運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

1955-06-13 第22回国会 参議院 運輸委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年六月十三日(月曜日)    午前十時三十三分開会     —————————————  出席者は左の通り。    委員長     加藤シヅエ君    理事            仁田 竹一君            早川 愼一君            重盛 壽治君            木島 虎藏君    委員            入交 太藏君            岡田 信次君            川村 松助君            黒川 武雄君            一松 政二君            高木 正夫君            三木與吉郎君            内村 清次君            大倉 精一君            小酒井義男君            片岡 文重君            三浦 義男君            平林 太一君   事務局側    常任委員会専門    員       古谷 善亮君   公述人    東京大学法学部    助教授     加藤 一郎君    慶応義熟大学経    済学部教授   園  乾治君    共栄火災海上保    険相互会社社長 宮城 孝治君    横浜交通局長 鈴木 敏樹君    全国乗用自動車    協会会長    新倉 文郎君    全国自動車運輸    労働組合組織部    長       小松崎隆次君    全国乗合自動車    協会理事長   石塚 秀二君    日本私鉄労働組    合総連合会自動    車対策部長   坂寄 林藏君    全国旅客自動車    労働組合連合会    中央執行委員長 伊坪 福雄君            熊澤 英敏君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○自動車損害賠償保障法案(内閣送  付、予備審査)     —————————————
  2. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) これより運輸委員会公聴会を開会いたします。  自動車損害賠償保障法案を議題といたします。  本日は午前中の公述人といたしまして、東京大学法学部助教授加藤一郎さん、慶応義塾大学経済学部教授園乾治さん、共栄火災海上保険相互会社社長宮城孝治さん、横浜交通局長鈴木敏樹さん、これらの方々においでをお願いいたしました。  本日公述をお願いいたしております自動車損害賠償保障法案は、自動車による人身事故に対する被害者救済をはかることを趣旨といたしまする政府提案法律案でございます。法律案及び資料は、事務局よりお送り申し上げたと存じますので、すでにごらん下さいまして、法律案趣旨につきましては御承知のことと存じますが、最近自動車交通の普及及び発達に伴いまして、社会生活危険性が増大して参りました事実にかんがみまして、自動車による人身事故の場合、その挙証責任を転倒いたしまして、賠償責任適正化をはかるとともに、賠償能力の確保をはかるため、自動車損害賠償責任保険制度を創設しようとするものでございます。この責任保険は、強制保険原則といたしておりまして、保険者損害保険会社でございますが、政府保険会社保険責任の六〇%を再保険することになっております。外国におきましては、この種の自動車保険に関する制度は確立しておりますようでございますが、わが国といたしましては何分にも新しい制度でございますので、一般の関心が強いことと存じます。今日はこの新しい制度につきまして、あらゆる角度から御意見をお聞かせ願いたいと存じます。  それでは、これより公述人の御意見をお述べ願うのでございますが、各公述人のお一人の最初公述時間は約十五分以内といたし、全部の公述人公述の終った後、各委員の質疑に入りたいと存じますので、どうかこの点をあらかじめ御了承をお願いいたします。  それでは、最初に、先ず東京大学法学部助教授加藤一郎さんからお願いいたします。
  3. 加藤一郎

    公述人加藤一郎君) 私は東京大学民法を専攻しておるものでございます。きょうは民法立場からこの法案について意見を申し上げたいと存じます。  この法案は、自動車事故について一種無過失責任を認めているという点が第一点、それから責任保険強制している点が第二点、その二つの点が主要だと思われますが、私は前の点をおもにいたしまして、あと責任保険のことについて、若干つけ加えさせていただきたいと存じます。  まず、第一の自動車事故についての一種無過失責任の点でございますが、これは民法におきましては昔から過失責任原則というのが唱えられております。過失責任原則と申しますのは、ある意味では進んだ主義でございまして、昔は一定の結果が生ずれば必ず責任を負うということが行われておりましたけれども、それではわれわれの活動の自由を保障する上に必ずしも適当でない。で、故意過失のない限り責任を負わないということにして、われわれの活動の自由をいわば裏の面から保障をするという点に過失責任の意義があったわけでございます。  ところが、十九世紀の後半ごろにおきましてから大企業が発達して参りますと、過失責任原則では必ずしも損害の公平な分担がはかられないということが出て参りました。大企業活動いたしますと、そこから必然的に一定損害が生ずる。しかも被害者の方に必ずしも責むべき点ばかりがあるわけでもないのに、被害者賠償を取れないという事柄が出て参ったのでございます。そこで、学説の上でも無過失責任論というのが唱えられて参りまして、それが立法の上にも反映をして参ります。立法の上ではまず労働災害について、続いて鉄道、自動車、航空機というような危険物から生ずる責任について、各国無過失責任的な立法が行われて参りました。  わが国でも、これに伴いまして、明治の末ごろから、工場災害などについては災害補償制度ができて参ります。そのほかに、現在では鉱害賠償制度について無過失責任が認められておりますし、それから独占禁止法におきましても独占から生ずる損害について無過失責任が認められております。  このように無過失責任が認められて参りましたのは、特殊な危険が増加をしてきて、それで無過失責任を認めて間接的に注意義務を加重する、それによって事故の発生を予防するという意味が一方ございますとともに、他方では、その損害一定の予期し得べき損害である、企業の計算において一定の確率をもって事業の経費として取り入れていくことが可能なような、予期し得べき損害であるということから、それを填補するのがやはり企業責任であるというようなことが考えられて参りました。  そこで、今度は自動車責任について特に取り上げてみますと、二十世紀の初めごろからその立法が唱えられて参りまして、まず一九〇八年にオーストリアで最初立法ができ、続いて一九〇九年にドイツ、そのほかヨーロッパの大陸諸国では一九三〇年ごろまでに大体自動車責任を認める特殊立法が生まれて参ったのであります。ただ、フランスにおきましては判例によってそれが果されておりますし、イギリスやアメリカにおいても、これは判例上重い責任が認められるようになってきております。  そこで、今回の法案を見ますと、その三条に特殊な自動車責任のことが規定されております。これは大体ドイツ法に一番似ているように思われますが、今日までの各国特殊立法の成果を大体取り入れたものである。そういう意味で、妥当な立法であると思われるのであります。これは一応自動車運行しているものに責任を負わせまして、ただし書で、その免責事由を認めております。これは、民法の七百九条によりますと挙証責任被害者側にあるのを、転倒したように見ます。つまり、挙証責任を転換しているというように思われますが、この法案はさらにそれ以上に出まして、ある意味での無過失責任を認めているのではないか。つまり、挙証責任を転換しただけならば、運行をしている者が無過失を挙証するだけで責任を免れるはずでありますが、これはさらにそれ以上に、相手方故意過失というものを立証しなければならないという点まで進んでいるわけでありまして、挙証責任の転換より一歩進んで、一種無過失責任を認め、それに一定免責事由をつけているというように思われるのであります。このような態度は諸外国立法でも大体取り入れられておりまして、一応責任ありという規定を置きながら、それの免責事由あと規定するというやり方をとっております。免責事由の広さが結局問題になるわけでありますが、この法案はその点で比較的免責事由をしぼっている方ではないかと思われます。ドイツなどよりは幾分免責事由が狭い。それからドイツでは損害の場合の最高額を、この特殊立法によって賠償すべき最高額を法定しておりますが、これはそういう限度がないという点からいいまして比較的広い責任を認めていると思われます。しかし、これは最近の各国立法を見ますと、大体そういう重い責任を課する方向に進んでいるのでありまして、そういう意味では歴史の流れに沿った、正しい立法の仕方ではないかと思われるのであります。実際にはこのような重い責任を認めましても、責任保険でカバーされる限度においてはこの保有者が直接に損害を受けることはないわけでありまして、結局、責任保険でカバーをされない部分、すなわち保険限度を越えた損害の場合と、それからどろぼうが運転している場合と、その二つに三条が特に重い責任として表われてくるのであります。  そこで、次に第二の問題といたしまして、強制責任保険制度について申し上げたいと思います。  で、歴史的に見ますと、各国ではまず特殊立法によって重い責任保有者に認めることが先に出て参りまして、そのあと強制責任保険制度というのがとられているようであります。たとえば、ドイツにおきましては一九〇九年に一種無過失責任が認められながら、強制責任保険制度がとられましたのは一九三三年でありまして、その間約三十年の間がございます。大体強制保険制度各国でできておりますが、これができましたのは三〇年代、一九三〇年代が多いのであります。  このことは、無過失責任がある程度必然的に強制責任保険制度というものを要求するという点があると思われるのであります。無過失責任を認めますと、加害者側では予測し得ない損害をある程度払うような危険も出て参ります。それによって、大企業がつぶれるというような危険もある。そこで、そういう危険を強制責任保険制度によって保険をしなければならないということになってくるのであります。しかも初めに申しましたように、このような危険というものは、その個人の企業者にとっては予期し得ない場合があるかもしれないけれども、全体として見れば、一定事故率というもので確率的には予期し得る損害になっておるのであります。ですから、これを保険することが可能になってくるのであります。この責任保険制度無過失責任から生まれたということができるのでありますが、逆に、責任保険制度ができましたことによって無過失責任を容易にするという面もあるのであります。無過失責任というものは、責任保険制度の基礎なしには、その実行を期しがたいというふうにも言われておりまして、いわば両者が持ちつ持たれつの関係にあって、お互いに相手方を要求し合うという点があるのであります。  で、この責任保険制度損害賠償という点から見ますと、責任保険制度によって加害者側一種自衛手段を講じることができる。これに対して、被害者側はそれによって救済を受けることができる。いわば加害者側利益被害者側利益とをこれによって統一的に保障する、それによって責任を社会化するという面があるわけであります。それは同時に、過失責任原則無過失責任原則とをこれによって統一的に把握するという面があるのでありまして、その意味で、責任保険制度強制するという点も、法律的な見地からして、大へんけっこうなのではないかと思うのであります。  ただ、責任保険制度になりますと、事故を起した者も、それによって一応は損害をカバーされることになりますから、注意力減退をして、危険が増大するおそれがある、事故が増加するおそれがあるということが、外国で言われておるのであります。たとえばフランスでは、一八四四年にセーヌの商事裁判所で、これは注意力減退するものであるから、責任保険というものは公序良俗に違反をして無効であるというような判決が下されたこともあるようであります。もっとも、これは直ちに翌年、その控訴審であるパリの控訴院で取り消しになりまして、責任保険は有効だとされ、それ以後、責任保険制度が非常に発展をしてきたのであります。この事故を防ぐという趣旨からしますと、責任保険で全損害をカバーするのではなくて、一部だけを填補するようにしたらどうかというような議論もございます。たとえば、損害の全部ではなくて、せいぜい八割か九割程度まで填補をして、あと加害者側に払わせるべきだという議論もあるのであります。しかし、これは逆に申しますと、被害者保護にはそれだけ不十分になるわけでありまして、やはり全部一応填補をする。もちろんその額には一定限度はありますけれども、その限度内では一応全部填補するという、この法案のような行き方がやはり正しいのではないかと思うのであります。結局、それによって運転手その他の注意力減退する面については、刑事責任でそれを取り締るほかはないと思うであります。で、過失によって人に傷害あるいは死亡というような事故を与えた運転手刑事責任で取締る。民事上はこれによって損害の公平な負担をはかる。つまり、危険物を行使ししかもそれによってある程度の利益をおさめているところの自動車保有者というものに、責任を負わせるという行き方が正しいと思うのであります。  で、今のように、事故が増加するという議論フランス以外でも唱えられております。たとえばアメリカのマサチューセッツ州では、強制責任保険制度を採用した結果、事故が増加しているというような報告があるようでありまして、フランスでは強制責任保険よりも、基金制度を作りまして、基金が一応賠償する、そうしてそれは事故を起した者に求償するということで、注意力減退を防ぐという議論がございまして、この資料の中にもフランス基金制度というものが出ておりますが、これはおそらくそういう見地から、強制責任保険制度をある程度回避して、基金制度にしたのではないかと思うのであります。  この責任保険制度全体を見ますと、この法案はかなり進んだ法案であると思われます。第一には、直接請求被害者からの直接請求を認める、第二には、国家がそれでカバーされない点を特に保障事業制度を設けまして保障するという行き方をとっております。これは被害者保護に万全でありまして、かなり進んだ行き方だろうと思われます。もっとも、この保険をされる最高限度は、死亡の場合に約三十万円というふうに伺っておりますが、これは諸外国の例に比べますと、かなり低いようであります。もっとも、現在までの実際の支払額を見ると、まあそれくらいで一応スタートをするのが妥当なようでありまして、ほんとうならばもう少し最高額を引き上げることも考えられると思うのですが、一応これでスタートをしてみて、その結果でまた考えていくということでよろしいのではないかと存じます。結局、全体としまして、この法案行き方に法律的な見地からして賛成でございます。
  4. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ありがとうございました。  それでは、その次に慶応義塾大学経済学部教授園乾治さんにお願いいたします。
  5. 園乾治

    公述人園乾治君) 園でございます。  この自動車損害賠償保障法案目的としますところは、自動車による交通事故被害者に対して保護を加えるということと、もう一つ、この保障法によって、そういう事故に対する損害賠償のために偶然の大きな費用を負担しなければならないところの自動車運行者経済、あるいは平たく言えば自動車交通業をやっているところの会社の経理を合理化するという、二つ目的を持っているものと思います。この二つ目的から見まして、この保障法案に対しては何人もおそらく反対をするところはなかろうと考えますが、細目の点において、いろいろな立場から、いろいろな批判あるいは意見が出るかと存じます。私は学校で保険を専攻しています関係から、学究的な立場から、この保障法案に関しまして、若干卑見を申し述べたいと存じます。  まず、御存じのように、この法案の構成は三つになっておるのであります。一つは、損害賠償責任保険であります。それからもう一つは、この保険にかわるべき自家保険制度というものであります。なお、この二つが根幹でございますが、これで被害者に対して十分な保護が与えられないと考える場合、及び保護をしましたところの保険会社が十分な求償が得られないという場合に、政府がこれにかわってこれに対して保障をするという、三段がまえになっておると考えてもよろしいかと存じます。  第一段の損害賠償責任保険でございますが、この保険は、自動車運行します者に対して強制加入でございます。多くの場合に保険に対しては任意加入であるというのが大体の原則でございますが、その例外として、御存じのように、社会保険に対しては一定の範囲のものに対して加入強制するということが行われています。この保障法案の場合にも、同様に強制加入としますが、それはこの保障法案が持っていますところの二つ目的、先ほど申しましたように、被害者に対する保護と、それから自動車運行者経済安定あるいは経営合理化、こういう二つ目的を徹底させるためには、どうしても強制加入をしなければならないということが是認せらるるものと考えます。ちょうどこの点は、社会保険における強制加入というのと大体似たような点があると思うのであります。しかしながら、この強制加入は、いわゆる自動車運送業をやっております業者にとっては、非常に苦痛であるというように考えられて、あるいは反対が出るかとも考えるのでありますが、これは当然行うべき被害者に対する賠償義務を合理的に履行するという点と、それから保険によってこれを行えば経営合理化されるという点から見て、現状においては、財政的に相当苦しい点があっても、強制加入を認めなければならぬ理由が生ずると考えます。と申しまするのは、御存じのように、保険に入りますと保険料を支払わなければならぬという関係がまず生じますが、この保険料は確定しました、割合に少額金額でございます。その少額の確定した金額を支払うことによって、偶然に発生するかもしれない——あるいは発生しないかもしれませんが、偶然に発生するところの被害者に対する莫大な損害賠償金額を、個々の場合に支払わなくてもよいということになって参ります。この関係は、結局小さいきまった犠牲でもって、大きな偶然の犠牲をなくするということでございまして、これが一家の経済なりあるいは事業経営を安定せしめるゆえんであります。こういう保険の機能を発揮させるということが十分に徹底するためには、どうしても強制加入をしなければならぬという理由が生ずるわけでございます。  さて、この保障法案は、もう一つ保険者強制するという点でございますが、これは第六条にきめられるようでございます。この保険をする人の強制をするということには、いろいろ立場によって意見もあるかと存じますが、一方の自動車運行する業者強制加入にしますると、保険者強制しないと、どうしても契約が成立しないというような関係が生ずるという意味で、保険の申し込みがあった場合には、これをぜひ引き受けなければならぬということになるのだと考えます。当然の処置というように一応了承ができるのでございますが、なお、この保険強制せられて引き受けた結果が、いろいろな義務と申しますか、束縛を受けるという点において若干の問題があろうかと考えるのであります。  それから保険金の問題でございますが、保険金に関しては、政令できめるということになっておるようでございますが、大体外国のきめ方によっても、一事故に対する最高金額と、それから一人に対する損害賠償限度と、二様なきめ方があると思うのでありますが、その総額の決定があまりに低い場合には、同時に多数の被害者が生じた場合に、一人の受けるところの損害賠償額が非常な小さな金額になるということが考え得られますので、この点は金額決定せられますときに十分に考慮することが必要だと考えるのであります。  なお、保険金支払い条件が、現在行われていますところの普通保険支払い条件よりも、非常に寛大であるということが見られます。第十四条にきめてあるのでありますが、これは悪意は別としまして、重過失でも保険金を支払うということになっておるのであります。重過失を支払わないと、被害者保護するゆえんでないということが一つ理由のように考えますが、この結果、自動車運行します方面において、過失に対して十分の注意を払わないというようなことがあってはいけないと考えますので、十分にその方面の取締りを強化するということがなくてはならないと考えるのであります。  それから保険金支払いが行われません以前において、仮渡金をするという制度が認められています。この仮渡金ももちろん被害者保護するということから生まれたものだと考えますが、そのために保険者に相当な犠牲を払わせる結果が生ずるということは、十分注意をする必要があろうかと考えます。そうして、もし不当な損害をこの仮渡金のために保険者が負担するというような場合がございましたらば、後にきめられますところの政府保障ということにおいて、これを賠償するということがなくてはならないと考えるのであります。  なお、告知義務に関しまして、違反した場合には契約を解除することができるということは、一般保険でも同様でございますが、この保障法においては、契約解除をしましても、七日の間は解除したところの保険者責任を負わなければならぬということになっておるのでございます。その場合にも、賠償をしました支払いました保険金に関して、他に求償ができないというような場合も生ずるかと考えますが、今も申しましたように、政府がこれに対して保障を与えるというような規定がぜひ望ましいと考えます。  それからこの保険保険料決定に関しては、二十五条に規定がございます。保険料が能率的な経営のもとにおいて適正な原価を償うものでなくてはならないとか、あるいは営利的な目的がこれに入ってはいけないということが重ねて述べてございますが、この「営利目的介入」という点では、相互会社保険では営利を認めないという建前になっておるのでありまして、もちろん、この「営利目的介入」ということはないという一応の理屈が成り立つのであります。株式会社の場合においては、それならば、この「営利目的介入」ということがあり得るかと申すのでございますが、現在の保険料の全体を観察しますると、これはほかの事業でも、いわゆる公益事業は同様だと考えますが、昔のような株主本位営利一点張り事業経営というものはないのであります。ことに保険のような大衆を相手としますものは、たとえば交通業の場合と同様であって、それが資本家本位営利本位のものであるということは、現在では考え得られない。すべてが利用者本位あるいは消費者本位ということになっています。従って、わざわざここに「営利目的介入」ということはうたわなくても、前段の「能率的な経営の下における適正な原価」ということで十分ではなかろうかと思うのであります。ことに営利目的介入ということをここで否定しますような規定があるということは、資本主義社会における一般事業に対する極端な制限ということにもなろうかと考えますので、前段だけでこの規定は十分ではないかと考えるのであります。  それからその次に、この保険に関しましては、再保険の国営ということがございます。元受保険の六〇%に対して国が再保険をやるということが、制度の上でできておるのでございますが、再保険を国営しますところの一般的な理由としましては、民間の事業にまかしておいたのでは、保険業が普及発達しない場合とか、あるいは非常に危険が多くてなかなか採算がとれないから再保険で危険を負担するというような場合が、再保険を国営するところのおもな理由であると考えますが、この場合に、この保障法案において保険会社が引き受けました保険に関しましては、その金額の点からいいましても、現在の保険会社が負担し切れないような大きな損害は発生しないであろうと考えられます。従って、その点から経営難が発生するかもしれないという心配から再保険を国営するという理由はないのでありまして、もし再保険を国営する理由がありとするならば、前段被害者に対する保護を十分にするという点に帰するものだろうと思います。つまり、社会的な理由にほかならぬというように考えられるのであります。結局、こういう自動車の交通による災害というものは、全部を交通事業者に負担させるということはいけない。現在の交通の非常な輻湊しておること、並びにそこから当然生ずるところの交通事故というものに対しては、全体として社会が責任を持つとか、従ってまた国家がそういうものに対して最終責任を負うというような理由からでないと、この再保険を国営する理由は生じてこないのであります。そういうような再保険を国営する理由が、社会的な理由、つまり交通業に避くることが不可能であるような事故、それを国家がめんどうを見る、責任を負担するということでございますならば、ここから国庫が若干保険料を負担するというような理由も生じようかと思うのであります。最初からそういうことを希望することは不可能であるとしましても、この再保険を国営するという点は、もし隴を得て蜀を望むということが許されますならば、将来において保険料の一部を国が負担するというようなことになるならば、事業主の保険料負担を緩和する一助にもなろうかと考えるのであります。  それから、今まで述べましたところは損害賠償責任保険でありますが、自家保障の問題があります。自家保障というのは、自分で損害賠償する財力が十分であるというような場合に認められるものだと思いますが、これは厳重に制限をしないと、ある場合には支払い能力が不十分であるというような事態を生ずることがあろうかと考えますので、自家保障制度はあえて反対はいたしませんけれども、これを許可する基準は相当高くしなければならないものだろうと思うのであります。全然別な例でございますが、健康保険法において、国家のやっています、厚生省が管掌していますところの健康保険以外に、健康保険組合がやっております保険がございます。この自家保障というものは、一応健康保険組合の事業に類似するものと考えられますが、健康保険組合の場合には、その利益を受ける者が大体同じ職場におりますところの者で関係が密接でございますが、この法案においては利益を直接受けます者は被害者でございますので、自家保障制度においてそれができているために十分な損害賠償が得られないような事態が生じないように、十分に注意をする必要があろうかと考えるのであります。  それから最後の政府保障でございますが、いろいろ保険者が負担をすることが道理でないような場合、あるいは負担させられないような場合に、最後の責任政府がとるという建前になっておるのでありますが、なおこの政府保障に関しましては、仮渡金の超過した部分に関しましても政府がかわって支払うというような条項もつけ加える必要があろうかと考えるのであります。そうでございませんと、保険会社が仮渡金を支払う責任、あるいは負担が非常に重くなるというふうに考えられますし、これを渋るということにもなろうかと考えますので、ぜひ仮渡金の超過部分に関しては政府保障も最後には得られるというようにありたいものだと希望する次第であります。  おしまいのところに、二十八条でありますが、賦課金の問題がございますが、この賦課金の国庫負担の問題でありますが、それには、たとえばこの法案、この制度の適用を除外せられるところの者、たとえば第十条に除外せられる者が規定してございますが、その規定の中で「国、日本専売公社、日本国有鉄道、日本電信電話公社、都道府県その他政令で定める者」とあります。その最後の「その他政令で定める者」という者が負担しなければならないところの保険料部分と申しますか、あるいは賦課金も、十分に国庫の方の計算に加えられるということが必要であると思うであります。  大体以上申し上げましたような点が私のこの法案に対する、保険学研究をいたしまする学究としての意見でございます。公述を終ります。
  6. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ありがとうございました。  その次に、共栄火災海上保険相互会社社長宮城孝治さんにお願いいたします。
  7. 宮城孝治

    公述人宮城孝治君) 私はただいま御紹介をいただきました共栄火災海上保相互会社の社長をいたしております。保険会社で組織いたしておりまする日本損害保険協会の常任理事もいたしておりまするので、業界といたしましていささか意見を申し述べたいと、かように存じております。  この法案は、ただいまもお話がありましたように、自動車事故で人の生命、身体が損害を受けましたときに、その損害について、原則としてすべて賠償をしてやろうという制度を、法制化そうといたしまするものでありまして、きわめて社会性に富んだ、また公共的なものでありまするので、私どもは賛意を表しておるのでございます。  この法案の中に盛られました制度は、通覧いたしてみまするというと、いろいろ特長が、また特色がございますが、私どもの立場から特に考えられますることは、まず第一に、その賠償責任がほとんど無過失責任に近いものである。また第二に、すべての自動車がこの保険に入らなければならぬ。第三に、民営の保険会社のすべてが原則としてこの保険の引き受けを拒絶してはならぬという、この三点が、私どもの立場から考えてみまするというと、いろいろ特色があるのでございまするけれども、特に大きな特色だというように考えられるのでございます。  ことに第一の問題につきましては、先ほど加藤先生から詳細なお話しがございましたのでありまするので、省略をいたしまするが、第二、第三の問題は、民営の保険会社として十分な関連がございまするので、この点について特に申し上げたい、かように存じておるのでございます。  すなわち第二の自動車のすべてがこの保険に入らなければならぬというのは、強制保険でございますが、また民営保険会社保険者としてこの法律の中にはっきりうたわれておりまして、これがその強制保険のうらはらといたしまして、拒絶ができない。つまり強制引き受けであるというような点でございます。そういう点から考えまして、私ども民営保険会社立場といたしましては、この法律を通覧いたしてみまするというと、制度の上あるいは技術の上に、いろいろな問題が多かれ少かれございますのですが、いずれにいたしましても、私どもの民営保険が、本制度のようなきわめて社会性の高い、また公共的な事業に、本質的に参加するのであるというこの点を重視いたしまして、私どもはあえて協力を惜しんではならないと、かように考えておるのでございます。  それで、ただいまも申しましたように、一番私どもが関心と申しまするか、この制どの中に入りまして、さて実施に移りました際に考えさせられることから申し上げてみたいと存じますが、これは制度の問題に関連があると、かように存ずるのであります。それは、ただいまも申しましたように、本案に盛られました思想に強制保険であり、また強制引き受けであるということであります。そしてその保険者といたしまして、私ども民営保険会社がこれに当るということでございます。しかしこの点をよく考えてみまするというと、私どもの保険は、建前といたしまして、自由保険でございます。企業といたしまして成り立つということが一つの前提になっておりまして、そのためには、保険経営をいたして参りまする上に、保険の物件を選択するということが原則となっておる。これは保険経営いたしまする責任者といたしまして当然のことでありまして、悪い品物、物件はこれを保険に引き受けないというのが建前でございまして、そのために、企業の安全性、バランスをはかるというような計算のもとに成り立っておるのでございます。その自由選択を建前といたしておりまする民営保険強制引き受けをいたさなければならないというその点について、私どもの考え方をはっきり、あるいは経営の上にどう調整をするかということが問題になると、かように存ずるのであります。  この点につきましては、経営の建前を先ほども申し上げましたが、普通事故が発生をいたしまするその事故の頻度というものを予想いたしまして、そうして料率を算定をする、算出をいたす。それを経営の根本にいたすわけでございまするが、好むと好まざるとにかかわらず、全部の自動車を引き受けいたしまする場合に、その損害事故の頻度というものの測定をいかにするかということが、一つの問題になると存ずるのであります。これは先ほども加藤先生から話がございましたが、強制保険にいたしました場合に、従来の事故の統計、損害事故の統計というようなものが、ややもすると、予測以上、あるいは予想以上に上回る傾向があるんだというお話がございました。私どももさように考えておるのでございまして、先ほど米国のマサチューセッツ州のお話がございましたが、あれは一九二五年にマサチューセッツ州に強制自動車損害賠償保険が施行されましたが、その翌年の損害事故損害件数は、それを実施する前の四割増しになったという事例があるやに聞いておるのでございます。こういう意味で申し上げまするというと、私どもの民営の保険がこの強制保険の中に溶け込みまして、そうして経営をいたします場合に、その測定をはっきりした上に適正なる料率を算定をする必要があるのではないかというように考えるのであります。  これはこの法律の建前といたしまして、営利を排除されてございます。従って、この営利性も排除いたしておりますということは、いわばその損害がありました場合に料率が適正であるかないかということにかかっておるのであります。私どもはこの法律の非営利性を絶対に反対をするものではございませんで、もちろんこの非営利性が建前であるということについては当然のことであると、かように考えるものでありますけれども、私どもが保険者となりまして、この事業経営いたして参ります上に、経営の安全性というものをどこにおくかということが一つの問題になるのでありまして、利益はあげないけれども赤字になっては困るということが一つの重要な問題になるのではないか。この点は先ほども申しましたように、料率の問題、あるいは発生をいたした事故の適正なる測定というような問題になりまして、これがおそらくこの法律の中に規定されておりまする審議会の任務に相なると思いまするけれども、私どもといたしましてはこの点に多大の関心を持っておるものでございます。それでありまするので、純保険料の算出に当りましては、強制保険から参りまする事故が増大しやすいものであるというような潜在的な事故を十分に考慮に入れることが必要でありまして、従来の事故の統計をどう見るかというようなところに問題があるのではないかと、かように考えております。  いずれにいたしましても、私どもの民営の保険会社が、この公共的な保険の中に入り込みまして、この事業を遂行するという役割につきましては、非常に重大な責任を私どもは負わされたことに相なりまするので、この法案の実施の際には、十分な保険会社の経験と、また全国にまたがる十余万に上る代理店の代理店網を活用いたしまして、本法案趣旨にあくまで努力いたすべきであると、かように存じておるのでございます。細かい点、あるいは保険会社といたしまして技術的なこまかい希望等もございまするけれども、御質問でもございますれば、後にまた申し上げたいと思います。
  8. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ありがとうございました。それでは、最後に横浜交通局長鈴木敏樹さんにお願いいたします。
  9. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) 鈴木でございます。私は名古屋、京都、大阪、神戸、及び横浜の五市を代表いたしまして、この五市を含めました都市側に立って陳述申し上げたいと存じます。私がこれから陳述を申し上げますことは、市全体の立場から申し上げますので、私の職掌が交通局長でございますので、あるいは市が行なっております自動車運送事業立場からのみというふうにおとりかとも存じますが、決してさようなわけではございませんので、お含みいただきたく存じます。  陳述を申し上げたい要旨をプリントにして提出してございますので、そのプリントに従いまして申し述べさしていただきたいと存じます。  今回政府におかれまして立案されました自動車損害賠償保障法案は、自動車運行によりまして人の生命または身体が害された場合におきまして損害賠償保障する制度を確立するためのものでありまして、その御趣旨は、仄聞するところによりますれば、自動車による人身事故が起きた場合、その損害賠償を適正、確実かつ迅速にして、被害者保護をはかろうというものであるやに承わっております。近ごろ自動車事故が急激に増加しております実情にかんがみまして、御趣旨につきましては、まことに適切な法案と存じ、けっこうとするものでございますが、その適用の上におきまして、都市側といたしましていささか納得いたしかねるところがございますので、以下その点について申し述べたいと思います。  すなわち、法案の第五条は、強制保険制度規定いたしておりまして、これに対し、第十条でこの強制保険を国専売公社、国鉄、電電公社、都道府県等については適用除外するというふうに規定しております。何ゆえこういうような規定をされたかというようなことを伺ってみますというと、主として賠償能力の点からの御考慮のように承っておりますが、こういう御考慮は、府県以外の地方公共団体でも相当の規模能力の都市につきましては、当然いただいても差しつかえないのではないかというふうに考えるのでございます。なぜならば、この種の賠償能力につきましては、都市は都道府県と何ら区別をする必要は認めないと思うのでございます。しかしまた、こういう私たちの立場につきましては、ひとしく都市といっても大小さまざまで、ピンからキリまである。これを一律に、都市であるからということで律するということは、これは不適当だというような御議論もあるやに承わっております。そうするならば、もう少し、制限を加えるといたしましても、現在政府の方からお許しを得て自動車運送事業を行なっており、しかもその規模が相当大きくて、地方公営企業法の適用を受けるというような都市については、当然お考えをいただいても差しつかえないのではないかというふうに考えるのであります。またそれもゆるやか過ぎるというふうになるならば、地方自治法の百五十五条の第二項に規定しておりまするところの政令で規定した都市、すなわち京都を初めといたしますところの五市ぐらいは、考慮に入れることは当然過ぎるほど当然ではないかというふうに考えるのでございます。  元来、市は、都道府県と同じように、国家賠償法の適用を受けておりまして、こういう面からいたしますというと、都道府県と都市というものを区別するものはちょっとおかしいというふうに考えます。当然同じように扱っていただいていいのではないかというふうに思いますが、とりわけ、先ほど申しました地方自治法の百五十五条によるところの政令所定の五都市は、その実態を見てみますというと、自動車によるところの事故が起きました場合に、そのことごとくについて、被害者との円満な示談を行いまして、適正確実な賠償額を決定し、これを迅速に支払っていくというのが現実の姿でございます。こういう実情にあるものに対して、第五条に定めるように、強制保険制度を適用するということは、いたずらに保険料を出し、事務の繁雑をよけいにするということだけで、何も私たちはそう大した効果があるとは考えないのであります。むしろ、どこの都市も財政は必ずしも豊かではございません。その豊をかでない都市の財政に、さらに圧迫を加えるにすぎないと思うのでございます。  御提出申し上げましたプリントのしまいの方に三枚の表をつけてございますが、ほかの都市はわかりませんが、私どもの五市で持っておりまするところの自動車というものは、一番少い所で私の方の横浜市の七百九十一、一番大きい所で千七百五十七の大阪というようなことになっております。これを現実の姿で財政上調べてみますというと、その前につづってございますところの、これは横浜自動車運送事業だけの実績でございますが、もしただいま伺いましたような保険料率で算定いたしますというと、約倍近くの財政負担になる。横浜全市で算定をいたしてみますというと、本市方面の清掃車あるいはその他の車というものを合しますと、六百七十万円くらいになるだろう。しかも事故というものは現在本市関係におきましては何にもないというような実情からいたしまして、相当都市の財政負担になると思うのであります。  こういうような観点からいたしまして、私は、少くとも現在公営企業法のもとに自動車運送事業を営んでおりまするところの都市は、おのおのそれぞれ多数の車輌を保持しております。従って、この法案も第十条をそのままにしておきますというと、先ほど私の申しました通りの、いたずらに財政負担を増加するにすぎないという結果になろうと思います。従って、できるならばこれを、都道府県と同様、五条の適用除外ということでお願い申し上げたく、どうしてもできないというならば、少くとも、府県にまさるとも劣らないと私どもは自負いたしておりますが、政令都市、すなわち京都を初めとする五市につきましては、当然そういう御処置をするのがいいのではないかというふうに考える次第でございます。  都市側に立ちました意見を申し上げまして、陳述を終ります。
  10. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ありがとうございました。  これにて、午前中に予定いたしました公述人の方々の公述は一応終りましたので、ただいまから御質疑の時間に入りたいと思います。御質疑のおありの方は順次、御発言をお願いいたします。
  11. 岡田信次

    ○岡田信次君 私は横浜交通局長にお伺いいたしますが、この事故費、あなたの方からいただいた表ですね、事故費の百三十一万とか七十六万というのは、この内容はどういうものですか。
  12. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) この内容は、事故を起しました場合に、いわゆる人の生命あるいは身体に害与をえなかった物的だけの損害もございます。この場合におきましては、法案人身事故の場合を想定いたしておりまするので、物的だけの事故費というものは除外してございます。すなわち、何かタクシーでも衝突いたしまして、向うのタクシーの車体に損害を与えたという場合には、この金額の中に含まれておりません。ここに掲げました二十八年度の百三十一万余円、二十九年度の七十六万余日というものは、人身事故に支払った費用でございます。
  13. 岡田信次

    ○岡田信次君 そうすると、横浜市はたとえば、二十九年度でも八年度でもいいのですが、人を一人あなた方の方のバスなり何なりがひき殺したという場合に、最高はどのくらい払っておられるか、あるいは最低どのくらい払っておるか、ちょっと伺いたい。
  14. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) そのケース、ケースによりまして、必ずしも一定いたしておらないのでありますが、事故損害、何といいますか事故の、人を死に至らしめた場合に支払います賠償金ですか、示談金でございますが、大体現在では五万円ぐらいを底といたしまして、上は十万円程度でおさまっております。これはまことに不思議な話ではありますが、事故が起りましたケースを見てみますというと、大てい、十のうち八つまでが、年寄りで貧困家庭の人に多いという奇妙な現象が出ております。示談をいたします場合にも、そういった社会的環境というようなものを考慮に入れて示談をいたして、そういうような額になっております。
  15. 岡田信次

    ○岡田信次君 そうすると、もう一遍横浜交通局長に伺いますが、あなたのプリントに「いたずらに保険料の出費と事務の煩雑」と書いてございますね。これは、今度保険ができれば、ほとんど全部保険会社がやってくれるので、事務の繁雑なんというのはかえって今までより減るのじゃないですか。
  16. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) 私は法案を読んでみまして、必ずしもそうではないように受け取っておるのでございますが、やはり損害賠償の折衝というものは、事業者であるところの、あるいは自動車の所有者であるところのわれわれが個々に折衝をしなければならないように考えておるのであります。また保険支払い限度法案にはございませんが、無制限に払っていただくのではないようでございまして、一定額きりしか払っていただけないというようなことになって参りますと、その保険限度でわれわれは責任が一切解消されないように承わった。結局、今まで以上の手数をかけるというように私どもは考えたのでございます。
  17. 岡田信次

    ○岡田信次君 ちょっと議論になるのですけれども、大体強制保険ですからね、その強制保険であるからには、大部分保険会社被害者との間で交渉すべきであるというように私は考えておるのですが、さっきのお話だったら、これは五万円から十万円しか払っておらない。今度は三十万円まで行くのですから、大部分は限度内におさまるので、今おっしゃったのとちょっと違うじゃないですか。実績は今言ったように、五万円から十万円までしか払っていない。それが今度は一人三十万円になるわけですね。ですから、大体において限度がおさまるわけです。だから、限度以上の折衝があるために事務がふえるという論は成り立たんと思うのすがね。
  18. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) 保険金額の満度で大体がおさまるであろうというような御意見でございますが、おさまるかおさまらないか、実際これはそのケースによって決定される問題でありまして、人がなくなりました場合に、その賠償を得るということになりますれば、実際問題としてはいずれも満度になるでしょうし、それから満度でおさまらない場合も実際は出てくるだろうと思います。  ただ、私がここで申し上げておりますのは、強制保険なるがゆえに、現在半分以下の財政負担でおさまっておるのに、そう事故がないのにもかかわらず、やはり支払わなければならない。それだけの分について財政負担を加重するということを申し上げておるのでございます。先ほども陳述の中で一部申し上げましたが、現実に人身事故が起きておりまする様相を見ますというと、主として事故はバス関係だけでございまして、市が持っておりまする自動車の大部分の数を占めるその他の自動車につきましては、事故というものはほとんどございません。従って、この面から考えれば、現在何にも負担していないものをそっくり負担しなければならないというようなことになるわけでございます。
  19. 岡田信次

    ○岡田信次君 今度は、園さんにお伺いいたしたいのですが、先ほど自家保障をもっと厳重に制限する必要がある、あるいは許可の基準を厳格にするというか、高度にする必要があるというお話だったのですが、何か具体的のお考えをお持ちですか。
  20. 園乾治

    公述人園乾治君) 政令でいずれ定められる部分があると思いますが、その政令のことはよく存じませんから、具体的には——たとえば自動車を何台持っているというふうなこと、具体的に案は持っていませんが、あまり財政的な損害賠償を負担する財力の欠けているような場合、あるいは事故があったために十分に払い得ないようなものがあって、被害者保護にならぬものはやめなければいかぬというので、別に政令のことを存じませんので、内容はどれくらいということは具体的に言えませんが、全体的に見てそういう印象であります。それから保険ならば確実に保護ができるのに、保障にしたら保護ができないようなことがないようにしたいと、こういう趣旨で申し上げたのであります。
  21. 川村松助

    ○川村松助君 鈴木さんに伺いますが、この五万円ないし十万円の金を支給した最後の年はいつでしたか。五万円ないし十万円支給されたというお話でしたが、そういう時期、年次はいつでしたか、最後に支払いになった……。
  22. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) どうも、事故がいつ起きたかという今資料を持って参りませんので、記憶で申し上げて恐縮ですが、一カ月半くらい前に、鶴見の駅の裏口で、植木屋の職人を、これは死んだ場合じゃございませんが、命は取りとめましたが、かなり重傷を負わせた事件がございました。これに七万何千円か八万何千円かを支給したのが、ごく最近の例だと思います。死んだのはいつか、死んだのは今ちょっと記憶がございませんが、いつごろ……。
  23. 川村松助

    ○川村松助君 大体でもわかりませんか。
  24. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) このごろでは死んだ例はちょっとございませんが、一年も二年も前ならばあるかとも存じますが、最近においては死んだ例はございません。
  25. 小酒井義男

    小酒井義男君 鈴木さんに、今のに関連してですが、従来の自動車事故で十万円以上の補償をせられたという例はないのですか。
  26. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) ございます。これは妙なことを申し上げますが、結局は死亡をいたしましたが、その間治療に期間を要した場合には、三十万も四十万もかかるのでございます。これはもう息のあるうちは、これはこちらに責任があろうとなかろうと、実際問題としては、引き取りまして、病院で加療する。従って、その期間によりまして相当な額に上るわけでございます。現に、今そういうのを一つ持っておりますが、これは何ほどになるか、ただいまのところちょっと予測がつきません。
  27. 小酒井義男

    小酒井義男君 それから園さんにお尋ねしたいのですが、先ほどの御意見の中で、この法律案ができることによって被害者損害が補償されるということと同時に、自動車事業経営合理化されて健全化されるというようなふうの御意見があったように私、伺ったのですが、自動車事業強制加入をしなければならないという弱体な小企業者が相当あるわけです。こういうところが、保険金の負担によってある程度の経営上に及ぼす荷重——とまで行かなくても、負担ができてくる面が出るのではないかと私は思っているのです。そういう問題について、そうした場合はそれではどうしてそういう問題を排除していけばいいか、御意見があったらお聞かせ願いたい。
  28. 園乾治

    公述人園乾治君) 保険料の負担が少額のきまった金額である。それはまずもって予測できる金額だから、経費に加えて、経常費に加えておく。その保険金がなかった場合には、偶然な事件が起って損害賠償を払わなければならない。その金額は毎年払う保険料から比べて非常に大きな金額である。しかしそれが予測できない。あるいはないかもしれない。あるかもしれないという、非常に不安な金額でありますので、保険に入っておけば、確定した小さな金額を払うことによって偶然の大きな出費を免れるという形になるので、経営合理化される、こういうふうに思ったわけであります。  しかし、保険料を負担する能力もない場合に、この保険料はどうして出すか、こういうお尋ねかと思いますが、これは結局は、たとえば運賃の値上げとかなんとかいう形になるか、あるいは場合によると使用人の俸給の切り下げということになるかと思いますが、そうはならないようにしなければならない、こう思っております。これは法案の以外だと思いますけれども、そんなような以外のことについては、保険経営合理化するものである。しかしその少しの保険料さえも出し得ない場合にどうするかということになると、それでは損害賠償の大きな金額があったときは会社がつぶれるかということになるかと思いますが、経営合理化ということは、きまった金を少しを出すということで合理化されると私は考えております。その費用のもとの捻出については、経営をどうしますか、他へ転嫁することになると思いますが、運賃の値上げという形に場合によってはなるかと思います。現在の自動車交通の事情はよく存じませんが、非常に生きるか死ぬかの過激な競争をやっており、あるいはコストを割っている事業があるとすれば、それは正しい経営の形ではないというふうに思っております。現状についての具体的な方策は、どうも持っておりません。
  29. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 ちょっと、関連しますが、今度のこの法律は公共企業意味が多分に含まれて社会的なものであろうと思う。従って、この法律を作ることにはどなたにも御異論はなかったように思いまするが、ただ、これを作ることによって、なかったよりはいいということも言い得るかもしらぬが、逆に、交通従業員あるいは交通事業者のみに、この公共性を持つものに対する責任をとらすような格好になるのではないか。ちょうど、小酒井さんが言われたのですが、中小企業なんかはもう今日の状態では事業内容すらも赤字になって、やっていけない。さらにこの保険料をとる。その保険料事業主負担ではなくて、運転手にしわ寄せされていく。事故が疲労のためにどんどん起ってくるというような場合には、実際果して交通事業者だけが今のようなこの負担率でやっていけるかどうかということも考えなければならぬ。もちろん、細目につきましては、法案の審議に入ってから、政府がもう少し負担すべきであるとかというような問題になると思いますが、こういう点に対しまして、こういうような料率でよいのか悪いのか。これは保険会社の共栄火災の宮城さんにも、園さんにも、両方にお聞きしたいのですが、こういうふうな料率でいいものかどうか、その点をお答え願いたいと思います。
  30. 園乾治

    公述人園乾治君) 保険料の負担が終局どこに転嫁されるかという問題でございますが、私どもは従業員の給料の方うにそれが転嫁されることは好ましくないと思っております。それで、先ほどもちょっと申しましたが、再保険という形がございますので、再保険料の負担という意味で国家がこれを負担するような形に持っていけばいいのではないかと考えております。ただし、この交通事故に対する責任がどこにあるかということをよく考えませんと、いたずらに国庫負担だけにまかせることになると、無責任事故が起るということでもいけないと思います。ですから、交通事故の最終の責任がどこにあるかということでございますが、これは直接には、それに従事しておる運転者なり、あるいはこの事業経営している者が負担しなければならない、その部分が相当あると思います。しかし、これは産業災害と同じでありまして、工場経営とかあるいは鉱山の経営者がある程度負担はいたしますけれども、この事業が、そういう製造業なり鉱山業が必要である、国の生存繁栄に必要であるということになって参りますと、やはりその重要な産業災害に対して国が責任を負うという面が出てくると思います。交通業も同様だと思います。全部を自動車交通会社あるいは運転者に負担させることはできない。一部は、こういう交通機関が必要だという社会的な理由によって、国が負担するという理由も出てくると思います。それじゃ保険料の何%を国が持ったらばいいかということになりまするけれども、そこいらは数字でもって申すことはできませんけれども、とにかくこの交通業が盛んになるに従って事故が避けられないという面が出てくれば、その面に対しては国が責任を負う、最終責任は国が負うということになってくると思います。  具体的に何%というわけに参りませんが、大体そういうふうでございまして、ですから、できるならばこれに対する国庫の負担が、単に再保険の事務費だけでなく、若干でも給付の面、保険料になる面、結局保険料の一部でありますが、それが実現されれば大へんけっこうだというふうに考えております。
  31. 宮城孝治

    公述人宮城孝治君) ただいまのに関連いたしまして、意見を申し上げたいと思います。私の方の営業といたしまして、保険会社自動車保険をやっております。これは御承知のように、自動車の車両そのものの保険と、それから相手方に与える人的あるいは物的の賠償をいたします保険とございますが、この場合に、この自動車損害賠償補償保険に関連いたしまして考えますのは、自動車賠償保険であります、営業といたしてやっておりますのは……。  これが現在、自動車保険会社にどのくらい保険をつけているかという表が、二十九年度の表がございます。それをちょっと申し上げますと、自家用乗用車でございますね、これは、三輪乗用車も含めまして、二六%二、それから営業用の乗用車、これが四九%二、それから自家用貨物車二六・五、それから営業用貨物車五八・八、それから乗合自動車、これが四六%、それから三輪車、二輪車、これが五%、特殊自動車三六・九というふうになっておりまして、多いのは営業用の貨物車の五八・八%、少いのは三輪車と二輪車の五%、こういうふうなことになっております。これはちょっと、ただいまお尋ねがございました中小企業者等に、どの程度保険料の負担が過重になっているかどうかという参考にはなりませんけれども、何かちょっとそこからヒントを得るように思います。  この場合に、保険会社はもちろん強制ではございませんので、営業としてやっておりますが、実は保険料の料率の関係で、この料率を高くいたすことはできません。従って、経営といたしましては、損害率が非常に高くなっておりまして、平均いたしますというと、七四・四%の損害率になっております。普通火災保険等では三〇何%前後の損害率、自動車保険の場合には、ことに賠償保険の場合には七四・四%というような損害率になっておりまして、経営におきましては赤字になっておる、こういうような実情でございます。  それでありますので、これは余談でございますけれども、普通の自動車保険の場合も七八・五五というような損害率になっておりますので、火災保険その他の料率は何回となく下げておりますけれども、自動車に関する限りの料率はもう少し上げることを認めてほしいというように、大蔵省には申請をいたして交渉中でございます。従って、全部入りますというようなことになりまして、しかも全部入りますことによって危険が低下する、事故の発生が低下するというような事実でも起きて参りますというと、保険料率は営業保険の料率よりも少なめに下り得るのではないかと思いまするけれども、この点は私どもはまだ算定中でございまして、ここで確たる御意見を申し上げることは困難なような事情でございます。
  32. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 先ほど園さんもお話しになったのだが、国がどれだけ責任を持つかということは、私に言わせれば、今のような状態になってきて、自動車損害補償保険をうろたえて作らなければならないという根拠が、一体どこにあるかということになりますと、国の自動車行政というものに対する無方針がここに来た。はっきり言いますと、自動車を作る人間、自動車は何台、国の事態に即応してどれだけ許可をしてやればいいのかという実態を掴まずに、どんどん、取締るものと許可するものとは別な立場にある。作るものと監督するものとが別の立場にある。こうした四者四様の立場にある日本の実態を無視した自動車行政というものが、やはり大きな事故を次々と起す原因ではないかと思います。たとえば、道路が完成されておるならば事故が起きないかと思うのでありますが、そういうあらゆる点から来るので、大かたの責任は交通事業者でなくて、むしろ国にあるのだということの、こういう立前でこの法律を作っていくのでなければ、一部の業者犠牲によって作られるような格好になるのでは非常におもしろくないと考えております。えらい突っ込んだ質疑でありますが、まあ当面はとにかくとして、将来はこの問題については、先ほどのお言葉のように、もう少し研究してやったらどうかということが言えると思います。それに関連して、もう一つ経営の面から測定をはっきりさせてから補償したい。いわゆる十四条の問題になってくると思うのでありますが、この点は例の審議会でやるように中心がなると思うのでありますが、その前に、あなた方の方から考える場合に、十余万の全国の何と申しますか、代理店、こういう人たちを通じて云々ということを言われておる。これはいわゆる、何と申しますか、交通関係に関連性を持つものだけが代理店をやるというようなことでなくて、全部幅広くやる、こういうように解釈してよろしいのでありますか。
  33. 宮城孝治

    公述人宮城孝治君) 保険会社立場を先ほど申し上げましたが、きわめて社会性の高い公共的な事業でございまするのに、私どもが進んで参加をするということにおきましては、非常に私どもがその意義を感じておるのでございます。しかし、たとえば業者も、業者といいますると自動車業者もまた運転者も、あるいは保険業者も、でき得る限りこの精神にのっとりまして、ある程度の責任をやはり感じたいと、かように考えておるのであります。従ってでき得る限りの機能を発揮いたしましてお役に立ちたい。先ほど御質問がございましたが、迅速に支払いができるか、あるいは事務がはかどるかというようなことに関連をいたしまして考えまする場合に、直接保険会社が支店を使ってやるというようなことでは、これは能率が上がりません。各保険会社の下に全国十余万の数がございます。確定数はちょっとここで持ち合せておりませんが、十万をこえる代理店がございます。それぞれ会社と密接な関係のもとにいたしておりまするので、これを通じて、たとえば支払いに関する書類の取りきめ、あるいは保険料の払い込み、または証書の交付、そういうようなものは全部この組織が活用ができるんじゃないかというように期待をいたしております。
  34. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 鈴木さんにちょっとお伺いいたします。公共企業体になって、五大都市はもちろん、その他公共企業体等でたとえば健康保険なども独自にやっておるようなところは、当然独自にやらしてもいいじゃないか、こういう御意見のように承わったんですが、お説に反対ではありません。ただその場合に、この法律の内容はちょうど健康保険に当てはまるるように、この法律の内容、たとえば金額の問題等まで、そのままそっくり当てはめていいかどうか、そういう点除外例を何か設けなければならないのじゃないか、その点……。
  35. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) 私どもといたしましても、できるならば十条によって五条の適用を除外していただいて、実際の交渉過程その他はやはりわれわれにおまかせ願いたいというふうに考えております。もちろん、こういう制度ができまするというと、できました制度に影響を受けまして、今後における賠償折衝というようなことには多少の変化はあろうと思いますが、しかしやはり少しもわれわれがやっておって今不満足も何もないのでございますから、おまかせ願いたいという見解を持っております。
  36. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 そうすると、除外はして、しかも独自でやる、こういう結論でございますね。これには拘束されないというようにしたい、こういう御意見ですね。ただ、そういうことになりますると、先ほどのように五万円から十万円というようなことであると、最終的に死んだときに、そういう数字になるかもしれませんが、その間に、たとえばバスの場合にすると、バスで即死という例はおそらく私はないと思います。従ってバスで人身事故をした、病院へかつぎ込む、それから治療費を払っていこう、そうして最後に不幸な状態になってしまってというときに、最後の弔慰金といいますか、それが十万円であるかもしれぬが、その間の費用というものは、さっきも、四十万、五十万、あるいは百万払っても補償していいと思いますが、そういう点があるから、何か聞いた感じは、人身事故ができた、死んだ、その死んだ者に対ては、五大都市のバス事業、あるいはその他の事業というものは、支払いは五万から十万、こう一般に聞かれた場合に、非常に少額に感ずる。たとえば国鉄の場合に、洞爺丸、紫雲丸事件も御存じですが、この十四条のような、全く運転手の、車の故障もありますけれども、こっちに、加害者の方に責任がないという場合は別でありますが、そうでない事故があるいはある場合もある。ほんとうに運転手過失による場合もありますが、その場合にはもう少し考慮するということならば、あるいはこれに準じていくというようなことを考えてやらなければ、除外して野放しにすることが、逆に勝手なことをさせるのだ、一般は無理でも、人身事故で死ねば三十万円なら三十万円を円タクの事故で補償していただく、しかしバスで死ねば五万円でおさまってしまうというような印象を与えることになれば、これを別扱いにするのは困難なように思いますが、そういう点、どうお考えになっておりますか。
  37. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) 私の言葉が足りませんで、そういうふうにおとりいただいたとしますというと……。
  38. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 私はそういうふうにとりません。
  39. 鈴木敏樹

    公述人鈴木敏樹君) まことに恐縮でございます。決して五万か十万で一切を終えるというわけではございませんので、即死をいたしました場合には、そういうような例もございますが、先ほど申した通りに、即死をいたしませんで治療期間を持って参りますというと、これは相当な額になります。一つの実例でございますが、七才か八才になります子供をひきまして片足がだめになりまして義足をつけなければならないのでございますが、子供ですから順々に成長して参りまして、一本つけた義足では間に合わないので、しまいまでには何本かをつけなければならないといったようなものも全部負担しなければならないというようなことで、この場合においては、大体二十四、五になれば成長もとまるから、その間に何べん取りかえればいいのだというようなことを算定して話し合いをつけるのでございます。こういったような場合には、とても十五万や二十万、三十万、四十万では片がつきませんです。もちろんそのほかに事故を起した場合、被害者が一家の支柱となるような人の場合において、これまたそのようなことではいけない。私が申し上げましたのは、そのときに申し上げましたように、不思議と貧困一家庭の年寄りが多かったからそういうような状態で落ちついたのかもしれませんが、現実になりますというと、そういうような場合も多々起きると存じます。ただこの法案保険をかけました場合に、ただいまのところでは限度を三十万というふうにお考えをいただいておるよでございますが、それでは三十万円で全部おさまるかというと、こういうことは私は受け合えないと思います。現実問題は、保険をかけたから三十万円で実被害者はそのあと了承して要求しないということはないであろう。その場合々々によってあるいは五十万円も、百万も要求する場合もあると思います。逆にまた今までの例でいえば、十万か十五万で落ちついたものも、三十万円というようなことなら三十万まで行ってしまうということもあり得ると思いますが、こういうような場合に、こういったようなことは勘案いたしまして、世情に離れないようにこれからはやっていかなければならぬと私は考えております。
  40. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 学者の方にもう一回簡単にお伺いしておきたいことは、先ほど申しますように、交通事故の起きる根幹というものは、ある程度現状からいうならば国にも責任がある。従って十一条から行きますと、保険をつけることによって運転手もその対象になつておるように考えますが、私ども考える場合には、保険責任は、車を持っておる者と国家が一応補償する立場にある。なぜならば運転手はやっぱり過失であれば、行政処分を受ける、あるいは過料を受ける、さらに賠償ということになると、二重処罰されることに反対するような交通事業をやる運転手は、今度は三重処罰を受けるような格好になってくるのでありますが、法的に考えて、こういう点どういうふうにお考えになりますか、一つ伺いたいと思います。
  41. 園乾治

    公述人園乾治君) 悪い場合でありますが、私どもは保険料の計算において、事故がなかった場合に保険料を完くするというような制度を持っていきたい。たとえば労災保険においてメリット制度、メリット・システムというものが用いられていましたが、そういうように無事故の場合に保険料を安くするということも考慮すべきであろうというふうに考えています。これはちょっと質問に関連いたさないかもしれませんが、第二十条につきめてございます告知義務ということでございますが、告知義務と申しますのは、保険料計算に必要な事柄について、業者の方に正直に事情を言わせることで、うそを言ってはいかぬとか、あるいは真実を黙ってちゃいかぬという義務を課しておるのがこの二十条でございますが、そこでどんなことを言わなければならぬかということに、ここに二つ条文が載っております。第一の方は、自動車の登録番号だとか車両番号だとか、あるいはこれが存しないときは車台番号ということを書いてございますが、これは人の姓名と同じわけで重要事項ではあるかもしれませんが、車を認識する場合の……、ほんとうの保険料計算には、番号なんかは関係がないわけであります。実質的には政令で定める自動車の種別というのが危険に影響を及ぼすものでございますが、実はそのほかに今後この保険をやって参りますと、たとえば地域的に危険があるかないかは、つまりどこで営業しているかという運行の場所といいますが、車の籍のあるところと申しますか、そういう所在地、あるいはその他たとえば運転しておる人の過去の経歴だとかということが、危険がないかあるいは危険が多いかということに影響することだと考えます。そこで第二十条に三として、その他政令で定める事項とかいうふうなことを入れていただきたい。それで今後保険料の計算に、たとえばいい方にでも悪い方にでもでございますが、影響する事柄については、それを盛り込んで保険料を合理的に計算するというふうにありたいと思いますので、第二十条に三として、その他政令で定むる事項というのを一つ入れていただきたいと思います。  今の御質問で運転者が三重の負担をするということでございますが、これはどうもこの法律で運転者の責任を免除するわけにも参りません。実はこれは自動車交通業者とそれから労働組合の間で、保険料の負担のきめ方とかあるいは賃金の問題と関係する問題じゃないかと思います。この法案では運転者の責任を免除というわけにもちょっと参らぬと思いますが、他の方法で今おっしゃった問題は解決するよりほかに仕方がないのじゃないかと私は考えております。しかしそのしわ寄せが、経済的に非常に弱いと申しますか、あるいは弱くなくても責任を不当に背負わされることはいけないことだと考えております。ことにそれは労働強化によって労働時間を延ばすとか、もしくは賃金を切り下げるとかいうようなことになることは、この法律の趣旨とするところに反するように考えます。あくまでも交通事故被害者保護をするということが主で、従として経営合理化ということになるのではないかというように、私どもはこの法案を見ておる次第であります。
  42. 小酒井義男

    小酒井義男君 もう一点、園さんにお尋ねしたいのですが、一部関係者からも私ども陳情を受けておる問題なんですが、自動車が営業のために使われておらないいわゆる商品として、中古自動車などがまだ流通部面の段階にある自動車ですね、そういうものはこの法律から除外してもらいたい、こういう意見があるわけなんです。ところが被害者立場になれば、それがどういう目的に使われておっても、自動車で被害を受けるということになれば同じことだと思うのです。商品の自動車であっても、営業用の自動車であっても、あるいは個人の自動車でも、国が持っておるあるいは都市の経営しておる自動車であろうが、個人として自動車によって被害を受けるということになれば、これは同じことだと思うのです。そういうのを区別して扱っていくという扱い方ですね、そういうことが果して妥当なのかどうか、保険というあなたの専門の立場から特殊の御意見があったら承わっておきたいと思うのです。
  43. 園乾治

    公述人園乾治君) この法案は、自動車運行ということが書いてございまして、運行とは何かという定義がどこかに述べてあると思いまますが、その運行の範囲に入らない自動車、こういうお尋ねだと思いますが、これは第二条の二項に「この法律で「運行」とは、人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いる」、装置の用い方に従い用いるというのですから、これは進行させることも、前に進むことも、うしろにさがることもあるいは停止することも入るのだと思いますが、それで今おっしゃった運行ということが、商品として運ぶ場合も入るかということでありますが、これはきめ方になると思いますが……。
  44. 小酒井義男

    小酒井義男君 それは入ると思いますが——入ると解釈すべきだと思うのですが、しかし今日持っておるがあすはほかの人に渡ってしまうかもわからぬというようなのに、同じような保険をかけさせるという扱い方が妥当かどうかということなんですね。
  45. 園乾治

    公述人園乾治君) お答えいたしますが、これは御質問は、では一ぺん保険に入った車を買った場合、たとえばAが持っていた車がAが保険に入った、それをBが所有権を持った、そのときBに名義書換ができるかどうかという、こういうお尋ねでございましょうか。保険証券の名義書換のことではございませんか。
  46. 小酒井義男

    小酒井義男君 そうじゃなしに、いや、私どものところへ今来ておるのは、結局商品としての段階にある自動車運行する場合は特別に御考慮を払っていただきたいという陳情が来ているわけなんです。そういうものを特別に扱うということがいいのか悪いのかですね。
  47. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 ちょっとつけ加えます。こういうことなんです。たとえば今やっておるものは自動車に、営業用のバスとかトラックとか円タクとかいうものに大体該当するわけですが……。
  48. 園乾治

    公述人園乾治君) 自動車販売業者というものがありますね。
  49. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 販売用の車につけねばならぬ、この点だけですね。
  50. 園乾治

    公述人園乾治君) 販売業者の持っている車からすでに保険に入れねばならぬかと、そういうことですね。そこから入っても差しつかえないのではございませんか、今の名義書換ができるということになれば……。
  51. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 差しつかえはないのですよ。差しつかえはないんだが、そういうところはちょうど今の五大都市と同じで、除外してくれぬかということになるのですが、除外することが法的にいいのか悪いのか、結論的に言うと、こういうことです。
  52. 加藤一郎

    公述人加藤一郎君) それは今運行の方に入るという解釈だと思いますので、これでは保険がかかるように、強制保険がかかるようになっていると思います。これがはずすのがいいか悪いかということは、一応それを保険料を販売業者が払っておる場合にはそれを買い主に転嫁して、今の名義書換をするということで一応おさまるように思うのでございます。ただそれを販売業者がまた長く寝せておくという場合には問題になり得るかと思います。つまりすぐに回収ができないという場合、一年くらい寝ているという場合、わずかの期間の間に高い保険料を払わせられるのは困るということはあるかとも思うのでございます。かりにそういうこ場合が非常にあって問題があるとすれば、それだけを別のグループにいたしまして、それだけについて別の保険料を払う。保険期間を非常に短かくして別にして区別をするということもまあ立法としては可能であるし、またそういう事例が非常に多ければ、そういうことも考えられるのじゃないかという気もいたします。
  53. 仁田竹一

    ○仁田竹一君 この法案に直接の関係がないのでありますけれども、公益事業といたしまして同じ立場にありますし、せっかく専門の方がいらっしゃったのでございますので、お尋ね申し上げたいと思います。この法案をそのまま海上運送業者に当てはめるということができるかどうか、御案内のにように相模湖以来、洞爺丸にいたしましても、あるいは紫雲丸、まあたくさんの被害者を生じているわけでございますが、この法案をそのままと申しますか、海上運送業者に適用することができるかどうか、もちろん法案の名称は変えるわけですけれども、そういう点何か法律上不適当なことがおありになりまするならば、御指摘をお願い申し上げたい。  なお宮城さんからは、今のは加藤さんなり園さんにお尋ねしますが、一方、保険会社立場から宮城さんに意見と申しますか、そんなふうな場合に、海上運送業自動車運送業との相違な点があればどんなことがおありかどうか、お伺い申し上げたいと思います。
  54. 加藤一郎

    公述人加藤一郎君) 今の御質問でございますが、これを海上運送に適用するということも、適用するといいますか、海上運送についてもこういう法案をまた別に作るということも当然考えられると思うのであります。各国の、外国立法例、海上運送についてあまりよく存じませんが、陸上の鉄道事業とか、あるいは航空機とか、そういう特殊な危険については、やはりある程度無過失責任を認めるとともに、その責任保険をしてゆくという傾向があると思うのでございます。そういうことも当然考えられますし、また場合によっては、それが立法上望ましいということも言えると思うのです。特に被害者立場を考えますと、そういう事故が非常に起っている今日において、そういうことが当然考えられると思うのでございます。ただ問題は、そういう場合に一体免責事由の範囲をどのくらいに認めるか、これは自動車の場合、鉄道の場合、航空機の場合、海上運送の場合、いろいろその免責の範囲の設け方はあるいは違ってくるのではないかという気もいたします。ですから保険にかかる責任というものの範囲が違ってくる可能性はあると思うのでありますが、そういう法案を作ることが場合によっては望ましいということは言えると思うのです。
  55. 宮城孝治

    公述人宮城孝治君) 保険会社立場から申し上げますというと、海上保険をもちろん保険としてやっておりますが、なお海上保険立場から申し上げますと、強制賠償でございまするから、そうして社会社的な性格を持っておりまするので、やはり陸上と同じように、こういう制度がある方が被害者立場から申しますというと望ましい。  かつまた保険の性質から申しましても、こういうものがある方がいいじゃないかと思います。なお一つの例でございますが、現在定期船協会というのがございますが、その傘下の船会社は大部分、民間保険会社と今申されましたような保険契約を締結いたしておる事例もございます。また旅行の傷害保険、そういうような場合の海上保険の旅客賠償、そういうものを旅行傷害保険の中にやはり経営しておる事例もございまするので、保険会社立場から申しましても、そういう制度があることが非常に有益であると同時に、また望ましい、かように存ずるものでございます。
  56. 大倉精一

    ○大倉精一君 まあせっかくの機会ですから、この際専門員の方から何か専門的に本法案に対する問題について、専門の方に御意見を聞いておくようなことがありましたら、専門員の方から一つやっていただきたいと思います。
  57. 古谷善亮

    ○専門員(古谷善亮君) 最後に簡単に一言、二言お伺いしたいと思いますが、今の保険会社の実情でございますね。宮城さんにお伺いしたいのですが、損害保険のエクステンションとして人身事故保険をおつけになっておると思うのでありますが、それは別個の契約になりますですか、合しまして一本の契約になっておるのでございますか。
  58. 宮城孝治

    公述人宮城孝治君) ちょっと聞き漏らしましたが……。
  59. 古谷善亮

    ○専門員(古谷善亮君) 今車両保険、ボディ、車体の損害保険に対しまして、同時にその会社人身事故についても、やはり保険をなすっていらっしゃるだろうと思うのです。その場合は二つ保険になりますですか、一つ保険でございましょうか。
  60. 宮城孝治

    公述人宮城孝治君) それは両建でございまして、契約者の希望によって合ぜて一本になるのもございます。また別個にやっているものもございます。
  61. 古谷善亮

    ○専門員(古谷善亮君) 重ねて。その場合におきまして、大多数がこの損害保険の場合に人身事故保険をつけておりましょうか、人身事故保険をつけているのは例外でございましょうか、どういうことになっておりましょうか。
  62. 宮城孝治

    公述人宮城孝治君) それは先ほどちょっと統計を申し上げましたが、一つの例を申し上げますと、営業用の貨物車の場合に、人身の賠償保険、これが五八・八%でございますが、車体の車両保険の方は六二・八%つけております。従って、大体車につける保険の方をまず所有主が最初に考えるものでございますが、この割合から申しますというと、六二・八に対する五八・八でございまするから、営業用の貨物自動車のような場合は、まず八〇%ぐらいは車体保険につけておるのに重なって人身保険がついておる、こういうように御了解いただいたらいいのじゃないかと、かように思います。これはその車の種類にもよりますが、まあそういうような例がございます。乗合自動車の場合は、車体保険は七〇%につけております。全車両の中で車体保険をつけておる率がですね。ところが人身の賠償保険がついておりますのは四六%というような割合になっております。これは必ずしも重なっておるとは断定できませんけれども、ほとんど重なって、賠償保険につけておる車は、それは必ず車体保険につけておるというように考えて間違いないじゃないかと思います。
  63. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ほかに質問もないようでございますから、午前中の公述人より御意見を承わりますことは、これをもって終了いたしまして、休憩に入りたいと存じますが、今日は公述人の方々にはお忙しいところをおいでいただきまして、大へん貴重な参考意見公述していただきまして、本委員会といたしましては、調査の途上まことに有益であったと存じますので、厚くお礼を申し上げます。どうも皆様ありがとうございました。  それでは暫時休憩いたします。    午後零時四十二分休憩      —————・—————    午後一時五十四分開会
  64. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) では、午前に引き続き公聴会を再開いたします。  自動車損害賠償保障法案を議題といたします。  本日は全国乗用自動車協会会長新倉文郎さん、全国自動車運輸労働組合組織部小松崎隆次さん、全国乗合自動車協会理事長石塚秀二さん、日本私鉄労働組合総連合会自動車対策部長坂寄林藏さん、全国旅客自動車労働組合連合会中央執行委員長伊坪福雄さん、ほかに熊澤英敏さん、これらの方々を公述人としてお招きを申し上げました。皆様お忙しいところおいでいただきまして、まことにありがとうございました。  本日公述をお願いいたしております自動車損害賠償保障法案は、自動車による人身事故に対する被害者救済をはかることを趣旨といたしまする政府提案法律案でございます法律案及び資料事務局からお送り申し上げたと存じますので、すでにごらん下さいましたことと存じます。法律案趣旨につきましては、御承知のことと存じますが、最近自動車交通の普及発達に伴いまして、社会生活危険性が増大して参りました事実にかんがみまして、自動車による人身事故の場合、その挙証責任を転倒いたしまして、賠償責任適正化をはかりますとともに、賠償能力の確保をはかるため。自動車損害賠償責任保険制度を創設しようとするものでございます。この責任保険強制保険原則といたしておりまして、被保険者損害保険会社でございますが、政府保険会社保険責任の六〇%を再保険することになっております。外国におきましては、この種の自動車保険に関する制度は確立いたしておるようでございますが。わが国といたしましては何分にも新しい制度でございますので、一般の関心が強いことと存じます。今日はこの新しい制度につきましてあらゆる角度から御意見をお聞かせ願いたいと存じます。  それではこれから公述人の御意見をお述べ願うのでございますが、各公述人のお一人の最初公述時間は約十五分以内といたし、全部の公述人公述が終った後、各委員の質疑に入りたいと存じますので、この点はあらかじめ御了承お願いいたします。  それではまず全国乗用自動車協会会長新倉文郎さんからお願いいたします。
  65. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) 御指名であります全国乗用自動車協会の新倉文郎です。簡単な時間ですが、要旨を申し上げまして御参考に資したいと思います。  結論を申し上げますと、本法案に絶対反対をいたします。その理由を申し上げます。本法案の制定は自動車運送事業を営むわれわれといた、しましては、免許可事業を免許を廃止する方向へとつながらしめるところの非常に危険性のある法律であるということが一言にして言えると存じます。  その内容は免許可事業はこれを免許するに当りまして、きわめて慎重な審査を必要とするのであります。そこで審査内容につきましては、公益事業を担当し、さような危険な自動車を扱いまして大衆にまみえます観点から、起り得た交通事故等におきましては、これを弁償する責任能力、さような点に欠陥のない完全な資格を有することがまず第一に詮議されねばならんと信ずるのであります。しかるにその後における自動車運送事業の免許可を見ておりますと、まことに乱許乱設であって、かような重要な審査並びに要望せらるる資格に欠くるものが多いことをまことに遺憾と存じますが、それこれに対して免許可事業の本質から、これが改善育成及び責任遂行のすべてを要求されねばならぬことが、これは道路運送法の規定するところであると信じておるのであります。  しかるにそのことなくして、ややもすれば起り得る人身事故に対して、まことにこれが弁償の責任を果しがたき部分が一部あるからという理由をもちまして、これを強制するところの、本法の提案を見たことは本末転倒であるのみならず、私はまことに遺憾な措置だと考えております。  前に、衆議院で一般タクシー、ハイヤー並びにトラック等の免許可に対して、これを、免許をよして、自由営業にひとしいことに処置し、しかして起り得る事故等の弁償に対応するために、強制保険の道を講じたがよいであろうという意見が、当時の法律改正の提案者である、衆議院の中曽根代議士その他から承わったのでありましたが、私はそれにまっこうから反対いたしましたのは、事故を起したから、それに要するところの治療費なり、ないしは生命を失われた方々に対して慰藉の道を、金をもって解決すればよいのだというところに大きな間違いがある。それはこの事業に対応するわれわれの心かまえといたしまして、まことに飛躍をしておるところのいき方であると存じておるのであります。交通事故の問題等がやかましくなっておりまして、かような未熟な、いわゆる私どもから見ますと、以下幾らか説明いたしますが、ずいぶん欠陥の多い法律が通りそうな傾向を持ってきておるというのは、これは事故の問題に対する抜本的な考え方が少いからだと私は存じ上げておるのであります。  交通事故の問題は、何によって起るかと申しますと、車と人であります。そこで事業責任に任ずる者は、常に完全整備の車を提供せねばならぬことであります。同時にこれを操作する従業員諸君は、平安にして安定のうちに日常の作業を続けなければならぬのであります。車がよくて、従業員諸君が平安のうちに運行されまする事業には、おそらく事故は皆無にひとしいものになります。たまたまそうしてでも、いろいろな理由によって交通事故を起し、人身に危害を与えることはないとは言えませんが、さような場合におきましては、完全な労働者との、労働条件を確保し、車両の完備を期しておる事業体は、さような、万一起り得た災害等においては、弁償解決をしておるところの過去の実例がなかったとは言えないと存ずるのであります。そこで私どもは、さような結果に対して、弁償すればいいという観念を根底から直さなければならぬのが、現在の責務であると存じます。しかして事業者に対しては、さような強制を受けなくとも、いつ何どきでも五十万や百万の弁償はできる企業体であらねばならぬし、事故を起さざる車と、事故を起さざるところの従業員の待遇改善等が行われる企業体であらねばならぬために、当時私は免廃法に反対する一員といたしまして、おおむね基準台数は、労働組合が構成できる程度の、その最小限度にする、そうすると、一人の専従者をもっていたしますと仮定いたしますれば、五十台というものが最小限度企業体であらねばならぬ。しかして弾力性とあらゆる場合における負担、責任に任ずる企業体をもって、免許可の基準になすべきである。かように説明したことを覚え、かつ、それによって大方の御賛同を得たと信ずるのであります。  ここに私どもはかなりの車両を持っておりまするから、それこれの指数をもちまして反対理由を申し上げてみたいと思います。私どもで大体やっておりまする大和交通の所属車両は二百五十台のハイヤーと、約四百五十台のタクシーであります。約七百台、ちょっと十台ばかり切れますが、大体の台数でありまして、これを一番事故の多かった昨年の五月からをとってみまして、そうしてことしの四月までをとってみております。それによりますと、ハイヤー方面におきましては、お客さんなり、第三者に与えたる人身の危害等につきましてお支払いした金額が、一カ月百五十円平均であります。一年にいたしますとこれが千八百円程度でありましょう。一カ月百五十円程度になっております。しかるにタクシーのほうはこれにルノー等が入っておりまするために、非常に昨年は事故が増大いたしまして、一カ月の平均が大体千百円見当になっております。これはそれをもって少くとも完全示談解決をしておりまするから、それによってあと民事訴訟を受けるとか、それ以外の請求を受けておらぬのであります。全部を解決しておる実情がこの数字によって私どもの会社のすべてを物語っております。これに対して本法案の内容を見ておりますと、おおむね全国タクシー、ハイヤーの保険料負担は幾分の差等をつけるとしても、かれこれこれを同様に見ておるのではないかという点に、法の未熟な点があると存じます。  しかして事故を起す危険率によって保険料の負担をきめるということになりますれば、少くとも東京におけるハイヤーとタクシーとの比率が十分の一に近いほどハイヤーは危険がないのでありますから、これを東京のハイヤー以上に走行の少い地方の一般ハイヤーにこれをおしなべて通算してみますと、さらに低いものになりましょう。そうなった場合にですね。幾分の差等をつけるというがごとき言葉をもって、あるいは無事故の場合における幾分の保障戻しをするというような言葉をもってしては、まことに強大なるこれが負担ということになりまして、今まで自分たちが誠意をもって事故を解決しておるところの、全額賠償のすべての完全解消をしておるものから言いまして、それの数倍を負担しなければならないという結果になりましょう。こうなりますと、一部東京、大阪等の危険な車の流しによって起るところの損傷を、それを全国の落ちついた事業者が何倍かの負担をして、これを補わなければならんということになりましたときに、私どもは全国業者の負担の不公平、不均等、こういう点において大きな反対の猛然として巻き上ることを覚悟せねばならないと存ずるのであります。  私は本法の制定に当って、当初より自家保険制度を十分これに加味立案さるべきであるということを運輸当局にも力説いたしました一員といたしまして、さらに反対理由を申し上げてみたい。健康保険についてこれを見ますと、私どもでは約三千の従業員諸君に対して健康保険を自家保険しております。それによりますと、保険料の滞納があるとか、あるいは保険給付が不完全であるとか、ないしは治療が不徹底であるとかというふうな、ややもすれば健康保険に対して受けるところの非難というふうなものを少しも聞いたことがございません。しかして自家保険によるところの非常なこの経費の節減、お互いの慎重さ、さようなものがこれをプラスいたしまして、毎年数百万円の過剰金を生ずるのであります。これは他に流用できませから、いずれかの機会におきまして診療所の設置とかいうふうな、一般の健康施設に対する設備にこれをかえるべきであるという議が持ち上っているような次第でありまして、国家がお役人の仕事によってやっておりますこの種保険行政制度の姿から見まして、実は保険料の滞納及び保険給付が遺憾となり、ややもすればいわゆる健保、健康保険によるものは悪い安い薬が盛られるであろうというがごとき非難を聞くことは絶対にありませんことは、われわれは自家保険の経験によって体験をし、これに一つの立証をしておるのであります。ここに私どもは自家保険をいたしますことは、同時にこれは本法に反対することにつながっておりまして、相当の会社は自分の手のうちにありましても、今のような保険賠償は完全解決下において、一つは月額百五十円、一つは千百円程度においてすべてを完了しておるわけでございまして、ときには被害者のけが人の諸君等から、まあ相手が大和であったから、やれやれ安心であったというふうな、こういうふうな言葉を聞くことさえ往々にしてあるのでございます。かような保険料、その他実際上の問題について、私は立案の内容である保険料の問題について、負担がきわめて不均衡になるという点と、それから実際において、これをわれわれの手のうちにおいてやっておりました過去の体験から見まして、何ら支障のないことであり、それをみずからが解決できるところの、かような行政圧力を受けなくても保障ができ、それに対する担保が確保できるところの企業体の免許と、その事業の育成こそ、この際事故を起さないという、人道上の本質にかんがみて、詮議されるべき筋合いのものであると、深く信じておるのであります。起した場合の保障ということでなくて、起さざるところの政策、制度、行政、これこそ痛烈に要求するところの、私の反対理由の重大なものになるのであります。  そこで国家が、先ほど委員長さんからお話がありましたが、六〇%を再保するということによって保障するということになっておりますが、それは初年度において、再保険料をもってまかなうことでありますから、国家予算には何ら予算の計上を見ておりません。次年度において計上するかしないかは、私は存じませんけれども、これは一応特別会計下におきまして、保険料の収入、それからして保険の弁償、こういうものとが右左の貸借勘定において相殺されることでありますから、本保険制度を実施するに当って、何ら国は負担しておりません。かようなことになっております点に痛烈な反対をいたします。  本法案の内容を見てみますと、私どもの反対をしておりますところの無過失賠償制度が大きく取り上げられております。故意または重大な過失以外も賠償責任を免れないのでありまして、この担保として保険料の積み立てによって、これを弁償することになりますから、おおむねというか、ほとんど全部の事故は、被害者のよいと悪とい、順法精神の有無にかかわらず、交通規則の無視にかかわらず、その方面からおおむねこれは弁償されるところの性格に追い込まれて参りますと、現在の日本の他の交通機関ないしは歩行者、そういうふうな人たちの交通に対する道徳上の態度が、国民性の上から見ましても、まことに未熟であり、遺憾千万だと存じております。その部分を全部あげて、無過失においてこれを全部弁償しなければならぬということになりますと、非常な大きな負担が、無条件で自動車業者にかかってくるということを憂えるものであります。それに対しては、今まで解決をする場合において、彼らに責任がある場合に、おいては、その責任を当然ある程度しんしゃくされまして、示談解決をしておりますことは、妥当なる反省を求めておる一つ賠償方途であると存じます。  かくして、この保険がわれわれにまみゆるところのものは、年々増大するところの保険料の大きな重圧であって、しかも一面においては、ガソリンは上り、やれその他のいろいろな制度が、弱いものに大きく振りかぶさってきておりますのみならず、この保険受取証を持たなければ、営業ができない。しかも今申し上げましたように、全体的にこれを見ますと、まことに大きな負担を先取りされて、それによらずんば一日も営業ができない、運転ができないというような禁止的な姿に入ってきまするところのこの法案は、単に保障をするということでなくして、その事業の存亡への一つの禁止か、あるいは存続かということに締めつけるところの重大な要素を持っております。単に免許可をするとか、取締りをするというふうな、そうしたいわゆる法律の命ずるものは、妥当なる国民への姿ではなくて、人権に対して、営業に対して、その自由を認めざるところの、大きな障害となる本法の制定に対して、根底から私どもは反対をしたいと存ずるのであります。  そこでこの問題を結論づけて申しますと、トラックとか、通運とか、早川さんなどもお見えになっておりますが、そういう方面もおそらく反対だと存じますが、立案者が運輸省であるがために、御遠慮なさっておるのではないかというふうなことを考えますことが、うがち過ぎておるとするならば、お許しを願いたいのでありますが、私はこの法律がぽっと出て参りました間においては、法の精神には賛成をしようとする声が、今日でもあるようでありますが、これが順次、法案の御審議が進行するに至って、かく保険料を大きく負担しなければならない人たちが、この法案の内容を見ますと、だんだん、だんだん深刻に検討されまして、一日一日に反対の声が増大しつつあるということは、この法律の内容がわかるに従って、私どもはしかあることと存ずるのであります。これを幾日かを猶予されまして、そうしてこの国民大衆なり業者に再考を求めるならば、全国をあげて、この本案のごとき、いわゆる負担におきましても、解決におきましても、未熟なものに向っては反対すると存ずるのであります。  ここで私どもは委員長さんや、ほかの委員の各位にお願いしたいことは、直ちにかようないわゆる新しい画期的な問題を実現することを急がれずして、時期尚早なる今日の段階において、これが検討をしばらく加えられまして、その完全実施に入ることを望むとともに、実施をされる場合におきましては、一たび保険料をある程度払った以上は、それをもって免責たるの、お互いの責任を果し得るものとならねばなりません。従って今の過失がないものであろうと、あるものであろうと、ほとんど全体をあげて賠償の対象になります場合においては、多分に社会政策を加味しておるところの本法案であります限りにおきまして、国家は少くとも業者の負担する、車所有者の負担する保険料と同額以上の国費をもってこれが保障に任ずるところの対策を、予算措置において打ち出さるべきことを私どもは要望して、またその主張をなすべき責任があると思う。ただ、これは洞爺丸事件のごとき、あるいは紫雲丸事件のごときものと同様に、大きな賠償をし、かつ賠償は積み立ての範囲じゃなくて、その上に大きな民事訴訟がふりかかって参りまするから、この法案の制定によって打ち出されてくるところの、ある程度の保障をするという安心感は、被害者からさらに大きな民事訴訟を受ける素因ともなります場合に追い込まれる姿になってくると私は思うのであります。かような点について、国が社会制度の上において、これに対する相当の費用を計上して、もってあとの分は全部弁償に任ずるから、業者なり車所有者が負担した限度においては免責になるというような、胸のすく法律になることを念願して、その場合においては賛成をしたいと存ずるのであります。  反対理由を簡単に申し上げました。どうぞよろしく御審議を願います。
  66. 加藤シヅエ

  67. 小松崎隆次

    公述人小松崎隆次君) 私はこの法案について一つの付帯条件をつけまして賛成でございます。  私の組合である全国自動車運輸労働組合は、中小企業のトラック屋の集まりです。現在中小企業の労働者はどのくらい圧迫を受けておるか、そういう点について若干お話しておきたいと思います。  現在トラックの運転手は非常に他の産業に比べて劣悪な労働条件に置かれております。事故の原因というのは、労働条件が悪いということが一つの原因になるのではないかと思います。現在、組織労働者の賃金として、扶養家族三人で熟練運転手で約一万三千円から一万五千円くらい。これも五十時間から百時間、こういうような長時間の労働をしなくちやならない。地方の場合においては、大体この六割から八割くらいの状態です。まして、ここ二、三年来のデフレ政策の強行によりまして、非常に支払期日がおくれておる。現在まだ二月分の給料をもらっていない。その二月分の給料をもらうについても、こま切れ、いわゆる月に十一回ぐらいの支払いである。千円、二千円、そういうような給料の支払いを受けておる状態です。こういうような経営の中で、事故原因というものをこの法文に明確に出していただきたい。この根本的な原因は、先ほども申し上げましたような労働条件、これを考えていかなければ、こういう法案ができましても、なかなかこれの負担ということを考えますと、非常に心配されるわけです。  次に、こういうような状態に置かれている中小企業のトラック、これに政府として道路運送法に基く輸送秩序の確立と申しますか、これに対しても予算の裏づけを行なっていただきたい、こういう付帯をいたしたいと思います。  あとは御質問の中でいろいろお答えをしていきたいと思いますが、ただいまは中小企業の実態をお話ししたわけです。この保険については、中小企業の実態はそういうことでありますから、非常に保険額を支払うという点になりますと、ちょっと心配になるわけです。そのために今申し上げた予算の裏づけを……。中小企業育成という面でこの法案について賛成いたすものであります。
  68. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ありがとうございました。  その次に、全国乗合自動車協会理事長石塚秀二さんにお願いいたします。
  69. 石塚秀二

    公述人(石塚秀二君) 日本乗合自動車協会の石塚でございます。私はこの自動車損害賠償保障法案趣旨そのものにはあえて反対するものではございませんが、法案に対しまして、二、三希望意見を申し述べてみたいと思います。  まず第一には、これは先ほども他の公述者からも御希望がございました点でありますが、この法律による保険料に対しまして、国家は相当に補助すべきであるということを強く主張いたしたいのであります。その理由といたしまして、この法案目的としますのは、第一条に示すごとく、自動車運行によって人に被害のありました場合の損害賠償保障することによって、被害者保護をはかることにあるということが主眼でございます。そうして被害のありました場合は、原則として賠償責任自動車側で負うことになっております。これはいわゆる無過失責任に近いものになっておるわけであります。元来自動車による損害事故は、偶発的なものが多いのでありまして、いろいろな原因が競合いたして起る場合が多く、だれの責任であるか、判定のできがたいことが多いのであります。もちろん運転者や車両の責めに帰すべきものが多いでありましょうが、また一般人の道路交通における通念と申しますか、これが足りないために起る場合も相当にあるのでありますが、かような場合でも、まあまあとにかく自動車の方で賠償しておけというのがこの法律の建前でありまして、そのために平素保険をかけておく。ことに今まで事故など一ぺんもやったことがないというものでも、世の中のためにということ、自分のためでなく世の中のために保険にいやおうなしに入らせられる。しかも保険など入らなくても、一朝事故があって損害を生じた場合には、すぐに賠償のできることが明らかなものでも、強制的に保険をかけさせられる、そういう建前になっております。そうしてまたその保険をかけるということがだれのためかといえば、第一には世の中のためであり、社会保障制度を確立するためなのでありまして、自動車保有者はそのためにいわば犠牲を払わされるということになるのであります。それでありまするからして、これに対しましては、国家として相当な負担をして保険をかけるものを助けるというのが、これは当然なことじゃないかと存ぜられるのであります。それがこの法案には国家の補助については何ら触れておらぬということは、はなはだ遺憾に存ずる点でありまするので、この点を何とか考慮していただきたい。ぜひとも考慮していただきたいと思う次第でございます。  それから第二に希望申し上げたいのは、法案の三十条に関連いたしておるのでございますが、この法案においては保険強制であり、社会保障のためでありまするので、その非営利性ということを強調いたしておるのは、これは当然でありまして、その結果保険料率は、できるだけ低率になるようにつとめるべきであると存じますが、そのためには保険料が能率的な経営のもとにおいて適正なる原価を償う程度のものでなくてはならぬ。これは法案にもその文字通り示してございますが、そういうふうでなければならぬ。このことは保険会社についてばかりでなく、この事業の第一線ともいうべき自動車保有者と接触する窓口業務、これをあづかるところの代理店についても同じく当てはまることでございまして、しかるに幸いにして自動車保有者の各界と申しますと、バスであるとかトラック、ハイヤー、タクシー、通運、それに自家用、各自動車などにはそれぞれ各府県単位の団体がありまして、それが集って中央団体を組織しているのでありますが、それぞれの分野において、自動車保有者とこの団体とは平素密接な連絡がありますし、事情もよくわかっておる、またその利益を代表するところの非営利的の団体でありまするからして、これらがもっぱら代理店業務を行うことが最も経済的であり、コストの引き下げに役立つと存ずる次第であります。この法案には、単に保険会社自動車運送または通運事業の振興をはかることを目的として組織する団体その他のものと代理店契約を結ぶのだということになっておりまして、これらの団体とその他のものとの間に何ら軽重がないのでありますが、どうしても右の団体に限るということができなければ、この団体に重点を置いて、いわゆるその他のものというものについては、何らか制限をするようにお取り計らいを願いたい。かように存ずる次第であります。  第三に希望申し上げたいのは、法案第四章の自家保障制度に関連した問題でありますが、この自家保障を認められるということは、これはわれわれもぜひやっていただきたいと存ずるのでありますが、この自家保障を認められますのは、だれがみても損害保障が直ちにできる、そういう経済力を持っていることが、だれにでも認められるものでなければならぬということになっておりまするからして。それは本来積立てをする必要のないものでありまして、これを強制しなくても実害はないのであります、それがまあ保険をかけるものとの均衡上からでありましょうか、こういういわばむだな負担を強制されておるのでありまするからして、せめてこの積立金は経理上は損金に立てられるようにしまして、法人税とか、事業税等において恩恵をこうむるようにしていただきたいということをお願いいたしたいと思います。以上三点につきまして簡単に希望を申し上げました。
  70. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ありがとうございました。  次は、日本私鉄労働組合総連合会自動車対策部長坂寄林蔵さんにお願いします。
  71. 坂寄林藏

    公述人坂寄林藏君) 坂寄でございます。私はバス事業に携わっておる一労働者でございますが、経営者、従業員という立場を離れまして、本法案を国民の一人として検討してみた場合、その趣旨には社会保障への一過程における法案といたしまして賛成の意を表する次第でございます。しかしながら本法案には事故の根本的原因はどこにあるのか、またその対策をどこに置くかという点につきまして、基本的方針に何ら触れていないということを残念に思う次第でございます。運輸省の説明を待つまでもなく、本年二月末現在における自動車の車輛数は、戦前最高時の約二十二万輛の六倍強である百三十四万二千輛という自動車がこの狭い国土内を走り回っております。従いまして監督官庁である運輸省がよほど思い切ったわが国の鉄道、軌道、船舶あるいは自動車等を含めた総合的な交通政策をとらない限り、車輛数に比例いたしまして、事故もまた増加の一途をたどることは自然の現象ではないかと考えます。私どもバス企業に働く労働者といたしまして、われわれはわれわれの立場に立ちまして、事故の原因が一体どこにあるのかということをここ数年来慎重に検討して参りました。自家用の乗用車は一応別といたしまして、バス、ハイヤー、タクシー、トラック等による事故の死傷者数を検討してみた場合、ここ数年来の統計によりますれば、ハイヤー、タクシー、バスに比較いたしましてトラックによる死傷者数が非常に多いことを物語っております。すなわち昭和二十八年度におきましても、バスによる死傷者数は四千五百七十八名、ハイヤー、タクシーによる死傷者数は六千四百四十名に対しまして、小型トラックまでを計算に入れますと、トラックによる死傷者数は実に三万二千二百八十二名という膨大な数字を示しております。なぜトラックによる事故が多いのか、このことにつきましては先ほどトラック関係の労働者をもって組織しております全国自動車運輸労働組合の小松崎君から詳細に説明がございましたので、私は省略をいたしますが、同じ労働者の立場に立ちまして言い得る共通の点はただ一つ、従業員にのみ犠牲をしいることによりまして、従業員に労働強化と低賃金を押しつけて、他業者との競争を一歩でも有利に押し進めようと計画している経営者のいる企業ほど、労働者は事故におびえ、労働強化にあえぎながら毎日不安な気持で運転をしているという実情がございます。私どもは監督官庁である運輸省に対しまして、生活苦にあえぎながら毎日十五時間も十六時間も乗務をしなければ生活できない運転士の姿こそ事故の最大原因であると考えまして、労務管理を労働基準法にのっとって経営者が適正に行うよう指示されたい旨何回となく要請をして参りました。しかしながら御承知のように現実には自動車行政は免許においては運輸省、生産関係は通産省、労務管理は労働省、交通取締りは警察、道路関係は建設省といったように各個バラバラに運営されておりまして、その不円滑な政策のしわ寄せが第一線に働く労働者に押しつけられて、従業員が生活に苦しみ、労働強化にあえぎながら無理な運転を続けているところに事故の最大原因があると判断しても決して、私は労働組合の言い過ぎではないと考えます。  以上のような考え方から、私どもはバス労働者といたしまして本法案に賛意を表するとともに、次の諸点につきまして十分考慮され、付帯条件として善処されたいことを要望するものでございます。  まず第一点といたしましては、政府はこの機会に事故の根本的原因を徹底的に究明いたしまして、一体その原因がどこにあるのか、総合的な交通政策を樹立いたしまして、事故の絶滅ができるように基本的交通政策を審議する機関、たとえばフランスにおける運輸高等政策審議会にように労働者代表を加えた審議会制度をすみやかに設定すべきではないかと考えられます。  第二点といたしましては、今日地方の中小企業のバス会社は必要以上の不当な競合から、バス事業の持つ公益性も危ぶまれるようなきわめて困難な段階に達しております。この原因は乗務員に労働強化と低賃金を強要しなければ、企業を維持できないような激烈な競合に起因するものでございまして、政府は道路運送法に基く輸送秩序の確立に、予算の裏づけをもちまして積極的な対策をすみやかに講じていただきたいということをお願いする次第でございます。  第三点といたしましては、現在でさえ低賃金と労働強化によって生活苦にあえいでいる運転士に、これ以上の保険料の負担をしいるということは、ますます運転士に労働強化を押しつけるような結果になることが憂慮されるわけでございます。従いまして私どもといたしましては、事故の最大原因である乗務員の労働強化を幾分でも軽くするためには、車体保険と同様に法的措置が講じられますものならば、経営者におきまして保険料金額負担をするようこの点を慎重に検討していただきたいということをお願いする次第でございます。  第四点といたしましては、第三十五条の審議会には労働者の意思を十分に反映させていただきたい。またこれからの自動車企業というものを健全に発展させていくためには、労働者の意見をぜひとも聞いていただきたいという考え方の上に立ちまして、三十五条の審議会には労働組合代表を参加させていただきたいということをお願いするわけでございます。  第五点といたしましては、責任保険の被保険者でないものとして、国、三公社、都道府県等を除外させてございますが、除外させた理由につきましては判断に苦しむものでございます。おそらくこれらの企業は過去の実績や、あるいは負担能力におきまして、十分に本法案趣旨に沿い得るものという理由から除外されたものと判断をいたしますが、しからば同等の負担能力と実績を持つ五大市あるいはそれ以上の民営大企業も同様の取り扱いを受けてしかるべきではないかと判断するわけでございます。  以上五点の要望事項を付しまして本法案に賛成の意を表し、私の公述を終ります。
  72. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) どうもありがとうございました。  では続いて全国旅客自動車労働組合連合会中央執行委員長伊坪福雄さんにお願いいたします。
  73. 伊坪福雄

    公述人伊坪福雄君) 賠償法案に対して、私どもハイヤー、タクシーの労働組合としては、法案趣旨被害者の擁護、言いかえれば、人命尊重という崇高な人道主義に始まり、不十分ながら社会保障制度確立への道を指向しておりますから賛成を表明いたします。しかしながらこの法案の内容については賛成しがたい幾つかの問題点がありますので、この点を修正されることを強く要望いたします。私ども交通関係労働者の組織である全交運としての修正意見はすでに本委員会において全自運、私鉄の労働組合代表より述べられておることでもありますので、重複を避け省略いたします。  私はハイヤー、タクシーとしての特異な立場からこの法案の内容について二、三の意見を述べまして議員各位の御理解を得たいと思うものでございます。  まず第一点として、最近の交通事故の激増について、ハイヤー、タクシーに対する取締り当局を初め一般の世論はまことに手きびしいものがあります。ハイ、タク労働組合としては、この現状に対して決して傍観しておるわけではありませんが、旅客輸送のモットーとして安全輸送について組織内において機会あるごとに啓発いたしております。また事故の原因と目される労働条件の改善についても常に取り上げ、着々成果をおさめてきておるのであります。しかし遺憾ながらわれわれの意思と違って、事故は激増の一途をたどっており、まことにざんきにたえません。この法案の成立により、多少なりとも被害者の方を擁護することができ得れば、幸いと存ずる次第でございます。  さらにここで各議員先生方に御理解を願いたいことは、この法案成立によってハイヤー、タクシーの事故の減少を求めることは困難であるということであります。私どもとしては事故の起きる根本原因の解決方法を考慮していただきたいと願うものでございます。私は昨年本運輸委員会と労働委員会において、自動車交通労働者の労働問題と運輸一般事情について公述の機会を与えられ、その折ハイヤー、タクシーの事故の原因は、業者の労務管理のずさんと二十四時間勤務、さらに陸運当局の放漫な行政による名義貸し営業の横行、新規免許会社の乱立にあることを述べ、これらの具体的改善意見を述べました。この結果各先生方の御理解を得、陸運当局と業者は名義貸し整理の具体化と新規免許並びに増車を抑制いたしました。しかしながらどのような事情があったか存じませんが、名義貸し営業につきましては、わがもの顔に現在でも横行いたしており、車両数も増加いたしております。さらに、私どもに最も関係の深い労務管理のずさんと二十四時間勤務制については、労働省及び労働基準局より昨年六月の基準法施行規則の改正に基く改善方策が業者に提示され、私どももそれに対する意見書を提出し、実施の時期を待つばかりになりましたが、当初三月に実施するといわれたものが、いまだに実施に移されず、今日に及んでおるような状態であります。特に本年三月に国産車の料金値下げを契機として業者は四分五裂化し、料金ダンピングに活路を求めており、これからくる一切のしわ寄せが私ども労働者にかかり、このため街頭における客の争奪、水揚げの向上のため事故違反を惹起しております。結論的に言いますと、この法案の成案により被害者を擁護することはよろしいのですが、事故の起きる根本原因を放置しては法の精神に反しておりますと考えますから、この点改善方を再度願うものでございます。  第二点といたしまして、事故防止の方策として総合的交通統制を考慮していただきたいものであります。戦前に比して営業車が増加しておることも事実でありますが、自家用車の激増はまことに著しいものがございます。私はここで取締り当局を誹謗し、わが田に水を引く考えは毛頭ございませんが、現在交通事故違反取締りの対象は特にハイヤー、タクシー労働者に向けられておるようでございます。この法案の説明を承わってみても、そのような感じを受けるものでございます。現在の交通事情というものを見ますと、都市における基幹路線にタクシーが常に需要者を求めていることは事実でありますが、ここにタクシー車両の大部分のほか、数倍の自家用車が集中しており、これが事故の誘因となっておるのであります。もっとも東京において私たちタクシーは幾つかの交通規制を受け、繁華街から締め出しを受けておりますが、自家用車については野放しであります。これら自家用車のはんらんが事故の一因をなしているということもいなめないない事実であると思うのでございます。従ってあらゆる交通機関を包含した交通統制を考えられることを強く要望するものでございます。  次に第三点として、この法案はまことに政令、省令が多過ぎるということでございます。私どもはさきに道路交通取締法において苦い体験があり、これには賛成しがたいのでございます。道交法が本委員会にかかった折、ハイタク運転者に対する行政処分である就業停止は聴問会にかけるということになりました。しからばどの程度のものをかけるかということで私たちは七日間以上の就停を主張したのでございます。本委員会では十五日以上のものときまり、法案にはこのような面は盛れないので政令の中でやる、こういうようになったわけでございます。ところが政令で出されたものを見ますと、六十日以上のものということになり、せっかくの法律というものが死文化されておるのでございます。政令、省令の必要も十分私たちとしてはわかりますが、このような轍を再び繰り返すことを懸念し、最低限度にとどめていただきたい。  次に第四点として、審議会及び審査会に労働組合代表を必ず参加させてほしいということであります。さらに具体的に言うならば、交通運輸関係労働組合と全損保労働組合の代表者を参加させていただきたい。特にこの点で各議員先生方に申し上げたいことは、さきに自動車運送協議会に対し労働組合代表を参加させることについて、本委員会において、学識経験者及び利用者代表の中で労働組合代表を参加さすということになり、具体的に進められた果は、全国で五名の労働組合代表の参加しか見ておりません。しかも自動車関係はそのうち三名にすぎないのでございます。自動車事業の複雑性、特殊性が十分に反映されない状態でございます。このとうとい経験を生かされ、労働組合代表の各委員会参加を法文上明確にしていただきたいことをお願いするものでございます。  第五点として、私どもは被保険者として保険料の負担に応じられないことでございます。私ども運転手の収入は二十四時間勤務で大体一万五、六千円程度でございます。資料としては委員長のもとに提出してございます。交通違反の罰金、科料と行政罰により、この低額な収入の中からさらに二〇%内外のものが取られており、これ以上の負担にはたえられない経済事情にあるのでございます。運転手保険料の負担をかせぎ出すためにさらに事故を起すことも懸念されますので、この点十分御賢察の上、遺漏のなきようお願いする次第でございます。  以上をもって私の公述を終りたいと思います。
  74. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) どうもありがとうございます。  では、次に熊澤英敏さんにお願いいたします。
  75. 熊澤英敏

    公述人(熊澤英敏君) 私はこの法案はいましばらくディスカッションして賛成であります。  私は長らく外国自動車事業関係し、そうしてその事故を解決して参りました。大体法律的な知識は全然ありませんが、現在この自動車法案の最も中核をなす自動車のことにつきまして、法律百八十五号ですか、この道路運送車両法の仕業点検という非常に大切な条項があります。その中の、たとえば技術的なものの中で、これが実際に行われていない。現在走っている車を試みに測定器で調べると大半は引っかかるだろうと私は信じます。その業者を何ら技術的にディスカッションせずに法案をあれこれ審議したってどうなるかと、こう考えております。この仕業点検について、いや、そういうことを車の出るときに、一々運輸省できめてやっていったら、三十分も四十分もかかるわけです。この中で、具体的に言うと時間がかかりますが、たとえば自動車のデフレンシャルギャーの、うしろの方の油を見るという条文がないのです。条文にないから、見ずに行って、その油がなくなって焼けつくと、たとえば踏切の前で故障すると、焼けついてしまって、押しても、引っぱっても動きやせんです。これは事故のもとになるのは明らかです。で、こういう問題もありますから、いま少し技術的に、あるいは故障についても、いろいろなその科学犯罪的な問題、そういうものについて技術委員会を設けて、ディスカッションをしていただきたい。  それから、まだいろいろ述べようと思ったのですが、もう皆さんのいい意見が出まして述べることはありませんが、次に二十条のナンバー、先ほど小酒井委員のおっしゃったように、その商品のナンバーですが、これも現に一台一枚の同一許可のナンバーで、一枚借りてきて、それを何台にも使っている現状です。これはその車が一台、午前の部会で申したのですが、車両番号とか車種等は要らない。それよりもむしろ地域とか、いわゆるタクシーの運転手になれば、もう一ぺん免許証のほかに就業免許でも作って、もう一ぺん再試験したらいいんじゃないかと言っていましたが、この二十条の車台番号とかを除ければ、この不正はますます増長されるということになります。  それから今の三十条の保険代理業務ですが、これもまあこういう資本主義国家ですし、営利というのは、営利目的とせないというのは削れとか言っておりましたが、これはやっぱり強制保険でもありますし、そのために不便にならないようにすることと、それから普遍的にやってもらうことと、その手数料が百四十五万台にもなりますから、まだ計算いたしておりませんが相当なものになると思います。まあそれが一割か五分か知りませんが、これは結局いわゆる自動車関係の公益法人、それも公益法人でも政府が経理面を監督できる公益法人にすること、そうせずに野放しにした場合には、掛金の融通とか使い込みが起るだろうと思います。そうも考えます。  それから最後にいろいろ外国のそういう傷害保険とか何かも見てみましたけれども、学者の言う意見も理論でしょうが、もっと日本的ないわゆる特色を織り込んだ法案を作っていただきたいとお願いをする次第であります。簡単ですが……。
  76. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ありがとうございました。  以上で予定いたされました公述人の方々の御意見を一応伺いましたので、これから質疑に入りたいと存じます。御質疑のおありの方は順次御発言を願います。
  77. 片岡文重

    ○片岡文重君 新倉公述人にお尋ねいたしますが、先ほどの御説明を伺っておりますと、一応ごもっともな点も多多ございますが、しからばかりに百歩譲って、お説の通りの立場に立って、この法案も出さない、そしてなおかつその事故を防止するということになりますと、現在はんらんしている車を一度になくすわけにはいかないのですから、どういうふうにしたならば、あなたのおっしゃられるような事故をなくすることができるのか。つまりおっしゃられるように事故に対して、被害者に対して完全解決をなし得るような業者ばかりがあれば、お説のような方法でもいいと思うのですが、残念ながら今日では完全解決をなし得る業者というものの数はきわめて少いと私は思うのですけれども、今日の現状はどういうふうにして解決したらいいか。今日のこの状態は乱許と言いますか、みだりに認可を許したからだというお話でしたけれども、現に理由のいかんは別として、現に起っているこの事態に対してどう措置すればいいとお考えになるか。  それからいま一点は、そういう自家解決ばかりを、自家解決をなし得る業者のみを許可するということになりますと、勢い大資本、少くとも最低五十台以上ですか、最低五十台以上というお話でありましたが、おそらく五十台くらいではそう十分な業務管理もできまいと私は考えますが、大きな資本を持つものでなければ、こういう事業はできないということになって、多分に大資本家擁護の傾向に陥ると思うのですが、この点についてどういうようにお考えになられますか、その二点をお尋ねしたいのです。
  78. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) 御質問の二点ですが、現状の非常に混乱をしておる事業及び車両の状態を、すでにできちゃってるものをどう調整すると考えるかという点が一つと、それからして私の説明している、かように強制を受けんでも、自力を持って事故解決等ができる企業体、こういうことを言うことになると、それが大資本経営ということで、それに偏するようなきらいがないかと、こういう二点だと存じます。この点は関連を持っておりますので、両方一緒にしてお答えいたします。現在あるものを減らすとか、それからして直ちにこれをどう少なからしめるとかいうことは、これはいかなる強権をもってしても不可能なことと存じます。しかしながら、私が初めに申し上げましたのは、事業の改善命令等を行い、かつ不正事業を排除することによって、相当の目的を達し得るものであると、こう申し上げておるのであります。これは伊坪君もこの点に触れておったようでありますが、一例を東京の混乱しておるタクシー、ハイヤーにとってみます。幾たびこれが是正を要望したかわかりませんけれども、いまだに名義の上に安坐してでたらめを許容し、しかして毎日何万か、第一回は二十万といったような不当な搾取を続けておる事業及びそれにあえぐ車両主、これが三千台をこしておると言われておるのであります。かようなものはまさに違法行為でありますから、法治国において、また帝都のおひざ元におきましてこれを断固排除すれば、おおむねその目的は達し得て余りあると信じておるのであります。  それから私が申し上げました自家保険制度を拡充強化することによって、本保険強制から一部緩和すべき点が特に力説されておる、こういう点を申し上げておりますが、それを結論づけると資本家擁護になってくる、こういうお説でありますが、しかし私はそう信じておりません。免許可事業の本質は、これは相当の資格を要求しておるのでありまするから、単に車台数だけではございませんけれども、台数を一例とするならば、資本、労働相打ってこの事業完遂に必要なる責務を果さなければならぬのですから、それは一方的にこれが言えないのであります。そこで一は働くものの要求点がいれられ、一は経営するものの経営理念が織り込まれるという、両者で折り合いがつく範囲の事業でなければならぬと、こう言うておるのでありまして、その最低を、労働組合に少くとも一人の専従者を必要とする程度の組織ができます程度と、こういうことを申し上げたのは、公益事業の免許資格として当然であると信じておる。それをもって資本家援護とは考えておりませんし、この事業が大資本に適せざるところの事業であることは、私の深く痛感するところでありまして、これは適正な経営がおおむね五、六十台になるのではないかという逆理もまた成り立つと考えておるとともに、三台や五台のそうした単にいわゆるその日暮しの営利目的として働くものが一番危険にさらされておる。その働くものの生き方が一番大きな、この仕事におけるむずかしいウェイトを占めておる点から見まして、その人が朝勤めに行ってみたらば、その車はゆうべのうちに売られてしまってもうないのだというふうな、単に営利追求の企業として免許が行われたところの営利事業であってはならぬのであると、こう申し上げておるのであります。どうぞその点は一つあとさきを御了察下さいましてお願いをしたいと存じます。
  79. 早川愼一

    ○早川愼一君 ちょっと新倉会長にお伺いしますが、ただいままでの御議論、御公述趣旨は業界の立場からおっしゃっていることが多いのですが、実は百三十二万台のうちでほとんど大部分が自家用車である、しかもまたそのうちの大部分が小型車である、こういう見地に立ってこの法案に対してどういうお考えをお持ちですか。つまり業界としての立場から今信用、資力があればけっこう自家保険でまかなえる、こういう立場議論をお進めになっておられますけれども、実は内容は自動車保有者に対して被保険者になるのですから、大部分はそういう何と言うか自家用車、まあ自家用車という意味が営業用じゃないというのですけれども、事実は営業用に類似した行為をやっておるわけですから、その観点から一体現在の交通事故を、これを一種事故防止という立場でなしに、一種の社会現象としてあるのをどういうふうに被害者を救っていくのに、この法案が役立つかという観点から少し御意見を拝聴したいのです。
  80. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) お答え申し上げます。早川先生の御質問はまことに適当なんですが、私は他を言うひまもありませんでしたし、言いたくないために控えておりましたところが、その点に触れて参りましたから、率直にお答え申し上げます。私は本日全国乗用自動車協会の会長として出ましたので、その方面業者の実情、現在の負担、それからこの強制保険に対するわれわれのあり方というものからまっこうから反対したのですが、実は小型並びに自家用が大きな自動車数であることを了承しております。また、先ほど他の公述人からお話がありまして、それが一番大きな事故数を占めているという、台数もございますけれども、こういうことを御指摘になり、自家用の問題については伊坪君からもお話がありましたので、触れざるを得ませんから申し上げて見たい。私は免許可事業としての対象であるタクシー、ハイヤーにおいては、前段申し上げた通りの意味において反対を申し上げている。しかるに自家用の面において実は野放しであるということにおいて異議ないのであります。自家用の扱いというのは、まことに簡単でして、車を持って行けば、いきなり検査が行えるのですから、一体その車はどこに置くのかさえわかりません。日ならずして、東京の都心は自家用の置場として道路がふさがってくると存じております。ほとんど通行不可能になってきて、一般の交通を阻害していることおびただしい。しかもその自家用はまことは遺憾千万に扱われておりまするから、自家用にあらずして、営業に類似した行為をなすとか、あるいは何かちょっと間違いが起ると、すぐその車を売ってしまってもうかまわないというふうな点で、転々として押えどころがないというのが多いのであります。私は自家用等のこの届出に対しては常駐場所の設置、交通整理の上におけるところの車のあり方というものは明確にするとともに、本保険のごとき、いわゆる一つの責務をそこに裏づけをすることが必要であると存じます。なぜならば、それは免許可の対象になっていないし、資格及び責任の弁償能力がないからであると存じます。その方面は、私のいわゆる立っている立場と違いましたので、他を言うことを避けて、申し上げなかったのであります。御質問に答えて、賛成をいたします。
  81. 早川愼一

    ○早川愼一君 もう一点、この法案によりますというと、一部例外として多数の車両を持っているもので、今資力、信用十分なものについては、自家保険の積み立てを一々許可するということになっている。これの制度の内容が問題だと思いますが、一応こういう制度があれば、先ほどおっしゃったような点はある程度緩和されるのじゃないかと思いますが、御意見はいかがでしょうか。
  82. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) 自家保険制度に対してかなり強い言葉を吐いたと記憶しますが、それは私の、いわゆるこうした強制するとか、役所が何か仕事をするとかという問題に対する一つの不変の理念でありまして、ロスが多くて、負担が増大することがまずいと、こう申し上げているわけであります。そこで自家保険の点について触れている条項があるのですが、その内容がどうなっているかよくわかりませんが、だんだん詮議して見ますと、相当強烈な自家保険になっている。一説には三百台、いわゆるその企業体が三百台持っていなければならぬというふうなことがいわれております。一会社が三百台以上の保有車両というものは、これは全国的に見てわれわれ同業としてもおそらく少いのじゃないかと、それと自家保険制度という趣旨に賛成されて、そういう条項を置いても、実際上においてはそれが行えないような制約があっては相ならぬと存じます。しかるに、もし実施されるような場合には、強い一つの組織を私は必要とする。必ずしもそのならという会社が三百台なくても、ABCで資本及び経営において関連性を持つならば、その総合体が自家保険の対象となるということも考えられるのである、こういうふうに存じまして、内容については触れませんでしたが、一言にして反対申し上げました。こういうことを申し上げているのであります。
  83. 小酒井義男

    小酒井義男君 新倉さんにお尋ねしたいのですが、非常にたくさんの業者がおられるので、その小さい企業では今度の強制保険加入をすることが非常にひびくというような点が、若干負担にたえられないというような点が出きてくる心配はないかということ、そういうことができて、そのために車両の安全を維持してゆくためのことに影響を受けたり、あるいは従業員の労働条件に影響をするというようなことになると、逆に被害者に対する補償はできるが、交通事故はふえるというような危険性があるのではないかという心配もあるわけなんです。そういう点について、お仕事をなさっておる関係で現在の業者の実情が一番よくおわかりになっておると思うので参考意見をお聞かせ願いたいと思います。
  84. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) 御質問の点まことに同感の点がございますので、実情を率直に申し上げます。私の反対理由の中に、地方小業者等の負担がまことに強烈であって、増大してたえないものがある、それが保険料の負担からみますと、いかなる差等をつけてみても、実際事故を起すところの実情からは不均衡な負担になる、こう申し上げております。そこでずっと数多い地方の業者を見てみますと、十台持つ人は多い方でありまして、五台というのがかなり多うございます。そのうちの小さい業者の人は、その主人公みずからが朝から菜っぱ服を着て、そして車の下にもぐって油にまみれ、かつ自分がたれか病気等で休んだら運転手のかわりですぐハンドルを持って飛び出して参ります。その地方の業者はまことにその町なら町の皆さんの足の配給を扱っておるようなものでありまして、日夜それに奮闘をしておるのであります。ところが先ほど申し上げましたように走行キロは少し、収入は少し、車は自分みずから手を入れて大事にこれを使っておるような姿ですから、まことに収入が少くて、その収入の少いうちで、運賃の安い重要な緊急輸送を担当しておるところの町の一つの重要な機関になっておる。そういう方々が、一体その家をずっと見てみますと、先祖からやっておる、親の代からやっておるところの自動車屋さんが富んでおるかというと、まことに貧弱でして、二階の壁が落ちて家が半分かしいでおるような自動車車庫の中にあえいでいるというような実情は、皆さん遊説等においでになって御了承の通りだと私は思う。それに私が今申し上げたような強制保険というようなものが、果してその走行キロなり、事故を起すところの実情に即した保険料が設定できるかできないか、そういうところに私どもは遺憾な点が多いから、まず反対すると申し上げましたが、負担力もございませんし、事故は現在においてほとんどございません。まことに事故は少い。まああるということはおそらくない。大きな事故をしたら一ぺんにその店がつぶれるという地方業者は実情にあるということを信じますので、お説の通り負担力がない。無理な負担をさせれば逆に事故を起すところの悪化へとこれを追いやることになると思います。
  85. 小酒井義男

    小酒井義男君 議論するわけじゃないですが、たとえば現在の料金運賃というものは、それが正常な企業経営を成り立たせない原因にもしなっておるのだとすると、そういう方面が是正されれば、この制度そのものに反対をする事由はないのじゃないか。むろん大切な生命、財産を預かって日常の業務をやられる自動車運転手諸君ですから、十分からだの静養ができて、安心して自動車の運転のできるだけの労働条件を保障するということ、それから経営をするにしてもでたらめをやっちゃ困るのですが、一応の経営能力を持つ人が経営をしてゆく。そうして事故損害に対してはこれを補償してゆくこういう建前をとって、そうしてその上で妥当な料金というものがきめられてゆくのであれば、また最初の御意見にあったように、この制度がすなわち自動車事業の免許制の廃止になるのではないかという御懸念もあったようですが、そういうものではないのだということになっていけば、制度としては非常に進んだ制度ですから、反対をする理由というものがなくなるのじゃないかと思うのですが、どうですか。
  86. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) まあ、ありがとうございますとお答えする以外にないと思いますが、さようになりますことを日夜念願をして、実は今日まで三十年間業界に動いて参りました。終戦後だけを見ましても、国鉄、電鉄、、バス、各種交通機関は何回かの値上げをしております。少くとも三回以上でありましょう。国民生活に直結する電力等の重要な熱源等におきましても、かなり大きな値上げをしております。しかるに私どもの携わっているタクシー、ハイヤー、トラックもそうでありますが、これは値上げの実情というものは一ぺんもございません、どこにも。そうして常に値下げへ値下げへと追いやられて、その日の仕事にあえいでいるのであります。その原因は、前段私が申し上げました需給の調整を破っているところの放漫無定見な行政措置にあるとこう考え、かつ免許事業のこの事業に対する本質は、その事業に携わるものがある程度の賦課にたえて、そうして労働者とともに完全とはいえないまでも、大体において存立できる姿、いわゆる事業の安定の線に沿うて行政措置をすることが、これがこの公益事業に対する行政措置であります。いくらかもうかるのではないか、もうけたりなんかすることはいかぬのだというふうな、取り締ればいいのだ、安くすればいいのだという行政が大きな誤まりであったということを指摘して、そうして私どもは今日のこの実情から反対だ、こう言うのであります。お説のごとく、さような負担にたえていける事業、そうして働く者のために安定して事故の絶滅を期し得るところの事業におかれることが私どもの念願であることは、先ほどから申し上げていると思います。その段階に至りますれば、双手をあげて賛成しますが、一は跛行的にこうした理想的な補償を業者の負担において遂行せんとし、一はその事業をあすにも乱倒するような騒ぎに追い込んでいるような指導を繰り返すような乱脈な状態に置かれているという、その行政の矛盾を指摘して、現段階において反対だと申し上げているのでありまして、どうぞ運輸省がこの保険をなさるならば、机上においてかくのごとき理想案を提起する半面、実情において、行政指導において悲惨な状態を繰り返している状態を現認されることにおいて、この法案と実情との間に時期のズレがあり、実情とのそごがある、これに対する賦課にたえないところの深刻なものがあるということを指摘して今日の段階において真っ向から反対する、こう申し上げたはずであります。
  87. 小酒井義男

    小酒井義男君 伊坪公述人にお尋ねしたいのですが、あなたの御意見の中に、交通事故の取締りというものがわれわれを重点に置かれているような印象を受けているという御意見があったのですが、それは逆に、これは少し言い過ぎかもわかりませんが、あなたの方の関係の仕事が交通違反を犯すことが一番多いからそういうことになるのではないか、もう一つ突っ込んでいくと、交通違反を犯してまでむちゃな仕事をしなければ生活の保障がされておらない、こういうところに根本的な問題があるのではないかという、これは少しうがちすぎたこちらの推測かもわかりませんが、そういう気がするのです。ですが、果してそうなのかどうか、御意見を聞きたい。
  88. 伊坪福雄

    公述人伊坪福雄君) 御質問にお答えしたいと思います。一つ東京の例をとってみますというと、警視庁へ行って私どもがお伺いしたのですが、一日五十五、六件の事故が起きる、そのうち三名ほどの死亡者があるのです。こういうふうなことをお聞かせ願っておるのです。また統計上にも出ておる。そのうちの八〇%が大体ハイヤー、タクと一の運転手が犯しておる事故である、こういうことになっているのです。ですから取締りの対象が特にハイヤー、タクシーに向けられてくるということはまた当然じゃないか、このようにも私たち考えてくるのですが、その罰金たるやまことに高いのです。それからまた警察官の主観に基いて、十キロオーバーで千五百円とられる人もあれば、あるいはわれわれの調査の中から見ますと二千円とられる人もある。その上に就業停止として七日とか十日とか、二重罰がくるのです。こういう面を私たちが考えてみると、特にハイヤー、タクシーにその取締りの重点が向けられておる。それから一時停止した場合においても、これはほかの方はあげたくないのですが、ハイヤー、タクシーが一時停止を犯しますと、大体千円くらいの罰金がくるわけです。しかしながらこれがハイヤー、タクシー以外の車だと、私の調査だと五百円の過料、それからあとは説諭です。こういうふうにして、同じことを犯してもハイヤー、タクシーの場合は違うのです。こういう面の資料は私たち十分たくさん持っているわけでございまして、私は当局が厳重な取締りをしておるのだが、私はその事故が絶対減らないのだということをこの前の委員会のときにも公述したわけです。その理由としては、大体一日三百五十キロから四百キロ走らせておる。これに協力しないとこれは業務に協力しないのだといってやられてしまうわけです。ですからどうしても走らなければならぬ。後から走れ々々と尻から火がつけられるわけじゃないが、どうしても走らなければならん。これはどうしても事故の大きな要素を占めておるのじゃないか。そのほかに夜私たちが視察してみてもわかるのですが、食堂に入って運転手が冬の場合相当飲んでおる。なぜ飲んでおるかというと、寝る設備が全然ないのです。ですから車の中に入っても寒いからそば一つではがまんできなくて、焼酎一ぱい飲むという形になる。こういう面が過労となって事故を起しておる。これは警視庁の統計を見てもその面が出て来ます。ですから私はこの二十四時間制度、この制度の中において仮眠設備というものをはっきり業者が作ってやったならば、このような事態が起きないのじゃないか。ここで二十四時間制度というものを私はなくして、そうして一週に四十八時間、こういうところの制度にしてもらいたいという面を基準局なり労働省に私たちは陳情したわけでございます。その結果はこれはやるという形になったのですが、業者はこれは業界がもう壊滅するような状態になるからと反対しておるわけです。反対理由としては何をあげておるかというと、大体通勤ができないというのです。運転手が過労になって通勤ができない。私たちの調査に基きますと、一時間半以内で通勤できるものは東京における全運転手の九四%を占めているわけであります。ですから僅かに六%が一時間半以上のところから通勤しているというような状態で、業者の言う状態とはだいぶ違っておる。この半昼夜交代制度、この制度は逐次実施されております。しかし私どもがびっくりしたことは、いかに業者というものが二十四時間ぶっ続けに働かせるようにやっておったかというと、会社の名前を私はあげたくありません。これは調査してみればあらゆる会社からたくさん出てくるわけですが、半昼夜交代をやった、これはよろしいのですが、一時過ぎになってから寝るところがないのです。それで朝の一番電車まで会社におれと言うのです。そうしてまた四時になってから出て来い、これはこんな制度でやったのでは、半昼夜交代でも当然事故は減らない。半昼夜交代であったならば必ず八時間働いて、一時から朝の八時までは休ませる、こういうような制度が行われたならば、私はこの事故というものは大きく減っていくのじゃないか、このように考えます。  それから新倉さんが最前運輸行政のいろいろな面を突きましたが、私は当局も悪いけれども業者も悪いと思う。全国的には業者というものは二分しておる。東京においては六団体も七団体も分れておる。運賃問題におきましてもこの前国産車が値下げした。その場合に外車の方はあげて反対公述に立っておる。今度は外車の方は実力行使として法を無視してダンピング行為を行っておる。当局はこれに対して何らの取締りもできない。ある共進自動車という会社ですが、車両は忘れましたが、この会社で百円の車を八十円でやったわけです。ところが当局としてはこれに対して営業停止をくわしておる、車に対して。集団ダンピングに対してはさらにそのような処置をとらない。業者がやるというと、かような面をやっておる。これは労働組合としては局長を相手どって損害賠償を訴えてやる。そういうような面で今動いておるのですが、そういうような状態ですが、当局も悪いが、私はこのような面を規制できない業者もどうかしている。このように私は考えておるわけであります。
  89. 内村清次

    ○内村清次君 新倉さん、それから何だったら小松崎さんでもけっこうですが、先ほど組合の方からは、人道的な意味からしてはこの法案は賛成するが、受け入れ条件があるのだ、しかもその条件の内容の中に、たとえば運転手の方々の一カ月の収入というのは一万二、三千円だ、こういうような数字的な御説明があっております。で私たちもこの数字を実は聞きまして、これで果して運転手の方々の、年令構成もありましょうが、家庭を持っていらっしゃる方々の生活というものが十分であるということはどうしても判定できない。で、この収入でこの保険料率というものに対してうんと少くするか、もしくは料率は一つ経営者にかけてもらえんだろうか、こういう内容もあったのですが、これを経営者の方からどういうふうに、その陳述というものに対してどういうふうにお考えになっておるか。これはいろいろダンピングの問題もございましょうし、いろいろな問題もございましょうが、そういう点総合して実情をよく知っていらっしゃる管理者といたしましての御意見一つお聞かせを願いたいと思います。
  90. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) 私からお答え申し上げます。実情の御質問でございますから、実情をそのままに申し上げます。東京を例にとりまして、働く運転手諸君の給与がどの程度か、これが第一であります。これは会社によって幾らか違うようでありますが、まあやや大きな会社はおおむね固定給が一万二、三千円から一万五千円くらいの間に固定給がございます。その他いわゆる能率給その他いろいろな出し方をしておりますが、かれこれ二万五千円見当ではないか、ハイヤーの方がやや多くなります、給料が……。これは二万八千円程度になっておると存じます。これは別にその仕事はタクシーの方が少し骨ではないかと思うのですが、給与がハイヤーの方が少し高くなるという実情は、あらゆる陰のことまで考慮の中に入っておるわけでありまして、それは同じ労働組合の諸君が差等のある給与の状態において納得しているということがこれを裏付けしておる、こう見なければなりません。ただ一般業者がかなりでたらめにやっておりまする。一番悪い状態が固定給二、三千円に対してあとは総水揚げの二割、こういう個々のたたき上げと言いましょうか、何でもかまわず水揚げの——ただ固定給としては言いわけ的な三千円程度、こういうのが最低だと見ております。そういたしますと、どのくらい稼げるかということを見ますと、車によって違いますけれども、一カ月を十五日、半分働きまして、そうして一日間に六千円平均ですと約十八万円であります。それの二割ということになりますと、これはかなりの金額になります。ですから二割歩合というのは請負制度によく似ていますから、かなり無理が入りますけれども、二割歩合というのはかなり多いように存じております。それで全体が一万円そこそこの収入で、こうした保険料業者が負担するというのは当っておりません。またこうした会社におきましては、こうした制度が実施されますと、その保険料企業者が、会社が払うということになると存じます。ただ法律は自己の責任の上に立うて運転者もまた民事訴訟の対象になる、こういうふうになっておると思っておるのでございまして、保険の負担を従業員に強いていかなければならぬという会社は比較的少いのではないかとこう存じます。  なおこの機会に伊坪君からの話でありますから、これは労使ところを異にしてということではなく、一つお聞きとり願いたいのは、事故を起す原因の中に十分考えられる問題として過重労働がある、こういうことであります。それはよくわかりますが、その点について二十四時間制、八時間労働制というようなことを言っておりますが、二十四時間というのは実はございませんです。どんなにやりましても朝の八時から夜中の一時頃であります。なぜなら、それから先はやりたくてもお客さんがないわけでありますから、その間に四、五時間のあきが出るわけであります。そういたしますと、交代になりました次の日は一日そっくり休んでしまいます。そういたしますと、八時間労働というものは、十二時過ぎになって交代しても帰るところがない、そこで仮眠設備が必要である、こうおっしゃるのですが、さようなことで半昼夜の交代ができないのであります。朝から仕事をするのですから、八時からやりまして八時間労働になりますと、夕方の五時、六時というときが少くとも交代時間になりますから、そうすると昼と夜との番が違ってくるのでありまして、それは今伊坪君の申した通り帝都等では実施されております。また私どもの方でも労働基準局でやかましいからやっておるのであります。ところが当時それをやってみようかというときに、従業員諸君に黙ってこの実情を話して、さあみんなの率直な意見を出して下さいという意見要望会をこしらえました。これは従業員の全員の——第一線の諸君のおおむね九〇%近い者が、現状がよくて半昼夜交代をするということは、現段階においてはかえって過労になっていけない、こういうことで絶対反対であります。労働組合の幹部諸公は、今までの立て方と理論からみて、八時間労働制といったようなことをおっしゃるけれども、働く一線の人間は、幹部は自分が働らいていないからそんなことを言うかもしれないが、おれたちはこの方がいい、こういうことで九〇%の一線は全部現状に賛成しておった実情であります。しかも半昼夜交代にしてみたところがございますが、そこはやってみて初めの三日、四日、五日、これはいいのです。ところが十五日やってみた場合に、従業員は前の方に直してもらいたい、夜番になってからかえって過労になっていけない、少くとも二割は走行距離がふえておる、むだが多くて、走行距離がふえて事故数も多くなっておる。ところが東京のタクシーにおいて半昼夜交代を全員に移した場合に、非常に多くのロスと危険と過労が出て困っておるから、前の通り戻していただきたい、その前の方が実際に適しておる、気のきいた運転手はひまな時間には喫茶店か何かでレコードでも聞いて、それから仕事に出て行くということをやっておりますが、こういうことを申し出ておる会社がちょくちょくと出て参りました。これは私は実際を立証してお答えを申し上げたいと思います。  それからこの機会ですから、こういう問題は行き過ぎですから、私言いたくないのですが、業者が悪いという話がありましたが、それは業者責任を負いたい。しかしながら全国におきましても、東京の各業者のまとまり方が二つに割れたとおっしゃるが、これはつい昨年の秋になって、外車問題ということでちょっと一部の人が脱退したというような、これにはいろいろな動きがあるが、それだけでありまして、一つも割れていなかったわけであります。また東京の実情については、私どもは言いたくないからこれは避けますが、名儀貸し、その他の業者が非常に大きくまとまりをつけまして、それは不正への防衛上まとまりをつけている。正しい業者と相入れない存在が起ることは、これは法の上に取締りが峻厳でない、正しくないということにおける現れであると思います。業者責任である、こう思います。
  91. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 私は新倉さんに議論するわけでもないのですが、今の現状から言えば、あなたの言われることを運転手としても言えると思う。しかしここまでくる——先ほどあなたこの法律を制定することに対する反対かどうかという場合に、一応現在の段階では反対だということを言われたのですが、ここまできた段階において反対しなければならぬ。逆な言い方をすれば、現段階において反対するなら、将来よくなるかというと、今のような取締り官庁の機構、力関係というような立場から考えますと、よくなるということは私は考えられない。あなた方がほんとうにこの制度を突っ込んで直してくれという業者の力と、われわれの力が一致すれば直るかもしれないけれども、そうでないところにおきましては、ここまできたということ自体がもう直らない。病膏肓に入ったという形が自動車界の現状ではないか。従って私は、先ほども事故の発生の原因は車と人によるのだというようなことを言われましたが、それもある。あるが一番大きな根幹というのは日本の現状に即さない自動車行政をやっているというこの監督官庁の何と言いますか、自動車行政に対する盲点がこういう実態になってきたということがまず第一に大きくあげられるのではないか。そういう意味から決して私はあなた方を責めるのじゃないのだが、自動車界の大元老である新倉さんたちが、なぜこの現状までくるのに直す機会がなかったか。この前も何かの機会にこの問題でいろいろお聞きしたことがあるのですが、大分うまくいきそうなお話を承わったが、なるほど乱許乱設であり、道路を扱うもの、それから坂寄さんが言われたように許可をするもの、監督をするもの、製造を担任するもの、全部の四者四様の立場にあるものが、最終的には警視庁がみんな取締りをしていかなければならないというところに追い込んでくるような形に持っていって、その官庁の運輸省、それから通産省、あるいは大蔵省もあるかもしれん、建設省、それらの意見の一致というようなものは一つも考えない。国の道路の実情を、東京なら東京の実態も考えずにどんなものでも持ってくれば許可をしてやる、取り締る方は悲鳴を上げても許可する方は平気だ、何か許可するところには正常な許可でないところすらも考えられる。そういう点をもう少し明確にしていかない限りは自動車業者の立て直しができないのではないか。それをすることがこの法律を作るなら第一に必要じゃないかということを考える。  もう一点は今の運転手の問題になってくるのだが、なるほど運転手が半昼夜交代が困るということは、あまりにも会社の現状と自分のふところの工合を知り過ぎている現状ではこれはうまくないのであって、もし半昼夜でも食っていけるような給料が得られるとするならば、これは恐らくは反対しないと思う。そこに業界の行き詰りがすでにきていると思う。五十台か七十台、あなたのところは多くて七百台、そのぐらい持っていれば、なるほど八時間制にしたいのだが、われわれの生活も困窮する、おやじも若干困ってくるだろうという面からなんで、ほんとうの労働基準法をやることが反対だということではないと思う。そういうことをいろいろ考えてきますると、先ほど石塚さん言われるように、運転手が負担するならば反対であるし、運転手が運転して事故を起す、いわゆる二重処分、行政処分も食うし、それから免許を取り上げられるというような問題、過料にされるというような二重負担もあるから、せめてこの問題だけは国家補償を経営者が持つということで解決をつけたらどうか。だから、法的にはそれもうまくないでしょうというお返事があったのですが、そこまでいけばいいじゃないかということが運転手の諸君から言われる。あなたの方の側からもさっきお話の中で事故がたまたま起きたが、相手が大和だからいい。私どもも大和のやり方を非難してはいない。いいと思うが、他に比較していいとは思いますが、そういう半面にはもし大和でなかったらそれじゃどうするかという問題が起きてくる。そうすると一般的な立場の生命を保護するという意味からいくと、はなはだ内容の悪い法律、それから今までの経過等を考えると、きわめて悪いが、ないよりはいいではないかという程度の法律になるのじゃないかと思うのです。そういう点は一ぺんまず作っておいて、ただし作るためにあなたの言われる通りになるかどうかしれませんが、この面とこの面を排除して一つ作れというのにあなたがもし賛成をするとするならば、どうすれば賛成できるかういいことを結論的に一つお聞かせ願いたい。
  92. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) まことに徹底したお話を承わりまして、胸がすいているわけですが、同時にお叱りを受けております。ここまで出てきた姿は病膏肓に入っているが、それをお前たちなぜ途中で直す、または阻止することができなかったか、こうおっしゃるのですが、どうもこれはひとり自動車業者のみならず、終戦後の日本のあらゆる面がかような点に追い込まれておったのではないかと思いまして、その点は一つ自動車業だけをお責め願わないようにお願いしたい。ただ私としましては、これは戦争前からですが、一貫して自動車事業の特異性、それは民主的にあらゆる方面から同業相携えてこれを改善する以外に、官憲の行政、扱いだけではいけないということを終始一貫、一生を通じて力説、奮闘して來たことだけは申し上げるにやぶさかでないと存じます。  そこでここまで來たから、どうにもこうにもしようがなくなって、この法律というものにぶつかって来たと、その通りであります。そこで結論としては、それではこう理想的でなく、一応この趣旨を容れて、ある程度のことをステップで、漸進主義でやってみる場合にどの程度のことが考えられるか、こういう御質問で、何かの法案に対する私どもが大修正の意見を出してお願いをするような答えをしなければならぬいうことになりますので、ただ私がひょっとここでお答えすることはどうかと思いますが、私は一応こうなすったらどうかと考えております。順次この理想に到達すべき段階を期待したい。これは業者あげてそれを念願すると思います。またまじめな業者から言うならばかようなことをやる、あるいは事故を起さないところのほんとうの労働時間は、八時間なくても六時間でもいいのだ、そういうものに一つ対応できる企業体を念願しておることに間違いないのであります。ですからそこまで持っていくのには相当の日子を要しますので、この法案の全面的実施を避けられまして、そうして一部の段階に入るならば、私は各協会、団体を法制的にもう少し強化して、その内輪において共同責任においてこの趣旨に沿うた補償をその協会が扱うように一つ向けられたならば、事業方面はおおむね解決するのではないか、強制する前に団体にある程度の責務を負わしめるということが必要であり、そうした場合においては各地方々々の特色を生かして、地方々々の実情においてきわめて小さな支出でおおむねが解決できるし、それこれによるところの積立等の問題を別に考えまして、重要な事故が起つたらばすくつぶれていくという弱小企業も救い得るところの制度が同業の共同の力において打ち立てられるのではないか、こんなふうにも考えられます。それ以外にはただ法律で規定するか、あるいは自主的にある程度のテスト期間を置くか、こういう段階では今申し上げる以外のことはないと信じております。
  93. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 これはやはり決してお気を悪くされぬようにお聞き願いたいのです。法律で各団体を一つしばっていくということです。これは今のような運輸省とそれから業者との関係等を考えますならば、これは不可能ですね、絶対。それからもう一つ、今度は進んでいやみを言うわけではございませんが、自主的に一つやってくれんかということになれば、料金一つ統一できぬような団体にこの問題を自主的に諸君が一つ試験的にやってみろ、そうしてよかったら法制化しようじゃないかといってみたところでこれもできない、こういう実情にあるのじゃないかと思うのですね。前者は法的にたとえばトラックならトラック、それからあなた方ならあなた方、乗合なら乗合をこう四つくらいに分けていって、この精神で一つ実施をしてみてくれんか、そうして是正していこう、つまり実施期間を延ばしてこれ準にじたような形をとってみていこうという、テスト期間を設けるということですね。それは非常にいいんだが、それだけの権限というか、今の運輸省の立場ではあるいは持てないんではないか、あなた方の反対の方が強くてそういうことにやっていくような力はまずありませんね。それから後者の方にしても、各団体とこれは一つこれを基準にして自主的にやってみてくれというのは、決してあなたにいやみを言うわけではありませんが、料金一つにしても東京都民をふるい上らせて、結局投げ出すようなことでは、これはまたおまかせできないということになるんです。やはりこれは一応ここで法制化して、きょうでなくて、法制化するのはきょうあすにきまってしまうわけではありませんから、どうしてもやはり作る、社会保障的な意味も含むのだから一つ作ろう、作るためにはどうするかということを今一度、一つ大先輩の新倉さんあたりが少し考えて、反対でなく、作るならこうしろというものをやはり突きつけてもらったらいいと思いますが……。
  94. 新倉文郎

    公述人(新倉文郎君) よく一つ考えてみます。
  95. 重盛壽治

    ○重盛壽治君 大体全自動車諸君の意見もわかりましたけれども、この中で今新倉さんと私といろいろお話ししたように、業界の実態というものはかなり複雑怪奇なので、なかなかあなた方の御希望のような形での法制化もちょっと困難なような段階にあるのじゃないかと思うので、これらを十分御研究願って、さらにわれわれがこの法案を固めるまでにもう少しちょっと、どなたかさっき資料を出してこられましたが、資料をいろいろ出して、ただ自動車業界だけの法律だということだけでなしに、さらに幅の広い人命救助の意味も含めたものにするためにこういう程度で折り合う、こういう程度になるなら、まず実施してみようじゃないかというものに集約するように一つ御協力願いたいと思います。
  96. 加藤シヅエ

    委員長加藤シヅエ君) ほかに御質疑はございませんか。——御質疑もないようでございますから、本日の公聴会はこれで終りたいと思います。  公述人の皆様方お忙しいところをおいで下さいまして、本案の審査の過程において非常に参考になる意見を述べていただきましたことを厚くお礼を申し上げます。  では、本日はこれにて散会いたします。    午後三時四十八分散会