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1955-07-01 第22回国会 衆議院 行政監察特別委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年七月一日(金曜日)     午前十一時十二分開議  出席委員    委員長 篠田 弘作君    理事 高木 松吉君 理事 南  好雄君    理事 山中 貞則君 理事 山田 長司君    理事 神田 大作君       濱野 清吾君    米田 吉盛君       久野 忠治君    塚原 俊郎君       福永 一臣君    井手 以誠君       高津 正道君    辻原 弘市君       西村 力弥君    大西 正道君       小林 信一君  委員外出席者         証     人         (社団法人教科         書協会常務理         事)      白根 孝之君         証     人         (主婦)    神田 清子君         証     人         (大日本雄弁会         講談社教科書局         長)      由井 千春君     ————————————— 七月一日  委員荒舩清十郎君及び福井順一君辞任につき、  その補欠として久野忠治君及び福永一臣君が議  長の指名で委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  証人出頭要求に関する件  調査経過報告書に関する件  小・中学校における教科書関係事件     —————————————
  2. 篠田弘作

    篠田委員長 これより会議を開きます。  この際お諮りいたします。本委員会設置の決議によりまして、本委員会は少くとも月一回調査報告書議長に提出いたすことになっておりますが、ただいま諸君のお手元に配付してある通り、簡単なる調査経過報告書委員長において作成いたしたのであります。これを議長に提出いたしたいと思いますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 篠田弘作

    篠田委員長 御異議がなければ、さよう決定いたします。  なお、字句の訂正整理等につきましては委員長に御一任願います。     …………………………………   〔行政監察特別委員会調査報告書行監調二十二ノ一)本号末尾に掲載〕
  4. 篠田弘作

    篠田委員長 次に、御報告申し上げます。すでに本委員会におきまして証言を求めました証人川口芳太郎君より委員長あて上申書が参っておりますので、これを朗読いたします。    上 申 書  昨日の証言に間違いがありましたので左記の通り訂正をお願いいたします。       記  一、長野事件  長野事件証言のうちで私が外国へ旅行したと申しましたが、記憶の違いでありました。実は全国供給状況実際調査のため二週間ないし三週間くらいずつ二、三回連続旅行中の誤りでした。なお外国旅行昭和二十七年六月より八月まででありました。   昭和三十年六月二十八日        証人  川口芳太郎  行政監察特別委員会篠田委員長殿  以上の通りであります。
  5. 高津正道

    高津委員 前回の当委員会において、学図取締役である近藤寿治君が中教審の委員に任命されておるのでありますが、その持ち株について、川口証人は今記憶がないからと言って、あとで調べて委員長あて報告をよこすことになっていたのでありますが、もしその持ち株の株数の報告が来ておればこの際御報告を願いたいと思います。
  6. 篠田弘作

    篠田委員長 ただいまの高津委員のお尋ねに対し委員長よりお答えいたします。学校図書株式会社取締役近藤寿治君の当社株所有数は一万八千五百株との報告が参っております。なお、事務局調査員二名を派遣し、この事実につき確認していることも、あわせて御報告申し上げます。  それでは、ただいまより、前会に引き続き小、中学校における教科書関係事件について調査を進めます。直ちに証人より証言を求むることにいたします。  ただいまお見えになっておられる方は白根孝之さんですね。
  7. 白根孝之

    白根証人 さようであります。
  8. 篠田弘作

    篠田委員長 この際証人に一言申し上げますが、現在わが国において小中学校における教科書は多種多様にわたり、大小出版社が乱立の結果、これが検定、並びに採択に関しとかくの風評も生まれ、これが学童並びに父兄に及ぼす影響等を懸念し、世上大いに関心を抱いておる向きもありますので、義務教育の本旨にかんがみ、これが真相を明らかにすることはきわめて意義あることと考え、本委員会は本件の調査に着手した次第であります。証人におかれましては率直なる証書をお願いいたします。  それでは、ただいまより小中学校における教科書関係事件について証言を求むることになりますが、証書を求める前に証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号、議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならないことと相なっております。宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあった者及び証人の後見人または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び、医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあった者がその職務上知った事実であって黙秘すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになっております。しかして、証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは三月以上十年以下の懲役に処せられることとなっておるのであります。一応このことを御承知になっておいていただきたいと思います。  では、法律の定めるところによりまして、証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書の御朗読を願います。   〔証人白根孝之朗読〕    宣 誓 書  良心に従って、真実を述べ、何事もかくさず、又、何事もつけ加えないことを誓います。
  9. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは、宣誓書署名捺印して下さい。   〔証人宣誓書署名捺印
  10. 篠田弘作

    篠田委員長 これより証言を求めることになりますが、証言証言を求められた範囲を越えないこと、また御発言の際にはその都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。なお、こちらから質問をしておるときはおかけになっていてよろしゅうございますが、お答えの際は御起立を願いたいと思います。  証人の履歴を述べて下さい。
  11. 白根孝之

    白根証人 明治三十八年広島県に出生、昭和三年当時の九州帝国大学法文学部を卒業いたしました。専攻は哲学であります。自後福岡女子専門学校を皮切りに、東京高等師範学校慈恵医大法政大学等の講師を歴任いたしました。昭和十二年八月日支事変の勃発と同時に応召いたしまして、自来、二十年の十二月に至ります終戦までの間に、応召四回、出たり入ったりいたしました。内地におります間に大政翼賛会及び翼賛壮年団におりました。昭和十七年から十九年募れの最後の応召の間に日本出版会に勤務いたし、終戦後は追放生活を送りまして、二十八年三月、現在の社団法人教科書協会発足と同時にその常務理事に就任して、事務局長を兼ねて今日に至っております。なお、二つほどの私立大学教育学の講義をいたしております。
  12. 篠田弘作

    篠田委員長 社団法人教科書協会の沿革並びに業務内容を簡単に述べて下さい。
  13. 白根孝之

    白根証人 昭和二十三年八月に第一回のいわゆる展示会が開催されたのでありますが、当時出展いたしました発行会社数は二十二社、出展教科書種類は六十種類、こういう状況発足いたしたのでありますが、間もなくこれらの発行会社の間に相互の連絡親睦を兼ねまして任意団体である教科書懇話会なるものが結成されました。これは、教科書発行業というのはいろいろな特殊性格を持っておりまするが、大所の社長と申しますか、最高責任者は実はほかの業務も兼ねております関係上、教科書発行そのことについては専務あるいは常務の地位におる人がこれに当っておるというところが非常に多いのであります。そういう意味で、教科書懇話会一つ性格は、代表取締役である社長でなしに、教科書発行業務の第一線を担当しておりました専務常務クラス人たちが集まってやっておったという点にあるのであります。その後、検定制度が進みますにつれまして、だんだんと発行会社の数もふえて参りまして、昭和二十八年の協会発足の当初には八十社であります。そして、検定制度そのものが、占領下あわただしい中で早々の間にこれは作られまして、法律にいたしましても、臨時措置法を主峰といたしまして、約六つの法律にまたがっておる、こういう不備な早々の間に発足いたしましたので、これをころがしていきます間にいろいろと問題が重なって参りました。次第に業界共通の問題として処理を要する問題が出て参ったのであります。懇話会の間で何とか任意団体をいま少し強化と申しますかすっきりとしたものにしたいという要望がだんだん出て参っておったのであります。  ときあたかも、昭和二十七年に、教科書発行会社競争が激化いたしまして、遂に公正取引委員会及び一部検察庁の活動をまつというような、憂慮すべき事態に達したのであります。監督官庁である文部省におきましても、この事態を非常に憂慮いたされまして、当時の主管課長がおもな教科書会社社長を歴訪されまして、何とか自粛をしてもらいたいということを懇請されたというふうに承知いたしております。  そこで、これをいわば直接の動機といたしまして、公取及び検察当局から業界の粛正という問題をいわばげたをあずかった文部省要請もありまして、二十七年の秋ごろから、よりより懇話会改組の話が進んだのでありますが、非常に複雑な業界でありまして、ピンからキリと申しますが、ピンの方は年間二十億の売り上げがある、キリの方は数十万円といったようなありさまでありまして、役員の構成、それから会員そのものの種別というような点で手間どりました。ようやく翌昭和二十八年の三月十四日に、社団法人教科書協会といたしまして、その定款主管大臣である文部大臣から認可を受け、発足したような次第であります。
  14. 篠田弘作

    篠田委員長 業務内容について…。
  15. 白根孝之

    白根証人 現在まで協会でやって参りました業務実情をお話した方が、定款等の形式的な規定を申し上げるより実情に沿うと思いますが、主要なことについて御報告いたします。  先ほど申し上げましたような経過発足いたしましたので、当初はこれは自粛協会とすら言われたのでありますが、直ちに専門委員をあげまして自粛の問題の工作の研究にとりかかったのであります。そうして、これは事務局の御要求によりまして委員会に提出いたしましたが、協会教科書出版倫理確立のための宣伝実施要領、並びにその細則規定いたしました禁止事項、それから宣伝活動の限界、範囲というようなことで、具体的に規定したのであります。宣伝の時期もおいおい迫りましたので、たしか五月と記憶いたしますが、第一回の臨時総会を招集いたしました。満場一致でこの宣伝実施要綱実施細則とを承認いたしました。厳に自粛を誓って二十八年度の宣伝に出発したようなわけであります。  続きまして、二十八年の六月二十八日、北九州及び西日本を襲いました十二号台風の結果、約一千万円のすでに子供の手に渡った教科書が流れたのであります。これに対しましては、早速災害対策特別委員会を編成いたしまして、その対策に当りました。行政当局の御支援を得て、大蔵省にも交渉をいたし、厚生省にお願いいたしました。このときに、義務教育教科書に関しましては、他の生活必需品並み災害救助費支給率を大幅に高めていただいたのであります。なお、年間子供の手に渡りましたあとで流れたり火に焼けたりする教科書の数が約二千万円に上っておるのであります。これは、協会ができます以前は、全部各災害地元からの要求によりまして発行会社が個個思い思いに補給しておったのであります。その結果、そこにはお見舞いと称する宣伝活動とまぎらわしいような行動もまぎれ込む危険性もあった。どさくさまぎれに乗じて、自社の宣伝にこの機会を利用するということはきわめて危険である、こういう趣旨をるる述べまして、災害の場合の義務教育教科書国家保障という非常に貴重な芽ばえがここに生じたのであります。自由党の善政の一つと私は今でも信じておりますが、それ以来、災害のつど、教育委員会学校当局連絡をいたしまして、現在では迅速正確な補給ができるようになっております。次に、教科書内容につきまして、これは一指を着したのみの非常に微々たる活動でございまするが、各教科内容にいろいろな不調和な点がある、これは発行会社が思い思いに出しますので、当然起り得る現場の不満であります。この問題について、さっそくこれまた専門委員会を招集いたしまして、まずその第一着手といたしまして、各学年別新出漢字配当案をつくったのであります。まずこれは現行のすべての国語教科書から各学年に新出いたしまする漢字を抽出いたしまして、そのフリークェンシーによって一応八百八十一字の教育漢字を配当いたしました。しかる後で、算数理科、社会といったような関連教科教科書を同じような操作によりまして漢字を抽出いたしました。術語と申しまするか、その事柄の本質上どうしても出なければならない、たとえば国家というような文字はかなりむずかしい字画でありまするが、小学校二年ぐらいでは教えなければならない。これに反して万とか千とかいう漢字は非常に容易ではありまするが、数概念としては必ずしも低学年のものではないというような操作を加えまして、従来のような算数先生がまず国語先生のかわりをして漢字を教えなければならないというような不便を教科書から一掃する、こういう仕事をやったのであります。  その他、電力事情の悪いときとか、あるいは輸送上の問題が起ったときとか、たとえば洞爺丸の沈んだ結果北海道への教科書供給が遅延するといったような場合には、それぞれ対策委員会を招集いたしまして、これの解決に当って参りました。  大体以上で業務内容の具体的な点はおわかり願ったと思うのでありますが、社団法人といたしまして、理事評議員、正式の定款規定通りの組織がありますが、理事と申しまするのは、今申しました通りに、必ずしも業務内容に明るくない社長がなっておられます最高機関でありますが、実際業務運営上常任委員という制度を作っております。これは現在十五名でありまするが、業界各社のベテランを集めまして、業界全般のことについて会長及び理事会の諮問に応じて建議する、あるいはその命令によって執行にも当る。その常任委員会委員をもちまして長とする各種専門委員会を作りました。これに事務局仕事をカバーをいたしてもらう、実際の運営はそういうように延べ六十五名の各種専門委員の力によって運営をいたしておる。かような実情であります。
  16. 篠田弘作

    篠田委員長 現在教科書を発行しておる会社などにつきまして、教科別発行者別発行部数等について、その概況を述べて下さい。
  17. 白根孝之

    白根証人 現在発行社数は九十五社あります。そのうち協会会員が七十九社であります。あとの非会員十六社の内訳は、四社は会費滞納のために除名ないしは脱会した社であります。残りの十二社は、主といたしまして、来年度の教科書検定をパスいたしまして、現在見本展示中でありまするが、まだ発行業者でないので、いずれこれは入ってくるものと思っております。  次に、この業界内訳でありまするが、最初に申し上げましたように相当複雑な勢力分布でありまして、発行数の点から申し上げますと、小学校教科の中で、全科目にわたって発行いたしておりまするいわゆるデパートメントは四社しかありません。それから、中学校十二教科につきまして、その全部を発行しておる社はありません。そのうち十科目を発行しておるのが三社であります。そこで、科目総数の過半数と申しますか、小学校教科以上の社は八社であります。それから、中学校教科以上を出しておるのが十社であります。もちろんこれにはダブっておるのもあります。それから、会員七十九社の中四十七社は、いわば一品料理屋さんでありまして、一種類だけを出しておる。それは主といたしまして図工、ローマ字、書き方あるいは地図帳といったような特殊なものを出しておるのが四十七社であります。残りの社が二種もしくは四種、五種と出しておるというような実情であります。  なお、業態というものの見地から分類いたしますと、大きな印刷工場教科書印刷にたえるような印刷設備と何らかの形で結びついておると申しますか、資本が同じであるとか、社長が同じであるとかいうような形の発行会社が六社。それから兼業者があります。主としましてワーク・ブツクあるいはトラ巻と一口に言われております学習参考書、こういうものとの兼業が約五十社。残りがともかくも教科書事業に専念しようといった、——もちろん教科書の面におきましては各社とも真剣に努力しておるのでありますが、そういう企業体から言った相違がありまして、かてて加えて、非常に激甚な競争に宿命づけられておりますので、きわめて協会の内部の事情は複雑微妙であります。  次に、教科書発行冊数でありまするが、総冊数二億三千六百万冊というのがここのところ動かない冊数であります。そのうち、小学校教科書種類で申しますと、百五十種類であります。つまり国語の一そろいを一種類と見まして百五十種類中学校は三百八十種類。多少の間違いはあると思いますが、総冊数が二億三千六百万冊。
  18. 篠田弘作

    篠田委員長 元文部省で勤務していた人で現在教科書を発行している会社に勤務している人、あるいはまた教科書会社にいた人で現在文部省に勤務している人が、あなたのわかっておる範囲でいいですから、もしあったら述べてもらいたい。
  19. 白根孝之

    白根証人 この点は、私、教育界の端くれにおりました関係で、大体全部承知いたしておると申し上げて差しつかえないと思います。申し上げます。古いところでは井上毅文部省における官職名並びに現在発行社における職名等につきましては若干正確さがないところがあると思いますが、御了解願います。この人はずっと古い文部省図書局課長であったと存じております。現在日本書籍株式会社編集関係のポストについておられます。それから、同じころの出身の方で、やはり数学担当の元監修官であり、課長であった塩野、これは大阪啓林館の重役であります。それから、文部省図書監修官であった前田隆一、この人は大阪書籍社長であります。それから、元文部省におきまして次官をされました有光次郎、これは秀英出版社社長であります。それから、岡と申しましたか、理科関係監修官でありますが、大日本図書編集関係者であります。それから近森、これは音楽専門監修官でありますが、学校図書株式会社編集をやっております。それから、これは古い課長記憶しておりますが、桑木厳翼博士の弟に当ります理科専攻の方で、これも大日本図書のたしか編集長ではないかと思っております。それから、これも元次官河原春作、この方は教育図書出版会社のたしか顧問ではないかと思います。  なお、教科書業界から文部省に入ったお役人というのは、この前の本委員会で取り上げられました学校図書株式会社以外の社にはありません。
  20. 篠田弘作

    篠田委員長 それから、教科書販売普及のため教科書会社がとっている各種方法について述べていただきたい。
  21. 白根孝之

    白根証人 これは大体各社とも方法はそう奇手妙手があるわけではないのでありますが、表向きは現在行われている展示会見本本を提出いたします。しかしながら、この見本本展示会の期間だけでは、常識的に見ましても、一教科二十種類、平均十七、八種類もある教科書内容的検討ができないということは明瞭なことなんであります。われわれ多年政府に対しましてこの展示会を唯一の公的な教科書研究の場にしてもらいたいという要望を出し続けて参ったのでありますが、遺憾ながら今日まで実現いたしておりません。一昨年の予算大蔵当局もモデル的なそういうものを作ろうということで一千四百万円計上されたことも聞いておりますが、一兆予算でお流れになりました。文部当局の不断の努力にかかわらず、この点は実現しておりません。そこで、発行会社としましては直接宣伝を行うわけです。これは、発行会社の立場になりますと、社運を賭して世の中に出した自分の教科書が、内容おろか存在すらも知られない間に葬られるということにたえられないのであります。そこで、協会建前といたしましては、この展示会制度を補い、教科書存在内容とについて採択者に知ってもらうということを限度とする宣伝活動を認めております。行政当局またこれをお認めになっている。  そこで、展示会以外の宣伝活動方式でありますが、見本本学校に献本をいたします。それから編さん趣意書その他のものを献本いたします。それから、あるいは会社が主催し、あるいは地方各種教育団体からの要請を受けまして、教科内容に関する指導講習会研究会座談会というようなことを実施いたします。それから、非常に問題になっておりますのは各社駐在員で、これは私の方では一応各社の社員の外交員とは区別いたしまして、臨時もしくは常時の嘱託的なものと解釈しております。名前も参与、顧問、いろいろあるようでありますが、要するに、主として地方の現地に駐在しておりまして、教科書宣伝に従事する人間であります。大体これが予想される宣伝方式であります。
  22. 篠田弘作

    篠田委員長 そのほかに、招待とかあるいは接待、そういうようなことも一つ方法として入っているのではないですか。
  23. 白根孝之

    白根証人 事務当局の方に提出いたしました実施細則の中に、宣伝行為として禁止すべき事項が羅列いたしてあります。飲食の供応、それからバス、車馬賃等の給与、——そこに羅列してあります禁止事項と申しますのは、業界から出ました委員が額を集めて作った案なのでありまして、すなわち、その裏ではかくのごとき行為が程度の差こそあれ行われておったと申し上げて差しつかえないと思います。
  24. 篠田弘作

    篠田委員長 駐在員はどの会社も全部置いておりますか、あるいは特殊な会社が置いておりますか、その点、もし会社名と数がわかったら述べていただきたい。
  25. 白根孝之

    白根証人 これは、もちろん、全国的に組織的に各県に何名というように常置することは、先ほど申し上げました大きな発行部数を持っている会社でないとできないのであります。しからば、小さい社が全然ないのかと申しますと、これまた絶無とは断言し得ないのであります。その間のことは、的確に、何社が何人持っている、全然持たないのが何社ということは、実際問題としてわかりません。
  26. 篠田弘作

    篠田委員長 教科書協会におきまして、教科書出版倫理確立のために宣伝実施要綱を作ったと聞いておりますが、こういう要綱を作った理由、その内容あるいは実施状況について述べて下さい。
  27. 白根孝之

    白根証人 先ほど申し上げましたような経過実施要綱ができたのでありますが、これを貫いております建前と申しますかプリンシプルとしましては、各教育委員会が行う展示会というものの幅が非常に狹い、——現在では五日間ないし七日間というのが大体実情であります。そのうち半日くらいしか各学校には割当がないのであります。これが非常に不備である、従って、これ以外に、このワク以外の線で展示会趣旨教科書内容比較検討ということを補足しよう、そのための宣伝活動教科書内容及びその効果的な使用方法についての宣伝、これは展示会の現状においてはやむを得ない、その線を一歩を出た行為についてはこれを不公正なりとする、こういう建前であの実施要綱はできておるのであります。第一回の臨時総会のときに確認いたしました以後、毎年宣伝の時期には総会評議員会理事会においてその趣旨を再確認、再々確認して参っております。自粛々々というのが、私の協会性格上これが限度なんでありまして、その限度内におきましては、総会のほか毎月一回ずつ定例的に行なっておりまする評議員会理事会等の機関におきまして毎回たびと言っていいくらい確認を続けて参っております。しかしながら、全般に見渡しましたところ、業界宣伝活動にかくのごとき事実なしということをこのような席上で断言し得ないことをはなはだ遺憾に思います。
  28. 篠田弘作

    篠田委員長 現在とられておる全国各地における教科書採択方式について、御存じの点があれば述べて下さい。
  29. 白根孝之

    白根証人 教科書採択の根本的なあり方は、現行新しい教育制度におきましては、学校の第一線の教師、子供を預かりみずから教育指導計画を立て、みずから教育内容の編成の職に当る教師、これが純粋に教育的な立場から採択すべきであるというこの原則から申しまして、各学校が思い思いに自分のところの指導計画に合ったものを採択するというのが理想であります。現在、これに近い形で行われておりまするのは、東京と、それから新潟県等はややこれに近い。そして、各学校から出て参りましたのを、教育委員会において、地域性が非常に劣っておるとか、そういった点から、ほんの数%だけ整理をされるというように記憶しております。これと逆に検定制度のありようから申しますると、われわれといたしましては、最も困る行き方は、県で現場教師の意思を無視して一方的に何種かに狹く縛ってこれを現場の先生に押しつける、私はこれこそ国定精神だと思うのであまりすが、こういうような行啓方が逆の場合でありますが、これに最も近いと申しますか、そのままのこととは申しませんが、そういう一つの極に近いやり方でやられましたのが数年前の福島県の教育委員会である。その後漸次この幅は広げられておるようでありますが、この県からは、展示会実施に先だって県教育委員会あるいは地教委の連合会の名をもって数種類にしぼられた教科書の候補が学校に配付されたという事実があります。この二つを両極といたしまして、いろんな段階がその間に各県によってあるのが実情であります。各県ごとにこまかい組織とニュアンスとが違うのでありますが、段層的にこの間に位しておる。最近特にはっきりといたしました一つの傾向は、転校生の場合の再補給の不便というようなことが直接の原因となりまして、地域別の一本化あるいは数本化であります。主としてこれは郡市単位であります。県単位で一本にするということは、現在のところないようであります。
  30. 篠田弘作

    篠田委員長 ただいま福島県の例をとられましたが、それは、県ではというのは県の教育委員会あるいは地教委、そういう問題ですか。
  31. 白根孝之

    白根証人 私が就任いたしました二十八年の展示会のときに、福島県地教委連合会の名前でそういうような刷り物がありました。
  32. 篠田弘作

    篠田委員長 教科書出版会社編集関係しておる現場教師の団体について、その団体名並びに関係しておる出版社の名前について御存じの点があったら述べて下さい。それから、こういう団体は教科書採択と密接な関係を持つものと思われるけれども、それに対する証人の所見を述べて下さい。
  33. 白根孝之

    白根証人 公的な教育者の団体と申しますのは、これは全国的に大体郡市を単位といたしました各教科別の教育研究会、そのほかに有志をもって組織されました社会科研究会あるいは国語教育研究会というようないろいろの団体が、これはもろさまざまあるのであります。その中に、たまたまある社の著者あるいは執筆者がその団体の中に入っておる、これも十分あり得る場合であります。私は、この点につきましては、こういう研究団体の教科書研究活動こそ大いに奨励さるべきものではないかというふうに私見いたしております。著者、執筆者が関係しておりましても、みずから最善なりと信じて書いた自分の著書を広くこれが利用されることを希望するということこそ、これは正しい道でありまして、その間に因縁情実その他のいまわしい不正な教育外的な要素さえ混入しなければ、これはむしろ、われわれといたしましては、大いに教科書研究活動を盛んにしてもらいたい、かように考えております。
  34. 篠田弘作

    篠田委員長 現在の供給機構が教科書の自由採択を阻害しておる事実はないか、また学生協から出発した特約供給部門があるが、かかる供給所は教科書の自由な採択をはばむものと思われるという意見があるけれども、それに対するあなたの所見を述べて下さい。
  35. 白根孝之

    白根証人 法律におきまして、教科書の末端までの完全な供給の責任は、供給業者でなくて教科書出版会社が負わされているのであります。従いまして、全然別な企業体でありますけれども、供給機関のあり方ということにつきましては、各発行会社はもとより、私の立場から申しましても、非常に強い関心を持っております。国定時代、特に戦争末期、終戦の直後、あらゆるものが国家統制、配給制度になりましたときに、本屋といえどもやはりいわゆる配給者であるというので、ほしければ買いに来い、前金を出せというような習慣が、しばらくの間、終戦後といえども行われておったのでございまして、約六十あります全国の特約供給所及びその傘下約五千の小売業者の中には、現在ではこういった時代錯誤的な意識は払拭されておりますようなものの、因襲久しく、なおかつ頭のすみっこに多少でもそういうものが残っておる、こういうようなことを考慮いたしまして、私みずからが、機会あるごとに地方に出かけて行って、供給業者の会合にも出まして、教科書というものの性格から、完全供給の義務ということを強く要望指導いたしております。なお、特約機関をも含めまして供給業者と発行会社との契約は一年更改、年間の成績を見まして、その供給の実績が上らない場合には契約を破棄することができるような仕組みになっております。  第二にお尋ねの学生協問題でありますが、御承知の通り終戦直後のただいま申し上げましたような時世に、ひどいのは、教科書がなかなか手に入りにくいから、前金を出せと言って、県下の子供から前金を取り立てまして、それを横に流す、あるいは教科書入手の努力はあまりしないでいて、一年ほどその金をただで使っておいて、期限が来たら、教科書は半分しか手に入らなかった、金は半分返すから、リヤカーを持って取りに来い、こういうけしからぬ特約があったということを聞いております。そこで、当初におきまして学校生活協同組合が教科書の配給に手をつけましたのは、程度の差こそあれ、こういった欠陥のある特約のあった県であります。子供を直接預かっておる教育関係者としては、私はこれは当然の心境だろうと思います。中には、そのために東京に出て参りまして、教科書会社と交渉をされても、片一方も業者でありますから、経済信用の置けない学校先生の団体なんかとは取引できないというので、大部分の会社はこれとの取引を拒んだのであります。そのために、郷里から何とか自分たちの手で教科書子供に与えたいという決意をもって上京された生協の人たちの中には、東京の安宿で天井を仰いで首をくくろうかとまで考え詰められた人もあるように承わっております。その当時の情勢におきましては、余人ならず、私どもでも、かくのごとき行為に出たと思うのであります。ところが、その後供給機関もだんだん整備して参りますと、学校生活協同組合が直接教科書を取り扱うということは、何としても採択関係者である学校教員とうらはらの関係にある人がこれを扱うのであります。すべての発行会社がこれと商取引をいたしますれば、一応取引先である全発行会社のどれこれによくすることもできないという仕組みでありますが、発行会社の中で数種の特殊な会社だけ学生協と取引を結ぶと、勢い特約供給所と学生協との間に売り込みの競争が起るのであります。その場合に、現場の採択者につながる組織が教科書を扱う、しかもこれによって相当の手数料をとるというようなことは、教科書そのものの公正な選択、純教育的な選択という面から、道徳的な問題は別といたしまして、好ましくないというので、昭和二十七年に、学生協のごときものが教科書を取り扱うことは好ましくないという文部次官通牒が出たのであります。自後、学生協は逐次株式商事会社に改組いたしまして、今日ではなまのままの学生協が教科書を扱っておるという県はありません。この問題に対する私の所見は、一部分は申し上げたのでありますが、今後ともこの学校生活協同組合から発生いたしました特約供給機関は、協同組合の規約を株式会社の寄付行為に切りかえただけでは、この機関はなかなかすっきりしない複雑なものであります。末端の取次店に理想的なものをつかむというだけでも、そう簡単にはいかないのであります。また、二十七年の次官通牒以来三年しかたっていないのであります。さらにその方向に供給機関としてのすっきりとした形にできるだけすみやかに脱皮されることを私は希望し、関係者に対してもその旨アドバイスはしているようなわけであります。
  36. 篠田弘作

    篠田委員長 現行教科書制度について、教科用図書検定調査審議会の調査員、あるいは教科書種類——これは先ほど言われましたからよろしいですが、教科書採択権、採択方式展示会のことは言われましたからよろしゅうございますが、供給機構、こういう問題について述べていただきたい。まず教科書検定調査審議会の調査員について。
  37. 白根孝之

    白根証人 これは、審議会が委嘱する文部省の嘱託としての身分を持つ調査員が、現在約千三百名と聞きますが、各教科書について調査をされているわけであります。これにつきましては、私多年意見を持っておりますし、またこれは業界全体の意見、希望であると申し上げていいと思いますが、行政当局に対しまして、現行のようなカーテンの陰に隠して切り捨てごめんというような制度はやめてもらいたい、すべからく調査員は公開していただきたいということを文書その他をもって折にふれ建議いたしております。  その理由といたしまして、いろいろあげられますが、現在文部省のお役人あるいは調雇員と発行業者との間にかれこれのことがあると申し上げるのではありませんが、そういう危険の生じ得るような制度にしておくことは制度として間違いである。つまり、カーテンの陰で事務担当官吏がどうでも曲げることができるというような危険のある制度であります。それから、いま一つ、非常に重要な点だと私は思いますが、この調査員に対する報酬は、聞くところによるときわめて薄いのであります。しかも、その人は、数人の文部省の役人しか自分のやっている仕事は知らないという立場に置かれている。報いられることきわめて薄く、社会的な自分の責任は全然わからない。だれも知らない。だれにも知られないところで煩雑な仕事にベストを尽すというのは、人間精神の極致でありまして、すべての人間にこれを要求することはむずかしいんじゃないかと思います。従って調査がおざなりになりがちである、——これも現にそういうことがあったと申し上げるのではありませんが、そういうことになりがちな危険性のある制度である。これは非常に重要な点でありまして、教科書内容調査がなおざりになり、何か書かなければいかぬから、気のついた誤字、脱字だけを書いておくということになりがちな危険性を申し上げているのであります。これに反しまして、現在のカーテン主義と申しますのがあげられている理由は、公開すれば個々に業者が連絡してスキャンダルのもととなるという一点なのであります。この点につきましては、現在といえどもこのカーテンが絶対にめくれないとは言えないのであります。カーテンの一端をめくることができないとは言えないのであります。そうすると、たまたま一部のカーテンをめくった人間だけがそういうことをなし得る、しかもこれを国家制度においてカーテンの陰で擁護している、こういうおかしなことになるのであります。公開をいたしました場合にそういう危険性が起るとすれば、現在の文部官僚全部がそういう危険性にさらされているんじゃないかということも言えるのであります。よしんばその場合にけしからぬことが起ったならば、私は厳罰をもって臨むべきだと思います。教科書採択関係者と発行業者との間のいろいろな問題になかなか司直の手を伸ばすだけの断がつかないというのは、このことの童心に及ぼす教育的の影響ということを顧慮するからであります。調査員一人と発行会社一つとの贈収賄ならば、ばっさりやってもその影響はあまりないのでありまして、十分これによって是正で承ると思います。このような理由から多年当局に建議いたしておりますが、先般の松村大臣の二十三日の記者会見では、調査員の公開をするという言明があったようでありますから、喜んでいるようなわけであります。
  38. 篠田弘作

    篠田委員長 供給機構の問題について、もう少し話して下さい。
  39. 白根孝之

    白根証人 先ほど申し上げましたことのほかに、供給機構に関しましては、一昨年から昨年にかけまして約一年間にわたりまして、この供給機関が独占的な企業形態ではないかという疑いのもとに、公正取引委員会が鳥取県、福岡県、佐賀県におきまして延べ七百人ぐらいの証人を呼びまして調査されたのであります。証人も終始これに出席いたしました。その結果、公取の結論といたしまして、教科書発行事業に関する限り一見して独占的な経営形態というものはやむなしという結論が出たのであります。ただ、その場合に、条件といたしましては、そういうような性格のある供給機関であるだけに、その特権の上にあぐらをかいて企業独占の弊害を犯すようなことは厳に戒めるということが条件になると私は思うのであります。こういう線から、発行会社の団体の事務局を領かる者といたしまして、始終供給機関に対しまして指導と注意とを怠らないようなわけであります。
  40. 篠田弘作

    篠田委員長 次に、教科書の価格につきまして、現行の基準が適当であるとお思いになるかどうか。あるいはまた、出版業者側の経営の合理化によって価格を低減させることができるのではないか。証人の意見を求めます。
  41. 白根孝之

    白根証人 私は、ほかの物価と比べた場合に、教科書の定価がその商品としての実質価値に比べて法外に高いものとは思っておりません。しかしながら、義務教育教科書は品質を下げずしてしかも安いにこしたことはないのであります。特に、わが国のような国家保障実施されていない国におきましては、父兄の負担なのでありますから、安いが上にも安いにこしたことはない、これは当然であります。そのためには、発行業者といたしましては、経営を合理化する。それから、何と申しましても、各社宣伝費をどのくらい使うかということは巷間よく伝えられますけれども、実数はなかなかつかめません。しかし、あれほどな宣伝活動教科書の定価に響かないということは、これはもうたわけたことでありまして、取るに足りないことだと私は思います。確かにこれは定価に影響するのが当然であります。従って、この発行会社宣伝活動を不要ならしめ、直接宣伝費を不要ならしめるような制度の実現をぜひ期したい。これにつきましては、また後ほど、御質問がありましたら私の考えをお聞き取り願いたいと思うのでありますが、方法はあるのであります。直接宣伝活動を各発行会社をしてやらしめない方法があるのでありまして、その宣伝費を節減する。発行業者といたしましてはその面にできるだけの努力をすべきものだと思います。しかしながら、義務教育の、本来ならば日本憲法の建前から申しましても国家保障であるべき教科書なのでありますから、教科書の定価を引き下げる必要があれば、無償にするかわりにせめて制度上許せるだけの協力をいま少し国全体が当然してしかるべきものではないか。たとえば、教科書の運賃でありますが、雑誌、新聞等に比べましてはるかに高い等級にあるのであります。それから、現在の展示会見本でありますが、小中学校各二千冊、高等学校約千冊という教科書を出しておりますが、これに要する価格は定価にいたしまして約四億に上ります。これは全部教科書会社の負担において現在は行なっております。それから、この見本本の送料ということが——実にどうも私解せないのでありますが、たびたび運輸当局に陳情いたしましても、商品の見本市あるいは産業博覧会等へ出す品物の運賃は特別扱いであります。しかるに、国がなすべきはずの展示会に送る見本の運賃に対して何らの特別措置がない。鉄道の見解を申しますと、博覧会や商品見本市を開けば見物人がたくさん汽車に乗って集まるから、それだけの汽車賃は浮く、教科書の場合はそういうものが全然ないのだからというようなお話があるのでありますが、こういう点一つをとってみましても、もう少し国全体が関係当局をカバーしていただいて、定価を引き下げるという努力をしていただく必要があるのではないか。しかし、このようにいたしましても、今小学校一年生平均四百一円の教科書を二百円にすることは、著しく教科書内容を落さない限りはできないのじゃないかと私は思います。よしんばこれが三百円になりましたところで、現に国民の間に何%かの生活に苦しい層があり、学年の初めに数千円の支出に苦しむという階級がある限り、教科書は高いという声は絶対に消えないと私は思う。この問題も、先般の参議院予算委員会における文部大臣の声明で、明年度から例の小学校一年生に国語算数だけをお祝いとして与えたい、五億二千万円に八千万円を追加して六億の金で国家保障的な意図に切りかえて貧困家庭の子供にこれを与えるという言明がありましたので、喜んでおるような次第であります。
  42. 篠田弘作

    篠田委員長 委員長よりの尋問は一応終了いたしました。この際委員諸君の発言を許しますが、本日は午後二人の証人を喚問いたしておりますので、白根証人に対する発言要求をなされておる方も多数ありますので、大体十五分程度にお願いいたします。なお、証人に対しての尋問が重複する傾向がかなりあるように思われますので、委員長におきましてそのつど適宜御注意申し上げるつもりでありますが、委員諸君もこの点についてお含みの上御協力をお願いいたします。
  43. 神田大作

    神田(大)委員 議事進行について。最初の予定だと、きょうは午前中に大日本図書株式会社常務取締役の早川康一氏を呼ぶわけになっておったのでありますが、これを呼ばなかったのはどういうわけでありますか。
  44. 篠田弘作

    篠田委員長 先ほどもちょっと申し上げましたが、早川君は前会の午後に呼ぶことになっておりまして、ちょうど私は病気をして休みましたが、午前中の証人が午後まで延びまして、早川君をきょう呼ぶためには当然理事会を開いてその手続がなされておらなければならないわけでありますが、その手続がなされておりません。そこで、早川君はあと回しになりまして、予定通り証人を呼んでおるわけです。そこで、午後の休憩後の理事会におきまして、早川君をいつ呼ぶかということは決定いたすつもりであります。  浜野清吾君。   〔委員長退席、高木委員長代理着席〕
  45. 濱野清吾

    ○濱野委員 証人は、先ほど社団法人教科書協会の沿革をお述べになっている場合、世間ではこれを自粛協会と言われている、この法人もやはり自粛するつもりでやっているというお話があったのでありますが、私どもは、そうした考え方のもとにこの協会運営されるということは機宜に適したことだと思います。  そこで、端的に聞きますが先ほど委員長からの御質問があったようでありますけれども、元の文部省の役人がこうした教科書会社に入り、さらに反賦して教科書会社関係の生ずべき地位すなわち文部省のあるポストに帰った人があるはずであります。協会では、こうした趣旨自粛協会であるとするならば、この問題はそのままでは捨てておかなかったはずだと思うので、こうした自粛協会ができて、そうした事実ができておるにかかわらず、協会の各委員会においては問題になったことがあるのか、なかったのか、その当時の事情を承わりたいと思います。
  46. 白根孝之

    白根証人 協会委員会及び所定の役員会等におきまして問題になったことはございません。
  47. 濱野清吾

    ○濱野委員 こういうことこそ、この厳粛な検定採択などで相当論議され、そうして正しくやらなくちゃならぬということがあなた方の協会の使命だと言われておるのに、どうしてこれが問題にならなかったのか、こういうことは業界では当然なことであって、こういう弊害が起きるであろうというこの事実を看過する特殊な事情があったのかどうか、この点承わりたいと思います。
  48. 白根孝之

    白根証人 お問いのよう松特別の事由というものはありません。全然これは問題にならなかったわけでありますが、私も、常務理事の一名といたしまして、さっそく理事会にこのことを諮りまして、おそまきながら協会として慎重に検討してみたいと思います。
  49. 濱野清吾

    ○濱野委員 そうしますと、常務理事白根さんだけが自粛しようというお考えであって、他の会員並びに常務理事の諸君は、形は世間体に作っておくが、そういうことはおかまいなしというような状態であった、今後この問題は取り上げる、こう仰せになるのですか。
  50. 白根孝之

    白根証人 さっそくに理事会の一員といたしまして理事会に提案いたしたいと思います。
  51. 濱野清吾

    ○濱野委員 先ほど委員長のお尋ねに対するお答えとして、今日の制度における展示会では内容を十分検討することはできない、そこで結局献本などということが行われる—。この事情は私どもにもよくわかります。そこで献本などというものは、会社によっても違いますし、その本の種類によっても違うであろうと思いますが、相当数献本されておるということを承知しております。これは本の価格に影響してくることでありますから、これは無関心ではいられないと思います。大よそ、最も大きい会社で、最も多くの種類のものを発行するもので、聞くところによると一割ないし三割もあるのではないかというふうに伝えられておるが、証人の観察ではどういう状態でありましょうか。お答え願いたいと思います。
  52. 白根孝之

    白根証人 これは、各社宣伝費同様、外部からはなかなか明確につかめないのでありますが、一つ私の持っておりまする数字といたしまして、先般ある新聞社の座談会で顔を合せました練馬区の椎名町小学校長の話でありますると、校長個人あて、ないしは学校へあてての献本が約二百冊、こういうことであります。それ以外、各社実情としてどれだけのものを贈っておるか、私にもつかめないのであります。
  53. 濱野清吾

    ○濱野委員 競争が激甚になり、しかも、採択の場合、最も公けの機関である展示会証人の言うようなものであったとするならば、献本はますます多くなるであろう、こういうふうに考えられます。そうして、一校に二百冊も贈られているとするならば、これを累積すると、なるほど今日の本の価格は高くしなければならぬというそろばん上の数字をわれわれは了解することができます。この点については、協会では何ら議論になつたという事実はございませんでしようか。お答えを願いたいと思います。
  54. 白根孝之

    白根証人 先ほど委員長のときにちょっと触れましたように、献本の全廃その他各社からの学校への直接宣伝の禁止ということは、われわれこそ希望しておるのであります。ただし、そのためには、公けの吟味研究の場であるところの現在の展示会方式というものが、発行業者の納得できる、なるほどここへ出しておけばわれわれの作った本はしさいにわたって検討されるんだ、偶然な縁故因縁等によって採用されるのでなしに、もっぱら内容の検討審査によって採用されるのだというこの仕組みを公けな機関として作っていただけば、これは喜んで献本その他の直接宣伝活動は停止いたします。そのように政府当局には絶えず進言しておるのです。
  55. 濱野清吾

    ○濱野委員 この展示会の機能がゼロにひとしいというような実情にありますから、結局は、先ほど委員長がお尋ねしたときにお答えあったように、招待、接待というような形においてその会社の経常費が非常に高くなるのではないか、すなわち教科書内容宣伝及びその範囲ということがそののりを越えて、そうして何かとんでもない供応費というようなものを盛んに費消せざるを得ない状態にあるのではないか、それが今日ますます激しくなってきて、そうして少くとも不公正なる取引のところまで進んでいっておるのではないか、すなわち、採択の面においての制度の欠陥と、その欠陥を少くとも補い、会社が生命をかけてきたところの営業を成功させるためのやむを得ざる手段として使われているというふうにわれわれは考えてきました。  そこで、こうした経費は、各会社別によって違うであろうけれども、大体、大きな会社二、三の実例を見て、どのくらいのものを使っておるか、協会ではほぼ推定がつくと思うのでありますが、この点、お知りでありましたならば、お答えを願いたいと思います。
  56. 白根孝之

    白根証人 先ほども申し上げましたように、的確な数字は外部の者にはつかめないのであります。一割使っておるとか二割使っておるとか、大きな会社では二億も使っておるであろうという声は内外から私耳にいたしますけれども、各会社の経営内容、帳簿等の調査の権限も私にありませんので、的確な数は全然つかめません。
  57. 濱野清吾

    ○濱野委員 それはなかなかむずかしいところと思いますから、それでは次のことにお答え願いたいと思います。  これは本委員会においても十分注目すべき問題でございますから、できるだけ知っている範囲を正確にお話しを願いたいと思います。先ほど委員長採択方式について尋問をされましたが、そのときに、福島県下における展示会前の採択問題について証人は御答弁をされました。この点につきまして、証人が知れる範囲で、しかも正確に一つお答えを願いたいと思います。つけ加えておきますが、この問題は非常に重要な問題であります。協会会員である業者にとっても重要でありますし、本委員会においても相当注目している問題でありますから、知っている範囲を全部一つここでお答えを願いたいと思います。
  58. 白根孝之

    白根証人 昨年の展示会の始まります数日前であります。B五判にいたしまして約八ページないし十ページくらいな教科書採択の福島県における候補であります。一教科につきまして数冊印刷をいたしたものが、福島県地方教育委員会協議会の名をもって県下の全学校に配付されたのであります。私の手元にありませんが、そういう経緯でありますから、書類そのものも現存すると思っております。
  59. 濱野清吾

    ○濱野委員 その配付されたことだけでは、実情の説明にはならないので、これは世にも有名なる問題でありますから、自粛協会が知らぬはずはない。ですから、どういう形でどういうふうに行われて、どのくらいのものが展示会前に採択になっておったかという実情一つお述べ願いたい。
  60. 白根孝之

    白根証人 私の就任いたしました二十八年以後、私が知っておりますることは、ただいま申し上げましたことに尽きるのであります。
  61. 濱野清吾

    ○濱野委員 何かの機会がありましたらば、この実情調査を願いたいと思います。  さらに、もう一点お尋ねいたしますが、先般の委員会におきましても、採択に関連した問題でこの問題が出たかと思いますが、自粛協会常務理事でありますから、重ねて公平なる見解を申し述べてもらいたいと思う。これもやはり本委員会といたしましては重要なる事項であります。福岡県の供給会社で、三社が合併の問題はお知りでございますか。もしお知りであったとするならば、この合併問題について徹底的に反対したというような運動があったそうでありますが、これはどういう事情で反対する会社ができたか、この真相を知っておりますればお述べを願いたいと思います。
  62. 白根孝之

    白根証人 福岡県は、在来の特約供給機関のほかに、小学校及び中学校二つの学生協から発展しました供給機関がございます。都合三つございます。この三社は、先ほど申し上げましたように、各取引発行会社との関係におきまして、採択の面にまで供給機関が巻き込まれるといったような事実があるのであります。つまり、旧特約の立場から申しますと、みすみす新しい会社がだんだん販路を、採択を拡張していくので、出版元の発行会社がこの方に乗りかえられるという懸念があるわけであります。従いまして、これまたやっきになりまして宣伝競争の片棒をかつぐわけなんです。この事態を憂慮いたしまして、ここ二年ばかり前から関係者に対して何とかすっきりとした姿にする方法はないかという話はしております。それから、公正取引委員会におきましてもまた、このような聴聞会の結果、私的にでありますが勧告もあったのであります。そこで、昨年の秋ごろと思いますが、当時の杉本県知事と、それから安部県教育委員長、奥村県公安委員長と、この三者が顔をそろえられまして、福岡県教育界のために、供給機関が教科書採択に介入するというようなことは好ましくないというので、あっせんに乗り出されたのであります。それぞれの会社と取引をいたしておりますのは発行会社でありまするが、これは、今日に至りますまでの経緯においてどういうような運動があったということを私存じませんが、本年の三月関係会社の幹部が二名ずつ上京して参りまして、その場合に声明書を出したのであります。そのときには、三社とも、取引関係会社、出版会社はこぞってこの合同に賛成をいたしております。現在のところこれを阻害するような動きはありません。
  63. 高木松吉

    ○高木委員長代理 浜野君にちょっと申し上げます。持ち時間が経過いたしますから、簡略に願います。
  64. 濱野清吾

    ○濱野委員 もう一点聞きますが、証人は、先ほど、委員長の質問中に、教育研究会活動について云々というお答えがあった。そのお言葉のうちに、教育研究会の名のもとに著者あるいは執筆家の研究会における教育活動は最もよいことであろうと思う、こういうような御意見があった。私どもはこれからそれも研究したいと思います。しかし、一面においては、文部省の現役の役人等が、あるいは研究会あるいは講習会等において現場に直接出張してやっているというようなことにつきましては、どういうふうに考えられるか。それも、特定の会社に対して出張し、しかも現役の役人が講習会に出てやっているということについては一体どういうものか。自粛協会でこの点について問題になったことがあるかないか。
  65. 白根孝之

    白根証人 発行会社主催の講習会、研究会に現職の文部官吏が出席したという事実を存じておりません。
  66. 濱野清吾

    ○濱野委員 これはあるのですけれども、仮定の上でもよろしい。もし現役のそうした役人がある発行会社研究会もしくは講習会に出席して、採択に影響があるようなもし講演をしたとするならば、自粛協会では一体どういうふうに考えられるか、またどういう措置をとるか。
  67. 白根孝之

    白根証人 明瞭に官紀の紊乱と考えますので、その旨協会として当局に申し出なければならないと考えます。
  68. 濱野清吾

    ○濱野委員 私はこれで終ります。   〔高木委員長代理退席、委員長着席〕
  69. 篠田弘作

  70. 高津正道

    高津委員 教科書協会宣伝実施細則を作られたのですが、それは内規にとどまっておって、なぜ公表されないのか、その事情理由を承わりたいと思います。
  71. 白根孝之

    白根証人 内規ではありません。新聞にも発表いたしました。
  72. 高津正道

    高津委員 現存は事務局長時代のようで、あなたの協会の会長は鹿内信隆氏ですが、総評の高野事務局長だとか、日経連の鹿内信隆氏だとか、なかなかてきぱき答えられて気持がいいですが、定価を安くする方法は現在の制度のもとにおいてもあるのだ、二、三それを御指摘になりましたが、教科書業者というものは大量に紙を消費するので、ちょうど鉄鋼業者が石炭を団体交渉で安くさせる、造船業者はまた鉄鋼業界に交渉して造船用鋼材を安くする、それと同じように、そういうことを業界がやったら定価が安くなるだろう、こう思うのでありますが、その点、あなたはどうお考えでありましょうか。
  73. 白根孝之

    白根証人 行政面と関係がありますあらゆる生産コストの因子につきましては、及ばずながら引き続いて運動をいたしております。用紙につきましては、物品税免税という措置の段階に達しております。その他、運賃につきましても、引き続きこれは陳情を続けるつもりでおります。昨年でありまするが、地方税一部改正の中で、事業税の非課税ということが、全部撤廃しろということで地方行政委員会で問題になりました場合にも、私ども、文部省の支援を得まして自治庁と交渉しました結果、新聞紙だけが非課税になるというのはおかしいじゃないですか、教科書というものが当然対象になってしかるべきものじゃないか——。これは幸いにしまして、本院の地方行政委員会におきまして御賛同を得まして、事業税は今非課税であります。御指摘のそれぞれの生産ファクターについての政府の特別扱いということは、今後強力にお願いしていきたいと考えております。
  74. 高津正道

    高津委員 教科書出版業者が紙の大量の需要者なんだから、しこたまもうけている王子製紙その他の紙会社に一緒になって団体交渉をやるという方法については、あなたはどうお考えだか、そこのところを伺いたい。
  75. 白根孝之

    白根証人 現在は、用紙事情も非常に好転いたしまして、むしろ大量の需要者の方が強い立場におりますが、一昨年原木の枯涸からこの用紙事情が非常に窮屈になりましたときには、紙パルプ協会から私どもは大いにおどされたのであります。新聞は、これは社会不安を譲成するものだから新聞紙だけは供給しなければならぬけれども、場合によったら教科書用紙の供給はできないかもしれないといったような脅迫を受けたのであります。そういう立場におりますので、これはやはり、業者と業者との間の直接交渉といいますよりか、国が少くとも義務教育についての責任を持つならば、国の行政措置として、かくのごとき措置、教科書用紙の確保とその低価格提供ということについては御協力願ってしかるべきものじゃないか、こういうふうに私考えるのであります。
  76. 高津正道

    高津委員 国が協力する前に、——今あなたは紙は豊富に出回るようになったから買手の市場であると言われる。それならば、国がやることはもちろん考えますが、業者がそういうことをやる勇気、そういう知恵を働かして定価を下げる活動をやればいいと私は思いつくのだが、あなたはそれをどう思われるか。協会常務理事として、また事務局長として、そういうことを推進する誠意、そういうことをやるのがあなたの役目だろうと思うが、それに対するあなたの意見、何もかも政府にすがられるがごとき態度であるか、伺いたい。
  77. 白根孝之

    白根証人 これは協会の生産専門委員会が受け持っておる問題でありますが、協会の内部では、一致して紙会社に当ろうという動きは出ておらないのであります。お教えの点はさっそく十分に研究させていただきます。
  78. 高津正道

    高津委員 九十何社あるけれども、ほとんど八、九割までは大手筋が出しておる。いかなる業界でも、ほとんど大手筋が独占的なことを今やるわけです。あなたは、協会事務局長として、その状態をどういうふうにすれば矯正できるか、こういうような点を心に持って仕事をしておられるか。われわれの聞くところによれば、いわゆる五万部に満たないようなものはそれを切ってしまおう、もっと教科書会社をしぼろう、いよいよ集中になるような、そういう案をさえあなたは持っておられる、こういうことを聞くのでありますが、この大手筋が、いよいよ資本主義の原則通り、最後は二、三社で独占するようになるかもしれない。そういう傾向に対して、あなたは協会事務局長としてどういう手を打つつもりか。こういう現象をあなたは好ましく思っておられるのか、苦々しく思っておられるのか。苦々しく思うならば、どういうようにするおつもりなのであるか。それを承わりたいと思います。
  79. 白根孝之

    白根証人 御質問の、五万部以下は切るという問題でありますが、これは少し補足させていただかなければならないと思うのであります。民主党の一部で民編国管論、いわゆる国定復活という声が出まして、そのときに、教科書の数は非常に多過ぎる、だからいろいろ不便もあり、むだもあるのだから、簡単にするのだ、一県で一種類ぐらいにするのだという極端な議論が出ましたので、これに対しまして、先ほど申し上げましたように、検定教科書のあり方というものは現場にあくまでも密着しておくべきだ、教育の現場から浮いたところでしぼる、これこそまさに国定だというので、猛然と反対したのでありますが、その場合において、現在の二十種類なんという教科書の数は多過ぎるということすら、今までのところ確固たる科学的な教育的立場からの根拠のある調査に基いた意見ではないのであります。ただ漫然と、二十種類では多いじゃないか、こういう声なんであります。それが果して今日のわが国の教育目的を達する上に多過ぎるかどうかということにつきましては、もっと教育的な立場、科学的な立場からの分析研究が必要だ、その上でないとはっきりしたことを言うべきものではない、かように考えております。しかし、非常に多過ぎる、だから上の方で幾つかにしぼってしまうんだという意見に対しまして、私どもといたしましては、かりに多過ぎるならば、しぼり方には幾らでも民主的な、かつ合理的なしぼり方があるではないか、国から委嘱された数人の人間がしぼるよりか、やはり五十万の直接教育を担当しておる教員の目でしぼった方が民主的であり、合理的ではないか。その部数といたしましても、五万冊ということは、どの教科についても言えないと思います。これは教科目にもよりますが、非常に少い部数の場合には第二の希望のものをとってもらう。こういった十人なら十人の目でしぼるよりか、五十万教員の目で選択した方がより合理的ではないか、こういう意味でああいう意見が出たのであります。この点、御了解いただきたいと思います。
  80. 高木松吉

    ○高木委員 関連して。今証人証言の中に民主党でということが出たが、どこでそういう話が出たのか、その点をはっきり御説明願いたい。
  81. 白根孝之

    白根証人 去る選挙の折の、二月の二十日前後と思いますが、新聞紙上に、民主党の選挙スローガンといたしまして、はっきりと国定による教科書の統一ということがあげられておりました。その後私が存知いたしております公けの場所における御発言は、三月の三日と記憶いたしますが、豊島の文化会館でNHKの社会部か教育部が主催しました例の放送討論会に、民主党から中曽根代議士、自由党から坂田代議士、左社から横路代議士、右社から大西代議士がお出になりまして、公開録音放送の席上でもって、中曽根代議士から、自分の持っておる意見として、民編国管という言葉が出たのです。公けのものとしてはその二つを承知いたしております。
  82. 高津正道

    高津委員 教科書協会自粛協会という意味も内容の主たる部分について言えばあるくらいであって、公正取引委員会活動する前に、業者の団体の中でそれを扱われるわけだと思うのです。学校図書株式会社の、今もあなたがお聞きになったように、現在の取締役である近藤寿治氏が一万八千五百株その株を持ちながら中央教育審議会の委員に入っておる。それから、今はなくなられたけれども、その中教審の主管局長であり、それを運営する立場にあった調査局長に、やはり学図におられた吉田孝一氏が入られた。それから、新教育の一番大事な社会科の学習指導要領を最初に文部省において書くのでありますが、その主任視学官が、やはり四千株学図の株を持っておる人であり、前に学図におつた人である。このように、文部省の一角を一教科書発行会社が白昼公然と乗っ取るような行動が行われておるのだという事実がわかって、われわれは全く驚いておるのでありますが、その業者の団体の事務局長として、こういうような不公正な競争行為についてどうお考えであるか、協会では理事会において扱われるつもりか、総会でこの問題を取り上げられるつもりか、その点を聞いておきたいと思います。
  83. 白根孝之

    白根証人 先ほど濱野委員にもお答えしましたように、現在までのところ、協会の機関ではこの問題は問題になっておりません。しかしながら、私、理事の一人といたしまして、さっそく理事会に諮って、慎重に研究いたします。
  84. 篠田弘作

    篠田委員長 高津君に申し上げますが、あなたの持ち時間がもう超過しておりますから、簡単に願います。
  85. 高津正道

    高津委員 現在の審査は、一つ種類教科書の原稿に対して五人が審査をするのです。あなたの言葉を使えば、カーテンのかなたでそれをやる。ところが、文部省の事務官が、それを業者に渡す場合、これじゃだめだとか、これじゃいかぬでしょうとか、文部省の録音も何もないところでプラス・アルファをそこへくっつけているわけです。現在のやり方は、じりじりあなたの反対される国定教科書に移っているようなおそろしい状態だと思うのです。再軍備はしないと言ってどんどん軍備をする、憲法改正はしないと言って改正に一歩々々前進をする、国定にしないと言ってだんだん国定にする、こういうような状態なんですよ。あなたの言われる倫理綱領、内規の中には、検定制度を維持する、育成強化するという意味を明らかにうたっておられるのであるから、こういうようなことに対して、協会としてどのような認識を持っておられるか。私の理解するように理解しておられるか。また、それに対して何らかの抗議を申し込んだり、何かそれに抵抗——抵抗という言葉は強過ぎるのですが、何かそれに対してそうしないでくれというような申し入れをあなた方は団体としてなさっておられるかどうか。それを一点だけ承わりたい。
  86. 白根孝之

    白根証人 猛烈にやっております。制度研究専門委員会というものを開きまして、民主党の一部から国定論が出まして間もなく、協会の立場から、分散しておる教科書法を一本にしてもらいたい、十年に近い臨時措置法もないだろうから、この際はっきりしたりっぱな法律にしてもらいたい、その場合にこういう骨子を法律の中に織り込んでいただきたいということを、文部大臣あてに建議をいたしました。その主要な点は、高津先生教科書制度に関するお考えを直接深く承わったわけではありませんが、国定には絶対に反対であります。おもな点を骨子だけ項目で申し上げますと、まず、現在文部大臣が持っておる著作権の使用権というものをなくしてもらいたい、これは全部民間の著作にしてもらいたいということ、それから、調査員の公開、調査基準、進んでは学習指導要領の簡素化であります。それから、今の展示会を中心といたしました教師の常時の教科書研究組織の確立、大体以上のような点を主要な骨子とした案を出しております。なお、私個人の見解といたしましては、大体現在の制度はまだ検定制度になっていないという論者なのであります。つまり検定制度未完成論者なのであまりすが、学校先生を現場にくくりつけておいて、そこで教科書内容を検討し自由に採択すべきだという点に検定制度の眼目があるということだけから見ましても、一週間や十日間くらいの展示会では未完成なことも明らかなのであります。もうしばらくして完成するという段階ではない。まだまだ一歩を踏み出したにすぎない段階である。現在言われております教科書制度に伴ういろいろな弊害は、これは検定制度そのものの弊害ではないのでありまして、検定制度を完成すれば解決できる弊害である、検定制度の未完成のところから出てくる弊害であるということが、われわれの始終主張し続けておる考え方なのであります。
  87. 高津正道

    高津委員 審査委員の意見のほかにプラス・アルファで文部事務官がいろいろなことを言うという場合、そのことに問題をしぼって、そのことだけに対して抗議を申し込まれたかどうか。原則論というのは強いようで弱いもんですよ。
  88. 白根孝之

    白根証人 その点でありますが、業界のそういう問題というものは、具体的な固有名詞がなかなか出ないのであります。文部省の何という事務官あるいは何という課長が、何という会社の何という編集人に対してそういう越権的指示をしたかということになりますと、一つずつ固有名詞がすうっと消えてしまうのであります。これはほかの問題でも抽象論しか言えないわけで、具体的問題にしぼろうと思えば固有名詞が消えてしまうというのが実情なのであります。
  89. 篠田弘作

    篠田委員長 お諮りいたしますが、もう時間も相当過ぎておりますから、ここで休憩をして昼食にしたらいかがでしょうか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  90. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは、ここで休憩いたします。午後二時から再開することにいたします。    午後零時五十九分休憩      ————◇—————    午後二時二十七分開議
  91. 篠田弘作

    篠田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  それでは、引き続き白根証人より証言を求めます。  大西正道君。
  92. 大西正道

    ○大西委員 私は簡単に二、三のことについて証人にお伺いいたします。  教科書協会は、今も証人が言われたように、自粛機関だと言われて、今日まで教科書のいろいろなスキャンダル等に対してその自粛の努力を重ねてこられまして、事務局長の地位にある証人も今日までかなりの努力をされまして、見るところにおきましては若干の成果もあがっているように思うのでありますが、なお、私どもから見ますと、教科書の不正売り込みは跡を断たずに出ております。私は教科書協会に期待するところ非常に大なるものがあるのでありますが、その希望が十分達成されていないということは、証人もお認めになると思うのであります。一体どういうところにその原因があるとお考えか、これを一つお伺いしてみたいと思います。
  93. 白根孝之

    白根証人 今のにお答えいたします前に、委員長にちょっとお断りいたしたいのでありますが、午前中の証言の中に、前文部次官河原春作氏が教育図書株式会社顧問であると証言を申し上げたのでありますが、同会社専務から抗議がありまして、これは専務個人と非常に懇意な、いわば私的顧問であって、会社顧問ではないということが述べられましたので、つつしんで訂正いたします。  大西委員の御指摘の点につきましては、最初に私申し上げましたように、このような公の厳粛な席上で正面切ってかくのごとき事実なしと断言し得ないことをはなはだ遺憾とするのであります。毎年展示会の時期になりますと、中央、地方の新聞が書き立てることは、教科書採択をめぐるスキャンダルの出ている地方紙全部を切り抜きさしておりますが、私、事務所に出るのが全く頭が痛い。夜寝てもうなされるほどに悩んでおります。幸いにいたしまして、ことしは、今のところ、固有名詞の出ました地方新聞の記事は、千葉県の事件と山口県の事件だけでありまして、こういう情勢下に業界自粛もある程度は行われておると信じておりますが、何といたしましても、人間が天使と悪魔との中間にある限り、自粛という線だけではどうにもし得ない限度があるのではないかというふうに考えるのであります。教科書発行事業と申しますのは、御承知の通り二億三千万冊という限られた土俵の中での相撲でありまして、事務局長が幾ら働きましても、売り上げの総額は、子供の数に突然変異がない限り、ふえっこないのであります。この限られた土俵の中で、一応文部省からは最高価格を押えられておりまして、単行本のような野放図な定価はつけ得られないのであります。従いまして、今日では十万冊というのが一応の経済単位、十万冊売って三年間で原版償却というのが定説になっておりますが、なるべくたくさんのものを獲得しなければならないという逆条件が加わるのであります。これに加えまして、これは七月の展示会前後年一回の夏場所一本勝負でありまして、これで負ければ来年までは取り返しの機会がない、こういう状況下における競争でありますので、激甚な競争ということはもう教科書発行事業の宿命だというふうに考えております。これは、どうしても、業者並びに採択関係者の自粛と自覚、これは幾ら促しても促し過ぎるということはないと存じますが、と同時に、やはり制度といたしまして、悪魔の跳梁し得ないような仕組みを作るよりほかはきめ手がないと私は思うのであります。これが唯一のきめ手だというふうに私は考えております。それは、結局、この弊害の温床であります教科書発行関係者と採択関係者との直接タッチを断ち切るよりほかにない。そこに弊害の温床がある。その温床をつぶさずして、ただ自粛しろ自粛しろと言うだけでは、これは行政制度としてはやはり足りないところがあるのではないか。これを断ち切りますためには、けさほど来数回にわたりまして申し上げておりますように、学校採択者側によってつぶさに検討してもらえるんだという仕組みを作ることであります。常設展示会という言葉で言い古されてきたことはこの点なのであります。私自身が、もう少しほかの別な性格のものに——展示というような言葉、ひろげて見るというふうな言葉からして第一間違いである、もう少し脳細胞を刺激するような、教科書ライブラリーとか、あるいは教科書研究所とか、そういうまじめな名前のものにして、それにふさわしい設備と仕組みと運営とを実現する、そして、発行業者が直接宣伝しなくても、お前たちの発行しておる商品は十分検討されているんだという体制を片一方でとるということのほかには、きめ手としての手はない。これも私よく申し上げておるのでありますが、ちょうど委員諸公の選挙と実際全く同じ行為なのであります。教科書を発行して立候補いたします。現在の展示会で公開立会演説をやるわけであります。そのほか、文書戦があり、第三者を通じての運動があり、個々の講演会、座談会のごときはいわば個人演説会です。そのほか戸別訪問あり、何から何まであらゆる点が選挙とそっくりなのでありますが、選挙の場合には、あれほどの完備した選挙法、管理規定、そして国が数億の国費を使い、言論報道機関が筆をそろえ口をそろえて公明選挙を怒号して、検察監察機関の監視の中に行われて、なおかつ五千何百という選挙違反と自殺者まで出すのであります。教科書採択の場合には、採択に関する規定、管理の仕組みというものは全然ないのです。まるで野放しなのであります。このままに放置しておいて、ただ関係者の自粛にのみすがるというのでは、教科書行政としても無責任ではないか、そのためには常時研究をされるという仕組を一つお考え願いたい、このように考えております。
  94. 大西正道

    ○大西委員 証人の意見は、業界の実態として、業界自粛自戒というのにはおのずから限度がある、こういうことだと思うのでありますが、私もそういうことに対しては賛成であります。ただ、私は、今の教科書協会としてもなおこういうスキャンダルを防止する策はないか。たとえば宣伝実施要綱というものを作られておるのでありますが、今お聞きしますと、その中には駐在員存在を認めておるようであります。その理由としては、展示会が十分じゃない、こういうような御説明でありました。それでは、もしこれを常設化して、十分研究できるというような常設展示会制度実施いたしますれば、駐在員制度というようなものは協会としては廃止できますか。この点を一つ……。
  95. 白根孝之

    白根証人 駐在員制度が問題の温床中の温床だということはもちろんでありまして、駐在員制度を含めて一切の危険性の生じる余地のある直接宣伝活動というものは、そういう十分な検討の場所さえ与えられるならば、喜んでこれは撤廃する意思があります。
  96. 大西正道

    ○大西委員 その問題はわかりました。  もう一つは、教科書協会という業者の自粛的な意味を持つ団体でありますが、たとえば、法律によってこの採択に関する立法措置を講ずるという以前に、この教科書協会の中において申し合せた宣伝実施要綱をじゅうりんしたものに対しては、その協会の中において罰則を用いて、そういう横紙破りをやったものに対して処罰するというような、協会自体においてもう一歩突き進んだ自粛方法は、今の教科書協会の現状としては講じ得られないものかどうかという問題であります。私は、発行、採択に関する規制を法律によって規定し、それを破ったものに対しては罰則をもって臨むというようなやり方は、これは教育の面においてはなるべく避けなければならぬと思うので、この協会の中でそういうことができるなれば、それに対してできるだけの援護的な措置を講じていきたいと思うのでありますがその見通しを一つお伺いします。
  97. 白根孝之

    白根証人 現在、協会性格上行い得る単なる自粛以上の突き進んだ方法といたしましては、被害を受けた社から、あるいはそういう不公正を犯した社に対する摘発と申しますか、協会の方に訴え出られた方に私がつき添いまして、直接相手方と話し合わしていただく、これも、懲罰とかかたき討ちとかいう精神でなしに、大いに友愛精神に基いてお互いに手を携えて自粛するという意味で、ひざを交えて抗議を申し込む、このことは他には発表しない、というのがせいぜいぎりぎりのことなのでありまして、協会定款の中には、協会規定その他を破ったものは除名までの規定が現にもあるのであります。しかし、なぜそれが行われ得ないかということは、規定破りが例外的存在でなくして、大半のものが該当者だという点であります。あえて全部とは申しませんが、大半のものが五十歩百歩。そこで、協会の内部にたとえば懲罰委員とかそういうものを作った場合には、だれが石もて罪人をたたくかという問題になるのでありまして、泥試合という悲しむべき様相を呈する。規定はありながら、その規定が適用され得ないという悩みがこの点にあるのであります。
  98. 大西正道

    ○大西委員 それでは、もう一つ別な問題をお伺いいたしますが、制度として発行者と採択者との関連を断ち切るということでありまするが、文部省と出版社、発行者との間のいろいろな問題については論及されましたが、地方教育委員会というようなものがやはり発行者との間に結託があるやに聞いておるのであります。今あなたは、選挙の立候補、投票と比べてこの採択の問題を言われましたが、まことに私もその通りであると思う。そこで、私は、選挙には選管というものがありまして、公正な立場でこれを監視するわけでありまするが、教育委員会というようなもの、今発行会社といろいろな関連のありまするこういうものは、すべからく選挙における選管的な監視的な立場に立たせることによって、スキヤンダルがある程度防止できるのではないかと思うのでありまするが、この点についての御意見を一つ明らかにしていただきたいと思います。
  99. 白根孝之

    白根証人 教育委員会発行会社との結びつきにつきましては、最初申し上げました臨時総会実施要綱を決定いたしましたときに、駐在員に制限を置いたのであります。すなわち、教科書採択はあくまでも純教育的な立場からなされなければならぬ、教育外的なものがこれに入り込むことは間違いであるという原則から、金品の誘惑をもって純教育的な判断を曲げるということ、と同様に、採択者に影響を与える立場にある公務員、そういう方々は採択にも教科書会社にも関係することは相ならぬという一線を画したのであります。  それから、次に、現在の教育委員会をもってそのまま採択管理機関にするかどうかということにつきましては検討の余地もあると思いますけれども、少くとも私の先ほど申し上げました採択規定を公けの責任において制度化するということの中には、そういろ管理機関というようなものを含めて申し上げておるわけであります。
  100. 大西正道

    ○大西委員 こういう教科書のスキヤンダルの問題を契機にして、せっかく新しく芽ばえた検定制度が国定に切りかえられようとしている、こういうふうなまことに重大なときでありまするが、証人はいろいろ教科書行政については深い経験をお持ちであろうと思うのでありまするが、世界の民主主義諸国家における教科書行政の趨勢は、検定の方向に進みつつあるものか、あるいは国定の方向に進みつつあるものか、こういう点につきまして、知れる範囲でよろしいから、一つお聞かせを願いたいと思います。
  101. 白根孝之

    白根証人 研究不十分なんでありますが、私の調べました範囲におきましては、アメリカのカンサス及びカリフオルニア、これは州定でありますが、両州を除いて全部検定もしくは会社の自由発行であります。そして財源を持っておりまする教育委員会、特に地方教育委員会が全部これを一括購入をいたしまして、児童生徒には無償給与もしくは貸与というような制度になっておるのがアメリカの趨勢だろうと思います。無償の問題といたしましても、アメリカでも各州全部が完全無償ではありません。一部無償のところもありまするが、大勢といたしましては、こういう文化問題について指導的な立場にあるマサチューセッツ州あたりの十数年各州に先だったあとを、あとをと追っかけておりますので、大勢としては無償ということに向いつつあるのではないかということを申し上げていいのではないかと思います。それから、国家保障ということの最も進んでおりまするのは、イギリス、さらには北欧のいわゆる福祉国家、教育行政というものを社会行政というふうに考えまして、子供の心身の発達は国家が全部責任を持つべきだという考えの進んだ福祉国家におきましては、これは全部検定もしくは自由であって無償であります。これに反しまして、国定またはこれに準ずる制度をとっておりますのは東南アジアのいわゆる後進国家でありまして、独立後間もない後進国家は今のところ全部国定であります。これは、御承知のように、まだ標準語の統一もない、方言が入り乱れているという実情であるから、標準語を作らなければならぬというような必要がある。それから、植民国家のために民間の私的資本というものがほとんどありませんので、民間に教科書すら発行する資本がない。さらに、国家においてまだゲリラが白昼横行するというような治安状況でありますので、そういう点からしまして、そういった前近代的な後進国家は全部国定制度をとっておるようであります。その他全体主義国家もまた当然国定ということになっております。概略以上のような趨勢にあると承知いたしております。
  102. 篠田弘作

    篠田委員長 西村力弥君。
  103. 西村力弥

    ○西村(力)委員 簡単にお尋ねいたします。  この前、私、文部省の初等中等教育課長が来ましたときも聞いたのでありますが、覆面の検定委員が非常に低質であるというようなことが読書新聞あるいは出版労働組合の発行しているパンフレット、そういうものに出ておるのでありますが、低質であるということを示す具体的な例を御存じだったらお話し願いたい。
  104. 白根孝之

    白根証人 調査員そのものがカーテンの蔭におりますので、具体的にどの人が低質である、どの人がどうであるということはもちろんわからないわけでありますが、原理原則問題といたしまして考えてみます場合に、今の制度ができましたのは、発行会社わずか二十二社、発行する教科書種類も六十種という昭和二十三年の当時にできた制度であります。自来発行会社の数は九十五社にもふえております。それから、発行する教科書種類も、当時わずか六十種類というのが、小学校百七、八十種類中学校三百七、八十種類、高等学校五百種類というような、比べものにならない数にふえておるのであります。従いまして、発行会社がこの教科書編集、著作のために頼んでおる執筆者の数も、昭和二十二、三年当時に比べて飛躍的にふえておるわけであります。一方、先般の緒方局長の証言によりますと、なるべく同一の人間を調査員にしておくと弊害もあるのでひんぱんにかえる、今年なんかは大半かえたということでありますが、かようにいたしますと、優秀なと申しますか、一流どころの学者、教育の現場の人たちというものは、あらかた発行会社が何かの形で俸給を払って雇っている。それで、あと二流、三流のものが一流社の書いたものを調査する。——このことが厳密にどの程度そうであるということも申し上げかねる問題でありますが、一応このような見方も成り立つのではないかというふうに考えております。
  105. 西村力弥

    ○西村(力)委員 そうすれば、今申しました新聞あるいはパンフレットには、検定委員とか検査審議会とか、あるいは文部省の事務官とかが、編さん者の意図を踏みにじって、理不尽に、あるいは非民主的な圧迫を加えた、教科書内容が現在検定制度になっておるにかかわらず、そういう形のまま国家意思というものをじりじりと注入していこうという意図に基いておるかのごとく行われきつつあるという、こういう具体例があげられておりますが、証人におかれてその具体例を知っていらっしゃれば、お話しを願いたい。
  106. 白根孝之

    白根証人 調査員と今の問題の関係でありますが、これはカーテンの陰に隠れて切り捨てごめんなんでありますから、もしその調査員について何か含むところがあり、そして自分の反対の学説等については辛い点をつけようと思えばつけ得るのであります。しかし、その場合に、取次役である官庁の手を通して間接に発行会社がこれをするのでありまして、これに対する抗議あるいは意見の交換をするというような機会が全然ないのであります。これまた現在の覆面制度一つの弊害ではないかというふうに考えております。それから、文部官僚が理不尽を行う、——これは、申し上げるまでもなく、五人の調査員が出してきます数字を、ただ機械的に寄せ算し、割り算をして八百点という合格点数を出すのでありまして、その間に何ら人工を加える余地がないという完全メカニズムの立場をとっておるのが今の検定調査制度なのであります。それが、ただいまの西村委員の御質問でありましたそういう具体例があるかということになりますると、午前中の証言で申し上げましたように、文部省のどの事務官がどの会社の何という編集担当者にどれだけの作為を加えたかということになりますと、固有名詞が全然私の手元に出て参っていない。
  107. 西村力弥

    ○西村(力)委員 なかなか固有名詞をあげての御証言はむずかしいことだと思うのでございますが、それではあの新聞やパンフレットに書かれておるところは、おおよそ話にも、だれというわけではないけれども聞いておる、そして事実あり得ることであろう、あったことであろう、かように考えていらっしゃるかどうか。あの新聞あるいはパンフレットは、現在の国定化の動きに対する一つの抵抗手段としてことさらにああいう問題をあげておるのだ、こういう工合に思われるかどうか。御判断はいずれでございますか、お聞かせ願いたい。
  108. 白根孝之

    白根証人 具体的な固有名詞の伴った事例を存じませんので、今の点について、どちらかということは判断しかねるとお答えするより仕方ないと思います。
  109. 西村力弥

    ○西村(力)委員 そう仰せられまするけれども、しかし、社会科の改訂があの委員会ですか審議会において原案が作られたのか、——大臣の一存によって大きく改訂せられたというようなことが新聞にも発表になっておるが、この点は御存じでございますか。
  110. 白根孝之

    白根証人 新聞において存じております。
  111. 西村力弥

    ○西村(力)委員 あのようなことが行われる、事実としてあるというならば、やはり覆面の検定員あるいは文部事務官等の手を通じて、教科書内容に対する思想統制の一つの方向を示す動きがあるではないか、かようなことをどうしても考えるわけには参らぬのでございましょうか。
  112. 白根孝之

    白根証人 そういうことの行われ得る危険性を持っておる制度であるということは、午前中も証言申し上げました。この制度はそういう危険性を伴い得るような制度であるから、すみやかに改めてもらいたいということを主張しておるわけであります。なお、発行会社の方へそうした不当な干渉というものがあった場合には、これは明瞭に現行検定規則の文部官僚による違反なんでありますから、発行会社から堂々と、かくのごとき事実を示して、文部当局を糾弾する道があるのであります。私がそれをなし得ないのは、具体的な固有名詞がつかみ得ない、こういう実情であります。
  113. 西村力弥

    ○西村(力)委員 文部当局教科書検定制度の違反として摘発し得る、こう言いましても、実際にはやはり泣き寝入りになっているのが実情ではないだろうか、それだから教科書出版業界一つの団体の代表となっていらっしゃる白根さんのところには具体的のものを通じないのではないか、盲目にされてしまうのではないか、かように考えるわけでありますが、そうしますと、午前中に証言のように、検定員は公開にしろということは、匿名にしましてもそのカーテンは開きようによってはある程度開き得るのだ、それを公けの監視のもとにさらすためだ、こういうことでございましたが、その特殊会社文部省の関連を断ち切るばかりでなく、このように検定員により秘密裏に行われ得る内容に対する不当の介入、こういうものを断ち切るために公開を主張せられる、白根さんの御主張の根拠はその二点にある、かような工合に了解してよろしゅうございますか。
  114. 白根孝之

    白根証人 その通りでございます。
  115. 西村力弥

    ○西村(力)委員 次にお尋ねしますが、教科書協会に結集せられている教科書会社の昨年の経理状況を、概略でよろしゅうございますが、御承知でしたら、表面に現われたところでけっこうなのでございますから、お知らせ願いたい。
  116. 白根孝之

    白根証人 私の立場は、各会社の経営内容、経営方針等については何らこれを干渉する立場にありません。元来が、上から会員に臨んでこれを指導するとか、これを統制するとか、そういうような権限がみじんもないのでありまして、これは私はあっては非常に危険だと思う。私らの立場は、常に、業者の中に、同じ水平面に飛び込んで、業者とともにこの制度のもとに悩み苦しみながら、これをよくしていくという立場に意識的に身を置いているのであります。従いまして、各社の経理内容等につきましては、知ろうとも思いませず、また知ろうと思っても、帳簿の検査等の権限はないのでございますが、おぼろげながら、私の立場から横から見ておりまして、特例はもちろんあると思いますが、おしなべまして教科書会社の経営というものは世間で思われるほど楽なものではございません。現に一割以上の配当をしている会社数というものはむしろ私は例外的ではないかと思います。しかも、その配当というのは、こういう戦後の経済情勢でありますから、事業内容に比べまして、事業資金に比べまして、はなはだ驚くべき不つり合いな資本金でありますし、この資本金の一割以上の配当が優になし得るという教科書会社は、むしろこれは非常に少いのではないかと思います。ちょうどこのころから九月、十月ごろまでにかけまして一番苦しい金ぐりの時期なんでございまして、前借々々で金ぐりをやっていっておる。職員にいたしましても、一般官庁その他と比べて非常な高給をもって遇せられておるとかいうようなこともございませんので、はなはだ暴利を会社が取っておるというふうには私は見ていないのであります。
  117. 西村力弥

    ○西村(力)委員 これもちょっと見当違いの御質問に相なるかと思うのでございますが、そういう経理がなかなか苦しい状態である、これは配当やさまざまのところに現われるでございましょうが、教科書出版会社の労働者の賃金状況については御存じございませんか。
  118. 白根孝之

    白根証人 これは、最も具体的な私の例を申し上げた方がけっこうかと思うのでありますが、私の事務局の職員の俸給をきめますときに——業者の中には小さい会社もあるのであります。私の方の負担金は最高学校図書が月約十万円であります。それから、会費が両方ともに二千円でありますが、この二千円だけという発行者もあるのであります。われわれ事務局の職員は中どころよりやや下回ったところの待遇をしてもらおう、あまりこれにひどい待遇をいたしましても、統制の権限がないとはいいながら、立場が立場でありますので、不祥事件でも起しては相済まないと思いますので、せめて教科書会社の中流どころよりちょっと下回ったところの待遇をしてもらおうというようなことできめたのでありますが、私自身月額三万五千円いただいております。大体そういうところが一応の業界の基準ではないかと思います。
  119. 西村力弥

    ○西村(力)委員 それでは、最後に、教科書の値段を引き下げる、そういう方法につきましていろいろ御見解をお聞きいたしましたが、値段が高いということとともに、父兄各位の希望は、譲り受けの本を使わせるという工合にしたい、こういう希望が非常に強い。こういうことに対しては、いかなる方法でもってやった方がいいか、現在そういうことがなかなか行われない原因はどこに発しておるのか、こういう点について御見解を一つ……。
  120. 白根孝之

    白根証人 御指摘の古本使用が不可能な場合が多い、なお、転校の場合に使用教科書が違うためになかなか手に入りにくいという二つの問題がからんでおると思うのでありまするが、古本の使用ということは、つまり改訂がひんぱんに行われていることなのであります。これは文部省の指導要領が戦後たびたび改訂になったということが一つ理由であります。これは、私、一面から考えますと、戦後のこうしたテンポが非常に質的にも変動の激しい社会情勢でありまするから、ことに社会科のごときものは、占領下のお仕着せの教育指導方針からすみやかに日本的なものに直す必要ももちろんあると思います。それで、教科書の改訂ということの大きな原因は、そのもとをなす指導要領の改訂ということにあるのであります。それから、教科書会社が古本の使用の手を封ずるためにあらでもがなの改訂をするのではないかという声も地方なんかで聞くのでありますが、これは失礼ながら逆なのであります。少くとも、今日におきまして、発行会社といたしまして、あの会社はけしからぬ、古本を使用させないために毎年毎年変えぬでもいいところを変えているという評判をとれば、致命的なのであります。それから、いま一つは、十万冊売りまして三年間で原版償却という一応の経済基準が出ておりますが、古本の使用者が全国で一体幾らあるものか、その場合と、古本の使用を封じて、それを犯してまで改訂をあえてして、原版の償却も済まないのに新しく資本を投下するということの、両方そろばんにかけた場合に、どちらが得になるかということは、これはそう簡単に言えないのでありますが、少くとも毎年変えたならばやりきれない。今年あたりから非常に教科書会社の金繰りが苦しくなっておる一つの原因は、昨年の社会科の全面改訂であります。特に一昨年あたり改訂したばかりの発行会社が、原版の償却もできないうちに、またここで版を新たにして全面的に改めるというところの打撃は、非常に深いものでございます。それから、制度その他、たとえば税制その他郵税関係にしましても、どんどんそれ自体が変っているのであります。従って、いつかも国税庁あたりから、教科書の中に誤まりがあるというような御指摘を受けたのでありますが、これは時間的に不可能であります。ことし変った制度が去年書かれた教科書に載るというようなことは、これはあり得ない話であります。あまりそういう点に御理解のない非難をいただきますと、発行会社としては、その致命的な非難に対する対策として、内容的なことは一切書けないわけであります。つまり、税制とはどういうものか、税は守らなければならぬというくらいのことしか書けないことになるぞという話をしたことがあるのでありますが、そういったことがこの教科書を変える一つの具体的な理由になっているのであります。それから、いま一つは、現場の先生から実際に使ってみられていろいろと御注文があるのであります。これは、発行会社の立場といたしましては、心から歓迎して、こういう御意見を伺って、これを教科書の上に実現していくということが、教育的な立場からはいいのじゃないか、私はかように考えております。それから、全面的な改訂でない、ちょいちょいした改訂に対しましては、改訂一覧表というものをつけまして、あながち子供に全部買わせなくても、その程度のものは先生がそれを見ながら鉛筆で訂正させるというような仕組みにいたしまして、徐々にそういうことの弊害は避けつつあります。いたし方がない改訂は、これはいたし方がないというようなところに立ち至っております。  それから、転校生の問題でありますが、これは、驚くべきことには、検定制度発足九年にもなりますのに、全国の学校子供の転校の実情につきまして、数字的な統計資料がどこにもなかったということなんであります。私のところで昨年千の小中学校と過半数の教育委員会にお願いいたしまして、ランダム調査をいたしましたその結果、平均いたしまして二・五ないし三%、これは市部と郡部では違っておりますけれども、それだけの転校生がある。なお、ことしは、取次所の手を通しまして、全国すべての小中学校につきまして、過去三カ年の転校生の実数調査をいたしました。手元に集計が集まりつつあります。これがわかりましたならば、それだけの予備本をその町のその取次所へ予備しておけば、問題は何でもないのであります。これがために不便だから、国定一本にしろというような結論を出すことこそ、むしろこっけいなくらいです。きわめて簡単な技術的な問題であります。従来そのような手当すらなかったということが、むしろ驚くべきことだというふうに考えております。
  121. 篠田弘作

    篠田委員長 西村君に申し上げますが、あなたの時間がだいぶ超過しております。一つ簡単にお願いします。
  122. 西村力弥

    ○西村(力)委員 大体終ったのですが、それでは、最後に、転校の際に教科書が一定していないと不便だという声が、全国の警察官を主として発せられている、こういうことを私は聞いているのでございます。今の民主警察の諸君は、確かに民主主義的な考え方に徹していると思うのでありますが、しかし、まだまだ、警察官あるいは警察界というものの中の呼吸というものは、その中で息を吸っているということはなかなかそういうことでもない場合もあるようであります。そういうことで、転学云々というて教科書の国定化の方向を主張するならば、まことに危険なことであるが、そのようなことをうわさでお聞きになったことはございませんか。
  123. 白根孝之

    白根証人 私が聞きましたのは、今の自衛隊の問題を聞いたのであります。自衛隊の妻帯家庭を持つ幹部連中が大量に異動する場合に、こういう問題が起るということも聞きました。警察官の話は初めてでありますが、これなんかも、もし自衛隊なり警察あたりに今の検定制度のほんとうの意義というものの理解があって、ごくわずかな転校児童のために制度の根本までもゆるがすというような無責任な態度でなしに、協力の気分さえあれば、異動警官なり異動自衛隊員なりの異動先の名簿と、その子供学年と、行く先の学校と、出る学校だけを事務当局の私の方へ一括知らせるだけの手数さえかけて下さいますならば、もう子供が行かないうちに教科書を先に送っておきます。
  124. 西村力弥

    ○西村(力)委員 最後に、証人としてはなかなか申しにくいことだろうと思うのですが、当初申しましたように、現在の検定制度でありながらも、その主管省の秘密なる意図でもって教育内容が一方的にしぼられてくるというような事実は、これは日本の民主主義建設過程において重大なる転機である、一つのこういう教育の危機であるとともに民主主義の危機であるときに当って、証人は、勇気を持って、そういう調査員あるいは文部省官僚による内容に対する不当干渉、その具体例を申し述べていただくわけには参りませんか。やはり固有名詞をあげてというか、具体的なことは全然わからないという御表明以外にはできませんか。勇気を持ってお願いできませんかと、最後的にだめを押しておきたいと思います。
  125. 白根孝之

    白根証人 教科書問題の制度の向上につきましては、はなはだ小さい勇気ではありまするが、勇気をふるい立てなければならないと自分で考えております。ただいまのお話は、具体的になりますと全然固有名詞が消えるのであります。これは、結局、編集関係者というものの発行会社内における発言力の弱さと、それから、やはり、きわめてわずかな権力ながら文部当局検定の合格、不合格を左右し得るという権力の前に非常に弱い者である。でありまするが、そうした具体的事実の前に立たされた編集員がある程度の勇気を持ってくれれば、固有名詞は出る問題なんであります。
  126. 西村力弥

    ○西村(力)委員 終ります。
  127. 山田長司

    ○山田委員 関連して。ただいまの証人の御発言は実に重要な御発言だと思うのです。編集者が非常に弱いために、せっかくよい教科書ができようとしているのを、それを文部省の事務官がこれにとやかく言って、せっかくりっぱな教科書ができ上りかかっているのが、それが曲げられてしまうという事例があるということを聞いているのです。あなたも、さらに西村委員も名前をあげて言わなかったから、私はここで名前をあげて一応あなたにただしたいと思うのです。現在文部省におられる原田事務官が一番このことについてはうるさくとやかく言うという話を聞いております。この点についてあなたは何か心当りがあるかどうか、これはなければならぬと思っているのですが、一応一つ証人に伺いたいと思っているのです。
  128. 白根孝之

    白根証人 心当りございません。
  129. 山田長司

    ○山田委員 原田事務官の問題について、業界における編集者から実は一、二私は当って聞いております。それで、一社や三社ではどこでかたきを討たれるかわからないから、一応まとまって、このことについては意見を言いたいということを言われております。そういう点に現在きておるのですが、この発言力の弱い人たちに何とかやはり発言力を与えるようなことを、あなたはお考えになってみたことがあるかどうか。
  130. 白根孝之

    白根証人 大体同じような性質の問題なのでありますが、調査が非常にずさんだという不満があったのであります。明瞭に調査員の意見の方が間違いである、こういう意見が私の方の検定取扱専門委員会——主といたしまして検定事務の取扱いにつきまして文部当局と交渉に当っている委員会であります。そこで、それでは具体例を持ち寄ろうじゃないか、どの社の何教科の何教科書の何ページのどの事項調査員はどのように間違ってずさんな意見を出したかということを出さなければ何にもならないのだといって、申し合せたことがあります。ところが、次回に集まりましたときには、これもふらふらっと消えてしまった。その点で、私自身、私の協会は実にだらしのない協会だという意見を持っております。
  131. 山田長司

    ○山田委員 しかし、仕事がかわいいためにこういう事態が今まで起っておると思うのですが、何とかこの際、やはり国会で取り上げたこういういい機会ですから、あなたは業界の中からこういう原田事務官についての意見をただしてみる御意思がごいざますか。これが一つ。もう一つ業界の中でさらに文部当局に対するこうした問題について一応集まってこれらの人たちがちゃんと証拠をあげて持ち出した場合に、あなたは文部当局にどんなふうな交渉をしていただけますか。
  132. 白根孝之

    白根証人 これは、当然、その具体的資料をもちまして、具体的個所について文部省の処置をただす義務が私にはございます。
  133. 篠田弘作

  134. 神田大作

    神田(大)委員 同僚の方が御質問申し上げましたので、簡単に二、三御質問申し上げます。  先ほどから問題になっております文部官僚が検定に際しまして調査員の調査した内容について容喙をするということは、われわれもしばしば聞いておるのでございますが、あなたは、その具体的な名前を申して、だれそれがそういうことをしたということは言えないでありましょうけれども、そういう事実があるということをお聞きでございますか、お尋ねしておきます。
  135. 白根孝之

    白根証人 しばしば耳にいたします。その都度私の方からそういう具体的な事実を示して下さいと言っているのですが、これが出ないのであります。
  136. 神田大作

    神田(大)委員 あなたがしばしばそのことを聞いておるということになりますと、あなたはいろいろの関係上具体的な例はここで申すのをはばかっておるのだろうとわれわれは推察するのでございますが、これはいろいろの関係でそういうこともあるだろうと思います。われわれとしましても、特に文部官僚が調査員を秘密にいたしておりまして、そうして内幕においてその内容に干渉いたしまして、そうして思想的にこれを統一するというような意向を持っておることが非常に大事なことであろうと思うのであります。一つの例といたしますと、農民一揆というような言葉が、ある社会科に出ておりますと、この農民一揆というような言葉は使ってはならない、あなたの会社ではこの農民一揆ということをとれば、これは採択になるというようなことを内々に申しておるというようなことをわれわれは聞いておるのでございますが、あなたもこういうことをお聞きしておるのでございましょうが、いかがでありますか。
  137. 白根孝之

    白根証人 そのことを申し上げておるのでございまして、それは何事務官がどういう問題についてどういうことを言ったのかと言いますと、固有名詞が出てこないのであります。これが実情であります。
  138. 神田大作

    神田(大)委員 そうすると、私が申しました農民一揆というような言葉の訂正を文部事務官僚が指示しているというようなことは事実でございますね。私も確かなところで聞いているのですから確信を持ってお尋ね申し上げるのでございますけれども、あなたもそういうことは事実であるとお答えすることができますか。
  139. 白根孝之

    白根証人 そのような事実をおつかみでありますならば、私からお願いいたしますから、私に教えていただく、——私は一面におきましては教科書業者全体の利益擁護の責任を持っておりますので、実際あればその通りに行動をいたします。
  140. 神田大作

    神田(大)委員 私の今申したような事実をあなたも再々聞いていると言うから私お尋ねを申し上げるので、そのことを聞いているのでございましょう。
  141. 篠田弘作

    篠田委員長 ちょっと神田君に申し上げますが、固有名詞が出ないので、従って、そういう風評を聞いていると言っているので、そこにちょっと食い違いがありますから……。
  142. 神田大作

    神田(大)委員 その点、そういうことを聞いているわけですね。
  143. 白根孝之

    白根証人 そうです。
  144. 神田大作

    神田(大)委員 それでは、方向をかえまして、元文部省におりましたたくさんの官僚が特定の教科書会社に入っておって、枢要な位置を占めて、そして教科書会社文部省とのいろいろの情実連絡関係をとっていると思いますが、こういうことであっては教科書の編さん並びに採択、販売等について非常に片寄ったことになろうとわれわれは思うのでございますけれども、あなたはどうお考えでございますか。
  145. 白根孝之

    白根証人 学校図書株式会社に元文部省の督学官あるいは教学局長官あるいは国民精神文化研究所の研究員であった人が、戦後図書印刷の方に入って、それが学校図書の方に移って、昨年あたりから逐次文部省に復帰していたという問題につきましては、私の立場上教科書関係する印刷物は克明に読んでおりますので、詳しくこの事実は承知いたしております。けさほどのある委員からの協会としてこれをどうするのかというお尋ねに対しまして、さっそく私の積極的に動き得る唯一の場である理事会に一理事として提案をして、この問題に対する研究を進めます、このようにお答えしたのでありますが、私個人の意見と申しますと、また別にあるのであります。なるほど、学校図書でかつて禄をはんだ人が文部省の筋へすらすらと入った、そうするると、その間に何か学校図書のたくらみがあろうという見解も私は一つの見解だろうと思うのであります。あらゆる報道機関が全部その線で書いているように思うのであります。しかし、私個人は学校図書当局にも、それから御本人にも全然会っておりませんので、私自身が、どちらであろうかということは判定しかねますけれども、こういうような見方もできるのじゃないかということをかつてある新聞社に話したことがあります。人事関係、人間関係というものは、そう直線を引いたように、あそこにおったからあそこのためによくするだろうということばかりでもなかろう、——漏れ承わりますところによりますと、学校図書の社長というのは相当きびしい方でありまして、時として灰ざらが飛んだりするそうであります。今御指摘の方々も、かって学校図書におきましてあまり居心地のいい生活ばかりはしておられなかったように聞いております。小沼氏のごときは、仮病を使って、あそこに行くのはいやだというので三カ月ばかり休んでおった、そこへ追放が解除されましたので、大急ぎで福井大学へ赴任さしてもらった、行ってみたらば教授会からボイコットされて宙に迷ったこういういきさつがあるのでありまして、一つの人事関係の見方といたしまして、もし私が小沼氏であって、学図において追放中に耐えられないような扱いを受ければ、追放が解けて文部省に復帰すれば、かたき討ちをする、こういう関係すら成り立つではないか、従って、そう簡単に直線的には考えられない、こういう見方もありはしないかということを私は言つたことがあります。
  146. 神田大作

    神田(大)委員 あなたの言われるそういうこまかな実情についてもわれわれ聞いておりますけれども、問題は、文部省におった者が教科書会社に行き、教科書会社におった者が文部省に行くというようなこと、しかもこれが学校図書ばかりではなしにほかの教科書会社にも文部省の中からそういう人がたくさん入っているというようなことになると、教科書行政というものは公平に行われないというのが常識であります。こういう点について、私は非常に公平な教科書行政が行われぬというようなことについては論議の余地はないと思う。あなたは、協会責任者といたしまして、こういうことが行われることがいいか悪いか、端的にお答え願いたい。
  147. 白根孝之

    白根証人 私個人といたしましては、道義的な立場からも、かような人事は避けるべきだと考えます。
  148. 神田大作

    神田(大)委員 いま一つお尋ね申し上げます。福島県において昭和二十七年から二十九年度までの各小学校教科を、三種類あるいは六種類に福島の数目委員会でもって限定して、展示会と同時にこれを公示した。こういうことは、展示会という制度を無意味なものにしたと思うのでございますけれども、こういうことにつきまして、教科書協会責任者としてのあなたの見解はいかがでございますか。
  149. 白根孝之

    白根証人 午前中に証言いたしました福島県のパンフレットが手に入りましたので、私は直ちに文部省に参りまして、当時の教科書課長に厳重抗議を申し込みました。
  150. 神田大作

    神田(大)委員 その場合に、福島県の教育委員がある書籍会社駐在員をしておった、そのために三つの会社に初め限定したのでございますけれども、今度は一つ会社をまた入れかえたというような情実関係が生じているのでございますが、あなたは、協会責任者として、この現実に対していかなる処置をとりましたか、お尋ねいたします。
  151. 白根孝之

    白根証人 私が協会に就任いたしました昭和二十八年でありまして、ただいまのお話は実は私初めて承わるのであります。私が入りましてから初めて知りました事実は、今のような事前にしぼられたというので、文部省を通して福島県教育委員会当局に、検定教科書制度の本旨から言ってかくのごときことの撤回をお願いした、私の関しておる限り、事実はそれだけであります。
  152. 神田大作

    神田(大)委員 われわれは角をためて牛を殺すようなことはしたくない。ただ、現在の検定制度をますます民主的に直していきたい考えを持っておるのでございますが、しかしながら、こういうふうに検定あるいは採択等についてたくさんの欠陥があるとすると、これを直さなければ、この教科書問題に対して、いわゆる国定への逆戻りというような反動的な論議も起きてくる。そういう場合、教科書会社文部省当局その他の関係者は、この教科書問題をめぐって大きな責任があると思うのでございますけれども、こういう観点に立ちまして、あなたは協会専務理事としていかなる責任を感じておりますか。
  153. 白根孝之

    白根証人 部分的には午前中証言申し上げたのでありますが、この国定への移行をおそれて、これを阻止するために日夜努力を傾けております。文部当局に対しましては、協会の名をもって文部大臣あてに意見具申を出しました。それから、座談会、討論会、新聞、雑誌の記事等には、機会あるごとに、午前中来申し上げておる趣旨のことを世論に訴えて、私の方の協会七十九社全部が、この問題については国定反対、検定の完成ということに一致結束いたしております。これは二月の選挙以来急に具体化した問題のようでございますが、そのよってくるところは深いのでありまして、今日あわててこういうことに私ども立ち上ったのではありません。私の就任以来寝ても覚めてもそのことが念頭にあったわけでありまして、各方面の同志の方々と提携しまして、今日では新聞の論説委員あるいは学芸欄等に関する限り、大体われわれの主張を支持してくれているのではないかと思っております。また、今後とも微力の限りを尽しまして、この危険な制度への逆行を阻止いたしたいと思いますので、文部当局一つ御鞭撻下さいまして、幸いこういうような立法の府においてこの問題が取り上げられたのでありますから、立法の府の方からも強力なる御支援をお願いいたしたいと思います。
  154. 篠田弘作

    篠田委員長 神田君にちょっと申し上げますが、あなたの時間はもう過ぎておりますから、あとの質問は簡単にお願いいたします。
  155. 神田大作

    神田(大)委員 では、もうよろしゅうございます。
  156. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは、関連質問でありますから、西村君に発言を許します。
  157. 西村力弥

    ○西村(力)委員 先ほどから、あるいはただいまの神田委員の質問に対する御答弁で、調査員が低質だということ、あるいは文部省の事務官僚が非民主的な干渉圧迫を加えたという事実は聞いておる、しかし、それを具体的な問題にまで持っていくと、これはもう現われてこない、こういうことでありますが、とにかく聞いておることは聞いておるのだ、こういうことになってきているわけであります。しからば、それがなぜ具体的に現われないかというと、文部省の持っておる認可の権限、弱いにしても最後的の権限を持っということに対して、経営者がおそれて、そういうものから編集者の良心というものが踏みにじられてくるというお話のようでございましたが、それとともに、文部官僚がそういう不合理なサゼスチョンを与える場合、証拠を一切残さない、口頭によってこれをきつくやる、こういうふうなことを証人はお聞きになっていらっしゃいますか。
  158. 白根孝之

    白根証人 口頭か書面かということは聞きませんが、風評は多々耳にいたしておりますので、抽象論、一般論といたしましては、それは文部当局にかくのごときことのないようにということを申し入れてありますが、それでは具体的に何かということになりますと、私の方にはきめ手がどうしても手に入らないというのが事実でございます。この点を逆にお願いするわけでありますが、こうしたところへ証人として喚問してお確かめ下さいますればけっこうではないかと思います。
  159. 西村力弥

    ○西村(力)委員 先ほどの神田委員の質問のときにもありましたが、こういう問題があるということでそういう話し合いをしたときの人々については、証人は御存じあるだろうと思いますが、どういう方々がそういう席に集まられて発言をされたか、これは具体的に申せるのではないかと思いますが…。
  160. 白根孝之

    白根証人 こういう問題で当局と折衝いたしますのは私の方の検定取扱専門委員会であります。委員の名は全部わかっております。それから、その話をいたしました委員会への出席者も、記録を見れば全部わかります。
  161. 篠田弘作

    篠田委員長 浜野君より言い落した点があるからということで発言を求められておりますから、特にこれを許します。
  162. 濱野清吾

    ○濱野委員 証人は非常に明快なお答えもしていただけるし、また意見を徴された場合、りっぱな、しかも勇気あるお話をしていただけますから、私が言い落しました二点についてもきわめて明快にお答えを願いたいと思います。  先ほど委員長の尋問中、第七項目に関係したことでございますが、採択上の自由の確保についてということでございます。私どもの知る限りにおいては、小学校の教師が各教科ごとに研究会を持っているということでありまして、これはまことにけっこうであろうというふうに賛意を表するものであります。しかし、この研究会一つの大きな組織体になって、たとえば北海道の国語教育連盟であるとか、あるいは社会科教育連盟などというものに大きくなって、しかもさらにこの団体が特定の出版会社とある関係を持ち、そうしてその編集に携わってくる、こういうような事実は教科書採択に重要なる影響を与えるものとわれわれは考えざるを得ないのであります。すなわち、編集採択とは同一の人格者に落ちてきて、採択上の自由を失うことは当然であって、この点を証人はどう見るか。私は、この点は非常に重要な問題だと思いますので、はっきりとお答えを願いたいと思います。
  163. 白根孝之

    白根証人 午前中も御証言申し上げましたように、ある教科書の著者が、自分が信念を持ち、自信を持って書いた教科書であるならば、この教科書が使用されることを希望して普及に努力するのは、私はむしろ当然だと思います。また、それだけの確信のある人以外には教科書を書いてもらいたくないのであります。ただし、その場合に、あくまでもその宣伝というものは純教育的な立場に立ってやっていただく、その間に教科書会社と表に出せない関係を結んで、そこから金品その他の補助が出る、こういうことになると、これは協会としては押えるべき行為に属します。問題は、どこまでそういうような宣伝活動が純粋に教育的な立場から、著者の信念、自信からなされておるものかということのけじめだと思います。不正なものが入った場合は、もちろんこれは排撃しなければならぬと思います。
  164. 濱野清吾

    ○濱野委員 あなたの考え方はまことに純真であって、きわめて明快である。しかし、あなたの個人的な主観ではなくて、あるいはあなたの考え方ではなくて、現実に北海道地区にはそうした団体があって、その団体の方々がしかも会社とある種の関係を持って編集に携わっておるとすれば、これは一体協会としてはどういうふうに見えているのか。あなた個人の見解ではなくて、協会理事としてどういうふうにお考えに触るか。今までのあなたの証言を聞いて、実にりっぱだと私は感心しているのです。むしろ敬意を表しているのです。しかし、この事実をあなたは無視するわけに参らぬでしょう。協会常務理事として、いかに採択上の自由を失っているか、この事実を無視するわけにいかぬと思うのでありますが、個人としてではなしに、常務理事としてお答えを願いたいと思います。
  165. 白根孝之

    白根証人 協会性格上、不公正競争に対する処置というものの限度については御了解願ったと思うのであります。ただいまのような事実が御指摘願えますならば——これも固有名詞を添えてでありますが、私、その社の責任者に会いまして、事実を確かめまして、協会のために訂正をしてもらいたいと思います。
  166. 濱野清吾

    ○濱野委員 この問題につきましては、その編集について著作権も持ち、印税もとっているということですから、固有名詞はすぐ出ると思います。むしろ自粛協会だといわれる証人の方の協会でこれが問題にならないのがふしぎだと思う。逆に申しますならば、自粛協会常務理事さんに証人のようなりっぱな見識を持った方がいることは、私は国のためにありがたいと思う。しかし、その反面に、こうした事実をわからないわからないで隠蔽されることは、まことに私は遺憾だと思うのですが、この点どうですか。
  167. 白根孝之

    白根証人 隠蔽はいたしておりません。でありますから、かくのごとき事実が部内から固有名詞を添えて私の方に持ち出されますならば、私が付き添いまして、その当事者と懇談をし、ただす。部外から私の耳に入りました場合には、私自身がその責任者に飛び込みまして処理をいたします。
  168. 濱野清吾

    ○濱野委員 それでは、もう一つお尋ねいたしますが、九州では大日本図書株式会社より理科教科書として小学校用の理科の世界それから中学校の科学の世界が出ている。この著者は理科研究九州地区委員会が中国四国の研究協議会と共同して執筆したものであって、福岡の教職員がその中心であるといわれております。このために、大日本図書は九州地区では急激にその採択数が増加したわけでありますが、これはまさか協会会員諸君も常務理事もこの異常な数字の発展に無関心ではいないはずだと思います。これも結局は採択上の自由というそういう言葉を逆用して自由を阻害したものと私どもは見ているのでありますが、常務理事としてどうごらんになっておるか、あなたの御見解を承わりたい。
  169. 白根孝之

    白根証人 午前中の証言で、採択の立場にある者が採択と供給との混同のおそれのある供給にタッチしてはいけない、好ましくないということを申し上げたのでありまするが、ただいまの点も、同様の原則から申しまして、大日本図書理科、科学の世界、二冊の名前を承わりましたから、これはこの数年間においてどういう宣伝手段をとり、具体的にはどういう数字の躍進をしておるかということを、私、さっそくに調査いたします。その上で、当事者に会って、まず事実の有無を確かめます。得てしてこのようなことは針小棒大と申しますか、私のところに飛び込みますときには、まるでガラスのコップの中にドライ・アイスをぶち込んだような、ばっとものすごい内容でくるのでありますが、だんだんと調べてみますと、お互いの間の誤解、つまり相手がはげしく対立しているものでありますから、だんだんみぞが深まって、一つの現象も非常に大きく片方はとる、こういうような事実もありますので、具体的な固有名詞を承わりましたから、さっそく調査いたします。
  170. 篠田弘作

    篠田委員長 浜野君、簡単にやって下さい。
  171. 濱野清吾

    ○濱野委員 具体的な固有名詞を出して、そうしてあなたのりっぱなお考え通り一つ日本の教科書を持っていっていただきたいと思います。  私はこれで終ります。
  172. 篠田弘作

    篠田委員長 白根証人に対する尋問はこれにて終了いたしました。  証人には長時間にわたって御苦労さまでありました。  なお、本日午後尋問予定になっておりました大日本雄弁会講談社教科書局長由井千春君は、本日はこれを取りやめることにいたしますから、さよう御了承願います。どうも御苦労さまでした。    ——————————
  173. 篠田弘作

    篠田委員長 この際お諮りいたします。本委員会証人として出頭を求めておりました佐賀県教育図書株式会社代表取締役石丸喜代次君より、多発性関節炎により向後約一カ月間の安静休養を要する旨の医師の診断書を添えて本委員会に出頭いたしかねる届が参っております。これにつきましては、正当なる理由があるものとしてこれを了承するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  174. 篠田弘作

    篠田委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  なお、証人文部事務次官田中義男君は、国際公教育会議出席のため海外出張を命ぜられ、昨六月三十日早朝出発いたしましたので、同君の事情につきましては、やむを得ないものがあるとして、これを了承するに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  175. 篠田弘作

    篠田委員長 御異議なしと認め、さように決定いたします。  次に、新たに佐賀県教育図書株式会社代表取締役高場季光君を本委員会証人として証言を求めることに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  176. 篠田弘作

    篠田委員長 御異議なしと認め、さよう決定いたします。  次にお諮りいたしますが、理事諸君と協議の結果、これまでの委員会における尋問状況及び新たな証人の追加等によりまして、ただいまお手元にお配りいたしました通りの日程で証人尋問を能率的に進めたいと存じます。七月四日、大日本雄弁会講談社教科書局長由井千春君、教科書供給協議会全国連合会幹事芳根次朗君、七月六日、大日本図書株式会社常務取締役早川康一君、佐賀県教育図書株式会社代表取締役高場季光君、七月八日、元文部省教科用図書分科審議会副会長石井一朝君、七月十一日、日本教職員組合教育文化部長佐藤幸一郎君、七月十三日、教育大学教授石山脩平君、全国PTA連合会長塩沢常信君、以上の通り委員会において証人の出頭を求めることに御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  177. 篠田弘作

    篠田委員長 御異議なしと認めます。よってさよう決定いたします。委員長において所要の手続をいたします。     —————————————
  178. 篠田弘作

    篠田委員長 引き続いて神田清子証人より証言を求めることにいたします。  ただいまお見えになっていらっしゃる方は神田清子さんですね。
  179. 神田清子

    神田証人 はい。
  180. 篠田弘作

    篠田委員長 この際証人に一言申し上げますが、現在のわが国において、小中学校における教科書は多種多様にわたり、大小出版業者が乱立の結果、これが検定並びに採択等に関しとかくの風評も生まれ、これが学童並びに父兄に及ぼす影響等を懸念し、世上大いに関心を抱いておる向きもありますので、義務教育の本旨にかんがみ、これが真相を明らかにすることはきわめて意義あることと考え、本委員会は本件の調査に着手いたした次第であります。証人におかれましては率直なる証言をお願いいたします。  それでは、ただいまより小、中学校における教科書関係事件について証言を求むることになりますが、証言を求める前に証人に一言申し上げます。昭和二十二年法律第二百二十五号、議院における証人宣誓及び証言等に関する法律によりまして、証人証言を求める場合には、その前に宣誓をさせなければならないことと相なっております。宣誓または証言を拒むことのできるのは、証言証人または証人配偶者、四親等内の血族もしくは三親等内の姻族または証人とこれらの親族関係のあった者及び証人の後見人、または証人の後見を受ける者の刑事上の訴追または処罰を招くおそれのある事項に関するとき、またはこれらの者の恥辱に帰すべき事項に関するとき、及び、医師歯科医師、薬剤師、薬種商、産婆、弁護士、弁理士弁護人公証人、宗教または祷祀の職にある者またはこれらの職にあった者がその職務上知った事実であって黙秘すべきものについて尋問を受けたときに限られておりまして、それ以外には証言を拒むことはできないことになっております。しかして、証人が正当の理由がなくて宣誓または証言を拒んだときは一年以下の禁錮または一万円以下の罰金に処せられ、かつ宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは三月以上十年以下の懲役に処せられることとなっておるのであります。一応このことを御承知になっておいていただきたいと思います。  では、法律の定めるところによりまして、証人宣誓を求めます。御起立を願います。  宣誓書の御朗読を願います。   〔証人神田清子君朗読〕    宣 誓 書  良心に従って、真実を述べ、何事も  かくさず、又、何事もつけ加えない  ことを誓います。
  181. 篠田弘作

    篠田委員長 それでは、宣誓書署名捺印して下さい。   〔証人宣誓書署名捺印
  182. 篠田弘作

    篠田委員長 これより証言を求めることになりますが、証言証言を求められた範囲を越えないこと、また御発言の際にはその都度委員長の許可を得てなされるようお願いいたします。まず委員長から概括的に証言を求め、次いで各委員から証言を求むることになりますから、御了承下さい。なお、こちらから質問をしておるときはおかけになっていてよろしゅうございますが、お答えの際は御起立を願います。  証人の略歴を述べて下さい。
  183. 神田清子

    神田証人 東京に生まれました。小学校から専門部まで私立の東洋英和女学院に学びました。そして後にほんの一、二年だけ東洋英和女学院、つまり私の母校の初等科を教えまして、そして結婚をいたしまして今に至りました。
  184. 篠田弘作

    篠田委員長 現在発行されている教科書種類が多く、中には内容においてほとんど変らないものがあると聞いておりますが、証人のお考えはいかがですか。
  185. 神田清子

    神田証人 現在の教科書と申しましても、私、展示会に行ったこともございませんし、あまり比較して調べたことがございませんので、はっきりわかりませんけれども、地域的な実情にきわめてよく即しているとか、あるいは子供の環境によく即しているといったような点で特色を持ったものは私は見出せません。割合とみんな同じような内容を持っておるように思われます。
  186. 篠田弘作

    篠田委員長 教科書が年々変りまして、兄の教科書が弟に使えなくなる、家庭の負担も増加し不便を生ずると聞いておりますが、これに対するお考えを伺いたい。
  187. 神田清子

    神田証人 私どもの子供は、小学校におりますころは、一年、三年、五年というように一年おきに三人もおりましたことがございますけれども、ほとんど上の子の教科書を次の子が使ったというようなことはございませんで、大体が教科書は変っております。
  188. 篠田弘作

    篠田委員長 その変っておるために、家庭の負担は増加し、不便を生ずるというようなことはありませんか。
  189. 神田清子

    神田証人 それで、もしも教科書一つ出版社のものが兄のときもまた妹のときというように両方に使えましたならば、家庭でもって子供たちの学習を見ますときに大へんにやりやすいと思います。
  190. 篠田弘作

    篠田委員長 経済的にはどうですか。
  191. 神田清子

    神田証人 経済的面に対しても、それは非常にお困りになる方もあると思います。ですから、やっぱり、結局これは価格の問題にいつて安い方がいいと思いますし、上の子のものを下の子が使うという、それはどこのお子さんも大体新しいものをお使いになりたいでしょうから、出版社が同じでもお兄さんの使ったものを使わないということにもなりましょうけれども、やはり非常にその値段が安ければ家庭における負担が少くなりますから、その点で、やはり価格という問題になって、家庭の負担は今の様子では重たくなると思います。
  192. 篠田弘作

    篠田委員長 教科書自体が高いとお思いになりますか。教科書と並行して使用しておるワーク・ブックというものを含めて高いというようにお考えになりますか。どういうようにお考えになりますか。
  193. 神田清子

    神田証人 教科書自体の値段というものも、義務教育であるならばもっと安くていいものだと思います。けれども、それに則して使うワーク・ブックというものも、それは決して強制的には学校から使わせられておりませんけれども、やはり先生の側からごらんになれば、ワーク・ブックをみんなが持っていなければいろんな場合に不便ですから、強制的に使われるわけでございまして、その値段というものも、ワーク・ブックもやっぱり義務教育用に使いますものはもっと安くなければならないと思います。
  194. 篠田弘作

    篠田委員長 学校の教師が教科書関係会社から教科書採択に関して誘惑を受け、中には温泉に招待されている者もあるというようなことが事実となって現われておりますが、こういうことについてどういうふうにお考えになりますか。
  195. 神田清子

    神田証人 非常に遺憾だと思います。私自身の子供の行っております学校は、幸いにさようなことはないと信じておりますし、事実ないと思います。けれども、そういうことが本の中でもたびたび取り上げられましたし、新聞にも載っておりますし、ある本にはそれが漫画にさえなっておりますのを見まして、教科書というものがどうしてもっと神聖なものとして取り扱われないかということに対して、非常に私は遺憾に思います。
  196. 篠田弘作

    篠田委員長 現行教科書内容について、どういうふうにお考えになりますか。あなたの子供さんに関係のある教科書だけでけっこうです。
  197. 神田清子

    神田証人 今使っております教科書に対して、私、別に困ったことはございません。内容がこれでは困るというようなことを大して感じたことはございません。
  198. 篠田弘作

    篠田委員長 困るということも感じないが、すばらしいというようにも感じないのですね。
  199. 神田清子

    神田証人 どの子の使いますのも、これは大へんりっぱだと思うようなものもございません。ただ、私の使いました昔の国定教科書に比べれば、色合いもきれいでございますし、子供たちがこれを持って、勉強するというよりも楽しむことがで登るという点では、今の教科書はすぐれていると思います。
  200. 篠田弘作

    篠田委員長 委員長からの尋問は一応これにて終了いたします。  この際委員諸君の発言を許します。時間も切迫しておりますから、大体十五分程度でお願いいたします。高津正道君。
  201. 高津正道

    高津委員 証人にお尋ねいたしますが、教科書の価格を安くする方がいい、私も同感です。特約供給所が日本に六十で、学校の付近にある取次所が五千ほどある。その五千の取次所が定価の一二%を取り、六十カ所の方が四%取っておる。そこらの数字で一二%はまあ許せるが、何というか、通行税のような、そこは大量に扱うんですから、そういう四%は高過ぎると本員は考えますが、あなたはどのようにお考えですか。
  202. 神田清子

    神田証人 私も前にある方から、教科書を中間で扱う方と申しますか、そういう会社について四%の利益があるということを伺いました。それは、教科書を直接学校に持って来る小さな文房具屋さんとか指定の本屋さんではなくて、大きい教科書の出版会社から途中にある会社に持って来られて、そしてまた本屋さんにと行くのですから、間でもって教科書を取扱うその会社は非常に多くのものを取り扱うと思います。その利益がどのくらいあるかということも、前に私耳にしたことがございますけれども、たった四%といっても、部数が非常に多いのですから、大きな利益になります。これは私も高いとおっしゃいますことに同感でございます。
  203. 高津正道

    高津委員 現在の一年はあるいは過去の十年に相当しておるかもしれません。徳川時代に比べれば数十、百年に相当するかもしれない。まことに日進月歩に世界も日本も動いているのだから、年々変るくらいな新鮮な教科書を与えることが、現代におけるおとなとして、生きておるわれわれとして、次代国民に対する義務である、こういうふうに私は考えるのであります。昔国定教科書時代に図画の変ったのをやるべきだという意見が出て、その改訂に十五年を要したという物語が残っておりますが、そんなことではしようがないので、やはりそういう事実を教えるところのものは現在の検定が国定教科書的なものよりもいいものだということだと思うんです。定価を安くする方法はいろいろありますからね。本員のこのような見解に対して、それもそうだと御同感下さいますでしょうか。
  204. 篠田弘作

    篠田委員長 ちょっと誘導尋問に陥っているかと思います。同感を強制してる形がありますから……。
  205. 高津正道

    高津委員 ちっとも強制しておりません。
  206. 神田清子

    神田証人 先ほどの御質問に対して同感と申しましたのは、私自身ほんとうにそう思っておりましたから同感でございます。  それから、今度の御質問に対しまして、教科書の使用年限ということになりましょうかしら、今の教科書の値段なり何なりを、やっぱり文化が日を追って進むものであるから変えた方がよろしいとお思いになり、それについてお聞きになったのでございますね。
  207. 高津正道

    高津委員 そうでございます。
  208. 神田清子

    神田証人 文化というものが日を追って進むということはもちろんのことでありまして、ですから、五年も六年も同じ教科書を使うということは、経済の見地から考えればずいぶんいいことであるかもしれませんけれども、もちろん教育ということは経済の面からばかり考えられませんから、やはりそういう点においては、需要者が軽い負担で、そうして新鮮なものを、そして子供の環境にきわめて即したものを使えるような制度がほしいということを思います。
  209. 高津正道

    高津委員 現在特約供給所が学校の付近の取次店に渡して、その取次店が学校へ運んでおるようにわれわれは考えますけれども、学校があって、それが生徒が多くなるから、どこかへ分校ができるとか、独立した学校ができるという場合、前の単なる文房具屋とか何でもない雑貨店とか、そういうところが供給する権利を持っておるのです。それで、今度、新しい学校の方に、分れて行った学校の前の方にいい本屋があって、そこの本屋がそこへの供給をする権利をもらいたいといって特約供給所へ頼んで行くと、なかなかそれを許さないわけです。だから、前の人がどういう関係でか十校も二十校も持つような不合理ができて、よほどの権利でも出すか、よほどの政治力を用いないと、その学校の前の本を扱っておる新しい本屋が扱えないことになって、八百屋さんみたいなものや、雑貨店や文房具店が遠くから運んで行く、遠くへ買いに行かねばならぬ、こういう不便が現在あるのですが、あなたは、学童の父兄の一人として、これは不合理だとはお考えにならないでしょうか。私の説明は何らの誇張もないし、誘導的なにおいなどしないのでありますから、これにも御同感が願えるでありましょうか。
  210. 神田清子

    神田証人 人口が多いため東京の中にたびたび分校ができるということは聞いております。そしてまた事実知っておりますが、そのときにも、ほんとうに私もそういう場合を考えてみました。二、三の学校が集まって分校になるのですから、前の学校で使っていた教科書が使えなくなる場合が多いと思いますけれども、そのときに、教科書を配給するお店というのが、つまり前の学校の近くのお店が配給するというわけなんでございますか。
  211. 高津正道

    高津委員 前の権利を持ったものが、新しくできたのをまた一緒に取って、ちょうど新しい学校の前にあっても、そこには権利がなかなか行かない、こういうような独占的な行為が行われておるわけなんです。
  212. 神田清子

    神田証人 私は、そういうことを全然知りませんでしたので、はっきりとした意見は申し上げられませんけれども、それは確かに不合理なことだと思います。子供たちにとって、そしてまた先生にとって、一番手数がかからないように、ほんとによい条件で学校に本が行き渡るということが必要なのであって、権利とかなんとか、そういう問題ではない、つまりなわ張りみたいなものはなくして、その学校に直接一番持って行きやすい文房具屋さんなり本屋さんに、その権利といいますか、そういうものは当然渡されるべきものだと思います。
  213. 篠田弘作

    篠田委員長 山田長司君。
  214. 山田長司

    ○山田委員 二、三点お伺いいたします。  今本委員会でいろいろ教科書の問題を取り扱って、証人の方々に隔日に来ていただいていろいろお話を伺っているのですが、ややもしますと、本の安いことを望むために、昔の国定教科書を望むような危険が世の中に——新聞論調や何かから、話題にする人が大へんにふえてきているのです。そこで、私は、証人からお伺いしたいことは、あなたは国定教科書になることをお望みですかどうですか、一応伺いたいと思います。
  215. 神田清子

    神田証人 私は国定教科書になることは絶対に望んでおりません。
  216. 山田長司

    ○山田委員 先ほど安い教科書を望まれる話を伺ったのですが、私は、一年間子供が持つ教科書なんで、これはただ安いだけでは意味がないと思うのです。あなたは、先ほど、今の教科書は大へんすぐれてよいと思いますと言って、教科書のことをおほめになられましたけれども、この間、行監でこの問題を取り扱って一日、二日しましたら、文部大臣が、教科書は無料で貧困児童に出すようにしたいというようなことを、二度ほど、行監で扱って以来言われているのですが、一体、義務教育なんですから、教科書ぐらいはただで私は児童に配給してもよいと思うのです。新聞やラジオでお聞きになっておられますように、造船疑獄事件なんというのは、国民から税金をとって、船会社に対して何百億という金を補給しているのです。そのほか、たくさんの税金を特定な大きな会社人たちは納めずにおっても、政府はこれに鋭い追及をせずにおくというような状態なんです。証人に伺いたいことは、義務教育なんですから、教科書くらいはただで配給したらどうかと私は思うのですが、御婦人の立場から、こういう問題についてどういうふうにお考えですか。
  217. 神田清子

    神田証人 教科書の値段ということは、今度の問題の中でも私たちにとって一番大きな関係のある問題でございます。先ほど、私は、教科書が国定教科善のときよりもりっぱな、きれいなものだと申し上げましたけれども、りっぱな、きれいなものではあっても、教科書というものは、普通の雑誌なんかと違って、生徒が対象になっているので、非常に出版部数の多いものでありますから、新聞にこの間も出ておりましたように、三一%もの利益をとって売らなければならないような、そういう筋合いのものではないと思いますし、また、展示会でもって、来年はどれだけどの学校で要るということもきめられておりますから、その教科書がむだになるということが絶対にありませんから、そういう点でも、教科書の値段というものは、りっぱなものができて、そうして下げらるべきものであり、まして義務教育を受ける者がその対象になっているのでありますから、今おっしゃいましたように無料で配給されれば、それに起したことはございません。ですけれども、万一そういうことが実現できない場合でも、貧困児童ですとか、困窮児童ですか、そういうように困っていらっしゃるということがほんとうに社会から認められている児童にただで配給されるということは非常に喜ばしいことでございますけれども、そういう児童にただで配給されるのは、それは社会福祉の方面からいくべきであって、今おっしゃいましたように、私たちにも、もしもできますならば、ただで配給していただきたい。あるいは、ただでだめであるならば、その三一%の利益とか、一〇%の運動費とか、それから手数料の四%とか、あるいはもう一つ、文房具屋さんが受けるところの一二%の手数料などというものは、みな国家の負担にしていただいて、ほんとうに実費で分けていただけたら幸いだと思います。
  218. 山田長司

    ○山田委員 もう一点伺います。先ほど高津委員の御質問で、本屋さんでない関係で、あるいはあなたでもなかなか理解されない点があると思うのですが、各都道府県に特約供給所というものが一カ所あるのです。発行所で発行された本は、その特約供給所に行くわけです。それが各府県に一軒あるために、大へんわがままが今まであったわけです。それがために、学校先生方で山の中の先生とか何かが生活協同組合をこしらえて、本の円滑な配付をやろうと努力したのですが、この特約供給所というものが問題で、この特約供給所というものは、一カ所でなくできることになっているのですけれども、資本がたくさんかかるので、これがまだ一カ所しかできてない。——大都市に二、三カ所あるところもあるのですけれども、それがために供給所というものがややともすると横暴になる危険があると思うのです。こういう点について、供給所というものが一カ所であってよいものか、それとも、もっとあった方がよいとお考えになられるか、そういう点を主婦の立場から一つお話し願いたいと思うのです。
  219. 神田清子

    神田証人 供給所の状態が今のようなありさまであって、その一つの供給所が非常に横暴であるというようなことになりますのならばもちろんもっとたくさんの供給所をふやすべきだと思います。けれども、たくさんの供給所をふやすということは、私はしろうと考えでわからないのですけれども、またそれが学校に売り込むといいますか、そういうようなことについていろいろ競争するために弊害が出てくるようなことが多くなるのでしたならば、それについても適当な措置をとられた上でふやされることを私は望みたいと思います。
  220. 篠田弘作

    篠田委員長 辻原弘市君。
  221. 辻原弘市

    ○辻原委員 簡単に証人にお伺いいたしますが、先ほど、委員長のお尋ねに対しまして、あなたが、現在の各種教科書を見てみると内容においてはあまり特色を持ったものが見当らない、こういうことは非常に残念である、こう結ばれたわけなんですが、そのおっしゃった意味は、本来教科書というのは、これは、私たちが考えましても、教科書によって子供の教育を行うものではなくして、それぞれ先生方が持っている人格、識見、また地域の要請、こういうものを織りまぜて、その一つの補助的な役割として教科書というものが今日使用されている、これが新しい教育の行き方だと私たちは承知しているわけなんです。そういう建前から参りますと、いろいろ特色を持ったものが教科書本来の使命を全うするものだと私は個人的に考えるわけなんですが、あなたのおっしゃった意味も、現在のたくさんある教科書内容についてもう少し特色のある、地域の要請にもこたえられるそういう内容を持ってもらいたいというお考えをお持ちなさっていられるのかどうか、この点を伺っておきたいと思います。
  222. 神田清子

    神田証人 先ほども申しましたように、子供に与えられる教材というものは、理想的に言えば、一人々々の能力に一番適するものであって、そしてまたその子供の環境に最も即したものであるべきでありますけれども、そういうことはどうしても大へんに理想論にだけなってしまって、事実上むずかしいと思いますけれども、私が先ほど申し上げましたのは、現在教科書が一科目について二十何種類もあるということを聞いておりますのに、それだけもある教科書がなぜもっとえりすぐられた特色のあるよいものにならないかしら、一体何を競争しているんだろうということに対して私は疑問持つのです。それで先ほどのようなことを申し上げたのです。
  223. 辻原弘市

    ○辻原委員 今の問題に関連して、神田証人は、文部省が発行しておる学習指導要領というものをごらんなさったことがありますか。
  224. 神田清子

    神田証人 見たことはございません。
  225. 辻原弘市

    ○辻原委員 では、次の問題をお伺いいたします。先ほど山田委員からも特約店の問題を質問されておりましたが、実際にわれわれも父兄の側に立ってこの問題を取り上げました場合に、一般に言われているように、価格の問題だとか、あるいは供給に対する遅速というような問題、あるいは数の問題、こういうような点からいろんな素朴な要求を持ち上げるわけなんですけれども、その中で、終戦後今日に至るまでしばしば問題にされてきた点は、実際非常にお困りになっていらっしゃるような家庭に、まだ教科書が到着しない間に、予約金を徴収したり、あるいはあらかじめ教科書の代金を徴収したり、いろんな方法で特約店が学校要求をする、学校も仕方なくして父兄の方々にそういう意見を申し述べて了解を得て、子供にお金を持参させる、こういう式のやり方が相当全国的にあるように私たちも聞いておったわけなんですが、あなた御自身なり、あるいは特に主婦の方々の中にそういう点でお困りになっていらっしゃるようなお話をお聞きになったことはございませんでしょうか。
  226. 神田清子

    神田証人 私は今のところそういうことを聞いたこともございませんし、私自身も、学校のそばの本屋さんに、教科書が来ましたからお買いなさいと言われて、子供が自分でお金を持って行って、そこで現金と引きかえに教科書をいただいて参りますから、そういうことは耳にしたことがないように思われます。
  227. 辻原弘市

    ○辻原委員 兄の教科書を弟が使うというように、順次一つ教科書を譲り受けて使うということが非常に便利だ、こう一般的に言われて、その点から、あまり教科書がたびたび変ることは困るといった意見が非常に起っておるわけなんですが、あなたの先ほどのお答えの中にも、もし一つ会社で作られた教科書を順次兄弟が譲り受けて使うようなことができれば便利ではないかとおっしゃいましたが、私はこの点が教科書の問題の中では非常に重要な点だと思うのです。この問題は、だんだんと深く掘り下げて考えていけば、結局教科書制度の本質的な問題に実は触れてくるわけです。ところが、私たちがばくと実感的にこういう問題をとらまえてみた場合には便利だというふうに考えるのですけれども、さてそういう便利がいいかどうかということは、これはよく考えてみなければならぬと思うのです。あなたが先ほどおっしゃった便利だというのは、ただ簡便だという意味であって、そういうことが教育上、より効果が上るから便利だとおっしゃったのかどうか、その辺のところをもう少しおっしゃっていただきたいと思います。
  228. 神田清子

    神田証人 教科書が、年々といいますか、それも語弊があるかもしれませんが、たびたび変る、あるいは出版社の違ったものを子供が使っているということは、その教科書がたとえば学校図書というものの国語の本を私の上の子供が使っているといたしましたならば、その学校図書というものはどういうところに主眼を置いてその教科書を作っているかということが私はのみ込めているわけです。ところが、次の子供のときにはまた違う——広島図書といいますか、たとえばそういったところのものを使いますと、またその教科書を、出版社の主義というのが違いますせいか、私たちはあらためて親も勉強し直して教えなければならないというところで、つまり、同じ教科書を何代も何代も使うということがよりよいとは思いませんけれども、教科書は毎年それほど全部変えられなくてもいいものだと思うのです。ある場所は改訂されなければならないでしょうけれども、それほど変るべきものでもないと思われますから、そういう見地から考えましたらば、親としては毎日子供と一緒に教科書と取り組んで参ります上に結局簡便ということになりますか、子供のためにも悪くはないし、親も大へん楽に教えられますので、その方がよいというふうに私はお答えをいたしました。
  229. 辻原弘市

    ○辻原委員 だいぶんわかりました。あなたがおっしゃった意味は、一つの地域で一つ学校が相当研究をされて選定をされ採択された教科書が、にわかにそれがいけないというようなことにはとうてい考えられないから、一たん採択して選んで、特別にそれが悪くないということであるならば、できるだけその同一系統の教科書を使っていただくことの方が便利だという意味に私は解釈いたしました。そのことは、往々間違われて、そういう御意見が今度は全般的に及ぼして、たとえば各都道府県で一つであっていいとか、全国的に一つであっていいとか、そうして教科書そのものは変えない方がいいのじゃないかとか、こういうふうに考え方が非常に飛躍されて一般の間に理解されておる面があると思うのです。もちろん、教科書の改訂も、必要によってはこれはやらなければならぬということも常識的でありましょう。また、つどつどあまり変り過ぎてもいけないということも常識的でありましょう。おのずから限度がある問題でありますけれども、しかし、それはやはり、その学校が自主的に選んだものを、今度は学校が自主的にこれはまずいときめられるまでは常識的に使っていくのが私は正しいのであろうと思います。そういう考え方を全般に押し広めたところに、いわゆる今の教科書制度はいかぬのだ、たくさんあり過ぎるからいかぬのだという結論にきて、検定制度はいけないから国定制度にしろというふうにだんだんと意見が発展していることを私たちは発見しているので、今の神田さんのお話から、皆さんがお考えになっている点のポイントはよく了解をいたしました。  そこで、お伺いをいたしたいのでありますが、先ほども御答弁がありましたが、こういったいろんな価格、数量あるいは改訂等の問題から、今制度全般の問題が論議されているわけでありますけれども、ほんとうに子供を一人一人の能力を伸ばしてやろうという教育をさすためには、相当お考えなすっていらっしゃるだろうと思いますが、一挙に一つ教科書で全国的にやっていく国定制度というようなものを実施する方がほんとうに子供たちのためであるかどうか、もう一度あなたのお考えを承わっておきたいと思います。
  230. 神田清子

    神田証人 先ほど申し上げましたように、国定制度、国定化ということには私は全く反対でございます。せっかく終戦子供たちは自主的な気持に目ざめてきました。そうしてそういうことについてどんどん伸ばしてきたものを、またもとへ戻して画一的な教育が行われるということは、親としてあまりおもしろくないと思います。私は、先ほど、教科書というもの、教材というものは理想的から言えばその子供一人々々に一番即したものであるべきだから、そういう点から考えれば、これは理想なんですけれども、そういう一つ学校一つ教科書を使うこともあるいは弊害があると、教育的見地から考えれば言えるかもしれません。けれども、今の状態というものを見ますと、たとえば転校する場合には非常に困るのです。私自身は、幸い子供を転校させませんので、そういう差しさわりはこうむっておりませんけれども、実例をあげて申しますと、たとえば世田谷区に住んでいらしたお子さんが台東区にお越しになったという場合に、ちょうどそれが年度がわりでなかったために、教科書が一冊も手に入らないのです。そのために、一年のお子さんだか二年のお子さんだか忘れましたが、小さいお子さんが、教科書があるまで仕方がないので台東区に越した自分のおうちから世田谷区まで一時間、二時間以上もかかって通って来るという実例もありますし、また、あるお母様が、教科書が転校して得られないため、仕方がないので自分で教科書を写して子供に持たしているという場合もあります。そういうような弊害を私考えますと、私は別にそういう差しさわりをこうむっておりませんからかまいませんけれども、一人でもそういうような差しさわりをこうむっているお子さんがあるとしたならば、その制度をできるだけ早く直していただかなければ——たとえばそれは本屋さんに欠点があるのかもしれませんけれども、そういうことを直していただかなければ、理想論は理想論として、事実子供と一緒になって教科書と取っ組んでいく母親としては、あるいはもしもそういう弊害がたくさんあるならば、都府県制度というものは非常に反対も多いと思いますけれども、そういう制度でも、一人でもの子供がもしも困らなければ——またどんなふうにその制度に対するトラブルができてくるか、そういうことはしろうととしてはわかりません。私は、ただ、消費者の側から、子供に最もよい条件で教科書を与えていただくという点で、それは何べんも繰り返しますが、できるだけ教科書が広い範囲に同じ教科書ということは望まれませんけれども、あまりそういう弊害があって困る場合には、あるいはそういう制度も考えられなければならないのではないかと思います。けれども、それがもしもどんどん押していって国定化というようなことになってしまうのでしたらば、それはずいぶん考えなければならない大へんなことだと思いますけれども、しろうとの考え、消費者として、需要者としての考えとしては、子供に困ることが一つもないようにして、それから、受験の場合にも、教科書があちらの学校もこちらの学校も違っておりますと、子供たちは国定教科書のときでさえも非常に受験勉強の負担が多かったのですけれども、教科書種類が多くなり、参考書の種類が多くなり、ワーク・ブックというものも数限りなく出て参りますと、それらのものを全部親としても先生としてもやらしてみたくなるのですね。そういうようなことから、子供たちをいわゆる試験地獄に追いやるというようなことにもなってくると思うのです。そんな点から考えますと、私は、理想論を離れて、ただ私の生活を通して、教科書と取り組んでいる者として、都府県制度ということも、子供たちが困るのをなくすためには仕方がないとさえ思われて参ります。
  231. 辻原弘市

    ○辻原委員 非常にごもっともな御意見です。私たちも実はいろいろそういう話を聞いたときにそういう気持にかられるわけなのですが、この間も文部省責任者を呼んでいろいろ聞いてみますと、たとえば今お話しなさっておった転入学の問題などについても、大体年間生徒数の三%だけのものを教科書として準備をすれば充足できるのだ、またそういうものを予定してやっているのだとおっしゃるわけなのです。だから、そういった不便が制度の上において現われてくるはずはないのですけれども、しかし、実際具体的にはそういうことに出っくわす例がしばしば起っておる。これはどこにあるかということを私たちも真剣に考えているのですが、一つ、今お話しのような点については、これはよくそういった原因を見きわめられまして、そうして本屋さんにお尋ねになるなりして、十分あなた方の方でもそういう点を現在の制度の中でも除去していける面について、私は最後に御努力をお願いいたしたいと思います。
  232. 篠田弘作

    篠田委員長 神田清子証人に対する尋問はこれにて終了いたしました。  証人にはまことに御苦労でありました。  次会は七月四日月曜日午前十時より開会いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時三十八分散会      ————◇—————