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春日参考人 NHKの
ラジオ局長をいたしております
春日と申します。
最初に、
池田さんがおっしゃいましたと同じように、今回の「時の
動き」の
放送が
映画界と紛争を起して、あるいはそのために
映画女優の
方々に
出演していただくことができなくなったこともありましていろいろ
世間様をお騒がせしたわけでありますが、何としましても第一番に、
聴取者の
方々に御迷惑をかけたこと、及び
映画界の
方々や
映画俳優の
方々に御迷惑をおかけいたしましたことを遺憾に存ずる次第でございます。
大部分の
お話の
経過は、ただいま
池田さんが
映画連合会の
事務局長として、
最初からのこの折衝の、
池田さんのお
言葉を借りれば、お使いとして、接触された
関係から、
映画連合会の
立場でほぼ筋を追って
お話になったのでございますが、この点につきましては、また
NHK側の
立場で、後ほど簡単に
説明させていただきたいと思います。幸いに
文教委員会に出させていただきまして、
NHKの
仕事ということに関して
お話を申し上げることができ、かつお教え願うことができますのは、初めての機会でございますので、若干この点に触れて、これが本題に入る
導火線になっていくわけでありますから、触れさせていただきたいと思います。
御承知のように、
日本放送協会は特別の
法律でできました、いわゆる
一種の公共企業体的な
性格を持った
放送事業体でございますから、その後
日本にたくさんできました
商業放送と違いまして、
広告放送をいたさない。そのかわり毎月定額の、いわゆる
受信料というものを、
ラジオの
受信機を持っている
家庭からいただくところの権利と申しますか、そういうものを
法律で認められております。そのかわり今申しましたような
商業放送的なことは一切してはいかぬ、
放送を通じて
国民の福祉に役立ち、
日本文化の
向上に寄与するようにしろというような
法律上の
義務を持たされております。具体的には
放送内容は真実でなくちゃならぬ、それから
問題点はいろいろの
角度から扱わなければならぬというふうな条文がございます。そういうような
法律上の
性格から、当然
放送番組を作ります
比率と申しますか、そういうものでも著しい違いが出てきておりますので、正確な数字ではございませんが、簡単に申し上げますと、現在
ニュース、
社会、
教養、
教育というふうな
番組が全体の七〇%近く、それから慰安、娯楽及び日曜、土曜日の
スポーツ中継というものが三〇数%というような
比率で、かなりウエートが
社会とか
教養とか
教育というものに置かれているわけでございまして、一例をあげますれば、後ほど
教育部長から御
説明いたすと思いますが、たとえば
中学校、
小学校という
義務教育のための
教育放送というものを二十年来やっているというふうな形が出るわけであります。
さてそういうような
観点から、私
どもは
社会で起る
国民生活に密接な
関係のある大きな問題を、できるだけいい時間に取り扱って
啓蒙運動をして参りたいという
一つのねらいを持っているわけでありまして、この
仕事に当っておりますのが
ラジオ局の
社会部というところでございます。
社会部で持っております
番組の
一つにこの問題になりました「時の
動き」という
放送があるわけでございます。この
放送は刻々に起きて参ります
社会問題、政治問題、経済、各方面の問題をあるいは
録音構成とか、あるいは
座談会等の形式で取り上げまして、その
社会的意義、
社会的背景、どういうふうにそれを発展させていくべきかというような
聴取者の
方々の
啓蒙に当たる
番組でございます。これを私
どもの
仕事の方で参りますと、ゴールデン・アワーと申します第一
放送の夜間の十時以前の線に置きまして、その日のお昼過ぎでも何でも問題が起きますれば、前から予定した
番組を振りかえてでもできるだけ
ニュースに直結した大きな
社会の問題を取り上げて解明し、
聴取者の
方々にお知らせしていくという
立場をとった
番組でございまして、現在ほかの
番組をはずせるような
用意をしてございますが、結果的にやろうと思えば連日夜の第一
放送のいい時間でやれるようになっている、これが私
どものプログラムの組み方の、この問題に直接
関係のある「時の
動き」に関するわれわれの
考え方でございます。
さて今度問題になりました時の
動きのいわゆる「
売春等処罰法案のかげに」と申します
番組は、たまたま
売春等処罰法案が
国会に上程されます機会に、
日本が経済的に非常に貧しく、そして経済的な安定がない、そういうふうな
社会事実が背景になって、人間が
自分の最もとうとぶべき肉体を金銭にかえるという残念な問題がここにある、それで肉体を金銭で売るということがいかに人間としての尊厳を汚し、なすべきことでないかということをまず徹底させる必要がある、それから正しい男女
関係の確立を
意図したい、それから金銭にかえなくてもほかの、たとえばだまされない、誘惑されたりして、人間というものは目分のからだをみだりにそういうふうな手段に使うべきでない、
自分自身は大事にしなければならぬ、ことに
婦人の人権を尊重し、男女とも
どもに人権の尊厳というものを大事にしていかなければならぬ、それからさらに一部の
女性を犠牲にして他の
女性の貞操を守るというふうな、人格を無視した
考え方というものは絶対に成り立つべきものではない、こういうふうなことをいろいろ要素として考えまして、そういうねらいから、
聴取者に
売春というものの実態と、それからその温床、あるいはそれに類する
問題点というふうなものをずっと拾っていきまして、貞操というものの価値とか人間の肉体の尊厳とか、そういうものを訴えたかったというのが企画者のねらいでございます。
さてこういうふうなねらいから、私
どもは
売春等処罰法案の
提案者の
お話、あるいは
赤線区域の
業者のこれに対する反対気勢というふうなもの、それから
赤線区域で働いている女の人の話、それからからだを売らなければ立っていけないという
芸者さんの人の話、そういうものをずっと並べまして、その次にこれは今度の
売春等処罰法案の対象にはならないかという前提を
一つはっきりと置きまして、先ほど
池田さんもおっしゃいました二号を友だちに持っている女の人とか、結婚相談所——戦後結婚相談所と称して男女を媒介している商売が多いということは
新聞紙上で御承知と思いますが、そういうものの正体、あるいは今問題になりましたところの
撮影所の大部屋の
女優さんの
お話、離婚
関係が戦後非常に安直になり、愛情問題よりも経済問題でやっているようだという離婚相談所の調停員の
お話とか、最後に
花村法務大臣が
売春等処罰法案というものについて、これで十分だと思っていないが、とりあえずこうすることが必要なんだという
お話、それからさらに結びに神近さんのこれで完全な
法律とは思わないが、私
どもは一歩々々一里塚としてやっていかなければならないというふうな
お話を並べまして、この問題に直接
関係のある、それのバック・グラウンドというか、周辺、その他一般に肉体、愛情という問題が取り上げられたわけであります。率直に申しまして、こういう取り上げ方が百パーセント妥当であるかどうかというような価値判断になりますと、いろいろな
考え方が出てくることはいなめないと思うのでございますが、一番大事な
問題点で、早くも出発点から大きな
誤解がございましたのは、先ほど御
説明の——実は
池田事務局長もお聞きになったのは
あとのように
お話を承わりましたが、私自身も旅行中で聞かなかったので、これは
あとから聞いたのでございますが、はっきり申しましたように、処罰
法案の対象となるものとそうでないものとの一線を画しているところは非常に慎重にやっているわけですが、この
放送がなされましたのが実は十九日日曜日の夜九時四十分ということでございまして、たまたまこれが映連の方でどういうふうに問題になりましたか、私は不在でよく聞いておらないのでありますけれ
ども、私の責任者としての
報告をとりましたことによりますと、これは三日置きました二十二日の夜あたり、映連の方でこれを問題にしている向きがあるというふうなことで外部から記者諸君に
NHKはどう考えるかということを直接担当者が聞かれたのでありますが、どう考えているかわからぬものに
返事のしようがないというふうなことを答えたということで、そうしましたら二十三日の木曜日に一、二の
新聞に
映画連合会と
日本映画俳優協会の東京支部長、大阪支部長の連名のお名前でたしかお出しになったと思うのでありますが、この
NHKの
放送に対しての
抗議書並びに
要求書、それからその
回答の日時、条件というもののきちんとそろったものが出てしまったのでございます。当事者である私
どもは、その日の午後に、先ほどの
お話のように、
池田さんと
高田さんから私の方の
赤城次長と長沢
社会部長がこれを受け取ったというような
経過でございます。私
どもはこの問題をやっていく前に、もちろん第一次的には
内容的にずいぶん検討いたしましたが、第二次的に
内容を御確認になることも必要であるし、
抗議とか謝罪
要求の前提に、
放送いたしたのは私
どもでございますから、われわれの方に直接
抗議なり
お話があるべきではなかろうか。私が申しているのは
新聞の記事が間違っているということではございませんで、
新聞に大きく出てしまいますと、
社会通念でございますが、これは
一つの事実になります。その事実が前提で
NHKに対する
抗議なり批判なりが出てくるわけで、問題はそこから
放送そのものを直接聞いた
方々の
考え方と、
放送は聞いたし、
新聞も読んだという方、あるいは
新聞だけを読んでこの問題を知った方——これは事実その後の投書を見てもそうなんでございますが、いろいろ違った
方々の
意見なり批判なりが出てきて、それが実は私の解釈からいえば、この問題を大きくした理由ではなかろうかというふうな気が私はしているわけでございます。それでいろいろ、私は旅行から帰りましてこの
抗議書も拝見し、それから謝罪
要求の
内容も考え、同時この
放送もずっと検討してみたのでありますが、どう考えてみましても、もちろん先ほどの
社会番組の前提といたしまして、
映画の製作者や
映画の
俳優さん方を侮辱するつもりというものが毛頭ないことは事実でございますし、またこれの取り上げ方が、
映画の製作者や
映画の
俳優さんを全部侮辱しているとはとても認めがたいという結論に達したわけでございます。そういうわけで、それではどういうふうな手段でお答えしようかというので読んでみますと、その謝罪
要求の方法として、
放送でかくかくの謝罪文を全部流せ、あるいは
全国の有力紙にその謝罪の
内容を全部発表しろというふうな条件がございまして、しかもその
内容、日時その他は事前に
抗議した人
たちに相談しろということもございます。それをそのまま考えますと、要するに私
どもはイエスかノーかという
返事しかできないように仕組まれておるというように判断いたしまして、そういう
意図もなければ、そういう事実もないと思われるので、どうもその
抗議要求はお断りするより仕方がない。しかし実はここにももう一点
お互いに行き違いがあるのであります。三十年来
お互いに同じようなマス・コミュニケーションの
仕事をしている
社会的地位を持っておるのだし、いわゆる親戚づき合いの同業であるから、何か
話し合いによって円満なる
解決をすべきではないかというようなニュアンスで、この
放送そのものについて
疑念やその他の点があったら、いつでもお
話し合いをする
用意がある、こういう表現になった。しかも私
どもは
あとで承わったのでありますが、映連の側では、
文書で発表すべきなのに
口頭ではけしからぬというような受け取られ方であった。私
どもは、
文書というものでは、相手方から受け取って感じたように、いわゆるニュアンスの感じられない、イエスかノーかしか答えられないという判断から、むしろ
口頭で二点を申し上げて、それでお
話し合いをする
用意があるのだ、いつでもお
話し合いいたしたいのだというふうなことをにおわせて、この方がやわらかいのではなかろうかというような、全く善意に出たのであります。この
回答は、先ほど言ったように
赤城次長と長沢
社会部長が二十三日に映連から受け取りまして、二十七日の午後三時という締め切り時間が指定してありましたので、二時過ぎに
口頭で持って参ったわけであります。それに対して映連側では、この
回答は
NHKに誠意がないというような御判定で、
文書でやったのだから
文書で寄こせばいいというようなことで、翌日さらにその旨の申し入れがありましたことは先ほど
池田さんがおっしゃられた
通りであり、今度は私自身も出まして、この問題について
池田さんと
お話を申し上げたわけであります。この問題につきまして一時間くらい懇談しました。私的に、どうですか、お
話し合いに入る必要があるじゃないかということをただたび申しましたが、
池田さんは
映画連合会の
事務局長という
立場ですから、そこでいろいろお
話し合いする権限も持たないということで、慎重にお考えになってお帰りになりました。これからが例の
俳優さん方がいわゆる
出演しないとかいろいろ大きな
社会問題になってしまったわけでございます。どんな紛争でもそうでございますが、前提から、
内容の問題もさることながら、手続的と申しますか、方法論的に食い違いが重なってこんなにこじれたのだということを、昨夜、
両者集まって一日がかりで
解決しました
あと、私ひそかに反省をしておるような次第でございます。実は昨日の両方の交渉
委員の
話し合いで、あの共同声明以外は何も外部に申さないという御約束をいたしたのでございますが、この
国会は別の場でございますし、同時に、
池田さんの方の
立場で
経過の
説明がございましたものですから、私
どもの
経過の
説明をあらましさしていただきまして、
あと御資問ございましたらお答えさしていただきたいと思います。