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多賀谷委員 私は
日本社会党を代表し、
けい肺及び
外傷性せき髄障害に関する
特別保護法案に関し、
意見を述べるものであります。
けい肺対策が、二十世紀初頭に南7連邦に取り上げられて以来ここに五十数年、その間一九一二年の南ア連邦の
けい肺法、一九一八年の英国の
労働補償法の改正を初め十数カ国において、
けい肺に関する特別な法制、積極的な
対策が行われ、三回にわたり国際
けい肺会議が開かれているのであります。わが国におきましても鉱業法、鉱夫扶助規則において、
けい肺を業務上の疾病として正式に取り扱われるようになったのは、
昭和五年であったそうでありますが、終戦後、
労働保護立法の制定、その
対策の推進とともに、この
けい肺問題は、きわめて重要な人道的社会問題として認識されるようになったのであります。
昭和二十二年、当時
労働科学研究所長瞳峻博士を中心とした
けい肺対策の準備会が設立されて後、金属鉱山復興
会議で
けい肺対策委員会の発足となり、
昭和二十三年四月、金属鉱山復興
会議の名において、本院に対し鉱山
労働者けい肺対策に関する建議が
提出されたのであります。全
日本鉱山
労働組合連合会を初めとし、炭鉱、窯業の
労働組合は
けい肺対策委員会を設け、その特別立法の制定に熾烈な運動をし続けてきたのであります。本院においては、第十三回国会、
昭和二十七年二月一日の
労働委員会において、
けい肺病
対策委員会が設置され、自後引き続き審査を継続してきたのであります。
昭和二十八年八月六日、第十六回国会において、参議院に社会党両派の議員立法として
けい肺法が
提出され、その後毎国会に
提出され審議されてきたのであります。
政府も
昭和二十四年、
けい肺措置要綱を出し、その保護
対策の第一歩を踏み出したのでありますが、その後、経営者の頑迷と無理解に押されてか、その
対策も遅々として進まず、昨年に至り小坂
労働大臣より、
けい肺法制定の言明がありましたが、これもその後の政変で実現せず、ようやくにして本
法案の
提出になりましたことは、おそきに失する感はありましたけれ
ども、まことに喜ばしききわみであります。不治の病人として病床に呻吟し、きわめて悲惨な
状態にあります患者並びにその家族、今、粉塵
作業場に罹病の不安を抱きながら従事している
労働者並びにその家族にとりまして、本
法案の成立はまさに福音と感ぜられるでありましょう。
今、
提出になりました
修正案につきまして、
意見を申し上げます。
第一点、
健康診断につきましては、三年に一回とありますが、一年一回という外国の立法もあり、遊離けい酸の濃度の
関係もあり、少な過ぎると
考えるのであります。それを是正する意味において、ことに結核が合併する場合の病状の進行
状態より見て、
基準法規定の
健康診断を行う際、結核のおそれある者について
けい肺健康診断を行うことは、適当な
措置と
考えるのであります。なお、
政府におかれても、今後十分
調査研究の上、危険度の高い
作業場は区分して、多くの回数
診断を行い、万遺漏なきよう今後の改正に期待するものであります。
第二点、費用負担の問題でありますが、国庫補助金の率でございますけれ
ども、民主、自由の両党で、すでに予算修正がなされたところであり、その予算修正全体の話し合いについては、私たちには不明朗な点もありますけれ
ども、この点につきましては了承、賛成いたす次第であります。
第三点、従来の患者の取扱いでありますが、わが党といたしましては労基法、労災法の打ち切り補償を受けた人には、全員適用すべきであると
考えたのであります。その人員も八百二十五名であり、そのうち死亡された方もありますので、多くの人数ではなく、その方々の実情を察しますと、ぜひとも全員に適用されたいと熱望した次第でございますが、各党の御事情もありますので、やむなく了承いたしたいと思います。
以上の
ごとく、
修正案に賛成し、修正点を除く原案に対し了承するものでありますが、この際
本案に対する党の
意見を明確にしておきたいと存じます。
第一点は、本
法案の性格についてであります。本
法案は、社会保障としてのものであるのか、
労働基準法の補完的立法であるのか、きわめてその性格が不明確であります。職業病として発足し、前三カ年間は業務上の疾病として、
労働基準法並びに労災法の適用を受けて療養し、その後二カ年間は、国民的人道的見地より国民病として取り扱われ、療養並びに休業の給付を受けるということは、理論の一貫せざるものを感ずるのであります。ことに
労働基準法八十一条、労災法十二条に
規定する打ち切り補償費の支給を受けた後、二ヵ年間の本法の給付を受けることになっているのでありますが、いまだ二カ年間給付を受け法の適用があるにもかかわらず、わざわざ打ち切り補償を行わなくても、本法の給付を受けて後二年後に打ち切り補償を行うのが、最も実情に即応し、合理的であると
考えるのであります。しかるに、
政府並びに経営者は、事業主の
責任の延長をおそれ、あくまで三カ年が
責任の限界であると固執するの余り、全く矛盾に満ちた法の体系になったことは、まことに遺憾に存ずる次第であります。船員法八十九条は業務上の負傷疾病の場合、船舶所有者に、なおるまで療養の負担を負わせ、重篤な廃疾者には、終生死亡まで障害年金を支給することを
考えますとき、法均衡上、
けい肺等特殊な保護
措置を要する
病気に関し、事業主の
責任を延長するも、無過失賠償
責任の限度を越えるものではないと思量するのであります。この点、西田
労働大臣の、終生
政府において給付をしたいという理想が実現する場合は、国民病として事業主の
責任から除外されることもけっこうでありますが、二年という期間を限定される限り、事業主の
責任を明確にし、その間の
雇用関係の継続を保証すべきであると思うのであります。
第二点、転換給付についてであります。転換を要するものは、法第八条に
規定されている
けい肺第三
症度ないし第二
症度のものであります。
政府は、
病気ではあるが療養休業を必要とするものではなく、かつ
労働能力を喪失していないことを
理由に、何ら障害補償的なものを支給すべきではないとされております。しかし、転換給付を認めること自体が、そこに災害補償的なものを支給しなければならないことを自認した証拠であると
考えるのであります。
労働能力を喪失しているとわれわれは
考えるのであります。百歩を譲って、
政府の言う
ごとく、たとい通常の
労働能力を喪失していないといたしましても、その
作業場にそのまま
作業を続行していけば、
症状は進行し、
労働能力の喪失どころか、必ず死に至るのであります。そこで、
作業転換を要するこの
状態の患者は、当然補償の対象になり、災害補償の請求権があり得ると
考えます。
日本の法体系、ことに労基法の中に的確にその病状に対する補償の
規定がないとしても、それは法が予定しなかったような病状であるからでありまして、すみやかに改正を要すべきであると
考えるのであります。しかし、現行法で準用するとすれば、当然
労働基準法第七十七条の障害補償であると
考えるのであります。
労働者災害補償保険法施行規則別表第一の第十一級に胸腹部臓器に障害を残すものは、平均賃金の二百日分を支給することになっており、第七級、胸腹部臓器の機能に障害を残し軽易な
労務の外服することができないものは、平均賃金の五百六十日分を支給することを
規定しております。
現実の問題といたしまして、鉱山の粉塵
作業場の坑内から坑外に
作業転換を命ぜられたものは、五〇%も賃金収入が減少し、その損失は甚大といわなければなりません。
一九五〇年の第三回国際
けい肺会議の第二十九条に、
けい肺患者がなれた職を離れたときには、あらゆる努力を払って直ちに彼を職につけなければならぬし、あるいは彼を訓練して適当なかわりの職につけなければならない。この際は彼の生活水準を引き下げてはならない。またかわりの職につくことが彼の補償額を減少させるようなものであってはならないという
勧告がなされているのであり、外国の多くは、年金を支給して目的を達しているそうであります。この点将来への法の改正を要望しておきます。
第三点、第八条の
作業転換、第九条の
規定は、健康の保持と生活の確保の調整の問題であります。これが強制的に行われ、それが
乱用され、かえって
労働者の保護立法の性格を離れ、首切り立法にならぬよう、行政官庁においても十分留意されていただきたいと
考えるのであります。
第四点、法三十八条の就労施設は、すみやかに次期国会において予算
措置を講じていただきたい。
第五点、粉塵
作業に従事した者で離職した者の健康
管理につきましては、特別に考慮を払われるとともに、十分
調査の上、必要あらば将来法の改正をしていただきたい。
第六点、平均賃金のスライド制の実施は、休業補償についてのみ実施しておりますが、打ち切り補償、その他の補償についても今後改正していただきたい。
第七点、船員法、船員保険法適用の
労働者につきましては、実はこれは忘れられたとも、あるいは誤まった解釈をしておったとも言われておりますが、実際適用から除外されており、法技術の問題といたしましても、きわめて不備を感ずるのでございます。この点につきましては、私は行政官庁に今後こういうことのないように、十分留意していただきたいとともに、すみやかに法の改正を要請するものであります。
以上、わが党の
意見を述べた次第でございますが、わが党といたしましても、今述べました
ごとく、多くの不満な点、了承しかねる点はございますけれ
ども、多年にわたる
けい肺患者、その家族、粉塵
作業場に従事する
労働者、いな全国の
労働者の念願であった立法が、ようやく実現の運びになった次第でございますので、この点にかんがみ、今後その法の充実に期待いたしまして、
修正案賛成、修正点を除く原案に賛成をいたす次第でございます。(拍手)