○受田新吉君 私は、ただいま上程せられました
恩給法の一部を
改正する
法律の一部を
改正する
法律案並びに両社
共同修正案に対しまして、
両派社会党を代表して
討論をいたしたいと存じます。
戦争犠牲者のうち、特に
国家の至上命令によって、身の危険を顧みず
公務に従事し、不幸
死亡せられ、あるいは傷病の身となられた方々、もしくは
終戦後長期にわたって異境の地に御苦労された方々に対しまして、
国家として責任ある保障の道を確立しなければならないということは、すでに
国民の世論でもあり、また、各政党とも、党派をこえてこれが実現に協力し、両
社会党においても、率先これが推進をはかったところであります。(
拍手)
政府は、この世論の動向、各政党の主張等を根拠にして、去る五月下旬、
恩給法、援護法の
改正案を
提出せられたのでありますが、その
原案たるや、まことに貧弱なる内容で、スズメの涙ほどの
予算措置が講ぜられてあったことは御
承知の
通りてあります。ここにおいて、民主、自由両党は、八百万
遺家族の声に黙し得ず、また世論の圧力にも抗し得ず、独自の
改正案を作成して、
政府原案を撤回せしめるに至った
事情は、お察しするに余りがあるところであります。
ここにおいて、私たちは、民自の
改正案に対し詳細なる検討を加えて参ったのでありまするが、多年にわたって要望せられました
公務死の
範囲拡大の点、受給資格
拡大の点、もしくは
責任自殺者や
戦犯拘禁者に対する救済
措置等においては、一段の優遇の道が講ぜられ、
社会党の要望の一部が取り入れられていることに対しましては、深く敬意を払い、その御労苦に対して感謝をささげるものであります。しかし、ここにおいて問題とするところは、少くとも平
年度において百七十億円の
予算増大となるこの
改正案において、
公務扶助料や
普通恩給の算定
基礎となる
仮定俸給の設立において著しい
階級差が認められ、上に厚く下に薄い軍国時代の体系がそのまま残存されている結果を取ったことであります。(
拍手)
そもそも、
軍人恩給は、従来とも、
軍人が実際に
支給される
給与の額よりも一歩高いところに
仮定俸給が設定せられ、それが
基礎となって
恩給や
扶助料が
支給せられておったのでありまするが、
終戦後幾たびかの
給与改訂に伴い、文官においては常に実際の
支給額を
基礎に
恩給のスライドが行われましたために、武官との間に
仮定俸給設定上に差等が生じて参ったのであります。今回、文官との
均衡を保つための武官の
引き上げという美名のもとに、実は、ことに高級
軍人においては、同等の
給与を受けていた文官よりもさらに高額の
恩給額を設定される現象が起って参りました。すなわち、超党派的に附帯
条件を付して、旧文官の不
均衡是正の
措置を講ぜざるを得なくなったことも、その
理由からであります。
文官との不
均衡のみでなく、
軍人相互間におきましても、一例を
大将と兵長の
普通恩給に徴しましても、
大将は年間約八万円の
増額に対し、兵長はわずかに六千円であります。すなわち、民自案によれば、一人の
大将は十三人の兵長分の
増額であります。また、
公務扶助料におきましても、
大将は依然として曹長以下の英霊の五倍以上の国費をいただいておるのであります。傷病賜金におきまする兵と
下士官との差別のごときも全然是正されておりません。私たちは、一人の元高級
軍人がその
恩給の
引き上げ部分だけを遠慮していただくことによって、逆に下級の元
軍人が十数名も救われ、あるいは、その家族においては、数名の高級
軍人の家族の喜びを遠慮していただくことによって、その日の
生活にも追われるであろう数十名の
下級軍人の家族の喜びたらしめるという善政がしけることを忘れてはなりません。(
拍手)これらの
階級的差別観念を圧縮して、
職業軍人の多い
高級将校の
増額分を取りやめ、
下士官以下を一律に
准士官まで
引き上げるということを基本とする両社共同の
修正案は、平和愛好の民主主義
国家として再建されつつありまする祖国の
現状においては、まさに最適の道ではありますまいか。(
拍手)
両社
修正案におきましては、英霊となられた兵におかれまして約百万人、
准士官、
下士官において約五十九万人、すなわち約百六十万人の方々の御
遺族は、将校たる方々八万人の
増額部分だけの御遠慮により、いずれもその
階級差をなくして、約四万円の
公務扶助料が一律に
支給せられることになっておるのであります。私は、この
仮定俸給表の設定
部分につきまして、願わくば、党派をこえた相談により、下に厚く上に薄い結論を出したいものと、
両派社会党より民主自由両党号考慮を要望したことに対しまして、民自両党におかれましては、厳格なる
階級差をそのままに残すことを主張して一歩も譲られなかったため、やむなく
両派社会党の
修正案提出の運びとなったことを、
関係者の一人として、はなはだ遺憾に存ずる次第であります。(
拍手)
なお、
修正案におきましては、傷病資金の二
階級をなくしたり、
傷病年金増加恩給の請求権を保護したり、一年
未満の軍
公務服役
期間を
在職年に合算したり、もしくは未
帰還公務員に対し
普通恩給の
若年停止規定を除外したりする諸点につきまして、民自案になかったものを含めておるのであります。ことに、これらの
修正点は、人道的、
社会的意義のきわめて高いのにかかわらず、
予算措置におきましては、ほとんど問題とならない少額で済むものでありまして、その実施のきわめて容易なるものばかりであります。わけて、未
帰還公務員の
普通恩給の
若年停止除外や、
死亡の日に遡及して
公務扶助料を
支給するという
修正点のごときは、超党派的に、民自両党の方々を含む海外同胞引揚特別
委員会から正式申し入れのあった事項であるのでありますが、結果的に見てこれら長期にわたる異国残留者の御苦労に対してすら一片の考慮を払われなかったことは、人道尊重の声いずれにありやと問責したいのであります。(
拍手)
今や、日本国内の民心の動向も、国際的の傾向としても、民主主義尊重の観点からは、
恩給のごとき特権的色彩の濃厚なものより脱却して、
国民一人一人の基本的人権尊重の傾向が見られ、
国民年金制への発展は自然の勢いと化しつつあるのであります。
政府においても、最近、
社会保障
制度に関する真剣な研究態度が見受けられ、川崎厚生大臣も、
軍人の
公務扶助料は近き将来
社会保障的性格のものへ転換せしむべきであると発言しているほどであります。しかるに、今回の民自両党案は、これらの
社会的傾向の一切を無視し、
社会の進運を考えず、旧軍国時代の姿そのままに
恩給法体系を厳存せしめようとの企図は、自衛隊を鞭撻し、再軍備推進への一役を果そうとする下心も手伝っていると言って過言ではないと思うのであります。(
拍手)
民自両党各位の良心に聞きたい点は、今回のこの画期的
改正において、この膨大なる
予算的措置において、何ゆえにこれら人権尊重の一端すら考慮しなかったのでありますか。さらには、少数の高級
軍人を守るために、その二十倍に及ぶ
下級軍人をなぜおろそかにしたのであるかという点であります。
以上、要約いたしまするに、基本的には、私たちは、
遺家族に対する
国家保障の見地から、
恩給法改正に対する態度に共鳴をし、両社
共同修正案に全面的賛意を表するとともに、
修正部分を除く民自
原案に対しても
賛成を惜しまないのでございます。ただ、
修正部分を含む民自
原案に対しては、遺憾ながら
反対の意思を表明せざるを得ないのであります。
願わくは、旧
軍人並びに戦死者
遺族のうち、その大半を占める下級者の方々に対するあたたかい心づかいから、民自両党の方々に対し、両社の
共同修正案への御協力を御期待申し上げ、万一本院において御協力を得られない場合におきましては、引き続き
修正への努力をあくまで推進することを念願いたしまして、
討論を終る次第であります。(
拍手)