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1955-07-07 第22回国会 衆議院 法務委員会 第32号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年七月七日(木曜日)     午前十一時開議  出席委員    委員長 世耕 弘一君    理事 山本 粂吉君 理事 三田村武夫君    理事 馬場 元治君 理事 古屋 貞雄君    理事 田中幾三郎君       椎名  隆君    高橋 禎一君       林   博君    牧野 良三君       松永  東君    眞鍋 儀十君       田口長治郎君    畠山 鶴吉君       猪俣 浩三君    神近 市子君       細迫 兼光君    淺沼稻次郎君       佐竹 晴記君    戸叶 里子君       吉田 賢一君    志賀 義雄君  委員外出席者         参  考  人         (全国料理飲食         業者連合会準備         委員)     茂木 正策君         参  考  人         (無職)    近藤 春子君         参  考  人         (無職)    池上よし子君         参  考  人         (長崎県席貸業         組合連合会従業         婦組合長)   浜田八重子君         参  考  人         (吉原カフエー         喫茶協同組合理         事長)     鈴木  明君         参  考  人         (社会事業家) 伊藤 秀吉君         参  考  人         (東京大学医学         部教授)    市川 篤二君         参  考  人         (売春問題対策         協議会委員)  山高しげり君         参  考  人         (評論家)   神崎  清君         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ————————————— 七月七日  委員小澤佐重喜君、生田宏一君及び細田綱吉君  辞任につき、その補欠として田口長治郎君、畠  山鶴吉君及び戸叶里子君が議長の指名委員に  選任された。     ————————————— 七月六日  宇部市に山口地方家庭裁判所宇部支部設置の  請願(田中龍夫君紹介)(第三四九二号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  売春等処罰法案神近市子君外十八名提出、衆  法第一四号)     —————————————
  2. 世耕弘一

    ○世耕委員長 これより法務委員会を開会いたします。  本日は売春等処罰法案を議題とし、参考人より意見を聴取することにいたします。  この際参考人各位に簡単にごあいさつを申し上げます。参考人各位には御多忙中にもかかわらず御出席下さいまして、まことに厚く御礼申し上げます。  本法案は、いわゆる売春をした者及びその相手方となった者、または周旋、勧誘、場所を提供した者等を、健全なる性道徳を破壊した、婦女の基本的人権を無視する行為者とし、自然犯、すなわち道徳的にこれらの行為は悪い行為として処罰せんとして提出されたものであります。本法案は、世上相当の議論のあるところでもあり、国会におきましても再三提出され、今日までその成立を見ることができなかったのであります。本日委員会は、参考人各位からそれぞれの立場における忌憚のない御意見開陳をいただき、今後法案審査参考にしたいと思うのであります。  なお念のため参考人各位に申し上げますが、御発言は二十分ぐらいの範囲とし、最初に姓名、御職業をお述べいただきたいと存じます。委員各位に申し上げますが、参考人に対する御質疑は、午前中に予定されている四名の参考人発言が全部終ってからお願いいたしたいと存じます。  本日の参考人は、全国料理飲食業者連合会準備委員茂木正策君、近藤春子君、なお池上よし子君、これは追加いたしました。次に長崎県席貸業組合連合会従業婦組合長浜田八重子君、吉原カフエー喫茶協同組合理事長鈴木明君、社会事業家伊藤秀吉君、東京大学医学部教授市川篤二君、売春問題対策審議会委員山高しげり君、評論家神崎清君、以上九名にお願いすることになっております。  それでは全国料理飲食業者連合会準備委員茂木正策君から御発言を願います。なお御発言に際しましてお願いいたしたいことは、御発言のときは委員長とお呼びの上御発言をお願いいたします。では茂木君にお願いいたします。なお茂木君に一言申し述べますが、御意見開陳を願います茂木君には、料理飲食店全国代表立場で、世間で言えばいわゆる青線区域立場から売春等処罰法案について意見を述べていただきたいと思うのであります。よろしくお願いいたします。
  3. 茂木正策

    茂木参考人 ただいま委員長から御指名になりました全国料理飲食業者連合会準備委員茂木正策でございます。これから青線区域代表といたしまして、しばらく意見開陳させていただきます。  青線区域とか赤線区域とか申しますけれども、この名称の根拠がどこにありますか存じませんが、われわれ青線と申しますのは、要するに終戦後のあの悲惨な窮乏生活の中から、われわれは職を得るために、好むといなとにかかわらず現在までその惰性によって生活を続けておるものであります。しかしわれわれ業者はほとんど組織的なものを持っておりません。しかもその内容におきましては、現在の赤線以上に及んでおるものもたくさんあるのでございますが、これに対する取締りの風当りは比較的強い現状にあります。しかしわれわれの業者及び従業員は経済的に全く貧困なる集団でございまして、しかもその数におきましては全国に約三十万以上のものを擁しております。これらのものに対しまして、このたびの売春等処罰法案なるものが即時制定ざれることになりますと、われわれはその日から生活の根底を破壊され、今後に処する道をどうしたらいいかとほうにくれるものであります。いろいろ考えてみますと、この売春等処罰法案なるものは、とにかく何ら社会的な裏づけのない、要するに行き当りばったり的な法案であるというような感じがいたすのであります。幸か不幸か昨日の法務委員会におきまして、議員諸公あるいは法案提出者のお言葉を拝聴したのでございますけれども、この法案には幾多の問題がある。なお盲点もある。しかし一種の文化革命のために橋頭堡を打ち立てなければならない、その橋頭堡のためにこれをやるんだというような御趣旨を聞きましたけれども、この橋頭堡なるもののためにわれわれ業者が犠牲にならなければならないのじゃないか。いま少し真剣なまじめな、要するに売春なるものの陰にひそむいろいろの事情、これに対する政策の先行をお願いしたいと存ずるものであります。  なお即時実施されましたときにいかなる弊害がありましょうか。社会秩序は一そう混乱に陥るのではないか。これは現在の世相から見まして、一般結婚難は多く増加しつつある。青年男子の本能、性の処理が果してこの理想通りに解決できるものでありましょうか。これがますます一そう凶悪なる性犯罪の横行の要素となるわけであります。またこれが国民的風紀の廃頽の根源になりはしないか。なお今現に食わんがためにこの商売に携わっております者が、姿を変えて生きていかなければならぬということになると、私娼あるいは街娼、その他これに類するものがはんらんし、それによる性病の蔓延は一般国民産生児においてもいろいろな不健康児を多産するような状況になり、国民的健康の上からも非常に被害が多い。なお昨日もお話がございましたけれども、官憲の取締りに対するいろいろの手違いあるいは錯誤から、人権じゅうりん問題が続発するおそれもあります。なお法案の定義にあります「不特定」の字句のごとき、この法案なるものの根本が、思想的な根源に発するものであるとするなれば、これは全く不純なものである。あるいはそのためにより一そう二号、三号というものの弊害が出てくるのではないか。こういうような条件もありますから、われわれといたしましては、要約して申しますれば、われわれのこの売春業のよって来たるところの根源に対する生きたる政治を希望してやまないものであります。以上終ります。
  4. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に近藤春子君並びに池上よし子君から、女子従業員としての体験から、売春問題についてのお考えを述べていただきたい。なお最近赤線区域業者の店をやめたと伺っておりますが、どんな事情でやめたのか、あるいはその間においてあなた方の生活にどんな変化があったかどうか。たとえば人権あるいは自由と、幾多憲法法上保障されているような問題がじゅうりんされておるようなことがなかったのかどうか。どうぞ体験をありのままに、率直に述べていただきたいと思います。  なお参考人各位、特に業者方々にお願い申し上げたいことは、法案に対する意見というよりも、むしろ業者御自身の実態について真相をお述べいただく方がけっこうだと思うのであります。どうぞその意味で御説明が願いたいと思います。  では近藤春子君並びに池上よし子君の御両人から、参考人としての御意見を伺うことにいたします。近藤春子君。
  5. 近藤春子

    近藤参考人 私は無職近藤春子でございます——
  6. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それでは私からお尋ねいたしますが、赤線区域におられたという話ですが、おられたことがあったかどうか、どうしてやめたのか、まずその点を少しお話し下さいませんか。お二人から……。
  7. 池上よし子

    池上参考人 私たち二人は吉原のサロン・トルコに勤めておりました。やめた原因は、お店の中の事情があまりにひどいので耐えられなくてやめました。
  8. 世耕弘一

    ○世耕委員長 済みませんが、おっしゃるときはお名前を言うていただきたい。速記にとる必要があるから……。
  9. 池上よし子

    池上参考人 私は池上よし子です。
  10. 世耕弘一

    ○世耕委員長 もう少し大きい声でおっしゃって下さい。それでは池上よし子さんにお尋ねいたしますが、そこにいたたまれなくてと言われましたが、いたたまれないという理由はどういうところにあるのですか。それをまず話しあげて下さい。
  11. 池上よし子

    池上参考人 営業時間の長いことと、それから食事の点なんかにも不服があったこと、自由行動が絶対に許されなかったこと……。
  12. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それだけですか。
  13. 池上よし子

    池上参考人 その他日常の生活にも不満のことだらけですから……。
  14. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それでは委員長からもう一つ池上さんにお尋ねいたしますが、収入の点について何か不満な点はなかったのですか。
  15. 池上よし子

    池上参考人 収入の点は、三日に一回玉割りをするのですが、その点にも自分たちの覚えのないことがつけてあったり、それから自分たちが小づかいも自由に使えなかったこと……。
  16. 世耕弘一

    ○世耕委員長 わかりました。それじゃ今度は近藤さんにお尋ねいたしますが、近藤さんは何かその点についてお話することはございませんか。
  17. 近藤春子

    近藤参考人 私もほんとに言えば……。     〔「聞えないと呼ぶ者あり〕
  18. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それでは委員諸君にお諮りいたしますが、お二人に意見を求めるということは、委員長から一々聞くことによってお答え願うという程度だと時間もかかりますので、あとで質問のときに、委員諸君からそれぞれ御発言を願って、それに一々お答え願う方が、かえって結論が早く得られると思いますがいかがですか。それともこういうような形式でお尋ねいたしましょうか。     〔「今の調子で、委員長から総括的に聞いて下さい。」と呼ぶ者あり〕
  19. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それじゃ総括的に一応お尋ねいたします。今度は近藤さんにお尋ねいたしますが、そのお店で一カ月のあなた方の全収入と、それから手取り収入はどれくらいありましたか、おわかりでしたらお話願いたい。
  20. 近藤春子

    近藤参考人 収入の点はよく覚えておりません。     〔「聞えない」と呼ぶ者あり〕
  21. 世耕弘一

    ○世耕委員長 もっと大きい声でおっしゃって下さい。
  22. 近藤春子

    近藤参考人 収入の点は、あまりよく覚えていないのです。
  23. 世耕弘一

    ○世耕委員長 収入の点は、よく覚えておらないのですか。
  24. 近藤春子

    近藤参考人 はい。
  25. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それじゃ池上さんにお尋ねしますが、池上さんは収入の点ははっきり覚えていますか。
  26. 池上よし子

    池上参考人 覚えております。
  27. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それをおっしゃって下さい。
  28. 池上よし子

    池上参考人 私が月に働きました金額は、十一万から十一万ちょっとでした。それの四分ですから四、五万というところですけれども、二ヵ月働いた間に——私は八万円の前借で入りましたけれども、正味抜けているのは五千円くらいしか抜けておりません。
  29. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それでは池上さんにさらにお尋ねしますが、前借という言葉が今出ましたが、前借をするのについてはだれか立ち会いで保証する人がございましたか。それとも契約書か何かをお取りかわしになりましたか。
  30. 池上よし子

    池上参考人 借用証書を入れました。
  31. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それは池上さん個人で署名なさると同時に、だれか証人がおありでございましたか。
  32. 池上よし子

    池上参考人 私は知人に証人に立ってもらいました。親戚みたいになっている人のおばさんです。
  33. 世耕弘一

    ○世耕委員長 なお池上さんにお尋ねいたしますが、その知り合いのおばさんという方は、そういうことを御商売になさる方ですか。
  34. 池上よし子

    池上参考人 いいえ、そうじゃないです。
  35. 世耕弘一

    ○世耕委員長 どういうわけであなたの証人に……。
  36. 池上よし子

    池上参考人 私がトルコで八万円借りるときに保証人が要るというので、そのおばさんに行ってもらって判を押してもらったのです。
  37. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それでは近藤さんにお尋ねしますが、そこへお勤めになるとき、やはり近藤さんも池上さんのような証書をお取りかわしになって前借をしてお勤めになったのですか。
  38. 近藤春子

    近藤参考人 はいそうです。
  39. 世耕弘一

    ○世耕委員長 証人に立っていただいた方はどういうお方ですか。
  40. 近藤春子

    近藤参考人 私はやむを得ず母に証人になっていただきました。
  41. 世耕弘一

    ○世耕委員長 念のためにお二人に申し上げますが、こういうところへお出になったのは初めてだろうと思うから、いろいろな心理的な御心配もあろうと思いますが、本国会にあなた方が出られて大事なあなた方の身分上の発言をなさる以上、国家があなた方の身分を保証されて来ておるのですから、どうぞそういう点を御心配にならないように、ごく平らな気持でおっしゃっていただきたい。ありのままをおっしゃっていただけば、別に言葉をつくろわなくてもいいですから、ふだんのままで、お客に接するような気持お話し願いたい。その方がかえって真相が得られるから……。  委員諸君に申し上げますが、こまかいことを聞くと時間がかかりますので、この程度にして次の方に一応説明願います。——それでは御苦労さまでした。ちょっと席へ戻って下さい。  次は浜田八重子君に御発言を願いたいと思います。女子従業員全国代表のつもりで、売春等処罰法についてのお考えを述べて下さい。なお感想でも経験談でも何でもよろしゅうございますから、固くおなりにならないで、ありのままを述べていただくことをお願いいたします。なおお立ちの節は住所とお名前を御発表願います。
  42. 浜田八重子

    浜田参考人 私は長崎市寄合町の組合に勤めております浜田八重子と申します。本日私の意見をお聞きいただくということで出向いて参りました。  私も大体子供を育て、子供親子心中ということまでにいかないうちに、何とかしてと思う親心と申しますか、ばかな親と申しますか、結局は死に至らないために選んだ道が、ただいまここに何らかの形で皆様のお耳に入ることと思います。やっぱり私どもといたしましては、ここに売春法案ということを再々耳にもいたし、新聞でも拝見いたしておりますが、これはなくなるのは大へんいいことだと思います。同じ女同士であれば、こうした女の方たちをそのままに置くということも、これをふやすということもなかなか問題だと思います。しかしこれは何としても机の上でしたためたことやいろいろな理想をもってでは割り切れない、解決できない問題が、私の入ったことで私自体わかったと思うのでございます。それはなぜなら、もしも売春法案というものが通りまして、せんだって私も耳にいたしました政務次官の紅露先生お話では、いろいろ保護施設の方に送り込む、さてそうなりますとその人たちの、法案がきまって今度施設に入るその空白状態、本人だけではなく、家族を見ている君たち家族そのものがみな空白状態になるのじゃないでしょうか。子供をかかえている者、親をかかえている者、そういう者ばかりとも限りませんし、またひとり者で、自由な考えでやっている人ばかりともいえないのです。ほんとうにできることで、もう少し考えていただけないかしらと私は常々考えておるのです。これは全国の女の方たちを全部総括いたしまして、その中にも扶養しておる方たちの数は相当な数が出ていると思います。自分だけのひとり身の方ならば、そういう方面に追い込まれてどうこうとおっしゃられても、いざそういうふうになってみて、その人たちが果してそれだけの収容所でやっていけるかどうか。私としてはもう少し私たちの現在やっておりますこと、女の方たちのお世話をさせていただいておりますが、以前参議院の宮城先生がお見え下さいまして、いろいろとお話を承わりましたその当時、この女の方たちにも何とかして補導機関を設けてくれ、衛生設備ももう少しやってくれ、教養を高めるようにしてくれ、その点を私どもも一生懸命になって御期待に沿うように、少しでも女の方たち教養を高めなければ、補導機関も設けなければということで、ミシン、それから図書部を設けております。これは単に私の長崎そのものだけの話になりまして大へんおこがましゅうございますけれども、早い話がこの点でもっともっと現在おられる女の方たちの力になってあげて、そうして早く立ち上れるように、自分たち独立心を持つように、その反面皆様にお願いしてこの方たちの保障の設備をしていただき、何もかもが一緒にならなければ、この法案そのものだけでは私はとてもむずかしいのじゃないかと思う。女の方たちそのものは、そのときだけはこの法案通りましても単純に考えられるかもしれませんけれども、果してその先のことにどういうふうな結果が起きてくるか。私はもっと深いところまで研究され——私も研究いたしますが、もう少し皆様この法案に関係していらっしゃる先生方も、ほんとうにただ処罰するとか——結局それは罪人を作り出すのじゃないかという、私の誤解かもしれませんけれども、そういうふうな結果になるんじゃないかしらと考えます。ただもう、一般社会婦人と一様にあなた方は同じ婦人なんですという言葉を承わり、今度は反面、売春婦施設に追い込む、処罰するということになれば、一般社会婦人と変りないんですよというお言葉を、その意味はどういうふうに私聞き取っていいのか、ふに落ちないわけです。ですから、一般婦人という気持を持っていただくならば、売春婦ということと別個に、何だかとても罪人のような気分が私はいつもするのでございますけれども、そういう処罰とか刑罰とかいうことよりも、もう少しやわらかい、研究をいただいた上に、もっと考えさしていただきたいと思うのでございます。  何から申し上げていいかわからなかったものですから、この程度意見だけ述べさせていただきました。
  43. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に鈴木明参考人に御意見開陳をお願いいたします。鈴木君は業者として御経験が長いと伺っておりますので、特に赤線区域業者として、全国代表として本問題についてはいろいろな御意見なり御体験談なり、御説明があろうと思いますから、諸般にわたって御経験のあるところを率直にお述べ願いたいと思うのであります。鈴木明君。
  44. 鈴木明

    鈴木参考人 私は台東区浅草新吉原江戸町二丁目三番地に住んでおりまして、カフェー業を営んでおります鈴木明であります。売春禁止法につきまして、この案に対する意見と、それについて業態の実情を述べろというただいまのお話でありますので、一言述べさせていただきたいと思います。私は今全国性病予防自治会代表と申しましたが、私がただいま代表しています範囲は、かつての指定地であり、そうして終戦公娼廃止になりましてから、保安部長通牒やあるいは次官会議通牒によりまして、一応その筋の指示を受けて、そうしてまた一方には今の民主的な行き方にのっとろうとした自主的な運営をしている、全国業者として一万六千、ここに従事する従業婦といたしまして約六万の方々代表として申し上げる次第であります。  とかく世間では赤線——この赤線と申しますのは、本来の意味は、おそらくただいま申しました旧指定地の私たちをいう言葉だと思いますが、現在ではことごとく売淫面赤線代表せられているやに考えられますけれども、私たち範囲は、先ほど申しました通りに、終戦公娼廃止と同時に新しく指示された面に沿いまして、いわゆる人身売買をするな、搾取をするな、拘束するな、こういう三つの大きな目標と、さらにこれに付随します性病防止について、でき得る限りの防止をしていく、さらにまたこれにつきました国民の義務としての納税その他につきましても、できるだけの努力をいたしたい、こういうような考え方でこの会が組織され、運営されて参ったわけであります。それでよけいなことになるかもしれませんが、終戦後と終戦前の私たちの面の商売あり方、根本的な観念が変っているということを一言申し上げたいと思います。終戦前には、公娼でありますので、定められた法律の中におきましては、その経営者意思によってその働く女の子をどのようにでも働かせ得た、こういうような営業あり方終戦前のいわゆる公娼時代あり方であります。ある場合にはこれが悪用されまして、いわゆる歌舞伎その他にも残されたような事態があったことは、御承知の通りであります。しかし終戦後は人権が尊重され、民主主義が高揚されまして、特に終戦後、当時のマツカーサー司令部公衆衛生福祉部ザコネ顧問からの指示によりますと、それによらざれば生活をし得ない人たちが、やむを得ず自分自由意思によってこういうことをするのは、やむを得なかろうというお話がありました。これは確かにはっきりした記録があると思います。さらにそれに続きまして、先ほど申し上げました次官会議通牒ないしは保安部長の通知がありましたので、その線に従ってこの仕事をいたしていくことに相なったのであります。そこで全然前とは反対になりまして、そこに働く女の人たちの働きがいがあるように、そうして一日も早くその更生ができますように、むしろ働く主体は女の人たちであり、業者はこれに一応の補助をする、むしろ従業婦が主であり、主人が従である立場をとってただいま参っているような次第であります。この法案を見て一番私たちの納得いきませんことは、今私の言いましたような終戦後の行き方をしているのにもかかわらず、この売春の悪がことごとく業者意思によって女の立場を無視され、ことごとく生き血をすすっているようにお考えになり、そういうお考えの上でこの法案を作り上げたと考えざるを得ないところがあるわけであります。しかしただいま従業婦の方も申しましたように——かっては知りません。ただいま少くともあそこへ来て働こうという方々は、だてやみえや、あるいは酔狂で働きにくる人も、大勢のうちには何人かあるかもしれませんけれども、大部分の方は、ほんとうにきようの命も、どうにもそれ以外に仕方がない、だれもこれを救ってくれる人がない、社会も救ってぐれなければ、おそらくお役所も救ってくれないでしょう。ほかに生きる道はない。最後の断は、死ぬか生きるかだ、こういうような関頭に立たされて、おそらく何日も泣いて、最後の決心をしてきた方だと思います。しかもその人たちが、いろいろこれから申し述べますし、また委員さん方もお調べでありますけれども、そういうような立場に追ってきて、それがどうにか自分の力でその日を過ごし、かつその家族を養い、そして自分の力だけで更生の機会をどうやら得ていくというのが、今の現状であります。もちろん私は、全国たち業者がそのようにやっているとは申しません。おそらく一割弱の方は、私自体も、まことに不届きなやり方をやっている者もあると申し上げざるを得ないのは、まことに残念であります。新聞雑誌にたたかれておる者のあることは事実であります。しかし大部分の人たちは、少くともただいま私が申しましたような考え方でこの仕事をやっており、またこの考え方のもとに、気の毒な従業員方たちも、少くともその半分は更生の機会を得、自力で生きる光明を得ていると私は確信しております。どうぞこの点は委員さん方もよくお調べ下さいまして、一部の悪い考え方と悪い行き方のために全般を誤られませんように、ぜひともお願いいたしたいのであります。こういう点から申しますと、この法案業者自体を取り締ればそれでよろしい、私の身勝手かもしれませんけれどもこういうふうに解釈されることが幾分でも是正されていくことだと思います。  なお搾取ということをしきりに言われておりますけれども、ただいま大体全国業者は五割、五割の割合かあるいは四割、六割の割合でやっておるところが大部分であります。なぜ半々という線が出たかと申しますと、これは先ほど申しましたザコネ顧問が搾取とはこういうことだということで、少くとも主人側は半分以上取ることはいかぬ、働く女の人は半分以下であってはならないという線を出して下さいまして、これがあの通牒にもはっきり載っておるような次第であります。まことに悲惨な立場におる女の子が身を売って働いた五割なり六割を業者がとることはただちに搾取だ、こういうふうに一般にお考えのようでありますけれども、しかしこの内訳を少し申しますと、この収入のうち四割は——吉原は四割でありますが、この四割は確実に女の子のふところに入るはずであります。しからばあとの六割はいかにするか。この六割には当然この女の子が仕事をしなければならない施設が必要であります。それから食事を一切給与いたしております。それからこの売淫につきまして、私がここでこういうことを申し上げることはどうかと思いますけれども、事実は今所得税についても事業税におきましてもあるいは遊興税におきましても、徴税の一番ねらいどころは、時間の客が幾らありそして泊りの客が幾らある、そしてその金額が一日幾らで一カ月幾らで一年幾らだから、これに対して何ほどの税金を課税するという課税の仕方をやられております。こういうふうな課税その他を引きますと、——もし御必要でありますれば詳しいデータもあると思いますが、業者の手に残るのは二割弱であります。一割八分、どうよく計算いたしても二割に足りません。そこでお考えおき願いますのは、この従業員方々が四割の収入のうちに自分意思以外に出す必要があるとしたならば、それぞれの組合がありますので、その組合費として何ぼかを一日に出す以外にはないはずであります。業者はあとの一切の責任を負いまして、最後業者の手に残るのは二割弱大体一割七分から八分であります。こういうようなことを申し上げますと、私は世のほかの一般の働いている方々収入を得る立場とを比較いたしますと、私は決してこれをもって搾取だということはそぐわないことではなかろうか、かように考えるわけであります。  なお性病関係におきましては最近では集娼関係が性病が多い、こういうふうに申されておりますけれども、しかし私たちが言いました先ほどの組合内の罹病率はきわめて軽少でありまして、私の組合につきましては三%、どんなに多くても五%は出ません。普通三%前後であります。なおこの性病防止につきましては、女子組合におきましても業者におきましても、私のところだけでも年間一千万に近い費用を出しまして組合診療所を経営し、そして羅病したものには相互扶助式のいき方できわめて低廉にして、あるいは実費である場合には無料で治療をいたしておるような次第であります。もとよりお客さんにしましてもその必要があって御相談に参りますならば、実費でその相談に応じて、性病の蔓延の食いとめに努力をしているような現況でございます。  大体今の営業の仕方はただいま申し上げましたような立場でやっております。しかし重ねて申しますが、全業者がそのようにやっているとは申しません。先ほどトルコ従業員が陳述をいたしましたが、おそらくあのうちではそういうような内容であったことと私は思います。この証人の証言が正しかろうと私も思います。しかし私ら組合で申しますと、同じ組合内でありましても、トルコの主人は最初第三国人であり、途中数年前に日本人の名義に切りかえましたけれども、今でもその実権は第三国人が握っております。しかし終戦後私たち組合が単に任意組合でなくて、いわゆるカフェーという営業による協同組合として発足いたしまして、その認可を受ける際におきまして、定款として第三国人を入れ得ないことに相なりました。そこで私たちの方では第三国人である限り私の組合に加盟させることもできません。しかし同じ吉原におる業者でありますので、もし誤まったことをされては大へん迷惑でありますし、それだけ社会に御迷惑をかけることでありますので、しばしばこれについて御忠告申し上げましたけれども、単に聞きおく程度で何ら反省の事実はなかったと考えております。なおまた協同組合ではありますけれども、今の組合には御承知のように何ら強制力もありません。もし組合で非常にやかましいことを言ってやった場合に、説得を聞かず不心得な者がありまして、組合を脱退するあるいは組合で除名いたしましても、これはどこかのすみにおいて、やはりより以上皆さん方に御迷惑をかけ御心配をかけるようなことを自由にやり得る状態にありますので、この吉原全域に限りましては私の考え通りの自主統制をいたしたいと思いましても、組合員でない限りはなかなかこれに服させることもできないような次第でありまして、われわれの一角からこういうような事態を出しまして社会に非常な御迷惑をかけましたことについては、同じ一角のうちに住む私としましては心からおわび申し上げておく次第であります。  なおこの法案につきまして私が考えますことは、国会の一部の委員会でかって三回もこの法案が出て通らなかった、その通らなかった中に業者云々ということもありますので、この機会にまことに勝手でありますけれども、一つ意見を述べさせていただきたいと思います。かって三、四回も出て通らなかったことが何かの怠慢であり、そして業者の一部の意思であるようにお考えのようでありますけれども、私は売淫自体にきわめて深い根底があり、人間の社会生活が始まって以来伴った深い根源があることと考えております。ですからこの根源をつかずして、そして表に現われたただいまの姿だけを追いましてこれを厳罰に処して、それで売淫が禁止し得ると考えましたところに、社会一般の大ぜいの方々の不安があり、将来に対する危惧があるということが、この法案の通らなかった原因があると私は確信しております。どうぞ願わしくはまことに失礼でありますけれども、もう少し実態を深く掘り下げていただきまして、いわゆる売淫とうものがどこから発生しておるかという根本的な問題から御検討願って、りっぱな対策を立ててりっぱな取締り法律ができますことを私ら業者といえども心から念願いたす次第であります。  なおもう一つ申し上げたいと思いますが、よく聞かれますのは、お前たちがこの仕事をしていいと思うか悪いと思うかということであります。しかしこの法案がりっぱな文化国家を作るに大事なことであり、りっぱな国家の一つの理想であるということについては、きわめて同調いたします。しかしただいまも申しましたように、その実態の把握がどうも不十分であり、さらにその原因の究明に欠けるところがあるとしますと、その及ぼすところは大へんな影響があろうと思います。さらにまた、もしこの法案が成立しまして、あの法案通りにこの業者が三カ月のうちに何らの更生も導きもなくて、そうしてお前たちは今まで悪いことをやってきたんだ、だから国家は補償も何もしない、お前らの更生に対しては何も手を打たない、勝手に生きていけ、私のひとり考えかもしれませんけれども、あの法案を見ると、このように考えられるわけでございます。しかし考えてみますと、業者一万六千といいましても、これに三倍の家族がおります。従業婦六万といいましても、私たちのきわめて小範囲の調査によりましても、二人強の家族を持っております。さらにまた例を引けば、吉原自体の二百、三百に近い業者に伴って生計を営む一般業者は、これに何十倍するかわからないと思います。さらにまた吉原の場合、いわゆる台東区の浅草の盛り場として持つ吉原の価値というものは、私が申し上げるまでもなくかなり大きな価値を持っておることと思います。もし一たんあそこを閉鎖するならば、これが浅草に及ぼす影響につきましては、どうぞ皆様方もよく御検討願いたいと思います。  さらにもう一つは、殺しっぱなしでいいかということに関連するのでありますが、あの業者も、世上よく言われるように女の膏血をしぼって勝手な商売をし、裕福な生活をしている者は、一部はあるかもしれませんけれども、大部分の者はやはりほかの方々と同様に生活苦にあえいでいるのであります。東京の例を申しますと、その大きな原因は非常な重税にあることが一つでございます。そのほかには、この施設に対する費用がいるだろう、施設を拡張する費用がいるだろうとおっしゃいますけれども、今この施設の拡張をするほどの考え方というものはありません。ただ、この仕事を維持する限りにおいては、私たち立場からいいますと、三年ないし五年に一回店舗の改造はいやでもせざるを得ないのであります。しかしこの店舗の改造並びに税金の負担につきましては、自分収入、貯蓄においてこれを行うことができないのが今の多くの姿であります。そこで信用組合、信用金庫あるいは相互銀行等に、日掛等によっていろいろ御融通を願っておるわけであります。私は、これに対して大体どのくらいの融通額があるかはまだ調査しておりませんから存じませんが、かなり大きなものがあろうと思います。もしわずか三カ月の猶予で、何ら遠慮会釈もなく首を切るといたしましたならば、こういう面に対する大きな影響力もあろうことを私はおそれるものであります。どうかこの業をするがゆえに悪者だというふうな考え方をお持ちにならずに、なぜこういうふうな道程をたどってこういうところに来ざるを得なかったか、その原因もおきわめ願いまして、きわめて適切な法律を作っていただきたいと私は念願いたす次第であります。  なお、ただいま一部の学者によりまして、ああいう面の実態を調べたい、こういう申し出がありました。もしこれが正しく行われましたならば、おそらく業者の皆さん方が心配しておるような業者の悪いところも出るでしょう。しかしそれよりも、これによって、ああいうような仕事がなぜ社会に生まれたか、さらにまた、現在そこに働く従業婦がどのような環境に生まれて、どのような生活をして、どのような教育を受けて、どのような心境と立場であの生活に入らざるを得なかったかという姿が近く出ることと思います。これにつきましては、私は、自分たちのただいまの姿を維持しようと思ってその学者に協力しているのではありません。すでに時勢がここまで参りましたならば、この社会悪といわれる売淫そのものがどんな姿であるか、そのほんとうの姿を究明することこそほんとうのわれわれの責任でありますから、私も当然これに協賛をして、そうして私たちも隠すことなく赤裸々な姿を見ていただいて、それによるはっきりした対策を立てていきたい、かように考えまして今それに協力をいたしております。近いうちにそういうような結果も出ることと思いますので、どうぞぜひ一つそういう点を御参配下さいまして、だれもがなるほどもっともだという——また百歩を譲って、たといこの業者が悪い業者だといたしましても、悪いがゆえにこれを首切ってしまってあとはかまわないというような行き方は、何としても納得がいきません。全国八千万から見れば少い数ではありましょうけれども、この面についてどうぞ格段の御考慮を願いますと同時に、この法案の目的が新鋭文化国家を作る、文化国家の将来のいしずえを築く橋頭堡であると申しまするならば、私はこの文化国家の名におきまして、かような切り捨てごめんの法律を作ることをぜひ御反省を願いたいとお願いをいたす次第であります。  大へん言葉が乱暴に過ぎ、勝手なことを申し上げましたが、悪いところがありましたらどうぞ御容赦を願いたいと思います。以上で終りたいと思います。
  45. 世耕弘一

    ○世耕委員長 以上五名の参考人の方方の御意見並びに実情の発表をお願いいたしましたが、この際委員諸君から質疑をお願いすることにいたします。質疑の通告がありますので順次これを許します。山本粂吉君。
  46. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 池上よし子さんにお尋ねいたします。あなたの先ほどの話を伺ったのですが、肝心なことが抜けているのでお聞きするのですが、あなたが吉原へ行くようになった動機はどんなことですか。
  47. 池上よし子

    池上参考人 私は、吉原へ行く前に信州の伊那で芸者をしておりましたけれども、その借金を返すために吉原へ行つたのです。
  48. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 信州の伊那で芸者をしておったが、借金が返せないので、その借金を返すために吉原へ行つた。
  49. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  50. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 それじゃ、信州の伊那で芸者になった動機は。
  51. 池上よし子

    池上参考人 うちの母がなくなります前に、大家さんから立ちのきを言われていたのです。家賃を持っていっても大家さんは受け取ってくれなかったのです。そこで家賃が滞納しまして、滞納金に迫られまして信州へ行ったのです。
  52. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 立ちのかなければならなくなったので……。
  53. 世耕弘一

    ○世耕委員長 山本君に御注意申し上げますが、速記の都合がありますから、どうぞ私語にわたらないように、委員長をお呼び下さいませ。
  54. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 その立ちのき料をこしらえるために芸者になったのですか。
  55. 池上よし子

    池上参考人 ええ、そうです。
  56. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 どのくらい借金がありましたか。
  57. 池上よし子

    池上参考人 その当時の金で八万円です。
  58. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 吉原へ行きましてから、その借金が返せましたか。
  59. 池上よし子

    池上参考人 吉原へ行って、七万円向うへ返しました。
  60. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 何年かかって返しましたか。
  61. 池上よし子

    池上参考人 吉原へ行ってですか。——吉原へ行ったときに借りたのです。
  62. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そうすると、その七万円は前借かね。
  63. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  64. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 その前借はどのくらい返しましたか。
  65. 池上よし子

    池上参考人 全部でもって、外部の借金を抜いて五千円くらいしか返してないのです。
  66. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 一カ月の収入が大体十一、二万円あると言いましたね。
  67. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  68. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 その四割をあなたがもらっていたのですか。
  69. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  70. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そうすると、月平均四、五万円はあったはずですね。
  71. 池上よし子

    池上参考人 そうなんです。表面的の計算でいくとそのくらいになるはずですけれど……。
  72. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 なるはずなんだというが、そうすると、それだけの金を実際はもらっていないのですか。
  73. 池上よし子

    池上参考人 一カ月の平均はわかりませんけれど、二日の勘定を三日に一ぺんにするのですけれど、そのときの勘定でもっていくと、いろいろこまかいものを引かれますと、自分の手元にそれだけ残らないんです。
  74. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 こまかいものとは、どういうものですか。
  75. 池上よし子

    池上参考人 自分の吸ったたばこ代とか、それからちり紙だとか、それか衛生用具だとか、回しをとったときらのお金——部屋代というのでしょうか、電気代とか、ふとん代だとかいうものを引かれますと、それだけにならないのです。
  76. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そういうものを引かれるから、それで手取り収入が四割にはならないのですか。
  77. 池上よし子

    池上参考人 ええ、そうです。
  78. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 一カ月どのくらいになりますか。
  79. 池上よし子

    池上参考人 一カ月の計算はわからないんですけれども、三日目々々々の玉割りならわかります。
  80. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 それは……。
  81. 池上よし子

    池上参考人 平均三千円くらいですけれどね、三千円の中から引かれるんです。
  82. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 けっこうです。近藤春子さんにお尋ねします。
  83. 世耕弘一

    ○世耕委員長 山本君に御注意申し上げますが、御婦人の方はここになれないのですから、なるべく自由に発言のできるように御指導をして御発言を願いたいと思います。
  84. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 大いに御指導いたします。あなたは吉原に行ったのはどういうわけですか。
  85. 近藤春子

    近藤参考人 それはちょっと申しにくいんですけれど……。
  86. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 自分で好きで行ったのですか。それともあなたの家庭の事情とか、あなた御自身の事情とか……。
  87. 近藤春子

    近藤参考人 私自身の事情です。
  88. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そこでお尋ねしますが、吉原からあなた方が脱出した、出てしまったその理由として、第一が、営業時間が長過ぎる、自由がきかない、収入の計算がはっきりしない、こんなようなことから吉原を出た、こう言われましたね。
  89. 近藤春子

    近藤参考人 はい。
  90. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そうすると、今言ったようなことが直されればなお吉原にいて働いておったですか。
  91. 近藤春子

    近藤参考人 直されればですか。
  92. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 ええ。
  93. 近藤春子

    近藤参考人 まあ一日も早くかたぎになろうと思っていましたから、そういう気持にはなれないんです。
  94. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そうすると、一日も早くああいうところはやめたいけれども、あなた御自身の生活の面から、さっき言ったようなことが直されれば、独立できるような状態になるまでは働いているほかはない、こういうことになるですか。——一日も早く足を洗いたい、それはわかった。けれども、あなた方が出てきたのは、今までやっていた商売がいやだから出てきたというよりも、営業時間が長いとか、自由がきかないとか、収入の面がはっきりしないとかいうようなことから出てきた、こういうのだから、それが直されれば、ほかに生活していく道がない問はなお働いていかなければならぬ、こういう気持ですか。
  95. 近藤春子

    近藤参考人 私はもう職業の方にはだいぶ運動しておりまして、近いうちに職がきまるんじゃないかと思っていますから、そんな考えなどございません。
  96. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 あなた自身では。
  97. 近藤春子

    近藤参考人 ええ。
  98. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 それじゃお二人にお尋ねするが、出られてから、あなた方が生きていく、暮していくことについての生活の道が何か立ちましたか。
  99. 池上よし子

    池上参考人 今もう勤め先もきまりそうになっておりますから、とても希望に満ちています。
  100. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 お二人はけっこうです。鈴木さんにお尋ねします。吉原で働いている婦人業者との間のあがりの分け方は、大体四分六分になっておるようだが、五分々々というところはないですか。
  101. 鈴木明

    鈴木参考人 あります。東京以外は五分々々のところが多いと思います。また東京都内で私たち組合に入っている組合が十九組合ありますが、その中で一、二は五分々々でやっているところもあります。
  102. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 今従業していた婦人から聞いたんだが、自由が束縛される、営業時間が長過ぎる、収入の面がわからぬ、こういうことなんだが、四分大分に分けた場合に、その四分のあがり高を受け取る従業員がみずから負担するものは、組合員の費用、病気になったときの治療代、鼻紙代、化粧品代、そういうようなもののほかにふとん代、部属代、何かそういうようなものを差し引くんですか。
  103. 鈴木明

    鈴木参考人 先ほど申しましたように、大部分の業者が私たち組合に入っておりまして、そして先ほど申し上げましたような線で全国的に統制されておる組合員の大部分は、ただいま御質問のような四分なりあるいは五分なりの収入の中から特別に差し引くということはないと思います。ただ先ほど申し上げましたように、一部のきわめて少い業者がそういう統制に服さずに勝手なことをやっておることは私自体も認めますが、大部分はただいま申し上げましたような分け前でやっております。  また自由を拘束すると申しますが、これにつきましては、吉原の話を申し上げますと、吉原の女給さんの勤続日数は四カ月であります。この四カ月は、人によりますといたたまれなくて出るであろうと申しましたけれども、しかし大部分はそこの家の好みなり、あるいは一、二行って気分に合わぬというところで転々いたしますので、落ちつきますればやむを得ず更生まで一年、二年も勤続して、そうして自分の力で社会に立っていく、こういうのが姿でありまして、この四カ月の勤続も、自由に自分意思によって出処進退ができるというその結果だと私は確信しております。
  104. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 先ほどあなたは、業者としてあなた方のやっていることはいいのか悪いのかよく人から聞かれるということをみずからおっしゃった、で、それに対するあなたの御意見として、文化国家建設のために本法案ができることは基本的には不賛成じゃない。しかしながら三カ月の猶予期間で転業しろというだけで、切り捨てごめんの法案では困る、こういうような意味のことを言われたが、現在おやりになっておる業者としての立場から、率直にいい仕事と悪い仕事とこの二つにわけたら、あなたどうお考えになるか。
  105. 鈴木明

    鈴木参考人 私が先ほど申しましたのは、理想としましてはああいうような仕事がない方がよろしいと考えておるのでありますが、しかし現実の女の場合、あそこへ女が働きに行くと申しますのは、あれによって自主更生ができ、だれも手を差し伸べてやらない、そのために自分で働かなければならないために、あそこで働いてそうして一応立っていく、それによって更生の機会を得ているというのが事業でありまして、これだけのことにつきまして私たちがそれに対して一応それだけの仕事をして自立し得る機会と場所とその他を与えておるということにつきましては、私は断じて悪いことと考えておりません。
  106. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 それじゃお尋ねしますが、もしあなた方に転業の機会を与え、相当の期間を与え、しこうして転業に要する資金面のあっせんをやったならば、現在の営業を他に転業するという気持がおありになるかどうか。
  107. 鈴木明

    鈴木参考人 私は先ほど申しましたことについて、その面について一応私の見解を申し上げまして、切り捨てごめんは困ると申しましたけれども、それはこの法案に対する一つの感じ方を申し上げましたので、私らの本来考えることは、私が申し上げるまでもなくこの売淫そのもの社会的に深い根源を持つものであり、その根源が正されずして、そうしてまたその根源に応じた社会のいろいろな施策が伴いませんで、そうしてこれを禁止する場合には、その結果によるいろいろな弊害がある。かえって今働いておるような人たちが、少くともあそこで更生をしておるような人たちがさらに困惑した立場に置かれるであろうと思います。ですからそういうような機会が来るまでは、ああいう施設をよりよく、より明朗にして、そうしてだれでもあれによって更生できるんだ、こういうような姿をはっきり社会に認識を得るような立場でいく、これが現在のほんとうのああいう面の行き方だと考えております。
  108. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そういたしますと、あなたのお考え方としては、現在の社会の実情から考え、また売淫行為の今日までの歴史的な根源考え、この売淫行為に対する根本的なものが打ち立てられない限りはむしろ必要だ、そうしてその必要なものであるから、より改善せられて、そうして婦人基本的人権の侵害されないように社会が、なるほどやむを得ないんだという程度に改善していくことの方がより大切である、現在のような営業を禁止することの方が間違いだ、こういうふうに承わってよろしいですか。
  109. 鈴木明

    鈴木参考人 そう考えております。
  110. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 さらにお伺いしますが、あなたの吉原のところへ来る婦人方の過去の経歴、と申しますと、初めて吉原へ来ていわゆる売春婦となる者が多いか、それともすでにどこかで芸妓とかあるいは俗に言うパンパンとか何とか、そういうような売春行為をしておった者が来る率が多いか、どちらが多いですか。
  111. 鈴木明

    鈴木参考人 それは先ほど申しました調査の中間報告ができておると思いますが、今日はその資料を忘れましたが、あそこに来るまでにはいろいろの類似のところを歩き、最後にあそこに来る人が多いと私考えております。
  112. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 それらの人々のあそこで働かねばならぬ原因ですね。わかりやすく言えば、何のために売春婦をやらなきゃならぬか。好き好んでやっておる人はおそらくほとんどないだろうと思われる。そうすると残りの大部分の人、ほとんど全部の人が、あそこで働いておる、働かねばならない根本理由はどういうことでありましょうか。ただ単に一口に生活苦、こう言ってしまってはあまりにも抽象的で、あなた方業者として見た場合、今日の社会現状からこういう面で行き詰まって、こういう理由で来る者が多いというような、何かそういうことを調査か何かせられた資料でもございますれば承わりたい。
  113. 鈴木明

    鈴木参考人 その資料は、今申しましたように中間的にある一部のものが出ておりますから、これはお届けしてもよろしいと思いますが、その資料の数字はただいま記憶しておりません。しかし約六割に近い者はあそこに来るよりほかに働く場所がない、こういうことなのです。その周辺の人も全部のみ込んだ上で来ているものだと私は考えております。
  114. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 最後に、四分六分のわけ前のうち、業者がとる六割のうちから税金は払われておるものと思うが、その税金、食費、施設費に対する償却、これらを計算して、業者のとるべき収入は一割七、八分、二割弱、こういうことを先ほど言われたが、その一割七、八分、約二割弱の業者収入業者は一切の生活を維持しているのですか。
  115. 鈴木明

    鈴木参考人 そうです。業者自体の生活はそれによっておるわけです。
  116. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 そこでお尋ねするが、税金の実態はどういうことですか。
  117. 鈴木明

    鈴木参考人 税金は、所得税、事業税、それにさらに付随する税金並びに遊興税、この遊興税は、税の建前から申しますとお客さんが払うべき建前でありますが、しかし私たちのところにおきましては、女の人たちとお客さんとが直接取引をいたしておりますので、本来ならばこの女の人が徴収義務者になるのが当りまえでありますけれども、先ほども申しましたように、勤続日数が少いので、事実上は女の人に徴収義務を負っていただいても徴収不能であります。そこで地方各理事者におきましては業者に徴収義務の責任を負わしておるのであります。しかし実際の金の受け渡しは当事者同士でいたしておりますので、たとえば、千円の受け渡しをしましたときに、別に一割なり二割なりの税金を出していただきたいということは、業者立場としては禁じられておるわけなんです。そこでその千円のうちから税金だといって差し引くことは業者立場でできません。しかし一面にはこれこれの遊興費があるのだから、これに対して何割かの遊興税を納めるのが当然であるということで、いわゆる推定課税で遊興税を支払うように義務づけられておるわけであります。もしこれにつきまして不服を言い、あるいは申告いたしませんければ、これは当然推定課税のもとに差し押えその他の処分も受けておる実情であります。ですから内容におきましては遊興税でも一つの所得税に類する税の納め方をいたしておるわけであります。
  118. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 なお最後に現在の社会保障制度の状態、転落女性に対する保護施設現状、保安施設の状況がこの程度状態からして、もしこの法案が通過してこの法案の規定する通り取締りを厳重にしたとしたら、どんな結果が起るかということを業者としてあなた方はどういうふうにお考えになっているか。ただし社会保障制度が確立せられ、あらゆる保安設備ができ、補導設備ができて、そして転落女性に対する設備が完備せられ、一人の生活苦に泣く者もないという状態ができたと仮定すれば別問題です。そういうことは今のところ理想としては考えられるが、いつの日にかできるか知らぬが、それができておらない現在の社会状態を実態として考えてみたときに、どういう結果が起るか、それに対するあなた方の考え方を一応承わっておきたい。
  119. 鈴木明

    鈴木参考人 ただいま申しましたようないろいろな売淫に対する諸条件が完備されましたときには、もとより私は売淫というものは禁止しなくても自然に終息いたすと思います。ただしかしこの売淫それ自体が男であり女であるいわゆる本能的なものから出た限りには、単にそういう保護施設というものばかりでなく、私はそれ以上新しい性道徳、またその性道徳に基く性生活というものが健全に考えられて、そういうことが世の中に行われるということが重要な一つの要件だと思います。この要件が満たされ、さらにただいま申しましたような保護施設その他が完備いたしますならば、売春禁止法を作らなくとも、社会は何らこれによる迷惑はこうむるようなことはなかろうと思います。しかしそれはおよそ遠いところだと思いますので、これを禁止いたしましてもそういうふうな深い根のある限りは、そうしてまたこういうことを申し上げて大へん失礼でありますが、提案者の中のお方のお話を承わりましても、この禁止法を作りましても売淫を禁絶することはできないとおっしゃっている言葉を耳にいたしておりますが、提案者自体にそういうふうな考え方がもしあったとすれば、そういうふうな考え方の裏と、さらにただいま申しましたような社会的条件の不備からいたしまして、新しい売淫の姿が当然生まれるものだろうと考えております。
  120. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 浜田八重子さん、あなたの先ほどの御意見を拝聴いたしまして、売春婦一般婦人だ、婦人にかわりはないんだ、こういうことに思いをいたして根本的な対策を講じてもらわぬことにはどうにもならない。現在の社会状態からするとどうしてもやむを得ないんだ、こういうような結論に達したようでありますが、あなたのところでやっておられる補導設備か何かおありなんですか。
  121. 浜田八重子

    浜田参考人 先ほど私の意見の中に入れておりました補導と申しますか、これは大体私は長崎の会員でありますが、働いている方々のために設備しているだけであります。これはミシンと申しますか、この夏は特に自分自分できれを持って参りまして、そして自分たちで下着なり簡単な服でも裁断してやっております。別に講習機関というものではなしに、自分自分がデザインなんか、ただいま雑誌の付録なんかございますし、図書部があります関係上、図書部のそういう付録を持ち出しまして自分たちが適当にやれるように、自由に使わせております。
  122. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 あなたの知っている範囲でけっこうですが、売春婦という言葉を使っていいかどうか知らぬが、そういうことをなさっておる御婦人方、転落女性といいますか、その転落の原因は、自分のじだらくから好んでそういうところに落ち込んで行った者もないではありますまい。多くの女性はほとんど生活苦からやむを得ず従業しておるように思われる、またそれが間違いないことだと思うのだが、子供を持っておる人、すなわち未亡人、それから家庭の犠牲になっておる方、そういうような点の調査をせられて、こういう面の生活保障が成り立てば、売春婦はなくなるとか、少くとも漸減するとかいうような御意見があったら承わりたい。
  123. 浜田八重子

    浜田参考人 人様の事情もあれでございますが、私個人の体験と申しますか、なぜ入らなければならなかったかという私自身のことを申し上げるのが一番手っとり早いと存じますから私のことを申し上げます。私も子供三人かかえました未亡人でございます。三年半というものは保険の外交なり、よそ様の仕事なり、あらゆるものを——女のどろぼうにならないまでの話でございますけれども、わずかなお金でもけっこうなんです。一日五十円の日雇いでもけっこうだったのです。それも行きました。何でもかでもお金になりさえすれば、そういう気持だったのでございます。そのわずかな五十円であっても八十円であっても、そのお金さえもどうしても満足にもらえない場合もありました。たとえば八十円でも一カ月満足に行けば二千四百円、しかし子供をかかえ、しかも乳飲み子をかかえて、それが毎日勤められるかというと、またそこに子供の病気が起ったり、いろいろな事故が起きますと、満足な収入は入らないわけであります。それでもこの仕事ではだめだから、今度これをやってみようあれをやってみよう、手近なところやあっちこっち頼んでは少しの収入でも働かしてもらおうということでやっておりましたものの、そこに家の中では大きなことなんでございますが、結局子供の病気、入院ということになって参りました。もちろんその当時私も市の方から扶養を受けておりました。その当時親子四人で八百何がしのお金でございましたが、これも頭を下げて市役所の役人さんに一生懸命すがりついたような格好してまでもらわなければならなかった、子供をたまたまやりましたところが、帰ってきて子供からどういうわけであんなところからお金をもらうのかといって、今度は逆に私おこられる始末でした。ああいうところの吏員のお方にも、未亡人のそうした人たちに対しての態度をもう少し改めてほしいと思っておるのです。御自分のポケット・マネーじゃないはずです。これは国からいただくお金なんです。そういうところにも私の反抗心が起きたわけです。そういう私だったのでございます。そうやって何とかかんとかしながら、三年間というものはもうそういう世界に入らずにやっておりましたものの、もういよいよこれは親子まくらを並べなければならないかしらんという気持を持ったのが、一週間、八日ばかりであります。しかしこの子供たちの顔を見ればそういうこともできませんでしたが、まあちらっと人から耳にいたしましたのが、長崎の丸山という言葉だったのです。それがどういうことをするのかも何もわからなかったのです。ただ丸山に行けばお金になるということで、単純な考えで行ったのです。しかしこれは私自身の考えでございましたけれども、そこに行きまして私としては助かったわけなんです。はっきり申し上げます。で、子供は預けなくてはなりません。子供を養って下さる方は一人三千円から四千円と申します。そうすればどうしても、自分が病気をしてもしなくても、働いても働かなくても、三千円の養育費というものは割り出さなければならないわけです。ですから、自分のぜいたくというものは絶対できないはずのものなんです。子供の養育料を先に考えまして、そのあとで自分の品物を作るというような考えでいかないと、私としては子供が養われない。で、たまたま私も児童相談所の方にお願いに行きました、そうして一応子供を半年の間お願いたしました。これは預かる期間というものがおありになるそうでございまして、まあ半年ならということで、半年の間に私も一生懸命働きました。そして子供たちに仕送りもできるようになるまで働いて。そして引き取りまして、今度また一応それまでに私もやめるまでの段階に至らなかったものですから、お約束はお約束で一応引き取りまして、また個人のところにお願いに上りました。そうやっていて子供をおかげさまで今度ぶじに手元に引き取るようになりましたけれども、それが今では——ほかにも子供を持たれた女の方たちが相当ございます。これは調査をいたしました。児童相談所の所長さん、そういう各関係者のお方も私の方にお見えになりまして、いろいろと子供を持っておる方たちのために、何とかしてあげなくてはいけないということで、大体私にそういう女の方たちの相談をいろいろ持ってくるようになっております。また業者の方のいろいろな計算の違いとかどうとかいう話を持って女の方がみんな私のところに参ります。そうすると私も、その女の方と私と、あと業者組合というものがございますので、その方々たちに頼みまして、その業者を呼んでもらい、みんなで立ち会いの上計算をして、そうして納得のいくように解決をしていきつつございます。大体問題が起りますと、起るというのは女の方に不満があったり、また業者としても女の人のでたらめ——これはでたらめな女の人も確かにおります。女の方たちが、私は女の方の立場にあるものでございますが、やはり女の方でも、ああいうところに最初入るときのその気持を忘れずにまあやっていって下さるならば結局立ち上り切れるのです。立ち上れないというのはうそです。そこに惰性というものがついたり、いろいろ背後関係ができたりして、結局自分自分がどうにもならなくなるということは、これは私は事実あるということを申し上げます。また感心にも、もう自分が入ったときはこうだから早くやめると言われて、けっこう奥さんになって私にもときどき音信があったりして、仕合せにやっていらっしゃる方もおります。子供を持っておられる方はこういうふうでは預け賃がとてもできぬから、何とかしてもらえぬだろうかと言われて参りましたときに、一緒に児童相談所の方に参りまして、そうして無料で預かっていただく施設がございますので、そちらの方にお願いして現在子供を預けている方が五名ばかり、大体子供を持っておられる未亡人は五十八名と存じます。ちょっと記憶に間違いがあるかもしれませんが……。
  124. 世耕弘一

    ○世耕委員長 浜田さんにちょっとお尋ねしますが、法案の中にもありますが、売春というと何だか女の人ばかりに責任があるように聞える筋もあるのですが、必ずしもそうではなく、男にも半分責任がある、あるいは女の人よりももっと責任が多くあるんじゃないかという感じが持てるのですが、あなたはいろいろな面で御経験をお積みになったようですが、この際そういう点の所感をはっきり述べていただくと審議の上に便利だと思いますが、いかがですか。
  125. 浜田八重子

    浜田参考人 ちょっと御質問の意味が聞き取れませんでしたが……。
  126. 世耕弘一

    ○世耕委員長 売春という言葉取り上げてみますと、女の人に全部責任があるように響くのですけれども、女の方の言い分からいうと、男も悪いのだ、女性をしてそういうところに追い詰めるのは男性に大きな責任があるのだという声も聞かないではない。ところであなたはいろいろな御経験をお積みになっておられるのだから、何かそういう点についてあなた自身のお考えを御発表下さればけっこうだ、こう思うのです。
  127. 浜田八重子

    浜田参考人 ただいまの御質問ですが、男の方というよりも、私にはむしろもう少し大きく国じゃないかと思います。(「その通り」)私ある雑誌を見ましたところ、日本の国の貧困ということが売春の根本をなしているということでしたけれども、私さっき申し上げましたように、今度この法案通りまして、空白状態でございますか、そういうことになると、本人は収容されましたものの、その家族たちはまた貧困に陥るというような結果になりはしないかと思います。私としては月八百円何がしかの扶養を受けておりまして、実際のところほんとうに心苦しく感じております。私ある課長さんにお会いしましたときに、たまにはあなた方は私服で、きょう行くからという通達をしないで、おしのびで行ってああいうところを見ていただきたい、そうしてあああやって未亡人の方々が赤ちゃんを背負ってやっておられる姿を見っていただきたい、そのときにもらう人の態度、やる人の態度というものをあなた方はよく見てくれませんかということを申したことがあります。私ばかりでなく、扶養を受けていらっしゃる未亡人の方でも相当困っておられる方があるわけです。私も入りまして働いた当時は、もう橋のたもとにパンを売っておる人の姿を見るとほんとうに顔を見られませんでした。これでもやっていけたはずじゃなかったかと思いました。でも私は自分がこの商売を選んで入りましたが、早く何とか立ち上りたい、やってやれないはずはないのだ、恥かしいことは十分にわかっております。これがほんとう売春だということも入る前までは何にも知らなかったのです。入ってからわかりはしましたけれども、それに対してどうこうということは私は思いません。
  128. 山本粂吉

    ○山本(粂)委員 最後に一点お聞きして私の質問を終りますが、浜田さんの御意見よくわかりましたが、これをせんじ詰めると、売春等禁止法のような法律をこしらえる前にもっと国家が、転落していくような——婦人ばかりではないでしょうけれども、特にきょうは婦人問題でありますから、そういう者に対して、社会保障制度を拡充して、そうしてそういう者が今あなたのおっしゃられるような恥かしい行為をしないでも最低限度の生活ができるような態勢を整えることの方が先決だ、こういう御意見に帰着するのですね。
  129. 浜田八重子

    浜田参考人 申し上げます。現在ございます私たち赤線と申しますか、ここに対しまして——私の方としましては、よその県、よその区域はまだこれ以上の設備のできておるところもございましょうし、もっともっと実態を調査しますといろいろな点が見えてくると思います。私の長崎としては、先ほど申し上げました点、年に一回の慰安会とか、そういうふうな皆さんのねぎらい、そして子供さんのお世話、行く行くは私ども子供さんたちをお預かりします託児所というような場所を持ちたいと思っておるのでございます。その点で赤線区域と申しましてもある程度皆さんからお力添えをいただきまして、あの女の方たち、現在おられる方たち更生させていただくように、自然消滅と申しますか、急々にこの法案を出されましてもかえって女の方たちの戸惑いになるような結果にならないようにしていただきたいと思っておるのでございます。
  130. 世耕弘一

    ○世耕委員長 古屋貞雄君。
  131. 古屋貞雄

    ○古屋委員 最初に私は池上よし子さんにちょっとお尋ねしたいと思います。先刻トルコを脱出いたした原因が就業時間が長い、計算に納得のいかない点がある、体の自由がいわゆる束縛されておる、こういうことでありました。なおお話の中に、私は月に大体十一万円くらいざらに十二万円くらいは収入を得た、しかるに二カ月も働いておる間に五千円しか自分前借は返されない、こういうことをおっしゃっております。また鈴木参考人お話を承わると、業者とあなた方の分け前は四分六になっておる、さようになっておるにかかわらず五千円ということになると私ども納得がいかないのです。五千円くらいしか前借の弁済が行われていない、それから十一万円くらいあるいは十二万円というように働かれたものは、あなたがここで室で覚えておるのでなくて、これはあなたの生活に重大な関係がありますから、何かメモか、したためられた、だれに聞かしても間違いがないんだという信憑力のあるようなものをお持ちでございますか。
  132. 池上よし子

    池上参考人 持っています。
  133. 古屋貞雄

    ○古屋委員 お持ちになっておりましたら、そのメモで、何と何が差し引かれておるとか、あるいはどうなっておるというようなことを一つ読み上げていただきたいと思うし、そのメモが拝借できまするならば拝借をさしていただきたいと思いますが……。
  134. 池上よし子

    池上参考人 きょうは持ってきていないのですけれど……。
  135. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それではそのメモをあとから当委員会にお貸しが願えましょうか。
  136. 池上よし子

    池上参考人 どうぞ、かまいません。
  137. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それを貸していただけますと、その中に収支計算が詳しく書いてありますか。
  138. 池上よし子

    池上参考人 ええ、書いてあります。
  139. 古屋貞雄

    ○古屋委員 先刻のお話の中に玉割りを三日目にする、こういうお話がございましたが、玉割りというのは砕けてお話を願えばどういうことなのでしょう。
  140. 池上よし子

    池上参考人 働いた金額の二日の勘定を三日目に一ぺん、四分六分に分けて計算してくれることを言うのです。
  141. 古屋貞雄

    ○古屋委員 二日働いたのを三日目には業者とあなた方が寄ってそこで計算をする、こういうことに承わってよろしゅうございますか。
  142. 池上よし子

    池上参考人 計算したものを見せてくれるのです。
  143. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、計算したものを見せてあなた方の方へ渡すだけで、どういうような事実があり、どれだけの収入があるというこまかい説明業者からしていただくのではなくして、ただ書いたものの結論、こうなるというだけですか。
  144. 池上よし子

    池上参考人 こまかく書いたものをそばに置いておりますけれども、手に取って見ることが少いのです。
  145. 古屋貞雄

    ○古屋委員 手に取って見ることができない。それでは承わりますが、部屋代であるとか、ふとん代であるとか、さようなものは当然に業者が持つべきものであって、あなた方が部屋代を払うというようなことはちょっと私どもはふに落ちないのですが……。
  146. 池上よし子

    池上参考人 部屋代といっても自分たちの借りている部屋代ではないのです。その部屋代というのは、回しを取るときの部屋代なのです。
  147. 古屋貞雄

    ○古屋委員 私のお尋ねしているのもそうなのですが、御自分たちが寝起きをする部屋代でなくして、回しを取るときに、たとえば一昼夜の間に五回も六回も回しを取るときは、五回も六回もその都度々々部屋代を計算して収入の中から引かれるのですか。
  148. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  149. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それは部屋代として一回どのくらい引かれるのでしょうか。
  150. 池上よし子

    池上参考人 泊ったお客は百円、遊んだお客は五十円です。
  151. 古屋貞雄

    ○古屋委員 もう一つ承わりたいのは、先刻のお話ではたばこの代金を引かれたとおっしゃっておりますが、たばこは大体専売品でありますからきまっております。そのきまった値段よりは高い値段で差し引かれているのかどうか。
  152. 池上よし子

    池上参考人 私の場合はピースですが、五十円引かれておりました。
  153. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうすると四十五円のピースが五十円引かれた、こういうことですね。なお、そういうような計算をした結果が、あなたが二カ月で二十三万円働いたけれども、五千円しか自分前借は返すことができなかったというその計算は、主人からこうなるんだという一つの命令を受けただけでございますか。
  154. 池上よし子

    池上参考人 そうです。その間着物と帯一本買っておりますけれど。
  155. 古屋貞雄

    ○古屋委員 その着物と帯は大体どのくらいですか。なお、あなたが二ヵ月の間に自分のために使いました代金は、何と何と何ですか。
  156. 池上よし子

    池上参考人 目に見えて買っているのは、その着物と帯だけです。
  157. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、二十三万円の中から、どのくらいたばこをおのみになったか知らないけれども、たばこをのみ、帯一本と着物くらい買ったのでは相当残るわけですね。今の四分六でいきますと、大体十一万円の月が四万四千円、それから十二万円の月が四万八千円、そうしますと九万二千円になりますから、あなたが物を買ったり支出しても、あなたの手元に現金が相当残らなければならない。その内容について、あなたが御不審だというので主人に交渉をしたり、主人に説明を求めたというようなことがありますか。
  158. 池上よし子

    池上参考人 一ぺんだけあります。自分の使った覚えのないものがついていたのでそれを言ったことがありますけれども、あと別に言ったことはないです。
  159. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そういう関係で逃げ出したということになったのですか。
  160. 池上よし子

    池上参考人 そういうこともありますし、商売自体がいやになりました。
  161. 古屋貞雄

    ○古屋委員 なお私の承わりたいのは、勤務時間が長かったというのはいつからいつまでぐらい……。
  162. 池上よし子

    池上参考人 普通の日は、大がい夕方三時半か四時ごろから、土曜、日曜は、昼寝をする時間が一時間ちょっと、二時ごろになるともう起されますが、それから明け方、早くても四時ころまでです。
  163. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、土曜日は二時か三時ごろ、普通のときは五時ごろ……。
  164. 池上よし子

    池上参考人 店に出るのがですか——店に出るのは大がい四時です。
  165. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それから夜明けまで……それで十一万円の働きをするには大体何人くらいと関係しなければならないのですか。
  166. 池上よし子

    池上参考人 多いときは五人か六人。
  167. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、勤務時間中に多いときは五人か六人、それから勤務時間が長いときには——二時ごろから夜明けまでというとずいぶん長い時間ですね。その間に夕食を食べるとか昼寝をするとかいうことはございませんか。
  168. 池上よし子

    池上参考人 夕食は夜十時ごろにおうどんを一ぱいいただきます。あと食べれば自分たちが勝手に食べるのです。
  169. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、あなた方に給与される夕食はうどん一ぱいくらいである、あとおなかがすいた場合には自費で食べなければならぬ状態に置かれる。そうしますとそういう金が相当大きな支出になって参ることはおわかりでしょうね。
  170. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  171. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それからなお承わりたいのは、自由が束縛されている、かようなお話がございましたが、あなた自身は、勤務時間以外の時間を利用して外出をしたり、あるいは多少の娯楽を求めに出かけるということは許されておらなかったのですか。
  172. 池上よし子

    池上参考人 たまには映画を見に行くことは許可されていますけれども、絶対に一人で行くということはできないのです。店の人が全部そろって、あるいは店のおかみさんがついていかなれけば出られないのです。
  173. 古屋貞雄

    ○古屋委員 なお外出しないで、家庭内においても御自分のお仕事があるわけですね。洗たくもするだろうし、その他のこまかい御婦人の仕事がありましょうが、そういうようなものについても、やはり主人の方から制限を受けるような場合があったのですか。
  174. 池上よし子

    池上参考人 洗たくは一切洗たく屋に出してやってもらうのです。
  175. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、洗たくは洗たく屋に出さなければいけない……。
  176. 池上よし子

    池上参考人 ええそうです。
  177. 古屋貞雄

    ○古屋委員 もしあなた方が洗たくをした場合には、洗たくに使った水道料というものは計算して差し引かれるのですか。
  178. 池上よし子

    池上参考人 水道料というのは引かれたことはないのですけれども、私が一ぺん自分の下着類を洗たくしようと思ったところが、洗たく屋に全部出しなさいと言われて、それから半えりやたびまで洗たく屋に出したのです。
  179. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それから今回あなた方があそこを飛び出すに至りました直接の原因は、ただいま三つの理由をあげられましたが、その中で最も大事なことは、自分のからだが続かないのだ、こういうような仕事はいやなんだというようなことが中心ですか、それともどうなんですか。
  180. 池上よし子

    池上参考人 からだが疲労するということが中心です。
  181. 古屋貞雄

    ○古屋委員 衛生設備は、承わりますと、土曜日は午後二時ごろから夜明けまでということであるし、普通のときも四時ごろから出勤して夜明けまで、そうして多いときは五人か六人の男を相手にしなければならぬということになると、非常に疲労もするだろうし、不規律な生活をするわけですね。それであなたのからだの工合などに重要な影響を及ぼすと思うのですが、そういうようなことがあるのですか。
  182. 池上よし子

    池上参考人 健康なんということに対しては、私たちの店は組合に入っていませんでしたから、いつといって別にきまってなかったのですけれども自分たちの好きなときに、一週に一度ぐらいは検査を受けに行ったのですけれど……。
  183. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それから病気などに関する関係については、たとえばたまにはかぜもひくだろうし、性病の伝染もあるだろうし、そういうような場合の待遇はどういう工合に受けておりましたか。
  184. 池上よし子

    池上参考人 そのくらいの程度の病気ですと、休ませてもらえません。
  185. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そのくらいの程度の病気、かぜをひくとか多少悪い病気が伝染したくらいでは休ませない、続けて就業させておったのですか。
  186. 池上よし子

    池上参考人 ええ、そうです。
  187. 古屋貞雄

    ○古屋委員 あなた自身そうおっしゃっていますが、あなたのお勤めになりましたトルコには、同僚として勤めている方が何人ぐらいで、やはりあなたと同じような待遇を受けているのかどうか。
  188. 池上よし子

    池上参考人 そうですね。以前もっとひどい病気をしても休ませてもらえなかった人もいるのですけれど……。
  189. 古屋貞雄

    ○古屋委員 もっとひどい病気とはどのくらいの程度です。
  190. 池上よし子

    池上参考人 きょう見えている近藤さんなんか、自分自身でもってやった経験がおありになると思うのですけれど……
  191. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしてもう絶対にああいうところにお帰りにならないという固い決意でございますか。
  192. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  193. 古屋貞雄

    ○古屋委員 近藤春子さんにちょっと。今お聞きのように、ひどい病気であっても就業させられた。御遠慮なしに一度ここでどの程度の病気だったか話してくれませんか。これを私が承わりたいと思うのは、これは人道上の非常な大きな問題なんです。従って人道上から考えますときに、さような病人をそこまで強要して就業させることになりますと、まことにわれわれ考えなければならぬ重大問題ですから、非常に言いづらいでしょうけれども、実際をお話し願いたいと思うのです。
  194. 近藤春子

    近藤参考人 私はそういうことがあったんですが、言いづらいのですけれども、毛切れしたときに、だんだんひどくなってリンパ腺がはれたことがあるのです。それでこういうところが痛むんだと言いながらも、お母さんという人はとてもきつい人で、休ましてくれというと、そのくらいのことは出なさい。こういう水商売に入れば日にちがたつにつれて、からだが健康になる。——そういう病気にも強くなってくるという意味でしょうね。だんだんリンパ腺がはれてくるのですが、お母さんたちの方に休ませてくれということを言えなくて、日に日に悪くなってきて、とどのつまりにならなければ休ませてくれないことは事実なんです。
  195. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そのリンパ腺がひどくなってきて、とどのつまり、もう自分のからだが就業に耐えられないような状況になるまではやらされる、それまではやはりしいられておった、こう承わってもいいですね。間違いありませんか。
  196. 近藤春子

    近藤参考人 はい。
  197. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それからさっき池上さんのおしゃられたような計算の仕方ですね。あなたのお働きになった働き高、あなたの手取りの金額はやはり二日働いて三日目には正割りをする。それはやはり主人の方から計算書を出されて、何か内容には書いておるけれども自分たちがそれをゆっくり見てこれに対していい悪いを述べるような機会を与えられなかった、こういうことがほんとうでございますか。
  198. 近藤春子

    近藤参考人 まあそうです。
  199. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それであなたはどのくらいの期間お勤めになっておりましたか。
  200. 近藤春子

    近藤参考人 約一年間おりました。
  201. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それで今は健康になりましたか。
  202. 近藤春子

    近藤参考人 からだの方は健康になりました。
  203. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それからさっきあそこへお入りになる経過についてはいろいろの事情があるから申されない、これはごもっともだと思うのですが、ただいま池上さんのおっしゃったように外出の場合もやはり同じような制限を受け、あるいは御自分のお洗たくをしたり自分の仕事をやるような場合にもいろいろと主人の方から制約を受けて、少くとも勤務時間外の時間に自分の仕事をするようなことはできなかった、こういうこともほんとうでございますか。
  204. 近藤春子

    近藤参考人 はいそうです。
  205. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうして絶対にああいうところへ再び帰る意思はないですか。
  206. 近藤春子

    近藤参考人 はい。
  207. 古屋貞雄

    ○古屋委員 近藤春子さんけっこうです。浜田八重子さんにお尋ねします。浜田さんはこの肩書きを拝見いたしますと、長崎県の貸席業組合連合会の従業婦組合長だ、こうおっしゃっていますが、この組合というのは働いておる方たち自分でお作りになっておるもので労働組合と同じような組合ですか。
  208. 浜田八重子

    浜田参考人 これは業者は別個になっておりまして、女だけの組織になっております。一つの相談会を作っている。それは共栄会と申します。
  209. 古屋貞雄

    ○古屋委員 この組合の構成員、そういう方はどういう目的でどういう人たちをもって構成し、どういう費用でまかなっておるか。この点はどうなんですか。
  210. 浜田八重子

    浜田参考人 これは私があとを受けましたのは昭和二十五年でございますが、女の方たちの会費によって運営しております。先ほど質疑応答のときに申し上げましたように、いろいろな設備が運動部面それから教養部面、補導部面にありまして、そういう面におきまして図書部の方は図書購入、また運動部の方はピンポンを置きまして、みんな検診に参りましたときに時間のある間ピンポンをお互いにみんなでやり合っております。また電蓄を置きまして、みんなが自分々々で思い思いのレコードをかけたり、お互いにレクリェションの一つの材料に使っております。また先ほどから吉原の問題などをいろいろ承わりましたけれども長崎の私どもの会というのは、女の方たちからいろいろと不満な点を聞いたり、また子供の相談を受けたり、積極的に市の方にお願いに行きましたり、少しでも女の方たちの力になるように私ども小使い回りにやっておるわけでございます。
  211. 古屋貞雄

    ○古屋委員 簡単にお話を願っていいのです。私の承わっておるのは、組合の目的は何であるかということ、組合の経費はあなた方従業員のお金でまかなっておるのか、どうも私疑うのですが、そういう点を承わりたい。それからもう一つは、組合人たちが一緒になって従業員立場から待遇を改善してもらいたいとか、衛生施設を完備してもらいたいとか、あるいは業者の当然なすべき娯楽設備をしてもらいだいとかいうようなことを御要求になる組合ではなくして、あなた方自身が金を出して自分たちが自律的にそういうことをやろうというような組合なんですか。
  212. 浜田八重子

    浜田参考人 大体組合組合で女の方の検診設備というものは全面的にやってもらっております。私の方としては、先ほどこまごまと申し上げましたが、結局それが女の方たち更生に何らかの役に立つべく私たちで一つの基礎を作るつもりで一生懸命やっております。
  213. 古屋貞雄

    ○古屋委員 生活に困って生死の境を歩んでそこに入っていった人々がどのくらいの利益を得ておるか知りませんが、子供生活自分家族生活を見なければならない人たちにそういう余裕があるのはおかしいと思うので聞いておるのです。そういう余裕があるのでしょうか。業者の方から出しておるお金でしょうか。どっちですか。そういうお金があるならば何もあなたがおっしゃったような心配はない。たとえばあなた方の仲間の相談を受けてみたり、いろいろな文化施設をする金を自分たちからお出しになるということになると納得がいかないので承わっておるのですが、どうですか。
  214. 浜田八重子

    浜田参考人 女は女同士という場合がございます。それで相談といっても業者の方に言われない場合に、女は女同士として来られるということを先ほどのことに関して一つ申し上げておきます。またお金の問題で、先ほど二百円と申し上げました金額には市民税が入っておるわけなんです。これは市民としてのもので五十円だけでございます。あとはみな働いておる女の方たちが一緒に助け合う機関の費用になっておる、私としてはそういう考えでございます。
  215. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、東京と違いまして、長崎の丸山に勤めておる従業員というものは、そういうような金を百円でも五十円でも出せる余裕のある営業ぶりをやっておるという実情でございましょうか。
  216. 浜田八重子

    浜田参考人 長崎の実情を申し上げますと、私らは半々でございます。その半々で食費、それだけでございます。あとの残りから会費ということになりますけれども、そのあとはみな自分自分の家庭に送るとか、いろいろそういう面に使っておりますが、中には少し間違いかけたような人が出てくるときもございますが、その程度でございます。
  217. 古屋貞雄

    ○古屋委員 非常に突っ込んだような御質問ですが、あなた自身がおやりになっておるときにどのくらいの収入がおありになったのですか。
  218. 浜田八重子

    浜田参考人 私は先ほど申し上げました子供の養育料、それがせい一ぱいでございます。何分年もとっておりますが、しかしそれ以上働かなければ自分の身のまわり、そういうものもできないのだという気持でやっておりまして、子供の仕送りそのものだけは収入がありましたのでございます。
  219. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それからあなたのお入りになっている組合は、組合員は何人くらいでございますか。予算をどのくらいお使いになっておりますか。
  220. 浜田八重子

    浜田参考人 女は六百人近くございます。その年その年でやはり減ったりふえたりしますが、平均五百五十人でございます。
  221. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そこで最後に、あなたが今おっしゃられましたのは、丸山に勤めておる聞に立ち上れば立ち上れるのだ、立ち上れないのは何かそこに支障があるのだというような、言葉のあげ足をとるわけではございませんが、実際丸山の赤線区域に勤めておる人が、まじめにさえやっておれば立ち上れるという確信をお持ち遊ばされるような状況なのでしょうか。こういうような不衛正的な仕事に従事する御婦人が、一生取り返しのつかないような身体の障害をして、からだを悪くしてしまって立ち上ることのできないような方たちがたくさんあることを、私どもも相談を受けておるから伺うのですが、ただいまもお聞きのようにここにいらっしゃいました池上さん、近藤さんは、相当病気があるのにその病気を押して仕事をしなければならない、こういう状況になりますと、それ自体がすでに再び立つことのできないようにからだをこわしてしまう、完全な人間として働くことができないような者が、ああいう不自然な仕事をしておる結果行われておるということを私ども実際に承知しておりますが、丸山付近におきまするあなたの関係においては、そういうような事例はないのでしょうかしら。それほどまでに衛生が完備し、それほどまでに従業員規則がはっきりして人権が尊重されておるのですか、その点どうなのでしょうか。
  222. 浜田八重子

    浜田参考人 先ほどから伺っておりましたあのお二人の方は、非常に気の毒だと思っております。私、自分が働いておりましたことを考えますと、むしろ私、不幸中の幸いだという気持を持ちました。また現在長崎の方でもそういう検診も非常にやかまして言っております。また中には、先ほどの近藤さん、いま一人の方のお話のようではありませんが、結局業者としてもいいお方ばかりとは言えないのです。また悪い方とばかりも言えないと思う。ですから悪い方には悪い方のように私の方としては組合として交渉しまして、そして悪い方にはもっと是正していただくように願う場合もときどきございます。これから先も、もしこんなお話がどういうふうな結果になりますかしら、現在の模様では、業者の中の方でももっともっと反省して、もっともっと良心的にやっていただけたらという願いは当然持っておるわけであります。ないということは申し上げられません。
  223. 古屋貞雄

    ○古屋委員 どうでしょう、あなたはだいぶ常識もおありであるし、お年もとられておりますので、雇い主と雇われている従事員との間に人間的に、平等にいろいろの交渉ができるような状況にあなたのお勤めになっているところでは行われておるでしょうか。たとえば何らの気がねもしないように、お聞きのように業者からこうだという計算書を突きつけられて引き下らなければならぬような状況があるのか、それともそういう場合には、あなた方の方では進んでそれはこういうように違っておる、こういうように納得がいかない、従ってこう改めてもらわなければ困るのだということが、長崎の丸山あたりでは対等にお話ができるような状況に置かれておる実情にあるのかどうか、この点どうなのでしょうか。
  224. 浜田八重子

    浜田参考人 ただいまのお質問にお答えいましますが、最近の実例におきますと、やはりこの方は五人の子供さんを持っておられる方なのですが、毎月どうしても仕送りをしなければいけない。自分が働いてもらうお金があるのにこれがもらえないというのはおかしいから、何とか調べていただけないでしょうかと言うてこられました。さっそく私の方としては組合長また県の連合会長さんという方がおりますものですから、そういう方たち全部——これは業者の方ですけれども、その女の方も同席したまま申し上げました。また防犯の面の方もおられるわけですが、さっそく一緒に業者の方にその点持ち込んでいきました。そして女の方も納得のいくように、業者の方にはこういう不景気のときではあるけれども、この人も子供さんのために働いているのだから、何としてでも働いた計算は計算だ、してやってもらわなければ困るということで、相当突っ込んでやってもらって、そして完全に送っていただいたというのが最近の一番手近かな話ではありました。そういう問題で私どもは、業者と女ということは、女は女でもって団結していかなければなりませんが、またつながりというものがございますので、そうしてもう対等以上に、私どもの方としては詰問的にやる場合もございます。そういうふうな行き方でやっておりますので、女の方もむしろこのごろは目ざめまして、自分の方からそういう話を持ち込んでくるようになってくれましたので、仕事はしやすくなっております。また私もときには座談会を開く。そうして業者の方にも不満があったらみんなでもって話し合おうということで、座談会をときどき開いたりしております。
  225. 古屋貞雄

    ○古屋委員 先刻からお話を承わっておりますと、結論はこういう状況に置かれておることの責任は国にあるのだ、こういうお話があり、この法律を作ることによって、経済的な裏づけがなければこれはかえって混乱を招くような結果になる、こういうようなお話を承わっておるのですが、あなた自身がさようなお考えでございまするならば、当時親子心中もしなければならぬという悲惨な気の毒な立場に置かれたときに、国に向って一体われわれは生活ができないのだ、生活保護法によるところの金ではどうも子供の教育はできない、従って国に向って何とかわれわれの生活の維持ができるようにしてもらいたいという御要求をなさらずに、あなた自身からお考えになれば決して名誉でもないような方面に行かれたということについて、今あなたのお考えははさようところに行かなければ救われなかったのだ、国に向ったのでは救われない、こういうお考えを今でもお持ちになっておるのかどうか、その点はどうなのでございましょう。
  226. 浜田八重子

    浜田参考人 私先ほど申し上げましたように、その入ります動機そのものからして——動機ではございません。場所そものを私としては何も認識してなかったくらいで、世間のことも一つも知らないうかつ者であったのでございます。それで娘が卒業してからすぐに結婚、そしてまたすぐ死なれるという結果において、その間において何もいろいろなことを知りもせずに、このくらいうかつな者がおるのかしらんと思うぐらいに今でも思うのでございますが、そういうふうな私でありまして、国に向ってどうこうという考えは、とてもまだその当時は私は考えもできていなかったのでございます。自分が今そういう経路をたどってきますと、おっしゃられる通り何も名誉な話ではございませんが、結局これを体験したればこそ、こういうふうなお話もできるようになったのではないかと思うのです。
  227. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そこで私が承わりたいのは、だから初めからこういうふうなことをすることはいいことではない、法律によって禁止せられておるのだということになって、そういう方面に足を向ける方たちをむしろ国の方面に、あるいは政治の方面に走らせるということの方が、現在の日本の政治のあり方としては、非常にいいことではないかと思うのです。その点はいかがでございましょうか。
  228. 浜田八重子

    浜田参考人 それは大へんけっこうだと思います。しかし現在の赤線区域というものを、それならばすぐやめさせるということになると、私は今は心配があるのでございます。そうしまして、今度はそういうふうな方面に足を向けないように、だんだん国の方でそういういろいろな保障とか、またこの法案をもう少し研究していただいた上で、法案ができましたなら、そういう施設という面も並行していきますうちには、赤線区域に入らない人も出てくるように、自然消滅の形になるんじゃないかしらと思っております。
  229. 古屋貞雄

    ○古屋委員 こういうことはどうなんでしょう。そういう場所があるから行くのであって、場所がなければ生きる道を考えなければならぬ、こういうように考えていくことが一つ。それから今私ども考えておりますことは、今のような状況でおりますと、こういうことは悪いことじゃないのだ、ことに、教育のない生活の低い方たちは、当然のことなんだ、もっと突き進んで申しますと、一家眷族を救うために若い自分が犠牲になるのだ、犠牲になったつもりでそういうところに行くのだ、そういうように思っている人が多い。従って、そういうようなことは、この法案処罰することによって、悪いことなんだということをはっきり国民に宣言をし、国民に教えて、そのかわりこれに伴って、あなたのおっしゃるようにこの裏づけである相当の数に上るそういう方面で働いておる人々の補導、あるいは生活その他の社会保障制度を完備するということになって、そういうようなことを両々相待っていくということになれば、あなたのお説のように結論がなるのですが、そういうことが行われることになれば、こういう法案については御賛成が願えるでしょうか。
  230. 浜田八重子

    浜田参考人 処罰をしなければならないということ自体が、何か法律できめられておるからああいうところに行ってはいけないというふうな一つのかたいお話になりますと、私としては、女の人たちのこれから以後に対しても、そこに非常にむずかしいものが出てくるのではないかと思うのでございますが、何と申し上げてよいの
  231. 古屋貞雄

    ○古屋委員 その点は、先刻委員長からもお話がございましたように、この法案処罰の対象は御婦人だけではない。むしろ御婦人は非常に寛大に扱われて、その御婦人を利用し、そういう場所を提供し、そういう方面に出資をし、それによって幾ばくかの利益を得て生活を維持するというような人々に対して処罰するというのが本意なんです。従って、ただいまお考えになっているような御婦人だけを処罰するのだということではない。従って、婦人処罰については最も寛大な処罰をとれる方法が講ぜられてあるわけです。あなたがおっしゃるような、道義的にやられたらいいだろう、処罰ということはけしからぬという御議論もまことに筋が通ります。しかし、さような状況では目的を達し得ない。いわゆる明朗な生活、憲法で保障された基本人権の尊重、こういうようなことを考えますときに、そんななまぬるいことではもうできない状況に今置かれておるというのが私ども考えなんです。従って軽い処罰をする。しかしながら、それを利用し、さような場所を提供し、それによって幾ばくかの利益を得、あるいは一方に今お聞きのような人権をじゅうりんするようなことに対しては厳罰に処す、こういうことなんでございまして、その点はよく御了解を賜わりたいと思うのです。結論といたしまして最後に私が申し上げたいのは、私どもから申し上げますと、どんなにあなた方が組合を作り、いろいろの施設を作って、あなた方自身の力で立ち上られても、完全なと申しましょうか、あなた方のお考えのような生活の保障、あるいは基本的人権の尊重、御婦人に対する幸福というものはあり得ないと私は思うのです。だから、一方大きな国の力をもってそういう方面についてもできるだけの施設をいたすようにいたしたいのです。なお、われわれはあなた方の御意見を承わって、その裏づけの点について、本法案より以上に努力をいたしまして裏づけを期待していかなければいけないと考えておるのでございますが、いかがでございましょう。ただ御婦人だけを罰するということではないのですから、この点御了解を願いたいと思うのでありますが、そういうような大きな見地からお考えになって、この法律をこしらえることによって、国民に対しては、そういうお仕事が悪である、処罰を受けるという観念を与え、一方においては教育制度によって教育をする。処罰法というものは、御承知の通りこれは末の未のことなんですが、末の末のことでも、ないよりもあった方がいいと思うのですが、そういう考えについてはどうなんでしょうか。
  232. 浜田八重子

    浜田参考人 処罰ということと人権尊重ということと並べて伺っておりますと、片方に人権を尊重する意味処罰法案を作るというと、何か私の頭の中が混乱しまして……。人権を尊重するのに罰を加えるということになるとごっちゃになってしまいますから、そこをはっきり教えていただきたいと思います。
  233. 古屋貞雄

    ○古屋委員 人権を尊重するがゆえに、人権尊重を迫害する者を省こうということです。こういうことが一つのねらいなんです。たとえばどろぼうをした者は、その人の人権は尊重しなければならぬけれども、他の人権に重大な迫害があるからこれを処罰する、こういうことです。人を殺した者については、その殺した者の人権も尊重してやらなければならぬけれども、多数の危害を加えられる人の人権を尊重する、一方においては、そういう社会悪に対しては処罰をしなければならぬ、こういうのが処罰の目的でございます。大体そういうお話しを申し上げたら御納得がいくと思うのですが、いかがなものでしょうか。
  234. 浜田八重子

    浜田参考人 はあ。
  235. 古屋貞雄

    ○古屋委員 次に、鈴木さんにお尋ねいたしたいのです。鈴木さんの御主張はよくわかります。歴史を無視して、勝手に短かい期限において処罰をして生活を奪う、こういうふうなことでございましょうか、どうでしょうか。御婦人の諸君が、生活に困ったりあるいはいろいろの事情によってあなた方のところへ飛び込んでいく場合、そういうようなことはあなた方がおやめになって、これを公けの設備にまかされて、そうしてあなた方自身は別のお仕事で生活を営むということをするような諸設備が整いまするならば、この法案に対しては御賛成が願えるかどうか。
  236. 鈴木明

    鈴木参考人 私はそう簡単に考えておりません。私らは、そういう施設も相当の研究を要するし、その範囲もきわめて大きなものであろうと思います。同時に売淫というもののあとの考え方でありまして、先ほど申しましたように、売淫というものの深い根源が適当に導かれません限りは、必ず何かしらの形であるであろうと思いますので、もし何かしらの形であるとしたならば、将来今以上に悲惨なものになるのじゃないかという懸念を多分に持つものであります。ですから私は、現在よりもよくこの働く者の立場皆様方が御心配の上に、人権を尊重され、さらに自由に、さらに働きがいのあるように一応していくことの方が、当面の問題としては最も適切な方法だと考えております。
  237. 古屋貞雄

    ○古屋委員 鈴木さんの先刻来のお説を承わり、同僚の山本委員のお尋ねにあなたがお答えになったことから考えますると、少くともあなたのところで働いておる御婦人の働きによってあなたの一家族生活が保障されておるということを承わるのですが、そういうような結論から考えまして、どうでしょう。ただいま私が公けの設備、あるいは公けの施設にまかせる、こういうことを申したところが、あなたのお答えでは、売淫の歴史をひもといてもっと詳しく研究願わなければならぬという。これはごもっともだと思うのです。しかしあなたが先刻申されたように、生活の保障を与えられてない青年は希望をいたしても家庭が持てない、婦人をめとるわけにいかない、家庭生活をいたすことができない。しかし一方においては性の要求というものは何とかしなければならぬ。従って、こういうような実情、人間性というものを考えずにただいたずらに刑罰法規だけを作ることはかえって社会に混乱を起すんだというような御見解でございます。かりにこの処罰法が通過いたしましたときには、あなたのお考えでは混乱を来たす、かえって悪くなるというようなお説でございましたが、その根拠を具体的にお示しを願いたいと思うのです。私たちも青年の性欲のはけ口と現在の生活の状況、いわゆる経済状態、現在の日本の施設、そういう面において青年のはけ口をどう善導するのか、こういうことは十分考慮の上でこの法律の立案をしているわけなんです。従いまして、あなたの方からこれがために混乱を来たすんだ、かえって悪くなるのだ、こういうようなお説がございますなら、その具体的な根拠を、一つ私どもが納得のいくようにお話しを賜わりたいと思います。
  238. 鈴木明

    鈴木参考人 最初に申し上げましたように売淫自体に、るる申しましたような原因があるとしましたらば、禁止してもなかなか禁止の実績は上らぬと思います。そこで需要のあるところ必ず供給があろうと思いますが、もし禁止してしまいますと、おそらくこういうようなことをして少くとも社会に迷惑をさせないでいこうというような観念は、そこで断ち切られると思います。もしさらに言われる通りであるとしまするならば、この法案が通過すればさしあたって集娼は即座に廃止されると思います。しかしその次に社会的要求が満たされない限りは、おそらく散娼が生まれ出ると思います。しかし散娼がほんとうにその人自体が売淫をしなければならない、それによって生活をしなければならないという欲求を満たし得るものかどうか。おそらく女自体の自由意思によって、その働いた代償を全部自分のふところに入れて、それによって買う者も売る者もともに満足していけるというような事態は、私は日本の現状ではあり得ないと思います。必ずその間にいろいろな一つの組織なりあるいは何ものかがそこにつきまして、より以上それによる生活を強いながら、やむを得ずその日その日を生活していっても、とうてい更生の機会が得られないような、今よりも困難な事態になるであろう、こういうふうに考えておるのであります。
  239. 古屋貞雄

    ○古屋委員 ただいま鈴木さんのおっしゃったことは、だろうと思うということで科学的な根拠はないようですが、むしろこういう点はどうでしょう。今のような赤線区域があるから自分の色女を暴力で業者のところへ売りに行ったり、あるいは地方から出て参りましたあどけない少女などが東京の暴力団などにっかまってあなた方のところに売られていく、こういうようなこと自体の弊害はもうわれわれといたしましては数えるにいとまのないほどもあるわけです。そういう受け入れ態勢があるからやるのです。受け入れ態勢がなければそういうことはあり得ないと思うのです。あなた方の方では、こういうものが禁じられるならばこれより以上の弊害がある、こういうことになるというお話でございますが、もう少し具体的にただいま私が申し上げた暴力団のようなもの、あるいは悪人の目上の者が目下の女を売り歩いたり、あるいはただいまお聞きのように、中には悪い業者があって従業員に対して非常に残虐な行為が続けられる、こういうこと自体がわれわれのねらいなんです。ところがそれよりもさらにはなはだしい害悪がある、こういうことについてもう少し具体的にお話し願えないのですか。
  240. 鈴木明

    鈴木参考人 将来のことですから具体的にこうだとは申し上げかねますが、しかし外国にすでに売春を禁止した国がたくさんあると聞いております。しかしその国にも今もって売春の実情はあると聞き及んでおりますから、その方を御研究なさることの方が具体的な結果を得ることにやすかろうと思います。
  241. 古屋貞雄

    ○古屋委員 昨日猪俣委員からも申されたように、石川五右衛門のどろぼうは尽きない、現にそうだと思うのです。どんなに厳罰にしても尽きない。尽きないということが現実の姿であるから、そういうどろぼうをするという悪いことがあっても処罰してはいけないという理論は、どうも水かけ論であるかもしれませんが、あなた自身の立場でお考えになっておって、これを人道的に考え国民立場から考え社会人の立場から考えると、そういう御議論が生まれないのですが、どうでございましょう。先刻のあなたのお考えを承わると、絶対に今のお仕事が悪いのじゃないとおっしゃっておるのですが、今お聞きのようにあなたのすぐお近くの吉原トルコ人権じゅうりんがある。それはそういうような処罰規定がこれによって行われるならば、私はある程度一掃できると思う。売淫が絶えなくても、そういうように集団的に職業的に継続的に女を囲って、その女を働かして、しかもその女の働きによってすわっておって自分家族生活を保障するというようなことはあり得ないと思うのです。この点はどうなんでしょうか。
  242. 鈴木明

    鈴木参考人 私は先ほども申し上げましたが、今の先生のお話によりましても、私たちが売淫をさせておる、強制させておる、だからお前たちをなくすれば少くともお前たちだけはなくなってよくなる、こういうふうにお話しのようでありますが、しかし私たちが申し上げますことは、私たちが現在やっておること自体が、少くとも社会なりあるいは政府なり、あるいはそれぞれの機関なりが当然やらなければならないことをやり得ないでおる。そこで私たちがそのやり得ないところに、なお一そう転落し、さらに自殺までもしなければならないような一部の人に対して、一応働き場所を与えて、かりにそれが悪いことといたしましても、それによって更生していく、だれにも助けられないで更生していくということを今やっておるという限りにおいては、これは直ちに廃止すべきものじゃない、こういうふうに考えておるわけです。
  243. 古屋貞雄

    ○古屋委員 私は寡聞にして存じません。何十年かの自分体験から考えて、前の女郎屋制度、今の赤線区域の制度によって更生をしておるという姿については、それはたまにはございましょうけれども、大部分の者は更生をせずにむしろ罪人に陷っておる。まず第一にからだをこわしてしまっている。その次は自暴自棄になってしまって、社会悪でも何でもかでもやっていかなければならぬ、こういうことになって、統計からいって赤線区域を中心とする方面にのみ犯罪の発生の率が多いということから考えましても、これはあなた方にお考えを願わなくちゃならぬ。あなた方の方で他に行くべき道を考え、他に更生すべき道を与えられ、他に転業すべき保証が行われたら、われわれは承諾をいたしますという考えなら格別ですが、あなたのように断じて悪いことではないのだ、これは一部の人々の更生をわれわれが救っておるのだ、こういうようなお考えをされるということについては、何かもっと具体的にわれわれを納得させるような御議論の具体的な科学的な根拠をお示し願いたいと思うのですが、いかがでしょうか。
  244. 鈴木明

    鈴木参考人 ただいまあそこに働く女の子が、健康を害し、さらに精神的にも正常でなくなる、そのために更生するよりも転落する方がより一そう多い、こういうふうにおっしゃられたようでありますが、私は先生のそのお話は、全国六十万になんなんとするといわれている全体の人たちのことをお話になっておられると思います。私が今申し上げますのは、最初にお断わり申し上げましたように、全国六万の従業婦であり、一万六千の営業者だけに限って申し上げておるのであります。この範囲におきましては、もとより転落する人もありましようけれども、りっぱに更生している数々の実例もあり、さらに最近先生方の調査によりますと、ああいうところに働いている女の子は一つの精神異常者である、生活能力も欠けておる人である、こういうふうにいわれておるようでありますが、しかし調査の結果は、中間的に承わるところによりますと断じてさようなこともなく、いわゆる従業婦の異常者である者とない者と、社会の異常者である者とない者との比率には何ら変りはないように承わっております。その点はどうぞこの上ともよく御調査を願いたいと思います。
  245. 古屋貞雄

    ○古屋委員 長くあそこにおりますと、社会に対する常識がなくなり、それからまじめな仕事をやる能力、意欲をなくするという点において非常に弊害があるのですが、結論からいってどうなんでしょう。あなた方の方でお働きになっている人は大体若い御婦人です。これが生産をする方面に回って働いてもらうということになることは、私は非常に大事なことだと思うのですが、しかも働くことによって希望が持てるような立場に御婦人を置いて、そうして明朗な社会を建設する、こういうことについてはやはり鈴木さんといえども国民立場から御賛成なさると思うのですが、どうなんでしょう。人間の肉を幾ばくかの金にかえて、そしてそれを売ってやる、こういうような考え方、こういうことをやらせること、これ自体が人間的に考え——やはり鈴木さんも人の子の親であり、兄弟であります立場からどうなんでしょう。こういうことはやめさせる方が世の中を明朗化する上においても、また生業を与えて働かせる基礎を作る上においても私はいいと思うのですが、この点はどうなんでしょうか。
  246. 鈴木明

    鈴木参考人 私は理想としてはそういうふうに考えるべきことになろうと思いますが、現状を見ますときに直ちにそういうふうなことを肯定することはできないと思います。
  247. 世耕弘一

    ○世耕委員長 古屋君にちょっと御相談いたしますが、昼食の時間が大分過ぎておりますので、もし質問がまだ長ければ、一たん休憩して午後継続してやっていただいてけっこうだと思います。
  248. 古屋貞雄

    ○古屋委員 一点だけで終ります。  一点だけ最後に承わりたいと思いますが、どうでしょう、理想とか理想でないとか言うけれども、あなたも子を持った親でありますから、子を持った親が今のような醜業を自分子供にやらせることはたえられるでしょうか。
  249. 鈴木明

    鈴木参考人 そういうことは私に対して行き過ぎた御質問だと思います。もし私の子供にしましても、そういうふうな不運な立場になったら何をするか、私のよく知り得ざるところであります。そういうふうな御質問は一つごめんこうむりたいと思います。
  250. 古屋貞雄

    ○古屋委員 当然の質問です。この点を言わなければ、本件のきょうのあなたから参考に聞く必要はなくなってしまう。これが基本なんです。われわれは基本人権を尊重したいから、憲法で保障されておるから、その基本人権の侵害に対する処罰をしようとしておる。そういうお考えで御答弁できなければかまわぬですが、これは当然私はお聞きしなければならぬ。あなたも子の親である。その親が子供に対して醜業を——人間の肉を幾ばくかの金に換算するという考え方がいいか悪いかということではない。そのことを聞いているのじゃない。人間として……。
  251. 鈴木明

    鈴木参考人 今やっておる姿が、今おっしゃるようにこの行為自体が直ちに困る人たちの肉体を金に換算してとり行われておるというふうに考えることが実情とそぐわないと考えております。
  252. 古屋貞雄

    ○古屋委員 今の実情は肉をひさぐことによって幾ばくかの金を対価としてとっておるでしょう。それがあなた方がやっておる営業じゃないのですか。それが実情にそぐわないというところはどういうことなんでしょうか。
  253. 鈴木明

    鈴木参考人 それは仕事をする自体が業者ばかりの意思でやっておるわけではありません。業者意思は半分入っておりましょうが、他に、そこを利用せざるを得ないものの、あるいは世の一部は男性であり、一部はそこに働く女性でありましょう、かような一部の関係があります限りにおきましては、なかなかそう簡単に行かないと私は考えております。
  254. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そういう設備をして、そういうところに人を誘って、そういうことをやらしておるということ自体に対していいか悪いかということを伺っておるのです。
  255. 鈴木明

    鈴木参考人 私はそういうことにつきまして最初からお断わりしておりますように、もしこの売淫というものがなくて済む世の中があるならば、私らもいさぎよくそのないところに行くことに間違いありません。しかし私たち経験上今直ちにこれをなくすることができない、そのわけは先ほどるる申し上げたようなわけであります。ですからその限りにおきましては、この業務をあながちお前たちが悪いのだぞ、そう言われましても、そう簡単に転業もできませんければ、またそうかといって私たち立場から考えますと、後ほどのいろいろの影響を考えますと、簡単にそうでございますかと、こういうふうに割り切れない立場にございます。
  256. 古屋貞雄

    ○古屋委員 割り切れない立場については私どももよくわかります。そういうことでなく、根本の問題としてただいま私が申し上げたようなことをやらないようなことに御協力を願えるか願えないかということです。それを国民立場から、国民衛生上の考え国民生業の立場考え、憲法で保障されたいわゆる生活の保障の問題、人権の保障の問題、こういうことを考えて参りますと、あなた自身ももっとほかにいい方法があるならば、すみやかにやめた方がいいのじゃないかというふうなお考えがあるはずだと思うのです。
  257. 鈴木明

    鈴木参考人 私は前段申し上げましたように、いろいろな売淫に対する根本的な解決なり要求なりが満たされまして、そうしてまたここに働く者も救済され、またここに働いているわれわれとしてもその必要がなくなり、さらに皆さんのおっしゃるよき社会、よりよき生活に行くことができるとすれば、もとより私たちはどこまでもこの売淫をしいていこうなんという考えは毛頭持っておりません。
  258. 古屋貞雄

    ○古屋委員 その一つの方法としての今回の問題であることを御了解を賜わりたいと思います。
  259. 鈴木明

    鈴木参考人 それは了解しておりますけれどもそのもの自体、このきめ方自体が私たちは納得がいかないと申し上げておる次第であります。
  260. 世耕弘一

    ○世耕委員長 古屋君にお諮りいたしますが……。
  261. 古屋貞雄

    ○古屋委員 議論ですからもうやめます。そういう考えを持っておる鈴木さんのような方がいらっしゃるから、処罰をしなければならぬということがますますはっきりすると思います。以上で打切ります。
  262. 世耕弘一

    ○世耕委員長 ではなお他に質疑の通告が多数ありますので、この辺で一応休憩いたします。午後二時半より質疑を継続いたします。二時半まで休憩いたします。     午後一時五十分休憩      ————◇—————     午後三時三分開議
  263. 世耕弘一

    ○世耕委員長 休憩前に引続き会議を開きます。議事の進行の都合上、他の四名の参考人方々の御意見を先に承わることにいたしたいと存じます。そして便宜上まとめて質問をしていただくことにいたしたいと存じますから御了承を願います。  では参考人伊藤秀吉君に御意見の御開陳をお願いいたします。伊藤君は多年社会事業家として廃娼問題その他等に献身せられておられたことを伺っておりますが、売春等に関して深い御調査並びに御見識があるように伺っておるのであります。この際その御所信並びに売春行為処罰した後の女性がどういうふうになっていくか、あるいはその保護指導等に関してもし御意見があれば、この際承わらせていただきたいと思うのであります。では伊藤秀吉君。
  264. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 私今御指名にあずかりました伊藤秀吉でございます。文京区の大塚仲町に住んでおります。ただいま文部省の純潔教育分科審議会の会長をしております。  明治四十四年以来、私は廃娼運動に一生を捧げて参った者でございまして、当時島田三郎さんを会長とする廓清会に入りまして、廃娼運動を担任したのでございます。島田先生がなくなられますと、副会長であった安部磯雄さんが理事長となられ、私は常務理事として廃娼運動を担当して参りました。あるいは国会に、あるいは県会に、廃娼運動を続け来たったものでございますが、今回お呼び出しによりまして、この法務委員会皆様に私の意見を述べさしていただく機会を与えていただきましたことは、まことにありがたく、かつ光栄に存じます。  私が申し上げたいと思いますことは、売春取締りというものは世界各国どこにもあるのでございますが、それがどういうふうになっているか、世界各国の売春対策につきまして簡単に申し上げてみたいと思います。  大体世界の売春対策を大別して申しますと、四つに分れると思います。一つは公認制度でありまして、日本に八、九年前までございました娼妓制度がこれに当るのであります。国家が売春というものを適法の行為として公けにこれを認めて、あるいは税金を課して保護するというようなきわめて奇怪な制度が日本にありましたことは、御承知の通りであります。次に黙認制度、これはライセンスはございませんけれども、ある条件を付しておって、その条件のもとで売春行為をやっておる限りは、それは少しも違法にはならない、処罰されないというのが黙認制度でありまして、今日ヨーロッパに残っております制度でございます。また日本に現在あるところの、公娼が廃止された後のいわゆる赤線区域のようなものは、すなわち黙認制度でありまして、ヨーロッパに残存するところの制度とほぼ同じゅうしておるのであります。もちろんこれが日本におけるごとく千人二千人というような大集団があるというようなことは、これは実に驚き入ったるところの制度でございまして、そういうものは世界のどこにも見出すことができますまい。  それから第三は廃認制度というのでございまして、主として英国の制度であります。廃認と申しますのはアボリショニズムといいまして、ヨーロツパにおいて一番先に廃娼国となったのが英国であります。一八八六年に英国が世界に率先して廃娼国になったのでありまするが、このとき英国のとりましたところの政策というものは、別にこれにかわるところの売春に対する禁止の制度というものはなかったのでありまして、売春が行われるといたしましても、それが密室においてひそかに行われる限りは男女間の私通として、野合としてこれを法律は追及しなかった。しかしながらそれが公の形あるいは風俗を乱す行為、道路上に人を勧誘するというようなことは、もちろん処罰されるのでありまして、これが英国の立法の特色であります。一九〇二年にノルウエーに一つの新しい政策が生まれました、今までフランスあるいはその他にありましたところの、いわゆる黙認制度は、これをレギュレーショニズムと申しまして、一つの取締り主義と言われておったのであります。英国がこれに対していわゆる廃止主義をとりましたために、これに対してノルウエーその他のスカンジナヴィア諸国に行われましたところの新しい政策はこれをネオ・レギュレーショニズムといっておるようでございます。そのノルウエーに行われましたところの制度は今までの廃娼ではございませんで絶娼主義とわれわれの方では言っておるのでありますが、公娼、私娼を問わず一切の売笑を廃止するというのでございまして、それをさらに一九〇六年にデンマークが法制を完備して今日に至っておるのであります。その結果がよろしいので進んで一九一八年にスウェーデンがこれを採用いたしました。それから一九二二年にチェコスロバキア、一九二六年にフィンランド、一九二七年にドイツ、一九三二年にユーゴスラビアというようなぐあいに世界各国が毅然としてこの絶娼主義、売春そのものを一切認めないといういき方をとったのであります。さっきからもいろいろ問題が出ておりましたように、売春そのものが絶滅されるということはなかなか困難でありますけれども、絶滅を理想とする主義で法律を作るということはすでに行われておりまして、すでに五十年の歴史の結果がりっぱに成績を上げておりまして、人間の性というものがその尊厳を保っていくことができるものであるという実証を世界に与えておるのであります。  それで私が申し上げたいのは、日本に新たに売春禁止処罰法の規定ができまするならば、それによってどういう効果が現われるかということを申し上げてみたいのであります。今申しましたように世界の売春取締りの進歩は、公認制度から黙認制度へ、黙認制度から絶娼主義の廃認制度へ進んでおるのでありまして、形態の上から見ますと集娼制度から散娼制度へ、散娼制度から絶娼主義に進んで参っておるのでありまして、その結果はすべて良好に進んでおったために、世界各国がいずれも何らのちゅうちょなくこれを採用して参ったのであります。一九二七年に国際連盟で婦人児童売買禁止条約の会議におきまして初めてこの売春問題が非常に論戦されました。次いで二十七年から三十年に至る四年の間、この禁止会議のあるいは総会において、あるいは委員会におきまして非常に激烈にこの問題が論議されたのでありますが、いずれの国もことごとく売春制度というものは許してはならない、これは廃止すべきだという結論に達しておりまして、フランスのごときも初めのうちはこれはみだりに廃止するとかえって風俗が乱れる、あるいは性病が盛んになるということを二十七年には言っておったのでありますが、二十九年になりますと変って参りましてこれは廃止した方がいいということで、フランスにおいてはコルマーとかニテアンヌとかストラスブールとかそういう都市で廃止の実行をやったところ、その結果は良好であるというような報告がされておりまして、二十九年、三十年に至っては世界各国ことごとく早く売春を禁止しなければならないということにきまって、その結果は世界のうちでまだ売春を許しておるような国がもしあるならば、そういう国に対して早く禁止するように書面を送ろうという決議を一九三〇年にいたしたのでありまして、日本にもその勧誘が確かに参っておるはずであります。それからもう一つつけ加えて申したいと思いますのは、一九一〇年に婦人児童売買禁止条約というものができまして、日本もこれに加入したのでありますが、婦人というのは未成年の婦人でございました。ところが一九三三年にそれを引き伸ばして、成年婦女の売買禁止に関する条約というのができております。これはまだ日本は加盟しておりません。それから一九四九年にはかなりそれが進んで人身売買及び売春によって利益を受ける者たちに対する禁止の条約というものができておりまして、当然これは日本がもし国際連合に加入しますならばその責めを負わなければならぬはずであります。  そうしますとさっきからいろいろ問題になっておりましたが、もう国際的にも搾取業者というものが取り締られなければならないところに来ておるのでありまして、その結果私が申し上げたいのは、その禁止によりましてまず第一番には売春という行為が罪悪であるという思想を法律の第一条において植えつけたいと思うのであります。これがないためにやはりさっきからの答弁に現われたりあるいは陳述に現われたりしますように、売春というものに対してほとんど自覚がない。自分たちのからだを自分で売っておるのに何で悪いのだというような思想を持っておるのでありまして、これはどうしても売春そのものが不道徳であるということ、あるいは犯罪であるということを知らせなければとうてい売春問題を解決していくことはできないのであります。でありますから婦人自身にそういうことを自覚せしむるためにも、犯罪の重い軽いは別といたしまして、それが犯罪であるという条文ができなければならぬと思うのであります。またこれを勧誘するところの業者がちっとも自覚がない。これまた今の日本には公娼制度のようなものがありまして、売春させることによってその者がただ生活しておるだけじゃなく、あるいは別荘を持ち、あるいは堂々たる実業家として名誉ある議員にもなり得るというような社会状態がそういう思想を生んできておるのでありますから、これはどうしても早くこういうものを犯罪として取り締るようにしなければ、性の道徳というものは日本に高まらない、外国には、たとえばインモーラル・トラフィック・アクトといって、英国にはそういう条例がありますけれども、アメリカにも、デンマークにも、オランダにも、あるいは南アの大審院の判決の中にもインモーラルという言葉売春という言葉を代用されておるのであります。いかに売春というものが道徳の中で大切な位置を占めておるか、そして性の道徳というものが重んぜられておるかということがこの言葉考えるだけでもわかるのであります。わが国では残念ながら売春ということに対して自覚が非常に低いのであります。ですから第一条にどうしても売春というものは罪悪であるという思想を植えつけるためにその一カ条がほしいと思うのであります。  第二には、業者指定地を撤廃する。売春の指定というようなことがあり得べきでない。世界各国とも今日では指定をなくしておるのでありますが、指定を撤廃して妓楼制度というものをなくするというところにいかなければならぬ。売春婦人にさせないということと同時にそういう場所をなさなければならぬ。そういう場所があるから売春をしたいと思って初めからそういうところに行くところの婦人たちの大多数がそういうところに陷って、哀れな生活になるのでありまして、そういう場所をわれわれは早くなくしてしまうということが一番大切なのであります。  それから売春に対する勧誘、媒介、あるいは家を貸すとか、金を貸すとか、そういうものに対する処罰の規定ができなければならぬと思うのであります。そうすることによりまして売春をしてはならぬという大上段からの禁令が出て、次に売春の場所がなくなり、第三に売春を勧誘する人たち、ボン引きとかその他の者がなくなっていきますならば、これはどうしたって売春そのものが減らざるを得ないのではありますまいか、私はこの法律だけでも、——法律だけでは世の中がよくならないと申しますけれども、法律だけでもおそらく半数に売春が減っていくのじゃないかと考えます。続いてそのあとにはいろいろの施設、いろいろな保護とか予防とかそういうことによってさらにこれが進んでいく。そして売春そのものをあるいは三分の一にし、あるいは絶滅に近いところまでやっていくということが必要であるのは申すまでもありません。今デンマークあたりを皆さんが御旅行になりまして、街頭で果して売笑婦をお見受けになりましたかどうか、オランダも同じです。先般、一昨年になりますか、オリンピックの大会におきましてフィンランドの国に世界から旅行者が、たくさんオリンピックの関係の人たちが集まったのでありますが、日本から行った人も帰ってきて、驚いたことにあの狭いフィンランドに大ぜいの外国人が来ておるにもかかわらず、一人も売笑婦の俳回しておるのを見たことがないというのであります。これは必ずしも社会保障制度が完備しておるからそういうふうになっておるとばかりは論じられないと思うのであります。フィンランドにしてしかりであります。私どもはそういう点から考えましても、安心して皆様によって売春処罰法を確立していただきたいと思います。  それからもう一つ私つけ加えて申し上げておきたいと思いますことは、売春処罰法が出たならば、たとえば今の赤線区域に六万人の者がおるといたしまして、その六万人の者たちの行方をどうするかという問題が起きてくる。それに対する保障処置がきまらないうちに処罰規定を出すことは危い、片手落ちであるというような議論が非常に多いようでありますが、これは実はそんなに御心配なさらぬでもよいのであります。と申しますのは一九三六年に国際連盟の事務局が、世界各国の売春を禁止した国々に対して、その売春の禁止の際にとったところの措置について問い合せを発しました。それに対する回答が各国から集まっておるのでありますが、その回答を見ますと、どこの国も例外なく、いろいろの処置はした、設備もした、ところがその設備をしたかいは一つもなかった、何にもならかかった、全部売春婦が来なかった、来てもたちまちにして立ってしまったという報告で満ちておるのであります。婦人小児売買禁止条約の一九三六年の国際連盟の事務局の報告でありますから、ごらん下さればわかるのであります。これはしかし外国だけの例ではないのであります。日本におきましても大正二年と思いますが、西久保総監の時代に丸山保安部長が浅草の大掃蕩を試みた。あそこに吉原三千と言われた娼妓のそばに三千五百という大多数の私娼窟があったのであります。これもそういう大遊廓がありながら大私娼窟ができるということは、集娼制度が反対に私娼を抑圧するのではなくして、私娼を誘発するという証拠でありますけれども、私が申し上げますのはその点ではなくして、そこに三千五百の私娼の大集団が発達しておったのを丸山保安部長が大掃蕩を企てて彼らに申し渡したのであります。お前たち商売はもう今月末日限りでやめてしまうのだ、許さないのだ、しかしながら金は借りておってもお上の方で、金は返さないでもいいように処置してやるのだから、安心してお前たちは廃業してしまえ、そして正業につけ、正業につくのがどうしてもいやなら、吉原なり洲崎なり遊廓地に入ってそこで娼妓となれ、もし娼妓となるのがいやで、まじめな生活に入りたい、しかしながら行く先がないというのであれば、そういう人たちは、幸いにその当時のいわゆる貴婦人の団体と称する博愛団体がありまして、花ノ日会という団体があったのでありますが、吉岡弥生さんを会長にしておったのであります。その花ノ日会でお前たちを救ってやる、そこへ安心して参るがよいと申したのであります。それも二度ほど所轄署長が所轄署に集めてそういうことを訓辞したのであります。その結果がどうしたかと申しますと、三千五百の酌婦を集めて、金はもう払わなくてもいい、お前たち商売はやめさせるのだ、今月限りだ、そう言って、行く先のない者に説いて聞かした結果が何人救われたかと申しますと、花ノ日会に救助を求めた者が五人であったのであります。その五人のうち三人がすぐに逃亡いたしまして、ほんとうに救われたのは二人だけである。でありますからこれは日本だけではない、外国でもみんな同じである。売笑婦がそういう公認、半公認の姿のときに、それを否定されて、どこへかまじめな生活に帰れと言われた場合に、行く先はほとんどわからなくなるのであります。もちろんその中で、あるいは半数——数は考えられませんけれども、どこかで売笑生活に入るかもしれませんが、急に行く先がなくなって困るという心配は要らないのであります。これはおそらくわずかばかり——十七カ所に日本に現在厚生省の婦人寮がありますが、それに幾分の改築、増築をすれば事は済むのではなかろうかと思います。ですからまずもって売春処罰法を出すにあたって、安心して出していただきまして、さらにその次に予防措置ということが大切なんであります。これは私の私案では、今にも売春生活に陷らなければならないという家庭に対しては、本人に大体一万円くらいずつのものを貸し付ける。大正九年でしたか、東北凶作のみぎりに山形県に身売り防止の運動が起りました。その際に私はかの地に行っておりまして、親しくその運動に参加したのでありますが、その際の経験から申しますと、五十円あれば一応その急場を救うことができたのであります。その方法を考えまして、この際にもやはりあの式に従って貸付をやる、おそらくその割合からいいますと、一万円かそこらで一応は急場が救えるのではないか。そういうことによって一年に一万人ずつの貸付を行うということにしていきますならば、おそらく五カ年計画でいたしますと、これまた半数は防ぎ得るのではないかと考えられるのであります。大体彼女らが転落して参りますのは、決して自分自身が堕落してああいうところに行くのではないのであります。大多数は、それを求めるところのいわゆる女衒とかその業者とか称する者が、そこに行きさえすれば、幾らでも金で買ってくれるというのから始まるのでありまして、もしそういう大魔窟がなかったならば、自分自身で探し求めて、どこにあるかわからぬようなところに落ちていくということは、非常に困難だと思います。でありますから、まず今のそういう赤線区域のようなものを掃蕩し、そういう業者を厳罰に付して、彼らの誘惑に負けることのないようにしていきさえすれば、大多数の者が救われて、哀れな生活に陷るということがない。それを来年まで待つ、再来年まで待つとかいうことは、落ちておる何万人かの非常な哀れな人々の生活に対してわれわれの同情が足らないからであると思うのであります。彼女らの哀れな生活考えますならば、一日も早くこの処罰法を上げて、日本の新しい文化国家が出発するように願ってやまない次第でございます。
  265. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に市川篤二参考人にお願いいたします。御意見開陳願いたいのは、市川さんは東京大学医学部の教授をなされておられる関係から、特に性教育、性病予防等の見地から本問題とからんで御説明なり御意見がいただければけっこうだと思います。それでは市川篤二君。
  266. 市川篤二

    市川参考人 ただいま御紹介にあずかりました市川でございます。委員長からただいま御紹介下さいましたが、私の本来の専攻は医学でございますから、医学の面を離れては私の回答が当を得ないことがあるかと思いますから、なるべく私の専門の範囲を出ないようにお答え申し上げたいと思います。そういった立場でございますから、われわれが見る性病患者、これはどういう経路によって病気になった人でありましても、医者の立場といたしましては全く一視同仁でありまして、なるべく早く診断して完全になおそう、こういうことが私どもの研究の本来の命題であります。こういう臨床医学が専門である関係上、性教育あるいは生病予防というようなことをただいま委員長が御紹介下さいましたが、医学の最後の目的は予防でございますから、病気をなおすということよりは病気を予防する、そういう立場から性病の予防というような問題も研究はいたしております。しかし性教育の問題になりますと、これは一医学者のこなし切れるものではございません。自分もうちに子供がありますから、子供の性教育という面からは性教育というものにも関心を持ちまして、本を読んだこともございますけれども社会一般に向って私が性教育をするだけの見識は備えておらないことを自覚しております。  ところで、予防の問題もそんな工合でありまして、これはおのずから厚生省が管轄すべき社会的な予防という問題と、それからわれわれ臨床医家の担当すべき個人の病人に対する予防、つまりあと病人をふやさないこと、こういう問題が二つあるわけでございます。  そこでわれわれの立場から性病予防ということを申しますと、結局はすべての健康なる夫婦以外の性的関係はすべて性病に感染する危険があるということになります。その危険の度合いも、またいろいろ大小あるわけでございますが、そういう夫婦関係以外の性関係を持つことが多ければ多いほど、その危険をはらむわけでございます。従って、性病の感染源として非常に危険なものは、そういうことを日常ひんぱんに繰り返しておる者が最も危険であるということが言えるわけであります。そこで、こういう感染源がなくなったら、それでは簡単に性病がなくなるか、こういう問題になりますと、これはすでにわれわれ臨床医学者の担当範囲から出てしまうのでありまして、社会問題であり、社会に対する啓蒙の問題である。その啓蒙の問題の根本にわれわれの医学の知識が必要であることは申すまでもありませんから、それをわれわれが提供し、あるいは開陳するのに決してやぶさかではありませんが、あまり長くなると思いますから、その点はもし必要がなければやめさせていただきたいと思うのでございます。つまり感染源がなくなれば病気がなくなるというような簡単なものではないということをわれわれは自覚しておる。ある一つの井戸水から非常な急性伝染病が広がるという場合に、その井戸の消毒を行えば流行源がなくなるということはわかり切ったことでございますが、性病問題の場合に、性病の感染源として最もにらまれておる感染源が社会からとにかくなくなったという場合に、果して社会から性病がなくなるどかうか、こういう大きな問題になりますと、私にはとうてい答え切れないのでございます。われわれの医学は性科学をやっておるのでありますが、何かそこに参考資料なりデータがなければ、私はこれに対して意見開陳することはできない。ただ自分の持っておる臨床医学の知識から申しますと、そういう事態が起りました場合には、社会に対する性病の啓蒙運動を、もっとうんと金をかけて大々的にやるということが必要であるのではないか。それにからんでは、各学校における性教育の問題も入って参りましょうし、文部省などでやっておられる純潔教育の問題、そういうことがすべてからんでおることが大きな一つの社会問題であろうと思うのでありまして、たびたび繰り返しますが、医学の面からだけでは決して解決がつかない問題だろう、かように思うのであります。以上。
  267. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に、山高しげり君に御意見の御開陳をお願いいたします。  山高しげり君は、売春問題対策協議会の委員をされておるのでありますが、未亡人の立場から売春問題等に触れて御説明が願えればけっこうだと思います。  なお、聞くところによれば、政府の売春問題対策協議会において、山高さんはこの売春処罰法の構想についていろいろ御意見があったように聞いておるのでありますが、差しつかえなければこの際御説明を願えればけっこうだと存じます。山高しげり君。
  268. 山高しげり

    ○山高参考人 山高でございます。  売春問題対策協議会の委員として、また未亡人の代表のようにおっしゃったのですが、私未亡人ではございません。ただ、未亡人団体協議会の事務局長というような仕事をしておりますので、そういう意味で幾らか未亡人の問題に触れさしていただくことはできるかと思いますが、最初に御了承を願いたいと思います。  まず私は、ただいま上程されております案には賛成の意見でございます。もちろん、世上にいわれておりますように、この法案の内容が処罰のみに限られておりまして、保護更生の面が欠けているという点については、私も不満を感じないではございませんけれども、私が現在関係をしております売春問題対策協議会で立案中の案には、処罰の面と保護更生の面と両面を含ませているようなわけでございます。しかし、現在の段階において私がこの法案に賛成をいたしますのは、その大きなよりどころは、この法案の趣旨が売春は悪であるということを国家の意思で示そうとする点にございます。その点は、先ほど伊藤先生もお述べになったのでございますが、私も全く同感でございます。  午前中、いろいろな関係の方々によって、切実な御意見の御開陳がございましたけれども、たとえば現状におきまして売春に携わっておられる御婦人方が、みずからを救いつつあるというお話しもございました。また業者方々は、そういう女の人なりあるいは性欲のはけ場のない男性の方々のためにみずから救済機関を奉仕しているというような御意見もございましたし、そういう施設そのもの社会のために性病の伝播に奉仕しているのだというような御意見も出ておったのでございますけれども、私が売春問題対策協議会におりましていろいろな専門家の御意見を聞いてきょうまで勉強して参りましたところでは、たとえば性病の伝播の問題にいたしましても、散娼と集娼の罹病率にはそう大きな違いはないということを警視庁当局から承わったこともあるわけでございます。また、業者の方のお話しの中には、利益を四分六にお分けになり、女の人に四分、業者に六分、その中から税金も出すということをおっしゃったのでございますが、私ども立場では、そういう税金を国家が当てにすることがずいぶん問題ではないかというふうに思います。国家自身が税金をほかにお求めになればよろしいわけで、従って業者の方は、承わるところが正しいといたしますと、たった二割弱の利益でそういう奉仕事業をなさらなくても、おやめになって、もっと正業で社会を明るくするようなお仕事が絶対にないことはないと思います。もちろん三カ月の猶予期間ということがいろいろ御議論の出てくる点かもしれませんけれども、少くとも転業をなさる可能性がないというふうには私には思えないのでございます。  最後の、こういう仕事に携わる女の人の問題ですが、これは大へんに痛切な体験を午前中に訴えられた御婦人があったわけでございますけれども、あの方個人としては、なるほど未亡人で子供を三人かかえた母親として、ほかに生きる道がなかった、丸山に行かなかったならば母子心中をしておったであろうということを言われたのでございますけれども、私は自分の携わっております仕事の関係上、母子心中一歩手前の母親たちを多数知っております。しかし私に言わしていただけば、丸山というところがなかったら、あの方はもっと別な正しい道を今ごろ歩いていられたかもしれないという仮想も成り立つわけでございまして、私の握っておりますケースには、ほかの生きる道を見つけて正しく歩いてきた母親をたくさん知っております。ことにこの売春処罰法案がすでに国会に三回も出されておる。過去に出されましたときに、こういう悲しい仕事を営む婦人の中に非常に未亡人が多い、しかも年令的に考えて、いわゆる戦争犠牲者であるところの戦争未亡人が多い、そのことは議員の先生方の中にも、ある数字をもって御説明になった方があるやに聞き及んでおるのでございますけれども、私が現在認識しております現状においきましては、終戦後すでに十カ年をけみしまして、終戦直後のあの悪性インフレの中では、子供をかかえて母子心中を考えるよりほかなかった戦争未亡人にいたしましても、今日はすでに生きる道が開かれつつございます。  ことに私が申し上げたいのは……。
  269. 世耕弘一

    ○世耕委員長 ちょっと参考人にお願いいたしますが、今ちょうど重要な本会議が開会されるベルが鳴っておりますし、議員諸君にも一応議場にお入りを願わなくちゃならぬと思いますから、暫時休憩をいたします。御了解を願います。     午後三時四十二分休憩      ————◇—————     午後四時三十五分開議
  270. 世耕弘一

    ○世耕委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  山高しげり君の先ほどの続きを御開陳願います。山高君。
  271. 山高しげり

    ○山高参考人 先ほどは母子心中をするよりほか仕方がなかった終戦直後の母親が、売春に入っていったということに対しまして、私は今日ではほかに生きる道が開かれつつあるというところまで申し上げたのでございます。たとえば私が関係しております全国未亡人団体協議会の組織に参加しております未亡人の数、これは準未亡人も含まれておりますが、現在七十八万人に到達しております。これは全国的な組織でございますが、厚生省の調査によりますいわゆる母子世帯、これは満十八才未満の子女をかかえて、その家計を維持している母とその子の世帯でございますが、この母子家庭の数が六十九万というのに照らし合せていただきましても、この七十八万人の母親の組織というものは、売春等に転落することを防止する一つの力をすでに持っておるかと思います。そうしてまたこの組織の力によりまして、この団体の運動が中心となりまして、すでに国会においては昭和二十七年に母子福祉資金等に関する法律を御制定をいただいて、その結果果母子福祉資金の貸付が二十八年の四月以来続けて行われておりまして、毎年十数億の金がこれに流れておるわけでございますが、これらの措置を一つ取り上げましても、直ちに母子心中におもむかなくとも、子供の母親が生きていく道が漸次開かれつつあるということを立証することができると思います。ことにその母子福祉資金貸付は、七色の種類がございますが、その中の就学資金と申しますのは、子供の教育の費用の貸付をいわれるのでありまして、母子家庭の母親が子供教養のために、パンパン等の行為に投じたというような調査は、かつて厚生省の調査にも現われてきておる現象でございますけれども、すでに子供の教育費は、そういう形でも国なり地方から貸し付けられておるという現状から、子供の就学資金を得るために身を売る必要がなくなってきたということも言えると思います。従って終戦直後にそういう狭い中に入ってしまって、母親はこれ以外に生きる道がないというような認識を持たれたことも無理からぬことでございますが、それから十年近い歳月にはよほど明るくなって参っておるということができると思うのでございます。実は先ほど委員長のお言葉の中にも、目下売春問題対策協議会においてこの問題が立案せられつつあることにつきまして、何らか私が個人的な試案を持っておるようにおっしゃっていただいたのでございますが、それは何かのお聞き誤まりであろうと思いますので、すでにこの委員会にも関係官庁からも御開陳があったかとも存じますけれども委員の私の立場からもこの協議会のことをついでにいささか申し述べたいと思うのでございます。  二十八年の十二月十八日に設置せられました売春問題対策協議会におきましては、二十九年の六月二十四日の第十回総会で、すでにこの立法の基本方針というものを定めております。それは売春等の防止及び処分に関する法律案というわけでございまして、結局私どものこの案も、二十九年の秋にすでに基本方針は、売春の問題につきましては大体売春をする者の売春は禁止をする、ただしその処分は保安処分という今までまだ日本ではあまり行われていない方法をとろうということにはなりましたけれども、とにかく売春は禁止をする、そして同情すべきような行為者には保安処分というようなゆるやかな方法で当り、悪質の者には刑罰をもって当る。それから売春の管理者と申しますか、ないしは娼家経営者というような、いわゆる業者もこれを禁止をもって臨み、従って違反者は処罰をする。また旅館、飲食店その他いわゆる青線でございますか、こういうものも禁止をする。その法的措置をとる。それからその次にポン引き等周旋勧誘者でございます。これも同じように処罰をもって臨む。それから売春の相手方も処罰をもって臨む。こういうような基本線を出しておりますので、同情すべき事情でその行為に落ちていった者、改俊の見込みのある者は、保安処分というゆるやかな対策をとりますけれども、それ以下は全部刑罰をもって臨んでおります点は、現在御審議中の法案と何ら変りがないのであります。そこで残されておりますこの保安処分でございますが、これは売春をした女、それから売春の目的で相手を勧誘した女に対して行われるものでございますが、保護観察と強制収容というような二つに大体分けて手当をしていくわけでございます。保護観察には、事前の処置といたしまして、たとえば現在司法保護にございます保護司のような何か新しい方法で、たとえば婦人福祉司とか、名称はどうなるかわかりませんけれども、特別の専門家ないしは婦人相談所というような施設がこれに当って保護観察の仕事をしていく。もう一つは事後の措置でございまして、これは保護観察所というようなものが当っていく。強制収容の方は法務省にお願いをするといったような筋でございます。従ってここに売春行為をした者がおりますと、捜査機関がこれをまず検挙いたしまして、その場合に成人と少年に分れるわけでございますが、少年の場合は現行の少年法で片づけていただくことにしまして、おとなの場合には刑罰と保安処分ともう一つ任意補導というような三つの対策があるわけでございます。刑罰は検察庁がなさる。保安処分は今申したような婦人福祉司あるいは強制収容というような二つの方法によって保護観察に付する。任意補導というのが未然防止の仕事でございまして、結局保安処分にもかけないでいい。ただいろいろ指導する。任意に補導をするだけでよろしい、こういうものは婦人相談所というものを通して施設に送り込む、あるいは個人指導をするといったようなことでも解決がつくのではなかろうかというようなところまで、目下お話合いがきておるわけでございます。  従って私ども協議会としては、もちろん非常に多数の女の人たちがよんどころなくここへ落ちてきた社会悪とみなした場合、これにあたたかい穏やかな態度で当っていく、そしてこれを正常な生産者として仕事につかせるという方針で当りたいということをきめておるのでございますけれども、あくまで売春を紹介をする者とか、そういういわゆる業者、あっせん者というような、それによって生活をする、世話をするといった者には処罰の方針で臨んでおることははっきりしておるわけでございます。従って今皆様が御審議中の法案は、私ども考えておりますものの半ばを満たしたわけでございまして、その半分きりないものにどうして賛成するかという御意見もございましょうけれども、これは私の個人の意思で賛成をしておるわけでございまして、私としては、協議会の委員でございますけれども、同時に婦人立場、ことに多数の未亡人の生活に関係をしております仕事の立場から申しまして、一日も早く国家が売春は悪であるという立法措置に出ていただきますことが何よりの未然防止にもなります。そうしてその保護更生対策というものは、なるほど一つの法律の中に総合的に作るということも理想であるかもしれませんけれども、その理想案を作るためにあまりにも日数を経過するということにもいろいろ問題もあるかと存じますので、国会といたしましては現在上程されておる法案を一日も早く実現させていただくことがよいのでないか。そうしてその保護更生は立法措置が一番理想かもしれませんけれども、あるいは行政措置によってもある程度実現ができる道がすでに開かれておるように私は心得るわけでございます。ちょうど各省予算をお取りになるような時期も近づいておりますので、もしもこの法案国会通りました場合に、当然起ってくる保護更生、転落防止等のお仕事につきましては、労働省は相談指導によって正しい職業を与えるという面において、今までもある程度お仕事をしておられます。ことにこの一、二年は未亡人のためにいろいろな調査が行われて、家政婦あっせん所というような新しい予算も三十年度には獲得おできになったようでございますし、内職あっせん所も数カ所国内にできるということも承わっております。また厚生省にありましても、社会局関係におきましては世帯更生資金の貸付というようなことが積極的に本年度はすでに御実施になっておられますし、また児童局の所管におきましては、先ほどから申し述べましたような母子福祉関係の施策もとみに進んできておりますので、それらをいろいろと通観いたしますと、新しい法律の裏づけなしでも——何にもそこに保護更生の対策がないというふうには私どもには見えませんので、それらを予算獲得等の方法によってもう少し強く裏づけしていただきますならば、保護更生の部分を欠いておりますこの法案にいたしましても、これが通過いたしますと、私はその日から売春は悪であるという日本国民の道徳が確立することができまして、お母さんが自分の身を売って子供を学校にやってくれたということでは——先ほど丸山というというところがあったから助かったと言われましたけれども、あのお母さんが三人の子供をかかえて悪戦苦闘して、それよりほかに道がなかったと、個人としての体験で悲痛な叫びをおあげになる気持は私はよくわかりますけれども、そのお母さんが今様常磐御前のようにかき抱いておられる三人の子供さんが、もう数年たって青年期に達せられたときに、母がそのような生業によって——生業と言われるかどうかわかりませんけれども、そういうような職業によって自分たちを大きくしてくれたということに、無条件に母に感謝できるかどうか。成人した子供として、母の行動に冷静な批判を加えるときに、そのお母さんはどんなふうな涙をお流しになるだろうか。あのお母さんは自分の問題を解決しておいでになるでしょうけれども、私は似通った無数の母のためにこの法案の通過成立を心から要望するものでございます。
  272. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に神崎清氏に御意見を承わります。神崎君は売春等処罰法案について社会評論家立場からいろいろ御意見があれば承わりたいと存じます。神崎清君。
  273. 神崎清

    神崎参考人 ただいま御指名にあずかりました日本こどもを守る会の神崎清でございます。今朝来の論議は、主として国内売春と申しますか、赤線区域、特飲街を中心として話が進められたようでございますが、私は少し趣きをかえまして敗戦後新しく起った現象、アメリカの兵隊の駐屯しております軍事基地における基地売春現状、それから子供へのおそるべき影響、破壊作用、警察と業者の関係、この三つの点を取り上げて、法案の成立を要望したいと思います。  アメリカの極東艦隊の根拠地のございます横須賀の現状はどうか。これは三十年の五月の横須賀警察署の調査によりますと、汐入町を中心にして散娼のハウスが六百五十軒、パンパンという名で呼ばれている女の人が千五百人でございます。これは一時ハウス千五百軒、パンパン五千人といわれた時代に比べれば、相当減少はいたしておりますが、しかしその後マル特のカフェー、日之出町、柏木田などにマル特のカフェーが百九軒、その女が五百八十人ほどございます。なおキャバレーが二十四軒ございまして、そこに千二百名の従業婦が働いております。このキャバレーの従業婦の中には、身持ちのかたい人もおりますが、しかし大部分は、売春常習者のようにみなされておるわけでございます。台湾海峡に出動しておりました第七艦隊が引き揚げてくる。そういうときには約三万人からの水兵が上陸をいたしまして、いんしんをきわめるのでございますが、引き揚げればあとは閑散でございます。業者の話によりますと、現在実働は大体月に十日ぐらいのものであるということでございます。こういう状態で起りました変化としましては、今までいたハウスのパンパンのオンリー化と申しますか、オンリー・バタという新しいタイプの売笑婦が出現して参つたわけでございます。これはアメリカの兵隊について月々の手当をもらう、五十ドルないし三十ドルぐらいだと思いますが、それで食べるだけの最低保障は獲得しておく。そのあとオーバーを作るとか、ハンドバッグを買う、そういうことはバタフライ、つまりハウスに出入してかせぐというオンリー・バタという形態が出て参ったのであります。日本人はどうもオンリーといえば、ただ一人の男を守っているというふうに、言葉の表面的な解釈をしがちでありますけれども、内容を見ますと、やはり不特定多数を相手にしている者が大部分でございます。そういう女性に対しては、今度の法案は適用が可能であると考えられます。  第二に起って参りました著しい現象は、日本の婦人の肉体のダンピングということでございます。このハウスには二色ございまして、一つは歩合制をしいております。四分六とか、折半とか、逆四分六とか、歩合によって分けております。もう一つはルーム制と申しまして、これは部屋代をとる、つまりホテル式の経営をやっております。部屋代は、ショート・タイムが二百円、一時間が三百円、オール・ナイトが五百円という料金になっております。横須賀にはパイラというポン引きがございます。所変れば品変るで、横須賀ではポン引のことをパイラ、これはパイロットから、陸上の水先案内という意味でございましょう、パイラといわれております。これがお客を連れてきた場合は、二割の口銭を取るわけでございます。そのほかに食費として一食百円当りの費用を引いております。それは食べても食べなくてもその費用を引いたりしている店もあるようでございます。アメリカの兵隊は、御承知のように戦時手当がなくなりまして、それから国内の方でも金を持たしておくとろくなことをしないからというので、強制貯金、強制送金などがございまして、現在ふところが大へんさびしいようでございます。そういう関係もございまして、取引の値段も、以前はショート・タイムが八百円であったのが、現在は五百円程度に切り下げられております。宿泊の場合も三千円くらいの相場であったものが、現在は千五百円から一千円、大部分が一千円で取引されておる。この一千円で計算をしてみますと、パイラが二百円とる、ルーム代に五百円とられる、そうすると、女の手取りはわずか三百円、そこから三食百円ずつ引いてしまうと、何にも残らないというさんたんたる状態になって参ります。完全な赤字経済である、出血サービスでございます。外見は派手でございますけれども、最もみじめな売春婦に転落しております。ちょうど彼女たちの地位は、アメリカに取り入って、一もうけたくらんだが、うまくいかない特需資本家が、出血サービスをしている、そういう関係に似ておるように思われるのでございます。この女の人たちは、結局それが借金になっていく。横須賀にいられなくなって、御殿場へ住み変えるときには、借金の鎖を引きずって歩くわけでございます。人道主義を誇るアメリカの兵隊が、こういう人身売買のベッドの上で寝ておるわけでございます。  その次に問題になって参りますのは、アメリカの軍の方のオフ・リミット政策でございます。横須賀の場合は、二十八年の十二月十二日に、SP——陸軍の方はMPと申しますが、海軍の場合はSP、これが四つつじに立ちまして、汐入のオフ・リミットをやりました。そのときに横須賀海軍病院のVDコントロール・オフィス、そこの将校が業者代表をじかに呼び出しております。そうしてどうも性病の蔓延は困る。アメリカ軍の戦力低下を招くので、困るということを力説しております。つまりこれではっきりしますことは、アメリカ軍にとって、道徳とか風紀はどうでもいいのであって、戦力的見地から兵隊が性病にさえかからなければ、あとは何をしてもよろしい、そういうような基本思想があるようでございます。ここに一番重要な問題が横たわっていると思われます。  そこでアメリカの海軍側として、これを実行してくれたらオフ・リミットを解いてやるという六項目を提出しております。詳細は申し上げませんが、女子名簿を備えつけるとか、毎日検診するとか、性病の指導でありまして、組合の方ではさっそくこの性病予防規定というものを作りまして、厳重な強制検診をやりまして、五丁目を除いて一カ月後には解除されておるわけでございます。この性病予防規定は、米軍と業者の間の一種の行政協定のようなものでありまして、米軍は日本婦人性病管理を業者を通じて指導することによって、売春婦をコントロールしておる、そういう事実が出て参ったのでございます。外務省の通牒で各地に日米連絡協議会ができております。横須賀におきましても、横須賀市長を会長としてこの連絡協議会が成立しておるのでありますが、米軍側では風紀問題は、業者と直接交渉でうまくいっているから、日本機関はタッチしなくてもいいというような態度でありまして、一向正式の議題に取り上げられないのであります。全く有名無実になっておる。これはひとり横須賀のみならず、全国共通の現象のようでございます。  この横須賀のような間接管理よりももっと強く米軍が直接管理に乗り出しているところがございます。そこは富士山麓の御殿場周辺、この御殿場を除きまして、キャンプのある板妻、滝ケ原、富士岡では、アメリカの第三海兵隊の性病予防班が乗り出して、直接に日本人売春婦の強制検診をやっております。これは従来二回、村のあるいは組合の診療所に女たちを集めまして、日本人の医者が分泌物を取るのでございますが、婦人科の資格のあるお医者さんでありながら、自分では顕微鏡をのぞかないのであります。のぞけないのであります。そうして目の悪いアメリカの衛生兵、これは医者の資格も何にもない、男の性病は知っておるかもしれないが、婦人性病に関しては知識のない衛生兵が、自分で顕微鏡をのぞいて、この女には性病がある、ないということを判断し決定しておる。もし病気がある場合には、パンパン組合で作りました掘立小屋に強制入院をさせて、四日間というものは外へ出さないのでございます。業者と女たちはオフ・リミットをおそれてそれに服従しておりますが、見方によれば、これは監禁同様の状態でございまして、おそるべき人権じゅうりんと考えられるのでございます。法律的に申せば、これは明らかに日本の医師法違反、性病予防法違反の疑いがございます。米軍が日本機関を抜きにして日本人売笑婦の性病を直接管理しておるのは内政干渉の疑いすら感じられるのでございます。こういうぐにゃぐにゃした、まことに不愉快なる日米関係、従属的といわれる日米関係を打開していくためにも、どうしても国としてのしっかりした売春処罰法でもって、背筋がまっすぐに立てるように、ギプスをはめる必要がある。同時に、相手になった男性が日本人であろうがアメリカ人であろうが、びしびし取り締っていくことのできる強い法律であっていただきたいと思います。  この基地売春子供にどんな影響を与えておるか、人間性を破壊しておるか——横須賀の先生方で組織している特殊教育研究会という団体がございますが、そこで最近出しましたレポートに、鈴木文吾という先生の、基地と教育という文章がございます。今まで横須賀の子供は、あの女たちの外側、服装だとかぜいたくな生活だとか、外形にあこがれている者が多かった。だが現在では性生活に興味を持つ子供が出てきておるということで、性犯罪が激増いたしておりまして、それの事件が列挙してございますが、ここでは時間もございませんので、ただ一つのケースだけ紹介させていただきたい。明らかに売春行為から影響を受けたと思われる一つのケースを申し上げたいと思います。それは小学生の売春事件でございます。十二歳の少女、これは小学校の六年生でございます。家庭が不安定で、長期欠席をいたしております。うちで紙芝居を見るお金——これは五円でありますが、五円のお金をくれない。そこで同じ年配の女友だち一十二歳の少女を誘いまして、十四歳の少年これは中学の二年生でございますが、これを数名を相手に、自分のうちの縁の下に穴を掘りまして、ござを敷いてそれをベッドにして、そしてふざけっこをやって金を取っていたのであります。これは子供の取調べに当った警察の人に、どういう言葉を使っていたかといいますと、子供は、あそこという言葉を使っていたそうでありますが、女の子の肉体の一部にさわらせることによって五円ずつ金を取っておった。紙芝居の料金が十円になったときには、今度は料金を十円請求しておるのであります。同時に男の子は男の子の方で、遊興費をかせぐために、くず鉄を拾ってきたり、かっぱらいをやったりして、罪を犯しておる状態でございます。今までよく町のうわさに、基地であるとか特飲街では、パンパンごっこということが言われております。しかしこれは一種の性的な遊び、たちの悪い遊びでありますが、金銭とか対価というものは介在していなかったのであります。また基地のある岩国の中学の便所には、五百円くれたら何々させてあげますというようなわいせつな落書きがたくさんあったのであります。しかしこれはまだ落書きの程度で実行はなかったのでございます。また先ほど問題になっておりまする鹿児島の松元事件におきまして、制服の女学生が売春行為をやっていたというので世間を驚かしたのでありますが、この場合も、桃色クラブの中に女学生が自動的に巻き込まれたものであって、女学生自身が計画したものではなかったのであります。ところがこの横須賀の小学生の場合は、女の子が、お金がほしいという、金銭を入手する目的をもって、男の子をお客にとる、そういう計画を立てて実行しておるわけなんでございます。つまりおとなの社会売春形態、性の取引関係というものが、この子供たちのふざけごっこの内容としてすっぽりそのままはまり込んできている。基地の腐敗について私どもは声をからして叫んで参りましたが、ついに事態はここまで悪化して参ったのでございます。訪問教師がその女の子のうちに訪問をいたしますと、ちょっと待ってくれ、たんすから母親の着物を取り出して、着かえまして、お控えなすってと仁義を切って迎えたということでございます。これもヨタモノややくざの影響がしみ込んでおる、ぞっとする話でございます。原因についていろいろ調べてみました。簡単に申しますと、父親は大工で、脳梅毒でごろごろしておる。かって売春婦に戯れた、そういう報いが今出てきておる。色情狂の気味がある。母親はニコヨンで、若い情夫を持っておる。そうして子供を目の前に置いて、露骨な言葉で痴話げんかをやって、それがその子供を刺激しておる。最も重大なことは、この辺は上町といいまして、ハウスが散在して、先ほど申しましたオンリー・バタがおるわけであります。その近所のオンリー・バタが、女の子をつかまえて、生活の苦しい者はどんなことをしても、一銭でも多くかせがなければならぬということを繰り返し繰り返し言っておった。つまり金銭追求の哲学を教えておったのでございます。この不祥なる事件をいろいろ掘り下げてみますと、ここに突き当たったのでございます。  横浜——やはり基地のある横浜の、これは教育研究所の所員が、中学生、小学生の性知識を調査したものがございます。たとえば分べんとか、月経とか、どの程度正確な知識を持っておるか、調べましたところが、大体子供たちは性知識は非科学的であいまいなものであった、しかるにパンパンに関しては中学生も小学生も大体大ていのものが正確に近い答えをしたということであります。つまり売春行為を見せつけられている子供たちの性知識、性意識というものが、売春を中核にしてこれから形成されていく、成長していくということは考えただけでもおそろしいことでございます。耐えられないことでございます。売春のために、基地のために日本の子供を犠牲にするということは、日本の未来を犠牲にすることだと思います。そういう意味におきまして、こうした国民道徳のおそるべき低下、破壊を防ぐために、強烈なる国家意思でもって売春は罪悪であるとおごそかに宣言し、売春処罰法を制定して善良な風紀維持の筋金を通していただきたいと思うのでございます。  最後業者と警察の関係でございますが、私先日横須賀に参りましたときに南神新聞を手に入れまして、ふと見ますと、「警察官からハウス経営」「百八十度の転向振り」そういう記事が出ておるのでございます。前職警官の中で今ハウス関係の商売を営んでいるものが三人あるといわれている。吉倉に一軒、日之出町に一軒、それに話題の主H某が、本名はございますが、これは遠慮いたしまして、H某がところもあろうにさいか屋百貨店前ぎおんマーケット裏、詳しくいえば大滝町一ノ二七山王温泉際で肉体市場を経営している。この警察官は、一昨年田浦警察から横須賀警察署防犯係風紀係主任として赴任し、特飲店の取締りに当っておった人でございます。これが昨年秋退職と同時にパンパン・ハウスを経営し、細君には別に安浦に特飲店を経営させていた、そういう記事でございます。もしこれが事実とすれば大へんなことでございます。現職の警官でなかったのは幸いでございますが、おそらく在任中にいろいろなことが計画されていたに違いない、仕事をやめたらすぐパンパン・ハウスをやるというようなことで、警察の中にいて業者と連絡しているというところに私は重大な問題があるように考えます。法案実施に先だちまして世間でいろいろうわさされておりました警察と業者のくされ縁を断ち切って、取締りに当る警察官が法の命ずるところに従い公正な活動のできる態勢がとれるようにしていただきたいとお願いする次第でございます。新聞は参考資料として委員会提出いたします。
  274. 世耕弘一

    ○世耕委員長 これにて参考人方々の御意見を承わることを一応終了いたしました。  この際質疑の通告がありますから順次許します。なお神崎参考人は旅行に出る予定があるようでありますから、質問の方は最初に神崎さんに集中してお尋ねがあったらお願いしたい、かように考えております。それでは細迫兼光君、神崎さんに御質疑を願います。
  275. 細迫兼光

    細迫委員 神崎さんにお尋ねをいたします。基地の周辺における赤線区域あるいは青線区域における業者は、吉原などにおける業者のように組合その他の組織を持っておりますかどうですか。
  276. 神崎清

    神崎参考人 これは横須賀で申しますと汐入は五協会、汐入五丁目の組織、五つの町会が組織を持っております。日之出町の方は日之出町として赤線の方は赤線でまた別に組合を持っております。
  277. 細迫兼光

    細迫委員 その基地におけるいろいろな取締り、警察関係のことをちょっと申されましたが、御承知のようにいろいろと県の条例その他取り締るべき法令にやや事欠かぬような状態でありまして、警察が親切にまた熱心にこれを取り締れば多くの心配もなくなるかとも思われるのに、現在こうして嘆かわしい状態が起っておるのでありますが、いわば警察のサボタージュといいますか、そういう状態が基地においてはことにはなはだしいのではないかという疑いを持っておるのであります。他の吉原等における状態と比較なさって私の想像が当っておるかどうか御陳述願いたいと思います。
  278. 神崎清

    神崎参考人 横須賀におきましては市警時代と国警時代とどう違うか、業者に聞きましたところが、市警時代は数人の私服がパトロールで毎晩回っておった。ただ顔見知りで幾らでも逃げられたところが国警になりましたら回数は少くなりましたが、不意にトラックを持ってきて襲撃してくる。だからこわい、そういう表現を使っておるのでありますが、そうしてまた警察の統計を見ましても一年に六百何件で件数としては少くないかもしれませんが、にもかかわらず幾つかの法令とか法律、そういうものが何となく眠らされているような印象を受けます。
  279. 細迫兼光

    細迫委員 他の吉原などとの比較においてお話を願いたいのです。
  280. 神崎清

    神崎参考人 国内の赤線区域におきましては大体性病予防法、風俗営業法、都条例、それから児童福祉法、職業安定法、労働基準法、旅館業法その他、これはよほど悪質な事件がない限りほとんど適用されることはないのであります。基地においても同様でありまして、ただこの法令が眠っている、せっかく国会でおきめになった法律がたな上げになっているという点では、基地も赤線も同じような印象を受けます。
  281. 細迫兼光

    細迫委員 では他の質問を留保いたしまして一応終ります。
  282. 世耕弘一

    ○世耕委員長 次に戸叶里子君。
  283. 戸叶里子

    戸叶委員 神崎さんに一点だけ伺いたいのです。先ほどの御説明で板妻、富士岡、滝ケ原この地区は、特にその地域の日米合同委員会においてこの問題についてはその会議をするに及ばずというようなことであったと伺っておりますけれども、他にこういうようなケースがあるかどうかを伺いたいのです。
  284. 神崎清

    神崎参考人 たとえば立川の日米連絡協議会におきましても、やはり性病、風紀の問題は業者と米人と直接適当にやっておるから、日本機関はタッチしなくてもよろしいというので、いまだかつて議題に出されたことがないと聞いております。先日開かれた議題の第一号は立川の野犬狩ということであったそうであります。アメリカの兵隊は犬をかわいがるのですが、引き揚げていくときにほったらかしていきます。それがその後方々へ散らばりまして、パトロールのおまわりさんも危なくて歩けない。その野犬をどうして日米協力によって退治するか。ですからアメリカの兵隊が引き揚げると、残るものは野犬と野ら犬のような女だけであるということはあまりにも情ないと思います。
  285. 戸叶里子

    戸叶委員 そういうような問題に対して、その地域の母親なりあるいはその他の方々の何とか合同委員会を開いてもらいたいというような声はあるのでしょうか、ないのでしょうか。その声に対してどういうような態度をとっているかということも伺いたい。
  286. 神崎清

    神崎参考人 いろいろ婦人団体とか、それから立川にも子供を守る会などがございまして、中に教員組合が入っておるのでございますが、風紀問題、売春問題を教育的な立場から改善していきたいといろいろ提案しようと努力しても、どうしても実現できないということでございます。なおこれ以上については立川市長なり、外務省の方へ一つお尋ねいただきたいと思います。
  287. 戸叶里子

    戸叶委員 この問題は大へん大切だと思います。と申しますのは、外務省の方にございます日米合同委員会で過日問題になったとき、大体その地域で問題なくやっているというような答弁を聞いておりますものですから、やはりもう少し中央において聞いてみなければならないと思いまして伺ったわけでございます。
  288. 世耕弘一

    ○世耕委員長 神崎参考人にちょっとごあいさつを申し上げます。お暑いところ長時間御苦労様でございました。あなたの御意見を拝聴いたしまして審議の上に非常に貴重な参考資料となります。深く感謝申します。ありがとうございました。椎名隆君。
  289. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 一番最初に近藤春子さん、池上よし子さんにお尋ねしたいと思います。今日は、お二人さん並びに参考人全般に申し上げますが、暑いときで、熱い話、しかも特別に暑い部屋でお話を伺っておるということは、今最も重要だと言われておる売春等処罰法案を即時に審議しなければならない、あるいはまたもう少し検討してから後に制定公布するか、その大きな役割りをになっており、私たち皆様お話をよく聞いて、そうしてこの法案の審議に当って、いわば法律ができるかできないかという重要なかぎをあなた方から教わるのであります。きょうは一つあなた方が先生になってざっくばらんに、隠さず、包まずに話してもらいたい。まず池上さんにお尋ねをいたしますが、池上さんは先ほど聞いておりますと、何か家でもって家屋が明け渡しがあったので、立ち退かなければならないという事情に迫られて、そうして芸者になったとおっしゃったのですが、芸者になるということはあなたがみずから芸者になろうとしたのか、それともこういうような苦しい家庭だからしばらくの間芸者でもやってくれないかと、おっかさんか、だれかに言われたのですか、どっちですか。
  290. 池上よし子

    池上参考人 私自分のうちの家庭の事情を見ておりまして、大へんだと思いまして、自分から行きました。
  291. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 そのときは幾つのときですか。
  292. 池上よし子

    池上参考人 そのときは去年で、二十三のときです。
  293. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 そうすると芸者というものは一体どういうことをするのだということを承知しておりましたか。
  294. 池上よし子

    池上参考人 わかっておりました。
  295. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 それで芸者をどのくらいやっておりましたか。
  296. 池上よし子

    池上参考人 約半年です。
  297. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 半年でもってどの程度の借金で入ったのですか。
  298. 池上よし子

    池上参考人 三万円の前借で入りました。
  299. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 そうしてその三万円を借金して払えなくなったという見通しをつけたのはそれから半年後ですか。
  300. 池上よし子

    池上参考人 最初三万円の前借で入りまして、やめるときには二十一万円ばかりの借金になってしまったのです。それで芸者をしておっても借金を払う見込みがないものですから、思い切って東京に出てきました。
  301. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 思い切って東京へ出てくるときには自分自身で思い切って東京のたれかをたよって出てきたのか、あるいはうちにおるときにたれか東京の方へ出れば借金を払うことができるからという勧めのもとに東京へ出てきたのですか。
  302. 池上よし子

    池上参考人 いいえ、自分考えて来たのです。
  303. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 自分考えてそうして直接トルコに入ったのですか。
  304. 池上よし子

    池上参考人 私の知っておるおばさんトルコの裏の方でおばさんをやって働いておったことがあるのです。そのおばさんにどっかいいところがないかしらと相談したら、トルコでもって募集の看板が出ておるからあすこへ行ってみたらよいというので、結局自分一人で行ったのです。
  305. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 そのとき直接話をして、先ほどあなたが話しておるところを聞くと、八万円借りたと言ったのですね。
  306. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  307. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 その八万円を借りて、元の借金はどうなりましたか。芸者をやっておった当時の……。
  308. 池上よし子

    池上参考人 芸者のときに着物を作ったのを全部借金のカタに取ってもらって、七万円の前借に直してもらった。それで七万円全部きれいに払ったのです。
  309. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 それからトルコへ行って、トルコで何カ月くらい働いておりましたか。
  310. 池上よし子

    池上参考人 二カ月です。
  311. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 二カ月でトルコから出るときには、ここにはもういられない、将来の目安が立たないと決心して出たのですね。
  312. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  313. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 それで今何していらっしゃいますか。
  314. 池上よし子

    池上参考人 今はまだ就職がはっきりきまりません。
  315. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたの実家の商売は何ですか。
  316. 池上よし子

    池上参考人 父は病気で寝ておりますので、妹だけ働いております。
  317. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたは家に対して送金というようなことをやっているのかいないのか。あなたは家に帰って働くという御意思があるのかないのか。東京でかせいで生活を立てていくということはなかなか骨が折れる。果してあなた自身がうまく生活できるかどうかということも考えてみなければならないと思うのです。私はむしろいなかに帰った方がいいと思うのです。あなたが東京で何か仕事を見つけて、そして自分自身を救うと同時に幾分でも家に送るということは骨が折れるように考えられるのですが、家に帰る御意思はありませんか。
  318. 池上よし子

    池上参考人 現在家に帰ろうと思っております。
  319. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 一ぺん水商売をやった以上、ほんとうにあなた方は更生することができますか。
  320. 池上よし子

    池上参考人 自信があります。
  321. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたは学校はどの程度までいらっしゃったのですか。
  322. 池上よし子

    池上参考人 高等小学校です。
  323. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 トルコにいた当時の収入明細書があるそうですが、その明細書をきようお持ちですか。
  324. 池上よし子

    池上参考人 持っています。
  325. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 その明細書はあなただけのうろ覚えですか、あるいは大体正確というふうに考えておるのですか。
  326. 池上よし子

    池上参考人 自分の覚書です。
  327. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたがトルコにいた当時、あなたの同僚は何人ぐらいいましたか。
  328. 池上よし子

    池上参考人 七人です。
  329. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 トルコを出るとき、あなたはその七人の友だちと相談して出たのですか、それとも、あなた一人だけが、こういうことはいけないのだ、自分自身で出ればいいのだと思ってあなた一人だけで出たのですか。
  330. 池上よし子

    池上参考人 二人で出ました。
  331. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたはサングラスをかけていますが、性病か何かで目も悪いのではないですか。
  332. 池上よし子

    池上参考人 そうじゃないのです。
  333. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 室内でサングラスをかけているようだから、心配してお尋ねしたのです。
  334. 世耕弘一

    ○世耕委員長 椎名君に申し上げますが、市川教授は六時にほかに用があって御出席になるようでありますから、市川教授に御質問の方は田中幾三郎君でございますので、ちょっと田中君に発言をお譲り願いたいと思います。
  335. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 よろしゅうございます。
  336. 世耕弘一

  337. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 この法案の反対論の有力な一つといたしまして、集娼はかえって性病の広がることを防止することができる、検診制度があって、集娼を置いた方がかえって性病は蔓延しないというのが、この法案に対する反対論の有力なる一つでございます。そこでお伺いするのですが、たとえば一週間に一度の検診、またもっと頻繁にやって隔日に一度の検診をいたしましても、一日に三人も五人も客をとるというような状態では、たとい隔日もしくは毎日検診があっても、集娼による売淫によって性病の蔓延を防ぐことはできないと考えるのですが、あなたはどういうふうにお考えになりますか。
  338. 市川篤二

    市川参考人 ただいま御質問のような考えを持っておる人は、われわれと同じような学問をしている人の中にも確かにあると思います。集娼の方が散娼より性病のコントロールがしやすい。これは御質問のように、たとい集娼であって何回かの検診があるとしても、そんなことで性病のコントロールができるかとおっしゃられれば確かにできない。そんなことで性病は絶滅されるような簡単な感染力を持ったものではありませんということを私は信じております。
  339. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 あなたはこの前に行政監察特別委員会へおいでになったことがありますか。
  340. 市川篤二

    市川参考人 私は性病問題でこういうところに来たのは初めてでございます。
  341. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そうすると、やはり集娼制度によっては性病の蔓延は防ぐことはできない、こういうお考えですか。
  342. 市川篤二

    市川参考人 防げません。
  343. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 それから最近における性病国民の持っておる率ですが、そういうようなものはおわかりでしょうか。
  344. 市川篤二

    市川参考人 それは厚生省の公衆衛生局の係官にお尋ねになった方が確かなことがわかると思います。
  345. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 それでは脳梅毒という病気は感染してから大体どのくらいの期間を経て発病するのでしょうか。
  346. 市川篤二

    市川参考人 脳梅毒というようなことに発展しますと私の専門外になるのですが、医者の常識としては十年かそれ以上になると思います。
  347. 田中幾三郎

    ○田中(幾)委員 そういう病気はやはり数年もしくは十数年を経なければ結果はわからなぬというわけですね。
  348. 市川篤二

    市川参考人 そういうように考えます。
  349. 世耕弘一

  350. 神近市子

    神近委員 市川さんは結婚生活以外の性交はすべて危険だという御意見でございますね。
  351. 市川篤二

    市川参考人 医者としての立場から、性病に関しましてはそういうふうに言えると思います。
  352. 神近市子

    神近委員 さっきおっしゃったことでよくわからなかった点があったのですけれども公娼でも私娼でも危険率は同様だという御意見でございますか。
  353. 市川篤二

    市川参考人 その率を数字で言うということになりますと非常にむずかしくて、ただいま申し上げる能力がないのでございますが、危険の点では非常に危険なものであると考えているのが医者の常識でございます。
  354. 神近市子

    神近委員 今田中委員から間違って御照会がありましたが、行政監察特別委員会——やはりここだったと思いますけれども、東大の清水博士が参考人としておいでになったことがあるのです。そのときに検診制度について御発言がありまして、それがずいぶん多くの先生方が御支持になっているように伺ったのです。それは今日——さっき業者の方がおっしゃっておりました検診制度をやっているからわれわれは安全だというふうなことをおっしゃったんですけれど、それについてほとんどナンセンスだという御発言があったんです。その点はどういうふうに市川さんはお考えでしょうか。
  355. 市川篤二

    市川参考人 私もかつてナンセンスという言葉を使ってあるところに証人に立ったことがございます。性病が検診くらいで防げると思ったら、そういう考えはナンセンスだということは私も同感であります。
  356. 神近市子

    神近委員 それで、これは検診制度をやめましたイギリスでもアメリカでもドイツでも、この考え方を支持しているという点がその制度を全部やめる動機になったということは、何かでお聞き及びでございますか。
  357. 市川篤二

    市川参考人 存じません。
  358. 神近市子

    神近委員 それで私が伺いたいことは、大体一期、二期、三期、四期というような病気に区別いたしまして、どういう現象が——ごく軽度のもの、やや進んだもの、それから非常に進んだもの最後に今の脳軟化症とか何とかというふうなどういうふうな経路で、初期はどういうふうな形で出てくるんでしょうか。
  359. 市川篤二

    市川参考人 どうも医学の講義を始めなければならないことははなはだ恐縮なんでありますが、ここで委員長詳細に申し上げなくちいけないんでしょうか。どうも非常に長くなるように思うのでございますけれども……。
  360. 神近市子

    神近委員 何ですか大へんごめんどうで……。
  361. 市川篤二

    市川参考人 こういうふうにお考えになればいいと思います。梅毒というものは、初期には人に感染させるような、いわゆる活動性の梅毒、その間が非常に公衆衛生の問題として大きな問題なのであります。それからだんだんに申しますと、感染して二年から三年以後になりますと、その病気を持っている個人の不幸は相変らず非常に大きいのでありますけれども社会問題としての不幸は小さくなる。ということはあまり他人にはうつらなくなる、こういうことは申せます。それでよろしうございますか。
  362. 神近市子

    神近委員 初期は非常に感染度が強いということ。それから第二期は……。
  363. 市川篤二

    市川参考人 第二期は強いです。専門語を使いますとあとで非常にむずかしくなりますが、感染から二年くらいの間は非常に活動性で危険があるというふうにお考えになったらいいでしょう
  364. 神近市子

    神近委員 それでは今営業をしている若い婦人たちは最も感染率が高いということになるわけですね。
  365. 市川篤二

    市川参考人 新しくうつるわけでありますから、初期の梅毒を持ち、それを他人にうつす危険が非常に大きい、こういうことになるわけであります。
  366. 神近市子

    神近委員 私どもはこの病気が日本の民族の将来に相当悪い影響を与えるということを、女といたしましては一番心配しているものでございます。それで参考に伺いたいのですけれども、前にチベット人がラマの仲介によって非常にたくさんの性病者をかかえていた。そのために民族が非常に退嬰したということは、だれでも知っていることですけれども、日本と外国の場合とを比較いたしまして、日本に精神分裂的な傾向、あるいは盲者、そういうような人が割りに多いように感じますけれども、それにそういう公娼制度が三百年も五百年も続いてきた影響というものは考えられないのでしょうか。
  367. 市川篤二

    市川参考人 精神分裂という言葉がありましたけれども、精神分裂症という病気は梅毒とは関係ないのではないかと思っております。私は精神病の専門家ではありませんので、あまり責任をもってお答えできませんけれども、私が見聞している範囲におきましては、梅毒性の精神病というのは、幸い日本においても、また世界的にも減ってきた傾向です。しかしそれは梅毒患者が減ったということとは何ら関係ないのであります。あまり専門的な御質問だと非常に答えにくくなるのでありますが、もう少し専門的でない御質問をいただきたいと思います。
  368. 神近市子

    神近委員 もっと常識的なことを聞けとおっしゃるので、常識的なことを申し上げますが、たとえば盲目とか、ろうあというものには関係ないのでしょうか。
  369. 市川篤二

    市川参考人 多少関係いたします。それがどの程度ということになりますと、パーセンテージや何かあげなければいけないかもしれませんが、今ちょっと持ち合せがありませんし、こまかいことはお答え申し上げかねます。神近さんは盲目の人の中に梅毒があるかとおっしゃるのでしょうか、あるいは淋病でもそういうことになるかというお話ですか。梅毒に限ってのお話ですか。
  370. 神近市子

    神近委員 両方含めて性病ということで、それで感染率は盲目の場合淋病が多いということも存じておりますか……。
  371. 市川篤二

    市川参考人 めくらの人の何%が淋病でつぶれたか、梅毒でつぶれたかということは、ちょっと調べてこないとここでは即答いたしかねます。あるいは眼科の専門家をお呼び下さった方が、盲目に関する限りはっきりすると思います。
  372. 神近市子

    神近委員 それではそれは放棄いたします。  先生はお医者として臨床をなさっていらっしゃいますか。
  373. 市川篤二

    市川参考人 臨床の医者であります。
  374. 神近市子

    神近委員 開業は……。
  375. 市川篤二

    市川参考人 私は大学で学生に講義するのが職業であります。
  376. 神近市子

    神近委員 大体それ以上のことはわからないとおっしゃれば、私の伺いたいことは民族の衛生面においてこれらの影響というようなもの、もし検診制度というものが、考えられているような効果はないとすれば、これは野放しに近い状態に今われわれがあるのだというふうに考えられるので、この点いろいろ伺いたかったのですけれども、この程度で私の質問は打ち切ります。ありがとうございました。
  377. 世耕弘一

    ○世耕委員長 市川参考人にごあいさつ申し上げます。暑いところ長時間ごくろうさまでありました。御高説を拝聴いたしまして審議に非常に貴重な資料となりましたことを厚く御礼を申し上げます。  椎名君。
  378. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 近藤さんも池上さんも水商売に入られるまでは処女でしたか。
  379. 池上よし子

    池上参考人 処女ではありません。
  380. 近藤春子

    近藤参考人 処女ではありません。
  381. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 それだけでけっこうです。伊藤さんにお伺いしますが、先ほど御高説を拝聴いたしまして非常に参考になりました。なお二、三点お伺いしたいと思いますが、わが国の性道徳を戦前と戦後に分けますと、戦前におきましては御承知の通り徴兵検査というものがあった。徴兵検査に行くまでは、もし徴兵検査に行って性病等があったならば大へんだというので、未成年者自身も自粛するし、家族の者も、もしも病気になったら兵隊検査のときにしかられるぞと、兵隊検査を標準にして自粛しておった。ところが御承知の通り敗戦ということになってくると、一番最初に入ってきたのは何かというと自由主義なんです。親の言うことは全然聞かない。勝手ほうだい何でもやることが自由主義だということから、未成年者の性道徳が非常に低下したように思うのです。これはどんなものでしょうか。
  382. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 お話通り私もさように感じております。
  383. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 鹿児島の松元事件、あれは女学校の生徒がやったというようなことで、文教政策上大失態だと考えておるのですが、今性教育はどんなふうにしたらいいと思われますか。
  384. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 性教育につきましては、実は私どもの純潔教育審議会におきまして、二、三年前から性教育コースというものを作りまして、それを研究したのでございます。最近に発表する順序になっておりますが、大体そういうようなことをやってみたらどうかという試案にすぎませんけれども、今まで何もよりどころがなくて、どうしたら性道徳が乱れているのを防ぐかというようなことについては確信がない状態でございます。ただ今まであったような民族の純潔というようなことだけでやっておったのでありますが、やはり性教育をやっていく必要がある。正しい性教育をしていくことが必要じゃないかというのが私どもの結論になりまして、この試みを作ってみたわけで、実は最近案もでき上っております。発表の時期がおくれておるだけで、おそらく来月ごろには発表になると思います。
  385. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 先ほど売春制度に対しましては、公認制度、黙認制度、廃認制度、否認制度、この四つがあることがはっきりわかったのですけれども売春行為そのものを犯罪とみなす国は、イギリス、アメリカ、スイス、チェコ、売春行為そのものは刑罰の対象にしないが、それで売春に付随する行為処罰する国は、フランス、イタリア、ドイツ、スペイン、こういうふうになっておるのですが、結局否認制度、全面的に売春行為そのものを許さない、否認している国で、果して売春がないということが言えましょうか。
  386. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 これはやはり程度の問題でございまして、絶対にないとは申し上げません。しかし非常に少いということだけははっきり言えるのでございます。たとえば向うの売笑というものは、日本のように一定の施設はございませんので、街頭に進出するとか、自分の出入の場所をきめるほかにないのであります。従って街頭で見られないというか、少くとも旅行者の目に触れないということは事実でございます。よほどその道を要求する特別の人が探し求めに行かなければわからないのでございます。だから常識的に言えばある程度なくなっているといって差しつかえないと思います。これは主としてスカンジナヴィア・システムを実行している国がそうなっております。今のお話の中に、私が申し上げた国々と少し違っているところがあります。私はここに正確な本を持って来ておりますから、国の話で大したことはございませんけれども、訂正させていただきたいと思います。
  387. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 別に議論をするわけじゃないんですから……。私はお伺いすればいいんであります。わが国は明治九年の二月二十四日に貸座敷並ニ娼妓取締規則という制度ができておった。ところが大正六年ごろに救世軍とか廓清会というのができまして、公娼制度に対してはもっといい方法でいかなければならぬというようなことを言っておったのですね。どうしてもわが国では公娼制度を廃止するわけにいかなかった。ところがとうとう敗戦によって、昭和二十一年の一月にマッカーサー命令が出て、初めて公娼制度が廃止せられた。公娼制度が廃止された結果、むしろ性道徳が低下して四方にびまんしたんじゃないか。つまり公娼制度廃止の結果が現在のような散娼になり、あるいはまた一部黙認制度になって、集娼にもなっておりますけれども、むしろ廃娼によってこういう性道徳が低下したのではないかというふうにも考えられますが、それによる影響があったかなかったか、どうお考えになりますか。
  388. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 そういうことは考えております。お話の廓清会というのは、私の今までやってきた会でございます、明治四十四年に吉原遊廓が焼けまして、その当時できたのが廓清会であります。その後私は今まで廃娼運動を続けて参っております。それで二十一年に初めて公娼廃止ができたとおっしゃいましたが、それは全国的には二十一年に初めてできたのでございますが、私どもの運動はその前に二十二の県会で公娼廃止の建議案を出しましてそれが通過しておるのでございます。それから十八の県で公娼廃止の実施をいたしました。ですから、私どもの運動は微力ではありましたが、大体半数に近い県では、あるいは決議したり、あるいはは実施したりして参ったのでございまして、その残りをマッカーサーが二十一年に廃止したわけでございます。ですからわれわれの運動は決して無効でなかったことは、御承知願いたいと思います。  それから今お話の、戦後著しく風紀が乱れたということは私も認めると申し上げましたが、それは戦争の影響でありまして——私の考えでございますよ。戦争の影響でありまして、決して公娼を廃止した結果の影響ではないと考えております。というのは、戦前に公娼を廃止された県が幾つもありますが、どの県でも廃止の結果が悪かったという統計の現われた県はないのであります。すべて風紀上の成績は統計の上からむしろよかったと申し上げていいと思います。性病の方から申しましてもやはり同様でありまして、決して性病がその結果悪くなったというような実例は、日本のみならず、外国にもございませんので、先ほども市川先生のお話がありましたようですが、実は一九二五年に国際花柳病会議というものがありまして、その際にちゃんと決議ができておるのであります。いずれの国、いずれの時代においても売春による被害を防止することができなかったから、売春制度というものは廃止しなければいかぬということが決議されておるのであります。それくらいでありまして、さき私が申しましたうちにも、一九二七年から三〇年までの間に国際連盟の会議でその問題が出まして、売春制度を廃止すれば性病は蔓延するであろうということを恐れられたけれども、そういうことは誤まりであった、決してそういうことはなかったということが各国の報告であります。ですから私は戦後になって乱れたのは戦争の影響であって、決して公娼を廃止したから悪くなったのじゃなく、公娼廃止はむしろ私娼を少くして、性病も蔓延させていないということを申し上げたいと思います。
  389. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 性道徳向上のために、昔のことを言うとはなはだ恐縮でもありまするが、男女七歳にして席を同じゅうせずというようなことがあったですね。今からそういう男女七歳にして席を同じゅうせずというようなことを教え込んだらどうですか。
  390. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 これはちょっと筋のうちであるかどうかわかりませんが、私にとってはいささか関係があるわけなんですが、文部省の純潔教育審議会においては、やはり男女共学を認めておるわけであります。男女共学の立場は、結局その方がやはりいいということになっておるわけであります。ですから男女七歳にして席を同じゅうせずという行き方は、要するに男子が一面において女子を虐待するとか、あるいはおもちゃにするとか、そういうような結果になりまして、どうもかえってよくないんじゃないか、お互いに異性を知り合うことができませんから間違いが起るということが言える。両性が互いに相手方を知り合い理解し合っていってこそ、初めて民主的でもあり、また道徳的に行けるんだという見方だと私は考えておるわけでございます。
  391. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 未成年者であれ、いいかげんな中年者であれ、映画、演劇——今の社会情勢というものは、男女の性問題についていつでも押し寄せている。性問題に関心を持たなくても、勢い関心を持たざるを得ないような状態になっている。そこへもってきて、今の売春等処罰法案をごらんになったかどうかわかりませんけれども、結局売春はいかぬのだぞと、こうぴしゃっとやって、果してうまくいくかどうか。私は理想だけはいい、人倫の道からいっても、あるいは個人的人格の確保の点からいっても、こういう規定は何でもかでもなければならないんだが、理想だけは高いのは、それは非常にけっこうであります。大地に足をしっかりと踏みつけ、そうしてこの法律ができたとするならば、当然実施せられた暁には、この法律に国民全般は服従せねばならぬ。今生き長らえて残骸を保っている法律がある。たとえば未成年者禁酒法とか、未成年者禁煙法、これは法律として現在でも生命は保っているが、実際は生き長らえて残骸を残している。それと同じような結果にならぬかどうか、これが私は一番問題だろうと思う。八千五百万の人間に対して、なるほど法律としてはあるけれども、これは実効の伴わない法律である。一応片づけておいてもいいんだということになってきますと、未成年者の禁酒禁煙法、並びに現在における食糧管理法と同じように国民から度外視せられる。そうなってくると、国民全般の順法精神というものがなくなってくる。これは私は非常に大きな問題じゃないか、こういうふうに憂えるのですが、どんなものでしょうか。
  392. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 その点はごもっともでございます。しかしさっきから申し上げましたように、ヨーロッパ各国はもちろん、今のおもなる国々はそうですが、そのほかにアメリカでもカナダでも、みなやはり売春禁止を実施して、何ら弊害なくやっておりますから、日本だけが、売春禁止の結果かえってよくないということは、ちょっと想像しかねる。日本だけ例外になるということはないと思う。さっき申し上げましたように、黙認制度の国は、わずかに南方ラテン系の国だけに残っておる。だから今は廃認よりは否認、スカンジナヴィア・システムが世界を風靡している時代でございますので、それが日本だってやれぬことはない。チェコスロバキアでもやっておるようなわけでございますから、やれぬことはないと確信を持っているわけなんです。
  393. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 売春行為そのものを犯罪と見なす国は、イギリス、アメリカ、チェコスロバキアなど、売春行為自体を犯罪と見なしておりますが、黙認制度をとっておりますのは、フランス、ドイツ、イタリア及びスペイン等が黙認制度をとって……。
  394. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 ドイツはとっておりません。
  395. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 それはいつごろから……。
  396. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 一九二七年から……。
  397. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 私の調べたところによりますと、フランス、ドイツ、スペイン等は売春に付随する行為処罰する、いわゆる黙認ということになっているのですが……。
  398. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 フランスはそういうところもあるし、都市によっては廃止しているところも少くない。ドイツでは一九二七年からことごとく黙認制度を廃止しまして、ことに日本でいう指定地というものを廃止して売春区域の制限を設けることを得ずということを法律で規定しておりますから、そんなことはございません。
  399. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 否認しておりましても、それでもなおかつ売春行為そのものはある。わが国と比べてみて、それに対する性病のパーセンテージのようなものはどんなものでしょうか。
  400. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 パーセンテージはここには持っておりませんけれども、しかし性病に対して違った取締りをやっております。さっき申し上げました一九二五年の国際花柳病会議におきましても、実は二つの決議をしている。一つは、今の売笑制度を廃止しろということです。もう一つは、国民全体を対象とする性病予防法を設けろということであります。今までの性病予防法というものは、大体売笑婦だけを相手にするところの予防法が多かったのです。日本でもそうでございます。それでは効果がないから、国民全体を対象とする予防法を作れというのがそのときの決議でございます。ドイツばかりでなく、今のヨーロッパにおける大体の行き方は、自由診療制度強制診療制度、二通りございまして、性病に対しては、デンマークとか、ノルウエー、スエーデンなどは制強制度をとっております。チェコもドィツもそうです。病気にかかりますと、むろん届出制度でありまして、病気にかかると、その医者が届出をします。本人が医者にかかれば、そこで患者というものはわかりますから、その際その医者は本人の疾病を知っているわけです。ところがもし病気の途中で本人が来なくなりますと、来なくなったということで警察に届けなくちゃならぬ。警察はその者の行方を調べまして、そうして違った医者に対してその性病の治療を続けているかどうかを調べる。続けていない場合には治療の継続を命じて、もし続けない場合には強制的に治療を命ずる。これが強制治療制度です。そのかわり貧乏人でも性病の治療ができるように無料診療制度をとっている。これが今盛んにスカンジナヴィア三国とドイツあるいはチェコあたりがやっている制度です。自由診療制度というのは、政府が無料で性病薬品を開業医にでも出す。そのかわり自分自身で性病の治療を受け、別に法律でそれを強制するというようなことはないのです。これがイギリスあるいはオランダあたりの制度です。そういう行き方で、今の新しい政策の後にも性病はどんどん減っております。これはその当時の報告を調べればわかるのですが、決してふえておらない。いわんや、一体売春制度を廃止するという言葉の中にどういうことがあるかというと、おもなものは医学的検診を廃することです。医学的検診をやらないことが、向うではすなわち廃娼です。そういう意味ですから、性病の上から見て、売春を禁止したために性病がふえたということは考えられないわけです。みなそれを承知でやっておって、だんだんその制度をまねる国がふえておりますから……。
  401. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 私は売春ということを、茶わんに盛った御飯の上のハエだというふうに考えている。ハエたたきを持ってきて追えば散って行く。そのままにしておけばまた集まってくる。ところが根本的に、先ほどあなたがおっしゃられたように、売春を犯罪だというふうに考えて、まずその場所をなくしてしまえ、その場所をなくすのには、売春等の処罰法を通す、こういうことになっているのですが、もしかりに場所をなくせということになると、茶わんに盛った飯をすぐになくしてしまうことだ。もしかりに茶わんに盛った飯をなくすと、これは生活というふうに私は考える。水商売をやっている人の生活でもあるし、また営業をやっている人の生活でもある。その茶わんの飯を取った場合、なるほどハエはそこには集まらないかもしれないけれども、そのハエが四方に散乱して、より以上のいわゆる性病を蔓延せしむるんじゃないか。場所がなくても、いわゆる街頭に進出する水商売の人間はたくさん出ている。御承知の通り、青カンといっておりますが、ますますそういうふうな傾向になってくるとするならば、自粛していて、性病をある程度まで組合等は予防しているにもかかわらず、そういうものがなくなったとするならば、今度は街頭に進出したところのいわゆる水商売女によってうつされる感染率というものは、ますます多くなるんじゃないかというふうに私は考えるのですが、その点どんなものでしょうか。
  402. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 その点は私はいつも売笑問題を雑草にたとえてお話しているわけですが、あなたのお話とその点一致するわけです。ハエのようなもので、追えば逃げるが、またやって来る。雑草は刈ればなくなるが、またはえますから、雑草というものは絶えず刈っていなければならぬというのが私の意見なんです。そうして公娼制度の場合、集娼制度というものは、たとえば東京なら東京、ある都会の一隅に売春婦を集めておいて、そしてほかの部分では売春の災いがないようにする、市内の空気をきれいにするのだ、これがつまり離隔制度の起っている理由でございます。ところが実際には市内の一隅にその売笑婦を集めても、決して私娼というものはなくならない。またもとの通りにはえてくる。ちようどそれは雑草のはえるのがいやさに畑の一隅に雑草畑を作って、そして残らず根こそぎひっこ抜いて雑草畑を作ったらもう畑の中には雑草ははえないという考え方がちょうど集娼制度に似ている。しかし雑草は雨が降るたびにまたもとの通りにはびこってくる。だから何にもならない。雑草畑を作っただけ損だ。しかし雑草は雑草畑を作っただけ損ですが、売春婦の場合はそういう売春団を作れば、それは淫風を扇揚することになって弊害が非常に大きくなってくる。しかもその雑草畑の、いわゆる売笑集団のまわり、赤線区域のそばに青線区域ができる。ですから公娼とかあるいはその他の集団による集娼制度というものは、私娼を抑圧するのではなくて、私娼を誘発するものであるというのが私の意見なんです。従って今おっしゃるように、今度は飯の上のハエであるということは私もおっしゃる通り考えますが、それを絶えず追わなければいかぬので、絶えず追っておれば結局ハエはどこかに行かなければならぬので、だんだんにそれが減っていく、いわゆる集娼制度というものは、散娼を誘発しますけれども、散娼制度は追えばだんだんに減っていくので、それで絶娼の域に行くというのが世界の売笑問題における進歩の道程なんです。どこの国もそれに変りはないのです。ですから、日本においてもたとえば群馬県におきましても、ほかの公娼を置いておる県よりは成績は悪くなかったのです。あるいはまたその後埼玉県であるとかあるいは秋田県であるとか、公娼を廃止いたしましたが、廃止した結果はみんなよろしいのです。決してそのために性病が蔓延した、私娼が多くなったというような統計は一つも出ておりません。その点どうぞ御安心を願いたいと思います。
  403. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 私はアメリカの駐屯軍が来てから後、どうもアメリカが売春の否認制度になっているのだというふうに考えられない。なぜかというと、アメリカ軍が来てからのあのだらしなさを見てみますと、もし日本の法律のように売春等処罰法が通過すれば、買いに行っても相手になっても処罰されるのだという規定が同じようにアメリカにあったとするならば、こっちに来てもおそらくやるようなことはないと思うのです。こっちに入ってきてからの駐屯軍のだらしなさというものは、私は駐屯軍によって性道徳が非常に低下されたように考えておるのですが、どうも私はアメリカでやめたとは思えないのですが、どんなものでしょうか。
  404. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 私も昔は、降るアメリカにそではぬらさじと言った日本人が、外国人に操を売るということはもってのほかで、死んでもそういうことはしないというのがやまとなでしこの精神だと思っておったわけですが、どうもあのパンパンというものができてから、すっかり今までの誇りを傷つけられているのです。これもやはり戦争の影響であって、戦争のおかげで道義心というものが低下した。人を殺すことが道徳だという戦争の時代と平和時代とは考え方が違うので、そういう意味で、外国から来た連中に、日本では女が売買されるものだ、売春制度がある日本でそういうものだというような思想を植えつけたという点においては、日本の売春制度に責任がある。公娼制度があったればこそ一そうそういうことになったので、朝鮮でさえもそういう女にいれられないというじゃありませんか。日本は女は最も組みしやすしとして、彼らが失礼なまねをするということは、日本の売春制度の弊害であって、これをなくしてしまえば、やはり日本は昔に返る、やまとなでしこになるのではないか。しかし女がやまとなでしこになるだけではなくして、日本の男性がりっぱにならなければいけない問題ですから、当然男女相ともに貞操を守っていくという時代が来るのには、今の第一条の売春は犯罪であるという、男にとっても女にとっても、そういうりん然たる態度を国家が示すということの必要を痛感する次第でございます。
  405. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 そうすると人倫の上から、個人的人権保護の上からも、すぐにでもこの売春等処罰法は通さなければならぬ、その点はもうあなたも私も同じことなんですから、あとのことはまたあとで別にしまして、この程度でけっこうでございます。
  406. 世耕弘一

    ○世耕委員長 この際伊藤さんに委員長からちょっと御意見を伺っておきますが、伊藤さんは文教関係の性教育にも関心を持って御研究になっておられるようでありますが、近ごろの女性は非常に性的に挑発的である。たとえば非常に濃厚な口紅をつける、あるいは露出する、こういうような点が非常に若い男性を性的に誘発するという面について、文教関係でどういうふうにしてこういう点を指導していったらいいか、それともう一つは、劇あるいは映画等に関して相当露骨な性欲を誘発するような演出が多分に盛られている。特に文学面において、近ごろやや巧妙に扱われておりますけれども、それが若い男女をして性にかり立てるような傾向があるということは、およそ常識的に考えられるのではないかと思うのであります。こういう点もあわせて対策を講じなければ、ほんとうの目的は達せられないのではないかというようにも実は考えられるのでありますが、それについて何か御見解があれば御発表願いたい。実は性問題について特に熱心な文学方面に、あるいは小説方面に御関係のある文士の方々の御出席を願って、参考に御高説を拝聴いたしたいという委員諸君の希望でありましたが、事務局の方の手違いであったか、実は文芸関係の方の御出席を得られないのを非常に遺憾に存じます。この際あなたの御意見を承わって参考にいたしたいと思いますので、どうぞお願いいたします。
  407. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 私も実は専門外にわたる点が多いと思いますから、あまり参考にならないと思いますけれども、私どもの方の純潔教育審議会では今性教育のコースの研究を始める前に研究いたしましたのは「男女の交際と礼儀」という表題を掲げまして、男女の交際はどうあるべきか、新しいエチケットはどうしたらいいかということを主題にして、これも二年間ほど研究を続けて、そうしてその結論が出まして、それを文部省として発表いたしたのであります。「男女の交際と礼儀」という題であります。それに私どもも多少の説明を加えたものも出ております。そのときに出たものが、あるいは七種類にも上っている。同じ題でできたかと思います。そういったようなところから始めているわけでございますが、ことに今お話の文学方面は、実は私どもの手に負えないのでございますが、ことにチャタレー問題などでは文学者と対立したわけでありまして、文部省においてもこの問題でだいぶん意見があったわけであります。ただ私どもの純潔教育審議会としては、少くとも青少年に対してああいう状態のまま載せるということは弊害があるということで、教育上よろしくないという結論をもって臨んだわけでございます。今の文学そのものはもちろん私どもが批判しなければなりませんが、少くとも市井に現われております出版物の中にはいかがわしいものがあり、お話の演劇、映画などにおきましてもほとんど不必要に性の方面を強調しておるということはまことに遺憾にたえないと思っております。お話通りその点は私も御同感でございまして、どうにかしてこれは進めていかなければならぬので、私どもの会でも、また文部省としてもこれからの問題だと思いますが、大体その点では私はあまり知識がございません。  もう一つ、先刻申し落したことで御参考になると思いますから申し上げておきたいと思いますのは、業者が三ヵ月の猶予期間というだけでは承知しかねるというお話がありました。それで何か補償でもほしいというふうに思われたのでありますが、世界各国の売春禁止をやりました国で補償をした国は一国もございません。ああいうものは犯罪であるという見方なんです。ですからその犯罪は一日も早くやめさせなければならないので、それを賠償する、補償するという考えはどこの国も絶対にない、一つもそういう例がございませんということだけを申し上げておきます。
  408. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 鈴木明君に、一つお伺いいたしたいと思いますが、風俗営業の中に赤線青線その他いろいろの業態があるというふうに聞いているのです。その点について一つお話を願えませんか。
  409. 鈴木明

    鈴木参考人 私たちが知っている範囲におきましては、かつての公娼時代指定地範囲に今も仕事をしている人たち赤線業者だと私たち考えております。それ以外は青線あるいは何何と呼ばれておるように私は考えております。
  410. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 この赤線青線営業において人身売買がどんどん行われておる。人身売買人身売買ということは、雑誌の上でも新聞の上でもごらんになっておわかりだろうと思うのですが、人身売買という言葉が非常に使われているのです。一体どういうようなことを指さして人身売買と言っておるのか、あなた方はどういうふうにお考えでしょうか。
  411. 鈴木明

    鈴木参考人 普通言われておりますことは金を貸し付け、その金の支払いに、女にお客をとらせてその金から取り上げる。そういう場合に人身売買だと聞かされております。しかし私たちの今やっています現状は、いやがる者を連れてきて無理に働かせているというような形のものはございません。それからまたこの金を貸すことでありますが、これはいずれも金に困って参りまして、中には今直ちに何がしかのまとまった金がなければどうにも生きるすべがないのだというきわめて困難な事情をもってぜひ一つ働かせてもらいたいというふうにやって参ります。そういうときにはその事情を聞きまして、場合によりましてはどうしても貸さざるを得ないという事情ができてくるわけであります。しかしその貸した金をいやでもおうでも毎日働いた金の中から返せとは私どもの方からは言っておりません。本人の御都合のいいときに返してもらいたい、こういうことに相なっております。
  412. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたはいつごろから今の営業を始めたことになっておりますか。
  413. 鈴木明

    鈴木参考人 約三十年ばかりでございます。
  414. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 今の商売の前は何だったのですか。
  415. 鈴木明

    鈴木参考人 前は私自身は別に職業を持っておりません。
  416. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたの奥さんは。
  417. 鈴木明

    鈴木参考人 私の親戚がやっておりましたので、そういう都合でこの仕事をやることになりました。
  418. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたの家族の数は何名でございますか。
  419. 鈴木明

    鈴木参考人 今五名であります。
  420. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 それから水商売と言った方が適当かと思うのですが、水商売の女を除いたいわゆる女中さんは今あなたの家に何人いますか。
  421. 鈴木明

    鈴木参考人 一名おります。
  422. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 税金は一年に全額どのくらいお納めになっておりますか。
  423. 鈴木明

    鈴木参考人 私の所得税の決定額は約七十六万だと思います。
  424. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 今の御商売をやられてから後、あなたの財産はどの程度ふえたのですか。
  425. 鈴木明

    鈴木参考人 ちっともふえておりません。ことに終戦後は一切を焼かれまして、ようやく約三十坪のバラックを建ててやっておるにすぎません。
  426. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなた方の方へ来た水商売の女は、更生するのにはどんな手段を講じておりますか。
  427. 鈴木明

    鈴木参考人 大てい貯金をいたしましたり——まあほとんど使ってしまうのもあると承知しておりますが、しかし大部分は大なり小なり貯金をして他日に備える。あるいはまた自分で貯金のかわりに、自活するに必要な調度その他を徐々に用意して、将来自立しますときの準備をする、こういう行き方をやっております。
  428. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 組合での診療所等はどういうふうになっておりますか。
  429. 鈴木明

    鈴木参考人 診療所は、ただいま吉原の診療所の行き方は一切組合施設をしておりまして、その運営につきましては一切女子保健組合という従業婦の方の組合が運営しております。
  430. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなたの家に今何人くらいの水商売の女がおるのですか。
  431. 鈴木明

    鈴木参考人 五人おります。
  432. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 その五人のうちで自分の国元あるいは家族へ送金しておるのが何人くらいおりましょうか。
  433. 鈴木明

    鈴木参考人 大部分送金しております。
  434. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 月平均どのくらい送っておりましょう。
  435. 鈴木明

    鈴木参考人 月五千ないし八千円、多いときには一万くらいだろうと思います。
  436. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 あなた方の商売では一度に大金を使うお客をいいとするのか、あるいは細く長くと申しましょうか、定期的に一カ月のうち二回とか三回とかいうように来るお客を喜ぶのですか、どっちです。
  437. 鈴木明

    鈴木参考人 初めてのお客を女が喜ぶか、あるいは何回も続けて来るお客を女が喜ぶかとおっしゃるのですか。——それはその人々によって違いますが、大体長く続いて来る客を女として好むようでありますが、中にはそうでなくて、自分が働いて将来自立するという立場から、そういうことにこだわらないで一人でも多く客を取って、一日も早く更生したいというやり方をやっている女もあります。
  438. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 さっきも聞いたのですが、近藤春子君それから池上よし子君の搾取という問題についてしばしば問題になるし、また法案のねらいもそういうところにあるのですが、あなた方組合員は一体何名ぐらいあるのですか。
  439. 鈴木明

    鈴木参考人 私の今所属している組合ですか、それとも全国……。
  440. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 今あなたの所属している組合員の数です。
  441. 鈴木明

    鈴木参考人 吉原には私の組合に入っている業者が二百七十三名だと思います。移動が絶えずありますので、的確に何名と申しかねますが、大体二百七十三名と記憶しております。そのほかに先ほどのトルコのように同じような許可をもって私の組合に入らないで自分独自の立場でやっているものと、それから同じ許可ではありませんが類似の許可を持って同じような仕事をやっているものとが別に約十四、五軒ございます。
  442. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 組合は作ってあっても組合規約に違反して除名せられれば除名せられっぱなしでその人が勝手にまた営業するから、組合があってもなくても結局は同じだということになるのですか。
  443. 鈴木明

    鈴木参考人 その点組合はただいまはいわゆる民主的な自主的な組合でございますので、入会も脱会も自由であります。何らその間に組合としては強制力がありません。しかしあまりにも組合員お互いの利益その他を無視をされたことがありますと困りますので、除名いたすことになっております。かつて私のところで除名をいたしました実例もございます。しかし除名をいたしましてもその人はただいま申し上げましたように、組合員以外の非組合員としてやはり営業を続けることができますので、私たちとしまては、何とかまがりなりにも前段申しましたような行き方でやっていきたい。ぜひ社会に御迷惑をかけないように、主として働く者の立場を考慮した営業の仕方をやっていってもらいたいと呼びかけましても、力の及ばざるところがあるわけであります。
  444. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 先ほど法案に対するあなたの御意見は聞きましたが、つまり社会の実情に適したような法案を作れ、もう少し深く掘り下げて検討したらどうかというわけなんですが、どういう法案になったらいいのですか。
  445. 鈴木明

    鈴木参考人 先ほどどなたかのお話の中に、集娼があるからそれには付随した敵娼が誘発されるのだ、こういうふうなお話を承わりましたけれども、私はそういうふうに考えません。終戦後の公娼廃止後にああいうような処置が政府でとられましたけれども、さらにあの際にもう少しはっきりしたいき方をとって下さっておったならば、このように別にいわゆる青とか赤とかいうものは出なかったと思います。それはかつて公娼時代——公娼時代にやったことは悪かったこともあったと思いますが、しかし公娼以外の地には今のような私娼の氾濫は少なかったと思います。ですから終戦後にああいう処置をしないでこの集娼自体のあり方をしばらく暫定的でももう少しめどのついたことをしておって下さったならば、今のような私娼の氾濫は私はなかったと思います。そういう意味合いにおきまして、今ただちに禁止いたしますよりも、当分の間何らかの形で働く者の立場を尊重し、人権を擁護し自由を尊重する、搾取もしないという立場でただやむを得ざるそういう人たち立場を生かしていく、こういう意味合いで何らかの形の管理をする方向を当分の間とることが最もいい方法であろう、かように考えておるわけであります。
  446. 椎名隆

    ○椎名(隆)委員 わかりました。
  447. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 関連して鈴木さんにお伺いします。時間がありませんし、あなたも朝から来ていてお気の毒ですが、たくさん実はお聞きしたいことがあるのです。あるのですが、ただ一点だけお尋ねいたします。あなたは特殊飲食店の許可をとっておられますか。
  448. 鈴木明

    鈴木参考人 私は特殊飲食店というふうな許可は知りませんが、ただカフェー業者としての許可をいただいております。
  449. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それはどこで許可するのですか。
  450. 鈴木明

    鈴木参考人 東京都の公安委員会だと承わっております。
  451. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 先般私ども法務委員として吉原を夜視察いたしました。店つきがカフェーのような、あるいは酒場のような店がありましたから、入ってコーヒーを一ぱい飲ませてくれと言ったら、ないと言う、何か飲みものはないか、ウイスキーでもサイダーでも何でもいいと言っても、何もありませんと言ってにやにや笑っておったのですが、そうすると、あなたの許可をとったコーヒー店というものは何か営業しておるのですか。
  452. 鈴木明

    鈴木参考人 コーヒーも売っておりますれば酒ももとより出します。希望に応じてはそういう面の許可範囲内は供給しております。
  453. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 私ども二軒入って聞いてみたが、どこでもコーヒーを飲ませてくれるところはなかった。そこでお尋ねいたしますが、東京都に売春等取締条例というものがあることを御存じですか。
  454. 鈴木明

    鈴木参考人 知っております。
  455. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 御存じである。その第三条に「売春をなさしめるための対価を受け又は受ける約束で場所を提供した者は、一年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する。」とある。一体今の吉原の営業者はこれに該当するのですかしないのですか。あなたの見解はどうですか。
  456. 鈴木明

    鈴木参考人 私たちが今やっておりますことは、女の子に部屋を貸しておりますが、しかし売淫自体に対して主人がこうせいとかああせいとかいうことを直接何も言っておりません。従ってそういうふうなことには触れないと考えております。
  457. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、女の子に場所を貸しておる。しかしそれは売淫と関係がない。しかし女の子からあなたの方は家主として食費とか部屋代とかいうものを受け取って、それがあなたならあなたの家の収入になるわけですか。
  458. 鈴木明

    鈴木参考人 そうであります。
  459. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、先のあなたの証言と矛盾する。食事代だとか部屋代というものは一カ月幾らときまっているべきものなんです。それを収入の四割、六割に分けるというのはどういうことになるのです。家賃であろうが食事代であろうが、一ヵ月幾らあるいは一日幾らときまっておらなければならぬ。それを売春をした収入の中から歩合割りで分けるということは、売春と関係はない、自分たちは場所を貸してあるのだという言いわけと矛盾すると思うのだが、それはどうですか。
  460. 鈴木明

    鈴木参考人 かって終戦後にこういういき方を指示されましたときにその問題が出たのであります。しかし女の子自体も、それぞれの立場で非常にかせぎの少い人もあれば非常に多い人もあります。どの女の人も同じような営業成績を上げるというわけには参りません。中には病気をやって一カ月もそれ以上も静養しなければならぬ場合もできて参ります。そういうときに、収入がないのにそれをもらうわけにはいきませんので、収入のあるときに一応いただいておく、そういうことでよかろうということで現在そのままやってきております。
  461. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、部屋を貸しておる女の収入の多いか少いかということが直接あなたの生活に非常に響き、収益にも響くという関係だね。その女の子が多くかせげばあなたの収入も多くなるし、女の子のかせぎが少なければ、諸君の収入も減る。その部屋を貸している女と運命協同体になっているのじゃないか。
  462. 鈴木明

    鈴木参考人 そういうことです。
  463. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 さようなことが売春と関係がないということは、どういうことから出てくるのか。
  464. 鈴木明

    鈴木参考人 しかし先ほど申しましたように、女自体もそこでどうしても働かなければならない立場で、女の自由意思でやっておりますので、私どもとしては……。
  465. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 それはわかっておる。ただ私が言うのは理屈なんです。私はこういう調子で、人をしかるような調子になるが、悪く思わぬで答弁して下さい。私の言うのは理屈なんです。あなたの言わんとするところはよくわかっている。そして、あなた方が困った人を救うようなつもりでやっておる、その心情もわかります。そして最後の責任は国家にあるのだ、政治家にあるのだ、それはわかりますが、理屈を言うと、今のようになりゃしませんか。女の子に部屋を貸して、ただ食費と家賃をとっておるというだけじゃなしに、女の子とともに、女の子の収入の多いときは諸君も多くなる。少いときは諸君も少くなるという、生活に相関関係があるのじゃないかということを、あなたにお聞きしている。
  466. 鈴木明

    鈴木参考人 しかしその間に、女の方で主人の方のそういうことに不満でありますれば、いつでもやめていかれますし、何ら主人側に拘束がありませんので、私たちの方では、強制的にそういう行為をやっているような考えはありません。事実ありませんので……。
  467. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 あなたは私の質問に対してそらすからいかぬ。私の理屈かもしれぬが、女の子にただ部屋を貸して、食費や家賃を、普通のアパートが部屋を貸す工合にしてとっているという関係じゃないということをお尋ねしている。そんなことをあなたは否認してもおかしいが、それを認めても、僕ら別にあなたを責めようとは思わない。ただそう思わぬかどうかということをお聞きしている。
  468. 鈴木明

    鈴木参考人 私はそういうふうに差別がついて、女の子の消長をもって主人側の収入の消長があるということをはっきり認めますが、主人側が女の子に、少いからどうせよ、こうせよということは、一つも申しておりません。
  469. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そんなことを聞いているのではありません。ただ女の子の収入いかんと、女の子に部屋を貸している業者収入いかんとか相関関係にあるということを、あなたが認めるか、認めないかをおっしゃればいいのだ。今は認めていらっしゃるから、それでいい。吉原であなたの組合に入っている人たちは、一体どういう歩合になっておりますか。一定しておりますか、店で違いますか。
  470. 鈴木明

    鈴木参考人 すべて吉原は同じであります。
  471. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そこでこれを四分と六分というようにきめたのは、業者だけがかってにきめたのか、その筋と協議の上できめたのか。
  472. 鈴木明

    鈴木参考人 それはかつて二十二、三年ごろだと思いますが、まだ占領時代に、向うの監督者の方から、女の方も組合を作れ、業者の方も作れ、そしてそういうふうな取引面については、双方協定の上で相談をして作れ、こういう御指示がありまして、そういう指示に基いて、女の方と協議の上できめております。
  473. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、警視庁の指示によって、女の子にも組合を作らせ、業者組合を作って、両者が交渉の結果、四、六ということが出た。そうすると、そのことは警視庁に報告していますか。
  474. 鈴木明

    鈴木参考人 おそらく警視庁としては承知いたしておりますが、そのとき立ち会いましたのは、向う様の係の方がその席に立ち会ったと記憶しております。
  475. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、接客婦と業者の分配のあれをきめるときには、警視庁の係の人が立ち会いできめた。
  476. 鈴木明

    鈴木参考人 たしか警視庁もかかり会ったと思いますが、アメリカ進駐軍の方の方がその席に立ち会ったと思います。そうしてその指導によって女の子の方の代表と私の方の代表が契約の取りきめをした、こういうふうに承知しております。
  477. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、アメリカの進駐軍のものと警察のものと両方が立ち会って、そういうふうにきめた、こういうことになるわけですか。
  478. 鈴木明

    鈴木参考人 はい。
  479. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、警視庁ではそういう接客婦の収入の中から諸君が六割を取ることを知っているわけですね。
  480. 鈴木明

    鈴木参考人 知っていると思いますけれども、私の方で御報告を書面やその他でやったわけではありませんので……。
  481. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 立ち会っているなら知ってるわけでしょう。
  482. 鈴木明

    鈴木参考人 そのときにたしか立ち会って係の方もおったと思いますから、御承知しておられることと思います。
  483. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 なぜこれを質問するかと思しますと、警視庁ではあなたがさきに言うたようなことを言うている。業者というのは、女に部屋を貸してあるだけで、その部屋で何をやってるかは知らぬのだ、こう言っている。そうすると、今言ったわれわれとしては不可思議な現象が起ってくるのであるが、それはあなた方としては、警視庁がそういうふうにしているというのであるから、それでいいと思ってやっているとするから、あなた方を今責めてみても仕方がないと思う。ただあまりにそういうことを強調すると、不可解な点があるので、今あなたに質問した。そこで六割、四割と分けるその金は、だれが握っている。
  484. 鈴木明

    鈴木参考人 その金を分ける直前でございますか。
  485. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 うん。
  486. 鈴木明

    鈴木参考人 それは女の子自体がその場でただちに、たとえば千円のうち四百円を自分が差し引いてその残りを主人にやってもかまいませんが、しかし多くは仕事中でありますので、一時それを主人に預けて——中にははっきりその場の勘定をいたしているのもあると思いますが、しかし今のところ多くはそれを三日ないし五日くらい主人の方で記帳をしておきまして、まとめてその支払いを受けていると考えております。
  487. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、その分ける金はまず主人が握っておって、その中から四分、六分に分けて、四分を接客婦に与える、こういう仕組みですね。
  488. 鈴木明

    鈴木参考人 しかしそれは預かるのでありまして、主人の方から、こちらへよこせ、おれの方へ渡しておけとは申し上げません。預かっているのであります。
  489. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そんなことを聞いているのではない。事実を聞いているんです。そんなことはどうでもいいじゃないか。そうして一旦主人が預かるわけだね。女の方から申し出たのかもわからぬが。そんなことは女に聞いてみればすぐわかるわけだが、一旦女から預かってプールしておいて、それを分配するわけだな。
  490. 鈴木明

    鈴木参考人 そうです。
  491. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 そうすると、一種の企業会社じゃないか。営業主と働く者とがあって、女はせっせと肉体を提供して働く。その中から、その金を集めておいて、主人が六割取って女に四割与える。これは売春株式会社だ。それとどこが違うか。
  492. 鈴木明

    鈴木参考人 そういう点については、企業であるかどうかは私にはわかりませんけれども
  493. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 りっぱな企業だと思うんだ。今のあなたの説明だと。
  494. 鈴木明

    鈴木参考人 私はそう考えておりません。やはり女の子の意思がそこに働くのでありまして、先ほど申しましたように、事実税その他の負担を差し引きますと、二割弱の収入しか主人はないのであります。女の方が四割をそのまま所得しているのでありますから、むしろその営業の主体は、本来申しますと、働く女の方にありまして、むしろ今は主人の方が女の従であります。たとえば前借の問題がありましたけれども、今金を貸しましても、金を貸すことはくれることです。そういうふうに女が主であって、主人側はきわめて従な立場に置かれているわけであります。ですから私はそれを主人側の意向による企業だとかなんとかいうことで、搾取のための一つの機関だというふうには考えておりません。
  495. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 いかなる企業も労働者が価値の源泉なんだ。労働者が働くんだ。そうして働かざる者が頭をはねるのが企業の本体なんだ。資本主義社会においては。その典型的なものが、吉原の企業として発達している。われわれはそう認識するが、それはあなたと今議論しても仕方がない。それはそれでいいとして、とにかく今の女に部屋を貸していると称しながら、そのかせぎ高を一旦みな主人が預かって分配している一種の企業です。そうすると、売春等取締条例という東京都の条例の第三条「売春をなさしめたるための対価を受け又は受ける約束で場所を提供した者は、一年以下の懲役又は二万円以下の罰金に処する」ということにまさに該当すると思いませんか。
  496. 鈴木明

    鈴木参考人 私にはわかりません。
  497. 猪俣浩三

    ○猪俣委員 あなたにはわからない、よろしい、私はこれだけ。
  498. 古屋貞雄

    ○古屋委員 今の問題で鈴木さんにちょっとお尋ねしたい。ただ私、事実だけなのです。弁明も何も要らぬのですが、これはだいぶ大事な関係ですが、部屋を貸したということと、それからそこに女の人が仕事をしておるということ、その仕事は売春であるということ、そういうことは御存じであるかどうなのでしょう。
  499. 鈴木明

    鈴木参考人 大体そこでどのようなことをやっておられるかは、想像がつきます。
  500. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうすると前借をするということですが、場所を貸すに前借ということはあり得ないと思う。その点を私はっきりしておきたいと思うのですが、前借をするという約束は、先刻から承わるとあなたの方の命令によってある仕事に従事するということと、そのかせぎ高によって貸した金を返すのだというお約束じゃないでしょうか。
  501. 鈴木明

    鈴木参考人 そうでありません、この前借と申しますのは、先ほど申しましたように今金を貸すことはくれることです。事実です。そういうことでありますから、貸す業者としましてはできる限り金を貸さないで、そういう金銭貸借は持たないというのがほんとう考え方でやっております。しかし中には、まことに事情やむを得ずまことに気の毒な立場がありますので、その際には何がしかのものを貸さなければならない場合が出てきます。しかしその貸した金に対して追及権も何もありません。もし本人が自由意思でお返しになるときは当然返していただきますが、そのために何も追及いたしまして払わなければどうだという考え方は毛頭持っておりません。ただ非常に気の毒だ、率直にいえば泣きつかれて困るという際に貸しておるのが大部分であります。
  502. 古屋貞雄

    ○古屋委員 率直にお話し願いたいと思うのですが、金を貸しまする場合、それを初めからやるというなら前借の契約は要らないわけなのです。
  503. 鈴木明

    鈴木参考人 契約をいたしておりません。いたしておるのは、先ほど申しましたようなきわめて一部にはそういう証書をとったり、それによる支払いを約束づけているようなところがあるかもしれませんが、しかし私の赤線に関しまする限りは、大部分はそういうふうに前借その他の証文なり何なり、そういう契約をいたして金を貸しておりません。
  504. 古屋貞雄

    ○古屋委員 さようなお話を承わりましても、私ども証書をとらずに金をやる、前借だというような、ただいまお聞きのような近藤さんや池上さんの問題を、またがってのあなた方の組合のやっております実績を私どもは事実上調査しておりまするけれども前借という金を貸すという場合には必ず契約書をとっておる。あなたのお話では全然とっていない、やったものなのだ、相手方の方から返したければ返してもよい、返したくなければ返さなくてもいいというお話ですが、それが先刻猪俣委員からお尋ねのかせぎ高の四分六の中からそういう金が差し引かれておる、こういう現実は実際ないのでしょうか、あるのでしょうか。
  505. 鈴木明

    鈴木参考人 ありません。私の指導する限りにおいてはないと思っております。私が最初にお断わり申し上げましたように、おそらく組合のうちの何人かは私のこの話に承服するかあるいはわからないで、そういうようなことをやっているところがあるかもわかりません。しかし大部分の方は、私はしていないと確信しております。
  506. 古屋貞雄

    ○古屋委員 最後に一つでありますが、一体場所を提供して、そこで売春をするのだという認識はどうなのですか。全然ないのですか。
  507. 鈴木明

    鈴木参考人 私たちはカフェーの女給として住まうところがない、こういうので部屋を貸与しておるわけであります。その中で行うことについては、われわれの立場から何ら関知いたしておりません。
  508. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そこで私くどいようですけれども、あなた方の立場であなた方の家族生活を守る唯一の収入であるところの婦人に部屋を貸すというときに、婦人がその部屋で何をするかということがわからずに、全然知りもせずに何をやってもかまわない、遊んでおってもかまわないということでお貸しになっておって、しかもそれで四分六の利益を分配するということは、われわれ納得がいきません。だから率直にその点をお述べを願いたい。
  509. 鈴木明

    鈴木参考人 先ほどのお方に答弁しましたように、中で行われておる仕事自体には私らは何ら関知しておりません。しかしそこでどういうようなことが行われておるかという想像はつきます。
  510. 古屋貞雄

    ○古屋委員 毎日数人の人たちが出入りをし、あなた方の方で部屋代をとり、しかもふとん代をとる、そういうような事実があることが前提となっておりまする場合に、あなた方がいかに無知の方でも何をしておるかということを認識しないということは私はどうも納得しないのですが、認識はないのでありますか。
  511. 鈴木明

    鈴木参考人 部屋代をとり、ふとん代をとると申しますが、私たちの方では、一応住まいとしての施設、ふとんその他をいつでも自由に使えるように施設をしてやっております。その施設を自由に使う、たとえばふろなんかも自由に入れる、すべてを自由にお使いになるという意味合いでいただいておるのでありまして、それ以外には何らいただいておりません。その点一々、ふとん代その他と申しますが、そういうふうなこまかな規定をいたしておりませんから、その点は御了承を願いたいと思います。
  512. 古屋貞雄

    ○古屋委員 どうもその点が僕らには納得がいきません。ふとんの提供があり、まくらの提供があり、部屋の設備の提供があるということになれば、そこに何をするかということは、あなた方に全然認識がないことはないと私は思うのですが、どうなのでしょうか。
  513. 鈴木明

    鈴木参考人 ですから大体何事をやっておられるかは想像いたしておりますが、全然その場には私どもは入っておりません。従ってどういうふうな方法でやるか、私たちにはわかりません。
  514. 古屋貞雄

    ○古屋委員 実は私たちはその事実を知りたいのですよ。あなた方を責めておるのではないのです。事実どうなっておるかということを知りたいのです。あなた方のほんとう考え方は、若い女の方があなた方から提供される施設を利用するということが前提なのです。その施設を利用する前提があっても何をするかがわからぬ。そういうようなことを、ここはやはり国会でございますから、私はまじめに事実だけをお述べ願いたいと思うのです。私どもはあそこを拝見に参りまして、また行って参りました青年に現実に聞いておりますので申し上げておるのですが、どうなんでしょう。一体あなた方はあそこで売春をしておることを存じておるのか、認識しておるのか認識しておらないのか、この点はどうでしょう。
  515. 鈴木明

    鈴木参考人 ですから先ほど申しましたように大体の想像はついております。それは男と女とが何かしら行なっておるであろうということは考えておりますが、しかしはっきり昔と違いまして、今はその女の部屋に無断で主人が入っていくことは全然できません。従って私たちがその現状を見るというようなことはとうていいきませんし、昔のように何どきでも戸をたたいてこちらの意のままに入っていくということはできませんので、私の想像では、そういうようなことも行われておるであろう、こう申し上げておるのであります。
  516. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そこまで参りますと、申し上げたくないけれども申し上げるのですが、一体婦人が普通の婦人よりも紙をよけい使うという事実はどうなのですか。
  517. 鈴木明

    鈴木参考人 それは御婦人に聞いていただくよりしようがない。紙その他は一切、私ども組合としては主人側が取り扱わぬことにいたしております。ただ便宜上頼まれればいたすことがありましょうが、そういうことは全然関知しておりません。どのくらいの量を使うかは私にはわかりません。
  518. 古屋貞雄

    ○古屋委員 これ以上申し上げましても、大体真相はわかりましたから——これは都条例の三条で犯罪が成立するということははっきりするのです。それを逃げようとしておるので、真相じゃない、そういう意味でなくて私どもはもっと大きな民族と国家の立場から考えたいから現実を承わっておるのですが、そういうお言葉ならもう私はこれ以上質問をいたさぬことにいたします。
  519. 世耕弘一

    ○世耕委員長 お諮りいたします。委員の方が御勉強していただくのはけっこうだと思いますが、けさからずっとぶっ通しで、参考人の方は相当お疲れになったようにお見受けいたしますから、できることなら簡単に質問を切り上げていただきたいと思います。そこでは神近市子君。
  520. 神近市子

    神近委員 鈴木さんにお願いいたします。さっきから繰り返していろいろ承わったので、大体吉原というところの実態がわかったような気がする点もございますが、さっきどなたかのお尋ねに対しまして、今度のこの処罰法が通過しますとあなたの一連の構想がくずれるということをおっしゃった、それからあの中の管理をするというようなことも御発言になったのです。それで私はあなたの構想というものをちょっと聞きたいと思うのです。吉原の中のああいう商売をするところのあなたが、最善と考えて、ある構想を持っていらっしゃるような印象を受けたのですけれども、それは違いますか。それから管理をするということをしきりとおっしゃいますが……。
  521. 鈴木明

    鈴木参考人 私は構想と申しましても、この売春禁止法と、その後にどういうふうなことになるかということについては多少考えてはおりますけれども、先ほど私が私の構想を申したということを承わりましたけれども、この今の私たちのやっている仕事をこうするああするというような構想ということでそのときお話ししたのじゃないと思います。しかしその後の御質問で管理というようなことがある、こうおっしゃいましたが、これはかつて公娼で管理をされてああいうものをやっておった、しかし売淫というものがよく社会悪だとかなんとか言いますが、悪いことでありましてもやむを得ずそれが出る原因があるとすれば、できるだけ社会に対する害悪を少くして、やむを得ない面だけを何とかして生かしていきますのにはやはり放任しませんで、ある一定の区画かあるいは昔のような行き方で特殊な取扱い方あるいは取締り方をしていくことがよかろう、しかし従来の公娼のようにすべてをその業者意思によって働く人の立場を左右していくような、昔のようなことはとうてい考えられません。その範囲においてはきわめて民主的な、そうして働きがいのある、さらに将来の更生にもできる限り現在以上によりいいものを作り上げて、社会が、こういう人たちがああいう仕事をしなくてもいいよう何かしらの施設ができるまでは、そういうふうな一つの行き方をとった方が、今のようなはんらんした売淫を取り締る、そうしてまた一面やむを得ざる要求にも応じていかれるだろう、こういうふうな考え方を申し上げたわけであります。
  522. 神近市子

    神近委員 今よりもよりよい制度ということはどういうことなんでしょう。
  523. 鈴木明

    鈴木参考人 これは私たち立場から考える制度でありまして、とかく今人身売買で、そこでやむを得ず働く人たち人権が無視されておるとか、あるいは搾取されておるとか、あるいはそこにおるとますます精神的に悪くなって、将来りっぱな生活ができ得なくなる、そういうふうにいろいろいわれておりますが、そういう面は私はやり方によっては、りっぱに解決していくことだと考えておるのです。ですから売淫自体を完全になくし得ないというのであるならば、そういうなくし得る準備ができるまでは、そういうふうな行き方で、悪い面をできるだけ排除した行き方でいく方が、ほんとうの売淫を取り締るにはよかろう、こういうふうに考えておるわけであります。
  524. 神近市子

    神近委員 それではあなたの考え方は赤線——あなた方が前にやっていらっしゃったところの区域を赤線といっておる、あの中のやり方を一律に青線、その周辺にも及ぼした方がいいということなんですか。
  525. 鈴木明

    鈴木参考人 私たちはそういうふうに考えておりません。どこにそういう必要さがあり、どれがよろしいかということは、社会の大ぜいの方の御批判にまつことがよかろうと考えております。
  526. 神近市子

    神近委員 さっきからあなたの御発言に不審を抱く点がございまして、私どもも外国の例を少しよく勉強してくれというようなことをいろいろ言われたと思うのですが、さっきのあなたの御期待と反対の結論が出てきたような、外国の例が出てきたと思うのです。その点はもう触れないことにいたしますけれども、外国を考えてみますと、こういうような仕事というものはキリスト教団では罪悪の最悪のものと考えられて、そしてイギリスだのそれからカナダというような国では、九世紀の刑罰が復活させられているというような厳罰なんです。それで私どもはその点もいろいろ考えてみますと、まだ私どもの立法したものはそんなに厳罰主義ではないというふうに考えますけれども、私はその点ではあなたと意見は違います。  それから売淫の形式、これは人間の生活始まって以来、男と女がある以上、これはもう絶えないものだというあなたの考え方は、間違いでございます。いろいろ古い制度のことと売春の歴史のことを考えてみると、そのつなぎは売淫によく似ているけれども、違ったものである。神祭の形式であったり、あるいはその社会の公許の催しものであったりというので、売淫という形をとったのは比較的新しい形で、私どもが今ほんとうに反対しているのは、この売淫という形なんです。今あなたはこういうことをおっしゃっていました。婦人たちが主であり、あなた方経営者は従であるということを、何度も繰り返しておっしゃったけれども、さっき古屋先生がちょっとお子さんのことにお触れになったときに、非常に威圧的なお言落があって、われわれはしかられたような感じがいたしました。
  527. 鈴木明

    鈴木参考人 どうも申しわけがございません。
  528. 神近市子

    神近委員 それでああいうふうに婦人たちを統御してやっていらっしゃるのですか。私は女ですから、ああいうような言葉を出されると、びっくりしてこわくなってしまうのです。
  529. 鈴木明

    鈴木参考人 あの言葉は、私自体がこういうふうな立場で聞かれたのは初めてでありますが、今まで多くの対談なり何なりに、必ず最後にはああいうことを言われるのです。お前にも子があるだろう、お前の子供にも売淫をさせるのか、お前のこの商売を継がせるのかということを言われます。しかし私はそういうふうに人情論でものを聞かれますと、私としても考えなければなりませんので、そういう人情論でなくて、ものをはっきり見ていただきたい、それを最後に人情でお前も子供にさせるのかということを言われますと、私はいささか御質問が見当違いではないかというふうに考えられるわけであります。これはただいまばかりでなく、申し上げましたように、何度も私はそういう経験を持つのであります。そうしますと、そういうふうな少し的をはずれたように私には思われる質問に対しまして、率直に直しますと、何となくぞっとしない気持になる。それでついああいうふうに強く申し上げましたが、それだから私の使っている女の子を、そんな気持でどなり回し、引きずり回して使っているというふうにお考えになられることは、大へん私迷惑でありまして、どうぞ私の家で使っている女の子を一人々々お調べになってもらえばわかると思うのでありますが、これ以上何も申し上げませんが、その辺は御賢察を願いたいと思います。
  530. 神近市子

    神近委員 もう一、二問伺います。あなたの一番いやなところに触れることになりますけれども、これはあなたのお仕事とあなたの人間とを切り離すことはできない。あなた方が非常に自分たちの業界の中の人との倫理を持っていらっしゃって、——私はそれを認めませんがね。とにかく社会事業をやっているのだ、国家にかわって困っている人に雨宿りをさせてやるのだということを、しきりにおっしゃる。それであなたは人情を持っていらっしゃるというところを見れば、——お子さんのことが非常に問題になっている。今三十坪の家とおっしゃった。そこに女の人が商売している。あなたのお家族は奥さんもお子さんもそういう中に同居していらっしゃるわけでございますか。これは御家庭のことに入りますけれども、一つ伺わしていただきたい。というのは、私はいろいろな業者にお目にかかって、多分こちらから伺ったと思いますが、ちょうどあなたのおっしゃるように、いつでもそこに問いが行くと思いますけれども、それで大多数お聞きすると、一緒には生活できないということをよくおっしゃるのです。それで私はあなたの態度をちょっと伺っておきたい。
  531. 鈴木明

    鈴木参考人 私の生活は、廊下続きで同じ屋敷内に住まっております。
  532. 神近市子

    神近委員 それではお子さんは男のお子さんがありますか。
  533. 鈴木明

    鈴木参考人 あります。
  534. 神近市子

    神近委員 そのお子さんがその風景を朝晩見て生活していらっしゃるということになるのですね。
  535. 鈴木明

    鈴木参考人 男の子もすでに二十八になります。見ておるかどうか、おそらく見ておると思いますけれども、相当子供としても、子供子供自身なりの考えを持って暮しておることと思っております。
  536. 神近市子

    神近委員 前には八十人の娼妓をかかえている業者の方が、子供の勧告で、その証文を全部巻いて八十人を解放したというような話も私は聞いたことがあります。その話を聞いて、ほんとう子供のことを考える親はそこまでありたいと考えたわけでございますけれども、まあそれはいろいろお考えが違うということもあり得ると思います。  もう一つ、終戦のときに、一応あの島というものは、公娼はやめろというマッカーサー司令部の指令によって閉鎖されたわけですね。それでそれ以後の営業一般にはあれはもぐりの営業であるといわれておりますけれども、その点ではあなたの仕事に対する御自覚はどういうものでございますか。
  537. 鈴木明

    鈴木参考人 取締りの点につきましては、それぞれの御承知のような取締りの規則がありますので、その取締り範囲内でやっております。
  538. 神近市子

    神近委員 あなたのさっきからのいろいろのお話を伺っておると、ここで仕事をやめる場合は国家に補償でもしてもらわなければならぬというようなお考え、そうして伊藤先生はその前例がないというような、ここで対立した二つの意見が出ているのですが、その点でマッカーサーの指令によって公娼が廃止されるという通告がなされました。そのときはあなた方はどういうふうな態度で、あるいは営業をどういうふうに始末しようとしていらっしゃたか、それを伺いたい。
  539. 鈴木明

    鈴木参考人 即座に女の子を解放するというので、全部借金その他を棒引きにして、それぞれ郷里なりに自由に処置するように、当時は六、七十人しかいなかったと思いますが、その女の子たちに全部そういう処置をとりました。
  540. 神近市子

    神近委員 もし今度の法律が成立いたしますと、同じような事態が起るのです。それで前には証文をすぐ巻くことができた、あるいはこれを中止した。だけれども今度はそういうわけにはいかないというような態度の変化は、どこからきておりますか。
  541. 鈴木明

    鈴木参考人 それは先ほども申し上げましたように、そういうような処置は一応とられましたが、続いて政府の方から次官通牒あるいは保安部長通牒で、先ほど最初に申しましたような御指示がありましたので、その線に沿って、当時証文を巻いて帰るように申し伝えましたが、帰ったのはわずか数人にすぎません。あとの人はどこにも行くところがなから、ここにおらしてもらいたい、こういうことでありました。たまたまそういう通牒を受けましたので、御存じのような立場が引き続いて行われてきたように考えております。
  542. 神近市子

    神近委員 次官通達というものは、今いろいろ論議されております。あれをどうして出したかというようなことを考えてみますと、あなた方の方であのときに、運動なり嘆願なり陳情なりということをしきりになさってあの結果になったのですか、あるいはそれはおっしゃりにくいかもしれませんが、ただ黙って手をつかねて持っていたら、向うからそれでよろしい、こういうふうに言ってきたのですか。
  543. 鈴木明

    鈴木参考人 私は当時責任者ではありませんでしたが、そういうふうに業者の方から運動したということはちっとも聞いておりません。
  544. 神近市子

    神近委員 さっきもちょっとそのようにお触れになっていましたけれども、運動は一切われわれはしない、以前もしなかった、今もしていないということがさっきおっしゃられたのですけれども、いろいろうわさでは何か業者の運動ということがしきりに伝わっている。ですから私どもにわかに信用できないような気もいたしますけれども、これはここであなたに運動しているというようなことを言っていただくことはできないだろうと思いますから、私の質問はこれで終ります。ありがとうございました。
  545. 鈴木明

    鈴木参考人 ちょっと一言申し上げておきたいと思いますことは、私たちが補償をくれ、こういうふうに言っているように聞いておりますけれども、ただ私たち考えますことは、先ほどのお話に、悪いことをしたのだから補償をする必要はない、世界にもそういう例もないとおっしゃられれば、それはまことにその通りだと思います。しかし今一方においては税その他の一応国民としての義務も果してきました際に、お前たちは悪いことをやっておったから、こういう法律ができたのだから、もうそれに従ってやめてしまえ、それぞれの立場で何とかしろ、こうおっしゃられましても、事実はきわめて困難であろうと思います。そこでわずかに一万六千の業者でありますが、先ほども申し上げましたように、これに関連した人たちはかなりの数に上っておると思います。これが同時にそういうふうに非常に困る立場になろうかと思うのであります。そこで罪を憎んでも人を憎まずということわざが今でも認められますならば、よしんばかりにどんな悪いことをしておったといたしましても、これにやめてしまえということでありますならば、ことに人権が尊重され、そして生きることについて国家が大きな保障をされております際に、そういうふうにお前たち悪いことをしたのだから何だ、こういうことを言われますことは、文化国家というような立場から申しましてもあまりにもひど過ぎるだろう、どうぞこの点につきましてはもう少し親切なそしてもう少し行き届いた考え方を持っていただくことがほんとうではないか、こういうふうに私たち考えるのでありまして、ただ考えの一端を申し上げます。
  546. 神近市子

    神近委員 もう一問。あなたの今の、その行為は憎んでも人を憎まずという古いことわざは、この場合そこへお用いになるということは私はちょっと受け取りにくいのです。それはまあいいとして、もう一つさっきの質問の続きでありますけれども、この前あなたはあの赤線区域を廃止したら害毒が社会に流れる、これも今伊藤秀吉先生のお話通りに、もとがあるからそのうみが流れて今日青線となりその周辺となった。ところが今吉原の二百何十軒の外側に類似のところがたくさんあって、それでそば屋であれ、あるいはパン屋であれ、菓子屋であれ、くだもの屋であれというようなものが従属してそれがみな苦しむことになるのだということで、あなたは今自分たちの仕事を肯定しようと考えていらっしゃるのですけれども、もう一つ犯罪が非常に起るようになるということは、これも私は納得できないのです。御存じのように、ここ十日くらいの新聞をごらんになっても、自動車強盗が起りあるいはほかの殺傷事件が起り、そういうようなときに、男の犯罪というものは全部遊興費ほしさにこれをやったと言っているのですよ。あれは新聞のうたい文句であって、新聞がいつもその結論として出すのであろうか、あるいはあくまで新聞のせいだというようにあなたお考えになりますか。
  547. 鈴木明

    鈴木参考人 私はあくまで新聞のせいだ、そういうふうに簡単に考えておりません。
  548. 神近市子

    神近委員 それはちょっと新聞社を侮辱することになるのじゃないですか。警察なりあるいはどこなりその人がつかまって自白した結果があそこに報道されるので、決してこれはあなた方を傷つけるために新聞社が捏造した結論ではないと思います。
  549. 鈴木明

    鈴木参考人 そういう意味合いなら私は報道されたのは事実であろうと思います。しかし私が申し上げますのは、全国に御承知のように五十万ないし六十万と推定される同じような仕事をしている女の人がある。そのうちに私たちの方はその一割に足らないだけのものだ、従って私たちのこの一割内におきましては比較的そういうようなあれが少いのだ、こういうふうに申し上げておるのでありまして、それ以外に同じような類似行為をしておる者にどうこうありましても、これは私としましては自分の対象の立場から極限されたお話を申し上げております。従って全般五十万、六十万のうちから出た事件、御報道等につきましては、私は事実であることを信じております。
  550. 神近市子

    神近委員 それは六十万のうちの一割をここで別にして考えることはできないのです。御迷惑かもしれないけれども、やはり六十万のうちの六万であって、これを別の扱いにするというようなことはわれわれには考えられません。事実はあた方一割とあとの九割とを区別して考えることは、この行為に関する限り私は不可能だと思います。  それからもう一つ、犯罪は、あの赤線のあるところには必ず青線ができる、これはさっき伊藤秀吉先生がちょっと一つだけお忘れになっていたことがあると私は考えるのですけれども、戦争の結果だ、その上に売春を罰するあの項が取り除かれた結果だと私ども考えておりますし、またいろいろ研究調査の結果もそういう報告が出ております。それで結局赤線があるから青線ができた、青線があったからその周辺ができた、このあなたが一つのグループを考えておいでになる集団というものは赤線がもとではありませんか、私はそういうふうに理解しております。
  551. 鈴木明

    鈴木参考人 私は先ほどこのことにつきましては、終戦後の赤線の始末、それに付随したただいまのような行き方ににつきまして、私の考えを申し上げましたが、その考え方は不幸にして先生と逆であります。まことに遺憾だと私は思います。
  552. 世耕弘一

  553. 戸叶里子

    戸叶委員 私鈴木さんにもう一度大へん恐縮ですが御質問したいと思います。時間も大へんおそくなりましたからごく簡単に二、三点お伺いしたいと思います。先ほどのお話を承わっておりますと、あなたのところに大体五人くらいの人がいるそうでございますが、そういう方々がたどってこられた経路を簡単でけっこうですから、お話を承わりたいと思います。
  554. 鈴木明

    鈴木参考人 五人が全部使ってくれと女の方から私をたずねて参りました。そういう経路であります。
  555. 戸叶里子

    戸叶委員 その方々は過去にどこかで同じような仕事をしていた方が多いのですか。
  556. 鈴木明

    鈴木参考人 全部その経験者であります。
  557. 戸叶里子

    戸叶委員 それで年令的には。
  558. 鈴木明

    鈴木参考人 年令的には一番若いのは十八歳何カ月、多いのは二十四歳くらいだと思います。
  559. 戸叶里子

    戸叶委員 二十四歳くらいの方ですと、どのくらいの経験を持った人なんですか。
  560. 鈴木明

    鈴木参考人 それはその人によって、家庭の事情その他の事情によって大へん違います。先ほどある先生方が調査をしておる、こういうことを申し上げましたが、その調査の中の一項目、二項目を私そばで聞いたのでありますが、大体三回、五回——これは同じ水商売ではございまん、いわゆるわれわれのところに来るまでの職業歴が四回、五回というのが多いということであります。そこでうちの場合だけで申し上げますと、初めて来るというのはきわめて少いと思います。おそらく一割くらいじゃなかろうかと思います。あとは大ていほかで何回かの経験をして、そうして最後に私たちのところに来る、こういう形をとるのが大部分であります。
  561. 戸叶里子

    戸叶委員 そうしますと、お宅へ参りますときにはよほど経済的に行き詰っていて、経済的な援助の場合がまず第一に出てくる方ばかりでございましょうか。
  562. 鈴木明

    鈴木参考人 そうです。
  563. 戸叶里子

    戸叶委員 今までに来た人でお断わりになった例はございますか。来た人は全部……。
  564. 鈴木明

    鈴木参考人 あります。
  565. 戸叶里子

    戸叶委員 それはどういうときにお断わりになったのですか。
  566. 鈴木明

    鈴木参考人 それは私は来た人にいろいろ話をしまして——気の合ったということもありますし、気に食わないというところもあるでしよう。だから話し合っておって、この店ならできるからやっていこうというふうに考えた方にはやっていただきます。しかし何とも納得がいかぬ、あるいは感じが悪いということであれば、これは御自由にお引き取り願います。私もそういうようなそぐわない者に対して無理に働いてもらうということは毛頭考えておりませんので、そういう行き方をやっております。
  567. 戸叶里子

    戸叶委員 そこの部屋をお貸しになります場合に、大体身元調査はなさらないのですか。ただ話をして気が合ってお金を貸してやってそうしてきめるというようなだけで……。
  568. 鈴木明

    鈴木参考人 ただいまでは身元調査というようなことはやっておりませんが、しかし一応はどういう経路で来てどういうわけで働くか、あるいはその出身地その他はお尋ねいたします。ことに従業員名簿という名簿がありまして、本籍、現住地あるいは今までの職業を一応明らかにしておくということにもなっておりますので、その点はできるだけよく聞いてやっております。
  569. 戸叶里子

    戸叶委員 申し込んできた人とお断わりになった人と、今までどっちの方が多うございますか。
  570. 鈴木明

    鈴木参考人 申し込んで働いてもらった数の方が多うございます。
  571. 戸叶里子

    戸叶委員 お断わりになったのは少いということですか。
  572. 鈴木明

    鈴木参考人 はい。
  573. 戸叶里子

    戸叶委員 先ほどのお話を伺っておりまして、これは水かけ論になりますからどうかと思いますけれども、次の質問に入る前提として伺いたいのですが、どこの下宿屋さんでも自分の部屋を貸すときには、どういう仕事をしているかということを聞いた上でなければ貸せないのでしょうが、先ほどのお話を伺っておりますと、大体どういうことをしているかくらいは想像はつくけれども、何をしているか知らない、こういうふうなお話でございましたが、もしそれが売春行為をするのだということがはっきり打ち出された場合にはお断わりになりますか、どうでしょうか。
  574. 鈴木明

    鈴木参考人 あそこまでくる方は、先ほど申したように調査中で、はっきりこれは計数に出るだろうと考えておりますが、大体そこへ志願してくる人はすべてそういうことを事前に承知しておると考えております。
  575. 戸叶里子

    戸叶委員 そうすると、大体お認めになった上でお貸しになっておると了承してよろしいわけでありますね。
  576. 鈴木明

    鈴木参考人 その売春行為をやることを認めてですか。そういうところまで突き進んだことはありません。本人も働きたいということのうちに一切を申し込んできますので、その点だけでございます。
  577. 戸叶里子

    戸叶委員 それは詭弁だと思うのです。というのは、やはりそういうふうなことをするのだということを本人が知っておって来るのだということをお認めになっておる以上は、売春行為をするということを認められて部屋を貸すということは、これは何とおっしゃっても仕方がないことと思います。
  578. 鈴木明

    鈴木参考人 それは御想像にまかせます。
  579. 戸叶里子

    戸叶委員 先ほどからの御答弁を伺っておりますと、今日の状態を見ていたときに、男女の性関係、それから経済的問題から考えて、売春の禁止、つまりこの売春処罰法を出してもそれは大体むずかしい、それよりもまずもっといろいろな条件を整えていかなければいけない、こういうようなことをおっしゃいました。さらにつけ加えておっしゃいましたことは、前回三回法案が出ているけれども、通らなかったのがいい例じゃないか、こういうふうにおっしゃいました。それも私どもは認めております。けれども今回出しました法案に対しましては、前回の三回の場合よりも世論の支持が非常に強いということをお認めになりませんか、どうでしょう。そしてそれはどういうわけだとお思いになりますか。
  580. 鈴木明

    鈴木参考人 私はこの法律案がこの国会を通るといたしますれば、もとより国民の一人としましてそれと服従いたします。
  581. 戸叶里子

    戸叶委員 そうしますと、前のころよりもずっと社会人たちがこの法案の通過の必要を認めているということをお認めになるわけでございますね。
  582. 鈴木明

    鈴木参考人 私はその認めておるかどうかはわかりませんが、しかし私は、この売春ほんとうの姿というものを社会の人がよく知っておられるかどうかということについて多少の疑問を持つのであります。
  583. 戸叶里子

    戸叶委員 それではこの法案に対する世論の支持がだんだん高まってきたということは、一体どこに原因があるとお思いになりますか。
  584. 鈴木明

    鈴木参考人 私は一つの参考として申し上げますと、大へん勝手なことを申すように聞えるかもしれませんが、私自体としましても、売春のない国、売春のないお互いの生活ができることであれば、これはまことにけっこうだと思っております。ですから私は売春のない国を作ろう、そういうような意味合いで大ぜいの人たち考えてそこまで持っていきたいという熱意につきましては、了解いたしております。
  585. 戸叶里子

    戸叶委員 世論は結局外国の文明国の例を見たりいたしましても、そうしてまたこの禁止法ができましても、決してその禁止法が出たことによって害はないというその過去の歴史から、今日どうしてもこれは出した方がいいというふうな支持に傾いてきておるわけです。このことはあなたも今お認めになったことですから、そういう意味から申しまして、この売春処罰法というものがやがて通るというふうな考え方のもとに、一日も早く今の職業を公共の仕事にかえる、こういうお考えをお持ちになれないでしょうか。
  586. 鈴木明

    鈴木参考人 私は前から何回か申し上げましたように、売春のない国を念願はいたしますけれども、しかし私たち考え現状でああいうふうに全面禁止のような行き方をいたしましても、なかなかその通りにはいかぬであろう。でむしろ禁止する事前に禁止するあらゆる施策なりあるいは準備なりいろいろあると思います。そういうものを先にやられて、徐々に土台を築いておいて、それから禁止するということで、いわゆる理想に持っていくことの方がよかろう、こう考えております。ですからその手段方法について私は考えが違うと思いますけれども売春のない国、売春のないような社会がよろしいということについては同じ考えを持っております。
  587. 戸叶里子

    戸叶委員 たれでも人間は理想というものを持っておると思うのです。その理想というものを実現させるために努力をしているところに私は人間の価値があると思います。そういうふうな考えで参りましたときに、あなたも一つの理想達成という意味において、売春というものが悪いことであって、理想としてはやはりそういうものがない国を作ることだということをお認めになっておられるのです。その一つのステップとしてこういうものを作るということが私どもは必要だと思いますけれども、あなたは今までのことをお認めになっていらっしゃっても、なおこの法案に対しては否定をなさるわけでしょうか。
  588. 鈴木明

    鈴木参考人 そういうような、今のような法案の行き方について、私は疑問を持ちますから申し上げるのであります。しかし今申し上げましたように、売春をなくそう、そのための手段方法と考え方について、私は、今のお話と違っておる、こういうふうに考えます。私らが考えて申し上げておることも、将来の売春をなくするまでの一つの足がかり、一つのいしずえだ、こういうふうに考えて申し上げておるのであります。
  589. 戸叶里子

    戸叶委員 売春をなくするためにそういう仕事をしていらっしゃるというのですか。
  590. 鈴木明

    鈴木参考人 売春をなくすることはけっこうである。しかし一がいに全面禁止を今直ちにやることよりも、徐々にこれを改善、善導していくことの方がよかろうと考えておるわけであります。
  591. 戸叶里子

    戸叶委員 徐々に善導していくことがよろしいと思いますから、私どもはそのステップとして、社会悪としての一つの道徳基準を設けるということが必要だと思うのですが、その点は……。
  592. 鈴木明

    鈴木参考人 その点、私は考えが違います。
  593. 戸叶里子

    戸叶委員 先ほどからのお話を伺っていますと、ともかく売春というものが社会悪であるということはお認めになっていらっしゃるし、理想社会を作っていきたいということは認めていらっしゃるのですから、そういう意味では、この法案を、一歩前進したという意味で認めていただけると私思うのですが、その点は違うわけなんでございましょうね。
  594. 鈴木明

    鈴木参考人 いわゆる手段、方法の点について考え方が違うということを申し上げました。
  595. 戸叶里子

    戸叶委員 これ以上のことは議論をいたしませんけれども、先ほどちょっと神近委員からも触れられましたが、その点に触れますとあなたは大へんいやがられます。しかしやはりあなた個人とそれからお仕事というものは離すことのできないものだと私思うのでありますが、御家庭の方はそういう仕事をしていらっしゃることを——奥さん、また娘さんがおありになるとすれば、娘さんは別にいやにお思になっていらっしゃらないですかどうですか、この点を伺います。
  596. 鈴木明

    鈴木参考人 それがいやで、別にただいまやめなければならぬというふうにも考えておらないことと私は考えております。しかし子供子供ですから、子供なりに一つの理想を持ち、将来の自分としての一つの生活設計を考えておると思いますから、その点は何とも申し上げかねますが、現状においては別に直ちにこれをやめなければならぬというふうにも——考えられるかどうか私には、はっきり申し上げかねます。
  597. 戸叶里子

    戸叶委員 考え方が非常に違っておりますのと、それから時間がありませんから、これ以上は追究いたしませんけれども、今までの例を見ましても、たとえばああいう区域をなくせばほかに非常な害毒を流すような事件が起きましないか、たとえば強姦などの問題を例に引く人もございますけれども、過去の外国の例を見ましても、かえってそういう例はなくなっている。それよりもむしろ赤線地区なり青線区域があるために、そこでそういうものを見てきた子供たち性道徳というものが非常に頽廃している。たとえば中等学校あるいは高等学校でいろいろな問題を起しておりますのは、大体特飲街を通って来たり、そういうものを見ているために問題を起しているのだということもどうぞよくお認め下さいまして、そういう面からも少し御研究下さることを要望いたしまして、私の質問を終りたいと思います。
  598. 世耕弘一

    ○世耕委員長 細迫兼光君。
  599. 細迫兼光

    細迫委員 池上さんにお願いいたします。  鈴木さんのお話を聞いておられたでございましょうが、あなたの直接の経験あるいは近所の同じ職業の女の方の話などによってお答えが願いたいのでありますが、前借のお金をかせぎ高の中から天引きせられたというような例はありませんか、ありますか。
  600. 池上よし子

    池上参考人 よその家はよくわからないですが、私の家などは自分の働き高の中から差額だけは前借の中に強制的に入れられます。
  601. 細迫兼光

    細迫委員 強制的に入れられるとしては、二月で五千円というのは少いように思うのですが、どうですか。
  602. 池上よし子

    池上参考人 前借金の返済としては二万円入っているのです。ですけれども、着物を買ったお金など差し引いた金額が五千円なんです。
  603. 細迫兼光

    細迫委員 それでは問題を別にいたしますが、お客を取るのに——あなたの経験及び近所の人の話によりまして、お客の選択、より好みというものは自由にできますか、あるいはある程度強制を受けますか。
  604. 池上よし子

    池上参考人 自分でもってお客様を引っぱるのですけれど、強制的にされるときもあります。
  605. 細迫兼光

    細迫委員 こういう例を聞いたのであります。ほんとうかどうか、あなたは聞いたことがないかお答え願いたいのでありますが、それは、女が妊娠した場合、それを人工流産せよといって強く勧められたというような例はありませんか。
  606. 池上よし子

    池上参考人 私の店でもって妊娠して、それを人工流産するのですけれど、店でもって勧められる場合もありますけれど、自分の方からするのが多いではないかと思います。
  607. 細迫兼光

    細迫委員 はなはだしいのになると、人工流産をしたその日にやはりお客を取れと言われたというような話も聞くんですが、あなたはそういう話を聞いたことはありませんか。
  608. 池上よし子

    池上参考人 自分では経験ないのですけれども、同じ店に働いた人にそういう経験があると思います。
  609. 細迫兼光

    細迫委員 あなたが吉原から出て来られました後に、帰れ帰れと言ってたれか引っぱりに来た、あとを追っかけてきたというようなことはありませんか。
  610. 池上よし子

    池上参考人 自分の家へは近く行かなかったのですけれど、二、三回呼びに行ったらしいですけれど、自分は直接会っていないのです。
  611. 細迫兼光

    細迫委員 今度は伊藤さんにちょっと……。あなたの御研究におきまして、ああいう赤線地区に来る女の人は自分の単独の発意であるような場合が多いというようなお話鈴木さんがなさいましたが、たとえば凶作にあった場合など、その他炭鉱の不景気だというようなところをめがけて、赤線区域へ来てかせげと勧めて歩いて連れて帰るというような例を耳になさいませんか。
  612. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 そういう例は、私の知っている限りでは、本人みずから進んで行くということは少いと思います。大ていはだまされていくのでありまして、赤線区域でこういう商売をするのだといって教えられていくのではなくして、むしろどこか奉公するとか、あるいは酒のおしゃくをするだけだというようなことで、健全な仕事でもするかのように見せかけられて、そうしてそれをごもっともだと思うのもちょっとどうかと思うのですけれども、そこは知恵のあまり発達していない方々ですからうまくだまされて、金が取れて遊んで暮せるということならけっこうだから行こうというような工合になるのが多いのではないかと思います。それからお話のように、そういうことを勧めに行く人は、遊廓からといいますか、赤線区域から頼まれて行っているのもありますし、あるいはまたそういう者を見つけて、探して、そうして赤線区域に連れていくというのも相当にあると思います。
  613. 細迫兼光

    細迫委員 そういう場合に、業者が連れて来てくれた人へお礼を出すというようなしきたりと申しますか、それがありはしないでしょうか。
  614. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 あります。お礼はしております。
  615. 細迫兼光

    細迫委員 それから毎日のお客を引っぱってくることを仕事にしておる人がありますね。そういう場合にその人に業者は何割かお礼を出しておると思います。その業者が出しておりまするお礼は、六分、四分の分け前の業者の受け取るべきお金の中から払っておるでしょうか、あるいは女の人の収入になる分から差し引いて払っておるのでしょうか。
  616. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 大ていはやはり女の受け取るべきものの中から払っておるのではないかと思います。
  617. 細迫兼光

    細迫委員 これは鈴木さんに聞いた方がいいかと思いますけれども、どうも真実が聞き出せないように思いますからあなたにお聞きいたしたのであります。  次に山高さんに伺います。あなたの協議会は政府から売春対策について諮問を受けておると思うのでありますが、その諮問に対する答申がまだ出ていないというように私は心得ておるのです。さっきのお話では大体結論を得ておるようようなお話だったのですが、どうしてまだその結論を答申されていないのでしょうか。事情を一々言われれば長く時間がかかるから、おもだったものをお示し願いたい。
  618. 山高しげり

    ○山高参考人 簡単に申し上げます。先ほど申しましたように、委員総会で一応の基本線はもう出しました。それは昨年の九月でございます。それにしてはそのあとのはかどり方が大へん鈍いようで、まだ答申案ができ上るところまでなぜいっておらないかという御質問は非常にごもっともだと思いますけれども、基本線で処罰するという、そこまでの進み方は、私しろうとでございますが協議会に出た一員の感想として申せば非常に早かったと思います。もう少し各関係官庁の間で御意見がまとまりにくいのかと案じておりましたところが、案ずるより大へん早くいったように思いました。それに比較いたしましてそのあとが非常に長引いておりますのは、格別外部からの何か力が働いて故意に長引かせておるとか、そういうことは私にはちっとも感じられませんので、むしろ法律をつくるということについて非常に専門的なことで関係官庁の間でいろいろと御折衝をなさることが、これは私どもにはどうしてそんなに長引くのかと思われるように長引くように感じております。つまり内容を具体的に言えば、先ほども申し述べましたが、それは処分の方法が、私が伺っておるところでは日本でほとんど初めてである。従ってそれの成案を得るためには法務省、労働省、厚生省というようなところで事前の措置の問題、事後の措置の問題等につきまして、それぞれの所管事務のことやなんかで大へんお話が長く引くようでございます。委員総会で小委員会に保安処分の問題が付託されておりまして、その小委員会に私も小委員でたびたび出ておりますけれども、さらに小委員会からまた各関係庁の方々で設けておいでになります幹事会というものに渡っておりまして、これはほんとうに立法の法文を作るというか、法文の一つ手前の要網を作るようなお仕事のようでございますが、そこが非常に長引くようでございますが、決してなまけてはおいでにならないようで、大へん勉強していらっしゃりながらなかなか進まないというふうに、これは御説明を承わるとなるほどと思うこともあるのでございます。私ども委員としてなるべくお急ぎを願っておりますし、小委員会としてはできるだけの勉強をして促進をしておるわけでございまして、近いうちに最後的に幹事会が持たれ、従ってここ数日の間に最後的な小委員会が持たれるというところまでようやっとこぎつけて参りました。
  619. 細迫兼光

    細迫委員 質問を終ります。
  620. 世耕弘一

    ○世耕委員長 ちょっと皆さんにお諮りいたしますが、すでに八時に間もなくなるのですが、参考人方々の夕食の時間もすでに過ぎておりますので、十分か十五分でお済みになるのならばこの際かまんしていただいて終了いたしたいと思いまするし、もし長ければ一応休憩して食事をとっていただいてから継続いたしたいと思いますが、いかがですか。
  621. 古屋貞雄

    ○古屋委員 十分か十五分で済みますから……。
  622. 世耕弘一

    ○世耕委員長 それでは参考人方々には御迷惑でございましょうが、あと十分か十五分で終了いたしたいと思いますから、しばらく御猶予願いたいと思います。古屋君。
  623. 古屋貞雄

    ○古屋委員 池上さんにお尋ねをしたいと思いますが、この池上さんから私にいただいたメモ、これはあなたのメモでしょう。
  624. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  625. 古屋貞雄

    ○古屋委員 この中のかせぎ高、借りた借用金というようなことが書いてありますが、これは克明にあなたがそのときに具体的にお書きになったんでしょうか。
  626. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  627. 古屋貞雄

    ○古屋委員 これによりますと、四月の二十二日から六月の九日まで克明に書いておりますが、やはりこの間に働おきになったんですか。
  628. 池上よし子

    池上参考人 二十二日より前、十五日から働いております。
  629. 古屋貞雄

    ○古屋委員 二十二日からここに書かれておられるが、十五日からお働きになった。
  630. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  631. 古屋貞雄

    ○古屋委員 その前の十五日から二十一日までのかせぎ高や借りた金のことはここに書いてありませんか。
  632. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  633. 古屋貞雄

    ○古屋委員 これによりますと——これをごらん願いたいのですが、六月の一日の日に五千五百円を働いて現金を百円を二度拝借をし、紙とたばこ、これはたばこが五十円、紙が承わると五十円だそうですが、そうすると現金を二百円と、たばこ代と紙代で三百円になるのですが、そのあとの方にその日の不足百七十円と書いてありますね。
  634. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  635. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうするとこういうような計算はあちらから示されて、この計算になってしまったわけですか。
  636. 池上よし子

    池上参考人 そうです。
  637. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、私が計算をいたしますと、五千五百円で四分ですから二千二百円になる。あなたの取り分が二千二百円になる。その中からたばこが五十円、紙代が五十円、現金が百円が二回、三百円ですから、あなたの取り分が千九百円あるわけなんです。それなのに、その計算が百七十円不足するというような計算をされておるのですが、そうすると結局ここに二千七十円という計算上の誤差が出てくるのです。この二千七十円はやはり御主人の方から、あなたにこういう計算になるとして押しつけられた計算なんでございますか。
  638. 池上よし子

    池上参考人 それは一週間ぐらい玉がおくれているのです。ですからその日が五日ないし一週間くらいおくれておりますから、それでいくと、五日ぐらいの間に借りている紙だとかたばこだとかいうものもその中に入っちゃっているのです。
  639. 古屋貞雄

    ○古屋委員 この中に毎日たばこ、紙ということが書かれて、そうして毎日のかせぎ高があるのですが、このあなたの主人との計算がどうも納得がいかないということで逃げ出されているのですが、こういうような計算の不合理、押しつけ方に対して不満だということになったのですか。
  640. 池上よし子

    池上参考人 ええそうです。
  641. 古屋貞雄

    ○古屋委員 それからあなたのメモになっております全部の計算をいたしますると、十七万二千百円になっておりまして、この四分ということになると、六万八千八百四十円ということになるわけです。しかるに先刻あなたがおっしゃるように、前借は五千しか返しておらない。ここにあなたの前借の返済に対する計算を拝見しますると、二万五千円前借の返金ということの計算になるのですが、この二万五千円の中にただいまあなたがおっしゃられました着物代と帯代が二万円引かれてしまいますから、それで五千円の前借返済にしかなっておらないということになるのですか。
  642. 池上よし子

    池上参考人 ええそうです。
  643. 古屋貞雄

    ○古屋委員 このメモは間違いございませんか。
  644. 池上よし子

    池上参考人 ないです。その中に私が一度お客様の靴を盗まれたことがあるのですが、そのお客様の靴を弁償することに対して二千円だけそのときに支払った分が入っておるのです。
  645. 古屋貞雄

    ○古屋委員 拝見しますと、ここに靴代二千円とございますが、これが今お客さんの靴がなくなってあなたが弁償をしたという差し引かれた二千円ですか。
  646. 池上よし子

    池上参考人 ええ。それはお客さんに返すときに帳場から二千円借りたんです。ですから返済した金額の中から二千というものが差し引いてあるのです。
  647. 古屋貞雄

    ○古屋委員 このメモは克明に書かれておりますが、毎日お書きになられたので間違いがございませんか。
  648. 池上よし子

    池上参考人 ええ、ないです。
  649. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、私の計算によりますと、十七万二千百円働いて、しかも前借が返されたのが五千円である。四分、六分の計算からいえば、あなたが六万八千八百四十円もらえるのに、五千円しか前借が払われてない。あとの不明の金は御主人のふところに入ったということになるのでしょうか。
  650. 池上よし子

    池上参考人 そうなるだろうと思います。
  651. 古屋貞雄

    ○古屋委員 なおこまかく承わりますと、こういうことになっていますね。あなたがお働きになったこのメモに書いてあります計算によりますと、四月二十二日から六月九日までの総働き高は十七万二千百円、その中で五千円前借を返している。その中にたばこ代、ちり紙代、現金で借りた金、靴代を加えますと、これが五千五百五十円になります。それから現金で八千九百十五円をお借りしたということにメモが出ておりますが、この八千九百十五円という金は、あなた先が刻おっしゃられました、夜うどんを一ぱいしか食べさせられないから、あとの食事が非常に足りないので夜食を食べたり、あなたが食べものを買って空腹を満たしたという金に使われたということになるのでしょうか。
  652. 池上よし子

    池上参考人 そういうものも入っておりますけれども、紙銭だとか、そういう雑費が入っております。
  653. 古屋貞雄

    ○古屋委員 紙銭、たばこ銭は別に差し引いてこれが五千五百五十円あるわけです。それを引いたあとが八千九百十五円になるわけです。そういたしますと、八千九百十五円は、ただいま私が申し上げたような方面にお使いになった金であるかどうか。
  654. 池上よし子

    池上参考人 自分たちがよそでもって自由に食べたお金は、玉を割ってもらったとき二百円とか、三百円とかいう半端なお金があったので、そういうものを自分たちの小づかいとしていただいておったのでありますが、そういうおのはつけてない。
  655. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、こう承わってよいのですね。玉割りをしたときの半端の金であるとか、晩に百円とか二百円借りて食代に充てたのはあるけれども、それはこのメモにはつけておらない、こういうことですね。
  656. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  657. 古屋貞雄

    ○古屋委員 そうしますと、あなたがお働きになった間あなたのふところに入る金は大体六万八千八百四十円になると思いますが、ただいま申し上げたような帯代、着物代を引かれ、その他の金を引かれて五千円しか残らないということになる。そのあとの計算をいたしますと、莫大な金があなたのふところに入るべきものが入らないということは、その金が御主人のふところに入ってしまっている。それを押しつけられているということによって納得がいかないから、それで自分たちは飛び出した、これも一つの原因になっている、こういうことでございましょう。
  658. 池上よし子

    池上参考人 ええ。
  659. 古屋貞雄

    ○古屋委員 終りました。
  660. 伊藤秀吉

    伊藤参考人 さっき私言い残しましたので補充させていただきたいと思います。先ほど委員長のお尋ねがありまして、現代の乱れをどうしたら救っていくことができるか、どうしたら粛正していくことができるかというお尋ねがありました。それに対して私が答えました中に、売春処罰法ができれば、男女関係が非常に厳粛になり、国民思想を高めていくことができる、これが大切なことだということを申し述べなければならなかったのを忘れましたので、まことに恐縮でございますが、速記録の終りにつけ加えさせていただきたいと思います。ありがとうございました。皆さんの御熱心なる御審議に対して、全幅の敬意を表してお礼申し上げたいと思います。
  661. 世耕弘一

    ○世耕委員長 参考人方々にごあいさつを申し上げます。  まことに長時間御熱心に御意見並びに重要な参考資料等を御発表願いまして今後本法案の審議の上に重要な役割を得るものと深く信じます。長時間、しかも食事の時間までも過ぎて御協力を願ったことを深く感謝して、あらためてお礼を申し上げます。ありがとうございました。  本日はこの程度にとどめ、次会は公報をもってお知らせいたします。  これにて散会いたします。     午後八時十一分散会