○笹川
公述人 官公庁労働組合の笹川でございます。私は本日の公述におきまして、主として賃金を得て生活する者の
立場からいって、今回の
減税案についてどのように
考え、またどのように修正されることをお願いしたいか、このことについて申し上げたいと思うわけでございます。
憲法三十五条には「すべて
国民は、健康で文化的な最低
限度の生活を営む権利を有する。」こういうことが明記してあるわけでございます。労働者も同じくこのワク外ではないと思うのであります。しかしながら現在のわれわれの生活を
考えてみますときに、民間の団体におきましても、あるいは官公庁の労働組合の
立場におきましても、実質賃金はだんだんと下っておるわけでございまして、われわれはこの
立場におきまして、ぜひ最低生活を維持する、このような
立場においてこの
減税案を
考えていきたいと思うわけでございます。そのような
立場におきまして、われわれは現在の税制に対してどのような不満を持っているか、このことにつきまして、若干時間をかりて申し上げたいと思うのであります。
まず第一点として、現在のわれわれ勤労者の税金が非常に重いということであります。これは国内における戦前との比較においても、あるいは
外国との比較においても、そのことは端的に言われるわけでございます。たとえば戦前と比較いたしますと、戦前には納税者は大体において九十五万、その納める税金は一億一千万円でありました。今日、
昭和二十八年の国税庁の
事業報告を調べてみますと、その約十二倍の人
たちが税金を納め、その額は三千六百億円に達しているわけです。私は、その納税者が多くなったという
現実を
一つながめてみましても、やはりそこに十分
考えていただく面もあると思います。また
外国との例を比較しましても、たとえばアメリカは、実質
所得が、われわれの調査で
日本の約九・五倍に達していると思います。また同じく敗戦国である
ドイツの実質
所得は、われわれの約二倍に達しているというふうにわれわれは分析しているわけでございますが、十万八千円というような収入を
考えてみますと、税金を納めているのは
日本だけでございます。その一事をもって見ても、われわれが重税にあえいでおるということを端的に物語っていると思うのでございまして、この税金が重いという面は、いろいろの面からわれわれの生活を圧迫しているということが、率直にいって言えると思います。
次に指摘したい第二の点は、税金が非常に不
均衡である。先ほどから数人の方が申されたわけでございますが、大法人の
立場とわれわれ勤労者の
立場を比較してみますと、なるほど法人税につきましては四二%という
税率がございますが、十万円の収入があっても四二%であり、百億円の収入があっても四二%、しかも大きな法人についてはいろいろの特別な控除があるわけです。われわれが調査した範囲内では、大きな銀行とか会社の例によりますと、二〇%から二五%まで控除してある。こういうふうな実態があるわけでございまして、これにつきましては、われわれ給与
所得者の実態によりますと、御
承知の
通りいろいろの控除をした
あとで、新しい税法でも、三万円以下の収入があれば一五%、三万円から八万円の人は二〇%、それらの人と何十億という人
たちと全く同じということが果して税の
均衡上から妥当なものかどうか、こういう点から、われわれはこの税制についての不満を持っているわけであります。
次に、先ほども申されたわけでございますが、間接税が非常に増徴されている。これは終戦前といろいろ比較して見ましてもわかるわけでございますが、間接税には、御
承知の
通り逆行性がありまして、どんなに収入の少い人が「しんせい」を吸っても、収入の多い人が「しんせい」を吸っても、やはり納める税金は同じわけです。そういう
意味におきまして、私
たちは間接税というものはできるだけ少くすべきである。こういう
立場をとっているわけでございますが、だんだんとこれが増加されていく
傾向があるわけです。
地方税のことについては特に申し談せんが、そこでこのような最低生活を維持するという
立場、税金が重い、あるいは不
均衡である、こういう
立場に立ちまして、今回の改正案についてわれわれがどのように
考えているかということについて申し上げたいと思うわけです。
まず第一点として、
所得税を中心にして申し上げるわけでございますが、この改正につきまして、選挙の公約の際に、各党が、現在の税制については
減税しなくちゃならぬ、こういうことを自由党の方も、民主党の方も、社会党の方も全部取り上げられた。こういう
方向に対しては、われわれはななはだ敬意を持っているわけです。しかし今回提案されましたところの所御税の
内容につきましては、ます第一点として、非常に修正が不徹底である、こういうことを申し上げたいわけです。先ほどの
立場からおわかりいただけると思うわけでございますけれども、まず第一に、先ほどの
公述人も申されたのでございますが、
低額所得者を擁護するということがよく新聞に出ているわけです。われわれ
低額所得者がはんとうに擁護されているかどうか、そういうことを計算してみました。計算にはいろいろの方法があると思いますが、私が計算いたしましたのは、現在の勤労控除と社会保険控除とそれから扶養控除、そういうことについてと、もう
一つは、社会保険控除につきましては、大体給与総額の五%、こういうふうに
考えて計算したところが、現行で十二万円の年額収入の人は、扶養控除のない場合には三千五百五十円です。ところが改正法になりますと一千五十円、その差は一千五百円でして、月当りにしますと百二十五円です。ところがこれを同じく四十八万円の収入の人について比較してみますと、扶養家族のない場合について調べてみますと、九万七千三百円が現行でして、新しい改正案では八万五千六百五十円、その差は二万一千六百五十円、月当りにしまして九百七十円でございます。九百七十一円というのは、先ほどの十三万円の収入の人の約八倍です。これが果して
低額所得者を擁護しているという実態であるかどうか。こういうことについても十分にお
考えいただきたいと思うわけです。たとえば流百万円以上の人は全然税制も改正されない、
税率も改正、されないのだから影響がない、こういうふうにお
考えでしょうけれども、その点につきましても、御
承知の
通り基礎控除が六万七千五百円から七万五千円にふえ、勤労控除が四万五千円から五万二千五百円にふえ、生命保険控除も一万一千円から一万三千五百円にふえた。その差額の一万七千五百円は、五百万円以上の収入の場合には、もう
税率を抜きにしても、無条件で二万一千三百七十五円という、先ほど青いました十二万円までの収入の人のこれもやはり八倍の税額が無条件で控除されているわけです。これがほんとうに今新聞に伝えられているような低額
所得の
減税の実態であるかどうか、こういう点につきまして、われわれとしては低額所御者をさらに擁護していただきたいと思うわけで.ございます。
次に第二点としては、
実施の期日が七月一白からになっておる。これにつきましては、われわれはぜひもっとさかのぼっていただきたい。この七月一日からのために、夏季手当の問題そういうことについても、このワク外になっているわけでございます。さらに五百億円
減税の
立場からいいまして、移項規定が、先ほどいいましたように八万円というのがさらに少くなり、勤労控除もさらに少くなっておる。こういうことについても、はっきりと今年度からすぐそのまま
実施してもらいたい、こういうふうに
考えるわけです。
もう
一つ申し上げたいと思いますことは、徴収方法です。われわれ勤労者の場合については、この徴収方法は特別徴収によってやっています。特別徴収の場合には、役所に勤めている場合には無条件で天引きに控除されます。申告
所得の場合には、その申告の実態によってやられるわけです。従いまして、私
たちの調査によりましても、申告
所得については、
昭和二十五年には八百二十八億であったのですが、二十八年には七百十三億円と滅っておりますけれども、源泉
所得については、
昭和二十五年には一千二百十一億円が、二十八年には一千八百八億円と、このように非常な増加を示している。こういう
現実は、これは国税庁の調査によったもので、大体間違いないと思いますが、こういう実態は、そのような徴収方法で、取りやすいところからどんどん的確に取っていく、
あとについては、
努力はされないのではないと思いますけれども、実質的には非常に下ってきている、こういう点について
考えるわけでございます。
いま
一つは、今度は話を変えまして、そこでそのような
立場に立って法人税、あるいは預貯金、公社債、そういうものの税制改正についてはどのような
立場をとるか、こういうことをごく簡単に申し上げたいと思うわけです。
まず第一に、法人税については、われわれとしては、やはり法人も累進制にすべきである、このように
考えるわけです。なぜ法人税だけが四二%で、少い人も多い人も同じ
税率であっていいか、こういうことについては、われわれとして納得いたしかねるわけでありまして、この点については、特に
考えていただきたいと思いますし、その際、先ほどもお話がありましたが、中小法人については、現在その金融措置からいっても、営業の実態からいっても、苦しんでおられる実態でございますので、ぜひ税額は引き下げるようにしていただきたい、このように
考えるわけです。それから青色申告については、先ほどのお話の中で、四百四十五億円の特別控除があるということでございましたが、われわれの調査では、五百五十億円という数字が出ておるのであります。そのような特別控除がされておることに対して、われわれはやはり納得いたしかねるのでございまして、この点につきましても、やはり先ほど青いました税の
均衡という
立場から、十分
考えていただきたいのであります。
次に預貯金並びに公社債の減免ということでございますが、われわれとしては、そういう資本蓄積ということもいろいろと
考えられるでしょうけれども、それよりも、まず第一に現在生活にあえいでおる人
たちの生活を完全に確保する、最低生活を確保するという
立場に立って、そのような税金を引くという
立場よりも、逆にわれわれの方の勤労控除であるとか、あるいは
基礎控除額を抜本的に引き上げていただきたい、現在の段階においてはそのように
考えるわけです。このような
立場に立ちまして、われわれとしては、この税制について改正していただきたい点が多々あるわけでありまして、それにつきまして簡単に申し上げたいと思うわけです。
そこでわれわれは、この
所得税につきましては、端的に結論を言いまして、勤労
所得の場合、三万五千円まで免税にしてもらいたい、こういう主張を持っておるわけです。なぜ三万五千円までの免税にしたかということにつきまして、その算出の根拠は、われわれとしては、戦前と比較したわけです。戦前の
昭和九年ないし十一年には、千二百円まで免税になっており、さらに家族一人につきましては百円、このほか二一%の勤労控除がありました。これは今日の金に比較しますと、、三百三十倍の物価の変動と
考えまして、約五十万円でございますので、それとの関連を
考えたわけです。特にわれわれとしてそういう主張をいたしたいと思いますのは、勤労
所得につきましては、現在税法の第九条の中に四万五千円の一五%と書いてありますが、あの幾つかの必要
経費の控除の中で、ああやって最高の
限度というものが四万五千円というように区切ってあるのはほかに何があるか、こういうふうに
考えてみますと、あるのは山林
所得と退職
所得だけでありまして、
あとのものにつきましては、どんなに必要
経費がたくさんあっても、
一つもこれを控除するということはない。このような
立場に立つならば、われわれとしては、これをやはり抜本的に広げまして、勤労控除というものは、少くとも最高
限度十万円まで引き上げてもらいたい、かような
考えを持っておるものであります。
次に扶養控除であります。現在は
所得控除になっておりますけれども、われわれとしては税額控除にしてもらいたい。現行の四万円、二万五千円というふうな
所得控除というものは、五十万円の収入のあった人の税の控除と、それから十二万円の人の場合の控除額では非常に差があるわけでありまして、その点につきましては、こういう控除にしますと、非常になしくずしになるわけでありまして、われわれとしては、やはり先ほどの五十万円という
立場に立ちまして、一人一万円の税額控除にしてもらいたい、このように
考えるわけです。
基礎控除につきましても、そのような
立場から、現行の七万円を十二万円まで引き上げてもらいたい。そこでもう
一つこの際基本的な
立場を申し上げたいと思いますのは、
税率でございます。この
税率を引き下げることにつきましては、われわれとしても何ら異論はないわけでございますけれども、われわれの基本的
立場に立つならば、これは
税率をどんなに低くしても、やはり税金を納めるわけでありまして、やはりその点は、
基礎控除について最低生活を確保するという
立場に立って
考えていただきたい、こういうふうに
考えるわけでございます。
そこで以上のような
立場に立って、ぜひ皆さんの方で十分御
審議をいただき、私
たち要請申し上げました点につきまして、ぜひ改正していただきたいと思うわけでございます。
以上簡単でありますが、官公庁労働組合の
立場を代表いたしまして、税制についての
意見を申し上げたわけであります。