○鈴木義男君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま問題となっておりまする
憲法調査会法案に対し、反対の意見を表明するものであります。(
拍手)
保守党の諸君、ことに
提案者の諸君は、口を開けば、現在の憲法は押しつけられた憲法である、あるいは、いろいろな言葉をもってこれに軽べつの意を表し、はなはだしきは侮辱をするごとき言動をたくましゅうするのでありまするが、この憲法ができてきた当時の
事情並びに当時の感情をよくお考えを願いたいのであります。(
拍手)
総司令部は、
日本に進駐して直ちに、新しき憲法を
日本国民が制定せんことを求め、当時の
政府に対し、当時の政党に対し、あるいは民間の諸団体に対して、理想的憲法を創案すべきことを求めたのであります。その結果、いろいろな草案ができたことは御
承知の
通りである。あるいは
政府の松本草案のごときものを完成いたしたのでありまするが、当時の諸政党が、社会党も入れて、共産党までも入れて
提出したところの草案というものは、いずれもなまぬるいものであって、明治憲法に毛のはえた程度のものにすぎなかったのであります。ポツダム宣言に約束したところの、
日本を徹底的に民主化するという約束には遠いものであったのであります。そこで、マッカーサー司令部においては、アメリカの憲法学者二、三人が中心となりまして今日最も進歩した世界の憲法はかくあるべきものであるということをモデルとして創案して示すことに相なったのが、この草案を示すに至った来歴であることは、御
承知の
通りであります。
もとより、これが完全無欠なものであるというわけではないから、
修正すべきもの、
修正することを適当とする点は遠慮なく
修正せよという言葉が添えられておったのであります。しかしながら、御
承知の人権宣言といい、基本的人権のごときは、全世界によって認められておるところの人権に関する世界宣言をそのまま採択したものでありまして、(
拍手)一カ条といえどもこれを
修正すべきものは見当らないのであります。(
拍手)現に、われわれは、慎重に、あるいは特別
委員会において、あるいは小
委員会において、十分に逐条的に
審議をいたしたのでありまして、
修正いたした個所も多々あることは、後日速記録が公開せられまするならば明らかになる次第であります。
ゆえに、もし
政府官僚が作った
法案を、われわれがそれを見て正しいとして、
慎重審議した結果通過したら、これは押しつけられたものであるといって、自主的
法律でないという主張が通るでありましょうか。(
拍手)その
内容がよいものであれば、われわれは、決してその作成者の何人たるを問わず、
慎重審議の結果採択することが当然であります。当時三カ月の日子を費し、連日特別
委員会並びに小
委員会において、衆参両院を通じて
審査をいたした結果、ここに成立した憲法に対して、あたかも、与えられたもの、押しつけられたものであるというがごとき言葉をもってこれを侮辱するがごときは、断じて許すべからざることであります。(
拍手)
今回の憲法
調査会設置の意図は、言うまでもなく、公然再軍備を合法化していくために第九条を
改正せんとするところに主
要点があることは明らかであります。(
拍手)私は本日
委員会において
提案者並びに鳩山総理に対して
説明を求めたのでありまするが、ほかの点はすこぶるあいまいでありましたが、この第九条を
改正すべきであるという一点については、両者ともにきわめてはっきりした返事をされたのであります。もって察するに足りるのであります。
およそ、この憲法といえども、もとより完全無欠ではありません。
改正すべきものがあろうことは、われわれも認めるのであります。けれども、これを
改正するには、おのずから適当な時というものがあります。今わが国が再軍備を公然合法化するに適当なる時でありましょうか。世界の情勢をごらんなさい。わが国が、一時朝鮮事変に驚いて、アメリカの、それこそ押しつけによって、警察予備隊を作り、保安隊を作り、これを自衛隊に発展させたのでありまするが、(
拍手)今や、世界の大勢を見れば、平和的共存といい、ジュネーヴにおける巨頭会談といい、何とかして軍備を縮小し、原子戦をなきものにし、平和のうちに世界を維持していこう、軍備縮小によって得るところの余剰
財産をもって後進国の開発のために使おうということが提唱せられておりまするときに、わが国がおくればせながらこれから再軍備をしようとは何ごとでありましょうか。(
拍手)これは断じてその適当なる時でないと信ずるのであります。
その他
改正を要する
諸点について伺ったのでありまするが、大体この
調査会において問題にしようとするところは、天皇の地位の復元とか、あるいは元首に直そうとか、これは断じて国民主権と相いれるものでないとわれわれは信じますが、すでに自由党の提唱せられておりまする
調査会案には出ておるのであります。あるいは、いろいろな面から基本的人権を縮減しようとする企図がうかがわれるのである。あるいは議会の解散を容易にしよう。先ほど鳩山総理が私の質問に対して答えられたのがそれである。現在の憲法でも、白昼公然、内閣の力によって解散をやっておるのでありまするから、何もそんなことを明文化する必要はない。あるいは、家族制度の復活をはかると称して、——われわれは断じて夫婦、親子の小家族を軽視するものではありませんが、親孝行の義務を憲法に
規定するがごときは、道徳と
法律とを混同するものであって、ナンセンスであるということを申し上げなければならぬのであります。(
拍手)これによって、せっかく第二十四条に
規定したところの男女両性の平等あるいは家族の神聖に対する
規定のごときを、再び封建的なものに戻そうとする意図が見えるのでありまして、断じてわれわれの賛成することができないところであります。(
拍手)
あるいは、先ほど
提案者古井君が私の質問に答えたところによれば、たとえば知事の直接選挙のごときものはやめるべきであるということを申しておったのでありまするが、あるいは財政
規定において、あるいは
予算の増額
修正のごときもやめなければならぬということは、総理も答えられておるところであります。そういうことは、憲法の
改正を待たずしてやれることばかりであります。大体、鳩山総理が最高裁判所の職能を
改正しようと言う。聞いてみると、憲法を
改正せずにできることであります。ほんとうに憲法を御勉強になっておらずに
改正を論じておられること、かくのごとくであります。(
拍手)実に、私は、わが国の権威のために惜しむものであります。
そこで、この発議権の問題でありまするが、普通の
法律案でありまするならば、
政府が作成をして
国会に
提案することはもとより当然であります。憲法についでも同じことを申す人がありますけれども、この憲法がいかにして作られたか、そして、憲法はいかにしての
改正を予定しておるかということを考えていただきまするならば、まず、前文において、この憲法は正当に選挙された
国会における代表者を通じて行動し、ここにこの憲法を確定する、こう宣言をいたしておるのでありまして、国民の代表者がこの憲法を確定したのである。従って、この憲法の
改正は、第九十六条に、
国会がこれを発議し、そして国民に
提案してその
承認を経なければならないと書いておるのであります。この憲法の精神は、
国会が作ったものであり、国民の代表たる
両院議員が作ったものであるから、
改正することも、原則として両院が発議の権をとることを予定しておるのである。もし
改正について
調査会を必要とするならば、これを
国会の中に置いて学識経験者の知識を必要とするならば、これらの人々を参与とし、嘱託とし、顧問として活用してやっていくに何の妨げがあるでありましょうか。(
拍手)これを内閣に作って、そうして
政府の仕事として、これを
国会に、それこそ押しつけようとするがごときは、憲法の精神に反するものであると私は断言してはばからないのであります。(
拍手)この意味において、今回できるところの
調査会は、われわれのとうてい賛成することのできない形式のものであります。(
拍手)
しこうして、この大切な
日本の憲法を
改正しようという問題を議するに当りまして、昨日内閣
委員会に
提案されて、わずか三分間の
理由の
説明があって、本日朝十時から
審議に着手いたしたのでありまするが、
提案者に対して一時間、総理大臣に対して一時間質問を許し、私は、
提案者に三十分、総理大臣に二十分の質問しかできなかったのである。(
拍手)これから大いにやろうとしておりましたるときに、突如
質疑打ち切りの
動議を
提出し、多数をもって可決いたしてしまったのであります。(
拍手)のみならず、
法務委員会から連合
審査の申し入れがありましたのにもがかわらず、これを正式に内閣
委員会の議に付することなく、
委員長の専断をもって、理事会に一応意見は徴しましたけれども、あっさりこれを拒否してそうして、わずか前後を通じて二時間半の
審議をもって、ここにこの重大なる
法案を
採決にゆだねたのであります。私は断じて
慎重審議と申すことはできないことを記録にとどめなければならないのであります。(
拍手)
今かくのごとくしてまであわててこの
法案を通過させなければならぬ必要がどこにあるでありましょうか。今かりに
成案がなりましたといたしましても、
国会の議席は三分の一以上はわが革新勢力が占めておるのでありまして、(
拍手)断じて
改正の業はならないのであります。そういう際に、諸君が一日を争い、一時間を争って、この重大な憲法
改正の
審議をなす
調査会を、一日の
審議によってこの
国会を通過させようといたすことは、それこそ軽率のそしりを免れないと存ずるのでありまして、まことに後世のために悲しむ次第であります。(
拍手)
以上の
理由をもちまして、私はこの
調査会案に対しては断固反対の意思を表明するものであります。(
拍手)