○下野
公述人 ただいま御紹介いただきました全窯連会長下野でございます。われわれが多年にわたりまして要望して参りましたが、本日ここに
政府提案によりまして、本
委員会によって
けい肺法が審議されるに当りまして、私
公述の機会をお与えいただきましたことに対しまして、深く敬意を表しますとともに、厚く感謝を表明いたす次第でございます。
御承知のように、多年にわたって要望して参りました
けい肺の問題につきましては、
委員各位におかれましても十分御認識の通り、全く不治の病といたしまして、私ども多くの同僚
労働者が、これに過去数十年間、幾多の犠牲を払って参ったと
考えております。こういったことが、ようやく各方面にわたりまして御認識をいただきまして、幸いに今日こういう
特別保護法案として、国民の
皆様から御理解をいただかんといたしておりますことに対しましては、これまた厚く感謝を表明申し上げる次第でございます。従って私は、産業界におきまして、
窯業産業の
立場におきまして、今まで能見
公述人、十二村
公述人からるる
公述されましたと全く大同小異ではあると思いますが、
窯業産業の
労働者の
立場におきまして一、二申し上げさせていただきたいと存じております。
私ども
窯業労働者は、全国に十数万を数えておると思います。幾多苦難な
けい肺に対しまするところの運動を展開して参ったのでありまして、今日に至りましたことを、全く感慨無量に存じておる次第でございます。しかし、ここに
政府提案として
保護法案が現われましたことに対しまして、率直なところ、われわれの過去の主張して参りました点から参りまして、満足すべきものではなく、むしろわれわれとしては、多くの問題点を残しておるものというふうに
考えております。しかしながら、現在この瞬間におきましても、多くの
労働者が、この不治の
けい肺のために、あるいは
職場に倒れまして、あるいは病床に呻吟しながら、全く死を待つのみの状態であるということを、私は同僚の
立場におきまして、痛切に
皆様にお訴えいたしたいとともに、そういう観点から参りまして、個個のこういうような問題点、あるいは不満足ではございますが、
国家のあたたかい
保護の措置の一日もその実現の早からんことを念願いたすために、今日ここにおきまして、私は
本法案の成立に数点の
意見を申し上げさせていただき、これをぜひ
委員の
皆様におかれまして取り上げていただきまして、組み入れていただくことを御要望申し上げますとともに、
本法案に対しまして賛成の
意思を表明申し上げたいと存ずる次第でございます。
意見の一つといたしまして、
健康診断につきまして、私ども
窯業産業の実態と申しまするのは、きわめて零細
企業から
中小企業の範囲にとどまっておりまして、その内容等、あるいは歴史的に今日
考え合せましても、これまたきわめて粉塵
職場というものに対します概念、これを今日の
法案の内容を拝見いたしまするときに、粉塵
職場というものに対しまするところの
規定、これがきわめてあいまいではなかろうか。なるほど、
政府の方の御
説明に、今後徐々にこういったようなものは増減を行なっていくということが言われておりますが、まず
最初健康診断を行う場合におきましても、粉塵
職場というものに対します
考え方を広義に御解釈願って、いわゆる粉塵
職場そのものは、
窯業の
立場におきましては、少くとも全
職場を
対象にお願い申し上げたいと存ずる次第でございます。
今申し上げましたように、一つの例を申し上げますと、これはごく最近に
健康診断の結果現われた状態でございますが、もちろん
窯業産業の原材料というものにつきましては、皆さん御承知の通り、
けい酸分がその五〇%以上を含んでいるのが実情でございます。
陶磁器あるいは
耐火れんが、その他、幾多
窯業の中にも異なったものを持っておりますが、国内の山から掘り出しました資源をもとに、ほとんどそれを輸出に充てておるというのが現状でありますが、
けい酸分は約五〇%以上を占めておるのが
窯業産業の特質でございます。さような意味からいきまして、全く危険な状態にさらされておるということが現状ではないかと
考えておる次第でございます。今申し上げましたように、最近の
診断の結果、これは岐阜県の多治見市でタイルを製造しておる上山製陶所というところでございます。
従業員約五百名と存じておりますが、十年以上の勤続者におきまして、九四・四%という罹患率を現わしております。これにつきましては、事務職員におきましてもこれに罹患しておる、こういうのが現状でございます。従って、今申し上げましたように、全
職場をぜひ一つ
対象に
健康診断をお願い申し上げたい、かようなことを申し上げる次第でございます。
次に、
作業の
転換につきまして、この点につきましては、私ども
労働者といたしましては、いわゆる
生活状態、これをまず根底から
考えなければならぬ。
転換の場合に、先ほど十二村
公述人も申し上げられました通りに、半恒久的な
補償がされていかねばならない、かように申し上げたいと存じております。賃金の低下によりまして
生活の脅威にさらされるということは、私どもとしては、あくまで排除して参りたいというふうに
考えておる次第でございます。従って、
政府の今回の
法案に、
作業転換の場合に
勧告ができる、こういう条項があるわけでございますが、この
取扱いの面につきまして、いわゆる当該罹患
労働者の
意見と申しますか、
意思を、
勧告される場合、それを実現される場合には、十分参酌して、その了解のもとにこれを行わなければならないと存じております。これが、ややもいたしますと、
勧告を悪用したところの一方的な命令、こういうようなことは、実際にはないかもしれませんが、その運営面におきまして、そういう危険を私どもは
感じておる次第でございます。これらにつきましては、十分この危険のないように善処していただくために、法の上におきまして、明らかにお願い申し上げたいということを御主張申し上げたいと思います。
なお、
勧告を応諾いたしました者に対しましての就職条件、これまた十二村
公述人が申されました通りに、現在の労働
事情と申しまするか、健康なる者ですら、多数の失業者を累年出しておるような状態の中におきまして、果してこの唱えられることが実現でき得るかどうかということに対しましては、私どもはなはだ危惧の念を抱いておる次第でございます。従って、こういったようなものは、十分当該
労働者の
意思をくみ入れていただいて、その上において、国及び使用者がこれの就職に責任を持っていただきたい、かようなことを御主張申し上げる次第でございます。
なお、当該
事業場において解決できないというような場合におきましては、雇用契約を一応そのままにしておかれる必要があるのではないか。
労働基準法の第十九条に盛られておる精神をもとに
考えていただくなれば、あくまで雇用契約はそのままにしておかなければならない。すなわち、
転換の場合には社内を原則とする、国の就労施設が完備せられておらない現状におきましては、特にその必要を痛感する次第でございますので、これまた十分お
考えをお願い申し上げたいと思う次第でございます。
次に、療養
給付並びに休業
給付につきまして、これは療養期間中におきまして、雇用契約の三カ年間、いわゆる労災によっての打ち切り
補償後におけるところの療養並びに休業
給付の点でございますが、この点につきましては、全く私ども納得でき得ないものを持っております。私どもといたしましては、格別のこの
けい肺という問題の意味からいきまして、これを五カ年間に延長を願うとともに、休業
給付につきましても、同様な
考え方でこの法を一つ御
進行願いたいと思っております。この算定基礎等につきましても、同様な
考え方で八〇%に改めていただくことをお願い申し上げたいと思っております。
次に、
費用の
負担でありますが、
費用の
負担につきましては、特に
窯業産業等の零細
企業では、これが将来大きく使用者の
負担が
労働者にしわ寄せされる、こういうような危険を私どもは
感じておる次第でございます。ぜひこの
法案の完備とともに、大幅な
国庫の
負担を御要請申し上げたいと思っております。
その他の点につきましては、特にこの
法案の
施行に当りましては、相当な問題が残されておると思いますので、罰則の強化、
診断医の常勤制、就労施設の実現など、一つ法の完全に
施行され得る条件を整えられんことをお願い申し上げる次第でございます。なお、この点に関しまして、
けい肺審議会の運営、構成、権限などを一つ御
規定願いまして、法の円滑な運営をはかられんことを御期待申し上げたいと思っております。
現在の
医学の力をもってしましては、治癒は、根本的なものにつきましてはほとんど困難であるということがいわれております
けい肺につきましては、従って粉塵の危険恕限度などの決定を通じまして
作業場の浄化に努めるとともに、いわゆる予防措置の点につきまして、一連のものをぜひ
規定の中に繰り入れられんことを御要望申し上げる次第でございます。
以上、
本法案に対しまして、いろいろな問題は残しておると思いますが、これに対しまして、以上申し述べました
意見を十分一つ
皆様委員各位におかれまして、実現の困難な点も多々あると存じますが、冒頭に述べましたごとく、一般の疑惑を招き、産業の実態と
労働者の
生活を軽視した内容については、ぜひ改正をいただきまして、申し述べた
意見を十分参酌されまして、一日も早く法の制定されんことを重ねて御要望申し上げまして、
公述を終らせていただきます。