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小泉政府委員 ただいま
濱地議員より御
紹介のありました
新宮地区検察当局者等の
職権乱用に関する
請願につきまして、今日まで
当局が
調査いたしました
本件に関する事情を御説明申し上げます。
本件請願者福田三代太が和歌山地方
検察庁に対して告訴、告発した事案は、塩見四郎、谷畑与三郎等八名を犯人とする森林窃盗、同幇助、詐欺、同未遂、横領、有価証券偽造行使、印章偽造、証憑隠滅、背任及び威力業務妨害等十種の罪名にわたる延べ二十四個の犯罪事実にわたっておりますが、同地検新宮支部において、この告訴、告発
事件を捜査中、さらに昭和二十八年六月二十八日大阪高等
検察庁に対しまして、新たに谷畑与三郎及び谷畑新一について詐欺未遂の事実ありとして告訴して参ったのであります。これらの
事件のうち、和歌山地方
検察庁新宮支部が受理した塩見四郎及び谷畑与三郎等八名にかかる告訴、告発
事件については、同庁において昭和二十九年七月十九日中止処分、すなわち犯人の所在不明の理由によりこれ以上捜査を継続し得ないための中止処分、または不起訴、すなわちある事実については犯罪とならず、ある事実については犯罪の嫌疑なしとの処分に付し、他方大阪高等
検察庁が受理した谷畑与三郎及び谷畑新一の両名にかかる詐欺未遂告訴
事件は、当時和歌山地検新宮支部で捜査中の前記告訴、告発
事件と一連の
関係があり、むしろその
事件の根幹ともなるべき事案であることにかんがみまして、これを和歌山地検に移送することなく、直接同高検の
検事を主任とし、慎重
取調べを進めたのでありますが、その結果、これも昭和二十九年十一月九日に至り、犯罪の成立を認めるに足るだけの証明なく不起訴処分に決したのであります。
これらの多数の告訴、告発事実の基礎ともいうべき事案の概要について多少御説明申し上げたいと存じますが、およそ次の
ような次第であります。すなわち、
本件請願者福田は、昭和二十七年八月ごろ尾崎某より和歌山県東牟婁郡下の山林立木を買い受けたのでありますが、その後昭和二十七年十二月中旬ごろ、この尾崎の仲介によって塩見四郎に対しまして、この立木を二百五十万円で売却するという契約をなし、
本件福田は二十八年二月までに五回にわたりこの塩見から九十万円を受領していたのであります。しかしながら、この十二月中旬に
本件福田と塩見の間に結ばれました契約には、込み入った条件が付されており、さらに、その後二十八年一月には、その条件の内容も変更されており、こういう複雑な事情が錯綜しておりますので、さきの契約が売買契約の予約であったと見るべきか、売買の本契約であったと見るべきか、あるいはまたこの立木の集団についての所有権は依然として
本件福田に帰属して、いたものとみるのが相当かなどの点につきまして、業界の慣習その他に照らして困難な問題を腹蔵しておったのでございます。
その間にあって、昭和二十八年二月中旬、谷畑与三郎は、この立木について所有権を有するという塩見から百九十五万円で買い取ったのでありますが、谷畑自身は、塩見と
本件福田との間のただいま申し上げました
ような複雑な事情を詳細に知らなかったため、問題の立木は自己の正当な所有に帰したものとして、二十八年六月中旬ごろから八月中旬ごろまでの間、塩見四郎とともに同立木集団の素材約四百石を山から搬出したのであります。これに対しまして
本件福田は、その立木は
自分の所有に帰属するものであるから谷畑与三郎及び塩見四郎等の行為は森林窃盗であるとなし、冒頭申し上げました
ように和歌山地方
検察庁に対し、この事実を含む多数の事実について告許、告発をいたしたのであります。
他方谷畑与三郎及びその息子新一は、その立木は塩見から適法に買い受けたもので、同人等の経営する会社の所有に帰しておるとの見解に基き、裁判所に対し、右の立木及び素材の所有権の確認訴訟を提起
——この民事訴訟はいまだ係属中
——したのでありますが、これに対しまして、
本件福田は、谷畑親子はこの立木の所有権が塩見にも移っておらず、自然塩見から所有権の移転などということもあり得ないことの事情を知りながら、ことさらに裁判所に虚偽の事実を主張し、誤まった確認判決を得、それによって福田の立木及び素材を騙取し
ようとしたものであるとなし、詐欺未遂の告訴を大阪高等
検察庁に提起したのであります。そこで大阪高等
検察庁におきましては、これらの立木及び素材をめぐる事情を捜査し、あらゆる観点からこれを検討いたしたのでありますが、その結果によりますと、
本件の立木、素材の所有権はやはり
本件福田に帰属し続けていたものと認めるのが相当であるが、高度の法律知識を有せず、かつもっぱら塩見を相手方として行動していたにすぎなかった谷畑親子について、当時塩見が
本件立木、素材の所有権を取得していなかったものであるという事情を知っていたと認めるに足る証拠がないというのであります。従いまして、谷畑親子につきましては、詐欺の犯意がなく、犯罪の嫌疑がないとして不起訴処分とされたのでございます。
他方、塩見自身につきましては、
本件福田との取引の経緯から見まして、福田から
本件立木、素材の所有権の移転をいまだ受けていないことを
承知していた疑いがありますが、同人は昭和二十九年一月ごろから所在不明となり、その点について同人を取り
調べることができない事情にあるのであります。従いまして、和歌山地検新宮支部におきましても、塩見が
本件福田所有の素材を搬出窃取した事実及び塩見が福田所有の立木、素材を自己の所有と偽わり谷畑親子をだまして金員を詐取したという事実等につきましては、同人の
取調べをなし得ぬ以上、その犯罪の成否は断定し得ない
関係にありますので、これらの件につきましては、塩見の所在の判明するまで起訴を中止する処分にいたし、以後継続してその所在を捜査いたしておるのであります。以上の捜査過程におきましては、地検、高検を通じ、きわめて詳細、綿密な
取調べ検討がなされ、その間
本件請願のごとき、告訴、告発人に対する圧迫、あるいは
検察官の
職権乱用等があるかのごとき疑いを差しはさむ
ような事実は、一点も存しておらないのでありまして、正当な捜査であり、かつ、正当な処分であったと申し上げざるを得ないのでございます。
なお、福田は別に法務大臣及び
検事総長に対し、この捜査に
関係ある
検察官数名を懲戒処分に付すべき旨の陳情書を提出しておるのでありますが、この陳情は後に取り下げられておることも付言いたします。