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古川参考人 一橋大学の
古川栄一であります。ただいま直接の
関係者、それから
利用者、または大
株主、そういうそれぞれ利害の非常に密接な
方々のお話がございましたが、私はその点では御存じのように全く白紙の
立場でございます。今日
国際電電会社の株を
日本電電公社が持つかどうかという
改正案につきまして、
結論を先に申し述べますと、私は若干の修正の条件を加えまして賛成の
立場でございます。これをよいか悪いかということを判断いたしますには、
国際電電会社の非常に公共的性格が強いという、そういう性質の
会社の健全なる
発展という基本的
立場から私はこの問題を
考えて、右のような
結論に到達したのであります。
問題は、
株式を
電電公社が持つか持たないかという問題ではございますけれ
ども、今いろいろ
参考人のお話もございましたように、
株式保有に関しまして実は相当複雑な問題がからんでいるだろうと
考えるのであります。これを
考えますには、それぞれ利害の
立場が当然あるわけでありまして、まず何といいましても第一にこれを判断いたしますのは、ただいま申しましたような
会社自体の健全な
発展でございますが、この場合
国際電電会社が非常に公共的性格を持っているということと、その
事業の内容なり性質というものに密着して
考えなければならぬ、これがまず第一の一番重要な
考え方をきめる
観点のように思います。同時にそれに関連いたしまして、すでに二ヵ年間
株式会社として出発しておりまして、それぞれ社長初め重役さん、つまり
経営担当者の
方々、さらに従業員の
方々が非常に熱心に従事されてきておりまして、そういう現在の従業者――重役も含めました広い意味の従業者の
立場からこの問題を
考慮しませんと、公平な判断はなされないと思うのであります。第三に何といいましても
株式問題でございますので、現在あります
株主の利害の
関係を
考慮しなければなりませんし、最後に、言うまでもなく
公共性を持った強い
会社でございまして、その
利用者としての
立場、これを推し広げた社会的
立場といったようなものでありましょうが、そういうふうな四つくらいがからみ合って問題になっていると思うのでありまして、そういうものを
考慮して私は今の
結論に到達したのでありますが、内容について若干の
理由を申し上げます前に、実は私は大学の教授ではございますけれ
ども、
国際電電会社が
設立されるかどうかというときに、参議院におきまして、当時
電気通信省から今日の
電電公社並びに
国際電電会社を作るのがよろしいかどうかということで、私は参議院に
参考人として呼ばれて
意見を述べております。それからもう一つ
国際電電会社に関しましては、電気通信設備評価審議会がありましたときに、私はしろうとでありますけれ
ども、評価
委員として若干
会社内容につきまして
関係しておるのでありまして、そういう意味で、その実態から見まして私
考えておるのであります。特に私は
電気通信省から
公社並びに
電電公社を作ることにつきましては、非常に疑念を持っておったわけでありまして、
公社としては賛成でございますが、いきなり
株式会社というものに移行しようとしているだけではなくて、従来の
国際電気通信株式会社が合併せられまして、長い間一緒にやって参りました事実上からいいましても、一緒に仕事をやって参ってきておりますから、いきなり
会社にしないで、
公社として改組いたしまして、様子を見てからさらに
会社にするというふうに
考えてもよろしいじゃないか、こういうことがたしか速記録に載っているはずでありますが、私はそういう
意見を申し上げたのであります。しかしそれにもかかわらず、実は
会社になりましてからの経過を見ておりますと、一つは
電電公社が、私
どもが理想にしました真の公共
企業体という性格にはなっておらないのでありまして、多分に公
企業的性格でありまして、予算の上におきましても、たとえば給与総額をきめられておりますとか、
企業体でありながら、これは国家資本が入っておりますけれ
ども、資金予算だけではなくして、
事業予算のこまかいところでも見せるとか、その他いろいろの点があると思いますが、実は私
どもが
考えておりました公共
企業体にすっかりなっておらないという点がもちろんあったことにもよりますが、
国際電信電話会社がむしろ
民間事業としまして、すっきりした形で発足したことは、私は実は成功であったと思います。ことにさっき申し上げましたように電気通信設備の評価をいたしまして、しろうとでありましたけれ
ども、現場を見まして、
国際的な意味を持っている機械、通信機等が非常に旧態依然とした、あるいは陳腐化した品物であって、これでは
国際的に恥かしいのではないか。しかもあの評価
委員は非常に厳重でありまして、従来私は評価
委員に若干なったことがありますけれ
ども、あれほど厳重に含みのない
会社約三十二億何千万円でありますけれ
ども、中立約な評価
委員といたしましても、お気の毒くらいに私は
考えておりました。それにもかかわらず、これがすっきりした
民間事業として、
渋沢さん初め皆さんの御努力によりまして、非常な設備の近代化が行われ、今も
渋沢参考人からお話がありましたように、技術的な面についてもいろいろの改良を行われ、私の承わっているところによりましても、直営営業局が十ヵ所も新設されて二十五にもなり、また対外回線の新局が二十六ヵ所にもなって、
国内連結線が近代化されまして、非常な
好評を博しているということにつきましては、これは公共
企業体でなくて、むしろすっきりした形で発足したということに一つ大きな原因があったように、私
どもしろうととして
考えられるのであります。それにもかかわらず、実は承わりますと、あの当時は株などというものは、私
ども根がしろうとでありますが、
独占性がありますし、有望な
会社でありますし、
経営陣にはりっぱな人がおりますし、しかも腕前のりっぱな従業員によって成り立っておりますから、今のように株が売れないとかいうことを思っておらなかったのでありまして、おそらく
配当の問題がうたわれておらなかったとしても、一年以内に全部売り切れるであろうと
一般の方も
考えておったと思いますし、私もそう思っておったのであります。しかるにもかかわらず二百八十万株も売れ残っておる。これはいろいろの事情があったと思うのでありますが、一つは何と言いましても
配当が少く、八%に限って、もっぱら
内部留保に努めた。その他
株式市場の変化等々、いろいろあったと思うのでありますが、とにかくこの株が売れなかった。こういうようにりっぱに進んでいるにかかわらず、そういう結果を来たしたということについては、むしろ非常に不思議と思っておるのであります。そういう意味におきまして、現在この膨大な残り株を、兄弟
会社でありますところの
電電公社が引き受けて、
株式市場の圧迫からくるところのいろいろの障害をのけて、その
株主になるということにつきましては、私は非常に賛成しているのであります。
もちろんこれに関しましては、やはり長所と同時に欠点が当然
考えられると思うのであります。それは今
参考人からもいろいろお話がありましたが、何か
電電公社が株を持ってしまうと、またもとの官僚的な
経営に逆房りするのじゃないか、あるいは
会社の人事権にまでも
電電公社が介入するのじゃないか。おそらく従業員の
方々としても、今まで給与総額に縛られないで、働きに応じて賃金が上っておったというのは、みずから働き出した結果でありまして、それをまた今度
電電公社式の
ワクをはめられるのじゃないか等々の心配が出てくるということは、私
ども第三者としては一応
考えられるところであります。おそらくこういう点とそれからもう一つは、先ほどからお話がありましたが、今の
国際電信電話会社設立のときには当時佐藤大臣が、
会社の
株式の大部分を保有することによって
公社が
会社を支配することは、
会社の
設立趣旨に合わないのだ、こういう御
発言も確かにあったわけであります。そういう
設立の
趣旨というようなことを
考えて、しかし一方株は売れない。これはにわかに
消化することはできない。社長さんは若干の腹案がおありのようでありますが、できない。しかしそういう大量の約五分の二に当るところの大
株主として
電電公社が株を持つことは、
支配権の問題にからむということで、おそらく議員の皆さん方は案をお練りになって、
議決権を与えない、こういう御
趣旨のように理解しておるのでありますが、この株を持つことは、今言ったような意味において兄弟的性格を持つ
会社であり、それが持つという点におきまして今の心配が――特に私
どもはむしろ血は水よりも濃いと思っていますが、また兄弟同士の間にはいろいろの問題があるらしいようにも推測できないわけではないのでありまして、同じような出発をしました
方々の給与が違ってきたというようなことになりますと、若干の問題は
考えられないことはないと思うのでありますが、そういうことを非常に心配なさいましたからではないかと思いますが、
議決権を与えない。しかしこれは非常におかしいと思うのであります。
議決権は
株主の基本的権利でありまして、
議決権を与えないのは、利益
配当に関しまして――商法にはっきりうたっておりますが、つまり優先権の場合に
株主に
議決権を与えませんし、しかもその結果は、無
議決権株の限度は
株数の四分の一をこえてはならないという
規定がありますのは、実は
議決権を与えないことによりまして、
議決権を有する少数
株主へ支配力がむしろ集中するということのためであります。これは実はアメリカにもあったことでありまして、州によって違うようでありますが、アメリカでは
会社に
議決権のない株を優先株にすることを許しておるようでありますが、
株主のうちには、特に小
株主でありますが、
事業内容にはあまり関心を持たないで、
配当だけもらっていればよろしいのだという人に実は利益
配当を優先させまして、そうして
議決権を与えない。ところがこれが悪用されまして、むしろ少数
株主が、
議決権のないことによりまして少数
株主の
支配権が大きくなりますから、それによってむしろ支配力を強化したという例もあるのでありまして、学者によりましては、むしろ
議決権のない株は、
株主の
立場から、ことに支配力の
立場から
反対している学者も実はあるのであります。リープマンという学者もそうであります。これを
国際の場合に当てはめてみますと、三十三億のうち今十八億がすでに売れておりますが、そうしますと、大ざっぱに言いましても十四億が
議決権のない
電電公社の株になりますと、十九億のうち半分持てば支配できますから、九億を持って支配ができる。しかもこの
株主は全部
株主総会にやってくるわけではありませんし、ことに話を聞いてみますと、なお相当千株以上の
株主が多いようでありますけれ
ども、それにもかかわらずなお二百何十人という方でありますから、大ざっぱに言いましても、七、八億ありますれば
会社が自由に支配できるという、むしろ逆の作用を及ぼす可能性が
考えられるのであります。ことに
株主は
銀行、保険
会社等々、もちろん
国際の公共的性格を非常によく理解されて株をお持ちになっているのでありましょうから、にわかにその株の値上りとかいうことに対して興味を持ったり、スペキュレーションの対象にしようというふうには
考えられないかと思いますけれ
ども、しかし
銀行、保険
会社はやはり何といいましても営利
会社でございますから、
株主の支配力が大きくなりますれば、むしろ
電電公社の方の圧力ではなくして、逆にこういう営利
会社として株を持っています
会社の圧力が、しかもわずかの
株主でもって圧力が加わってくるという条件が
考えられてくると思いますが、確かにこれは安いのでありまして、電力でも一割二分でございますか、私鉄でも一割、まあ一割二分というのが普通の常識だろうと思うのでありますが、もし一割二分としても、その値上りということを特に
考える
株主がありますれば、あるいはそれ以上にむしろ株の値上りの方面に非常な興味を持ってきて、そういう方面からする圧力というものがやはり
考えられなければならないのじゃないか。もちろんそれに関しましては、これは特別法でありまして、
国際電信電話株式会社法の第十一条には、
郵政大臣の認可を受けなければ利益金の
処分はできないようになっておりますから、そういうむちゃなことは普通の
公社と違いますからできないとありますが、もしそれならば
電電公社が持った場合におきましても、同じく十一条におきましては取締役、監査役の選任及び解任、それから合併及び解散の決議、これらはいずれも
郵政大臣の認可を受けなければならないことになっていますから、むしろ同じ公共的性格を持って発足し、仕事の上につきましても非常に
関係の深い
電電公社の方が
株主としては
銀行、保険その他の
会社よりは、
事業内容について同情があり理解があるように、私は第三者としても
考えられるように思うのであります。ただ
議決権を与えないことは非常に例外であります。しかも優先株でも何でもございませんし、商法の
規定の四分の一をこえて
議決権株を与えないということになると、少数
株主に非常に支配力が集中します。しかも支配力が、重役の選任ということよりも
配当を増す、株の値上りをねらうということになりますと、これは必ずしも公共的性格を持ちました
会社に対しましては、いい
影響を与えないように
考えられるのであります。
それから非常常に言いにくいことでありますけれ
ども、
株式を分散した方が
会社はやりやすいのであります。それは学者の方が言っている
経営者支配であります。
株主の方は非常に分散しておりますから、
株主の圧力よりも
経営者として――
株主総会に一旦出ますと、次々に候補者を出すことができますから、この候補者は、特別の
会社は別でありますけれ
ども、原案が否定されたというのは、ある一、二の乗っ取り
会社をのけまして、私
どもは聞いておらないのであります。原案がそのまま通るのが普通の状態てあります、これは白紙委任状というのも出てきますから。そうすると
経営者におまかせするというのは、非常に重要な方に、しかも仕事に非常に熱意のある方におそらくまかされてあるのでありますから、心配がないようでありますが、むしろ
経営者支配になるということは必ずしも安心ができないのであります。これは電電、
国際がそうだというのじゃありませんが、むしろ従業員と結びつきやすいのであります。従業員と資本家とは、労使対立の
関係の場合もありますけれ
ども、労使がぐるになる場合もあるわけでありまして、
株主の圧力がございませんし、分散しておりますから、むしろ
経営者と労働者がなれ合いという形になる可能性も多分にあり得るのであります。これは
経営支配の一つの欠点であります。多数
株主が分散することによりまして、むしろ
経営者が、そういう意味ではなくほんとうに仕事を扱う人で、信念を持っておやりになる場合におきましては、
経営者支配からくるいい点が現われまして、従業員となれ合いというのは悪い言葉でありまして、お互いに
協力してやりますから、これは非常にけっこうなんでありますが、むしろ
株主ということは第二、第三になりまして、これが自分たちの
会社のごとくに
考えられがちであります。ことにこういう
公共性を持ちました
会社におきましては、
経営者支配につきまして、よほど
経営者の方が、
会社自身の公共的性格、ことにこれは独占
事業でございますから、そういう点について十分お
考えになりませんと、ただ
株主分散だけでは社がよくなるというふうなことは、必ずしも簡単に
結論は出てこないようにも思われるのであります。そういう意味におきまして、
公社が株を持つのは非常にけっこうでありますが、それだからといって、非常に支配力をおそれまして、これを
議決権のない
株主にするということは、むしろ逆の効果が現われる可能性も多分にあるわけであります。それでありますから、これはやはり
株主公平の原則に従いまして、当然
議決権を与えなければならないと思うのであります。
ただし今申しましたように若干の誤解がありますし、どうもせっかく
株式会社になって非常によい成績を上げている。しかも
電電公社の
方々も御熱心でありますが、
電電公社は、私が今申しましたように必ずしも公共
企業体としての法律上その他からしまして、文字通り独立採算制で
経営責任を与えられたところのものではないのでありまして、中間的存在でありますから、予算とか、今申しました
経営とかにつきまして、非常におかしな
ワクがかけられております。この点は御存じだと思いますが、公共
企業体合理化審議会がありまして、私もその再門
委員の一人として、席上で
電電公社の
方々にお会いしまして、現在の
公社形態自身の中身について、非常な不満足な点をお持ちになっていることを私はよく
承知しております。従いましてこの
公社には、そういう公
企業的なにおいと、公共
企業体的な中間的存在だと私は思うのでありますが、むしろそういう点から申しますと、
国際会社は
会社としてすっきりした形でありますから、しかも公共的性格を持っておるという点におきまして、相当の株を
電電公社が保有しまして、いわば圧力はないのでありまして、ポテンシャルな、潜在的な力をやはり確保しておるということが、そう言ってははなはだ失礼でありますが、
電電公社自身に実現し得なかった理想を、むしろ
国際電電会社において育て上げ、側面から援助する。しかし社長さん以下の従業員として、責任をお持ちになっている方に対して、支配力を及ぼすということは、やはり
世間の誤解もありますし、またおそらく
電電公社自身が、
経営委員会その他の制度もありますけれ
ども、やはりいろいろな制約、ことに政治的な制約もあるでありましょうし、法律的な制約もありましょう。そういう自分たちの苦労をむしろ
国際電電会社にかけないように、同情を持って見守るためには、私は
議決権を持ちながら、さっきも
梶井総裁からお話がありましたが、代理行為というような形で、
議決権を白紙委任状あるいはポテンシャルなものとしてお持ちになって、しばらく留保して、これはお話し合いでけっこうでありますが、――これは剥奪したのではないのでありまして、ポテンシャルなものであります。ポテンシャルなものであるということは、たとえば他の
株主、
銀行その他が株の値段をつり上げるというような意図がかりにありまして、
経営内容、
サービスの
改善、設備の近代化という、
国際電信電話の公共的性格の使命を果すのに障害になるようなことの
発言があったような場合においては、ポテンシャルなものでありますから、
発言可能なものとして、いわば黙った力として、牽制的力として保持するということは、むしろ
議決権を剥奪してしまうよりも私は非常に必要だと思います。
なお、
郵政大臣がさっきの取締役なり監査役の選任につきまして、認可をすることになっております。この場合、かりに
電電公社の方が
会社にふさわしくないようなことがあったような場合におきましては、ここで認可されましょうが、しかしなかなかむずかしい問題と思いますので、単に
議決権を残しておいて、ポテンシャルなものとしておくだけで、心配の場合は、
郵政大臣が認可をいたしますときに、名前はどうでもいいのでありますが、たとえば
国際電信電話会社審議会というようなものを
郵政大臣のもとに設置しまして――重役の任免あるいは
配当の額などにつきまして公平な判断をするために、審議会的なものを設置いたしまして、第三者的公平の
立場から制度的にもこれを抑制するとか、あるいは監督するというふうな制度を残しておきますれば、
議決権を抜いてしまうというような非常に不合理なやり方でなくても、十分効果を上げ得るというように私は
考えておるのであります。従いまして、
議決権を与えてけっこうでありますし、株をお持ちになって、むしろ同情的にそういうふうな
会社経営の内部にまでおまかせになって、そとからそれを援助する、これは技術上から、設備上からいろいろあると思いますが、その方がむしろ有効ではないかというふうに私は
考えておるのであります。以上であります。