○大山郁夫君 私はこの
賠償協定にはもう腹蔵なく賛意を表するものでありまするが、
平和条約に
関係してはまだ私の疑義がすつかり解けないので、むしろ
平和条約の内容ということもございますし、それに対して私が如何なる
態度をと
つていいかというその決定に実は迷
つているところなんで、私は非常に複雑な
気持を以てこの
協定と
条約に対しておるわけなのであります。一体この
協定並びに
条約に対するさまざまの
態度がありますが、皆歴史的の産物なのであります。殊に私の場合は、第一次
世界対戦以後の歴史的の自分たちがと
つて来た
態度の結果であるという、又私と同じような
考えを以てこの二つの文書に対しておる人々も非常に数が多いので、それで私の
気持を
ちよつと一言だけさせて頂きたい。それは決して無意義じやないと私は
考えるのであります。
私たちはこの
賠償の問題に対して異議があるはずはないので、私たちは第一次
世界対戦後長い間帝国
主義戦争反対、政治的自由獲得というような、
アジア諸国の独立というようなことでいろいろ闘
つて拳りました。そしてあの第一次
世界大戦だけは是が非でもこれを防止したいといろいろな努力をいたしておつたわけでありますが、到頭失敗いたしました。若しあの第二次
世界大戦防止に成功していればこんな問題も起らなかつたのに、この問題が起るときに私はこの過去の失敗を見て常に慙愧に堪えない。何とも言えない。失敗したということは決して自慢になるどころではなく、私たちのあの第二次
世界大戦を防止する努力が到頭水泡に帰したということに対しては非常に慙愧の念を禁じ得ないので、そうしてあの第二次大戦が起つた結果として
ビルマは非常な大きな苦痛を受けた。
日本の軍隊の蹂躙に曝されて何とも言えない苦痛を受けたので、この
賠償協定並びに
条約を見るというと、この
賠償というのは
日本軍が
ビルマの
国民に与えた苦痛と損失に対して行われるといういうに書いてあると理解しております。損失のほうは計算ができるかも知れませんけれ
ども、苦痛のほうは到底その計算ができないものではないかと……。だが併し、
日本の負担能力もあり、又今後他の国々と
賠償問題を解決しなくてはならないような地位にあるわけだから、いろいろな制限があります。この十年間に二億ドルの
賠償をして
ビルマの
国民の気が済むわけでもありますまいが、それで納得してくれるというようなことがあつたならば実にもう望外の仕合せであるということが言えるのでありますが、併し私たちは、今申しましたようにその苦痛というものは決して金で買えるものではないのであるからして、どうしても
ビルマに対して再びああいうような苦痛と損失を与えないような保証を与え或いは保証を与えるに等しいような
状態を作るということが必要じやないか。そういうことからして私は
日本の再軍備に要る費用というようなものをそつちに廻すというようなことも
考えたのでありますが、併しこれは別問題でありまして、やはり再軍備は再軍備として
考えて取扱いたい。併しともかく
ビルマの人々の苦痛が到底金で報いられないというようなことを強く
考えられたのは、やはり昨年のあのビキニの水爆実験の時からなんで、あれから
賠償問題が起りました。
賠償ということは非常に大事である。我々はできるだけたくさんの
賠償を被害者に与えるように努力しなければならないのだが、併しアメリカが何千億の金を積んだところで、
日本人が受けた苦痛というものは決して慰められるものじやない。あの問題に関しては私たちは
賠償問題も大事だが、
賠償以上に大事なのは、水爆実験の禁止だと、こういうふうに
考えるのと同じで、ただ被害者が違うだけで、問題は同じ点にあると思います。ともかくあの
賠償額を
ビルマの人たちが受けてくれて、今後
日本と
ビルマとが
友好関係に入
つて行くことができるならば、これ以上の仕合せはないので、その
賠償協定に対しては文句はありませんし、もう絶対の賛意を表するものであります。
平和条約のほうにおいてもそうなので、
平和関係を結ばなければ
賠償ができない。
平和条約が
条件になるから、
賠償の
協定に対してそれほど賛成しておるならば、
平和条約にもすぐに賛成していいのじやないかというようなことも言われると思うのであります。殊に
ビルマは御存じの
通りアジアの問題に対しては我々と同じような
考えを持
つておるのであります。
中国を早くから
承認しておるのであります。サンフランシスコのあの講和
会議に対して
とつた
態度も我々にちやんと腑に落ちる。それから最近周恩来
総理と
ビルマのウー・ヌー首相とはあの共同宣言を発して、平和五原則というものを
はつきり認めておる。平和五原則こそは今後
アジアの諸
国民が
世界の平和のために尽す行動、政策というものを決定する非常に重大な問題であると思います。
ビルマは賛成どころが周恩来と一緒に共同
声明を出して平和五原則を認めておるのであります。又我々が今後
アジアの問題として非常に重視しておるあのSEATOに対しては、
ビルマが入
つておらない。こういうような国と
友好関係に入るということは本当に我々は仕合せで、そうして
世界平和を非常に念願しておる者から
言つたならば、もうすぐに飛びついても手を握らなければならない。そういう
意味で、そうして
平和条約というものが
賠償協定の実施の
条件とな
つておるものと見るときに、そういうようなときに、我々は勿論もう本当に百パーセントそれに賛成しなければならない、そういう
気持も私に湧いておるのでありますが、ただ
一つ、私たちは
サンフランシスコ条約の結ばれたときに、あの講和
条約と、それから日米安全保障
条約に対しては青色を投じたのであります。ところが今度のこの
平和条約というものが相当にあの
サンフランシスコ条約と関連した
意味を持
つておるので、それでこの
条約に無
条件に賛成するということは、
平和条約、それから日米安全保障
条約を否定した我々の
態度と
矛盾するようなことがあるのじやないか。併しだんだん
考えてみると、積極的に
矛盾するようなことはないと思います。それから又将来
中国の問題とか、或いは朝鮮の問題、それから極東の問題、全
アジアの問題に関する我々の発言、或いは行動がそれによ
つて積極的に直接に制肘せられるということがないということは、それは確信しておるのであるけれ
ども、併しともかくも私はこの
平和条約をもつと研究して、そういう点を
はつきりさせようとしたが、併し審議期間が非常に短かくて、私は十分の
質疑をすることができなかつたわけで、今まだ私の疑義をすつかり解くまでに至らない。併し
賠償協定にそれほどの賛意を表しておるならば、そういうような問題は政治的に取扱
つて、こういうことを乗り越えてというようなこともあるのでありますが、併し私はむしろ棄権するのが本当じやないか。自分が棄権したところで
平和条約が成り立たないというようなことはないのだから、それで自分の疑義がまだすつかり解けておらないというその点を表明するために
一つの手段として棄権したい。
平和条約のほうに関しては棄権したいと、こういうふうに
考えております。そこで一括して議題に供せられることは非常にむずかしい問題になるので、どうしていいかわからないのですが、併し別々に取扱
つて下さるならばそういうふうなこと……。私は
平和条約に反対しているのではないが、
平和条約に対して如何なる
態度をとるべきかということに対して迷
つている、そういうような
状態で、非常に複雑な
気持ちですから、そういうふうに御了解願います。