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川崎国務大臣 ただいまの御質問に、焦点を合せてお答えを申し上げたいと思います。
ただいま非常に整理されて申し述べられましたことは、私も社会保障制度の前進に当って、深く考えなければならぬことだと思っております。第一に、序説にありましたように、
健康保険制度がわが国の
社会保険の最も背骨であるというような御
議論につきましては、全く同感であります。よく
各種の
委員会、あるいは本
会議におきまして、
健康保険制度にのみ力を入れて、国民
健康保険制度を忘れておるというような御質疑がありました際に、私は、将来に向っては日本の
社会保険は国民
健康保険の将来伸び行く進度というか、伸張度、このことに期待いたしたいし、このことがあって初めて将来
社会保険の開花があります。花を開くときがあるという
意味の御答弁を申し上げておりますが、過去の歴史におきまして、またその組織力の強さにおきまして、
健康保険が国民
健康保険よりも、むしろ今日までわが国の
社会保険における中核的存在であったことは間違いがないことでありまして、これが崩壊をするということは、社会保障制度の停滞と後退をもたらす重大なことになろうと思うのであります。ここ一、二年の経緯を振り返って見ますと、非常に
赤字が増大いたしまして、ことに昨年の十月ごろから二十数億の
赤字を生み出した際に、
政府は当然これに対する
措置を講ずべきであったのでありますが、私が
厚生大臣として引き継ぎをいたしたときには、すでに四十億に近い大きな
赤字になって、これを収拾すること、また
昭和三十
年度を展望いたしまして、さらに六十数億の
赤字を出すというようなことを見まして、気の弱い者なら腰を抜かさなければならぬ非常な場面に直面をいたしたわけであります。従って、ここに申し上げたいことは、
健康保険制度を改善するに当って、社会保障制度の後退と停滞を許してはならぬ。それあるがゆえに、私はすでに後退し始めた
健康保険制度に、きわめて応急
措置ではあります。あるいはこれを称してカンフル注射を打ったとか、あるいはきわめて素朴な療法であったかもしれませんが、とにもかくにもこれだけの
措置をいたしまして、答案といたした次第であります。これにつきましては、いろいろ御批判もありましょうけれども、
政府としても、私といたしましても、十分の
措置をいたしたつもりでおるのであります。
その次の御質問にお答えいたしますけれども、十億の
国庫負担ということに対する、理論的な根拠というものはありません。むしろ私は、
予算編成の過程におきまして、
保険財政の
医療給付費の一割を
国庫が
負担すべきである——この一割
国庫負担は、根拠があります。それは、今日国民
健康保険法の
改正案が各党から出ておりますが、二割
国庫負担を目ざしてこれを法律的に義務づけようとしておる。従来までは、国民
健康保険は二割の実績に応じて
予算が編成されつつあったのでありますが、さらにこれを義務づけようとしておることからいたしまして、国民
健康保険が二割であるならば、まず世論の納得のいくのには、
健康保険は今まで何らの給付がなかったのであるから、一割が妥当であろうということで、
予算編成の過程を通じて主張いたしておったのでありますが、財源その他の
措置に行き詰まりまして、最後には刀折れ矢尽きた形で、十億の
国庫負担をのまざるを得なかったのであります。しかし、これは
健康保険に対する
国庫補助が直接に出ました最初のことでありまして、やはりわが国の
健康保険財政史上にとりましては、
赤字対策とはいうものの、
一つの意義のあったことであろうと思っております。その後、このことは
赤字対策なのか、それとも
保険財政に対する一定の給付かということについていろいろ御質問もあり、閣内の
意見も統一いたしました結果、これは
赤字問題が
中心になって起ったことではあるけれども、十億の
国庫負担は、
保険財政に対する
国家の当然の
責任として、
医療給付費に対する
国庫の
負担ということで考えるべきであるということで、
政府の統一ある見解を表明した次第であります。
かくて十億の
国庫負担と、さらに本年の
赤字並びに去年の
赤字に対する
ところの六十億の
融資措置が、先ほど厚生年金の問題が出ました際にお答えを申し上げましたように、
財政当局も事情を非常に勘案をしてくれまして、これを
年度当初において計上するということについての基本方針が確立されましたので、従って十億の
国庫負担をなし、六十億の融資をいたしまして、
赤字に対する三分の二以上の
責任を
国家が背負った以上は、その余りにつきましては、やはり社会連帯の精神に基きまして、被
保険者も
料率の
引き上げに応じてもらいたいということも私どもは考えたのであります。このことにつきましては、
社会保険審議会におきましては御
反対であったことは、ただいま
井堀委員の御説明の
通りであります。しかし
社会保障制度審議会におきましては、このことは
審議になっておりませんので、
結論がついておりません。ただ両
審議会における
中立委員の中には、
健康保険の
料率の
引き上げは、
標準報酬の
ワクの
引き上げと切り離して行うならば、当然の
措置である、
国家がそれほどの
負担をしたならば、一応
料率の
引き上げは当然の
措置であり、ことに公務員の共済組合あるいは一般の組合管掌の
健康保険組合が、すでに平均千分の六十二、三の数字を示しておりますし、労働省、大蔵省等におきましては、七十というような高い水準をも示しておる
ところもありますので、従って、これらを勘案いたしますならば、六十を六十五にするのは当然ではないかというような
意見も、かなり深刻に展開されておった
関係もあり、先ほど当席でも申し述べましたように、経営者
団体の有力な日経連におきましても、
料率引き上げそのものならば
賛成である、しかし
標準報酬の
ワクを
引き上げるということを連ねての
対策としては
反対である、こういう
意見も具申されておりましたので、
健康保険の
料率の
引き上げには、世論の大部分はもはや納得してくれるものと私は思っておるのであります。これは明確に申し上げます。
そこで、残りましたものは
標準報酬の
ワクの
引き上げについてでありますが、これは両
審議会とも御
反対であります。ことに
労使双方から猛烈な
反対がありまして、そのために今日出ております
健康保険法の
改正案そのものについては、世論が非常な勢いで当初
反対をされておったことは事実であります。そのような
関係をもちまして、
標準報酬の
ワクを七万円にすることは無理だということを
感じましたので、四万八千円、つまり頭打ち二万四千円であった当時の物価から比べまして、今日は二倍強になっておりますから、四万八千円は妥当であろうというので
提案をいたした次第であります。
この
標準報酬の
ワクの
引き上げ、あるいは収納率の
引き上げその他のことによりまして、七万円の今度の
改正に伴う
ところの財源は、等級改訂が四億二千万円でありますが、その他のものを加えまして六億ほどになります。
料率の
引き上げ分は二十五億七千万円であります。
標準報酬の等級改訂四億
並びにその他の二億、そのくらいのもので
法案を
提出するのはどうかというような御
議論でありますが、これは全般に
関連をいたす
措置でありますから、このような
措置をとったのでありまして、しかしてここにつけ加えて申し上げるならば、
保険財政としての予備費も持たずに今回の
昭和三十
年度の
保険財政をやりますことは非常に危険であると思うのであります。これらの
措置をいたしましても、なおかつ九億の予備費でありますから、十分であるとは言えないと思うのでありますが、まずこの
程度をもって出発すべきであるということを
感じまして、このような
提案になりましたこともあわせてお答えを申し上げます。