○黒田
参考人 全国療術協同組合を代表して率直に
意見を申し上げます。
本組合は、全国都道府県の七十八
団体をもって組織せる
療術界唯一の連合
団体で、加入組合員、五千名を有し、常に業務の改善とその進展を期しておるものであります。かつて厚生省が
昭和二十八年まで五カ年間にわたって行われた
療術の
調査も、実に本組合を対象として行われたのであります。まずわれわれは
療術法制化の公約実行を要望するものであります。
政府は
昭和十四年以来、
療術の
調査とその法制化を常に公約されているのであります。さらにまた
法律第二百十七号制定当時、
療術業者全国大会において当時の一松
厚生大臣は
政府を代表して、
療術業だけが民主主義下の今日において何らの事故なく多年業とせるものを禁止するのは忍びないところであるけれ
ども、ある方面の意向でやむを得ない。
療術業の禁止された
理由は次の二点にある。その
一つは、業種が数百種あって規正しがたいこと。次は、
業者中には医学的知識の低いもののあることです。それで、既存
業者は八カ年
営業が許されておるが、この二つの欠陥が補正さるるなれば、八カ年を待たず新規開業も許されることになると言明されたのであります。その後毎年開かれる
全国療術協同組合総会においても、一松先生は常にこの言明を確認され、本年五月の総会においても、このことは現在の川崎
厚生大臣にも伝えてあると付言されたのであります。
しかして、当局の要望せられたる業種の統一と
業者知識の補習については、数百種といわれたものをすでに五種に統一して、
昭和二十四年より五カ年間にわたる厚生省の
療術調査を受け、
業者知識の補習については、当時厚生省より紙の配給を受け、教科書を出版して、全国都道府県の
団体に配付し、それによって各地の医科大学あるいは保健所等の
医師を講師として補習を受けしめたのであります。われわれは業種の統一と
業者の補習を達成したのでありますから、
政府は公約によって
療術の禁止を解除さるべきであります。
なお、
療術の禁止が占領政策によるものであることは、前述の
通りでありますが、一部の者は、
療術が有害なものとして禁止され、転業期間が
法律によって定められたものであるとの説をなしますが、われわれは、この期間に転業すべきだというようなお話を
政府から受けたことは絶対にありません。
療術が、もし有害なものであるならば、
政府は一日もこれが存続を許すはずはないのでありまして、この点から
考えてもこのことは御了解になると存じます。
次に、
療術は、実に過去数十年間、何らの事故なく発達して参ったことであります。すなわち、手持における術式においても、
電気、
光線、温熱、刺激等においても、長い問の厳重というよりも過激といった取締りを受けたために、最も安全にして有効性の豊かな方面に発達を遂げ、さらに現在においては、すでにわれわれ
療術の社会性が事実として一般に認められるに至ったのであります。
次は
療術等の
医業類似行為を許す限界について一言申し上げます。現在の制度においては、
医師でなければ
疾病の
治療はできないことになっておりますが、その施術が、第一次の危害なきもの、すなわち直接
患者に危害を与えぬものは、芸者でない者でも
医業類似行為として許されております。われわれの
療術、
あんま師、
はり師、
きゅう師等が現在許されておるのは、この
理由によるのであります。また
医者でない者でも、第一次の危害、すなわち直接危害なき薬は、製薬して販売することが許されておる。また世間では、
医業類似行為の
治療を受けておるうちに、正しい
治療の時期を失し、俗にいう手おくれになる場合もないとも限らないから、
療術のようなものは禁止さるべきであると仰せられる方もあります。これは先刻私
どもが傍聴中に伺ったのでありますが、お
医者さんからこういうようなお話が出たようであります。それは第二次の危害で、禁止の
理由にはならないのであります。すなわち売薬の効能書を信じ、これを服用しておるうちに病気が重くなるようなことがあっても、売薬は禁止されないのと同じ
理由に基くのであります。先ほどお
医者さん方が、この手おくれになるということを御指摘になられましたが、これはお
医者さん方が、
療術と申すような民間療法の実情をあるいは
御存じないのではないかと
考えるのであります。
療術を体験された
方々はよく
御存じの
通り、
療術を受けに来られた方は、まずお
からだに現われた症状を訴えます。たとえば、肩がこったとか、腰が痛いとか、疲れたとかいった具体的な症状を仰せになります。お
医者さん方は、はっきり診察をしなければ、ほかの民間
療術にかかることは危ないということを御指摘になりましたけれ
ども、われわれのところへおいでになった方は、たまにはお
医者さんの診察された病名を仰せられる方もありますが、その方においても、大がいこの病気に伴ういろいろな容態を話して下さいますので、われわれはまず苦しいところ、痛むところを緩解するような施術をいたすのであります。われわれ
療術においては、薬を使うとか、メスを使うことが禁止せられておりますから、
患者の訴えに応じて、大体局所局所に施術するので、そのほとんどがこんな方式によって、この局所を緩解することが一般大衆の支持を得るゆえんであります。
ここで一言申し上げなければならないことは、厚生省当局を初め、権威あるお
医者さんを前にして恐縮ですが、世界の最も権成ある医学者九千名以上の支持によりまして、今、全世界の医学界に新風を送ったセリーのストレッス学説が、偶然
療術の施術原理と一致しておるということです。セリーは、現在の医術は、病気を正しく診察して投薬あるいは手術をするけれ
ども、
患者の訴える症状に対し直接
治療しない場合が多い、これは真の医術ではない。真の医術は、肩がこる、頭痛がする、足が冷えて困るといったことから始まって
治療して、初めて
治療の真の目的を達するというのがセリーの学説であります。
先ほどここの
参考人から、
あんまをするために病気にならないとか、あるいは病気が軽くなるというような仰せがあったようですが、事実われわれ
医業類似行為者は、こういう方面で
患者さんの直接の訴えに対して施術するという長所があるのであります。これが私
どもがかつてこの
療術師法を衆議院に提出せんとしましたときに、
国会議員の
方々にこの
療術師法の提案について
お願いを申し上げたところが、この法案に賛成署名した
国会議員の方が、衆議院
議員で三百十四名、参議院
議員百四十九名の多数に達したことでも、この
療術が、いかにこういう新しい学説にマッチするような内容を持っていたかということを、ここで特に申し上げる次第であります。
次は、七月一日
政府から内示されたあん摩師、
はり師、
きゅう師及び
柔道整復師法の一部を
改正する
法律案を見ますと、前述せる
療術業者に対する公約を無視し、
療術の社会的存在を没却するもので、絶対に承服するあたわざるものであります。当局は、
療術の
手技、
電気、
光線、温熱、刺激の五種目を公認して、五カ年にわたり
調査研究し、この間国費二百五十万円と、
業者にも国費に数倍する費用を負担せしめたにもかかわらず、
調査結果も公表せず、かつ、今回の法案の起案に際して、
日本国における唯一の
業者の代表
団体である当組合に対して、一片の
相談もありませんでした。しかも
療術五種日中の
手技の一部である
指圧だけが、
あんま師試験を受けることによって
営業し得るということにしたことは、
療術を抹殺せんとするもので、
業者の絶対に承服しあたわざるところであります。この五種に統一された
療術には、第一次の危害はありません。それゆえ、現在まで
営業せる
療術が、新規開業を禁ぜらるべき
理由はないのであります。しかるに、この法案においては、
指圧を除くのほかの業種に対して、既存
業者以外の新規開業を禁止せるは、明らかに憲法違反であると信じます。なお、既存
業者の
営業権を、
昭和三十三年十二月三十一日に限定せることも、人民の正しい
営業権を束縛するものと断ぜざるを得ません。
ここに付言いたしたいことは、
療術というものの実体と、
手技と
あんまの相違するということであります。
第一は、すでに
昭和五年来、
手技と
あんまは警視庁令その他地方庁で明らかに区別されておりまして、それ以後長い年月、
手技と
あんまが同じであるというお話も聞いたことがありません。
第二は、
法律第二百十七号制定当時の法案骨子には、
あんま、
はり、
きゅう、
柔道整復、
療術師営業法と、明確に
療術が
あんまと区別されておりました。
第三は、戦前、戦後を通じ、
あんま、
はり、
きゅう、
柔道整復業は
試験検定を受けておりましたが、この
業者が
療術を兼ねるときには、
療術の届出を要し、現在もこの兼
業者中には、届出をして
療術をしておる者が
相当ございます。これなどによっても明らかに区別されておるのでございます。
それから、
療術のうちの
手技というものについて申し上げます。大体一般に知られておるところでは、
あんまは、東洋医方によりまして経穴、経絡というようなものを中心に
研究されたものであり、
療術における
手技は、西洋医学の長所を経とし、これにわが国の民間療法における施術の長所を緯としてできたもので、
法律二百十七号制定当時、当局から御指摘を受けた当時、何百種もあった。たとえば
指圧、整体、健体、健康、背椎矯正、カイロプラクテイク、オシテオパシー等々、全く何百種とあったのでありますが、それを整理しまして、あるいは各流派あるいは各秘伝、伝統といったことを全部抜き去りまして、この
手技の基本型を定めたのであります。これで
あんまと
手技の区別はおわかりになったことと存じます。
次に、
療術立法についての要望を申し述べさせていただきます。
すでに申し上げております
通り、
法律第二百十七号制定当時の法案骨子には、
あんま、
はり、
きゅう、
柔道整復、
療術師営業法となっていたのであるから、これが立法に際しては
療術師法を要望する次第でありますが、一部
改正によるとするならば、
あんま師、
はり師、
きゅう師及び
柔道整復師、
療術師(
手技、
電気、
光線、温熱、刺激を含む)の十大字を加え、
療術を現在の姿で他の
医業類似行為と同様の
営業を許されることを要望いたします。
また、
学校教育と
試験検定による
免許等については、他の
医業類似行為業に準じ、あるいは他に適当なる制度を立てられたく、また既存
業者の既得権は、今後は期限を付せずに認められたいのであります。
さらに、少しく長くなりまして恐縮でありますが、
療術の施術
方法の安全性について申し上げさせていただきます。
療術において、
手技は、
手技基本型により他の業種に抵触せぬ範囲でいたします。
電気は、弱電流に限り、出力で制限します。
光線は、地上に照る太陽
光線程度以上は、現在も使われておりません。この
光線も、波長ではっきりとその出力を制限することができます。温熱は、人体に火傷を与えぬ程度の温湿布程度のものを現在使われておるのであります。刺激でありますが、これは人体の皮膚を損傷せぬ程度のものであります。
以上申し述べましたところによりまして、
療術立法の公約が履行さるべきこと、
療術には、いささかも禁止さるべき
理由なきこと、
療術には、豊かなる社会性と大衆の支持と進歩発達性のあることを明らかにしましたが、これによって大体われわれの申し上げることが御了解下さることと
考えます。
ここに私は全国
業者を代表して、長時間にわたり御清聴を賜わりましたことを感謝し、従前より圧迫され来った
療術のために、立法府の権威において、公正なる御理解による御決定を御期待申し上げる次第であります。