○一
萬田国務大臣 一言申しておきますが、決して私は
日本経済の前途を楽観しておるのじやないのであります。ただ一口に見通しをつかめるような
言葉で申し上げますれば、さようになるということを申し上げたにすぎません。それで、それならそういう見通しをお前はどういうふうにしておるのかという御
質問と思いますので若干具体的に申し上げてみましよう。
国際収支の関係が大まかに申して大体
日本の
経済の国力を集約的に反映するというふうに
考えてよろしかろうと思うのであります。先ほどお話のように、この三月の年度末では約一億八千万ドル近くの黒字になる。むろんこのうちから債務としてきま
つておるものを引き去らなくてはならぬと思いますので、実際は一億ドルぐらいというふうに大体
考えてもよろしい。これは当初約一億ドル、九千ドルの赤字がこの年度の初めにおいて予想されてお
つた。言いかえればプラス・マイナス約二億ドルに近いものになるのでありまして、ある程度
日本の
経済がよくなりつつあるということは、これはこの点からも十分御判断ができるのであります。
そこで、はなはだこまかくなりますが、もう少し御納得ができるように申し上げたい。むろんそうであるからこれはすべて
日本の
経済がよくな
つて自力ですべて行
つたと申すのではありません。しかしそのすべてがまた悪いわけではない。むろんいろいろ補償費あるいは出血輸出というものもありますが、しかしそうでないものも多いのであります。それは今日の物価をごらんくださればわかる。大体今まで、昨年の十月からいわゆる財政は緊縮、一口に言えば一兆円のわく、それから
金融の引締め、こういことをや
つて来た。なぜその当時これをやりましたかと言えば、いわゆるオーバー・インヴエストメント・オーバー・コンサンプシヨン、過当投資、過当消費が
日本の国力以上に行われた。そこでこれに対する対策としてどうしても購買力を締めて行かなければならぬ。たくさんの金を投資し、たくさんの物を消費するというのですから、どうしても金を引締めることから出発するのは、これはもうそれをほう
つておいたら物価の騰貴を招来し、輸入の増大を来し、輸出の減少を来すことは申すまでもない。それが昨年の秋までの状況である。いわゆるそこでずつと緊縮政策を前
内閣がおとりになりました。これは非常にいい政策なのであります。そこで今日この物価体系がどうな
つているかと申せば、あれほどやかましく
日本の物価が国際水準に比べて非常に高い高いと言われてお
つたのであります。ところが今日統計をごらんくだされば明瞭にわかるのであります。石炭は高うございますが、鉄になりますと大体国際水準、しかもこれは赤字では必ずしもない。鉄というような基礎的な素材、各
産業に関係あるそういうものについてもそこまで、その他の商品をとりましても相当安くはな
つておりますが、しかし同時にそれが生産コストを割
つているのではなく、生産コストが下
つてやはり物が下
つている。そういう状況を相当強く今日来しているのであります。ですからそういうふうな物価情勢から見ても、今日の
経済の情勢がいわゆる堅実なる基盤を徐々に示して来ている。しかし、そうだからとい
つて決してそれが今日の
日本の
経済の困難を減殺しているというのではないのであります。そういうことになりつつあると同時にまた相当苦しい。その苦しいということは私
どもは決して無視するものではなく、忘れるものではございません。そうして今日の緊縮政策の結果どういう段階に来ているかというと、今日は生産段階に来ている。そこで問題はもう
金融の引締めだけでは生産段階では困る。従来の
金融引締めは大体流通段階において
——それはなぜかというと
金融から始ま
つたものは過当の投資、過当の消費ということが中心である。これは何をおいても
金融を引締めることが当然先行しなければならない。財政を引締めることが先行しなければならぬ。ところがそれが生産段階になると、それは
経済政策と
産業政策と相ま
つて行かなくてはならぬ。この
産業政策の今までの不融通なところに問題がある。これみながいわゆる総合政策を望んでおるゆえんで、この総合施策のなるように
産業政策、
経済政策を十分にここに確立して行こうというのが、おそらく新
内閣の一つの大きな使命ではなかろうかと思う。そうしますとここに財政
金融の引締めによ
つて日本の
経済をりつぱにして行く基盤をならしつつ、他方において
産業政策によりましてだんだんと合理的にものを持
つて行く、いわゆる
金融だけではない、どうすれば生産コストが下がるかという
産業の合理政策をここに打込んで行く、同時にこういう地ならしをするには御承知のように失業者が出ることははなはだも
つて遺憾であるが免れない、そこでここに失業対策を十分立てよう、こういうのも今度の新
内閣の使命であろうと思う。失業対策を立てて盛んに融資する、そういうふうにして行くから物価も下り
経済も健全化して、同時にこうなれば物も下
つていい物ができるから輸出が増大して行く、こういう
状態が来る、これが私の
考えであります。