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稻村委員 それで、そういう不用意な
移民をやることは、これはどうしても追及しなければならぬと思うのですが、大体
満州移民のことは私よく知っておりますが、
満州移民なども、全部じゃないですけれども、実にひどい
やり方をしておった。それと同じように、いやしくも
日本の
人間を
向うへやるときに、そういう不用意な
やり方をやって、そうして
ジャングルの中で苦しめるというふうなことは、これは実際
人道上重大問題であります。そういうことを
平気でいて、一方では
成功した者があるなんということでは、これはとうていそれによって納得できないのです。なるほどあそこでは、
コショウの
成功者はたくさんあるそうです。
コショウもこれは
コショウ景気に乗っているのだから、あまり将来性はないそうです。そこの
人たちは、何十年の間奴隷的な
生活によって非常に苦しんだわけですが、そこにやはり新しい
日本人が行きますと、ちょうどしゅうとのような
気持で、
自分たちも昔はひどい目にあったのだから、お前
たちはもっと働かなければいかぬというようなことで、非常に
奴隷労働のような
生活をしいるのです。そこへ入って今
成功している人々の間には、常に対立があるそうです。そういうふうな事実があるのです。ですから、よほど考えてやっていかないと、ただ
移民を送ればいいというような
やり方、たとえば一部の悪評のある
政治屋とかそういう者の宣伝によって、またそれに動かされて、何ら農村問題も、それから
農民の
生活のことも、
移民政策のことも知らない
外務省の
当局者が、そういう無責任なことをやって、そうして現に多くの同胞を餓死させたり、ひどい目にあわしているというふうなことは、これは実に許すべからざることであると私は思うのです。
それで
松原移民の問題ですが、これもはなはだ不用意なことで、これを
政府が援助して軽々にやったということが間違いなので、
失敗とか
成功とかいうことは、一年や二年でわかるものじゃないのです。ただ
移民をさせて、その
移民をした
人たちの
生活をほんとうに守る
方向にあるかどうかも、仕事がうまくいくかどうかというその
方向がきまるだけであって、今すぐよくなるとか何とかいうことはないのですが、
松原移民についても、実にひどいことがあるのです。その
松原移民から脱出した
斎藤医学博士の話によれば、
県庁で作成された
契約書に出ている家屋、
生活費の支給などに関する条項が、
現地では何
一つ実行されていない。これまでの費用は全部
移民の借金となって、しかも
借用証は鉛筆で書かれ、金額がはっきりしないものに署名せよと言われた。
現地で手に入る日用品は、何でも市価の二倍以上である。
現地に着いたときは約束の病院、学校はもちろん、家も井戸もなく、二キロも行って谷水をくんでこなければならぬ。それから
移民監督やその手先がピストルを持って
唯一の通路を扼し、
入植者の
自由外出はもちろん、
外来者の
出入さえも許さない。こういうふうな事実があるのでありまして、
南米移民の背後には血の出るような悲惨な話があるのです。むろん天国に行くわけじゃないから、
苦労するのは当然だけれども、そういうふうな、
人権を全く無視したような
移民をやって
平気でおるようなことは、これは実に私はいけないと思うのです。
それから、これは
松原移民だけじゃない。あの
マナカプールの
辻移民に対しても同じであって、そこも全く
受け入れ態勢ができていない。何を作っていいかわからなくて、行った者は二十数種の
作物を、試験的に作って、ここでは何が向くかということをこれからやるというふうな
状態で、実にひどい
状態になっている。逃げて帰ろうとしても帰れない。とにかく
奥地から
サンパウロまで来るには
東京から
シンガポールの間ぐらいあるから、どうにもならぬというふうなわけです。
成功しているのは下元健吉という人のやっている
コチア産業組合、これだけが実にうまくいっている。ところがほかの方はそのような
失敗をしているのに、そういうこともあるが、一方において
成功もしているというふうなことを言って何気なしに考えておったら、これは大きな
人道上の問題であって、いやしくも
当局者が
日本の国民を送るときにおいて、その
人間の
生活とかあるいは将来性を考えないで、ただいいかげんに、
松原移民とか
辻移民とかいうふうなものに、
県庁の
機関を通じ、
政府の
機関を通じて
農協あたりから人を呼び集めて連れていくということは、実にけしからぬと思うので、もしこの
会社ができても、同じように一部のブローカーみたいな者にやらせるものであるならば、私はこういう
会社には反対せざるを得ない。これは実に重大問題ですよ。どうです、そういう
松原移民や
辻移民に対して、
外務省は正確な
情勢をとっておりますか。