○重盛壽治君 私は、
日本社会党第四
控室を代表いたしまして、青函連絡船の遭難事件に関しまして、緊急処理を如何にするかについて、
政府の所信を質したいと存じます。
九月二十六日の夜、青函連絡船は洞爺丸を初め五隻の沈没をした、八十億の財源を海底に沈め、千二百八十六人の犠牲者を出した。更に行方不明は百六十一人、僅か生存者二百一人という大悲惨事を惹起せしめたのであります。
日本の歴史始ま
つて以来の海上悲惨事であり、誠に遺憾千万のことと存ずる次第であります。
本件を何故緊急問題として取上げたか。このことは九月二十九日北海道方面を襲つた台風によ
つて生じたこの事件は、決して天災だけではない。むしろ吉田内閣の政治の貧困にその
原因があつたということを指摘しなければならないからであります。(「そうだそうだ」と呼ぶ者あり)何となれば、あの悲惨事が起きる前に、例えば造船疑獄のリベートの一握りでも、このほうに廻して事前に港湾
施設の改善とか、或いは気象機関の充実をしておつたならば、あの大暴風雨をして食いとめることはできなかつたかも知れんけれ
ども、あの悲惨事は起さずに済んだであろうということを申上げることができるのであります。
従つて私は、本件処理について
政府に質問すると同時に、議員各位に対して、我々調査の結果から見た当時の模様の若干を申上げてみ行いと存じます。
青函鉄道管理局は十四隻、四万八千トンの船を運航して、一日に約一万人の旅客と一万トン程度の貨物を輸送しておる。この大きな機関が、若し民間会社であつたとするならば、一大汽船会社に相当するものである。その機構全体が、船舶の運航ということに対して比較的軽視してお
つたのではないか。例えば局の幹部の職員の経歴を見ましても、船舶課長補佐以上の幹部の職員中には、船舶の運航に
関係ある者は僅かに二名、又船舶の乗組員にいたしましても、五万トン近い船舶所有者であるにもかかわらず、高等商船、商船
大学の卒業者は極めて少く、大部分が実地出の者によ
つて構成されておる。その
原因の
一つは、国鉄当局が船舶乗組員に対する待遇が極めて悪い。国鉄当局がその業務を鉄道に重点を置くということは止むを得ぬことであるけれ
ども、青函鉄道管理局のごとき特殊機関は、海上運送の安全という点に重大重点を置かなければならないのであ
つて、人的構成についても、若し専門家を揃えていたならば、今度の事件も最小限度に食いとめることができたのではないかということが痛感されるのであります。運輸省及び国鉄当局としては青函局の機構の改革、或いは人事に対して再考をする
意思があるかどうか。これを
一つ承わ
つておきたいと存じます。
事件当時における鉄道管理局の警戒体制の
実情を極めて簡単に申しますが、洞爺丸から二十一時二十六分、「エンジンダイナマもとまりつつあり突風五十五メートル」という無線連絡があつた。それから二十二時四十分、SOSを受信するまで一時間以上の時間があつた。その間当局としてはどういう処置をしたかといいますると、この間の処置が完全でなかつた。三回に亘る連絡をとりたけれ
ども、最後の連絡は、その
状態を詳しく知りたいと思
つて無線電話を送つたが、遂にこのときには“陸上の停電によ
つて無線電話は不可能にな
つておる。更に加えて、石狩であるとか十勝であるとか、次から次へ入
つて来る危険の
状態等をキヤツチしておるまでに、その間に横転した洞爺丸の遭難事情は知らなかつた。洞爺丸の遭難者の中から、この上陸した者が訴えて、初めて洞爺丸の遭難事件を知つたというような事情であつたということは、甚だ遺憾ではなかつたであろうか。これに対して青函局は陸上に
責任者が多数集
つてお
つても、このことはどうする方法もなか
つたのであるというようなことを言われておりまするけれ
ども、これは十分考慮しなければならない問題ではなか
つたのではないか。
次に、函館海洋気象台の問題をちよつと触れて見ますと、函館海洋気象台予報室は、本庁舎より約五キロ離れた分室にある。その間の連絡は、公衆電話一本でや
つている。一本の公衆電話によ
つてNHKを初めとして八カ所にも連絡をしなければならない。
従つて一たび連絡をとるということには、実に一時間半もかかるということであ
つたのであります。更に又、海洋気象台と札幌管区気象台とを結ぶものは、専用有線電信でありて、予報室は、中央気象台の無線放送より受信して天気図を書くのだそうですが、この受信の電源は、一般の電燈線によるか、或いは蓄電池によるのみであるというような貧弱な
状態であつた。
従つて当日
事態を案じて応援に駆けつけましたところの職員も、電話一本、受信機一台という
状態でありまして、手の出しようがなかつたということが言われているのであります。
このように気象情報の連絡通信
施設が貧弱なため、今度の十五号台風下においては全く気象官署間の連絡も、又外部との連絡も共に杜絶するに
至つたのであります。即ち同日十九時三十分頃、予報室と本庁舎との電話線は不通に
なつた。又二十時過ぎには、予報室の電話線も不通と
なつた。一方本庁舎と札幌管区気象台間の専用有線電話も、十九時三十五分頃の連絡を最後に杜絶するに至つた。かくて予報業務は全く杜絶するに至つた。さて、電線が暴風や強度の地震によ
つて切断されることは、過去の多くの経験で明瞭である。気象情報や、気象官署間の通信連絡が最も切実に
要求されるのは、異常気象時のみであるのであります。暴風のために気象情報の発表や、気象業務の連絡が杜絶するような
施設しかないということは、取りも直さず目頭申上げましたところの吉田内閣の政治の貧困から来ているということを申上げなければならないのであります。外部との連絡方法が公衆電話一本であるというような、この無味な感覚から申しましても、今度の気象情報の連絡が十分とれなかつた大きな
原因であり、而も気象情報の遠路に一時間半もかかるというような事情は、断じて放置することは許されない問題であると言わなければなりません。
従つて有線通信を基本とする現在の
施設を、無線
施設を基本とするよう改善するとか、或いは又、
関係機関に対する気象情報の迅速なる連絡を可能ならしめるために、
関係機関の共同
施設による専門通信
施設を設けるとか、
施設並びに業務の改善に特段の意を用いる必要があると思うが、この点運輸大臣はどのようなお考えを持
つているか、お聞きしておきたいのであります。
観測
施設の問題に若干触れたいと
思いますが、函館気象台による事件当日の気象予報は、台風の速度、風向について適切でないために、連絡船の船長をして気象判断に錯誤を生ぜしめたのではないかという推測をする向もあるようでありますけれ
ども、私が調査いたしました結果は、必ずしも気象予報の欠陥でもなく、又これの判断の錯誤でもないのである。現在の気象技術の段階や、
我が国の観測
施設よりして持てる能力、持てる機械においての最大力を発揮したことは認められるのであるけれ
ども、気象予報の精度についての限度のあることは、止むを得ないものであるとは存じまするが、私
どもが常に叫んでおりまするように、
日本の国内事情からいたしまして、気象という漠然としたことには比較的金を使いたがらない
政府ではあるが、この方面に重点を置いて、毎年莫大なる国富の喪失に鑑み、いわゆる定点観測……定点も南方、北方だけでは駄目であります。特に
日本海に定点の観測をする、或いはレーダーの設置をする、航空機の
使用をするとかいうようなことが
整備充実されない限りにおきましては、
日本の台風から避けるということは断じてできないのではないか。こうした大きな政策は一運輸省の問題だけでなく、
政府の問題として将来処理して行かなければならんと考えるのであるが、こういう点に対して緒方副総理はどのようなお考えを持
つておられるかをお聞きしておきたいのであります。
最後に、函館港における港湾
施設の
整備について一言触れて見るならば、函館港の
整備は遅々として進まない、港湾
施設の基本たる防波堤の修築は、殆んど顧みられておらないという
状態であります。二千七百七十六メートルのうち一千七百五十八メートルが未完成の現状にあります。連絡船洞爺丸ほか四隻はいずれも遭難沈没したが、而もこれは国鉄の船だけである。防波堤内にあつた大雪丸ほか七隻の連絡船と一隻の外国船は、いずれも難を免れた。この難を免れた中に、特に石狩丸、第六青函丸はそれぞれ、洞爺丸と同じように、二十一両或いは四十三両というような貨車を搭載してお
つたのであります。これが函館港の中に入
つておりましたために、その難を免れた。言うまでもなく、先に申しましたように、函館港は
日本最大の定期航路の発着港である。こうした特殊港の特殊事情ということを重視して、従来の港湾修築計画というものを再検討して、安全なる港湾行政を必要とするように我々は考えるのだが、この点に閉して大蔵大臣或いは運輸大臣はどのような考え方を持たれておるか。以上申しましたのが概略の
状態でありまするが、
従つて連絡船の事件を天災なりとして処理せんとすることは、
政府の
責任回避であると言わなければならんと思うのであります。
そこでお尋ねしたいことは、一般犠牲者及び国鉄職員に対して、その後どのような方法を講じられたか、又将来どうする方針であるか、運輸大臣の
答弁を求むるのであります。
もう一点は、気象通報の不備であつつたことが大きな
原因である。特に
日本海方面からの気象連絡がとれず、船の沈没直前にな
つて、西南風に風が交つたということを知つた。このときにはすでに、先ほど申しますように、連絡網は全部切断せられておつた。こうしたことを考えるならば、
日本海方面への気象レーダーを設置しておつたとするならば、この事故は断じてなかつた。先ずこの
日本海方面へのレーダーの設置と定点観測を怠つたということを、大きな
責任として申上げねばならんでありましようし、更に言うならば、
政府の
外交方針にも大きな
原因がある。先ほど相馬君の言われたように、いわゆる
向米一辺倒の
外交政策のために、いまだに中共、ソ連との戦争
状態の終結を図ろうとせず、大陸からの綿密なる気象通報のできざるところに、最大の
原因があつたと言わなければならないのであります。この点、
政府といたしましては今後如何なる方針でおられるのか、緒方副総理並びに大蔵大臣にお尋ねをいたしたいと存ずるのであります。
なお、最後に申上げておきたいことは、この大悲惨事を当面の事務的処理によ
つて解決するということでは、将来この問題の
解決と相成つたということにはならん。問題は如何にしてこのような
状態を惹起せざるように処理をするかということにかかるのではなかろうか。そうして又このことを、方針を打ち立てることこそが犠牲者に対する唯一の供養であると考える次第であります。大正元年、北大西洋において氷山と衝突、沈没いたしました英国旅客船タイタニツク号遭難が、世界第一の海難事故であるということが言われており、洞爺丸事件が第二の事故であると聞く。タイタニック号事件は、海上における人命安全のための国際条約成立の端緒となり、事件後四十年を経過した現在においても、海上における人命の安全
確保に偉大なる貢献をなしておる事実にも鑑みまして、これに次ぐ連絡船避難事故には、
政府は特別に調査機関を設けて、現在の国鉄が持
つておるような国鉄内部の機関ではなく、一般専門家を加えたところの機構を樹立いたしまして、今後かかることの皆無を図ると同時に、この事件で犠牲になられましたところの
皆様の霊を慰めるためにも、これを契機として十分なる施策を講じなければならないという二とを、私は申上げてみたいと思うのであります。
以上のごとく、大半が
政府の
責任であるとするならば、私はこの一点を以てしても、吉田内閣は直ちに退陣すべき段階に到達しているのではないかということを付言いたしまして、質問を終了いたしたいと
思います。(
拍手)
〔国務大臣緒方竹虎君
登壇、
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