○唐沢
参考人 私は、前二
参考人が、主として
職安を
中心にして問題を提起されておりましたが、私は、組織しております建築
労働者、大工、とび、左官、土工、こうした
人たちの問題を
中心にいたしまして、数点
意見を申し述べたいと存じます。
建築
労働者は、昔から非常に重要な、特に住宅、学校、病院、そうした国土復興に欠くことのできない重要な仕事をしておったわけであります。しかしながら、そういう非常に重要な仕事をしております反面に、
社会保障的な保護対策というものは全く受けていないという、非常にみじめな
生活を押しつけられております。この
国会を建てました石工
労働者の諸君にいたしましても、この
国会そのものは、世界的にも評価された優秀な技術で作られた中で国政を運営しておられますけれ
ども、作った石工の諸君の多くは、
病気、特にけい肺などにやられて、全治することのない絶望の日を送っている、そういうみじめな実情であります。そういうみじめな状況の中で、終戦後、あらゆる労働
組合の会合の中で、こんなにおれたちは国土復興、住宅復興の面で重要な仕事をやっておるのに、なぜ
健康保険や労災
保険がないのだろうかという疑問や憤りが
全国的に出まして、そういう声が、
健康保険を作ってほしいという熱望として現われたのであります。この熱望が、先ほどから
参考人として両君が言っておられました
職安の皆さんや、あるいは山林
労働者の皆さんや、つき添い婦の皆さんと一緒に、ぜひ
健康保険を作ってくれという
全国的な
運動として何年も
運動を続け、ようやく
日雇い健保という
一つの法律ができたわけであります。
しかしながら、できました法律そのものは、きわめて不十分な
内容でありまして、入れ歯ができない、医者に三ヵ月しかかかれない、休んでも手当がもらえない、
手続が非常にめんどうだ、もう実に不十分だらけの
内容でございました。もちろんこの原因は、申し上げるまでもありませんけれ
ども、
給付費に対する
国庫負担が、全く考慮されていなかったというところに、一番大きな原因があったと思います。
昭和二十八年二月に、
社会保障制度審議会が答申をいたしましたけれ
ども、その中においてすら、この
日雇い健康保険は将来
社会保障制度を確立するに当って、かえって妨げになるのじゃないかという答申すらしておる。その事実からも、いかにこの
内容が不十分なものであったかということについては、十分御了解いただけるものと存じます。
一体そういう不十分な
内容で、しかもその後の数々の
予算措置の中で、どの
程度国庫負担の問題が実現されたか、こういうことになりますと、
政府は依然として
予算がないという一点ばりで、
給付費に対する
国庫負担を全く考慮して参りませんでした。ようやく昨年は
給付費の一割
国庫負担が実現をされました。しかし、これが限度かどうかということになりますと、私
どもは決してそうは
考えていないのであります。バターか大砲かという問題は抜きにいたしましても、少くとも国家
予算の合理的な運営をやることによって、十分
給付費の二分の一
国庫負担というものは可能ではないか、このように
考えております。なぜかといいますと、これは
日雇い健康保険ができる前までは、非常に
生活に困った
日雇い労働者や建築
労働者は、その多くは
生活保護によって救済を受けておりました。
日雇い健保ができることによって、
生活保護の適用を打ち切られて、すべてが
日雇い健康保険に移行されております。そういう事実の中で、今まで
医療扶助として大体
日雇い労働者に六億か七億の支出をしておるということを
政府などでは言っておりますが、それにもまして
生活保護が打ち切られるということの中で、
医療扶助ばかりでなく、教育あるいは住宅、そういう面での扶助が打ち切られるわけですから、相当な金額が、
日雇い健保ができたことによって、
生活保護から実質的には削られておる、そういう事実を十分掘り下げていく必要がある。その中で、
生活保護に使われていた分を
日雇い働保の
国庫負担に回せば、先ほどから論議された
傷病手当の問題にいたしましても、療養
給付期間の延長の問題にいたしましても、
給付内容を現行の一般健保並みに改善することは、きわめて容易である、このように私
どもは確信を持っておるわけでございます。
非常に不幸なことに、どのくらい
日雇い労働者を
中心にして
生活保護が行われておるかということについては、
政府は発表しておりませんが、幸い今日は
政府委員もおられますので、この点などを十分掘り下げていただいて、国家
予算の合理的な運営をぜひお願いしたい、そういうことによって、全体のワクをくずさなくとも、十分
日雇い健康保険の
内容改善は可能性がある、このように強く確信をいたしている次第でございます。従いまして、私
どもはそういう
国庫負担の実現によって、
傷病手当金の
支給あるいは療養
給付期間の延長等々、数々の改善点を早急に実現していただきたい、このように
考えているところです。
特に
傷病手当金につきましては、一般の
健康保険の場合には、多くの場合、相当
程度保険者側、会社側から、休んだ場合でも手当を受けておりますし、そういうことの可能性がずいぶんあります。しかしながら、
日雇い労働者は、一たん休んだ以上、どこからも手当をもらえないという一番
傷病手当金を必要といたしまする
人たちでありますので、これに対する実現
方法については、第一義的に
考えていただきたいと
考えているところです。こうした
内容改善をやっていただく、そういう
過程において、今まで
日雇い労働者、あるいは職人である、そういう劣等感、あるいは社会からの差別待遇等々を自他ともに変えていきたい、このように
考えているところです。
次に、適用範囲の問題について申し上げたいと存じます。適用範囲の問題につきましては、現在の
政府の発表を見ましても、被
保険者が五十万から六十万のところを動いているようでありますが、実際はこの
保険によって適用を受ける
人たちの数はどう少く見積りましても百二十万はいるだろうと
考えております。しかしながら、五十万から六十万の人が未適用になっているというその事実を、ぜひ注視していただきたいと思うのです。なぜ未適用になっているかということについては、大きくいって二つの理由があると存じます。
一つは、建築
労働者にいたしましても、山林
労働者にいたしましても、あるいはつき添い婦の皆さんにいたしましても、きわめて封建的な下請制度の中で、末端の雇用関係というものは、法にきめられました五人以上の適用事業場へいって働くという場合はきわめて少い、多くの場合五人以下の事業場で低
賃金で労働強化で非常に奴隷的な
生活をしている。こういう事実の中で、圧倒的多数の建築
労働者、山林
労働者が適用除外になっている、こういう事実でございます。現に小豆島にありますあの有名な石材
労働者、単にあそこはオリーブや観光の町というばかりではなくて、あそこから有名な石材が出ておりますが、あそこに約千人の石工
労働者が働いております。この
人たちは、労災法の適用は受けておりますけれ
ども、
健康保険の適用は受けていない、こういうきわめて片手落ちの社会保護制度の中で苦しんでおります。これは単に小豆島の石工
労働者に限らず、奈良の山林
労働者においてもしかりであります。一人か二人の山地主が全山を握っておる。そこで伐採あるいは植林をやっておる二千五百人の
労働者の諸君は、ようやく労災
保険は適用を受けておりますけれ
ども、
健康保険については何らの適用を受けていない。こういう
人たちが
全国に数限りなくあるという事実を、ぜひ御認識願いたいと思うのです。
なお、第二番目の問題といたしましては、これは建築産業、建設産業を
中心としての問題でございますが、いわゆる大林や清水等の大手筋が
中心となりまして、
全国土木建築国民
健康保険組合という職域の国民
健康保険を運営しております。それは
日雇い健保ができる前までは、いわゆる甲乙の二種類に分けまして、職員あるいは
労働者の中でも、職制級の
人たちの国民
健康保険を作って運営を続けておりました。
日雇い健康保険ができたことによりまして、さらに丙欄を加えて、丙欄による
日雇い労働者の国保適用を推し進めたわけであります。現実問題として、確かに
政府当局にいわせれば、法七条によって適用除外をしているのだ、こういうことを言っておられますけれ
ども、そのこと自体に、非常に問題がひそんでいるというふうに
考えます。現実問題として、大林、清水等、あるいはここで今仕事をやっておりますところの、戸田組だと思いますが、そこにいたしましても、土木国保の窓口はありますけれ
ども、
日雇い健康保険の窓口はあいていないという事実を十分
考えていただきたい。従って、土木国保の丙欄でわずかな
人たちが、いわゆる常用的な
人たちが
健康保険の適用を受けますけれ
ども、それぞれ毎日々々この現場に来る
人たちは、全く
健康保険の適用を受けておりません。
病気になりまして医者にかつぎ込まれて、医者の方は
健康保険があるでしょうといって聞いたところが、実際はなかった。現場の親方が来て、その病人をまたかつぎ出して帰っていったという事実は、実は北海道や九州の例ではなくて、東京のあの体育館を作りました大成建設の工事現場に起ったごく最近の事実として御注目を願いたいと思うのであります。従って私
どもは、土木国保を全部やめてしまえという極論はいたしませんけれ
ども、少くとも大手筋が土木国保のみで運営しているという片手落ちを、ぜひ
政府あるいは
国会などでは十分追及していただく必要がある。そして各大手筋が、いずれも
日雇い健保の適用窓口を大きくあけて、十分
健康保険の適用ができるように、厳重な監督指導を即刻実施されるように要望したいと存じます。
第三の点は、
受給要件の問題についてでございます。これは今、山林
労働者の皆さん、つき添い婦の皆さん、あるいは特に職場に働く皆さんにいたしましても、こうしたデフレ経済の中で、ことに仕事が少くなってきております。私
ども建築
労働者の場合でも、昨年の十一月、十二月ネコの手も借りたいといわれたあのときですら、十五日働くというのがやっとでした。今年の一月、二月などは、一月はもうほとんど働いていない、二月も四日か五日しか働いていない、こういう
人たちが東京でも横浜でも大阪でもたくさんあります。これは決して私が誇張して言っているのではなくて、お調べいただいてもわかります、事実であります。こういう就労
状態の悪化の問題、それから現実問題として、
給付を受けている間に他の
疾病が起きた、あるいは被扶養者が
疾病にかかった場合に、被
保険者の受給
資格がない場合に、実際にはその
病気が
保険の
給付の
対象にならない、そういう実情にあるわけであります。こういう二つの理由から、
受給要件をもっともっと緩和していただく必要があるのじゃないか、このように
考えているところです。従いまして、前二ヵ月を通算して二十八日分以上、こういう規定がありますけれ
ども、さらにそれで救済されない
人たちが、今申しましたような二つの理由からたくさんあるということを十分御勘案いただいて、たとえば前六ヵ月を通じて六十日に下げるとか、あるいは前二ヵ月を通じて二十八日分というのをもっと切り下げるとか、いろいろな
方法を構じて、
受給要件を大幅に緩和していただきたいと
考えておる次第でございます。こういうふうにしていただきませんと、せっかくできました
日雇い健保も、実際は被
保険者の急場に間に合わないということになるわけでございます。
次に、
手続の簡素化の問題です。これは前
参考人もいろいろと
意見を述べておられました。とにかくこれほど
内容が悪くて、これほど
手続の悪いものは、おそらく世界的にも珍しいのではないかと思います。大体
病気のたびに
社会保険出張所にかけ込むというようなことはおよそ
社会保険というものの概念からは導き出されない劣悪なものだと
考えているところです。実情をいろいろ聞いてみますと、かぜを引きましても、売薬をまず飲む、それからまあ相当重くなってから、やっと
保険出張所に飛び込む、受給証明書をもらって病院に行くという実例は、枚挙にいとまありません。このようなことでは、実際には
病気をとことんまで重くしてから医者にかかるというようなことによって、
保険財政にも少からず影響すると思うのであります。その点はともかくといたしましても、とにかく諸
手続を急速に簡素化していただきたい。この点は、今まで要望のありました点にまさるとも劣らないほど重要な点でございます。
政府は、今法律
改正を要さないのだ、厚生省令を変えればいいのだ、こういうことを言っておりますけれ
ども、そういう
意見の中に、
手続の簡素化については、非常に積極さを示しているやに思うのであります。その理由としては、受給
資格証明書を売り飛ばしているのではないかというようなことを言っておりますけれ
ども、このことを掘り下げていけば、現在の一般健保でも、そういうようなことは幾らでもやれることでありまして、すべからく
一般労働者と
日雇い労働者の間に、そういう差別待遇をつけるべきではなくて、人間としての取
扱いをしていただきたい。そうして急速に
手続の簡素化をやっていただく必要があるのではないか、このように
考えておるものです。
以上四点にわたりまして、いろいろと私
どもが常日ごろ
考えております点を申し述べましたが、これらの可能性については、もちろんいろいろな異議も御
意見もあろうと存じます。しかしながら、私
どもは一刻も早くこの問題を取り上げていただいて
——大体
一般健康保険あるいは船員
保険などは、長い歴史を持っております。それから漸次一定の水準に到達しようとする努力を続けてきました。しかしながら
日雇い健康保険だけは、ごく最近できたものでありまして、しかも、
社会保険の体系から非常にほど遠い劣悪なものである。これを一歩々々解決するのだという御
意見もありましょうけれ
ども、この際はぜひとも一歩、二歩合せて前進させていただきたいと
考えておるのです。従いまして、
社会保障制度審議会あるいは
社会保険審議会が、
国庫負担の増額によって生ずる手当金の問題あるいは療養
給付期間の延一長の問題や、適用範囲の拡大の問題、
受給要件の援和の問題あるいは諸
手続の簡素化の問題等々を、急速に実現してもらいたいという答申をしておりますけれ
ども、ぜひ本院におきましても、この線に沿ってというよりは、もっともっと十分御検討いただいて、
日雇い労働者のために十分なるこの制度を打ち立てていただくように重ねてお願いをする次第でございます。
以上で終ります。