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1955-06-28 第22回国会 衆議院 社会労働委員会 第30号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年六月二十八日(火曜日)   午前十一時十五分開議  出席委員    委員長 中村三之丞君    理事 中川 俊思君 理事 松岡 松平君    理事 大橋 武夫君 理事 山下 春江君    理事 吉川 兼光君       臼井 莊一君    亀山 孝一君       菅野和太郎君    草野一郎平君       小島 徹三君    床次 徳二君       山本 利壽君    横井 太郎君       亘  四郎君    越智  茂君       加藤鐐五郎君    高橋  等君       永山 忠則君    野澤 清人君       岡本 隆一君    滝井 義高君       中村 英男君    八木 一男君       横錢 重吉君    井堀 繁雄君       受田 新吉君    神田 大作君  出席国務大臣         厚 生 大 臣 川崎 秀二君  出席政府委員         厚 生 技 官         (医務局長)  曾田 長宗君         厚生事務官         (薬務局長)  高田 正巳君         厚生事務官         (社会局長)  安田  巌君         厚生事務官         (児童局長)  太宰 博邦君         厚生事務官         (保険局長)  久下 勝次君  委員外出席者         専  門  員 川井 章知君         専  門  員 引地亮太郎君         専  門  員 浜口金一郎君         専  門  員 山本 正世君     ————————————— 六月二十八日  委員永山忠則君及び山下榮二君辞任につき、そ  の補欠として加藤鐐五郎君及び井堀繁雄君が議  長の指名で委員に選任された。     ————————————— 六月二十七日戦傷病者割当雇用に関する請願(  周東英雄紹介)(第二七〇一号)  戦傷病再発医療費全額国庫負担に関する請願(  周東英雄紹介)(第二七〇二号)  クリーニング業法の一部改正に関する請願(平  岡忠次郎紹介)(第二七〇三号)  同(千葉三郎紹介)(第二七〇四号)  同(山本猛夫紹介)(第二七〇五号)  美容師法制定に関する請願岡崎英城紹介)  (第二七〇六号)  理容師美容師法の一部改正反対に関する請願(  千葉三郎紹介)(第二七〇七号)  国立公園施設整備費国庫補助復活に関する請願  (中馬辰猪紹介)(第二七〇八号)  同(山本猛夫紹介)(第二七〇九号)  同(原捨思君紹介)(第二七一〇号)  健康保険法等の一部改正に関する請願森山欽  司君紹介)(第二七一一号)  同(千葉三郎紹介)(第二七一二号)  同(眞鍋儀十君紹介)(第二七一三号)  強制医薬分業反対に関する請願秋田大助君紹  介)(第二七二六号)  同(安藤正純紹介)(第二七二七号)  同(淺香忠雄紹介)(第二七二八号)  同(赤城宗徳紹介)(第二七二九号)  同(有田喜一紹介)(第二七三〇号)  同(相川勝六紹介)(第二七三一号)  同(有馬英治紹介)(第二七三二号)  同(芦田均紹介)(第二七三三号)  同(植木庚子郎君紹介)(第二七三四号)  同(伊東隆治紹介)(第二七三五号)  同(石田博英紹介)(第二七三六号)  同(今井耕紹介)(第二七三七号)  同(犬養健紹介)(第二七三八号)  同(池田清志紹介)(第二七三九号)  同(伊東岩男紹介)(第二七四〇号)  同(石坂繁紹介)(第二七四一号)  同(稻葉修君紹介)(第二七四二号)  同(臼井莊一君紹介)(第二七四三号)  同(宇都宮徳馬紹介)(第二七四四号)  同(宇田耕一紹介)(第二七四五号)  同(植村武一紹介)(第二七四六号)  同(江崎真澄紹介)(第二七四七号)  同(小川半次紹介)(第二七四八号)  同(大坪保雄紹介)(第二七四九号)  同(岡崎英城紹介)(第二七五〇号)  同(小山長規紹介)(第二七五一号)  同(大倉三郎紹介)(第二七五二号)  同(奥村又十郎君紹介)(第二七五三号)  同(大野市郎紹介)(第二七五四号)  同(大高康紹介)(第二七五五号)  同(大村清一紹介)(第二七五六号)  同(大森玉木紹介)(第二七五七号)  同(大石武一紹介)(第二七五八号)  同(小澤佐重喜紹介)(第二七五九号)  同(大久保留次郎紹介)(第二七六〇号)  同(小笠公韶君紹介)(第二七六一号)  同(川野芳滿紹介)(第二七六二号)  同(加藤精三紹介)(第二七六三号)  同(薄田美朝君紹介)(第二七六四号)  同(加藤高藏君紹介)(第二七六五号)  同(菅野和太郎紹介)(第二七六六号)  同(川崎末五郎君紹介)(第二七六七号)  同(北澤直吉紹介)(第二七六八号)  同(木崎茂男紹介)(第二七六九号)  同(菊池義郎紹介)(第二七七〇号)  同(吉川久衛紹介)(第二七七一号)  同(草野一郎平紹介)(第二七七二号)  同(熊谷憲一紹介)(第二七七三号)  同(楠美省吾紹介)(第二七七四号)  同(倉石忠雄紹介)(第二七七五号)  同(小枝一雄紹介)(第二七七六号)  同(小林郁紹介)(第二七七七号)  同(小林かなえ紹介)(第二七七八号)  同(黒金泰美紹介)(第二七七九号)  同(小泉純也君紹介)(第二七八〇号)  同(小島徹三紹介)(第二七八一号)  同(小金義照紹介)(第二七八二号)  同(越智茂紹介)(第二七八三号)  同(薩摩雄次紹介)(第二七八四号)  同(笹山茂太郎紹介)(第二七八五号)  同(齋藤憲三紹介)(第二七八六号)  同(佐藤榮作紹介)(第二七八七号)  同(佐々木秀世紹介)(第二七八八  同(床次穂二君紹介)(第二七八九号)  同(椎熊三郎紹介)(第二七九〇号)  同(島村一郎紹介)(第二七九一号)  同(白浜仁吉紹介)(第二七九二号)  同(重政誠之紹介)(第二七九三号)  同(鹿野彦吉君紹介)(第二七九四号)  同(須磨彌吉郎紹介)(第二七九五号)  同(志賀健次郎紹介)(第二七九六号)  同(椎名隆紹介)(第二七九七号)  同(首藤新八紹介)(第二七九八号)  同(菅太郎紹介)(第二七九九号)  同(鈴木周次郎紹介)(第二八〇〇号)  同(助川良平紹介)(第二八〇一号)  同(杉浦武雄紹介)(第二八〇二号)  同(椎名悦三郎紹介)(第二八〇三号)  同(鈴木善幸紹介)(第二八〇四号)  同(鈴木直人紹介)(第二八〇五号)  同(瀬戸山三男紹介)(第二八〇六号)  同(世耕弘一紹介)(第二八〇七号)  同(關谷勝利紹介)(第二八〇八号)  同(田子一民紹介)(第二八〇九号)  同(高木松吉紹介)(第二八一〇号)  同(田中龍夫紹介)(第二八一一号)  同(竹山祐太郎紹介)(第二八一二号)  同(田中正巳紹介)(第二八一三号)  同(田中角榮紹介)(第二八一四号)  同(田口長治郎紹介)(第二八一五号)  同(竹内俊吉紹介)(第二八一六号)  同(田中伊三次君紹介)(第二八一七号)  同(田中彰治紹介)(第二八一八号)  同(竹尾大紹介)(第二八一九号)  同(田村元紹介)(第二八二〇号)  同(千葉三郎紹介)(第二八二一号)  同(辻政信紹介)(第二八二二号)  同(綱島正興紹介)(第二八二三号)  同(渡海元三郎紹介)(第二八二四号)  同(徳田與吉郎紹介)(第二八二五号)  同(徳安實藏紹介)(第二八二六号)  同(高橋等紹介)(第二八二七号) の審査を本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  健康保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第一〇二号)  厚生年金保険法の一部を改正する法律案内閣  提出第二〇四号)  船員保険法の一部を改正する法律案内閣提出  第一〇五号)  日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案  (内閣提出第一〇三号)  日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案  (八木一男君外十四名提出衆法第一七号)     —————————————
  2. 中村三之丞

    中村委員長 これより会議を開きます。まず健康保険法の一部を改正する法律案厚生年金保険法の一部を改正する法律案船員保険法の一部を改正する法律案日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案八木一男君外十四名提出日雇労働者健康保険法の一部を改正する法律案、以上五法案を一括して議題とし、質疑を継続いたします。野澤清人君。
  3. 野澤清人

    野澤委員 政府は先月末、非常に問題の多い健康保険法改正案国会提出したのでありますが、この法案提出されるということになりまして、関係いたしております使用者団体からも、労働組合からも、全面的にこれに反対をするというような機運が生まれ、さらにまた、はっきりした意思表示まで受けたのでありまして、これが諮問を受けました社会保障制度審議会、あるいは社会保険審議会等においても、また反対答申を行なった。こういう経過をたどりましたこの改正案が、ほとんど社会的な世論としては九九%まで政府案反対しておるのでありますが、この反対している理由というのは、厚生大臣にお尋ねしたいのですが、どういうところ反対の素因があるのか、この点をはっきりと一つお教えいただきたいと思うのであります。
  4. 川崎秀二

    川崎国務大臣 今回の健康保険法改正並び健康保険赤字対策につきまして、社会保障制度審議会並び社会保険審議会におきましては、総会の名前をもちまして、それぞれ反対の御決議があったことは、御承知通りであります。しかし、これは正確に申し上げると、社会保険審議会社会保障制度審議会には、それぞれ内容において異なる反対をせられておるのでありまして、社会保険審議会は、健康保険料率引き上げ並び標準報酬ワクを改訂するということの両方に対して御反対であり、社会保障制度審議会は、もとより標準報酬ワク引き上げるということに、つまり今回提案になっておりまする健康保険法改正に対して反対でありまして、料率引き上げは、御審議を願わなかった関係もありまするけれども、料率引き上げにおきましては、その際に御討議になったことについては、意見がまちまちであったように伺っております。  ここに、その由来を考えますると、労使双方におきましては、私の見ておりまするところでは、今回の改正案に対し、日本経営者連盟、すなわちわが国における最も権威のある組織的な力を持っておりまする経営者連盟関係をせられておる委員方々が、社会保険審議会使用者側委員の大部分でありますが、それらの方々は、料率引き上げそのものに対しては、やむを得ざる措置であると思う、しかし、これに附帯をして標準報酬ワク引き上げるということについては、どうしても賛成することができない。それは、ことに原案は、標準報酬の頭を七万円ときめましたが、その七万円ということにきめれば、会社部課長あたりは従来の保険料よりも二倍半ないし三倍以上に取られることになって、これが自己の収入に影響するところも多大である。同時に、会社負担というものも莫大にふえてくる。従って、健保の料率引き上げは、かりに国庫負担をしていただいておる以上は、やはりやむを得ない結論ではあろうと思うけれども、これと同時に出してくることについては、自分たち反対をせざるを得ないということで御反対になったのが、日経連を中心とする使用者側の御反対であったと思うのであります。これが厚生年金法改正当時のいろいろないきさつ——これはこの席上で申し上げることは妥当ではありませんので省略をいたしますが、その際における事務的な連絡等々の問題が関連をいたしまして、使用者側の方でイニシアチヴを取られて労働者側とお話しがあり、労働者側委員方々は、料率引き上げには非常に御反対でありましたために、労働者側においては料率引き上げ反対使用者側におかれましては、料率引き上げにはやむを得ず賛成はするけれども、標準報酬ワク引き上げることを一緒に出す、しかも七万円を出してきたことについては絶対反対であるという、違った立場から、しかし、最後には労使双方が御反対になった。従って、審議経過などを見ておりますと、学識経験者並び中立委員の中では、そのような非建設的な、ただ反対するための反対というふうに取られるようなことではいかぬではないか、やはり審議会としては、議決機関ではないのであるから、この際建設的な意見を申し述べるのが当然であって、政府原案には自分らは賛成ではないけれども、政府は一応の解決策を示しておるのであるから、これに対し修正あるいは大幅な意見具申こいうものをするのが当然であろう、こういう意見も、速記録を見ますと散見をせられます。従いまして、つづめて申し上げるならば、標準報酬ワク引き上げということが中心反対でありまして、料率引き上げにつきましては、大体やむを得ざる意向が中途にまでは現われておった、こういうふうに取っていただければ、大体間違いがないのではないか。そこで、政府の方といたしましては、一番議論のありました標準報酬ワクを、頭打ちを七万円から四万八千円に引き下げまして、この提案となった次第でありますことも、つけ加えて申し上げておきたいと思うのであります。
  5. 野澤清人

    野澤委員 話の筋道は、大体わかるのですが、私のお尋ねしていますことは、今度の法律改正によりました標準報酬引き上げ、あるいはまた事務的に厚生大臣の方でできますところ料率引き上げ等の問題というものは、ただ表に現われた形の上の反対であって、各種団体が根強く反対いたしておりますことは、こうした標準報酬の単なる引き上げとか料率引き上げ以外に、根本的に何かしっくりしないものがあるのじゃないか。そうした一貫した流れが、たとえば社会保険審議会あるいはまた社会保障制度審議会等答申書を見ましても、その内部に包蔵された根本問題というものが、大きく横たわっているような感じがするのですが、これらに対して、厚生大臣はどういうふうに御了解になり、御考慮になっておられるか、その点をお伺いしたいと思います。
  6. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいま第一回目の御質問を承わっておりますと、どういうところ反対の具体的な理由があったかということでありましたので、御答弁申し上げたのでありますが、いま少しく掘り下げてその背景を考えようということでありましたので、御答弁を申し上げます。  もとより、これらは具象的な反対意見でありまして、もっと根本的な対策を立てようという意味の御反対がおもだったように思います。すなわち、厚生省といたしましては、累積する健康保険赤字に対しまして、本年度承知のように、国庫において十億並び融資措置におきまして昨年度分を含めて六十億という措置をいたしました。従って赤字対策に対して一応の国の責任を明らかにいたしました関係で、料率引き上げ並び標準報酬ワク引き上げを行いまして、これによりまして政府並びに被保険者が一体になって問題を解決する責任ある措置をとったわけでございます。この責任ある措置という限りにおきましては、われわれはこの法案を出しまして、多少世間からいろいろの非難や批判を浴びてはおりますけれども、本年度対策としては、責任ある回答であると思っておるのであります。信念を持っておるのであります。しかしながら、この問題に関連をしまして社会保障制度審議会社会保険審議会で御議論のあった点をずっと一貫して見てみますると、本年の対策としてはそれでよいだろうけれども、そのことは、決して恒久性のある対策として回答したものではないのではないか、つまり、健康保険収支財政というものがどうあってしかるべきかということに対する回答は、これでは出ておらない。むしろ、将来国費の定率あるいは定額をもって負担するというならば、どの程度負担をすることが正しいということを一つめどとするかというような問題、あるいは患者の一部負担を、将来は終局的にはやらなければならないとするならば、それに対する一つめどをつけた対策は出てきておるのかというようなことにつきまして、各種議論が出ておりますが、要するに、昭和三十年度予算だけではなしに、引き続いて起る今後の健康保険の主として医療給付費の増大を中心とする根本問題に、メスが入っていないではないかという意味の御反対ではなかったか、かように考えるのであります。その点は、政府といたしましても十分考慮をいたしまして、目下国会開会中でありまして、七人委員会等も、厚生大臣出席をして督励するわけに参らぬのは、はなはだ残念に思っておりますけれども、行政機関を総動員いたしまして、七人委員会がなるべく早い機会におきまして結論をつけていただくように督励をしておるのが、今日の姿であることを御了承願いたい、かように存じておる次第でございます。
  7. 野澤清人

    野澤委員 今回の反対の本旨というものが、健康保険の根本問題に触れておるということを、大臣はお認めになっておるようでありますけれども、この根本問題とか根本対策とか、あるいは恒久対策と考えられるような事柄は、かつて二回ほど、私、大臣にお尋ねいたしておりますが、どれが根本問題だという具体的な指摘がないのであります。そこで、大臣自身が、現在こうした赤字解消対策をされて料率引き上げを行う、あるいはまた標準報酬引き上げを行うということは、輪郭外の所作であって、決して保険経済内部メスを入れたものでもなければ、さらにまた、抜本的な対策として大臣の方では打ち出されていますが、この料率改正標準報酬改正というものは、むしろこのくらい恒久性のある対策というものはないと思うのです。一応上げてしまったものを、大臣の見込みで来年度料率を引き下げようじゃないか、あるいは標準報酬も合理化して引き下げようじゃないか、こういう機運がもしあるならば、これは別問題でありますが、一たん引き上げたものは、大体今日引き下らないのが相場であります。従って、これらは便宜主義的だと一般にいわれておりますが、むしろ、これこそ恒久対策であるが、しかし輪郭外恒久対策である。どうして保険経済なり保険の運営なりの実態に対して、解剖のメスを入れられないのかという感じが、一般にしておるようであります。そこで、大臣に伺いたいことは、この社会保険全体を通じて、よく根本対策とか根本問題とか言われるが、この根本対策や根本問題というものは、どういう事柄をさすのかということをお尋ねしたいと思うのであります。
  8. 川崎秀二

    川崎国務大臣 赤字根本対策という問題は、やはり保険経済が、それ自体内部解決できるということが、一つの大きな目標ではなかろうかと思うのであります。その意味で、保険経済自体解決ができない要素をも今日は含んで、健康保険財政というものが進行しておる。すなわち、医療費増加ということを、もとより野澤先生のお説の通り、新医療費体系整備をいたしましたり、あるいは医薬関係の諸問題を解決することも、重大な問題であろうと思いますけれども、私はヨーロッパの各国、あるいはアジアにおきましても、最近日進月歩の状態をたどっておりますフィリピン初め、いわゆる文明国としてわれわれと同じような水準にある国々の医療給付費増加ということを考えてみますと、今日健康保険料率引き上げたり、あるいは標準報酬ワク引き上げたというような程度では済まない問題も、出てきておるのであります。従って、これは何といたしましても、財政上の大きな負担というものが逐年累増をする。たとえば、保険医の監査などはもとより厳重にいたしましたり、あるいは不正受診などというものをなくしたり、いろいろな措置は講じましても、なおかつ医療費は私は相当にふえていくものと思っておるのであります。最近におけるところの傾向を見てみますと、毎年百億あるいは七十億というような数字で伸びてきておりまして、これをかりに押えていくようなあらゆる措置を講じても、私はここ当分は年間三十億、四十億というような増勢というものは、食いとめることができないと見ておるのであります。従って、これらの状態を見ますると、医療給付費が増大するということは、やはり国としての医療に対するところの国民の関心が高くなったり、あるいは医療に対するところの諸般の施設が充実をしてきたりすることを意味しておるのでありますから、近代福祉国家態勢としては、決して悲しむべきことではない。これは、多少私自身の持論を申し述べ過ぎるかもしれませんが、申し上げれば、そういうことになると私は思っております。従って、根本対策は何かといえば、やはりこれに対する国家責任態勢をどうするかということが一つ、それから患者がこのままでだんだんふえていく保険財政に対して、従来までの負担でいいかという問題も起ってくるであろうかと思っております。これらの問題に大きなメスを入れるのでなければ、すなわち回答を出すのでなければ、終局的な回答になり得ないというふうに信念を持っておるのが、私の根本問題に対する見解であることも、あわせてこの際明らかにいたしておきたい、かように存じておる次第であります。
  9. 野澤清人

    野澤委員 大臣の考えですと、医療費増高というものが根本問題であるというように考えられますが、それで間違いございませんか。
  10. 川崎秀二

    川崎国務大臣 そうでございます。
  11. 野澤清人

    野澤委員 それでは今日の保険医療に対する根本対策というような問題について、七人委員会が今後対策を講じていく、あるいは立案をする、こういうように言われておりますけれども、実際に政府自体として対策しなければならぬこの失業保険等に対する根本対策というものは、どういう点とどういう点に重点を指向されて七人委員会に諮問されるのでありますか、この点をお伺いしたいと思います。
  12. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これはこの解決に際して、厚生省が一方的に案を出して、それに対して七人委員会が、これがいいとか悪いとかいうことを答申するのが、この七人委員会任務だ。最初から任務論が出まして、私がその際に申し上げたのは、資料はあくまでもととのえるけれども、厚生省としては、一応健康保険財政解決の問題に対して白紙の状態で臨みたい。しかし、素案的なものを出せというならば、いつでも出しますけれども、一つ原案を出して、それに引きずり込むというような考え方は持っておらぬと申しましたところ、七人委員会におきましては、非常に御満足になったようでありまして、従って、今日のところどの問題をどうしろということではなくして、まずめどを与えましたのは、三十一年度予算関連して健康保険財政収支のバランス並びにその正常化ということを目標にして当面の作業をやっていただきたいけれども、しかし、そのことにとどまらず、ここ数年先の社会保障計画というものと十分関連をしつつ恒久的な対策をしていただきたい。あえて数年と切りましたのは、今後わが日本経済の諸情勢が、いかなる進展を見せるかもはかり知れず、それほど先のことについては、見通しもつかないと思いますので、三十一年度予算中心にして、その後に起ってくる諸情勢をも見通して、ここ数年にわたる健康保険財政を健全にするための回答をしてもらいたいという考え方で進んでおりますので、厚生省から、一方的に案を出してこれに引きずり込むとか、あるいは押えようというような考え方は持っておらぬのである。従いまして、ただいま膨大な資料要求を、七人委員会厚生事務当局にいたしてきておりますけれども、厚生事務当局のこれに対する解決案を提示するというようなことについては、いまだ要求はありません。
  13. 野澤清人

    野澤委員 かつて私は、七人委員会厚生大臣の隠れみのだと言うて暴言を吐いたわけですが、今お話を聞いてみると、ますますその感を強ういたします。今度のこの根本対策というものに対しての大臣の認識と、また施策とから考えてみますと、内部の解剖、対策等に相当強力なメスを入れらるべきが至当であると考える。ところが、期待されたこの七人委員会というものは、名前だけがいわゆる大臣の諮問機関であって、実際は各種委員会審議会と同じように、単に大臣が架空な一つの課題といいますか、ばく然としたものを与えて、そこで根本策を練ってこい。しかも、今お伺いしますと、三十一年度予算編成に対する赤字解消の根本策だ、こういうことになってきますと、あなたが意識しておられるこの健康保険の根本策という理念が、医療費増高ということであると御自分でおっしゃられておりながら、しかも七人委員会に対しては、全くフリーの立場で臨む、膨大な資料要求されて、何カ月かかってこれがまとまるかわからぬが、そのものを採用する、しないは、またあなた方の立場からも考えるだろうと思う。そうすると、現在たびたびあなたが指摘しております医療費の増大に対しては、たとえば医師の不正診療があるとか、あるいはまた抗生物質ができたために医療費増高を来たすとかいうことを、再三再四委員会あるいは本会議等でるる述べておられるのですが、こうした問題に対して、実際に現在の政府は手を入れて正常なものにする御意思があるのか、この点をお聞きしたいと思います。今のようなお話ですと、川崎厚相は、全く七人委員会におまかせをしてしまって、その結論が気に入る気に入らないは将来の問題だ、こういうことだというと、せっかく期待した川崎厚相の行政手腕というものに対して、国民は失望せざるを得ないのでありますが、この点に対してはっきりした所見をお伺いしたいと思います。
  14. 川崎秀二

    川崎国務大臣 いろいろの角度から御質問がありますので、私は一貫してお答えをいたしますけれども、七人委員会に対しまして、厚生省が一方的に押しつけたり、素案を出したり、原案を出して、これをくぎづけにすることはないとは申しております。しかし、私が国会におきまして、すでに進行中の健康保険の御審議を願っておったり、あるいは本会議における質疑応答に現われました考え方によりまして、かなり七人委員会委員方々も、私個人の考え方というものに対しては承知をされておりまして、その意思を十分含んで解決に当るということも申しておられるのであります。また中には、川崎は今回の昭和三十年度予算関連しての赤字対策で、一応の解決をしておいて、七人委員会が今後やれといっても、大体あの線に沿ってやらなければならないような、大体のシュプールを書いておいて、その跡を追うような対策じゃごめんこうむるというようなことを発言されている有力な委員もあるわけでありまして、その間の事情は、十分におくみ取りをいただけるものと私は考えるのであります。
  15. 野澤清人

    野澤委員 それでは、具体的な問題に入りますが、医療費増高に対して、先ほども申し上げましたように、大臣保険医の乱診乱療や不正診療が、あたかも社会保険赤字を出す要因であるというような発言を、しばしばやられておるようでありますけれども、過般この委員会で、滝井委員の質問に対して久下局長は——大臣がいなくなってからの答弁でありますけれども、健保の赤字の原因としては、この乱診乱療とか不正診療は、決して赤字の主たる要因ではないかのごとき答弁をされておるのであります。そうして一昨日ですか、参議院で厚生大臣が述べられたのにも、医師の不正事実ということを指摘しておる。それから保険局長の方からは、それは要因でない、こういう答弁です。そうしますと、現在社会常識として、あたかも今度の赤字の原因というのは、医者が悪いのだというように国民は理解しがちなのですが、ここのところは、大臣自身としてどういう御見解をとるのか、お伺いしたいと思います。
  16. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これははっきりお答えいたしますが、私はこれを主たる原因と申したことはございません。久下局長がどのような答弁をいたしたか知りませんけれども、やはり一番大きな原因は医療費の増大であり、その増大は、国民が早期治療というものに目ざめて医療の機会を進んで自分から発見する、つまり、早期治療に自覚したということが第一の原因であり、第二の原因は、やはり医療給付費が増大をした要素を考えてみますと、その要素の一番大きなものには、肺結核に対する薬の問題、抗生物質採用の問題が、たとえば昭和二十五年の統計によると、一〇〇%に対してわずかに一・八であったものが、二十七年には二八%、三十倍に近い数字を一挙に示しておるというようなところにあるのが、何といっても第一、第二の原因ではなかろうかと思います。もとより、この保険医の問題あるいは不正受診の問題等も、決して看過すべからざる大きな要素ではあると思っておりますが、もしこれをランクをつけて申せというならば、これはやはり四番目、五番目の問題でありまして、第一番目あるいは第二番目に類する問題ではないのではないか、私どもはこういう考えをいたしておる次第であります。
  17. 野澤清人

    野澤委員 だんだんはっきりしてきますが、大きな要因ではあるが主たる要因でないということは、これは言葉のあやでありますから、つつしんで拝聴しておきましょう。  そこで、今回の健保の改正反対理由にも、根本対策ということが指摘されておりますが、どの団体もこういう点が欠陥があるのだ、こういうところに根本問題があるのだということの指摘は、北較的少いのであります。そこで日本経営者団体連盟が五月三十日の意見書に明らかにしてありますことは、比較的具体的問題に入っておりまして、その間にこういう文句があります。健保財政が今日の危機を招くに至ったのは、乱診乱療、不正診療等の弊害を生ぜしめている保険医制度、診療報酬制度、監査制度等の不備欠陥にあることは周知の事実であると示されております。この点に関して、厚生大臣は、周知の事実であることを率直に認められますか、この点明らかにしておきたい、簡単でけっこうです。
  18. 川崎秀二

    川崎国務大臣 それは認めます。
  19. 野澤清人

    野澤委員 率直に認められるということであって、しかも主たる原因ではないが大きな要因であるということをお答えになっておりますが、これはお医者さんにとっても、非常に重大な問題だと思うのでありまして、滝井君のこの間の質問に対しまして、私自身も拝聴しておったが、この不正診療や不正請求というようなものが、もし大きな問題でないとするならば、今度の条文改正に特にこれを取り上げたということの意味がないと思うのです。それで、重要なポイントであるという考えのもとに、今度の第六十七条の改正案等を政府が出されたと思うのですが、いろいろな要因のうちで第四番目か第五番目につくと大臣は説明されながら、料率引き上げと並行して、今度の保険医監査を厳重にする問題を取り上げたというところは、むしろ大臣のお考えと矛盾しておるような感じがいたしますが、この点はいかがでございますか。
  20. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは御承知のように、今度監査に関する強権を発動するような改正も一部行なっておりまして、これが先ごろの委員会におきましても、相当御議論のあった点であります。もとより、これは取締り法規の関係において処理をされるような処罰的な規定ではありませんけれども、しかし、とにもかくにも立ち入り検査を行うということを、従来の規定の仕方が不十分でありまするから、はっきりいたしました。この点に対しては、やはり相当な効果も上ってくるものと考えますから、決してこのことを等閑視したということにはならないと私は考えておるのでございます。
  21. 野澤清人

    野澤委員 せっかく監査を厳重にして、立ち入り検査等も実施されるというその意図はよくわかるのですが、すべて法律を運用する際に、単に処罰だけを先にきめてしまったり、あるいは監査の厳重な方法をきめてしまったりして、その大もとに手を入れないということは、これは片手落ちじゃないかと思うのです。たとえて申し上げますと、乱診、乱療の根本というものは、たとえば抗生物質の乱用度が多いとか、あるいは軽度の病人、傷病人に対して、薬物の乱用の度が大きいとか、あるいはまた注射薬の乱用度が多いというように、いろいろな要因があると思うのですが、こういうことについて、政府は真剣に検討を加え、対策をする御意思があるのかどうか、こうした点についての御見解を明らかにしていただきたいと思います。
  22. 久下勝次

    ○久下政府委員 だいぶ具体的な問題になりましたので、私からお答え申し上げたいと思います。御指摘の医療の内容に触れました規制をするということにつきましては、事柄の性質上、なかなかむずかしい問題でございますが、しかしながら、すでに御案内の通り、抗生物質の使用基準でありますとか、あるいは結核治療指針でありますとか、性病治療指針でありますとかいうふうに、各種の医薬品を対象にし、あるいは疾病を対象にいたしまして、合理的なむだのない治療方針というものをきめて、これを取り入れて全国の保険診療の基準として指示をいたしておるわけでございます。御指摘のように、そういうものがありますのは、現在まだきわめて部分的でございまして、その他のもの一般には、いわゆる療養担当規程というものによって、きわめて抽象的な規制の仕方きりしていないわけでございます。そういう意味合いにおきまして、私どもの内部議論といたしまして、漸次この合理的な医療の基準というものをきめていく方が、お医者さんのためにも便宜ではないかというような考え方から、そういう方向に今検討を続けておる次第でございます。なお、私どもとしては、特に新しい薬品が発見されました場合に、これを健康保険に取り入れます場合には、全国のお医者さんに対して、適正な使用基準をお示しする方が適当であるというようなこともございますので、そういう問題については、随時医学会あるいは歯科医学会等に諮問をいたしまして、その答申に基いて、ただいま申し上げたような合理的な基準を定めておるわけでございますが、方向といたしましては、これを漸次拡大して、医療の根本的な現在の方針に沿って、しかも内容的には合理的なものにしていきたい。言葉をかえて申しますと、いわゆる基準診療でありますとか、企画診療というような言葉が最近盛んに使われておりますが、そういう方向に進める考えでおるのでございます。
  23. 野澤清人

    野澤委員 具体的な問題ですから久下局長でけっこうでありますけれども、今のお話は、大体そういう方向に進むという考えだけはわかりますが、先ほど大臣に質問いたしましたように、七人委員会に大きな期待を持っておったが、内部の解剖はほとんどされないというように、考え過ごしかもしれませんが、われわれは善意に解釈する。さらに久下局長のお話を聞くと、治療指針や何かを出して、一つ一つ新しい薬物等についても考えを及ぼしていきたい、こういうお考えでありますが、私は現在のこの保険医療の実態の中で不思議に思うことは、この医療費の算定等についても、当然でありますけれども、保険医療に使いますこの薬物の選定というものがどういう基準でやられているか。少くとも軽費診療でなるべく早く患者をなおしたいという考え方からいきますれば、薬物というものは、ある程度まで整理をされていかなければいけない。ところが、年々ふえてきます。昨年が二千九百種類、本年が三千三百種類というように、自然に増加していく傾向にあるということは、どういう意味でありますか、またどういうお考えでふやしておりますか、この点をお尋ねいたしたいと思います。
  24. 久下勝次

    ○久下政府委員 健康保険に使います医薬品は、薬価基準に登載され、その価格が定まることによりまして実際に使われるのであります。そういう意味で、ただいま御指摘のような品目が、現在薬価基準に登載されておるわけであります。御指摘のように、これをしさいに検討いたしますと、私どもだけの考え方としては、相当整理ができるのではないかということで、実はまだこういう席で申し上げるような段階には立ち至っておりませんけれども、内部におきまして関係局と打ち合せをしておるような次第でございます。特にいわゆる合剤のようなものにつきましては、むしろ一時は奨励した方がいいのではないか、その方が経済的ではないかというような考え方で採用されましたが、その実際の経験によってみますと、必ずしもそういう合剤を採用することが、個々の成分を別々に使う場合と比較して、全体から見ますと経済的ではない、治療効果からいっても、別にそういうことはプラスにならないというようなことが、実際問題として多いように聞いておるのでございます。そういう意味も含めまして、実は薬価基準の内容につきましては、私どもとしては、今御指摘のように、こういう普通の品目をあげておくことは、決して合理的でないのではないか、医療の目的から申しましても、ある程度の整理は可能ではないかというような考え方から、今内部的に相談を進めているような段階でございます。
  25. 野澤清人

    野澤委員 内部的に調査を進めておられるそうですが、この問題はおそらく、もう三、四年来の問題だと思うのです。それで内部的に調査を進めている、進めているというが、こうした根本的な問題についてほとんど手をつけずに、外郭だけのいわゆる政治工作だけをしていく、あるいは対策だけをとっていく、こういうことでは、いつまでたっても保険医療の堅実さというものは生まれてこない。そこで、むしろ外郭的な問題と内部の問題と、賢明な川崎厚生大臣に、新しい感覚でもってこうした問題についても積極的に一つ解決するような方針を立ててもらう、そうすることによってこの赤字対策がかなり基本的に解決されていくのではないか。たとえて申し上げますと、私どもが民間にありますときに、全国の開業医のところに納品をしております問屋から、二カ年間の納品の実態調査をしてみた。そうしますと、その統計から生まれてきますものは、当然それは薬質にもよりましょうが、一番少いところで、二カ年間に買われた薬品の種類が二十六種類というのが最少であります。一番多かったのが二百三十種、この程度で各開業医の方々がまかないをしている。にもかかわらず、保険の方では三千三百種類も薬価基準をきめていかなければならない。ここに何らかの矛盾があり、あるいはまた認識上の錯覚があるのではないかというような感じがいたします。ただ広汎に薬物をきめて、医者の自由裁量にまかせていくという方がいいのか、少くとも軽費診療という建前からいきますならば、これは川崎大臣等も、外国を見ておられるからおわかりだと思いますけれども、たとえば完全な医療国営をしておるソ連の状況から見ても、一病院で二十種以上の薬品を備えておるというところは少い。従って、病気をほんとうになおすということからいけば、それは医療内容の低下だといって、お医者さんにしかられるかもしれませんけれども、少くとも基本になるものについては、たとえば結核の治療指針というようなものと同じように、逐次そうした改善の方途が行われてしかるべきではないか。これは一つの具体的な例をあげたわけでありますが、この薬価基準の問題にしましても、現在、それではこの基準をきめて薬種をきめるのに、政府はどういうような施策でこれを決定しておるか、つまり、私の感じますところでは、局長あるいは課長というような立場から民間の意向を聞いて、単に政府の一方的な意思決定でこれがなされていくように感じられますが、民間団体あるいは各団体の代表者と納得のいく話し合いをしてきめておられるかどうか、この点お伺いしたいと思います。
  26. 久下勝次

    ○久下政府委員 まず前段のお話でございますが、おそらく個々の病院なり診療所なりを調査いたしますれば、確かに、お話のようにきわめて限定されておる医薬品しか使われていないのが現状であろうと思います。しかしながら、個々の病院、診療所なりによって内容は違って参りますので、現在の医療制度の上から申しまして、その辺を極端なところまで規制することは適当ではないと思うのであります。そうかといって、各お医者さん方が自分の好みで使う薬は、何でもかんでも薬価基準に登載しておくのだというようなことも、これまた私は行き過ぎであろうと思います。これはおのずから先生の御指摘になりましたような問題と現状との中間に、適当な線が引けるのではないかと私は考えておるのでございます。そんな意味合いで保険局の立場といたしましては、かなりこの問題につきましては、熱心な気持で交渉をいたしておる次第でございますが、なお外部との関係につきましては、この問題はやはり相当な影響を外部に与える懸念もあるようでございますので、その辺のところも担当局との打ち合せによりまして、そういうところを通じて十分意見を聞いてやるつもりでございます。独断的な措置はいたさないつもりでございます。
  27. 野澤清人

    野澤委員 これは大臣にも薬務局長にもお尋ねしたいのですが、薬務行政から見て、品種を選定したり、薬価の基準をきめたりしますのに、最近のように中小企業が圧迫をこうむって逐次倒産のうき目を見ておるような現在の経済機構の面から見ますと、薬価というものはしょっちゅう変化をいたします。従って、一つの製品を出しても、合理化をしたために値下りをする、あるいはまた原料が安くなる、こういう問題から、かなり変化があるのでございますけれども、これらに対しては——よく医薬分業等の問題から話か出ます医療費増高ということは、薬品が高いからだ、こういうことをよく指摘される方があるのです。そういう面も多分にあると思いますけれども、少くとも薬価基準というものをきめる以上は、機械的に一定の期間を経るとスライドするなり、あるいは時価に換算されるというような方法を当然とらなければならぬ。ところが三千三百種もありますから、お医者さんも薬剤師も、こんな薬品があるのかというようなものまで中に入っておる。そうした行き方に対して、なぜ厚生省としては医師の代表、歯科医師の代表、薬剤師の代表というようなものを集めて、公開の席上でこうしたものについての審議をし、品種を減らす工夫をしないのか。どんどんふえる一方でありますから、局方品ならいざ知らず、それ以外の新しい注射薬は、ざっと数えても千七、八百種ぐらいある。こういった野放しの状態であって、一方保険監査を厳重にして医者を縛っても何にもならない根本対策というものは、外郭の七人委員会にたよるばかりが根本策ではない、もっと徹底した省内における根本対策が必要である。薬務局長から見れば、品種の多い方が業者のためによろしい、あるいは技術の発展のためによろしいという理屈がある。保険局長の方からすれば、むしろ少い方が整理上よろしいというように考えるかもしれない。そこで、線を引くということですが、省内であくまでもこの問題を取り扱っていくという問題について、厚生大臣はどういうふうにお考えになるか。これは非常にむずかしい問題でありますから、今即答されなくてもけっこうであります。機会あるごとに、よく両局長と御相談の上で、今後の薬価基準をきめたり、品目を選定する事柄について、もう少し民主的な運営の仕方が行われないかどうかということであります。お答えを願えれば大へんけっこうであります。
  28. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまお話を承わっておりまして、薬価基準の問題については、そのような実情があると考えるのであります。従いまして、省内におきまして、いまだ十分にこの健康保険関係の薬価にいたしましても、連絡の統制のとれておらない面もありますけれども、なるべく早く相互に連絡をいたしまして、そして民主的に薬剤師会あるいはその他の諸団体に御相談を申し上げて、話し合いをきめていくという方法も十分考えられますので、そういう方法につきましても、検討いたしてみることにいたします。
  29. 野澤清人

    野澤委員 なお、この際に承わっておきたいことは、保険監査をここ数カ年抽出監査でやっておるようですが、これについて、正確な数字がありましたら一つお示しを願いたいと思います。
  30. 久下勝次

    ○久下政府委員 昭和二十五年以来の数字がございますから、要点だけ申し上げておきたいと思います。  昭和二十五年におきましては医師が千八百八十四人、歯科医師が千二百三十四人、計三千百十八人の監査をいたしました、そのうち指定取り消しの処分をされたものは、医師、歯科医師を合せまして百五十九人であります。昭和二十六年におきましては、監査対象数は医師が千三百九十七人、歯科医師が六百七十八人でございまして、合計二千七十五人を監査対象として監査を行い、その結果指定取り消しの処分を受けましたものは百二十七名でございます。昭和二十七年におきましては、内容を省略いたしまして、合計千四百九十七人の保険医の監査を行いまして、百十五名の指定取り消しをいたしております。昭和二十八年においては、御案内でもございましょうがいろいろ問題がございまして、特に根本は監査要綱の改正などにからまりまして、あるいは一般的な風潮としても監査に対する批判が強くなって参りましたために、実際に監査を行いました総数は、二十八年においては四百八十七人に落ちました。そのうち指定取り消し処分をいたしましたものは三十八名という数になっております。昭和二十九年は、御案内の通り、秋ごろから、だいぶこの問題も従来と同じように当然やるべきだという考え方が出て参りまして、二十九年は全体で一千八十四名を監査対象として監査をいたしました。その結果百三十二名の指定取り消し処分が行われておる次第であります。なお、これらの処分のほかに戒告、注意等の処分がございますが、この数字は省略させていただきます。  そして、指定取り消し、戒告、注意等の処分を行いましたものに対して不正不当に医療費が支払われておりましたのを発見いたしました場合には、それぞれの保険医に対しましてその診療費の返還をさせておるのでございます。大体毎年五百万円から、多い年に八百万円くらいの返納をさせておる次第でございます。
  31. 野澤清人

    野澤委員 概数はわかったのでありますが、これに対して戒告をしたとか、注意をしたとか、また全然戒告も注意も受けない完全なものというようなパーセンテージは出ておりますか。
  32. 久下勝次

    ○久下政府委員 パーセントはすぐ出るのでありますが、ここに書いてございませんから、後ほど申し上げます。
  33. 野澤清人

    野澤委員 そこで、この保険医の問題について、日経連等の要求では、保険医制度の改正ということが強く叫ばれているのですが、保険医制度の改正ということに対する大臣考え方はどうでありますか。どういう点を改正しなければならぬというように各団体が考えているのか、一応お尋ねしたいと思います。
  34. 川崎秀二

    川崎国務大臣 保険医制度の問題は、いろいろ大きな問題を含んでおりまして、根本的な再検討を要する時期には来ておる、こう前提的に申し上げれば言えるのではないかと思います。現在の健康保険と医師との関係は、従来も、御承知のように自由開業医制度を前提として、個々の医師がその自由意思によりまして保険医療を担当する一いわゆる保険医療制度をとっておるわけでありますが、これは被保険者の選択の自由を尊重してとられた制度でありまして、医師の医療収入の半分以上が保険医療収入となっている現状におきましては、医師の生活問題と保険経済との関連におきまして、問題が非常に複雑になっております。健康保険のいわゆる単価問題といったような問題も生まれ、またその他の重要な問題も生まれておりまして、そういうような意味合いでは、今後保険医療制度をどうするかということに対する根本的な再検討をしなければならぬ時期には来ておると考えております。しかし、将来これらがわが国の社会保障制度の発達と関連をして、どういう方向に持っていくことが最もよいのかということになりますと、相当に議論があることと思います。たとえば、将来国営を目ざしていくことになれば、それはイギリスやその他のような例にはなりましょうけれども、今日の自由開業制度というものを基本にしたやり方で参りますと、保険医制度の問題に相当な斧エツを加えましても、なお基本をゆるがすことはできないということになりますから、これらにつきましては、各種意見がありますので、今回の健康保険赤字問題とも関連をしまして、将来においても十分に検討し、また各種審議会においても御検討を願いたいというふうに存じておるような次第でありまして、今直ちにこれをどうするかということにつきましては、こういう各方面の民主的な審議会意見を尊重して前進をする以外に方法はないと、私は考えておるような次第であります。
  35. 野澤清人

    野澤委員 保険医制度の問題についての大臣考え方も、ばく然とわかるわけでありますが、この問題が長い間、よく正式に論議の中心にはなっても、決定的な意見がまとまらないということは、大臣の指摘された通り医師の生活権の問題が中心となりますから、そうどなたも軽卒には意思の発表ができないのだと思いますので、これは当然漸進的に改革をされなければならぬ問題だと思う。ところが反面、今度は社会保険というものがどんどん拡大強化されて、たとえば国民健康保険のようなものが、全国民がみな被保険者になるというような事態が今日想定されておりますし、すでに政府の補助金が二割出るというような事柄から、各市町村でどんどん国保の拡充強化ということがはかられておりますが、これによって弊害をこうむり、また圧迫をこうむる薬局の階層があるということを一応お認め願いたい。現に昨年仙台市あるいは福島県等で、国民健康保険が施行されて以来の小売り薬局の売り上げというものが、はなはだしいところでは六割、少いところでも三割の減少を来たしておる。そうしますと、これはそうでなくとも雑貨屋にひとしいといわれるほどみじめな現在の薬局形態から、医薬分業問題を別にいたしましても、この社会保険の発達普及というものの影響をこうむるのは、小売商である薬局の経済に大きな響きを持っておる。従って最近は、各地からこの陳情や意見書等が出ておりますし、すでに仙台市では、二軒薬局がつぶれております。こういう事態を考えてみますと、保険医制度に対しては漸進方針をとるということもよくわかりますが、すでに虫ばまれていくところの現在の薬局形態というものに対して、厚生省は今後どういう助成をされていくのか。三年も前から薬局の基準というものを示されて、少い店でも十五万から二十万の金をかけておる、こういうような状況であります。しかも期待して、りっぱにガラス張りにはしたが、どんどん社会保険のために売り上げが減少していく。やけどをしても、今までは買い薬でやったものが、全部保険医ところにかけ込んだ方が安くなる、こういう事態になってきますと、薬局だけで約二万、また薬種商等の業者を含めれば約四万の業者というものが、逐次これらの政府の施策に伴って圧迫をこうむっていくわけです。こういう問題に対して、政府自体はどういうお考えをされておりますか、大臣でなくてけっこうですから、お伺いしたい。
  36. 高田正巳

    ○高田(正)政府委員 保険医の制度が普及をして参りますと、薬局並びに医薬販売業者の営業状態に影響をするということは、私どもも承知はいたしております。ただ、今御指摘のように、六割あるいは三割というふうな非常に甚大な影響を及ぼしておるという数字的な点につきましては、大へん申しわけないことでございますが、私どもまだ十分な調査をいたしておりません。従いまして、これが対策についていかに考えておるかという御質問でございますが、正直に申し上げまして、その実態を十分に把握をいたしておらないのでございますので、これが対策につきましても、確たる具体的なものを今持っておりません。この点は、はなはだ申しわけないと存じます。ただ、私は概論的に申しまして、保険医制度が普及をいたしていくということは、これは喜ばしい、国としてそちらの方向に行かなければならぬ方向だと存じます。従って、それによって薬局の営業状態に非常なる影響を及ぼすということであるならば、その保険の運用そのものについて、ある程度今後いろいろなやり方の検討というふうなものが必要になってくるのじゃないだろうか、それとあわせて、薬局に対するいろいろな援護助長策というふうなものをあわせ講じなければならぬ、後者だけではとうていこの傾向は十分なる対策として成り立ち得ない、こういうふうな大体の気持を持っておるのでありますが、申し上げましたように、的確なる対策を今日申し上げられないことをはなはだ遺憾といたします。御了承願いたいと思います。
  37. 中村三之丞

    中村委員長 野澤委員に御了解を得たいのですが、厚生大臣は十二時半までということで、午後また出席するそうでございます。どうぞそのおつもりでお願いいたします。
  38. 野澤清人

    野澤委員 大臣がお忙しいようですから、大臣への質問を先に申し上げます。  今回は、社会保険中心にしたいろいろな保険法の改正等が行われておりますが、再三再四お願いしております駐留軍要員の健康保険の問題です。この間も山花君への回答で、大体了承はしておるのですが、すでにこれに対して手を打たれたかどうか、この点お尋ねしたいと思います。
  39. 川崎秀二

    川崎国務大臣 駐留軍要員の健康保険関連をいたしまして、先般御答弁を申し上げました以上のことを、この際この席上を拝借いたしまして、経過を御報告申し上げておきます。  先般来、この問題がようやく軌道に乗りまして、ジョイント・コミティ、合同委員会におきまして連絡をいたしておったのでありますが、しかして十六日の合同委員会におきましては、大体アメリカ側におかれましても、日本側の主張をやむを得ないものと認められるような雰囲気があったということを承知をいたしたのでありますが、その後再び根本問題にさかのぼって、昭和二十六、七年以来の財政状況について検討するというようなことを言い出しましたために、問題の解決が再び頓挫をするような傾向を見せて参ったのであります。その後福島調達庁長官から、こういう段階になれば、監督者である厚生大臣に、ぜひ極東軍参謀長を御訪問いただいて、自分も同道をして折衝してみたいということでありました。昨日午前十一時三十分、私は福島調達庁長官とともに市ケ谷の極東軍司令部を訪れまして、参謀次長ゲーノー少将なる人にお目にかかり、その他幕僚、政治顧問等をも同席されまして、種々御相談を申し上げたわけであります。  その際、当方といたしましては、従来この健康保険組合は、保険料率千分の五十による保険料収入で財政経理をしておるが、医療保険全般に共通する医療給付費の急激な増加によって、従前の保険料率をもってしては収支のバランスが取れない事態に立ち至っておることを指摘いたしまして、ことに両三年前までは、駐留軍健康保険組合は財政上におきましてとかくその処理に不適当なこともあったことを米軍から指摘されておりましたことについては、この際監督者としても率直にこれを認めるものである。しかしながら、最近駐留軍の健保組合の理事長になられた桜井氏の就任以来、健康保険組合が非常に健全な姿に立ち返りまして、今回は健保組合自身の決議によって千分の五十を五十八に引き上げようという自主的な努力もうかがわれておるにもかかわらず、米軍がこれを受諾しないということは、日本国民全体に与える影響からしてどういうものであるかということを前提として話し合いをいたしました。その際私が指摘いたしましたのは、第一に千分の五十から五十八に引き上げたにしても、これは日本における健康保険料率では最低のものであるということが一つ、第二は、たとえば財政状況の悪い政府管掌健康保険組合は、この際厚生大臣の権限において料率を千分の六十から六十五に引き上げることといたし、世論の一部には非常な反対があるにもかかわらず、それを実施しなければならないほど、今日日本の各会社保険組合の財政状況もよくないのである。それは医療費が非常に増大したことによるのであるから、やむなくとった措置であるけれども、千分の六十五に一般がなっておるのにもかかわらず、駐留軍の健保組合はわずかに千分の五十などということで、米軍が健康にして文化的な生活を駐留軍健保組合だけには与えないということを意味するのではないかということを前提にいたしまして、種々お話を申し上げました。 しかして、もし六月中にこの受諾がいただけないときには、厚生大臣としては千分の五十八に対する組合の決議が妥当なるものとしてこれを認めざるを得ない。その際において政府の部内において、たとえば大蔵省などが多少反対の向きもあるけれども、厚生大臣としてはその方針をもって当るつもりであるということを明確にその際申したのであります。  しかして、これに対しまして、参謀次長はあまり所見を申されませんでしたが、政治顧問から種々の技術的な質問が福島調達庁長官にありまして、最終的に二週間ほど延期をしてくれという話がありました。ジョイント・コミティの決議を出すまでに、相当に研究をする時間が要るからということでありましたのを、さらに押し返しまして、昨年以来この問題について討議をしておって、さらに二週間ということは、われわれとしては納得することができないから、来月一日になればこれに対する措置をしなければならない。二週間たたなければ結論が出ないということで延ばされるのはけっこうであるが、その二週間分の賠償は米国側において支払うべきものであるというようなことまで申しましたところ、最終的には七月の一日までに返事をするという、最後には非常に好意のある態度に出てくれたのであります。  従って、ここでもう少し詳細に申し上げれば、さらに御納得がいただける折衝の内容を発表いたしてよろしいとは思いますが、事は両国の信頼と友誼にも関する問題でありますから、私は相当線を越しまして、ここにはこまかに申し上げましたが、要するに七月一日までに回答するということであります。しかして、もし千分の五十八を認めなくても、政府はそれに対する措置をするということも十分承知をいたして、そのことの受諾をいたしておりますので、今回は、従来のごとき遷延を重ねておったような態度をアメリカ軍当局がとることはなかろうかと思いますが、もしとることにおいては、私の責任問題も惹起をいたしますので、従いまして、必ず何らかの回答は七月一日までにあるものである。その何らかの回答は、予断を許しませんけれども、今日の千分の五十の比率ではとうていやりきれないものであるということは、アメリカ軍も承知しておるというような状態であって、あるいは何らかの条件を付して回答をしてくるのではなかろうか、こう大体の予測をいたしておることも織りまぜて、ここに昨日の会見のてんまつを御報告申し上げた次第であります。
  40. 野澤清人

    野澤委員 時間もだいぶ経過しておりますので、もう一言でやめておきます。今の駐留軍要員の健康保険の問題ですが、こうした問題も、やはり今後の日本の健康保険等の発展の一つの障害になると思うのでありますが、大臣の御尽力に対しては、実際に敬意を表します。また七月一日の回答を得た上で何らかの措置を講じられる意味もよくわかりましたが、重ねてお願いしたいことは、善処していただくと同時に、一日おくれれば一日上げた料率で徴収ができない、こういうことが原則でありますから、せめて七月一日の返事がよい返事であろうと、あるいはこちらの要望することに合わない御返事であろうと、今のお話の筋道から申せば、当然千分の五十八というものを暫定的に厚生大臣が認可するというところまで了承しても差しつかえないと思うのでございますが、この点どうぞ万遺漏なきよう御善処願いたいと思います。
  41. 川崎秀二

    川崎国務大臣 承知いたしました。
  42. 中村三之丞

    中村委員長 午前中はこの程度にとどめまして、午後二時半まで休憩いたします。    午後零時三十一分休憩      ————◇—————    午後二時五十八分開議
  43. 中村三之丞

    中村委員長 休憩前に引き続きまして会議を再開いたします。  社会保障関係法案を議題とし、質疑を継続いたします。岡本隆一君。
  44. 岡本隆一

    ○岡本委員 先日来の論議によりまして、健康保険赤字の原因がだんだんはっきりされて参ったと思いますが、今度の改正案を見ますときに、その改正案の内容というものが、改正と銘打っておりますものの、これを政府の立場、被保険者の立場、事業主の立場、そういうふうなおのおのの観点があると思うのでありますが、被保険者自体の立場に立って考えていくときには、被保険者に取ってはマイナスになることが非常に多いというよりも、マイナスになることのみであると思うのでありますが、どういう点が被保険者に取って改正になっているかという点を、一つ大臣からお教えを願いたいと思います。
  45. 川崎秀二

    川崎国務大臣 今回の健康保険法改正は、健康保険保険財政を立て直すための措置でありまして、ことに保険改正のみに重点を置いてこれをながめるということは、間違いではないかと思っておるのであります。すなわち、その背景を考えますときには、御承知のごとく、本年の赤字に対しまして、国家責任ということを年度当初において明らかにいたしたのであります。すなわち、従来まで放置されておりました赤字対策に対しまして、責任と一応の区切りをつけるために、御承知のごとく、従来の四十億の赤字並びに本年の六十億の赤字に対しまして、国は十億の国庫負担を含んで七十億の責任を明示したわけであります。従って、赤字について三分の二以上の数字を国家が直接ないしは融資の措置によりまして責任を負った以上、一方において保険料率の引き上げ並び健康保険法改正を伴う標準報酬引き上げをいたしたのでありまして、その意味合いからいたしますれば、健康保険法改正の部分は、明らかに今日の保険財政の危急を救うためにとったやむを得ざる措置でありまして、保険者自体に取って好ましい措置であるとは、私、断じて思わないのであります。もとより率直に申しまして、この法律は十分に向上のあとを示したものとは思っておりません。思っておりませんが、それらの一連の措置を通じて考えられますときには、これが当然の今日の対策であるということに、御結論がつくものと私は考えるのでありまして、そのような意味合いで出しておる法案であるということを、十分御承知を願いたいと思うのであります。
  46. 岡本隆一

    ○岡本委員 赤字の補てんに対して、国が本年度予算に十億、さらに来年から後もその程度のものを見ていくつもりである、それによって国は赤字補てんの責任を取る、国がその程度責任を取った限りにおいては、被保険者の方もそれに協力してもらわなければ困る、だから料率も値上げしてもらわなければいけない、こういうような御意見に取れるのでありますが、そうでありますか。
  47. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまのように御解釈をいただいてけっこうでありますが、一そう付言をいたしますならば、明年から十億ずつさらに計上するということは、一応本年の予算に対しまして考えた措置でありまして、明年からはあるいは私の主張の通り一割の国庫負担が実現することになるかもしれませんから、そのときにおきましては、事情はさらに一そう変化をいたすものと考えておるのであります。従いまして、保険料率の引き上げというものは、保険財政確立のためにやむを得ざる措置であると感じ、さらに充足的措置といたしまして、いわゆる保険財政を一そう充実をさせ、予備費まで持とうということになりますれば——予備費を持たない保険財政は、どこの財政体系におきましても、非常に健全なものとは申せませんから、そのような意味合いで、標準報酬ワク引き上げたということに相なっておるのであります。
  48. 岡本隆一

    ○岡本委員 今までできた赤字のよってくる原因というものを、この際もう一度考えてみなければならぬと思います。社会保障制度審議会の報告書を、大臣もごらんになったと思うのでありますが、この審議会の報告書の中にもはっきり書いてあるわけであります。報告書の冒頭には、優秀な科学療法剤の出現に伴い、結核治療は著しい進展をした。さらに結核治療に要する費用の点から見ても、最近における社会保険医療費及び生活保護法における医療費に占める結核医療費の逐年の増高は著しいものがあり、これら制度の財政を脅やかす最大原因ともなったというふうに、はっきりとこれを指摘しています。  さらにまた、その結核対策の強化改善に関する勧告の中にも、今日結核の医療費は個人の経済でまかなうことはほとんど困難である、またその性格からいっても、社会問題として考慮すべきである、従って国の責任のもとにすべての国民が協力してその解決をはかるような態勢を確立する必要がある。こういうふうにいたしまして、そうしてこの保険財政赤字の原因というものが、一番大きく結核治療費に食われておるということは、すでに大臣もお認めになりましたし、さらにまた各方面の意見がこれに一致しておるように思われるのであります。そこで、結核治療の給付額は、現在保険財政の中でどれほど占めているかという数字をお示し願いたいと思います。
  49. 川崎秀二

    川崎国務大臣 久下政府委員から答弁いたさせます。
  50. 久下勝次

    ○久下政府委員 昭和二十八年十月の診療につきまして、政府管掌健康保険で相当精密な調査をいたしたのであります。その後は、今年やっておりますが、まだ集計が集まっておりませんので、一番新しいものとして当時の数字を申し上げたいと思います。まず入院につきましては、総入院医療費の六二%を被保険者分で占めております。被扶養者分では、被扶養者に支払います入院医療費の四二%が結核分であります。それから入院外におきましても、被保険者分では、入院外総費用の一八・九%が結核でございます。被扶養者分につきましては、同じく被扶養者分の入院外医療費の一七・三%を占めております。全体として申し上げますと、政府管掌健康保険の総医療費のうちの結核の占める割合は三六・四四%でございます。
  51. 岡本隆一

    ○岡本委員 私のお伺いいたしたいのは、健康保険ができました当時、あるいはまた戦争直後はパス、マイシンあるいは胸郭成形というふうな非常に大きな経費の伴う治療法というものはなかった。当時、もちろん収支は均衡でありませんが、当時の健康保険財政のバランスと、優秀な、また経費のかかる治療法ができた後における健康保険財政のバランスを比較して、どれだけ結核治療費が保険財政の上に影響を与えているかという数字であります。
  52. 久下勝次

    ○久下政府委員 全般的に申し上げますと、昭和二十八年十月の数字を、さっき比率で申し上げたのでありますが、金額で申し上げますと、昭和二十八年十月分の総医療費は十九億一千二百万円であったのでございますが、そのうち結核に支払いました金額の合計は六億九千六百万円であります。  もう一つ御参考に、いろいろこまかい数字がございますけれども、結核に使われております内服薬及び治療、注射料のうち、先生御案内の通り、一番多いのは内服薬ではパスでございます。また注射料ではストレプトマイシンでございますが、この分を、同じ年の二十八年十月に精密調査をいたしました結果を御参考までに申し上げてみたいのですが、まず入院の被保険者分について一応御参考に申し上げることにいたします。内服薬全部の四〇%がパスでございます。それから全注射薬の三四%がストレプトマイシンでございます。こういうふうに内服薬におきましても、また注射薬につきましても、いずれも結核の主剤でありますパス、ストマイが、それぞれ最も大きな部分を占めているのでございます。
  53. 岡本隆一

    ○岡本委員 私がお伺いしたいのは、結核の治療方針というものが大きな転換を見ましてから、結核患者の罹病日数というものが非常に長くなるために、結核治療費というものは多くなる。それともう一つは、罹病日数が長くなって、しかも一方で高価な治療方針がとられていくために、またその上に上積みされていく。そういう一連の結核治療費として見積られるべき金額が、年間およそ幾らほどに厚生省は見積っておられるか。またその見積りの上に立たなければ、保険財政の正当な将来の方針というものは立ってこない、こういうことを考えるものでありますから、それをどの程度にお見積りになっていらっしゃるかということを、私は承わっているのです。
  54. 久下勝次

    ○久下政府委員 私どもが先ほど申しましたように、断面的な精密な調査をしておりますものは、政府管掌の保険分だけでございまして、その他の一般医療につきまして結核の占める割合というものは、それほど正確な資料を持っておらないのでございます。
  55. 岡本隆一

    ○岡本委員 政府管掌だけでけっこうです。
  56. 久下勝次

    ○久下政府委員 政府管掌だけで申し上げますならば、先ほど申し上げたように、三六%が結核のために使っている費用でございます。従いまして、昭和三十年度の療養給付費の見込み総額が政府管掌では三百九十億でございますから、約百五十億をこえると思いますが、三百九十億の三六%は結核に使われる、こういうふうに見ていただいていいのではないかと思います。
  57. 岡本隆一

    ○岡本委員 そういう数字ではちょっと補促しがたいと思うのでありますが、しかしながら、数字がなければ、そういうものによって見ていかなければならないと思います。しかしながら、そういう問題については、厚生省も、結核治療方針が変ったために、保険財政の上にどの程度の影響を与えているかということを、一つ十分調査してみていただきたいと思います。それがまた、将来の保険財政の立て直しの上に大きな資料でなければならない。おそらく二、三百億というものは、結核の治療方針の転換のために、単に療養の給付だけでなしに、今度はそれに傷病手当金がついて回る。だから、今までですと、割に早くどんどん死んでいったその結核の患者さんが、死なないためにどんどん累積していく。累積していくから、それだけ三年間の療養期間一ぱい傷病手当金は出さなければならない、それからまた、その間の療養費というものも要る、しかもそれが高価につくというふうになりますと、私はおそらく今の百九十億というようなことでは絶対にあり得ない。結核の治療のために、従来よりもより重なってくるのです。傷病手当金を含めまして三百億、四百億という膨大なものが重なってくるのではないか、そういうふうに私は考えております。しかも、そういうふうな大きな治療費というものが、保険財政の中で結核のために食われるようになっておるのに、それに対して国が一向それを見ようとしないのは、どういう理由に基くものであるかということを、今度は一つ大臣からお伺いしたいと思います。
  58. 久下勝次

    ○久下政府委員 ただいまの問題は、私からお答え申し上げます。私どもは、健康保険につきまして国庫負担をなすべきであるという要求理由としては、ただいま先生御指摘のようなことを、強く主張しておるものでございます。ただしかしながら、一応国の制度といたしましては、結核に対しては、部分的ではありますが結核予防法の公費負担制度というものがございます。少くとも制度としては、予防法は先行するという考え方でございますが、遺憾ながら、今日のところまだ結核予防法で公費負担の行われます診療行為は、限定をされておりまして、一番金のかかる入院料については、何ら見てもらっておらないような実情でありますので、そういうものは健康保険なりその他の制度がかぶって、あるいは国民が背負っておるわけでございます。そういう意味で、一方におきましては公費負担制度の拡充ということで、今の制度の建前から申せば参らなければなりませんと同時に、その他の大きな負担を、御指摘のように社会保険で背負っておるわけでございますから、そういう意味で、こういう社会的な疾病について国が負担をすべきであるという、大臣が常々申し上げております国庫負担理由としては、有力なものであると考え、その必要を感じておるものであります。
  59. 岡本隆一

    ○岡本委員 今、結核予防法の公費負担の問題が出ましたが、現実的には、結核予防法は健康保険の被保険者については、ほとんど公費負担しておりません。私どもから許可申請書を出しましても、健康保険の被保険者に限っては、ほとんど不承認になって返って参りまして、ほとんどの金額というものは、全部健康保険負担するというのが現状です。従って、国の出すところの結核予防法に対する金が少いために、結核予防法で当然やらなければならないように法律で義務づけられておる金額を、全部といっていいほど健康保険で肩がわりしておるのが今日の現状です。従って健康保険は、結核のために非常に大きな圧迫を受けておる。その圧迫に対して何らの措置も講じておられないために、保険財政赤字というものが現実に急激に上昇してきた。また健康保険赤字のできたところの時期を見てみましても、またその額を見ていきましても、ちょうどパス、マイシンの使用、あるいはその結核治療の大きな転換と一緒にずっと上ってきておる。そういう点から考えていったら、結核に対してさえ十分な措置がとられたら、健康保険赤字というものは問題とするに足らない、完全に解消する。そういうような点に目をおおっていられるという点について、私たちは非常に大きな不満を持つのでありますが、大臣はこれをどう措置するおつもりでいらっしゃるか、一つ意見を聞かせていただきたい。
  60. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは先ほど久下局長から申し述べた通りでありまして、今日結核予防法に基くところの公費負担というものは非常に少く、二十九年度におきましては、二億五千六百三十八万円というような少額でありまして、本年もまた同程度の数字しか織り込めなかったところに、今後幾多の問題が残っておることは御指摘の通りであります。従って、この際健康保険から結核を切りはずして、結核保険というものを創設して、結核に対しては国が負担をするような方向にしてはどうかという御議論もあり、われわれは世界の各国をながめてみますると、日本と気流の関係も温暖の関係も、あるいは土地の勾配も最も似ておるイタリア等の諸国が、すでに結核保険というものを創設しまして、約十四、五年前から営々として努力をした結果、最近においては、イタリアの結核というものは非常に数も減少したし、菌度の深い患者が非常に少くなったということは、先年同地をおとずれました際に、十分に見て回ったのでありまして、そういう点も参考にいたしておりますけれども、しかし、今日の日本の社会保険の建前からいたしまして、直ちに結核保険を創設することは、保険統合の建前からしていかがなものであろうかという点について、思案をいたしておるような状態であります。結局するところ、結核予防法の適用範囲を拡大する、すなわち手術というような問題にのみ、今日はそういうものを主点にして公費負担が行われておりますけれども、ただいま久下局長が申したように、入院の問題につきましても、さらに今後基準を拡大するということもありましょうが、今日の財政規模におきましては、直ちに国が結核に対して、予防法に規定しておるような、予防法の精神をそのまま実施細則にまで推し進めていくだけの余裕がないのでありまして、これは一に財政の規模というものが非常に圧縮されておるというところに原因があるとお考えをいただいてけっこうであります。しかして政府としては、わが国の財政経済が、いま少しく弾力性を持つようになりますならば、これらの点に対しても、十分な措置をするように心がけることができると思っております。  以上お答えになりましたかどうかわかりませんが、私の今日思っておりますことを率直に申し述べまして、ただいまの御質問にお答えとする次第であります。
  61. 岡本隆一

    ○岡本委員 おそらくその程度のお答えしかできないのではないかと想像していたのです。しかしながら、日本の財政のあり方というものの転換によっては、結核に対して、もっと十分な措置が講じられるはずである。従って、国の進む方針のいかんによるために、そのしわ寄せがこういうふうな結核対策の貧困策として出てきているのだ。従って、閣内にありましては、厚生大臣も今後とももっともっと福祉国家建設というスローガンを十分に生かすように一つ御努力を願いたいと思います。  そこでお尋ねいたしたいのでございますが、この結核対策の強化、改善に関する勧告の中に、結核療養担当者の再教育というのが問題にされております。これは非常に緊急かつ必要なことであろう。結核の治療方針というものが、近時急速に転換いたしまして、そのために、それに対して十分な指導教育の系統的なものを、今日の医師は受けておらない。おそらくそれぞれにおいて勉強しておられると思うのでありますが、しかしながら、やはりこれに対して一度系統的な再教育をする必要があるのではないか。そういうふうな点から見まして、政府はこの問題を近くお取り上げになって、早急に実施される御意思があるかないかということを承わりたいのでございます。
  62. 川崎秀二

    川崎国務大臣 審議会の勧告でありますから、この問題につきましても、十分に検討いたしてみたいと思っております。もちろん取り上げる用意はございます。なお、療養担当者の問題は、ちょうど担当の局長が来ておりませんので、詳細なことを申し上げるべきでしょうけれども、御猶予を願いたいと思っております。
  63. 岡本隆一

    ○岡本委員 そこで、私はもう一つその問題についてお伺いしたいと思うのであります。この医療機関の資質の向上は、再教育によらなければならないわけですが、もう一つは設備の改善が必要である。この設備の改善という点になって参りますと、現在のところ、民間医療機関は、保険財政のために非常な圧迫を受けまして、設備の改善をやるだけの余裕を持っておりません。従って、民間の医療機関が持っておるところのレントゲンの設備というものは、ポータブル程度であろうと思う、非常に貧弱なものしか持っておらない。従って、そういうふうな面におきましても急速に相当な設備を持たせろ必要があると思うのでありますが、そのためには、それだけの余裕を、民間医療機関に経済的な力を持たせていかなければならないと思うのでありますが、それについて、大臣はどういうふうな対策をお考えになっていらっしゃいますか。
  64. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまの問題は、差し迫った、ことに地方におきましては大きな問題になっていると思うのでございますが、これらにつきましては、中小企業金融公庫であるとか、あるいはそれらの類似機関におきまして、医療機関に対する金融に関しまして十分の措置を講ずるように、厚生省としても十分に通産省その他と連絡をとりまして措置をいたしたいと思っているような次第であります。
  65. 岡本隆一

    ○岡本委員 中小企業金融公庫のあることも存じておるのですが、しかしながら、それが非常に融資のワクが少いのでありますから、今日ではなかなかそれが十分に利用されておらないのみならず、中小企金融公庫から、かりに融資を受けて設備の改善をやったといたしましても、比較的短期間にこれを返済しなければならぬ。その返済の能力を、第一に医療機関が持たなければならない。五十万、百万の融資を受けまして、レントゲンの優秀な設備、これといった程度の設備をやろうと思えば、最低五十万円、やや十分なといえば、どうしても百万円の金が要る。しかも、中小企業金融公庫でありますと、二年半ぐらいで返済しなければならない。しかしながら、そのような経済能力を、今日の民間医療機関が持っているものとお考えになっていらっしゃるかどうかということを、一つ大臣にお伺いしたいと思う。
  66. 川崎秀二

    川崎国務大臣 一般的に申して、そういうような力を持っているとは私ども考えておりません。この医療機関の整備につきましては、御承知とも存じますけれども、政府としても公的医療機関を、その機能により各級別に重点的に整備するために、十年計画をもって公立二百三十五病院の新設、増設をはかるようなことで、昭和三十年度には四千五百万円の予算を計上いたしているのでございます。  それから私的医療機関に対しては、ただいま御答弁を申し上げましたように、中小企業金融公庫等の力を借りまして今日まで整備をいたしたのでありますが、その実績は、昭和二十八年九月発足以来二十九年六月までの実績は十三億に上っております。しかして、先般も通産省の官房長に連絡をとりまして、医療機関の整備については、特段の助力をしてくれということを申し入れをいたしておりまするし、今日までのところ医療機関に対しては非常に通産省側としても好意を持ってあっせんをしてくれつつあるのであります。最近において一、二の問題が起りまして以来、または私的医療機関の中にはいろいろな申請をしてきておりますが、その中において、あまりに要求が大きかったがために、通産当局との間に多少の摩擦を生じたような場面もありましたが、これを軌道に乗せるために今日努力をいたしておりますので、ただいまの御質問の最後にありました返済能力などの点をも十分に考えまして、厚生省としては、今後これらの対策に対しては万全の力をふるいたい、かように考えておるような次第でございます。
  67. 岡本隆一

    ○岡本委員 先ほど公的医療機関の拡充強化というお話がございましたが、公的医療機関それから私的医療機関との間には、その性格上から出てくるところの影響のために、非常に大きな伸びる力に開きがある。公的医療機関の場合には、公費でもっていろいろなめんどうが見てもらえる。しかもまた、その医療機関によって出てきたところの利潤は、そのまま設備の内容の改善に使っていける。ところが、私的医療機関の場合においては、どこからもそういうふうな資金の援助はない。のみならず、一方において利潤に対しては大きな税の負担に耐えていかなければならない。今日医師の生活が、一家族少くも三万、四万の生活費が要るといたしますと、大体年間五十万円の生活費が要るわけであります。その上に立って余裕のあるところの利潤を出して、それでもって設備の内容改善をやっていこうといたしますと、得られたところの利潤の総額の半分は、税として差し出さなければならない。従って、そういうふうなことになりますと、同じように百万円のレントゲンを備えるといたしましても、公的医療機関は、収入の百万円をそのまま一〇〇%レントゲンの購入費に充てられる。ところが、私的医療機関にありましては、二百万円の利益を上げて、そのうち百万円を納税の引当金にして、そうして百万円でもってレントゲンを買う、こういうふうな状態になっております。従って、利的医療機関には、特別な措置というものが何らかの形で講ぜられない限り、私的医療機関というものはどんどん萎縮をしていく。また現実に、私的医療機関というものはどんどん萎縮しています。私も選挙のときにあちらこちら農村地帯を回りましたが、国民保険の実施されている地帯においては、医療機関というものは非常に貧弱なんです。国民保険のあるところでは、もう保険財政に全く医療機関というものは制約を受けているわけであります。従って、その影響のためでありますか、非常に貧弱なんです。そういうふうな状態が続く限り、私的医療機関というものは、これから後萎縮の一途をたどっていくと私は思うのでありますが、そういう点について、何らかの措置を講じなければならないと、いうことをお考えになっていらっしゃるか、またお考えになっていらっしゃるとすれば、どういうふうな方針をもって、それに臨んでいかれるかということをお伺いしたい。
  68. 久下勝次

    ○久下政府委員 その問題につきましては、私の関係する限りにおいて、具体的にお答え申し上げたいと思います。おそらく一般的には、そういう融資の道を講ずる以外には方法はないと考えるがゆえに、私から申し上げるのでございますが、社会保険の支払い診療報酬を、最近その点数を一々個々の診療行為についてきめます場合に、御説のように医療機械を必要といたすような者につきましては、機械の償却費も計算に入れて、そして点数をきめるという方針をとっているのでございます。ただしかしながら、それでは現行の点数全部について合理的に償却費がきめられているかどうかというと、私は必ずしもそうでないと思います。御案内の通り現行の点数は、長い間の積み重ねでございますので、その辺までさかのぼってこまかい計算をし直すということはいたしておりませんが、しかし少くとも今申し上げましたように、最近点数をいじりますような場合には、その点十分考慮してあるはずであります。従いまして、生計費の問題とは関係なく、償却費が立てられると私どもは考えているのでございます。それでは、それが全体として十分かといわれますと、何分にも現行の点数表というものが、すでに新医療費体系の際にもいろいろ御指摘をいただきましたように、十分検討を要する問題でございますから、新医療費体系に基く社会保険の点数表を再編成いたします場合には、十分そういう点も考慮いたして、全体として合理的なものにいたしたいと思いますが、御指摘のように、最近はほとんどが社会保険あるいはそれに右ならえの医療が行われているような実情でございますので、この辺のところで、医療機械の償却もできないような点数あるいは診療報酬をきめるということは、少くとも私は妥当でないと考えております。それが十分であるかどうかは、いろいろ議論のあるところでありますが、そういう方向ですでに現在考えておりますし、さらに新医療費体系でも実施する際には、十分考慮に入れてやる所存でございます。
  69. 岡本隆一

    ○岡本委員 医療機械の償却ができる範囲において、診療報酬もきめていくというようなお説でございますけれども、しかしながら、農村地帯の医療機関を見て参りますときに、そういうふうな十分な設備を行えないような貧弱な医療機関が多い。従って、そういうふうな医療機関に対して、近代的な内容の医療設備を持たせることが、非常に大切なことじゃないかと思います。少くとも今のような状態医療機関が置かれているといたしますと、医療機関自体においては、辛うじてその生活を支えるというふうな状態でありますから、設備の内容改善向上には持っていけない。しかも生活が苦しければ、一人の患者でも多く自分ところで診療していこうとする。たとえば医者が肺結核の患者を見て、これは肺切除をやらなければならない、またやった方がいいということがかりにわかっているとしましても、やはり一人の患者を失うということはそれだけ収入減を来たす。だから、そういうことは良心的にわかっていても、やむを得ず自分ところ患者を縛っておこうという傾向が起ってくるということ、これは人情としてやむを得ないことです。これは医者が生活に窮迫しているとそういうことになるのです。医者が自分の良心のままに治療を行い、そうして自分の手で治療せずに他の医療機関にまかせた方がいいという場合には、きれいにすっと他の機関にまかせていく、こういうようなほんとうに患者本位の美しい気持で医者は治療に当っていかなければならないし、また、しかくあらなければ、患者の仕合せというものはないと思います。しかしながら、医者の生活が窮迫して参りますと、勢い自分の生活を守ろうとするために、患者の仕合せを第二義的に考えてくるような不幸な事実が出てくると思います。盲腸の患者さんを見て、内科の医者がすぐ手術をしたらいいといって外科医のところに回せばいい。ところが、自分の生活が窮迫していると、ちょっとでも自分ところで見ておこう。その間に腹膜炎を起したという不幸な事実だってないともいえない。いえないどころか、間々あるかもしれない。そういうことは、結局は民間医療機関が経済的に窮迫してくるために起ってくる現象なのです。それをなくするためには、医療機関に対して、少くとも近代的な生活を営めるだけの十分な報酬を保証しなければならぬ。ところが、そういう点については、非常に等閑視されておると私は思うのであります。健康保険の診療報酬が改訂されたのは、たしか昭和二十六年だと思います。昭和二十六年に現行の単価になって、その単価がほとんど据え置きされたままでありますが、しかも一方では、物価はどんどん上昇して、賃金がスライド・アップされておるのに、片一方で診療報酬がストップされている。勤労者の賃金がだんだん上っていけば、それにスライド・アップして健康保険の収入はふえているわけです。どんどん自然増収があるはずなんです。その大幅な自然増収があったとすれば、その一部は、もちろん診療内容の向上に向けられなければならない。しかしながら、それと同じような物価の中で生きているところ医療機関に対しても、またそれと同じような物件の中の材料を使って診療に当っていく医療機関に対しても、その診療単価というものは引き上げられていかなければならないと思うのでありますが、その単価がずっとそのままストップされているのは、どういうお考えに基くものか、一つそれを承わらしていただきたいと思います。
  70. 久下勝次

    ○久下政府委員 いろいろな点に触れてのお話でございますが、まず第一に、医潜が、患者が参りました場合に、他の医者に回す方が適当であろうという場合でも押えるような傾向があるのは人情の自然である、そういう場合のことも考えて、医療機械等の整備をするように援助すべきであるというお話でございました。前段のお話につきましては、そういう場合には、やはり他の診療担当者への転医あるいは対診を求める等、適当な方法をとるようにということが、療養担当規程に明記されているのであります。その裏づけがないのではないかというお話だと思いますが、問題は、結局現行の単価の問題に触れてのお話になってくると私は思うのであります。  先ほど来申し上げておりますように、現行の単価と申しますのは、実態調査に基く数字を基礎といたしまして、必要な総経費を算出いたしまして、それを一定の稼働点数によって除しまして、一点当りの単価を出したわけでございます。先生のお話は、物価なり賃金が変っておるから、やはりそうした個々の諸経費の見積りの基礎を変えるべきではないかという点の御指摘でございます。その点は、私どもその意味においては考える必要があるのではないかと思っておるのでありますが、ただ他面、お触れになりませんでした稼働点数の問題があるわけでございます。昭和二十六年の単価決定の際にも、諸経費をこういうふうに見るということについても、いろいろ問題はあったようでございますが、それ以上に深刻な問題は、保険医一人当りの稼働点数を何点に見るかという点でございます。これを多く見れば単価は安くなり、少く見れば単価は高くなるのは当然でございます。そういう意味で、かなり深刻な議論があったそうでございますけれども、これは当時政治的な妥協といいますか、やむを得ざる数字、四千九百二十五点というものを平均的な稼働点数として取っておるわけでございます。今日の状況を見ますと、保険医一人当りの稼働点数がこれ以上に上っておりますことは事実でございます。従いまして、問題は、積み重ねます諸経費の計算の基礎と、それを除します稼働点数と、これがどういうふうなかね合いになるかということが問題でございます。私どもとしては、単価の問題につきましては、基本的には昭和二十六年十二月の単価決定以後に設立されました臨時医療保険審議会で、単価の問題を審議していただくということで、実は非常に時間がたってしまって、私どもも何か言いのがればかりしているように取れると思いますけれども、一昨々日の土曜日にも、かなり熱心な審議を続けておるようなわけでありまして、今日なお関係者が熱心な論議をしておるにもかかわりませず、まだ結論が出ておりません。そこで厚生省としては、そういうところにかねてから諮問をしておりますのに、これを無視した措置もとれないのでございますから、その結論の出ますのを待っておりますようなわけでございます。率直に申し上げまして、実は現在のような単価の決定の方法でいいかどうかということが、論議になっておるのでございます。一応の実態調査——どのくらい実態調査をするかということは別といたしまして、そういうものに基いて一診療所平均の経費を見、それをさらに一診療所平均の稼働点数で割って単価を出すというような単価算定方式がいいかどうかということが、実は問題でございます。こういう単価算定方式が、もうこれでよろしいものだという各方面の御承認がありますれば、先生のおっしゃる通り、これをスライドして、実績の稼働点数に基いてやればいいのでございますから簡単でございますけれども、問題は、そういう方式そのものについての議論さえ実はあるわけでございます。ただいまのところ、ずいぶん長い期間ほうっておかれますが、これは私どもは実態調査の資料がございませんから、はっきり結論めいたことを申し上げるのではないのでございますけれども、経費を物価にスライドして上げて、それを実際の稼働点数で割ってみて、果して単価がどうなるかということは、これは実際信頼すべき数字を調査して、みなければわかりませんが、私としては何とも言えないのじゃないかという気さえしているのであります。その辺のこともございますので、この単価が行使されておることそれ自身に実は問題があることは、重々感じておりますけれども、先ほど来申し上げておりますような経緯をたどっておりますので、この辺のところで御了承願いたいような状態でございます。
  71. 岡本隆一

    ○岡本委員 稼働点数のお話はそれといたしまして、私がお伺いしておるのは、昭和二十六年に、当時の物価あるいは当時の一般の公務員、勤労者その他の人の収入状況とにらみ合せて、かりに稼働点数を四千九百二十五点として、その上で今の単価をおきめになったのだろうと思います。それがその当時の物価その他の点から見て妥当なものとして、十一円五十銭と十二円五十銭の甲、乙両地の単価が出てきたのであります。ところが、昭和二十六年と今日とでは、物価は非常に大きな開きがあるのです。その開きの上に立って、今日の単価が妥当とお考えになっておるかどうかということを、私はお伺いしたいのであります。
  72. 川崎秀二

    川崎国務大臣 この単価問題につきましては、昨年も一時政治問題化せんとしたいきさつもあります。われわれも、当時野党におりまして、今日の単価が必ずしも妥当でないということにつきましては、御議論通りだと思っております。しかし、これを改訂するにいたしましても、その改訂の仕方については、非常に多くの問題がありまして、必ずしも当時の物価体系とスライドして変えなければ妥当でないという意見にも、相当な検討を要する部面もあるかと思うのであります。従いまして、目下これら諸種の問題につきまして検討を重ねておる最中でありまして、今日の単価が昭和二十六年にきめられたものであって、その当時の単なる物価体系だけの問題からすれば、これは妥当でないと言い切っても間違いはないと思いますけれども、この改訂の方法につきましては、相当な議論の存するところでありまして、これはしばらく検討を要することと思うのであります。
  73. 岡本隆一

    ○岡本委員 二十六年から今日で、すでに四年でありまして、しかもまだ慎重審議あるいは慎重御考慮ということになると、その間に医療機関というものはどんどん貧困化していって、設備もどんどん時勢に遅れていってしまう。従って、これが早急な解決というものが、私は必要であると思うのであります。その点、政府は今度保険制度について、いろいろ赤字対策のために、七人委員会をもって御検討中であるように聞いておりますが、その健康保険赤字対策解決する方途の中に、この医療機関の赤字対策というものも織り込んで、今審議を進めておられるかどうかということを、この機会に承わっておきたいと思います。
  74. 川崎秀二

    川崎国務大臣 健康保険の問題は、健康保険だけの問題で解決はできません。健康保険赤字財政解決の問題は、健康保険自体だけの問題のみならず、各方面に波及をいたしますので、もとより医療機関の赤字の問題につきましても十分検討をしまして、これら各要素を十分検討した後に、最終結論を出そうと思っております。  なお、ただいまお言葉の中に、四年間も検討しておって、なお検討をするのはおかしいじゃないかということでありますが、私は、今回、検討をいたすということを言いましたのは初めてでありますから、これは一つしばらく時日をおかしいただきたいと思うのであります。
  75. 岡本隆一

    ○岡本委員 非常にくどいようでございますが、しかしながら、民間医療機関がどんどん貧困化していくということは、これは医療機関自体の問題というよりも、国民の保健上、これは重要な問題であろうと私は思います。公的医療機関が幾らどんどんできましても、何といたしましても、今日数の上からいって、また一般国民に非常に身近に関係のある点からいって、また従来からのいろいろな患者との結びつきというふうな点からいっても、非常に多くの国民が民同医療機関を利用しておる。従って、この民間医療機関の素質が貧困化していくということ、またどんどん日進月歩で進んでいくところの医学の近代的な進歩というものに伴うていかないということ、このことは、国民の保健上、私はゆゆしい問題であると思うのであります。従って、今日の世界医学の水準に、少くとも日本のすべての医療機関が達することができるように、一つ厚生大臣に御努力をお願いしたい、そのことをお願いいたしまして、次の問題に移っていきたいと思います。
  76. 滝井義高

    ○滝井委員 関連して、健康保険赤字の解消に、厚生大臣非常に御熱心でありますが、健康保険が生々発展していくためには、医療機関の赤字が解消する以外にないことは、火を見るよりも明らかであります。先般、私は本会議で、医療機関の赤字健康保険赤字との同時解決が必要であるということの質問をいたしましたが、大臣からは答弁がなかったのです。今日、自分は今度初めてやるのだ、こうおっしゃいましたが、実は私たちは、医療機関の赤字の問題とともに、この単価の問題を論議すること、すでに二十六年十二月から四年越しでありまして、そこにおられる久下さんなんか、昨年も一昨年も私に、結論が出ます。出ますと言っておりながら、いまだに結論が出てこない、そして昨日も一昨日も非常に真剣な討議をやった、こういう御答弁でございます。しかし、これはどうもまた久下さんに大きな声を出さなければならぬことになりますが、昨年も、私実はこの問題で久下さんを不信任するというところまでいった。やはりそういうことはいけないと思います。こういう大事な国民の生命に関する問題につながっているものは、そこで主管大臣なり局長が言明をしたら、その通りにやっていくことがほんとうです。すでに二十六年十二月七日に閣議了解事項として、単価点数については根本的に検討してこれが適正化をすみやかにはかるということを、当時、これは吉田内閣だと思いますが、やっておるわけです。また二十八年二月十三日にも、社会保険の診療報酬の適正化については関係各省においてすみやかに根本的検討を加えるということも、またやっておるわけです。それを、川崎さんは、おれが大臣になって初めてだ、こうおっしゃいますが、どの内閣も、私が言ったら、みなそう言われた。不適正ではないということは認めますが、かといって、これが適正かどうかということについても、なおまだ疑問があるというような、どういうことかわからぬような、うなぎ問答を、ずいぶんこの委員会で繰り返してきておる。  そこで、現在医療機関が赤字であるということは、昨年の医療費体系を出された局長さんがうしろにおられるが、百十五カ所の病院と二百十七カ所の診療所を検討した結果、全部これが赤字であるという二とがはっきりしてきた。現在の十一円五十銭、十二円五十銭の単価では、現在の日本の医療機関は赤字である。これもはっきり結論が出たわけです。これは、厚生省から出た医療費体系ではっきり出てきた。ところが、今またそれを検討せられるということになると、あのときの自信を持って出された医療費体系というものはでたらめだ、こういうことになってしまって、いつになったら、大体適正な単価というものが出るのか。税はなるほど二八%にしました。しかし、これは暫定措置です。これは私の質問の番になりましたら、医療費体系について、ずっと詳しく尋ねますが、この医療機関が赤字であるということがはっきりしておるにもかかわらず、今言ったように十一円五十銭というものが適正であるかどうかわからないというようなあいまいな答弁では、困ると思うのです。これは、不適正なら不適正でございます。しかし財政上の事由でできないならできない、こういうことをはっきりすれば、またここに対策が別に立ってくることになるわけです。それを、検討、検討でいつまでもにごしておくということはよくないことだと思う。その結果、どういうことが起っておるかというと、すでにここへ先日愛世会、生光会という結核診療所の争議の当事者を参考人として呼んで意見を聞いたところが、われわれが入るときには、一万五千円の給料をやります。一万二千円の給料をやりますといって、みな入れてくれた、ところが、実際に病院に入ってみたところが、みな一万五千円と言った給料が八千円になった。どうしてですかとだんだん尋ねてみると、入院患者がたくさん入ると思っておったところが、それも入ってこない。こういうふうに、医療機関というものは、莫大な投資はやったが、必ずしも単価が安いために収支が償わないという状態が出てきて、そのしわというものがそこに働いている医療関係者にきておるということです。あるいはそうでなければ、今岡本さんが御説明になったように、おそらくいなかにいって国民保険なんか実施せられておるところは、いわゆる昔政治家は井戸べいになったということですが、医者の大きな家はみな井戸べいになり、壁が荒れ、倉が荒れ果てている。町は別ですよ、町ではビルディングの建っているのは医者です。なぜかというと、自由診療というものがあるからです。ところが、国民保険健康保険なんかの実施せられておるところの医者は井戸べいになりつつある。子供は自分と同じ程度の教育を受けさせ得ないという状態が出てきておる。だから、施設が荒廃に帰しておるか、あるいは患者に悪い治療が行われ、いわゆる患者にしわ寄せが行われておるという、こういう形態が現実に出てきておるのは、偽わりなき事実なんです。こういう点で、私はこの現在の健康保険赤字の問題とともに解決すべき現在の厚生行政における重要な問題は、医療機関の赤字の解消の問題だと思うのです。これは今後いろいろ分業問題や医療費体系の問題がありましょうが、単にぼっと医者の赤字の問題だけを取り上げてきて論議するのじゃなくて、相当広範な問題を頭に置いて、なしくずし的に一つずつ片づけていく態勢をとっていかなければならぬ。従って健康保険赤字の問題を解消する対策を出したからには、医療機関の赤字の解消の方策も、並行的にある程度の見通しだけは出すことが必要だと思うのです。こういう点で、これはきわめて重要な問題でございますので、一つ明白な御答弁をいただきたいと思います。
  77. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいま単価問題からさらに医療機関の赤字問題等に関連をいたしまして、広範なる御意見を含んだ、きわめて建設的な御質問があったと思うのであります。私も大体滝井議員の御意見と同様でありまして、これらの問題を放置して、健康保険の問題だけを解決するということはできないと思っております。従いまして、健康保険の根本的な解決策をただいま練っておりまするのと並行いたしまして、単価の問題も、あるいは医療機関の赤字の問題も、ぜひとも解決していきたいと思っております。  単価の問題は、先ほどうなぎ問答みたいなことを言ったとおっしゃいましたが、私は物価体系だけから見まするならば、私も多少は研究いたしておりますが、これは明らかに不適正であるということは言い切れると思うのであります。しかしながら、その他の要素もありますから、従って、これらの問題に関連をして、一分に検討をしてみなければならないという答弁を申し上げたわけでありまして、決して今日の単価がすべて合理的で、物価体系に比例して正しいものであるというようなことは、断じて申さないわけでございます。  また医療機関の赤字の問題は、私的医療機関は、元来自由経済組織におきまするわが国の経済体制下におきましては、これを国庫が補助をするとか、国が直接大きな育成政策をするということは筋違いではありますけれども、しかしながら、融資その他の措置を通じまして、強力にこれを盛り立てていくということは、医療機関の性質がパブリックの性質を多分に含んでおるものでありますから、従って、たとい私的医療機関であっても、他の私企業と同一の目をもって見るということは間違いである、かように存じておりまして、先般も中小企業金融公庫の貸付内容につきまして、他の省のことではありますけれども、その内容を検討さしてもらったわけであります。従って、今後厚生省から通産省に対しまして、私的医療機関の整備のために融資額を増額するということは、予算とは切り離して十分に今後——もとよりもうすでにプランができてはおりますけれども、さらにこれを修正し、さらに当方の言い分を十分にくみ取ってもらうということはでき得ると思っておるのであります。  その他、医療機関整備に対しまして、もっと法的な根拠を与えてこれを助成したらどうかというような主張が、かなり各方面に出ておりますが、これがもし世論として取り上げられ、各政党もこれらについての一定の基準をつけて助成をするというようなことに相なりまするならば、政府といたしましても、この機運と相待ちまして検討をしていかなければならぬと思っております。  以上が、ただいま種々お述べになりました御質問につきまして、私は大体同感でありますが、それぞれの問題につきまして、一応素朴ではありますが、私の考え方を申し述べた次第でございます。
  78. 滝井義高

    ○滝井委員 私の言っておるのは、何も私的医療機関だけを大臣に言っておるわけではございません。現在の日本の公的医療機関も赤字だということです。たとえば、国立療養所なんかも、おそらくその運営費の七三%くらいしか自己収入ではまかなっていないと記憶しております。こういうように公的医療機関も、たとえば広い意味の公的医療機関である済生会とか日赤というものも赤字なんです。こうして見ますと、日本の医療機関はだんだん赤字になっておる。こういうことは、私的医療機関に限ったことではない、一つの一連の現象として現われてきておると私は思うのです。従って、それらの公的医療機関でさえもが、現在もう今までのような病院のあり方では困るのだ、公企業体にしてもらわなければ困るのだという意見さえ一部には出てきておるのです。これはやはり日本の医療機関自体のあり方が、ある程度の変化をしなければならぬ時期がきておると思う。なるほど制度としては、開業医制度という私的医療機関と公的な医療機関と分けなければならないでしょうが、税金を払わないで、しかも国から相当の補助金も出ておるところの公的医療機関でさえも赤字であるということなんです。これはやはり根本的に現在の診療報酬の支払いの方式と単価というようなものに、明らかな欠陥がなければ、税金も払わないで、しかも公けの金で作られた病院さえもがどうにもならないというはずはない。しかも、そこの病院の状態を見ると、この前の療養所の話ではありませんけれども、実際に医者というものは、結核療養所であるならば、何人の入院患者には何人の医者がなければならぬということはさまっておるのにもかかわらず、実際は医者はたった二人しか置いてない。二人しかいないのに、ベッドは二百四十も置いてある。そして約束の賃金の八割どころじゃない、七割、六割ぐらいしか賃金を払わない。こういうことで、財団法人と銘打った、広い意味の公的医療機関が運営されておる、こういうことなんです。これは今後の厚生行政において、相当検討しなければならぬ問題を含んでおると思う。そういう状態が放置されておるならば、だれが一番迷惑しておるかというと、哀れな結核患者大衆が迷惑しておることになる。だから、これは何も狭い意味の私的医療機関だけでなく、公的医療機関もひっくるめて、日本の医療機関のこの赤字の原因を、政府は一体どうしてやっていくのかということです。その解決一つの目途として、やはり報酬の一番基礎をなす単価問題というものは、少くとも着目しなければならない点だと思う。そういう点で、私的医療機関のみではないのであります。  それから私的医療機関の問題でも、たとえば中小企業金融公庫が、最近すでに地方に対して金を貸さないという通達を出しております。なぜ貸さないかというと、これはいわゆる普通の商売をされておる中小商工業者に金を貸すよりも、医者に金を貸しておった方が、実は取りよいのです。どういう点で取りよいかというと、健康保険の医者ならば、銀行に基金から金が払い込まれる。その金を押えれば、もう確実に融資が取れるということなんです。従って、地方の中小企業金融公庫、国民金融公庫にしてみれば、医者の家を担保にして金を貸しておきさえすれば、商売に貸すよりも確実に——基金から毎月毎月支払いがくるから、それを銀行で押えればいい、こういう点で、いわば医療機関に金を貸すと、その分について他の中小企業に貸す融資のワクを食うということになって出てくるわけです。こういう点で、いわゆる普通の中小企業の方と、いわゆる医療機関との金融問題の調整を現在必要とする段階にきておると思う。こういう点で、すでに一つの隘路がきておるということなんです。いわば中小企業という、何といいますか、営業を主とする金融機関に、非常に公的な性格のある医療機関の金融をくっつけたところに、一つの無理が出てきておるということなんです。こういう点で、やはり大臣としても、今後の医師の設備の改善その他をはかるための、医療機関に対する金融機関のあり方というものについて、やはり再検討しなければならぬ段階がきておると私は思うのです。こういう点、やはり医療の問題というものは、すでに保険だけが行き詰まっておるのではなくて、いろいろな点で行き詰まりがきておるわけです。これは、答弁がなければ要りませんが、こういう点で、医療機関の赤字の問題というのは、健康保険とともに、厚生省は検討検討と言わずに、腹を据えて、やはりいつまでに検討を完了してやるのだ、こういうことぐらい言ってもらわないと、前の草葉大臣のときもそうだったし、その前の大臣も大体そういうことなんです。二十六年以来、大蔵大臣も検討するというし、歴代の厚生大臣も検討すると言っているが、みな検討の成果が出てこない。川崎厚生大臣の時代になったら、検討の成果は、たとえば秋までに医療費体系を出すならば、秋までには医療費体系の一環として、単価を上げるか、あるいは現状で据え置くか、あるいは下げるかという結論だけは、私は出せると思うのですが、大臣どうですか、それは出せますか。
  79. 川崎秀二

    川崎国務大臣 はなはだ大胆なる答弁かもしれませんが、鳩山内閣もいつまで続くか、今日はわからぬ状況であります。従いまして、私は在任中に大体目星をつけておりますものは、健康保険並び医療保障の完成というものを一応のめどにいたしまして、それに伴う諸問題は解決をいたす予定で進んでおります。あるいは、その他にも解決を要すべき問題があり、総合年金などという大抱負もありますが、それまでに至らずにあるいは政権の交代を見るのではないかとさえ予想をいたしておるのでありまして、短期間にスピードを上げるということになりますと、何もかもするというわけには参らないかと思っております。
  80. 中村三之丞

    中村委員長 岡本君。
  81. 岡本隆一

    ○岡本委員 医療機関の赤字の問題が出ましたので、健康保険の問題と本質上ちょっと離れますが、この機会に大臣のお考えをお伺いしておきたいと思うのであります。それは医療法人の問題であります。医療法人法ができましたときには、医療機関は民間資本を導入することはできませんから、どうしても自己資本でやっていく以外に、営利機関でない医療機関が他人資本というものを使うことができない。従って、自己資本でもって設備を大きくしていく以外に道はないのであります。従って、これを共同化して、数名の医者が集まって共同に出資し、それでもって内容、設備の改善をやっていく。あるいはまた相当大きな医療機関を経営している人が死亡したような場合には、相続税のために、他に何も財産がないような場合には、病院を閉鎖しなければならぬというような運命に陥るものでありますから、従って、そういうふうなベッドを保護するために、そういうようないろいろな意味をもって医療法人が生まれたことは、大臣も御承知であろうと思います。ところが、その後の経緯というものは、大蔵省はほとんどこの医療法人というものを法的に認めておらない。そして、これを個人のような形でもってなにしてきているというような現象が起っていることは、すでに大臣も御承知であろうと思います。しかしながら、今日の、またこれから後のどんどん日進月歩の医学の趨勢に応じていくためには、医療機関も、今までのような個人々々でやっていくというふうな時代はもう過ぎつつあると思うのです。やはり多数のものが一つところに集まって、そして力を合せてそれでもって完全な医療をやっていく、治療をやっていく、診療をやっていくというのが、これから後の医師としての進むべき道である。従って、そういうふうに共同でもって医療機関のりっぱなものを作っていく、大ぜいのものが共同して、力を合せて完全な医療機関を作っていくということの中に、日本のこれからの医療機関の進歩がある。その形は、これは医療法人を通じて行われなければならないのでありますが、そういう医療法人というものが、税の上で、あるいはその他の形で、今日では政府からあまりあたたかい保護を受けておらない、むしろ冷たく見られているというふうな感じを受けるのでありますが、これについて、大臣は積極的に今度は乗り出していって、この問題の解決に当っていこうというお考えはございませんでしょうか、一つ大臣の御所見を承わりたいと思います。
  82. 川崎秀二

    川崎国務大臣 基本方針だけ私から申し述べておきます。ただいま御指摘の点は、だんだんに拝聴いたしておりますと、私もかねて来考えておりましたことと大体同じようなことを、岡本議員におかれましては述べられておりますので、もとよりかような形で医療法人が強固な体制をつくりますことにつきましては、十分の協力をいたしたいと思っております。今日財政当局あたりにおきまして、いろいろな財政上の問題から制約を加えたりするような点がありましょうけれども、厚生省としては、もちろんただいまお述べになりましたような趣旨に沿いまして善処いたすつもりでございます。
  83. 岡本隆一

    ○岡本委員 医療法人の問題は、小委員会ができておりますので、いずれその小委員会でもって、また局長さんと一緒に御相談していきたいと思います。  それから日雇健保の診療内容でございますが、新たに歯科診療が加わりまして、補綴なんかが加えられたのは、これは一つの進歩で非常にけっこうであります。しかしながら、伝うるところによりますと、この日雇健保の歯科診療については、生活保護法において行われている制約がございますが、この日雇健保にもそういう制約があるやに聞いているのでありますが、そういうことはございませんでしょうか、その辺を一つお伺いいたしたいと思います。
  84. 久下勝次

    ○久下政府委員 私どもの現在の考えは、健康保険と区別した扱いはしないつもりでございます。
  85. 岡本隆一

    ○岡本委員 それを承わりまして、安心いたしました。  次に、厚生年金の問題でございますが、厚生年金が、最初昭和十七年に出発いたします当時には、何かこれが当時の戦費の調達の機関であるというような取りざたもされておったのでございます。ところが、今日の模様を見ましても、私は何かしらそういうふうなにおいをかぐのでございます。昭和十七年から始まりまして、二十年間たつと初めて給付が受けられるとかいうので、今ではそう大幅な給付もないようでありますから、どんどん金はたまっていると思う。そのたまっていきました金が、すでに一千億をこえているように聞いているのでございます。それが、やはり資金運用部資金に回されているのでありますが、今大体どれくらいたまっているか、またそれがどういうふうに運用されているか、そしてまた、その利息がどれくらい収入として入ってきているかという点を承わりたい。
  86. 川崎秀二

    川崎国務大臣 厚生年金につきましては、これがいつも非常に問題になります。ことに使い方が問題になりますので、われわれも関心を持っておりますが、一千百三十九億、これが先月末だそうであります。総額がそういうことになっております。しかして、今日は財政投融資の一元化という観点もありまして、大蔵省がこの厚生年金を管理しておりますけれども、元来から申すならば、これは社会福祉に還元をさるべき性格を持っておりますので、社会労働委員会あるいは前の厚生委員会等におきましても、これらは簡易保険と同じように還元をしてはどうか。つまり、厚生省に管理を移したら、どうかというような動きもあるのであります。しかしながら、これがまだ院内における十分なる世論ともならず、そのことのために、今日の運用については当方から諸種の注文をつけまして、その一部分は大蔵当局及びそのときどきの内閣の方針として還元がされておりますが、本年は昨年より、あらゆる面において多少増額を見ました還元措置がとられておることを、御承知置き願いたいと思います。三十年度の融資は四十五億でございます。これは御承知であろうと思っております。
  87. 岡本隆一

    ○岡本委員 四十五億の融資というのは、どういうところへ融資されたのですか。
  88. 久下勝次

    ○久下政府委員 これはいわゆる被保険者の福祉のためにする還元融資という形でやっておるものでございまして、大体本年度も従来と同様に、勤労者住宅に重点を置きまして、四十五億のうち三十億程度は住宅に回しております。あとの残りを事業所の病院の融資に充てるという考えでございます。
  89. 岡本隆一

    ○岡本委員 もう一つ、お答えが漏れておるのでございますが、運用した利息、それがどれほどあるかということ、それからどのように処理されているか。
  90. 久下勝次

    ○久下政府委員 厚生年金保険の積立金は、資金運用部に預託してあるのでございます。現在制度的に認められておる最も長期の五カ年以上の期限をつけて預託をしてありますが、その部分が一千百三十九億の大部分でございまして、利率は五分五厘でございます。ただし、今回国会にすでに提案になっていると思うのでございますが、資金運用部資金法の改正が行われる予定でございまして、従来は、最長期が五年以上という預託期間でございましたが、これをさらに七年の長期の預託を設けまして、その分については六分の利子を付するという改正案国会に出ているはずでございます。一応現在は五分五厘の利率で資金運用部に預託しているのでございますが、その利子収入は、昭和二十九年度分が五十億九千八百万円でございます。
  91. 岡本隆一

    ○岡本委員 その五十億の利息をどういうふうに処理しておりますか。
  92. 久下勝次

    ○久下政府委員 毎年度積立金から生じます利息は、資金運用部から利息金を一応形式的に受け入れをいたしまして、毎年度これは厚生保険特別会計の中の年金勘定の収入に組んでいるのでございます。そうしてその年の保険料収入、雑収入と合せまして、その年度の年金勘定の収入に立てまして、必要な給付費その他の費用を差し引きまして、残りましたものをさらに資金運用部に預託するという形を取っているのでございます。利子が入りましたものは、そのつど歳入の方に繰り入れているのでございます。
  93. 岡本隆一

    ○岡本委員 先般失業保険のお話を承わりましたときに、預金部運用資金からの利息を一般財政の中に繰り入れて、その中で事務費に七億も充当しているというお話がありましたが、年金についてはそういうことはございませんか。
  94. 久下勝次

    ○久下政府委員 さようなことはございません。と申しますのは、厚生保険特別会計は四つの勘定に分れておりまして、事務費その他を扱います業務勘定、それから年金勘定、健保勘定日雇健保勘定、四つの勘定でそれぞれ独立して経理をいたしております。今申し上げた通り、利息はこの年金勘定に入って参ります。事務費の方は、全額国庫負担で業務勘定の方に受け入れまして経理いたしておりますから、混淆はございません。
  95. 岡本隆一

    ○岡本委員 大体預金部運用資金に回されている金というものは、簡易保険にしても、郵便貯金にしても、また厚生年金にしても、ほとんどみな勤労者の零細な金が集まっているのであります。この勤労者の零細な金が財政投融資に使われて、わずかに四十五億の還元融資というのは、ちょっと話がひど過ぎるように私は思うのであります。これについては、昨年の委員会の議事録を読みましても、井堀委員、杉山委員その他の方々から問題が出た模様でございまして、私も委員会でこれは問題にされるのか当然であったと思うのでございますが、少くも厚生年金に関する限りにおきましては、これは厚生省の所管の金でありますから、厚生省自体において、当然何らかの形で保管し、また運用されるべき筋合いのものであろう。従って、これの運用については、厚生省自体で厚生年金の被保険者の中からも代表者を加え、また衆議院議員の中からも代表者を加えたところの資金の運用委員会というふうなものを作って、大蔵省に何もかもまかせっきりというような形でなくして、もっと還元融資が十分に行われるような施策をおとりになる御意思はございませんでしょうか、大臣の御所見を承わりたい。
  96. 川崎秀二

    川崎国務大臣 これは最近私が個人的に考えていることでありますが、厚生年金保険の積立金の還元融資、あるいはその運用につきまして、ただいままでにおきまして、厚生省、あるいはまた失礼ではありますかもしれませんが、国会関係委員会等の外部に対する働きかけというものも、お互いに政治力としてはそう強くなかったのではないかという反省をいたしているのであります。しかして、厚生年金のような零細なる大衆を相手にして、その積立金が、今日財政上の必要理由からとはいえ、資本蓄積に重点が置かれまして、ことに通産省関係の貿易方面、あるいは電源開発、あるいは河川の改修というようなものにのみ重点が置かれていることを、私としてははなはだ不満であります。従って、ここ当分この積立金の運用を大蔵省側にまかせましたことの理由は、御承知でもございましょうけれども、運用上の損失を生じた場合に、これをカバーするということが、厚生省自身で持っておるときに、非常に危険性を伴うし、また国家資金として一元的に運用することが望ましいからという理由のもとに、財政当局がこれを管理いたしておるのでありまするから、従って、これに対して、その運用については十分発言をし、また積立金の還元につきましては四十五億とか五十億とかいうちっぽけな数字でなしに、少くとも一千億のうちの——将来だんたん給付が実施されてきますれば別でありましょうが、ここ四、五年というものは、そういうものが非常に少いのでありますから、従って、十分の一なら十分の一というものはその種の事業に還元投資する、社会福祉事業並びに被保険者の利点になり得るようなものに投資をするような大体の方針を定めてしかるべきだろう、こういうふうにさえ思っておるのであります。これにつきましては、社会労働委員会の皆様方の御協力も得、相当に大きな政治力となって当らなければ、完成を見ないとは思いますけれども、その意味におきましては、たとえば本年健康保険財政につきまして、十億の国庫負担ということは、大蔵当局は最後まで非常に頑強に拒否し続けたのであります。しかしながら、私が三十九億の、つまり一割国庫負担ということを主張し続けましたのが、どうしても大勢上やむなく十億の国庫負担でのまなければならなかった瞬間に、割合最後の見通しをつけて、あっさり手を引きましたところ、その反対給付とも申すべきか、六十億の融資について、大蔵財政当局もまた非常にあっさり認めてくれました。この認めてくれたという意味は、つまり厚生年金保険を今日国家財政一つの大きな部分として使用しておるというひけ目が大蔵当局にあったものと私は大体にらんでおるのでありまして、従って、かりに明年から一割の国庫負担が実現をいたしますれば、その他の融資は——この健康保険などは、融資でやるべきものではなく、低率の国庫負担でやるべきものと思いまするから、本年獲得しました既得権内と申しますか、六、七十億の部分については、むしろこれを使う面に振り向ける。現在住宅その他の融資において四十五億還元融資がありますが、これは当然百億の頭を上回って差しつかえないものであると、私は考えておるのであります。よくこのことを、保守党は電源開発とか、あるいは経済の根本政策、資本蓄積にのみ力を入れて、大衆の零細なる社会福祉政策に対して、おのれが出したるところの厚生年金すら手がつけられないではないかという議論がありまするが、この議論に対しては、ごもっともな点もあると私は思っておるのであります。従って、その点はまじめに今日から、明年度財政編成に対しましては、十分な政治的発言もいたしたいし、運用につきましては、ただいま仰せのような、厚生省内部にそういうものを設けてみましても、大蔵省が持っておるのでありますから、そのことは達成することはできませんけれども、その資金運用部資金委員会等におきまして、社会福祉関係委員が多く選出をされる、あるいは国会関係委員の方におきましても、そういう関係方々が大きな発言権を得るような素地を作りまして、来年度からは目ざましご変化するような方策をとるべきが、われわれとしての義務ではなかろうか、かくすることが、厚生年金保険に加盟をしておる多くの人々に報いる道ではないかというふうに、基本的に考えをいたしておる次第でございます。
  97. 岡本隆一

    ○岡本委員 そういう点について、非常に斬新な考え方を持っておられる厚生大臣のことでございますから、一つ、もう一そうどんどんこの金の運用についても、お考えを願いたいと思います。  なお、ただいまお話の出ました住宅融資三十億でございますが、この住宅融資というものは、われわれの見ますところでは、大資本、銀行等の機関がこの融資を受けまして、そうして鉄筋コンクリートのりっぱな社宅を建てまして、そこには高級社員もしくは日ごろ相当な報酬を受けておる人たちが住んでおるように私は見ておるのであります。そうして、この三十億の融資によりましては、ほんとうの意味におけるところの勤労者住宅は建っておらない、こういうふうに私は見ておりますが、そういうことはございませんでしょうか、一つどういうふうに住宅が建てられておるかということを御説明願いたい。
  98. 久下勝次

    ○久下政府委員 ただいま昨年度以前の融資先につきましての資料が手元にございませんが、この融資につきましては、一定の条件をきめまして、地方に通牒を出して、希望のあるところから申請を取っておるのでございます。その中には、大企業のみが希望し得るような建前ではございません。たとえば、勤労者が住宅組合を作って申請をすれば、それも認めるというようなやり方もとっておりますし、また場合によりましては、実は病院などにその例がよくあるのでございますが、中小企業が、とても独立してそういう施設ができない、共同してそういうものをほしがる場合があるわけであります。そういう場合には公共団体、主として県あたりであろうと思いますが、そういうものがそうした希望のありますものを取りまとめて、あとは県と各事業主との話し合いによりまして、話がつきますれば、そういう申請も認める方針でございます。そういうふうにいたしまして、できるだけ厚生年金保険の被保険者に広く均霑するように方針は立てておるのでございます。ただ、償還等の問題がございますので、実際問題としては、比較的大企業に融資の多くの部分が行っておりますことは事実でございます。しかしこれは私どもとしても、制度として強制するわけに参りませんものでありますから、この辺のところは御了承願いたいと思いますが、方針といたしましては、中小企業の被保険者にも均霑をし得る建前をとっておるつもりでございます。
  99. 岡本隆一

    ○岡本委員 ただいま国民が一番困っておる問題は、住の問題であろうと思います。戦後、衣食住のうち、衣と食には一番ひどく困っておったのでありますが、その問題も相当解決しまして、今では住の問題が取り残されておるというよりも、ますますひどくなりつつあるというのが、私は事実ではないかと思います。ところで、この勤労者の零細な金の集積であるところの厚生年金の積立金から、ようやくわずか三十億が住宅面に回されるということは、これはもちろんけっこうでございます。しかしながら、これをもっと——もちろんワクはふやしていただかなければならない。しかしながら、ワクをふやすだけでなしに、ほんとうに住宅に困っておる勤労者がどんどんそれに入居できるような施策を講じていただかなければ、せっかく仏作って魂入れずという格好であろうかと思います。今後ともそういう点については、十分こういうふうな制度があるということを、まず第一に中小企業の中へ周知徹底させていただきたい、また勤労者の中へも周知徹底さしていただきたい。それによって、どんどん下から盛り上る力が出て参りまして、そうしてわれわれの工場へもぜひ一つ融資をというような声が至るところ、職場からどんどん出て参りまして、勤労者の住宅解決の問題のために、この厚生年金が大いに有意義な使命を果すことができたら、私は何もこの積立金も決して死蔵されるというふうな非難は出て参らないと思います。どうぞそういう点に御留意下さいまして、今後とも一そう御努力あらんことをお願いいたしまして、私の質問を終りたいと存じます。
  100. 中村三之丞

  101. 井堀繁雄

    井堀委員 時間の都合もありましょうから、できるだけ他の委員のお尋ねしたことを重複しないようにお尋ねをいたしたいと思います。  健康保険法改正に当りまして、厚生大臣の見解は、すでに明らかなようでありますが、赤字克服という当面の問題を解決するための措置であるということについては、私ども理解できるのであります。ただ、考えなければなりませんことは、健康保険法は、日本の社会保障制度を考えるものにとりましては、非常に重大な一つの制度でありまして、もし、この制度に手を染めるときには、今後の社会保障制度全体に対する動向というものも、ある程度見当をつけて行うべきものであると思うのです。こういう意味でお尋ねをいたそうと思うのであります。今日の日本の向うべき方向としては、文化的で、しかも福祉国家としての面目を一日も早く確立しなければならぬことは、立場はいずれの立場を取ろうとも、この点については、日本民族の一致した目標でなければならぬと思う。福祉国家を確立する上に、社会保障制度を除いて考えられぬこともまた当然である。そこで、その社会保障制度の根幹をなすべき日本の唯一の歴史と申しますか、経験と申しますかは、健康保険をおいてはないと思います。その長い間にだんだんと積み上げられてきた健康保険に手を染めるときには、いささかも停滞は許されない、ましてや、後退は絶対許されるはずのものではないと思います。こういう立場から、いかに赤字を克服するかという当面の措置をとろうといたしましても、停滞と後退は厳重にはばまなければならぬと思います。ところが、先ほど来厚生大臣の御答弁を伺っておりますと、ある程度の後退はやむを得ぬかのごとき御答弁がありましたが、私の聞き違いじゃないかと思いますので、実はそういう立場から、この保険に手を染めるときには後退が許されないということ、それを具体的に例をもって念のためにお尋ねをしようと思います。中心は、提案理由の中には、運営の健全化、合理化を言っておりますけれども、赤字克服に終始されておるというのが、実際ではないかと思うのです。そこで、赤字を克服する際にどういう措置をとるかということは、きわめて簡単だと思うのです。それは保険財源を増加するか、あるいは反対給付を減らすかという二つに一つだと思う。そこで反対給付を減らすということになれば後退であります。これは絶対許されない。そこで前進をとろうとすれば、保険財源を増額するということになるわけであります。そこで、保険財源を増額する場合に考えられることは、保険でありますから、もちろん保険料によって赤字をまかなうということは筋が合うと思う。しかし、これにはいろいろな条件があります。それからいま一つは、国庫負担を増額するという道以外にないのじゃないかと思います。そこで、国庫負担の増額によるか、あるいは保険料金の増収を待つかというこの二つになると思いますが、この案は両方に乗っかっておるようであります。これに対する説明が大事だと思うのでありまして、その政府の見解をただしたいと思うのであります。  まず第一に、国庫負担で、三十九億ばかりの赤字の三分の一弱の約十億を持とうというような説明があったようでありますが、一体その国庫負担すべき十億というのは、どういう根拠に立つのか。これを大幅に増額する用意はないか。もう一つは、ここに保険料率を六十五に上げようとしておるようであります。これはもちろん法律改正でなく、行政措置でやれることと思うのでありますが、ここでは社会保険審議会からのきびしい答申政府は受けております。これは無視できまい。この答申反対です。ところ政府予算の中には、六十五で予算を組んでおるようでありますが、この辺のいきさつを一つ。  それからもう一つは、標準報酬の問題についても、審議会反対の意思を答申しております。標準報酬のうち三千円を四千円に切り上げてきておるようなことはとにかくとして、私はこういう、こそくな方法といっては失礼かもしれませんが、どのくらい赤字を埋める金額を見積っておいでになるのか。私は、こういうこまかいことをお尋ねしようとは思わない。私の判断するところによりますと、根本的方針を政府は誤まったのではないかという考えがまずいたしますので、その点を明らかにいたして、順次お尋ねをいたそうと思います。
  102. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまの御質問に、焦点を合せてお答えを申し上げたいと思います。  ただいま非常に整理されて申し述べられましたことは、私も社会保障制度の前進に当って、深く考えなければならぬことだと思っております。第一に、序説にありましたように、健康保険制度がわが国の社会保険の最も背骨であるというような御議論につきましては、全く同感であります。よく各種委員会、あるいは本会議におきまして、健康保険制度にのみ力を入れて、国民健康保険制度を忘れておるというような御質疑がありました際に、私は、将来に向っては日本の社会保険は国民健康保険の将来伸び行く進度というか、伸張度、このことに期待いたしたいし、このことがあって初めて将来社会保険の開花があります。花を開くときがあるという意味の御答弁を申し上げておりますが、過去の歴史におきまして、またその組織力の強さにおきまして、健康保険が国民健康保険よりも、むしろ今日までわが国の社会保険における中核的存在であったことは間違いがないことでありまして、これが崩壊をするということは、社会保障制度の停滞と後退をもたらす重大なことになろうと思うのであります。ここ一、二年の経緯を振り返って見ますと、非常に赤字が増大いたしまして、ことに昨年の十月ごろから二十数億の赤字を生み出した際に、政府は当然これに対する措置を講ずべきであったのでありますが、私が厚生大臣として引き継ぎをいたしたときには、すでに四十億に近い大きな赤字になって、これを収拾すること、また昭和三十年度を展望いたしまして、さらに六十数億の赤字を出すというようなことを見まして、気の弱い者なら腰を抜かさなければならぬ非常な場面に直面をいたしたわけであります。従って、ここに申し上げたいことは、健康保険制度を改善するに当って、社会保障制度の後退と停滞を許してはならぬ。それあるがゆえに、私はすでに後退し始めた健康保険制度に、きわめて応急措置ではあります。あるいはこれを称してカンフル注射を打ったとか、あるいはきわめて素朴な療法であったかもしれませんが、とにもかくにもこれだけの措置をいたしまして、答案といたした次第であります。これにつきましては、いろいろ御批判もありましょうけれども、政府としても、私といたしましても、十分の措置をいたしたつもりでおるのであります。  その次の御質問にお答えいたしますけれども、十億の国庫負担ということに対する、理論的な根拠というものはありません。むしろ私は、予算編成の過程におきまして、保険財政医療給付費の一割を国庫負担すべきである——この一割国庫負担は、根拠があります。それは、今日国民健康保険法改正案が各党から出ておりますが、二割国庫負担を目ざしてこれを法律的に義務づけようとしておる。従来までは、国民健康保険は二割の実績に応じて予算が編成されつつあったのでありますが、さらにこれを義務づけようとしておることからいたしまして、国民健康保険が二割であるならば、まず世論の納得のいくのには、健康保険は今まで何らの給付がなかったのであるから、一割が妥当であろうということで、予算編成の過程を通じて主張いたしておったのでありますが、財源その他の措置に行き詰まりまして、最後には刀折れ矢尽きた形で、十億の国庫負担をのまざるを得なかったのであります。しかし、これは健康保険に対する国庫補助が直接に出ました最初のことでありまして、やはりわが国の健康保険財政史上にとりましては、赤字対策とはいうものの、一つの意義のあったことであろうと思っております。その後、このことは赤字対策なのか、それとも保険財政に対する一定の給付かということについていろいろ御質問もあり、閣内の意見も統一いたしました結果、これは赤字問題が中心になって起ったことではあるけれども、十億の国庫負担は、保険財政に対する国家の当然の責任として、医療給付費に対する国庫負担ということで考えるべきであるということで、政府の統一ある見解を表明した次第であります。  かくて十億の国庫負担と、さらに本年の赤字並びに去年の赤字に対するところの六十億の融資措置が、先ほど厚生年金の問題が出ました際にお答えを申し上げましたように、財政当局も事情を非常に勘案をしてくれまして、これを年度当初において計上するということについての基本方針が確立されましたので、従って十億の国庫負担をなし、六十億の融資をいたしまして、赤字に対する三分の二以上の責任国家が背負った以上は、その余りにつきましては、やはり社会連帯の精神に基きまして、被保険者料率引き上げに応じてもらいたいということも私どもは考えたのであります。このことにつきましては、社会保険審議会におきましては御反対であったことは、ただいま井堀委員の御説明の通りであります。しかし社会保障制度審議会におきましては、このことは審議になっておりませんので、結論がついておりません。ただ両審議会における中立委員の中には、健康保険料率引き上げは、標準報酬ワク引き上げと切り離して行うならば、当然の措置である、国家がそれほどの負担をしたならば、一応料率引き上げは当然の措置であり、ことに公務員の共済組合あるいは一般の組合管掌の健康保険組合が、すでに平均千分の六十二、三の数字を示しておりますし、労働省、大蔵省等におきましては、七十というような高い水準をも示しておるところもありますので、従って、これらを勘案いたしますならば、六十を六十五にするのは当然ではないかというような意見も、かなり深刻に展開されておった関係もあり、先ほど当席でも申し述べましたように、経営者団体の有力な日経連におきましても、料率引き上げそのものならば賛成である、しかし標準報酬ワク引き上げるということを連ねての対策としては反対である、こういう意見も具申されておりましたので、健康保険料率引き上げには、世論の大部分はもはや納得してくれるものと私は思っておるのであります。これは明確に申し上げます。  そこで、残りましたものは標準報酬ワク引き上げについてでありますが、これは両審議会とも御反対であります。ことに労使双方から猛烈な反対がありまして、そのために今日出ております健康保険法改正案そのものについては、世論が非常な勢いで当初反対をされておったことは事実であります。そのような関係をもちまして、標準報酬ワクを七万円にすることは無理だということを感じましたので、四万八千円、つまり頭打ち二万四千円であった当時の物価から比べまして、今日は二倍強になっておりますから、四万八千円は妥当であろうというので提案をいたした次第であります。  この標準報酬ワク引き上げ、あるいは収納率の引き上げその他のことによりまして、七万円の今度の改正に伴うところの財源は、等級改訂が四億二千万円でありますが、その他のものを加えまして六億ほどになります。料率引き上げ分は二十五億七千万円であります。標準報酬の等級改訂四億並びにその他の二億、そのくらいのもので法案提出するのはどうかというような御議論でありますが、これは全般に関連をいたす措置でありますから、このような措置をとったのでありまして、しかしてここにつけ加えて申し上げるならば、保険財政としての予備費も持たずに今回の昭和三十年度保険財政をやりますことは非常に危険であると思うのであります。これらの措置をいたしましても、なおかつ九億の予備費でありますから、十分であるとは言えないと思うのでありますが、まずこの程度をもって出発すべきであるということを感じまして、このような提案になりましたこともあわせてお答えを申し上げます。
  103. 井堀繁雄

    井堀委員 数字を一、二お尋ねいたしたいと思います。第一条の扶養者の範囲を三親等に圧縮して、どれだけ支出金額が節約できるか、また退職者、失職者の被保険者の六カ月と一カ年の関係でどの程度の節約ができるか、その金額がおわかりになっておれば、承わりたいと思います。
  104. 久下勝次

    ○久下政府委員 実は被扶養者の範囲につきましては、明細な検討をしてないのでございます。と申しますのは、私どもが最近被保険者八万人、被扶養者の数にいたしまして十一万人につきまして実調をしてみたのでございます。こういう改正をすることによって、三親等以内の親族にも入らない遠い親族関係の者及び他人でございますが、そういうものがどれくらいあるかということを実調いたしましたところが、十一万人の被扶養者中、該当者は五十五人でございまして、それをそのまま数字で延ばしますると、政府管掌全部で三千五百人くらいにはなろうかと思っております。実はその財政影響を計算してみなかったのでありますが、財政的には何億という数字にはもちろんなりませんものですから、特別に取り上げなかったのであります。
  105. 井堀繁雄

    井堀委員 金額としては、格別大したものじゃないというふうに了承をいたしてよろしゅうございますか。
  106. 久下勝次

    ○久下政府委員 おっしゃる通りでございます。
  107. 井堀繁雄

    井堀委員 そこでお尋ねをいたしたいと思いますが、厚生大臣のただいまの御答弁では、十億の国庫負担については理論的根拠はない、しいていえば国民保険の引き合いにして一割というところで、それ以上のものがないようなお答えでございました。それから、しきりに保険料率の引き上げについて世論の支持を受けておるように申されておりますが、これは見方の相違ということで、議論はやめましょう。そこで、私はそういう議論をするよりも、われわれはこの保険改正しようとする場合の態度について、もう少しお尋ねをいたしたい。  申すまでもなく赤字の原因がどこにあったかということで、今日まで各委員から、かなり熱心にお尋ねがあり、御答弁もあったようでありますが、今まで御答弁にありました範囲のことについては、私もある程度了解をしております。しかし、一番大事なことは、どうしてこの保険赤字になったかということについては、二つの事柄を私はお尋ねしたい。一つは、政府管掌、政府の事業である。政府管掌の事業で赤字が出たというときに、それを他に責任を転嫁するというような無責任なやり方は悪い影響を与える。これは責任政治の根本をそこなう大きな問題になると私は思う。これはなかなか許しがたい問題だと思うのであります。やはり自分らが責任を持って経営したら、赤字が出たら、その赤字を補う方法をまず講じて、その次に保険の制度に手をつけるべきであるということは常識です。特に今日民主主義のもとにおける政府の政治的な責任というものは、国民に対しては重大な事柄なのです。この点について、私はその赤字を、被保険者や今日非常な経営難に悩んでおる経営者に、負担を肩がわりするということを世論が支持するとするならば、その世論は間違っておると思う。私の承知している範囲内においては、経営者団体においても、その措置については反対である、被保険者を代表するところの組織労働者はあげて反対をしておる。一体そのほかに、これに対する反対とか賛成とか当事者が一番正確な世論を代表するものと見るべきであります。民主主義の時代において、組織労働者の意見、経営者の民主的組織である団体の声というものは、私は正しく世論として評価すべきじゃないかと思うのですが、これは別にあなたと議論をしようとは思いません。こういう意味で、世論を尊重するという場合にも、そういう点を明らかにしていかなければいけないのじゃないか。そこで、私はお尋ねを一番重要だと思う点に触れたいと思いますが、政府からわれわれに提供されました資料の範囲内においてお尋ねをいたしたいと思います。  昭和二十六年から昭和三十年三月までの間の事業概況を数字によってわれわれにお示しになっております。この中で、被保険者を収容しております事業場の増加を見てみますると、昭和二十六年におきましては十七万四千余、それが二十三万六千余にふえておる。それから被保険者の数においては約三百九十九万が約四百九十四万に増加しておる、この増加の傾向について私はお尋ねをしようと思うのです。ことに大臣の所見を伺おうと思うのでありますが、この増加率は何を意味するか、私は詳細なことはわかりませんけれども、他の統計資料、たとえば総理府の発行しております事業場統計などを見てみますと、おおむね増加したのは中小企業に所属する事業場であります。三百人未満の事業場が圧倒的に多い、百人未満の事業場がこれに次ぐ。でありますから、ここで事業場の増加率が非常に大きなパーセントを示しておるということは、私の計算で間違いがあるかもしれませんが、二十六年から三十年三月までの指数で見ていきますと一〇〇として一三六の比率を示しておる、それから被保険者の割合で見ますと一八〇の指数を示しておるわけであります。この増加は、言うまでもなく小規模な事業場だということは、ここの二つを見てわかる。そこで、こういう傾向から見ると、政府管掌の健康保険というものは、健康保険組合に比較いたしますと、言うまでもなく零細企業場を対象にしておることは必然的な立場であります。この実態をどのように把握しておいでになるか。そこで、ここで保険料金の引き上げを行われるということになると、負担は中小企業によってまかなわれるということは、私は大まかな議論じゃないと思う。この点に対する見解を伺っておきたいと思いますが、そういう零細企業場の経営実態はどうなっておるかということは、ここでは多く論ずる必要はないかと思いますけれども、日本の産業構造の中で、経営難にあえいでおるのは、これに該当する部門なんです。これはあらゆる負担において、非常に苦しみをなめております。これに今度の赤字負担を背負わすということになるのであります。これが一つ。  いま一つは、政府の政策であります。前内閣以来、一兆円という財政面におけるデフレ政策を遂行しておられる。そのことについての是非を、私は言うのではない。デフレ政策を採用される場合においては、どこに被害が出てくるかということは、少くとも経済の一ページをいじくるほどの知識を持っておる者なら——弱いところの中小企業、零細企業に来る、もう現に来ておる。こういうように、一方における財政政策なり産業政策というものが、緊縮政策もしくはデフレを採用する場合においては、こういうものは当然起ってくる。でありますから、こういうことは、政策の破綻なんです。あるいは破綻とまで言わなくても、政策上から当然つじつまを合せてこなければならぬ、社会政策の一番先にやらなければならぬことである。こういう点からいって、厚生大臣のように社会政策を担任される国務大臣といたしましては、デフレ政策をとる場合には、これをどうするかということを見合って予算の振り合いをとるべきだ。私は、こういう点からいえば、当然国庫負担をもって赤字を解消して、それからおもむろに保険経済に対する扱いを考えていくというのが——私はこれは何も立場の相違じゃない、資本主義政策をとる保守政党においては当然考えなければならぬ、われわれはもっと変った見解をとるのであります。だから、資本主義政策をとる保守党としても、こういうやり方はめちゃめちゃだといわれても、私は答弁の余地がないと思うのでありますが、一体厚生大臣はどのような所見ですか、国務大臣としての所見を伺いたい。
  108. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまは、日本の中小企業の根幹に触れての経済政策の問題でありまして、われわれも鳩山第二次内閣の閣僚として就任をいたしまして、日なお浅い間に直ちに予算編成の問題に、きわめて日数の限られた、物理的に不可能とも称すべき時間に、第二次修正に当面いたしたことは、這般の事情を井堀委員においても御承知通りだろうと思うのであります。就任をいたしまして最初に私が−閣内のことを申し上げまして恐縮でありますが、奇異に感じましたのは第一次内閣におきまして、前厚生大臣が参画をされて作られました予算編成要綱なるものの中に、社会保障の強化ということが、何らの文字を発見することができなかったのであります。失業対策中心とする社会保障ということになっておりまして、社会保険という文字が抜けておりましたので、あえて新米閣僚でありながら、第一回の閣議の際に発言をして、社会保険の強化という文字をこの中に挿入すべきであるということまで申したほどでありまして、ことに中小企業の零細なる人々が加入しておる健康保険財政について、われわれが社会福祉を担当しておって、これを等閑視するわけかないのでありますから、これは防衛問題その他におきまして、きわめて鋭角的に対立しておりまする社会党の御意見とはいいながら、その他の部面におきましては、相なるべく歩調を合せて、私どもも今日の国政を担当いたしたいと考えておりまする建前からいたしまして、社会福祉行政の中核ともいうべき健康保険については、特別の関心を持ち、またおくればせながらその取り戻しに努力を続けたのが、予算編成途上における私の姿であったことを御了承願いたいと思っておるのであります。  先ほど、料率引き上げ問題につきまして、世論がこれを支持しておると私は申したのではないのでありまして、社会保険審議会反対をしておるけれども、先ほど岡本委員の御質問にお答えしましたのは、きわめて詳細に申し上げました通り、経営者団体においても、標準報酬ワク引き上げるということに関連して行う料率引き上げ反対であるということは変っておりません。しかし、これを切り離す場合においては、今日赤字対策としてはやむを得ざる措置であろうということについては、公式の見解までいただいておるような次第であります。それらにつきましては、議論があと戻りいたしますので、あえてこれ以上御答弁は申し上げませんけれども、ただいま仰せになりました中小企業の零細なる職場が非常にふえて、ことに昭和二十六年度末には十七万四千であったものが二十三万六千に、すなわち一・三六倍になっておる。また被保険者の数も一・二四倍になっておる。この原因がここにありとするならば、これらに料率引き上げを行うことは困難ではないかということの事情は、十分に私どももわかるのであります。しかし御承知のように、今回国家といたしましても、赤字対策につきまして七十億の直接または融資によるところ負担をいたしたのでありますから、あとの三十億を赤字のままここに出すというわけには私どもも参らないのであります。社会連帯の精神からいたしまして、被保険者におきましても、最小限度の負担はいたしていただかなければ、保険財政の健全ということはあり得ないので、このような措置をとったわけであることを御了承おきを願いたいと思うのであります。  なお、政府責任は免れるところでないというのは、これまたお説の通りであります。ことに昭和二十八年の十一月以来、非常な赤字の増発になったのでありまして、それから本年の春にかけましての政府当局の監督に対する怠慢ということは、十分に承知をいたしております。しかしながら、そういうこと以前において政局の変動を見たのでありますから、これを追及しようにも、その当時の政治最高責任者は今日すでになく、われわれとしては、これに対する対策としては、一応国家として赤字の過半を埋めるということの方針が適当であろうということで、あれだけの措置をいたしたことも御了承願いたいと思うのであります。  大へん事情を詳しく申し述べ過ぎまして、かえってお聞きづらかったかと思いますが、そのような事情でありまして、国家が十分の七まで直接または融資によって負担をする以上は、その残りは、やはり料率引き上げは、共済組合その他の関係を見てもやむを得ないのではないか、この程度負担はしていただいてもいいのではないかというのが、私どもの考えでありまして、確かに社会保険審議会においては公式として反対をせられておりますが、事情は以上の通りでございます。
  109. 井堀繁雄

    井堀委員 厚生大臣の立場の非常に困難なことについても、御同情申し上げるほかないのでありますが、しかしわれわれは、ただ単に個人の立場を考慮することによって、こういう重大問題を論議することは許されませんので、追及するようで恐縮でございますが、はっきりした御答弁をもう一ついただきたいと思います。それは、あなたのおっしゃるように、前吉田内閣責任を政変によって引き受けられたという立場もわかるわけであります。しかし、これはこれなりの議論がまたありまして、それで言いのがれはもちろんできるものではありませんし、これが悪ければ後継内閣を断わればいい。引き受ける以上は、解決するだけの自信と、そのための誠意を示さなければならぬのが政治常識であります。この点は、あまり議論しようとは思いません。ただ、ここで大事なことは、私は政治家として、社会党の議員だからというので、別なイデオロギーで議論しているようにお思いかもしれませんが、この問題に関する限り、私はそういう党のイデオロギーというようなことは、全然この場合用いておりません、あなたと同じ立場になって一生懸命心配しておる。でありますから、できないことを私はお尋ねしておるのではありません、当然なすべきことをなぜなさらぬかということをお尋ねしておる。それは、先ほど来繰り返して申しておりますように、この種の保険赤字政府負担するということは、どの方面からいっても当然なんです。それをいかにも白を黒に言わなければならぬというほど、あなたの立場を弁護する理由はないと私は思う。ただすっぱり言われたけれども、閣議においては多数制でありましょうから、破れたということならば、これは別でありますけれども、破れたならば、その立場において責任をとられるわけでありましょう。しかしまだ戦う余地は残されておる。まだあります。でありますから申し上げておる。予算はどうなろうとも、先ほど来岡本委員の質問は、私は適切なものだと思う。同じ種類の相互の保険の中で、政府管理一千億何がしの金を、わずかな金利で勝手気ままに使っておるというようなことは、政府は余裕のある立場を一方において残しておる。赤字を埋めようと思えば、いろいろ技術的な操作はできる。できないことを私はしいておるのではない。これは一例にすぎない。そこまでいかなくとも、ここで私があなたにお尋ねしようと思うのは、これは政策の問題ですから、十分私は尽さなければいかぬと思う。それは、同じくあなたの方でわれわれに示されました資料の方で、平均標準報酬の指数が出てきておる。この指数で見ますと、昭和二十六年を一〇〇として、一三二に上昇しております。ところが物価は、昭和二十六年から今日まで一一六・四です。これは総合的な消費物価です。でありますから、こういうものと比較して正しい答えを求めるということは、私はそれほど統計に信は置いておりませんけれども、今日の場合はこれくらいしか比較できるものはない。もし政府が、もっとはっきりした的確な資料をお持ちであれば、それをいただきたいと思います。こういう点は保険経営の上で大事な点だと思いますが、私は厚生大臣の立場をそのまま認めたと仮定いたしましても、一体赤字負担は、政府国庫負担においてなすべきか、あるいは被保険者保険経営の責任から、それぞれの分担においてなすべきものであるかというその分れ目はここにくるわけです。ちゃんとこの指数に示されるように、被保険者並びに日本の企業家、特に零細企業家は、苦しい経済の中からちゃんとこれだけの負担をしてきておる。その負担の比率は、あなたの資料のように一三二の比率を示しておる。ところが物価の方は一一六・四というこういう資料です。これは一つ資料ですが、こういうようなものの見方からすると、大体保険というものを資本主義経営的に見ていきましても、私は被保険者やあるいは企業家の負担に待つ前に、政府管掌で経営を立ててこられた責任上から、別な数字を提案してくるべきだと思うのです。全額国庫負担にするがいいか悪いかということにも議論がある。今日の国庫負担ということになりますと、国民の税金でありますから、今日の税制の上からいって、そういう数字を出すからには、その資料に基いて、これを根拠としてしかるべき数字が出てこなければならないと思うが、この点について御答弁ができたら一つ
  110. 久下勝次

    ○久下政府委員 これはその数字の見方の問題もありましょうと思いますが、実はこの一〇〇ないし一三二の比率は、負担の比率としては、やはり料率は上っていないわけでございまして、この資料における割合では、同じ比率で負担しておるわけでございますから、つまり負担能力がそれだけふえてきておるというだけのことでございます。金額は、実額は上りますけれども、これは負担能力がそれだけふえておるわけでありますから、負担の比率という数字から申しますれば、実は昭和二十六年から今日まで比率はずっと変っていないのであります。私はさように解釈いたします。それから物価指数との関連をお述べになりましたけれども、物価指数との関連は今一一ということを申されましたが、実は私ども不勉強で数字を存じませんけれども、ともかくも賃金がそれだけ平均して上っておるわけでございますから、その点には対応しておるものと思うのでございますが、お答えになりましたかどうか。
  111. 井堀繁雄

    井堀委員 数字の採用の仕方は、いろいろな見方があると思うのですが、今の局長さんの御答弁のような数字の扱い方で議論をしていけば、また問題が一つ発展してくる。私が今この数字を引例したのは、今日の経営者の——私は保険を資本主義経営だと見た。被保険者から、あるいは保険義務者から保険金を集めて、それに見合うような反対給付をやっていこうという、これだけなんです。その場合に、この健康保険の場合は、これは事業場です。しかも営利事業です。でありますから、どうしても採算をとるわけです。そろばんに合わないような保険料金の値上げをいかに主張したところで、そこで社会保障制度の精神を説いたところで、経営者はコストを割るようなものをするはずはないという立場を私は一応認めてかかった。ですから百歩も二百歩も譲っておる。だから、社会保障制度の議論をする前に、経営を打算の上から、要するにこういう資料を使って申し上げた。一番食いついてきよいところを申し上げた。その一番食いつきよいところをもって考えましても、一般の物価に比例してということは、物価ということは、結局利潤その他のやかましい議論はありましょうけれども、一般のそろばんの上からいえば、この一般のそろばんは相当高いものを上げているということにはなるのですが、その指数は資料にはなるということを申し上げた。それからあなたのとったように、事業場の数と被保険者の数と比率とを持ってくれば逆になってくる。被保険者の数が一八〇の比率に対して月額標準が一三二ですから、これは低いわけですね。だからそこで経営が苦しくなるということは、保険の立場から言えば言えると思います。そういう数字のとり方もできる。だから、それということは、結局政府管掌の被保険者並びに事業場というものは、零細事業場まで、要するに率の悪いところをかかえておるということにもなると思う。そこに政府管掌と保険組合経営との差異が出てくると思う。でありますから、こういう点から考えてきても、これはどっちから譲っていっても、国庫負担にしてまず赤字を埋めなければならぬという結論しか生まれてこないじゃないか、こういうことをお尋ねをしておるわけであります。この点に対する御見解がありましたら、伺いたい。
  112. 久下勝次

    ○久下政府委員 ただいまのお話につきましては、先ほど大臣からお答え申し上げておるわけでありまして、これは制度の建前の問題だと思うのでございます。制度の立て方を、お話しのようなふうに持っていくことがいいかどうか。現在の制度の建前を前提といたしまして、そういうふうな点から私どもものを考えておるつもりでございまして、少くとも現在の保険の建前は、義務費だけを国家負担をいたしまして、そうして保険の給付に必要な財源は保険料をもってまかなうという建前でございます。しかしながら、政府管掌の健康保険にこういう赤字が生じたということで、国家が相当大幅な財政援助をしてこれを切り抜けようとしておるわけでございます。そういう意味合いにおきまして、先ほど大臣がお話し申し上げました通り、こういう社会的な事業に、国としても相応の財政援助をする、あるいは負担をするという建前が第一歩を踏み出したと私は見ております。しかしながら、そういうことがかりに実現をいたしましても、いろいろ給付費に金がかかりまして、それ以上に財源がかかった場合に、何でもかんでも生じた赤字は一般会計の国民の税金に転嫁をしていくということは、この事業に直接関係のない人も多数おるのでございますから、やはり建前といたしましては、社会保障的な一定率の国の負担が実現いたしました後におきましても、やはり財政の事情によって赤字が出て参りました場合には、将来ともこれは事業関係者の負担というものもあわせて考えてしかるべきものだと思うのであります。制度の根本の立て方を変えて参りますれば、お話しのようなことになろうかと思います。私どもといたしましては、先ほど大臣のお答えをそのまま裏づけするようなお答えをしたわけでありますが、現在さような考え方をしておるわけであります。
  113. 井堀繁雄

    井堀委員 局長の立場もございましょうから、政治的な措置につきましては、国務大臣の立場をとるお答えをいただくよりほかないと思いますが、今、事務当局の説明でも明らかなように、元来保険の建前を、被保険者並びに雇い主の負担によってこの赤字を克服していこうとすれば、これは今の局長の答弁のようになってくる。しかしそれは、先ほどの話に戻るわけでありますが、やはりこの保険赤字が出た原因というものがどこにあるかということにも、もちろんウエートは相当置かれると思うのですけれども、とにかくこの点については、先ほどの議論で明らかになっておる。やはり政策から来たデフレ——インフレ政策なら逆だと思う。デフレ政策をとったから、この表のように出てきた。これは局長は言わなかったけれども、経営者にすればインフレとデフレ、インフレをやれば今のを下げてもらわなければならぬ。それは物価にもさわってきます。物価というのはあとを追っていきますから、こういうことなんです。だから、インフレをデフレに切り変えたから赤字が出たということは、局長の答弁で出ている。だから、インフレをデフレに切り変えた政策上の跡始末として、当然これが社会政策の方に回ってきた。だから、これはもう国庫負担にしなければいけませんよ。だから、これを破る議論があったら伺いたいということを、大臣に申しておるわけです。端的でけっこうです。それでは、政策的にそういう破綻がきたなら、どういう方法で国庫負担するか、負担の仕方はいろいろあるだろうと思うが、その辺の見解を実はただしたわけです。  そこで、時間がありませんから、次にもう一つ大臣の見解を聞いておきたいことがあります。それは、先ほど局長の答弁の中で、反対給付であります扶養家族の範囲を縮めてみたり、あるいは退職者の、あるいは失職者の被保険者に対する資格を縮めてみたりしたところで、大した金額は出てこない、この赤字を埋めるのには大きな影響力にはならないということは、私も想像しております。だから問題は、当面の危機を打開するためにこの制度をいじろうという政府のお考えであるなら、赤字を克服するに大して役に立たぬことで、しかも制度としては、これは致命的な後退ですよ。この点で、もし厚生大臣が、いや致命的な後退じゃないと言うなら、どこに前進の跡があるか、もしこれに見解が違うようなら、お答えをいただきたい。だけれども、局長の答弁で私は想像することができた。事務当局としては、あくまで保険は被保険者並びに企業者の負担によって自主経営をやろうという考え方でありますか。そういう考えなら、こういうことが出てきてもやむを得ない。これは政治論になりますので、この点を大臣に伺います。
  114. 川崎秀二

    川崎国務大臣 ただいまいろいろなお説でございましたが、中小企業の今日累積した赤字並びに経営不振というものからして、料率引き上げは非常に困難だということを、数字をあげて御論じになりました。これにつきましては、私も考えておることがありますが、ここで井堀議員と中小企業問題を通じて議論を展開しようという考えはございません。ただ、ここに申し上げるならば、中小企業の保険組合は、政府管掌の健康保険組合でありますが、これがだんだん累積しました赤字につきましては、政府管掌でありますから、主として政府責任があると私も考えております。従って、責任の大部分につきましては、政府が負ったわけであります。ことに、赤字対策といたしまして、昭和二十九年度赤字は、融資ではありますけれども、全部国が責任を持つという形にいたしたのでありますから、これは十分御納得のいけることと思うのであります。昭和三十年度の分につきまして、医療給付費の増大というものが予見をされますので、その分については、保険者自体が一応の片棒をかついでもらわなければ、今後の財政状況というものを切り抜けることはできないということから、責任ある措置をいたしたのでありまして、この点について御了解を得ることができなければ、これは意見の相違と申す以外に方法はないと思うのであります。なおその後においても、努力をし続ければよいではないかということでございました。これは率直に申し上げますが、私は今回の自民両党の修正がされます際に、一般的には、健康保険などというものを考えておる議員もなかったのであります。私一人は頑強にこれを主張しておりまして、自由党の委員ところへも、これは予算修正には応じないのだけれども、もし予算の修正をする際には、ぜひともこの健康保険の今日出しておる改正の部分のことについても、融資または国庫負担という道も考えられるのである。従って、これらについて措置をしてもらうならば、料率引き上げだけで進む。従って、私は決して今度の案を最良のものと思っておるのではないのであります。保険財政の建前から見れば、やむを得ざる措置でありまして、井堀委員の言われるように国庫負担はできませんでしょうけれども、あのときに融資の措置を講ずることができますれば、この保険改正は出さなくてもよかったと考えておりまして、わずか七、八億のことであるから預金部融資を回してもらうように、自民両党の予算委員の間において考えてくれと言ったら、これは健康保険にまでは回らぬということでありまして、私の説に賛成する者は一人もないという窮境であったことを、これは内幕を暴露することでありますが、そういうような事情で、最後までベストを尽したつもりであります。従いまして、はなはだ残念でありましたが、やむを得ざる措置として出しておるのであります。ただいま久下局長が、被扶養者の分は、財政上の措置からとったのではないという答弁をいたしたようでありますが、大がいのことなら、事務当局の言うことを基本にして見解を申しますが、さようなことではございません。たとい四百万円といえども、今回の改正、すなわち財政収支につきまして約十億に近いところの予備金は持ちたいということの考えからしまして、あらゆる財源をあさった結果の一つ措置でありまして、これは局長の食言でありますから、訂正をいたします。
  115. 井堀繁雄

    井堀委員 何も言質を取ろうとはいたしません、どちらでもけっこうです。もし相当額の節約ができるということになれば、被保険者にとっては手痛い改悪を行うということになって、社会保障制度を語る資格なしということを、政府はみずから暴露することになるのでありますから、それはどちらでもけっこうであります。  そこで、私は次にお尋ねをいたしたいと思いますのは、この改正案の中で、監督権と申しますか、監査を強化しようという御趣旨であります。その趣旨について、ちょっとお尋ねをいたしたいと思います。もちろん不正不当に対しまして徹底的な究明をする厳正で公平な断固たる態度は、私は望ましいと思うのですけれども、しかし、それはこの保険の精神から言うと、あくまで民主的なものでなければならぬことは、議論の余地はないと思うのであります。政府管掌で徹頭徹尾政府責任を持つという点については、この場合はもっぱら私は役人が、医療を担当する業者ないしは医療機関に対する不信の上に立って、一方は監督者、片方は被監督者といったような非常にはっきりした立場をとることを、この制度の上ではもちろん認めなければ徹底しないと思います。私はその是非を論ずるつもりは一つもありません。ただそういうことで、今日この危機に当面しておる赤字を克服する手段になるかならぬか。だから、言いかえますなら、必要なる悪を私は認めないというのではない、過渡期において必要なる悪もあるでしょう。だから、言い方は少し強いかもしれぬけれども、民主的な手続によらない封建的な監査方法によってこの悪を是正しようという必要がある場合があるかもしれぬと思うのであります。しかしそれは時期と相手による。この相手は、言うまでもなく、これはもう先ほど来負担の点でも強調されておりますように、自主的なものである、しかも公的なものである、協力をそれぞれの立場の人がしてもらうという立場をとっていくことでありますから、一方では、すでにこの制度の中では組合ができておる、組合制度というのを自主的にやっておる、政府管掌というものを組合と分けておる。行政整理の点では、また別な意見も立てられるかもしれませんけれども、そこでまた行政整理なんというよけいな、官僚に対する必要以上の感情を刺激する弊害がここに出てきておる。この保険の致命的な状態を、不正をあばき、あるいは不当を是正する力になるよりは、弊害の方が出てくるという点を心配する向きがありますが、この点はいかにお考えになっておりますか、お伺いしておきたい。
  116. 川崎秀二

    川崎国務大臣 監査を厳重にいたしまして、そのために相当な成績をあげておりますことは、しばしば答弁をいたしておる通りであります。保険医の監査を厳重にするばかりが能ではありませんが、不正受診が起ったり、不正請求が相当に起り、乱給、漏給というような事実も全国に相当な数散見をされますので、従って、保険財政の危機を招来をするような傾向があることに対しましては、政府管掌健康保険としては、責任ある政治態勢としては、これらについてある種の強権を発動するような改正を行うことは、やむを得ざる措置であろうと私は思っております前に申し上げましたように、元来社会福祉立法というものは、取締り法規ではありませんから、従って刑罰を課するとか、あるいは監査を行なった際に公務の執行を妨害するというような場合、こういう法律にそういうものを規定するようなことは望ましくないというので、実はもっと強い監査規定ないしは取締り規定をこの中に包含してはどうかという説もありました際に、私どもは、かかる社会福祉立法にはそういうものを多く挿入すべきではない、かつて石炭国管法を実施いたしました際に、臨時立法ではありますけれども、強権発動の文字を相当各所に入れまして、これがために、かえって非常な反感を買い、また、ただいま御指摘のような悪影響が出たことも事実であります。従いまして、そのような観点から、最小限度のものにいたしたい。かりに保険医の監査を実行した際におきまして、この立ち入りに対して反対をするというようなことが起りましても——これはその際に暴行とか、あるいは恐喝とかが起った場合でありますが、これは刑法の公務執行妨害罪というように、法を拡張解釈をいたし、あるいは解釈を充実するということが至当であって、こういうものに入れるべきではないということを考えた、そういう考えをいたしておるものであります。しかし最小限度の立ち入り検査に関する規定は設けた方がよかろう。従来、その規定の仕方が不十分でありまして、法律の解釈運用によって補っておった面がありますので、これはこの際はっきりした方がよかろうというので挿入したわけであります。従いまして、ただいま申されたようなことは、私どもといたしましても、立法の当初におきまして、監督をいたしまして、十分なる成果を上げるという所存でやったのであります。
  117. 井堀繁雄

    井堀委員 そこで、御趣旨はそういう御趣旨と了承いたしまして、次に畳みかけて質問して恐縮でありますが、私の見るところでは医療機関、しかもその取締り監査の対象に一番鋭く現われてくるのは医者だと思います。いわば科学者です。この科学者に対して、法律で、しかも行政官がどんな知恵をしぼったって、勝負にならないのではないか、この事実をどのように御解釈になっておるか。
  118. 川崎秀二

    川崎国務大臣 それは常識的に答弁いたしますが、よろしゅうございますか。
  119. 井堀繁雄

    井堀委員 けっこうです。
  120. 川崎秀二

    川崎国務大臣 私は、いかに科学者でありましても、法律を守らず不正請求をしたり、不正受給をいたしました場合には、やはり法を守る立場におきまして、発動いたしまする側においても、十分なる自信を持ってこれを取り締ることができると思っております。
  121. 井堀繁雄

    井堀委員 私は厚生大臣の専門的知識を高く評価してお尋ねをしたつもりです。私の言っているのは、さっきも他の委員からだんだんお尋ねがありましたように、結局その結果が被保険者に肩がわりされてくることをおそれるからです。たとえば、一点単価の問題について、先ほど大臣は滝井委員の質問に、考慮するとお答えになっておりました。ところが、一点単価を引き上げろと、医療費が上ってくるのでしょう。それでさえ赤字になっているでしょう。この改正案を見ますと、あなたは停滞でも後退でもないとおっしゃるが、事実ははなはだしく後退だということは、さっきの御答弁でも——見解でもなんでもありません、事実の問題であります。そこを、今度は取締りで行くということが、とてもこわいのです。あなたがおっしゃられるような、それが違法になるかならないかということは法律の定木で当てはまる。しかしそれを抜けるのが科学者です。極端なことを言いますと、健康保険の薬はきかないという、そんなセンスはない。最近ようやく健康保険に対する信頼を高めてきて、保険医のくれる薬もなかなかよくなり、治療も懇切丁寧で、病気もだんだんよくなってきているというこの心理的影響は、保険を扱う者はよほど考えなければならぬ。被保険者というものは、いつも弱身になったときに頼みに行く。いわゆるおぼれる者はわらをもつかむで、医者を疑ったら病気はなおらぬといっても言い過ぎではないと思う。その場合、一方法律の定木でやっても、科学者ですから、こう言っては何ですが、水を六割割るところを七割割ったって、これは科学者と法律家ではけんかにはならぬと思う。科学者に軍配が上ります。軍配が上るということは、被保険者がそれだけ制限治療なり、あるいは不正治療を受けるという結果になって、何ということはない、科学者と法律家が知恵比べをして、被保険者がその下わりを食うという、保険の目的とは逆行した結論が出てくることは、今までたびたびあったことです。そんなことを繰り返す蒙は、川崎厚生大臣としてひらいてもらわなければならぬ。私の見方は誤まっておるかもしれないが、しかし、社会保障制度に造詣の深い政策を扱う大臣としては、ここら辺、官僚の見解と相違があってしかるべきではないかと思ってお尋ねしたのです。どうかもう一ぺんお答えして下さい。
  122. 川崎秀二

    川崎国務大臣 私は、日本の医者は、そのように法律の適用を免れて、そうして自分の専門的知識を利用して、網の目をくぐって制限給付を被保険者に転嫁するような非良心的行為に出るような人が大部分を占めているとは思いません。医者の諸君のほとんどの方は、日本の知識層の中でも最も高い水準を占められておりまして、その中において、たまたま不正請求や不正受給をするような人がある。これらの者に対しては、やはり法律によるところの立ち入り検査が行われます条項を作って、その網の目をふさいで行かなければ、政治としては十分でないのではないかということで考えたのでありまして、この規定を作ることによって、全国の医者をそういう方向に走らせるようなことは絶対にない、かように信念をいたしておるものでございます。
  123. 井堀繁雄

    井堀委員 ぜひそういう工合に願いたいと私も思うのであります。私も医者を信頼したいと思います。相手をいつも悪者のように考えるという行き方はよくないという考え方は、非常に尊敬できる御意見だと思いますが、そういう考えであれば、こういう法律をお出しになることは矛盾すると私思うのです。まあしかし、中には裁判所のかご抜けもあるのですし、人間神様でございませんから、一罰百戒というやつもございますが、そういう意味でおやりになるなら、従来のものでも十分ではないかと私は思うのです。医者を疑われるような効果のないことを、こういうところになるべく出さないで、あるいはまた医療給付その他反対給付に対するあまり大した問題にもならぬ制限をして、被保険者感じを悪くしたりすべきではない。またインフレとデフレの切りかえによって起ってくることは、何もむずかしい経済学を論議しなくても、インフレになれば賃金が標準報酬の形をとってきますから、それはすぐ出てくるわけです。それで立場の相違ということになれば、これは別です。私は立場を同じゅうするつもりで今までお尋ねをしてきたつもりであります。  最後に、大臣の善処を要望する意味で、一言お尋ねをして私の質問を終ろうと思います。それは健康保険法改正について、社会保険審議会でどういう議論があったかということを、私詳細には知りませんけれども、私のあとう限りで資料を集めてみました。ところが、大臣がさっき引例をされました公益側の委員あるいは経営者側委員といえどもそうではないのです。社会保障制度審議会答申がまるっきり宙に浮いておるわけです。ああいうものを少しでも前進させたいという熱意についてはみな一致しておるようです。そこでその方法論において私は非常な大きな違いが出てきていると思う。ただ単に政府責任をのがれようとするずるい考えとは取りません、もっと好意的に見ていきたいと思う。しかし大勢としては社会保障制度を日本の場合においては一日も早く確立していきたいということは一致している。でありますから、その背骨をなしておるということは大臣も認めておられる。健康保険については、和は今まで委員の諸君の熱心な御討議がありましたので、そう変った議論はないと思うのでありますが、少しでも悪いと思われるところがあったら、さっさと改めて衆知につくというふうになさるべきではないか。行きがかりや面子にこだわらずに、思い切った修正が委員の間から出てきたら、それを受けて立つ御用意を願いたいという意味で、そういう寛大な態度でこの議案に臨まれる御意思があるかどうか伺いたい。
  124. 川崎秀二

    川崎国務大臣 政府としては、原案の通過を願っておるのであります。しかしながら、健康保険につきましては、幸か不幸か、すでにして国費負担並びに融資の措置予算上講ぜられまして、来月の二日ごろに予算案が参議院を通過成立をいたしますれば、このことによって大半の問題は解決をし、一部世論の反対がありましたが、すでに料率引き上げも断行済みであります。従いまして、大半の問題はすでに解決をいたしておりますので、国会におきまする審議におきまして、どうしてもこの保険改正というものに納得しがたい、あるいは修正をされるということに相なりますれば、その修正の度会いにもよりまするけれども、修正のことにつきましては、決して原案から一歩も譲らぬというような態度ではないことを、この際申し添えておきたいと思っております。
  125. 中村三之丞

    中村委員長 次会は明二十九日午前十時三十分より開会することとし、本日はこれにて散会いたします。   午後五時五十三分散会