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国務大臣(一
萬田尚登君) 私は、この機会に、
わが国経済が直面する基本的な
動向を明らかにいたしまして、今後これに対処すべき
財政金融政策に関する
所信を申し述べ、
国民各位の
協力を得たいと存じます。(
拍手)
国内資源に乏しく狭小なる領土に膨大なる人口を擁しております
わが国といたしましては、自給自足によ
つて生産の拡大、
国民生活の
向上をはかることはとうてい望み得ないのでありまして、
わが国経済の発展は諸外国との間の
経済交流の増大に待たねばならないのであります。従いまして、われわれといたしましては、
国際経済の
動向に常に十分な注意を払いますとともに、これに応ずる
国内経済体制の
整備をはからねばなりません。
最近にお営まする
国際経済の
特徴的情勢は、
世界の
主要国が
貿易及び為替の
自由化に向
つて真摯な
努力を傾けているということであります。
西欧諸国におきましては、戦後
欧州経済の一体化が叫ばれ、
欧州経済協力機構、
支払同盟等の
結成強化が促進され、
諸国周の紐帯の
緊密化がはかられるとともに、
各国またこの目標に向
つてそれぞれの
通貨及び物価の安定、
経済の
復興、
貿易規模の
拡大等に邁進しておるのであります。最近における
各国の
保有外貨の増加、
国際収支の
改善等には著しいものがあります。
西欧主要国の
通貨の
交換性は遠からず実現するものと思われるのであります。
米国におきましても、かかる
情勢を促進すべく、
自国経済の安定を通じまして
世界経済の
自由化を促進することに重大な関心を寄せるとともに、
互恵通商法の
延長等によりまして
貿易の
自由化に寄与せんとしつつあるのであります。このような
動向を反映いたしまして、一時憂慮せられておりました
米国の
景気後退の現象も最近は解消したのでありまして、今後もかかる景況は持続され、
国際取引も促進されるものと見られているであります。
東南アジア地域諸国の
経済も、昨年下半期以降
米国等の
景気好転の影響を受けまし、概して好転し、
国際収支の面でも幾分
改善が見られるようにな
つて参りました。
今日、
世界の
貿易の半ば近くは、ドルその他の
交換性のある
通貨によ
つて行われているのでありますが、もし英国、
西ドイツ等の
通貨が
交換性を回復いたしました暁には、
世界の
貿易の大部分が
交換可能通貨によりまして行われることになり、
貿易の
自由化も一段と促進されることとなるのであります。その反面、
国際場裏におきます競争はますます激化していくことを覚悟いたさねばならないのであります。かくのごとき
世界の基本的
動向に対しまして、
わが国の態勢は果して
整備されているでありましようか。これこそ最も重大な問題であると
考えるのであります。(
拍手)
戦後十年を経ました今日、
わが国の生産及び
国民所得はすでか戦前の水準を突破いたしました。しかしながら、このように一応順調に推移して来たかに見えまする繁栄にもかかわらず、現下の
国際情勢に対処する
わが国経済の基礎はいまだ十分に固まつたとは申しがたいのでありまして、
経済発展の基盤たるべき輸出
貿易の規模におきましては、まだ戦前の半ばにも達していない状態であります。
国際収支の面におきましては、本年度は幸い二億数千万ドルの実質的黒字を期待し得るに至
つておるのでありますが、これは必ずしもすべてが国際競争力ある正常な輸出の伸張によるものではないのでありまするとともに、輸入規模の縮小もあつたのでありまして、
国際収支の状況は、なお今後の特需の減退等とも
考え合せますると、不安定な基礎に立
つていると申さざるを得ないのであります。
翻
つて、従来の
経済政策を顧みまするに、国内的には、一貫した
方針に従い総合的に施策する面が欠け、その場限りの
対策に終始しがちであ
つて、これがために、対外的には、かえ
つて為替及び
貿易管理の強化、外貨予算の引き締め等を行わざるを得なくなり、その結果として、
貿易及び為替の
自由化という
国際経済の基本的
動向に対しましてむしろ逆行する方向に施策がおもむくことともな
つていたのであります。(
拍手)
私は、現下の
国際情勢にかんがみましてまた、
わが国経済は国際的な
経済交流の増大のうちにおいてのみその安定した発展が可能であるという基本的性格から
考えまして、この際、従来の施策に対比し重点の置き方を変えるべきであり、対外
経済政策が
国際経済の基本的
動向である
自由化の趨勢になるべくすみやかに即応して運営されるよう
改善することをも
つて第一義といたしまして、それが可能なるごとく国内
経済政策の運営に
計画性と総合性を盛り込んでいくことが、今後の
わが国の財政
金融方策の基本となるべきものと確信するのであります。(
拍手)
すなわち、終戦後の
わが国経済の再建に当
つては、その
戦争による被害があまりにも甚大であつたためもありますが、各人がただいちずに生産の回復、消費生活の
向上に立ち向
つて来た結果、技術の立ちおくれ、経営の放漫、無秩序な
産業構造、企業の過大な借入金依存等の脆弱なる
経済基盤を内包したまま、表面的な
経済力の拡充が行われて来たのであります。これをそのままに放置いたしますならば、国際物価に比べての国内物価の割高と
国際収支の不安定は解消せず、とうてい国際競争に伍していくことはできないのであります。(
拍手)
従いまして、今後の国内
経済政策におきましては、健全な財政
金融放策により
経済の
健全化をはからねばならないのでありますが、
経済力の貧弱な
わが国といたしましては、ただ単に従来のような成り行きにまかせるという行き方ではなく、かかる目的が着実にかつ
計画的に達成されていくような総合的かつ効果的な施策を必要とすると
考えるのであります。(
拍手)これがためには、今後
わが国経済の向うべき理想的な目標と方向を描きつつ、これが実現のため必要な諸施策を段階的、総合的に実施して参る構想が樹立されねばなりません。今回
政府が昭和三十年度以降六カ年にわたる
経済の構図を描いて、前半三カ年においては、
経済の
正常化、なかんずく
正常貿易による
国際収支の均衡と将来の
経済発展の基盤の確立に主眼を置き、後半においては、特需に依存することなく、
正常貿易によ
つて国際収支の均衡を維持しつつ
経済の拡大発展と完全雇用の達成をはかることを目標といたしまする
総合経済六カ年
計画を立案いたしましたのも、またこの趣旨にほかならないのでありまして、(
拍手)この
計画は、今後さらに各方面から検討を加えて、逐次具体的な施策のよるべき基準といたしたいのてあります。
以上のような基本態勢を現実問題としていかに実現していくかにつきましては、もとよりこれに多大の困難が伴うことは当然でありますが、首尾一貫した
計画のもとに、遅疑逡巡するところなく邁進するの勇断を必要とすると
考えるのであります。(
拍手)かかる全体的視野に立つ場合とらるべき財政
金融面の施策につき、以下基本的な
考えを申し述べてみたいと存じます。
まず、為替
貿易の
自由化方策でありますが、その前提は、何とい
つても、
わが国産業の国際競争力を培養強化し、正常な輸出を伸ばして
国際収支の実質的
改善をはかることであります。この意味におきまして根本的な点といたしまして重要基礎
産業及び輸出
産業の
合理化、コストの引き下げをはかるほか、商社を育成強化し、輸出入銀行の資金の確保をはかり、また税制の面におきましても輸出免税
措置を拡大する等、総合的諸施策により極力輸出の振興を行う
考えであります。(
拍手)
このような
輸出振興のための諸施策に相応じ、補償リンク制度の廃止、特別外貨割当の削減、パーター取引等の特殊
貿易の縮小等、為替及び
貿易の
正常化に努めるとともに、為替
貿易の現行諸制度に関しましても、
自由化の線に沿うて検討を加える
所存であります。(
拍手)すなわち、現行為替レートを堅持することはもちろんでありますが、さしあたり現在の複雑な為替相場の建て方を簡素化して弾力性を持たせ、
保有外貨の管理運用制度の
円滑化をはかるとともに、今後重要輸入物資別に、これに対する外貨予算の運用の長期化、弾力化を検討いたしたいと
考えております。(
拍手)
以上のような為替
貿易の
自由化方策を実現して参りますためには、これを可能ならしむるがごとき強力な国内的裏づけを必要といたすのでありまして、その最も重要なるものといたしまして物価の
動向を
考えねばなりません。幸いに物価は昨年中下落の傾向に転じたのでありまするが、この傾向をさらに持続せしむることが肝要と存ずるのであります。これがためには、
通貨価値の安定を維持するとともに、その基盤の上に
経済の
合理化、
健全化を進めなければなりません。特に財政におきましては、健全性を堅持するとともに、物価下落を織り込んでこれを編成すべきであると信じます。
この意味におきまして、まず国の昭和三十年度予算におきましては、一般会計の総ワクは一兆円以内にとどめることといたしまして、その範囲内において重点的に
政府の重要施策を推進いたす
考えであります。(
拍手)財政投融資につきましても、その総ワクはほぼ前年度程度といたしましてその運用に当り、生産、輸送、民生等各面にわた
つて、総合性を保持しつつ、その効果を十分発揮し得るよう重点化をはかる
方針であります。さらに、財源の調達に当りましては、租税その他通常の収入によ
つてまかなうことといたしまして新たな公債発行はこれを行わな心
考えであります。
また、地方財政につきましても、特に年々規模が膨張し、また赤字が累積しておる現状にかんがみまして、その規模の抑制をはかるとともに、極力
健全化を推進することが緊急と存じます。このため、まず地方団体の自主的
努力による経費の節減及び収入の確保を期することが肝要でありますが、同時に、地方行政機構及び事務の抜本的簡素
合理化をはかり、国の補助金等の整理、効率化をはかりまして、地方負担を軽減するとともに、地方道路税の創設等によりまして地方の自主財源を充実いたしたい
考えでおります。(
拍手)なお、すでに生じました地方団体の赤字につきましては、その再建
整備の促進のため適切な法的
措置藤講じたい
考えでおります。
次に、
金融画におきましても、健全
金融の
方針を堅持いたしまして、財政
金融一体となり、
経済の
健全化の基盤を造成すべきてありまして、政策の
基調はいささかのやすきをも許すべきものではないと思うのであります。ただ一口に財政
金融一体とは申しますが、私は、
金融はその本来の機能に従い、
経済の実情に応じて、ある程度の弾力性をも
つて運営されることが望ましいと思うのでありまして、財政が健全に運営されることと相待ちまして今後できるだけ
金融の正常な機能発揮をはかるようにいたしたいと思います。(
拍手)
このような意味での
金融正常化の方向においてます取り上げねばならぬ問題は、預貯金の増強と企業資本の充実とによる民間資本の蓄積の推進ということであります。
金融機関の
日本銀行からの借り入れ依存の傾向は逐次是正せられて参りましたが、まだ十分とは言いがたいのであります。企業の
金融機関に対する依存の弊風もなお
改善せられておるとは言えません。
国民経済の拡大発展を期するためには、このような状態をすみやかに脱却いたしまして、正常にして安定した
経済基盤を確立することが何よりもまずその大前提とならなければならぬと信ずるのであります。(
拍手)このような民間資本蓄積の充実に伴い、
金融正常化の一環といたしまして、国際金利水準に比しなお高位にある
わが国の金利水準の低下をはがり、コストの引き下げに寄与することを政策の目標としつつ、戦後の特殊事情によりまして不均衡を免れなかつた現行金利体系の
整備をはか
つて参りたいと存じます。このことはまた、
日本銀行を中心とする
金融の調節方式の問題と相関連するものでありまして、従来の
日本銀行の金利政策はもつぱら高率適用制度を中心といたしまして運営されて参りましたのを改め、今後は中央銀行本来の正常な金利政策をとるようにいたすとともに、公開市場操作その他の
金融調節の方式をも取り上げるように進めて参りますとともに、また
日本銀行法その他の
金融に関する諸制度の
整備ということも慎重に検討いたしたいと存じます。(
拍手)なお、以上のごとき施策と相待ちまして、
金融機関の資金運用につきましては、これが長期的な
経済計画の線に沿
つて適切かつ効率的に行われるように、さらに一そうの配意を加えて参るようにいたしたいと存じます。
以上、
金融の
正常化ということにつきまして申し述べましたが、当面この方向に向
つてまず力をいたさねばならぬことは、何をおいても預貯金その他の資本蓄積のより一そうの増強をはかるということであります。資本蓄積の促進は戦後一貫して取り上げられて参りました政策でありますが、私といたしましては、現在までの施策をも
つてしてもなお十分ではないと
考えるのでありまして、民力を涵養し
国民貯蓄を助長するためには、そのような環境を作り出すための思い切つた
措置を講じて参りたいと思うのであります。特に資金吸収の面におきましては、
通貨価値を安定し、
通貨に対する信用を高めることをすべての施策の根底といたしますとともに、たとえば臨時に預貯金利子に対する課税を全廃する等、
国民の貯蓄意欲を大いに高揚いたしまして、これを
一大国民運動にまで盛り上げるようにいたしたいと存ずるのであります。(
拍手)
以上、為替及び
貿易の
自由化、財政の
健全化、
金融の
正常化を今後の施策の
基本方針とすることについて申し述べたのでありまするが、この方策の推進は相当きびしいものでありまして、安易な
考え方は絶対に許されないのであります。(
拍手)しかしながら、その推進の過程におきまして生じまする経過的、摩擦的現象はこれを緩和いたしまして、民生の安定をはかり、
国民が明日への力をたくわえつつ、当面の困難を克服し得るよう、適当の配意を加えて参ることは当然と言えましよう。(
拍手)
従いまして、昭和三十年度の予算の編成に際しましては、一般の補助金、物件費、施設費等の経費につきまして根本的な再検討を加えまして、徹底的にその重点化、効率化をはかり、極力これを節減いたすことにいたしまして、民生の安定等に欠くべからざる部面については特に
計画的、重点的に考慮いたして参りたいと存じておりまするが、そのおもなるものは次の諸点であります。
その第一は、住宅政策の拡充であります。(
拍手)今日、わが
国民生活は、衣食の面におきましてはほぼ戦前の水準程度まで回復いたしましたが、ひとり住宅につきましては、なお著しい不足を見ておる現状であります。従いまして、この際、民生の安定の見地から、
政府は住宅
対策の飛躍的拡充をはかる
所存であります。(
拍手)すなわち、本年四月における住宅不足は二百八十四万戸に上ると見られております。これに年々の新規需要は二十五万戸程度と見られるのでありまするが、これらの不足を今後十年間に解消することを目標といたしまして住宅建設の長期
計画を樹立いたしますとともに、この
計画に基きまして、少くとも昭和三十年度におきまして四十二万戸程度の住宅建設を実現いたしたいと
考えております。(
拍手)このため、まず財政的
措置といたしましては、公営住宅の予算を増額するほか、住宅
金融公庫の資金を充実いたし、厚生年金資金の
勤労者厚生住宅への還元融資を確保する等の
措置を講ずることといたしたいと
考えております。(
拍手)しこうして集団庶民の住宅の建設、不燃化の促進、宅地
対策の拡充に特に重点を置きまするとともに、公費によります住宅の建設及び運営の方式の
合理化をはかる
考えであります。さらに、従来民間の自力によりまする住宅建設が建設総戸数の半ば以上を占めておりまする実情にかんがみまして、民間の住宅建設の意欲を大いに促進するために、税制上の特別償却制度の拡張等を行う
所存であります。(
拍手)他面、不要不急の建物の新築は、当分の間これを抑制する
措置を講じたいと
考えております。
その第二は、
社会保障の強化であります。(
拍手)長期的には、総合的な
経済計画のもとに完全雇用を実現することを目標といたしておりまするが、さしあたり、来年度におきましては、
失業者につき生産に寄与し得るよう極力これが吸収をはかるとともに、生活困窮者の救済に遺憾なきを期するため、
失業対策費その勉の
社会保障関係費を充実するとともに、
緊急就労対策事業を拡充し、
公共事業等についてもできるだけ
失業者の就労促進をはかるよう、その施行地域、工事種目等に適切な配慮を加え、これを実施して参る
所存であります。(
拍手)
その第三は、中小企業
対策の充実であります。(
拍手)
経済健全化政策の円滑な推進をはかるため、中小企業
対策を重点的に充実することといたし、これがため、中小企業を
組織化、系列化して企業の
合理化をはかるほか、
金融面におきましては、
国民金融公庫、中小企業
金融公庫等に対する資金を確保するとともに、中小企業の租税及び金利負担の軽減について所要の
措置を講じたいと思います。(
拍手)
第四は、税制の改正であります。現行の租税制度は、
わが国の
社会、
経済の実情に即しないという批判もありますので、
政府といたしましては、根本的に再検討を行いたいと
考えておりますが、さしあたり来年度におきましては、民生の安定に資するとともに資本の蓄積を推進するため所要の改正を行いたい
所存であります。(
拍手)すなわち、
勤労者、
中小企業者、
農民等の低額所得者の
負担軽減を中心とする所得税、法人税、事業税の軽減を行うことといたし、また、臨時に預貯金利子に対する課税の免除、配当所得に対する源泉課税の軽減を考慮いたしております。(
拍手)これらの
措置に伴
つて生じたる財源の不足は、消費税その他間接税の増収等をも
つて補填する
方針であります。
〔発言する者多く、議場騒然〕