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参考人(
坂寄林蔵君)
坂寄でございます。最近、非常に発達して参りましたこの
自動車企業の多くな
つて参りました
事故の
原因がどこにあるかということでございますが、私
たち労働組合側から見ました場合には、先ほど旅客
自動車組合の
伊坪さんがおつしやいましたように、いわゆる
業者の
労務管理のでたらめさというものが最も大きな
原因じやないかと
考えておるわけでございます。
先ず
最初に申上げたいと思いますが、私どものほうの私鉄総連と申す組織は、いわゆる国営の鉄道、或いは
自動車、或いは
東京都とか地方の公営
企業体が
経営しております公営
バス企
業者を除きましたいわゆる民営の鉄道及び
自動車の
従業員をも
つて組織しておりまして、全国の民営の鉄道、
バス企業のうち、鉄道におきましては約九一・四%、
バス事業におきましては七四・一七%の人員をも
つて構成しておりまして、私の申す
意見は、大体国営及び公営を除きました他のいわゆる民営の
バス事業に属する
労働者の
意見を代表したものと
考えるわけでございます。先ほど
伊坪さんがおつしやいましたように、殆んどと申しましてもよろしいほど、約八〇%程度がいわゆる
ハイヤー、
タクシーの車の
事故で、残りの僅か二〇%程度がその他のいわゆる
バスとか、或いは
トラツク等にあるんだということをおつしや
つておりましたが、然らばその
原因はどこにあるかと申しますと、例えば
バス等の場合におきまして、いわゆる大
企業と申しましようか、この表におきましては、東急電鉄であるとか、或いは東武鉄道であるとか、大は一万以上の
組合から、小さいところは二十か三十を持
つて小さな
経営をなしているものも私どものほうには参加しております。例えば佐賀県の嬉野温泉における国鉄の
バス転落事故であるとか、或いは三重県に起きました同じような大きな
転落事故と、こうい
つた特例の場合は別ではございますが、いわゆる日常起きます通行人に怪我をさせたとか、或いは非常に小さな問題で
事故を起したという場合には、地方の中小
企業における
バス組合の
従業員が
事故の大半を占めておりますのが現状でございます。特に、この私ども民営のパス
業者の場合におきましては、地方の
業者の
労務管理と申しましようか、
労働組合というよりもいわゆる
従業員に対する近代的感覚がないというのが
一つの大きな
原因ではないかと
考えるわけでございます。たまたま私どもに参加しております先ほど申上げました三重交通の転落事件以後、このたくさんの人命を預か
つて我々としては輸送しておる
関係でもございましようが、いわゆる建設省といたしましては
事故の
原因を、
道路の幅が狭い割合に比較して最近非常に
バスの車両が大型にな
つて来たため、車両を制限する必要があるとか申しまして、いわゆる車両制限令なるものを現在計画中とか聞き及んでおります。それから或いは一部の
業者等におきましては、
運転手の素質が悪いために
事故が起きるのだということも申しております。更に
警視庁等の取締り
官庁におきましては、定員を超えた乗車をさせるから、それが
事故の最大の
原因になるのだと申しております。私どもはこうい
つた建設省や或いは
業者、それから
警視庁と
取締り当局のそれぞれの
意見を決してこれが
事故の
原因ではないと頭から否定するものではございません。
道路の幅に比較して車が大きく
なつたこと、或いは
運転手の素質が悪いということ、或いは定員外にたくさんの乗客を乗せたということも
一つの
事故の
原因ではあろうとは
考えております。併しながら、最も大きなこの
事故の
原因と申しましようか、最大の
原因というのは、いわゆる
業者が近代的感覚を失
つたと申しましようか、或いはただいわゆる公益
事業でありながら、その本来の使命を忘れまして、営利的にのみ、儲けることばかりを
考えておるが故に、こういう
事故の最大の
原因があるのではないかと
考えるわけでございます。
特に
参考までに申上げたいと思いますが、この私鉄の
バス業者ほどいわゆる賃金におきましても、或いは労働条件におきましても差のある
企業はほかの
企業に比較幟してないと
考えております。例えば
関東地方における東武であるとか東急であるとか、或いは京浜であるとか、関西における近鉄、京阪神であるとか、或いは中部における名古屋、九州における西鉄と、こうい
つた私鉄では大手十三社と称しておりますが、この大手
企業におきましては、賃金体系というものが、いわゆる基準賃金と申しまして、最低少ないところで一万五千六百円から一万八千七百円と非常に高額にな
つております。この賃金体系というものも、
一つは、例えば体が
工合悪いために一月のうち一日も出勤しなくてもよろしい、基準賃金というものは保障せられておりまして当該
労働者に払われております。
従つて生活の安定というものが非常に確固たるものとな
つておりますので、安心して輸送の
業務につけるわけでございます。ところが、その半面に参りますと、非常にこれは何と申しましようか、
参考資料が少くて申訳ないわけでございますが、京阪神急行の傍系
会社たる阪急
バスというものが大阪にございます。これはいわゆる
バス専門の
会社といたしましては非常に大きいわけでございますが、こうい
つたいわゆる
バス専業
会社の最も大きい阪急
バスでさえも、一万二千二百二十五円という基準賃金のうち、千二百五十六円というものはいわゆる
歩合給制度にな
つておりまして、出勤しなければ、或いは乗務しなければこの賃金がもらえない仕組にな
つております。又和歌山県における明光
バス等におきましては、一万一千六百五十円という金額を一応
会社、
組合側で締結しておりながら、四千九百二十六円というものが同じような
歩合給でございます。
東京における国際興業におきましても、一応額といたしましては一万六千二百三十六円という大手十三社並みの基準賃金をもら
つておりますが、そのうちの三千二百六十五円がこれ又
歩合給でございます。八王子におきます五王
バスにおきましては、一万三千四百八十三円という賃金でありながら、四千七百四円が
歩合給でございます。最もひどい例といたしましては、千葉県の成田
バスにおきましては、一万一千四百十七円のうち、半分以上の六千四百十八円というものが
歩合給でございまして、当然こうい
つた地方の
バス会社におきましては、当該
労働者が欠勤した場合、その他の理由で休んだ場合におきましても、賃金がそれぞれ差引かれまして、五千円乃至六千円程度しかもらえないというのが現状でございます。
更に日常の勤務体系におきましては、先ほど申上げました大手十三社におきましては、いわゆる基準法に定められました拘束八時間の中から休憩時間であるとか、或いは法に定められました点検時間等を差引きますと、実際に乗務する時間が五時間三十分、多いところでも六時間でとま
つております。その半面地方における例えば静岡の東海パス、或いは箱根、今申上げました成田
バス、茨城県の常総筑波等、私どもといたしましては、いわゆる中くらいに属するこうい
つた企業におきましては、短いダイヤにおいても七時間から八時間、甚だしいダイヤにおきましては、一日の乗務時間が勿諭これは折返しにおける休憩時間も含んでおりますが、十七時間五十分が東海
バス、箱根根におきましては十三時間、成田
バスにおきましては十四時間と五分、常総筑波鉄道においては十二時間と十分という非常に長いダイヤがございます。こうい
つた非常に極端な例で申上げれば、十七時間五十分というような時間を走らなければ、先ほど申上げました基準賃金というものが本人の
手許に入らないわけでございます。更に各社の協定時間というものが、一応こうい
つたのは特例でございまして、例えば十七時間五十分を毎月走
つているわけではございません。短い日には六時間か七時間で上るものもございます。併しいわゆる月平均を
考えてみました場合には、最も短い例等におきましては、
関東における東武鉄道においては四時間三十分であるとか、或いは東急において五時間であるとか、殆んど大
企業におきましては四時間半から五時間半程度にとどま
つておりますが、地方における先ほど申しました明光
バス、或いは北海道の旭川市内、その他の地方の同じような小企
業者を
考えてみました場合には、基準法に定められました八時間というものを目一ぱいに乗せられております。勿論この中には休憩時間やその他の点検時間等もあることにはありますが、この時間というものが恒常的にダイヤに含まれておりまして、事実上は基準法をないがしろにしたような時間の協定によ
つて無理に走らされると申しましようか、苛酷な労働条件を強いられまして働かされているのが地方の
バス労働者の現状でございます。たまたま先ほど申上げましたように、いわゆる
ハイヤー、
タクシーの
労働組合に比較いたしまして、
バスの場合は数は少いと申しましても、一朝
事故が起きました場合には、非常に大きな
負担を生ずるような
事故が起きることは勿論でございます。この場合におきましても、例えば東急、京帝、或いは東武等、こういう大手筋の
会社におきましては、例えば
科料、
罰金或いはその他のいわゆる本人が責任を負
つて事故を起したような場合におきましても、殆んどが
会社負担でございます。最も悪いようなところでさえも、いわゆる
会社、
組合によ
つて運営されております共済会制度というものの中から八割乃至九割を
負担しておりまして、本人がいわゆる
科料とか、
罰金を全額払うというようなことは殆んどございません。ところが地方に参りますると、例えば茨城交通であるとか、或いは青森県の津軽鉄道の
バス組合であるとか、或いは広島県における鞆
バスであるとか、或いは九州の南薩鉄道とか、こうい
つた組合におきましては、
事故が起きました場合には、
科料、
罰金は勿論、或いは被害者に対する損害賠償の示談等におきましても一切を本人が
負担するというようなことでございます。従いましてこうい
つた結局我々が毎月、例えば一万五千なり二万円もらう給料のうちから、大きな
事故を起した場合には半年も一年間もに亙
つて結局二千円なり三千円なりを賃金から差引かれるという現状が起きているのでございます。そのために生活が苦しくな
つて参りますと、必然的に時間外なり、或いは休日出勤をして賃金を
自分で保障をしなければ、その月の生活が安定できないというところに無理をして日常乗務をするために、これに伴
つて事故が発生するということも
一つの大きな
原因ではないかと
考えているわけでございます。で、私どもといたしましては、この年末年始にしろ、或いは日常等の問題にいたしましても、率直に申上げまして、いわゆる大手筋におきましては
会社と
組合と協議の上で十分にそれに対する対策もあり、又日常の生活も苦しいながらもやつと切抜けられるような一応の安定はついておりますが、現在までの申上げましたような
状態の中におきまして、地方の中小私鉄と申しましようか、中小企
業者の下で働かされている
労働者というものは、苛酷な労働条件によりまして、非常に苦しんで毎日本人の過重な
負担によ
つて日常の
バスというものを
運転しているというのが実情でございます。特にお願いしたいわけでございますが、まあ仮に、抽象的なことを申上げましても本
委員会におきましてはお取上げにならないかとは存じますが、確実な例といたしまして、私どものほうに参加しております
組合に北海道の旭川電気というのがございます。ここでは鉄道と
バスを兼営いたしておりまして、約百六、七十名の小さな
会社でございますが、最近までは鉄道
関係だけで
労働組合を持
つておりました。ところがここに働いている
バスの
従業員というのは
労働組合がないために、いわゆる
会社の一方的労務政策によ
つて働いて参りました。その結果基準法も何も一切を無視されまして、例えば出勤すれば幾らもらえるというような仕組みでございまして、例えば今日一日の労務を終了いたしましても、明日何時に乗るのか、本日のダイヤが終
つたあとでなければ明日のダイヤがわからないというような実情でございます。又
会社の労務政策というものも、これは最も飛び離れた悪い例ではございますが、いわゆる出勤等にいたしましても、例えば月に四回の公休がございますが、一回よりも二回、三回よりも四回というように、四回目におきましては四倍も五倍も割増賃金をつけるようにな
つておりまして、当該
労働者といたしましては、月のうち三日公休出勤をした残りの一日を休むのは休みたいのであるが、その一日を休むことによりまして三千円も四千円も引かれるといる実情があるために、やむなくまるまる一月を殆んど休みなく働いてお
つたような実情でございます。それだけ働いておりながら、いわゆる賃金というものがせいぜい一万円前後という、家族、妻に子供二人を抱えまして一万円から一万二千円程度しかもら
つていなか
つたというような
状態でございます。特にこのうちにおきましてはこうい
つた最も悪質な例に対しまして、さすがにおとなしい当該
労働者としても見るに見かねましたものか、丸谷、中田、山本、向井という四人の
運転者が、それぞれお互いにこうい
つた問題については
労働組合を作
つて会社と対抗しなければだめだという
考えが起きまして、最近漸く
労働組合を作り上げまして、こうい
つた苛酷な労働条件や賃金体系に対しまして、
会社に対し改正方を要求しているという実情もございます。特に私鉄総連傘下に入
つております
バス関係の
労働組合といたしましては、或いは無加盟と比較いたしますと、いわゆる
労働組合も作れずに
会社の一方的労務政策によりまして日常の運営をしているところはこれ以下のひどい場合があるのではないかと
考えるのであります。
伊坪さんがおつしやいましたように、
ハイヤー、
タクシーの場合は、千円とか二千円程度が基準賃金のところもあるとおつしやいましたが、私どものほうの場合におきましては、これはちよつと古い
資料ではございますが、現在全国で
バスの
経営をしている
会社が、昨年の一月現在で三百二十四あるとまあ大体記憶しておりますが、そのうちの百二十
組合、
企業別にして約三分の一しか私鉄総連に入
つておらないわけでございます。従いましてこうい
つたところにおいては非常に苛酷な労働条件によ
つて、或いはまるまる三十日働かなければ、いわゆる生活が満し得られないような安い賃金によ
つて働いているということは想像にかたくないと思います。
労働組合の
立場といたしましては、生活の安定のないところに、大衆の生命を預か
つて運転する
バス企業の健全な発展はあり得ないと
考えております。従いまして
運輸省当局といたしましては、最近漸く十一月九日と覚えておりますが、
運転者の疲労
防止ということについて、苛酷な労働条件によ
つて運転をさしてはならないという指示を発しました。こうい
つた問題をただ単なる指示に終らせることなく、今後いわゆるこの
事故の絶滅をど図
つたらいいかということに対しましては、
運輸省当局といたしましては、こうい
つたいわゆる
労働者の本当の姿を
考えずに、ただ儲けさえすればいいのだという頭に立
つて日常の運営を図
つているような
会社はどしどし摘発になりまして、正常な運営によりまして、
会社、
組合がそれぞれお互いの
意見を主張し合
つて、正しい運営の下に今後の
バス企業というものを発展さして頂きたいというのが、私どもの願いでございます。以上を以て終ります。