○春日一幸君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
所得税法、
法人税法、
租税特別措置法の
政府提出改正三案並びに
民主、自由両党の共同
修正案に関する
委員長報告に対し、ここに
反対の意思を表明し、以下、その
理由を明らかにせんとするものであります。(
拍手)
そもそも、
わが国の
現行租
税制度は、大
企業や金持ち階級にははなはだ軽くして、一方、零細業者や
勤労者には過重苛酷にわたるものとして、すでに世論の非難はごうごうたるものがあるのであります。(
拍手)しかるところ、
政府提出改正案はこの悪傾向にさらに拍車を加えたものでありますが、特に自民両党の共同
修正案に至っては、もはや世論も外聞も何はばかるところなく、すなわち金持ち一辺倒の本性を一瀉千里の形で露出したものであるのであります。(
拍手)
たとえば、
租税特別措置法におけるこの
政府改正案によりますと、今後、金持ちたちが受ける
預貯金、公社債の
利子所得は、全額これを免除されることと相なります。また、
資本家たちが受ける株式からの
配当所得、これは
現行法では
配当所得年額七十万円まではすでに
無税でありましたのを、
政府改正案では、この
免税点を
引き上げて八十四万円となし、進んで民自両党の
修正案では、さらに株主の利益の大躍進をはかり、実に配当年額百二十二万円までを非
課税とするものであります。けだし、この
政府改正案は金持ちや大
企業に対しわが世の春を謳歌満喫させるところのものでありますが、さらに自民共同
修正案は、加えて、彼らをして欣喜雀躍せしめるほどのものであるのであります。(
拍手)ここに、
預貯金利子、公社債の
免税措置による平
年度歳入減は六十億、
配当控除額の
引き上げによる歳入減は十億でありましてこの金持ち
保護立法による歳入減は合計七十億となるものであります。もしそれ国の財源にしてこの種の余裕ありといたしましたならば、
わが国国民経済の
現状においては、なお先んじて貧しき者のために緊急に処すべき事柄は数限りなくあるでございましょう。(
拍手)
およそ、徴税行政は、
所得のある者に
課税をなし、かつ担税力の強き者からこれを及ぼすのが、その鉄則でなければなりません。今や、
全国の
給与生活君たちは、
夏季手当、年末手当に対する税の
軽減方について、
政府並びに国会に対し痛切なる陳情を続けております。お正月のもち代や、三伏の夏、極寒の冬をしのぐ必要実費である季節手当に
税金をかけるのは残酷ではないかと、世論もまたこの
要求を支持いたしておるのであります。すなわち、この七十億に及ぶ金持ち
減税の財源をか
つて、せめてはこの季節手当に対する税の
軽減だけでも何とか取り計らえというのが、われら
日本社会党の強き主張であります。(
拍手)いかに
資本蓄積の必要ありとはいえ、多数
国民の窮乏を外に、ただただ金持ちと大
企業への
減税に没頭し、まことに緩急前後の序列をわきまえず、かつは租
税制度の
原則をじゆうりんするもはなはだしきものでありまして、かくのごときはわが党の断じて承認しあたわざるところであります。
これが
租税特別措置法の
改正案並びに
修正案に対しわが党の
反対する
理由であります。
次は、
法人税について申し述べます。
民自両党の
修正案によりますと、
所得金額のうち、五十万円以下の
部分に対しては三五%の
税率をもってし、それ以上の
所得には四〇%の
税率を適用するとあるのであります。しこうして、これをもって中小
法人の
税負担の
軽減をはかったと称しておるのでありますが、それならば、この
修正案の恩恵を、いわゆる中小
法人のみに限定せず、大
企業、大
所得法人へもひとしく青天井で全面的に適用する
理由は何でありましょう。言うならば、これは、今次
政府改正案によって
法人税は四二%から四〇%に下げられたものを、さらにこの
修正案によって、一
法人につき五十万円の五%、すなわち二万五千円ずつの総花
減税をむぞうさに加えたものであ
つて、これは中小
法人も
法人としてその中に介在していたというにすぎないものであります。これが中小
法人を特定した税の
軽減措置などとは、とうてい理解いたし得るものではありません。
わが党の調査によれば、大
企業、大
法人は、
現行租税特別措置法その他各種税法上の
優遇を受けて、すでに年間八百億をこえる税の
軽減を受けておるのであります。現に、二十九
年度においては、価格変動準備金として
控除された税額百二十八億、貸し倒れ準備金において七十四億、退職準備金において百七億、
輸出減税特別
措置において四十億五千万、増資配当
免税において十五億、
企業合理化法による特別償却費六十億、重要物産の
免税五十億、さらに交際費の
損失算入容認によって概算三百億、その他発電会社に対しては渇水準備金として十三億、船会社に対しては特別修繕費として三億三千万、鉱山に対しては新鉱床買入金
控除制度によって一億五千万、証券会社に対しては違反
損失準備金として一億、損害保険事業に対しては異常危険特別積立金として二十一億等々でありまして、これが
現行租税特別措置法が大
企業、大
法人の
所得に対し特に
課税の免除を行なっているものの概要であります。かくて、大
法人の実際上の
法人税負担税率は、各種の
控除を通算いたしますると、その法定
税率四二%応対し、その実行
税率は実に二五%ないし三〇%にも及ばないものであるのであります。しこうして、中小
法人は、この
租税特別措置法の適用を受けようとしても、現実にはその
適用条件を具備していないので、その結果、四二%の法定
税率一ぱいの
課税を受けているという
実情であります。
かくのごとくにして、
税負担の権衡は大きく破れ、担税力と
課税との比例関係が逆転しておるので、よって中小
法人に対する法定
税率を下げよという
要求は当然のことであり、これは捨ておきがたき
現行法人税法上の大いなる欠陥となっておるものであります。しかるに、
政府改正案においては、この問題に触れることをことさらに避けて、ただ
資本家
団体の声にのみ従い、ここに一率二%の
減税をはかることとし、また、民自共同
修正案においては、没理論、現実無視の観念的悪平等の無理じいを行なって、
法人全般に対しさらに二万五千円ずつをまけるという、実に総額十億円にわたる大盤ぶるまいを行なつたのであります。まことに、
資本主義政権は、
資本家の
要求に対しては、あたかも放射能を受けるガイガー計数器のごとく鋭敏かつ正確に反応を示すのであるが、
中小企業者や
勤労者の声に対しては、まるきりのからつんぼで、何を訴えても、ただ聞えないふりをしているということは、ただただあきれ返るばかりであります。(
拍手)
まことに、民自両党の五十万円の
段階課税の
修正案こそは、いつそこつけいと言うのほかはなく、これは、本
年度の予算案が、民自両党によって、バナナのたたき売り式に、元値とつけ値をたして二で割
つて妥結したものでありましたので、この
修正案もまたそれを反映したものでありましょうが、これはあまりに即興的で、出まかせで、この
修正案によっては
法人税法上の懸案は何一つ
解決されたものはないのであります。
ここに
法人税法政府改正案による平
年度歳入減九十一億七千万円、さらに自民両党の
修正案による歳入減十億円でありまして、今次
法人税法改正による収入減総額は一百一億七千万円であります。これら歳入の減少は、しよせんは、零細業者たちへの水増し
課税や、さらには大衆への
間接税によって補完するの余儀なきものでありましてかくて貧富の懸隔は一そう増大され、両階層の相剋はさらに激化の一途をたどるでありましょう。
わが国行財政の将来をおもんばかり、まことに深憂にたえません。
これに対するわが党の主張は、
普通法人税の
税率は
現行通り四二%に据え置いて、この財源をか
つて、
租税特別措置法の恩恵を受けざる中小
法人に対し特に一二%を下げて、その中小
法人税税率を三〇%となし、もって大小
法人相互間の
税負担の権衡をはかり、加えて
中小企業の窮乏を救わんとするものでありました。(
拍手)しかるに、わが党のこの正論は、民自両党にと
つてはまさしく馬の耳に風でありました。かくて、
租税学界の定説は無視され、中小
法人の切々たる
要求をほどよくあしら
つて退けたのが実はこの
改正案と
修正案でありまして、かかるごまかし立法は断じてわが党の容認し得ざるところであります。
これがこの
改正案と
修正案に対するわが党の
反対する
理由であります。
次は、
所得税法について申し述べます。
一萬田大蔵大臣は、その財政演説において、
現行税制においては
低額所得者に対する
税負担が過重であるから、特にその
負担の
軽減をはかる旨を、実にしばしば強調されておるのであります。しかるところ、この
政府改正案によりますと、たとえば
夫婦子供三人の事業
所得二十万円の者は千七百五十円の
減税となり、その
所得一万円当りの
減税は八十七円でしかありませんが、これが、同じ事業
所得百万円の場合は
減税額三万七千円となり、その
所得一万円当りの
減税は実に三百七十円となるのであります。また、
給与所得者について検討いたしまするならば、
夫婦子供三人の標準家庭の
世帯主は、月給二万円の者は月百四十一円しか
減税されないのに、月給十万円の人は月当り三千六百四十五円の
減税となるのであります。扶養家族四人をかかえる月給取りに対し、その月給十万円の高額
所得者に対しては一万円につき三百六十四円の
減税を行う一方、その月給二万円の
低額所得者に対しては一万円につき七十円しか
減税しないような、そんな
改正案を出しておいて、それで
低額所得者の税の
軽減をはかるなどとは、かりそめにも言えた義理ではないでありましょう。まことに荒唐無稽な、から宣伝と申しても決して過言ではないと思うのであります。いみじくも一萬田大蔵大臣が指摘したことく、
わが国の
現行租
税制度は、収入の乏しき者にその税は過重でありますから、当然今回の
改正に当
つてはこの
低額所得者への
減税に重点が置かれなければなりませんのに、本
改正案のもたらすものは実にその逆であるのであります。
さらに、民自両党は、この
所得課税に対し、選択概算
所得控除の新制度を設くるの
修正をあえて行なつたのであります。この選択
控除の制度は、
納税者の選択により、社会保険
控除、
医療費控除及び
雑損控除にかえて、一万五千円を
限度額として
所得金額の百分の五を
所得から
控除せんとするものでありますが、かかる
措置は、
勤労者の大
部分は現に社会保険、厚生年金、失業保険に加入して、すでにこの
部分に対する税の
軽減を受けておるのでありまするから、この
修正によっては何ら
新規の
減税とはなり得ないものであります。しかのみならず、本制度によれば、
納税者がかりに社会保険その他から離脱して、その保険料の
支払いをやめた場合、この新制度によって差引年間一万五千円の
相当額がその者の手元に残り得る計算となるものでありますが、かかる
措置は、社会保障制度の
拡充強化の最も急を要するのとき、まさにこれに逆行するものであり、社会保険の将来に最もおそるべき暗影を投ずると思うのであります。まことに、この
修正案は、社会保険料の
支払いを行なっておる者と、しからざる者とに対し、画一無差別の取扱いをなさんとするものでありまして、これは明らかに社会保険加入者の現に有する税法上の既得権をここに剥奪するものであるのであります。特に川崎厚生大臣の注意を喚起してやみません。もしそれ民自両党の
修正案にしてこれが
低額所得者に対する税の
軽減を全図するものでありといたしましたならば、すべからくその財源は
基礎控除の
引き上げもしくは扶養
控除の
引き上げに回すべきものでありましょう。この
修正案は、まるで立ち話の思いつき以上に格別の根拠ありとは思えず、まさに奇矯に過ぎるものでありまして、かくの如きはわが党の絶対承認しあたわざるところであります。
ここに
所得税法改正に対するわが党の当面の主張は、
夫婦子供三人の標準家庭においては、年間
所得二十四万円までの
所得は、それは生活に要するぎりぎりの実費であるから、かかる生活実費に対しては
課税すべきではないというのが、その主張の根幹であります。すなわち、
基礎控除は八万円とするも、扶養
控除は、最初の一人を四万円に、その他の扶養親族はすべて一人につき二万五千円とし、かつ、事業
所得者に対しては、
中小企業の時を分たぬその過重労働を参酌し、特別勤労
控除の制度を新設し、その
控除額を四万五千円とし、一方、
給与所得者に対しては、
現行勤労
控除率百分の十五を百合の二十とし、かつその
限度額を七万円に
引き上げることによって、それぞれ二十四万円までの
所得を非
課税にせんとするものでありました。このわが賞の主張は、まさに徴税理論上完璧なものであり、かつは税収の関係においても即時実施可能なるものであったのでありますが、
政府並びに保守両党は、あらぬ遁辞を設けて、ついにこの当然にして最小
限度の
要求をすらも退けたのであります。
かくて、
わが国の
税制は、貧しき者より収奪し富める者へ貢献するという、まことに異様なる風貌と怪奇なる姿勢を整えて参りました。この税法
改正三案とその
修正案によって、貧しき者はいよいよ窮乏し、富めるものは一そうに繁栄するでありましょう。もはや、
資本家政権の存続する限り、
勤労者と少額
所得者の
税金はとうてい
軽減されるものではないということが、ここに目に痛いほどあざやかに示されたのであります。(
拍手)
なお、この際特に非難せなければならないことは、現
内閣においては、所管の一萬田大蔵大臣を初めとし、
経済閣僚たちは、
税制に関してはほとんど無知無定見のごとくであります。また、
鳩山総理大臣が
税制改革に対し具体的な抱負経綸を述べられたことを、私はいまだか
つて耳にいたしません。かくて、
租税行政はもつぱら税務官僚の恣意にゆだねられていると思うのであります。現に、この重大なる
租税三
法案の
委員会
審議に当
つて、一萬田大蔵大臣の
委員会出席はきわめて悪く、重要なる政策論議はほとんど行い得ないという状況でありました。特に
政府の猛省を促すゆえんであります。
以上申し述べました
理由により、ここに
勤労者を初め
中小企業者の
税負担はいよいよ重くして、緊急これが
軽減を要望されるのとき、この
政府改正案並びに民自両党
修正案は、いずれもその
実情に沿わないのみならず、むしろそれに逆行するの改悪案とも称すべく、よって、わが党はここに断固としてこれに
反対し、その再検討を求めるものであります。
以上をもって私の
討論を終ります。(
拍手)