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小山(亮)
委員 私は刑事訴追を行なってはいけないということを言っているのではないのです。要するに
海事審判をやりましても一週間か十日、その間にすべて明確になる。それをその前にやってしまえば
——あなた方がお
調べになって
海事審判にかけてみて、その
責任の所在が、
検事局の側が罪があると認めた人が罪がないという場合もあるのですから、その点もぞひ御
考慮を願いたいと思います。というのは、先ほどからの
委員の
報告にもよりましていろいろお聞きでありましょうが、一例を申しますと、普通の船と違いまして普通の
船長じゃないのです。
連絡船の
船長というものは普通の
船長じゃないのです。いわば鉄道と鉄道との間をつなぐ渡し船のようなもので、一時間で行って一時間で帰ってくるというような航海をやっておるのですから、普通の
船長の権限を
考えたり何かしてはできないことなんです。そしてかじを右に切った、左に切ったということは、これは
衝突予防法は国際公法ですからそれをごらんになればわかりますが、
濃霧中においては権利船、義務船という観念はなくなるのです。権利船、義務船という観念は、
視界が水平線がおぼろげにわかるような、船と船との所在がはっきりわかるような場合においてのみ、右によけるか左によけるかという理屈が成り立って、そこでそういう条文が適用されるのです。ですからほとんど真向いあるいは真向いに迎えた船は、互いに右と左とに進路を回避するというようなことがちゃんと書いてある。あるいは右舷に反対船が見えたときは、必ずその見た船の進路をかわさなければならぬということも、条文にはっきりと書いてあります。それは明確なんです。何らの疑義を差しはさむ余地はない。そして
濃霧中において
速力を持つということは、絶対に許されないのです。それは
紫雲丸にしても
宇高丸にしても、
両方とも
濃霧中においては絶対に
速力を持つことは許されない。
濃霧のために
視界が明瞭にならない。つまり
濃霧という解釈は船から約二町です。百二十間向うが見えないときは、
濃霧という限界になっておる。その場合には、どの船も停泊していなければならない。しかしながらいかりがやれない場合においては、船のかじがきく程度に船を
運航していくことが許されておる。そうしますと微
速力です。あの程度の船になりますと四マイルないし四マイル半の
速力が許されますが、十一マイルの
速力をもってお互いに走ることは許されない。ですから、とも
どもに最高
速力をもって走ったということは、
海上衝突予防法上許されないことになる。しかしながら、なぜ
速力を持たなければならなかったかということになりますと、これは鉄道省のダイヤがある。何時から何時までには連絡線があるから、それにどうしても着けなければならぬという、鉄道省のダイヤを守るという非常に強い制度がある。それがあるために、そのダイヤを狂わしてはいけない、狂わしてはいけないという頭でやりますから、夢中で無理して走るということになる。そのダイヤの作り方が、十五分でも二十分でもそれだけのゆるみがあるならばいい。きちきち一ぱいのダイヤを作られておる。それは現状をお
調べになればわかります。そうしますと、そのダイヤに合わそう、五分でもおくれてはいけないというので力を気ばっていきますから、どうしたって事故が起りがちなんです。あの状態をこのままにすれば、今後何万年たっても、これを改良しない限りはああいう事故はどんどん起ります。防止することは絶対にできませんよ。そういうむちゃくちゃなことをやらなければいけないようになっておるのですから、お
調べになるならば、ダイヤの点から全部
調べてやらないと、事故が起った船の
船員だけがどんどん処分されてしまう。そうならなければならなかったように押し込めていった制度が改まらないということになったら、船に乗る人間はありません。だれが好んで船に乗りますか。私はこの点は、
検察庁だけがお
調べになってもおわかりにならないでしょう。だから当
委員会でもその
原因から突き詰めようとして、特に
調査員まで派遣していろいろ
調べておる。それを
海事審判の
技術審判をやらない前に、いきなり
検察庁で本人を、一番大事な
調べなければならぬ
責任者をみんな引っぱって逮捕し、拘禁してしまって、外界との接触を遮断してしまう。こうしたらだれが一体
技術審判をはっきり
調査することができるのですか。あなた方は自分の功を急がれるのかどうかしらぬけれ
ども、おれはやらなければならぬのだということで、人のことも
考えないで自分だけでどんどんやって、事の真相をきわめようという気持がない。
処罰するだけのことをお
考えにならないで、国家のためにどうしたらこういう事故がなくなるかということを、それを防止するために一つ
司法省も特に
考えていただきたい。それがためにはやはり
海難審判所とよく打ち合されて、支障のないように
——わずか五日や七日おくれたところで、人間が逃げていくわけでもない。
証拠隠滅などはできるものじゃありませんよ、陸の問題と違うのですから。海の
事件はすっかり何もかも残っておりますから、そうしてまた
証拠隠滅をしようとしても、大きな海図と船の形をしたものをこしらえて持っていきますと、のがれるところはないのです。これは何も悪いことをして、どろぼうしたとか、計画的にやっておる仕事ではないのですから、だれだって自分の船をぶつけようと思ってぶつける者はないのですから、それがはからずも安全に行こう、安全に行こうと思っていながらぶつかってしまったのですから、悪意があるということなら、結果的にいえば悪意のあることだが最初から命がけで自分の船を沈めようなんという人間はおりませんよ。ですからこの点は普通の陸におけるところの詐欺やどろぼうや強盗や殺人をする人間をつかまえるつもりで、こういう
事件のものをどんどんと検挙してしまう。
新聞に大きく書かれたから、大ぜいの被害が出たからといって、司法官が冷静を欠いて、その
新聞や何かにつられて、世論にまどわされてあわてふためいて検挙してしまうというやり方は、往々にして人権じゅうりんにもなるし、そうしてまた真相をつかむことに対してかえって非常な妨害になる。こういうことに対する
刑事局長の御
見解はいかがですか。