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1955-07-16 第22回国会 衆議院 法務委員会 第37号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年七月十六日(土曜日)     午前十一時二十八分開議  出席委員    委員長 世耕 弘一君    理事 三田村武夫君 理事 福井 盛太君    理事 田中幾三郎君       高橋 禎一君    林   博君       眞鍋 儀十君    生田 宏一君       小林かなえ君    船田  中君       横川 重次君    猪俣 浩三君       神近 市子君    福田 昌子君       細迫 兼光君    佐竹 晴記君       戸叶 里子君    細田 綱吉君       吉田 賢一君    志賀 義雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 花村 四郎君         厚 生 大 臣 川崎 秀二君  出席政府委員         警  視  長         (警察庁刑事部         長)      中川 董治君         検     事         (刑事局長)  井本 臺吉君  委員外出席者         労働事務官         (婦人少年局婦         人労働課長)  谷野 せつ君         労働事務官         (婦人少年局婦         人課長)    高橋 展子君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 七月十五日  委員牧野良三辞任につき、その補欠として横  井太郎君が議長指名委員に選任された。 同月十六日  委員淺沼稻次郎辞任につき、その補欠として  戸叶里子君が議長指名委員に選任された。 同 日  委員原彪辞任につき、その補欠として福田昌  子君が議長指名委員に選任された。     ————————————— 七月十五日  売春等処罰法制定促進に関する請願外一件(池  田清志君紹介)(第四二三〇号)  農民の均分相続に関する請願笹山茂太郎君紹  介)(第四二五四号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  売春等処罰法案神近市子君外十八名提出、衆  法第一四号)     —————————————
  2. 世耕弘一

    世耕委員長 これより会議を開きます。  売春等処罰法案を議題とし、質疑を行います。質疑通告順によってこれを許可いたします。細迫兼光君。
  3. 細迫兼光

    細迫委員 売春等処罰法案に対しまして各方面からの世論も沸き立っておりまして、論議も出尽した観がありますし、なお逐条審議の段階に入っておりまする今日、私は法案中の純法律的の問題、ことにこの売春等処罰法案における現行犯観念をでき得るならば確立しておきたいという考えから、以下簡単な若干の質問をいたしますが、刑事局長並びに提案者から御意見を承わりたいのであります。この罪の成立は、第二条の要件を具備したときに完了、すなわち既遂になること、これは問題がないと思います。そこでこの現行犯の問題でありますが、この観念を確定しておく実利というものは、やがて取締り上において、あるいは逮捕、検挙という問題におきまして具体的な影響関係を持つと思いますので、明確にしておく必要があると思うのであります。また人権擁護の立場からも明確にしておく必要があると思うのであります。一般的に罪を行い終ったとき、これが現行犯であることは刑事訴訟法の明確に規定しておるところであります。さてこれを現実売春行為の場合に当てはめたとき若干の疑問があるのであります。対償を得る約束をもって性交をなし終ったとき既遂に相なると思うのでありますが、その罪を行い終ったとき、あるいは部屋の中で、あるいは寝床を同じゅうして罪を行い終ったとき、この場合においては現行犯として扱うのに疑問はないと思うが、明らかにいわゆる売春宿と十目の目する場所におきまして、売春相手方たる男性がその家の戸口から出てきた瞬間、この場合は一体現行犯として認めることが妥当でありましょうかどうでありましょうか、御意見を承わりたいと思います。
  4. 猪俣浩三

    猪俣委員 細迫委員答弁いたします。現行犯とは何ぞやという問題は、刑事訴訟法の二百十二条に相当詳細に書いてありますし、なおまた判例としてもほぼ、学説としても大略、これは既成概念として成立いたしております。われわれが本法に用います現行犯の意義も、もちろんこれと同様で、判例及び学説に従う解釈をとっておるものであることは申すまでもありませんが、今その学説判例精神から御設例の怪しげな家から性交を終った者が出てきた場合に、戸口において現行犯として逮捕できるかどうかという問題は、今までの判例態度及び学説から考えましても、現行犯を認めることは無理ではなかろうかと考えております。しかしながら事態によりましては、あるいは現行犯と認識してもいい場合もなきにしもあらずで、すでに怪しい家で怪しい行為をやっておるということを見当をつけて、あるいはおまわりさんが戸口で待ちかまえておって、そこへ女に送られて肩の一つもたたかれて、また来てちょうだいなということを言われたのを見たとします場合に、これあるいは現行犯なりとして巡査が逮捕することがあり得ましょうが、それが現行犯逮捕となるかならぬかは諸般事情によりまして、検事あるいは進んで裁判になりましたならば裁判所が、具体的な事情を総合して判定するよりいたし方がないと思います。大体抽象的な意見を申しますならば、その現場にあらずして、その家から出るようなところまでを現行犯とするということは、提案者としては考えておらない次第であります。
  5. 井本臺吉

    井本政府委員 お答えいたします。刑事訴訟法所定現行犯観念は、刑事訴訟法に記載のある通りでございますが、私これを非常に狭くというか、厳格に解釈しております。売春のような隠秘のところで行われる犯罪につきましては、理論的には現行犯ということは考えられますが、実際問題としては容易にあり得ない問題ではないかと思うのでございます。先ほどお尋ねのような寝床男女が寝ておった、それが売春宿であったというような場合には、まず現行犯というていいと思いますけれども、それでも厳格に言いますと、いわゆる売春等処罰法の二条の性交を行なっておったのであるかどうかということについては、相当疑問がありますし、わずかにその程度であれば、現行犯として取り扱ってしかるべきであるという程度で娼家から女を買ったと思われる男が出たというような場合には、二百十二条二項の方の、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるという状況であるかどうかは、相当疑問があるのみならず、その準現行犯には誰何せられて逃走したとか、あるいは身体被服に明らかな証跡があったとか、そういうものがないとその扱いはできないのでありますから、先ほど猪俣委員から御答弁のように、女に送られて肩をたたかれたというようなことだけで、果して現行犯に準ずる準現行犯であるといえるかどうか、相当疑問があると思います。しからば身体被服にどのような証跡があれは現行犯といえるかという問題になりますと、具体的な問題を検討いたしませんと、今抽象的にはちょっとお答えいたしかねるので、私は全体の問題としては売春行為だけにつきましては、理論的には現行犯ということはたやすく言い得ますけれども、実際問題としては容易にあり得ないというように考えております。
  6. 細迫兼光

    細迫委員 私は一般的に戸口を出るときという設例を持ち出しまして、後に次々、また来てちょうだいといって肩をたたかれた場合、あるいは明らかに売春婦と認められる者と相手方男性とが同伴をして売春宿から出てきた場合というように設例をいたして質問をいたそうと思いましたが、大体これらの設例についての提案者並びに刑事局長の御意見は、今までの質疑応答によりまして大体察しがつきますから、その点に深入りすることは時間の関係もあって控えます。だがしかし、売春問題におきましての現行犯ということが、観念的にはあり得るが実際上は非常にまれであろうということ、これも観念的には申されると思いますが、全般の場合は必ずしもそうでないと思います。     〔委員長退席三田委員長代理着席〕 たとえばこの法案にあります勧誘罪のごとき、これはしばしば現行犯があり得ると思うのであります。これは言葉そのものといたしましては、お客さんいいところへ御案内しましょうという場合が具体的に多いと思うのでありますが、場所その他諸般事情によりまして売春についてのあらゆる条件を具備しての勧誘であるという察しがつく場合が多いのであります。その勧誘し終った状況は、これは本法案に言いまする勧誘罪現行犯として取り扱って差しつかえないではないかと思うのでありますが、御両所の御意見を拝聴したいと思います。
  7. 猪俣浩三

    猪俣委員 細迫委員も御承知の通り刑事訴訟法の二百十二条には現行犯の定義があげられております。今刑事局長売春等については現行犯というものは考えられないような答弁でありましたが、これは提案者とは多少違っておる。たとえば刑事訴訟法の二百十二条に規定しておりますように、罪を行い終ってから間もないと認められる場合に、犯人として誰何せられて逃げたような場合には現行犯とするという規定があります。さような要件を具備いたしまするならば、おいこらと言った際にぱっと逃げたとすれば現行犯として逮捕できるということが刑事訴訟法でも出てくると思いますから、いわゆる売春等処罰法には現行犯というものは現実としてはないのじゃないかということはないと思う。あり得ると考えます。今細迫委員の御設例のような勧誘罪についても私は現行犯という場合があり得ると思う。ただ人権保障観念調和いたす意味におきまして、むやみに現行犯なりとしてこれを現行犯処分することはいかがであろうかと考える。なぜならば売春行為をしなければならない、しかも売春とは報酬を得たりあるいは得る約束をもって性交したということにならなければ売春にならぬのでありますから、そのような犯罪構成要件が具備したかどうかということを判認するということが現実においては困難な場合が多いから、従って現行犯として認定するということは、諸般事情上全く困難である。これは罪を行なったという確固たる事情がない限りむやみにこれを現行犯として処断すべきじゃない。今法務省のこういう方面の権威である井本政府委員提案者よりもその点について慎重であることに対して、私は井本氏と意見は違いますけれども、取締り当局態度としてはしかるべきものだと考えて、むやみに現行犯呼ばわりをしないように提案者としてお願いする次第であります。
  8. 井本臺吉

    井本政府委員 先ほど申し上げましたのは、今度の法案の第二条に関係する場合において、現行犯という場合が非常に少かろうという趣旨で申し上げましたので、お尋ね勧誘関係におきましては、人の目の前で行うということも十分考えられますので、さような場合においては二百十二条の、現実に罪を行いあるいは行い終った者を現行犯とするというのに該当する場合もこれは容易に考えられると思うのでございます。
  9. 細迫兼光

    細迫委員 提案者猪俣君からもお言葉が出ましたが、誰何せられて逃亡しようとする者、これも現行犯として扱われることになっております。さっき設例売春宿と明らかに看取せられる結果、売春相手方たる男性が出てきて誰何せられて逃亡しようとしたという場合はいかが取り扱われるか。すなわち現行犯として取り扱ってよいというお考えであるかどうか。これは局長から一つお話を願いたいと思います。
  10. 井本臺吉

    井本政府委員 二百十二条の規定通り、罪を行い終ってから間もないと明らかに認められる場合であって、しかも誰何せられて逃走したというようなものでないと、現行犯として扱えないと私は考えるのでございます。従って売春宿から男が出てきて、誰何されて逃げたというだけで果して罪を行い終ってから間もないと明らかに認められるかどうかということは私は相当疑問があるというように考えております。
  11. 三田村武夫

  12. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 主として法案につきまして二、三伺いたいと存じております。この第四条周旋行為と第六条の行為の差異を伺いたいのであります。そこで説明書あるいはその他の御発言によりまして、この周旋行為というものが大体売春あっせんあるいは取り持ち役をする、こういう行為と解します。そこでこのような場合はいずれに該当いたしましょうか。例をもって申しますれば、場屋の中で業者もしくは行為者でない第三者売春契約を交渉し成立せしめるこの場合は、周旋行為に該当するのでしょうか、もしくは六条の売春をさせる契約に該当するのですか、この点いかがでありましょうか。
  13. 猪俣浩三

    猪俣委員 御設例によりまして答弁することになりますが、御設例がある場屋提供した者が客を入れて、売春さした場合に、第四条になるか、第六条になるか、こういう御設例でありましようか。もう一ぺん質問の要旨を…。
  14. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 場屋、つまり売春のための場所でありますが、場屋の中において、場屋経営者あるいは管理者あるいはその他の使用人あるいは行為者にあらざる第三者が、売春行為者となるべき男性に対して、売春契約申し込みをする、成立あっせんをする。そして、当該行為者であるべき婦人に伝達をする。こういう場合はどちらに該当するのでしょうか。
  15. 猪俣浩三

    猪俣委員 その場屋経営者あるいは管理者であるということになりますと、第七条との関係も出て参りまして、それが営利を伴うということになると、第七条の関係が出てくると思います。そこで御設例は、第七条に該当しない行為であって、その今の行為四条であるか、六条であるか、こういう御設例であると仮定いたしまして、この四条周旋というのは、六条のこういう契約をさせるように運ぶ行為であって、正式に甲の男と乙の女とを第六条の違反に持っていくような行為をする場合でありますから、今の御設例のような場合は、どの程度具体的になっておるか、その具体的の事実がなければ、どちらとも判定ができないのでありますけれども、六条に至るまでの仲介行為、こういうふうに考えておるわけであります。
  16. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 そういたしますと、この周旋行為というのは、第一には当該行為者であるべき婦女との間に、意思を通ずることが必要であるのでしょうか、ないのでしょうか。
  17. 猪俣浩三

    猪俣委員 それは、意思を必ず通じなければならぬというわけのものじゃないと思います。周旋する人がそういう周旋する意思を持っておれば、犯罪構成要件である意思があると見て差しつかえないと思います。
  18. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 売春行為目的とする売春契約というものは、行為者間の契約というのを想定されておるのでしょうか。そうではなくして、むしろ常態としては第三者介入して、契約成立せしめて、それを行為者に伝達するということを主として想定されておるのでしょうか。
  19. 猪俣浩三

    猪俣委員 第四条とか、六条は、売春する婦女及びその相手方売春行為を導くに至る、道程、第三者介入を排除するための立案でありますから、そういう売春行為までに導く仲介者、どうかといえば、これは刑法の幇助罪あるいは教唆罪になるべきものを、特に独立罪としたわけで、共犯関係に立っておる場合でありますけれども、四条も六条も、これは、婦女にこういう契約をさせるまでに導く行為、こう御理解願いたいと思います。
  20. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 私が疑問に思いましたのは、売春行為目的とする契約というのは、行為者男女間の契約常態として大体御規定になったものであろうか。それとも、そうではなくして、第三者介入して契約あっせんをし、もしくは契約成立せしめる。そういうことがあり得ると思うのです。なぜならば、経営者もしくは業者親方、楼主などに、売春行為目的とする契約をなすことを包括的に委任するということもあることであります。またそういうことも現実にはあるだろうと思うのです。一々見知らぬ相手方に対して売春承諾をする、あるいは見知らぬ相手方に対して男が売春申し込みをするということは、むしろ異例ではないであろうか。青線区域のごときに至りましては、第三者介入して、契約あっせんから成立いたしますまで、これをなしている。そして行為者意思を代理して行う、こういうことが常例ではないかと思いますので、それをお伺いしたのであります。そういたしますと、売春契約は、男女行為者契約申し込み承諾をして成立せしむるということを常例とするという考え方であるのか。それのみに限るというのであるか。あるいはそうでない、むしろ第三者介入常例であるというふうにお考えになるのか。その三つはどういうふうに理解したらいいでしょう。
  21. 猪俣浩三

    猪俣委員 これは第三者売春行為介入することを防止するという趣旨で立案されているものでありまするがゆえに、いろいろの態様が出てくると思うのです。たとえばすでに前から頼まれて、いい男があったら世話してくれと頼まれてその相手を物色する、あるいは男から女を一つ世話してくれと頼まれて相手を物色する、そういう場合も含まれるでありましょうし、またみずから甲の女、乙の男を眼中に置いて、それを媒合するという場合もありましょうし、結局その第三者が介在したために売春行為が行われたという協力関係者処罰するという趣旨に御理解願いたいと思うのです。実際の態様はいろいろな様態が起ってくると思いますけれども、法の精神はそこにあるわけでありまして、結局において婦女売春行為を禁止する一つ態様といたしまして、その協力者処罰する、こういう意味であります。
  22. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 そういたしますと、また別の問題といたしまして、これは設例になりますけれども、ある婦女売春契約申し込みをした場合——今の場合は、甲男乙女第三者介入することを禁止するというのが四条、六条の立法趣旨である。婦女に対して直接に売春行為契約申し込みをした場合には、どういうふうに扱うべきでありましょうか。
  23. 田中幾三郎

    田中(幾)委員 四条と七条の関係の点でございますね。これは四条の第一に「売春周旋をした者」というのがあります。つまり個々売春行為あっせん、取り持ちであります。七条は、売春行為をさせる、つまり売春婦となることを承諾をさせる内容の契約をする。前借をして売春婦となって働くという契約をする、その申し込み承諾をする。つまりこれは人身売買関係してくる。概括的に申せば第四条の第一号と六条の契約申し込み承諾をした者というのはそういうふうに大きな相違があるのであります。それでありますからこの罰則におきましても、単に個々行為売春周旋をする、これは一年以下の懲役または十万円以下の罰金、それからまた人身売買に該当するような醜業婦契約をさせた者は、五年以下の懲役または三十万円以下の罰金ということになっております。
  24. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 御質問申した点は、四条並びに六条に該当しない場合であって、なぜならば、四条及び六条は男女行為者に当らぬ第三者売春行為介入することを禁止した規定である、こういう御説明である。そこでしからばこの当該婦女子に対して男が直接に売春申し込みをしたものは犯罪になるかならぬか、こういうことです。
  25. 田中幾三郎

    田中(幾)委員 男性が女性に対して売春申し込みをした、しかし女に断わられひじ鉄砲を食った、この点じゃないかと思います。つまり男としてはこれは未遂罪ですね。売春をやろうと思って女に申し込んだけれども、ひじ鉄砲を食って未遂に終った、これはこの条文によって罰しておりません。五条においては、欺いたり困らせたり、特殊関係を利用してやろうと思ったけれども、女がいやがって逃げた、これは非常に悪性でありますから未遂罪として罰する、こういうふうに解釈しております。
  26. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 刑事局長に伺いますが、昭和二十二年勅令第九号の例の婦女に売淫をさせた者等処罰に関する勅令でありますが、第三条に前二条の未遂罰を罰する、こういうこになっておるのであります。そこでこの規定は、親方とか業者とかそういう者を処罰するものと私は解しておるのでございます。そこで広く全国に条例もできておるようでありまするが、現行勅令並びに条例を通観いたしました際、ただいま申しました婦女に対して直接男性売春申し込みをするという行為は、これは放認されておるのでしょうか、もしくは処罰されることなっておるのでしょうか、この点いかがですか。
  27. 井本臺吉

    井本政府委員 お答えします。勅令第九号の関係のこの第二条の処罰すべきものは、いわゆる人身売買といいますか、売春業者婦女売春をする契約をした者に対しての処分規定でありまして、先ほどから私傍聴しておりますが、自分が売春をしたくて、女を買いたくて婦女申し込みをしたというような者をこの罰条が対象にしておるというようには私は考えておりません。さような場合にはこの条文によっては処罰されないのであります。
  28. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 一般の地方公共団体条例にはそれもないのですか。
  29. 井本臺吉

    井本政府委員 勅令九号にあるようなものにつきましては、ほかにいろいろの規定の仕方がございますけれども、これは法律になっておりますので、この方が優先されてというか、優位に立って適用されておりまして、これに類似の婦女管理規定などを規定したものもございますけれども、この方は法律としてその効力が発揮されておるように考えております。
  30. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 それから脱法行為について伺いたのであります。第七条は、営利目的をもって売春につきましての場屋提供あるいは管理し、経営する者を処罰する規定のようであります。そこでいつの委員会でありましたか、どなたかの質問がありまして、脱法行為の例が上げられておったのであります。脱法行為の一例といたしまして、たとえば第七条は営利目的といたしますから、営利目的としないで場屋提供をし、あるいは施設管理をするような場合にはこの処罰規定に該当しないようでありますが、これも設例をいたしますと、税金を免れることを主たる目的といたしてクラブ組織となし、会員組織となしまして、場屋提供をなし、そうして実費と称して経営費管理費を持ち出していく、こういうことでクラブがよくはやったものでございますが、営利目的をはずすために吉原にクラブができるということも想像されるのであります。そういう場合には、この法律案といたしましてはどういうふうに扱うことになるのでございましょう。
  31. 猪俣浩三

    猪俣委員 実は本法案の骨子は、こういう売春施設経営または管理者を厳罰に処するという趣旨でありますが、しからばその範囲をどこまでに限るかということは、人権保障の問題との調和がありまして、そこに売春取締りの非常に困難があることは、吉田委員も御存じの通りだと思います。そこで売春施設経営または管理者処罰するにいたしましても、ただ漠然としておりましては、そこに処罰範囲が広範囲に過ぎて、人権保障との調和を欠くおそれがありますので、それをしぼる一つの手段といたしまして、営利目的ということをいい、なお売春を行う場所を供与することを主たる目的とする施設、こういうふうにしぼったのであります。そこで今御設例のように営利目的でないという理由、あるいはこの売春を行う場所を供与することが主たる目的じゃないというような立証が、裁判所なりあるいは検察庁なりに明らかになりますならば、第七条の違反とはならないと存ずるのであって、そういうようなクラブ的なことをやって風紀を乱すことはけしからぬとおっしゃるのはもっともなお話でありますけれども、そこまで処罰範囲を広めることはいかがであろうかということで、人権保障との調和点におきまして、この七条のような二つの目的によってしぼったのでありますから、全く営利を伴わないほんとうの社交クラブみたようなもので、お互い知り合い男女がそこで交合をやっておった、歓楽を尽しておったとして、ハレムみたいなものができたといたしましても、本法案ではそこまで踏み込まない趣旨で立案されておるのであります。
  32. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 私は第六条並びに第四条もしくは第五条、つまり周旋及び売春をさせる、もしくは契約等の第四条ないし六条の法文の趣旨を解釈いたしまするときに、今のような脱法行為につきましても、場屋提供など、あるいは施設管理等が、営利目的にあらずといえども、ともかく焦点は売春ですか、売淫ですか、要するに淫行を目的とすることに間違いないのでありますし、かっこれに対しまして対価が提供せられるということも大体間違いないので——対価もなくしてみずからからだを提供するというようなことは、これはまた別の概念に入るものであろうと思いますから、売春の定義に明らかになっておりまするがごとくに、規定に明らかになっておりまするがごとくに、対価が伴わない場合にはこれは逸脱いたしましてもやむを得ない。ただし、対価が伴っている場合には、四条ないし六条によりまして、今申し述べましたようにクラブ組織のようなものも入るのではないか、こういうふうにも考えられるのであります。もっともこれは刑事的な法規でありますから、厳格に解釈するということになるものと思われますけれども、今のような場合はそのように解しても差しつかえないのではないかと思うのでありますが、刑事局長の御所見はいかがですか。
  33. 井本臺吉

    井本政府委員 ただいま話をしておりまして……。
  34. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 それでは提案者から御答弁願います。
  35. 猪俣浩三

    猪俣委員 今の吉田委員の御設例は、具体的な諸般事情がそろいませんと答弁いたしかねる事項でありますが、その諸般事情を調査いたしまするならば、お説のように、第四条あるいは第六条に違反し、なお第七条に違反するという事態が起るかも存じません。ただ、純粋に、ここに仮定的な問題として御答弁いたしますならば、あるいは未亡人クラブみたいなもので、特定のお互いの知り合い同士が集まって、特定の男子と何らの報酬なしに一夜の歓楽を尽すようなクラブがかりにあったといたしますような場合において、それがいわゆる売春ということに当らぬといたしまするならば、そういうものを発意し、そういうことを勧誘いたしましてもこの四条、六条に当てはまらぬということになります。まあ未亡人が、それこそ性の本能を解決する意味においてクラブ組織をしているということを聞いたことがありますが、さようなことが実際あるといたしまするならば、これはこの法案処罰の圏外ではなかろうか。ただし、それがいいこととは申されませんけれども、本法におきましては、そこまでは処罰しない。どうしても第二条にあります売春というこの定義が根幹になりまして、それに協力するあらゆる事象を処罰する、こういう建前でこの法の体系ができておりまするがゆえに、売春にあらざる場合においての諸般の協力関係というものは本法の圏外にあると思われるのであります。
  36. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 法務大臣はまだ見えませんか。
  37. 三田村武夫

    三田委員長代理 吉田君に申し上げますが、法務大臣は十二時半までには来られるということになっておりますから、もうしばらくであります。刑事局長、政務次官がおられますから……。
  38. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 政府の方針にも関することでありますので、やはり大臣に伺った方がいいと思います。なお厚生大臣も見えるようでありますので——それから大蔵省は見えませんか。もしできましたら、他に差しつかえなければこの機会に一つ大蔵大臣を……。
  39. 三田村武夫

    三田委員長代理 大蔵大臣は来れないそうです。
  40. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 それでは大蔵次官でもいいですから、来るようにして下さい。それではちょっと保留いたしまして、他の委員と交代することにいたします。
  41. 三田村武夫

    三田委員長代理 志賀義雄君。
  42. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 この法案の御趣旨には私賛成でありますが、これまで参考人の方々の意見あるいは政府委員意見を伺っておりますと、一つの歴史的な事例として伊藤秀吉さん、社会事業家の方が来られたときに、前の西久保警視総監の時代に、後に警視総監になった丸山鶴吉君が保安部長として、吉原の周辺の魔窟といわれたところに手を入れられたことがある。その結果について、この法案が実行されても、委員の方から出ましたいろいろな不安、売春を強制された人々の後の更生の問題についての心配はないということを言われたのでありますが、どうもあのときの事例について伊藤さんは少し思い違いをされておったじゃないかと思う点は、あれは、当時の警視庁と吉原の公娼制度の業者とが結託して、自分たちのところに来るお客を周囲の千束町あたりに奪われないために実はあの弾圧をやったのであります。そういう意味からして、伊藤さんは非常によい意見を述べておられましたが、見当違いをされておったようであります。この法案は、提出者としては売春業者を、主として封建的な人身売買を伴う施設を持つものを主眼として取り締られるのか、一般に資本主義の制度から不可避的に生まれて自分の肉を売らなければならないような悲惨な状況に追い込まれるものを主として取り締られるのか、そういう趣旨であるか、その点についてはっきりしたならば一般の委員にも趣旨が徹底するだろうと思います。その点について御答弁願いたいと思います。
  43. 神近市子

    神近委員 この間の伊藤秀吉先生の証言は、あれはああいう立場の宗教家でございますから、その当時の吉原の業者、それから警視庁とのなれ合いであるということは、おそらく御存じであっても言うべき立場においでにならなかったと思います。今回の法案の提出につきましても、これは長く言い古されたことであって、赤線、青線と周辺と三つ、三重語であります。その中で、赤線は元の公娼制度の行われたところでありまして、そこは純粋な意味の許可によって行われているところ、青線はそれに準ずるということになっておりますけれど、いつもこの間には対立があるのでございまして、青線は、赤線をつぶしてもらえばお客がみんな自分たちの方に来る、赤線の方は、青線を掃除してもらうと自分たちの方へお客がたくさん来て繁昌する、こういう対立はしばしばあるのでございます。でも今度のように全面的なものでございますと、この対立がある意味で解消しまして、それで手をつないで運動をしているということも考えられるのでございます。  それから、今度の法律案婦人を罰するためのものであるか、業者を罰するためのものであるかといいますと、もちろんこれは婦女を犠牲にして、それをまるで吸血虫のように血を吸って肥っている業者、その人たちに向けられたものであることは事実でございます。     〔三田委員代理退席、委員長着席〕 が困っておる、貧乏である、それを雨宿りさせているのだ、社会事業をしているのだというようなことは、この前ここに参考人が見えましたときにわれわれはるる聞かされて、一体これで国家は恥じないだろうか、国家の責任あるいは社会がやらなくちゃならいことをわれわれがやっているのだということを国会で言われて、この国会の恥、この国会の無力さを感じない人があるかと私は感じたのでございます。私どもはそういう困った人があれば、もうほかの生活保護を受けよう、あるいはどこかに仕事を探そう、あるいは奉公でもいいからそこに行こう、過重労働でもしょうというようなことより先に、ここにいけばいつでもお金が手に入る、食えるというような事態があることが、この今の状態を誘出しているのでありまして、この事態を一日も早くなくすることが売淫制度を絶滅させる第一歩だという考え方の上に立っておるのでございます。
  44. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 先日来川崎厚生大臣を初めとして、この法案成立した場合には、そういう婦女を救済するため、その他にさしあたり八十億円いる云々というようなことがありましたが、これはどうもいろいろ意見を聞いてみると、そういう予算措置がなければいけない。それをやらないでこういう法案を通しただけでは何もならないというようなことで、結果から見るならば、この非常に重要な、農地改革にも匹敵すべき日本の封建制度のいろいろな産物を掃除するような重要な法案をうやむやにしてしまうというような結果になりがちな発言が多かったのでありますが、そういう予算措置というようなことは考えない、それは当然国家が他の事業費その他でやるべきものでありまして、本法案としてはそういうところまで責任を持たなくてもいい性質のものだと思うのでありますが、こういう点についてこの法案の提出者はどういうふうにお考えでしょうか、その点について御答弁願いたい。
  45. 猪俣浩三

    猪俣委員 御存じのように、売春等処罰法案は歴史的な運命を今日までたどって参っております。そうしてこれの今まで葬り去られましたる状態を点検いたしまするならば、明らかに、あからさまに法案に反対しないけれども、生活苦のためにこういうふうになっておるものを処罰しただけでどうなるかという議論によりまして、大体審議未了に追い込まれて参りました。今やさような議論はもうわれわれ点検済みなのであります。これは毎度申し上げまするように、処罰だけにおいてこの社会悪というものを撃滅することはできないことは、提案者もるる承知の上であります。必ず取締法と教育活動と保安処分、これが三位一体になりまして活動いたさなければ所期の目的は達せられぬことはもちろんであります。しかるに今までただ保安処分ということに重点を置きまして、われわれに言わせるならば、それを口実としてこの取締りを甘くしておった。要するに政治家がおのれの社会政策の貧困を哀れなる婦女子の自給自足にまかせててんとしておったということがわれわれは言い得られるのであります。それでありまするから、今日今までの議論は全部さか立ちしておるのでありまして、私どもは本法案を提出することによって突破口を作り、これによってこの哀れな人たちを救済するような社会保障制度というものが出てくる、かような確信を持って、今志賀委員お尋ねになりました、この社会保障制度、更生施設考えているかどうかというお問いでありますが、実はそれを考えればこそなおそれを促進したいあまりに、この法案を提案したという提案者の悲壮なる心持を御理解いただきたいと存じます。志賀委員もその気持で御質問になったと存じますが、私どもはこれによりましてどうぞ政府がこの法案にけちをつけずに通し、その準備の期間はわれわれは妥協いたします。とにかく社会保障制度に一歩進めていただいて、人類の向上に百尺竿頭一歩を進められんことを切望する、これが提案者の熱情であります。
  46. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 提出者の悲壮な御熱意は重々承知であります。私は社会政策ですか、社会施設ですか、そういう方面のことについて心配をしておるのではありません。質問趣旨は、それを口実にして私のところに陳情にくる業者の人たちも、あたかも社会救済事業として売春施設をやっているような意見を述べる者が多いのであります。哀れな婦女子をわれわれが収容して売春をさせなければ一体どうして生活ができるかと、売春施設が一種の社会事業であるかのようなことを言われる人が多いのであります。そういうことを考慮しておっては、いつまでも日本からこの恥ずべき売春行為はなくならないというのでありますから、私の質問趣旨について、提案者としては十分御安心を願いたいと思います。決して私は質問を取り違えてはおりません。  そこでもう一点伺いたいのでありますが、先日の社会労働委員会とわが法務委員会との連合審査のときに、横錢委員でありましたか、この取締りの場合に、今までの警視庁のやり口の例を見ましても、最も寛大に取り扱うのは業者に対してでございます。どうもそのなれ合いということは歴史の事実が証明しておるのであります。そしてこういう法案成立したときには、警視庁関係がかえって善良な市民に圧迫を加える、こういうことのおそれを質問しておられたと思いますが、その点について、猪俣委員の方でしたか、古屋委員の方でしたか、業者以外の一般の市民あるいはそういうことを業とする者以外については、迷惑にならない規定を附則にでも設けてよろしい、こういうことを言われたのでありますが、その点については、提出者としてはどういうふうにお考えでございましょうか。
  47. 猪俣浩三

    猪俣委員 本法案の盲点といたしまして、いわゆる人権保障といかに調和せしめるかということが提案者の悩みの種でありました。志賀委員も御存じのように、われわれ人権侵害に対しまして法務委員会では終始一貫戦って参りました。その意味におきまして、この法案成立によって善良なる市民に迷惑をかけ、人権侵害のようなことが起ったといたしますならば、われわれの悲しみもきわまるところがございません。さればさような事態がないように十二分なる注意をする必要があると存ずるのでありますから、もし法案に織り込むことによりまして、さような人権侵害の事実を救済でき得るものであるならば、さような附則を設けるのにやぶさかではないのであります。ただ志賀委員も御存じであり、なおまた質問の中にも出て参りましたが、在来業者取締り官憲とは相当のなれ合いをやって参りました。そうしてそれが悪いことだと考えておらないことは、取締り官憲と業者と同一ではなかろうか。これは青年の性欲のはけ口として、また本能の解決としてやむを得ざる社会悪だなんていう観念のもとに、業者とその点において一致するところがあったのではなかろうか。私どもが、この法案をして自然犯たる印象を強からしめんとして努力したゆえんもそこにあるのであります。そこであまり人権保障を強調いたしますと、それをいいことにいたしまして取締りを緩和し、あなたの心配なさるような善良な市民の人権じゅうりんよりも、まず業者の人権を保護することにきゅうきゅうとするようなことが起りまして、本法を作りました精神の大半は没却される。そこにまたわれわれの非常な苦悩があるのでありまして、そこで人権保障規定を置くことも最も大切でございますけれども、今の取締り官憲が在来のような頭にあるところに、この人権保障を強調いたしますと、それをいいことにいたしまして、取締りを緩和し、その陰において業者がおのれの欲望を全うできる、そういう陰を作るというようなおそれがあるのでありまして、これは立案に当りまして、私どもがあえて人権保障規定を入れなかった理由の一つでもございますが、当委員会において十二分なる発議のものにこの条項を作りましたならば、取締り官憲がそれに籍口してその職務をなまけることがないかもしれないと存じますので、今の志賀委員の提案には、必ずしも反対するものではございません。
  48. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 先日江口警視総監を参考人としてか、政府委員としてかお呼びしたときに、その業者とそこで従業している婦女との間に契約が結ばれて、業者が六分、その婦女が四分の割合ですか、取るということになっております。だんだん調べていくうちに、警視庁がこれが立ち会いに当って、そういう四分六の割合に分けることをきめたということになっておるのでありますが、都条例その他から見て、こういうことは非常に不届きなことと思うのでありますが、その点について、これまでのなれ合いの一つの形の現われだろうと思うのであります。この法案成立する場合には、そういう点について、警視庁が介入したような場合は、これはどうなりますか。
  49. 猪俣浩三

    猪俣委員 今東京都条例ができているにかかわらず、この東京都条例第三条に違反しておる事実が黙認の形で吉原、新宿に行われておる、これが赤線区域と称せられておることは御存じの通りであります。先般の公聴会で明らかになったごとく、肉体を売ることによる収益を四分六で分配する、その比率まで警視庁は関係してきめさせておる。しかしこれはそうしなければ業者があまりにたくさん搾取するので、まず六分くらいにとめておけということで、警視庁が入ったと聞いておりますし、さようであろうと思うのでありますが、自然そこまで警視庁がタッチしているとするならば、これは明瞭なる公娼制度を存続せしめたわけであります。やむを得ざる行為と警視庁では見ておるでありましょう。これはこの法案に反対する一般の人たちの非科学的な観念、これは非常な議論になりますし、あまり抽象的になるかもしれませんが、私どもの交接本能というものは、これは本能じゃないということが近ごろの新進医学者、民族心理学者、社会心理学者によって唱えられました。性衝動はあるけれども、交接本能というものは、これは環境がしからしめるものであるということが近来の学説となって、明らかとなってきておる。しからばこれを本能なりとして、必然悪として、これを容認するがごとき取締り官憲の頭が非科学的なんであります。もう少し交接本能なるものの科学的、合理的な研究をしたならば、かような誤まれるところの観念は払拭されると思いますが、かような誤まれる本能論に立って、そうしてやむを得ざる社会悪だというようなところから、ああいう制度を容認したと思うのでありますが、本法案が通過した暁におきましては、断固としてさような態度は改めてもらわなければなりませんし、もしさような態度でやったといたしますならば、場合によっては本犯罪共犯関係成立するのではなかろうかと提案者考えておる次第であります。
  50. 志賀義雄

    ○志賀(義)委員 先ほど人権擁護規定の問題でありますが、私の方の希望として、本法の第十一条に加えるべきものは提出者の方に差し上げておきました。これをここで修正案として出すというのではなくて、提出者の方で十分にお考えいただきたいと思うのであります。と申しますのは、私ども長い間警察官憲というものがどういうものであるかということは、したたか経験をしております。それを少しでも拡大させるようなことをすると、かえってほぞをかむような事態もしばしば起るのであります。ただいま共犯関係というようなことも成立するということを伺ったのも、実はそのためであります。御参考までにそれを今後の法案審議の過程において十分考慮願いたいということを希望しておきまして、私の質問を終ります。
  51. 猪俣浩三

    猪俣委員 志賀委員の発案、これは十八日に各党の懇談会をやることにいたしまして、大体そういうふうな委員長との了解もありますので、その席上よく懇談に移したいと考えております。
  52. 世耕弘一

    世耕委員長 この際委員諸君並びに提案者説明者の方々にお願いいたしたいと思いますが、とかくこういう法案を論議いたしますと、熱を加えるに及んで、おのずから反対の立場に立つ者に対して攻撃の矢が刺激的に行われる場合が多いのであります。本人自身がさように考えなくても、そう考えられるように響く場合が非常に多いのであります。ことに売春取締り担当の当局に対して、とかくの非難を向けられることも、これは当然でありまするけれども、どうぞそういうような論議をなさるときには、お互いの人格を尊重し合って論議を進めていただくようにお願いいたしたい、かように考えております。念のため御協力を願っておきます。高橋禎一君。     〔志賀(義)委員「それは意見を言っているのではないですよ、委員長、事実を言っているんですよ。」と呼ぶ〕
  53. 世耕弘一

    世耕委員長 なお今志賀君から御発言がありましから、あらためて委員長として申し上げますが、もし事実があるならば、それを御提示願えば委員会の権威において調査なり処置をいたします。それぞれ関係の立場に置かれている方々の言い分もあろうと思いますが、一々取り上げて委員会で論議すると、かえって委員会の審議の妨げになりますので、関係当局並びに関係委員諸君におかれて、他人の人格を尊重して、人権を侵害しない範囲において上品に論議を進めていただくことが、当委員会の権威を尊重する意味だと思いますので御注意までに申し上げたのです。御協力を願う次第であります。
  54. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 私はこの段階において、若干従来の質疑応答等に重複する面もあるかとも存じますが、何しろむずかしい問題でして、申し上げるまでもなく、国家を統一し、治安を維持していくために、刑罰をもって臨むかいなかということ、刑罰の度合をどのようにしていくかということ等は、非常に重要な問題であり、為政者も学者もその間にあって論議を続けて参った古い歴史を持っておるわけでございますが、この売春取締法も、職業化しておる売春婦女子、あるいはまたそれに関連するいわゆる業者、これをこの際いかにして改めさせるかということは、政治上なかなか大きな問題であると思うのです。そういう意味からここに主として厚生大臣、法務大臣及び警察当局の方々に質問いたしたいと思うのであります。そこでまず警察当局の中川さんにお尋ねいたしますが、警察当局では取締りといいますか、検挙をされる場合に刑事政策的なものを加味されるかいなか、この点をお伺いいたしたい。もっとわかりやすくお尋ねいたしますと、警察庁でやはり犯罪検挙について指令を出されると思うのです。その指令を出されるのは一体どういう立場に立って出されるのであるか、いわゆる刑事政策的な考えをもってなさるのであるか、そういう考えでなさるのであれば、一体それはどういう理念に基き、基準に基き出されるのであるか、すなわち指令を出されるか出されないか、出されたとすれば、これまではどういうふうなお考えでもって出されたのであるか、その点をまずお伺いいたしたいと思います。
  55. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 御案内のごとく現行の警察法におきましては、警察庁におきまして府県の警察に対しまして指揮命令する、こういう関係におきまして指令を出しますのはきわめて限られた事項でございます。売春事犯の取締りに関連いたしましては、現行法におきましては指令権はない、こう理解されるのであります。ことに現行の売春関係につきましては、地方の自治立法でございますので、地方の自治立法における取締りは各府県の公案委員会が当該の地方の状況を勘案いたしまして、ことに条例が制定されたいきさつ、そういった点を勘案して、地方で売春取締りをやっておる、これが実情でございます。
  56. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 地方の公共団体の制定した条例関係犯罪の検挙については地方まかせ、こういう御趣旨のように承わりました。そういたしますと、国家の法律ではなくして、国の政令とかあるいはまた省令とか、そういうものに対する違反事件についてはどういうふうなお取扱いをなさっておるかということ、また本法が成立いたしました暁においては、先ほど一言されたようですが、重ねてお尋ねするのですが、警察庁としてはこの取締り等について何ら指令を出したりなど、すなわち関与はしない、こういう御方針であるかどうか、そこを伺います。
  57. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 ただいま議題になっております売春処罰法が成立いたしました場合において中央の警察庁はどういう態度をとるか、こういうことでございますが、この点につきましてはすべての法律について同様にやっておるのでございます。国会におきまして成立いたしました法律がございますと、その国会の審議の状況、その制定の趣旨を十分吟味いたしまして、その法律制定の趣旨を地方の各警察によく伝達する。そうして国会でお定めになりました法律の目標とするところに従いまして適正に行われる。ただいまいろいろ論議がございますが、たとえば人権擁護問題について非常に注意深くなければならぬ、そういう点も含めまして、また法律が期待いたしますところの趣旨の実現がほんとうに末端の警察に徹底するように、こういった点につきましてはその法律案趣旨を十分地方に徹底するというふうにいたしたい思っております。これはこの売春処罰法案につきましてもそうでございすが、他の国会で制定さる多くの法律につきまして、大体そういうふうに処置いたしておるのでございます。
  58. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 そこで私のお伺いいたしたいのは法律がたくさんありますね。勅令というのはなくなりましたが、政令あるいは省令がたくさんあります。そういったようなものについて、今おっしゃったようにすべて適正に行われるように指令するというのは、これは通り一ぺんのごあいさつであって、やはり中央から少くとも検挙の励行なり捜査についての指令をなされる場合には、何かそこに重点があると思うのです。それはすなわちいわゆる刑事政策の立場に立ってなされなければならぬと思うのすが、そういうふうなお考えがあるのかないのか。今まではそういうふうなお考えでなさったかどうか。そこを通り一ぺんのごあいさつでなくて本音をお聞かせ願いたいわけなんです。私の考えますのは、たとえば勅令第九号違反とか、その他の売春取締り関係の法令というものは今日相当たくさんあるわけです。ところがそれが励行されていないということは、私は事実だと思うです。しかしそれはひとり取締り当局が怠慢であるとか、あるいはまた業者からの懇請を受けてそういう結果になっておるとか、私はそういうふうに簡単には見ないのです。何かそこに、それを検挙することのできない深い考えがやはりあることも私は必ずしも悪いとは言わないのです。すなわち売春関係取締りについて幾多法令があるにもかかわらず、それが励行されていない。現実は、もしも深い刑事政策的なお考えがあって、この際はまだ寛容な取扱いをしなければならぬという理由があるのなら、それを承わりたい、こう考えるわけです。
  59. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 御質問趣旨はまことによくわかるのでございますが、最初にお答えするに先だって念のために申し上げておきたいと思うのであります。私ども国の機関が指揮命令的にぜひこうしろ、こういうような処置をとりますと、また弊害等も考えられますので、そういう意味合いにおきましては、過去もやりませんでしたし、今後もやりたくないと思っておるのでありますが、問題が非常に複雑でありますので、困難な問題を解決するという意味で、警察共同の責任として、ことに府県のこういった問題の捜査検挙に直接当る人、取締りに直接当る責任者等が共同研究する機会を持つ、ないしはいろいろ共通の困難な問題を解決するについて工夫する機会を持つ、こういう場合に、私どももその間に処しまして連絡調整的な意味合いも兼ねまして、お話趣旨に沿うような事柄をやっておるのでございます。そのときに過去の、ただいま議題となっております法案成立する以前の現行法の状態について申し上げますと、事柄が確かに地方の自治立法もございますし、国の勅令、国の法律もございまして、売春関係の事案を捜査すべき法令は相当ございます。その運用の大体の、われわれ苦心しておりますところの実情は、事柄の捜査に非常に困難を来たす、ことに売春行為につきましては非常なプライベートな私事に関する行為でございます。従いましてけさほども質疑応答がございましたごとく、現行犯というような事柄は観念上は確かにございますけれども、そういった私事にわたる事柄があからさまに行われることは比較的少いこういった点につきまして捜査上の工夫をいたしまして、犯罪ありと思量する資料を得るのには相当苦心をする。相当苦心するためには金も必要でございましょうし、人も必要である。その人と金とは警察全体に与えられた限定された人間、限定された捜査員、限定された費用のもとにおいて合理的に当該地方の犯罪全般の取締りに従事しなければならぬ、こういう角度に立ちますと、窃盗犯も全国を通じ九十八万件もある。売春事犯のごときは相当件数がある。こういう事犯に処しまして、犯罪だから全部熱心にやるべきは当然でございますけれども、その間に処しまして、限られた人、限られた費用を高能率に発揮いたしまして、最も効率的な捜査をやっていく、効率的な取締りをやっていく、こういうふうなことにならざるを得ないのでありまして、従いまして現在売春関係事犯につきましては、非常な強制が加わった事犯、非常に搾取が伴った事犯に重点を置く。とりわけ被害者が十八才未満の婦女子である場合、法律的に申しますと、児童福祉違反にかかるような非常に悪質な犯罪、こういう方面に自然重点を置いて事柄を処理すべきである。そうして一般的な売春事犯につきましては、多くの人が特に迷惑するというふうに行われる場合、東京で申しますと過般警視総監が説明いたしましたごとく、東京駅頭とか有楽町とか、ああいった人込みで大へん人が迷惑するような事犯を中心に行なって参る。それから文教地区、住宅地区等が非常に風俗的に乱れるというようなことを防止するという方面を中心に捜査を進めていく、こういうような心組みで各地方ともやっているようであります。これは、われわれ指令したことも、ございませんし、命令したこともございませんが、事柄が非常に困難であり、また事柄が非常に重要でありますので、各府県の警察責任者が苦慮しておりますので、自分でいろいろ工夫もいたしますが、その工夫を共同研究する機会を持ちます。そういう場合におきましては、ただいま申しましたような考え方に、大体限られた人間、限られた費用で捜査をする場合おきましては自然なる。同時に、いろいろわれわれが犯罪捜査をする場合におきましては、検察庁と十分連絡を密にいたしますが、それが同時に刑事政策面につきましてもそういうふうなことに処理されていく、こういうことになっておるのが実情でありますし、この法律成立後におきましては、また別に想を新たにいたしたいと思うのでございますが、現行法のもとにおきましては、そういう工夫のもとに行われておる、こういう実情でございます。
  60. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 法務大臣にお尋ねいたします。ただいま中川さんからお話がございましたが、私は法務大臣にお尋ねいたすのは、やはり売春関係取締り法規が御存じのようにたくさんございます。それにはいわゆる国の法規もあるし、あるいは地方の条例もあるわけです。検察当局においては、国の法律あるいは命令等と地方公共団体条例による取締り方針とは、そこに差があるのかないのか。何しろ犯罪をこまかく分ければ何万種類もあるというのが日本の実情なんです。それも片っぱしから同じ程度に検挙し公訴をしていくということは、常識上あり得ないことなんだと私は思うのです。そこにやはり大きな刑事政策的な立場に立って捜査も行われ、公訴も行われ、裁判も行われる、こう思うのですが、今日までは一体どういう御方針でなさったのであるか、その点をお伺いいたします。
  61. 花村四郎

    ○花村国務大臣 法令による取締りについては何らの差等を設けておりませんが、しかし取締りの対象となるべき事柄によりましては、やはり時代の推移、流れをながめ、あるいは時の社会情勢あるいは社会正義等に立脚いたしまして、適切妥当なる取締り方針をもって望むという方途を講じておる次第でございます。
  62. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 そこで、そういうお考えのもとに検察が行われ、警察官による捜査が行われてきた、こうおっしゃるのですが、売春関係の法規は、大臣も十分御存じだと思うのですが、法令がたくさんあり、しかもその法令違反というものもたくさんあるということは常識になっておる。それが今日この法案をここで審議しなければならない結果になっておるわけなんです。非常にまたそれがむずかしいのであります。私どもも先ほど委員長から、意見の違う者同士がかたき同士のようなことを言ってはならぬという御忠告がありましたが、それのみならず私は、意見の違う人どころではなく、この売春関係婦女の方々に対しても、あるいはまた業者に対しても、何らの敵意を持たないで、それこそほんとうに最後の一人の生存権をわれわれの法律によって確保していかなければならぬという高い理想のもとにこの問題を考える。それだけにむずかしいのですよ。そういう考え方に立って私は法務大臣の所見を伺うのですが、これまで取締りは十分にできていなかった、しかしそれは捜査の証拠を収集することが困難であるから検挙することができなかったのであるというようなことでは、良心的に考えて解決はつかぬと思う。何といってもこの問題は、法律があっても解決がなかなかできない、検挙がなかなかできない、起訴もなかなか考えさせられるという——それがかりに間違っておるかもしれないですよ。もっともっと研究すれば、あれは間違っておったということになるかもしれないですが現在は一体どういう考えでどういう結果になっておるのであろうかということを政府当局からはっきり聞くことが、やはりこの際この法律をどうするかという問題に大きな関連を持ったわけです。法務大臣のお考えを伺いたい。
  63. 花村四郎

    ○花村国務大臣 ただいまの御質疑はきわめて当を得た御質疑でありまするが、答弁はなかなか、むずかしいのであります。私もだんだんと御質問に対して、お答えをしてきておるのでありまするが、もちろん法令が出ておりまする以上、その法令の精神にのっとって、そうしてあらゆる角度からその取締りを励行していかなければならぬことは、これはもう当然であります。当然でありますが、しかし売春問題に対しましては、御承知のごとくこの法律制定ですらもなかなか簡単にいかないだけに、その根底に横わっておりまする諸事情を考察いたして参りますると、法令があるからそれではそれを直ちにそのまま適用していいかと言えば、なかなかそう簡単には参りません。御承知のごとく法律は死物であります。しかし世の中の事情は時々刻々に生きて移り変っていくのでありまするから、この死んでおる法律を生きて移り変っていく社会に適用していくのでありまするから、そこに法律適用のむずかしいところがあり、ことに売春問題等に関しましては特にそうであると申し上げてよろしいかと思うのでありますが、要するに売春行為のよって起きる原因を探究してみますれば、いろいろ複雑した諸事情がありまするのみならず、これまたやむにやまれずやっておるという売春行為もあります。要するに一口にやみと申しまするが、やみであるからすべてを罰して厳格に取り締っていいかと言えばそれはそうはいかないので、やむにやまれずにやるやみと、あるいは利潤を追究して自分さえよければいいというような観点に立ってやるやみと、同じやみでもそういうような差等が設けられると同様に、この売春行為についてもやはり同じに見ることができようと思う。そうしてそのよって起きた原因がどこにあるかというようなことも見きわめて、適切なる取締りをやらなければならぬでありましょう。あるいはまた当委員会においても、あるいは参議院においても御質疑があったのでありますが、米兵に関する売春行為のごときも、これまた御承知のごとく国際的意味を含んでおる。でありますからこういうことも考慮のうちにおかなければなりますまいし、そうしてまたとかく売春行為現行犯をつかまえることはなかなか困難であります。でありますから証拠を収集することがきわめて困難な犯罪であるという意味において、人権じゅうりん問題も伴いやすいというようなそれらの諸事情をだんだん考えて参ります場合においては、法令をそのまま受け取ってそれを直ちに励行していくということもいいか悪いか、これはまた大いに考えなけりゃならぬことであろうと存じます。かような次第であり、ただにこういう売春行為に対しましては、日本独特の問題でもありません。やはり世界各国がこういう問題に対して悩んでおるのでありまして、これはまた人類生存の原理の上から見て、やはり何と申しましても当然起きてくる問題であるとも見なければならない。こういう点を考慮のうちにおいて、そして取締りをやる場合においては、何人も納得のできる取締りを励行していくということであらねばならないと思いますので、そういう点に私どもは心をおいて、何人でも納得する方法、非難をあまり受けない、歓迎しないまでも、そういう程度のものであろうくらいに一般が認めてくれるような、一番適当な方途を持ってやっておるつもりでございます。
  64. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 いろいろ御説明がございましたが、法務大臣は中央の法律命令と、地方の条例との間には何ら区別をしないで、適当に検挙を励行しておるとおっしゃる。そうして売春婦が日本に五十万人おるということもどうやら常識のように信じられておる。そういうことになりますと、売春を禁止されておる条例も相当あるわけですから、法令はさっぱり励行されないで今日に至っておる。しかしそれはいろいろ深い事情があるんだ。その深い事情とそれを励行されない実情というのがつまびらかにならぬと、ここで実際問題の解決はつかないのです。私どもは何も政府当局を責めようという考えはないのですが、政府も熱心にこの問題解決のために努力をされなければならぬ。先ほどもちょっと他の委員の方からお話がございましたが、業者なりあるいは売春婦の言動が、いかにも国会を悔辱しておるようなところがある。われわれは国会の権威にかけて、どうもそういう言葉を返上しなければならぬという趣旨に私理解いたしましたが、売春を禁止しようという主張をなさる方々も、あるいはそういうことをやって生活をしておられる婦人の方々も、あるいはそれに関係する業者の方方も、国会ですっきりとした納得のいく解決をしてもらいたいということを熱願しておられると思う。私は責任は全部国会にあり、政府にあると思うのです。だからこの際は、政府当局においても、ただ国会のなすがままに乗っかっているというのではなくして、これまでこれだけにたくさんの違反事実があるにもかかわらず、それがほんとうに検挙できない実情というのは、われわれは、こういう考えをもって検察を行なっているのだからできないのだから、そこのところを考えれば、われわれはこういう考えを持っているから、この法律についてはこうしてもらいたい、ああしてもらいたいという積極的な意見が出なければならないと思う。しかしそれがまだまとまらないから、まとまらなければこういう方法で一つ真剣に検討して、その結論を出して解決しようと思っているという政府の熱情がここに現われて来ないと、われわれはどうも満足ができないのです。  そこでお伺いいたしますが、今審議している法案が通過いたしましたときにどうなるかということをお尋ねする。今までと同じように同じ内容の法令があるにかかわらず、それが励行できないのはいろいろの事情がある、私はそれをつっ込んで開きたいのですが、大臣もなかなか答弁は苦しいとおっしゃるのですから、本日はそれをあまり追究しませんが、とにかく今非常に御答弁に苦しい事情がおありになるのです。ところがこの法律を制定してもその考えがいささかもかわらぬということになり、その事情がいささかも変更しないということになったら、法律作ったって仕方がないでしょう。今大きなリュックサックに入れることのできないほど刑罰法規がある。その上さっぱり励行されない法令が生まれたということになると、これはいよいよ最後の切り札として出した法律が行われないということになると、今後この問題の成り行きを考えまするときに、非常に憂うべきものがあるから、その点について法律が出ただけで、それではなかなか御答弁なさるのに苦しい事情が解消するものであるかどうか、やはりそれは解消しないで、非常に苦しい事情があって検挙というものはそうきびしくできないのであり、やはり五十万の売春婦というものはそのまま形は少々変るかもしれないけれども、現在のままで、あるいは少々減るかもしれないけれども、大局的に見て何らこの問題の解決にならなかったというようなことになるのかどうか、それは法務責任者としての大臣から所見を承わりたいわけです。
  65. 花村四郎

    ○花村国務大臣 過去現在においても、法令にのっとりまして売春行為に関する取締りは適当にやっておるのでありますが、本法案が通過いたしますれば、国会のその意のあるところを体して、取締り当局としてはあらゆる努力を傾倒して、その法律効果の上るようにいたしたいと存じます。実はこの法案に対する裏づけ予算もありませんので、現在の取締り態勢をもってあくまでも徹底的にその取締りの効果を上げろというようなことを申されましても、これはなかなか困難であろうとは思いますが、しかし現在における機構をもちまして、あらゆる面でその能率を最高度に上げて、そうしてその成果を収めるように努力をすることに対しては、あえてちゅうちょせざるものであります。
  66. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 法務大臣にこの点を念を押してお尋ねをいたしておきますが、今の法律がそのまま国会を通過してそれが実施されたら、私は更生問題についてはこれは厚生大臣にお尋ねをしようと思う。国内の治安の維持に関連してどういうふうな事態が起るということを予想されますか。たとえばこれには三カ月の猶予期間があります。法律が制定公布されてどうなるか、それから三カ月の猶予期間中いかなる治安関係に関連して事態が起ると予想されるか、そして法律をいよいよ実施したならばどういう状態になる。売春関係が少くなるという見地からだけでなくして社会全体の治安の立場から考えてどういう見通しをお持ちになっておるのであるか、それをお伺いをいたしたい。
  67. 花村四郎

    ○花村国務大臣 この法案が実施せられることに相なりましたからと申しまして、そう著しく社会の現状に変動を与えるものとは考えません。がしかしやむにやまれずしてやらなければならないというような立場に追い込まれておる人がなす売春行為は、なかなか法令が出たというて直ちに消えてなくなるものでないことは大体想像できるのでありまして、これはちょうどやみと同じことですが、しかしこういう法律が出ますれば、少くとも法律のできたことによりまして、まあ幾分でもこういう面に対する反省が行われましてそうして多少売春行為の面に対して予防し得る効果は上げ得るんじゃないか、こう考えるのであります。今日までも法令が出まして、その法令がほとんど適用されておらない法令もありますが、しかしそういう法令はそれでは法律効果がないかといえば、やはりある程度法律効果は上げている。でありますから、こういう意味において売春法案に対する法律的効果もないとは申しませんが、あまり大して期待するような大きなもののないことは、私がもうしばしば申し上げておる通りでありまして、むしろ法律的の効果によってそういう行為を抑制絶滅するというような考えを持つよりも、むしろ他の面において、いわゆるそういう行為をやらさないということに仕向けていく諸施策の方が私はとうといんじゃないか、こう考えておりますが、しかし法律を作るのもそういう意味で多少の効果はあるのであるから、こういう忌むべきことは社会から幾分でもだんだんなくしていくということが望ましいという見地に立って考えます場合において、またそういう法律も多くの人が望むということであるならば、あえて拒む必要はないんじゃないか、こう考えておる次第であります。
  68. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 あまり長いことお尋ねしませんが、非常に御答弁もむずかしいようですから。しかし私は少くとも法務大臣には、この売春というものがない社会を建設しなければならないという熱意を持ってもらわなければならぬと思うのです。ただどうにもこうにもこの問題は解決つかないのだと投げてしまわれたのでは大へんなんです。ただその時期なり方法なりを誤まってもならないと思いますから、この法案審議に際して、特に政府当局の御意見を伺うのですが、先ほど私がお尋ねいたしましたことに対する法務大臣のお答えは、どうも法律を制定してもそう変りばえはしないんじゃないか、こういうようなお話しのように承わりました。私がお尋ねしたのは、法律を制定したこと自体によって、その法の威嚇によって、あるいはまたそれを機会に道義観念のよみがえりによって少くなるということもあると思うのです。特に売春の買うという方ですね。春を買うという方のお客はうんと少くなると思うのです。けれどもそこで問題が起るのは、これは主として売る方の、売春婦女子の方なんです。そこをどう解決するかという解決の道がなけらねば法務大臣のおっしゃるように変りばえがしようにもしかたがないのです。その原因にも、それは経済的な原因から来たのもあるでしょう、あるいはまた教養の程度から来たのもあるでしょうし、わければたくさんあると思うのですが、その原因を解決することについて何らの手を加えないでおいてぽつと法律を出したときに、一体どういうふうになるのかということの見通しを法務当局が立てておられないと大へんだと私は思う。もしも法律を制定したけれどもこの行為が少しも減らぬということであったら大へんでしょう。さっそく厖大な予算を作って人的にも物的にも検察を行うための施設をなさらなければならぬ。警察だってそうだと思う。五十万人おるというのですが、相手を入れると百万人、百万の犯罪人がここに怒濤のごとく押し寄せたといいますか、生起したといいますか、生まれた場合に、法律を、これまでの政府当局の答弁によればいや適正妥当に執行すると、こうおっしゃるけれども、それを処置するには、今の人員と今の設備ではだめでしょう。監獄も増築しなければならぬと思うのですが、そういうことについてしっかりした意見がきまっておらなければ法律を殺すことになるのです。せっかく大きな理想に燃えてできた法律が何ら守られないということになることは、これはまた法治国としては大きな損失なのです。そういうことをにらみ合せなければならない大きな問題なのですから、それらについてどうお考えになっておるかということなのです。もしも時期が早ければ、これからこの間にこういうふうにしようと思うから、これはこうしてもらいたいという政府の積極的な御意思が私はあってしかるべきだと思うのです。どういうふうにお考えになるでしょうか。
  69. 花村四郎

    ○花村国務大臣 この法律がかりに国会を通過いたしたといたしまして、そうして表に現われて参りまする売春行為を厳格に取り締ると仮定いたしまするならば、結局これは共産党のように地下へだんだんもぐっていきまして、そうして地下でその行為がやはり行われるという面が相当に拡大強化されていくおそれが十分に私はあると見なければならぬと思う。でありまするから、表に現われたものをむりに押えつけるようなことをすると、地下へもぐって、やはり同じようなことをやるというようなことに相なりますので、ここがなかなかむずかしいところなんです。外国にもほとんど取締りの法規のないところはないという御意見もあり、またその通りでありますが、しかし世界の各国においてそういう取締り規定のあるということは、やはりこの売春行為が行われておることを証明しておるわけですから、それで公然とは認めておりませんけれどもやはりもぐってやっておるというのが相当あるわけでありますから、日本でも表へ現われておる、公然と言えば語弊がありますが、赤線区域のようなものをだんだんになくして参りますと地下へもぐってやる、そういう行為がだんだん地下へもぐる方面に拡大強化されていくおそれが多分にある、こう見なければならぬと思う。そこで私はこの法律のみによってこういう問題を解決しようというのが無理であるというゆえんもまたここにある。でありまするから、そのよって起きるところの原因を根本的に絶たなければやはり百年河清を待つにひとしいものであると申し上げてよろしいと思います。でありまするから、私は法律は必要ではないというのじゃありませんけれども、そのよって来たる根本原因を探求して、そうしてそれに対して鋭い施策を傾けていくということでなければ、この種行為の少くなって参るというようなことを望んでも、それはなかなか得がたいと私は申し上げてよろしいと思います。でありまするから、もしこの法案が通過をいたしましたといたしましても、取締りの面でそういうむずかしい面があるのでありまするから、ただ法のみで表からどんどんやるということが、やって地下へもぐらせるのがいいかどうか、こういう問題も起きて参りまするので、そこの呼吸をうまく考えて、そうして取締り態勢に合せていくというところに私は創意工夫が要ると思うのであります。でありまするから、この法案が通ってもなかなか取締り当局としてはそういう面においてむずかしさもあり、またこれに伴うところの予算も持っておらぬというようなことで、法案が通ったからというて直ちに取締りがうまくいくということをお考えになるならば、これは大なる間違いだと私は申し上げていいと思うのですが、まあしかしそういう足らざる間にもあらゆる努力を傾倒して、なるべくこの法律効果を上げていくということにおいては取締り当局として人後に落ちない、こう私は申し上げてよろしいと思います。
  70. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 中川さん、それから井本刑事局長等にお尋ねをした方が適当かと思います。法務大臣をわずらわす必要はないと思いますが、先ほど法務大臣のお話にも出ましたように、この問題は原因を探求して、そうしてその原因を除去することによって解決をつけなければならない、これはもうまさに名論であると私は思うのです。そこでそれでは一体法務省なりあるいは警察当局においてこの原因を十分調査研究されたかどうか。いろいろわれわれの手元には資料は参りますけれども、政府で一体それを探求しておられるかどうか。そうしてその結果はどういうことになっておるか。特に私の知りたいのは、経済上の関係からやむを得ないでこういう境遇に入った人が一体どのくらいあるか。五十万人と仮定いたしますと、そのうち何パーセントぐらいがそういう実情にあるか。その点をお伺いいたしたいわけであります。
  71. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 ただいまの点にお答えいたします。現在当委員会でも大へん警察はしかられておるのでありますが、地方の条例、国の法令等で徹底せぬ向きは確かにございますが、現行法のもとにおきまして、先ほど私が述べましたような警察の態度のもとに各警察とも本件事犯の取締りに従事しております。その結果昨年二十九年一カ年間に三万人強の売春事件を検挙いたしましたので、そういった検挙いたしました事項を通じてその原因とかそういった点をわれわれ究明しております。そうして究明した事項等は、自分たちの取締り上のいろいろな参考にするのはもちろんでございますけれども、内閣には売春対策協議会がございますので、そういった方面に資料をどしどし提供いたしまして、関係各庁の共同の研究の資料にしておるのであります。そういった意味合いで私どもいろいろお尋ねの点、原因の点、あるいは反復性の点、こういった点を検討してこういう数字はこまかくなりますので、こまかい点はまた後ほど申し上げることにいたしまして、大勢だけをお答えいたします。私どもの現在、売春事犯三万人強を検挙いたしております内容で、そのうちで婦女子に関係する分だけが二万五千人ぐらいあるわけであります。その婦女子の方が売春した、売春婦関係する部分は、再犯が非常に多うございます。初めてひっかかった方ももちろんございますが、再犯、二度以上ひっかかった方が多いのでございます。そういう事情からこういう取締り法規を設けて取締りをいたしましても、一ぺん取り締ったら改悛してやめてくれれば一番いいのでありますが、またやってくる、こういう傾向がありますので、私ども政府部内におきましては、こういう取締りの面もけっこうでございますが、そういう再犯防止と申しますか、一ぺんひっかかったら今度はやらぬような方法——いろいろ保護施設とかいうものもありますが、そういう方面の御研究を願いたい、こういうことを部内では申しておるのであります。  それから三万人余り検挙いたしました状況で、原因は何かという御質問でありますが、原因の点は、各事犯ごとに非常に複雑でございますので、一がいに言い得ないかと思いますけれども、関係者の供述その他を中心に得ました資料は七割強——こまかい数字は、ちょっと正確な資料を持ち合せませんが、私の記憶で申しますと、七割強が、貧困が原因である。その貧困のみが原因かどうかという点はしさいに検討しなければなりませんが、関係者の供述等を通じて得た結論は、七割強が貧困が原因である。こういうのが、実情でございます。
  72. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 中川さんに重ねてお尋ねをしますが、教養の程度は一体どういうことになっておりますか。
  73. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 お答えいたします。ただいまも申しましたごとく、三万人強の犯罪事件のうちで売春事犯が二万五千三百七十四件でございますが、そのうちの教育程度を三つに分けて調べたのがございますが、小学校以下、中学以上、高等学校以上、こう三分類いたしますと、一番多いのが小学以下でございます。これが一万二千強。その次に多いのが中学以上で高等学校未満でございますが、これが一万人強。高等学校以上の教育を受けた者はわずかに三千弱。こういう状況でございます。
  74. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 私は次に厚生大臣にお尋ねをいたしたいのであります。今までお尋ねをいたしましたことに関し、政府当局の答弁によって明らかになりましたことは、原因を探求してこれを除去していかなければ刑罰法令だけではこの問題を解決する自信がない、こういうふうな御意見のように結論的には私は伺ったわけであります。そこで厚生大臣の責任が非常に重くなるわけと思うのでありますが、何と申しましても、先ほど答弁がありましたように、非常に貧しい人がここに集まっておる。また非常に教養の程度の低い人が集まっておる。そうして一歩あやまてば病毒に侵される。人間として貧乏と無知と病気というものを一手にしよったような人たちの、この問題の解決でありますから、そうしてこれは何とか解決をつけなければならないということになりますと、厚生大臣として大いに考えられるところがなければならぬと思うのであります。そこでこれまでの委員会において、この法案が通過すれば、厚生省としてはもちろん責任を持って解決しようという趣旨の御答弁があったわけであります。またそうなけらねばなりません。がしかし現在の実情といたしまして私のお尋ねしたいのは、この法案成立をしたらどういうふうな事態になるかという問題に関連して、厚生省はどういう措置をとられようとお考えになっているか。次には、この法案が実施され、効力を発生したならば、そのときどういうふうな事態が起るということを予想してこういう措置を講じようとしているというこの二点についてお伺いしたいわけです。法律成立しても今まで通り、また法律がいよいよ効力を発生いたしましても、法務大臣の話ではなかなか容易に検挙もできないようなお話ですけれども、しかし目の前に国法に違反した者がいるわけですから、それが触れるところ相当の検挙があるわけです。検挙は大体このくらいということもお考えになっていると思うのですが、これは相当大量に及ぶと思うのです。この法律が実施されて、そして検挙されて刑務所に入る本人は刑務所の世話になるので刑期が終るまではそのままでしょうけれども、それに関連して家族の問題が起るのです。子供をかかえている者もいるでしょうし、また生活力のない老父母をかかえた者もいるでしょう。そういう問題を考えますときに、これは大へんなことになると思う。そして一たび刑を受けたとは申しましても、これは死刑に処するわけでもないし、無期懲役でもないのですから、やがて釈放されることになる。そして釈放された後におけるその人たちの処置をどうするか、そして今五十万あると言われますが、その五十万人だけでは最終的な解決ではないと思うのです。また新しくこの法に触れる人が出てくるということも予想しなければならぬ。そういたしますと、数は莫大なことになり、経費も大へんなことになってくるわけであります。もちろんこれは厚生関係だけの仕事ではありません。教育の問題もあるでしょうし、非常に多角的な政府の施策が考えられるわけですが、今急速にこの法律成立し、実施された場合、ほんとうにこれに対処して人らしき生活をすべての人にさせるだけの措置が講ぜられる自信かあるかという問題について所見をお伺いいたしたいのであります。
  75. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 ただいまお尋ねの問題は、わが国における社会不安の事情並びに今日の社会事情からいたしまして最も根幹に触れた御質問だと思うのであります。売春をなくそうということに対しては趣旨は私は賛成であり、この法案が通過いたしました後における措置につきましては、各種のことを想定いたしまして厚生省としてももちろん準備を進めているわけであります。検討を加えつつあるわけであります。しかしながら、これがどの程度実際に取り締られて、そして送検されるかということにつきましては、法務大臣の御答弁によりますれば、直ちにそう大きな変化はないであろう、こういう御答弁のようであります。法案が通過して、厳格にこれを実施する、取締りも厳格であれば、それに対する救済保護の施設も厳重にとり行うということになりますればとにかく、労働省の発表した売春状況に対する白書によると五十万人もいるわけでありますから、これを一挙に救済措置をいたそうとしても、わが国の財政としてはとうていこれを保ち得る財政措置並びに経済措置はできないと言明しても私は間違いでないのではないかと思うのであります。  この問題と関連いたしまして、少し所見を述べさしていただくならば、社会保障制度が完備をしておらないからこういう状態になってきたことは事実であります。わが国の貧弱なる経済環境並びに社会保障制度に対する十分なる施策が行われておらないために、かような悲しむべき事情が起っていることは事実でありますが、社会保障制度を完備させない経済状況もまたあるのでありまして、その点はわれわれは敗戦下における特殊の事情ということも割引をして考えてみなければ、今日のこの売春問題に対する基本的な問題にも対処できないのではないか、またかりに——先ほど来花村大臣はきわめて抽象的にむしろ世界各国の事情を申し述べられました。これは戸叶委員などもそうでありますが、私なども最近数回にわたって海外へおもむき、かつその方面事情も社会保障制度と関連をいたしまして多少は見ているものでありますが、一九四五年に社会保障立法が発案をされ、完成をされ、世界の模範国であるといわれるイギリスにおいて、売春婦は逆にふえているというような実情がロンドンにおいて現われていることは、すでに各新聞報道によって報道されている事実を見ましても、御承知の通りであります。こういうような実情もありますので、われわれとしては社会保障制度並びに社会施設を完備することによって、こういうものをなくしたいという気持はもとよりでありますが、事実は事実として、諸外国における実情なども十分に見てみなければならぬということも言えると思うのであります。しかしただいまお尋ねの点は予算と関連のあることでありますから、明確にお答えをいたしますが、先般国警が調査したところによると、この売春処罰法なるものが成立をいたしました後においては、年間五万人を送検する、こういうことであります。従って五万人を送検するということになりますれば、厚生省としてはこれに対する措置をいたさなければならぬ。それには先般来申し上げておりますように、婦人相談所あるいは婦人ホーム、さらにはその他の住宅施設を設置をいたしまして、およそ八十億の予算が年間にとれればいいということになります。従ってこの法案が七月三十日までに両院を通過して成立をするということになりますれば、かりに一カ月置きましても九月から実施をされるということになって、あるいは法律の従来の例は即日公布でありますから、即日公布となりましても、本年はまず半年間の費用の補正予算を急速に組まなければならぬ、その補正予算を組む財源は、今の政府には今年の予算に関する限りは余裕がないであろうというふうに、私は大蔵大臣ではありませんけれども、観測をいたしております。従いましてこの法律が実施をされましても、それに対する完全なる救済施設を整備をいたしますのは、当然昭和三十一年度予算に厚生省予算として要求をし、これを実施することになると思います。その際におきましてはもとより、年間五万人というものが内閣において到達したる救済の最低限の人数であるということになりますれば、八十億は来年度予算において要求するつもりでございます。そういうような予算措置と、いま一つの問題の点は、こういうような場合に家族の問題が起ってくるではないか、花村法務大臣が法律の施行によってそう大きな混乱が起らないと言うのは、取締り状況その他においてすぐ法を厳守して、しかもそれに伴って急速に検挙するという形で果して実施をできるかどうかということについてのお考えであったと思うのでありまして、決して家族の問題というようなことについての御答弁ではなかったと思うのであります。そういたしまするとこれはかなり重大な問題でありまして、家族の救済ということにつきましてはもとより生活保護法その他のものがありまするけれども、今日の生活保護の予算では十分カバーし切れるとは言いにくいと思います。
  76. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 最後に一点だけお伺いをして私の質問を終りたいと思うのですが、厚生大臣ももしこの法案が通過したら大きな大きな重荷を背負われることになるので、私はむしろ厚生大臣に任重いことに御同情申し上げるような気持があるわけであります。今警察庁の方の見込みである五万人の送検、この送検したのは大体処罰するという目的をもって検挙し送検されるわけですから、これには多少の時間的な余裕がある。と申しますのは、この間は本人の生活というものは国が保障するのですから未決勾留にしてもあるいは刑の執行にしても、その間はとにかく食っていける。ところがそれよりも問題なのは、それでは起訴されないものが一体どうなるかということが大へんなんです。私はこの法律ができますと、そこは多少政府特に法務大臣のお考えとは異なるところがあるかもしれませんが、相当買う方の春が少くなることによってまた売春も少くなる、こう思うのです。そして売春婦の中にも非常に良心的な人もありますから、何とかしてこういうことから足を洗おうと努力をするでしょう。ちょうど食糧のやみ取引の盛んなころに、ある裁判官は法律を厳守して遂に自殺されたということを思い出すのですが、私はそういう人も相当出るということをやはり念頭に置かなければならぬと思うのです。生活に困ったために現在日本では御存じのように一年三万人に近い人が、もちろん生活だけではありませんけれども、自殺者が出るという状態なんです。うち未遂が一万人ほどで二万人ほどは既遂だ、そういうふうな実に悲惨きわまる日本の現状において、しかも五十万人を対象としてこの法律ができて、そこに受け入れ態勢というものは何らできておらない。予算は来年度から一つ計上をして、そうして施設、家を建てよう、こういうのです。その間隙が私は大へんだと思う。五万人の刑を受けるという者よりは、むしろこれから足を洗おうとしてまじめに考える者たちに対して政府は一体どういう態度をとるかということを真剣に考えておかなければならぬという問題を私どもは思うわけであります。すなわち予算を取って、そうしてその施設をする、その施設も十分ではないが、ともかくも受け入れ態勢ができる、その間において起るところのいろいろの悲惨事というものを思いますときに私はりつ然たらざるを得ないのですが、それに対して政府はどのようなお考えをお持ちになるか。これは厚生大臣でも、また治安関係にも影響がございますから、法務大臣からも御所見を承わりたいと思うのでございます。
  77. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 ただいまの御議論は相当多岐にわたったと思いますので、一番しまいのことを御答弁いたしますれば、そういうことの事情が多々複雑をいたしておりまするために、政府としては吉田内閣がとっておりました売春問題対策協議会というものを中心にいたしまして、その後もこれを踏襲してなるべく早く結論を出そう、これは最近におきましては急ピッチに会合を重ねておりまして、相当具体的な代案をも浮き彫りにされつつあるような状態であります。従いましてもとより更生施設の問題にしましてもひとり売春婦のあと始末だけではなくして、その家族に対する社会保障政策の実施等につきましても、これは労働省方面の職業補導とも関連をしまして、ただいま鋭意代案を練っておるような始末であります。従って政府の考え方といたしましては、なるべく近い将来において結論を出し、そう従来の内閣のごとく——といっては失礼でありますが、従来の売春問題対策協議会がこの問題を各方面から検討いたしましたにいたしましても、一般から見まして問題の遷延をはかっているのではないかと見られるようなおそれのあるようなことは実際いたしませんで、とにかく結論をなるべく早い機会に出して、次の国会あるいはその次の国会あたりには必ず政府としての確たる方針を立てて売春をなくなすということに対する立法措置なども講じたいというのが今日の政府の態度である、かように考えております。しかし私が答弁いたしますよりやはり主管大臣でありまする法務大臣からこの点は御答弁をしていただくことが当然だろうと思っておりますが、社会問題とも関連いたしますので私からお答えいたしました。
  78. 花村四郎

    ○花村国務大臣 まことにただいまの御質疑は適切な御質問で大いに敬意を表する次第であります。法務当局といたしましては、法律をそのまま厳正に実施をいたしていくべきは当然でありまするが、しかし半面においてただいま申されましたようないろいろ家庭的方面における悲劇あるいはいろいろむずかしい問題が起きてくるであろうことも想像にかたくないのであります。しかし私どもといたしましては、法律の適用さえすればあとはどうなってもいいというわけには参りませんから、なるべく法の適用も刑事政策的の見地に立って、十分に家庭の事情等も考慮して適切なる法の運営をいたして参りますと同時に、かくのごとき悲劇に対する救済についても厚生省あるいは労働省等と十分に協議の上、適切有効なる処置を講じていきたいと存じます。また法務大臣といたましてもそういう面の救済に充つる予算措置等に対しましては、側面から働いて参ることによって不合理を是正していきたいと存じます。
  79. 高橋禎一

    高橋(禎)委員 私の質問はこれで終りますが、要するに政府当局におかれましては何といっても世界中の国々が悩んでいる問題、特に日本においてはそれこそ国をあげてこの問題解決のためにいろいろの意見が出ているこの際であります。私は歴代内閣がいまだ解決の曙光さえ見出し得なかったこの大問題に対して、現内閣が真剣に取っ組んでいただいて各人の理解する、そして悲惨事の起らない、犠牲者の出ない、ほんとうに納得のできる結果が招来するように、そしてこの問題が解決するように努力されんことを要望いたしまして、私の質問を終ります。
  80. 世耕弘一

    世耕委員長 吉田賢一君にお諮りいたします。戸叶君よりごく簡潔な関連質問を行いたいとの申し出がありますが、よろしゅうございますか。——それでは戸叶里子君。
  81. 戸叶里子

    戸叶委員 私ただいまの高橋委員質問に関連いたしまして、いろいろございますけれども、ただ一点だけこの際明らかにしておいていただきたいと存じます。それは今日売春婦の数が全国に五十万といわれておりますけれども、この数はいわゆる赤線、青線、その他のパンパン、そういった方々を全部含めての数でございまして、売春のみを業としておりますところの、いわゆる赤線の方々というのは、大体六万程度といわれているのでございます。従ってこの五十万の人たちに対する更生の問題はもちろん大切ではございましょうけれども、この赤線におられるところの、売春のみを職業としておられる人に対する保護対策というものが、まず第一に考えられるべきでありまして、その周囲にいる人たちは、女給さんなり、女中さんなり、芸者さんというような職業を持っているのですから、その本業に帰ってもらうというようにいたしまして、まずこの五万なり六万の人を対象としての救済をはかればよいと思うのでございます。そこで考えられますことは、先ほどから厚生大臣もあるいはまた法務大臣もそうでございましたし、あるいはこの法案の審議に当る人が心配いたしますのは、そういう婦人たちに対する更生施設がないという点である。私どももその点は非常に心配をすることでありまして、一日も早く更生の問題が考えられなければならないと存じます。けれども私どもまことに不審に思いますのは、今日結核患者で今急に入院を要する人が百三十七万いるといわれ、しかもベッドは二十万しかありません。そしてまた生活の要保護者が千二百万人もいるといわれながら、実際に保護を受けている人は百八十五万しかおらないのでございます。にもかかわらず、売春婦の人たちに対する更生の問題になりますと、これを一人残らず救うための施策がないからというような理由をもって、ここにこの法案の通過に逡巡せられるというような点につきましては、私まことに了承に苦しむものでございます。厚生大臣といたしましても、すでに八十億の予算を何とかしなければならないと考えておられるときでございますので、こうした完全な措置が急にできませんでも、他の例から比較して考えましても、一応この法案をそういう意味からも通さなければならない、私はこう考えるのです。そこで今申し上げましたように、結核患者に対してベッドが足りない。あるいは要保護者に対して完全な救済が行われていない、完全な保護がなされておらない。こういうことと比較して考えてみましても、当然この法案は今日必要なものである、こういうふうなことを考えるのでございますが、この点に対する厚生大臣の更生関係から考えられる所見をお伺いしたいと思います。  もう一つついでですから伺いたいと思いますけれども、どの方でも更生問題は取り上げられ、また第二国会においてこの法案が提出せられましたときも、これが通らなかった大きな理由は、いわゆる厚生の問題でございました。それならば、第二国会以来八年の間に、一体どれだけこの問題と取っ組んで、更生関係の仕事がなされたかと言わざるを得ないのでございます。そういう点から考えましても、この法案を通したときに初めて、この法律が出たのだから更生関係も早く考えなければならないという気持になるのじゃないかと考えるのでございますが、この点に対しての厚生大臣のお考えも伺いたいと存じます。
  82. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 ただいま全国の結核ベッド等の問題と関連をしてお尋ねでありまして、戸叶さんのおっしゃったことのお話の主張といいますかお考え趣旨につきましては、私ども決して異存があるわけではなく、ことに今日病気の中心問題でありまする結核施設というものに対して十分の施策がないにかかわらず、この問題だけは十分な対策を立てたい、その対策が立たない以上は本法の通過に反対であるかのごときお話がありましたが、私の考え方もこの際明瞭に申し述べてみたいと思うのであります。結核の問題はこの売春法と直接の関係ではありませんが、しばしば問題になっておりますので、確かに全国には二百九十二万という結核患者があり、百三十万程度は入院を要すると言われておるのであります。それに対して今日の日本の施設が二十一万ベッドというような少い数であります。しかしこれは最近におきまして、ことにこの一年間は、わが国の結核施設対策としては驚異的な数字が上りそうな形勢を示しております。すなわちこの春以来社会保障制度に対する政府の政策は、不十分ではありますけれども、従来から見ればかなり進出を見ておりますし、地方における結核医療対策に対する関心も非常に高まりまして、ひとり政府要路の考え方だけではなく、民間諸団体あるいは婦人団体等においても、みずから結核ベッドを作って、わが国の死に瀕しておる結核患者というものを救いたいというような観点から、本年は私はおそらく、来年の春にならないと統計はわかりませんけれども、驚くべき結核施設の躍進が見られるものというふうに大体推定をいたしております。これは公衆衛生局などの調査がだんだん上ってきておりますので、そういう意味で従来の対策からすれば、確かに今度の婦人保護施設に対してのみ十分のことをいたすことは、へんぱではないか、もとよりでございます。しかしやはり法案が通過する以上は、現在のような単なる全国十七施設で一千名程度しか収容しておらぬというような、九百九十七名というようなものでは、これはとうてい話になりませんので、これを大体今日の施設としても充実をしていかなければならぬというので、本年予算案の編成の際におきましても、財政当局が反対をいたしたにもかかわらず、最後まで主張いたしましてこれを残したような実情であります。しかしこれらの回転状況は、今日取締りの法規がないために非常に順調でありまして、従って取締法規ができますと、これは事情が私は一変してくるものと思うのであります。その際において、とにかく国警の当局は五万人というものを送検いたすということを申しておるのでありますからそれに対する措置を、かりにそれの十全の施策が、かりに八十億ができなくても、これに接近するような数字を通さなくては、厚生大臣としては責任ある措置ということはできないと私は思うのであります。そういう意味答弁を申し上げておる次第であります。この数字が多いから実施ができないということではなくて、もし法案が通過をいたしますならば、私としてはこういう考え方をもって対処したいということの信念が申し上げたのでありまして、決して本法案が通過することに反対をいたしておるのでございません。本法の趣旨には賛成いたします。しかしそれに対して政府が万全の措置をするということについては、これはわれわれとしてはいま少しく保護施設についての、さらに対処策があり、来年度予算を見通して、八十億かりに要求しましても、これに対して大蔵省側がどのような裁定を下すか、国の施策にはおのずからいろいろな軽重がありまして、売春問題は決して軽からざる重要な問題だとは思いまするけれども、厚生省の施策としてたとえば健康保険ないしは社会保険、これら社会保障の中核の問題をまず取り上げて解決しなければならぬ場面ももると思うのであります。従いまして、その際果してそれだけの数字を確保することができるかというような問題、あるいはそれらと関連する問題を含めますると、本法の趣旨には賛成いたしておりますけれども、政府といたしま果てはさらに一そうの充実した措置をはかりたいとお答えを申し上げるのは責任ある対処策だろう、かように考えておる次第であります。
  83. 戸叶里子

    戸叶委員 理想をお持ちになった厚生大臣でございますからこの法案に御賛成のこととは思いますし、ただいまの御所見をお聞きいたしまして大体わかったのでございますけれども、先ほども私がちょっと申し上げましたように、第二国会にこの法案が提出せられましてそれが反対された大きな理由は、やはりこの更生の施設がないということだったのでございます。にもかかわらず八年間も何ら手が下されておらないのであります。そこで私どもが考えますのは、予算を獲得するためにはどうしても何らかの法令の裏づけが必要だ、そういう意味から申しましても、この法案を通しておいた方が、厚生大臣が予算をお取りになるにも非常に取りやすい、こう考えるのでございます。この点に関する厚生大臣のお考えはいかがでございましょうか。
  84. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 簡単に、明確にお答えいたします。第二国会以来政府が措置をいたさなかったということにつきましては私の責任ではございません。それから今後の対策につきましては法令が通っておれば予算は取りやすい、その通りでございます。しかし法令とこれを措置するときの予算を獲得し得るというタイミングの見通しはまた別だと思っております。
  85. 神近市子

    神近委員 中川部長にちょっとお尋ねいたします。先ほどから五万という数字がしばしば繰り返されているわけでございますが、私どもは、さっき戸叶委員も申されました通り五十万を一ぺんに法網にかけるというなことは考えられないのでございます。まず売春そのものだけによっている赤線とかそれから基地売春、こはオンリーの営業でございましてその数が約十一万と考えられております。それをまず青線——その他は芸者さんにしましても業界というものがございまして、そして使用人、たとえば給仕あるいは女中の仕事、芸者ならば芸能と、その職能に返ってもらいたいというのが私どもの考えで、五万という数字はどこから一列にこれをかけようという意図から出ましたものか。それから今五万というような推定をなさっておりますけれども、どういう手かげんでその数字が出たのであるか。売春だけを業態としている者をまずかけなければならないというならば、十一万のうち五万という数字は二人に一人というような数字に近いのでございます。その五万の想定の根拠を一つ伺わせていただきたいと思います。
  86. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 厚生大臣が五万という数字をお述べになりましたが、その根拠ということですのでお答えいたします。厚生大臣がお述べになりましたことは大きな意味では間違いでございませんので、私何にも意見を申さなかったのですけれども、正確に言うと次の通りでございます。  しばしば私が申しましたごとく、昭和二十九年に、現行法のもとにおいて売春事犯を検挙いたしております数字が三万四千くらいある、これが事実でございます。それで私は五万人という数字を当委員会で申したことはないのでございますが、私ども政府部内におきましても売春問題対策協議会等で、売春問題につきましては熱心に協議しておるのでありますが、その間にいろいろ厚生省なり労働省の施策に関連を持ちますので、現在は三万四千人を検挙しておることは事実であろう。厚生省、労働省でいろいろ対策を講ずるのに参考になさる意味におきまして根本的な法律ができた場合に、どういう数字が検挙をする数字として出るかということは計算のめどになるので、それはいつでも想像でございますけれども、そういう国の法律が出た場合には、その後の捜査活動その他によっていろいろ事情は違うとは思いますけれども、厚生、労働両省で御研究になる場合には、警察は現在三万四千人検挙しておるので、もっと多く検挙されることであろうと思うけれども、一応の計算としては五万人と見たらいかがであろうか、そういうことを基礎にいたしましての厚生大臣の御答弁で、これは間違いでありませんからそう申したのであります。当委員会におきまして私が五万人と申し上げたというのは、当委員会のみならず当国会では一回もないのであります。
  87. 神近市子

    神近委員 今のお話で三万六千はもうすでに日常的に検挙が行われている。そうすると先ほどからの五万、五万という問題ですけれども、一万四千を新しく検挙するにすぎないのではないかということになる。ともかく三万六千というものは予算の面でも人手の面でも今まですでに行われている。新しくふえるのは一万四千の問題ではないか、こうなるのですけれども、それはその通りですか。
  88. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 これは当委員会から当国会の発言と直接関係はないのでありますが、われわれ政府部内の研究の状況に関連しての御参考になろうかと思うのでお答えいたしますが、現在確かに三万四千を検挙しておるのでございます。ところが不幸にしてその検挙した人間の相当数が再犯でございます。それで私ども政府部内の研究といたしましては、われわれ警察活動の検挙するのもいいのでございますが、何回も再犯を繰り返されたのではさいの川原で、お互い国家のために困る、こういうのが私どもの考えでありますので、政府部内の研究といたしましてはそういう再犯防止ということを考えまして、そうして将来警察がおそらく五万人くらい検挙した場合において再犯等が起らないような措置を関係各省で協議してもらいたいということをわれわれ政府部内で話しておったことがある。そういうのが実情でありますので、御了承願いたいと思います。
  89. 世耕弘一

  90. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 私は主として根本的な政府の御方針なり態度について伺ってみたいと思うのであります。
  91. 世耕弘一

    世耕委員長 吉田君にちょっとお願いいたします。時間が二時をさしておりますのと、あなたはさっきからずっとお待ちになったので、御発言を願うのがおそくなったことは申しわけありませんが、他の委員諸君の御熱心のためにあなたの質問の時間をおそくしたことを委員長からおわびいたします。なお関係官庁の諸君には、食事の時間をさいて御協力願っておることに対しても感謝いたします。食事もさせないで委員会の審議を促進することはどうも人権問題だというおしかりも出そうでありますが、この際吉田君から質疑応答は簡潔に済ませたいとの御希望でありますから、しばらく御協力を願いたいということを、委員長から申し上げておきます。
  92. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 保守派の進歩的な厚生大臣に伺いたいのですが、あなたの御答弁によりますと、大体において、この種の法律のできることには御賛成のようであります。そこで、あなたも閣僚の一人として、また国民の不幸を救う厚生行政の主管の長として、その面から、最も大きな関心を持っておられるものと思われますので、私はあなたに伺ってみたいのであります。すでに戸叶委員などからも発言がありましたごとくに、昭和二十三年の第二国会において、一たび出た売春処罰立法が、審議未了になり、その後さらに三たび出ましたけれども、これまた廃案等になっておるのであります。また一方から見て、各地方自治体の条例は、東京都初め、ずいぶんできております。あるいはまた、戦後すでに十年を経過して、こういうような次第に累積して参りました国民の要求というもの、あるいは幾たびか討ち死にしております法案の国会における運命等から考えましても、あなたのお立場から見ますと、実にこれは歴代政府の怠慢でないかというふうにお考えにならぬかと思います。これはもっと早く、しかるべき内容のものが立案され、国会に政府みずからが出すべきものであったろうと思います。この点について、あなた方の政府の怠慢と必ずしも申しませんけれども、歴代政府がこれらの措置について、積極的に措置をしなかったということは、政府の怠慢と見るべき案件でないかと思いますが、いかがですか。
  93. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 政府においても、歴代の政府が早くから対策協議会を設けまして、研究をしておりましたから、これをもって怠慢である、あるいは責任のない措置だということを、一がいに言い切ることは、私どもとしてもしして妥当であるかどうかわかりませんけれども、少くともこういう問題について各方面意見を徴しつつ、政府部内における意見をまとめていきます場合において、多少果断なる措置を欠いた、つまりスピーディでなかったということは言えると思います。
  94. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 いわゆる勅令九号ができましたのは、昭和二十二年であります。また二十三年以来、宮城県を初めとして、各都府県等において、あるいはまた市などにおいても条例を策定いたしまして、売春禁止の方向に立法化しつつある形勢が顕著になってきております。こういう点から見ても、スピーディでなかったということは、そういう言い方もできますけれども、ともかく五十万と常識化いたしましたところの白色奴隷といいますか、不幸な人があるということが、今国会でこんなに大きな問題になっておりますけれども、顧みると、政治の貧困ということだけでは解決できない。とにかく十年間にされなければならぬ問題がたくさんあった中でも、日本の文化の将来をきめるべき最も重要な問題について、なおざりであったということは、いなむことができないと思うのです。法務大臣の御所見はいかがでしょう。
  95. 花村四郎

    ○花村国務大臣 その点は、私どもも早く作るべきものであると考えておったのですが、鳩山内閣としては、御承知のごとく、売春問題対策協議会ができておりました関係上、その協議会に諮問をいたしておりましたので、その結論を見た上で、本法案を作るという心がまえでおりました。従ってこの協議会の結論が出ません結果、政府案として提出し得なかったのでありますが、それ以前のことについては、私がここでどうこう申し上げることではないと思います。
  96. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 各般の問題について協議会あるいは審議会というものがありますが、怠慢な政府の態度というものは、常にこういった審議会とか協議会とかいうところに責任を転嫁するきらいがなしといたしません。そういった審議会とか協議会というものを駆使しまして、要するにこれは政府の施策、政府の意思決定の参考にするに過ぎない。政府の政策は、組閣の当時において大本が明らかになっておらなくちゃならぬ。そういうものを持っても、もし無能な審議会であるならば、それは十年河清を待つというか、何年たちましても、この種の答申の立案ができないことになりますので、そういう態度は、政府が政策を樹立する上において、政策を実行する上においては忌むべき態度であります。これは厳に戒むべきであって、ちょうど私の時計の時間がおくれておりましたから私は一遅刻いたしましたというのと同じであります。政治の責任は政府であり、行政の責任は政府であり、また政策の立案、執行の責任は、すべて政府にあるのであります。みずからの内部の機関に責任を転嫁するというような態度はよろしくありません。私はその点については非常に不満であります。そこで伺いますが、どうも厚生大臣並びに法務大臣の御所見をじっと聞いておりましても、ほんとうにこれに真剣に賛成なさるのであるのか、あるいはできるだけ弁解をしてこれが通過を阻止しようというのであるが、何とかして世評の非難をこうむることも避けて、適当にやっていこうというのであるか。どうもその辺について明確な態度に欠けるところがあると思うのであります。そこで私は明確な態度を示してもらいたいと思います。その前提として一、二伺いたいのでありますが、厚生大臣は、みずから法律の執行の当局ではありませんけれども、最も関心を持っておいでになります厚生大臣のお立場として、また閣僚の一人として——閣員が一切の政治、行政の責任でありますから、閣僚の一人として伺うのでありますが、あなたは二十二年勅令九号というものの全趣旨について、全面的に御賛同になるべきものとお考えになるか、この勅令を非難すべき、改廃すべきものというふうにお考えになるのか。あなたにこんな御答弁を求めることはどうかと思いますから、法務大臣に聞きましょう。法務大臣より今の問題について御答弁を願います。
  97. 花村四郎

    ○花村国務大臣 ただいま吉田君より、協議会に責任を転嫁することはよくないじゃないかというお話がありましたが、鳩山内閣においては断じてかくのごときことのないことをはっきり申し上げます。  それからただいまの法令は当然適用せらるべきものと考えます。
  98. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 まずこの売淫処罰に関する勅令は尊重すべきものであるという基本的な態度はわかりました。さすればあなたに伺いますが、いわゆる赤線区域について法律上の見解の御答弁を得たいのでありまするが、一体これはこの勅令違反するものとお考えなのか、そうでないとお考えなのでしょうか。
  99. 花村四郎

    ○花村国務大臣 ただいま吉田委員の申されました事柄は、考えようによって違いまするが、もし婦女に売淫行為をさせる意味における契約をしたということでありまするならば、当然勅令の適用のありますることはもちろんでございます。
  100. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 当委員会に去る日、鈴木明というこれら業者の全国的代表者が参考人として御出席になり、いろいろ御説明のありましたうちにおきまして、赤線区域における売淫の対価の分配が説明せられたのであります。いわく従業者が四割をとり、そして業者が六割をとるということであります。また浜田八重子さんあるいは池上よし子さん、近藤春子さんというようなみずからその行為をなした体験者の御説明があり、ことに近藤さん、池上さんよりは同じく水揚げのうちの手取りというものの説明があったのでございます。従って国会におきましては、また世間の常識といたしまして、あるいはまた本委員会における政府委員答弁の全趣旨にこれを顧みまするときに、吉原の地区におきまして、たとえばいわゆる赤線地区におきましてなすことが何であるかということは、これはもう公知の事実であります。いまさらこれを法務大臣に伺うことすらあまりにも失礼であります。従ってあそこは何をするところであるか、つまり対価を得て不特定な人と性交をするということがあそこの仕事であります。これは明らかであって、あそこへ飯を食いに行って、あそこへコーヒー飲みに行って、あそこへ昼寝しに行って、あそこへ何か部屋だけを借りに行くというような人は絶無であります。こんなことはあなたに申し上げるまでもございません。従って考えようによってはということは、私はあなたが作為的に御答弁をなさろうという基本的な態度が現われておるんじゃないだろうか、私は究極におきましてあなたを責めようと申すのじゃないのでありますから、どうぞそこは一つ厳正な、また公明正大な法務大臣として御答弁を願いたいのであります。やはりこの赤線区域は何をするところだということは、これはもう公知のことでありますが、性交をして営業するという場所なんであります。でありますから、いまさら考えようによってはというような前提をお置きになるべきものでないと思いますが、いかがでしよう。
  101. 花村四郎

    ○花村国務大臣 赤線区域はただいま吉田君の言われるような事実ありとすれば、勅令に触れることは当然でございまするが、しかし遺憾ながらそういう証拠があがるかどうかというところに困難性があると申し上げてよろしいと思います。
  102. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 これは実に噴飯ものであります。こういった実体に対する把握、認識が欠けておりましたら法務行政はできません。従って黙認とか公認とかいうような、あるいは集団地域が公けに保護せられているんだというような非難が起るゆえんだろうと思います。しかし賢明な法務大臣であるから、ゆえあってそういうお言葉をお用いになるのかとも思います。しかし証拠がないということになるならば、しからばしかたがありませんから少しお話を進めねばなりません。この実態の調査ないしは捜査に当ったということがあるのだろうか、どうだろうか、また捜査に当るということをしなくて取締りができるであろうか、まずその必要は絶無であるのだろうか、警察庁の代表者から答弁をいただきます。
  103. 中川董治

    ○中川(董)政府委員 勅令九号の違反の捜査の関係でいろいろ御質問があったのでありますが、これはこういうのが実情でございます。私どもは勅令九号の犯罪捜査をゆるがせにするというような考えを持たないでいろいろやっておるのであります。この点は勅令九号の契約をした者につきましては、赤線区域といえどもやっておるのでございます。全部漏れなくやっておるかという点になりますと、まだやっていない面もあろうかと思います。それで現に赤線区域については、従来黙認しているのはけしからぬじゃないかというような陳情等もしばしばありますが、それはやっておる証拠であります。ああいった地域における勅令九号違反は一件もないかと言われると、それは調査の欠点もあろうかと、こういうことになろうかと思います。
  104. 花村四郎

    ○花村国務大臣 先ほど答弁に補足をいたしておきますが、赤線区域に対する取締りをいたしまして、検挙した数が二十九年度において一千三百七十九件ありまするから、全然やっておらぬわけではありません。
  105. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 すでに二十九年度一千三百七十九件の赤線区域における勅令第九号の違反検挙がある、法務大臣においては赤線区域が何ものであるか、その生態いかんということは、この事実を通しましても、もうそれは骨の髄まで御承知のはずであります。そこで勅令九号は尊重する、赤線区域は実情がよくわからない、しかし検挙はずいぶんした。しかし刑事部長はすべてがすべて一切の業者勅令違反者であるとは思えぬというようなお話であるのであります。そこで要するところその御答弁に徴してみても、赤線区域が法律勅令九号に違反しておる行為を反復しておる営業であるということは明らであります。またいわゆる六割というのですが、水揚げの分配の契約というようなものが民法の九十条に違反しているというのは、すでに議論の余地はありません。そこでここにおいて政府の態度を聞かなくちゃならぬのですが、勅令があって検挙をいくらかしてきておる。検挙はするけれども存在は認めておる。もしこれがやみ米でも運搬するような人間でありまするならば、ほとんど次の仕事を繰り返すことができないほどの打撃を受ける。しかし赤線区域はいよいよ繁盛する。勅令は尊重し、いくらか検挙もしたけれどもまだ実体はよくわからぬ。捜査が困難、証拠がはっきりしないということでだんだんと繁盛していく。一体こういうことでよいのであろうか。そこであなたに伺いますが、これはあなた方としましてはほんとうは黙認すべきものである。もっと言うならば勅令九号も廃止した方がいいのだ、あるいは古い公娼制度の復活というようなこともいいんじゃないかというようなことが思想の根本にあるのではないだろうか、あるいは別の角度から申すならば、これは必要な社会悪だというお考え方が強くあるのではないか、だから必要な限度において一定区域を限ってこれを温存していくのがいいのではないかというようなお考え方があるので、今のような矛盾した御答弁になってくるのではないかと思うのですが、その二点につきましてはどうお考えになりますか。法務大臣、厚生大臣両大臣とも一つ答弁を願いたい。
  106. 花村四郎

    ○花村国務大臣 吉田委員のおっしゃられること、なかなか傾聴に値いするものがあると存じます。勅令第九号の現に存します以上、私どもはこれにのっとりましてその取締りを励行していくべきことは当然であります。また励行もいたしておるのでありますが、先ほども申し上げましたように、なかなかその証拠を収集することがきわめて困難であり、もし証拠なくして罪を断ずることに相なりますならば、これこそ人権じゅうりんとして大きな非難を受けなければならぬのみならず、非難よりも人権じゅうりんのまことに忌むべきことを考える場合において、あらゆる面から慎重に考慮して、はっきりした証拠のあるものに限って取締りを行なっておるような次第でありまして、決して放任をいたしておくわけではありませんが、しかし吉田委員の言われたような見方もなはいわけでもありません。まあそういうことであらぬことを希望いたしておるのでありますが、そこまで厳格に推し進めていっていいか悪いか、これは大きな一つの社会問題としてこの法案審議を契機として大いにまた考えなければならぬのじゃないか、こう思っております。
  107. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 私は厚生大臣の御答弁を求める前に、非常に重大な聞きのがすことができない御発言がありましたので、重ねて伺いますが、私の伺いました二点は、一点は種々の御答弁がありましたけれども、幾多矛盾した御発言でありますので、要するところ思想の根底といたしまして、なお古い公娼制度への復活ということが根本に流れているんじゃないかということを伺ったのであります。そういう考え方もあるというならば、政府がほんとうにそんなことをお考えになっておるのであれば、これは大へんであると私は思うのです。これが一つであります。いま一つといたしましては、従ってあなた方としてやむを得ない社会悪だというようなお考え方が根底に流れているのじゃないだろうか、この二点だったのであります。前者であるとすれば大へんでありますので、重ねてこれは聞いておかなければならない。
  108. 花村四郎

    ○花村国務大臣 公娼制度復活の意思はございません。それからこれは公然と認めた社会悪ではないかという御質問でしよう。
  109. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 そういう意味ではない。要するに思想の根底といたしまして、第二には、これはやむを得ざる必要な社会悪、こういうふうにお考えになっておるので、るるいろいろな御陳弁のような答弁が出てくるのではないかということです。
  110. 花村四郎

    ○花村国務大臣 第二点はさように考えておりません。
  111. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 厚生大臣は本法案に対しまして大において賛意を表しておられるかのように承わっておるのであります。ただしいろいろと社会保障等に対する御所見が伴ってはおりましたけれども……。そこであなたといたしましては取締り当局の赤線地域に対する今の御答弁は実に遺憾な感じをお受けになったであろうかと思うのであります。あなたといたしましては古い公娼制度への復活というようなそういうお気持のないということに私は了承したいのでありますが、しかし反面におきましてこの種のものの存在することは余儀ないことでやむを得ない社会悪だ、こういうお考え方はないでしょうか。
  112. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 私はもとより公娼制度復活などということは夢にも考えたことはございませんし、また今日これはやむを得ざる社会悪などということは考えておりません。従ってなるべく早い機会におきましてかような現状を払拭したい、かように考えております。
  113. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 法務大臣に伺いますが、私はこの法律案につきまして——これは有力な民主党、自由党の方も提出者になっておられるのであります。賛成者の中にはもちろんそうそうたる方もずいぶんと署名をしておられます。言いかえますと、超党派的な売春等処罰法案がここに提出されておるのであります。従って審議の過程といたしましては、いろいろとあらゆる角度から議論を尽すということがまことにけっこうなことであります。法務大臣に伺いますが、私はあなたの基本的なお考え方等を拝聴いたしましてこの法律が悪いのだろうか、あるいはまた足らないのであろうか、何か行き過ぎたとお思いになるのであろうか、あるいはまた今の売春等に対する協議会の結論を待つというお話でありますが、結論は結論といたしまして、ここに具体的に提示せられておる案がありますので、閣員といたしまして、また主管大臣といたしまして、この法律案に対します御所見はどうなんでありましょう。いろいろとお説を承わっておりますと、検挙も励行しておりますし、また基本的なこの種の法律目的なり性格というものに対する御理解も同じようにあるようでありますが、内容でも何か御意見でもあるということなんでしょうか。政府の一員といたしまして、主管大臣としまして、この法律案に対する御所見はどういうことになるのでありましようか。
  114. 花村四郎

    ○花村国務大臣 当委員会において前にも申し上げたことがございますが、私個人といたしましては本法案に対する意見がないではありませんが、しかし法務大臣として本法案に対する内容の批判は控えたいと思います。がしかし本法案が国会を通過いたしました場合においては、取締り面を担当しております法務省としては、その精神にのっとって適切なる取締りを励行していきたいと存じます。
  115. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 厚生大臣は、しからば大臣として該法律案に対しまする御所見はどういうふうに承わっておいたらいいでしょうか。
  116. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 大体ただいまの法務大臣の考え方と同様でございまするけれども、いま少しく厚生行政を担任する者として明確に申し上げれば、本法の趣旨に対しては賛成でございます。しかしながら私は御承知のごとく党籍を民主党に置いておりまして、党全体の意見に従わなければならぬ点もありまするし、また政府といたしまし、はこの問題に対しまする最終的な態度は、御承知のごとく売春問題対策協議会の答申を待って決すべきが最も適当である、かように存じ、その拘束に従っておるのであります。
  117. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 去る本月の十四日の当委員会における理事会におきましては、民主党——自由党もそうであったと思いますが、きのうもしくはきょう中にこの売春等処罰法、すでに提案されておりまする法案とは別のものが出されるというようなふうにわれわれは了解いたしておったのであります。従ってこの審議の進め方におきましても、来たる十八日の月曜日に懇談会をせられ、十九日には採決の段取りになるというふうな了解が各党代表者によってなされておったのでございます。そこでやはり民主党を代表し、自由党を代表せられておる委員会理事の御発言もあったのでございまするが、今承わっておりますると、売春問題対策協議会の成案が得られてから政府は態度をきめるようなお話であります。態度をきめるといいまするか、それから政府といたしまして売春法案に対する御所見がきまるようであります。そこで私どもまじめに本気にすべて理事会とか委員会の協議決定を信頼し、誠実にこれに従っていこうとするものにおきましては、やはり何らかそこに今の御答弁によりまして食い違った感じを受けるのであります。そこで両大臣に伺いまするが、政府といたしましては与党との間に本法案に対しもしくは本法案とは別に代案といいますか、売春等処罰に関する法律案。御協議がなされたのかいなや。すでに新聞等によりましては代案の内容すら報道せられておったのでございます。党の幹部として、政府の閣僚の代表者といたしまして、党の内部のことをこまかくこの際明らかにしていただきたいとは申しませんけれども、党の御関係においてやはり意見などがきまってくるのでありまするし、ことに厚生大臣もみずから党員であることもお述べになっておる際でありまするので、この党の代案というのは一体どうなったのであろうか。政府との間の御相談はどうなったのであろうか、その辺について少しぶちまけた消息を一つ政府側からお差しつかえない限り述べていただきたいと思うのであります。そうしませんとわれわれもやはり党を代表いたしまして委員会に臨んで審議いたしておりまするので、その売春問題対策協議会の成案なるものがいつの遠い将来にできるものやら、何の約束も聞いておりませんし、こういうようなことでは実に困るのであります。ちょっと当惑の感じがいたします。非常に大きな食い違いの感じを受けるのでありますが、その辺について一つ両大臣から御説明を伺ってみたいと思います。
  118. 花村四郎

    ○花村国務大臣 政府といたしまして売春問題に対しましては、先ほども申しましたように、売春問題対策協議会の結論を見た上で適当なる措置を講ずることに相なっておりまするので、従って今日まで閣議の問題として眠り上げられておりません。それからなお民主党してどうであるかというようなお話でありましたが、民主党としての代案が何か出るようなうわさは私もかねてから聞いておりましたが、今日までこの問題に対するはっきりした態度を党の方から政府の方へ今なお申して参りませんから、党がいかなる対策を考えておりまするかはまだわれわれの関知せざるところでございます。
  119. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 ただいま花村法務大臣から御答弁申し上げましたように政府としてはたびたび言明をいたしておりまするように、売春問題対策協議会の答申を待って最終的な態度をきめる、措置をするということの方針に基いて進んでおるわけであります。従ってただいま法務大臣が申し述べました通り、閣議におきましてその答申の出ないうちに対策を講ずるというような話し合いは一度もしたことはございません。それから党の方との関係はいろいろ情報は聞いております。少しくお話をいたしますならば、党としては今回の問題について非常に真剣に考慮をされておるようでありまして、ことに政府とは違いまして、政府は売春問題対策協議会の結論を待つわけでございまするから、この答申がいつごろ出るか、まあ私どもも促進をするように申しておりまするから、あるいはこの夏中には十分の作業が整って、答申が得られるのではないかというふうに大体見通しはつけておりまするけれども、これが今国会の終末までに間に合うような答申が出るとは客観的には私は見ておらないのであります。それから党の方は何といいましても国会は七月三十日まででありまして、また各般の情勢は再延長はなかろうという方向に進みつつあるようでありますから、それまでには当然党の最終的態度をきめなければならぬというので非常に真剣な御論議があって、売春問題対策協議会と並行してもっと掘り下げた論議をなし、なおかつ急速なる結論を期待するような方向に進んでおられるようにも聞いております。いずれにいたしましても、今国会において民主党としての具体的な態度をきめるというふうに取り進んでおる、こういうふうに聞いておりますし、その際においては厚生大臣も党と十分連絡をとって党の意見に従ってくれという申し入ればありました。私もそのつもりでおります。
  120. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 このいわゆる代案なるものは私は一々批評するわけではないのであります。ただこの種の重要な問題につきましては与党の立場を代表し、また与党はやはり政府の政策を支持しておられるので、表裏一体の関係にあるわけでありまするから、一面において与党の幹部であり一面において行政府の代表、主管大臣及び厚生大臣のお立場であるわけであります。そこで一方売春問題対策協議会の成案を待つ、それが政府の態度である。そこで党はその対策協議会の成案にかかわらず、案を立てるということが当委員会における論議であったのであります。そういたしますと、これは率直に御説明願いたいのでありますが、やはりすべてあなたらの側からは売春対策協議会の成案がいつ出るかわからぬことが一つ、そして成案が出てからでないと態度はきめないということなのであるか。この月末に会期が終了するので、急いで真剣にこの問題を検討しておるのであるならば——それはかりに月末に衆議院通っても、常識上参議院を通過する時間はないのでありますから、そこで理事会もみな御同意になって十九日に採決しようというところまで行かれたのであります。といたしますと、結局売春問題対策協議会の成案というものが、きょうあすにでもできるのか、できたのか、そういうことを全然顧慮しないでは、態度をきめ、あるいは代案を作ったりすることは不可能であるというふうにも考えられます。その辺の関係は一体どう理解すればよいのか、もっとあけすけにおっしゃっていただきたい。せっかく理事会はまじめに真剣に、十九日にほんとうに採決になり、それまでにきのうきょう民主党側から代案が出るものとみな信じて審議に参加しておるのであります。これは国会道義の上から見ても、国会運営の上におきましても、やはり厳粛な申し合せの事実であると私どもは考えて、これに従っていかねばならぬと思うのであります。しかるに、従っていかねばならぬものが、今の御説明をだんだん聞いておりますと、適従に迷わざるを得ないことに陥ってしまいます。どうしてもこれは納得できないので、あなたの方の対策協議会における成案の日時、あるいは案のいかん、それと代案の作成等、政府の関係をそれぞれの面からやはり何とか御答弁をまとめていただきませんと、適従に迷うという結果になります。両大臣から御答弁を願いたい。
  121. 花村四郎

    ○花村国務大臣 売春問題対策協議会は、鳩山内閣になりましても相当数開きまして、この諮問事項に対して協議を願ってきたのでありますが、今国会との関係もにらみ合せまして、なるべくすみやかにその結論を出してもらいたいという意向をもちまして、私から再三請求をいたしまして、現に本月の上旬にも一回協議会を開き、なお本日も開いておりますが、遺憾ながらまだその結論に到達しておりません。そこで政府といたしましては、その協議会に諮問をいたしておるのでありますから、その協議会の結論を見て対処したいという意味考えておるわけでありますから、その点はただいま申し上げたことで御了承がいくことであろうと存じます。  それから党の方といたしましては、現に議員立法として本法律案が議会に提案をいたされておるのでありますから、従ってこの法案に対しては、党は党としての立場においていずれかにやはり決定しなければならぬことは当然でありますので、その決定に向っておそらくあらゆる観点から研究いたしておるのではなかろうかと存じます。
  122. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 厚生大臣も同じ答弁ですか。
  123. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 同じことです。
  124. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 厚生大臣も同趣旨答弁のようであります。あらかじめそういうようでありますから、厚生大臣の答弁は要りません。そういうように聞いてよろしゅうございますか。
  125. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 はい。
  126. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 そこは今御説明がありましたけれども、それはちょっと御説明にならぬのであります。と申しまするのは、一体政府心々とおっしゃるけれども、やはり政府は党が与党で、政府は政策を行いなさる。そこで政府といたしましては、もし本法案の賛否いかんということならばあなたの御説でわかるのです。またわかるというよりも、あなたの御説でもあえて私は矛盾を指摘いたしませんけれども、問題はやはり私ども国会の運営上、新しい別案が出るという了解をもってきているのであります。新しい別案ということは、やはり政府と与党との間の話が相当なければできないだろうと思う。その場合に、別案なるものは政府は関知するところにあらず、党は党で勝手にするということであるならば、党と政府と分離するという状態で、そういうことで日本の政治をやれるのですか、こういうふうにお尋ね申さねばならぬのであります。やはり政府といえども個人の政府ではないのでありまして、国民の政府なんです。行政府は国民の行政府なんだから、このような重要な法律案の策定に当りまして、党と政府と、お前西に行け私は東に行くということでお互いにてんでんばらばらなことで、一体政府は行政の責任を果し得ますかとお尋ね申さねばならぬのであります。何となれば、政府は漫然ととは言いませんけれども、成案がいつできるやらわからぬのを待っている。せいぜい暑いけれども勉強してくれとおっしゃっているのかもわからぬのだけれども、それと現実に成案を得んとする党は、当委員会に対しましてはきのうきょう成案を出すということになっている。十九日に適当な採決まで到達せんとするのがわれわれの努力の目標なんです。そういう予定で進んでいるのです。でありまするから、やはりここは政府と党が一体のものとわれわれは信じてものを言うているのでありますから、対策協議会の成案にまかせちまって、それによって政府は態度をきめますということで一体いいのですかといって、理事会の申し合せなり審議の予定の話の資料として、質問の資料として私は出しているのであります。ほんとうにこれがそうであるならば、政府としては、売春の対策協議会の成案ができるまでは態度はきめないのだ、従って党がどういうことを考えようと、党は党だ、党が賛成しようと反対しようと、党は党で政府は政府だというふうにばらばらの状態だということに了解していいのですか、こういうふうに聞きたいのですが、厚生大臣、一度はっきりさしてください。
  127. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 これは決して矛盾をいたしておりませんので、明確に申し上げるならば、政府の最高方針といいまするか、政府の今日の目標は売春問題対策協議会の結論を待っているということになりまするから、この国会、すなわち七月三十日を最終日といたしまする今国会中にこの売春問題対策協議会の結論は出ないものと考えます。従って、その対策協議会の結論を待つということになりますると、この国会におきまする政府の売春問題に対するところの態度は——売春をなくそうという思想は政府は一貫して持っておりまするけれども、これに対する具体的措置を下す段階にはないということを申し上げてしかるべきかと思うのであります。従って民主党としましてもその大ワクをはずれず政府の目じるしに同調しまして——現に提案をされておりまするのは議員提出立法で売春等処罰法というものが出てきておるのでありますがその趣旨には賛成であり、民主党もおそらく賛成だろうと私は思いますが、その際におきまして、これを実施する際の受け入れ態勢あるいは社会状態等を勘案されまして、やはり政府の目じるしとするところの大ワクの線には沿いつつも、売春等処罰法案に対するところの賛否をきめなければ委員会に対して不信義であるというような関係から十九日におそらくこの大ワクの線に沿いつつの民主党としての態度は出ると思うのであります。これはやはり国会の審議というものを尊重し、提案された方々に対しまする議員としての相互尊敬の立場に立ちまして、当然一党として断を下すべきである、また回答すべきであるという立場から行われるものと思いますが、政府の方針と全然矛盾をするような結論が出るなどということは断じてありません。
  128. 吉田賢一

    吉田(賢)委員 結局そういたしますると政府といたしましては、会期迫っておる今国会には売春対策の協議会の成案を得られないだろうから従って立案をするに至るということはない。第二には与党と政府との関係は表裏一体でありましょう。従って本法案に対し、また本法案の審議の各事情、申し合せ等も十分了承の上、政府並びに与党との関係におきましても対処せられておるものと思いますから、格別の代案といいまするか、別案は出ないだろう、こういうふうに了解していいのでしょうか。
  129. 世耕弘一

    世耕委員長 ちょっと吉田君私からもお答えいたしますが、実は与党としての民主党のこの案に対する取扱いについては、審議経過などはすでに主任理事から刻々党に報告しております。なお今朝来特別にこの問題に対する調査会を開き、代議士会をも開きまして、私も実は理事とともに呼び出されまして、けさ九時から会議を開いたような次第であります。相当議論があったようでありますが、まだ結論を得ておりません。そこで先ほど来御発言がありましたように、当委員会としての理事会の方針は、十八日の午後人権擁護に関する委員会の終了後、さらに理事会を開いて売春等処罰法案の取扱いについての協議会を開くという段取りになっております。おそらくそれまでに何らかの結論が各党から持ち寄られるものと、かように私は信じております。御了承おき願います。
  130. 川崎秀二

    ○川崎国務大臣 仰せになったことは前段はその通りだと思っております。つまりあなたは私の言ったことを非常に整理されて御確認されたわけですが、その通りだと思っております。政府はこの国会ではおそらく売春問題対策協議会の結論を得るということは困難ではなかろうか、しかし促進をさせておって、近い将来に結論を出す、その結果に基いて対策を立てるという——対策とは法律案ということになるだろうと思います。それはその通りでございます。それから民主党はその大方針は決して政府と矛盾しておらない、ぜひとも御確認を願いたいと思います。ただ代案が出るかということについては私は十分承知をいたしておりませんが、しかしもしかりに代案というものがあっても、代案の内容は私ども今日新聞紙上以外には全然存じておりませんけれども、そういうことがコンクリートになったとはまだ聞いておらないのでありまして、そういうものが出ても政府の考えておる方向に向っての前進であろう、かように感じておりますので、それらの詳細については理事にお聞きになるか、あるいは私は党の責任者でございませんので、岸幹事長でもお呼びになってお聞きになるのが適当であろうと思います。
  131. 世耕弘一

    世耕委員長 本日はこの程度にとどめ、次会は明後十八日開会して、人権擁護に関する件を審議する予定であります。  なお当日委員会散会後理事会を開き、売春等処罰法案の取扱いについて協議をいたしたいと存じます。理事諸君は御出席を願います。本日はこれにて散会いたします。     午後三時七分散会