○森崎隆君 先ず事件の概要を申上げます。
撃沈されました第三十一山田丸、六十六トン弱でございます。及び第三十二山田丸、六十五トン強でございますは、いずれも長崎市山田吉太郎氏所有の漁船でありまして、この二隻の漁船は去る十一月二十二日他の僚船と共に支那東海農林漁区五百五十四、これは東経百二十二度より百二十二度三十分、北緯二十八度より二十八度三十分の海面を申しまするが、この附近で操業中、午前五時五十分頃突如といたしまして、国籍不明の軍艦より約百メートル乃至百五十メートルの近距離から攻撃を受けたのでございます。艦艇は五百トン程度の駆潜艇又はフリゲート艦のごとく、午前五時五十三分より約三十分間、前後三回に亘り猛烈なる銃砲撃を加え来たり、突然のこととて周章狼狽のうちに乗組員は各人各様の
行動を
とつたのでありまするが、武器は砲又は機関砲及び機関銃らしく、同艦艇はまさに沈没寸前の第三十二山田丸の乗組員が全員海中に飛び込まんとするのを見ながらも、これを救助もいたしませず退去をしたのでございます。このため、第三十二山田丸は午前六時三十分頃、第三十一山田丸は午前七時過ぎ、それぞれ沈没をいたしましたが、附近にありました第五十五山田丸に救助せられたのであります。乗組員の損害は死亡二名、負傷者五名との
報告でございます。
なお船主山田吉太郎氏による事件記録の中には、
一つ、
政府において許可された区域内で、而も公海において明らかに
国民政府に所属すると推定される艦艇から全く理由なき銃砲撃を受けて沈没し、貴重なる生命に死傷を受けたことは、天人、ともに許されぬ暴挙である云々と書かれておりますし、二つには、私はこの記録に基きまして、
国会に対し、
政府に対して
国民の立場から、遺族の立場から、罹災船員の立場から、又水
産業者の立場から、抑えることのできぬ憤激を、諦め切れぬ悲しみを、死の戦慄と
窮状を、又こみ上げる怒りを訴える云々等の悲痛な心情が吐露されております。
そこで、外務
大臣に先ず
お尋ねいたしますが、第一に、攻撃いたしました艦艇が
国民政府の艦艇らしく、特に同じ日の十一月二十二日の
国民政府側の発表によりますると、同日の明け方、
国民政府の軍艦が中共の船舶十数隻を捕捉攻撃いたしまして、二隻を撃沈したという戦果の発表があつたという事実ににらみ合わして、事の真相をいち早く
国民政府へ問合せられていることと存じまするが、今日までの折衝の経過をお知らせ頂きたいと思います。かかる問題は幾多の不慮の不法災害に悩まされ続けて来ました
日本の全漁民の神経には、一人残らずピリツと響いて、更に大きな不安を与えているものでございまするから、私たちの要求を待たずとも、いち早く折衝の上、すでに旬日を経ました今日では、せめて中間
報告でも当然あ
つて然るべきものと存ずる次第でございます。又問合せにつきましては、期限付で回答を求められておりまするか否かも併せて伺いたい。
第二に、本事件と関連して
お尋ねいたしまするが、
国民政府側では中国本土との間に広
範囲な防衛水域を設定いたしまして、
日本漁船の立入りを拒んでいるようでございまするが、公海の自由の原則が破れましては、我々としましては迷惑千万に存ずる次第でございます。これに対しまして、如何なる
態度を以て臨んでおられるか、外務
大臣に
お尋ねを申上げたい。
第三に、曾
つての水爆実験におきまして、
日本水
産業界はあらゆる
意味において莫大な被害を受けた際、あなたはやはり実験には
協力すると言い放ちまして、
国民の驚きと怒りを買つた実事がございまするが、今回の事件で若し万一にも
国民政府側があなたの言う自由諸国の一環として海上演習をしていたのであるという回答でも来るといたしますれば、あなたは今後もかかる演習には
協力をなさるおつもりかどうか。仮定に立つた上で失礼でございまするが、お心構えをあらかじめ伺
つておきたいと思います。
第四に、本事件に関連して拿捕漁船の問題でありまするが、戦争状態にあるソ連、中共の拿捕については、しばらくおくといたしまして、
国民政府関係では、講和発効前の拿捕漁船数は四十七隻でございまして、その乗組員は五百七十五名にな
つております。講和発効後
国民政府に拿捕されましたものは三隻、両方合せますと五十隻になります。乗組員は四十五名、合計で六百二十名とな
つております。このうち現在もまだ帰還をしないものは船舶三十隻、乗組員十一名とな
つております。この未帰還の船舶の三十隻の内訳は、
昭和二十三年に四隻拿捕されたものがまだ帰
つておりません。二十四年に二十五隻拿捕されておりまするものも帰
つておりません。二十六年に一隻、これも帰
つていない。合計三十隻であります。いずれも講和条約発効以前のものばかりでございます。そもそも戦敗国が平和条約に忍んで調印をするのは、
一つには領土の最終的
範囲、二つには賠償額のめど、三つには外国軍隊の撤退による完全独立を達成せんとするにありますことは、今更言うまでもないところでございまするが、先般の平和条約はこの三つの重大な項目のどれ
一つも
解決をしていないのでございます。むしろそれどころか、
日本国がますますこれによ
つて植民地的な
窮状に陥
つて行く道しるべにしかならないような性質を持
つているものであることを我々は疑うものでございまするが、せめてこういう隣国との間の拿捕銃撃等の問題でも、講和条約と同時に
解決できたかと思えば、それすら上述のごとくでございます。これら
国民政府との講和条約発効前の漁船拿捕の問題
解決に外務省はこれまで如何なる努力を払
つて来られたか、出先機関の活動はどうであつたか、又在日
国民政府公館の
態度はどういう
態度で以てこれに回答しておられますか、そういうことにつきまして詳細なる御説明をお願いいたしたいと思う次第でございます。
次に、農林
大臣は本事件
処理の当面の
責任者でございます。今日まで事件に関しまして十分の調査をすると共に、外務省と緊密に連絡をと
つて事件の
処理をなされていることでございましようが、水産委員会にも殆んど出席をなさらない農林
大臣の誠意の程度をも知りたいとこの際思いまするので、今日までとられた処置を詳細に御
報告願いたい。
二つには、隣国の動乱は政治的にはともかく、
国民個人としましては何らの
関係もないことでございまして、特に今日のごとき事件に際しましては、
国民の生命財産を保護する
責任が
政府にある以上、早急に対外折衝と並行いたしまして被災漁業者の損害の補償を代替
実施しなければなりませんことは、ビキニ水爆実験の場合と何ら異なるところはございません。沈没漁船の早急なる代船建造並びに漁具、漁網の整備
資金、死亡並びに負傷者の遺族に関する件、或いは又漁獲物の損補等に関して如何なる
措置をすでにとられ、又今後とられようとなさ
つておられるか。目下研究中では、罹災者がたまりません。詳しく御
報告、
実施状況をお聞かせ頂きたいと存じます。
最後に、
総理大臣にと思いましたが、
総理大臣は、先般すでに最後の施政
方針演説をなされておりましたようでございますので御遠慮申上げまして
緒方副
総理にお伺い申上げます。遠い外洋に出て漁業に従事しておる漁業者の苦労は、誠に言語に絶するものがございまするが、幾多の困難に苦しんでおる日水水
産業界のために、今日まで対外折衝においても又、一般水
産業助成、特に災害並びに漁港漁業施設等の
予算におきましても、或いは又軍事基地等の犠牲に
なつたものをも含めての漁業補償においても、
政府が我が国水
産業の保護育成に示す誠意は寒心に堪えぬものがございます。あなたはあなたが所属する党内紛争の渦中で、さぞかし現在は御心痛、御疲労のことではございましようが、それは党人としてのことでございまして、為政者としては、かかる問題は一刻もおろそかにできない重大なる
責任が
政府にあることと十分御自覚なされていることと存じまして、
政府の最高
指導者としましてのこの問題に対する御
所見をお伺いいたす次第でございます。
以上で私の
質問は終ります。(
拍手)
〔
国務大臣緒方竹虎君
登壇、
拍手〕