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1955-05-26 第22回国会 衆議院 外務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和三十年五月二十六日(木曜日)     午前十時四十三分開議  出席委員    委員長 植原悦二郎君    理事 大橋 忠一君 理事 菊池 義郎君    理事 須磨彌吉郎君 理事 北澤 直吉君    理事 穗積 七郎君 理事 松本 七郎君       草野一郎平君    高岡 大輔君       並木 芳雄君    山本 利壽君       渡邊 良夫君    稻村 隆一君       細迫 兼光君    森島 守人君       和田 博雄君    戸叶 里子君       松岡 駒吉君    岡田 春夫君  出席政府政員         法制局次長   高辻 正巳君         総理府事務官         (南方連絡事務         局長)     石井 通則君         外務政務次官  園田  直君         外務省参事官  寺岡 洪平君         外務省参事官  矢口 麓蔵君         外務事務官         (アジア局長) 中川  融君         外務事務官         (条約局長)  下田 武三君         外務事務官         (国際協力局         長)      河崎 一郎君  委員外出席者         外務事務官         (経済局第二課         長)      安倍  勲君         専  門  員 佐藤 敏人君         専  門  員 村瀬 忠夫君     ————————————— 本日の会議に付した案件  関税及び貿易に関する一般協定のある締約国と  日本国との通商関係規制に関する千九百五十  三年十月二十四日の宣言有効期間を延長する  ための議定書への署名について承認を求めるの  件(条約第一号)  婦人参政権に関する条約批准について承認  を求めるの件(条約第六号)  国際情勢等に関する件     —————————————
  2. 植原悦二郎

    植原委員長 これより会議を開きます。  関税及び貿易に関する一般協定のある締約国日本国との通商関係規制に関する千九百五十三年十月二十四日の宣言有効期間を延長するための議定書への署名について承認を求めるの件と、次に婦人参政権に関する条約批准について承認を求めるの件、これを一括して議題といたします。両件について通告順によって質問者に発言を許します。並木芳雄君。
  3. 並木芳雄

    並木委員 ガット加入について昨日、来日中のホワイト事務局長記者団との会見で、八、九月ごろには日本正式加盟が実現するであろうということを言明しております。それについて政府としての見通しをこの際伺っておきたいと思います。
  4. 下田武三

    下田政府委員 ガット正式加入が実現いたしますためには、御承知通り締約国の三分の二の賛成を必要とする次第でございます。従いまして二十三カ国の賛成を必要とするわけでございますが、ただいまのところ確実なのは二十一ヵ国の賛成を得られる見込みでございます。従いまして残り二、三ヵ国というところが大事なのでございますが、オランダ、ベルギー、ルクセンブルグというベネルックス三国の態度があいまいでございますために、目下のところ確実に加入できるということを断言いたし得る段階に至っておりません。しかしながらまだ期間もあることでございますから、その間に十分努力いたしまして加入実現の目的を達するようにいたしたいと存じます。
  5. 並木芳雄

    並木委員 同じくホワイト氏の言によると、かりに加入できても例の三十五条を発動されると、加入しておらなかった場合と同じような影響が出てくる、従って入っても入らなくても同じようなものだ、その中の一つ英国があるということを言っておりますが、この点についてはどうなっておりますか。せっかく入っても三十五条の発動によって実効がないようでは何にもならないと思いますが、それについて政府はどのように対策を講じておられるか、その対策を伺っておきたいと思います。
  6. 下田武三

    下田政府委員 仰せのように、三十五条が発動されますと、ガットによる最恵国待遇に均霑するという利益がなくなるわけでございます。でありますから有名無実に相なるわけでありますが、しかしながら日本正式加盟国として入るということ自体には賛成するわけなのであります。でありますから全然価値がないということは言えないわけであります。ただその三十五条を発動しました国と日本との間においてのみガット一般的最恵国待遇適用がないというわけでありますので、もちろんわが方といたしましては三十五条の発動なしに日本正式加入を認めてもらいたいわけでありますが、なお賛成国の数が足らないというどたんばになりますと、場合によっては三十五条の援用の危険がありましても必要数加盟賛成国を確保するということを考えざるを得ないかもしれませんが、しかしただいまからそういう悲観的な態度を表明するほど見通しを悲観的には見ておりません。
  7. 並木芳雄

    並木委員 アメリカはしきりに日本のためにガット加入を促進し、好意ある態度を示しておるようでありますけれども、その反面においてこれは業界から押されてやむなく行われておるものと推定いしたますが、アメリカ輸入関税について必ずしも好意を示しておらない点があります。たとえばつい最近例の互恵通商法に関連してアメリカ両院協議会ジョージ案というものが通過しております。こんなのが通過されたのではガット加入したところで非常な障害となってしまって、名前だけは正式加盟を許されたけども、実効が伴わない、実利を得ることができないという心配が出てきております。政府は当然これには抗議を申し込んでしかるべきものと思っておりますが、どういう対策を立てておられますか。
  8. 下田武三

    下田政府委員 どこの国でも、政府方針のいかんにかかわらず、実際に貿易に当っておる業者あるいは実際の生産に当っておる業者政府意向通りには必ずしもいっておりません。従ってアメリカにおきましても日本からの輸入品によって脅威を受ける生産業者もおるわけでございまして、そういう者の声が国内に反映し、または議会の議員にまで影響力を及ぼすということが起るのはいたし方ないことだと思います。しかしながらアメリカ政府自体といたしましては非常な好意を持って対処しておるのございまして、昨年来マグロのカン詰関税の問題にしましても、日本政府の要求をよくいれてくれておりますし、また今回のガット正式加盟のための関税交渉というのも、実は日本との交渉実益を感ずるのではなくて、アメリカとの交渉実益を感ずるからこそ参加しておる国が多数あるのでありまして、これは日本国でできないところを、アメリカ利益を均霑させるぞとみせびらかすことによって、多数の国がこの交に渉参加してくれておるわけであります。従いまして、米国の一部の業界にそのような声がございますにいたしましても、アメリカ政府方針というものは、貿易によって生きる必要のある日本を何とかして助けてやろうという明確な線にあることは疑いを入れないところであると信じます。
  9. 並木芳雄

    並木委員 最初の質問に関連してですが、ホワイト氏が語った八、九月ごろの加盟実現ということは可能性がある、そういうふうに政府も見ておりますか、もう一度伺います。
  10. 下田武三

    下田政府委員 ウィンダムホワイト氏、この人はイギリス人でありますが、ガット事務局長としまして、非常に公正な意見を持っておる人であります。従いまして、イギリス本国立場にとらわれないで、ガットという国際機関事務局長として、国際人としての立場から非常に公正に物を見、考え、かつ日本にも好意を示していてくれる人であります。従いまして、あるいは公正な見地からのホワイト氏の見通しが正しいのかもしれますせん。しかしながら、日本政府といたしましては、確実に八月までに実現し得ると断言することも、またそれより早く加入できるということも、目下のところ確たる見通しを申し上げることは差し控えた方がいい段階だと思っております。
  11. 並木芳雄

    並木委員 今は、ガットだけに限定されておりますか。
  12. 植原悦二郎

    植原委員長 今は、婦人問題の方と一括して質疑を許しております。
  13. 並木芳雄

    並木委員 まだ国際情勢のことで局長質問したいことが二、三あるのですが、あとでいたします。
  14. 植原悦二郎

    植原委員長 稻村隆一君。
  15. 稻村隆一

    稻村委員 並木君と同じ質問でしたから、わかりました。
  16. 植原悦二郎

    植原委員長 もう済んだのですね。
  17. 稻村隆一

    稻村委員 今のと同じですから、やりません。
  18. 植原悦二郎

  19. 北澤直吉

    北澤委員 ガット問題について二、三質問したいと思います。  第一点は、例のガットの三十五条を援用して、日本ガット加入しましても、ガット規定を適しない、ガット規定を除外する、こういうことを考えているのは、イギリスのほかにどういう国がありますか、ちょっと伺いたい。
  20. 下田武三

    下田政府委員 イギリス初め英連邦諸国、それからフランス、キューバといったような国であります。
  21. 北澤直吉

    北澤委員 そういう国々は、日本との間においてはガット適用を除外するというふうになります。そうなりますと、それを補うために、そういう国々日本はどうしても通商航海条約を結ばなければならぬと思いますが、それはどうですか。
  22. 下田武三

    下田政府委員 仰せ通りでありまして、実はイギリスとの間には、講和発効後いち早く、わが方から通商航海条約締結を提議いたしておるわけであります。それが御承知のように、イギリス側の非常なちゅうちょによりまして今日まで遷延されておるのでありますが、今度のガットヘの加盟の問題に関連しまして、英国政府から先般書き物を持って参りまして、現段階において日本無条件ガット正式加入ということを認めるわけにいかぬのを遺憾とするけれども、全般的なことから、日英間の通商関係を再検討しよう、そして日本との間に通商航海条約締結交渉をしよう、そうして通商航海条約通商上の原則の問題が片づいたならば、その暁においてはガット正式加盟の問題に正面から取り組み得るというような趣旨の見解の表示がございました。この通商航海条約のことは、わが方からもともと言い出したことでございますから、何らこれに対して異論がないわけであります。またフランスとの間におきましても、昨年吉田首相がパリにおいでになりましたときに、フランス総理大臣に対しまして、通商航海条約締結ということを申し出されております。これも徐々にではございますが、話し合いが軌道に乗りつつあるわけでございます。でございますから、ガット一般的な最恵国待遇日本に均霑させることに危険を感じておる国に対しましては、通商航海条約の問題でといたしまして、通商上の原則について両方の納得の行く原則を打ち立てまして、しかる後、向うの不安をなくしてガットに引き込むという手が考えられると存ずるのであります。
  23. 北澤直吉

    北澤委員 ガット規定適用のない国との間には今のように通商航海条約を進めるわけでありますが、ガット加盟して、しかも三十五条を援用しない国との間は大体ガット規定によって日本との通商関係の規律ができる、だから通商条約は特に結ぶ必要がない、こういうふうな考えでありますか、ちょっと伺いたい。
  24. 下田武三

    下田政府委員 御承知のように、戦争によりまして、日本各国との間の通商航海条というものの効力が切れておりますので、できるならば、できるだけ多数の国との間に通商航海条約の復活ということを考えたいわけでございます。しかしながら、なかなか注文通りには復活してくれなかったわけであります。そこで新通商航海条約を結ぶということになりまして、米国を初めといたしまして、カナダ等との間にはできておるわけであります。しかし通商航海条約締結ということと、ガットのワク内で加盟国関係に相なるということはやはりおのずから別問題でありまして、前者の問題の方がはるかに広範な問題を含んでいるわけであります。ガット関税だけの問題でございますが、通商航海条約になりますと、まず入国、滞在、エスタブリッシュメント、その他日本国民財産日本の船、あらゆるものの待遇最恵国待遇もしくくは内国民待遇によって確立されるわけでありますから、わが方といたしましては、ガット関係のみでなく、全般的な日本人、日本の船舶、財産の取扱いを確立するという見地から通商航海条約締結をいかなる国との間にも進めて行かなければならないものであると存じております。
  25. 北澤直吉

    北澤委員 それでは伺いたい。あの平和条約により、日本連合国との通商関係規定は、来年の四月二十八日ですか、効力がなくなる。そうすると、それまでに各国との間に通商航海条約ができないと無条約関係になる、こう思うのですが、大体来年の四月二十八日ですか、それまでにそういうような通商航海条約ができる見込みですか。
  26. 下田武三

    下田政府委員 仰せのように、来年の四月二十八日に四ヵ年の期限が切れますので、無条約状態になるわけであります。そこで、その間に、できるだけ多くの国との間に通商航海条約、または通商航海条約ができませんでも、先般カナダと結びましたような簡単な通商協定というものを締結いたしまして、この四年の期間によるギャップを埋める手をあらかじと打たなければならないと存じております。
  27. 北澤直吉

    北澤委員 通商条約の問題ですが、特に日本東南アジアとの貿易考えますと、われわれは、まず東南アジア指導的立場にあるインドとの間になるべく早く通商航海条約を結びたいという考えを持っておって、政府の方でもインドの方にそういうふうに提案したのですが、なかなか進展しないのはどういう事情からですか。
  28. 下田武三

    下田政府委員 インドに限りませず、東南アジア国々は、日本を含む先進国との間に通商航海条約を結ぶ際に非常に慎重でございます。これはやはり先般日米通商航海条約の際にも問題になりましたように、アメリカ等に対しましては、日本としても非常に慎重ならざるを得ないわけでありますが、ちょうど日本に対してこれらの後進国が慎重にならざるを得ないということは、ある程度これはいたし方のないところだと思います。そこでアメリカインドとの間の通商航海条約のときも、これは非常な長年月がかかりまして進捗しないというようなありさまでございますので、日本といたしましても相当困難を覚悟しなければならないと存じております。しかしその他の日本通商上の非常な深い利害関係にありますフィリピンでございますとかインドネシアとの関係におきましては、これはまずその前の平和条約締結するということが先決問題でありまして、平和条約締結するためには賠償問題を解決しなければならないというような状態でありまして、東南アジアとわが国との間の完全な通商航海条約というものを樹立させるためには、なお非常に道遠しという観がいたしております。しかしこれはあくまでもわが方の誠意を披瀝いたしまして、すみやかに完全な通商航海条約の樹立ということに邁進いたさなければならないと存じて、徐々にではございますが、できるだけの努力をいたしておるわけでございます。
  29. 北澤直吉

    北澤委員 日本インド通商条約締結申し入れた場合に、日米通商条約のようなものを結ぼうという申し入れをしたのですか。インドの方で、通商上の関係日本の圧迫を受けるとか、そういうようなことを心配しておるということでありますが、たとえばどういう点においてインドの方では反対があるのか、日本申し入れ通商条約のどういう点に難色があるのか、もしわかったらお聞かせ願いたい。
  30. 下田武三

    下田政府委員 インドとの間には日印平和条約の暫定的な簡単な規定がございますので、さしあたりそれカバーされておりますので問題はございませんが、これで日本側から通商航海条約の案をいよいよ突きつけて交渉するという段階になりますと、先方がどういう点に難色を示すかということがわかるのでございますが、ただいまのところは現実の問題になっておりませんので、まだ先方の出方はわかっておりません。
  31. 北澤直吉

    北澤委員 それからもう一点、ガット委員会レポートか何かでガット機構の中にまた新しい機構をつくることになったそうです。それによると、先進国はその国の外国為替か何かの関係でいろいろ輸入その他について特に措置がとれる、それからまた後進国は自国の産業保護のために特別の措置をとれる、こういうふうになっておりまして、日本のように特に中間に位する国は何ら特典がないような、そういうふうな新しい機構をつくるという委員会レポートが出たということが新聞に出ておりますが、これはどういうことでございますか。
  32. 下田武三

    下田政府委員 その点につきましては、ガット交渉に参加しまして先日帰って参りました安倍経済局第二課長がおりますから、安倍課長からお答えいたします。
  33. 安倍勲

    安倍説明員 ただいまの御質問につきましては、委員会がそのような決議をしたという点は私どもは承知しておらないのでございますが、おそらく昨年の十月からことしの三月までにガット現行規定を改正する改正会がございまして、その改正会の結果、一つの案なるものが採択されたのでございます。それによりますと、いわゆるただいま申されましたような先進国といいますか、いわゆる貿易の種々な輸出入制限に関しまして、国際収支の工合のいい国はそういうことをする必要はないという点が確認された。従っていわゆる貿易上の先進国と申しますのは、何らそういう意味での特権はなくて、貿易をできるだけ自由化するという立場から輸入制限は撤廃するという義務がむしろ強化されているという点でございます。それからいわゆる後進国と申しますか、経済的に未開発な国、特にその国に国内産業がありまして、普通の公正な産業上の競争においてはとかく立ち行かないというような特殊な場合は、そういう産業保護するために特定の範囲においてその関係の国は輸出入制限をある程度やってもよろしい、こういう規定改正議定書の中に挿入されたわけでございます。それで日本の場合はどうかと申しますと、ただいまの何が貿易上の先進国か、あるいは後進国かということの定義は、その会においてはついに決定できずに終ったのでございますが、大体のところただいま申し上げました国際収支のいい悪いという点で判定が下された。それからただいま申し上げました後進国の場合は、大体国民生活程度がきわめて低いという点だけがその改正議定書の中に出ておりまして、それが今後どの程度できめられるかということは未定でございますが、大体は国民所得がきわめて低いという点がその基準になるのではないかと見られております。従いまして日本はその観点からはおそらく後進国の中には入らずに、また米国イギリス、ドイツというような国の国際収支の全体としてきわめて健全かつ良好な国の範疇にも入らないというふうに考える次第でございます。
  34. 北澤直吉

    北澤委員 そういう意見が採択されたというのでありますが、日本貿易対象は大体後進国なんです。東南アジア、中近東、中南米、こういうようなところが日本貿易の最も大きな対象である。後進国が自分の産業保護のためにそういう措置をとり得るということになりますと、これは日本貿易に相当大きい影響があると思いますが、その点はどうなんですか。
  35. 安倍勲

    安倍説明員 ただいまの点に関しましては、確かにそういうおそれがあるのでありますが、また違った観点から、そういう国に日本の優秀な工業品その他の商品を二国間の話合いによっていい条件で売るという点については、ただいまのところでは、むしろ実際の貿易上の競争において、よければそういう国も条件のいいところから買うということになりますから、必ずしも実際において非常な影響があるとは思われないわけであります。
  36. 北澤直吉

    北澤委員 時間もありませんからその問題はその辺にいたしまして、もう一点だけ伺って私の質問をやめておきます。それは先ほどいろいろ話がありましたが、いよいよ日本ガット加入するということになりますと、ガット規定に従って、不当な輸出奨励措置はとれぬとか、あるいは不当の輸入制限ができないということになるわけでありますが、去年あたり日本貿易は相当そういうふうな非常手段をとって輸出が急にふえているわけです。いよいよ日本ガットに入ってそういうふうな制限を受けますと、日本輸出についてこれまでのような非常手段がとれないために、日本輸出貿易の前途に対して、悲観はしませんけれども、去年程度のような増加は見込めないというような心配を持ちますが、その点はどうでありますか。
  37. 安倍勲

    安倍説明員 その点につきましては必ずしもガットだけの問題によっては判断は下し得ないと思います。一般に種々な経済的な、あるいは国際関係におきます貿易関係から見まして、本年は昨年よりは輸出はあれほど出ないのざゃないかということはしばしば言われているところと思います。ただガット関係しまして、ただいまのような規定によりまして日本加入いたしました場合にどういう影響を受けるかと申しますと、輸出入制限につきましては、輸入はできるだけ自由化するという方向になりますと、原則としては値段の安いものが入る、自由競争の結果そういう結論になります。そしてそういう原料を使う輸出産業は、従ってほかのいろいろな要素を除いて考えますと値段は安くなる、国際的には競争力を増すという点も結論される次第でございます。従いまして、ガット関係から見、輸出を増進せしめるという点から見れば、むしろ日本の今後の貿易にはいい影響を与えるということはやはり結論として出てくるのではないかと思います。
  38. 北澤直吉

    北澤委員 それは概括的に話せばそういうことになると思うのでありますが、去年日本はたとえば砂糖とのリンクその他の面において輸出奨励のために非常に変った手段をとったわけであります。それがアメリカなんかで今だいぶ問題になっている。従ってことしはそういうことがなかなかできないというふうなことになっておりますが、その上にガットに入って、ガット規定に従ってそういう特別な輸出奨励手段がとれないということになると、その面では輸出の面で困ってくるというようなことになりわしないかと思いますが、その点はどうでございますか。
  39. 下田武三

    下田政府委員 昨年度におきます日本輸出の伸張は、必ずしも仰せのような不当な輸入制限、または無理な輸出の助長ということによって伸張したのではなくて、むしろ米国景気、またヨーロッパ諸国景気の非常な上昇という国際的な原因によって伸張した部面の方がはるかに多いと思うのでございます。従ってガットに入って手足を縛られるから急に輸出がしぼむというようには私は考えられないのではないか、むしろ世界的な景気動向、現に鉄鋼等におきましては、再び鉄鋼の値下りということで日本鉄鋼輸出が伸び悩んでおりますが、そういうような国際的動向の方がはるかに大きな要因であると存じますので、ただいま仰せのような措置ができなくなるから、急に打撃を受けるということは私はないのではないかと存じております。
  40. 北澤直吉

    北澤委員 私の考えが杞憂に終るのはこっこうですが、去年は日本プラント輸出などは砂糖リンクとか、そういうふうな輸出入をからませた手段によってだいぶふえているわけであります。ところがことしはそういうことができぬから、プラント輸出などの見通しは必ずしもよくないということになっておるわけでございますがそういう面でガット加入する加入せぬにかかわらず、去年やった方法がことしはとれなくなるという面から特に私はプラント輸出には相当影響があると思いますが、その点は一体経済局の方ではそれをどう見ているか。
  41. 安倍勲

    安倍説明員 プラント輸出がどの程度特殊な輸出振興制度によって伸びたか、あるいはその特殊なリンク・システムをやめる結果、どの程度の悪い影響を受けるかということにつきましては、必ずしもすぐ結論は出し得ないと思うのでありますが、日本の全体の経済事情に照らして、ガット規定に完全に合致し得ないような場合がかりにありといたしても、現在のガット規定によりますと、特殊な場合にはガット締約国などに申請して、全体の決議によって場合によっては例外的な処置が認められるということもございます。こういう点でそういう問題はすべていろいろな他の要素を考慮に入れて判断さるべきものと考えます。
  42. 植原悦二郎

  43. 穗積七郎

    穗積委員 ガットの問題について局長に一点だけお尋ねしておきます。ここに提案されております議定書そのものは、私はこの際は問題ないと思います。ただ問題は今後の見通しでございますが、もう少しやはり先般からの御説明に加えて正確に伺っておきたいと思います。  第一に英連邦を初めとしまして日本ガット加入を心よく思っていない国々、または他の国の賛成によって三分の二以上を獲得して日本が正式に加入をいたしました場合にも、三十五条の除外規定を援用したいという考えを持っている国、これらは多少は向うのエゴイズムもあろうかと思いますし、あるいは日本に対する誤解もあろうと思いますが、必ずしも誤解ばかりではなくて、日本に対する正解といいますか、正しく日本を理解して——特に問題になりますのはたとえば織維関係では商標の盗用の問題であるとか、あるいは昨年英国の労働党の諸君がお見えになったとき、ちょうど近江絹糸の問題が大きくクローズ・アップされていて、これを非常に大きくながめたわけです。その後イギリスの新聞などを見ておりましても、近江絹糸問題等を取り上げて、またやった、またやっているという式の印象が非常に強く、特に向うの業者には非常に大きな影響を与えていると思うのです。そういう点はガット加入に対して政府交渉されます場合に、ただ入れてくれ入れてくれと言うだけでは、なかなか私はこれは言葉の上の交渉だけでは解決しない問題ではないかというふうに思います。あなた方の見通しはそれほど楽観的ではないが、とにかくこの夏ごろまでを目標にして何とかやってみたいということでありますけれども、今までずっと説明を聞いておりますと、われわれ政府見通しに対して、確たる確信が持てないわけなんです。そういう点を考えますと、やはり相手の無理解だけによるものではなくて、こちら側にガット加入を拒否される理由が国内的にも相当あることを反省しなければいけないと思うのですが、その点について政府は一体どういうふうにお考えになっておられるか、ガット加入を拒否されるこちら側の理由——内部的理由です。そういう問題について検討をなさったことがありますかどうか、御意見を伺ってみたいと思います。
  44. 下田武三

    下田政府委員 講和発効後数年の今日、日本に対する敵愾心のごときものから、このガットの問題に影響を及ぼすということは今日ないと思います。  次に仰せのようなチープ・レーバーによる日本の不当競争ということは、これは現在まだ言っている国のあることは遺憾ながら事実であります。しかしながら、仰せになりました近江絹糸の例でも、あれは特殊な例としてイギリスの議員も見ましたが、一方また日本の大繊維工場を見まして、その能率的な運営に驚きまして日本がこういうことをやっているならイギリスがおくれをとる、油断をしていると大へんなことだという認識も一方においては得て帰っているわけであります。また日本の商標の不正使用の問題につきましても、昨年度におきましては陶器の専門家が参りまして、愛知県を中心といたしまして日本の陶器業界の実情をつぶさに見て回りまして、十分認識を深めて帰って、それ以来非常によくなっているし、また繊維工業につきましてもランカシアのエキスパートがただいま参っておりまして、そして日本側の代表と話し合いまして、日本に意匠センターを設けて、何も知らない善意な日本生産業者が、知らないためにあやまって意匠の模倣をやるというようなことのないような処置をとりたいということに進みつつあるようでございます。従いまして、百聞は一見にしかずで、何とか言っておる人が実際に来てみますと、なるほどこれは無理はないというような日本の実情を認識して帰るのでありますから、これはあながち日本だけの責任だ、日本のチープ・レーバーがすべての原因だというような誤解は、今日すでに去っておると思うのであります。従いまして、先ほど来見通しを立てることが困難だと申しておりますのは、何と申しましても、たとい日本は不当な点がないといたしましても、なおかつ日本競争力に非常な脅威を感じておるというところからきますところの自然の防御的本能からくる態度でありまして、これはいたし方ないのでありますが、ただ見通し難ということを申しておりますが、実はただいま交渉が非常にデリケートな段階にありまして、お前一国が賛成してくれば日本が入れるかもしれないというようなことを言って交渉しておるのでありますから、ここで日本政府見通しについて楽観的なことを申し上げましたら、交渉上にやはり響きますので、ただいま大丈夫だというようなことを申し上げるわけにいかないわけであります。その間の微妙な事情は御了承願いたいと思うのであります。
  45. 穗積七郎

    穗積委員 私は、何か向う側に立って、そして日本の一、二の欠点だけを大きくクローズ・アップして、それがガット加入を困難ならしめている原因だというふうにことさらに言うつもりはございません。ただしかし一部の業者といえども商業道徳に非常に欠けている行為が他の国に比べて多い。それからまた今申しましたように、特に輸出産業におきましては、日本のは中小企業によるチープ・レーバーは、これは事実でございます。おっしゃる通り、紡績その他繊維関係の合理化されました大企業における正当なる競争力というものもむろん認めますが、しかし輸出産業全体から見ますと、やはり何と申しましてもその主力が中小企業によっていることは事実ですし、そこにおけるチープ・レーバーという事実も、これは外国の人は日本人よりもより神経質に見ておることは当然じやないかと思うのです。のみならず、終戦後の日本の民主化が多少いろいろな面で逆コースに入っているというようなことも、ヨーロッパの諸国の印象としては、これは誤解もありましょうけれども、相当大きく取り上げておるわけですから、従ってそういうことに対してこちら側がもう少し親切に説明をして、そしてそれに対する対策はもとより日本として立てるというような何らかの態度を示す必要が私はあるのじょないかという意味で申し上げたのですが、国内のそういう問題に対する相手の利己主義または利己的な自己防衛あるいはまた誤解、それだけがガット加入を困難ならしめている原因だと思うのは、少しみずから反省するところが足りないのじやないかというふうに思うのです。今申しました通りに、商業道徳に欠ける点とか、あるいはソーシャル・ダンピングという言葉は、再び使うことは強過ぎますが、他の国に比べましてそういう傾きがあるという点については、日本政府としても将来まじめな貿易が伸びるためには、そういう点もやはり国内対策として対処しながら外国と交渉するという態度が私は必要だと思うのですが、いかがなものでございましょうか。
  46. 下田武三

    下田政府委員 仰せの点はまことにごもっともだと思います。しかしながら一方におきましてガットの問題につきましても、欧米先進国からはチープ・レーバーだといわれ、インドやビルマ等の日本よりはるかにチープ・レーバーである国からは、おれの国は後進国だからといって後進国としての特権を主張される。日本は中間にあってまことに困難な立場にあるわけでございます。しかしながらチープ・レーバーが事実でないといたしましても、そういう誤解がある以上は、その誤解を解くということに努力いたさなければならないことは、もう御説の通りでございまして、これは何も経済問題だけでなくて、たとえば労働条約に率先加入する、多くの労働条約批准するという対外的の手もこれはやはり一つの有効な手だと思うのでございます。近い将来に労働四条約を御審議願うことに相なっておりますが、そういう全般的な角度から仰せ通り努力する必要があるということは十分私も認める次第であります。
  47. 穗積七郎

    穗積委員 その点は私とあなたと認識の比重がちょっと違うようですが、それは希望として申し述べて先に進みます。少し先ばしってお尋ねするようですが、私は正式加入問題がなかなか簡単にいかない、そしてまた今言いました実効を伴う国々が、その動機は今申しました通りいずれにあるにいたしましても、三十五条の条約規定を援用する国が出てくる可能性もあると思うのです。そのいずれにしましてもここであまり遷延しておるわけにはいかないので、今お尋ねいたしたいことは、そうなりますと、さきにお話がありましたように、その国との個別的な通商航海条約締結に全力をあげて進まなければならない。それが今日の貿易のその日その日の要求でもありますから、従って一方もとよりガット正式加入の努力を続けることは当然でございますが、そういうことが困難な場合、また正式加入しても三十五条が援用される危険のある国に対しましては、やはり現状より有利な通商条約を結ぶことに努力して、早く貿易の安定を確保することが私は現実的な対策だと思うのです。従って今まで私どもが伺っております印象では、政府の当局の方針ガット加入問題を大体一生懸命やってはおられるようですが、一方その見通しもあまりつけないで、そうしていたずらにここまでおいで、ここまでおいでという式で引きずられながら、一方そういう個別的な通商航海条約締結に対する力の入れ方が少し足りないような感じもするわけです。それらに対しまして局長政府の今までの交渉の大体の実情をよく把握されて、そうして政府の気持としてガット加入を、この大道をずっと主力を注いで進めるのだというお気持のようです。そういうやさきにこういうことを申すのは少しいけないかもしれませんが、私はやはりそう簡単な問題じゃないと思います。従って入りましても、入らぬよりはそれは第三十五条を援用されても有利でございましょう。しかし貿易実効という点からいきますならば、そこでただ入る可能性があるということにつられてだんだんに先に引つぱられていくよりは、ここで何か少し一ぺん基本的に考え直す必要があるのじゃないかというふうに思うのですが、そういう問題については政府は一体どういう検討をされて、どういうお考えを持っておられるか、この際伺っておきたいと思います。
  48. 下田武三

    下田政府委員 ガット加盟が万能薬でないことは仰せ通りでございます。ガットの問題があるなしにかかわらず、日本は世界の各国通商航海条約締結に邁進すべきであるということも仰せ通りでございます。講和発効後できるだけ多くの国と、まず戦前あった通航海条約の復活をしてもらいたいということを希望いたしたこともございます。しかしながら遺憾ながら多くの国は復活を希望しなかつたわけでございますが、その後アメリカカナダを初めといたしましてたくさんの交渉をいたしております。現に交渉をいたしておりますのもフランス、イタリア、ユーゴスラビア、ノールウェー等たくさんの国と同時に通商航海条の交渉をいたしておりますので、決してガットのために片方の本筋の努力を怠っておるわけじゃございません。
  49. 穗積七郎

    穗積委員 それではちょっと伺いますが、努力は認めますが、問題はやはりここらで正確な見通しをもって大体の腹をきめなければならぬと思うのですが、その腹を一ぺん伺いたいのです。努力しておる努力しておるというだけでは、これはもう何といいますか、それだけをもってわれわれは足れりとしないで、正確な見通しに立ってやはり何らかの対策考えなければならないと思うのですが、そのときに両方とも進めておりますからしばらく待ってもらいたい、しばらく待ってもらいたいでは、これは最近の特需から貿易に切り変っております日本の経済としては、非常に急を要しておるわけですから、もう少し具体的にかたい御決意を伺いたいと思います。
  50. 下田武三

    下田政府委員 日本各国との間の正規の通商航海関係の樹立が仰せのようにおくれております原因が二つあると存じます。一つはサンフランシスコ条約の十二条によりまして、四年間というものが暫定的に通商関係をカバーする簡単な原則があるというために、日本側もそうですが、相手側がまああわてることはないではないかという気持があるということが一つであります。もう一つは桑港条約の当事国以外のまだ平和関係にない国、フィリピンでございますとか、インドネシアでございますとか、そういう国はまず前提としての賠償問題の解決があつて、しかる後に平和条約締結、しかる後にまた通商航海条約締結という態度でかまえておりますために、これもまたなかなか早くいかない。大体その二つの原因によって正規の通商関係が樹立せられるに至っていないわけでありますが、しかし見通しから申しますと、先ほど来問題になっておりますように、四年の期間がもうやがて来ようとしておりますので、相手方ももうのんきにかまえておられないわけでありますから、日本通商航海関係を保つためにはやはり何とかしなければいかぬという気持が起って参っておりますから、これは割合に早くものが動く段階にもうじきになるのではないか。一方第二の国との関係におきましては、前提たる賠償問題の解決につきまして、目下政府当局において渾身の努力をいたしておりまして、そちらの方の関係からこの賠償問題の解決によって動き出すのではないか。従いまして全般といたしましては講和発効後の三年間の沈滞期というものは、やがて全面的に動き出すというように見て差しつかえないのではないか、そう考えております。
  51. 植原悦二郎

    植原委員長 戸叶里子君。
  52. 戸叶里子

    戸叶委員 これはガット加盟の問題と直接関係ないことなんですが、貿易の問題で少し関連があると思いますので、一点だけ承わっておきたいと思います。昨年日本の国会でもだいぶ問題になりましたが、アメリカで可燃性織物禁止法というのが問題になって、ことしの七月一日から多分発効をするということになっていると思います。日本の絹スカーフがこの中に入れられているように承わっており、その後日本政府当局も絹スカーフはこの中から除外してもらいたいということを努力されたようにも聞いておりますが、どうなっているか、これを承わりたいと思います。
  53. 下田武三

    下田政府委員 ただいまの御質問につきましては担当官がおりませんので、まことに恐縮でございます、追って御説明申し上げることにさせていただきたいと思います。
  54. 戸叶里子

    戸叶委員 この法律が七月一日からアメリカで発効されることになりますと、日本の絹織物業者にも非常に大きな打撃になることでありますし、それではそれがどうなっているかということをなるべく早くお知らせ願いたいと思います。
  55. 下田武三

    下田政府委員 仰せのように取り計らいます。
  56. 和田博雄

    ○和田委員 ガット加入の問題ですが、今度の会議に出席された方が来ておられれば、アメリカイギリスとの間でかなり論争になった点が一点あると思うのですが、その点について知らしていただきたい。輸出奨励なり国内保護の問題、たとえばアメリカの余剰農産物や国内農産物価格維持政策が貿易に及ぼす影響、そのことについて非常な論戦が行われたというふうに私は聞いておるのですが、もしもその会議のときに行っておられる方が来ておられれば、その事情一つ話していただきたい。
  57. 安倍勲

    安倍説明員 正確に申し上げますと、私が出ました会議関税交渉会議でございまして、その点は私みずから聞いたわけではございません。ただ先ほど申しましたガット改正会議におきまして、アメリカの余剰農産物の処理に関する現在やつております措置と、それからアメリカが特に外国の農産に関しまして輸入制限政府によつて行なつておる、この二点について同じく農産物を生産しております国から非常に強い攻撃がございまた。アメリカはこれに対しまして、前者につきましては結論しとて従来伝統的に農産物が輸出されておつたその市場の現在の状態を特に撹乱するようなことはしないという点に弁護のあるいは保障の主眼点を置きまして、これによつて特に主張いたしましたのでございますが、ほかの国も相当これに対しては手びきしい攻撃を加えたように聞いております。それからアメリカの農産物の輸入制限につきましても、米国貿易の自由化を主張しておりながら特に不当に保護を与えて、たとえばカナダが非常な攻撃を加えており、自国の農産物に対しては非常な高い関税を課し、あるいはこれに対して非常な輸入のクオーターを課しておるという点を攻撃されたようですが、結局はこれは相互間の話し合いによつてきめる、話し合いについてはできるだけアメリカも先ほど申し上げましたガット原則に照らしてあまりむちゃな主張はしない、しかしながら結果におきましてはアメリカの農産物に関します輸入制限は特殊の例外であるという点を、レビユュー会議によつて確認したという結果にはなつた次第でございます。
  58. 植原悦二郎

    植原委員長 他に両件について御質疑はありませんか、御質疑がなければこれにてガット婦人参政権問題に関する質疑を終了いたしました。両件は次会に採決いたしますからさよう御了承を願いたいと思います。もちろん戸叶里子君の御質疑に対しては、採決前に政府の答弁があることと了承いたしております。さよう御承知を願いとうございます。     —————————————
  59. 植原悦二郎

    植原委員長 次に国際情勢等に関する件について政府当局に質疑を行うことといたします。通告順によつて質疑を許します。並木芳雄君。
  60. 並木芳雄

    並木委員 昨日重光外務大臣は、予算委員会アメリカ日本に原子爆弾を置かないという通告をしてきたいという答弁をしております。まことにけっこうなことであります。そこで私はお伺いしておきたいのですが、そういう通告は、いつどういう形で行われてきたか、だれあてに、だれの名前でそういう通告が日本政府になされたが、これを伺いたいと思います。
  61. 下田武三

    下田政府委員 別に、文書でそういうようなことが来たということは聞いておりません。あるいはハイ・レベルのお話にそういうことがあったのかは存じませんが、私どもは詳しく伺っておりません。
  62. 並木芳雄

    並木委員 そういたしますと、重光外務大臣だけでこれを含んでいる事柄なんでしょうか。こういう重要な事項は、当然局長には伝えてもいいことだし、外務省としては、むしろ進んで日本国民に知らせて、安心をさせるべき点だと思うのですが、もし場当りで外務大臣がああいう答弁をしたとしたら、これは大へんなことです。どうなんですか。秘密外交だといって野党の方から攻撃を受けますが、もう少しわれわれが納得のいくような説明をしてもらいたい。
  63. 下田武三

    下田政府委員 私、外務大臣が発言されましたときの予算委員会におりませんので、どういうようにおっしゃいましたのか、私自身存じませんが、かねがね外務大臣が言っておられますことは、日本を原爆基地としてアメリカが敵対行為をやるというような場合には、当然相談があるものだということは繰り返し言っておられるのでありまして、あるいはそういう発言が新聞に報ぜられたようにとられたのかもしれません。これはまだ私は事実をよく承知しておりませんので、あまり想像で申し上げることは差し控えたいと思います。
  64. 並木芳雄

    並木委員 ほかの局長で、それを知っている人はいませんか。いいことなんだから、遠慮なくどんどん言って下さい。——それでは、これは次の機会に、大臣が来たときに直接確かめることにいたします。局長も知らないようでは、この問題はちょっと心細いと思います。  それから次にお尋ねをいたしますのは、沖縄の土地の買い上げ問題であります。アメリカの方で沖縄の土地を買い上げる方針をきめたいという報道があるのでありますけれども、一体、外国人が、潜在主権を持っておる日本の沖縄の土地を自由に買い上げることができるのかどうか、それが第一の疑問であります。またできたにしても、そういうことを自由に一方的に向うでやっていいものかどうか。当然政府政府の間でまずそういう取りきめをして、了解をしてからの上のことだと思うのですが、そうでなければ、財力の豊富なアメリカなどには、全地域を買い上げられてしまうというような極端な場合も考えられるし、あり得る。そういう問題について、外務当局はまことに冷静に過ぎるような感があるのでありますけれども、どういう調査をし、どういう対策をとっておられますか。この際はっきりしておいていただきたいと思います。なお、高辻法制局次長も来ておるそうでありますから、法律的にもはっきり言明しておいていただきたいと思います。
  65. 中川融

    ○中川(融)政府委員 ただいま御質問のありましたような、アメリカが沖縄の土地を買い上げるというようなことは、われわれ今まで聞いていないのであります。この沖縄における土地問題につきましては、かねてから沖縄におきまして非常な不満がございますので、われわれは、沖縄におきますわれわれの同胞の窮状を救うという見地から、アメリカ政府に常時連絡をいたしまして、すでに一年以前より、この沖縄土地問題につきましては、在米大使館及び、ここにおきましても、在日米大使館に対しまして申し入れを行なっておるのであります。沖縄に住んでおられる同胞の方々が、現にこうしてもらいたいと考えておられるような内容を政府からも伝えまして、ぜひこれを実現してくれるようにということを強力に申し入れておるのでありますが、アメリカ政府から、非公式に、今年の初めごろに連絡がありましたところによりますと、沖縄の土地を買い上げるという考えはない、沖縄における土地所有権は、いずれの場合におきましてもそのまま残しておく、アメリカ政府はこれを借りるだけである、かような通報に接しておるのであります。買い上げるというような記事も新聞に散見いたしておりますが、これは事実ではないであろうとわれわれは確信いたしております。また、最近のいろいろの新聞報道に関連いたしましては、現在、在米大使館に訓令いたしまして、さらに、最近におけるアメリカ側の考え方というものを念のために照会いたしております。まだ返事は参っておりませんが、買い上げというようなことは考えていない、かよう確信いたしております。
  66. 高辻正巳

    ○高辻政府委員 お答え申し上げます。ただいま外務当局からお話しがありましたような状況でございますので、果して申し上げる実益があるかどうかは存じませんが、お尋ねでありますので申し上げますが、御承知通り、沖縄におきましては、わが国は主権を放棄しておりますけれども、いわゆる残余の主権を持っております。しかし、その土地の私法上の権利の得喪については、一がいに不能であると法律上言い切ってしまうわけにはいかないのではないか、法律的な観点からだけ申し上げますればその通りであります。ただし、ただいまの問題につきましては、今外務当局から仰せになりましたような事態のようでございますが、これはそのように御了承願いたい。
  67. 並木芳雄

    並木委員 内地では、外国人不動産はどうなっておりますか。
  68. 高辻正巳

    ○高辻政府委員 内地につきましては、外国人に土地法がございまして、私法上の権利の得喪につきましては、相互主義によりまして、その法律によって律せられる以外には制限はございません。
  69. 並木芳雄

    並木委員 その問題は、なおほかの委員も質問があるそうですから、私はこれだけにとどめて、あとはほかの委員にやっていただきます。自分の質問だけ簡単にやって参りますが、またこれは別な問題です。条約局長に尋ねることになりますが、私はかねがねこういう疑問を持っておったのです。サンフランシスコ条約において、南樺太及び千島の領土その他の請求権を放棄しております。それなのに、日ソ国交回復をやって、ソ連から南樺太や千島を返してもらうのだといわんばかりの選挙演説や宣伝をやっている鳩山内閣というものは、これは誤まりであるという非難攻撃が社会党左派の方から出ておりました。現に鈴木委員長から、鳩山内閣がそういうことを言ったってできっこないのだ、社会党の天下にならなければできない、何となれば、サンフランシスコ条約賛成をしておいて、今さら領土権を放棄している南樺太や千島を返せとは矛盾もはなはだしいではないかという反対論があったわけであります。当時私は、それに対してはこういうふうに考えておったのです。なるほどサンフランシスコ条約では領土権請求権を放棄しておりますけれども、しかし、ソ連はあの平和条約に参加をしておらない、だから、平和条約に関連なしにソ連との間ではいかなる条約も結べるはずである、これが建前の一つ。結んだ場合に、サンフランシスコ条約よりも有利な条件日本が得た場合には、当然それが優先的に日本適用さるべきものである。従って日本としてはサンフランシスコ条約関係者に対して、日本が有利な新しい取りきめ方法を承認してもらうよう了解を求めればいいのじやないか。その了解が得られないはずはないじやないかというふうに説明をしておいたのでありますが、さてその了解という点で、果してどういう条約上の手続が必要になるのであるかどうか、そういう疑問を持っておるわけであります。ほうっておいていいものかどうか、あるいはそれに対してどこからか抗議が出てくるかもしれません。あるいは平和条約を改訂するのでしようか、その点疑問に思っておりましたので、お尋ねしておきたいと思います。
  70. 下田武三

    下田政府委員 条約効力に関します国際法上の根本原則一つにこういうのがございます。つまり条約は当事者のみを拘束するということであります。でございますから、当事者以外のいかなるものをも拘束しないわけであります。でございますから、平和条約の第二条も日本連合国の間には意味がございますが、日ソ関係におきましては、何ら白紙のままに残されておるということが申し上げられると思います。  それから第二の御質問の点は、かりに日本に有利な妥結ができた場合に、桑港条約との関係をどうするかということでございますが、これはいろいろな方法が考えられると思います。現実の例としては、奄美大島は返還せられました場合に、これは奄美大島も琉球諸島の一部でありまして、米国はこれを信託統治する権利を持ち、そして信託統治が解けるまでは、立法、司法、行政の三権を行使する権利があるにもかかわらず、それを平和条約規定に反して、日本に返還したわけであります。でございますから、平和条約規定を変更したわけでありますから、アメリカ以外の連合国の了承を求むべき筋合いでありましょうが、実際問題といたしまして、アメリカ以外の連合国で奄美大島の返還に文句を言う可能性のある国は一つもないのでありますから、実は何もしないで、ほうっておるわけであります。でございますから、これは平和条約と違った結果が日ソ間にできましても、その際に桑港条約との関係において、他の連合国とどういう措置をとるかということは、もっぱらその内容の持つ意味いかんというところで、その際に考慮するほかないと存ずるのであります。
  71. 並木芳雄

    並木委員 それなば、その場合に異議を申し立てる国が出た場合はどうなりますか。
  72. 下田武三

    下田政府委員 別にどうも異議を申し立てる国があることが想像されません。
  73. 並木芳雄

    並木委員 出てきたら……。
  74. 下田武三

    下田政府委員 出て参りましたならば、そのときにその国と話をするか、あるいはその国のみならず全連合国を相手として、話をするかのいずれかになると思います。
  75. 植原悦二郎

  76. 穗積七郎

    穗積委員 さっきの並木君の質問にちょっと関連してお尋ねしますが、中川局長にちょっとお尋ねしますけれども、アメリカの土地買い上げの意思が今までは日本政府に通報されていないように思いますけれども、将来あり得る可能性については、どういう見通しをお持ちでございますか。何かそういうことはしないという確約を得ておられますか。
  77. 中川融

    ○中川(融)政府委員 本年の初めに、在米大使館が、アメリカの国務省に本件につきましてのアメリカ側の考え方を照会したことがあるのでございまして、そのとき国務省側の回答におきまして、いろいろ沖縄における不満等があるのにかんがみて、沖縄における土地借り上げ制度の内容というものを検討しておる。しかしいずれの場合におきましても、沖縄における住民の方々がその土地所有権というものに非常な愛着を感じておるという事実にかんがみて、所有権は依然として現在の所有者に残しておく考えにはかわりはない、かようなことをそのときのアメリカの国務省当局者が言っておるのであります。従ってアメリカ政府の基本的な考え方として、土地所有権を左右する、あるいはこれに変更を加える、かような考えはないのだろうというふうにわれわれはかたく信じておるのであります。最近のいろいろの新聞報道等がありましても、それが事実ではないであろう、かように考えております。
  78. 穗積七郎

    穗積委員 高辻さんにちょっとお尋ねいたします。あるいはアジア局長かもしれません。もしそういう意思を持ちました場合には、総括いたしまして、統治権は向う側に渡してあるわけです。そういたしますと最初に条約局長にお尋ねいたしますが、土地買い上げに対しましては、今のこの一月の国務省からの返事は、条約上の効果を持たないのじやないか、政治的な責任はあるかもしれません。そうなると条約上の建前といたしましては、日本政府の承諾なくして買い上げはできないと解釈されますが、どうですか。
  79. 下田武三

    下田政府委員 アジア局長の申しました国務省当局の回答というものは、これは条約ではございませんが、政府の正式の照会に対する、また政府当局の回答として行われたのでありますから、これはやはりモラル・オブリゲーシヨンといいますか、それ以上の政治的のオブリゲーシヨンを向うは持つものだろうと思います。  もう一つ前提になる問題でございますが、土地を買おうという以上は、これを買い上げた上で自由にしたいからこそ高い金を払うのであります。現在アメリカは立法、司法、行政の三権を完全に行使しておるのでありますから、何を好んで高い金を払って、この上土地を買う必要がございましょうか。でございますから、国務省の回答を待つまでもなく、土地買い上げなどということは、アメリカ側としては考えないのが条約の建前からして、当然であると思っておるのであります。
  80. 穗積七郎

    穗積委員 順を追うてお尋ねいたします。買い上げる必要があるかないかはそれは別の判断であります。買い上げを一方考えた場合には、日本政府の承諾が条件になりますかどうか。そういうものに対して、必ずしも法律上は、政治的な責任はあるかもしれぬが、法律的に向うがそういう責任といいますか、日本政府の承諾を求めるという義務は、向うが負っていないと思いますが、どうですか。その点をはっきりしておきたい。
  81. 下田武三

    下田政府委員 先ほど高辻次長が申されましたように、アメリカは立法権を持っておるのでありますから、外国人に土地取得を認める立法を行うこともアメリカの自由であります。でございますから、私法上の問題といたしまして、外国人に土地の取得を認めるという法律を作ることは自由であります。従いましてすでに立法権を持っている以上は、そういう法律を制定し、またその法律を実施するということは、これはアメリカのもっぱらなし得るところありまして、条約上の義務として、アメリカ側が日本側に相談するという義務は全然ないわけであります。政治的の考慮から出すか出さぬかは別問題でございます。
  82. 穗積七郎

    穗積委員 今あなたは買い上げの必要がないとおっしゃいましたが、そうしますと土地使用、処分等につきましては、所有権にひとしい内容を行使することは無制限に自由になっておりますか、人民の生活との関係はどうなっております。
  83. 下田武三

    下田政府委員 これはもっぱらアメリカの立法政策上の問題でございまして、日本憲法にありますと同様に、米国の憲法上の根本思想といたしまして、ある土地を収用するなり使用しようとする場合に、公正な対価を払わなければならないというのが、アメリカの立法の根本精神だろうと思います。従いましてこれも日米間の問題ではなくて、もっぱらアメリカ側が自分の方の立法政策として決定してしかるべき問題だと思います。
  84. 穗積七郎

    穗積委員 私の言うのはそういうことじゃないのです。買う必要がないということは、総括的な統治権をまかされておれば、人民の意思がどうであろうと買い上げ契約、売買契約という手続をとらなくて、そうして自由に所有権と同様の内容、すなわち使用、収益、処分の権限を全島の土地に対してアメリカが持っておるというのですか。そんなばかなことはないと思うのですが、あなたのおっしゃるのは、そういう権限を持っておるから買い上げの必要はないだろう、そういうふうになるわけですね。私はそんな権限がないから、買い上げる必要が生ずると思うのですよ。その点は少しわれわれの理解と違いますが、一体どういう趣旨ですか。最初の点から一つ問題をそらさないで一つ一つお答えをいただきたいのです。
  85. 下田武三

    下田政府委員 第一には、土地取得と申しましても、政府自体が買い上げる場合とあるいは民間人が買い上げる場合と二つあると思います。政府自体が買い上げる場合には政府が対価を払って買い上げるなりあるいは収用するなりするわけであります。個人が買う場合はアメリカの法律に基いて所有権取得の手続をとって買うわけでありますが、政府の場合にしろ個人の場合にしろ、早晩日本に返るような領域の土地を、現在自分が使おうと思えば使えるにもかかわらず、高い金を払って自分の所有地にする必要はない、そういう意味で申し上げたわけであります。
  86. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、日本政府日本国内におきまする人民の所有する土地を国家の目的のために使用いたします場合には土地収用法によるべきだと思うのですが、アメリカはそんなことをしなくてできるわけですか。土地収用法による買い上げをしなくてできるわけですか。それはできないでしょう。
  87. 下田武三

    下田政府委員 アメリカにも所有権尊重に関する根本原則があることは御承知通りであります。でございますから、やたらめっぽうに買い上げたり何かすることはむろんできないわけであります。アメリカの土地収用法なりなんなりによりまして、公正な補償をして使用するなり買うなりするということに相なるだろうと思います。
  88. 岡田春夫

    ○岡田委員 関連して。今下田条約局長の御答弁で非常に重要なことがあると思うのです。沖縄の場合において、国家が沖縄の土地を取得することは自由であるという意味の答弁があったと私は記憶いたしておりますが、それに関連して、当然沖縄という具体的な問題になって参りますから、ここでその基礎としては桑港条約の第三条が当然基礎になってこなければならないと思う。そうすると、この第三条において沖縄におけるところのアメリカのいわゆる管轄権というものは立法、司法、行政の三権に限定されているわけです。この三権に限定されているという意味で、これは従来の主権とは違っているという意味のことが、これはあなたも御存じのように、桑港条約のあとにおいてダレス長官が明らかにしているわけです。これは公式のものです。その違っているという意味は、残存主権が日本に与えられている。残存主権が日本に与えられているから、これは従来の管轄権、いわゆる主権を完全に意味するところの管轄権とは違うという点がこれで明らかにされていると解釈すべきであると私は考えます。そこであなたのお話のようになって参りますと、自由に取得し得るとするならば、日本に与えられている残存主権というものは具体的にどういうものを意味するのか、この点を伺いたい。
  89. 下田武三

    下田政府委員 残存主権は、何と申しますか、眠っておる主権で、主権として作用していないわけであります。立法、司法、行政三権に限定されておると申されますが、これは統治権の作用は立法、司法、行政だけしかないわけでありまして、統治権の現実の作用はすべてアメリカ側が行使されておる、日本は眠っておる主権を持っておるということに相なるわけであります。
  90. 岡田春夫

    ○岡田委員 眠っている主権というと、事実上の主権というものはないということを意味するのですか。一般の通念でいきますと、残存主権というものは領土権であるという解釈は通説として通っている。ところがあなたの話では眠っている主権ということで、これはきわめて観念的にはそういう主権があるにはあるけれどもこれは眠っているんだということで、日本にとっては主権があるかのごとく、ないかのごとく、まさにこれは蜃気楼的存在であって、あなた自身の答弁による限りにおいては、これはないということを意味する。少くとも具体的な主権の存在というものは、国家の構成要素であるところの領土、人民それから統治権、通説としては残存主権というものは少くとも領土権であると認められているわけであります。もしそれがないとするならば、今条約局長が言われた領土の問題について人民の要求がある場合において、日本政府アメリカに対して正式な要求をするという法律的な基礎はないはずなんだ。そういう交渉をするのも単なる私的の、非公式の話し合いか、談合でしかないということになってしまう。何らかの法律的な基礎がなくてはそれができないはずです。ですから、この点をもっと明確に御答弁願わなければ、眠っている主権でありますというような蜃気楼的答弁ではこれはお話にならないと私は思う。
  91. 下田武三

    下田政府委員 残存主権は眠っている主権でありますから、事実上において主権の作用として現われるあらゆる行動、活動はこれはアメリカのものとして発動されるわけでありますが、アメリカの立法、司法、行政の三権というものは、地域的には沖縄自体に限定されておるわけであります。それで眠っておると申しますが、眠っておらない場合がどういうところに現われるかといいますと、この地域的限定の外に出る場合であります。たとえば沖縄人が外に出ますと、これは日本人でありますから、何も沖縄人をアメリカ人にすると言ったわけではありませんから、そこで沖縄人が沖縄の外に出てもらいますと、これは眠っておる残存主権がまた起きてきまして、その沖縄人の保護というものは日本政府がやるということも現われてくるわけであります。それからアジア局長が申しましたような照会をアメリカ政府にするというようなことは、これは沖縄に現実に日本が統治権を行使しておるからやるのではありませんで、かつてわが国の領土であり、そして現在も眠った主権を持っており、そうして人種としては日本人である人間の利益を顧念するというのは当然のことでありますから、法律上の問題としてでなくして政治的の見地から交渉をいたしておるのであります。これは法律上の権利ありやといいますと、実は権利なしといわざるを得ないのであります。もっぱら政治的の考慮として日本側が取り上げ、先方も政治的な考慮から好意的に解釈していると思います。
  92. 岡田春夫

    ○岡田委員 間連質問ですから簡単にやりますが、穂積君に御了解願ってもう二問だけ願いたいのです。あなたは残存主権には法律的な根拠がないと言われるが、それならば具体的に伺いましょう。一九五二年ですから三年ばかり前ですが、七月十日に日本政府の大蔵事務次官、通商産業事務次官、経済安定本部副長官、外国為替管理委員会事務局長の四名と琉球政府商工局長との間において本土と南西諸島との間の貿易及び支払いに関する覚書が取りかわされておりますが、これが取りかわされたときに、これに対してアメリカの民政府からは、これを直接に取りかわすことについては従来の沖縄の地位に関して疑義があるという問題が提起されて参りました。これに対して日本政府は何といって答えたか。これは南西諸島というのは日本国内の内国の一部である。このほかにもう一つ言っていますが、このほかの点は関係ありませんから今言いませんけれども、内国であるという意味においてこれは領土権を認めておるということを明らかに日本政府として通告をしておる。しかもこれに対してアメリカ当局は、これを了承しておるのであります。あなたの法律的な根拠がないとするならば、これは全然うそであって、覚書というものはないのだ、無効だということになるじゃありませんか。
  93. 下田武三

    下田政府委員 完全な内国でありますならば、こういう日本政府当局が沖縄の当局と取りきめを結ぶという必要すらないのであります。日本政府が、たとえば北海道知事と取りきめを結ぶということがすでに外国と同じであるから取りきめを結ぶという必要が生ずるのでありますから、これは内国という字を使われましたかもしれませんが、これは北海道と同じように日本の領土という意味での内国というわけではないのであります。これはかつての日本の領土、現在眠れる主権を持ち、そうして人間は同じく日本人であるから、法律的には不正確な表現であると存じております。
  94. 岡田春夫

    ○岡田委員 私はあなたに伺わなくても覚書を地方の自治体とかわすなどということは考えておりません。私が今内国と言ったことは、この政府の回答した中にはいわゆる国内の一部であるという領土主権を認めながら、にもかかわらず、しかも統治権においてはこれはアメリカが握っているというこの特殊な条件において日本立場としてのこの覚書をかわしたのであって、基本的な概念としては領土権というものがあるということを前提としている。あなたはそういうふうにおっしやるけれども、そういうことを言うならば例を出して見せます。あなたと同じ外務省の中のアジア局でこう言っているのです。これは政治的な観念ではありませんよ。昭和二十七年にアジア局の第五課で出している正式文書、この文書の中で同地域は日本の領土の一部分であり、同地域在住いわゆる琉球人民は日本国民である。そうしてそのあとに、少し長くなりますけれども重要ですからそのまま申し上げますが、ただ管轄権を行使する米国の管轄下に置かれているという特殊な状態にあるだけである。従って琉球人民は——これ以外の資料がまだほかにあったのですが、ちょっと忘れましたのであれしますが、領土権というものを日本に認めておるという意味のことを明文化しております。そういう点を少くとも、これは単なる法律的な起草ではなくして、政治的な意味でこれを書いたのだということには私はとれないと考える。少くとも残存主権というものは、そういうものではないのではないか、そういうように私は考える。  それからもう一つほかの点から、これは関連質問ですからあまり長く言いませんけれども、第三条に基くような現在の沖縄に対する施政権者はアメリカでありますが、こういう場合の施政権者の場合において、その土地を他に譲渡するなり、みずから自由に取得するというような国際法上の今までの先例がありますか、私はないと思います。
  95. 下田武三

    下田政府委員 第三条にぴったり当てはまる先例はございません。しかしアメリカが立法、司法、行政三権を行使していると同じような活動をしているのは租借地等の場合であると思います。これも租借地においては、租借地の行政を担当する施政権者が、やはり租借地の条例なり何なりを制定しまして借地その他をきめるということは可能でありまして、これは私はできることだと思います。これは昔はシナには租借地というものはたくさんございました。そうして租借権者は日本でございますが、租借条例なりその他の立法権も持っておったわけであります。従いまして沖縄におきましては租借地以上に完全なる統治権の作用を行使しておるわけでありますから、沖縄においてアメリカ側が土地の得喪その他に関して立法するということは私は当然できると思います。
  96. 岡田春夫

    ○岡田委員 これで終りますが、あなたは一世紀も二世紀も前の話を出されましたけれども、現在の問題としては国連憲章を基礎にしてこの問題を理解していくべきだと思うのです。そういう何世紀も前の、地球ができたときからの話をしていればこれは切りがないのです。たとえば原始共産社会の時代においてこれをどうしたらこういう先例がありますからというのでは、これは国際法になりませんよ。そういう例を引き合いに出されてお話になっているのじゃ私は話にならないと思う。私が先ほどから先例としてお伺いしょうとしておるのは、少くとも今問題になっておるのは、第二次大戦後の問題として特に沖縄の地域の規定をしようとしておるのは、いわゆる第三条に基いて信託統治というものが予定される場所として——その信託統治というものは、国連憲章に基いている。その意味での信託統治になっていない現在といたしまして、国連憲章が制定された以降におけるそういう先例があるかどうかという点をむしろ伺いたかったわけです。そういう昔の例を引き出されてもこれは切りがないと思うわけです。私は、これ以上のことは、関連質問ですから申し上げませんけれども、これはあとで外務大臣に対してもっと具体的な点を質問いたしたいと思っております。
  97. 穗積七郎

    穗積委員 続いてお尋ねいたしますが、局長、さっきの点を訂正しておいてもらいたいのですよ。アメリカが沖縄一帯に対する統治権を持っているということであって、日本人である沖縄の島民が所有いたしまする土地に対して統治権を持っているという理由だけで、これに対する使用、収益、処分のできる所有権と同等の権利を行使することはできないと思います。統治権と所有権とは別だと思うのです。そう私は解釈いたしますが、もう一ぺんその点を伺いたいと思います。
  98. 下田武三

    下田政府委員 あらゆる誤解はこの点から来ると思うのであります。土地を買ってその土地を自分のものにされたら、その買った土地が、あたかも領土が向うに行くように世間で考えられますから問題を非常に重要にとられるものと思うのであります。しかし日本内地においてすら外国人土地法というものがありまして、そうした条件で外国人に土地を売っているわけです。その外国人が日本の内地の土地を買ったらその買った土地がすぐ外国の領土になるというものじゃないのです。土地を買えばむしろその外国人はそれの税を払わなければならなくなるというくらいのものであります。従いましてアメリカが沖縄で統治権を行使する結果といたしまして、土地の売買、得喪等につきましてもこれはやはり法律で手続その他をきめなければならないという現実の必要があるわけでございます。でございますから、それを、いやおれはただ潜在主権を日本に持たれておるから何もそういう権利がないのだとほったらかしていたら、これはかえって沖縄に現実に居住する者あるいは外国人その他が非常に困るわけであります。ある期間どうしても施政の責任を持っておる者としては、そういう場合に直面して関係者が困らないように土地その他の得喪の手続をきめるなり何なり、そういう立法をする義務があることは必要でございます。でございますから、実はこの問題の起りは、アメリカが立法の手続をなかなかやらなかった。これは軍政下であるためにやむを得なかったのでありましょうが、立法の手続がスムーズに行われなかったところから公正な補償が払われないというような事態が起った。そうして沖縄人が非常に不満を持ち出した。そこでアメリカ政府は、あわててそういうものをきちんときめましょうといって、いろいろな立法手続に乗り出してきたというのが現状なのであります。でございますから今までのぼったらかしからきちんときめるということにかかったのでありますから、むしろ関係者としては、私は喜ぶべき現象だと思います。そうして土地売買の法律を作ったから、自分の領土でもないところで勝手に土地を売って、それを外国人の領土にしてしまうというようなこととは全然関係が違うことに土地その他の得喪の手続の関係を律するための立法をやっと今に至って取り出したというだけの問題にしかすぎないわけであります。
  99. 穗積七郎

    穗積委員 あなたは私の質問にお答えいただけないのです。余分なことを言わないでいいですよ。私は統治権者の持っておる領土権というものと個々の土地に対する所有権というむのとは別個だということを言っているのですよ。それをあなたは、アメリカは統治権者であるから所有権の買い上げをやる必要はないのだ、どこでも勝手に使えるのだからそんなものは買い上げる必要はないと言われたから、それはちょっと違いはしないかということを言っておるのです。領土権と所有権は違いますよ。日本政府がこの本土に対して領土権すなわち統治権を持っておりますが、あらゆる土地に対して勝手に使用、収益、処分ができるものじゃありません。ちゃんと土地買い上げがなければできるはずがないのです。それを言っているのです。その必要があるから、統治権者であるアメリカ政府がそのときにやはり土地を買い上げる必要が生じてくるというのです。だから、買い上げの問題は、絶対にそんなことは心配ない、そんなことをやる必要はないのだという御答弁は少し行き過じゃありませんかと言って聞いている。言いかえれば、領土権と所有権は違うということは、あなたはどう思いますか、はっきりしなさいということを言っているのです。
  100. 下田武三

    下田政府委員 領土権と所有権とは、これは別のものであることは申すまでもないと思います。
  101. 穗積七郎

    穗積委員 だから買い上げの必要が生じてきますよ、場合によっては。
  102. 下田武三

    下田政府委員 私が土地を買い上げることが自由だと申しましたのは、日本に相談しないで土地得喪の法律を制定し、その法律手続に従って土地を買ということが自由だというのでありまして、対価がなくして別個に不公正な対価で取り上げようと自由だ、そういう意味で申し上げたのではないのであります。つまりアメリカが統治権を現実に行使しておる結果として、どういう手続でやるかということは米国法の問題であるということで自由だと申し上げたわけであります。おのずから米国法で所有権の尊重の原則があるのでございますから、決してむちゃにはできないということになるわけであります。
  103. 穗積七郎

    穗積委員 それでようやく明らかになりました。すなわち領土権、統治権を持っておりますアメリカ政府といえども、日本人である沖縄島民の所有地を無制限に——買い上げまたは賃貸借どちらでもけっこうでありますが、そういうことなくしてこれを勝手に使うことはできないということだけははっきりしたと思うのです。  そこで私は続いて伺いたい。今申します通り、もう一点明らかになりました点は、それをアメリカ国内法において行うということだと思うのです。そのときに法律的には日本に断わる必要はない。さきに中川局長の言われたように、一月のアメリカ政府の返事というものは、政治的または道徳的なオブリゲーションはあるでしょうけれども、国際法上の責任はない、ですから法律的には日本政府に断わることなしに勝手に国内問題として行使することができるという解釈だと思うのです。そこで法制局にお尋ねしたいのですが、その場合にはもとより土地の買い上げまたは補償問題につきましては、アメリカ国内法によるのが当然であるわけでございますね。
  104. 高辻正巳

    ○高辻政府委員 よくおわかりのことだと思いますから詳しくは申し上げませんが、沖縄につきましては、立法、行政、司法上の権力の全部または一部を行使する権利を有しているのがアメリカであります。従ってアメリカはその権利に従いまして立法、行政、司法の権力を行使する。その行使の仕方は、それぞれの手続が要ると思いますが、そういう権力の行使としてすることは認めざるを得ないと思います。
  105. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、沖縄におきます立法機関はどこにありますか。
  106. 中川融

    ○中川(融)政府委員 アメリカ政府、これを民政府と呼んでおりますが、アメリカ軍当局が最終的な立法権を持っております。現実には沖縄の住民からなります立法院というものがありますが、この立法院は最終的な決定権は持っていないのでありまして、立法院の作りました法律というものはアメリカ軍司令官があるいは拒否し、あるいは修正するという権限を持っておる次第であります。
  107. 穗積七郎

    穗積委員 そうしますと、立法に対しますいろいろの最終的の決定権は、沖縄における米軍司令官が持っておるわけですね。
  108. 中川融

    ○中川(融)政府委員 米軍司令官は民政長官という別の名前を持っておりますが、要するに現実には一人の人が両方の職を兼ねております。その米軍の民政長官が最終的には権限を持っておるわけであります。
  109. 穗積七郎

    穗積委員 その取りきめの行われました当時は、私国会に議席を持っておりませんでしたので、お尋ねする機会がなかったのですが、この際明らかにしておきたいのは、そうしますと、全く旧憲法における戒厳令のしかれたときと同じような状態になっておるわけだが、そういう必要が今日まだあるのかどうか、そういうことをやるならばむしろアメリカ本国の立法府で、たとえば今の土地収用法なら土地収用法ということで、国内法を援用するならば話はわかりますが、まるでこの施政官という仮面をかぶりました軍司令官が独裁的に法律、命令すべてを決定することができるというような、ちょうど戒厳令下におけるところの状態のようである。これは最も独裁的なものであります。そういうものを今日なおかつ継続せしめておく必要があるかどうか。潜在主権だけは確保したけれども、統治権を向うにまかせたときに、そのときにおける司法、立法、行政のやり方はアメリカ国内並みまたは日本並みどちらでもけっこうですが、民主的なルールに従ってやれるべきことは当然主張すべきだったと思いますし、そういう条件は付すべきだったと思います。そのときのことは、私は責任はこの際追及いたしませんが、こういうふうに深刻な問題が次々に起きて参りまして、日本政府も島民の要求は当然だと思い、そのことをアメリカへ取り次がなければならないということになって参りますと、この問題に触れてくるのです。ですからこの際において、日本政府には何らの法律上の権限がなくてただ陳情に終るような、取次をする程度に放置することなしに、島民の生活並びに島民の生活、利害関係規制いたします沖縄における立法につきましては、やはり民主的な機構によって行うことをこの際当然アメリカ政府に対して要求すべきだと思います。そういう話し合いができておらなければこれを切りかえる必要があると思いますが、そういうことをお感じにならないかどうかということです。
  110. 中川融

    ○中川(融)政府委員 ただいま穗積委員の御指摘になりました点は、政府も従前より痛感していたところでありまして、沖縄における民主的な行政組織をぜひ促進したい。これがまた沖縄に住んでおる同胞の方々の強い要望でもありますので、今までいろいろ御説明いたしましたアメリカ側に対する要望の一つといたしまして、民主的機構の整備ということがあるのであります。たとえば現在あそこにおける琉球政府行政主席というものは現地の住民の方がなっておるのでありますが、それはどうして任命されるかというと、やはりアメリカ軍当局が一方的に任命しているわけで、このようなやり方をやめまして、住民の直接選挙によってこの行政主席を選出するという方法に改めてもらいたい、こういうようなことを要望しておるのであります。これらの現地の住民の方々の強い要望、またわれわれもそれを応援いたしたのでありますが、そのような結果といたしまして、今アメリカの議会におきましては、沖縄の施政に関する根本法を作ろうという機運が動きまして、現在法案がすでにアメリカ議会に提案されております。これは今まで現地の軍当局限りでやっておりましたいろいろの施策というものに、一定の準則を与えまして、それに従ってアメリカの軍当局が施政を行うということをきめたものでありまして、いわば沖縄における一つの憲法のようなものを作っておるわけであります。もとよりその憲法ができましても、アメリカ軍がやはり統治するという機構には実は変りがないのでありまして、その点はきわめて不十分と考えておりますが、アメリカ側におきましても、逐次ただいま穗積委員の御指摘になりましたような方向に沖縄における行政の内容を変えていこう、あるいは方式を変えていこうと努力しておる模様でございます。政府としてももとよりこれのみで決して十分とは考えていないのでありまして、さらにでき得ればこれをほんとうの意味においての民政に切りかえるということに今後努力を傾注いたしたいと考えております。
  111. 穗積七郎

    穗積委員 重要な問題を含んでおりますから、大臣がお見えになったときにお尋ねいたしますが、ついででありますから、あと二問だけ御答弁をわずらわしたいと思います。すなわち、今まで明らかになりましたところによると、土地買い上げ問題等、その他人民の生活に非常に重大な影響を及ぼしますことをアメリカ軍が行う場合には、一応アメリカ軍の、つまり施政官の立てました法律によるわけでしょうが、今問題になっております土地買い上げのごとき法律も、アメリカ本国または日本国内における土地収用法、あるいは諸外国の常識的な民主的な土地収用法より極端な土地買い上げの独裁的な強権的な法律ができる可能性もあるわけです。そういう場合には、一体日本政府としてはどういう態度をもってこれにお臨みになるつもりであるか、それを第一にお尋ねいたしておきたいと思います。
  112. 中川融

    ○中川(融)政府委員 沖縄に住んでおられるわが同胞の経済的、社会的その他の福祉ということにつきましては、日本政府は非常に強い関心を持っておるのでありまして。これは純粋の法律論、条約論とは離れまして、現実問題として非常に強い関心を持っておるのでありますから、ここにできます法令の内容等につきまして、住民の権利なり福祉というものが、十分に保護されていないというようなものがあります場合には、これはアメリカ側と外交折衝によりましてこれが是正をはかっていきたい、従来からその方針でおりますが、今後ともその方針を続けていきたいと考えております。
  113. 穗積七郎

    穗積委員 最後にもう一点お尋ねいたします。この前の日曜日、二十二日でございますが、島民が全島にわたって各地で大会を開きまして、そしてさきに立法院できめました四原則というのがありますが、これを再確認いたしまして、強く要望しておるわけです。そして同時に、ただいまアメリカへ渡っております使節団があるわけですが、それがアメリカ本国政府交渉しようということでやっております。そういう事実は御存じでございますか。
  114. 中川融

    ○中川(融)政府委員 よく承知しております。
  115. 穗積七郎

    穗積委員 その四原則なるものは、もうすでに二十二日の大会において確認されたものでありますので、従って前の立法院の決議と同じものであるわけですが、これに対して今まで並びに今後、日本政府アメリカに対して一体どういう態度をもってお臨みになるつもりか。日本政府は、この四原則というものは、すべてもっともなことであるとして、全面的にこれを取り上げてアメリカ交渉されるつもりであるかどうか。それからもう一つは、今渡米いたしております沖縄の使節団の諸君の活動に対して、日本政府並びに在米の日本機関は、一体どういう態度で今臨んでおられるか、その二点を一括して明らかにしておいていただきたいと思います。
  116. 中川融

    ○中川(融)政府委員 ただいま御指摘になりました琉球政府立法院の決議いたしました四原則というものは、すでにわれわれは一年ほど前から実はこの内容を承知しておるのでありまして、従来までのアメリカ政府に対する交渉の内容というものは、この立法院の決議いたしました四原則というものをそのまま採用いたしまして、これに基いて交渉しておるのであります。この立法院の決議及び日本側の要請等の要素がありますがゆえに、アメリカ側におきましても最近いろいろ新しい立法措置を考究してきておるのではないか、かように考えております。なお今回琉球から行政主席を初めといたします使節団がアメリカに行って、さらにアメリカ政府及び国会等に働きかけて、強力に琉球におきまする、現地に住んでおられる同胞の人々の要望を推進したいということになりましたことについては、政府としてもとよりこれ非常にけっこうなことだと考えておりまして、あらゆる協力を惜しまない考えであります。現に在米大使には訓電を発しまして、今度行く行政主席と十分連絡して、アメリカ側にさらに一緒になって交渉するようにという訓令を発しております。この使節団自体は、アメリカ軍のいわば計画の中の一部としてアメリカに行きましたもので、いろいろな日程その他もアメリカ政府が直接これに当っているようでありますが、さらに日本大使館当局もこれと協力してその目的の貫徹を期するというような措置を今やっております。
  117. 穗積七郎

    穗積委員 間違っているといけませんから、ちょっと念のために申し上げておきますが、その四原則というのは、土地買い上げと一括払い反対、その次は適正地代補償の問題、これは現行の九倍の引き上げ要求、それから損害賠償適正支払いの問題、最後に不用地の早期返還要求、こういう項目でございますが、間違いございませんね。
  118. 中川融

    ○中川(融)政府委員 その通り承知しております。
  119. 穗積七郎

    穗積委員 続いてお尋ねいたしておきますが、先ほどお話のありました、アメリカの沖縄統治のための基本法制定の機運があるということであります。日本政府もそれを促進する考えである、努力中であるというお話でございましたが、それを制定するに当っては、法律上は日本政府の意思を聞く必要もなかろうと思うが、政治的な意味で、そういう機運の際、日本側から特にこれこれの点についてはぜひとも確保してもらいたいというような希望条件をお出しになっておられるか、またお出しになっておらなければ、その制定に当りましては、日本人である島民の生活を守るために、当然日本政府はそれを強く要求して交渉なさるべきだと思うが、そういう御用意や御意思があるかどうか。もしあれば、また次の機会に、その問題としておられる、特に強く主張しておられる点についての政府の案を伺いたいと思いますが、きょうはその内容にはわたらなくて、そういう交渉の意思、用意があるかどうか、それをはっきりしておいていただきたい。  それから、時間が何ですから一括してお尋ねしますが、もし日本の国会が、国民利益を代表する意味で沖縄の現地視察を一ぺんする必要があると思うのですが、そういう場合におきましては、渡航について政府は当然努力すべきであると思うが、その可能性について最後に伺っておきたい。  この二点を一括してお答え下さるようにお願いいたします。
  120. 中川融

    ○中川(融)政府委員 御指摘の第一の点でありますが、アメリカにおきまして施政の根本をきめる法律ができます前に、われわれとしてはすでに一年前よりこの沖縄における施政の内容を民主化するようにということを強く要望しておったのであります。その結果今回の法案が出たのであると思うのであります。なおその内容につきましては、先ほど御説明いたしましたように、必ずしもまだ十分でない点があるのでありまして、たとえば軍が最終的な統治に当るという機構、根本はやはり変っていないのであります。このような点はいまだ満足していないものがあるのでありますが、これはさらに将来の問題としてそのような方向にできるだけ持っていくようにという要望を続けるつもりでおります。現在すでにアメリカ議会に出ております法案につきましては、あるいはこれを変えるということは困難かもしれませんが、引き続いて努力を続けていきたい、かように考えております。  なお沖縄の現地の実情を視察するために、日本から視察団を出すということにつきましても、これも従前から努力しておるのでありまして、すでに約半年ほど前にもこの問題をアメリカ当局に提議したのであります。やはり沖縄はアメリカ軍の支配下にありますので、軍当局の意見を聞かなければならないということで、そのままそれがまだ実現に至っていないのであります。たとえば新聞記者団等は、すでに御承知のように、アメリカ軍の招請によって現地に行ったのであります。さらに政府あるいは国会の代表というものが現地に行きまして、視察するということはぜひやりたい、かように考えております。この目的のためには、政府としてもとよりアメリカ当局と十分の折衝をしたい御要望によりましてはあらゆる努力をいたしたい、かように考えております。
  121. 岡田春夫

    ○岡田委員 関連して。先ほど残余主権は眠れる主権である、こういう答弁をされましたが眠れる主権というものは、具体的にはどういうものを意味するか、この点を条約局長に、それから残余主権の内容について法制局としての御意見、これを承わっておきたい。
  122. 下田武三

    下田政府委員 眠れる主権は、どう申し上げたらよいかわかりませんが、とにかく現実に作用していない主権と見ております。
  123. 高辻正巳

    ○高辻政府委員 先ほど来お話がありましたのをそばで聞いておったわけでございますが、残余主権がある。それじゃ眠れる主権というと、それはまたそこでどういう具体的な内容があるかということと関連しまして、いろいろ御論議があったわけでございますが、私はそれは全く見方の相違であって、実は実体は申し上げるまでもなく、平和条約の第三条にありますあれをどういうふうに説明するかということの一点に尽きると思のうでございます。しかし平和条約第二条等にありますような主権を放棄しているというような格好にないことは明らかでございます。しかしながら沖縄におきましては、先ほど来出ておりますように行政、立法、司法上の権力の全部または一部を行使する権利、それをアメリカが持っておるということは平和条約上明らかなことでございます。主権を放棄しておらないのでそういう格好になっておる。それを日本にはなお残余主権が残つておる。こういうふうな説明をしておるわけであります。ただいまお話がありましたように、残余主権の内容はどうかと言いますれば、もしもアメリカが立法、司法、行政上の権力の全部または一部を行使するという内容におきまして、その全部を行使するかしないかは、これはアメリカの自由でございますから、そういう場合に日本の権力が及び得るということも観念論ではございますが、考えられるわけでございます。しかしながら実際には仰せ通りに、アメリカにおいてあらゆる権力を行使しておるような状況でございますから、さてそれでは眠れる残余主権とは何だという疑問が起るわけでございます。しかしそれだけに限って考えてみましても、そこにおる住民はやはり日本国籍を有しておるわけでございます。それから主権を放棄しておるのと違いますから、沖縄の主権的なものをアメリカが他に譲渡するということは、主権を放棄された場合と違って、そういうことはできません。また立法、司法、行政上の権力を行使する事態がなくなりました場合には、当然日本の領土として日本の権力が全面的にそれに及ぶというような格好に相なるわけでございます。やや観念的な論議を申し上げましたが、そういう点は主権を放棄したものと、残余主権として残っているものと、根本的な相違はそういうところにやはり残っておるということが申せると思います。
  124. 岡田春夫

    ○岡田委員 政治上の問題としては私は外務大臣に具体的に聞きたいと思います。条約局長は、昭和二十七年の九月ごろは条約局長でありましたかどうですか。
  125. 下田武三

    下田政府委員 すでに条約局長でございました。
  126. 岡田春夫

    ○岡田委員 それではあなたが条約局長のころに出した通達、これを読んでみます。北緯二十九度以南の南西諸島の地位に関する件、これについてあなたである条約局長はこのように回答いたしております。「従ってわが国はこれらの地域に対する領土主権を保有し」、と書いてある。さっきあなたが言ったことと全然違うじゃありませんか。「且つ、その住民は日本国籍を保有しているものであることは貴見の通りである。」眠れる主権どころじゃない。法制局も適当に調子を合せて言ったんだけれども、法制局ともあろうものが、あとになって恥をかくようなことをしてもらっては困ると言っておるじゃないですか。
  127. 下田武三

    下田政府委員 先ほど来申し上げておりますことと何ら矛盾しないのであります。主権を保有するということは、先ほど高辻政府委員も申されましたように、平和条約二条では主権を放棄しておる、しかし三条では主権を放棄するということは全然いっておらない、主権はわが方が保有しておるのでありますが、その主権の作用であるもろもろの立法、司法、行政権は現実に全然行使し得ないという状態なのであります。
  128. 岡田春夫

    ○岡田委員 答弁をごまかしては困る。主権の行使の問題と主権の客体の問題、この点を言っておるのです。もっと別な点から私はやりますけれども、きょうは時間がありませんからやりませんが、それでは主権の行使によって主権の客体というものがなくなり得るということも言えるわけでしょう。そういうことになりましょう。
  129. 下田武三

    下田政府委員 仰せ通りです。平和条約第二条によって千島、樺太に対する主権を放棄すれば、これも主権を放棄したこと自体がすでに主権の作用であります。しかし主権の作用といたしましては、第三条では主権を放棄いたさないのであります。
  130. 岡田春夫

    ○岡田委員 第二条の問題、一般的な解釈を私は聞いておるのではない。沖縄の問題として私は質問しておるのです。
  131. 植原悦二郎

    植原委員長 委員長から政府委員に伺いますが、沖縄は日本が潜在主権を持っておる。アメリカが統治権を持っておる、そのアメリカの統治権は戦略上で持っておるのだ、沖縄をアメリカが統治しておるのは普通の平時の状態でなく、戦略的の意味にアメリカが統治権を使っておるのだ、こう解してよかろうと思うが、これはいかがか、これが第一の点。  第二の点は沖縄の住民は日本国民であるから、その権利を十分保護するためにはアメリカの行政、立法、司法の権が努めて民主的に行われることを希望するけれども、それは、沖縄の住民が日本国民なるがゆえに、日本がこれを保護したいためにそう言うのだが、ただし、それには、軍事的に統治権を行なっているというところに限度がありはしないかということです。  次に、もう一つ委員長質問したいことは、アメリカが沖縄の住民の土地を租借するにせよ、あるいはその土地を買収するにせよ、そこに生存しておるアメリカ市民あるいは軍人が、そこに滞在しておるときの間だけを限ってその権利を租借したりあるいは買収するのではないか。日本に主権が返されたときには、それは当然沖縄の原所有者に返るべきものと解釈すべきものではないか。もしその所有権が永久的のものであり、その買収にせよ、租借にせよ、アメリカの統治権を行なっておるときよりはさらに進んで、日本にそれが返還されて、潜在主権が真の主権となったときに関連するものならば、日本政府の了解を得てやるべきものではないか。ただ、軍事的に一時的にアメリカの統治権を行使する間にそれを租借し、買収するものならば、これはあえて日本の潜在的の主権の了解を得なくてやってもいいことではないか。この三つの点をお答え下されば、問題は大がい明らかになると思います。
  132. 下田武三

    下田政府委員 委員長仰せになりました第一点につきましては、仰せ通りだと思います。そもそも平和条約で、日本が沖縄をアメリカを施政権者とする信託統治地域にするということを認めまして、またアメリカがこれを希望いたしましたのは、つまり国連憲章にいう戦略的信託統治地域にするということが頭にあったわけでありまして、すべて沖縄の取扱いの根本原因は、戦略的考慮から来ておることは仰せ通りだと思います。  それから委員長は、第二に、沖縄に住む人間は日本人であり、日本政府としては、日本人を保護するのは当然であるが、その日本保護にも、おのずから、先ほどの戦略的考慮というところから来る限度があるではないかと仰せになりましたが、これをまさにその通りであると存じます。  第三の、アメリカが統治しておる間に土地の買収とか租借とかを認めておっても、その効果は、アメリカが統治しておる期間に限るべきではないかという点でございますが、領土が移ります場合に、前の領土統治権者が定めました法令によって取得した土地の取得の効果をどうするかという問題につきましては、国際法上一般原則がございません。そのときに、領土統治権者の変更によって、新旧の統治権者で協定してきめるのが普通でございますが、たといその協定ができないといたしましても、旧時代に変動を生じた土地の得喪の効果をどう取り扱うかということは、新統治権者が独自の立場できめ得る問題だろうと思います。ただ、前例によりますと、土地の得喪その他不動産の得喪というものは、住民の権利関係に非常な影響を及ぼすものでございますから、なるべく急激な変動を避ける意味におきまして、前の統治権者の行なった法律実施の効果をそのまま認めるという先例が多いようでございます。
  133. 植原悦二郎

    植原委員長 今の点をもう少し委員長は明瞭にしたいのですが、土地収用令のような形で個人の所有権を収用する場合において、現在は軍事的の意味の統治権だから、その収用で所有したものは、日本に主権が移るときには消滅すべきものだとしなければならぬのではないか。もし個人が沖縄人の土地を買って、それが永久的のものであって、主権が日本に移った後においてもその所有権が確保されておるというものであるならば、潜在主権のある日本の了解を得べきものじゃないか、こう解釈してはどうかと思うのです。
  134. 下田武三

    下田政府委員 現実におきましては、永久使用とか永久租借とかいう形態はとっておらないようでございますが、かりに、十年とか二十年とか、あるいは三十年とか、期限を切って賃貸したといたしました場合に、その期限内に日本に返ってきたという場合は、その余った年数をどうするかという問題になると思うのでございますが、これは、日本に返ります場合を仮定いたしますと、やはり今度は日本独自の戦略的考慮があると思うのでございます。日本のみずから自国を守り、沖縄を守れる実力を備えた場合に返るのでございますから、今度は、日本自身が沖縄防衛についてどういう措置が必要になるかという、新たな日本独自の見地から考えまして、米軍が収用しました土地を今度は日本の自衛隊が収用する必要も生ずることもあるでございましょう。しかし、とにかく、使用権者は今度は新たに日本になるわけでございますが、その場合には、米軍と土地所有者との賃貸借関係というものは消滅いたしまして、新たに日本側日本人の土地所有者との賃貸借関係に切りかわるということになるのが最も可能な場合じゃないかと存じます。
  135. 植原悦二郎

    植原委員長 まだはっきりいたしませんが、アメリカの統治権内、立法権内で、アメリカの今の行政官でも、軍政官でも、その個人の土地を租借するとか買うとかいう場合に、アメリカの統治権の行われている間の限度をもってするものなら、あえて日本政府と相談しないでもよかろう。しかし、それがさらに延長して、日本に返還されて、日本の主権と統治権が行使される時代まで及ぼすものならば、これは日本の潜在主権国と了解を得べきものと解釈すべきではないか、私の言うのはこういうことです。
  136. 下田武三

    下田政府委員 これは、二つの場合を区別する必要があると思うのでございますが、米軍または米国政府が賃貸する場合には、これは米軍の戦略上の目的からいたすのでございますから、当然米軍が去ればなくなるということは所有者側にもわかるわけでございます。ところが、個人の場合には、金がなくて、土地を売って金を作りたい人もあるのでございますし、また、自分の家を建てたいために、土地を売ったり賃貸したりする人もいるわけであります。これは、個人間の取引の安全と申しますか、取引の安定性という別個の見地があると思うのであります。でありますから、この契約は、米軍が帰ったならばすぐ解消するぞと言うことは取引の安全を害することになりますから、これはむしろ、そういうことを考慮いたしませんで、取引関係の安全ということを目標にして定めるべきだと思います。そうして、日本に返りました場合に、今度は日本政府といたしましても、やはり国民の間の取引関係の安定というものは欲するわけでありますから、従来の例によりますと、前統治者時代に得喪を生じました不動産の所有権関係というものは、大体そのまま尊重しておるというのが通例でございます。
  137. 植原悦二郎

    植原委員長 ただいまのお答えはごもっともですが、個人で、困って土地を売る場合においては今の問題にはなりますまい。売りたくない土地も無理に取り上げられたり租借されるような、強制的にされるときにおいてのみ問題になると思うのですが、そういう問題の起った土地の問題の取扱いに対しては、アメリカの統治権が終った後においても継続するようなものであるならば、日本の主権の了解を得べきことが当然ではないか、こういう質問です。
  138. 下田武三

    下田政府委員 米軍が軍事上の必要から収用するという場合には、やはり軍事上の目的からいたします特殊な法律関係でございますから、米軍が存在しなくなりましたならば、必要の根本がなくなるわけですから、消滅すると考えてさしつかえないと思います。
  139. 岡田春夫

    ○岡田委員 私は今の点だけでは了承いたしません。きょうはやりませんが、またあとで質問いたします。
  140. 植原悦二郎

    植原委員長 それでは次会は公報をもってお知らせいたします。  本日はこれにて散会いたします。     午後一時二分散会