○永井勝次郎君 私は、日本社会党を代表しまして、ただいま提案
説明のありました
石炭鉱業合理化臨時措置法案に対しまして、鳩山首相を初め関係各
大臣に対し二、三
お尋ねをいたしたいと存じます。
本
法案は、石炭鉱業の深刻なる不況と石炭労務者及びその家族の悲惨なる生活を背景として提案されたものでありますが、その
考え方は、石炭鉱業を日本経済自立の基礎産業として確立しようとしておらないのでありまして、大手鉱山の独占支配の機会として
利用しようとしておるのであります。その日のかてにも困っております、一家飢えに泣いております労務者及びその家族にあたたかい救いの手を差し伸べようとはしないのでありまして、首切りの好機としてメスをといでいるのであります。(
拍手)
〔
議長退席、副
議長着席〕
われわれは、この
法案にひそめられておるこれらの野心を賢明に見通して検討しなければならないと
考えておる次第であります。
第一は、石炭鉱業合理化
計画に基く石炭鉱業整備についての諸問題であります。
政府は、能率の悪い中小炭鉱三百万トンの生産分を買いつぶして大手炭鉱に集約し、労務者二十八万人を二十二万人に整理する
目的をもちまして、炭鉱整備事業団を作り、
政府出資四十億円、残存鉱山負担分四十億円、合計八十億円の
資金を作りまして、この仕事を推進する予定のようであります。
政府は、今回の
措置を通じまして、中小炭鉱を買いつぶして大手炭鉱の独占化を強化し、労務者の首切りを正当化して、大手炭鉱中心の安定をたくらんでおるのであります。
そこで、中小炭鉱の整理の問題であります。
政府は三百万トン程度を公表しておるのでありますが、実際はもっと多く、五、六百万トン程度をねらっておるのではないかと
考えられるのであります。現在の炭鉱数は八百八十ありまして、そのうち、年産五万トン以下の小鉱山は七百三十、生産高にしまして六百二十万トンとなっております。年産五十万トン以上を大手鉱山としまして、十八社、一千三百万トン、五万トン以上を中鉱山としまして、百二十六、生産高一千九百万トンでありまするが、縦坑その他の合理化施策は中鉱山以上に重点的に行われるのでありますから、生産能力がぐっと向上して参りますことはもちろんであります。需要量は生産能力の増強に比例して拡大されるかといえば、生産過剰の苦しみはなお相当
長期にわたって続く見通しであります。そういたしますと、買いつぶし三百万トンは少な過ぎる計算となるのでありまして小鉱山六百二十万トンはそのまま整理対象にならざるを得ないではないかと思うのであります。整理
資金は八十億よりありません。一応この
資金に見合う整理量を公表して、あとは買い上げの実際を通して手かげんを加え、今年買ってもらいたいというのが再来年にならなければ買えないというような時間的なズレによって自殺を待ち、あるいは金融なり石炭価格の
評価の
措置なりによりまして自然淘汰をさせるなど、整理
資金を使わないで整理の実効をおさめようとする底意をこの案の中にはひそめておるのではないかと思うのであります。また、労務者の整理、二十八万人を二十二万人にする六万人首切りの計算におきましても、買いつぶし三百万トン、生産四千九百万トンの基礎に基くものでありますから、最小限度の数字でありまして、これらの計算の動きによりましては、さらに出血多量の公算が大であると
考えられるのでありますが、この点はどうでありますか。
このような中小炭鉱の買いつぶしと労務者の出血の上に、大手鉱山の集約が行われ、その独占が強化されるわけでありますが、その助成に至りましては、実に至れり尽せりの
措置が講じられておるので、この点は一驚せざるを得ないのであります。縦坑六十八本、四百億円、これを含めまして、合理化
資金の
政府投融資は一千二百九十億円であります。もっとも、この中には若干の自己
資金を含んでおるのでありますが、一千二百九十億円、金利は五分五厘であります。復金その他旧債三百二十億円はたな上げをして、税金におきましては損金認容
範囲の拡大、鉱産税、固定資産税など大幅な減税
措置が予定されておるのであります。現在三井、三菱、住友、北炭、常磐の大手五社の生産は、全生産高の四〇%を占めております。合理化完成時におきましては、五〇%目上の独占が完成される見通しであります。もし大手五社を含めた大手十八社といたしますならば、現在でも全生産の七〇%を占めておるのでありますから、合理化完成時には八。彩以上を支配することとなるのであります。中小炭鉱の労務者には金一封の香奠で引導を渡し、どさくさまぎれにこれを残存大手鉱山に集約いたしまして、その
経営の安定のためにあらゆる優遇
措置を講じようとすることは、独禁法の
趣旨に照しましても傍若無人なやり方ではないかと思うのでありますが、これに対して通産
大臣の明確なる御答弁をわずらわしたいのであります。(
拍手)
第二は、石炭の需給量とコスト引き下げの問題についてであります。需要量は合理化完成時に四千九百万トンと見込まれております。二十九
年度は四千二百万トンの生産で六百万トンの貯炭となり、生産過剰が今日の危機の原因になっておるのであります。新しい需要面の開拓に積極的でないこの合理化
計画の
内容から見ますと、重油の消費規正を考慮に置きましても、需要予想は過大に失するのではないかと思うのであります。一方、生産能力は今後の合理化
措置によって急激に増大されるのでありますが、需要がこれに伴わないので、生産能力は操短によって死蔵するほかに道はないのであります。コストの五〇%は労務費であり、投下
資金の償却や金利負担の
増加、炭質の低下及び採掘費の上昇などを予定されるのであります。そして、
政府は標準価格を指示することができるのでありますけれども、相手は独占を強化した大手炭鉱であり、営利会社であります。生産原価を無視した計算を押しつけるわけにはいかないし、また、ある程度の適正利潤も見込まなければならないとするならば、コストは引き上げられても下る根拠はどこにもないと思うのであります。もしコストの引き下げができないとするならば、この
法案の実施は全く無意味になってしまうのであります。(
拍手)残るのは中小炭鉱と労働者の犠牲だけであり、得をするのは大手炭鉱で、その独占と
政府のそれに対する財政投融資や減税
措置だけでありまして国民の犠牲は断じて承服し得ないどころであります。(
拍手)生産
計画量は
政府が指示することができることとなっておるのでありまするが、合理化完成
年度において、もし予定の四千九百万トンを消化し得ない事態となりました場合は、その過剰分を
政府が買い上げるとか、その損失を補償する用意があるかどうか、また、二割のコスト引き下げが不可能となった場合は、その政治的責任をどうするのか、この点を明らかにしていただきたいと思うのであります。
第三は、労働対策についてであります。
政府の合理化
計画によりますと、今後労働者の賃金は上げない、現在員二十八万人は二十二万人に整理をするということになっておるのであります。現在の労働条件は、不況にあえぐ鉱山の経済的条件に圧縮せられまして、非常に低下しておるのであります。請負制のごとき、一日十一時間あるいは十二時間労働というようなひどいところも少くないのであります。自分の生命にやすりをかけるようなこの労働条件を放任しておいて、この土台の上に石炭鉱業の合理化を建設しようと
考えておるのでありますか。驚くべきことは、石炭鉱業合理化
計画の
内容には、賃金をストップするという定めだけがあるのでありまして、労働条件の合理化のごときは全然話題にもなっておらないということであります。こういう労務者を生き埋めにするような石炭鉱業合理化
計画の合理性を、通産
大臣と労働
大臣から承わりたいと思うのであります。(
拍手)もし労働条件を正常な形に是正しようといたしますならば、現在の二十八万人は整理をする必要がなくなるのではないかと思うのでありますが、この点はどうでありますか。
政府は、整理される労働者を失業対策として吸収しようとしておるのであります。鉄道工事の川崎線のごときは、まだ未確定であります。
一般公共事業も、鉱害復旧工事も、現在程度の
予算をもってしましては、申しわけにもならぬ程度の些少なものにすぎません。現地鉱山はすでに深刻な様相を呈しまして、三食を満足に食べられる家庭がなくなっておるというような状況であります。これが受け入れと生活保障について、
政府はいかなる用意を持っておるのであるか。単なる失業対策としてではなく、
計画的な職場転換として、将来明るい希望の持てる方向への動員態勢の確立が今日ほど重要な時期はないと思うのであります。
政府の誠意ある答弁を求むる次第であります。(
拍手)
最後に、石炭鉱業の合理化を徹底しようとするならば、このような中途半端なものではいけないのであります。経済の総合
計画の中における石炭鉱業の合理化であり、総合燃料対策の一環としての石炭鉱業の
性格において推進せられなければならないと
考えるのであります。縦坑のごときも、何か縦坑を掘ればそれですべてが解決されるような安易な
考え方を持っておるのでありますが、縦坑は、まず入り組んでおる鉱区を整理統合して、整理統合された鉱区の中の一番合理的な地点に縦坑をおろす、こういうことから出発しなければならないのに、現在は入り組んだ鉱区を不合理な条件そのままに縦坑をおろそうとしております。これでは効果は半減であります。また、大手炭鉱といっても営利会社であります。営利会社に集約し、その独占を強化しても、国民経済の上にそれが生かされて参らないのであります。また、需要の開拓につきましても、都市のガス事業の強化であるとか、石炭化学工業の振興であるとか、画期的な拡大施策を推進しなければならないのでありまして、この場合、油に対抗するための深刻な諸施策が強力に行われなければならないと
考えるのであります。また、石炭産業が国の基幹産業として、その安定振興をはかるためには、現
政府のやっておるような私企業の形態においては、この
目的は達成できないと思うのであります。最終的には国有、国営を断行し、そろばんをはずして国の基幹産業としての
経営を確立し、最も合理的な形における、国民経済の立場における強力な推進が必要であろうと思うのであります。政治の民主化、これは経済の民主化の基盤の上に確立されなければならないと
考えるのでありまして、この点について鳩山総理
大臣の御所見を承わりたいと存ずるのであります。(
拍手)
〔
国務大臣鳩山一郎君
登壇〕