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佐藤参考人 私は全
専売労働組合の
調査部長を
担当いたしております
佐藤でございます。本
委員会が、御多忙中のところ、私
どもの問題につきまして、
調停案に対する
意見を開陳する機会を与えてくださいましたことに対しまして、冒頭厚く感謝の意を表明いたします。
私
ども全
専売労働組合が、二十九年四号以降の
賃金要求として、専売公社
当局に対して
要求を行いましたのは、
賃金の体系変更に伴います点と、二十九年度の
賃金の改訂、この二つでございました。私
どもが
賃金の体系の変更と申しますのは、現行の
賃金体系は、基準内
給与と基準外
給与の二つにわかれておりまして、基準内
給与は本俸、扶養手当、勤務地手当の三つで構成されております。しかし、私
どもがこの現行の
賃金体系についていろいろ
考えてみますと、この本俸そのものの中には、いろいろな要素が含まれておるのではなかろうかと思われるのであります。特にこの本俸というものは、ただ本給の形を現わしておりますが、この中には年齢による
給与部分、あるいは職務による
給与部分、あるいは経験あるいは学歴、そういう部分が多分に含まれておる。そういうふうに非常に不明朗な本俸というような形を、この際生活を保障する部分とさらに職務能力に応ずる部分という二つの部分に明確にわけたならば、もつと生産に対する意欲あるいは生活に対する安定感のもとに、専売企業の遂行に大きな努力が傾注できるのではないか、このように
考えまして、
賃金体系の変更を年齢給と職務給の二本建にわけることの
要求を行いました。
この年齢給の設定に関しましては、最低生計費を基準にいたしまして、満十五才から四十才にわたりましてそれぞれ算出を行いました。もちろん最低生計費を算出する方法には、理論生計費によるものとか、あるいは実態上の生計費によるものなどのいろいろな方法がありますが、しかし私
どもが今回採用いたしましたのは、二十七年に労働科学研究所が
調査を行いました最低生計費の研究という資料で、それによ
つて要求を行いました。
この資料を簡単に申し述べますと、大体東京都におきます三十七年四月の実態
調査、三百八世帯の世帯数をランダム方式によ
つて選びまして、そうしてそれを千円刻みの一万円までの階層別に十ランクにわけまして、そうしてそれを消費単位当りの生活水準から、その生活水準を中心にいたしまして、それが人間の心身、能力に及ぼす影響、そういうものを科学的にいろいろ
検討を行いました、それらのこまかいデータによりますと、大体消費単位当り七千円のところに一つの転換点が現われるのではないか。それからさらに消費単位当り四千円を下まわるような点に至りますと、そこに一つの危機的な転換点が現われて参ります。いわゆる消費単位当り四千円を下まわるようになれば、これは知能とかあるいは精神能力の発育
状況とか、あるいは生活の
内容、そういうものが非常に下まわりまして、人間としての労働力も十分なる姿で発揮できないような、一つの危機的な転換点が出て参ります。そこで、私
どもが
要求いたします
賃金というのを、大体この消費単位当りの七千円に求めまして、そこで
賃金のアウト・ラインを算出いたしました。そうしてそれを一応標準生計費といたしまして、その中で四千円の部分を年齢給部分といたしまして、その部分を標準生計費の中から差引き、さらに残る部分を職務給という形にわけまして、そうして年齢給と職務給というような二本建の
要求を行
つて参りました。
それを本年の二月二十日に公社側に提示いたしまして、七月九日まで
団体交渉を続けて参りましたが、公社側は、現段階においては
賃金の体系を変更することはできない、専売公社の
給与というものは、専売公社法の二十一条による職務と責任に応ずる
賃金でなければならない、かつまた
賃金改訂いわゆる
ベース・アツプについては、諸般の事情からこれに応ずることはできない、こういう
回答書が出されまして、全面的に対立いたしました。
そこで私
どもは七月二十一日に
調停委員会に調停申請の
手続を行いました。
調停委員会では十月五日に
調停案第十四号が提示されましたが、その間に九回にわたりましての事情・審理が続けられて参りました。十月五日に提示せられました
調停案は、その主文の第一項で
組合側が
要求いたしました
賃金体系の変更及び
賃金の改訂というのは現段階においては適当ではない、次に第二項として、勤務地手当は現行の五段階を四段階に改めるものとする、その実施細目は両当事者の
団体交渉によ
つて決定すること、主文の三項、労働の生産性を一層高めることを目的として特別の賞与
制度をすみやかに確立すること、以上の三点にわたる
調停案が提示されました。
この
調停委員会が出されました
調停案の主文の第一順にあるような、
賃金体系の変更及び
賃金の改訂は現段階においては適当ではないという結論が、
調停案の
理由書の中からはどうしても見出し得ないような気がいたします。特に
調停委員会が
ベース・アツプを否定いたしました大きな
理由といたしまして、最近の労働
経済諸統計の動きを見ると、
給与に
関係の深い諸指標において、長期傾向線の起点及び比較基準時のとり方によ
つて、統計の動きに多少の相違はあるけれ
ども、専売公社職員の現行
給与体系切りかえ月である今年一月以降においては、従来の上昇の傾向はとみに鈍化し、または横ばい
状態である。そういうような点から、いわゆる毎勤の長期傾向線の上昇傾向とか、あるいは物価指教の動き、こういうふうな問題から見ても、専売の
賃金を上げる要素は何も存在していない。さらに昭和二十八年の八月実施いたしました民間の類似企業と、専売公社職員の
賃金か比較いたしてみましても、僅少の差はありますけれ
ども、民間の実態
調査から見ても、専売の
賃金水準をこれ以上、高める要素は出ていないのだというのが、
賃金改訂を否定する大きな
理由にな
つております。
しかし、その後、
調停委員会がこのような結論を出しました労働
経済誌統計、特にこの中の毎勤の統計とCPIの統計につきましていろいろ
検討を加えて参りました、この中で最も大きな点は、
調停委員会が長期傾向線をひつぱる際に、その起点を二十八年の八月を起点にいたしまして、昭和二十九年の一月を比較いたしております。これによりますと、今年九月、十月の平均におきまして、大体一〇三・二%というふうな上昇傾向を示しております。しかし私
どもは昭和二十九年の一月を比較起点にし、さらに二十八年の八月を起点にいたしておるこの
調停委員会の資料のとり方につきまして、いろいろ疑点を感ずるのであります。私
どもの承知いたしますのは、この
賃金改訂の一つの労働
経済諸指標の比較起点は、昭和二十八年の八月にすべきであるというふうに
考えております。この
理由につきましては、現在私
どもが受けております
賃金は、昭和二十八年の八月に仲裁
委員会がいろいろな資料によりまして、二十八年八月以降の実施といたしまして一万四千八百五十円を裁定いたしております。その後いろいろな都合によりまして、
国会におきまして、昭和二十九年一月以降の実施になりましたけれ
ども、少くとも
賃金の計算あるい
賃金の算出方法といたしまして、仲裁
委員会がいろいろ資料を求めて、どうしても専売の
賃金は二十八年の八月以降にすべきである、こういうふうな裁定を示しております。
従つてその後
政府の都合とか、あるいは
国会の都合とかいうようなものによりまして、一月以降の実施にはな
つておりますが、少くとも比較起点は二十八年の八月にいたすべきものと
考えておるものでございます。そこで二十八年の八月を比較起点にいたしまして、それを中心にいたしまして長期傾向線をひつぱ
つて参りますならば、それの基準起点と申しますのは、少くとも半年前に置くのが妥当であろうと
考えております。そういうふうな点から、CPIを再度計算いたしますと、少くとも今年の九月、十月の平均におきまして、一〇八・六%の上昇値を見出すことになるのでございます。
従つて、これによりまして私
どもの
賃金を計算いたしましても、一万六千円程度にはなりまして、これによ
つて調停委員会が専売の
賃金改訂の要素がないというふうに指摘した点は、明らかにこれは
ベース・アツプを否定する段階に立
つての、こういうふうな
経済諸統計をいじ
つたものである、そういうふうに
考えざるを得ないのであります。
さらに毎勤の統計につきましても、以上のような観点から、今年の九月、十月におきます平均殖を算出いたしますと、一〇八・七%の上昇値を示しております。これをも
つて算出いたしましても、一万六千円以上の金額にはな
つて参りまして、
調停委員会がべース・アツプを否定した
理由は、何ら見出し得ないと
考えておるものでございます。
それから、さらに民間の類似産業の実態
調査を中心にいたしまして、専売の
賃金は民間の類似企業とあわせてみても上げる必要はないのだ、こういうふうに指摘をいたしておりますが、少くとも
調停委員会は昭和二十七年の八月に、第一回の類似企業の実態
調査を行
つております。それからさらに二十八年の八月に第二回の類似企業の実態
調査を行
つておる。少くとも二十七年に類似企業の実態
調査を行い、それの金額が三十八年の八月において下まわ
つておるということは、私
どもには絶対
考えられないのでございます。そこで二十七年の類似産業の実態
調査と、さらに二十八年の実態
調査を比較いたしてみますと二十八年八月におきましては、はるかに二十七年の絶対額をオーバーする金額を示して参
つております。かような点を
考えてみましても、
調停委員会がこれを
理由にしてわれわれの
ベース・アツプを否定する根拠は何もないと
考えざるを得ないのであります。
さらに、二十七年の
調停案におきましては、民間の類似企業の実態
調査からそれを毎勤で修正し、さらにその当時私
どもが
要求しておりました理論生計費による最低生計費、そういうようなものを勘案とたしまして最低水準というような試算表をつくりまして、
調停案に添付してわれわれに提示いたして参りました。少くともそのような形のものを今回取り入れますならば、現在のわれわれの
賃金を一千円上もオーバーするような金額が得られなければならないことにな
つて参ります。こういうふうな点につきまして、
調停委員会が今次
賃金の算出資料として提示されましたいろいろなものは、これは
ベース・アツプはしない、そういうような前提に立
つていろいろ統計資料のとり方を意識的に歪曲したものであるとわれわれは
考えざるを得ないのであります。
それからさらに
調停委員会は、専売公社とわれわれ労働
組合の紛争のポイントを故意にはずして調停を進めている。すなわち私
どもは、労研の資料を中心にいたしまして最低水準、そういうようなものの合理的決定につきまして、今日まで論争を展開して参りました。しかるに
調停委員会は、このわれわれの
要求の根拠になりました労研の資料につきましては一向触れることなく、ただ現在
政府の方においてもこいうふうな資料を今後用いることはないから、あるいはこういうふうな資料についての形成は疑わざるを得ないから、これについては手がけなか
つた、こういうふうな
答弁をしております。こういうふうな点から
考えてみまして、
調停委員会が
労使の紛争を本来の形から調停するというふうな機能に若干欠けるのではないかというふうな点につきましても、いろいろな疑惑を感ずるのでございます。
そこで私
どもは
調停委員会に丸しまして公開の質問状を行いました。まず、
調停委員会は
労使の紛争を具体的に処理する立場にあるにもかかわらず、今次われわれの紛争に対してその問題をはずしたのにいかなる
理由であるか。さらに民間の類似産業の実態
調査について、第一回と第二回とは相当大きく食い違
つている、少くとも同一の
調停委員会が責任を持
つて公表する資料が、そういうふうに年次別に違
つてもよろしいものであるか、そういうふうな点について明らかにしてもらいたい、このような質問状を提示いたしました。それに関しましての高木調停
委員長の
答弁は、民間の類似産業実態
調査のとり方については、以前の二十七年度の
調査の方法、あるいはそれの対象のとり方が誤
つてお
つたから、今回はそれを直したのだというふうな抽象的な
答弁にとどま
つておりまして、何ら具体的な資料を提示することはいたしま
せんでした。さらに
労使間の紛争に関する
調停委員会の扱い方につきましても、これは今次専売を初め企業体、単産の
調停案を見てもおわかりになりますがごとく、ことごとく問題のポイントをはずしまして、漠然とした
調停案を提示しております。こういうふうな立場につきまして、私は今後
調停委員会のあり方そのものにつきましても、十分なる反省をお願いいたしたいと
考えているものでございます。
大体この
調停委員会の今次の
調停案に対します
理由の中からは、以上指摘いたしましたような点を
考えて見ましても、われわれの
ベース・アツプを否定する根拠は何も出て来ない。それからさらに、
調停案主文の第二項にな
つております勤務地手当の改訂の問題につきましても、これは
労使間の紛争のポイントにな
つておりま
せん。
労使間の紛争の焦点にな
つていないものをことさらに取上げて来たものは、主文第一項のべース・アツプを否定したそのものを紛飾する以外の何もの何ものでもないと
考えております。さらに
調停案の主文第三項にな
つております特別の賞与
制度につきましても、これは絵にかいたもちのようなものでございまして、これはやはり法律改正の
手続なりあるいは予算上の問題がこの中に織り込められなくては、この主文の第三項は何ら生きて来ないものであると
考えておるわけでございます。
大体以上の点を指摘いたしまして、私
どもはこの
調停案を拒否することに
態度をきめました。そうして現在私
どもの
賃金問題は、仲裁
委員会におきまして、
ベース改訂の問題について、今日まで仲裁審理の段階に来ておりますが、少くとも勤務地手当の問題とか特別賞与の問題は、ことさらに紛争の対象にな
つていない事項でございますので、企業の内部におきましてある程度の結論は得られるものと
考えておるものでございます。しかしながら、せつかく本
委員会におきましては、そのように私
どもが自主的に問題の紛争を解決する努力を認めて、いただきまして、
調停委員会に対しまして、二項三項については、できるならばもう一度予算上の点を明らかにするとか、あるいは勤務地手当の段階変更につきましても、もう少し細部的な指示を与えていただけるように御配慮をお願いいたしたいと
考えておるものでございます。
大体私
どもの問題につきましては、本
委員会が二度にわたり取り上げていただきまして、しさいな
説明は十月の十九日に本
委員会におきましてるる
説明いたしてありますので、今回は統計資材の取り方、民間類似産業の実態
調査の取り方、それを中心にわれわれの
見解を述べますと、べース・アツプを否定する根拠はないというふうな点を申し上げまして私の陳述を終りたいと思います。