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愛知国務大臣 まず私の先般の
渡米に
関係いたしまして若干の御
報告を申し上げ、あわせて最近の
わが国の
経済情勢の概観を申し上げたいと思います。
私は去る十月十七日に出発いたしまして
米国滞在中の
前半は主として
吉田総理の
訪米のための下
準備をいたしましたが、後半におきましては、
吉田総理大臣を補佐いたしまして、行動をともにいたしまして、十一月の十七日に帰国いたしたのであります。
吉田総理の
渡米につきましては、すでに
総理大臣より御
報告申し上げた
通りでありますので、御
承知の
通りであります。従って私の
前半の
吉田総理大臣の
訪米の
準備と申しましても、ひつきよう
日米相互の
理解を深め、
相互の
協力をより緊密にするための
話合いに終始いたしたわけであります。しかしてその
話合いも終始
非公式会談の形式をとりまして、
日米両国相互に
関係のある諸問題について率直な
意見の交換をいたし、もって
相互の
理解を深めるために
努力いたして参つたような次第であります。全般的にこの
訪米の結果については
総理大臣から御
報告をいたしました
通りでありますから、私からつけ加えることはございません。ただ私は
通産大臣並びに
経済審議庁長官としての立場上、
経済問題を主として取扱い、この面における
相互の
理解と
協力を深めるために特に力を注ぎました
関係上、
経済面について主として御
報告をつけ加えて申し上げたいと思います。
まず第一に申し上げたいことは、
米国側が過去一年間の
日本の
経済政策並びに
諸般の
経済問題の推移につきまして、正確な評価をしておるような印象を受けたわけでございます。そのある
部分につきましては、
相当の
敬意を払っておると言っても言い過ぎではないと思うのであります。すなわち
国際収支の
均衡回復のためにとっております
諸般の
政策、あるいは自主的なる
防衛力漸増の
努力、及び
国民の真剣な
努力と
政府の
施策に対する
国民の
協力に関しまして、
敬意を表しておると思うのであります。去る十月の十日に発表せられました
日米の
共同声明の中にも、特に今日
日本が
経済上の困難な諸問題を解決するために払っておる
努力を
米国がよく認識しておる旨を述べておるのもこの現われと考えるのであります。申すまでもなく、
自由諸国がそれぞれ健全にして強力な
経済を通じて互いに手を携えて、自由と繁栄の
維持増進に
協力して参りますことは、きわめて望ましいことと存ずるのであります。さればこそ
共同声明にも、
日本自民の
経済的な
福祉が
自由世界全般にとっても重要な
事項であるとうたっておるのであります。
第二に、
東本アジア経済協力日についてでございます。
日米両国が
アジアの
自由諸国、砕いて申せば、南及び
東南アジアの
自由諸国の
経済発展に互いに
協力する旨の
了解が
一般的にできたわけでございます。
吉田総理大臣は特にこの面において
日本が寄与する決意を確認し、
当該地域の
経済発展につきまして
日本としてもあろう限りの
協力を行うことを希望する旨を強調いたしたわけでございます。この
東南アジア経済協力、
経済発展の
根本方針は、具体的にはたとえば
余剰農産物処理による
見返り円資金の一部が、
当該地域との
経済の
共同発展のために使用せられる旨の
日米両国の
了解、及び
米国政府が
東南アジアの
経済協力をあらためて
考慮せんとするところの動きともなって現われて来ておるものと思うのであります。
第三は、
日米通商関係の
改善の問題でございます。私は
わが国が
ドル地域との
貿易の不
均衡が著しく、
貿易面の不足を
特需によって補っております状況にかんがみまして、またその
特需が
減少傾向にあることに顧みまして、
ドル地域に対する
輸出の
伸張が
日本の
正常貿易の
発展のために最も必要である点を
米国当局に十分
説明いたし、
米国側もこの点に関する
理解を深めたものと確信いたしております。すなわち
米国に対する
わが国の
主要輸出品であります生糸、水産物、
カン詰あるいは
各種の
雑貨類等につきまして、
米国側としても
関税その他の点において、これら商品の輸入に格別の
考慮を払われるよう要請いたした次第であります。さらにこの正常な
輸出の
伸張によりまして、
ドル収支の
改善が行われるまでの間、
特需による
ドル収入の確保が
日本経済にとってきわめて重要な意義を持っていることの認識をより深めるような
話合いもいたして参ったのであります。しかして
米国政府が
日本の
貿易を
伸張し、もつて
日本国民の
福祉をさらに増進いたしますため、
米国としてとり得る
各種の
施策については、今後とも好意をもつて検討する
方針を声明いたしております。特に十月十三日には、
米国務省は、
日本の
通商面の機会を拡大する目的をもって、
関税引下げの対
日交渉を行う旨の発表をいたしておるような次第でございます。かくして私どもは、今後の
日本と
米国及びその他
諸国との
貿易拡大に
期待を持つものであります。
第四は、
余剰農産物処理の問題であります。この問題につきましては、一億ドルに上る
農産物の
処理計画につきまして、
両国政府が
了解に到達し、
市場価格八千五百万ドル
相当物資は
日本に
円貨で売却され、またコスト千五百万ドル
相当物資は現物で
日本に譲与され、
学童給食並びに
被服計画のため使用されることになったのであります。八千五百万ドル
相当の
円貨のうち、七割に
相当する
部分は
日本に
円貨借款として供与せられる。
わが国はこれを
農業開発を含む
国内経済の
改善及び地域的な
経済発展に使用せんとするものであります。これによりまして、内は
経済開発並びに
改善、外は
東南アジアとの
経済交流及び
発展に資するところ大なるものがあることを確信するものであります。
第五は
ガット加入の問題、
外資導入の問題、
生産性向上計画の問題へその他
諸般の
経済問題の検討であります。特に
ガット加入問題については、
米国の好意を謝するとともに、
外資導入につきましても双方率直な
意見の交換をいたしまして、この問題に関する
理解を深めたつもりでございます。なお
外資導入に関連いたしまして、世界
銀行の借款につきましても、世界
銀行当局と話合う機会を得たのでありますが、農業
調査団による
報告もすでに
銀行側においては完了し、水力電気、鉱工業
関係も順調に
調査が進んでおるようでございますので、きわめて明るい見通しを持ち得るに至ったのであります。なお
生産性向上計画の実施につきましても、基本的な
了解に達したのでございます。
最後に
米国政府が原子力
委員会を通じ、原子力の平和的利用について厖大なる文献を
日本政府に寄贈されたことを
報告申し上げます。
以上
経済問題について若干の御
報告をいたしましたのでありますが、
経済の面のみを考えてみましても、両国の
理解と
協力を深める上に多大の成果を収めたものと信ずるのでございます。さらに申し上げたいことは、以上申し述べました種々の
経済上の諸方策が、すべて
日本経済の
改善及び生活水準の向上を促進するために資するところの大なるものがあることにつきまして
意見の一致を見たことでございます。最近
わが国の
経済は正常化の一途をたどり、
国際収支も六月以来黒字を記録しておるようなわけでございますが、今後ただいま御
報告申し上げましたような諸方策が、
日本経済の
改善及び
国民生活水準の向上を促進する方向に実現されるように一段と
努力をいたしたいと考えまするし、またこれによりまして
わが国経済の前途に希望を持たしめるようにいたしたいものと存ずる次第であります。
次にごく簡単に最近の
経済情勢を概観いたしたいと存ずるのであります。ただいま申しましたように、われわれの
政策の中心である
経済正常化
政策、特にその最大の目標でありました
国際収支は六月より黒字に転じ、爾後毎月
相当額の黒字を続けて参りました。この結果本
年度上半期の
国際収支の実績は約八千万ドルの黒字となりました。また危惧されておりました外貨の保有量も、六月初めに比しますとすでに一億ドル以上の増加を来しておるのであります。従いましてこの状態で進みますれば、本
年度の
国際収支は
相当の黒字を予想し得ると考えるのであります。一方国内物価はここ半箇年間に一割近く低落するとともに、
日本銀行券の発行高もほぼ昨
年度並に推移いたし、
わが国経済の正常化は順調に進んで来ておるのであります。このことは
わが国経済政策の中心目標であります
経済自立の達成に一歩ずつ堅実に近づいておることを意味するものでありまして、まことに御同慶にたえないところと存じます。私は本年初頭第十九
国会におきまして、
昭和二十八年の
日本経済を回顧し、
経済自立の基盤を達成いたしまするために、当時のインフレ基調を転換是正して通貨価値の安定をはかり、
経済の健全化を推進することをもってあらゆる
政策の中核といたしたのでありますが、
わが国経済がただいま申しましたごとく
改善されて参りましたのは、とりもなおさず昨年末以来
わが国の
経済の正常化、健全化を目途として参りました諸
政策に
国民各位が心から
協力され、
政府と一体となつて
経済自立のための
努力を惜しまれなかった結果にほかならないと考えるものであります。
この機会に過去一箇年間における
経済正常化
政策の大体の足取りをごく概略申し述べたいと存じます。卸売物価は一昨年以来漸騰を続けて参ったのでありますが、本年の二月を境といたしまして逐月下落を続け、最近におきましてはピークのときに比べて約七%の低落を示しております。また一昨年以来騰貴を続けておりました小売物価も本年四月ころより横ばい、ないし下押し
傾向を示して参りました。一方海外
諸国の
経済情勢は幾分好転して参りましたが、日英協定等の効果とも相まちまして、
わが国の
輸出は三月以来毎月好調を続け、十月までのところ前年同期に比して二割七分の増加を示しております。次に輸入は、国内における輸入
金融の引締め、不要不急品輸入の抑止及び輸入の差控えを反映いたしまして、三月以来漸減し、これを前年同期に比較いたしますと七%の減少に当るのであります。その結果
わが国の
国際収支は、いわゆる
特需収入が昨年よりも減少したにもかかわらず。先ほど来申し上げておりますように六月以来黒字に伝じまして、年間を通じ
相当額の黒字になるものと予想されるに至りました。もとよりここ一箇年来、
政府、
国民相
協力して推進して参りました一連の
経済正常化
政策の顕著な成果の陰には、
政策の進展に伴います摩擦的な現象も看過いたしがたいことはもちろんでございます。鉱工業生産指数は三月以来下降に転じ、雇用も低下し、具体的な失業、倒産の事例も見られるのでありまして、
政府といたしましては、この対策につきましても、今後ともあとう限りの
措置を講じなければならないと考えておるのであります。しかしながら世上一部において現在
政府のとつております
政策の緩和を望む向きも見られるのでありますが、
諸般の事情の好転にもかかわらず、なお
わが国経済の前途には楽観を許さぬものが多々あるのであります。昨年来の
米国における景気後退の現象は、本年半ばをもってほぼ終息したものと見られるのでありますが、英国、西ドイツ、その他西ヨーロッパ
諸国におきましては、自国の
経済体制の整備を完了し、通貨の交換制の回復、
貿易の自由化等に向って着実な歩みを続けておるのでありまして、今後の海外市場における競争はますます激烈になるものと覚悟いたさなければならないと存じます。また
わが国の
国際収支は著しく好転して参ったとはいうものの、産業の合理化、コストの引下げ、
特需の減小に対応する正常
輸出の
伸張、実質的外貨収支の
改善には、なお幾多の
努力を要するものがあると存じます。このため
政府といたしましては、
わが国の産業、特に基礎的産業につきましては、近代化、合理化を引続き強力に推進することによりまして生産性の向上をはかり、製品コストの大幅な低下を実現し、もって
わが国産業の国際競争力を増強しなければならないと考えるのであります。従いまして、石炭鉱業の合理化につきましては、コストの引下げと価格の安定とをはかりますために、
相当強力な
施策を実施し、また鉄鋼業その他につきましても随時適切なる合理化対策を講じて参らなければならないと考えるのであります。
次に、
わが国経済の
発展が一に
輸出の
伸張いかんにかかっておる事実に顧みまして
輸出力の増加のためには、今後とも国内消費の増加を抑制することによりまして、国内物価の国際水準へのさや寄せをはかるため、いろいろの
措置を構ずべきことは申すまでもございませんが、さらにこれと並行して、
輸出の
計画的かつ総合的な
伸張をはかりますため、先般最高
輸出会議を設立いたしまして、さらにそのもとにおいて商品別に
輸出会議を設置し、その基体的な方策を考究、実施して参りたいと考えておるような次第でございます。
なおそのほかに、今後においても市場開拓を目途として、いわゆる
経済外交を推進することはもちろんでありますが、対外信用の確保に努め、
輸出商社を強化し、国際競争力を培養して参らなければならないと考えます。また先般ビルマとの間の賠償並びに
経済協力に関する協定の締結を見ております際でもありますので、今後これが適実なる実行に誠意をもって当りたいと考えますが、さらに
東南アジア諸国との
貿易につきましても、最近プラント類の
輸出も漸次増加する趨勢にあるのでありますが、今後とも同地域との
貿易の拡大をはかって参らなければならぬと考えております。また中共、ソ連の
貿易につきましては、国際
協力の線を守りつつ、あとう限りこれを
伸張せしめるように
努力をいたさなければならぬと考えております。
中小企業につきましては、これが
わが国産業に占める地位の重要性にかんがみまして、今後とも引続き
金融面その他においてその振興対策を促進いたしますほか、一層協同組合の結成等その組織化を推進し、
輸出適格業種の
中小企業につきましては、これを
輸出面に直結して育成して参りたいと考えておるような次第でございます。
以上、私どもの大体の情勢判断並びに希望を申し述べたわけでございますが、かような考え方のもとに、今後たとえば
昭和三十
年度の
予算の編成その他具体的の
施策について、これを適切に
措置いたし、また
計画化いたしたいと考えておるような次第でございます。
以上、出張中の
報告とあわせまして、最近の
わが国の
経済情勢の概観を御
説明申し上げた次第でございます。