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1955-07-28 第22回国会 衆議院 社会労働委員会 第52号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年七月二十八日(木曜日)     午前十時五十九分開議  出席委員    委員長 中村三之丞君    理事 大石 武一君 理事 中川 俊思君    理事 松岡 松平君 理事 大橋 武夫君    理事 山下 春江君 理事 山花 秀雄君    理事 吉川 兼光君       植村 武一君    臼井 莊一君       亀山 孝一君    草野一郎平君       小島 徹三君    床次 徳二君       山本 利壽君    横井 太郎君       亘  四郎君    越智  茂君       高橋  等君    中山 マサ君       野澤 清人君    八田 貞義君       岡本 隆一君    多賀谷真稔君       滝井 義高君    中村 英男君       長谷川 保君    横錢 重吉君       井堀 繁雄君    受田 新吉君       中原 健次君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 川崎 秀二君  出席政府委員         検     事         (法制局第二部         長)      野木 新一君         厚生事務官         (保険局長)  久下 勝次君  委員外出席者         厚生事務官         (保険局健康保         険課長)    山本 正淑君         専  門  員 川井 章知君         専  門  員 引地亮太郎君         専  門  員 浜口金一郎君     ————————————— 七月二十八日  委員柳田秀一君辞任につき、その補欠として多  賀谷真稔君が議長の指名で委員に選任された。     ————————————— 七月二十七日  調理改善法案片柳眞吉君外七名提出参法第  二七号)(予) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  連合審査会開会に関する件  委員派遣承認申請の件  閉会中審査に関する件  健康保険法等の一部を改正する法律案岡良一  君外十一名提出衆法第三五号)  健康保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第一〇二号)  厚生年金保険法の一部を改正する法律案内閣  提出第一〇四号)  船員保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第一〇五号)     —————————————
  2. 中村三之丞

    中村委員長 これより会議を開きます。  内閣提出健康保険法の一部を改正する法律案岡良一君外十一名提出健康保険法等の一部を改正する法律案厚生年金保険法の一部を改正する法律案及び船員保険法の一部を改正する法律案の四法案を一括して議題となし、質疑を続行いたします。大橋武夫君。
  3. 大橋武夫

    大橋(武)委員 最初に、昨日、答弁を研究の上、けさ答弁をお願いするようにしておきました、何ゆえに三千円台の所得者を全部四千円に統一しなければならないか、この点についての理論的な根拠を、一つ明らから御説明をお願いします。
  4. 久下勝次

    久下政府委員 昨日申し上げましたことを繰り返す部分もあろうかと思いますが、一応私ども考え方を総合的に申し上げまして答弁にかえたいと思います。  昨日も申し上げました通り標準報酬最低額でございます第一級該当者は、本年の四月現在におきまして十六万六千八百人あるのでございます。これを前二回の標準報酬最低額引き上げ直後の状況に比較してみますと、昭和二十四年五月に最低を二千円に引き上げましたときに、直後におきまして第一級該当者が二十八万八千六百人おったのでございます。さらに越えて昭和二十八年に標準報酬最低額を三千円に引き上げた直後の数字を申し上げますと、第一級該当者が二十一万三千七百人でございまして、最近の実情に比較いたしますと、このような前二期におきましては、全体の被保険者に対する比率におきましても、絶対数におきましても、今日の状況に比較して非常に第一級該当者が多かったのでございます。しかも、今日の給与実態から考えまして、昨日も申し上げましたように、公務員最低報酬でございます一級一号が約五千円程度になっておることも御案内通りでございまして、実際今日の経済状態から申しまして、三千円程度報酬を取っております被保険者が、絶無とは申せないと思いますけれども、これらの人々は、あるいは住み込みでありますとか、あるいは食事の給与を受けますとか、それでなければパート・タイムとかいうようなことで、他に一応の生活のかてを持っている者であるとかいうものが多いと私どもは想像いたしておるのでございます。これらの事実につきまして、実際は私ども職員が現地に参りまして、それぞれの企業について精細な調査をいたせばよろしいと思うのでございますけれども、今日の実情におきましては、実際問題として、そういうところまで手が回りかねる実情であります。さような観点から、四千円程度引き上げましても、実際問題として無理がないのではないかというのが一つ理由でございます。  それからもう一つは、これも決定的なきめ手とは申せないのでございますけれども、こういう観点からも検討してみたのでございます。保険給付費というものが、被保険者一人当りが年々上っておりますことは、すでに話題に上っておるところでございますが、これを昭和二十六年と二十九年、三十年とをそれぞれ比較して申し上げますと、昭和二十六年度におきましては一人当り保険給付額は年間三千五百六十八円でございました。これが昭和二十九年度には七千三十四円と一躍約倍に高まっておりまするし、また昭和三十年度におきましては、七千八百三十一円というように上昇する見込みも立てておるのでございます。さような点から考えまして——もちろん社会保険でございますから、給付に見合う保険料を各被保険者から取るということを申し上げるのではございませんけれども、さきに申し上げましたような事情話題に上りまして、この程度最低額引き上げましても、つじつまが合った説明ができるのではなかろうかというふうに考えたものでございます。  第三に申し上げたいと思いますことは、これは昨日も申し上げたのでございますが、御案内通り健康保険におきましても、傷病手当金等は、標準報酬基準にして支給をせられるのでございまして、そういう関係から、四千円に引き上げますると、それぞれ最低給与を受けております人々保険給付額が増して参る部分がございまするし、さらにまた、厚生年金保険標準報酬につきましては、実際の取扱いの面も考えまして、御案内通り最低及び途中の標準報酬の刻み方は、健康保険と実は全く同一にいたしておるのでございます。申し上げるまでもなく、厚生年金保険におきましては標準報酬基準にして、すべての給付が行われることになっております。そういう意味から若干の保険料負担増がございましても、標準報酬引き上げることによりまして年金給付額もそれだけ増して参りますので、さような点からも、被保険者にとって無理ではないのではないかというふうに考えました次第でございます。  以上のようなそれぞれの問題は、御批判もいただきましたように、一つ一つをとらえて参りますと、またその一つ一つの理論を徹底して参りますと、はなはだ標準報酬制度根本に触れたような妙な結論になるかもしれませんが、私どもといたしまして、今申し上げましたような各種事情を比較考慮いたしまして、さらにまた、過去におきまして標準報酬最低額引き上げて参りました時のいきさつなども考え合せまして、この程度のことを引き上げましても、差しつかえないのではないかというのが結論でございます。
  5. 大橋武夫

    大橋(武)委員 ただいまのお答えを伺っておりますと、特に第一級の引き上げについての御説明は受け取りがたい点が多いのであります。まず第一に、第一級の引き上げ理由として、実際上調べが行き届いておらぬために、ほんとう報酬はもっと多いのではないか、従って負担はそう過重になるまい、こういう御説明でございましたが、特別に第一級だけが調査が困難であって、そして報酬の実額と違うのではないかということを疑うに足る何か格別な事由がございましょうか。
  6. 久下勝次

    久下政府委員 ただいま仰せになりましたような観点から、私の申し上げました理由を御批判をいただきますと、確かにおっしゃる通りでございます。それでは五千円、六千円の標準報酬のものは、確実に実質賃金に合っているのかと言われますと、そうとは言い切れない実情がございます。ただ私が申し上げましたのは、今三点か四点あげて申し上げましたそれぞれの理由を総合的に考えて参りました場合には、という意味で申し上げたのでございます。
  7. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、第一番の点は、特別の理由としては価値はゼロ、こういうことですが、二、三、四があるからみなで理由になるのだ、こういうお話です。それならば、第一番は価値はゼロ、第二番目は給付費が増加しておるという理由であります。すなわち平均七千円以上一人前かかるのにという説明でしたが、これは七千円以上かかるから七千円に上げるのだというならばわかります。しかし、この五千円、六千円、七千円、八千円というようなところはそのままにして、特に三千円の人だけなぜ四千円に上げなければならぬのでしょうか。
  8. 久下勝次

    久下政府委員 その点につきましても、私お断わり申し上げましたように、これ一つきめ手でこういうことを申し上げているのではないという意味で、これらもこういうことを処理いたします上の一つの材料として検討していい問題ではないかという意味で申し上げたのであります。
  9. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それから三番目、四番目は、傷病手当金あるいは厚生年金引き上げですが、これも引き上げる方が有利だというのは、特に三千円級の人だけではない、それ以上の人たちについても引き上げた方が有利になる。もし引き上げが有利だとすれば、中間の人もやはり上げなければならないのに、あなたの方では中間の人は上げずに、ただ三千円級だけを上げておる。そうしますと、どの理由を見ても、第一級を引き上げなければならぬ理由としてはゼロだということになる。ゼロを四つ合せたところで、われわれの算術ではゼロです。あなたの方では、ゼロを四つ合せれば、何らかそこに合理的な一つのまとまった数になるという特別な算術でもおありでしたら、その算式を後学のために一つ教えて下さい。
  10. 久下勝次

    久下政府委員 私が申し上げました各種理由は、大橋先生はゼロだとおっしゃいますが、私どもとしては、必ずしもゼロではない、それをプラスいたしますことによって、積極的な根拠になり得るのではないかというふうに考えております。
  11. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それでは伺いましよう。かりにあなたの方が今申された四つ理由を合せれば積極的な根拠になるとおっしゃるならば、その四つ理由は、ひとり三千円台の人ばかりにあるのではございません、四千円から相当上の中軸どころまで、その理由はすべての被保険者に共通の理由なんです。ところで、なぜそれでは四千円以上の人は、同じ理由によってお上げにならなかったのですか。
  12. 久下勝次

    久下政府委員 四千円以上の者につきましては——これはもう法律ではすでに五千円なり、六千円なり、一万円なり、二万円もあるわけでございますから、上げるわけには参らないのであります。あとはただ実態を把握いたすことによりまして、等級の認定を高める以外には手はないわけでございます。そういう意味合いで、途中の人たちにつきましては、結局実質賃金に合わない標準報酬きめ手がなされておるとしますれば——それも私はないとは申し上げられませんが、そういう意味で、常に私どもは地方の第一線の職員を督励いたしまして、標準報酬実質賃金が不当に低く届け出られておりますような場合には、実情調査させて訂正をさせておるのでございます。途中の人は、そういう理由法律をもって処置することができない事情がございます。最低額につきましては、法律をもって上げることによって、実質引き上げの目的を達することができるというような面もあるわけでございます。それも、全然理由のないことであればいかがかと思いますが、先ほど来申し上げているような、それぞれ若干の理由があると考えられますので、私どもとしては、最低額法律改正によって引き上げることにいたしております。
  13. 大橋武夫

    大橋(武)委員 何べん言っても、三千円の収入のある者を四千円として標準報酬をきめなければならぬという理由は、どうも私どもには理解できないのですが、何か一つこういう理由なんだというきめ手になるのはないのですか。あなたは、ただ数を多く、四つも五つも並べられておりますが、なるほどと思うのは一つもない。あなた御自身は、なるほどと思っているのですか。もしそういうふうなわれわれにわからないような理屈を不思議でなく理解できるとすると、果してそういう特別なものの考え方をなさる人が、一般大衆を相手としたこういう社会保険のごとき重要な問題について方針を決定されるということが、国民の立場から見ていいか悪いか、疑問であるといわざるを得ないと思うのであります。おそらくこの点は、明らかにあなた方の手違いではないのですか、三千円のものを四千円に引き上げるというのは間違って、ついでにこういうものがくっついていったんじゃないですか。むしろ私は三千円というものは従来通り残しておいて、そうしてずっと上の方だけ新しく報酬が非常にふえてきているから、それに応じて新しいワクを作る、こうするのが社会保険として適当であったのではないかと思うのですが、あなた方もほんとうはそう思っていられるのではないですか。もしそう思っておられないとすると、これはもう社会保険というものの考え方については、よほど根本的に伺ってみなければならぬと思うのです。なぜかというと、三千円の収入のある人たちを四千円の収入人たちと同じ負担をさせて、かえってその方が本人の幸福になるんだというような今の御説明は、私どもにはどうもわかりかねる。一つよく御検討の上、これが失敗であったならば、あっさり失敗であったとおっしゃっていただけば、何も深くとがめようというのではないのですから、率直にお答え願いたいと存じます。
  14. 久下勝次

    久下政府委員 何度も申し上げておりますように、過去におきましても、実際には相当私ども事務上の取扱いの上に現われております。第一級該当者というのが相当ありますが、先ほど来申し上げているような理由で過去においても引き上げているのでございます。実は大橋先生のように、この問題につきまして非常に突っ込んだ議論を今日までいたさなかった点はございます。私自身率直に申し上げまして、最低標準報酬引き上げるということにつきまして、標準報酬制度なり、社会保険制度根本から考えまして、理論的にずばりと割り切る根拠がないということを、はなはだ遺憾に思っているのでございます。しかしながら、今申し上げましたように、過去においても、先ほども申し上げておりますような理由で、今日まで引き上げてきた先例もございまするし、また実情から考えまして、ちょうど過去の先例が実際問題として無理なく受け入れられてきているように感ぜられますので、結局想像をいたしましたことが、そう無理でないのではないかというふうに考えてきただけでございます。突っ込んで申し上げれば、確かに御指摘のような問題があることを認めざるを得ないのであります。
  15. 川崎秀二

    川崎国務大臣 先ほど来、ことに昨日の終りから今朝にかけまして、四千円に標準報酬最低額引き上げたことにつきまして、非常に深く突っ込んだ御質問がありまして、ただいま久下局長最終答弁をいたしましたことが、厚生省としては元来の考え方ではなかろうかと私は思っております。私も、本来の考え方からいたしまして、最低額引き上げるということには、必ずしも気の進んだ行き方ではなかったのであります。ただ、いろいろ財政上の収支を一層健全にするための施策として行いましたことであることも、この際つけ加えて申し上げます。
  16. 大橋武夫

    大橋(武)委員 財政上の収支という点になりますと、これは金額についてはほとんど言うに足りないものではないかと思うのです。確かにこれは全般的には財政上の収支に影響はいたしますが、第一級だけの問題を、特に財政上やらなければならぬというふうな事情も、全体の経理の状態を伺ってみなければわかりませんが、先ほど仰せられた十六万とか十七万とかいう程度の数ならば、これはもう大した問題ではないのではないかと思うわけです。  そこで、先ほど政府委員から言われましたように、現実に二千円、三千円という報酬がないならば、これはもう問題はないわけです。しかし、先ほど来局長も言われたように、前回の引き上げ、あるいは前々回の引き上げ後においても、相当現実においてはやはりそれ以下の所得者が残っているわけです。残っている以上は、たといその数が千人であろうと二千人であろうと、制度としてはその報酬に応じた保険料率というものをきめてあるわけですから、しかもそれを一律にきめてあるのですから、従って、これは従来のごとく、少くとも今度のような引き上げに際しては、三千円というワク現実に残すという措置が当然しかるべきものじゃなかろうか、こう思うのですが、その点についてはどうでございましょう。
  17. 久下勝次

    久下政府委員 いろいろ御説明を申し上げましても、御了承を得られませんことをはなはだ遺憾に思いますが、私どもといたしましては、政府全体としてこういう案で御提案を申し上げているのでございまして、そこまで逆の立場をとるかどうかということにつきましては、政府全体としての立場相談をいたさねばなりませんので、本日のところは、そんなことで御了承を願いたいと思います。
  18. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それでは、その点は政府全体で御相談の上で御返事になりますか。それではこの点は保留いたします。  それから、最初審議会にお出しになりました案は、一番高いところは七万円という報酬でありましたが、これが四万八千円になりました。七万円を四万八千円にすることについての事情として聞いておりますところでは、審議会においてどうも反対があった、そこで四万八千円にしたのだ。この反対のあったという点はわかりますが、四万八千円ということについての何か数字的な基礎とか、こういうふうな見当で四万八千円をきめたのだということがあったら、伺いたいと思います。
  19. 川崎秀二

    川崎国務大臣 七万円の問題につきましては、昨日御説明申し上げましたように、国家公務員最高額一つ目安としてきめましたことでありまして、一つ目安はあるが理論的な根拠はない。数字的な根拠はないとさえ私は申し上げたのでありますが、むしろこの四万八千円の方は、一つの理論的な根拠もあるわけでございます。それは標準報酬というものの考え方は、御承知のように被保険者報酬月額に基いて決定されるものでありますが、常に賃金実態に即応するように定めらるべきものであることはもとよりでございます。これによって相互扶助の基盤に立っておりまする被保険者負担の均衡をはかり、健康保険運営の適正を期することが可能だということになるわけでありますが、社会保障制度審議会及び社会保険審議会から、七万円の引き上げということは不当である、こういう答申を受けまして、特に学識経験者の中からは、七万円は不当であって、ただ引き上げるということについては、この際適当な数字があるであろうという有力な意見が、審議会の途中にしばしば出ましたことなども参照いたしまして、四万八千円ときめたわけであります。四万八千円の根拠というものは、標準報酬昭和二十八年の九月並びに昭和二十四年の五月に改訂いたしておりますが、昭和二十四年の五月に最低二千円、最高二万四千円に引き上げたときは、昭和二十四年五月当時の平均報酬月額は五千七百八十七円でありまして、昭和三十年度の平均報酬月額は二か一千七百円と見込まれておりまして、この間ちょうどその指数を一〇〇といたしますれば二〇二の指数ということになります。従って昭和二十四年五月に二万四千円でありまするから、これを四万八千円と改めるということについての算数的な基礎というものは、ここに一つ根拠があるわけであります。なお毎動統計といいまして、毎月勤統計労調査結果表によります標準賃金は、昭和二十四年五月で七千七百九十円となっておりまして、昭和二十九年十二月では一万五千八百七十九円でありまして、その指数は二○四となっております。こういう関係をも顧慮いたしまして、社会保障制度審議会並びに社会保険審議会の御勧告の中に、七万円は不当である——これが最終結論であり、その途中におきまして、主として学識経験者等から発言をされましたことは、七万円は不当であるけれども、現在の平均標準報酬を若干等級改訂をなすことは、この際必要ではないかというようなことで、数字は出ておりませんでしたが、四万八千円が妥当であるというふうに考えまして、国会へは四万八千円で提出をした次第でございます。
  20. 大橋武夫

    大橋(武)委員 この標準報酬等級区分引き上げの原案を、社会保険審議会あるいは社会保障制度審議会に御相談になりましたのは、何か法的な、どうしなければならぬという規定でもあってやられたのですか、それとも、ちょうど法案を作るに当って、専門的な機関相談しようという、大臣としての自発的な意思でやられたものですか。
  21. 川崎秀二

    川崎国務大臣 法律改正をいたす必要がありますときには、むろん国会審議をされるわけでありますが、その以前におきまして、健康保険の何条かに諮問機関たる社会保険審議会並びに社会保障制度審議会諮問せよということが書いてありますので、それに基いて諮問したのであります。
  22. 大橋武夫

    大橋(武)委員 何条ですかね。——わかりました。七十一条の四の二です。
  23. 川崎秀二

  24. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、この二十四条の二によって御諮問になったといたしますと、なるほどこの七万円という案については御諮問になっておりますが、この四万八千円という案については、法律上の御諮問があったのでしょうか。
  25. 久下勝次

    久下政府委員 御質問の点につきましては、私ども解釈は、七万円に引き上げるということでございますから、それ以内の問題は、その中に含まれておるというふうな解釈であります。
  26. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、その中に含まれておって、全体的に反対されたという中に含まれておるわけですか。
  27. 久下勝次

    久下政府委員 先ほど大臣が申し上げましたように、七万円で、しかも等級区分を書きましたもので諮問をいたしたのでございます。これに対しましては、答申書にも、一般的には反対というのでございまするが、しかしながら、一部の中立委員から、こういう少数意見があったということが付記されて答申もあったのでございます。その辺を参考にいたしまして、修正して提出いたした次第でございます。
  28. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、政府のお見込みでは、大体この二十四条の二の所定の手続を経ておるというお考えですね。
  29. 久下勝次

    久下政府委員 経ておるという考えでございます。
  30. 大橋武夫

    大橋(武)委員 この点、今回の政府措置が、二十四条の二に従っておるかどうか明らかにしたいと思いますから、委員長は後ほどでよろしゅうございますが、法制局長官をお呼びいただきたいと思います。これを保留して次に移ります。  今回の予算では、十億円の国庫補助ということが最終的に決定せられ、この予算が成立しておりますが、十億円をおきめになった根拠というのは、何かありましょうか。それともラウンド・ナンバーでこういうことになったのでしょうか。
  31. 川崎秀二

    川崎国務大臣 経緯は御承知通りでありまして、一割国庫負担ないしは定率国庫負担最終的には五分負担でもよいから、年々これを計上してもらいたいということを突っぱったのでありますが、これがいれられずに十億ということになりましたので、これに対しまする数字的な根拠というものは、ないと思います。ただ十億程度のものは、やはり国が負担をしなければならぬではないかということになりまして、結局ここ六年間引き続き十億の国庫負担をなすことが、今日の赤字財政収拾については適当ではないかということであったわけであります。
  32. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、六年間というのは、十億円ずつだから、六十億で六年間になった、こう考えてよろしゅうございますか。
  33. 川崎秀二

    川崎国務大臣 そうでございます。
  34. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうしますと、十億円を認めた政府考え方というものは、根本的に国庫負担の精神を認めてこの十億円を出したというのであるか、それとも健康保険財政の一時的な赤字対策援助という意味で、一時的に認めたものであるか、これはどういうふうに了解したらよろしゅうございましょうか。
  35. 川崎秀二

    川崎国務大臣 赤字財政ということに対しまして、国家が責任を持つべきであるという考え方に出発はいたしておりますが、今後健康保険の医療給付費に対し、一定額ないしは将来は一定率というものを負担しなければならぬ。財政収支均衡いかんにかかわらず、国家としては増大する医療給付費に対して責任を持つべきであるという考え方になりまして、この点は統一をいたしまして、今後は健康保険の医療給付費に対して、赤字いかんにかかわらず、当然国家が持つべきものという考え方になったわけでございます。
  36. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、政府の統一せられたるお考えといたしましては、健康保険に対しては、当然国庫負担制度として取り入れるべきものである、ただ今年度においては、財政の都合もあり、緊急差し迫った事態に対する最小限度の応急措置として十億円を入れることにした、なお同様の精神をもって今後六カ年間に六十億円を入れる、こういうふうに了解いたしてよろしいわけですね。
  37. 川崎秀二

    川崎国務大臣 その通りでございます。
  38. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それから、改正案の第一条に、被扶養者というものを制限をしておられるのでありますが、この制限を特に今回御採用になりました理由に、どういう点でございましょうか。
  39. 川崎秀二

    川崎国務大臣 現在の健康保険法におきましては、被保険者と同一の世帯に属して、もっぱら生計を維持されている者は、親族関係の有無にかかわらず、すべて被扶養者とすると規定されておるのでありまして、その範囲はきわめて不明確であります。かつ、実扶養者と被扶養者との認定は事業主がするという建前をとっておりますので、保険給付の面におきましても、事務取扱いの面におきましても、はなはだむだも多く、一連の調査結果に見ましても、家族給付が相当に乱用されておる向きもあるのであります。最近におきまして、実はそういうことが公けの席上におきましても散見をしたようなことがありまして、これでは民法における扶養義務及び諸外国の例を参考といたしまして、何とか乱給が防止されるようなことにいたしたい。それから日雇い労働者の健康保険における被扶養者は、今度は範囲を拡大されましたが、なおかつ被扶養者の範囲というものは三親等内ということに規定をされておりますので、これと歩調を合せなければならぬというような関係で、従来ややもすれば親族関係の有無にかかわらず被扶養者としたということで、範囲が不明確であったことや、あるいは乱給が行われておったということを規制するために行いましたことでございます。
  40. 大橋武夫

    大橋(武)委員 ただいまの大臣のお言葉の中の乱給という意味は、従来の範囲が広きに失して、従来の範囲それ自体が乱給であったというのか、それとも従来の範囲が不明確であるために、範囲外のものが自然にまぎれ込んで、それがために乱給になっておった、こういう意味であるか、どっちの意味でございましょうか。
  41. 久下勝次

    久下政府委員 大臣が申し上げました趣旨は、主として親族関係のない者についての問題でございます。非常に数が多いというわけではないのでありますけれども大臣から申し上げました通り、現行の規定は、もっぱら被保険者によって生計を維持するという言葉がある。これは親族関係のあります者にも一様に適用されますので、この点が実は非常に運用上問題でございます。若干の内職収入があると、もっぱらやっておるのかどうかというような議論が起って参りまして、この点が今回改正をいたしました実際問題として強い理由でございます。これはまた今度第三者的な親族関係のない者になります場合には、もっぱらというような解釈によって、被扶養者の届出が出て参りますと、なかなかこの認定がそういう意味で親族との関係のある者との関係等におきまして、いろいろ問題がめんどうになって参るのでございます。そういう意味合いで、結局現在の規定が、見ようによるとある面では非常に厳重である、他の面におきましては、親族関係の有無を問わないというので広くなっております関係上、そういう意味でむだがあるのではないかというふうに考えております。
  42. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、もっぱらというのを削ったという点は、拡張されたわけですね。しかし、ほんとうにこれを拡張されたことになるでしょうか。大体従来の、もっぱらがあってもなくても、同じように取り扱っておったのではないですか。
  43. 久下勝次

    久下政府委員 実際問題といたしましては、確かに親族関係のあります者につきまして、たとえば妻子などにつきましては、内職収入があるかというようなことを問題にして取扱いはいたしておりません。そういう意味におきましては、大して問題はございません。ただ親族関係のない者につきましては、現実においても非常に厳重にやらざるを得ないのでございます。そうなりますと、法律の運用からいいますと、つじつまが合わない結果になりまして、この点が、今回一面において、今御指摘のように「専ラ」を「主トシテ」と直すことにより、一方におきまして親族関係のある者ということについて、各種の保険、日雇労働者健康保険、船員保険等それぞれの社会保険、私どもが管掌しております社会保険の被扶養者の範囲を統一する目的にも合う、かような考え方からやったのでございます。
  44. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうしますと、親族関係のない人は、今度は全面的に排斥せられておるわけでございますが、親族関係がなくして、しかも現実に被保険者によって生計をもっぱら維持しておるというような者は、これは抜けてしまうことになる。これは大臣がたびたび言われておりますいわゆる社会保険の退化現象の代表的なものではないかと思うのですけれども、あえて今回はそういう社会保険の退歩をやろう、こういうお考えですか。
  45. 久下勝次

    久下政府委員 被扶養者の範囲を合理的なものにして参るということは、私どもとしては、必ずしも退歩であるとは言えておらないのであります。外国とは事情が違いますから、一がいに申せませんけれども、諸外国の事例を見ましても、今回改正案として提案をいたしました三親等内の親族程度まで広げておるのが、最も広く親族関係を取り扱っている事例でありまして、諸外国におきましては、実際問題として、多くの国が被扶養者の範囲をもっと限定しておりまする実情もございます。そういうことも勘案をいたしますときには、このような合理化——どもはむしろ合理化ではないかと考えておるのでございまして、これをやったから、すぐ退歩であるということにはならないという考え方であります。
  46. 大橋武夫

    大橋(武)委員 この社会保険の目的というものは、これは戸籍係で戸籍関係を明確にするわけじゃないのであって、現実の社会生活において、何人がその者を養っておるかということを主眼にして、親族の範囲なり、あるいは被扶養者の範囲なりをきめるのが、私は合理的じゃないかと思うのです。と申しますのは、今日の社会生活の実情として、すでに政府案自体においてお認めになっておりますように、配偶者という中に、「届出ヲ為サザルモ事実上婚姻関係ト同様ノ事情ニ在ル者ヲ含ム」のだ、これはいわゆる内縁の妻でございましょう。こういうものを入れておられる。そうすると、これはむしろこれを入れることが合理的だという御判断のもとにこうしてあるのだと思うのです。そうすれば、こういう結婚しながら届出もしないというような人人の家庭においては、その内縁の妻の親族というものは実際上その家庭に同居しており、そして現実に被保険者に上って扶養されておるという事実は相当あるじゃないか。たとえば、内縁の奥さんの御両親であるとか、あるいは内縁の奥さんになった人の連れ子であるとか、あるいは兄弟であるとか、こういう人が現実にその家庭に同居して、そしてこれはもう病気のときばかりでない、達者なときにおいても、その者によって扶養されておるという事実は、相当にあるのじゃないかと思うのです。こういう点については、やはり現実実情調査して、そしてその扶養状態のいかんによっては社会保険の恩典に浴させるということが、むしろ私は合理的じゃないかと思うのですが、いかががでしょうか。
  47. 久下勝次

    久下政府委員 先ほど申し上げたことを繰り返すことをお許しいただきたいのでありますが、問題は、「専ラ」という問題がひっかかって参りますので、これを申し上げたいと思います。これを「主トシテ」と改正することによって、しかも御指摘のように範囲を広くいたしますと、これは私は社会保険の性質上、相当問題だと思うのであります。これはあくまでも相互扶助制度でございまして、かりに国庫負担が実現をする時代が参りましても、給付の大部分保険料をもってまかない、お互いの出した保険料によってお互いに助け合おうという制度でございます。これを親族関係として民法上の扶養義務も考えられないような範囲まで、しかも他人まで広げるということになりますと、主として扶養しているかどうか、もっぱら扶養しているかどうかというような認定は、実際問題といたしましては、非常に困難なものでございます。その辺の関連もありまするし、また一般的に民法の建前から、そうした扶養関係が認められておりますような限度にとどめて差しつかえないのじゃないかというのが、私ども考え方でごごいます。
  48. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうしますと、具体的に伺いますと、内縁の奥さんの御両親とか、あるいは内縁の奥さんの養っておられるお子さんなどを、扶養家族の範囲に入れることは絶対にいけないというわけですか。
  49. 久下勝次

    久下政府委員 御指摘のような問題になりますと、非常にきわどい問題でありまして、限界点……。
  50. 大橋武夫

    大橋(武)委員 きわどいじゃない、はっきりしているじゃないですか。
  51. 久下勝次

    久下政府委員 ですから、そういう一定の限界を設けますれば、その限界の近くにある人たちが気の毒じゃないかという議論は、この種の問題では、いつの場合でも起ると思います。この点は、先ほど来申し上げておりますような一般的な方針も考え合せまして、この程度の限界をつけてやることがいいのではないかと思うのでございます。そういう人を何かしなければならぬじゃないかという問題になりますれば、これはまたおのずから別の問題として考えていってしかるべきものだと思うのであります。
  52. 大橋武夫

    大橋(武)委員 これはおのずから別といえば、それきりの話ですけれども、少くとも配偶者の両親であるとか、あるいは配偶者の子である、そうして主として被保険者によって生計を維持しておる、もし不幸があったような場合には、当然被保険者がその方のお葬式を出さなければならぬ、こういうふうに社会的に認められておるような人、これについては、この保険の恩典がそこに及ぶのは当然じゃないかと私は思うのです。少くともそういう人が病気したならば、同僚は、お宅じゃ奥さんの御両親が御病気だそうだというので、おそらく手みやげの一つも持って見舞に来られるだろう。見舞に来たからといって——これはむしろ仲のいい人が、奥さんの御両親が同居しておられ、それが非常な大病というならば、見舞に来るのが、社会的に見て当然だろうと思う。主として生計を維持しておるかどうかとか、あるいはもっぱら生計を維持しておるかどうかということは別の問題として、少くともそういう人たちは、これが社会保険制度である以上は、この健康保険の被保険者の被扶養者とする方が妥当ではないか、こういうことを私は伺いたいわけです。
  53. 久下勝次

    久下政府委員 その辺になりますと、問題は、社会の実態の問題と、法律上の諸制度との関連の問題、こういうことの関係になると思うのであります。先ほど来申し上げておりますように、三親等内の親族に限りましたのは、一般的に民法で扶養義務が認められておる関係で押えるというところが、法律的に見ますると一番根拠があっていいのじゃないか。今おっしゃいましたように、配偶者の両親が同居しておる場合もございましょう、同居してない場合もございましょう。同居しておる場合には見るのだという、この実態だけで問題を判断いたしますと、おそらく法律の表現もむずかしくなりましょうし、また実際の取扱いも困難になるのではないかというふうに私どもとしては考えますので、多少その辺は、実際問題と合わないじゃないかと言われれば、あるいはそういうことがあるかもしれませんが、法律上の制度といたしましては、私どもとしてはこの程度できめるのはやむを得ないのではないかと思っておる次第でございます。
  54. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それでは、内縁の奥さんは、どうしてここの配偶者のカッコの中に入れてあるわけですか。法律上の制度ということになれば、法律上は内縁の奥さんというものは赤の他人じゃありませんか。しかるに、社会の実態ということがあるから、これは、法律上は赤の他人であるけれども法律上の配偶者と同じように取り扱わなければならぬ、それが社会の実態なんだ、こういうふうにあなたがお考えになったからこそ、おそらくこう入れてあるのだろうと思う。そうすると、社会保険において、どういう範囲の親族を扶養すべきであるか、あるいはどういう範囲の人たちを被扶養者とすべきであるかということは、単に法律上の制度で一貫して考えるわけにはいかない。少くとも社会の実態というものをあわせて考えなければならぬ、こういう根本的な考え方にお立ちになっておられることと私は思うわけであります。そういう考えでいくならば、内縁の奥さんの御両親だとか、あるいは御兄弟だとか、お子さんだとか、こういう者は、内縁の奥んを法律上の配偶者と同様に扱う以上は、その親は社会的に見れば、やはり被保険者の親なんです。その親を、これは内縁だからほったらかしてよろしいというような制度を作ることは、社会保険の性質から見てどうだろう、私はこう思って伺っておるわけでありますが、重ねてお答えをいただきたいと思います。
  55. 久下勝次

    久下政府委員 届出をなさらないでも、事実上婚姻関係にある内縁の妻につきましては、これはひとり現行保険法だけでなく、他の法令にも、今日法律上の配偶者と同様に扱っている事例が相当あると思います。そういう関係もありますのと、事実上婚姻関係にあります配偶者につきましては、すでに現行法におきましても、健康保険法ではこれを配偶者と同様な扱いをいたしております。さような関係からこの問題は取り上げたので、そのまま現行法を踏襲したにすぎないのでありましで、事実上の婚姻関係にある者を、法律上の配偶者と同様に扱うという事例は、正確に法律の名前を上げては申せませんけれども、私の狭い知識をもちましても、他に類例がたくさんございます。そういう関係からこの問題を取り上げておるのでありましで、それと配偶者の両親が同居しているという実情の場合との関係は、私はおのずから別の問題ではないかというふうに考えておるのでございます。
  56. 大橋武夫

    大橋(武)委員 ほかの例があるからとおっしゃいますけれども、ほかの例は配偶者だけを保護するという場合に、内縁の者がその恩典に浴しないといけないというので書いてある。今日現行法においては、内縁の奥さんの両親だとか、そのお子さんというものは、明らかに被扶養者の範囲に入っているのです。現行法において入っているといことは当然そういう社会の実態というものを把握して入れてあるのだろうと思う。ただ現行法においては「同一ノ世帯ニ属シ専ラ其ノ者ニ依リ生計ヲ維持スル者」と、非常に範囲が広すぎるということは言い得るかもしれません。ですから、広すぎるからその範囲を明確にするというなら、これは一つ考え方でございます。しかし、広すぎるから全部やめてしまうというのは、これは入れるのじゃないのだという論ですから、また別の観点になる。今度の政府の案によりますと、配偶者と同様に扱うべき内縁の奥さんの御両親あるいはお子さんを、全く赤の他人として社会保険では救わない、こういうことになってしまいます。そうなりますと内縁の奥さんとしては、自分と一緒に住んでおる親が病気になったとき、亭主がそれの療治もさせてくれないということでは、それだけで夫婦別れの重大な原因になるのです。そういうことが今日社会の実態としてあるということを御認識いただきまして、この点は従来の行きがかりなどにとらわれることなく、本日ただいま、ここで冷静にお考えをいただいて、果してこういうようにすることが社会の実態に適合しているかどうかを、もう一度白紙に返してお考えの上、御答弁をいただきたいと思うわけです。この改正法案の条文は、よくわかっております。そして条文を事務当局としてあくまでも弁護なさることは、お立場上よくわかりますけれども、一体社会保険の本来の性質というものから見て、また内縁関係というものの今日の社会的実態から見て、私の言うような内縁の奥さんの両親とか、あるいは子供まで、社会保険の被扶養者から排斥するという考えは、いささか行き過ぎではないか。一つこの問題を白紙に返して、あなたの良識をもって御判断をいただきたい。
  57. 久下勝次

    久下政府委員 私、別段興奮をしているつもりもございません。この問題につきましては、実は事前にいろいろ検討し相談をいたしました結果、こういうような結論に到達いたしまして御提案を申し上げておる次第でございます。ただいまお話のございましたことを、繰り返して反論申し上げては、大へん失礼とは思いますけれども大橋先生は、事実上の関係をとらえていろいろおっしゃっておられます。そういう点は確かにあろうと思いますけれども、そうかといって、社会保険の性質から見て、当然じゃないかとおっしゃいますが、私としては、少くとも社会保険の性質から、そこまで事実上の問題でもって解決しようといたしますと、実際問題として取扱いがなかなか困難になります。やはり一つの線を引きまして、このような他の制度にもありますような考え方を取り入れまして、この程度の限界で、そう無理なことではないのではないかというふうに考えておるのでございます。
  58. 大橋武夫

    大橋(武)委員 この点は、何度繰り返しても御答弁は変らないと思いますが、私は政府の御答弁に対しては非常に不満であるということを申し上げます。そうしてまた、社会保険としてこの健康保険が、本人以外に被扶養者の範囲をきめておる理由は、その被扶養者が病気をしたときに、その療養費というものは被保険者が当然出すべきものだ、こういう社会的な状態を前提として、そういう場合の被保険者負担を軽減するということが、この健康保険法の目的であると思っておりますから、私はただいままでの政府の御答弁には、承服することはできません。しかし、これを幾ら追及いたしましても、切りのない話でございますから、あとは一つ適当な機会までお考えを願いまして、そうして、あらためて、この考えがあくまで正しいのだと言われるのであるか、あるいはこの点については再考の余地があると言われるのであるか、はっきりおっしゃっていただきたいと思います。  それから、こまかい問題になりますが、第九条の三行目に「当該職員ヲシテ之等ノ者ニ対シ質問ヲ為サシメ」とある。「之等」という字は、私不敏にして初めてこういう字を見たのですが、健康保険法においては従来「これら」というのはこういうふうな字を使うことになっておりますか。
  59. 久下勝次

    久下政府委員 お答えいたします。実は御案内通り現行健康保険法は三十年前にできた法律で、現在と合わない文語文で書いてあるのでありまして、私今具体的につまびらかにはいたしませんが、さっそく法制局の方も調べまして御返事を申し上げることにいたします。
  60. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうしますと、この点も法制局長官からお答えになりますか。
  61. 久下勝次

    久下政府委員 私の方で調べてお答え申し上げます。
  62. 大橋武夫

    大橋(武)委員 これは法制局の問題ですから、法制局長官からも御答弁を願うことにいたします。  それから、第九条の二につきましては、昨日同僚の滝井委員からもいろいろ御質問があったのでございますが、この条文を新しく設けられた理由について、御説明をいただきたいと思います。
  63. 久下勝次

    久下政府委員 第九条の二は、新しい規定ではございませんで、前からこの規定はあったのでございまして、内容的に整備をいたそうというのでございます。
  64. 大橋武夫

    大橋(武)委員 内容的の整備で、立ち入り検査というようなことが入ってきているというのですが、一体これほどまでの規定をしながら、その当該のお医者さんを保険医に指定しておかなければならぬ理由があるのでしょうか。私はお医者さんに対して、これほど厳重な監督をするくらいなら、またそれだけしなければ安心して医療に従事させることのできないようなお医者さんならば、これは健康保険取扱いをお断わりすることが、むしろ筋じゃないかと思う。この点はいかがでございましょう。
  65. 久下勝次

    久下政府委員 保険医としての指定を取り消すということは、制度上できますけれども、しかしながら、それを材料を持たずに、あるいはまた御本人のお話も聞かずに、一方的にお断わりするということは、逆に相当私どもは問題ではないかと思うのでございます。今日の社会保険及びそれにならっている諸制度によって、お医者さんがいろいろ診療行為をやっておられるわけでありますから、こういう制度から、直ちにこれを簡単に一方的に排除するということは適当でないのでございまして、あくまでも公正な資料に基きまして、その判断の上に立ってやるべきものと考えております。
  66. 大橋武夫

    大橋(武)委員 この立ち入り検査というのは「診療録、帳簿書類其ノ他ノ物件」とありますが。これは前段で、文書その他の物件の提出命令ができることになっております。そうすると、この物件を任意に提出しない場合に、立ち入り検査権で検査をする、こういう趣旨じゃないのですか。
  67. 久下勝次

    久下政府委員 これは規定の通り「又ハ」になっておりますので、どちらでもできるという考え方でございます。実際問題といたしましては、文書その他の物件の提出ということが書いてございますが、現在実際にやっておりますのは、一定の場所に診療録を持ってきていただくというようなやり方をしております。それには、裏づけになる規定を置きたいというのであります。その他、その場合に必要な物件がありますれば持ってきていただくことになりますが、実際問題としては、医療器具その他証拠になるようなものを持ってきてもらうということは困難でございましょうし、診療にも差しつかえがありましょうから、この辺は「又ハ」によってつなげてありますので、実際にもお医者さんの診療に差しつかえないような限度におきまして、いずれかの措置をとるべきだと考えております。
  68. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、これはお医者さんの希望によって提出するものは提出してもらう、お医者さんが提出がめんどうだから来てみてくれというのは立ち入り検査する、こういう意味ですか。
  69. 久下勝次

    久下政府委員 そういう意味で申し上げたのではないのでございます。お医者さんの希望によって、その判断の基礎にするというのではないのでありまして、行政の実際上、法律的には、保険医の意思いかんにかかわりませず、その措置ができるわけでありますが、しかし、実際の行政の運営としては、そういうことが実際の診療に大きな支障を与えるようなことであっては適当でないと思いますので、行政の運用としては、先ほど申し上げたようなことをやるべきだ、こう考えております。
  70. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、これは一定の場所に持ってきてもらうのが厄介だろうから、そこでお医者さんの便宜のためにこっちからわざわざ出向いてお調べをする、こういう意味ですか。
  71. 久下勝次

    久下政府委員 そういう意味じゃございませんので、通常一般的にやっておりますのは、いついっこういうところに診療録を持っておいでをいただきたいというやり方をしておるのが実情でございますが、しかしながら、それに応じない方も実際問題としてあるわけであります。そういう場合には、職員が現地に行きまして、診療所に行って見せてもらうということもやる場合があろうかと存じます。そういう意味でございますので、お医者さんの都合だけで判断をするというのじゃございません。
  72. 大橋武夫

    大橋(武)委員 文書の提出に応じない場合においては、その応じないということによって、それが悪意によって応じない場合は、むしろ私はそれだけで重大なる指定の取り消しの理由になると思う。またむしろそうする方が、よろしいのじゃないかと思うのです。この文書の提出ということは、これは健康保険の責任者としてその収支を厳重にやっていくという上からいって、私は当然なことだと思うのです。その当然な健康保険の係員の仕事に協力ができないようなお医者さんは、これはお断わりするということがむしろ当然ではなかろうか、それを無理に入っていって調べるというのは、かえってまずいのではないか、こう思うのですが、この点はどうでございましょうか。
  73. 久下勝次

    久下政府委員 その点につきましては、現行の健康保険法によります保険医の指定取り消しの根拠規定がございます。これが実は非常に抽象的でもありますけれども、建前としては四十三条の四に「厚生大臣ノ定ムル所ニ依リ懇切丁寧ニ被保険者及被扶養者ノ療養ヲ担当スベシ」こういう規定がございまして、これを受けまして同条の第三項に「前項ノ規定ニ依ル療養ヲ担当スルノ責務ヲ怠リタルトキハ都道府県知事之ガ指定ヲ取消スコトヲ得」こういう規定になっております。言いかえますと、厚生大臣の定めるところと申しますのは、具体的には、健康保険の保険医の療養担当規程というものが厚生大臣告示で出ておりますが、これに、診療はこういうふうな方針でやってもらいたいということが規定してございます。そういう規定もあるわけでありますが、そういうものに違反をいたしました場合だけが、取り消しができるということになっておるわけであります。従いまして、現行の規定から申しますと、そういう事実があったかどうかということを、まず正式に、しかも公平に判断をすることが前提になるわけでございます。これをやりますための強権的な規定が第九条でございます。実際の扱いといたしましては、権力に基いてやらずに、できるだけ御協力を得て、また指導的な立場で監査を行なっておるのでありますけれども、最悪の事態を予想いたしますと、さような規定を整備しておきまして、そうして療養担当の責務を怠ったかどうかという実態をまずつかまえる、その上でないと取り消しができないということになっておりますので、その意味で申し上げたのでございます。
  74. 大橋武夫

    大橋(武)委員 だから、それは現行法の四十三条の四を改むべきであって、健康保険のお医者さんというのは、ただお医者として患者の病気をよくなおせば、それでいいというわけではない。それはやはり健康保険という一つ社会保険関係者として、社会保険財政的にもうまくいくように協力をしてくれるということは、これは当然要求すべきことだと思う。そうして、そういう意味からいって、第九条の二の文書その他の物件の提出とかいうようなことは、これは当然社会保険の仕事を扱う限りお医者さんの側から協力すべき責任があると思うのです。従って、社会保険の医者として、社会保険の全体の運営に協力しなければならないのだ。そういう責任を果し得ない、義務を果し得ないような場合においては、それは当然社会保険をお願いしないというのが、まず普通の考え方である。いやがる者には頼みませんというのが普通の考え方で、いやがる人を無理につかまえて承知させるというような行き方は、適当でないのじゃないか。そういうことでは、またその結果が、ほかの方へその弊害が現われて、健康保険の診療が粗雑になるとか、かえってそういうような弊害を生ずるのではなかろうか。そこで、すなおに協力していただけないという場合においては、むしろ健康保険のお手伝いを願い下げにするというのが、私は本来の考え方ではないかと思う。従ってあなた方は、このお医者さんの問題について、第九条の二を改正しようとしておられますが、むしろ四十三条の四を改正することによって、より目的に合致するようにできるのではないか、こう私は思うのですが、そういうお考え直しをされる余地は全然ありませんか。
  75. 久下勝次

    久下政府委員 保険医の指定取り消しにつきましては、私ども、まだ実は検討の途上でございまして、ただいま御指摘のように単に療養を担当する責務を実質的に怠ったという以外に、その他の法律上の義務違反につきましても、それがはなはだしい場合には、取り消しをなし得る根拠にいたしてしかるべきものとは考えております。しかしながら、書類の提出の命令を出したのに、それに応じなかったという一事だけで、直ちに取り消しをしますことは、実は取り消しということが保険医に与えます実質上の影響は、今日の段階において相当高いのであります。ことに診療の大半を社会保険の診療を扱うことによって生計を維持しておる、極端な言い方でありますが、大半が社会保険の診療であるというお医者さんが、近時は非常に多くなってきておりますので、保険医の指定取り消しということは、とりもなおさず医師法に基きます医師の免許の取消し、あるいは停止に匹敵するような実質上の影響を与える場合もあり得るわけでございますから、そういう意味におきまして、指定取り消しの根拠につきましては、私ども現行法でいいとは思っておりません。もう少し他の場合も考えていいと思いますけれども、今申しました実際上の影響も考えますと、相当慎重でなければならないというふうに考えておるのでございます。
  76. 大橋武夫

    大橋(武)委員 私は医療関係者に対する監査規定の強化ということは、これは趣旨はよくわかっておる。しかし、それをやる方法として、立ち入り検査というようなやり方はまずいのじゃないか、こう思うわけです。なぜかというと、立ち入り検査というものは、人の住居に入って行くのですから重大なる人権侵害なんだ。従って、そういう重大なる人権侵害をやらなければ目的を達し得ないというのは、これはよほど重大な場合ということになると思うのでして、実際この規定をお作りになったところで、これを始終乱用されたのでは、お医者さんはその人権の上からいって非常な迷惑です。そうなると、せっかくこういう改正をやられたところで、そうささいなことについて、この権限を、乱用というと語弊がありますが、厳格に実施しようとしたところで、なかなか世間の手前もあり、相手の思惑もあり、十分に目的を達し得るかどうか、私は疑問だと思う。そこで、結果はいかに重大であろうとも、法律上の考え方としては、まことに穏当きわまる、こちらに御協力が願えなければ、こちらとしてはお断わりをいたします。これならば、憲法違反でも人権じゅうりんでもなんでもないので、健康保険の経理上の必要のあるいろいろな手続に御協力を願えないということならば、これはお断わりするよりほかないじゃないか。この理屈なら天下どこに行ったって、だれが聞いたって、それは当りまえだということになる。やはりこういうことをやるに当っては、ただ目的さえ達すれば何でもいいというような考え方法律を作るべきでなく、だれが聞いても、なるほどもっともだというような仕方で法律構成をしていくということが、最も大事なことだ。またそれでなければ、せっかく法律改正をしてみても、その目的を有効に達成し得ない。こう心配するわけでして、私はそういう意味で、この九条の二を御改正になるよりも、むしろ四十三条の四をもう少し御研究をいただいて、でき得べくんば四十三条の四の改正でいかれる方が無難でもあり、また、無難であるということは、その権限を用いたからといって、世間的に非難されないということですから、従って権限が十分に活用できるし、目的もより以上達成される、こう思うわけですが、こういう点については、いかにお考えになりますか。私は健康保険法改正について、そういう社会全体についての視野が少し足りないのじゃないかということを心配する余り、特にお伺いする次第でございます。
  77. 久下勝次

    久下政府委員 大橋先生御指摘の点は、九条の二の規定は要らないというようなことにはならないような印象を受けたのであります。こういう規定を置きまして、提出してくれと言った場合に提出しなかったとき、初めて取り消しをするとか、あるいは罰則の適用をするとかいうことが問題になるのでございまして、こういう規定が全然ございませんと、提出しろということもできないわけでございますから、そういう意味合いにおきまして、取り消しをし得るという規定を設けますためにも、この規定は必要ではないかと思うのであります。たとえば、処罰規定にかえるに取り消しをもって臨めというような御趣旨に受け取られるのであります。  もう一つ、つけ加えさせていただきたいと思いますことは、現在の九条の二の規定によりまして「当該管理吏員ヲシテ診療録其ノ他ノ帳簿書類ヲ検査セシムルコトヲ得」という規定があります。これにつきましては、今回の規定は、実地につき「診療施設其ノ他ノ施設ニ立入リ」というような表現をいたしておるのでございまして、そういう文句をつけ加えたにすぎないという点であります。この点につきましては、実は前々何回も申し上げております通り法律上の解釈では、現行法では立ち入り権がある。その検査ができるといって執行をする以上、立ち入り権があるというように解釈しなければならないというように取っておる向きもあるのであります。この点を明確にしておく方がいいだろうというので、改正を機会につけ加えたにすぎないのであります。  いずれにいたしましても、くどく申し上げて恐縮ですが、大橋先生のおっしゃったような目的を達しますために、やはりこの形の規定は置いておいた方がいいのではないかと思っております。
  78. 大橋武夫

    大橋(武)委員 立ち入り検査をやるということになりますと、これは屋内の立ち入り検査であります。これはよほど手続を慎重にする必要があると思うのです。従って、たとえば立ち入る時間は、通常の営業時間内に制限することは当然であろうと思います。それからまた「診療施設其ノ他ノ施設」と書いてありますけれども、日本には現在開業医が多い。この開業医の診療施設その他の施設ということになりますと、一体どこが診療施設その他の施設であるか、どこから先が居住区であるか、これは現実にわからないのです。また帳簿にしたって、何も診察室に備えつけてあるとは限りません、次の間にあったり、あるいは茶の間にあったり、いろいろあるわけです。もしこの規定を設けるとすれば、そうした点について、よほど詳細な制限を加えなければ、ただこれだけの文句でもって立ち入り自由自在、二階の天井の板まではがして探されたのでは、これは行き過ぎだといわざるを得ない。ことに、この問題は、人権の根本に関する問題でございますから、よほどこれはこまかく規定しなければならないのです。これだけの規定では、むろん認めるわけにはいかないと思う。そこで、そうしたわずらわしい問題を避ける方法として、法律的に見ました場合においても、四十三条の四の改正という方法によって目的を達する方が、はるかに合理的ではないかと私は考えるわけですが、いかがでございましょうか。
  79. 久下勝次

    久下政府委員 繰り返してのお話でございまして、四十三条の四の改正でいけばいいとおっしゃいますが、四十三条の四の改正をすることによりましても、たとえば書類の提出を命ずるとか、帳簿書類の検査ができる。検査をしようとした場合に、これを拒んだら取り消すというような書き方でなければならないと思います。そういう意味合いにおきまして、九条の二は、大橋先生の御趣旨の通りとかりにいたしましても、私たちはどこの条文に入るということは別として、実質的にはこういうものを置いておかないと、取り消しの根拠にならないのではないかというふうに考えて、お答えを申し上げておったのでございます。御指摘のように、こういう強権というものは、確かに人権の根本に触れる問題でございますので、乱用することは厳重に戒むべきでございます。私どもといたしましても、こういう規定があるからといって、これに基いてすべての医師の監査を行うことは絶対に避ける所存でございます。あくまでもこれは最悪の事態に対処して、何としても協力をしていただけないようなお医者さんにつきまして、実情を明らかにして、公正な資料に基いて処理ができるようにすべきであるという考え方でございます。
  80. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうしますと、立ち入り検査の目的は、文書その他の物件を点検するということ以外に、何か現場を見るというような意味があるのですか。
  81. 久下勝次

    久下政府委員 少くともここ二、三年の間、私が直接この仕事に関係を持ちましてから、問題になりますのは、診療録の検査がほとんど大部分でございます。その他の医療器具等を調べるということは、ほとんどございません。領収書などを見せてもらうということはあり得ると思いますけれども、その程度の帳簿書類でございまして、物件の検査というのは、実際問題としてあまり適用はないのでありますが、ただしかしながら、こういう器具を使ったとか使わないとかいう問題が、可能性としては考えられますので、こういう条文の中に入れておるわけでございます。
  82. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、主たる目的は文書その他の物件の点検ということですから、これは文書その他の物件の提出を命ずるということで足りているわけです。だから、それに応じなければ、この免許指定の取り消しをすればいいわけです。ことにあなたは、立ち入り検査というのは、よほど重大な最後の場合でなければやらない、こう言っておる。また指定の取り消しについても、これもよほど重大な最後の場合でなければやらない、こう言っておられるのですから、全く場合も同じなんです。従って、この規定は、四十三条の四を改正すれば、当然に要らなくなると思うわけです。この点については、もう少し御研究を願っておきたいと思います。  それから第九条で、この被保険者、被扶養者もしくは被扶養者たりし者の居住の場所に立ち入って検査をする。これはもう施設ではなくて、初めから居住に立ち入る、こうなっておる。御承知通り、イギリスにおいては、住居というものは個人の城であると言われているくらいであります。何がゆえに、こういう非常に重大な人権を侵害する規定を作らなければならないのでしょうか。
  83. 久下勝次

    久下政府委員 これはここにも書いてございますように、現に被保険者でございますれば、勤め先を持っております。勤務の場所を持っておりますので、そういう場合には、ほとんど自宅まで行く必要はないと思うのでございます。ところが、被保険者の資格を喪失いたしました場合には、喪失してどこにも勤めてない人もあるわけでございます。そこに対して行われた保険給付についていろいろお尋ねをしなければならないような場合が起るわけでございます。主としてさような意味合いにおきまして、この規定を置いたのでございますが、なお被保険者自身につきましても、病気のために自宅で療養しておる、現在まだ病気で休んでおるというような方につきましては、自宅にお伺いしていろいろお尋ねをしなければ、官吏吏員の一方的な判断になるおそれがございます。いろいろ確実な資料を整えまして——実は行政処分をいたします場合には、御案内だと思いますが、各都道府県の知事は、その都道府県に所属しております社会保険医療協議会に所要の資料を提出して審議をしてもらった上で、その答申に基いて処分をすることにしておるのでございます。そういうところへ提出いたします資料を整備するために、かようなことを認めていただくようにしたのであります。これにつきましても、どうしても困るというのに無理無体に押し入るということは、適当な処置ではなしのであります。多くの場合、同意を得まして、立ち入るというような穏当な措置をとるべきだと思っておりますが、あくまでもこの種の規定は、何度も申し上げますように、最悪の事態に対処する規定だと私ども考えておるのでございます。
  84. 大橋武夫

    大橋(武)委員 私はこういう規定を入れるべきではないと考えておる。ことにこの第三項を拝見いたしますと「第一項ノ規定ニ依ル権限ハ犯罪捜査ノ為認メラレタルモノト解スルコトヲ得ズ」と書いてある。一体これはどういう意味ですか。こういうことまで書かなければならぬようなことは、これは重大な人権侵害です。普通は犯罪捜査の必要がなければ、こういうことはできないような事柄である。それであるから、わざわざここに、これは無理に押し込んだのだから、その人がどろぼうであると隣の人に思われると気の毒だから、これを犯罪捜査の犯人のつもりでやったのではないといって、世間体を弁護してやらなければならぬ。そのために、この第一項の規定による権限は犯罪捜査のためでないという第三項を書かなければならなかったと思うのです。この第三項のようなことを入れなければならぬというところに、この第一項の規定というものが、いかに法益に比べて重大な人権侵害を含む規定であるかということを、証明しておるのではないかと思うのですが、どういうものでしょう。
  85. 久下勝次

    久下政府委員 この規定は、最近のこの種の立法例には、いずれも設けられておるものでございます。私ども関係をあげますれば、厚生年金保険法につきましても、また前段のようなこういう強権発動の規定がございますと、これは犯罪捜査のために設けられたものではないことを明白にしておくのが、最近の慣例のようでございます。これは法制局におきまして、審議の結果この規定を入れたのでありますが、今申し上げたような最近の諸法令においては、いずれも同様に入れられておる慣例の規定でございます。私ども承知しておりますところでは、憲法との関係もございますので、その辺を明確にする趣旨であると了解をいたします。
  86. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、これは法制局で入れられたそうですから、どうせあとで法制局に来ていただきますから、そのときに質問をいたすことにいたしまして、それから第五十五条の第二項の六カ月というのを一年に改正されておりますが、これは健康保険の退歩にはなりませんか。
  87. 久下勝次

    久下政府委員 給付の制限が、すべて退歩であるというふうな解釈をいたしますれば、退歩だということになるかもしれません。しかしながら、継続給付と申しますのは、私から申し上げるまでもなく、被保険者資格を喪失した者に対しまして、たまたまその病気が被保険者であった期間中に発生したものでありますために、法定の三年間の期間保険料を納めないのに給付を継続するわけでございます。結局このことは、多数の他の被保険者及び事業主の負担においてなされると申してよいわけでございます。そういう意味合いにおきまして、給付期間も三年に延長されております今日におきまして、そうした他の被保険者、事業主の負担において相当長期間の手厚い給付を受けるということでありますから、資格要件としても現在の六カ月は一年くらいに延ばしてよいのではないかというふうに考えます。
  88. 大橋武夫

    大橋(武)委員 委員長、あとは午後にしていただきたいと思います。     —————————————
  89. 中村三之丞

    中村委員長 この際ちょっとお諮りいたしたいのでございますが、ただいま本委員会におきまして審査中の歯科技工法案につきまして、文教委員会から連合審査会開会の申し入れがございましたか、連合審査会を開会するに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  90. 中村三之丞

    中村委員長 御異議なしと認めてそのように決します。  なお、連合審査会は、明七月二十九日午前九時より開会する予定でありますから、御了承を願いたいと思います。  午前中はこの程度にとどめまして、午後二時まで休憩いたします。    午後零時三十分休憩      ————◇—————    午後二時三十八分開議
  91. 中村三之丞

    中村委員長 休憩前に引き続きまして会議を再開いたします。  この際、閉会中審査の件についてお諮りいたします。  本委員会といたしましては   一、社会保障制度、医療、公衆衛生及び社会福祉に関する事項、   二、失業対策、労使関係及び労働基準に関する事項の二事項について、閉会中も委員会審査の必要があると存じますので、その活動の円滑を期するため、閉会中審査申入書を議長に提出いたしたいと存じますが、これに御異議ございませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  92. 中村三之丞

    中村委員長 御異議なしと認め、そのように決します。  なお、ただいま議長に申し入れることに決しました閉会中の審査事項が当委員会に付託されましたならば、その調査のため設置されております請願審査委員会を除く各小委員会を閉会中も引き続き設置することとし、あわせて小委員会に欠員を生じました場合における補欠選任に関しましては、委員長より指名するに御一任願っておきたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  93. 中村三之丞

    中村委員長 御異議なしと認め、そのように決します。     —————————————
  94. 中村三之丞

    中村委員長 次に、委員派遣承認申請の件についてお諮りいたします。ただいまの閉会中審査事項が当委員会に付託になりました後、調査の必要上、現地に委員を派遣し、その実情調査する必要を生じました場合には、その承認申請に関しましては、すべて委員長に御一任願っておきたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  95. 中村三之丞

    中村委員長 御異議なしと認め、そのように決します。     —————————————
  96. 中村三之丞

    中村委員長 社会保険関係法案を一括議題となし、質疑を続行いたします。大橋武夫君。
  97. 大橋武夫

    大橋(武)委員 法制局から見えておられますか。
  98. 中村三之丞

    中村委員長 見えております。
  99. 大橋武夫

    大橋(武)委員 法制局にお伺いしたい点は、健康保険法の現行法の二十四条二には、立法の大綱に関するものは、あらかじめ社会保険審議会諮問をいたすという要件が書いてあるわけであります。ところが、今回の健康保険法の立案に当りましては、このうちの第三条の改正事項に、標準報酬の表が入っております。この標準報酬の表を諮問されるに当りまして、これは二十三級の四万八千円となっておりますが、最初諮問はたしか七万円まで、二十八階級に分れたものを諮問しておる。その答申を得てこの法案を出しておるのですが、法案を出すに当りましては、審議会諮問をいたしました案と全く違った、第一級から二十三級まで、すなわち上は四万八千円、こういうのを法案として立案せられておるわけでございますが、こういう諮問の仕方は、この健康保険法二十四条の二の諮問の要件を備えておるのでしょうか、この点をまずお伺いしたいのが、おいでを願った第一の理由でございます。
  100. 野木新一

    ○野木政府委員 御指摘の健康保険法第二十四条の二の諮問との関係につきましては、この改正法律案内閣法制局審議いたしました際に、一応問題にいたしました。しかし、そのときの考え方といたしましては、法案の大綱を諮問するものとすとなっておりまして、諮問した案につきましては、ただいま御指摘のように一番上が七万円になっておったわけであります。そうして、私ども審議して、国会で御審議を願っている案は、四万八千円というようになっておるわけでありまして、そこに違いがありますので、この点どうかという点が問題になるわけでありますが、私ども解釈といたしましては、法案の大綱について諮問をいたしまして、いろいろ審議会の御意見を伺って、その意見の結果なり経過なりを参酌して、なお政府におきましてもいろいろ考えました結果、四万八千円、すなわち諮問した七万円という範囲内において、四万八千円という点をきめたのでありますが、諮問案の同一性と言いましょうか、基礎においては、その大綱について諮問しておる、それについて答申があり、それらを参酌して案を作ったということになりまして、ただいま御指摘の法の二十四条の二の精神には反していない、そのように解釈いたしまして、審議の際にこれを認めた次第であります。
  101. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、順々に伺いたいのですが、第一に等級はこれでは二十三階級にしかなっていない、諮問をしたのは、たしか二十八階級になっておる。しかも、諮問の同一性は失われない、こういうわけですか。
  102. 野木新一

    ○野木政府委員 さよう解しました。
  103. 大橋武夫

    大橋(武)委員 この中の階級別の金額も非常に変っております。こういうことも、変っておっても差しつかえない、こういうわけですか。
  104. 野木新一

    ○野木政府委員 原案を諮問いたしまして、それについて審議会においていろいろな御議論があった、それを全部参酌して政府が多少違えた案を最終案としてきめたということでありまして、この二十四条の二の審議会諮問するという法の精神は、十分満たしておると考えまして、この程度ならば差しつかえないと考えた次第でございます。
  105. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、法制局は、二十四条の二の解釈から見て、この点はよろしいという御見解と承知いたしました。  それからもう一つ伺いたい点は、この健康保険法案を拝見いたしますと、政府提出せられた予算案と、だいぶ趣旨が変ってきておる。すなわち、政府予算を一部変更しないと、この法案は執行できないような法案なのです。御承知通り、議員提出法律案については、そういう際には、一応どれだけの費用が要るのだという計算書をつげて国会に出すことになっております。そういう趣旨から考えますと、やはり政府が提案者の場合においても、こういう法案提出する場合においては、この法案予算とは違うのである、どういう点において幾ら違うかということを、提案においてまっ先に説明するというのが、国会法の精神から見ても、当然の法理ではないかと思うのです。今回はそういうことをなさらずに、こちらの質問に応じて初めて事態を明らかにしておられますが、そういうやり方は、国会法の精神からどういうものでしょうか、その点を一つ伺いたいと思います。
  106. 野木新一

    ○野木政府委員 国会法でしたか、それに基いて作られました議院規則でしたかに、御指摘のような条文が加えられたように承知しております。趣旨といたしましては、ただいま仰せになりましたようにするのが望ましいという御見解は、まことにごもっともだと存じますが、法理的と申しますと、政府側として必ずそうしなければならないという法的拘束があるかないかという点になりますと、国会側から御提案なさる場合、その場合には、やはり法的には多少違ってくるのではないかと考えております。現行法の建前では、そうではないかと存ずる次第であります。
  107. 大橋武夫

    大橋(武)委員 この点も、法理的にはそれでいいかもしれませんが、しかし法としては、議員の提案についてそういう手続がある以上は、政府としては、当然そういう措置を明らかにして提案するという前提のもとに、政府提案については、そういうはっきりした規定がないとわれわれは考えるのですが、その点はどうですか。
  108. 野木新一

    ○野木政府委員 御指摘の点は、まことに傾聴すべき御意見のように存ぜられる次第でございますが、私ども使用しておりますそのような規定が入りました一つの政治的と申しましょうか、現実の意義という点から見まして、政府としては、その精神をやはり尊重していくべきであるとは存じますが、そうしなかったからといって、直ちにそれが違法になってしまうというところまでは、現在のところは行かないのではないかと存ずる次第であります。
  109. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、法制局の御見解では、政府は当然そうすべきである、ただ法律上はそうしろということは書いてない、従って、法律にそう書いてないことをいいことにして責任をのがれるような態度をとることは、政治的に見ればともかくも、法律上は追求すべきではない、こういう御見解と承知いたしました。  そこで、最後に伺いたいのは、改正案の九条の三行目に「之等ノ者」と書いてあります。この「之等」という字は、私不敏にしてあまり見受けない字ですが、これはこれでよろしいのですか。
  110. 野木新一

    ○野木政府委員 御指摘のように、この健康保険法は、終戦前の古い法として、いわゆるかたかな、文語文の法律になっております。そうして、実はかたかな、文語文の法律、すなわち終戦前の法律におきましては「これら」という文字は「此等」というように使っていたのが普通のように承知しております。従って、あるいはこの九条の場合も、大橋先生は「之等」というのは非常に目ざわりだから「此等」というふうにすべきではないかというお含みを持ってのお尋ねかと存じます。実はこの案を審議しました際に、すべに健康保険法の第三条第七項に、やはり「之等ノ規定に拘ラズ」という文字が使ってございまして、そして最近のあれから見ると「此等」というよりも、むしろ「之等」いう方が読みいいじゃないかということもかたがた考えまして、今度はこの先例に従いまして、これにつきましては「之等」という文字を使用したわけでございます。趣旨においては、特に「此等」と書いた「これら」と本案の「之等」とかえるという趣旨で、文字をかえた趣旨ではありません。
  111. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、現行法の「之等」というのは、どういう事情でそれらの字が入ったのでしょう。
  112. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいま先例と申しました第三条第七項ですが、これが、あるいは戦前からのあれですか、今ちょっとはっきりいたしませんが、ともかく現在におきましてはここにありますので、むしろこの方が最近ではわかりやすいじゃないかと思われますので、しいてこの際九条を「此等」とあらためてするほどのこともない、これに合せておいた方が、かえってわかりやすいじゃないかという趣旨で、こうしたわけであります。
  113. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それでは、一つゆっくりあなたと研究してみましょう。まず「之等」の「之」という意味は、どういう意味ですか。「之」という字は、どういう場合に用いられる字でしょう。
  114. 野木新一

    ○野木政府委員 非常に国学的な知識は貧弱でございまして、大橋先生に、特にうんちくを傾けて御説明するというほどの自信も学識もありませんが、「之」を「これ」とこの法文でも使っておりますので、むしろ最近では「之等」とした方がわかりやすいじゃないか、そういう単純な気持で、しかも前例もあるということで、特にその点を深く検討したということは、正直なところなかったわけでございます。
  115. 大橋武夫

    大橋(武)委員 あなたはこれがわかりやすいと言うから、一つ意味を伺いたいと思うのですが、一体「之等」というのは、どういう意味なのですか、当て字ですか。「之等」などというこういう字は、字引にありませんよ。
  116. 野木新一

    ○野木政府委員 私どもといたしましては「之等ノ者ニ対シ」といえば、前の方におきまして「事業主、被保険者又ハ被保険者タリシ者共ノ他ノ関係者二対シ文書其ノ他ノ物件ノ提出ヲ命ジ」という点と照応いたしまして、ここに書いてあるものを総称して総括的に受ける、こういうように読んでおります。
  117. 大橋武夫

    大橋(武)委員 「之等」というふうにあなたは言いますけれども、この「之」という字は、これは「これ」という字です。それから「等」という字、これは「これとうのものにたいし」と書いてある「これとうのもの」だ。「之等」は「此等」だ。こう言いますけれども、「此等」と書いた「これら」というのは、これは一つの熟字です。しかし「之等」は「これとうのもの」なのだから熟字じゃありません。「之」という字と「等」という字は別々の意味の言葉を偶然ここにくっつけただけだ。それをあなたは、これに「これらだ」と言うのです。「これら」という一つの言葉は、確かに日本語にあります。ありますけれども、それはこういう字は書きません。「此等」と書いて「これら」と言う、これは一つの熟語であります。それとこれとが同じ意味だと、あなたは言われるのですか。
  118. 野木新一

    ○野木政府委員 それは同じように解しております。
  119. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それじゃ「これというもの」と読んじゃいけないのですか。
  120. 野木新一

    ○野木政府委員 私どもは「これらのもの」と読んでおりますが、非常に漢学の知識のある人はそうは読まない、「これとう」とお読みになるならば、それはそれでお読みになってよいと考えますが、私らは「之等」は「これら」と読んだ方がすなおではないかと思います。
  121. 大橋武夫

    大橋(武)委員 「これとう」と読んでよいということなら、それでよろしい。「これとう」と読んでいけない、「これら」と読まなければいかぬというなら、もう少し伺いたいのでありますが、「これとう」というのでよいのですね。
  122. 野木新一

    ○野木政府委員 私どもは通常は「これらのもの」と読んでおりますが、しいて「これとうのもの」と読む人があれば、これは間違いだというほどのことでかど立って言うこともないのじゃないかという程度考えております。
  123. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、「これとうのもの」と読むことを否定されないのですね。
  124. 野木新一

    ○野木政府委員 通常の場合には「これら」と読むのが普通です。最近の特に漢学の素養ある人に別問題といたしまして、通常においては、むしろこれはそう読んでいただけるのではないかと私どもは信じておるわけであります。これはそれほどきわ立って論ずるほどの問題でないのではないかという程度考えております。
  125. 大橋武夫

    大橋(武)委員 あなたは、今言われましたね、漢学の深い者は「これとう」と読んでよい、普通の者はそう読む必要はないというが、一体それでは、あなたはこの法律は漢学の知識ある者のために作ったのか、普通の者だけに読ませるために作ったのか。
  126. 野木新一

    ○野木政府委員 これは現在の通常人になるべく読みやすいことを目安として作っております。従って、私どもとしては、通常の人であるならば「これら」と読んで下さるのではないかと期待して、特にその点はそこまで深く掘り下げて問題にしなかったという次第でございます。
  127. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、通常人は「これとうのもの」と読んだら間違いだというので、漢学等の深い人が「これとう」と読んだらよいが、通常人が「これとう」と読んだら間違いだというわけですか。
  128. 野木新一

    ○野木政府委員 通常人としては「これとう」と読むと異様に聞えますから——それは国学の点から云々というと問題がありますが、普通の法律を読むという常識からいえば、むしろ異様に聞えるのじゃないか、こういうふうに考えるのであります。
  129. 大橋武夫

    大橋(武)委員 異様かどうかということを言っておるのじゃない、間違いか間違いでないかということを言っておる。はっきりお答え願いたい。
  130. 野木新一

    ○野木政府委員 読みようは、必ずしもこれが一つだというふうに法律できめておるわけではございませんので、特に間違いであるとか、間違いでないということを言うほどのことでもないと存ずる次第であります。
  131. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、どうなんですか、間違いなのですか、間違いでないのですか。
  132. 野木新一

    ○野木政府委員 通常は「これら」と読んでいただきたいという程度です。しかし、特に「これとう」と読む人があっても、そう読むのは法律解釈の間違いだとか、法律の読み方の間違いだとかといって、その人の無学をあざけるとか、法律の読み方を知らないとか言うほどのこともないのではないか、そういうように存ずる次第であります。
  133. 大橋武夫

    大橋(武)委員 無学とか法律が何とかということを問題にしているのじゃないのです。「これとう」と読んでよろしいのか、または間違いですかというのです。あなたは、法律的に見てそれは間違いだと言うのですか、それとも、法律的に見て「これとう」と読んでも差しつかえない、あるいは「これなど」と読んでも差しつかえないのか、それとも、それは法律的に見て間違った読み方なのか、その点を伺いたい。
  134. 野木新一

    ○野木政府委員 これは通常は「これらのもの」と読むのが通常だと思います。しかしながら「これとうのもの」と読んでも、あえて法律的に間違いだとまで深くとがめることはないと存じます。
  135. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると「これなどのものにたいししつもんをなさしめ」というふうに読んでも、あるいは「これとうのものにたいししつもんをなさしめ」と読んでも、これは法律的に間違いじゃない、こうはっきりお答えがありましたから、そこで、「これとう」と言った場合には「之」と「等」とは別ですよ。「これらのもの」と言う場合は「之等ノ者」ですけれども、「これとうのもの」となると、これは違うのです。だから「これとうのもの」と言った場合の「之」とは何をさすのですか。
  136. 野木新一

    ○野木政府委員 私ども普通の凡人の頭を標準にして読みますと「之等ノ者ニ対シ」で、別に「之」と「等」と切り離して「之」は何か「等」は何かというように分析して考えるように頭は働きませんで、「これらのものにたいし」と、こうすなおに読んできたわけであります。
  137. 大橋武夫

    大橋(武)委員 これは、あなたが間違いであると言ったなら聞かないのですけれども、間違いでないと言ったのですから、間違いでない読み方をしたときの解釈を聞いておかなければ、われわれは今後健康保険法の運用ができないのです。ことに、この規定というものは、人権に関する重大な規定なんです。この解釈をはっきりさせて、どういう人たち質問を受けた場合、これに答えなければならぬ重大な責任があるかということを明らかにしなければならぬ。だから「これとうのもの」と読んだ場合も間違いでないのだから、その場合の「之」とは一体上のどれとどれとどれを受けているのですか。
  138. 野木新一

    ○野木政府委員 「これとう」と読むことによって、非常にこの趣旨が違ってくるということを前提としての御議論ならば……。
  139. 大橋武夫

    大橋(武)委員 いや、「之」というのは、どれを受けているかということです。
  140. 野木新一

    ○野木政府委員 「之」は、被保険者、被保険着たりし者、その他の関係者、こういうものを受けていると存じます。
  141. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると「事業主、被保険者又ハ被保険者タリシ者」それが「之」ですね。それでは「等」とは何ですか。
  142. 野木新一

    ○野木政府委員 「被保険者又ハ被保険者タリシ者共ノ他の関係者」とありますので、これらを総括して「之等ノ者」ということに使ったわけであります。
  143. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、これは複数だから「等」をつけたのですか。
  144. 野木新一

    ○野木政府委員 複数だからということもありますが、すぐそれから複数の者に対して質問しなければだめだということを前提にしての御質問ならば、それはまた趣旨が違ってきますが、要するに、複数であるから総括して「之等」ということであります。
  145. 大橋武夫

    大橋(武)委員 そうすると、総括しないといけないのですね。たとえば被保険者一人だけに質問したという場合には、これは「これ」であるけれども、「これとう」ではないから、従って一人には質問できないのだ。総括してその全体の人に質問することはできるけれども、一人の事業主なら一人の事業主、あるいは一人の被保険者あるいは一人の関係者に対しては質問することは越権になる、こういう意味ですか。
  146. 野木新一

    ○野木政府委員 私どもは普通の法律解釈といたしましては、そういうことは出てこないのではないかと存ずる次第であります。
  147. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それじゃ、一体「等」は何です。
  148. 野木新一

    ○野木政府委員 「等」は「被保険者又ハ被保険者タリシ者其ノ他ノ関係者」とありますので、これらの者に対して書いたのであります。そうかといって、それらの者全部に対して質問しなければだめだという結論は、普通の解釈としては出てこないと存ずる次第であります。
  149. 大橋武夫

    大橋(武)委員 あなたは、さっき私が「事業主、被保険者又ハ被保険者タリシ者共ノ他ノ関係者」というのを「之」というのかと聞いたら、そうだと言った。「之」というのは「事業主、被保険者又ハ被保険者タリシ者其ノ他ノ関係者」が「之」だと言った。それじゃ「等」は何のためにくっついたのですか。
  150. 野木新一

    ○野木政府委員 ただいま申し上げましたように「事業主、被保険者又ハ被保険者タリシ者其ノ他ノ関係者」そういう複数でありますので、それを総称して「之等」といたしたのであります。そうかといって、この法文の趣旨から申しまして、直ちにそれらの一人だけに質問する場合に質問できないという解釈は、どこをどう考えても出てこないと存ずる次第であります。
  151. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それじゃあなたは、当該職員をしてこれに対し質問をなさしめ、こういうのと、これとうの者に対し質問をなさしめというのと、同じことなんですか。
  152. 野木新一

    ○野木政府委員 事業主、被保険者または被保険者たりし者、そこで切って、に対し提出を命じまたは当該職員をしてこれに対し質問をなさしめと言っても、間違いだと言うことはできないと存じます。
  153. 大橋武夫

    大橋(武)委員 要するに、これはあなたの失敗じゃないですか。「之等ノ者」という日本語はどこを探してもありはしない。この法律のほかの条文にあるそうだけれども、それはやはりその当時あなたと同じような誤まりを犯した人によってそれを見過ごされていたのじゃないですか。こういう字を法令の上で用いた例は、私はほとんど見ていないのです。現に私ども若いときに、こういう字を書いて法制局に持っていくと、あなた方の先輩にみな直されたのです。あなたの先輩の佐藤君あるいは井手君なり、あるいは国会の中には金森さんもおられますけれども、われわれ法案を書いて持っていくと、君は、教えてやったのに、こんな字をまた書いてきたと言って直されたのです。これは法制局で直しそこなったのじゃないですか。
  154. 野木新一

    ○野木政府委員 私も戦前事務官をいたしまして、法案法制局審議願ったことがございますが、その当時、確かに御指摘のように直されたような記憶もあります。しかし、最近書くとすれば、むしろ「此等」と書くよりも「之等」の方がわかりいいのではないか、これは私ども参事官の多くの人もそういう議論でありまして、今用語が、まだ過渡期でありまして、不統一になっておると言われればそれまででございますが、昔のように必ずしもそう厳格に言うほどのこともないのではないかというふうに存じておる次第でありまして、そこがあるいは大橋先生の鋭い御感覚と私どもの鈍な感覚との違いで、御叱責を受けることになったのではないかと存ずる次第であります。
  155. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それはむしろ、逆で、私どもが鈍で、法制局にいって鋭いあなた方に直されたものです。あなた方はこの方がいいのだと言っておられるけれども、これは日本語としての意味をなさないのであって、これは全く当て字じゃないですか。こういうことでは、法文の品位の上からいっても、まことに遺憾に思うのですが、このごろの法制局では、法文の品位とか文字の性格というようなことはあまり考えない、意味さえ通ればいいというふうにお考えでしょうか。それとも、音さえ一致すれば、字が多少違ってもよろしいというふうに非常に広い気持でやっておられるのですか。
  156. 野木新一

    ○野木政府委員 御指摘のように、戦前の法制局は、長年の伝統によりまして、文学の使い方のすみずみまでも非常に洗練されておりましたが、終戦後の内閣法制局に関する限りにおきましては、その点はまだ戦前ほどにはあるいは達していないというお声をいただくのも無理はないと思います。というのは、文部省の当用漢字の採用とか、かなづかいの問題とか、今非常に変革期にありまして、私どもも、現在やっておることが最善だということは、ちっとも思っておりません。あるいは国会の御審議を通じ、現に今日大橋先生から指摘されたような問題も、さっそく帰りまして、みなと討議いたし、今後の参考にするというような態度で、技術的の最高のレベルに達したいという念願を持っておる次第でありますが、正直に申しまして、何分今は多少の不足する点が出ておる点は、自認せざるを得ないわけでございます。しかしこの点は、当委員会の御審議その他いろいろな点をお聞きいたしまして、絶えず反省し、少しでも進歩していきたいと存じておる次第でございます。
  157. 大橋武夫

    大橋(武)委員 それでは、こうした問題については、長官とよく御相談の上、またあらためて御答弁を求めることにいたします。保留いたしまして先に進みます。  それでは、私資料を要求いたしますが、従来の標準報酬等級区分による人員、それから新しい標準報酬等級区分による人員、それから各級別の金額の引き上げの割合とそれの生計費に及ぼす影響、これを一つ資料として——できる程度でけっこうです。そう無理なものを出せというのじゃない、大体表だけでもいい、何級の人がどのくらいの人数か、そしてそれらの人が今度新しい表になればどういう人数になるという表を、これだけはぜひ一つお願いしておきます。  それでは、私いろいろ保留してある問題は保留いたしまして、一応今日の質疑はこの程度にとどめます。なお保留してある事項につきましては、また適当な機会に質問をお許しいただきたいと思います。
  158. 中村三之丞

    中村委員長 滝井義高君。
  159. 滝井義高

    ○滝井委員 大橋委員から、だいろ詳細にわたって、大綱的の問題、条文の重要な点について御質問がありましたので、重複しないように、少しお尋ねしてみたいと思うのです。  健康保険というものは、一つ相互扶助の観念でできておる制度でございますが、現在の政府管掌の健康保険というものは、五人以下の弱い事業場が一つも入っていない、しかも入っていないばかりでなくて、今度は比較的資力のある賃金のベースのいいところは、組合に取られてしまっておる、そうして中間的なものが、政府管掌の健康保険に入っておることになっておるのです。保険というものは、元来保険料を払って、お互いにその保険の給付の恩典に浴することになるのが保険なんですが、私がわからない一つの理論的な根拠は、保険料を払わない家族に給付が及んでおるという点でございます。私は、そういう趣旨においては大賛成でございますが、保険というものの考え方からいえば、保険料を払っていない家族に保険給付が及ぶ理論的根拠は、どういうところから出てくるかということです。これをまず御説明願いたいと思います。
  160. 久下勝次

    久下政府委員 私の理解しておる点を申し上げたいと思います。家族に対する給付を行いますことは、理論的には、要するにこの健康保険制度を勤労者のために創設をいたしまして、そうして勤労者自身の健康を保持し、生産の向上に寄与していただくというような建前のものでございます。それと生計をともにしている家族につきまして、同じような疾病傷痍の状態が起きますときには、御本人が傷病にかかりました場合と同様に、やはり精神的にも勤労上の能率を上げていきます上に影響があるという考え方に立ちまして、家族に対して若干の給付をしていく、こういうことになったものと理解をしておるものでございます。
  161. 滝井義高

    ○滝井委員 そうしますと、勤労者自身が病気になる、家族が病気になるということは、労働能率に非常に影響があるので、労働能率を上げるために、家族までひっくるめてやっていくのだ、こういう御説明でございますが保険本来の建前からいくと、どうもそういう趣旨は通りかねる感じがするのでございます。というのは、健康保険よりかあとにできた国民保険というようなものは、明らかにそういう思想は打ち破ってきておるわけです。なるほど、事業主というものはいませんけれども一つ社会保険、社会保障というワクの中においては、少くとも同じ思想でなくてはならぬと思うのでございますが、保険料の支払いの仕方も、それぞれ所得割、人頭割、資産割という工合に、一応すべてが被保険者の形にはなっておりますけれども、やはりその保険料を払う主体というものは、世帯主が払っていっておるわけです。そういう点からすると、将来国民健康保険あるいはこういう健康保険の統合一元化の問題というようなことになったときに、これは非常に問題になってくると思うのです。で、さいぜんからの、あるいは前会の大橋委員質問等を通じて、一部負担のことを大臣も強調されましたが、私はむしろ保険の理論から、一部負担ということでなくて、保険理論として、少くとも保険料を払わない家族が医療を受けられるという点に、問題は求められなければならないと思うのです。ただ労働能率を上げるために家族に医療を受けさせるのだということでは、どうも筋が通らない。私はやはり、料率の改訂をやるとか、あるいは標準報酬の改訂をやるということでなくして、むしろ保険理論の筋を通した、たとえば家族の人頭割をかけていくというようなことの方が、それは一部負担をやるにしても、私は保険理論の筋が通ると思う。日本の全部の社会保険の体系を合せる上からも、その方がいいのではないか、こういう考えもわいてくるわけですが、そういう点、もう少し筋のある説明を願いたいと思うのです。
  162. 久下勝次

    久下政府委員 先ほど申し上げたことについて、言葉が足りない点もございますので、その他の点もさらにつけ加えて申し上げたいと思います。  先ほど、まず国民健康保険の例を引かれておられましたが、確かに制度の立て方は、根本的に違っております。国民健康保険の場合には、被保険者といいますと、世帯を構成している全員が被保険者になっている。しかし、実態的にこれを申しますときには、やはり保険料を支払いますのは世帯主である、収入源を持っている人が、一括して家族の分も払う、こういう建前のものであります。従うて、そういう意味合いにおきましては、勤労者の場合に、家族の療養経費も含めて保険料として、被保険者自身が保険料の支払いをする、こういう立て方のものと、実質的に私はそう変っていないと思うのでございます。先ほど、家族が病気になりました場合に一精神的な影響だけのことを申し上げましたけれども、そういうような意味合いから、結局、家族が病気になりますれば、この生計をささえておりまする被保険者自身の財政負担になってくるわけであります。そういう意味合いにおきましても、これは一つの総合体として考えていいのではないかというふうに思っておるのでございます。これは、各国の事例をここに調査したものがございますが、そういうものを見ましても、オーストリア、フランス、西ドイツ、ギリシャ、イタリア、メキシコ、スペイン、オランダ、ペルー、ニュージーランド、イギリスというような、各国の被保険者に関する事例を調査したものがございます。いずれも、範囲の広い狭いはございますけれども、少くとも配偶者、子というような家族につきましては、給付考えておるように、私ども調査では見受けられるのであります。そういうような意味合いから申しまして、社会保険理論という理論の立て方もあろうと思いますが、被保険者本人だけに対して給付をやればよろしいということには、どうもならないのではないかと思います。
  163. 滝井義高

    ○滝井委員 そうではなくて、保険料を払う、その払った人たちが寄って作っているのが健康保険です。これが相互扶助制度であると思う。しかも、同時に、広い被保険者がかたっておるほど危険分散ができて、保険料も少くなる、こういうことだと思うのです。そうしますと、その五百万の被保険者があるのに、またそれ以上の家族が保険料を払わずに医療を受けておるというところに、やはり日本の社会保険一つの赤字の原因もあるわけです。私はそう思うのです。そうしますと、一部負担というものを——これはあとからまた質問しますが、三月ごろには、あなたの当面対策の中には、一部負担考えられておった。そういうときには一部負担というものがあった。ところが、それはそういう形で持っていくよりか、保険というものは、お互いに金を出して、その金を今度病気になったときにもらっていくのか保険です、そうしますと、家族というものは保険料を払っていない、実際は本人が払っているのです。ところが、家族が保険料を払っていないということは、国民保険には人頭割というものがあって、形が変ろうとも、とにかく保険料という名目で家族的なものがあるわけです。ところが、健康保険にはそういうものがないというところに問題があるのではないか、私はこういうことを言っているわけです。だから、どんな小さい額にしても、これは標準報酬引き上げとか、料率の改訂ということをやられるならば、筋の通った、家族に一つ人頭割を持っていくとかいうことの方が、私は保険理論としては筋が通ると思う。しかも、幸いに日本の健康保険は、現在家族にやらないのだから、その方が筋が通るということを私は言っている。その負担の問題ということよりか、保険の筋を通すことのために、保険料というものを幾分でも出してみたらどうだ、こういうことを尋ねておるのです。
  164. 久下勝次

    久下政府委員 お話の点をはき違えておりまして、私は家族に対する給付をやるのがどうかという意味に取りましたが、家族の多寡に応じまして、保険料負担について差等を設けたらどうかということは、ごく最近、保険審議会委員の方からも、そういうような意見が述べられておる実情でございます。確かにそういう点は、検討に値する問題だろうと思います。現在の制度考え方といたしましては、家族の多寡に応じて保険料に差を設けることは、非常に問題でもありますので、全体的に見まして、家族に対する給付も含めまして——大体数字的に申し上げますと、政府管掌健康保険では、被保険者一人当り家族は一・七人でございます。そういうことが実績上出ておりますので、さようなことから、これに対して二分の一相当額の給付を行うということを前提にして、保険料率の計算をいたしておるわけでありますから、そういう意味では、現在でも平等に負担をいたしておる。ただ家族の多寡に応じて差等を設けるかどうかというところに、問題はあろうと思いますが、その点につきましては、ただいま相当な権威者の方にも、そういう御意見が出ておるという実情でありまして、これは将来の研究問題であろうと思います。
  165. 滝井義高

    ○滝井委員 私は一部負担とか、あるいは料率の改訂とか、あるいは標準報酬引き上げるとか、同じ勤労階級に負担をかけるとするならば、やはり保険の理論としては、その保険料を払った人が保険を受ける、こういう建前をもっていくということの方が、筋が通る。そうすると、現在の日本の健康保険では、家族の保険料を出していないという形が、形式的にとられておる。それはなるほど、本人の払う保険料の中に、家族の分も一部含まれておるという形でやっておるのでしょう。しかし、家族にも何ぽか出してもらうという形をとってもらう方が、曲りなりにも今後健康保険改正をやるにしても、それは慈恵的な給付だけを小さく家族にやっておるのだというのでなくて、堂々と保険料を払っておるのだから、当然受けられるのだという主張にもなり得ると思う。やはり保険理論としては、そういう形の方がいいということでございます。  そうしますと、次には現在政府考えられておるかどうか知りませんが、政府管掌の健康保険というものは、非常に弱い、平均して二十五、六人の事業所の労働者によって構成されております。大きな千名以上おる事業場のは、組合を組織しておる。これを一本化する意思がないかどうかということです。これは相当の政治力を必要とすると思いますけれども、やはり日本の健康保険ほんとうに立て直そうとするならば、保険の基本的理論からいって、弱い人ばかりで保険を構成さしておるのでは、これは話にならないと思います。そういう点で、ある程度現在の組合健康保険政府健康保険を一本にした考え方を、この際持たなければならない時期が来ておるのじゃないかと私は思いますので、その点について、一つ大臣の御所見を伺いたい。
  166. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これはしばしば議論になるところでありまして、ことに健康保険組合連合会からは、一体政府政府管掌の健康保険のみ国庫の負担をするということになれば、将来、健康保険組合連合会は非常なハンディキャップをつけられて、次第に吸収されることになりはしないかという危惧を抱かれて、種々御質問になるのであります。私は、でき得るならば、日本の健康保険の発達は、自主的な健康保険組合、すなわち現在の健康保険組合連合会が次第に力を得て、これが主軸になって発展をしていくということの方が、筋道であろうという考えをいたしておりますし、諸外国におきましても、多少二、三の例外はありますけれども健康保険組合連合会的な組織が非常に発達しておる点もあるのであります。こういうようになって参りますれば、できれば健康保険組合連合会の力が自主的に強くなり、これが円満な運営をされれば、最もけっこうなことと思っておりますけれども、今日の日本の実情では、中小企業のような、日本の特殊な経済状況において作られておる組合も非常に多数に上っておりまして、これがやはり政府の相当な指導、または将来は国庫負担というようなことにおきまして、一そう援助を受けて発達をしなければならぬ要素を含んでおりまする関係で、直ちにこれを双方合一をするということは、今日の段階では非常に困難ではなかろうか、かように考えております。しかし、将来、これらの合一問題については、慎重に考えをいたしまして、でき得るならば、やはり自主的な、すなわち健康保険組合連合会のような組織が拡大をいたしまして、これにまた政府が協力をするというふうにいたす方が、自然な歩みであろうと私は思っております。
  167. 滝井義高

    ○滝井委員 政府社会保険を統合するという趣旨は、今までのいろいろな政府の御説明を聞くと、窓口を一本化するとか、あるいは事務費の節約のためにやるのだとかいうような御答弁が、久下局長からあったのでありますが、その場合の政府社会保険の統合というときには、当然まず健康保険の統合から始めなければならないと思うのですが、その統合の中には、組合とそれから政府管掌との統合ということは入っていないのですか。
  168. 久下勝次

    久下政府委員 私のかつての発言に関連してのことでございますから、私からお答えをさせていただきます。私が窓口の一元化という、各部における社会保険の統合の必要なことを申し上げましたのは、具体的には、御案内通り、同一の事業所に適用を受けております各社保険のうち、失業保険、労災保険、健康保険というのは、それぞれ窓口が違っておるわけでございます。そういう意味合いにおきまして、窓口の一元化という意味の統合ということを申し上げたのでありまして、健康保険組合と政府管掌健康保険との関係のことを申し上げた意味ではないのでございます。いろいろな角度から、医療保険というものを一本にしろということも議論にはあります。またあるいはもっと狭く被用者に対する医療保険だけでも統合しろという御意見もあるのであります。この点に関しては、まだ検討中でございますが、先ほど大臣から、健康保険組合の将来につきましてお話もございました通り、今日の段階におきまして、政府管掌健康保険と組合管掌健康保険とをにわかに合一する、ということは、この種の組合管掌健康保険の今日果しております功績なり任務なりから考えましても、急速に行うことがいいかどうか、これはよほど検討を要する問題であろうと思います。将来の問題として考えます場合には、おそらく当然話題に上る問題ではありましょうけれども、今日の段階におきまして、そこまで一足飛びに行くにつきましては、まだまだ検討の余地があるのではなかろうか、かように考えます。
  169. 滝井義高

    ○滝井委員 今日の段階で、すぐにこれができようとは思いしません。しかし政府が、少くとも経済六カ年計画に即応して、社会保険の当面の対策と恒久的な対策とをお立てになることは、再再大臣からも御言明がありました。社会保険の理論からいえば、弱い人ばかり集まって、いわゆる中小企業に働いておる勤労者を中心とする政府管掌の健康保険が、恒久対策の中で飛躍的に今の赤字から黒字に転化していくということは、これは困難なことは当然です。そういう場合に、当然同じような保険の形態をとっておる組合というものを一本にしていくことが、これは毛利元就の三本の弓矢ではないけれども、弱いものと強いものを一本にしっかりやっていけば、その保険というものは、確実になることは当然なんです。その場合に、政府のいわゆる経済六カ年計画に照応する場合においては、当然そういうものは考えられていないのですか。今は窓口のことや何かで、どうも明白な御答弁を欠いておりますが、少くとも社会保障制度審議会が、被用者保険と国民保険と分けたときには、被用者保険の中には、一切の少くとも働いておる人が入る形が——現在の共済組合とか、あるいは健康保険組合とか、あるいは政府管掌の健康保険というようなもの、船員保険というようなものは、私は被用者保険として一本になると了解しておるのですが、なおそういう被用者保険の中にも、政府管掌と、それから今言った組合というようなものに分れていくというお考えなのですか。その点、もう少し明白にしていただきたいと思います。
  170. 川崎秀二

    川崎国務大臣 この問題につきまして、私がちょっと今御依頼を申しておる筋もありますので、お答えをいたしておきますけれども政府管掌の健康保険は、政府自身がどうこうということにつきましては、やはり外部とのいろいろな従来の経緯並びに力関係などやありまして、不適当ではないかというふうに考えをいたしまして、いずれ政府が態度をきめるにいたしましても、でき得る限り党の方でお考えを願いたいということで、私どもの多少の考えも申しておりまするけれども、まだ研究の段階になっております。しかして、民主党の政調会の方では、将来政府管掌健康保険を伸ばすべきか、あるいは健康保険組合連合会を中心にして健康保険を取り扱っていくことの方がよいかということについての具体的な検討を始めているような次第でありまして、その意味では、決して将来にわたっても両方が二本建のままでずっと、社会保障六カ年計画が進んでいくにもかかわらず、なっていくとは限らないのであります。むしろ、でき得る限りこれらの二つに分れておりますものを合一をするような段階に進むことがよいのではないか、まずそれについての検討をしてもらいたいということが、今課題になっておるような次第でありまして、御質問の趣旨に果して沿うかどうかわかりませんが、非常な研究の課題になっておりまして、そのことに対するところの作業も党の方にもお願いすると同時に、七人委員会の方にもお願いをしておる、こういうふうに受け取っておいていただいてけっこうでございます。
  171. 滝井義高

    ○滝井委員 非常にむずかしい問題であるので党の方あるいは七人委員会に研究をしていただいておる、大臣としては二つのものを統合した方がよいのではないかとも考えられておるという御発言でございました。そうしますと、七人委員会というものの結論は、日本の現状を分析して、やがて九月ごろには出てくるということでございます。当然それを基礎にして、当面、少くとも三十年から六カ年計画が発足しておりますが、大臣は三十一年くらいから健康保険は実施になっていく、そうしますと三十一、三十二、三十三年くらいの段階のいわゆる二段階説をとるとするならば、第一段階においては、組合の保険と政府管掌とが一本になり得るという見通しのもとに、今のような御説明があったのでしょうか。
  172. 川崎秀二

    川崎国務大臣 大へんうがった御観測でございますけれども、そこまで締めくくりをつけたような意味でまだ進んではおりません。おりませんが、今回の政府管掌健康保康に関するととろの根本対策におきましては、政府管掌健康保険に対する相当長期にわたったところの恒久対策を立ててもらうとともに、組合管掌に対する、国家としていかになすべきか、いかなる協力をなすべきかということに対する具体的な答案もほしいということも、つけ加えて申しておりまするから、従って、政府管掌健康保険根本対策ほどまとまったものが出るかどうかは、それほどは期待ができませんけれども、これに言及をいたしまして、その将来について何らかの答申のあるものと私は期待をいたしております。その際において、さらにこれを分析いたしますならば、組合管掌と政府管掌とが合一することが望ましいかどうか、またその合一をするときの環境を整理する諸条件はどうかというようなことについての、もし合一をすることがよいという結論がつきますれば、またそれについての何らかの答申も得られるのではないか、こういうふうに考えをいたしておるような次第でございます。
  173. 滝井義高

    ○滝井委員 なかなか名答弁でございますが、厚生大臣は再々予算委員会あるいは当委員会において、現在の十億のあの国庫負担金と申しますか、それでは不満足だ、少くとも一割の国庫負担政府管掌の健康保険には実現していくのだということでございました。現在、国民健康保険は、すでに立法によって二割の国庫負担が実現をいたしました。共済組合は、御存じのようにわれわれの税金によって、少くとも相当程度政府なりあるいは地方公共団体が負担をしておることは周知の事実でございます。そうしますと、一割国庫負担政府管掌で来年度から実現をいたした場合においては、当然組合の健康保険も、一割の実現を要求してくることは明白だと思いますが、それを拒否できる理論的な根拠がありますか。
  174. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これはもっぱら政府財政状態並びに健康保険組合自身の財政状態にも基因すると思います。もとより、理論的に申すならば、政府管掌健康保険並びに組合管掌健康保険の間において、大きな差別をつけるということは間違いでございます。従って、そういう要求がありますときにおきましては、これに対する誠実な答案を出さなければならぬのではありますが、ただ一点違いますのは、中小企業の今日置かれておる非常に苦悩の状態、一昨年以来実施をされておりますデフレ政策——本年はその最終段階ではありますけれども、いずれにいたしましても、非常に強い地固め政策が行われておりまして、そのしわが中小企業に及んでおる関係で、今日置かれておる政府管掌健康保険組合の困難な状態と、組合管掌には——いろいろ組合の個々にわたっては、これと同じような実情もありましょうが、なおかつ相当潤沢なる経費を持ち、また余裕のある運営をいたしておる組合もありますので、この点は、その際におけるところの相当考慮の対象になるのではないかというように考えます。しかし、もとより明年政府管掌健康保険組合に対しまして一割の国庫負担をなすということになりますれば、片手落ちであるというようなそしりを招いてはいかぬのでありまして、それはステップ・バイ・ステップではありますけれども、これに対する措置を行いますれば、やはり組合管掌の健康保険組合にも、何らかの御協力を申し上げるような措置を講じなければならぬのではないか、その点についても、研究をいたしておるような次第でございます。
  175. 滝井義高

    ○滝井委員 もし一割の国庫負担が実現をして、組合管掌に何らかの措置と申しますが、考え得る具体的な措置というのは、どういうものですか。
  176. 久下勝次

    久下政府委員 恒久課題として問題にしなければならぬと思いますことは、まず第一に、保険料負担割合が、組合によってまちまちでございます。平均して大体組合管掌の健康保険は、事業主が四、被保険者が二という割合になっていることは御承知通りであります。しかしながら、これは全体の平均でございまして、事業主の負担割合が非常に高いところが相当ございます。この点が、政府管掌健康保険の場合と本質的に異なる点でございます。  それからもう一つは、給付の内容が政府管掌健康とは違っておりまして、申すまでもなく健康保険法に規定してございます給付の内容は、これは最低限の要求としてどこでも行われておりますけれども、いわゆる付加給付として、政府管掌健康保険よりも、いろいろ有利な条件のものが給付されているところがあるようでございます。こういうようなことも、国庫負担をやります場合には、当然考えの中に入れてやらなければならないわけでございます。
  177. 滝井義高

    ○滝井委員 今御説明がありましたように、現在政府管掌の健康保険は、料率を今度千分の六十五に引き上げましたが、組合は全国的に平均して六十三、千分の四十一は事業主で、千分の二十二は被保険者が払う形になっております。それから給付も、組合によっては付加給付のあるところもあるし、ないところもあります。ところが、そういうことは具体的にどういう工合に一割国庫負担のときに考えられるのでしょうか。これはそれぞれの事業主個人の社会保険に対する考え方によっても違ってくるわけであります。非常にずるい、ヒューマニズムの少い事業主は、なるべく少く出そうとするでしょうし、こういう社会制度に理解があり、温情を持ち、社会保障制度の充実こそが唯一のものであると考えているりっぱな事業主は、自分の負担を多くしてデフレ下における勤労者の生活をカバーしてやろうという温情を見せるでしょう。あるいは優秀な病院の施設を持っているところは、その組合の被保険者が他に逃げずに、国分の病院を信頼してかかりますので、原価主義的なものになって、たまたま他の病院に行っても、それは付加給付が多くなるということで、いわゆる保険に対する熱意に燃えるところの事業主、あるいはそういういい施設を持っているところこそ、むしろ余裕を持ってきているというのが事実だと思います。ところが、病院が悪くて、事業主の冷酷無情なようなところは、その病院を信頼せずに、どんどんいい病院に行くから、その組合の経営の病院はますます悪くなっていく。ですから、どういう答弁をされるか知りませんが、推測をしてみて、組合では付加給付の非常に多いところと、あるいは保険料の安いようなところは、国庫負担は少くしなければならぬというのでは逆だと思います。社会保険立場からいえば、あるいは逆になる立場が出てくるのではないかと思いますが、一割国家負担をした場合に、具体的にどういう工合に組合管掌の健康保険を処置していくのか、これは今度の予算の編成期にすぐ出てくる問題だと思いますので、これを一つ明白にしていただきたいと思います。
  178. 久下勝次

    久下政府委員 国庫負担を獲得すると申しましても、結局その財源は一般国民の租税から払われるものでございまして、特定の社会保険の被保険者の福祉のために、そうした金が出されるわけでございますので、その点はやはりおのずから給付の内容にしましても、最小限度のものというようなところが検討の材料になると思います。従って、付加給付をたくさんやっているところに、たくさん給付が行くからということで、一定率を出すわけにはいかないだろうという意味で、私は付加給付のことを考えておるのであります。この点は、実はなお財政当局にも、従来この問題につきましては、本年度の予算折衝に当りまして、ずいぶん意見がございまして、ほとんど問題にならなかったような実情から申しましても、かなり話題に上る点だろうと思います。  それからもう一つは、ここまで申してよろしいかどうか存じませんが、突き進んでのお尋ねでございますから、私の考えを率直に申し上げる次第でございますが、保険料負担の点でございます。料率の負担割合が、はなはだしいところは、実は被保険者負担というのは名目だけの事業所があることは御承知通りと思います。そういうようなところが、果して先生が先ほどおっしゃったように、政府管掌一本に、組合管掌をやめてしまって、そういう保険料率は他の事業所の被保険者のためにも回っていくのだという場合に、そういう負担割合をするかどうかという点でございます。おそらくはこれは組合管掌で、自分の事業所に働いておる被保険者であるがゆえに、さような負担をしておるのでございまして、この点は御指摘のように、熱心だからといえば熱心でございましょうけれどもしかしながら、ほんとうに先生が先ほどおっしゃったような意味において、一律負担をそういう一般的な場合にも行われるかどうかというような点を考えましても、この点は、そういう事業主負担というような点が非常に、幅が広く、つまり逆に申しますれば、被保険者負担の割合が低いというその事実は、一般的に租税から国庫負担を出していくという場合に、十分考慮に入れる問題ではなかろうか、こういう意味で申し上げておるのでございます。すでに御案内通り、国民健康保険国庫負担総額は、法律の規定によりまして二割でございますけれども、具体的に個々の被保険者国庫補助金を交付いたしまするつきましては、御承知のように四方式をそれぞれ加味適用いたしまして、差等をつけた実質的な公平を期する交付の仕方をしております。こういうふうな考え方は、やはり組合管掌健康保険につきましても出て参ります。政府管掌健康保険のように、五百万人の者が同じ条件のもとに健康保険の適用を受けている場合とは、おのずから違った問題が出てくるのではないかというふうに考えております。
  179. 滝井義高

    ○滝井委員 被保険者が名目的に保険料を出しておるだけで、ほとんど全額に近いものを事業主が実際保険料を組合管掌では出しておるものもある、こういうことでございますが、私は健康保険と組合管掌保険が一本になった場合は、その事業主のかつて負担をしておった保険料の分は、何か別のものに回し得るものだと思うのです、そういう温情のある事業主ならば。そういうことであるがゆえに、健康保険と組合管掌を一本にしてはならないという理論は、どこからも私は出てこないと思うのです。  それから、一般の税金を国庫負担として出すのであるから、これは工合が悪いという点についてでございますが、健康保険に今後一般の税金で出すことが工合が悪いというその理論は、すぐに政府管掌の健康保険にはね返って参りまして、逆にいえば、政府管掌のいわゆる国庫負担を大幅にやることを阻止する理論になるのです。どうしてかと申しますと、たとえば、私の知っておる例では、ここに一つの大きな市があります。そこに半数以上のものは、組合管掌の健康保険を持っております。残りの半数は中小商工業者で、国民健康保険に入っておるわけです。この国民健康保険が赤字になりまして、その市の一般会計からこの国民健康保険の赤字を救済するために、その国民健康保険の特別会計に出そうとしたところが、その大きな組合管掌を持っておる組織から出ておる市会議員の人たちが、もしわれわれの税金で市民の半分をまかなっておる国民健康保険の赤字を補てんするために出すならば、われわれも税金を同じように出しておるのであるから、われわれの組合管掌にも市費を補助金として出すべきであるという理論を展開したのです。この理論は間違っていないのです。同じ市民なら、市民税なり固定資産税なりを出してその市を構成しているからには、対等なんです。だから、半数の市民が作っている、名目は運営の主体が市であったにしても、国民健康保険に金を出すならば、当然その組合管掌の保険にも出さなければならぬという理論が出てくる。その理論は、そのまま政府管掌の健康保険国庫補助を出すならば、組合にも出さなければならぬ。同じ税金から出す。それは組合に所属しておる労働者であろうと、中小企業の労働者であろうと、大企業の労働者であろうと、税金を出しておることは同じです。所得税を出しておることは同じです。だから、この理論を、どうしても今後大幅な国庫負担政府管掌の健康保険に実現していこうとするならば、その大前提というものは、組合と政府管掌とを一本にしたところにおいてのみ、初めて大幅な社会保険に対する国庫負担の実現があり得ると私は考えておる。もしあなた方が、こうした組合管掌の強い力を無視してこのまま行くならば、日本のこの弱い政府管掌の健康保険の赤字の解消はできないと断言してはばからない。もしあなた方が、それでもできると言われるならば、私はもうこれ以上言う必要ははないと思うのです。一割以上の国庫負担を実現しようとするならば、必ずそれは組合管掌の方からブレーキになることは明らかだ。ブレーキでなければ、組合にもやらなければならぬ。やるというならば、今のような内部的な矛盾が組合自体の中にも、それはいろいろバラエティはありますが、その方から出てくるということなんです。この点、今の私の説明は、大体自治体における国民健康保険と組合管掌で、それはそのまま国の問題にも関連されてくると思うのですが、そうお考えになりませんか。
  180. 久下勝次

    久下政府委員 まず、御質問ではございませんでしたが、基本的に、今、滝井先生のお話ですと、組合管掌の健康保険政府管掌の健康保険を一本にすることが、国庫負担獲得の先決問題であるというようなお話でありました。が、実は今まで話題に出ておりませんでしたので、この機会に申し上げさせていただきたいと思いますが、一本にすることの具体的な問題が相当あるわけでございます。この点は、私が申し上げるまでもないことでございます。先ほど先生も、最初に大きな政治力が必要であるということを仰せられました。一番問題は、結局給付の内容を、将来どこのレベルに持っていくかということにかかっておるわけでございます。現在、組合管掌の健康保険が到達しております最善のものが、給付の内容の実態であるということにいたしますれば、これは統合いたしましても、赤字の問題は解消しないわけでございます。統合をすることによりまして財政問題の解決をはかろうとすれば、必然的に私はそのレベルの高い組合につきましては、給付内容は実質的に落ちてくるということにならざるを得ないと思うのでございます。同時にまた、政府管掌式の考え方によりますれば、労働者の保険料負担は、先ほど申したような実情でございますから、自然ふえて参る問題もあるわけでございます。こういう点が、統合の問題についての難点であると考えておりますので、そういう意味で、組合管掌健康保険政府管掌健康保険との統合というものは、実際問題としてなかなかむずかしい問題があると考えておる点を、まず最初に申し上げておきたいと思います。  それから、先ほど大臣からもお答えを申し上げておきましたように、政府管掌健康保険実情と、組合管掌国民健康保険実情とから考えまして、国庫負担を片っ方はゼロでいいということは、私ども考えておらないのであります。結局、何らかの差等をつけざるを得ないであろうということを大臣は申し上げたはずでございますが、さらに私がつけ加えて先ほど申し上げましたのは、差等をつけても、国庫助成金を出しておりますように、実質的には、各組合の実情に応じた公平な配分がなさるべきではないだろうかというようなことまで、実は考えておるのでございます。そういう意味合いにおきまして、またそういうような物の考え方をして参りますれば、私は国庫負担の獲得ということも、理論的にも筋の通った説明がついていくのではないか。必ずしも両者を統合することが、国庫負担獲得の前提であるということを申さなくてもよろしいのではないかというふうに考えておりますので、こういうふうに申し上げたわけであります。
  181. 川崎秀二

    川崎国務大臣 今の局長の発言は、特に私の考えておることと同じようなことを申しておりますので、これも裏打ちをいたしておきます。ことにただいま御質問の点は、政府管掌と組合管掌との関係につきましての非常に微妙な御発言であり、かつ、われわれも相当啓示を受けるところが多かった御発言であります。しかし、今日の財政状態からして、まず、とりあえず政府管掌の方に対しまして、一割の国庫負担をなすべきだという基本方針を打ち立てまして、それに向って前進をする。それについては、当然一方において、組合管掌の方からはいろいろな議論も出てきましょうし、これに対しましては、われわれとしては漸を追うて解決をしたい。しかして、ただいま配賦の問題につきまして申しましたのは、局長意見通りでありまして、これについては、やはりよほどむずかしい操作にはなりましょうけれども、それぞれの組合の実情に応じまして、何らか現在行われておる平衡交付金的な考え方を、この中において実施をするということになる以外には、方法はないのじゃないかというふうに考えもいたしておりますが、これらもあわせて十分に研究をいたしてみたいと思っております。
  182. 滝井義高

    ○滝井委員 あとの点でございますが、一応政府としては、一割国庫負担は基本方針として実現をしていきたい、それが確保できたら、次の段階で組合管掌の保険の国庫負担を何らかの形でやる、しかし、それをやるのは、政府と同じものではなくして、あたかも現在国民健康保険にとっておる補助金の交付方式と申しますか、ああいうような差等をつけた方式で参りたい、こういうことでございます。私はそういう先のことではなくして、すでにもう来年一割を取った場合に、必ずこれはすぐに起ってくる問題だと思うのです。そうすると、政府は、来年度は一応政府管掌の健康保険だにけ限って国庫負担をやり、組合の分は現状のままだ、こういうお考え了承して差しつかえないのですか。
  183. 川崎秀二

    川崎国務大臣 そういう考え方ではございません、並行して十分に考慮をいたしたいと思っております。
  184. 滝井義高

    ○滝井委員 それはなかなかありがたいことであって、来年、政府管掌の健康保険には一割の国庫負担を実現するとともに、組合管掌にも、何らかの形において国庫負担を実現していく、しかもその配分方法については、その組合の実情に応じて差をつけていく、こういう確認が得られました。  次に、第一に局長から御発言のあった点でございますが、現在組合の健康保険というものは、相当に高いレベルになっており、政府管掌の健康保険の方は最低のものだという御発言があったのですが、この点には私は異論があるのです。現在、健康保険というものは、組合であろうと政府のものであろうと、適正診療として、少くとも必要でなければ注射を打つことができないということは、療養担当規程にぴたっと書いておる。組合であるがゆえに、野放図なものをやっていいということはあり得ないと思う。組合の健康保険でも、政府は監督権が、政府管掌の健康保険と同じようにあるはずだし、同じように基金に審査が出てきておるはずです。また審査の出てこない内部的な個々の病院のものについても、ある程度の乱診乱療が行えないように、当然これは監査その他が行われておるはずであります。今のだと、日本の健康保険というものは、組合管掌は最高のレベルを行っておるけれども政府管掌は最低だという印象を受けるのです。これはちょっと大へんな発言だと思うのです。もし、そういうことが組合管掌で野放図に許されておるということになれば、私はこれは大へんだと思うのです。そうしますと、組合管掌のものは院内で治療をする、院内治療というものは最高の水準を行くが、その被保険者が保険証を持って外の病院に行ったときには、最低の治療しか受けられない、こういうことになる。なぜならば、外の病院に行った者は、いわゆる基金に対して請求書を出すからです。これは重大な発言だったのです。
  185. 久下勝次

    久下政府委員 私は、先ほどさような意味で申し上げたのではないのでございまして、療養の給付の内容に差等があって、政府管掌が薄くて、組合が厚い、こういうことを申し上げたのではないのであります。療養の給付は、どちらも同じものをやるのでございます。私が申し上げましたのは、組合管掌健康保険におきまして、財政状態のよいところにおきましては、たとえば、家族に対しまして、法律の要求するところは、二分の一だけ家族療養費として出すことになっておりますが、これを保険財政から全額を支給しているところが相当ございます。あるいはまた、療養の給付をやりながら、別途見舞金というような名目で、健康保険財政の中から、被保険者なりその家族に金を出しているようなところもございます。こういうような種類の付加給付が、組合においては相当行われております。この点を申し上げたのでございます。そういう種類のものが、一本になることによりまして、全体にそれを維持するということになりますと問題でございますし、また一本になりました場合に、そうした付加給付は認めないということにいたしますれば、当該事業所に属しております被保険者としては、給付のレベル・ダウンになるというような問題があるということを申し上げたにすぎないのであります。
  186. 滝井義高

    ○滝井委員 さような医療内容のレベルが問題だという御発言があったので、そう申したのですが、そうしますと、ますます同じ健康保険法で規定をせられておる一つの労働者は、付加給付があって非常にいい内容を受けるし、しかもその労働者は保険料も少くていい、しかも賃金のベースも中小企業に比べて高い、こういう微妙な、同じ健康保険という一つの法できめられておる労働者でありながら、あまりにも差が多過ぎるということなんです。こういうことは、保険の本来の理論からいったならば、間違いのもとです。弱い人ばかりが寄っても、これは弱いのです。ですから、弱い人と強い人が寄って、初めてその保険というものは健康な発達ができる。だから、組合と政府と一本にしなければならないというところがあるわけです。こういうことになれば、これは付加給付を受けることは、別の言葉でいえば、差額徴収が行われておるというのと同じ形が出てくる。先生、保険証は出します、しかし、私はお金に糸目をつけませんから、どんなにいい治療でもして下さいというふうに患者が要求し得るのです。同じ保険証を持っていっても、先生、どんなにいい治療をしても、私の方は別にくれますからと、こういう理論が成り立ってくる。それは、組合がたくさん金を持っております、付加給付がありますから、現金を持っていって払いますから御心配はいりません、こういうことも被保険者にしてみれば言い得るわけです。ところが健康保険の方は、そういうことはなかった。水増し診療だ、あるいは乱診だ、乱療だ、過剰診療だ、こういう形がすぐ出てくるわけです。片方はそれが出てこない。それは、そういう形で請求書が行った場合は、出てくるかもしれませんが、病院の内部においては、そういう点は何も出てこない、監査も何もないのだから。だから、そういう点になると、理論的に今度は、そういうものについては、さいぜんあなたが言われるように、国庫負担をしないのだ、こういう逆の理論になって、同じ税金を払っておっても、労働者はやはり損をする形が出る。こういう内部的な多くの矛盾を、現在の組合健康保険というものが持っておるということなんです。しかも、最近はデフレ政策によって、一方においては、そういう恩情のある事業主もあるかもしれませんが、昨日も私が発言をいたしたように、だんだん労務費というものは、会社の経理上削られていく。そうすると、今までは交際費は労務費で出しておったが、最近は労務課長は健康保険組合の理事長が多い。そうすると、いわゆる公正な交際費というものは、健康保険の会計からまかなわれていく、こういう結果も出てこないとは限らない。こういう点、やはり私たちは、ほんとうに日本の社会保障制度を伸展させようとするならば、まず私は、ここに第一歩のメスを入れなければならぬときが来ていると思う。そういう意味で、私は申し上げておるわけでございます。この問題については、それ以上申しすせん。政府の強力な政治力を必要といたしますので、民主党の百八十五名ですか、その力でできるかどうかはわかりませんが、とにかく川崎厚生大臣の若い社会保障制度に対する熱意で、御研究を願いたいと思います。  次に御質問をいたしたい点は、六月に保険料の料率をお引き上げになった。現在デフレ政策のために、保険料の納入が悪い。だから九一%の納入率を、馬力をかけて九三%くらいに引き上げるんだ、六月に引き上げた後の——もうやがて七月も終ろうといたしておりますので、納入状況というものは、引き上げによってどういう情勢にあるか。非常にぐんぐん伸びつつあるのか、それとも、むしろ九一%を割るような情勢になってきておるのか、これを御説明願いたいと思います。
  187. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは、六月二十七日に手続をとりまして公布をしたのでありまして、七月の保険料から引き上げるのでありますから、まだ何ら実績は出ておりません。
  188. 滝井義高

    ○滝井委員 それはどうも、私は六月一日にさかのぼってやるのだ、こう理解しておりましたが、七月一日からやることになっておるのですか。そうしますと、その保険料率の改訂の影響でございますが、政府管掌健康保険の料率の改訂をやるならば、当然組合なり共済組合にも、料率改訂の影響が及んでくるおそれがあると思う。たとえば、すでに先般ここで問題になっております駐留軍の健康保険組合においても、料率の改訂を申請してきておる。聞くところによりますと、その他の組合管掌なり、あるいは共済組合においても、料率の改訂が行われるやに聞いておりますが、政府政府管掌の健康保険料率を引き上げることによって、他の組合にどういう影響が出てきておるかを御説明願いたい。
  189. 久下勝次

    久下政府委員 組合管掌健康保険におきましては、私が申し上げるまでもなく、それぞれの組合が自前で財源の調達をしなければなりませんし、しかも一般的に療養給付費の増大の傾向は、組合管掌といえどもその例外ではございませんので、これに対処いたしますために、すでに財政的に料率の引き上げを必要といたします組合は、三月末までに私どもの方に申請をいたしまして、料率の引き上げの手続を終了しております。ただいま全部の数字は持っておりませんけれども、一番高いところは、御承知通り組合管掌健康保険は千分の八十まで引き上げ得ることになっておりますが、三月の引き上げで千分の七十五まで引き上げた組合もあるような事情でございます。それぞれの組合の実情に応じまして、料率の改訂によって財政のつじつまを合せる措置を、すでに講じておるわけでございます。従いまして、それは政府が上げましたからという影響ではないと見ているわけでございます。  それから、一方共済組合につきましては、最近各省におきまして、料率をいじる計画は聞いておりませんけれども、私どもの直接所属しております厚生省におきましては、実はこの春から逆に料率の引き下げをいたしておるような次第でございまして、結局これは、個々の経営主体ごとに、それぞれ財政の見通しを立てまして、その多くは、財源不足の場合には、料率の引き上げによってまかなっていくというようなやり方をしておるわけでございます。
  190. 滝井義高

    ○滝井委員 政府引き上げの影響というものはほとんどないということでございまして、あるのじゃないかと思いますけれども、これは時間がありませんから、先に進みます。  先般、本会議等において、川崎厚生大臣は、監査を中心とする行政措置をとることによって、多分一月には一億二千万円、二月には一億五千万円の節約ができたという御発言があったと思うのであります。その後二の六月までに、どういう節減の状態になっておるのか、これを御説明願いたい。
  191. 山本正淑

    山本説明員 お答え申し上げます。実は三月からは昭和三十年度の収支の計画の中に入っておりまして、御承知のように予算書におきまして、三十年度の医療給付費総額を三百九十一億と見込んでおりまして、これはちょうど昭和二十九年度の総医療費に対しまして、一割強の伸びを見ているという結果に相なっております。これは昭和二十八年度と二十九年度を比べましたものからいたしますと、非常に伸びが少くなっておるという現状でございます。私ども事務当局といたしましては、この三百九十一億を月別に配分いたして、三月、四月、五月——三百九十一億の範囲内におさまるためには、各月別にした医療費総額は幾らの額でなければならないか、こういう各月表を持っております。それに対しまして実績がどうなっておるかということを申し上げる以外にないのであります。それを申し上げますと、三月におきましては、その割当額といいますか、見込み額が三十一億百万円であります。その実績が三十一億三千四百万円と相なっておりまして、三千二百万円予定よりふえております。四月におきましては、見込み額が二十九億五千二百万円になっておりまして、実績が二十九億五千五百万円でございまして、差引見込みより三百万円の増、五月におきましては、見込み額が三十一億五千四百万円でありまして、実績が三十一億二千五百万円、見込み額より約二千九百万円の減、かような結果に相なっております。
  192. 滝井義高

    ○滝井委員 わかりました。大体見込み通りに行かれるようでありますね。しかしこういうように見込み額を医療に立ててやるということは、かつて税務署の徴税の上において、国税庁で各財務局につかみどりで割り当てて、九州は何億取れ、中国は何億取れ、それが今度同時に、税務署に行って幾ら、こうなって非常に非民主的な税の取り方だという反撃を受けたことがある。税金にしてしかり、いわんや人間の病気の医療が、もしそういうように三月は三十一億百万円で大体このワクで行けというようなことを——あとで基金のことを質問しますが、基金の審査委員会なりに流しておるとするならば、これは重大問題だと思うのです。まさかそういうことはされていないと思う、もちろんこれは一応のめどだと思うのですが、そういうやり方というものは、私はちょっと納得ができないと思うのです。
  193. 久下勝次

    久下政府委員 ただいま御説明申し上げました見込み額というものは、私ども予算を執行する上に、全体の立場から一応各月の割り振りをいたしておるだけでありまして、これを全国に流して、各県としてはこれだけに押えろということは一つも言っておりません。またそういうことを、御指摘のように、言うべき筋合いのものではないと考えております。
  194. 滝井義高

    ○滝井委員 ぜひそうしていただきたいと思います。  次に、継続給付の問題でありますが、六カ月を、一カ年間仕事をやめる前に被保険者でなければ、継続給付の資格はつかないことになっておるのであります。この法的のいろいろなことは、大橋委員から御質問がありましたのでやめまして、それによって被保険者が、どの程度その恩典に浴さなくなるのか、同時に、この六カ月を一年に切りかえることによって、どの程度財政負担の軽減が可能なのか、これを一つ説明願いたいと思います。
  195. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは午前中に、大橋委員が一番最後にお尋ねになったときに、私も少し所信を申し上げようと思いましたところ、ちょうど前から局長に対するこまかい御質問が続いたあとでありますので、急に基本的な問題に変って申し上げるのもどうかと思いましたし、また休憩になりました関係で、私の意見を申すいとまがなかったのであります。  大橋委員の御質問にも、これは社会保障の退歩とおっしゃったと思います。厚生大臣がしょっちゅう言っておる退歩にならないかということは、私もこれを肯定するものでございます。しかしながら、それならば、諸外国の例なんかによりまして、こういう資格喪失後の継続給付の受給期間などというものに対しては、どういうようにしておるかということを調べてみますと、資格を喪失した後には、たとえば六カ月給付するというような期間の規定もありますけれども、日本のように、三年の延長というような非常に長い間資格を持っておるというようなところは、ないのでありまして、そのような意味でこの個条は、日本の財政状態並びに健康保険財政状態から見れば、ややよ過ぎた政策をとっておったということも言えるのであります。従って、これを合理化する意味での措置であり、今日健康保険財政が危機に瀕してておりまして、被保険者、事業主の負担の増加を願わなければならぬ状態にありますし、また医療給付の期間が、今日は三カ年に延長されておりますので、すでに被保険者でなくなっておる者の分まで、資格喪失後も現在の被保険者負担をするということについては、合理的な受給要件の調整をはかる必要がある、こういうことが、今度の提案の趣旨になり、諸外国の例をもあわせて考えたものであることを、この際さらに言明いたしておきたいと思います。  そこで、これによって医療給付費はどのくらいの節減になるかと申しますと、本年度は二億三千三百万円、平年度は六億六千七百万円であります。それから傷病手当金は、本年度四千三百万円、平年度におきましては一億二千三百万円の節減が見込まれるわけであります。  この際、政府管掌ではありませんけれども、たとえば、今一番大きな健康保険組合であります駐留軍の状態を例に取ってみますと、継続給付費は、保険費総額の大体三七%というふうな数字に上っておりまして、今日経済状態の非常に変化の多い日本といたしましては、やはり資格喪失後の継続給付の受給資格期間というものは一年ぐらいにいたしませんと、負担過重になってくるおそれがありますので、この点も十分にお含みおきを願いたいと思うのであります。
  196. 滝井義高

    ○滝井委員 駐留軍の健康保険組合の赤字の一つの原因が、駐留軍労務の特殊性によって、継続給付を受ける人が非常に多く、それが赤字の大きな原因になっておりますことは、私も承知しております。問題は、一般健康保険の場合でございますが、継続給付を受ける患者というのは、多く結核が多いわけでございます。従って、長期治療を必要といたしますのに、健康保険からこの継続給付者がおっぽり出されれば、それはどこに落ちていくかといえば、みんな生活保護法なんです。従って、健康保険が、今後国庫負担をもらおうとするなら、これを置いておってもいいのじゃないかと思う。ただ資格を、健康保険から生活保護に変えただけであって、実質的には八割は国費であり二割は地方団体の公費であるということです。なるほど、保険料を払っていないから、保険を受けてはいけないという趣旨から言えば、そういうことになるのが筋かもしれませんが、一応六カ月間は被保険者であったことは事実です。保険というものは、たとえば生命保険にきよう加入してあした死んでも、保険金をもらえるのが保険なんです。それを一カ月間だけの保険料を払った者は生命保険金はやらないのだということでは、だれも生命保険に入る人はいなくなる。そういうように、不幸があるからこそ入るのです。まさか故意に六カ月だけしてやめるために、初めから計画的に仕事場に就職をして健康保険組合に入る人は私はないと思う。そういう建前から言うと、どうせ生活保護に行くものなら、私はやはり健康保険に置いておくべきだと思う。そういうことが、同時にまた大蔵省に対する——あるいはこれは大蔵省が切れと言ったことかもしれませんが、大蔵省に対して、国庫負担を実現させる一つの理論的な根拠になると思う。どうせこれは生活保護に行くものじゃありませんか、生活保護に行けば国は八割の負担です、それを健康保険でまかなっておるために、国の負担が少くなっているのだから、一割くらいはいいじゃないかということになる。八割を負担しなければならぬものが一割でいいのですから。だからその点は、落ち行く先は生活保護であるということから考えてみると、これをそう切り捨てる必要はない。同じ国家の中に住んで、同じ税金でまかなっていくという気持があるなら、私は一割の国庫負担を取る理論的な一つの武器になるとさえ考えるのですが、この点はどうですか。
  197. 久下勝次

    久下政府委員 滝井先生のお話を伺っておりましても、継続給付につきまして、資格要件が要らないという御前提のお話と了承いたします。従いまして、問題は、この資格要件をどうするかということにかかるわけであると思います。御指摘のように、多くのものが、結核であることは、私どもも認めざるを得ないと思いますが、問題は、結核医療のために国庫負担を取るということになれば、そういうことになると思うのでありますが、国庫負担というものは、やはり結核を含めた一般の療養給付費に対するものと考えざるを得ないと思います。そうしました場合は、結局大半の者は、やはり被保険者保険料負担によってまかなうことになるわけでありますから、そうすると、療養の給付期間が三年に延びております今日におきまして、その期間を六カ月にとどめておいていいかどうかという点は、やはり議論の対象にはなる点であろうと思うのでございます。私どもといたしましては、わずかな期間——わずかな期間と言うと、いろいろ語弊がありましようが、とにかく六カ月程度の資格期間を持っておっただけで、その後三カ年間の療養の給付を受け得るという制度それ自身としては、今申し上げたような全体の相互扶助の建前から考えました場合には、この機会に資格要件をきつくした方が、全体の公平のためによいのではなかろうかという考えのもとに出たものであります。従いまして、国庫負担を要求する根拠として、かえっていいのではないかというお話につきましては、最初申し上げたような理由から、いかがであろうかと思っているのでございます。  いずれにいたしましても、この種の問題は、いわゆる逆選択の見地から、一つは、全体の保険料でまかなっていく保険経済の建前から、他の被保険者負担において特殊の状況にあります者が手厚い保護を受けるというのはいかがであろうか、このような考え方から、資格要件をこの機会に強化したいという考え方でございます。
  198. 滝井義高

    ○滝井委員 私は、日本の結核対策がある程度整備した後にやられるのならば、この継続給付というものは、結核が多い見地から大して異議はないと思う。しかし、結核対策というものは、現在大して進展していない。公費負担も、地方財政危機のためにうまくいかないということになれば、結核患者は必然的に生活保護に追い込まれ、しかも、現在生活保護費のワクも非常に締められてきておる。生活保護費のほとんど半額以上、二百億になんなんとするものが医療扶助である。こういう考え方から、生活保護費の節約が今や主として医療扶助に加えられようとする段階で、なお継続給付からおっぽり出されれば、結論的に言えば、これはそういう人は死んでいけということだと思う。そうだとすれば、私は日本の結核対策がある程度完備をしたときに——それはおそらくここ二、三年のうちには、結核についてもある程度めどをつけなければならぬが、そのときに継続給付の問題は、法律改正をやるべきだと思う。それを赤字対策の一環として、わずかに一億二千三百万円のものを、三親等内の人たちと同じように切っていくことは——三親等内についても、私は納得できませんが、これについてもどうも納得ができない。これはあとで触れますが、むしろこういう対策というものは、私は当面の対策でなくして、恒久対策の一環でなくてはならぬと思うのです。それをあなた方は、あわてて当面の対策として取り上げたところに、むしろ私は財政当局の強い要求があって、十億の国庫負担を要求するのだから、こういうことはやれということで、屈服したのではないかと疑われても仕方がないじゃないかという感じがするのです。これは恒久対策として、同時にとらるべき問題だったと思う。当面の対策としては、まだ生活保護費も締め上げられておる、結核対策も立たないうちに、これを世の中におっぽり出すことは、死ねというにひとしい、こうとしか考えられないと思います。
  199. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまのいろいろ御議論になっておることは、経緯などにも関連しておることでありますから、私からも答弁をしたいと思っております。それは、先ほど申し上げたような理由で、継続給付の問題は、特に六カ月を一年に延ばしたということは、諸外国の例をも参照し、かつ赤字対策として、この程度のことはなすべき方がむしろ対策上よいのではないというふうに考えをいたし、ことに経済的に非常に動揺の多い日本では、諸会社に勤めておって、六カ月、七カ月というところで退職をする者もかなりあるわけでありますから、従ってそのことのゆえをもって、三年間の資格喪失後も給付を受けるのは、少しく他の階層に比して、恩典がはなはだしきに過ぎるのではないかというふうに考えをいたしまして、提案をいたしたことであります。なお、だんだんお話しの件は、恒久対策の際に考えろということは、相当考慮すべきではあったのでありますけれども、やはり赤字対策の本年度における一環としてこれを行い、また後年度にこれは相当大きく響きますので、平年度六億六千七百万と向上しておりまするし、あるいは企業の合理化その他におきまして、相当の経済的な状況が変化をいたしますれば、これによって、なおふえる部分もあるのではないかということを考えますと、ぜひともやっておかなければならぬという考え方が、実は厚生省の中にもありまして、決してこれは大蔵当局から押しつけられたのではありません。標準報酬の方は、厚生省当局も考えており、大蔵当局におきましても考えたことでありまして、私は当初は大橋委員の御指摘になりましたときにお答えしましたように、料率の引き上げ並びに国庫負担あるいは融資ということの二本建でいきたいと思いましたところ、財源が足りなくなりまして、標準報酬は両省の間に意見が一致して出したのでありますが、ただいまの給付期間のの受給資格期間の問題につきましては、厚生省側といたしましても、後年度のことを考えまして、相当信念を持って提案をいたした次第でありまして、将来恒久対策には当然なってきましょうけれども、恒久対策以前において解決すべきものであるというふうに考えをいたしたわけでありますことも、御了承願いたいと思うのであります。
  200. 滝井義高

    ○滝井委員 恒久対策のときも考えるが、当面の対策でも考えたということでございますので、継続給付の問題は、どうも浮ばれぬようでございます。  そうしますと、次には、今年の被保険者の見積りを五百五万にされておるわけでございます。この五百五万の見積りの問題についてでございますが、政府の経済六カ年計画を見ましても、あるいは日本の人口問題の見地から考えてみましても、大体日本の就業者数というものは、八十万前後ずっと増加してきております。昭和二十九年度が三千九百七十二万、三十年度が四千五十五万、三十一年度が四千百三十六万、三十二年度が四千二百二十八万というように、大体八十万ぐらいずつ増加してきておるわけでございます。この健康保険状態を見てみますと、これは二十五年から二十六年が多分四十万ぐらい増加をいたしておったと思います。それから二十六年から二十七年が三十五、六万、二十七年から二十八年が五十万ないし六十万増加をしてきておる。ところが、今度は二十九年度になりますと、もはや五百万台をずっと保ってきて、あなたの方のこの決算の状態を見てみても、五百四万平均になってきておる。ところが今年に入りますと、五百万台は出ていないのです。四百九十万台である。予算は今度は五百五方で組まれておる。先般局長の方から出していただいた資料によってみると、昨年は百万以上の人員の見そこないが、当初の資料といよいよ最終的に決定したときとにあったのです。予算書に出されておるこれを見ても、被保険者の数は五百五万、前年は百七十六万、七十一万の見そこないがあるわけです。本年は赤字を解消しなければならない年でありますので、相当正確な被保険者の数を見積っていかなければならぬと思う。ところが、すでにもう今年の一月から三月までが四百九十万台、これは四月になったらふえるだろうというので、五百五万に見積りをしておるわけです。ところが、政府のこういう全般的な総合計画を見ても、過去の実績は八十万ずっとふえていっておる。二十五年から二十六年、二十六年から二十七年、二十七から二十八年までは、なるほど四、五十万ふえてきておる。二十九年度に至っては八十万ふえておるにかかわらず、ぴたっと被保険者の数はとまっておるということです。これはどういう理由によるのかということが一つと、それからいま一つは、五百五万というものの見積りは、少くともやはり四百九十万台に見積った方が適正ではないかということ、この二点を御説明願いたい。
  201. 久下勝次

    久下政府委員 ただいま滝井先生御指摘のように、過去三年ほどの経過を見ますと、昭和二十六年度は四十六万人、二十七年度は三十六万人、二十八年度は五十九万人の年間の被保険者の増を示しております。毎年四、五月の時期には六、七万から八万ぐらいの増加を示すのでございます。昭和二十九年度におきましても、四月に六万、五月に三万九千人被保険者の増加を示したのでございますが、八月以降被保険者の減少が現われて参っております。八月、九月、十月、ことに十月には三万六千人被保険者の減が現われております。これらの数字は、一つには、御案内通り最近のこういう減少の傾向と申しますのは、市町村職員共済組合法の成立、あるいは私学教職員共済組合法の成立というようなことによりまして、その方に吸収された数字も現われておるのではないかと思っておりまするし、また全体的な減少の傾向は、経済界の実情にもよるのではないかと思っておるのでございます。大体減少の傾向につきましては、その程度に想像をいたしております。  そこで、今年度の被保険者数の見積りが、少し五百五万では多くないかというようなお話でございますが、四月末の実績の数字を申し上げますと、被保険者総数は五百万三千八十九人でございます。その次の五月末の被保険者の総数は五百五万五千八百六十一人にふえておるわけでございます。これは例年の傾向と同様に、この月には増加をしておるわけであります。さような関係から見まして、年間平均五百五万を見積りますことは、さして見積り過大であるとは、現在のところは考えておらないわけでございます。少くとも、御指摘のように、昨年度の見積りが大きな差ができてきたほど、ああいう問題は絶対にないものと考えております。相当固い数字を見こんだつもりでございます。
  202. 滝井義高

    ○滝井委員 人数の見積りは、今それで納得をいたしました。  次には標準報酬の見積りについてでございますが、予算面では一万一千七百円です。昨年度が一万九百四十円であったと思いますが、一万一千七百円になっております。そうしますと、やはり昨年からずっと標準報酬の歩みを見てみますと、一万一千三百円台、せいぜい四百円台ぐらいしかいけないのじゃないか、こう推定されるわけです。七月の十何日かでありましたか、経済審議庁から発表しました経済白書ですか、経済の年次報告、ああいうものを見てみますと、もうすでに勤労階級の賃金というものは頭打ちだ、その割合に消費的な支出がふえておると、経済白書はこういう結論になっております。そうしますと、これはどうも今のデフレの状態、地固めの予算状態から見て、これが一万一千七百円と三百円なりあるいは四百円飛躍するということは危なっかしい感じがする。これは先般失業対策のときに、井堀委員も御指摘をされておりましたが、現在日本における就業の増加というものは、主として大企業に増加せずに、中小企業に増加をしておる実態だということを、多分言っておられたと思うが、中小企業の増加ということは、これは保険経済に一つの大きな影響を及ぼすものなんです。これは保険料滞納の一つの大きな原因というものは、中小企業の現在デフレによるしわ寄せというところからきておる。そういう中小企業において労働者が増加する、そういう被保険者が増加をするということは、これはどうも今の段階から見て、標準報酬を三百円ないし四百円引き上げるというか、昨年よりか約七百円近くも引き上げるということは、人数の点は納得がいきましたが、金額の点を、一つ説明願いたいと思います。
  203. 久下勝次

    久下政府委員 標準報酬の見積りにつきまして御懸念の御質問でございますが、この問題につきましては、一昨年の法律改正によりまして、一般的に標準報酬の改訂は年一回改訂ということになっておるのでございます。その結果、改訂時期におきまして一挙に相当額が上りまして、そのまま据え置きますために、だんだん平均標準報酬月額が下る傾向を示しますのが今日の実情であります。御参考に、ちょっと表を見まして申し上げますと、一昨年の十一月一斉改訂のあとに一カ月で平均八百七十九円上って一万七百六十二円になっております。これがだんだんふえたり減ったり多少のことはございますけれども、昨年の一斉改訂の直前でございます九月には一万六百五十九円というふうに下っております。しかしながら昨年の十月の一斉改訂によりまして一挙に七百四十四円の月額の増加がございまして、平均標準報酬月額は一万一千四百三円ということになっておるのであります。最近の数字を申し上げますと、これがやはり多少ふえた月もございますけれども、漸減の傾向を示しまして、前年と同様の傾向をたどりまして、最近の数字でございますが、五月末現在の数字におきましては、平均標準報酬が一万一千百七十三円になっておるわけでございます。これをこのままの形で八月一日現在で一斉に届出をしてもらうことになっております。これを八月と九月にかけまして全国の職員を督励して、怪しいものは実調などをいたしまして、標準報酬の決定を十月からいたすわけでございます。私どもとしましては、そのときの改訂に期待をいたしておりまして、大体の今日までの傾向から見ますと、一万一千七百円という見込みは、達せられるものと思っておるわけでございます。もちろん御指摘のように、この問題は一般経済界の影響をそのまま反映をするものでございますから、私ども見込みがその通りであるかどうかということにつきましては、多少の懸念はないでもございませんけれども、従来の実績から考えまして、この程度標準報酬月額は実現できるものと現在のところは考えておるわけであります。
  204. 滝井義高

    ○滝井委員 この標準報酬のとり方は、昨日であったか、大橋委員局長との間の問答のように、三千円といっても、実際はいろいろなものがあってそれ以上になっておるのだというお話もあったし、ビキニの灰をかぶった焼津港の漁師なんかも、標準報酬が安くて苦労した例もあるようでございますが、実際は調べてみたらばそれ以上の収入だったというようなこともあったので、いよいよ事業場にでも行って、九条のこの伝家の宝刀を抜いて全部調べてみたら、標準報酬をもっと上げ得るのだということもあり得るかもしれません。しかし、一応今までの慣行通りにやるということになると、五月末が一万一千百七十三円だということになると、一万一千七百円になるためにはまだ五、六百円不足しておるようでございます。この点は、なお八月なり九月の改訂を待てば、もう少し詳しく議論ができると思いますので、次に移っていきます。  赤字解消のための当面の対策と恒久対策の問題でございます。三月ごろだったと思いますが、局長に当面の対策と恒久対策はどういうものを考えておるのだと言ったら、当面の対策としては、現在の赤字を最小限にどういう工合に解消していくかということ、それから少くとも一割五分の国庫負担——一割なら三十七億ですが、一割五分なら五十九億ぐらいを取りたいと同時に、一部負担というものも考えてもみておるということを、当面の対策としては言われたわけです。私は、今度のこういう改正を見るとさいぜんも議論をいたしましたように、継続給付の資格の変更の問題、あるいは標準報酬の改訂の問題というものは、これは法律改正ですから、私はむしろ恒久対策に当るような感じがして仕方がない。当面の対策とするならば、これはたとえば一時借入金をやるとか、あるいは長期借入金をやっていくというのが、私はほんとうの当面の対策ではなかったかと思うのです。それを、法律まで手をつけるということになれば、これは私は問題だと思います。なるほど、料率の改訂というものは、これは私は反対でございますが、法律では千分の五十五から六十五までを、そのときの状況に応じて社会保険審議会意見を聞いて——これは弾力を持っておりますから、当面の対策として一応六十五に上げられていく。これはわれわれも反対ですが、一応当面の対策としては、とり得るものだと思う。そして一応安定したならば、また六十なり五十五に返すことも、これは自由に行政の運営でできるわけです。ところが、法律を一たび改正するということになれば、国会は年中開かれておりますから、すぐにかけることはできますが、やはり考え方としては、行政だけではできないものがあると思う。これはむしろ恒久対策だと思うのです。そういう点で、当面の赤字をなくすことと国庫負担ということが当面の対策ということだったのですが、そのときに局長がお考えになっておったのは、法律改正までやられるということは、あの当時は言われなかったわけです。こういう点について、どういう工合でこういう法律の、標準報酬の改訂とか、あるいは三親等内に区切るとか、継続給付の資格を変更するというような恒久的な対策と思われるものをやらなければならなかったかということです。それを一つお聞かせ願いたいと思うのです。三月二十九日の社会労働委員会だったと思うのです、もちろんそのときには、いろいろ考えられておったとは思いますが、具体的に法律の問題にはお触れにならなかったような感じが実はするのです。その間の心境の変化の御説明を願いたいと思うのです。
  205. 久下勝次

    久下政府委員 別段心境の変化があったわけでもないのでございますが、事務的に検討いたしましたものが、最終的な結論にならなかったという事情がありますことは、先生もさっきおっしゃった通りでございます。法律改正をすることが恒久対策であって、その他行政上の措置でやることが応急的な対策であるというような結論には、必ずしもなるまいと私は思うのです。問題は、なぜ標準報酬の改訂などを考えたか、あるいは療養者の範囲の限定をするようなことをしたかというような具体的な問題に触れてのお話でございます。  標準報酬の改訂について申し上げますならば、現在の制度の建前からいたしまして、療養給付費保険給付費につきまして、財政の破綻が生じたわけでございます。そういたしますと、正式な国庫負担というものが実現をしておりません今日においては、またそれが実現したといたしましても、その国庫負担の範囲外のものにつきましては、保険料をもってまかなわざるを得ないであろうと思うのであります。そういう意味合いにおきまして、保険料負担ということになれば、結局政府管掌健康保険では、事業主及び被保険者の折半負担でございます。この折半負担にする手段といたしまして、料率の問題を考えました。これを千分の六十五に上げましてもなおまだ財源が足りない、そこで保険料負担でまかなっていくということになりますと自然標準報酬等級改訂に触れざるを得なかったというのが、この問題の起きた理由でございます。もとより、再々申し上げております通り、一切を被保険者、事業主の負担に転嫁して解決するということは穏当ではございませんので、赤字の大半につきましては、あわせて国の負担も大幅に考慮してもらうということで、今年度の予算ができ上ったような次第でございます。  それから家族の被扶養者の範囲の問題につきましては、前々から申し上げております通り財政対策の一環として考えたものではございますが、同時にまた、日雇労働者健康保険法は、すでに参議院も通過をいたしておりますが、この被扶養者の範囲が、現行法は非常に限定をされております。これを健康保険のようにつじつまを合せる方がいいのではないかというようなことが話題に上りましたので、こういうことを考えて参りますと、船員保険も合せまして、私ども関係しております医療保険の被扶養者の範囲というものは統一した方がいいのではないかというようなことが第二段の問題として考えられたわけでございます。  それからもう一つは、今朝来、大橋委員の御質問にお答えを申し上げました通り、現在健康保険の被扶養者の範囲の書き方が、もっぱらその者により生計を維持するというような非常に窮屈な表現になって、運営上も困難を感じておった実情もございます。それらの問題も考え合せまして、民法その他の建前も参酌しながら取り上げることにいたしたような次第でございます。  具体的な問題に触れてのお話でございますから、以上お答え申し上げます。
  206. 滝井義高

    ○滝井委員 いろいろ御説明をいただきましたが、実はさいぜん、この標準報酬の改訂その他については、社会保険審議会の方から、一部公益代表の委員が、もうそういうこともやっていいのだというような御意見もあったので、私の方もそういうことにしましたという御答弁が、大橋委員に対してあったのです。そうすると、この社会保険審議会答申案をお読みになるとわかるように、健康保険にあっては別途借入金でやりなさい、そうして疾病保険に関する根本対策の樹立を見た上で、それとの関連においていろいろな問題は処理しよう、こういう答申があるわけです。局長さんの方は、自分の都合のいいときは、わずかな公益代表が言われたことを利用されるけれども、公益代表も含めた全部の人が一致して借入金としておやりなさいというものを、なぜやらなかったかということなんです。これは国庫余裕金を、現在少くとも六十億も回しているので、資金運用部の計画については、先般ようやく大蔵省の福田資金課長さんを連れてきて、十二月までは資金運用部に計上をするということになったのですけれども、とにかく借入金でやれるわけです。国庫余裕金百億借りて、また年度末に行ったら返して、また借りるということもできるわけで、何もこの恒久対策が立たないうちに、恒久対策にひとしいような法律改正をやらなくても借入金で十分やっていけると思います。借入金は国がどんどん十億ずつ払ってくれるのだから、あの七十億を百億にしておけばいい。厚生保険特別会計の建前は、この前私が指摘をしたように、毎年十億出さなければならぬとは書いてない、十億を限って出すことができるというのであって、私は出すことにしなければならないということを、大蔵委員会に修正を申し込みましたところ、大蔵省から必ず出しますということを言明してもらったらしいのです。ですから、ああいう書き方をしているのですから、百億でもかまわない。だから、国庫余裕金を借りて年々十億ずつ十カ年間でやるのだということで、法律改正をやらなくても済むわけです。なぜこういうことをやらなかった。社会保険審議会は、明らかにそういうことを答申している、別途借入金でおやりなさいと書いてある。なるほど、答申案の一部は採用しているが——公益代表の一部から述べられた意見は採用したけれども、公益代表も含めた全部の人が借入金でやれということを、なぜ採用できなかったか。法律改正なんかは反対だと全部おっしゃっている、その反対のあるものをやられて、全部が賛成している借入金については、どうして忠実にやられなかったのか、伺いたい。
  207. 川崎秀二

    川崎国務大臣 そのお答えの前に、国会に臨みます民主党並びに私の基本的な考え方を申し上げたいと思います。昨年以来、赤字の増発で、遂に昨年度におきまして四十億の赤字を出し、本年度また六十億程度の赤字が出ることが見込まれ、それに対する何らか責任ある対策をとらずして国会に臨むということは責任ある政府として、また与党としてなすべきでないということが、政府考え方であったわけであります。従いまして、応急対策といたしましても、一応国家がこれに対して負担をすべきもの、または融資の措置を講じまして、一応国がこれほどの負担をいたした以上は、被保険者がやはり一部を持たなければならぬ。さらにはこの補充的措置として、今回提案になりましたような財政措置をしなければ、全体の赤字に対するところの対策としては不十分ではないかということの、この三つの理由からいたしまして、今回提案を見たわけであります。その後健康保険法を提案いたしますと、偶然社会保険審議会におきましては、ただいま滝井議員がお示しになったような答案を出された。百億でも二百億でも、借りられるじゃないかというような御意見でございます。しかし、それは借りて参りまして、それならば、ここでそのような対策で政府が臨みました場合に、野党委員の方々からどのようなおしかりを受け、また政府与党もどのような批判をするかということを考えてみますると、やはり責任ある政府としては、一応の対策を立てなければならぬ。社会保険審議会が、健康保険法改正に対して御反対になっておることは、私はよくわかります。それは、労使がそれぞれの分野において、非常に大きな負担を受けなければならぬことであるから、反対であることは当然のことであります。しかしながら、一部の学識経験者などから、とにもかくにも一応の対策を立てたということに対して、政府の案そのものには賛成しなくても、具体的対策を立てたことにおいて、責任ある政府としては当然のことであるという批評が起ってきて、また審議会の途上におきましても、そういう発言がなされたことは、私は実は満足をいたしておるのであります。すなわち、社会保険審議会が今日持っております労使それぞれの立場におきまする特殊的な利害関係代表者としての御発言は、それぞれの立場としては、私は納得をいたしますけれども、しからばどうするかということに対しては、金さえ借りればいい——これくらい無責任な態度というものはないのであって、社会保険審議会も、おそらく将来いろいろな御議論をなされば、最後には、国庫の負担を増さなければならぬとか、あるいは患者の一部負担をしなければならぬというような結論になるでありましょう。しかし、患者の一部負担をなすということを社会保険審議会が今日答申するには、あまりにシリアスな深刻な問題であるという御考慮から、単に健康保険法改正に対して反対であるという立場はわかりまするけれども、私はそのお考え方には、同調するわけには参らないのでありますし、政府といたしましては、当然責任のある立場をとって、今日解決に対処するということは私は当然だ、かように考えておるような次第でございます。
  208. 滝井義高

    ○滝井委員 大臣諮問機関でございますから、その答申を採用するしないは、大臣の御自由でございます。しかし、さいぜん来の御答弁を通じて見てみると、たとえば標準報酬の改訂等については、事業主の代表も、被保険者の代表も、公益代表の一部も反対をしておる、しかし公益代表の一部の賛成があったのでやったのだ、こういう御意見であったので、少くとも公益代表も含めた全委員が、別途借入金でおやりなさいといっているものを、あえてやらなかった理由はどういうことかということの質問だったわけです。大臣は、なかなか借入金だけではやれない、こういう御認識であるならば、それはけっこうでございます。  そこで、次にお尋ねいたしますが、公益代表委員の一部が「実情に即し修正の上、実施すべきことが望ましい」という少数意見を出しておるのですが、この場合の、実情に即し修正の上ということは、どういうことでございますか。標準報酬を改訂しようということが実情に即したことですか。この場合の、少数意見として出た、実情に即し修正の上という、実情に即した修正というものを、一つ具体的に、論議のあった点をお示し願いたいと思います。
  209. 久下勝次

    久下政府委員 答申の文章には、こういう御指摘のような抽象的な表現が使ってございますけれども審議会の席上におきまして、中立委員の一人の人から、標準報酬の七万円というワクは少し高くはないかというような意見が、具体的に述べられておったのであります。なお他の委員は、正式な審議会の席上では抽象的な表現にとどめておられましたけれども、しかしながら、その他の別の機会におきまして、懇談的な話をいたしております際には、やはり七万円は高きに失するのではないか、何かもう少し具体的に考慮をしたらどうか。実情に即し修正の上と申しますと、そういう意味は、そのときの言葉によりますると、過去の実績などもよく考えて、こんなに大幅に上げたことはないのだからというようなことも、話題に出ておったような次第でございます。そういうようなことを彼此勘案いたしまして考慮をいたしたわけでございます。  なお、つけ加えて御了承いただきないと思いますが、大臣のお答えで尽きておりまするが、借入金をしろと申しましても、すでにあの当時、借入金の額につきましては、予算案が国会提出されて、政府の方針はきまっております。十億ずつ繰り入れるということにつきましても、今後本年を含めて七年間だけということで、すでに政府の態度がきまっておりましたものでありますから、この答申につきましては、そういう予算上の理由から、先ほど私が申し上げた保険料で、当然事業主も被保険者負担すべき性格のものであるということも考え合せまして、はなはだ遺憾ながら、多数意見には同調できなかった次第でございます。
  210. 滝井義高

    ○滝井委員 そうすると、この実情に即し修正というのは、標準報酬の点だけを公益委員の一人から述べられただけであって、いわゆる三親等に制限するとか、あるいは継続給付の資格の変更をやるというようなことは、なかったわけですね。標準報酬の改訂についてだけ、一人の委員からそういう御発言があったのですか。
  211. 久下勝次

    久下政府委員 今、正確に個々の問題について、どういう発言があったかということは承知いたしておりませんけれども、その当時諮問いたしました要綱の中には、九条及び九条の二の改正に関連いたしまして、療養担当者に対し出頭を求めという、出頭命令が出せるような規定もありました。そういうことにつきましても、御批判があったのでございます。そういうところまでやるのがいいかどうかというような、非公式な御意見の開陳を聞いておったのでございます。この点につきましても、御議論になっておりませんけれども、私どもといたしましては、最終的に国会に提案をいたします際には、九条の二の改正の中の、出頭を求めるというような規定は、そういう意味で削除して出しておるのでございます。その他の点につきましては、公式な委員会の席上での発言は、あまり具体的に触れておりません。何かいろいろと考えたらどうかというような程度でございました。具体的に残っておるものはないのであります。
  212. 滝井義高

    ○滝井委員 社会保険審議会諮問の問題はそのくらいにして、次に、今回とって対策の中には、当然恒久的な対策として残しておかなければならないものが、すべて赤字対策のためにとられようとしておるということです。先般久下局長の恒久対策としての御説明は、社会保険の統合をやるということ、それから症病保険について、現物給付というものについて検討を加えるというような意味のことがあった。それから支払い制度、薬価の基準、保険医制度、結核対策、こういうようなものを恒久対策として考えておるということでございまして、簡単にそれらの内容をいろいろ御説明になったのでございますが、私はやはり恒久対策としては、当然こういうものが考えられなければならぬと思うのです。そうしますと、症病保険の具体的な現物給付の問題その他を、組合管掌や政府管掌等と関連していろいろ考えていく。あるいは支払い制度は、当然基金の問題あるいは単価の問題というようなものになってくるでしょう。こういう恒久的な対策というものは、当然法律改正を伴ってくるものなんです。今度の対策で来年度ごろから国庫負担をやり、法律改正をやるということになれば、恒久的な対策として、法律健康保険でやるということはほとんどなくなってしまって、さいぜんから大橋委員川崎大臣との間で、あるいは昨日議論がありましたが、一部負担の問題だけになってしまう。組合管掌と政府管掌との一本化の問題も、なかなか困難であるということになれば、出てくる問題は、一部負担の問題だけが大きくクローズ・アップされてくる。しかも、まず今年は、被保険者は料率の引き上げを受け、標準報酬の改訂を受け、そして来年はわずかに四十意か五十億の国庫負担と引きかえに、今度は一部負担をやらなければならぬ。こういうことであって、患者あるいは被保険者は踏まれたり、けられたりという状態が、今年から来年にわたって続くということなんです。こういうことを考えると、日本の社会保障制度の中核であるといわれ、日本の社会保障制度をになうものであるといわれておる社会保険が、どうしても大幅に後退をするといわなければならないのです。これをもって社会保障制度の進歩なりとは、私はどう考えても言うことができないと思うのです。そこで、当面の対策とともに、私はやはりここで七人委員会結論も必要かと思いますが、少くともある程度の一部負担というものを考えるのだという大臣の言明があったからには、当然同時に、それとともにとられる、政府自身の責任においてやられる恒久対策というものがとられてこなければならぬ。いつか私は久下局長さんを、だいぶんここで責め立てましたが、日本船主団体連盟のわれわれに配った声明書の中にも、やはり私の言うことと同じことが書いてあるのを発見した。「赤字の原因に関する究明が極めて不充分である。従って厖大なる赤字に対する保険管掌者たる政府当局の行政責任は、いささかも明らかにされていないのみならず、その対策は重大なる原因と目される現行保険医療制度の欠陥に対し何ら触れるところがない。」こういう声明を出しておられる。私はこれはやはり重大な声明だと思う。船員保険については、今日は時間がありませんので、いずれあらためてやりますが、これは重大な声明だと私は思うのです。少くとも、こういう半恒久的な法律改正をも含んだものを出されるならば、一方においては、やはり少くとも一部負担まで出したのですから、今後はどういう工合にして患者に恩典を浴させるのだという具体的な政策というものは、ここで同時に出されることがほんとうだと私は思う。七人委員会結論を待ち、しかもその結論最終的に出てくるのは、少くとも昭和三十一年度からだ、その実施は三十一年度からだということになれば、現在の鳩山内閣が続いておるかどうかもわからないが、少くとも鳩山内閣川崎厚生大臣のもとで、健康保険の赤字対策と取り組まれるというならば、当面の対策と恒久対策とが、同時に出てくるべきだと私は思う。それが出てこなければ、当面の対策は、まず一時借入金でやることが筋だと思う。しかも、一時借入金というものは、国庫余裕金で利子のつかない金を貸してくれると大蔵省は言っておるのですから、私はこれならば、大して健康保険財政負担にもならないと思うのです。どうもそういう点で納得がいきかねるのでございますが、もう一回明白な御答弁をいただきたいと思うのです。  私はこの際、法律根拠のない七人委員会なんかを作ることは、大臣の責任のがれじゃないかとさえ感ずるのですが、やはり大臣大臣としての責任で、本会議でも御答弁されたように、長い間健康保険の赤字の問題は、吉田内閣の時、自由党内閣の時から出てきておった問題です。これはわかっておったのです。私は一昨年の五月に、赤字が出るということの警告をしておる。まだ大臣は、そういうことで七人委員会でやっておられますけれども、一部負担の問題が出れば必ず——大蔵大臣が来たら質問いたしますが、同時に単価の問題が出てくる。昨日の大臣標準報酬引き上げに対する御答弁の中に、新聞代も上げられたんだ、放送料も上げられたんだ、だから標準報酬の改訂も上げなければならぬとおっしゃった。二十六年以来、放送料や何か全部改訂されたが、この単価だけは据え置きです。これは大臣の理論をもってすれば、当然これを上げなければならぬ時期が来ておる、こういうこともあり得るわけです。そういう点から考えてみますと、どうもこれは七人委員会結論を待って、三十一、二年ということでは、日本の社会保険の赤字の問題というものは解消しない。これは私は、何ぞ七人委員会を待たんやと言いたい。浅見絅斎がその師に通鑑綱目という書物を習って、一つ来年から教えて下さいといったら、その先生が、何ぞ来年を待たんや、大みそかの晩から習いたいなら習えと言った。現在赤字というものがはっきり出てきた、何ぞ七人委員会を待たんや、川崎厚生大臣の能力と責任において、私は赤字を解消する態度をとってもらうべきだ。七人委員会その他の諮問を待つということは、必ずしもこういう諮問委員会意見を採用しなかったのですから、これは大臣が恒久対策を出してから、初めて私たちはこの法律を通したい、こういう考え方にならざるを得ないのですが、大臣一つ明確な御答弁をいただきたいと思う。
  213. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまは、最終的には浅見絅斎の故事をもまじえて御教示でありました。いろいろお話を聞いておりますと、それぞれ御議論の筋は立っておりますけれども、少しく私として懸念にたえませんことは、先ほど来申されておることの中にも、多少矛盾があるのではないか。たとえば、もはや赤字問題は、七人委員会結論を待たずして、当面の対策としてどんどんやれとおっしゃっておきながら、一方においては、百億ほど大蔵省から借りてきてそれでつじつまを合せておけのというような御議論がありましたり、当面の赤字対策をやれとおっしゃっておきながら、実際においては、それに対して非常にちゅうちょするような御発言もあったかと思われるような節もありまして、私からどう答弁してよいか非常に迷うのでありますが、ここに先ほどの議論をさらにはっきりして御答弁を申し上げたいことは、先ほど御議論の中に、明年度において国庫負担並びに患者の一部負担を実施すれば、やることはなくなるではないかというような御発言がありましたが、果してそれだけですべてが終るかどうかにつきましては、さらに相当検討をいたさなければならぬ部面もあるかと思うのであります。しかして、御議論の中に、本年から来年にかけて、被保険者患者の負担ばかりが多くなるということでありまして、非常にその面のみを重視されますが、私の考えといたしましては、政府の責任ということをまず当初に考えて、その後において処理をいたしていきたい。しかるところ、自由党側の御議論では、この際並行して患者の一部負担をも実施しろという強い要望をまじえての御質問でありましたし、また現在作業中の七人委員会の趨向を見てみますと、やはり患者の一部負担は実施しなければならぬことになるのではないかというような結論も看取されますので、私は、あるいはそういうことになりはしないかと思っておるわけであります。しかし、これを好んで患者の一部負担を進んで実施をしようという考えは、私にはないということは、しばしば言明をいたした通りでありまして、ただ恒久対策として、国庫の一割負担というものだけで果して十分であるかということになりますと、これと並行して、やはり患者の一部負担というものも考慮をしなければならぬ段階が来るであろう、こういう答弁をいたした次第であります。しかし、たとえば大橋委員が昨日御質問になりましたように、四十億の国庫負担する、これが一割、そのほかに、大体厚生省の考えております一つの線でありますが、四十九億ないし五十億の患者の一部負担考えるというようなことでありましたが、私はその負担の割合は、なるべく患者の一部負担を少くするようなことにしたいというふうに考え方をいたしておるのであって、七人委員会結論いかんにかかわらず、七人委員会はどういう結論を出しますか知りませんが、でき得るならば、やはり政府がまず責任を持って、そのパリティも政府の持つ側の方に多くして、患者の方に少くいたしたいというふうに考えをいたしておるのは、私の基本的な考え方であります。七人委員会結論を待たずして私がこういうようなことを申し上げるのは、あるいは七人委員会に対する多少の、何といいますか、これを攻撃されれば、七人委員会というものを置いておきながら、厚生大臣としての所見を述べるのは行き過ぎではないかという、またこれに対するおしかりがあるかとも思いますけれども、私としては、七人委員会結論が、患者の一部負担を相当大きく取り上げましても、それに対する私の評価は、なるべくこれを少い形において行いたいというふうに考えをいたしておるという基本的な考え方は、ここに明らかに滝井さんにお答えをいたしておきたいと思っております。
  214. 滝井義高

    ○滝井委員 私の質問の過程で、あなたの方からお聞きしなければならぬ点が多いので、質問の要旨に幾分矛盾したことがあったかとも感ぜられますが、私の基本的な考え方は、まず当面百億の借り入れをして——とにかく今年この大事な時期にこの法律を出したために、大臣初め局長国会に出てきて、そうしてこういういろいろな質問を受けなければならないこと自身が、すでに恒久対策を立てる上に非常に遷延になっておるということなんです。百億借りて当場をしのいで、そうして七人委員会結論を待たずに、すぐに同時に恒久対策に取り組んでいくべきである、これが実は私の主張です。局長からのいつかの御答弁では、当面の対策としては、国庫負担をすぐに実現をして、赤字のためには長期の借り入れをやるのだ、これは局長の三月ごろの答弁であった。私もそれには賛成だった。国庫負担をやる、同時に長期の借り入れをやる、そして法律はいじらない、同時に長期的な対策、局長が言われたような社会保険の統合の問題とか、あるいは支払い制度の問題とか、薬価の基準の問題とか結核対策、こういうような問題に同時にすぐに取り組んでいくべきだ。そうすると、ここ五月以来長々とこの法案審議未了に送い込むための質問もなくて、大臣は七人委員会意見を聞かなくても、三カ月の間に窓口の一本化でも、少くとも川崎厚生大臣のもとにおいては実現ができる可能性があったかもしれない。それを、すでに本会議のあの答弁の中においても、川島行政管理庁長官は、窓口だけでも私は今研究させてすぐにやりたいと思いますというあとから、川崎大臣はそういうはずはないという御答弁があり、閣内不統一のこともありましたが、私はできたのではないかと思うのです。そういう点で、私はいろいろ質問の過程で、あなた方からいい答弁をもらわなければならぬので、幾分矛盾した議論もあったかと思いますが、私の基本的態度は、百億の借り入れをやる、国庫負担もある程度実現をする、同時に、すぐに大臣の全精力を恒久的な対策につぎ込んでいく、ここにあったことを一つ弁明をしておいて、あとまだ基金の問題が残っておりますが、五時半になりましたので、私の質問を保留しておきます。
  215. 中村三之丞

    中村委員長 井堀繁雄君。
  216. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私は健康保険につきましては、前回大要お尋ねをいたしましたので、重複を避けたいと思うのですが、健康保険改正に伴いまして、同時改正の必要に迫られたものも多分にあると思いまするが、船員保険の改正案について、一、二お尋ねをいたしたいと思います。  第一に、改正の点で問題になると思いますのは、標準報酬についてであります。標準報酬健康保険の場合と船員保険の場合におきましては、できれば歩調を合せるようにするということが、社会保険統合の上からいって、望ましいことと思うのであります。実情が許さないそれぞれの事柄についても、ある程度どもも、了解はいたしておるのでありますが、しかし、こういう改正をいたす場合に、健康保険においては標準報酬最高額を三万六千円を四万八千円、二十三級に上げようとしておるが、船員保険はそのまま据え置いたのは、何か理由があるかどうかを、一つ伺っておきたいと思います。  さらに、ついででありますから、一緒にお尋ねいたしますから、一緒にお答えをいただきたい。船員の場合においては、健康保険といろいろな事情が違いますが、標準報酬の中で、実情について少し検討をいたすべき必要があると私どもが感じますのは、一般船員の場合と漁船の場合についてであると思います。漁船の標準平均額と比較いたしますと、かなりの相違があると思うのであります。これは船員保険全体の上からいっても、いろいろ問題になるところであろうと思うのでありますが、この関係などから判断いたしまして、今回政府が提案しておりまする理由を、保険経済の危機を打開しようとする非常措置だといたしますと、この問題については、いろいろと議論の起るところだと思います。今日まで各委員との質疑応答を伺っておりますと、非常に重要な内容が漏れておるように思うのでありますから、このごとを伺いまする前提として、この点について、改正案に対していろいろ計画があったことと思いまするが、こういう標準報酬改正に当って、以上二つの点について、事務当局からまずお答えをいただきたいと思います。
  217. 久下勝次

    久下政府委員 まず船員保険と健康保険とで、標準報酬最低額が異なっておるということでありますが、この点は、従来から船員保険につきましては、標準報酬最低額が千円の差がつけられておったのでございます。そういう従来の慣例に従いました以上、特別な理由がないと申し上げてよいのでございます。ただ、次に申し上げます、ただいまの御質問の漁船の標準報酬が、その他の船舶の乗組員の標準報酬と大差のありますことは、やはりこの問題の最低額考えます場合に、検討の材料といたしたのでございます。保険財政の、特に医療保険部門につきましての赤字財政実情というものは、確かに漁船の平均標準報酬がきわめて低額であるという点にあるのであります。この点につきまして、私どもは実はいろいろな資料を求めまして、漁船船員の報酬実額につきまして、いろいろな調べもいたしておるのでありますが、実際に届けられておりまする報酬額とは、そういう調査の結果に基きましても大差があることは、実は発見されておるのであります。そこで、実はこういう五千円に引き上げるという改正案を出しますまでの経過といたしましては、関係者のうちからも、最低標準報酬を七千円くらいに上げたらどうかという意見もあったくらいであります。しかしながら、実際に低額の人がおりますのに、そういう無理なことをいたすこともいかがであろうかというような考え方から、健康保険について申し述べましたのと同様な理由で、最低額を千円引き上げにとどめた次第でございます。最低額引き上げ理由は、健康保険の場合と同様であり、ただその金額に千円の開きがありますることは、従来からの慣例に従ったのでございます。
  218. 井堀繁雄

    ○井堀委員 ちょっと今お触れになったようでありますが、私がお尋ねいたそうと思いますことは、保険財源の危機をこの際どういう道で救済するかということについては、私は政府考え方立場を異にするものではありますが、必ずしもすべてが対立するとは考えないのであります。標準報酬改正をするに当りまして、もし政府が、健康保険にいたしましても、船員保険にいたしましても、正確に標準報酬基礎になる現在の賃金給与実態を把握されて、それに適正な課率を法律通りにするということになれば、私は相当の増収を見込めるものであると判断するのでありますが、こういうものに対して御計算なさったことがあるかどうか。また、そういうものに対して、疑いをお持ちになっておると思うのでありますが、調査の方を進めておるかどうかについて、一つ伺っておきたい。
  219. 久下勝次

    久下政府委員 ただいまも申し上げました通り、問題になりますのは、漁船の船員の標準報酬でございます。この点につきましては、現実各種の資料を調査いたしまして、船主と各都道府県ごとに折衝をさせておるのが現状でございます。その結果、県によりましては、大幅な引き上げが予定されるような実情でございますが、全体的には、若干の引き上げ了承してもらうにいたしましても、まだなかなか船主側の了承を得られないのが現状でございます。もちろん、法律によりますれば、行政庁でありまする私ども機関におきまして、一方的に実態の資料を把握することによって、標準報酬等級引き上げをいたすことは可能でございます。しかしながら、これは問題でございまして、いろいろそういう無理をいたしますと、今度は保険料の収納成績に大幅に影響して参る懸念がございます。なお、収入実額と標準報酬の額との開きがありますことは、ずいぶん前から指摘をされて、その線に沿った努力を行政当局としては続けて参っておるのでありますけれども、何分にも漁船船員に対する給与実態というものが、いわゆる近代的でないものが相当ございます。水揚げの高に応じまして、そのつどそのつど支払われる、あるいは現物の給与が行われるというような実情もあちこちにあるようでございまして、その辺の関係から、なかなか船主側が快く承諾し、自分の届出を進んで訂正をするような措置に出てもらえなかったのでございます。しかしながら、最近はいろいろな資料を集めまして、それによって交渉をすることによって、幾ら少いところでも、最低一級引き上げ程度了承を得て、今進めておるのでありますが、まだただいまお話しのように報酬実額と大きな開きがありますので、この点の努力を続けておるところでございます。私どもがつかんでおる資料の通りに、全国的に漁船船員の標準報酬引き上げが波乱なく実現をし得るといたしますれば、医療保険部門における船員保険の赤字問題は、相当の幅において解決をしていくのではないかというふうにさえ思っております。
  220. 井堀繁雄

    ○井堀委員 これと関連をいたしまして、ここで等級を法皇で改めようとしております。等級を改めるということも、保険料の増収の一つの方法には間違いないと思うのですが、現在の等級でも——今のところ反対の議論も方々であるようでありますが、最低引き上げるという行き方については、二つの考え方があると私は思う。それは一方においては、政府最低賃金制度を実行しなければならぬ義務があるにもかかわらず、これを実行し得ないことであり、それにもかかわらず、標準報酬引き上げようという意図は、思想的に非常な矛盾があるわけです。これは国務大臣の地位にある川崎厚生大臣は、閣内においてかような政策上の矛盾を是正する任務があるとさえ私は思う。こういうものを改めて、こういう法案を出してこないと、政府の政策というものは、一体どこに良心的なものがあるかをわれわれは疑うのであります。こういうものを審議する場合に、これは非常に重大な問題だと思います。そこで話は、ここにありまする標準報酬等級を改めるということは、こういう別表によっていろいろ扱うというやり方については、法の精神からいえば、必ずしも大きな筋ではないと思う。あまり技術面にこだわり過ぎると思うのです。あくまで標準報酬というもの、すなわち収入実態を正確に把握して、その実態に即応するような別表にならなければ、保険の精神は生きてこないことは言うまでもないと思うのです。そういう合理化という言葉を使う以上は、さような案を提案してこなければならぬ立場に、今、政府はあると私は思うのです。大臣の言葉をかりて言いますと、保険の危機を乗り切るために非常な決意に燃えて提案されたとおっしゃっておりましたが、そういう決意がまじめにあるといたしますならば、先ほどお尋ねをいたしましたのにお答えがありまして、明らかになりましたように、今日の収入実態標準報酬とは、食い違いが非常にある。この食い違いを正しくその収入実態に比例して標準報酬というものを合せてくれば、インフレに比例して収入が上ってくると同じように、この標準報酬等級も変ってくることは当然な事柄です。その当然な道を選ばないで、何とかごまかして、弱いところへしわ寄せしようとするような考えが、もしこの改正案にあるとするならば、こんな矛盾撞着した案になってくると思う。非常に重要な問題だと思いますので、この点に対して一つ——政府の保険改正に対する基本的な考え方にも影響いたしますから、もう一度繰り返しますが、第一にお尋ねをいたしましたのは、収入実態標準報酬というものがマッチしてこなければならぬということ、これは法の精神で間違いない。ところが、事実ははるかに上っておるにもかかわらず、標準報酬の届出が非常に低いものであるということは、今当局がお認めになった通りであります。これは常識になっておる。これを改められるということは、現行法でできるのであります。当然政府の責任においてやらなければならぬ。そのやらなければならぬことをやらないで、この危機を打開しようというようなことをいかに説いたところで、一般の保険関係者や識者は了解できぬものと思う。この点に対する政府の所見を一つ伺っておきましょう。  いま一つの問題は、さきにも申し上げましたように、等級を変えるときには、船員保険、あるいは健康保険厚生年金保険等と均衡をとっていくということをやろうとするならば、こんなばらばらなやり方はいけない。技術的にも欠点がある。それから根本的には、実収入標準報酬との食い違いと同じ意味における矛盾が、ここに出てきた。この政策上の大きな食い違いに対して、国務大臣立場から一つ答弁を伺っておきたい。
  221. 川崎秀二

    川崎国務大臣 最初最低賃金制の問題に触れられまして、最低賃金というものに対して、今日労働省あたりで審議会などを設けていろいろ審議をしておるけれども、それに対しての何らの制度的な、また法律的な設置——これは設置するわけでありますが、設置もなしにこのような標準報酬のみについて保険の側からどんどん改正をしたり、あるいは等級改訂を行うということは間違いではないか。これは確かに、今日の労働者の実収入に関連をいたしまして、それを安定化しようというような考え方に立脚をいたしますれば、御指摘の通りでありまして、これは私は何ら異論のないことだと思います。また国務大臣といたしましても、自分の所管ではありませんけれども、今日のような非常に経済上困難な状態にもかかわらず、なるべくすみやかな機会におきまして、最低賃金というものに対する一つのまとまった構想なり、あるいはこれに対する制度化というものを裏づけるところの努力をいたして、これに対する回答をなすべきが、政府としての行き方であることに、私も同感であります。それかないのにかかわらず、保険の方の側からどんどん改訂する、こういう御指摘がありまして、これは御議論としては、私は十分承わっておきますし、また同時に井堀さんのお話しの点は、私も非常に同感すべき点が多々あるのであります。ただ、最低を四千円から五千円に引き上げたということにつきましては、私、ただいまちょっと中座いたしまして、事務当局からも答弁をいたしたと思いますけれども、従来千円ずつ段階がついておりましたし、健康保険とは少し差がありました関係もあり、また海上労働という特殊な勤務でありまして、実際に陸上労働者より一般的に高額であるというような点から、この程度引き上げは、保険財政が非常に苦境に立ち至っておる現状としては、やむを得ないのではないかということで引き上げたものと思うのであります。  さらに、御質問の第二点の問題につきましては、先ほど来局長答弁をいたしておりますように、標準報酬実態を実収入に合せるように調整をし、努力をしておるという段階でありまして、ただこれに対して、井堀委員が御指摘になりましたようなことが今日できておらぬことは、はなはだ残念であるということは言えると思うのでございます。  お答えになっておるかどうかわかりませんけれども、ただいま御質問になりましたのは、最低賃金制の問題あるいは給与実態標準報酬実態がはずれておるというようなことの二点を通じての御議論でありましたので、私の感想をもって答弁といたす次第でございます。
  222. 井堀繁雄

    ○井堀委員 多少私のお尋ねの仕方が要領を得なかったから、お答えがそれたのだろうと思います。繰り返して恐縮でありますが、大事なことだと思いますから、もう一ぺんはっきり申し上げますと、ここで健康保険の赤字を急場の間に合せで上げようとすれば、いろいろな立場持ち場で相違があると思いますが、私は現在の政府の性格を認め、日本経済の困難な現状を承認して、なおかつ健康保険を生かしていこう、全く同じ立場に立ってこの問題を今考えてお尋ねをしておるわけであります。決して社会党の立場から、あるいは労働者の立場から、被保険者の利益を代表してといったような限定された立場ではなしに、もっと広い意味でこの問題を一緒になって考えようという気持でお尋ねをしておるのでありますから、そういうつもりで一つ結論を与えていただきたいと思う。  私は今日の場合、どうしても一方には最低賃金のように、生活の最低を保障する制度が設けられれば、一番望ましいのですけれども、これは基準法でそう約束をしておりながら、この法律が守られていないということについては、政治家はひとしく責任を負うべきものだと思うのでありますが、しかし、現実として間に合っていないこの跛行的な現状にあっては、標準報酬の下を上げるということは、してはならないということを認めねばならぬと思います。ですから、標準報酬の下を上げることは、これは現実にその下以下の者がある限においては、これを認めていかなければならない。しかし、標準報酬の上を上げることは給与が一体どういう状態になっているかということを、ここで数字的に事務当局と一問一答をしてみたいと私は思う。  健康保険法によりますれば、標準報酬が二十三級、船員保険法によると十八ですか、その最高を四万八千円、あるいは七万円というお話もあったようであります。こういうものを出すときには、日本の標準報酬基礎になるべき給与実態が、前提になるわけであります。これは今日統計があるわけです。その統計を、私はここで披露申し上げませんが、かなり幅が広いものです。下は、今申し上げておるように限度がありませんが、これはやむを得ない。そうすると、上の方にどの標準を置いたら、被保険者としてこの保険の恩典に漏れておる労働者がおるかということにもなるのであります。保険全体の問題にもなるのであります。それを当局はどう押えて、こういう数字を出されたか。これは委員会でも確かに討議があったはずでありますが、この点に対して、赤字をこの数字で埋めるとするならば合うと思うのです。これだけの標準報酬実態を正確につかむということ、それから現在の実収入の現状にこの表を合せる。現行法でやれる範囲内のもので、どういう数字が出るかということを検討されたことがあるか、もしその数字をお持ちになるならば、発表していただきたいと思います。
  223. 久下勝次

    久下政府委員 井堀先生の御質問は、非常に広範な問題に触れてお話のようでございます。私どもも、標準報酬というものは、給与実態に合わすべきものであるというふうに考えておるのでありますが、ただしかし、その間におきまして、具体的な御指摘がございませんでしたけれども、今後の船員保険法改正では、最高額については現状維持の案で出しております。健康保険法の方は最高額引き上げながら、こちらの方はやっていないという問題も含めてのお話であろうかと思います。そういう工合に、船員保険におきましても四万八千円に上げる計画でやったらどうなるかという計算は、実はいたしておりませんから数字が出ておりません。私が先ほど来申し上げておりますのは、一般的に、また井堀先生も御指摘のように、漁船船員の標準報酬が、実態に比してはなはだしく低いということは、認めざるを得ないのであります。そういう意味合いにおきまして、若干の計算はいたしてみておるのであります。これらの点につきまして、簡単に逐一申し上げたいと思います。  まず、最高額引き上げませんでした理由につきましては、私から申し上げるまでもなく、船員保険というのは、いわゆる船員に対する相互保険でありまして、年金関係もこの制度の中に包含をされておって、標準報酬が適用されることになっておるのであります。また、いわゆる職務上の災害補償につきましても、同じ標準報酬が適用されて給付が行われることになっておるわけであります。そういう場合を考えてみますと、昨年の改正によりまして、御案内通り、定額部分と比例部分を双方加味いたしまして、年金給付が行われるようになっておるわけであります。そういう点から考えますと、年金給付基礎になります標準報酬を、三万六千円、現状以上に引き上げますと、高額所得者については、非常に不利な結果になるという懸念もありまして、一部老齢年金給付の内容に定額部分を、フラットの部分を取り入れました。この現状の制度のもとにおきまして健康保険が上るからといって、標準報酬年金部分についてまで引き上げることはどうかということで、第一に否定的な結論に達したわけでございます。そこで、第二段としては、船員保険の中の疾病給付部分についてだけ標準報酬引き上げたらどうかということで、いろいろ事務的な検討をしてみたのでございます。これが非常に事務的に煩瑣でございまして、いたずらに事務費がかさむのみでございます。さような検討をいたしました結果、最高額については、結局現状では手をつけない方がいいのではないかというような結論になったわけであります。  それから、漁船船員の標準報酬を実額に合せるということにつきましては、先ほど来申し上げておりますように、現実に各県を督励し、また本省におきましても、関係の中央の団体などにも働きかけて、今協力を求め、努力をいたしておるところでございます。私どもが主としてつかまえておりますのは、こういうところで申し上げていいかどうかわかりませんが、税務署の把握しておりまする数字ども参考にいたしまして、いろいろ交渉いたしておる現状でございます。先ほども申し上げたように、まだ全国的に十分な成果を上げておりませんけれども、特定の県におきましては、かなり大幅な、ほとんど現状の六、七割近い増額ができる可能性が出きているようなところもございます。この点、財政的には相当な成果が期待されるわけでございます。しかし、全体的に申しますと、まだ実額に遠い県もございますので、ただいま出先機関を督励いたしておるような実情でございます。以上のような事情で、御指摘のように、標準報酬というのは、給与実態に合わすということは当然のことでございますが、ただいろいろ長い慣例などもございまして、漁船船員の標準報酬につきましは、るる申し上げるような事情で、まだその域に若干遠いところがあるということを率直に認めざるを得ない次第でございます。  それから、最低額を十円引き上げましたのは、先ほども申し上げましたが、特に御注意願いたいと思いますことは、陸上労働者と違いまして、船員には女子労務者が非常に少ないのでございます。そういう意味合いから千円程度の差額が実際上ついておると見られます。そういう事情も加味いたしまして、健康保険と差等をつけておるのでございます。言葉をかえて申しますれば、この程度引き上げますことは、結局船員の給与実態に合うのではないかというふうに考えた次第でございます。
  224. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私は、何もかもごっちゃにしてお尋ねしたものですから、お答えしにくかったと思うのです。実は船員保険のことについて、お尋ねをするつもりでおるわけですが、健康保険改正が何といっても基礎になりますし、同時に船員保険の改正は、健康保険改正とあわせて取り上げなければならぬものと思いましたものですから、ごっちゃにお尋ねをして、かえて混線したと思います。そういう意味で、今私のお尋ねしているのは、船員保険も健康保険も一緒にした問題で一つのお尋ねをし、あるいは船員保険の問題だけのものも取り上げたものですから、わからなくなったと思います。私の質問を整理する意味で、もう一度申し上げますが、総合的な関係を持つものとしては、いずれも赤字を克服するという当面の対策、ここにしぼってお尋ねをしていきますが、そこで賃金、月給すなわち収入実額というものと標準報酬というものを、ここでわれわれは十分調査をする必要を痛感しておるわけであります。このことをお尋ねいたしますことは、大へん時間を取ると思いましたので、非常な乱暴なお尋ねをして、かえって時間をつぶしたと思いますので、こういうふうにお尋ねをします。数字のことでおりますから、すぐ御答弁いただけなければ、後日でけっこうでありますから、正確な統計資料に基いたもののお答えをいただきたいと思います。  非常に大きな数字を取り扱う結果になると思いますが、現在の国民勤労総所得の中での、健康保険の被保険者となるべき人々収入というもので、現在の政府機関で集めている統計でかなり正確なものがあると思う。今局長は、大蔵省の徴税上の資料からおっしゃられた。これもかなり正確です。むろんこれが狂えば、徴税上に不公平が起ってきますし、ことに源泉徴収の行われておる今日でありますから、相当正確な、信憑力の高い勤労所得に対する数字がつかめると思いますが、これをこのままここで使うことがいいか悪いかということについては、政治上の考慮が要る。これは、今ここで私は答弁を求めようとは思いません。しかし、こういう資料はある。  それから、そういう一例でありますが、かなり実態に近い被保険者の範囲内における収入実額というものが、現存しておるわけであります。これと標準報酬法律通りに計算をしてくれば、どういう数字になるかということを、公表することがいけなければ、私にだけでもけっこうであります、その数字を明らかにしてもらいたい。もしそれができなければ、これはここで聞いてもよいと思います。これを扱わなければ、空論になってしまう。この点に対するどの程度の資料を提供していただけますか、その資料いかんによりまして、この問題については質問を継続していきたいと思っております。  それから、これと同じ意味において、もう一つ資料を提供していただきたいと思いますのは、そういう収入実額が把握でき、それに見合う標準報酬額という総額が出てくると思うのでありますが、それを一体級別に割ればどういう等級を必要とするか。最低はけっこうですが、上の方はどこまで上げていったら、どういう現象が起るかということについて、抽象論でなく私どもはパーセントでけっこうであります、これは金額ではなしに、被保険者の相手となるべき、現在なっているものはもちろんでありますが、当然被保険者の資格を、この標準報酬を上げれば取得できるような者がどのくらいのパーセントになるかという点も明かにしていただきたい。
  225. 久下勝次

    久下政府委員 陸上、海上を含めました労働者の給与実態標準報酬を合わす前提でお述べになっておられるようでありますが、御案内通り内閣の毎月勤労統計によりましても、等級別というか、給与の額別の資料がないのであります。これが実は私どもこの仕事をやっていきます上に、非常に資料として不十分であることを感じておるのであります。従いまして、これを海上労働者だけについてみましても、やはり同様の事情にございまして、最高額実態に合わすということで標準報酬をきめたらどういうことになるかということは、はなはだ残念ながら今日の統計資料からは出ておらないのであります。現在私ども健康保険の資料として等級を四万八千円に上げました場合に、各等級に該当いたします者が何人であるかというような数字も、実は毎月勤労統計というような正確な基礎からはじいておるのではないのでありまして、一部資料から適正な価格を書きまして、その価格に基いて全体に対する比率を求めまして、それから数字を出してお目にかけておるはずでございます。そういう資料以上に実はございませんので、ことに船員の場合には、先ほど来申し上げておりますように、標準報酬最高額は三万六千円で押えるという建前で考えておりましたから、船員の報酬実額というものについて、特別に私ども立場からは調査をいたしておりません。はなはだ残念でありますけれども、さような事情にありますので、御了承願います。
  226. 井堀繁雄

    ○井堀委員 今、局長の御答弁は、私は実際に近いものだと思う。そういうことでこういう法案を提案されては、極論すれば、われわれは取り組みようがない。一体標準報酬はどれだけが的確かということは、収入実額というものがわからなければ、正しいかどうかという判断の基準がどこにあるか。ここで法律は、政府管掌の場合も組合管掌の場合もそうでありますが、相当秘密に立ち至って調査をする権限を与えているのです。なおそれで足らないから、もう少し監督権を拡大してくれという修正の意味のことがあとに出ております。そういうことはよけいなことです。この保険の原則からいえば、あべこべなんです。正確に標準報酬というものを把握して正しく徴収することが、要するに保険の財政を正しく守っていく一番大事な事柄なんです。被保険者や医者を疑って、乱診乱療というようなことはひが目です。一番大事なことは、日本経済の現状からいって、今の複雑な賃金給与の動きをどうして正確につかむかということです。政府のインフレ、デフレ政策がネコの目のように変ってくる——いい悪いを言うのではない、そういう場合に調子を合せていくという保険業務に携わる公務員立場、これがなければ何にもならない。その長であるべき厚生大臣は、ここをしっかりつかんでいただきたいと私は思うのであります。私は、できないことを言っているのではない、また法律はそのことを命じておる。もしそれを、今の御答弁のように、何か大体できそうなところで資料を集めてやるということになりますと、これはもう力がありません。その力というものは、権力ではありません、正義の力がない。公平であるということ、当然納めなければならぬということが明らかになれば、それが正しい力になってくる。今日の健康保険にしても、あるいは船員保険にしても、その他の社会保険にしても、収入が自然に飛躍的に増大すべき可能性がここにある。その当然行わなければならぬことを行わないで、被保険者の苦しい実情を、さらにいじめるような改正は、これはどうしても納得ができぬことになるので、川崎大臣は、そこのところを一つよく考えていただきたい。持ち場の相違じゃありません。これはこういうふうにお考えいただいて、今答弁を迫っておるわけであります。こういうことは、抽象論でなくて、数字で議論し合うと容易だと思う。私もまだ不勉強で、ここで自信を持ってこれが正確な数字だということを申し上げるものを持っておりませんけれども、勘どころでは、さっきあなたもちょっとお漏らしになったように、源泉徴収の基礎数字は、これは別な委員会で明らかにされて、私は握っております。これは標準報酬を比べて、あなたの方で答弁して下さい。どれだけ違うか、どこでどう訂正したらどうなってくるかということを、まず大臣に出していただき、大臣に見ていただいて、この委員会に出して下さい。それができますれば、今私の聞いている次の一体最高二十三級でとめたがいいか、もっと上げたがいいかという議論は、その数字の上に立って是非を論じなければ、抽象論になってくると思う。経営者側の立場としては、これはどういう形でも負担がふえるのですから、反対でしょう。しかし、被保険者の場合は、反対給付がふえてきますから、立場が違うのです。雇い主の立場からすればそれだけ労働者のための厚生費用が高まっていくわけですから、営利採算の上から言えば、反対される理由はあっていい。しかし、ここでは営利採算の上からの反対論を単純になすべきでなくて、健康な労働力を提出してもらって、より高い生産を期待するという賢明な近代的な感覚の立場に立つならば、そう大した議論は起ってこない筋合いのものだと思う。そういう納得させるような資料を提供していないのではないかということを、私は心配しておるのです。こういう意味で今の資料を要求しているのでありますから、今すぐ出せというのは無理かもしれませんが、議員の納得のいくように、それから経営者の立場をとる人にも、ある程度協力すべきものであるかどうかという判断の的確な資料になると思いますので、この点を希望しておきます。その資料を提出される御意思があるかどうか、お答え願いたいと思います。
  227. 久下勝次

    久下政府委員 井堀先生の御質問が、陸上労働者も含めた一般の立場からのお話でございますと、税務署の資料などは、私どもは全般的には持っておりません。先ほど申し上げましたのは、一部分につきまして、特に漁船船員の標準報酬実額について、はなはだしく低いということは、従来から言われておりますので、そういう問題を解決する交渉の種といたしますために、実は内々御了解を得ましてつかんでおるような実情でございます。これが出ましたらば、それじゃその通りやっていいのかどうかというところに、実は先ほど申し上げた問題があるのでございます。それが出ているから、こちらはその通り一方的に認定し保険料の徴収をするということをやりましても、従来の実情から申しますと、なかなか反対も強く、またその強い結果、保険料の不納というような結果になって現われて参りまして、果して財政的な効果を上げ得るかどうかということも、懸念されるような実情でございます。しかし、お話を承わるまでもなく、標準報酬というものは、給与実態、実額をそのまま表わすべきものでありますので、その方針に基きまして、出先においては日夜努力をし、私どもとしては、中央にあるカツオ、マグロ漁業組合連合会の方と交渉も常に続けているような実情でございます。そうすることによって、理解の上に立ち、また法律的の根拠に基きまして、ただいま井堀委員の御指摘のような線に努力をいたしておるのでございます。それと、一般的には私ども標準報酬給与実態に合わすために、毎年法律に基きまして八月一日に届出をしてもらいまして——これも全部すみずみまで、五百万被保険者給与を短期間のうちに調べ上げることも困難でありますけれども事務の手数の省けるものは極力省きまして、足で歩きまして事業所に行って給与等を調べ、実態に合わすように努力をいたしておるわけでございます。それでもなお合わないものがあるだろうとおっしゃられれば、その通りでございまして、この点につきましては、私どもに関する限りは、全力をあげて努力をしつつあるということで御了承をいただく以外にないと思います。それ以上に、先ほど御注文の全般的な給与の実額調べというものは、結局毎勤統計あたりをたよる以外に、現在のところ資料はございませんし、また毎勤統計も、賃金の階級別の数字が出ておりませんから、その点、私ども標準報酬実額の決定のための資料としては不十分でございますので——そうかといって、あの種の統計を別途健康保険の運営のためにやるということになりますと、その調査自身が大仕事になります。ただいまのところ、そういう資料の全般的なものは持ち合せておりませんので、この程度で御了承いただきたいと思います。
  228. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私のお尋ねしないところまでお答えいただいたようでありますが、まだ、そういうことをすれば保険料徴収の上にどういう影響があるかということはお尋ねしていないのです。これはあとで、むしろ大臣立場でお答えいただくつもりでおりますが、せっかくお答えいただきましたので、これについて重ねてお伺いをいたしますが、今の御答弁によりますと、標準報酬というものは、雇い主側のいわば善意の申告、絶対の申告を集めて徴収しているということに要約できると思うのです。このことは、私は決して非難すべきことじゃないと思うのです。国税もこうあるべきものだと思うのです。ところが実際は、国税徴収法の例にならってもわかりますように、なかなか青色申告であるとか、あるいは所得が申告通り最終の美をおさめていない。更正決定が必ずつきもののように、あるいは税務署調査というものが、ますのすみをつついてもなおかつあきたらぬというほど徹底的な徴収技術というものが、権力と結んで人民にかかり非難を受けておるわけであります。同じ公益に充てられる費用として、他の法律では優先されておるにもかなわらず、その徴収決定の上には公租公課、特に国税や地方税とこの保険料との違いの矛盾を、私はいろいろな機会に痛感するのです。あなた方は、この滞納に対して強制処分をおやりになったことがあるか、国税徴収法に基いて取ったことがありますかないか、その点を一つ……。
  229. 久下勝次

    久下政府委員 強制徴収を随所でやっております。
  230. 井堀繁雄

    ○井堀委員 あの徴収法の精神というものは御存じだろうと思う。あらゆるものに優先しておる。ところが、ここにあなた方が、その国税徴収法にならって強制執行をかけて取り立てられておる、そのもとになるべき決定が重要だと思うのです。神に誓って間違いがない、公正であるという場合には、その権力を発動していいのであります。私は国税の場合には、ある程度それがいえると思う。いい意味ではありません。政治的には拙劣であるかもしれぬけれども、今日の徴税官の機構をもってすれば、徹底的に所得なり財産に対しては調査を進めておる。大手筋はいけません。大きいところはかなりずらかっておるけれども、今日の勤労階層といわれる人々については、苛酷に失するくらいやっておるわけであります。ところが、さっきからだんだん議論がされておりますように、改悪は絶対にいかぬということは、この前、私と厚生大臣との間に意見が一致したようであります。する結果になるかならぬかということは、その財源の徴収にあるわけです。それは今までの答弁によりますと、大体雇い主側の善意に基く申告、原則からいうと、こういうことは言葉として適当ではありませんけれども、実際の姿を把握すれば、ごまかしほうだいにごまかされて地方の府県に駐在されるあるいは府県の公務員を通じて委任事務の形でその不正をただすということはやっておるようであります。こういう状態健康保険の方の赤字があるという理由にして改悪するというようなことは、保険それ自体からも、大臣よほど考えなければならぬ。でありますから、先ほどお話が次に進んでおりましたから申し上げるのですが、もちろん私も、国税徴収のように、ああきびしくやるということに対しては、賛成じゃないのです。ああまでやる必要はないと思います。しかし、現状はあまりにもずさんだということは言える。そこで、すべり方をどうされるかということは、私は理想論ではなくて政治論になると思う。これは大臣の御答弁を伺わなければいけない。事務当局にそういうことまでまかせておいたら、厚生行政なんというものはどこへ行くかわからぬ。問題はここにあると思いますので、しつこいようでありますが、はっきりもう一ぺん大臣の口からお聞きいたしておきたいと思います。今の保険の徴収の技術上の面からいいますと、かなりこれは緩慢ですよ。特に被保険者の方からいえば、あるいは悪くいえばぐるになっておる、よくいえば経営者の詐術に乗って、経営者側に協力を与えておるという点もあり得るかもしれませんけれども、この問題はあとでお尋ねをし、御意見を聞くつもりであります。ここで正確に近い収入実額というものを把握するためには、どうしたらいいかということについての厚生大臣の御所見を伺いたいと思います。  尋ね方が乱暴だと思いますが、もう一つ私の意見を言いますと、実態を把握するためには方法があるのであります。いろいろあります。いたずらに権力をかざしてやるというたけてはなしに、この場合は相互的な相互扶助の上に立っておる組織的な一つの事業でありますから、被保険者の善意の協力を求めるということは、保険行政の上において重大な事柄だと思う。そういうことがこの改正一つも出てきていない。説明の中で、どういうことも触れていない。だから、健康保険組合と政府管掌との違いを見たらわかる。保険組合がおよそうまくいっておるというのは、一つには、もちろんその基盤が大企業にあるということもいえるかもしれませんけれども一つには被保険者と渾然一体の姿になって、そこで保険財源の上である程度標準報酬を定めるにしても、被保険者の協力と納得の上に行われておるところに大きな違いが出てきておるのです。こういう点に対する配慮があるかどうか、また今後でもおやりになる御意思があるかどうかを一つ……。
  231. 川崎秀二

    川崎国務大臣 少しく大きな話になりますが、将来社会福祉行政を進めていく意味におきまして、また社会保障行政を充実する意味におきましては、標準報酬を実際の収入に照らして取るようなための一大調査機関というものを整備しなければならぬものと思っております。と申しますのは、御承知であろうかとも思いますが、先進国におきましては、すでにこの種の調査機関というものが整備をされておりまして、しかもそれは、日本でカードを一一女の子が書いたりなどするような手間でなしに、自動的に一切の計算が出るような措置を講じ、また税務署等の調査とのきわめて密接な関係を持った機関というものが行われております。アメリカにおきましては、ワシントンから約百マイル離れましたところで、バルチモアというところがありますが、そこに標準報酬月額と実際の手取り額についての精細な調査機関が設けられ、またロンドンの郊外におきましても、保険省の監督のもとに、強力な調査機関が整備をされておるのでありますから、従って、現在の日本の健康保険程度で、今井堀委員が御指摘になっておるようなことを、実際に現わし得ることは困難であって、その意味におきましては、今こういう問題になりますと、局長以下の説明員がいろいろと実際の実情に当って苦労をいたしておるような状態でありますが、これを整備をするような機関を抜本的な形で設けるということが、対策としての一番大きなものになっていかなければならぬのではないかというふうに考えをいたしておるのであります。従って、こういうような問題について、何ら顧慮をしておらなかったということではなくして、そういう問題も、ひとり厚生大臣だけの意見ではなしに、日本の各知識層、ことに大内教授のごとき、社会保障制度の権威者であると同時に、統計調査の第一人者が、社会保障制度審議会委員長をやっておられます関係で、むしろそういう問題に対する勧告なり、あるいは民論の喚起ということについて——井堀委員も非常にこの点は御研究のようでありますから、御答弁を申し上げれば、そういうところにまで進んで、初めて完備したる態勢がとれるものと思うのであります。またそれならば、国税徴収と同じような形で、滞納に対しては強制徴収をやっておるか、それは部下まかせにしておるのではないかということでありましたが、私も任期わずかに三カ月半ばかりではありますが、その間におきまして、すでに一、二の重大な滞納につきまして直接ぶつかりまして、これは公表をはばかりますけれども、直接命令を出して取り立てをいたしたようなこともあるのであります。兵器関係の方で、昨年疑獄事件にも関連をされた方でありますけれども、私のところへ参りまして、なるべく徴収を緩和してくれという裏道を通ってのお話でありましたが、実情調査してみますと、はなはだ不届きであるということがわかりましたので、そのような裏道の運動にもかかわらず、強力な調査を命じまして、これは相当莫大な金でありますが、すでに徴収をいたしたこともありました。国税のごとく正確な資料と、あるいはそれに対するところの措置というものを行っておりませんことは、今日の社会保障機関というものが、はなはだ整備をしておらない現状からして、やむを得ないこととは思いますけれども、今日の許されたる力をもってして、相当なことは今日までいたしておるつもりであります。将来の問題につきましては、ただいま種々御指摘がありまして、その御意見につきましては、ことごとく同感でありますので、そういうことについての機構を整備していきたいということが、私の大体のねらいであるのであります。
  232. 井堀繁雄

    ○井堀委員 私は、議論を好むものではありませんが、徴収の点について、熱心に大臣がおやりいただいたことについては、まことに保険のために慶賀すべきことだと思うのであります。しかし、皮肉を言うわけではありませんけれども、今日の大臣の存在と申しますか、政務多端な、そういう事柄は心得ていても、なかなか目が配れないような大臣の激務の中で、そういうものが目にとまるくらいですから、相当そういうものが見送られているという証拠にもなる。でありますから、今日私は、特に厚生行政の中で気をつけていただきたいと思う。国税のようなものは権力で取り立てるのだから、ほっといてもいいのです。あれにえらい力を入れておる。ところが、今度のような保険の危機を伝えられているときに、当然つちかいの道があるにかかわらず、審議会において、私はあえて策動という言葉を使いたくありませんが、経営者の目前の利害関係のために、できるだけ負担を少くするという小乗的な欲望から、保険の大精神を誤まるような審議会における動きというものを、厚生省はどの程度キャッチしておるかという点も、大事なことだと思います。そういう意味で、審議会答申になりました経過なり、あるいは審議会におけるところのそれぞれの立場、これは三つの立場に分れておるようでありまして、その公益側のことをたまたま口にされておりますが、私が今お尋ねしようとする趣旨からは、逆の意味でこれが使われておる。これは言質を取るようで失礼ですけれども、何か公益側の委員が、今度の改正に対して一方において矛盾を感じ、一方においては余儀ないという意味で消極的な賛成、あるいはある部分的な積極的な改正を認められたような発言が、ここに見えておるのですが、私は非常に迷惑しておることだと思う。私も保険審議委員をしばらくやったことがあるのですが、私のつき合った公益側の委員というものは、みんな紳士です、保険の精神をよく了解しております。絶えず経営者側が、経理の苦しい立場から追い詰められて、負担を軽減しようとする主張に対しては、なだめ役に回っていることは、私は認めている。今回の場合も、そういう努力をなされたものと私は信用したい。そういう過程をくぐってここに出てきた法案でありましょうけれども審議会の意思は反映していない。私はそういう意味で言っているのです。話が回りくどくなりましたが、根本的な問題は、きっとここに触れられたと思う。ですから、いきなり標準報酬を実額に合せて、こんな大きな数字が出たから、それを直ちに取り立てる。取り立てようと思えばできます。理論的、法律的にはできますけれども、そういうことは、また政治の上に摩擦が起きますし、また保険の精神というものは、権力で相手をひっぱっていくということは、やむを得ない場合において行わるべきものであって、あくまで了解と納得の上で、すなわち、保険の精神に協力してもらうということをやはり前提にしなければならぬと思う。こういう点に対する努力が、果して過去に払われてきたか。私の経験する限りにおいては、人のことを申し上げることは失礼ですけれども、そういう方面に対する配慮が足りないのか、あるいはそういうものに努力するような機構になっていないのか、この点にも問題があると思うのであります。  それから、この審議をめぐって、私は終始ずっと拝聴しております。政治的に作為があるものは、これはカットして考えなければなりませんが、良心的な質疑応答の中に、政府の態度というものはどうもふに落ちないものがある。それは、法案を出したから、そのまま通したいという意図はわかるけれども、しかし、相手がいい意見を出したら、それに乗ってくるという態度がなければ、ただ自分の作ったものは絶対に動かせないという態度では、国会審議は前進しない。それはその内閣の生命をかけて争うようなものならば、これは秘術秘策を練ってやったらいいと思う。しかし、こういうようなものは、社会保障制度を育て上げていこうとするならば、保守であろうと革新であろうと、経営者であろうと労働者であろうと、一致点はあるはずだと思う。そういうものを中心に私は論議を進めてほしい。こういう意味で私はお尋ねをしておるので、さっき資料を出してくれぬかということに対して、私は出してもらえることはないと思う。ぜひ一つ、これは重ねての要求でありますが、現在の被保険者の対象となるべき賃金給与実態に対してつかめないはずはないでしょう。局長はずるいものだから……。こういうことをやることが、ほんとうのあなたの仕事なんです、そういうものを出していただきたい。それはこの程度の資料に基いてという前提があっても仕方がない。それと今の標準報酬とはこう違っておる、それをどうしたらいいかということは、私どもの判断にまかせていただきたい。政治はこっちがやる。事務当局は、忠実に事実をわれわれに紹介して、われわれに努力させる道を開けばいい。そういう材料を要求しておる。これはこういう機会に出さなければ、私は篤志家でないとできないと思う。政府がこういうものを率先して出すべきである。くどいようでありますが、結論を申し上げますと、給与賃金実態標準報酬現実とを、そう詳しくなくても、荒くてけっこうですから、ぜひそれを出してください。それに基けば保険財源はどうなるか——それが出たからといって、こういう数字があるからこれを取れ、すぐにこういうふうに言うほど私はやぼではない。そのために長々と私の意見を述べたのです。  質問は簡単です。保険が赤字だというならば、現在の法律通りに取れる財源がどれだけあるか。しかし、それはこれこれの事情で取れない、こういうふうにすなおに説明をして聞かせてもらいたい、こういう質問なんです。これに対して、材料を提供していただける御意思があるかどうか、くどいようですが、もう一度……。
  233. 久下勝次

    久下政府委員 まず陸上一般労働者の資料につきましては、先ほど来申し上げております通り賃金実態に関する調査は、労働省でやっております毎月勤労統計以外には、私どもやっておりません。しかも、これは三十人以上の事業所だけの調査でありますので、それ未満の事業所も含めております。健序保険の資料として、これをそのまま取るわけには参らないと思うのでございます。そういうような意味におきまして、五百万人の被保険者の個個の給与実態がどうなっておるかということは、私どもとしては、調査をいたしておりませんので、先ほど申し上げたように、お許しを願いたいと申し上げざるを得ないのであります。ただしかし、現在の建前といたしましては、井堀委員も再三仰せのように、私どもとしても、その線に対して、できる限りあらゆる努力をして実態調査して、そして標準報酬の決定を年一回いたしておるのであります。そういう意味合いにおきまして、各階級別の該当者の数などは、これは資料として差し上げてあるわけでありますが、もう一度差し上げてもよろしいと思います。それ以外に、給与の各層別の数字というのは、陸上労働者全般につきましては、現在数字がありませんので、御要望に沿い得ないことを、大へん遺憾に思うのでございます。そういうものを持っていないのはけしからぬとおっしゃられれば、それまででございますけれども、ただいまの統計資料といたしましては、そこまでの調査はなかなか容易ではございませんので、私どもとしては毎年一回の標準報酬の改訂時期におきまして、二カ月間というものは全力をあげて事業所におもむいて調査をいたしまして、その上で実質に合う標準報酬の決定をいたしておる実情でございます。そういう意味合いにおきまして、私どもの手元にありまする資料を、御満足がいきますかどうかわかりませんが、できるだけ取りそろえましてお目にかけることにいたしたいと思います。
  234. 井堀繁雄

    ○井堀委員 今の状態では出せないといえば、それまでですが、しかし、何も悪意で言っているわけではないということは、再三言っている。まるで私は陳情をしている。そういうことは、私は事実をよくお互いに理解し合ってやりたいと思うから、くどくど申し上げた。しかし、これはこの提案理由をなまで受け取り、改正の内容をそのまま見ていきますと、この問題をはっきり認識しない限りにおいては、議論が進むはずがないと私は考える。なぜかといったら、どうして赤字が出てきたか。これは、ごく大ざっぱに言えば、インフレをデフレに切りかえたからだ。これは当然なことです。インフレーションが高進してきさえすれば、貨幣価値は後退するのですから、どんどん貨幣価値が暴落していけば、今要るくらいは——しかしそれがいいか悪いかではない。だから、そういうことはやはり政治のそれぞれの動きというものに対しては、私どもが責任を取るから、そういうものの解決はどこへ持っていったらいいかということをはっきりして、そうして論議すべきだというので、これは政治上の問題なんです。事務当局としては、そういうことまであずかり知らぬといえば、それだけの話ですが、そういう意味で材料をしきりに要求しているわけです。出していただけなければ、これはやむを得ません。なるほど伺ってみると、国税庁ほど強い権限と機構をお持ちになっていないことは、私は知っている。しかし、これは同じ役所の中だから、できるはずだと思う。これは大臣考えていただいておいたらいい。あなたが閣議で大蔵大臣——事務当局に言ったら出せぬでしょう。そういう扱いについては、政治力を持っている大臣にまかせる。これはすぐ確答を迫るわけにもいきますまいから、よくそれぞれの機関と御相談いただいてやっていただきたい。私の伺っている一番大事なことは、法律の精神は、標準報酬をきめるということは、収入実額に基いてやるのですから、その収入の実額がどれだけあるかというのは、資料がありませんというようなことは論外です。しかし、それがお粗末なものかどうかということは、やむを得ぬ。もちろん、そういうことで要求したのです。その回答はあとでけっこうだと思います。  それから、まだ船員保険のことについてお尋ねをいたしていきたいと思いますが、その前に実は委員長にお願いがあります。それは船員保険の改正と関連いたしまして、保険給付について紛糾紛争が起きている。その紛争が、この機関である保険審議会というのですか、審査会というのですか、そこで結論が出なくて、遂に訴訟ざたになって、第一審の判決が下り、政府はこれに反対立場で控訴している、こういう事柄があるようであります。このことは、保険界にとって非常に重大な影響があり、またわれわれは事実問題を正確に知る必要を痛感いたしますので、これは当面の責任者は、機構が新しくなったとはいいながら、川西実三民が名儀人になっておるようだし、大臣はもちろん関係がある。こういう関係がありますので、その当時の責任者ではありませんが、保険審議会の会長というのですか、審査委員長というのですか、そこのところはよくわかりませんが、その責任者に御出席いただいて、当局とあわせてこの審議についてお尋ねをいたしたいと思いますから、さようお取り計らいをお願いいたしておきます。私はそれが出てきてから質問を起したいと思うので、今日はこの程度にして留保しておきます。
  235. 中村三之丞

    中村委員長 ちょっと速記をとめて下さい。   〔速記中止〕
  236. 中村三之丞

    中村委員長 速記を始めて下さい。  明二十九日は、午前九時より社会労働委員会、文教委員会連会審査会を、十時より社会労働委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後六時三十八分散会