○陰山
参考人 私の
意見を申し上げる前に、私の
立場を一応申し上げておきたいと思いますが、私は
日本の船員を組織する産業別の労働組合の代表者でございますが、その
立場においてものを
考えますならば、どこが船を作ろうと、船がふえるということは、われわれの仲間の職場がふえるという
意味において好ましいことでございますので、そのこと自体に反対をする気持は毛頭ございません。しかし結論から申し上げますと、私の
意見としては、
石油業者あるいは鉄鋼業者等による自社船の建造は、
日本海運の正常な発展を助長する上に非常な悪影響があるという
意味において、反対の
意見を持っております。
私
どもは労働組合としての
立場から、本質的には階級利益の追求ということを
考えるのが第一義的かも存じませんけれ
ども、私は
日本の
経済の中に占める
海運の重要性とその国際性というものを
考えまして、われわれの階級的な利益の追求をする前に、
海運自体の国際的な発展をまずはかることにわれわれは努力をしなければならないということは、国の復興に対して負うところの義務を、あらゆる義務に優先して
考えるべきであるという信念の上に立ちまして、われわれの所属する組合員の福利の向上、生活の向上ということは、
日本海運の繁栄の中において、漸次それを実現していきたいという
意味におきまして、われわれ組合といたしましては、創立以来
海運の発展ということに多くの関心と努力をいたして参ったつもりでありますが、しかし御
承知のような戦争によって壊滅的な打撃を受けた
日本の
海運の実情から申しまして、その復興のために、国の
政策によってこの助成がなされなければならないということを、われわれは主張して参ったのであります。その結果今日まで、
計画造船においては十次にわたって相当の船復が増加したわけでありますが、私が今日まで感じて参りましたことは、
日本の
海運造船政策には、総合的な長期の
計画性がなかったという点であります。しかしながらそれはいろいろ推移、変転する情勢の中で、なかなか言うべくして確立が困難であったことだと思いますが、そういう点に対する批判は別といたしまして、今日の
日本海運は、ことに
計画造船の問題におきましては、在来の船腹増加を第一義的に目標としてやってきたそのやり方を、転換すべき時期がきていると思うのであります。
言葉をかえて申しますならば、
日本商船隊は構造的な欠陥と申しますか、多くの脆弱性が内在をするという点でございます。これにはもちろん
資本構成の不均衡の問題とか、他にもいろいろ問題はありますが、この現在の
日本商船隊の中には、質的な
意味において必ずしも今日の国際競争に適当である船が多くないという点であります。ことに問題になっております
タンカーの面において
考えますと、御
承知のように国際的な
タンカー界における情勢として指摘し得ますことは、ここ二、三年から
タンカーの大型化、スーパー化という傾向であります。これは貨物船についても同様で、リバティーの一万トンが標準になっておりましたのが、今日では一万二千トンの新しい型が登場して、漸次その傾向が顕著になってきつつあるわけでありますが、ことに
タンカーの面におきましては、スーパーの激増ということがはっきりと浮かんできているわけであります。そのような実情の中で、
日本の
タンカー船隊は、御
承知のように第七次、第八次でございましたが、二万八千重量トンのスーパー・
タンカーを二はい作っただけで、それ以外の
計画造船による
タンカーは、いずれもスタンダード・タイプの小型の
タンカーでございます。にもかかわらず、先ほど申し上げましたように、すでに建造中あるいは契約をされている世界の新
造船の中で、
タンカーの占める
比率がきわめて大きい。さらにその
タンカーの
比率の中で、スーパー・
タンカーがきわめて
比率の上において大きなものを占めているという、その世界的な趨勢の中で、
日本タンカー船隊はわずかに二隻のスーパー・
タンカーを持つという実情において、簡単に申しますならば、国際競争に勝っていくために必要な新しい型が
日本の
タンカー船隊には少くして、
時代おくれの型の
タンカーが多いという点であります。今日まで
日本海運が一人歩きできないがゆえに、国の責任において多くの
財政投融資を行なって、
日本海運の育成がはかられてきたわけでありますが、それらの多くの
財政投融資がなされた現在の
タンカーの大部分が、まさに
時代おくれのものになろうとしている、こういう際に
タンカー業者でない、兼業の企業によってスーパー・
タンカーが作られようとすることは、私は今問題になっております
丸善石油の一隻を許可するとかしないとかいう問題ではなくして、その影響するところはきわめて大きいという
意味におきまして、
最初に申し上げましたように兼業者によるスーパー・
タンカーの建造は、絶対に阻止すべきであるという
意見を持っているわけでございます。
なぜ一隻の問題にとどまらずして、その影響するところが大きいかと申しますと、これは先ほどお話がございましたが、現在
日本の輸入油の四割は
外国船によって運んでいる。船の絶対量が足りないのであるから、それが
計画造船のワク外であろうと、
タンカーを建造して、
外国船で
輸送している部分をその新しい船によって運ばせるならば、
外資の節約にもなるし、それが
日本の利益ではないかという説をしばしば聞くのでありますが、私の聞くところによりますと、
日本の大石
油会社には
外国資本が相当入っているのであります。従って現在四割あるいは五割の
外国船による
輸送部分を、
日本の
タンカー船隊の船腹が増加したからといって、
外国船を直ちに使用しないということは、なかなか困難な事情がそれぞれの
事業に内在するということを聞いております。これは
関係者の方の御
説明を伺いたいところでございますけれ
ども、ともあれ運航コストの安いスーパー・
タンカーが、専業者にあらざるものによって作られ、それが
日本の輸入油の
輸送に従事するということは、さなきだに現在苦しい状態の中にある
日本の
タンカー業者、多くの
財政投融資をやって今日まで育成してきた
タンカー業者を、今日以上に困難な情勢に追い込む結果になる。なぜならば、もし丸善にスーパー・
タンカーの建造を許すならば、そして運航コストの安いスーパー・
タンカーを丸善みずからが建造して使用するならば、対抗上他の
タンカー業者も同様のスーパー・
タンカーの建造を
申請するであろうし、それがもし許可されない場合には、親
会社の
関係等において
外国のスーパー・
タンカーを持ってくるということが予想されるわけであります。そうすれば、かりに三万トンのスーパー・
タンカーが年間九航海するものとして、四はいなり五ばいなり直接自社船として建造するか、あるいは他の方法をもって
外国のスーパー・
タンカーを
日本の
石油業者が使用する場合に、年間百数十万トンの油の
輸送に従事している
日本のスーパー・
タンカーにあらざるスタンダード・タイプあるいは戦標船の改造したような、そういう性能の悪い
タンカーは行くところがなくなるわけであります。これが運航コストの安いスーパー・
タンカーであれば、国内油の
輸送にあぶれても、第三国間の
輸送に出ていくことができるわけでありますけれ
ども、運航コストの高いこれらの
タンカーは、一時的な荷物を三国間で拾うことはできても、常時三国間の
輸送にありつけるような運航はなかなか困難であるこいうことを
関係者から聞いているわけであります。
そういう
意味におきまして、私は丸善の作るスーパー・
タンカーが、丸善の使用している四割の
外国船にとってかわるのではなくて、丸善を初めそれ以外の石
油会社の
輸送に従事している
日本のスーパー・
タンカーでない
タンカーの行き場がなくなるものがたくさんできるという
意味におきまして、勢いのおもむくところ、これは係船等の最悪の事態すら
考えなければならないような情勢を予想いたしますと、私は船員の職場の安定を確保するという
意味からいいましても、そのような危険に対しては絶対に
賛成できないという
立場をとっているわけでございます。さらに申しますならば、
日本の
タンカーだけではなくして、以前に鉄鋼
会社において鉱石
輸送船の建造が
計画されたこともございました。これは当時いろいろな
方面の反対があって実現をいたさなかったようでありますが、
石油業者によるスーパー・
タンカーの建造が許されるとするならば、さらにこういう
方面においても、自社船の建造ということが実現するのではないかということも、これは私の単なる杞憂であれば幸いでございますが、私は
考えるわけであります。
それから先般
海運造船合理化審議会におきまして、
運輸大臣の諮問に対して、今後の
造船方策に関しての第一次の答申を行なったわけでありますが、その中におきましても、
日本の現有
タンカーの中で十八万トンは、ここ二、三年の間に脱落することが予想される、従ってその代替船を建造するという
意味におきまして、年間六万トン
程度の
タンカーを
計画造船の中で作っていくべきであるというような
考え方が、一応織り込まれておったわけでございますが、そのように
日本の現有
タンカーの中でも性能の悪い、早晩スクラップにしなければならないような船舶が相当量あるわけでございます。これをどういう形で、多くの混乱なしに整理をしていくかということでは、専業の
タンカー業者にスーパー・
タンカーを作らせるならば、これらの不
経済船の整理ということは、新造されるべき船の運航
計画との関連において、それをスクラップにするなり、あるいは他の用途に改造するなり、そういう整理
計画が混乱なしに漸次実現をしていくと思うのでありますが、これらの整理
計画と無
関係に石
油会社によるスーパー・
タンカーの建造を許すならば、私は
日本の
タンカー業界に不測の混乱を与える結果になるのではないか、そういうことが結果して、私
ども自身の船員の
立場からも、係船等の不幸な事態、あるいは
タンカー企業の
経営困難という事態に直面をすることによって、船員の雇用の安定が失われるというような最悪の事態も予想するわけでありますが、
最初申し上げましたように、単にそれだけではなくて、今日まで多くの
財政投融資をして育成してきた
日本の
海運の重要な部分である
タンカー業界が、なお一人歩きできない現状におきまして、少くとも
計画造船が続行される間は、石
油会社等による
計画外のスーパー・
タンカーの建造ということは阻止すべきである。これは
日本の
海運というものを大きく助成し、発展さしていく上に、今までの助成
政策を生かす上において、筋を通すという
意味において、そういう措置か国において考慮されるべきであるという見解を持つわけであります。