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国務大臣(
安藤正純君) 今回図らずも
文部大臣に就任いたしました。どうぞ何分よろしくお願いいたします。この
機会を以ちまして、一、二私の
所信を申上げましてお聞きとりを願
つておきたいと思います。
文教の問題、
教育の問題は
国民の
根柢に関する問題で、非常に重大なことは申すまでもございません。
日本が敗戦しまして、新らしく今後復興をして行かなければなりませんが、その
文化国家を
建設をするにつきましても、経済問題その他のことが最も重大であるのですが、やつ
ぱり根柢になるものは
教育であろうと思うのです。すべてのことは人が運用するのでありますから、その人を造るということが最も大切なことであり、而うして旧
社会から今日までにこう変化して参りました新らしい
社会を
建設をしなければならない、その新らしい
社会の
要素となる人を養成するのが
教育でありますから、
教育は何としても一番重大な問題だと思うのであります。そこで先ずすべての
施策が今日では相並んで行われて行かなければならないのでありますが、一体
文教政策というものは今までの間どうも割に閑却をされております。最近においてはだんだん認められて来まして、
予算なども戦前及び
戦時等におきましては、ほかの役所と比べるとかなり低か
つたんですが、最近においては
大分それが殖えて来ましたのでありますが、併しながらまだまだこれでは足りない。ほかのことに使
つている経費と比べますとまだまだ少いと思うのであります。本当に今後の
日本を
建設する
基礎になるところの
教育文教でありますから、これらの点についても今後だんだん考慮して、もつと
予算も殖やし、
十分日本の
根柢となる
仕事のできるようにいたしたいと思います。まあ一口に言いますと、
文教の
比重を重くするということが必要だ。ほかのことに比べまして、
文教、
教育の
比重を高めるということに
努力をいたしたいと思うのであります。
それから
教育の
制度でありますが、今日まで
教育の
制度、即ち学制の問題につきましては、いろいろな
変遷があります。私は今まで
文政審議会であるとか、或いは
教育審議会であるとかというような
常任委員をずつとや
つて参りました。それらを顧みますと、非常にその間に
変遷変化があるのでありまして、今日は六・三制の
制度にな
つております。これも根本的に
検討すると、いろいろ議論があるのでありますが、私は今の六・三制の
制度というものは、持続することがいいと思います。
長所もあり又短所もあります。併し
長所即ちこれによ
つて今までの封建的な傾向のあ
つた教育が一掃されて、
自由主義、個人の完成ということを本位とするところの今の
教育の
やり方は、これは
長所であ
つて大変いいのだと思います。併しながら一面におきましては、
日本の国情、民族に副わない、殊に
日本の今日には副わないような点も多々ありますから、そのいいところは保持し、そういう適合しておらないところは思い切
つて改正、訂正する必要があろうと存じます。更に今六・三制が行われておりますが、これもまあ改正するということについても、
制度のほうなんです。つまり小
学校、中
学校、
高等学校、
大学というこの
制度の上においても、
検討する必要があろうと思うのであります。
もう
一つは
教育の
内容でありますが、この
内容についても改めて行く必要があろうと思う。一例をいたしますれば、地理、歴史並びに
修身科の問題のごときことも、このままでは不足、不備であると思いますから、
検討を加えたい。但し
教育の問題、殊に
教育の
内容等の問題はただ目先で急いでやるべき問題じやありませんから、慎重なる再
検討を加えて、そして改むべきことは断然として改めることがいいと思うのであります。
それから
科学の
振興、これは非常に大事でありますから、これにもつとうんと金を増したい。
十分金を増して
研究ができるように、又学者が後顧の憂いなくして、もう
全力を
研究に没頭することができるようにいたしたいと思うのであります。
西洋諸国が
科学の
振興のために使
つていることなどから比べると
日本などは大変少いのですから、どうしても
科学の
振興ということに遅れたならば
日本が遅れてしまうのだから、
科学の
振興に相当の金を注ぎ込んで行かなければならないと思います。殊に又今日は
原子力時代になりまして、この
原子力の
研究等につきましても
日本はずつと遅れておりますから、早くこれを追いかけて
十分研究をしなきやならん、そういうようなふうに
考えておりますが、同時にこの
物質科学ばかりでなく、
自然科学ばかりではなく、
精神科学の
方面についても
関心を高めることが必要だと思います。ややともすると
自然科学が
発展をする、
自然科学の
発展振興は、これは非常に必要なことなんです。これは言うまでもないことだが、同時に一面の
精神科学が閑却されるということはこれは又
国家の将来にと
つて大いに憂うべき現象であります。
原子力の問題などにつきましても、そこにこの
精神科学的の
考えが
科学者の頭の中へ入
つて参りませんと片輪の発達が出て来るのじやないか。即ち現在の
原子力の問題がそれなんであります。
従つて国民全体の頭の中に、
自然科学の頭をもつと
科学的に
国民の頭をすることが大事であると共に、
精神方面におきましても、もつと
関心を深めて、両々相携えて
自然科学と
精神科学、相携えて行かなければならないと思うのであります。
従つて私はこの際一言申しておきたいが、
日本は今
政教分離の
時代で、憲法ではつきり
政教を分離しておる。これは非常にいいことなんです。まあ
文明国の
政治と
宗教の
関係は
政教分離が一番いいと思います。併しこれが一番
最後的にいいのかどうかはこれはわかりません。併し現在においては比較的にこれがいいんだと思う。
政教分離の
制度は維持したいが、併し世間往々取違えまして、
政教は分離しているんだ、
教育と
宗教も分離しているんだから
宗教なんというものは要らないものである
といつて軽く取扱う
宗教軽視の風潮が相当ありますが、これは憂うべきことと思う。
私はこの
道徳教育とかということも今非常に問題にな
つておるが、
道徳教育無論しなければ
いかんが、この
道徳教育というものを、余り形式的に何か
別物扱いにして
道徳教育をやるということは筋が
間違つているじやないか、すべてについて
道徳が
基礎にならなければならん。
民主主義の根本は
道徳が
基盤でなければならない。如何なることもすべて
道徳の
基盤に立
つてやるのですから、
道徳教育というものはそういう広い
意味で
考えて行く必要があろうと思うのでありますが、その
道徳ということも、それの私は一番
基礎には
宗教的精神というものが必要だと思います。即ち
宗教精神というものは、どの
宗教を特別に取入れるとか何とか、そういう
意味じやない、もつと広い
意味であります。
宗教精神というものは、言い換えれば
人道精神なんですから、その
人道精神を本当に養うものは
宗教精神の涵養ということであろうと思います。でありますから、そういう
方面にも
国民がもつと
考えて行かなければならん、又
日本の
文政はそういう
方面に
指導をして行かなければならないと思うのであります。
最後に一言申上げておきますが、
日教組に対する、まあ
日教組対策といいますか、
対策という
言葉もおかしいし、そういう頭を以てやるのも変なものだと私は実は思
つておる。併し
日教組のあの
やり方があれでいいのかというと、これは大いに
批判を加えなければなりません。非常にこの思想的に
偏向をしてお
つて、それを又
政治のほうに持
つて来ようという
やり方については、よほど
考えて行かなければならん。
考えるのに、外から無暗にこれを叩きつけて行く、初めから
監督の目を見張
つてどこにあらがあるのか、どこに悪いところがあるのかということにばかり目くじらを立てて行くという狭い
やり方は余り感心しないと私は思
つております。むしろそれよりは
日教組のほうで
自己批判をし、
自己反省をして
日教組なるものの
つまり要素、即ち次代の
国民を養
つて行くところの、その
教育の任に当
つている
人たちの組合なんだから、そういう点を
自分でよく自覚をしますと、
日教組なるものが、非常に任務の重い、
責任の重い、それから大きな
仕事に当
つているのだ、
自分の
仕事の尊重さです。
自分の
仕事の大きなる価値に気が付いて来るのではないか。気が付いて来ればおのずから
偏向もなくな
つて真直に行けるのではないかと思います。それは時間がかかりましよう。時間はかか
つてもそういう
やり方のほうがいいのではないかと
考えます。何だか初めから
監督、監視、摘発、進めば
弾劾になる。
弾劾を今までしているのではありませんよ。今までの
文部省がそういうことをや
つているのではありませんよ。ただそういうふうの
やり方をすると、今後においても往々にして
弾劾になることがある、弾圧になることがある、それは
文部行政としては大いに
考えなければならないかと思います。むしろ彼らをみずから
自己批判をし、
自己反省をさして、本道に立戻らせるということが必要であろうと思います。併しながらそうや
つて或いは法規に触れ、或いは見逃すべからざることがあれば、これは断乎として又逮捕しなければならんと思う。そういう
やり方が望ましいと
考えておるのであります。
もう
一つ最後に付加えますが、
大学生が
大学を
了つてこの頃
就職率が非常に減じて来た、そこで
従つて若い
失業者が余計できて困
つておるということは、これは重大な問題であります。何とかこれは速かに解決をする方針に向いたいと思います。これはいろいろ
関係があるだろうと思う。
会社なり
銀行なりいろいろな
団体なりで、どうもそう採らないということは、
一つは
自分のほうの
経済事情ですよ。
自分のほうの
経済事情が御
承知のように悪くな
つていますから、
従つてこれを採用して採るという率が少くな
つているという
事情があります。併しそのほかにそういうふうに受入れて採るほうが何かこの折角勉強して卒業した
大学生に対して初めからこれ又警戒、警戒的の目で見ているのじやないか、うつかり入れると厄介だとい
つたような、どうも少し警戒的ではなかろうかと思います。これらは採るほうでももつと
考えたらいいじやないか。若し採
つた人にそういうことがあれば中へ入
つてからこれを
指導すればできるいろいろな
方面がある。
指導ということは
経済的方面もありましよう、
生活の改善ということもありましよう、それから又思想的に思想の方向を変えさせるという
やり方もありましよう。だが、もう
一つこれについて
考えたいのは、今のそこへ行くと
教育の
制度にこれが
関係して来るのであります。つまり今の
学校の卒業生が余り役に立たないというようなことがあるのじやないか。元は御
承知のように
実業教育、
産業教育が盛んだ
つたのです。各種の
高等専門学校があ
つた。これは大変役に立つ。そういうことを
会社や
銀行や
団体じや相当望んでいるのです。今の
大学出たものはどうもその点が不備である。そうだとすればそういう
就職率というような問題から
考えて、この今の
教育の
学校制度の問題も
考えて行かなきやならないと存ずるのであります。つまり実際問題、
生活問題、就職問題、そういう実際面から
考えて、それを掘下げて行くと
制度の問題に入る。これが一番実際的の
考え方じやないかと思います。別の
言葉で言えば
産業教育のこれが
振興であります。
実業教育、
産業教育というものを大いに
振興しなければ
いかん。殊に
日本が実質的の
独立国になるのには一番必要なことだと思いますから、そういう
方面、
産業教育の
振興も図
つて行きたいと思う次第であります。まあそんなことでよく
研究もしますし再
検討もいたしまして、できることは成るべく早く手をつけて行きたい。じつくり
考えなければならんことは慎重にだんだん
考えて行きたい。これは
教育及び
文政の
仕事というものはほかの
仕事と違いまして早くや
つたらいいというわけにも行かないのですから、落着いてじつくりやる必要がある。併しながら今の就職問題なり、それから
日教組に対する問題なり、こうい
つたようなこと並びに
科学振興の問題などというようなことは、これは一日も争うべからざることであります。成るべく
一つ勉強して、そういう
方面にや
つて行きたいと
考えておる次第であります。どうぞ皆さんよろしく御
指導を願います。
一言御
挨拶を申上げます。