○
永山政府委員 最近問題になっておりますように
綿業の
市況がすこぶる悪いのでありますが、この点につきまして従来の経緯とそれから現状、あるいは今後の問題についてどういうように考えておるかというような点を
概要御
説明申し上げます。
綿業の
不況という問題は、実はこのところ約二年近く、一年半有余続けておる
状況でございまして、特に綿の中でも
織物の
価格が正常な
価格に比較いたしまして非常に安い
状態になっております。これはこういう
品物は安いことが
消費者のためにむろん望ましいのでございますが、ただそれにいたしましても、おのずから適正な
価格というものがあるのでありまして、
コストと比べてみましても、大体この一年半ばかりの間はほとんど
コスト割れの
状態を継続的に示してきておるというのがその
実情であるのでございます。結局
価格がそれだけ悪いということは
品物の品質を落しているというような形で実際には
経済が動いておるのでございます。それで、これは
綿業自体が御
承知のように
国内におきましても
相当に重要な
産業でありますし、また業態が大体
中小企業でございまして、しかも全国的に散在をしておるというようなことで、これを国の
立場から見ても、いつまでもこうしたアブノーマルな
状態を放置しておくということが適切でないということに相なりまするので、昨年の十二月に
中小企業安定法の二十九条というのを
発動いたしまして、まず
設備制限を
実施をいたしたのでございます。この
綿業界が悪いという
状態は、これはそのときどきの
経済状態によりまして一時的な
原因というものが同時に伴っておるのでありますが、本質的、根本的には
設備が非常に多い、そこへ持ってきて先ほど申し上げた
中小企業形態であるというようなことがしんにゅうがかかって、少し
業界の様子が悪くなると輪をかけて悪い
状態が出てくるというようなことで、従ってこの根本の
設備の過剰という問題について
解決策を講じ、そうしてだんだんと
設備内容を
合理化していくということに手を入れない限りは、いつまでもこうした
状態は免れないということになりますので、昨年の十二月、ただいま申し上げたような
方法を
実施をいたしたのでございます。この二十九条の
発動といいますのは、現在以上に
織機を増設をさせないということで、
設備の増加を一応
抑制をするということがその
内容でございます。そらして一応そのラインで線を引きまして、現在ある
織機についてはできるだけ
合理化資金を
政府におきましてもあっせんをいたしまして、
設備内容をたとえば古いものは新しい性能のいいものにだんだんと切りかえていくということで、台数をふやさないで一応
安定線を引いた上で、その
安定線の上に立って
合理化を
実施をさせてみるということが二十九条
発動の
趣旨でございます。これは今申し上げたようなことで、
設備を要するに新しくふえるのを
抑制するということでありますので、当面の
市況に対しましては間接的な
効果しかないということで、直面しております
綿業界の
不況状況というものを
改善するには直ちには
効果を示さない。これはもとより当初からその覚悟でやったのであります。
実施をいたしましても別段の特別な反響はなかったということであるのであります。そこで当面の
市況は
市況として、これに対する
対策は別途に講じなければならぬということで、本年の二月から、
機屋の
業者が全国的な
調整組合というものを作っておりまして、この
調整組合が自治的に
生産制限を行う、従来の
操業率に対しまして約一割二分の
操業短縮を行うということを
決定をいたしまして、
政府におきましてもこれを認可をして、二月一日から
実行に入ったのであります。ただ、これの
アウトサイダーといたしましては、糸から
織物を一貫して作っておりまする
綿紡績業者というものが、能力的にいきましても、実力的にいきましても、非常に有力な
アウトサイダーでありますので、従ってこの
中小企業の
機屋が
生産制限を行うという場合におきましても、
アウトサイダーである
紡績業者が協力しない限りは十分な
効果は得られないということでありますから、一応
アウトサイダーである
紡績業者に対しましても、
中小業者の
操短の
実施と同時に、役所の方からできる限り協力をするようにという
意味の
勧告をいたしたのでございます。ただしこれは、今日講じておりまする
紡績の
操短勧告というほどに強い
勧告ではないのでありまして、好意的に、できるだけ自発的に協調するようにという
程度の通達であったのでありますが、
紡績業界といたしましては、糸と
織物とを一貫をして作っております
関係から、
織物の部分だけを繰短をいたしまして、糸について
操業短縮をしないということは、
工場の
操業あるいは対
労働組合、いろいろな
関係からいきまして困難がありましたので、従って必ずしも十分な同調は得られなかったというような
事情で四月ごろまで推移をして参ったのであります。二月のただいま申し上げた
機屋を
中心とした
生産制限の
実施によりまして、幾分
市況の
回復はいたしましたけれ
ども、とにかく客観的な情勢が悪い、
綿業の
市況が悪いということは、
ひとり日本ばかりの現象でなく、世界的に
沈滞状況でありまして、
輸出も今年に入りましてからだんだんと
低下してきておるというようなことで、
生産制限によって一時は若干
値段の
回復をいたしたのでありますけれ
ども、それも大勢に抗し得ず、大体もとの
状態に戻ってしまったというような
状況をたどって参ったのでございますが、四月に入りましてから
綿業界としては非常に期待をしておりました。
パキスタンに対する
綿糸布の
輸出関係が、当初
予定をしていたよりも
実行先がに延びた。当初の
予定では六月の半ばころまでに
相当額、約一千万ドル近い額が
輸出をされるということに
予定をしておったのでございますが、先方のいろいろな
都合でだんだん延び延びに延びて参りまして、ことしの末
あたりまでに
実行すればいいというような
状態になって参りましたので、それを契機にいたしまして、
綿糸の
値段が四月からかなり顕著な
下落を示したのであります。それまでは
織物の
関係は先ほど申し上げたように非常に慢性的な
不況の
状況であったのでありますが、
綿糸の
値段は必ずしもそれほど悪くなかった。いい
値段でもなかったようでありますが、といって
コストを割るようなひどい
価格という
状態では必ずしもなかったのであります。従って先ほど申し上げたような、糸について
生産制限を
実行をすることを回避いたしまして、
織物についてのみ
生産制限を行なってきた。そういうような
方法を講じて参ったのでありますが、四月に入りましてただいま申し上げたような
事情で糸も顕著に
下落をいたしまして、糸の
相場としては、
コストをほとんど割るような
状態にまで落ちてきたのであります。一方
織物の
価格を
適正化するという方の問題は、先ほど申し上げたような、いろいろな
手段を一応講じて参りましたがなかなか
効果が上らない。残された
手段は糸の
生産を少くして、それによって
需給関係を
回復するということしか手がなくなってきておる。そこでもって糸の
価格自体も、まずもって
操短をさしても差しつかえないような、かなりひどい
価格になってきたというような
事情が
二つ重なりましたので、四月の下旬に糸についても
操短をするということを
決定をいたしまして、五月から
綿糸の
操短勧告、
生産制限を
実施することにいたしたのでございます。なお五月からの
綿糸の
操短勧告、
操短実施につきましては、今申し上げた
綿糸布、特に綿布を
中心とした
価格の
適正化といいますか、
改善という問題が
一つの
理由でございますが、そのほかにも、従来からこの
綿業の
操業状態が国の
立場から見ますと原料である
原綿を食い過ぎておる。御
承知のように国の
輸入の問題といたしましては、
外貨予算というものがありまして、毎年の
原綿の
輸入量を
予定しておるのでございますが、それの
月々の
標準といいますか、そういうものに比べてみますと、
綿業界が実際に
消費しておりまする
原綿は
相当その
標準量を上回っておる。いわゆる
原綿の
過剰消費という問題が従来から行われてきておったのでありまして、これは一口に言えば
外貨資金をよけい食っておるということになりますので、従って国の
立場からいきましても、いつまでもこの
状態を放置することは適当でないということに相なるのであります。この点につきましては、従来から公式、非公式に何回か
綿業界に対しましては注意を喚起して参ったのでありますが、なかなか
業界としては、いわゆる
自転車操業といいますか、
工場の経営のいろいろな
都合もあって、
原綿の
適正消費というところまでいき得なかったのでありますが、こういう点もありまして、先ほど申し上げた五月から
操短をこの
立場からも
実行させるということにいたしたのであります。
〔小
委員長退席、
内田小
委員長代理着席〕
さらにまたその他の重要な
理由といたしましては、
日本の
綿糸布の
輸出価格が、従来から
国際価格に比べてかなり下回っておる。いわゆる
英国あるいはスイス、
フランス等の国からいたしますと、
日本はダンピングしておるということで、機会あるごとに痛烈な批判を受けて参っておる。ことに
競争相手である
英国からは、
相当いろいろな面から
日本の
綿糸布の安売りに対しては
非難攻撃が加えられて参っておったのであります。この点につきましては、従来からいろいろな
措置は講じて若干は
改善して参っておるのですが、それにしてもまだ
改善の
程度が足らないということは確かに言えるのでありまして、従って
操短の
生産制限ということによりまして、ある
程度価格の
改善にも役立たせようということで、結局先ほど申し上げました点を要約いたしますと、
綿糸布の
価格の
改善、
原綿の
過剰消費の
抑制、それから
輸出価格の
適正化といいますか、
改善といいますか、そういう三つの
事情を主たる
理由といたしまして、五月から
綿紡の
操短に入ったのであります。この
操短の
程度は、従来の
操業に対しまして、大体
平均して一割二分
程度の
生産縮小させる。ちょうど
織物の方が先ほど申しましたように一割二分の
生産縮小を
実行いたしておりますので、それと合せる
意味におきましても、糸について一割二分の
操業短縮を
勧告いたしたのであります。これをとりあえず五月、六月と
実施をすることにして現在まで推移してきておるのでございます。ところが最近におきまして、糸と
織物は
崩落に
崩落を重ねて参りまして、現在
新聞紙上をにぎわしておるような
状態に立ち至っておるのでございますが、これにつきましては、
理由を要約いたしますと、まず私
どもは
二つの
原因があるんじゃないか、
二つの
理由に帰し得るんじゃないかというように考えておるのでございます。
第一の問題は、
原綿の
価格が不安定である。むしろ先安を予想されて非常に不安定な
状態にあるということが、その
一つであります。これは海外のニューヨークだとか、あるいはリヴァプールだとかいうところに綿の
取引所があるのでありますが、その
相場を見ましても先物が安くなってきておる、要するに先安だということ、それから特に
アメリカは、御
承知のように農産物が一般に非常に
過剰状態で困っておるのでありますが、
原綿につきましても約一千万俵近くのものを
アメリカ政府が
手持ちをしておるというようなことで、
原綿の
過剰状態で非常に困っておる。それに関連して八月
あたりから
原綿の
輸出に対して
補助金を出すんじゃないかというようなことが、巷間の一部に予想をされておるのであります。この点につきましては、
アメリカの
政府の側といたしましては、はっきり
補助金は出さないんだということは、別段公式な
言明はいたしておらないのでありまして、少くとも七月までは出さぬということははっきりいたしておるのでありますが、八月からは出さないということも
言明しておりませんし、出すということも
言明していない、いわば非常にあいまいもこたる
状態である。そこでよけい
業界としては疑心暗鬼という感じを持ちまして、もし
補助金を出されるとするならば、
原綿の
価格が安くなる。それから糸の
相場も安くなるだろうというようなことが、今回の糸価の低落の有力な
原因になっておる、かように考えるのであります。この点につきましては、こちらの大使館を通じて、出す出さぬはとにかく、早くはっきりしてもらいたい。
ひとり日本が因っているばかりでなく、
フランスにいたしましても、イギリスにいたしましても、
原綿を買う
立場にあるものは、いずれも大同小異この問題に困惑をいたしておりますので、できるだけ早くはっきりしてもらいたいということの申し入れはしておりますが、今のところまだこの点についてははっきりしていない。大体非公式には
関係の係官は、おそらく出ることはあるまいというような
見方をしておりますが、少くとも万が一を心配する
業界、
業者の心理を納得するだけの十分な責任ある
言明は出ていないというようなことで、これが
一つの不安定あるいは
相場を引き下げる有力な
原因になっておる、かように見ておるのであります。
それから第二の
原因といたしましては、これはいわば
日本だけの
事情とも言い得るのでありまして、
需給関係が均整がとれていない、
均衡状態を失っておるというのがその第二の
理由であると思うのであります。これは従来の
生産が、大体
月々約十九万何がし、二十万
コリ程度が
月々の
平均の
生産量であったのでありますが、最近におきましては
輸出が御
承知のように一般的にふるわない。昨年の後半期におきましては月に一億四、五千万ヤード出ておった
輸出が、ことしに入りましては大体八千万ヤードくらいに落ちてきておるというような
状況で、
輸出が非常に不振である。それから
内需につきましても今日のような
経済状況でありますので、むろんこの方もふるわないというような
事情が重なって、
月々の実
需要というものがかなり
低下を来たしておるのであります。これは人の
見方によっていろいろ違いますが、まず大体十六万から十七万、十六万前後ではないかと、これは弱気の人と強気の人とではいろいろ
見方がありますが、大体十六万から十六万五千くらいのところではなかろうかというように想像をいたすのであります。一方
生産は、従来のベースそのまま行くと約二十万
コリくらいになるということで、
月々三万ないし四万
コリくらいのものが
在庫に入ってきておる。要するに
生産がオーバーしておるという
状況であります。一方
在庫の
状態も約五十万
コリほど現在
手持ちのものをかかえておるのでありまして、
普通ノーマルの
在庫が三十万から三十二、三万だということがいわれておりますが、従って十七、八万
コリのものがよけいになっておるということで、要するに
需要供給の
関係がバランスが失われておるというのが現在の
実情でございます。そこでこの面につきましてはだれが考えても
需要関係をできるだけ
均衡化させるということになるのでありまして、先ほど申し上げた
生産制限、
操短というものもその
趣旨において出したのでありますが、今日行なっておりまする
操短が確実に
実行されますと、約十六万五千から十七万の間くらいに大体なるだろうと考えております。
〔
内田小
委員長代理退席、小
委員長着席〕
五月あるいは六月、少くとも五月は
操短に入ったばかりで、各
工場ともすぐに
操短の態勢に切りかえることが困難であった。特に現在の
操短は
平均いたしますと一割二分というようなところをめどにして
決定をいたしたのでありますが、いよいよ
実行の
段階で
実施計画というものを立てたあとにおいて見ますると、
工場によりましては三割二分くらいの
設備を封緘するということになるのであります。一万錘ある
工場が三千二百錘をたな上げをするというような
状態になるわけでありますので、かなり
操業の
短縮としては
規模がきついということが言い得ると思います。そこで五月からすぐそれにはついていけない、
ステップ・バイ・
ステップでいくというような
意味で、五月は多少今申し上げたような
生産数量よりも若干上回るのではなかろうか、六月はそれよりもさらに落ちて、七月、八月
あたりからだんだんと
予定をしております
生産縮小の
規模の
数字が出てくるのではなかろうかということに想像いたしておりますが、今申し上げたような
操短が確実に行われるということになりますと、大体
需給関係はとんとんになる。
在庫を約五十万というものが、
市況に対しての非常な
逼迫材料にはなりますが、この問題を抜きにして考えますと、まず
需要と
生産との
関係は大体
均衡状態になっておる。かように考えるのであります。
在庫の方の
関係は、先ほど申し上げたような
パキスタンの
輸出が、約二万五千
コリから三万
コリくらいのものが出ていくことになりますが、これは普通の
輸出と違った、
パキスタンと
日本との
通商協定というものにプラスした
輸出でありまして、
アメリカにかわって
日本が加工をして
輸出をするという
形態のものでありますので、いわば
日本の
輸出にとっては
一つのこぶといいますか、プラスに考えていいようなものであるのであります。従ってこういうものは、あるいは今後の
輸出努力によりましてだんだんと
在庫を縮小していく
——多少これは時間かかかると思います。この十七、八万
コリの過剰の
在庫を今日の
経済状態におきまして消化をしていくということは、特別に焼くか捨てるかしない限りは、多少の時間はかかると思いますが、確実に
操短を守って参り、そして
需要の開拓を続けていくということを、少しく隠忍してその
努力を、続けて参りまするならば、だんだんと
需給関係の
均衡もとれてくるのではなかろうか、かように思っております。
なお当面の
市況対策としては、今まで申し上げたことのほかに、
原綿の、何といいますか
輸入をある
程度しぼるさし
あたりの問題としては、
原綿の割当を一時的に停止をするという
措置をとっております。これらの
手段によってだんだんと
均衡の
回復をさしていきたい。ただ問題は、先ほど申し上げた第一の方の、
米綿の方の
価格の問題が、見通しがはっきりしない限りにおきましては、どうも
不安定状態というものが、少くとも八月一日に至ってその
措置がはっきりするまでは、この
不安定状態はある
程度免れない、さような推測を持っております。
以上、大体の
概要につきまして申し上げました。