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長谷説明員 ただいま
お話のありました第十伸洋丸につきましては、過般私の方も実地検査をいたしましていろいろ
調査を進めておりますが、なおまだ
調査をする必要の点が残っておりますので、最後的なものではございませんが、現在分明しておる範囲内で御報告申し上げたいと思います。
御
承知のように、第十伸洋丸は去る五日から十四日までの間、結果的に通信が不能でありました。この第十伸洋丸のすぐ前にやはり同じような遭難事故がありまして、これは遺憾ながら今でも行方がわからないような例がありましたので、関係者は第十伸洋丸もまたその前の船と同じような運命にあったのではないかというようなことから、新聞紙上にも報ぜられたように、いろいろな手段がその間に打たれ、非常に大きな捜査をされたのであります。結果的には御
承知のように船は無事に戻って参りました。その十日間ばかりの通信ができなかった
期間は、これは無線機の故障でございまして、通信士を初め関係者はこれを何とか直したいということで、非常に
努力を払ったようでありますが、最後に十五日にやっと一応の連絡ができるところまで立て直しができたのでありますけれ
ども、その後もまた悪くなって、浦賀に帰着しましたときには十分な通信ができないような形になっております。
それならなぜそんな
状態になったかという点をかいつまんで申し上げてみたいと思いますが、この無線機は非常に古い無線機でございまして、もうそろそろ寿命も近いというくらいになっておる。それで昨年の暮れにこれを修理に出したようでありますが、その修理が出航の関係で十分完了をしていなかったのではないか。一応徹夜作業までして修理を担当した業者が鋭意やったようでありますが、結果的に見ますと、完全な修理及び修理をやったあとの調整が完成されていなかった。これは一月の三日に出航いたしておりますが、一月三日の出港のまぎわまで
整備をしておったようであります。それから種田何がしという無線通信士でありますが、これは成規の試験を受けて成規の資格をとっておる三級無線通信士でございますが、その者はその一月三日出航のときに採用になって、いきなり船に乗ってやっておる。今まで第十伸洋丸の無線機についての予備知識なり何なりが全然ないままで乗って、しかもその機械が今申し上げたように
相当古いものを修理をした。しかも修理の結果も十分見きわめ得ずに船の都合で出てしまった。こういうような
状態のようであります。従いましてその出航しましてから四日の日までは一応の通信ができたようでありますけれ
ども、五日から各方面のところにいろいろ故障が出てしまいまして、本人はその故障をいろいろ直そうとして
努力をしておる跡が十分見受けられます。しかし風波が非常に高かったようでありまして、御
承知じゃないかと存じますが、これは漁船でございますが、漁船の無線機を置いてある部屋は非常に狭い部屋であります。その中で、船が非常に動揺する中で非常に一生懸命修理をしようとして、本人は感電までしておるくらい一生懸命やっておる。しかしその無線通信士の三級という本人が持っている技能では手に負えない
程度、あるいは航行中の船ではちょっと手に負えない
程度の故障のところも数カ所あったようで、ずいぶん苦心をしたようであります。その結果、先ほど申し上げましたように四囲の条件も悪かったし、それから機械そのものも非常に悪かったために、本人がいろいろ
努力をしたけれ
ども直すことができなかった、こういうような様子でありまして、ただその無線通信士が船長に無線機の故障のことを話をし、船長がそれに対して適宜の
措置をとるということについて、結果的に見ますと、どうもその間に時間的に少し長過ぎた、あるいは批判されるような点がないわけではないのでありますけれ
ども、いろいろ実情を
調査してみますと、すべて善意と申しましょうか、故意にそういうことをしたのではなしに、無線通信士としてみれば、こうやれば直るかもしれぬ、直って通信ができるならば別に問題はないのだからという
気持で、一日、二日と延びてしまったような様子も見受けられます。また電波法によりまして無線機の運用規則というものがございまして、いろいろ運用上の規律がございます。たとえば相互に混信その他のじゃまをしないようにするとか、それにややのっとっていなかったようなところがあり、あるいは毎日何時からある特定のきめられた電波を傍受する、いわゆる聴守を
義務づけられておる時間がございます。そういうときも聴守しなかったというようなことはあったように思われますが、これはそのときの実情からいいまして、本人が何とか機械を直したいということに専念しておったために、不本意ながらそういうことをやらなかった。また電波の使い方が適当でなかったという点は、自分がこういう電波を出しておるつもりのものが、機械の故障のために少しずれておる、そういうこともあったようでありまして、十分注意はすべき問題でありますが、電波法違反というようなことで取り上げるほどのことではなさそうに思われます。
ただ私
どもとして今後いろいろ問題になる点と
考えておりますのは、このような無線の機械を直す工事人、これは一般の会社の者でございますけれ
ども、間々十分ではないような者が
現実にあるようであります。これは今回のことばかりではなくて、間々こういうことがありますので、私
どもとして何とかしてこういう者の技能の向上ということをはかり、またまじめに仕事をするように指導していかなければならない、こういうことでいろいろ手を尽しておりますが、これは戦前には工事者の指定と申しますか、認定
制度がございました。しかしその工事人の認定
制度というものは戦後廃止されましたために、今は自由に彼らの責任観念にだけよっておる形になっておりますけれ
ども、これは場合によっては私
どもとして、昔
通りの
制度にするかどうかは別として、
考えなければならぬ点があるのではないかということで、実は昨年来いろいろ方途を
考えておったところでありますが、これは今回の例もございますし、この線についてなお一そうの研究を至急しなければならぬ、そういうふうに
考えております。また無線局の検査を年に一度やっております。この検査も私
どもとしてはいつも入念にやっておるわけでありますが、この検査というものに対して免許人が、やむを得ず役所の検査を受ける、検査のときさえうまく済めば、あとはもうそのままあまり関心を持たないという傾向が多少あるようであります。これは検査のための検査ではないので、無線機がいつも正常
状態に保たれ、そうしてこのような事故などが起らないようにすることが目的でありますので、今後免許人に対しても、そういう啓蒙的なことはなお一そうしなければならぬ、こういうふうに
考えております。
今回の第十伸洋丸につきましては、実情
調査の上では、別に故意に違反的なことがあったりしたのではなくて、一生懸命やったのだけれ
ども、たまたま一週間から十日ばかり通信がとだえた格好になって、どうも世間をお騒がせした、しかし本人たちは非常に一生懸命やっておったという点が見られますが、先ほど来申し上げましたように、こういうことがないようにいろいろ指導ということは、私
どもも注意してやらなければいかぬ、かように思っておる次第であります。