○藤本
参考人 東京ハイヤー、
タクシー協会の
会長をやっております藤本でございます。日本乗用
自動車連合会の副
会長をやっております。今日はハイヤー、
タクシーの
業者の側から、本案につきまして公述を申し上げます。お手元にプリントで要旨を配っておりますので、それを御参考に供していただきたいと思います。
本案の趣旨についてはもちろん
賛成でございます。各国の
状況を見ましても、
自動車交通の発達に伴って、いつかはこういう事態が必ずくるものでございまして、現在の
交通状況から見まして、このような本案が上程されることは、十分その
意味は了承されるものでございます。しかしながら各国におけるこの
賠償法案が実施されている基礎条件と、現在日本の置かれている
状況とは、そこに大きな差がある。従ってここに大きな問題があるのでありまして、まず各国の
状況では、
交通の
事故が起らないようなあらゆる措置が講ぜられている。また一般に経済
状況がきわめていい、こういったことが前提でございますが、現在この日本といいますか、特に
東京の
状況を見ましても、
交通事故防止に対する施策が何ら行われていない。何らと言っては語弊がございますが、根本のところにおいて行われておらない。昨年でございますか、参議院の労働
委員会でやはり
事故防止について
参考人として公述した際にも詳しく述べたのでございますが、
交通事故防止の根本は何といってもまず需給の調整でございます。これなくしてはほとんどすべての
交通事故といいますものの発生が防げない、こういった問題、さらにまた運転者の
事故に対する法的な共同
責任、現在は
道路運送法では、
運転手に対しては法的
責任がございません。こういったものに対する共同
責任、さらに諸外国で実施されているような営業用運転者については、
自動車の就業
免許制にしなければならない、こういったような問題、さらにまた経営者の側からいいますれば、先ほど
伊坪さんからも御指摘があったように、名義貸しを行なって経営を放棄している、こういったような悪徳な経営者の追放とか、さらにまた一般市民の
交通道徳の涵養とか、こういったような
交通事故防止ということについて、基本的な施策が現在のところ行われておらない。従ってこういうような基礎条件のもとにおいて本案を実行することは、本末転倒というようなそしりがある。特にこの強制
賠償保険を実施いたしますると、各国における傾向といたしまして、
事故に対する
責任感の希薄ということがどうしてもいなめない事実でございます。従ってそういうような
事故防止の徹底的な施策が行われてない上において本案を実施すると、逆に
事故が増加するのじゃないかということをおそれるものでございます。
さらに二番目といたしまして、現在の経済
状況がきわめて悪いために、あとで述べますが、本案をつぶさに検討してみますと、非常に悪用されるおそれが多分にある。非常にこれは
方々で悪用されるであろう、そのために、逆にこの
法案自身の実施が、ほとんど困難になるのじゃないかということが予想されるものでございます。そういった
意味において、まず少くとも本案を実施する上においては、先ほど申し上げました需給調整問題とか、
運転手さんの法的共同
責任あるいは就業
免許制、こういったものの完備を待ったあげくにおいてしなければ、逆に
事故の増大があるのじゃないかと考えておる次第でございます。
次に内容について申し上げますと、本案の基本的考え方であります無過失
責任主義でございますが、
交通事故のように挙証というか、証拠立てることが困難であるこの
事業において、さらにまた工場の場合と違って絶えずこういった
交通事故に直面している
交通事
業者といたしまして、そこに第三条でございますか、このような規定を並べてみますと、ほとんどこれは無過失
賠償責任主義に尽きておる。そうしますとこの場合に、先ほど
トラックの方からの話がありましたように、これは一部の保有者というグループによって社会
保障を行うものである、こういうような結論になるわけでございます。特に多数
車両を持っておる
交通事
業者の
立場からいいますと、これは一種の税金である。税金以外の何ものでもない。こういった保有者からの
保険金によって
政府が社会
保障を行う、これ以外のものではないと考えております。アメリカの
タクシーの
料金の原価計算を見ておりますと、ここにおきます
保険金というものが相当の部分を占めておりまして、十分に原価においてペイするようになっております。しかしながら現在のわれわれの段階においては、そういったものは
料金においては織り込まれておりません。たといそれが今後織り込まれるといたしましても、現在のような過剰の
車両を持っている
状況でしては、ただ自由競争を激化するだけであって、逆に
料金値上げはとうてい考えられない、こういう
状況でございます。従いましてわれわれといたしまして少くとも社会
保険のにおいが強い部分においては、当然国家が強力な
保障を行うか、あるいはこれらを十分
負担してやっていけるだけの保護を
交通事
業者に対して与えるのでなければ、単に自由競争にまかせてこれが血みどろの競争をやっておる、こういう
状況では、このような無過失
責任主義というものはとうていとり得ないと考える次第でございます。
次に
保険料についてでございますが、これまた
トラックの方からのお話があったのでありますが、一例をあげてみますと、これはやはり先ほどの無過失
責任主義と関連があるわけでありますが、一般の営業
保険でございますと、俗に経費が四〇数%かかると言われております。ところがそういうような営業
保険をかけましても、社外
賠償保険を八十万円かけたといたしまして年間一万一千四百円であります。これは先ほどの話のように物的
損害が約半分入っております。もしこれを、
強制保険で経費が一七%と言われておりますが、これに換算してみますと大体七千五百円
程度で済むはずでございます。さらに
人身賠償だけとなりますと、これがさらに低減されてまず五、六千円のものではないだろうかと考える次第でございます。もちろん本案の建前は、先ほどの一回
事故してもさらに自然にもとに戻るといったような自動回復の
保険であり、さらにまた営業
保険の場合は一部は保有者
負担というようなことは、逆の
意味ではございますけれ
ども、それにしても一両当りハイヤー、
タクシーで言えば一万二千円というのは、あまりに高額に過ぎるではないか。現在の全く疲弊し切ったハイヤー、
タクシー事業といたしましては、たとえば百両持っていれば年間百二十万、こういったような膨大な
保険料に対して、どこから出していいか、方途もつかない次第でございます。従って
保険料が高過ぎる。これは無過失
責任というような
関係もあると思いまするが、これについてはぜひ先生方にもう一回考慮していただきたいと考えておる次第でございます。
さらにこの取扱い機関でございますが、われわれは当初こういったような
保険でごいざますれば、事
業者の相互
保険でできる。従って大体千台以上を一グループとする相互
保険の機関を作って、これにおいてやらしてくれ。特にこれは都市の
交通事
業者にとりましては簡単にできることでございます。これがまた最も実態に即しておる。また費用もかからない。こういった
意味からこの案を主張しているわけでございます。これは本案で言えばいわゆる自家
保険主義の拡張であります。自家
保険主義の拡大でございますが、これをぜひこの本案の中に入れていただきたい。自家
保険だけでなくて、そういった業界相互の、たとえば協同組合を作ってこれを行うとか、そういったような相互
保険的なものをぜひこの中に挿入していただきたい。もちろん全国的に見てそれが非常に不便なところもございましょう。あるいはまた自家用その他の事
業者もございますから、本案は本案といたしまして、そのような都市における
交通事
業者がたくさん集まっておりますところでは、千台以上をもってする相互
保険の趣旨をぜひ本案の中に挿入をお願いしたい、こういうことを主張するものであります。
さらに取扱い機関について考えますれば、都市については今言ったことをお願いしたいし、さらにその他のものについてお願いしたいことは、この莫大な数を予想される
強制保険の場合、運営経費として俗に言われております
保険金額の約一七%という経費は多過ぎると考えております。これについては先ほどの組合間の相互
保険でありますれば、これは一〇%
程度でできるものと考えております。この一七%というものは多過ぎる。これについてもう一回御検討願いたい。さらにあとから述べますが、
保険金額が非常に膨大になって脹膨するようなおそれがあります。そういった
意味から言いまして、
保険金の
金額全体の一七%の経費という考えの方のほかに、もう
一つの制限として定額をもって制限していただきたい。これによって経費のむだな膨脹を防ぐ助けになるだろうと存じます。
さらにもう
一つお願いしたいことは、
保険料というものは前払いでございますから、ここに
保険会社が営利をはさまないといたしましても、膨大な資金が集まるはずでございます。これにつきましては、私
どもはこういった保有者の
保険金で集めたのであるから、これらの資金
運用については、ぜひ
交通事
業者を含めての保有者の方において、資金
運用面においてぜひ考慮なさっていただきたい。優先的にこの資金を回してくれる。こういうことに考慮を払っていただきたい。
賠償保険であります以上、支払準備に一定額の留保ということは当然でございますが、
事故発生が比較的平均しておりますそういうような
事業において、従来の火災
保険のような
損害保険並みにこの資金の運営を縛るということは、これはいささかおかしいのではないか。せめて生命
保険、
損害保険との中間形態において、資金
運用のことを大幅に緩和していただいて、その金は大体保有者からの
保険料においてやったものでありますから、優先的に
交通事業育成に回していただきたい。これが組織の問題として取扱い機関に関しての要望であります。
次に
賠償方法でございますが、本案の
賠償方法によりますときは、
被害者に非常に偏重して大事にするあまり、
事故の査定について非常に不当になるおそれがございます。また容易にこの
法律が悪用されるおそれがあります。従ってこのような
状況でこれを実施した場合においては、とうていこの
保険会社は成り立たない。赤字の累積を続ける。それが非常な
保険料の値上げということになってくるものと考えております。まず第一に挙証
責任が保有者にあり、しかも無過失
責任主義をとる。それから
交通事故において挙証ということがきわめて困難である。こういったようなことを考えますときに、この
保険については俗に親方日の丸というような言葉がありますが、こういった考え方が取扱いの末端において必ず生ずる——少しうるさくなってくると、全部
保険会社が見てくれるのだから、全部こちらが悪いことにして判をついてしまえ、ろくに
事故の内容を検討しないで全部
保険会社にまかしてしまう、こういったようなことが必ず起きる。その結果することころは、先ほどの
主婦連合会の方とは逆の
意味において、一人死者の場合は三十万円というものが逆に最低限になるだろう、全部そこまでいってしまうだろう、こういったことは非常にありがちでございます。このことは今までのいわゆる
保険会社がやっておりました
保険においても、現在耳にしております。私が聞きましたところは、たしか安田火災でございますか、ここにおいて兵庫県における
自動車保険というものは、ほとんどまる損である。あそこは非常にうるさいところでございまして、ちょっと何かありますとすぐに行ってわあわあ騒ぐと、どうしても一ぱいに払わざるを得なくなってしまう、こういったことが必ずこういうような場合には起きがちでございます。そういう
意味においてこれはよほど考えておかなければ、この
保険自身が成立しないのじやないかという心配をするものでございます。
第二に
被害者に対する仮渡金の
制度であります。これはまことにけっこうな
制度でございますが、反面十七条の三項に、
損害賠償額をこえた場合の
金額はもらった方から取り返すということがございますが、これは言うだけであってできっこありません。そうしますとこれはきわめてむずかしいことになります。たとえば
軽傷の場合でありますが、
軽傷の場合三千円は無条件でやってしまう、あとからわかって取り返すといってもどうにもならない、ことに悪意のあった場合は防ぐ方法がございません。ちょっと行ってぶつかって黙って三千円もらう、あとで返さなければどうにもならない、こういった傾向はむしろ現在のような詰まった経済
状況においては当然行われるし、しかもこれはこのような割合に
官庁的な組織になりますと起りがちなものでございまして、これらを考えてみると、この点十分注意しないと、この
保険自身は成り立たないのじゃないかと考えておる一人でございます。
それでこれに
対策といたしまして考えますことは、まず今までの
保険会社がやっておりますと同じように、決定した
賠償額の一部はやはり
事故を起した者の
負担にする、要するに四分の四の
補償ではなくて、四分の三
補償して、四分の一だけはやはり起した者が払わなければならぬ、このようなことにいたしますると、無
責任な
事故の査定ということはある
程度防げる、これは従来の営業
保険でもやっておりましたが、やはりそういうふうな事情を十分に——困ったあげくに発明した方法だと思いますが、こういったことをやはりこの
法案においても考えるべきではないだろうか。さらに仮渡金についても、その趣旨はけっこうなんでありますが、今言った法が悪用されないように、何らかの手段がとらるべきものであると考えておるものでございます。
結論から申しますと、この本案に対しましては私としては条件付の
賛成でございます。しかしながらこの条件が満たされないときには、むしろ本案には不
賛成、こういった強い
意味の
条件付賛成でございます。その条件と申しますのは、先ほどから申し述べましたが、
事故防止についてあらゆる立法的、行政的措置を講じていただきたい。これは需給調整も含めてのあらゆる措置を講じていただきたい。それから無過失
責任をとる以上、国家補助の大幅の増額、これに伴う
保険料の大幅引き下げ、さらに
賠償方法に大改革を要すること、
保険会社の資金の
運用面には、保有者側の意向を十分に含んでくれ、これは要望でございます。さらに都市
交通事
業者に対しては、そういった相互
保険制をぜひこの際一項加味していただきたい、こういうような条件で本案に
賛成するものでございます。以上公述を終ります。