十四日にしたんですけれ
ども、その
手術の結果、神経がどうかなってしまったと見えまして、絶対に口もきかなければ、食べることも全然しなくなってしまったわけなんですね。それでまあ私たちもびっくりしたんですけれ
ども、一週間もずっと食べないというのでびっくりしたんですけれ
ども、獣のような声を出してうなり始めたわけなんです。それが夜昼ぶっ通しでうなるわけなんです。ちょっとの間もおかないんです。それでちょっと何とかうなるのをとめようと思いまして、お母さんが来ておりまして、もちろんつき添いがついていて、それで二人でどうにもできない。それで毎日々々だものですから内科のつき添いさんが全部交代々々でもって、内科の
勤務を終えまして、八時から夜の十二時、一時ごろまで、全部つき添いが毎日じゃやりきれませんから、それで昼間仕事があるから交代々々でもっていたわけなんです。それが完全に二回りしたわけなんです。うなり続けたのが約三カ月です。それでそのときに厚生省の方へ
お願いしまして、何とか
看護券を二枚出してくれないかという
お願いをしたんですけれ
ども、どうしても
看護券は二枚出せないから、それで徹宵手当を上げよう、徹宵手当を出して下さったのはそれからもう約二カ月くらいなもので、いまだにその
患者さんは全然歩けませんし、最初のうちは
手術した直後だったものですからふとっていてとても力があって、手もこうやっちゃってそこらじゅうをかきむしって血だらけにしてしまうわけですよ。とにかく手を押えて傷をこさえさせないようにする。それから熱は出ている。汗をかく。それから足は動かない。手だけ最初は動いて足は動かない。三人もついていなければならない
状態だったにもかかわらず、厚生省ではとにかく
看護券は一枚しか出してくれませんでした。ですから内科のつき添いさんは何時間か、毎日々々五時間ぐらい奉仕しておる。全部無料奉仕でありましたし、それから今でもそうですが、夏だったものですから、傷がひどく悪くなって、これの
処置なんかもほとんどつき添いさんがやっております。
看護婦さんも手伝ってやるのですが、
看護婦さん一人でもできないし、つき添いさん一人でもできないものですから、そうやっておる。それからプロンベの
患者さんは、合成樹脂の玉を入れまして、それに玉ぬき成形のできる方は簡単にできていいのですが、体力がないために玉ぬき成形ができない
患者さんもあるんです。それで体力が出るまで出るまでとおっしゃるのですけれ
ども、なかなか
病院の給食では体力なんかつきませんし、そういう人はやはり私たちは
食事でも少しでも食べられるようにしてあげなければいけないと思いますしね。そういう
患者さんはおしまいに膿がうんとたまって口から膿を出すわけなんですよ。そういうときに絶えず見ていなければならないわけなんです。そんな工合ですから
ほんとうに外科の場合でも、内科の場合でも、
患者さんはつき添いはとられたくないわけなんです。それともう一つ、もしこれが
完全看護にされた場合には、ふとんがずれ落ちても持ち上げられないわけなんですね。なぜと申しますと、内科の
重症患者は肺活量が千以下に下っているわけなんです。千以下きりないわけなんです。千以下の人ばかりとはきまりませんけれ
ども、健康者の大体五分の一ぐらいの肺活量しかないものですから、ちょっと動いても息切れがして、どうにもしようがないわけなんです。時間もございませんから簡単に申し上げたいと思うのですけれ
ども、それで内科の
患者さんにしても、外科の
患者さんにしても、とにかく
自分のそばからつき添いをとられるということは、
ほんとうに
自分が死に追いやられるように思っているものですから、きのうも伺ってきたのですけれ
ども、ある
患者さんが食欲が減退してしまったものですから、つき添いをつけてくれつけてくれとたのんだのですけれ
ども、とうとう死ぬ一、二時間ぐらい前にやっとつけていただいて、つけてもらったと思ったら死んでいたというようなことも、ずいぶんそこいらじゅうの
病棟で聞くわけなんです。そういう
患者さんが一
病棟に一人や二人ではない。それが今の
看護婦さんの
定員だと、とてもそれだけ手が回らないのじゃないかと思います。
それからもし私たちが常勤に切りかえられた場合に、私たち大半が未亡人であること、
子供を平均三人強持っていること、家のない人が多いことなどでもって、次の職につくまでに生保で見てもらわなければならないとか、住居のめんどうをどうしていただけるのか、職安とか
労働省と緊密な連絡をして下さると厚生大臣はおっしゃっているのですけれ
ども、健康な若い大学出の
人たちでさへ失業している中で、何で私たち四十年輩の女の才能もない者が使ってもらえるかと思います。それから厚生省は、私たちを常勤に切りかえる場合に、すぐ年寄りだ年寄りだとおっしゃるのですけれ
ども、年寄りの人がけっこう国家にかわって
患者さんを救っているわけなんです。それを皆さん大ていの人がそうなんですけれ
ども、身内に夫だとか
子供だとか、兄弟とか姉妹だとか、大ていのつき添いさんがそういう
患者を持っているわけなんです。それで常勤に切りかえた場合に、年寄りが首を切られるのは、年寄り自身も困りますけれ
ども、その人の家の
結核療養している
結核患者の人だって困ると思うのです。
それから最後に
お願いがございますのですけれ
ども、何とぞ参議院の先生方にも、この亡国病といわれている
結核というものが、いかにおそろしいものであるかということを
ほんとうによくわかっていて下さるとは思うのですけれ
ども、ぜひとも保菌している
患者さんたちを強
制限院させるようなことのないように、家庭療養している重症者を早く
入院させていただくような措置をとっていただきたいということと、またやっと元気になりかかった
患者さんから、つき添いをとらないようにしていただきたいと思います。ぜひつき添い
制度廃止に反対の決議をしていただきたいと思います。
ずいぶん長くなりまして、申
しわけございません。