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長谷川保君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま上程せられました
両派社会党提出の
健康保険法等の一部
改正法案に
賛成をし、
政府提案の
健康保険法の一部
改正法案、
船員保険法の一部
改正法案、
厚生年金保険法の一部
改正法案に対して
反対の意を表明せんとするものであります。(
拍手)
御
承知のように、
近代民主国家は、洋の東西を問わず、また
共産社会あるいはいわゆる
西欧民主主義国家の別を問わず、ことごとく
社会保障制度の進歩した
制度を持ち、
実施をいたしておるのであります。この点は、わが国におきましても、すでに早く戦後アメリカから
調査団が参り、これによって近代的な
社会保障制度を
推進することを
勧告され、これに応じまして
内閣に
社会保障制度審議会ができて、これからあの非常にりっぱな
社会保障制度の
推進の
勧告が出されたのであります。この
勧告に対しましては、
国会におきましても、すでに二回にわたって、院議をもって、すみやかにこれを
推進すべきことを
決議されておるのであります。また、どの政党も、今日ことごとく、この
社会保障制度の完成ということは
重要政策として取り上げておりまして、ことに、先般の総選挙におきましても、今日ここにお集まりのどなたも、ことごとく、この
社会保障制度の
推進ということは公約としてなさったと思うのであります。
しかるに、御
承知のように、昨年あたりからい
日本の
社会保障制度の重要な根幹をなしておりまする
健康保険制度、また
国民健康保険等の
財政、会計に
赤字が出て参りました。この
赤字は、私は、決して、単に悲しむべきものでもなければ、またあわてる
性質のものでもないと思う。これは、明らかに、
日本の
保険医療の
内容が非常に向上いたしまして、そのために出てきた
赤字であるということが、ます第一点として言えるのであります。これは、この反面に、御
承知のように
日本人の
死亡率がずっと減ってきております。でありますから、もし、政治の一番根本になりますものが
国民の
基本的人権を守ることであり、その
基本的人権の根底をなすものは
国民の生命であるということをお考えになりますれば、この
医療の進歩によって、同じ同胞が非常にたくさん死ぬことから免れて、病気が全快していくということが行われておるのでありますから、これは私は決してあわてる
性質のものではない、悲しむべき
性質のものでもない、この
医療費の増大ということは、むしろ積極的に考えれば、おめでたいことであると考えなければならないと思うのであります。(
拍手)
さらに、また、もう一つの
赤字の大きな原因は
結核であります。
結核病が
日本におけるあらゆる
社会の階層の中にびまんしておりまする
関係上、御
承知のように、この
結核に対する
医療費は非常に増大いたしました。これが今日
保険財政が
赤字になっている大きな
理由であります。これは申すまでもなく
社会病であります。従って、これは、個人の
責任というよりも、あるいは単なる一
保険財政の問題というよりも、
国家全体の問題であります。従って、これらにつきましては、
国家が当然その
責任を負って、この
保険財政の
赤字に対してはこれを埋めるという
方策を立てればよろしいのであります。しかるに、この
赤字が出て参りました。昨年及び今年二カ年を合せまして大体の見通しは百四、五億円ばかり
赤字になりはせぬか。これを見ますと、
政府は、非常にあわてて、そうして、何とかしてこの
保険財政の
赤字を埋めるために、今回の
健康保険法及び
船員保険法の
改正を持ち出したのであります。
この
改正の
内容を見てみますと、第一は、先ほども御
説明があったように、被
扶養者の
範囲を被
保険者の三親等以内の
扶養家族ということに限定いたしまして、この者でなければ
健康保険の
診療はこれから受けられないようにする。今までよりもずっと
範囲を狭めようというのである。もしこうなりますと、被
保険者でありまする大
部分の方は
労働者でありますが、この
労働者のお宅のその家計というものは非常に困難が加重して参る。今まで
健康保険で治療できましたものが、今後は三親等以内の者でなければできない、こういうことになってくるのでありますから、これは非常に困難が増して参る。
さらに、第二の
改正点としましては、
標準報酬は今まで三千円以上三万六千円でありましたが、これからは四千円で切って、そうして、それ以下の者は、つまり三千円しか給料をもらっておらない者、たとえば新制中学を出ました勤労
者等の諸君というのは三千円しか月給をもらっておりませんのに、四千円分もらっているものとして料金を取ろうという。これも私はひどいじゃないかと思います。こんなことをなぜする必要があるかと思います。
第三の
改正点としましては、
健康保険診療の不正及び
健康保険の不正受給というものを防ぐために、医者や、あるいは被
保険者の
事業所や、あるいはその居宅にまで立ち入ってその不正を調べようというのであります。今回、これが、民自の諸君が出しました
修正案によって、この
事業所に入ることは
修正されました。けれども、もし
国民のその居宅に立ち入って
検査をするというならば、これは憲法が保障しますところの
基本的人権に対して重大なる侵害をするということを考えなければならぬ。こういうことをなぜしなければならぬか、私は理解に苦しむのであります。
さらに、第四の
改正点としましては、今まで
健康保険に入っておりました者が、たとえば病気になってその
事業所をやめたときに、それからあと継続して
診療を受けることが、
健康保険で許されております期間だけはできるようになっていた。このできるようになっておりました
資格は、その
診療を受けます前六カ月間
健康保険の被
保険者であればよかったのを、今度は
条件を変えて一年間にしよう。一年間被
保険者であった者でなければ、その継続
給付というものは受けられないようにしよう。これもまた勤労者にとっては重大な問題であります。病気になってやめた。生活にいよいよ困難する。そのときに、いよいよこれをやろという。さらに、また、今日のようなデフレ政策下で、中小企業は倒れていく。中小企業はやめてしまった。被
保険者でなくなった。生活が困難になったときに追い打ちをかけようという。一体、こんなことが正しい考え方でありましょうか。われわれは、こういうような
改正に対して
反対であります。
今日
健康保険に入っている諸君の数は、被
保険者、被
扶養者を合せまして二千三百万人であります。二千三百万人の、
日本の生産を背負って立っている一番大事な人々であります。この大事な人々を何ゆえにこんなところに押し込む
理由があるのでしょう。諸君御
承知のように、
日本の憲法は、はっきりと、二十五条におきまして、「すべて
国民は、健康で文化的な
最低限度の生活を営む権利を有する。」「国は、すべての生活部面について、
社会福祉、
社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と、国の
責任がはっきり書いてある。一体、こういうような
健康保険や
船員保険の
改正が、どうしてこの憲法二十五条の
社会保障の向上及び増進に努めなければならないということになるのでしょう。(
拍手)諸君が選挙で公約してきたことと、どうしてこれが合うのでありますか。一体
政府は何を考えているのか、私はまことに疑わざるを得ないのであります。
今回のこの
保険財政の
赤字を埋めるために
政府がやったことは、たった一年間に十億円
補助金を出そうということだけであります。冗談じゃない。もしこれでもって
政府が
補助金を出していると思ったら大間違いだ。なぜかならば、この
健康保険に入っております二千三百万人の人々は、全部厚生年金保険に入っているのであります。厚生年金保険の積立金は、今日、この三月の統計でありますが、すでに千六十五億円に達しております。千六十五億円の、この同じ
労働者がかけております厚生年金保険の積立金の運用は、全部
政府が持ってきてやっています。この運用に対しまして、
政府が払うという予定利子は三分五厘であります。これは、
政府は、三分五厘はさすがに払いかねて、大体五分五厘を払っておりますが、この厚生年金保険の積立金は、
労働者が二十年間かけっぱなしの養老年金が大
部分であります。二十年間の長い間かけっぱなしにしておくものならば、なぜ一体三分五厘や五分五厘の利子を払っておく
理由がありましょう。もっとよけいに利子を払うべきである。こんな長期の安定した資金というものはないのであります。もしこれを八分払うとしますならば、それだけでもまだ二十五億円
労働者によけい払わなければならない。(
拍手)八分に利用しても、もう二十五億円もよけいに払わなければならぬのに、それを払わずにおいて、たった十億円、同じ
労働者の
健康保険財政に出したからといって、補助をしたと思っだら大間違いだ。
労働者は十五億円もよけい損をしておる。こういうわけでありますから、
政府はなぜもっと積極的にこれに対して
国庫負担をするということをなさらないのか。
同じこの
国民の
医療保障をしております
国民健康保険におきましては、先般、御
承知のように、療養
給付に対する二割の
国庫負担を
決議しておるのであります。同じ
国民の健康を守ります
国民健康保険に対して二割の
国庫負担をすでに
決議してやっておりながら、何ゆえ労働階級のための
健康保険にこの補助ができないのでしょう。たった十億円とは一体何でしょう。このような不合理なことは断じて許されるべきでない。新憲法がもし
国民的公平という観点に立つならば、絶対にされるべきではないと思う。従って、わが
日本社会党が
提案をいたしておりまする
健康保険法等の
改正におきましては、この
健康保険に対しましては二割以上の
国庫負担、また
船員保険に対しましては三割以内の
国庫負担ということを要求いたしておるのであります。これは当然のことであります。
さらに、私ども
社会党が要求しております
改正案の中には——今回、
政府は、
行政措置によってやって参ります
保険料率千分の六十を千分の六十五に引き上げて、二十五億円一年間に
労働者及び資本家から金を集めようということをやっている。これにわれわれは
反対である。こういうようなことをしないで、もっと積極的に、もし憲法の条章に
政府が忠実であろうとしますならば、当然二割以内の
国庫負担を
国民健康保険同様にすべきであります。
私は、この、われわれの
提出いたしました
健康保険法等の一部
改正法案に対して何とぞ御
賛成を賜
わり、今
政府が
提出いたされました
健康保険法、
厚生年金保険法及び
船員保険法の一部
改正法案に対して
反対せられるように、切に壇上からお願いをする次第であります。(
拍手)