○
穗積七郎君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいまの
日米間の
農産物に関する
協定に対し
反対の態度を明らかにし、その
趣旨を簡潔に申し述べたいと存じます。
本
協定は、これを一言にして申しますならば、自由、民主両
内閣が共同して、
アメリカの二百十四億円ばかりの
借款のえさに飛びつき、それによって
アメリカの
農業恐慌を
日本に持ち込もうという、おそるべきものでございます。(
拍手)しかも、この二百十四億の
借款に飛びつかざるを得なくな
つた原因は、年々苦しくなって参りました
軍事予算の中での
財政投融資のやりくりのためでありますが、さらに、この
予算の上で
増兵の
義務を負
つたのは、昨年の
MSA協定に伴います三十六億円の
小麦代金のプレゼントによってであり、また本年の
防衛分担金交渉によって背負い込んだものであるとするならば、
日本は、
アメリカのあり余
つて捨てるよりほかはない
余剰農産物の巧妙なる操作にひつかかって、
増兵の
義務と
農業恐慌の二つの荷物を一緒にになわされることになると言わなければなりません。(
拍手)これは、
アメリカにと
つてはまさに一石二鳥の外交でありましょうが、
わが国にと
つてはエビでタイをつられたことになりますし、ますます
アメリカ国に対する
従属性を増すことになるのであります。われわれの根本的に容認し得ざるところは、ここにあるのでございます。(
拍手)
今や、
アメリカを中心とする
世界的農業恐慌への危機は、すでにおおうべくもなくなりつつあります。
アメリカにおいては、
生産制限をいたしました昨年度においてすら、
小麦九億七千万
ブッシェル、
綿花において一千二百六十万俵の
生産であり、一方、その
対外輸出は減少するばかりで、
小麦は、前年度におきまして三億六千万
ブッシェルから、昨年度は一億一千万
ブッシェルと激減をいたしております。従って、滞貨はふえるばかりでございます。昨年度の夏の在庫を調べてみますと九億二千九百万
ブッシェルに達し、これは
年間の
アメリカ消費量の四割以上も上回るものでございます。そこで、二十五億
ドルの
余剰農産物を
市場から凍結する
政策をとり、また、CCC、すなわち
商品金融会社の
融資限度を八十五億
ドルに引き上げても、なおかつその
市場価格は常に
支持価格を下回っておるのであります。
このような
アメリカの
農業事情にあるのに対しまして、
日本は今日
世界最高の
買手国でありますが、このたびの
協定の分約五十万トンは、もとより
通常輸入の上積みとしてしいられたものでございます。このことは本
協定の
基本法であります一九五四年法百一条、百六条によって明瞭でありますが、
政府はすでに、この
通常輸入量として、
年間小麦七十五万トン、大麦二十万トン、米二十万トン、
綿花二十七万五千俵、
葉タバコ二千九百トンは必ず
輸入いたしますと
アメリカに約束しておることは、われわれ
外務委員会の
審議においても明らかとなっているのでございます。
政府は、
農産物は今後ますます
買手市場になることを認め、本
協定も必ずしも来年度に継続して
締結しなくともよいと
答弁いたしておるのでありますが、このたびの
借款が世界銀行との
借款となり、
長期の
国内におきまする
財政投融資計画に織り込まれておるのでありますから、やめようといってもやめられるものではないし、またやめるつもりのないことも
審議を通じて明瞭とな
つたのでございます。(
拍手)さすれば、
政府がいかに
食糧の
自給政策を唱え、
国内の
農家経済の
保護を
宣伝いたしましても、それをわれわれは信ずるわけには行かない。
このたびの
協定に
伴つてアメリカが
日本国内で
使用するところの九十二億円のうち、最低七億二千万円が
日本国内における
農産物の
市場開拓のために
使用されること、さらに
政府は米の
統制撤廃政策を指さしていること等をあわせ考えますならば、低
賃金政策の下積みとしての低
米価政策をあえてねら
つていることが明瞭となるのでございます。低
賃金のための低
米価は、保守党の諸君の背景たる
独占資本の最もこいねがうところでございましょう。遠い将来と言わず、すでに昨年度の
MSA小麦によって
わが国内の麦価が圧迫を受けたことは隠れもない事実でございます。また、乳製品も、すでに
需要停滞のために、その
関係中小企業家や
酪農家が四苦八苦していることは
政府も否定し得ないではございませんか。われわれは、全国五百五十万戸の
農家とともに、このような
協定に強く
反対の意思を表明するものでございます。(
拍手)
さらに進んで、今後
日米間の
経済並びに物価の諸
情勢を判断いたしますならば、円と
ドルとの
為替レートは、彼に有利、われに不利であることは言うまでもありますまい。そういたしますならば、このたびの
ドル決済または
ドル換算決済は、ただ単に円価の
国際信用にかかわるという面子の問題ばかりではなく、もし一
ドル三百六十円の
レートが五百円に変るような場合を仮定するならば、このたびの
借款二百十四億は、元金だけで一躍三百億にはね上るのであります。このたびの
協定の
交渉中の大きな
問題点の一つは、このいわゆる
ドル条項でございました。ところが、結局、
ドル借款、
ドル決済を原則とし、
ドル資金の不足したときは
円換算払いの
撰択権が認められましたが、実質的には
ドル条項をのまされたと同じことにな
つたのであります。従って、
ドルを使わずに円で買えるという
政府の
宣伝は大半がから
宣伝となりましてたとい
長期払いにいたしましても、
ドルで買わざるを得ない羽目にな
つたのであります。これまた、われわれの
賛成し得ざる主要な点でございます。
次に、本
協定を
わが国の
貿易促進の
立場に立ってながめますならば、今日われわれが行うあらゆる
輸入は、常にその裏側に
輸出への利益のことを考えていかなければなりません。
輸入の大宗たる
農産物輸入を
アメリカ一辺倒に傾けることは、
見返り輸出を考えていない片手落ちと言われても弁解の余地はございませんでしよう。このたびの
協定促進に対しまして、カナダ、アルゼンチン、オーストラリア、その他東南アジア諸国等、米麦の
輸出国がことごとく心よからずながめていたことは事実であり、さらに、ある意味におきましては、このことは当然でございます。これら諸国への
輸出上の打撃は、
わが国の
輸出への打撃となってはね返
つてくるのでございます。特に、
経済交流を推進しようと言っておる東南アジア諸国は米を主要
輸出品といたしておりますから、これを圧迫することは、これに対する
わが国の
見返り輸出をみずからふさぐものでありまして、これまた、われわれの断じてとらざる
政策であると信じます。
最後に、本
協定の外交
政策上のねらいについて一言いたしておきたいと存じます。
本
協定は、言うまでもなく、昨年のMSAによる
協定とは異なり、
農産物に関する一九五四年法を
基本法とするものでありますが、この
法律のねらいとするところは、
アメリカの
農業市場の自己防衛を目的とするのみならず、特にその第百四条において共同防衛の強化を要求しており、さらに、第三百四条等においては、受け入れ国とソ連や中国など共産主義諸国との
経済的離間策を明確にうた
つておるのでございます。かかる二つの世界の対立と抗争を目的とする
経済外交
政策に対しては、われわれと根本的に相いれないものがあるのでございます。現
政府といたしましても、独立外交を標榜し、中ソとの国交回復または
貿易促進を唱えておる以上、その外交
政策とははなはだしく矛盾するものではありませんか。
なお、
協定の細目につきましては、たとえば、焼き捨てる以外にない過剰
農産物の、しかも品質の粗悪なる在庫品を
市場価格で買い取らなければならぬという不利な点、また、
アメリカの商船法九百一条に拘束されまして、最低五〇%の
アメリカの積み船を用いなければならないという点、さらに千五百万
ドルもの
贈与分の加工賃十八億を
日本国民が負担しなければならないという点等々、ことごとくわれわれの不満とするところでありますが、これらは時間の都合上割愛いたしましても、すでにさきに述べました根本的なもろもろの
理由によって、本
協定に対する
反対の
理由としては十分であるとわれわれは確信いたします。
今からでもおそくはありませんから、自由、民主両党の議員諸君にも御賛同を得まして本
協定が否決されることを願いまして、私の
討論を終る次第でございます。(
拍手)