○飛鳥田一雄君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま提案せられました
憲法調査会法案、すなわち覆面の
憲法改悪について提案者並びに
内閣に対し、いざさか
質問を試みんとするものであります。(
拍手)
去る二月に行われました総
選挙は、まさに平和
憲法を守るかいなかの審判でありました。(
拍手)この
選挙において、
憲法改正への誘惑はいろいろの形で行われたのであります。しかるに、
国民の答えは、明らかに
改正運動の否定でありました。(
拍手)すなわち、わが党を初め平和
憲法擁護を主張する党派が三分の一以上の議席を占めたことがその証左であります。(
拍手)
国民は、今日の
憲法改正論議が、明らかに再
軍備を指向するものであり、人間性を否定し、
国民の基本的権利や自由をじゅうりんせんとする体制を再び作り上げんとするものであることを、今日までの
経験によって見抜いたのでありました。(
拍手)それがすなわち
選挙の結果に現われたものであります。
鳩山首相は、常に民主政治を正しく運用すると申しておられますが、単なる推測や
解釈だけではなしに、総
選挙という厳然たる事実に現われたこの
国民の
意思をいかに
考えられるのか。さらに、
国民のかかる審判に反してまで、かくも急速に
改正の第一歩に入らなければならないほどの弊害が、具体的に
憲法のいかなる部分、いかなる条文に発生しているものであるか。もし発生しつつあるとするならば、むしろその点を明白に
改正することを
公約して、さらに
国会を解散し、総
選挙に圧倒的な勝利を占められた後に初めて
改正手続に入らるべきである。(
拍手)総理及び提案者は、この点についていかにお
考えになっておられるか、伺いたいのであります。
さらに、第二に、本
法案の提案者と賛成者を拝見いたしますと、それは議席の三分の一にも満たない民主党の人々にしかすぎないのであります。しかも、自画党の諸君がこれに加わっていないということは、真に重大であります。新聞等で拝見いたしますと、初め民主党は本
法案を
政府提出とすることに決し、
自由党の賛同を得られた。ところが、幾ばくもなく議員
提出とすることに改め、そうして今度は
自由党の賛成を得られなくなった。この間三転し四転し、社会はその君子豹変ぶりにあきれ返っておるのであります。(
拍手)およそ、
憲法の
改正は、軽々しく行わるべきものではありません。
憲法の第九十九条によって、
国務大臣、
国会議員は、この
憲法を守って、軽挙盲動せざる義務があります。この覆面の
改正手続が、
改正することを必要とするかどうか調べるのにすぎないとかりに言われても、その本質が
憲法改正の第一歩である以上、かくのごとき少数の提案者、そして、かくのごとき自信なき動揺せる
態度によって行われるということは、そもそも
憲法の根本精神にもとるものではないか、同時に、また、
自由党が共同提案に賛成されなかった経緯、保守合同の具に供されたのではないか、こういう点を提案者並びに
総理大臣にお伺いいたしたいのであります。
第三にお伺いいたしたいことは、この
調査会による
改正案が
独立国
日本にふさわしい自主的なものになり得る可能性があるかどうか、お伺いいたしたいのであります。
改正論者の諸君は、
独立国になったのだから
日本人自身の手で作り直さなければならない、こういう点にその主たる
理由を求めておられるようであります。なかんずく、提案者の清瀬先生は、
憲法記念日を国辱の日とすると言っておられるように承わっております。なるほど、
現行憲法の文案はGHQで作られたことに相違はありません。しかし、その
内容が
国民の
意思に反しておるかどうか、国辱的なものであるかどうかということとは別の問題であります。敗戦によって初めて過去の軍国主義政治のあやまちを認め、真の国家のあり方を知った
国民は、新
憲法を喜び、これを希望したのであります。しかるに、今日、明らかに
憲法に違反し、
国民の希望をじゅうりんしておるのは
自衛隊であります。その
自衛隊の増強こそが
改正を迫る第一の要因であることは否定し得ないところであります。(
拍手)
警察予備隊が、朝鮮
戦争の直後、実にマッカーサー指令によって出現し、続いて、吉田
内閣は、
安保条約、行政協定、MSA協定によって、
アメリカに対し
防衛力漸増の
責任を負いました。軍事的義務の履行を迫られて、
自衛隊という、だれの目にも
憲法と同居することができない軍隊を作らざるを得なくなったのであります。今
アメリカの
要請を除外して
自衛隊の成立を論じ得ざることは明らかであります。一昨年
米国のニクソン副大統領が来たときに、
日本に
戦争放棄の
憲法を作らせたのは
米国の失敗だと
言明いたしましたことも、この間の
いきさつを物語って余りありましょう。(
拍手)さらに、
鳩山内閣成立以後に至りましては、
防衛分担金交渉によって財政面、
予算面にまで干渉せられ、軍隊の増強を強制せられているありさまであります。
憲法を
改正せざるを得ない羽目に陥れたのは、たれあろう、朝鮮
戦争以後の
アメリカの政策そのものであります。(
拍手)それまでは、
アメリカの
意思をそんたくしかねて、陰でこそこそやっておりました
改正論が、ニクソン副大統領の御裁可をいただいて急に公然化して参りましたのなどは、むしろ、その小心さにほほえまざるを得ないのであります。(
拍手)すなわち、
改正論は、
日本国民の自主的な
意思に基いたものではなく、
アメリカの
意思に奉仕しようとする人々や、昔日の夢を追うごく一部の人々の
意思に発するにすぎないのであります。(
拍手)
こうした環境の中で
憲法調査会が設置されるとするならば、
アメリカヘの従属をますます深めるための
憲法になってしまうことは、火を見るより明らかであると言わなければなりません。(
拍手)こうした現実、この現実を捨象いたしまして、いかに美しいことを
考えましたところで、それは、しょせん、一個の空想にしかすぎません。鳩山総理は、このような背景のもとに提案されるところの
憲法調査会並びにその結果でき上る
憲法が、真に
日本の
独立と平和を守る自主的な
憲法であると、自信を持って
国民の前で言い得るかどうか。むしろ、ほんとうに
独立国の
憲法たらんとするならば、
安保条約、行政協定並びにMSA協定の廃棄こそがその第一段階ではないか。(
拍手)一方において、余剰農産物の受け入れ等、
日本の政治と経済をがんじがらめにしておきながら、他方において
憲法の自主性をはかるというような矛盾した立場から脱却するための努力こそふ、まず第一に自主
憲法制定の第一歩ではないか。(
拍手)
首相は、かつて
自由党憲法調査会の発足に当って、冷却しつつある
アメリカとの
関係を再び旧に復するため至急成案を得るようにとの発言をせられておるのでありますが、むしろ、現在の段階においては、
現行憲法を擁護していくことこそ完全
独立への第一歩であるとはお
考えにならないか。(
拍手)
首相及び提案者にお伺いをいたしたいのであります。
さらに、第四点といたしましては、
首相及び外相は、今いかなる努力が国際社会の中で払われつつあるか御承知かどうか、こういうことであります。
国際情勢は、今日、全く
戦争とは
反対の方向に動いております。国際的世論に押されて、水と油の
関係にある米ソは、英仏を含めた巨頭会談によって原子
戦争の惨害を未然に防ごうといたしておりまするし、
軍備縮小の問題、原子力の平和利用の問題が
会議の
日程に上り、国連は不戦の宣言をいたしました。また、対米従属によって深められた
日本の政治と経済的危機を救うために、日ソ国交回復、日中通商の拡大、インドを初め東南アジア諸国との友好
関係の樹立が急がれておるわけであります。この時に当って本
法案を
提出せられるならば、いかに
調査会について弁明これ努められようとも、諸外国は、今の
日本が置かれている従属的な地位、そして国内で行われている再
軍備的な
憲法改正論議と、これを分離してそれを理解するはずはありません。このことによって
日本の軍国主義化が進むと
考えるであろうアジア諸国、特に中ソと、
首相及び外相はいかに国交を回復せられていこうとするのか、お伺いいたしたいのであります。
さらに、第五点といたしましては、いわゆる
憲法改正についての
内閣の提案権であります。もちろん、私たちは、この単なる
調査機関の設置法にすぎない本
法案の中で、この重大なる
憲法解釈の問題を一挙に
解決してしまうような
規定を置け、こう言うのではありません。だが、しかし、この問題はやはり今後の
調査機関の運用に重大なる影響を与えるものであり、なかんずく、鳩山総理は、しばしば、
委員会において、あたかも
内閣に提案権ありとせられるごとき発言をせられているのであります。
そもそも、
憲法第九十六条は、
憲法の
改正が、
国会の発議、すなわち
国民に対する
国会の提案と、それに対する
国民の承認とによって行われるものであることを
規定し、単にそれは
国会の可決だけで実質上
完成するいわゆる通常の立法作用でないことを示しております。しかも、その
国会の発議たるや、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で
国会みずからが行わなければならないとせられております。このことは、発議の全過程において
国会の
意思が十分に表明せちれることを
憲法が
要求し、事を慎重の上にも慎重に行うべきものといたしておることを示しております。もし
国会の
意思が十二分に表明せられることを
要求されるとするならば、それは立法作用の全過程にわたるべきものとすることも、これまた当然でありましょう。
言うまでもな、立法作用は原案の起草及び提案に始まります。立法作用は、決して、他の国家機関の起草し
提出したものを討議し、修正し、議決するだけのものではありません。原案にいかなるものが現われるかということは、むしろ全体の方向を決定することすらあります。従って、
憲法が
国会の発議と
規定いたしまする限り、この重要な原案の起草、提案についても
国会自身が行うべきことを
要求していると考うべきことは当然であります。(
拍手)もちろん、
内閣は
国会の信任によって存在しているものでありますが、しかし、その半数は
国会議員でない者を含み得るものであり、しかも、特定政党の性格によって貫かれている行政機関にしかすぎません。従って、それは、
国会が立法機関であるとされているのとは全く異なった
憲法上の地位を持つものであり、この性格の異なる両機関に、すなわち
国会と
内閣に同時並列的に提案権ありといたしますがごときは、明らかに法的無知に基くものであります。(
拍手)特定政党の
内閣が
改正案の起草に指導権を持つがごとき提案権ありといたしますのは、
憲法の精神をじゅうりんするのはなはだしいものがあるとしなければなりません。この点、
首相及び提案者はいかに
考えておられますか、お伺いをいたしたいのであります。
最後に、時間もあまりありませんので、二、三、個条的にお伺いをいたしますが、その第一は、
憲法改正の限界についてであります。すなわち、
憲法は、その前文において
平和主義、
民主主義、
基本的人権の擁護を国家の名誉にかけて全力をあげて達成することを誓っておるのでありまして、この基本的原理はいかなる
改正によっても破壊し得ないものであるはずであります。(
拍手)しかるに、近時行われまする
改正論議は、ややともすれば、
自主独立を口実といたしまして、
基本的人権をそこない、軍国主義的傾向を有するのでありまして、右の基本的原理を逸脱せんとする勢いにあります。この点、提案者及び
首相の御意見を承わりたいのであります。
第二に、
憲法改正の時期であります。吉田前
内閣は、この
憲法改正の時期について、はなはだ抽象的ではありますが、米軍の完全撤退の時期、あるいは
現行志願兵制度が兵力の増大により限界に達したる時期と、各
委員会において述べられておるのでありますが、
鳩山内閣の
考えるところもまた同様であるかどうか、お伺いをいたしたいのであります。
また、
昭和二十八年十一月下旬にホワイト・ハウスに送られたニクソン副大統領の
日本報告には、再
軍備及び
憲法改正へのきわめて楽観的な結論が述べられており、その結果として米当局側は、
日本は一九五四年が
憲法改正準備の年、一九五五年が
改正実現の年と
考えているとの報道がありますが、果してしかりやいなや、お伺いをいたしたいのであります。
最後に、本
法案を通覧いたしますと、本
調査会が
内閣に置かれること、その
委員、
専門委員及び幹事がすべて
首相の単独に任命するところとなっていることに注目せざるを得ません。一体、これによって、言うがごとく中正公平なるべき
調査会が
首相の恣意によって左右せらるべきおそれなきや。また、本
調査会が、その
所掌事務よりして単なる
内閣の諮問機関でないにもかかわらず、
首相の
権限かくのごとく強大なるは一体いかなる意味なのか。また、本
調査会を
国会に置かず
内閣に置くとするのは、いかなる
理由によるものなりや。すなわち、
内閣は一時にして
国会は悠久なるもの、
調査会がそのときどきの政党
内閣によって左右せらるるは、はなはだ危険であります。
首相は
調査会を通じて
国会へ影響を与えようとするものなのかどうか、この点をお伺いいたしたいのでございます。
以上、数点をあげて御
質問を申し上げましたが、
日本の
国民が今何を求めつつあるか、何を願いつつあるかということを十分御考慮の上に、正しい
お答えを賜わりますようお願いをいたしまして、
質問を終る次第であります。(
拍手)
〔
清瀬一郎君
登壇〕