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1955-07-06 第22回国会 衆議院 法務委員会 第31号 公式Web版

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  1. 会議録情報

    昭和三十年七月六日(水曜日)     午後一時四十五分開議  出席委員    委員長 世耕 弘一君    理事 古島 義英君 理事 山本 粂吉君    理事 三田村武夫君 理事 古屋 貞雄君    理事 田中幾三郎君       椎名  隆君    高橋 禎一君       林   博君    松永  東君       眞鍋 儀十君    小林かなえ君       横川 重次君    猪俣 浩三君       神近 市子君    淺沼稻次郎君       細田 綱吉君  委員外出席者         専  門  員 村  教三君         専  門  員 小木 貞一君     ――――――――――――― 七月五日  委員高木松吉辞任につき、その補欠として眞  鍋儀十君が議長指名委員に選任された。 同月六日  委員中村高一君辞任につき、その補欠として吉  田賢一君が議長指名委員に選任された。     ――――――――――――― 本日の会議に付した案件  売春等処罰法案神近市子君外十八名提出、衆  法第一四号)     ―――――――――――――
  2. 世耕弘一

    ○世耕委員長 これより法務委員会を開会いたします。  売春等処罰法案を議題とし、本日は提案者逐条説明を聴取し、しかる後委員各位質疑に入りたいと存じま す。神近市子君。
  3. 神近市子

    神近委員 ただいまから売春等処罰法案逐条説明申し上げます。  第一条。本条は、売春等処罰法目的規定するとともに、この法律によって保護される法益を明確にしたものであります。すなわちこの法律売春及び売春をさせる行為等処罰することといたしておるのでありますが、これらの行為処罰するゆえんのものは、売春をさせる行為等は人間の性倫理にもとるものであり、これらの行為の放任は社会における風紀紊乱を招く重大な原因となる。またその反面において、婦女をして売春という醜業に従事させしめる、すなわち、婦女をしていわゆる白色奴隷化させるという婦女基本的人権の最大の侵害とも目されるべき事態の発生を招くことになる、かような重大な弊害を生ずるということにかんがみたものであります。そしてこのような重大な弊害をもたらす売春及び売春をさせる行為等処罰することによって、風紀紊乱を防ぐとともに、婦女基本的人権を擁護し、ひいては健全な社会秩序維持に寄与しようということが、この法律を提案する理由なのでありますが、同時にこの趣旨を第一条において明確にこの法律目的として規定したものであります。  なおここで付言いたしたいことは、この法律においては、売春及び売春をさせる行為等犯罪をいわゆる刑事犯自然犯、すなわちそれ自体において道徳的に悪いとされる行為内容とする犯罪と考え、いわゆる行政犯法定犯、すなわちそれ自体においては道徳的に無色な、いな、場合によっては道徳的によいとせられる行為内容とする犯罪とは考えていないことであります。従って売春及び売春をさせる行為等は、この法律ができたから悪い行為となったというのではなく、もともと道徳的にも許されない悪い行為であったのが、この法律ができたことにより刑罰が加えられることになった、かように考えなければならないのであります。  第二条。本条は売春ということについての定義規定したものであります。この定義は、いわゆる売淫の実態にかんがみ、特に風紀紊乱の防止と婦女基本的人権の擁護の二点に重点を置いて考えたものでありまして、第一に一、婦女が、第二に、対償を受け、または受ける約束で、第三に、不特定相手方と、第四に、性交する、かかる四つの要件を具備したものを売春定義したのであります。従って、婦女が対償を受けもせず、または受ける約束もせずに不特定相手方性交した場合は、売春とならないのであります。また、たとえ対償を受け、または受ける約束をして性交した場合であっても、その相手方特定の者であるならば、やはり売春にはならないのであります。従って、対償を受け、または受ける約束があるならば、性交相手方はだれでもよいという建前のもとに性交する行為が、本条売春に該当することになるのであります。  なお、ここに「対償を受け」といいますのは、性交の前に対償を受ける場合のほかに、性交の後に対償を受ける場合も含まれ、かつその対償は、直接または間接にその売春を行なった婦女に帰属するものでなければならないのであります。また、ここに「対償」とは、いかなる形式のものにせよ、性交と密接な相関関係を持つ対価として給付されるもので、その内容は、単に金銭に限られず、広く経済的効用のあるものを含むものと解するのであります。  そこで、本条売春が成り立つに当っては、その婦女特定相手方性交したのか、それとも不特定相手方性交したのか、その婦女現実性交の対償を受けたのか、または現実性交の対償を受ける約束をしたのか、等々のことにつき、種々の事実認定を経なければならないことになるのであります。  第三条。本条は、売春をした者またはその相手方となった者に対する刑罰規定したものであります。第一項は、売春をした者またはその相手方となった者に対する刑罰規定であり、第二項は、常習として売春をした者に対する刑罰規定であります。  「売春をした者」とは、第二条に規定する売春行為を行なった婦女をいい、「その相手方になった者」とは、第二条に規定する売春行為を行なった婦女相手方となった男性をいうのでありますが、本条において処罰対象となる「相手方」たるためには、その婦女が第二条に規定する売春行為を行う婦女、つまり「売春婦」であることを、性交のときに認識していなければならないのであります。  次に、本条においては、未遂罪に関する規定を設けておりませんので、本条処罰対象となるためには、いずれも行為既遂となっていることを必要とするのでありまして、行為既遂とならなければ、本条処罰対象とはならないのであります。すなわち、この点について申し上げますと、売春行為というものは、第二条の定義にもありますように、性交という行為と、対償を受けまたは受ける約束という行為とが必要なのでありまして、これらの二つの行為が密接な相関関係をもってともになし終った段階、この時をもって既遂とするのであります。  拘留は、刑法第十六条に規定してあります通り期間は一日以上三十日未満であり、拘留場に拘置されるものであります。また、科料は、刑法第十七条に規定してあります通り、十銭以上二十円未満、ただし、現在では、罰金等臨時措置法によりまして、五円以上一千円未満となっております。  第二項の「常習」とは、反覆して売春行為を行う習癖をいうのでありまして、かかる習癖のある者につきましては、特に重く処罰する必要がありますので、常習として売春をした者に対しては、六箇月以下の懲役または三万円以下の罰金というように、重く処罰したのであります。  この際、常習として売春相手方になる男性、たとえば、常に遊廓に行っては女を買うというような男、このような者も第一項の場合と比較いたしますと、厳罰に処す必要があるのでありますが、何分にもかかる男性の把握は、現行の証拠法におきましてはきわめて困難でありますので、やむを得ず、この際その必要性を認めつつも、処罰対象から除外した次第であります。  なお、本条の罰は、第四条以下の罰に比べますと、はなはだ軽くなっているのでありますが、これは売春の罪を犯す婦女につきまして、その犯罪の動機及び理由等を調査いたしますと、家庭貧困等資本主義的経済組織のあわれむべき犠牲者とも目される者とか、封建的家族生活犠牲者と目される者とかが概して多いのでありまして、これを普通の刑法犯、例えば窃盗とか詐欺とかの破廉恥罪と同視するのがはなはだ酷であると思われるからであります。それをもって考えてみますならば、売春婦に対しては、懲役とか罰金等刑罰を加えるよりは、保護観察等、いわゆる「保安処分」をもって臨み、家庭環境調整職業補導等をはかるべきでありますが、一方いわゆる売春婦一般刑法犯罪者への転落はきわめてその率も多いことにかんがみまして、刑罰による一般予防を重視し、前述のごとき刑罰をもって臨むこととしたのであります。しかしながら、立法者立場といたしましては、この規定があるために苛酷なる取扱いをも是認することにはなりますが、やはり、何ゆえその婦女売春婦になったかということをよく考えていただき、刑罰を科したことによってかえってその婦女をさらに悪化させることのないよう、実行機関の細心の注意を希望するものであります。この立法者趣旨は、売春に対する特殊な幇助または売春を強制するような罪に対しましてきわめて重い罰を科していることによっても、御承知願えるものと考える次第であります。  第四条。本条は、売春行為幇助する売春周旋売春周旋目的とする勧誘及び売春を行う場所を提供する行為処罰するための規定であります。すなわち。第一項は、売春周旋及び売春周旋目的とする勧誘をする者に対する刑罰を、第二項は、売春を行う場所を提供する者に対する刑罰を、そして第三項は、これらの行為常習として行う者に対する刑罰を、それぞれ規定いたしております。  「売春周旋」とは、売春契約成立目的とし、その中間に介在して契約成立のためにする行為、すなわち、売春意思を持って適当な相手方を求める婦女と、売春相手方になる意思を持って適当な売春婦を求める男性との間に入って、その婦女男性とを媒合させる行為であり、「売春周旋目的とする勧誘」とは、売春周旋をするために、口頭によるといなとを問わず、人を誘う行為、すなわち、売春意思を持って適当な相手方を求めている婦女のため、街頭において通りかかりの男性に対しそで引きし、その男性売春相手方となる意思を発生させて、その婦女とその男性とを媒合させる行為をいうのであります。  これらの行為は、第二項に規定する売春を行う場所を供与する行為とともに、第三条に規定する売春罪共犯に該当するものと解せられるのでありますが、これらの行為悪性がはなはだ強いと考えられますので、独立罪とし、本条において規定いたしたものであります。  なお、常習として、売春周旋売春周旋目的とする勧誘及び売春を行う場所を提供する行為をした者に対しましては、刑罰を加重する必要がありますので、第三項において、刑罰を加重する規定を設けたのであります。第五条。本条は、婦女を欺き、もしくは困惑させ、または特殊関係による影響を利用して、婦女売春をさせるような行為処罰するための規定であります。  右のような行為は、第三条に規定する売春罪教唆または幇助に該当する場合が多いと考えられるのでありますが、必ずしもこれに該当しない場合も考えられ、また、教唆または幇助に該当するとしても、売春罪共犯として取り扱うことは、刑が軽きに失するおそれがあると思われますので、特に本条において独立罪として規定したのであります。  特殊関係による影響力を利用して婦女売春をさせるということは、婦女意思決定に重大な影響を与えることのできるような特殊な関係にある者が、その力によって婦女売春をする意思を生ぜしめ、そして婦女売春をさせることでありまして、最近における売春の形態としては、かかるものが相当多いと思量されるのであります。たとえば、特殊飲食店経営者が、その雇傭人である婦女に対し強制的に売春をさせたり、会社の役員が、その会社の使用人である婦女に対し、顧客の接待上無理やりに売春をさせる、こういったものがこの場合に該当するのでありまして、本条規定しております親族、業務、雇用等は単なる例示にすぎす、その他にも婦女意思決定に重大な影響を及ぼすような関係のもの、たとえば師弟関係等が考えられるのでありますが、かかる関係のすべてを利用して売春をさせた者を処罰対象にする趣旨であります。  なお、第一項の規定刑法その他の法律との関係について申し上げますならば、まづ、婦女売淫をさせた者等処罰に関する勅令第一条の規定との関係であります。すなわち、この第一条の規定は、「暴行又は脅迫によらないで婦女を困惑させて売淫をさせた者は、これを三年以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。」というものでありまして、この場合、暴行または脅迫の事実がありますれば、刑法第二百二十三条の規定との併合罪をもって論ぜられたのでありますが、構成要件上、婦女を困惑させて売淫をさせた場合だけに限っている点、はなはだその範囲が狭いといわざるを得ないのであります。この点、「婦女を欺き」と「特殊な関係を利用して」とを入れた本条の方がずっと妥当なものであると考えるのであります。次は刑法との関係であります。刑法第百八十二条は、「営利目的以テ淫行常習ナキ婦女勧誘シテ姦淫セシメタル者ハ三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス」とあります。これは、いわゆる「淫行勧誘罪」であります。また、刑法第二百二十五条は、「営利、猥褻又ハ結婚目的以テ人略取シハ誘拐シタル者ハ一年以上十年以下ノ懲役ニ処ス」とあります。これは、いわゆる営利誘拐罪であります。本条につきましては、主として刑法のこの二カ条との関係が考えられるのでありますが、刑法第百八十二条は、「婦女勧誘シテ姦淫セシメタル者」でありまして、これは、婦女性交する意思を生ぜしめて性交させた者ということで、本条にはなはだ以ておりますが、単なる性交は、第二条の定義にもあります通り売春ではありませんので、構成要件上、本条刑法第百八十二条とでは、異なっているのであります、従いまして、婦女に第二条の定義にありますような売春をさせたときは、本条適用があるものと考えられるのであります。次に刑法第二百二十五条の場合は、婦女略取または誘拐することが構成要件でありますので、婦女をかかる状態において売春をさせた場合には、刑法第二百二十五条との併合罪をもって論ずることになるものと考えられるのであります。  次は、第二項であります。第二項は、婦女を欺き、もしくは困惑させ、または特殊関係による影響を利用して、婦女売春をさせる行為をした者が、その売春の対償の全部もしくは一部を受し、またはその対償の全部もしくは一部の提供を要求し、もしくは約束したときの場合でありまして、かかる場合は、売春をさせる行為自体まことにけしからぬものであるのに、さらに搾取ということが加わるものであり、これはその罪質まことに許しがたいものと考えまして、一年以上十年以下の懲役または五十万円以下の罰金というきわめて重い刑罰規定いたしたのであります。  しかし、この場合にはいろいろな態様が考えられますので、以下その若干の態様とこの第二項との関係につき述べますと、第一に、売春相手方から売春婦に対償が渡され、ボスがその売春婦から搾取する場合、この場合は、直ちに第二項の規定適用されるのであります。第二に、売春相手方から直接ボスに対償が渡され、ボスがその対償の全部もしくは一部をふところに入れた場合、この場合におきましては、婦女がその売春相手方と対償を受ける約束をしていたとき、婦女があとでそのボスからその対償の一部をもらったとき、または、婦女ボスとの間に、その対償の分配ボスが対償の全部をふところに入れる場合を含めて、その分配についての約束があったときにのみ、第二項の規定適用されることになるのであります。と申しますのは、第二条に規定いたしました売春定義というものが、婦女が対償を受け、または受ける約束で不特定相手方性交することとなっておりますので、少くともその対償が婦女に直接または間接に帰属する結果が生じなければならないからであります。従って、その婦女性交はしたが対償を受ける意思が全くなく、しかも実際に対償を受けなかったというような場合は、売春とはならないのでありまして、かかる場合において、たといボスが相手の男性に対して対償を要求し、かつ、対償を収受したとしても、第二項の規定をもってしては、そのボス処罰することはできないのであります。かかるボスは、極悪無比の者として、この第二項の処罰対象からはずすことは、人道上もどうかと思われるのでありますが、その婦女売春をしたことにならぬ以上いかんともいたしがたいのであります。しかし、大がいかかる場合は、ボスとその婦女との間に、事前に対償の分配についての約束があり、前貸金の返済、食費、衣粧料等の立てかえ金の返済等というような名目のもとになされることが多いと思量されるのでありまして、かかる事前約束に基く返済名目の場合は、やはりこの第二項の罰則適用され、従って、かかる極悪無比ボス処罰するために新しく犯罪構成要件を定めなくても、あまり実害はないものと考えられる次第なのであります。  第六条。本条は、婦女売春をさせることを内容とする契約申し込みまたは承諾をした者に対する刑罰規定したものであります。元来、婦女をして売春をさせるようなことを内容とする契約は、公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為でありまして、民法第九十条の規定により、無効なものでありますが、最近の婦女売春をさせるための人身売買事件等をみますと、かかる契約申し込みまたは承諾が相当行われており、しかもこれらの行為は、婦女基本的人権を無視した人道上も許されぬ行為でありますので、ここに処罰規定を設けたものであります。  本条では、右のような契約申し込みまたは承諾をした者が処罰されるのでありますが、ただ、婦女がみずから売春をすることを内容とする契約申し込みをした場合、及び自分が売春をすることを内容とする契約申し込みを受けて承諾した場合は、本条処罰対象とはならないのであります。  なお、本条構成要件は、婦女売春をさせることを内容とする契約申し込みまたは承諾でありますので、現実にその婦女売春をしたかいなかは、この犯罪既遂未遂とは関係がないのであります。すなわち、その婦人が、契約成立後、売春をすることを拒絶したため、契約の履行が不可能となっても、本犯の成立には影響がないのであります。  また、婦女売淫をさせた者等処罰に関する勅令の第二条は、本条と同趣旨のものでありますか、契約をした者とありますので、その点本条の方がより妥当なものであると考えるのであります。  第七条。本条は、営利目的で、売春を行う場所として使用される施設経営し、またはかかる施設管理する者に対する刑罰規定したものであります。このような施設経営または管理ということは、売春幇助とみなされるものでありますが、売春を助長し、または促進させることになるこのような施設経営営利目的をもって行なったり、あるいは管理したりすることは、社会秩序維持のためにも最も憎むべきことでありますので、特に独立罪として本条規定し、厳罰をもって臨むことにいたしたのであります。  なお、本条は、第四条第二項に規定いたしました売春を行う場所を供与する罪にも該当するものでありますが、営利目的をもってかかる施設経営するという点において、非常に悪性が強いと認められますので、特に刑を加重した本条を設けたのであります。  また、かかる施設経営または管理をする者が、その施設において、婦女売春をさせた場合には、第四条の売春周旋罪または第五条の売春をさせる罪との併合罪ということが考えられるのであります。  第八条。本条は、売春を行う場所として使用させる施設営利目的をもって経営する者に対し、種々財産的便宜を供与する者に対する刑罰規定したものであります。このような者は、売春施設経営の罪に対する幇助者でありますが、社会秩序維持のために最も憎むべきものであり、かつは、その悪性のはなはだしく強い売春施設経営幇助するということも、また大いに憎むべき行為ではありますから、ここに独立罪として規定いたしたのであります。  第九条。本条は、両罰規定でありまして、第六条売春をさせる契約)、第七条(売春施設経営又は管理)及び第八条(資金等の供与)の犯罪について、その行為者処罰するとともに、その監督的立場にある法人または人をも処罰するための規定であります。  第六条から第八条までの犯罪は、その性質上特に行為者処罰するとともに、その監督的立場にある法人または人をも罰しなければ、かかる行為を防止することの徹底が期せられないと考えられますので、特に本条を設けたのでありますが、なお、これらの犯罪の悪質な点を考慮いたしまして、免責規定を設けないことにいたしたのであります。  第十条。本条は、第三条第二項または第四条から第八条までの犯罪には、いずれも懲役刑罰金刑とを規定しておりますので、これらの犯罪につきましては、情状によりまして、懲役刑罰金刑とを併科することを規定したものであります。  これらの犯罪に対しましては、その情状により、体刑と財産刑の両方を科することが、より一そう処罰の効果を上げ得る場合があると考えられるのであります。  附則第一項。附則第一項は、この法律施行日に関する規定でありまして、この法律は、公布の日から起算して三カ月を経過した日から施行することといたしました。  この法律施行を延期いたしましたのは、現に多くの地方公共団体が設けている売春取締りに関する条例との調整並びにこの法律において規定いたしました売春及び売春をさせる行為等を現に行なっている者の転向または転業のための機会を与えようといたすものであります。  現在多くの地方公共団体が設けております売春取締りに関する条例は、種々さまさまでありまして、この数多い種々さまざまの条例が存在している際に、売春等処罰法を即日施行というようにいたしますと、法律条例との一致しない部分につきまして、その解釈並びに運用に関し、種々の困難と混乱とを生ぜしめるおそれがありますので、この法律公布後三ヵ月の猶予期間中に、各地方公共団体におきましては、出来得る限り、条例を整理されまして、この法律施行後も残すものは残し、この法律施行の際に廃止するものは廃止いたしまして、法律施行の際、直ちに円滑なる運用が見られるように取り計らっていただきたいのであります。  附則第二項。附則第二項は、勅令第九号の廃止及びこれに伴う経過措置規定いたしたものであります。  本法案は、勅令第九号の内容を全部吸収して規定いたしましたため、勅令第九号はもはや必要がなくなりましたので、これを廃止することにいたしたものであります。従いまして、勅令第九号が廃止される以前において、勅令第九号の各条に規定した行為を行なった者に対する罰則適用につきましては、勅令第九号の廃止後も、なお従前通り勅令第九号の各条の規定による罰則適用をするという経過措置規定いたしたのであります。
  4. 世耕弘一

    ○世耕委員長 これにて逐条説明は終りました。  次に本案の質疑を行います。質疑は通告に従ってこれを許します。椎名隆君。
  5. 椎名隆

    椎名(隆)委員 二、三お伺いしたいと思います。この第二条に規定いたしました売春定義の中には「婦女が対償を受け、又は受ける約束で不特定相手方性交する」ということに相なっておるのでありますが、そういたしますと、この中からは、いわゆるオンリー、昔はラシャメンと言ったのでありますが、今はオンリーと言います。それとめかけ、いわゆる二号と言われておるのでありますが、これは除きますか。
  6. 猪俣浩三

    猪俣委員 この第二条に売春定義がありまして、この売春なるものは唯一の構成要件からできていると説明した通りであります。その中に構成要件の一つとして、不特定相手方と取引するということになっておりますから、そのオンリーと称するのがいわゆる不特定相手方と見られない各種の状況がありますならば、本罪には触れない。そのめかけと称するものが、やはり不特定と見られない場合には、つまり特定したものだということになれば本罪にはならぬと思いますが、ただオンリーと称し、めかけと称しましても実はオンリーにあらずして、ツー、スリーなんというのであれば、これまた一がいに名前だけでは言えない。まためかけと称しましても、土曜、日曜、月曜みな違うというようなことになれば、これまた名前だけでは言えないのでありますが、要は不特定であるかどうか、これは具体的事実に即しまして裁判所の自由なる心証によって決定することになるのじゃないか、こういうふうに考えております。
  7. 椎名隆

    椎名(隆)委員 そうしますと、特定しておればいいのだということになると、毎日々々一人づつ特定しておる場合はどうでありますか、これは売春になりますか、なりませんか。
  8. 猪俣浩三

    猪俣委員 そういう特定という意味を、それは取引する瞬間には特定するに違いない。特定しない幽霊みたいなものとは取引できません。だから特定、不特定ということをいかなる意味にするか、これは社会通念によって解決するよりしようがないと思います。だから毎日相手が違うようなものは、われわれ提案者として所期する、それは特定したとは考えられません。
  9. 椎名隆

    椎名(隆)委員 日本から売春をなくしましょうという衆参婦人議員団から出しておるものですが、この中に正しい男女関係確立のためにということが言ってあるのですが、もしかりに正しい男女関係の確立のためだとすれば、めかけも除かなければならぬし、オンリーも除かなければならぬと思うのですが、どんなものでしょうか。
  10. 神近市子

    神近委員 そのことはもちろんでございます。そうしてそのためにはいろいろ審議したことでございますが、この条文の中にめかけを含めるということが法律作成の技術上非常にむずかしい。それよりは民法の重婚の罪の多少の字句の改正というようなことになれば、その目的を達せられるのでないかという結論に来たのでございます。といいますのは、今の規定は、重婚の罪は、戸籍上に二通りに登録してあるという場合のみをとがめているのでございまして、事実上の重婚はとがめられていない。それからもう一つの困難は、お互いによく存じておりますように、妻が精神的あるいは生理的に結婚生活の継続が不可能であるという場合に、おばさんともあるいは二号さんともいわれるような人が家族の中におりまして、かえってその家族に都合がよい、あるいは子供たちも幸福になっているというような場合があるのでございます。そういう場合のことも考慮いたしまして、それはいろいろ御意見が出ておりますけれど、あの民法上の規定を多少変えまして、妻からの親告罪か何かということにならないかというようなことで、わざとこの中から一応除いたのでございます。
  11. 椎名隆

    椎名(隆)委員 売春婦とめかけ並びにオンリーとは、風紀を乱す点についてはどっちがどっちだと思いますか。
  12. 猪俣浩三

    猪俣委員 御存じのように売春を悪と見ての立法でありますが、さればというてこれをどの範囲まで売春と見るか、これはいわゆる基本的人権との調和上、やはり考慮を払う限界というものがなければならぬのであります。もちろん、めかけ、オンリーと称しても、あなたのおっしゃる通り一種の売春に違いない場合が多々ありましょう。しかしながらここに特定、不特定といたしましたのは、やはり人権尊重という範囲におきまして、公共の福祉上やむを得ざるものだけを取り締るという一つのしぼり方として不特定というものを出したのでありまして、まあ限界を不特定というところでしぼるというところに持ってきたのであります。御説の通り、めかけやオンリーなんと称する者にも、社会風教上、本案の対象になる者以上に、はなはだ不都合な者もあると思いまするけれども、一応不特定というところに限界を置きまして、人権の保障との調和をはかったというふうに御理解願いたいと思います。
  13. 椎名隆

    椎名(隆)委員 この法律ができると、結局、今まで無理して遊び歩いたいわゆる淫売買いに行っておった連中が、法律ができたがために、処罰されてはつまらぬ、毎晩々々遊びに行くならば少しくらい無理してもめかけを持った方が得だというふうな考えになることはありませんか。
  14. 猪俣浩三

    猪俣委員 この法律がめかけ奨励法になるようでは大へんでありますが、そこは結局この法律ができましてからの行政機関の取締りと更生と倫理教育――私どもは、この法律だけで売春行為が一挙に世の中からなくなるとは思っておりません。更生施設と教育活動、保安処分、三者一体になりましてこの人類悪と戦わなければならぬ、その一つの突破口として本法を制定したものでありまして、これがめかけ奨励案にならぬように、他の保安処分及び教育活動、この方向を十分やらなければならぬと思うのであります。
  15. 神近市子

    神近委員 椎名さんの御心配はごもっともだと思うのですけれど、これは、水と、人間の感情生活は私は違うと思います。ここでせきとめられたからめかけになる、そう安直に水の流れを変えるようなものではなくて、この法律の出ました効果によりまして、たとえばそういう習癖を持っていた人が、子供に対しあるいは自分の家族に対し、友人に対し、多少の感情の抑制ということを学ぶようになるだろう、そうして私どもはその学ぶことを望んでいるわけでございます。ですから、あなたのおっしゃるように簡単に、こっちをとめられたからこっちにいくというようなことはないと信じております。
  16. 椎名隆

    椎名(隆)委員 世の中はなかなかそういうようなわけにいかぬのでありまして、今も猪俣委員がおっしゃられたが、この法律ができたら売春がなくなるなんて考えたらこれは大ばか者であります。ちょっと調べたのですが、結局集娼制度を圧迫すれば散娼になる。わが国におきましても慶長の十七年、庄司甚右衛門が徳川幕府に、吉原というところに集娼させてもらいたいということで、全国の敵娼――江戸時代でございますから江戸の散娼を集めて、とりあえず作ったのがあの吉原なのであります。ところがあまり吉原が栄えていかぬ、これじゃしょうがないというので一時夜間の営業を禁止した、夜間の営業を禁止するといわゆる水茶屋あるいは湯女、矢場など散娼制度になって現われて、かえって集娼制度よりも弊害が多くなったので、また夜間の営業を許すようになった。大正六年当時救世軍あるいは廓清会がいわゆる公娼制度に対する何といいますか、足らないところを何とかうまくやって、公娼をある程度まで助けようじゃないかという運動が非常に多くなった。しかしながらこれを少くするということはできなかった。どのような方法をもってしてもできなかったのが、敗戦という結果に基いてマッカーサー司令部からがちゃんとやられたのが公娼制度の廃止なんです。公娼制度が廃止せられたために、現在のようにいわゆる散娼が各地至るところに散らばっているのです。この散らばっているものをして、さあ、この法律ができたからといって、一ぺんにというようなことはおそらく私はできなかろうと思うのです。ただ私たちの一番心配することは、この法律ができましたら、ちょうど未成年者禁酒法とかあるいは未成年者禁煙法、最近には食糧管理法などは法律があってもないのです。生き長らえて残骸をさらしている。食糧管理法は時たま取締りをいたしますけれども、結局あってもないと同じような状態であります。この法律ができたら、さあとやってみても実際はおそらく実効というものは私はなかろうと思う。しばしば言われておりますが、フランスとかあるいはイギリス、欧米ではすでに全面的に禁止している、全面的な禁止の規則ができたからといって、娼婦制度が消えてなくなってはいないのです。どうしたならばこの残骸を最低限度にとどむることができるか。政府としては全面的に否認する法律を作っても、果してその法律が実行できるかどうか憂うるのです。むしろ国民全般に順法精神をなくすようなことがあっては、わずか五十万程度の人間のために八千五百万の人間に、法律はいかに作っても実行のできないものだというような観念を与えたとするならば、私はむしろその方が大きな損害じゃないか。こういうふうに考えるのですが、そういう点どういうように考えておりますか。
  17. 神近市子

    神近委員 椎名委員のいろいろの御杞憂はよくわかります。そして日本で今まで徳川時代からの売笑禁止制度が失敗したということもよくわかります。ですけれども、私どもが何よりも考えていただきたいことは、なるほど六十万の婦人に関することでございますが、このまま一体おいてよかろうかということ。そして公娼制度を存置するということは、これは世界的にいっても恥かしいことで、トルコとコスタリカだけが今公娼制度が残っております。そしてほとんど半公娼制度が残っているのは日本。そしてわれわれ日本が近い将来必ず国連に加入するという場合が考えられますから、その国内態勢をある程度整えておかなくちゃならないということが一つ。これはこの前犬養健氏が法務大臣の時代に強く主張されたこことでございまして、ともかくできることからやらなければならないということ。それからこの一つの法律で、すごく効果を発現しようということは、これは望めないことは、お説の通りでございます。しかし私どもはどこかに橋頭堡を立てて、そこからいろいろの付属法を作る。今日すでにございます四つ、五つの売春に関する、あるいは人権に関する、あるいは児童保護に関する法律の実動力、柱をここに立ててあげなければならないということ、それから付属法が逐次実施法に、あるいはたとえば外郭の婦人の団体なんかが今日この立法をすごく望んでいられる、そういう方々の協力体制も必ず私は実現するということを信じております。その方法につきましては、私ども多少自信も、それから計画も持っておりますけれども、これは法案の審議にあまり関係がないことなので、今御披露は申し上げません。しかし逐次この態勢が整うということ。失敗いたしましたのは、なるほど食管法なんかの失敗を今御指摘になりましたけれども、児童保護法に関する成功の面も、また見落してはならないと思います。初め児童福祉法が立法されたときに、日本に今までないようなこういう法律を作っても、何の役にも立たないんじゃないか、今まで子供はほったらかしておって大きくなってきたんじゃないかというような御意見があったということを伺いましたけれども、あの児童福祉法が立法されますと、社会にその協力態勢が非常に広範に広がって、ともかく多少今日見るべき成績を上げているという点も、御勘案いただきたいと思います。私ども決してこれだけでこの実施面――今すぐに問題になるだろうと思いますのは、実施面におきまして警官その他の末端の公吏との関係とか、あるいはこれに対してどういう特例法があるかというようなこともきっと問題になると思いますけれども、この一本ですべてが律せられるということは考えておりません。まずこの全国を風靡している悪風と、そして民族の将来にとって嘆かわしガンを残す性病の面に、風紀の面に、あるいは勤労精神の喪失の面、これに何とか一つ方向を与えて、ここからいろいろのことを考えていただきたいというような意味でございます。
  18. 古屋貞雄

    ○古屋委員 椎名君の御質問に神近さんから御説明申し上げましたが、補足いたします。問題は性道徳の確立であり、倫理の確立でなければならないのですが、現在のような情勢になっておりますると、一般の方たちは売春をするということは悪いものであるという認識が非常に薄いのです。ことに日本の過去の封建制時代の思想にとらわれて、家のために娘が売られていくのは、これは家に対する自分の奉仕である、犠牲であるというような、基本人権から考えますれば、非常に誤まった考え方が相当日本にあるわけであります。しかるに国が刑罰においてこれを罰する、これは悪であるということの教育が今まではっきりしていないのです。一方において教育が行われ、一方において社会保障制度が行われ、両々相またなければならないのでございますけれども、まず最初に考えなければならぬことは、かようなことは悪いことであるという認識を一般国民にはっきりと与えることが一番大事なことであります。その点において、各地方地方の公共団体の条例に基いて処罰いたすことの規定は不十分ながらございますけれども、少くとも国の立場から、かようなことは悪いことだという認識をまず国民に与えることは、私はこの法の目的にしてねらいの非常に大きなところだと思うのであります。従いまして、この法律が行われて、ただいま猪俣さんからも御説明申し上げたように、これによってかような弊風、かような状況が完全に食いとめられ、改められるとは私どもも考えておりませんが、一番大事なことは、国民一人々々にこれは悪であるというはっきりした性道徳の確立があれば、これが解決の一番近道である、これが一番中心でなければならぬ。しかしながら、くどいようでありますが、ただいま申し上げましたように、国の法律として、これは悪であるという一つの――教育の方面においては、基本人権の尊重ということで律されておりましょうが、他のいろいろの犯罪、あるいは他の社会悪に対する制裁と比較をいたしますときに、その非常に大きな比重から考えましても、これを処罰しなければいかぬのだという一つのはっきりした国の確立された意思表示というものがなければならない。そういう意味において、この法案はどうしても皆さんの御審議をいただいて通していただきたい。そうして実施面においていろいろと欠陥がございましたならば、改めて、一方においては教育、一方においては社会保障、こういう面と相まって完全にやっていきたい。  ことに順法精神の問題が非常に御懸念のようでございます。御質問のような点については相当考慮を払わなければならないと存ずるのでございますが、これは他の経済統制に基く取締りの処罰というような問題とは趣きを異にしまして、ただいま提案しておりますこの処罰法案が通過して実施されますならば、さような統制違反に対する処罰法などと比較いたしまして、それほど法律が行われない、順法精神に弊害を来たすようなことはないように私どもは考えておるのであります。  ただし一方におきましては、御承知の通り、独身者の性の解決について非常に大きな問題がここにございます。これはもちろん日本の現在の経済事情においては家庭が持てない、夫婦生活を営むだけの経済維持が困難である、しかし一方においては、性の解決をしなければならぬというせつない人間の要求でありまする重大な問題が伏在いたしております。伏在はいたしますけれども、過去のこうした問題の経験に徴しますと、やはり独身者がこういうちまたに出入りする弊害よりも、むしろ妻帯者が出入りすることの弊害が多いという統計から考えましても、私は、教育面において、また一方においては日本経済の復興する過程において、ある程度までこれは実施ができるのではないか、かように考えておりますために、この点御了解をいただきたいと思います。
  19. 椎名隆

    椎名(隆)委員 この法律が、性道徳の確立だ、あるいは倫理の確立だということになってくると、結局めかけも入れなければいけないし、オンリーも入れなければいけない、中途半端な規定だと私は考える。ことに婦女子が貧乏のために、あるいはうちの犠牲のために身を売って一時の窮乏を助ける……。結局政治の貧困で貧乏だということになってきておりますが、こういうことは統計をお調べになっておわかりかどうかわかりませんが、貧乏のためにああいうところへ身を沈めたのと、自分自身がぜいたくをしたさに身を沈めたのと、パーセンテージはどの程度になっておりますか。
  20. 神近市子

    神近委員 これはいろいろ調査がございます。私が今頭に入れておりますのは鹿児島県の場合の二千五、六百件の調査でございまして、その約半数が貧困のため、それからあと三十何パーセントが虚栄心だったり、あるいは楽をしたい人であったりというようになりまして、あとごく少数が特殊の、夫が失業した、あるいは子供がある妻のケースとか、そういうふうなものでございました。それで比較して貧困が多いということは事実でございますけれども、一般に考えられているほど、あるいは流布されているほど貧困が大多数の理由とはならないように感じました。明日また私は別にちょっと参考にしておるものがございますから、今はその鹿児島の例で申し上げましたけれど、あとまた持って参りましてお答えをいたします。
  21. 猪俣浩三

    猪俣委員 椎名委員の先ほどからの御質問は、実は本法の非常な盲点でございまして、われわれといえども大いに悩んでいる点であります。しかしこれを克服しなければわれわれの明日というものは明るくならぬという決心のもとにこの提案がなされたものでありますが、第一にこの法案の中、心は椎名さんもごらんになった通り売春をした婦女子及びその相手方というものは拘留とかあるいは罰金とか、ごく軽微な、罰金も千円以下のもので処遇いたしておりまするし、彼らを食いものにするような連中に対して厳罰をもって臨んでいる。それですからこの法案の中心がどこにあるかは御了解いただけると思うのでございますが、それならば売春婦及びその相手方処罰しないでいいじゃないかという御議論はあるかもしれませんが、椎名さんも弁護士であらせられるので御理解いただけるかと思うのでありますが、その一つは売春それ自体というものは悪だという、自然犯だという考えを強からしめる刑事政策でもあるのでありますが、なおまたこのわれわれがねらい定めておりまするところのいわゆる業者、これを捜査をいたしますときには、この売春婦及びその相手方、この者が犯罪だということになりませんと捜査は非常に困難をきわめるのであります。さような意味においてやはりこの売春婦及びその相手方処罰しなければならぬという結論に達したのであります。これは結局家庭裁判所あたりの保安処分あるいは厚生省あたりの更生施設と両々相待ちまして、かような売春婦等の救済はまたすみやかに考えなければならぬものと思います。なおわれわれが政治上の一つの観点から見るならば、かような法案を出すことによって、今まで政治の貧困をカムフラージュいたしました点が、白日のもとにさらされまして、今度はこの売春がどんどん処罰せられるということに相なりますならば、これは政府としてもほっておくことができない。ここに社会保障制度というものがだんだん完備の道に向うであろう。今まで政策の貧困を、この哀れな犠牲者の自給自足によってごまかしてきた。それをごまかし切れない点に追い込んで、国家の政策の大転換を来たさせなければならぬ。今まで放置されましたる貧乏に対しまして、これが救済の手を国家が差し伸べなければならぬように追い込む一つの法案でもある。今あなたの御質問によると貧乏のために転落する者ということですが、これは労働省の婦人少年局の統計でありますが、生活苦のために転落した者が調査の五七%を占めておる、好奇心、虚栄心、甘言、友達の勧誘等の動機による者が四%ないし八%、自暴自棄、家庭不和、強姦、失恋などというのが一%などでありまするがゆえに、やはり大部分が生活苦にあるということはお説の通りだと思うのでありますが、さればといってそれを国家の他の施設、他の政策において救済せずして、哀れなものたちの貞操を売ることによって自給させることによってごまかしていくというところが、われわれが徹底的にこの法案を通してもらわなければならぬという熱意に燃える動機でもあります。どうぞそれを深く御理解していただきたいと思います。
  22. 椎名隆

    椎名(隆)委員 私もでき得る限り売春行為により生ずる弊害を少くしたいというのが念願なんです。この法律に根本から反対するのじゃない。でき得る限り世の中を明るくしたいというのは、これは何人も持っている意思だろうと思います。何とかして日本におきましても明るい社会を作るのには、やはりこういう制度を作ることが望ましいとは思いまするが、しかしながらこの売春等処罰法をもって完全なものだとは私は考えていないのです。もう一歩突き進めて、さらに研究しなければならぬ点がありはしないか、これを考えている。政治の貧困、政治の貧困とよく言いますが、政治の貧困貧乏ということは、ちょうど仁徳天皇のときから貧乏はつきものなのです。高き屋に登りて見れば煙たつ、あのときから貧乏ということははっきりわかっておる。しかも歴代の権威者、為政者が貧乏を駆逐しようと思いましても、今に至るまで貧乏の駆逐ができない。それで今悩んでいるのです。結局この売春も、人皇四十五代聖武天皇の天平年間から初めて売春というものができて、七十二代白河天皇のときに非常に旺盛をきわめた。それから平家が没落するに及んでいわゆる売春というものが全国的に広がっていったのです。その当時水辺にいたものを遊女、山の中にいたものをくぐつと言っていたのですが、結局鎌倉時代になりましてから遊女になった。売春に対する取締りとしては、吾妻鑑を読みますと、里見義成というものがまず売春取締りの別当になった。結局その当時から売春がいけないというのでおそらく取締りができたのだろうと思う。しかしながら現在に至るまでもその取締りというものはできなかった。何千年かの歴史に徴して見ましても、売春制度を絶滅するということはできない。洋の東西を問わず、あるいはいかなる時も、いかなるところにも、人間が集団するとなれば、売春というものは当然つきものなんです。これを一挙にして根本的になくせしむるということはおそらくできまいと思うから、でき得る限りその惨害から救い得る方法、どういうふうにしたならば一番よいかということを考えてやらなければならぬと思う。しかしこの前も厚生次官が来て話してくれたのですが、売春法ができまして、三カ月の期間を置いてから執行するのだということになりますと、――業者なんかは私はどうなってもいいと思う。先ほど猪俣委員もおっしゃられた通り、女を食いものにしておるということは、これは男としてもあるいは業者としても、人間としては私はくずのくずだと思っておる。業者はどうあろうとも、その六十万あるという人間がわずか三カ月間のうちに救われるかどうか、これが私は非常に心配なんです。ところがこれは神近先生もおそらく御承知でございましょうが、明治維新のころにイギリスから日本へ東洋遠征艦隊というのが来ておる。そのときにはインドに寄り、中国に寄り、安南に寄って、船乗りに女はつきものですから、どこの港へ行ってもまず第一に女を掘り出したのですが、インドといい、中国といい、安南といい、いずれもひじ鉄砲を食わせている。ところが日本へ来てみますと日本の女は非常に歓迎した。だから東洋遠征艦隊は、日本はオアシスだ、オアシスだ、これなんです。今度の戦争に負けてから後もそうです。戦争に負けてから後にオンリーという連中、よそから勧められたか、自分から突き進んだか、これは新聞紙上で御承知だろうと思いますが、むしろ日本の女自身が――もっとも日本の女は非常に異人さんが好きなんです。異人さんには突き進んで身をまかせておる、こういうような状態なんです。基本的人権の保護だ、基本的人権の保護だと側から一生懸命教えてやっても、女自身が現在の程度では、自分の身を進んで兵隊さんにまかしているというのが実情であります。法律適用されてからこの六十万の人間をどういうふうにしたら一体救えるのでしょうか。明治維新のころにも横浜に岩亀楼という遊女屋があった。そこにいた喜遊という女郎さん、これがアメリカの人間に身をまかせるかまかせないかということが大きな問題になったときがあります。そのとき、「露をだにいとうやまとのおみなえしふるアメリカにそではぬらさじ」と言ってぴしっと鉄砲を食わしたのです。私はこういう女が日本にほしいのです。たとい自分は遊女をしておっても、アメリカ人から好まれて、どうだと声をかけられたときに、アメリカさんいやでございますと言ってひじ鉄砲を食わした、こういう気魄のある女をまず作らなければならない。それは、先生あたりは一生懸命やっておられるでしょう。(笑声)  この間も厚生省から紅露政務次官が来たときに、六十万の人間に対して更生施設に入っておる者はどのくらいあるかと猪俣委員から突っ込まれたようですが、九百七十五名だというのです。その予算額が幾らかというと二千五百万で、地方でもって二割出すからちょうど三千万、六十万のいわゆる娼婦がいるのに法律を作ってかりに全部のパンパンが釈放せられたということになってくると、町に酌婦がはんらんして、あしたからどうして食っていくことができるか、この前委員会で新宿へ視察に行った。私が行ったのは夢園という家だ。二十二、三の美人さんがおりました。一体どのくらいの収入があるかと聞いたら、三万円あると言う。女で三万円はいい方だ。それで家へどのくらい送るかと言うと、一万三千円家へ送っておる。兄弟は五人おる。あなたが働かなかったらどうするかと言うと、小さい子供だけで、親は働けないから、一万三千円送って家でもって生活をやっておる、こう言う。もしその女がこの規定によってやめたとすると、一体どういうふうな方法で生活していくか、この法律公布されて三カ月たつとやめなければならない。そういう立場にある女も相当あるものと私は信じておる。それに対する生活は一体だれがどういうようにして保障するか、こういう法律はできましたが結局またもとのパンパンに返らざるを得ないということになりはしないか、これを私は心配しております。
  23. 神近市子

    神近委員 椎名さんがよく学問しておいでになるので大へん驚きました。まあいろいろ御意見はございますけれども、仁徳天皇の時代からわれわれが売笑をしていたというようなことは、これはあの時代あたりまではまだ柴垣制度やなんかがあって、自由社会の末期であると私どもは見ておりますので、あの時代の売笑という制度はちょっと当らないと思います。でも自由性交というものは行われていたということは言えると思います。  それから、いろいろ御返事することがたくさんあったと思うのですけれども、あまり話が楽しかったものですから(笑声)つい聞き落してしまって、問題点をここへ記録しておりませんでした。アジアに白人が来て、そうしてインド、ビルマ、あちらで振られて、日本に来て日本で大へん歓迎されたということもおそらく私は事実だと思います。今日私どもがどうしてもこれを作りたいのは、国家の体面上――まあ体面ということはそう実質的には私は考えていないのですけれども、まずどうしても体裁としてなくちゃならぬ。というのは、この間アジア会議がインドにあったときに、参議院の人がおいでになった。それから日本の婦人団体がメッセージを送りまして、そうして日本も民主主義になりましておかげさまで婦人がいろいろ活動を始めました、売春等処罰法もそのうちにできるつもりでございますというようなことを言いましたところが、そのメッセージを読みましてアジアの婦人たちがびっくりした。われわれは日本はアジアにおける非常に進歩した国家としてそのあとについていくつもりで仰いでいた、ところがその問題はまた解決していないのか、われわれはもうすっかり解決していたんだと思っておった。まああきれたというようなことで、笑われたというのはこれはほんとうでないのですけれども、実態としてはそういう状態でございます。それで、これは体裁上からも国にそういう処罰法があるということはぜひ必要だ。これはさっき国連の関係等についても申し上げました。アジアの諸国の中でも婦人の人権に関する考え方の上でわれわれが最も劣っておる。私はそうありたくないということも考えます。  それから私ここでそのパーセンテージを申し上げたのは、婦人少年局の方は貧困者の数がちょっと高くなっております。それは調査においでになるとよくわかると思うのですけれども、子供をかかえた貧困未亡人、これが最も社会の同情を引くということをちゃんと女の人たちは心得ておる。それで私がわざわざ鹿児島の調査を申し上げたのは、その方が実態に近いと考えたからでございます。それは明日ちゃんと持って参ります。  それで貧乏ということは事実でございますけれども、この間の放送のときにも吉原あたりの業者の人たちが、社会がほうっておくからわれわれが貧乏な人たちに雨宿りをさせて上げるんだということをおっしゃったそうです。大へんうまい表現で私はなかなか上手だと思って感心したのですけれども、ともかくわれわれが雨宿りの場所を作ることができないから、ああいう搾取をなさる人たちにまかせておいていいかどうか、私どもはなるほどありがとうとは言えないと思うのです。こういう搾取の実態がひどいもので、この間おいでになったときに月に三万円かせぐ女があったというお話でしたけれども、私のところに投書が来ておりますのは、新宿でございまして、やはり一日に楼主が大体三万から四万のもうけがございます、ここに一軒あると同時に吉原にも同じような家を持っております、こういうことが書いてありました。それからこの二十六年でありましたか、新潟の原長栄という次席検事がおいでになって、新宿のある一人の業者が問題になったときに――あのときの報告は御調査の結果だと思うのですけれども、年間の税金が二千六百万円でした。そういうことを考えますときに、現にもうすでに一日三万から四万、私はこれを国会議員の歳費の高に比較したのですけれども、ちょうど閉会期の月給高であります。ともかく一日ですよ。それで吉原の方にも同じような店がある。そうすると約七・八万から十万の利得が一日上っている。女の方は三万円というのは一月の収益です。搾取は非常に高度になっている。大体一日千円のうちで二百二十円が女の手取りでございます。これは私どもいろいろ調査しました結果です。そのうちから化粧をし、美容室に行く。それからげたを買い、たびを買い、着物を買い、子供に送金するというような率になっております。一時にそれを収容できる場所はございません。なるほど厚生省の案を聞きましても、それはできません。ですけれど先例がございます。こういう法律ができたというときにはさっとほかの方に引くのです。そしてどうしても擁護しなければならぬ人たちは、大体千人に一人という率が前に出ているようでございます。それで思ったほど来られないということです。保護をする施設が六十万すぐ入れるような保護はできない。必要がないということは、十五国会の参議院の議員立法のときにも同じ論拠が出ておりました。それくらいでございます。
  24. 古屋貞雄

    ○古屋委員 補足いたしたいと思いますのは、やはり問題が基本的人権の問題になって参りますから、私ども申し上げたいのは、社会は動いていると思うのです。毎日進歩して参っております。ことに長い間日本のかっての教育が基本的人権を無視して一つの強い者とか、あるいは一定の地位におります者に対して自分の身命を犠牲にいたすことが、一方においては非常にとうといことだというような思想が長く日本には教育され、流れてきておりますところに戦争のああした原因を作り、敗戦の今日の民族の苦しみが生まれておる。こういうことから考えました場合に、一応どこまでも基本人権を尊重するという建前をもっていかなければならない、と同時に憲法に保障された最低生活の保障という問題が国民にはあるのであります。今お話のような個人が同じ仲間の個人を――今の御説明を非常に善意に解釈して、困る人を救っておるのだという御解釈を願いましても、個人が個人を助けるということの前に、国が個人の生活を保障するという憲法の精神にのっとりまして、社会保障制度の確立の上からこれをながめなければならない。従ってこの法律が実施されることによって生活に翌日から困ります問題、即その人々をどうするかという切実な問題がここに提供されて参りますことは、一方においては基本人権の尊重という面、一方においては封建制度の思想的な面を考えますならば、この処罰法が制定されることは一つの思想的な革命であると思うのです。基本人権を尊重するという立場から考えますならば、一つの革命なんです。でありますから革命の場合にはこれに伴う弊害が起るでしょう。混乱もございますが、それは一時の過程的な問題であって、一定の過程の経過によってはやはり本道に復すべきものだ、かように考えますときに、多少の混乱や弊害はございましても、正しい国民の生活に大事な基本の線にその処罰法によって目的がまとまってくるという見通しにわれわれは立って、この処罰法の提案をいたしたわけでございます。従いまして御説の通りこれに基いていろいろの弊害は生じましようし、いろいろ御希望のように国民の心がまえというものが変って参らなければならない、かように考えますけれども、何にいたしましても、国民の生活上に困っております問題については、一方においては現在のいろいろの制度の根本的改革も必要となってくるでしょう。それはまたかような処罰法によって促進されると私は考えるのでございます。また一方御説明がございました日本の御婦人の関係でございますが、これをいろいろ歴史的に見て、日本の御婦人が外国の人あるいは男に売春をするということは、一方においては村人、親族の人から非常に奇特な行いである、非常にりっぱな行いであるというように推賞をされた時代がございますし、ある場合にはそういうふうな義侠的な、一人が犠牲になって多数の人を救ったのだというような考えを持たした時代がございましょう。しかし現在のような基本的人権の尊重を基礎にした教育制度のもと、進歩された現在の日本の教育のあり方から考えますと、やはりそういう考え方は徐々に薄らいでいく、その薄らいでいきます日のすみやかならんことを私は希望いたします。そういう点から考えましてもこの法律がいろいろの面において社会の欠陥、思想的な欠陥、さような悪を助長することを処罰することによって、正道に導き得る一つの近因ともなり遠因ともなり、相当の力があるものと考えておるのでありますが、なお民族的な関係から考えましても、今私どもが非常に憂えるのは、日本の民族は三千年以来他の民族から圧迫を受け、しいたげられたという歴史はなかったので、植民地化され、あるいは植民地的な扱いを受け、一種の優越的な民族から圧迫を受けて長い間苦しめられた他の民族と比較すると、日本の人たちは民族的の考え方が非常に薄い。しかし私はただいまお説のように、日本の男よりも異人さんが好きなんだというこういう考え方を持つことが、民族的の誇りということに対して考え方が間違っておるし、考え方が薄いのだ、こういうことを考えますと、かつては日本の女が外国人に対して一番サービスがよかったという時代は――根本的にありますことは封建的な、いわゆる他人のために犠牲になることがうるわしい、りっぱな行いであるというふうに考えられた誤まった考えから出発しておると私は思う。しかし最近、民主憲法が制定されて今日まで期間としては非常に短かい。けれども非常な進歩と申しましょうか、変化を来たしております。日本の現状におきましては、少くとも売春に対する目安をはっきりといたす時期がもう到来しておるのではないかともかように考えておるのでございまして、御質疑ごもっともでございますけれども、要は結論は一体この法律が制定されることによって、現在の社会を明るくする方面また国民の生活の安定の方面に方向が向われていくということに相なることでございますから、その点多少の御議論あるいは多少の修正、いろいろのこともございましょうけれども、一応さような点を十分お考えを賜わりまして、とりあえず――完全なものではないと私ども考えておりますけれども、御協力を賜わりまして、通過をさせていただきたいと思います。
  25. 椎名隆

    椎名(隆)委員 仁徳天皇時代の問題になると、萬葉集にあるのです。萬葉集に、天平二年の十二月、太宰権帥で大伴という人が上京する際に、遊行女婦から歌を二つ贈られているのです。そのときは純然たる淫売になっていたのです。先ほども申し上げました通り、この法案通りましたら、三カ月間経過してから執行する。六十万あるという人間を、五十九万五千人は削ってしまっているのでしょう。五十九万五千人の人間は、保護も何もしなくても自分のうちに復帰できると仮定して、あと五千人残る。この五千人が、かりにうちへ送金一万円ぐらいずつやっているという場合に、毎月一万円ずつ送らなければ生計が立たないという基本的人権、これを尊重しなければならないということをかかえていて、あすの生活のことを考えると、基本的人権ということも一つも価値がない。食わなければ生活ができない、食わなければ餓死せざるを得ない、そういう立場にある人間も考えなければなりません。法律が執行せられる、この法律の執行によって多くを労役場に留置することが目的ではない。そうすると、六十万人のうち少くとも五千人程度の人間は救ってやらなければならないと私は思う。厚生省のように駅前に三、四人くらいずつ人間を出して、東京に出てきた人間の相談に応ずるというのは――海岸あたりに行くと、自殺する者はちょっと待てという看板が出ておる、それと同じように、あんなものは何らの価値もないのです。現実に金がなければ生活が成り立たない。どういうふうにしたならば金が得られるであろうというそのときに、ただ単純なる相談だけでは食ってはいけない。そういう女が六十万人のうち私は少くとも五千人くらいはあると思う。この法律が執行せられたら、この五千人を助けてやれる効果が一体あるのかどうか。この法律を執行しまして、ただ労役場に留置する人間だけをふやすのが目的でないとするならば、その点も考慮しなければならないと思うが、その点に対する考慮ができているのか、できていないのか、これを聞きたい。
  26. 神近市子

    神近委員 議員提案でございますので、予算面で予算のつくことがわれわれ発案できなかったということは御了承いただけると思います。ちょうど私どものこの売春等処罰法を援護するかのように、最近厚生省の案が、婦人センターを作るとかあるいは補導所を作るというような二、三案が発表されました。それでこの間、厚生次官、政務次官をお呼びしていろいろおただし下さったのですが、私どもはなおその点で、川崎厚生大臣の御意見とこの計画とを聞いてみたいというふうに考えているのでございます。さっき申し上げましたように、この法律ができまして、救護が必要であるということになりますと、今日この法案を早く作ってくれといって、私どもは全国からつつかれまして、いても立ってもいられないほど矢の催促を受けているのですけれども、そういう団体にも私どもは何らか保護を――たとえば森屋東先生のごときは、こういう婦人たちを、一人が一人を預かるという運動をしようというようなことをおっしゃったことがございましたけれども、これは私反対でございます。やはり個人の力というものは限りがございまして、社会あるいは国家的にこれは救済しなければならないと思います。この国家と民間との協力体制を急速に作るということも考えられます。それからもう一つは、政府の計画を促進していただくということも考えられます。私は五千人くらいの救助ができないということはないと思います。それからきのうあたりちょっと伺いますと、大体ああいう施設は、民生委員と始終相談いたしまして――非常に貧困であっても生活保護費を受けるという手続その他を、ああいう制度があるということさえ知らない人たちがございます。そういうような面でも極力これを手伝って、生活保護を受けるということも考えていいのではないかと思います。
  27. 猪俣浩三

    猪俣委員 提案者から椎名委員に今度はお願いがあるのですが、われわれとしても、売春に陥りましたこの人たちを救済しなければならぬということがこの立法の目的でもあり動機でもあるわけですから、これを放任しておく意思はさらさらないのであります。そこで、先般も厚生省、労働省の各大臣に来てもらうように言いましたが、次官が出て答弁したはっきりした答弁でもなかったと思いますが、しかしながら厚生次官の答弁によりましても、八億円の予算を計上しておる、それが通れば何とかなるというのであります。また、この売春制度なるものを相当研究しておる人の案によりますと、二十億あるならば全部相当完全に救済できるという計算ができておるのであります。そこで、あなたも現内閣の与党の議員でありまするし、この法案それ自体がとにかく一歩進めた新しい文化革命の一環であるという御認識がありますならば、われわれもこの哀れな犠牲者を放任するというような意思は一つもないのでありまするがゆえに、わずかな予算ですから、どうぞ一つ与党をまとめ政府にも働きかけていただきたい。私は、八億の金があれば何とかなるという訴えを聞きましたときに涙が出たと言いましたが、その意味であります。何千億という軍事費、ことに先般衆議院を通過しました軍人恩給では、大将、中将の階級を復活せしめて、その恩給を増してやるために二百億近く一挙に増額されている。それから見まするならば、この人生の落伍者でありまする哀れな人たちに対して、わずかその十分の一か百分の一でいいのですが、そういう金が作り出せない。それが作り出せないということから、逆にこの法案に反対だというような論法というものはさか立ちしていると思うのです。われわれはそれを打破するためにまずこの法案をどうしても通過させる、通過したからやむを得ず政府が軍人恩給以上に予算を計上する、そうせざるを得ないように追い込まなければ、百年河清を待ってもこの法案はできません。それでは貧乏でなる者をどうするというのでは、あなたのおっしゃる天智天皇ですか、それ以来の悪習が改まらないことに相なります。そこで、今古屋議員が言ったように、これは日本の終戦後の土地革命に相当する文化革命だと私は考える。ここに過渡期においていろいろの問題が起るでございましょうが、それを突き抜けなければ人類の進歩は実現しない。いろいろ悩みながらそこに到達したのであります。  なおまた、椎名委員に対してはなはだ子供じみたたとえを申しまして失礼でございますけれども、生活難のためにやるのだ、だからそれを処罰してどうするかという議論は、一面含蓄ある議論で、われわれはそこに悩みがあるのでありまするけれども、理屈から言うならば、もし生活難ということを唯一絶対の理由にして処罰してはならぬということになりまするならば、現在の刑法の大半は刑罰を課してはならぬという議論ができてくる。石川五右衛門が言いました。浜の真砂は尽くるともどろぼうの種は尽きないという千古の名言を残しておる。だからいかに法律を作ってもどろぼうは絶えない。絶えないからそんなものをつくってもだめだという議論は私はできない。やはり刑法から窃盗犯を除くことはできますまい。石川五右衛門氏がなくならぬと言っている。そうして現在もなくなりません。しかしこれはたゆまざる一種の悪に対する人類の闘争であります。幾多の困難をしのいでこの規範を掲げて世の進歩を促進せしめていかなければならぬ、私どもはそういう観点に立っておりまするので、どうぞ椎名委員の御質問まことにごもっともでありまして、最初私が申し上げましたように、この法案の盲点でございます。これは相ともにいかにしてこの売春行為をなくするかについては、先ほど申し上げましたようにこの法律だけではできないことは明らかであります。保安処分、更生施設、教育活動から三位一体のあらゆる活動をやる、それにはどうしても中心は予算でありまするがゆえに、その方向には一つ御協力をいただいて、鳩山内閣は保守党のうちでも進歩的な内閣と言われている、だから私はこの内閣でこれができないと、あと社会党の内閣になるまでこれはストップされるというふうに、鳩山内閣に期待をかけておるのでありますが、同じ民主党の椎名委員におかれましても、どうぞ政府を鞭撻されまして、こういう哀れな売春婦を救済する方向の予算を、それも一千億、二千億じゃないのです、わずか八億、十億、こんなことは私はただたちにできると思う。その御努力をしていただきたい。その努力はあまりなさらぬで、かわいそうだから処罰してはならぬということばかりをおっしゃると、われわれ少し文句が出てくるのであります。どうかその御尽力をお願いしたい。
  28. 椎名隆

    椎名(隆)委員 八億か十億でできるということは、私は大して高い金ではないと思う。むしろ八億、十億程度ならばみんなで一緒になって政府の方に食い下って、決して私は差しつかえないと思う。ただこの法案だけを通すことがびっこなんだ。予算と相まって初めてこの法律を通すべきだ、私はこういうふうに考えている。救うことのできない人間が、この法律ができたがために留置場に留置されなければならないという憂き目を見させたくないという私の信念を一つ。それからこの法律が通ると、今度は人権じゅうりんの問題が頭をもたげてくると私は思う。たとえば新婚の夫婦がたまたま旅館に泊った場合、あれは売春の嫌疑ありといって取り調べる、あるいは正当の夫婦が旅館に宿泊した場合、売春の嫌疑ありというので取り調べる。あるいは道を歩いている場合でもおそらくそうだろうと思う。特に若いおまわりさんが、この規定ができたならば、おもしろ半分にそういうことをやらないとは言われないのです。人権じゅうりんの問題と売春等の処罰規定とが年中けんかしなければならないというジレンマに陥ることがないかどうか、その点も私は心配していますが、猪俣さんどういうふうにそれはお考えになりますか。
  29. 神近市子

    神近委員 それは私多分椎名先生と食堂かどこかでもお話ししたことがあったと思うのです。若夫婦あるいは住宅のために結婚できないような、別居結婚をしている人たちをやられるのじゃないかというようなこと、これは私、今のような風潮は、やはり戦争後起きたことだと思うのです。こういう形態、売春形態は、行きずりの人でもちょっと旅行して泊りに行く、そういうようなことから誘発されたので、私は何もそこを慎しまなくちゃならぬというそういう倫理的な考えからだけでなく、自分のうちにいて差しつかえのない人なら、何も一泊旅行して消費をして歩く今のような風潮はそう必要がないと思うのです。そういう事例もだいぶん減ってきやしないか、これも一つのねらいでございます。これは道徳的なねらいはないのですけれども、われわれが不必要な柄にない浪費をしているということの反省も必要だし、もう一つ警官の行き過ぎ、それもさっきちょっとお話しいたしましたけれども、これは外国の事例や何か見ますと、そういう場合に警官を罰する法律があって、そういう動機で行なった者は、そういうことがたび重なる場合にはリコールができるような規定がある。こういうこともやはり考えのうちに置いていいと考えます。それでいつか私はこのことでどの程度人権じゅうりんということが問題になるかと思いまして、厚生省の性病予防の係の方にお尋ねしたことがあります。性病を明らかに持っている、それを治療をやらないという場合に強制的に治療をさせることは一体人権じゅうりんにならないかということ、それは人権擁護局との間に話し合いがついて、いてそれは人権じゅうりんにならないという見解をともかく調整してあるというようなお話しで、私がその厚生省の方にお伺いしたのは、こういう場合の人権じゅうりんがどの程度まで善意のものであったらば許されるかという限度を知っておきたいというつもりでございました。明らかにこれは売淫らしいというような場合に誤まって――その境、継ぎ目というものは非常にむずかしいと思うのですけれども、そのくらいのあやまちは、疑われてもしかたがないというような立場の場合は、これはやむを得ないだろうと考えます。
  30. 椎名隆

    椎名(隆)委員 そうするとこの法律が実際効力を発揮しても発揮しなくても、一応形式的に、作ればいいのだということになるのですか。
  31. 猪俣浩三

    猪俣委員 さような意味の立案じゃありません。ただあなたが今申されましたように、人権侵害問題は御心配のようにわれわれも心配があると思います。しかし私ども第一回以来法務委員として人権侵害問題に対して今日まで戦って参りした者として一言お答えいたします。この法案が人権侵害のような弊害を伴うことに対しては非常に心配しておりまして、できました暁には、取締りの官憲に対して十二分にそのけじめの教育はつけたいと思います。また人権じゅうりんはなくても、今の捜査技術は進歩しております。誠意を持って捜査に当る執行官があります際には、人権を侵害しなくてもこの法案の相当な取締りが実現して効果を上げるであろうことを私どもは信じて疑いません。実際はできた際の取締り官憲に対する信義いかんにかかわりますが、十二分なる注意を与えるとともに、彼らが誠意を持って法案趣旨を理解して、なおまた外部の諸勢力がこれを応援いたしますならば、この法案が人権侵害なしに、しかもこの取締りの実効をあげ得るものという確信を持っておるものでありまして、ただ形だけ備えていれば実際はどうなってもかまわぬというような意味では全然ないわけであります。なおこの法案ができました際には、有識者、警官だけにまかせずして、みな協力して、そうして社会悪の撲滅にいい意味において協力してもらう、そういうことになるならば、私は弊害少くして取締りが実行できるんじゃなかろうか、こういうふうに考えております。
  32. 椎名隆

    椎名(隆)委員 今日の私の質問はこの程度にして、またいずれさしていただきたいと思います。
  33. 世耕弘一

  34. 三田村武夫

    ○三田村委員 今日は質疑を申し上げるのではありませんが、椎名委員質疑に対する提案者の御答弁を拝聴いたしておりまして、法案審議の進行上委員長に一言希望を申し上げておきたいのであります。ただいま椎名委員と立案者の質疑応答を伺っておりまして、ますますこの法案の重要性を感じた一人でありますが、猪俣委員、古屋委員のお説の通り確かに文化革命の一環であり、また従来常に深刻な問題として取り上げられながら、遂に救済の手を差し延べ得なかったいわゆる社会の落伍者、この一群に対する救済の手を差し伸べる突破口となることも私は十分了承できるのであります。従いまして今猪俣委員の御説明の通りただ文化国家の体面としてこのような立法を考えるだけでなくて、文化国家として持つことの恥辱である社会生活の落伍者、これをどのようにして救い出すか、つまり厳粛な一つの大きな事柄としてわれわれは真剣にまじめにこの問題を取り上げたいと思うのであります。もとより逐条の御説明を伺ってみましても立案者の法文の形態、その内容についての御苦心のほどよくうかがわれるのであります。従いましてこの法律が世に出たときに立案者のねらっておられるいわゆる文化革命の一環として、さらに社会の落伍者に対する救済の突破口として実効あらしめるために、われわれは立法の府として、さらに国政最高の機関たる国会の権威において十分に内容を充実せしめたいと思います。従いまして先般猪俣委員から厚生省、労働省に対する御質疑もありましたけれども、言葉ははなはだ失礼であるかもしれませんが、ただ労働省の政務次官とかあるいは局長の御意見を伺っただけでは私は本案実施後の諸般の措置について不安なきを得ないのであります。でありますから、この法案内容審議と並行いたしまして今猪俣委員、古屋委員お話の通り、政府全体の責任としてこの問題を解決するためにも、猪俣委員のお言葉ではありませんが、私の属しております鳩山民主党内閣の一人といたしまして、新しい国作りのせめてもの一ページを書き出そうとする今日の政府に対して、十分な決意ありやいなやということを確かめておきたいと思うのであります。その点から委員長にお願いするのでありますが、同じ問題を同じ国民の代表の府として審議に参加しなければならない他の委員会もあるのでありますが、先般閣僚議員の社会労働の委員の一人から、私に対してプライベートの立場で今法務委員会売春等処罰法案が審議されているそうである、これは世論の焦点になっている、われわれも関心なきを得ないので、どうか一つ合同審議の機会を作ってくれというような申し出も私は聞いております。まことにもっともな意見でありまして、当法務委員会におきましても十分この立案者の目的に沿うべく審議を促進したいという立場から、委員長におかれまして適当に御考慮願いたいことが一つであります。いま一つは、先般申しましたように、法案成立後の諸般の国としてなすべき対策も非常に重要でありますがゆえに、その審議の際は文部省の責任者である文部大臣、労働省の責任者である労働大臣、厚生省の責任者である厚生大臣、さらに本案を刑罰法として直接取り扱わなければならない法務省の法務大臣、警察庁の担当大臣、でき得べくんば内閣最高の責任者である総理大臣にも出席していただいて、十分各般の審議を進めたいと思うものであります。しかるべく委員長においてお取り計らい願いたいことを申し上げておきます。
  35. 世耕弘一

    ○世耕委員長 三田村君にお答えいたします。御趣旨はよく了承いたしました。委員長において適当に善処いたしたいと思います。 次回は明七日午前十時より開会いたします。売春等処罰法案について参考人より意見を聴取することにいたします。委員諸君の御出席を特にお願いいたします。本日はこの程度にて散会いたします。     午後三時三十八分散会