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片山参考人 お招きにあずかりましたのでただいまより
接収不動産に関する
借地借家一
臨時処理法案に対して
意見を申し述べます。
ただいまより申し上げます
意見は、私個人の
意見ではなくして、
日本弁護士連合会の
決定いたしました
意見でございます。私はただそれを陳述するにすぎないことを御
承知願いたいと思います。
日本弁護士連合会は
司法制度調査委員会というものを常置いたしておりまして、全国の
弁護士会から百名の
委員を選びまして常時いろいろの
法案その他について
意見を
決定いたしております。
本法案につきましては数次上程されまして、
連合会といたしましても本
委員会並びに参議院の
委員会へたびたび参りまして
意見を申し述べておりますから簡単に申し述べることにいたします。
結論から先に申し上げますと、
本法案は
憲法違反であるという
結論を
日本弁護士連合会は
決定いたしておるのであります。すなわち
憲法二十九条は、御
承知のように
財産の不可侵を定めております。そうしてこれが例外といたしましては、
公共の
福祉に関する場合に制限を許しております。そういう場合におきましてもなお何らかの
補償をこれに与えなければなりません。ある一部の人の利益のために他の
財産権を侵すことは絶対に許されないものと解釈するものであります。そうだといたしますならば、
本法案は、過去に遡及してある一部の者の
不利益のためにある一部の者を救うという結果になるのであります。これはいわゆる
公共の
福祉ではなくて、単なる一部の者を助けるための
法律だと考えなければならぬ。なお法は
不利益に遡及しないというのが大
原則であります。
本法案が過去にさかのぼって遡及してその効力を及ぼすのでなければ
本法案の
意味はございますまい。
本法案を拝見いたしましても、すべて遡及してその
権利を制限するのであります。そうだといたしますならば、法の不遡及の
原則はこわされるわけでありまして、これらいずれの
議論よりいたしましても、この
法案には絶対不
賛成なのであります。
なお第二に、
本法案は非常に時期を失したという
うらみがあるのであります。
昭和二十六、七年度から御立案になりまして、
意見を
連合会にも求められたのでありますが、終始一貫して、
連合会といたしましてはすでに時期を失しておるということを絶えず申し上げたのであります。それが二十八年度、二十九年度、三十年度とすでに
議論を発してから五年間を経過いたしておるのであります。御
承知のように
終戦後に
罹災都市借地借家臨時処理法が制定されましたが、それの十条によりますと、
昭和二十六年六月三十日をもって、いわゆる
登記のない
建物をもって対抗し得るという、あの
法律によって定めました
対抗要件が消滅したのであります。それでありますから、もしこの
接収不動産の中に、あの
罹災都市云々の
法律に含まれるものがあるといたしますならば、その
土地あるいは
建物については自由に処分して、
第三者はこれに対抗し得るのであります。そうだといたしますならば、それ以後に
権利を取得いたしました者が、
接収地の
不動産、
土地等につきまして
第三者にこれを一譲渡し、あるいは処分した場合において、
本法案が
適用されるといたしますと、
不測の
損害をこうむらなければならない。時期におくれたということはこれをもってしても明らかなのでありまして、すでに
罹災都市借地借家臨時処理法そのものが非常に
変態な
法律でありまして、あの単なる一片の
法律をもってあれだけの
権利を抑制したのであります。しかしながら、当時は
御存じのように、国民はぼう然自失しておりますし、すべて
罹災都市は焼け野原になっておりまして、直ちにそこに何らの処置を講ずる人はほとんどなかったのです。そうでありますから、あの
法律の制定施行されることによって、一部の
混乱を防ぎ得たことは事実であります。しかしながらあの
法律のために、いまだに新宿あるいは
池袋等においては訴訟ざたが絶えない。仮処分のやりっこをしている
場所もあるのであります。不備な
法律であり
悪法であると称される
変態の
法律でありますがゆえに、そういう事態を生ずるのであります。
本法案をもしここに制定、施行されますと、善良なる、いわゆる許されたる
権利者を非常に害する結果になることを憂えるのであります。それがゆえに第二には、時期におくれたものであるということを申し上げて
反対の
理由といたします。
第三に、
本法案は正当な
権利者の
権利を侵害するにかかわらず、
損害の
補償が十分に与えられていないという
うらみがあるのであります。もちろん
連合会としては、
憲法違反という建前をとりますがゆえに、これらの細目にわたって検討するの要はないかもしれませんが、もしかりにこれが
成立いたしますとするならば、
接収される当時に所有していた
土地建物の
所有者は
不測にそれを侵害されているのであります。そうでありますから、これらの者が十年を経過した今日において、
罹災都市借地借家臨時処理法その他によって許されたものとして、
自己が他に処分し、あるいはどうかしている場合において、単に
法案を拝見すると、借賃その他について、あるいは
相当な条件という文句がございますが、いずれも
統制令のもとにおかれた
補償にすぎないと考えられます。そうだといたしますならば、譲渡の対価あるいは借
賃等に
先取特権を与えられましても、十分なる
補償にはならないと考えられるのであります。しかも
経済状態は非常に変動いたしておりまして、今日この
法律を施行することによって害される率ははなはだ多く、それに対する
補償ははなはだ少いと考えなければならないのであります。
第四に、
本立法によらなければ、いわゆる
接収当時の
借地人、
借家人の
権利の
擁護ができないだろうか、こういう問題であります。これは本日はいただきませんでしたが、一昨年度いただきました
参考資料によりますと、
判決が二、三載っております。これらは、這般の
事情をすべて考慮いたしまして、
権利のある者については
判決によってこれを認めておるのであります。それゆえに正当な
権利者は保護されているといわなければならない。だからこれらの
人たちは、その間において
自己の正当な
権利を
裁判所に訴えて、いろいろな
事情をしんしゃくして、
自己の
権利の遂行ができたはずであります。今さらこれを
法律によって一律にいたしますことは、その
権利を有する
人自体にとっても、単なるおせっかいにすぎないんじゃないかという気がするのであります。ごらんのようにこの
法案においては、単に
接収当時に
建物が滅失し、あるいは期限が到来したもののみを保護する
本法案の
趣旨のようでありますが、そうでなくて、すべての場合において、
裁判所の判断において正当に保護されるものは保護されるようにすべきが当然であって、
本法案を今さら十年後に設けてこれを制約することは、当を得たものではないと考えるものであります。
それから第五に、
本法案は各条とも不明確な字が多いと申し上げたいのであります。これは皆さんも
御存じのように、先ほど申し上げました
罹災都市借地借家臨時処理法は天下の
悪法とみなす人が多いのであります。一条、二条、三条とたどっていきますと、現在解釈に苦しんで、
裁判所もいまだ判例を確立していないものが多々ございます。これらの
文字をそのままほとんど踏襲されたのが
本法案のようであります。そうだといたしますならば、前の
法律は
混乱の際にできたものでありますからよろしいといたしましても、現在すっかりみな冷静に返り、平和に返っている今日において、問題の残るような
文字を羅列して
本法案を制定されることは、
疑義のみ生じて、あるいは目的とされる
権利の
擁護にならないのではないかというおそれがあると考えるのであります。二、三これらについて申し上げてもわかりますように、最初に
本法案の目前として掲げられている第一条は、「
安全保障条約第三条に基く
行政協定を実施するため
日本国に駐留するアメリカ合衆国の
軍隊若しくは
日本国に駐留する
国際連合加盟国の
軍隊等に
接収された
土地又は
建物に関し」
云々となっております。そうしてこの定義としての第二条は旧
土地工作物使用令、これはもう廃止になった
法律でありますが、これによって
接収されたもの、または今の国が
建物の
所有権を
賃借したもの、あるいはこれも問題でありますが、「
賃借権者から直接その
占有に移した
行為」こういうものが列記されているのであります。第一の問題はいわゆる
安全保障条約第三条に基く
行政協定、これは二十九条もある、しかも長い条文でありまして、こういうものを引用して果して
解決ができるでしょうか。しかも
土地工作物使用令のごときは、もう数年前に廃止された
法律であります。これらのものを引用してこれらの
解決を求めようとするには、多大の
疑義の起ることが予想されるのであります。しかもただいま申し上げました「
賃借権者から直接その
占有に移した
行為」というのがありますが、これは果してどういうところへ限界を求められるか。進駐軍がお前の家を
自分の家にしたいというような場合にはどういうことになるか、これらの問題についても
疑義は全然
解決されないと考える。なお前の
罹災都市借地借家臨時処理法で常に
裁判所で問題になりました
賃借の
成立後の
対抗要件の問題、申出
権者、これは
転借人その他の者に認める範囲、権原による
使用許可の問題、正当な事由の
問題等、多々
解決されない
文字がこれに使用されておりまして、われわれから考えますと、いす少し洗練された
法律であれば別として、
疑義は多大に生じてくるものと考えるのであります。いずれにいたしましても
連合会といたしましては、第一に根本の問題として、
本法案は時期をおくれて、しかも法の大
原則に反し、しかも
憲法の条章にまっこうから反するものだ、こういう
意味において、法の
擁護のためにかくのごとき
法律の
成立を阻止したいと考えておるのであります。
簡単でありますが、一応の
意見を申し上げます。