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1954-03-11 第19回国会 参議院 労働委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月十一日(木曜日)    午後一時五十二分開会   —————————————   委員の異動 三月十日委員小林亦治君辞任につき、 その補欠として赤松常子君を議長にお いて指名した。   —————————————  出席者は左の通り。    委員長     栗山 良夫君    理事            井上 清一君            田畑 金光君    委員            榊原  亨君            宮澤 喜一君            阿具根 登君            赤松 常子君            寺本 広作君            大山 郁夫君            市川 房枝君   国務大臣    労 働 大 臣 小坂善太郎君   政府委員    労働省労働基準    局長      亀井  光君   事務局側    常任委員会専門    員       磯部  巌君    常任委員会専門    員       高戸義太郎君   参考人    日本炭鉱労働組    合厚生部長   十二村吉辰君    古河鉱業株式会    社労務部長   大滝四十夫君    三池炭鉱労働組    合副委員長   浦川  守君    日本鉱山労働組   合調査部部長  細川 英香君    三井鉱山株式会    社保安部長   佐伯 有義君   —————————————   本日の会議に付した事件 ○けい肺法案吉田法晴君外十二名発  議)(第十八回国会継続) ○労働基準法の一部を改正する法律案  (吉田法晴君外十二名発議)(第十  八回国会継続) ○労働情勢一般に関する調査の件  (石炭鉱業における労働争議に関す  る件)   —————————————
  2. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 只今から労働委員会を開会いたします。  実は二月の十六日に当委員会におきまして、田村委員からの、質問に答えて小坂労働大臣言明をせられました石炭鉱業紛争関係しまして賃金カットの問題でございます。この点について三月五日の当委員会におきまして吉田法晴委員から動議が提出をせられまして、その要旨を簡単に申上げますと、小坂労働大臣言明は、未だ法律的な解釈におきましても裁判所において最終的に確定を見ておる解釈でもなく、又当時の状況からしまして労使紛争政府が介入するものではないかという意見も一部に強くあるので、この際その言明を取消されたいということで、委員会の決議を以て労働大臣要請をしたい、こういう動議であつたわけであります。そこで当委員会におきましても動議でございますから、その取扱いに慎重を期しまして、実は三月九日の委員会におきまして極極意見の交換をし、その取扱いについて協議をいたしました。その結果当委員、会といたしましては意見一致を見まして、その一致を見た結論を私から労働大臣お伝えをすることに約束ができておりました。従つて私からその点についてこれから一言申上げます。いろいろ理由智隆享が、賃金カッ—に関する労働大臣言明に関しましてこの際改めて政府労働紛争に介入する意思がないということ、更に労使間において行われる団体交渉に関与する意図もないということ、こういうことを重ねてここにおいて言明をせられたいというのでございます。これが委員会一致した意見でございます。言明せられるかせられないかは、これは労働大臣の自由でございまするけれども、とにかくそういう工合にこの委員会で決定いたしまして私からお伝えをすることになつておりますので、お伝えを申上げておきます。
  3. 小坂善太郎

    国務大臣小坂善太郎君) 只今お話のような趣ヒ町につキま心しては、栗山委員長も御承知通り、二月十七日の日に、日本社会党左派中央執行委員長鈴木茂三郎君名を以て同様の趣旨申入れが参つておりまして、私はそれに対して回答をいたしております。即ち「一月十六日の参議院労働委員会における労働大臣言明は、緑風会田村文吉議員質問に答え、部分ストに関する労働法解釈を明らかにしたものであり、かかる行政解釈を必要に応じ明らかにし、国会において国会議員質問答弁することは、政府並びに国務大臣の当然の責務に属するものであつて、今次炭労ストに対して政治的介入を行おうとする意図に出たものでないこと勿論である。」、なおこの申入書には撤回する考えはないかとあつたのでありますが、「従つて政府としてこの言明を撤回する考えはない。右回答する。」、この回答書を三月十七日付で差上げてございまするが、只今もその気持を持つておりますので、それを以てお答えに代えたいと思います。
  4. 阿具根登

    ○阿具根登君 今の労働大臣お答えは、委員会質問お答えになつておらんので、その当時は今大臣が、品われた通り申入書に対する回答があつたわけであります。それを吉田君が動議に出して委員会としては動議を引込める代りに、労働大臣争議に介入する意思はなかつたんだ、ないん、た、なお又労使双方団体交渉に対しては何ら干渉も圧力も加えない、こういうことを言つてもらいたい、こういうことを言われたつもりなんですが、それにお答えないとすれば逆に取つていいわけですか。労働大臣労働紛争に介入するんだ、或いは団体交渉に対しても我我介入するのだ、こういうように解釈するようになつて来ると思いますがね。
  5. 榊原亨

    榊原亨君 理事会の決定を見ないでこの間の委員会が開かれましたときには、吉田法晴君の動議を引込める代り大臣言明させるというようなお話は私どもは承わつておらないのであります。吉田法晴君がそういう動議をお出しになるのは何かの、いろいろなまだ趣旨が徹底しておらない、或いは誤解されておる点があるだろうから、この際大臣からその見解についてはつきりさせたほうがいい、こういうことでありまして、吉田法晴君の動議を撤回する代りに大悟に言明させるというお蔽ではなかつたと私ども考えております。
  6. 阿具根登

    ○阿具根登君 大、臣が言明されるかされないかは、大臣の自由、たということを委員長は言つておるわけです。それに対してその回答がずつとその前の回答になつておるわけです。ところがもつと様相が変つて来ておる。動議は、委員会でやつたのは、動議労働大臣が言われたことを撤回する、撤回してもらいたいという動議なんです。それは社会党がやつた抗議文と一緒なんです。ところがそれではいけないからというところで、労働大臣争議に介入する意思はなかつたんだ、又労使双方団体交渉に対しては何ら介入する意思はない、こういうことを言つてもらうということになつたので、こちらは引込んだわけです。それがこちらの要請であつて、それにお答えになろうがお答えになるまいが、それは労働大臣の自由なんです。ところが先ほどのお答えだと逆になるというわけです。
  7. 榊原亨

    榊原亨君 今小坂労働大、臣が御言明になりましたことは、成るほど前の回答であつたかも知れませんが、その回答通り今も同じ心境だということを今現に言つておられる。それでおわかりになると私は思うのでありますが、それを又蒸し返して云々ということになりますと、話が大分又こんがらがつて来ると思うのでありますが……。
  8. 田畑金光

    田畑金光君 労働大臣の先ほどの委員長発言に対する答弁と申しますか、非常にこれはこの委員会における、この問題に対しての処理について忠実を欠くような感じを持たされたわけであります。只今読み上げましたのは、左派社会党からの申入れに対してれその当時における労働大臣としての或いは政府としての態度の表明だつた考えておるわけであります。問題はその申入書にありまするごとく、労働大臣が二月の十六日に田村文吉君の質問に対してお答えなつたことが、これは人の言う客観的な情勢においてノーワークノーペイ原則を確定されることが、少くとも実質面において妥当かどうか、それが労使関係の問題に対して少くとも忠実であるべき政府最高責任者発言として許さるべきものであるかどうか、こういうまあ実質的な問題に関連すると思うわけであります。大臣も御承知のように炭労争議経過を見ますならば、石炭鉱業連盟自身としてもノーワークノーペイ原則については、一つの断定の上に立つて回答していない。この問題については話合う余地が十分にある。こういうふうな回答を寄せているわけであります。例えば三月三日の早朝における連盟回答を見ますと、部分ストに対する賃金カットは実施する、これに異議ある場合は公正なる機関判定に従う。併し双方主張を固執しなければ話合い余地はある。連盟自身が公正な機関判定に従う。炭労がその主張に固執しなければ話合い余地は十分にある。こういうようなことを連盟自身が明確に言い切つておるわけであります。そういうような最中において、労働大臣がたとえ質問に対する答弁の形をとつたにしろ、或いは質問に対して国会の本会議委員会において答弁するのは当然政府責任であるにしても、併しながら、労働行政最高責任者である労働大臣が、少くともああいう深刻な段階において、而も賃金カットそのもの労使にとつて重大な戦術であるとき、一つ判定を下すということ、行政解釈を下すということは、無意識のうちにしろ、一方の側に加担しておるという結果を招いているし、事実そのようなことになつて来ておるわけです。このような問題については再三労働委員会において労働大臣出席を求めて我々はとことんまでも追及したいと思つたけれども労働大臣は本会議衆議院委員会その他のために出席されない。そういう経過を経て吉田君の動議の提案になつたわけであります。  そこでこの動議取扱い方について自由党のほうからもいろいろ御意見がありましたので、この問題について委員会において多数決によつて処理することもどうかと考えられたので、いろいろ自由党諸君とも話合いの結果、この動議取扱い方については、吉田君の最初動議を撤回さして、そうして先ほど委員長発言通りに、少くとも政府労使紛争には介入しないこと、或いは労使間の団体交渉等には介入することはやらんということ、このことを労働大臣良識において本日の委員会において明らかにするかどうかを労働大臣自由意思に任せたわけであります。その経過考えてみますならば、先ほどの労働大臣のような答弁では、今日まで労働委員会が満場一致で円満にこの問題を処理して行こうとする努力に対して非常に反するものを感ずるわけであります。いま一度労働大臣は事の経過委員会の今日までの運営についての手続上或いは経過をよく御判断の上、いま一度委員長発言に対する御答弁を要望したいと思います。
  9. 小坂善太郎

    国務大臣小坂善太郎君) 私があらゆる機会に申しておりますように、労働紛議に対しましては、政府労使良識に待つてその自主的解決を図るということを本義としておるのでありまして労働紛議政府が介入するという意図はないのであります。(「了承了承」と呼ぶ者あり)
  10. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 只今からけい肺法案及び労働基準法の一部を改正する法律案につきまして参考人の御意見を聴取いたしたいと存じます。  参考人の方々に一言御挨拶を申上げます。本日は御多用中のところをまげて御出席頂きましたことを厚くお礼を申上げますと共に、議事の予定が遅れましてれ大変お待たせをいたしましたことについて悪しからず御了承を頂きたいと思います。  御発言を頂きまする時間は大体お一人二十分程度にお願いを申上げたいと思います。なお一応御発言を頂きましてから、委員諸君から御質疑があろうかと思いまするので、お答えを頂きたいと存じます、発言を頂きまする順序は公報に記載をいたしました通りお願いを申上げたいと思います。先ずその順序は、日本炭鉱労働組合厚生部長十二村吉辰君、三池炭鉱労働組合委員長浦川守君、日本鉱山労働組合調査部部長細川英香君、三井鉱山株式会社保安部長佐伯有義君、古河鉱業株式会社労務部長大滝四十夫君只今申上げました順序お願いを申上げます。
  11. 十二村吉辰

    参考人(十二村吉辰君) 炭労の十二村でございます。  我々がけい肺法の必要を痛感いたしましたのは昭和二十三年でございます。爾来我々は政府或いは経営者にこの必要性を黙々として陳情、歎願の形を取りまして、漸く昭和二十六年度におきまして衆議院労働委員会の御採択にあずかりましてその後我々はこのけい肺患者の悲惨な実態から一日も早く救われる保護立法を希つてそうして漸く陽の目を見たこの特別法案の一日も早く制定されることを望んで今日まで参りましたが、諸般の事情から未だこの法案制定されないことに限りない我々は痛憤すら感ずるのであります。この法案が、なぜこのように何年もこの問題が論議されておるにもかかわらず通らなかつたか、この障害になつておる二、三の点をここで申述べてみたいと思います。  先ず第一点は、民法上の補償によるところの無過失賠償理論によつて、果して我々がこの悲惨な状態から救われるかどうか。我が国産業経済資本構成からいつても非常にこの問題は、例えばけい肺外の業務上の災害者に対しては二万乃至三万くらいの財政支出によつてこれが解決されますが、けい肺患者を三年間、これが無過失賠償理論による経営者負担による場合は百万円前後と推定されております。この問題は大きな資本蓄積を持つておる経営者にとつては容易であるかも知れませんが、五人から五十人くらいの労務者を採用しておるところの中小企業至つては一人か二人を出したならば、現在のような我が国のこの根の浅い経済機構の中においては十分な保護対策ができない、この一点がこの法案制定に対する大きな一つのネックになつてつたのではないかという一点。更にもう一点は、医学的な特例からいつてけい肺患者のこの悲惨な実情が十分に理解されておらなかつた点、この点は我が国労働衛生に対する医学的な研究が国策の立場において十分に調査、検討されなかつた点を私はここに指摘したいのでございます。我が国最高学府を誇る東大卒業のお医者さんが、けい肺とは何だか、こう言うお医者さんすら現在おるやに我々は聞いております。この医学的な観点からもこの悲惨な実態が十分に世論において評価されるならば、このけい肺法制定は、もはや単に労使間の民法上の問題から発展して社会保障制度の中で救われなければならない、この瀝然たる事実もございます。これは医学的に立派に経営者によつて証明されております。と申上げることは、現在の臨床医学的にも或は診断学的にも、この病状の根源が把握されておらない点と、これに対する適切なる治療方法がないというこの二点からいつては、一たびこのけい肺症に罹患されればもはや死を待つだけでございます。この点はこの間持たれましたけい肺対策国民会議の中において、或る石切りの工員の方が申されたのによりますと、二十世紀の最高建築文化を誇る、私が今立つておるこの国会議事堂建設に参加された、従事された石屋さんは現在生存している方が一〇%、この議事堂建設に就労された入で現在完全な仕事をしている人は僅か五%だ。正にこの文化の殿堂は、悲惨なるこの石屋さんの生命を賭けた、正に人柱であり、私はこの当時の先輩の石碑ではないかと思うのでございます。私はこの一点を聞いたときに、今日ここに陳情しておりながら感無量なものがございます。このような観点から、現在の医学において救われないもの、又中小企業に不幸にして雇用関係を結んだ方は基準法の適用すらない現状において、民法上の確約による無過失賠償理論によつて、この保護立法制定しようとしても、我が国現状からいつては極めて私はここに重大な一つ障害があるのではなかろうかと痛感するのでございます。この点を政策的に是非とも考慮して頂くならば、国庫負担によつて中小企業の中から発生したけい肺患者に対しては国策的な点からこれを保護して頂く、又大企業であるならば十分の財政的な能力がございますので、この大企業資本力中小企業罹患者に対する国費の補助によつて、そしてこの保護立法財政裏付にされるならば、この特別法案制定は我々は安易ではなくとも困難な問題ではなかろうと存ずるのでございます。  更に申上げたいことは、炭鉱経営者炭鉱けい肺患者は技術的な予防対策によつて十分にこれは阻止できると言つておりますが、今日出席された三池炭鉱の副委員長によつて詳細は説明されると思うので、私は省略いたしますが、医学的な立場から経営者に聞いたこの発生の径路に対して一点申上げたい点は、如何に技術的な予防対策を講じたとしても、遊離けい酸粉塵粒子は一ミクロン以下だと言われております。一ミクロン以下であるということは、赤血球の粒子が二ミクロンでございますから、たばこの煙の粒子にひとしいようなこの細かい粉塵が、果して防毒マスクであるとか、或いはウオーター・カーテン、或いは湿式さく岩機によつて完全な発塵の防止は技術的に困難でなかろうかと思うのでございます。併し予防対策として現在持つ一切の科学の能力を総動員してやつて頂くことは、私は十分にこの点は強調いたしますが、これによつてけい肺が完全に防止されるであろうということは非常に危険な考え方でなかろうかと存じます。この点からいつては、当然もはや可能性の問題ではなく、坑内においても坑外においても罹患することは必然性すら約束されておるのではないかと思います。このような見地から、けい肺は防止できるであろうという一部の業者の御意見は、決して科学的には何ら根拠がないということも私は一言付け加えておきたいと思います。  次にけい肺患者現行基準法との関係でございますが、五人以下の事業所においても十分に発生する職種があるのでございます。町の石屋さんが今日は三日間石塔作りに頼まれた。その次は十日間の石橋を作る仕事に採用された。これはもはや現在のけい肺罹患者職種別発生件数からいつては相当高率を示しておるところの石屋さんは、これは法的に現行法ですら救われない面がございますので、この点も基準法改正の中において何らか五人以下のそういう特定業種の中においても救われるような措置を講じて頂きたいことを申述べまして、簡単でございますが御説明といたします。
  12. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。参考人の方にちよつと御了解を得たいと思いますが、実は古河鉱業労務部長大滝四十夫君がお時間の都合で、若し他の参考人の御了承が得られるならば、続いて発言をいたしたいという御要請がございますが、如何でございますか。
  13. 細川英香

    参考人細川英香君) 私のほうは結構です。
  14. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) よろしうございますか。それではお許しを得たようでございますから、大滝四十夫参考人の御意見を伺います。
  15. 大滝四士夫

    参考人大滝四十夫君) 石炭鉱業におけるけい肺症とこれに対する対策現状について申述べます。  石炭鉱業におけるけい肺症罹患者数は、二十九年の二月末現在の石炭鉱業けい肺者政は左の通りであります。大手十九社、これは石炭協会の調でございます。要領一の者が三百七十五名、要領二の者が九十三名、要領三が九十六名、要領不明が五名、合計五百六十九名となつております。その他、これは鉱山保安局の調であります。要領一が三十四名、要領三が三十名、要領三が十二名、要領不明が十七名、合計で九十三名になります。この大手十九社とその他を合わせまして、要領一が四百九名、要領二が百二十三名、要領三が百八名、要領不明が二十二名、合計で六百六十二名になつております。石炭鉱業実働労務者三十二万二千人、これは二十八年十二月末の調べでございますが、三十二万二千人に対して六百六十二名であつて、その割合は僅か〇・二%に過ぎません。而も右けい肺罹患者中には金属鉱山に稼働せる前歴を有することがはつきりしている者も相当数含まれております。現在明らかになつている者は百二十一名であります。  その次はけい肺協定現状について申述べます。石炭鉱業におけるけい肺に関する協定は、二十五年十二月十一日締結された三池炭鉱におけるそれが最初でありまして、その後二十七年の七月の一日、三菱鉱業崎戸及び高島鉱業所、三十八年四月一日、住友石炭鉱業、二十八年の六月十三日、松島、大島炭鉱と、この四社でございまして、現在に至つておるわけでございます。四社の従業員数は三万七千九百五十二名であります。その患者数は四百二十七名、六百六十二名に対しては六五%になつております。労働省による巡回検診鉱山保安法に基く金属鉱山等保安規則及び石炭鉱山保安規則改正けい酸質区域指定等によりましてけい肺に対する関心が深められたことも大いにあろうと思います。右のこの諸協定の内容は大要次通りであります。  鉱業所におけるけい肺対策委員会設置防塵マスク及び部分品無償貸与配置転換手当支給、これは転換平均賃金の九十日から三十日分の支給、それから退職の場合の退職金の加給、次は停年退職直前坑外配置転換の場合退職金基礎金額が著しく減額するとき特別慰労金支給、それから栄養補給支給等が主なる条項になつております。  次は各社におけるけい肺症に対する基礎的研究その他について申上げます。三井鉱山において山野鉱業所に設けられている産業医学研究所は、宮崎博士を初め有能なるスタッフと多額の費用を投じてけい肺症に対する基礎的研究調査を継続的に行なつております、三菱鉱業においては炭鉱病院内に衛生管理課を設け、けい肺予防医学研究その他に従事しています。又三井鉱山においては昨年五月三池において全鉱業所医師各山から五名程度集めまして、けい肺講習会を催しました。  次は石炭業界対策研究その他について申述べますと、昨年の十月、日本石炭協会及び日本石炭鉱業連盟共同けい肺対策委員会を設けまして、広くけい肺症に対する対策研究樹立に努め、予防診断補償の各専門委員会を設けて研究を続けております。又九州地区診断研究の発足について述べますと、昨年の十二月二日、三井の宮崎博士三菱御厨医師を中心といたしまして、現地医師けい肺診断レントゲンの診察等的確なる診断基準を確立する目的を以て診断研究会の打合をしております。本年一月二十九日第一回研究会を福岡で開催、三十五名の出席を得ました。なお現地としては労働省けい肺診断講習会現地開催されるよう要望しており、又北海道でも同様の動きを見せております。その他例えば三菱鉱業では、炭鉱においては電圧が変りやすいため、レントゲン写真が不鮮明になることを防ぐために、蓄電放電式に改善する等いろいろ努力を続けております。  官庁のけい肺対策に対する協力状況労働省巡回検診に対しては最大限の協力をし、便宜の供与その他に努めております。又労働省設置けい肺対策審議会には三井鉱山から佐伯保安部長三菱から秋元労働部長、と不肖私と三名が出ております。労働省主催けい肺講習会には二十七年、二十八年とも石炭関係者が多数出席し、特に二十八年六月開催けい肺講習会には石炭関係から三十四名の多数が出席いたしました。以上申述べましたように、近く九州北海道においては講習会開催の要望に副い、けい肺診断講習会開催予定であります。  以上でございます。
  16. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) ちよつと速記をやめて下さい。    〔速記中止
  17. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 速記を起して下さい。大滝参考人に御質問のある方はお願いします。
  18. 阿具根登

    ○阿具根登君 大滝参考人に御質問申上げますが、石炭業界のほうで六百六十二名のけい肺患者がおるというお話がありましたが、その実態としてどういうことをやつておるか、皆様の立場から御覧になりまして、今の基準法では三年間給付を受けておりますが、その後はどうことになつておるか、治るということはありませんでしようけれども、一応小康を得て仕事についておるか、或いはますます悪化しておるか、そういう点について何かございましたらお教え願いたいと思います。
  19. 大滝四士夫

    参考人大滝四十夫君) どういう状態になつておりますか、個々の実態につきましては資料もないので申述べられません。
  20. 阿具根登

    ○阿具根登君 これだけの患者が出ておつて巡回検診でまあその後相当殖えておるということも大体お聞きしておりますが、これに対しては何ら抜本的な対策は講じられないわけです。今の現状では恐らく病院に行くか休んでおるか、配置転換とか、こういう以外には栄養の補給ぐらいしかないのだ、こういうように私たち思つておりますが、それでも全然治る可能性はないとするならば、三年間で打切られて行く人はどういうような姿でやめて行くか、それを御承知であつたら教えてもらいたいと、こういうことなんです。
  21. 大滝四士夫

    参考人大滝四十夫君) まあ配置転換等によりまして大体けい肺患者炭鉱においては特定の炭鉱に割合多いという現象もありますのですが、三井鉱山三菱鉱業の病院は、只今も申上げましたように施設も完備し、整備して、又お医者さんも非常に熱心にやつておられますので、これは配置転換その他によつて、できるだけそういうような不幸な状態を回避するように努めている現状であります。
  22. 阿具根登

    ○阿具根登君 もう一つお伺いしますが、只今おつしやいました十九社の実態は、殆んど予防措置はされておると、かように考えておりますが、巡回検診のある前とあつた後の開きは相当あると思います。とすれば十九社以外の中小炭鉱その他が非常に少いというのは、けい酸紛塵が少いのであるか、或いはそういう発見がされておらないのであるか、まあ私たちが考えてみて、そういう予防措置が完全にできておらないところには、炭鉱も相当知られざるこういう患者がおるのではないか、こういうふうに考えますが、そういう点はございませんか。
  23. 大滝四士夫

    参考人大滝四十夫君) 炭鉱の数は非常に多いのですが、我々は先ほども申上げましたように、その他というのが合計して要領一から三まで九十三名ございますが、特定の炭鉱に集中の傾向があるので、まあ中小の極く小さい炭鉱には余りけい肺患者発生の話は聞かないのでございます。
  24. 田畑金光

    田畑金光君 大滝さんに二、三お尋ねしたいと思いますが、先ほどの御説明によりますと、石炭界ですでに労働協約で協定されておるのが四つの大手の会社であるというような現状でありますが、まあ最近けい肺についても職業病として一般の関心が高まつてつたわけであります。石炭協会といたしましても石炭鉱業連盟と相協力されて、対策委員会設置とか或いは講習会の促進を図つておられるようでありますが、けい肺の問題で今後労働協約等で、他の大手の会社、或いはまあ中小炭鉱等においても労使の自主的な協定によつて、できるだけけい肺対策を進めて行こうとするような方針で協会としては指導されておるのかどうか、この点一つ
  25. 大滝四士夫

    参考人大滝四十夫君) 今のお話は、まあけい肺の非常に少い炭鉱、絶無の炭鉱もあるわけですが、やはり患者に会つて労使双方協定によつてけい肺患者予防なり救済なりしようということであれば、この協会におきましてもできるだけ協定を取り交わして、救済して行こうと、我々はこういう考え方で現在進んでおるつもりです。
  26. 田畑金光

    田畑金光君 先般金属鉱山関係者の現状についてのお話を承りましたが、金属鉱山についてはすでに七五%の労働協約ができておる。まあ労使関係自体によつて処理できるものはできるだけ処理して行つているというようなお話でありましたが、まあこういうような傾向は、同様に石炭業界の今後の労使関係においても一般的な傾向になるだろうというような私たちは見通しを持つておりますが、業界としてもそのような考え方でございましようか。
  27. 大滝四士夫

    参考人大滝四十夫君) 金属鉱山石炭業界というのは事情も相当違うのですから、現在四社の占める、協定を持つているのは四社でございますが、これは金属鉱山の今七五%とおつしやいましたが、これは大体一二%程度に当つております。まあ金属鉱山と事情も相当違うのでございますが……。
  28. 田畑金光

    田畑金光君 その点は私は違つておることはよくわかりますが、お尋ねすることは、まあ今後業界としても先ほどのお話のように、労働協約等で協定をして、できるだけ救済して行こうとする御方針であるということをまあ聞いて、私たちも非常にその点は同感な感じを持つわけであります。先ほどのお話の中で、けい肺対策委員会設置されて、現に委員会を中心として活動をしておられると、こういうふうな御説明でありましたが、これは例えばこの対策委員会を中心として今後けい肺についての研究を進められて行く、まあそういうような結果、どうしても単なる山元だけの対策処理だけでなくて、大きく一つの国の政策とか、国の職業病に対する今後の労働政策とか、こういうふうな問題等を先ずこの対策委員会等が研究されておるのかどうか、或いは討議されているのかどうか、或いは純然たる医学上の立場からこの委員会を運営されているのかどうか、これらの点について一つ承わつておきたいと存じます。
  29. 大滝四士夫

    参考人大滝四十夫君) いろいろ研究はしておりますが、まあ今日は実情を述べろと、こういうことでございまして、意見を述べることを差控えたいと思います。
  30. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) それでは有難うございました。続きまして三池炭鉱労働組合委員長浦川守君の御意見を伺います。
  31. 浦川守

    参考人浦川守君) 浦川でございます。三池におけるけい肺現状につきまして率直にここで申上げてみたいと思つております。  一般論的な問題については、すでに前三回のこのような会議でお聞きになつていると思いますし、私は飽くまでも現実の現場においてどのような状態におかれておるか、その中から見た私の考え方、こういうものに重点をおきたいと思います。  三池でこのけい肺問題が発生いたしましたのは、昭和二十一年のときであります。このときに組合のほうから、経営協議会におきましていわゆるよろけと言つておりましたその当時のけい肺患者発生し、実際組合員の中に非常に困窮しておる者がおると、この者についての会社の救済を求めたわけであります。それを提案いたしたわけであります。ところが当時の病院長で、現在も病院長をやつておりますが、その病院長はこういうことを言つております。三池には当時、二十一年の状態ではけい肺患者発生を知らない、文献では過去にそういうのがどつか南米方面にあつたというようなことを発言をいたしたわけであります。私たちとしては非常に残念でありましたが、そのときの経営協議会では、それに対する何らの結論も求めることができなかつたわけでありますが、ところが組合といたしましてもいろいろ考えましても、どうしてもやはり現実の病人の実態については眼を覆うことができないという中から、再度検診を要望いたしましたところが、二十二年になりまして、五名のけい肺患者が三池におる。これは要領三のけい肺患者が二十二年に発見されたわけであります。併しそれは手遅れで、その年に四名の死亡者を出したというような非常に悲惨な実態を持つております。それからその後やはり炭鉱にもけい肺というものがおるということが漸く一般にも知られるようになりましたし、組合といたしましても、この点についてのいわゆる輿論的にも、或いはこれに対する社内的な取扱いにつきましても、その後積極的にいろいろ対策を進めて参りました結果、二十八年の末現在で、三池炭鉱におけるけい肺患者は三百四十一名に達しております。うち二十二年以降死亡した者が二十四名、それから打切りでやめて行つた人が三十七名、退職した人も同じく三十七名、こういう数字になつております。  それではこの具体的な事実、この統計的な考え方に基きまして申上げますと、三池におけるけい肺病の発生というものは、二十二年から漸くその問題が提起されて出て来たということでありますけれども、二十二年以前にこのような状態はどうであつたか、私はこの状態については、やはり結核とか或いはその他の病気でやめて行つた人が相当の数あつたというふうに判断をしております。又非常に長老の、長く炭鉱に勤めてすでにやめて行つた人の話を聞いても、丁度今のけい肺と同じような状態で倒れて行つた人が私傷であつたということを聞きまして、恐らくこの実態については、過去の二十二年以前の状態においても、このけい肺という知られざる名前の下に私傷でやめて行つた人が相当あつたというふうに判断をしております。  先ほど大滝部長からも言われたのでありますが、この二十二年以前の状態が今の日本の炭鉱における状態ではないか。私は検診すればもつと各炭鉱にもこのけい肺患者がいるというような実態を確信しておるわけであります。  それから三池におけるけい肺患者の年次別の発生状況を申上げますと、二十二年に五名の発生を見ております。二十三年には二十八名の発生を見ております。二十四年には十三名の発生、二十五年には三十三名の発生を見ております。二十六年には百五十名の発生であります。二十七年には八十二名の発生、二十八年には三十名の発生となつておりますが、三池においては或る程度の作業方式の変更とか、或いは湿式による掘進等がなされておるにもかかわらず、今の数字を見ておわかり願うように、患者発生数というものがむしろ増大の傾向にあるということにつきましては、いろいろ考えて見なければならん問題であると思います。各企業における自主的な予防対策の限界というものを私はこの中に感ずるわけであります。  なお、この炭鉱賃金が非常に低い、或いはその上に請負給という制度のために、非常に各労働者が働かされておる。或いは炭鉱の機械とか或いはけい肺予防に対する機械とか、器具の不完全さというものにつきましても、私は指摘できるのではないかと思う。三池の場合でさえもこのような非常に不完全な機械器具の状態の中で、けい肺患者はむしろ殖えて行くという状態考える場合に、私はこの問題につきましては、生産第一主義という今の経営者考え方を、保安のほうに重点を置いて行つてこそ初めて本来の生産というものは軌道に乗るものであるというふうに考えるわけであります。  三池におけるいわゆる機械器具の不完全の例を二、三申上げますと、ドリルという一つの機械が新らしく坑内に入れられております。これは「のみ」の中から水が出て、湿式で粉塵を立たせないようにするという機械であります。これを使う過程においてこのような事態が出て来ます。炭鉱では、先ほど大滝さんも言われたように電圧が下がる、水圧が下がる、そのために折角そういう「のみ」を使つても、その「のみ」の水が先に出ないという状態も現場では往々にして出ております。なお実際に生産第一主義という形の中で、ドリルという機械は坑内のほうに据えた。ところがそれに水を引く配管の設備というものが非常に遅れて来る。その遅れて来る場合に、掘進の労働者は遊ばなければならない。遊べばその日の生活に困るというわけで、やはり止むなく仕事をやる。そういう中でやはりけい肺発生というものは減つておらない。或いはマスクという問題、けい肺についてはマスクをはめて予防をする。成るほどこの点については組合としても、このマスクをかけることにつきましては積極的にこれに対する運動をやつたわけであります。併しこのマスク自体につきましても、中に海綿が入つておる。特に四山とか或いは三池の坑内においては、非常に高熱作業であります。この高熱作業の中においてマスクをはめて坑内に入つて仕事をすれば、そのマスク自体がすでに乾燥してしまつて、マスク自体の価値がなくなる、こういう実態であります。これで形式的に機械設備が入つたというように判断することは、これは大きな間違いではないかと思います。  次に注目してもらいたいのは、先ほどの年次別患者発生数の中で申しまして、二十六年のときに百五十名の患者が出ております。これはなぜこの百五十名の患者発生したかと申しますと、これは労働省より直接検診に来られたということであります。二十五年までも勿論会社の医師は熱心にいろいろの検診をやつてつたと私は思つております。併しやはりいろいろ大々的に或いは徹底的にやれば、二十六年における百五十名、二十二年以降二十五年までの、或いはそういう状態の中での三倍乃至四倍の患者数がそこで発見されております。こういう実態考える場合に、先ほど申しましたように、いわゆる全炭鉱における徹底的なけい肺に対する予防措置を講ずるならば、又講じなければ、二十二年以前の状態では実際けい肺という苛酷な悲惨な病気によつて、それが私傷病といううやむやの中で死んで行く実態炭鉱の中には数知れず多くあるということを判断するわけであります。  それから次に、年次別に患者がどのような死亡の統計になつておるかと申しますと、二十二年で五名の患者に対しまして四名の死亡になつております。それから二十三年には二十八名の患者発生数に対して十一名の死亡者が出ております。二十四年には十三名のうち四名の死亡者、二十五年は三十三名のうち一名の死亡者、二十六年は百五十名のうち五名の死亡者、二十七年、二十八年は、これは百十二名の患者の中で一名の死亡者、このような数字が出ておりますが、これは労働省の検診等早期に予防対策が講じられたその運動の結果死亡者が減少したのではないか、そういう早期予防対策のために死亡者が減少したのではないかというふうにも一応は考えられますけれども、併しこの数字は、むしろ二十二年以降強制的に退職を求められた例もありますし、或いは職場を去つてつた人たちがむしろ六十二名という多数に上つておる現状をこの数字の中から考えます場合、社内の統計的には死亡者の数は少くても、むしろこの六十二名の人が殆んど死亡しておるという実態、そういう実態の中から、この実態の事実についてはあとで申上げますけれども、そのような中で、やはりこの数字につきましては十分我々としても考えなければならないと考えております。  それから炭鉱におけるけい肺発生についてどうして発生するのかということについていろいろ考えてみたわけでありますが、これは炭鉱というものが、基礎産業として戦前、戦後を通じまして増産を強制されまして、労働者は産業戦士としてもてはやされた。そうしてそのもてはやされた蔭には酷使された。こういう結果が、その記念品がけい肺として現在の労働者の中に残つておるというふうにも考えられるわけであります。最近は又生産性の向上ということによつてコストの切下げが各社で求められております。この産業界のそういう要望に対しまして、炭鉱の老朽化を防ぐためには、この中にはやはりそのしわ寄せというものが労働者に一番かかつておる。それは炭鉱の若返りということから、炭鉱を深く掘つて行かなければならない。深部の石炭資源の掘進とか或いは竪坑の開発、これは飽くまでも岩盤掘進という形の中で掘進作業というものが続けられて強行されて行かなければ、この炭鉱の若返りはできないわけであります。このような掘進作業というものにつきましては一応ここで紹介をしておく必要があると思いますが、暗黒の坑内の中で、而も通気というものが殆んど袋小路的な状態の中に置かれておりますので、通気というものが十分でない中でいわゆる岩盤を機械で掘つている。ところが炭鉱粉塵というものが非常に多い。これはドリルを使いましても、まだ粉塵というものがたくさん残つておるわけであります。この粉塵の中で仕事をやつておる労働者の掘進作業というものがやはり続けられて行かなければ、今後の日本の炭鉱の若返りということはあり得ないというふうに思つております。このような仕事はなお今後も続けられて行くというふうに判断します。  なお貸金というものは先ほど申しましたように請負給の賃金である。これは炭鉱の労働者の賃金が非常に低いということと相待つて炭鉱労働者のけい肺患者発生する非常な要素にもなつておるということを申上げたいと思います。それは戦前以来、石炭の産業の増産については非常に強く要望されておりましたし、我々自身といたしましても、石炭の生産につきましてはいろいろな角度から苦心をいたしたわけであります。ところがその苦心をして出した石炭であるとか或いはボタ、ボタといいますのは掘進して出る岩盤であります。このボタ等がやはり標準作業量という形になりまして、その標準作業量で、仮に百の標準作業量が二十二年でありましたならば、賃金改訂のたびに百十になり百二十になり、百三十になりというふうに非常にそれが加重いたしておる結果、やはり新らしい機械を据付けましても、それに要する手待ち時間或いはそれに対する能率の低下というものの中から、労働自体はやはり新らしい機械に馴れるということと、それを本当に自分の生活賃金とからみ合せて考えるという実態になると、やはりなかなかそれはむずかしい問題であります。このような問題につきましても、やはり十分その予防対策を受入れる状態の中に労働者を置いてもらいたい。ただ形式的にこの機械を入れたからそれでいいのじやないか、入れて仕事をすればその日の生活のできない、その日の飯の食えない状態においてそういう機械を形式的に入れて、これで事足りるという態度であつたならば、けい肺というものは今後一層多くなるであろう。これは勿論我々自身も反省しなければならん問題であると思いますけれども、そういう実態も十分知つてもらいたい。  炭労の今度の賃金闘争、賃金要求の中で請負給制度の撤廃という一つの要素を出しましたのも、かかる悲惨な実態を防ぐための一つの問題点であつたというふうにこの機会に御説明申上げたいと思います。  なおけい肺病の特殊性につきましてはすでにいろいろ言われておると思います。けい肺に罹つた人は殆んど治らないということも言つております。又私たちの経験からも、けい肺に罹つた人が本当に全快したということを過去の経験からまだ一回も見ておりません。而もけい肺に罹るということは、やはりたとえそれが一度であつたにいたしましても、その療養につきましては非常に苦労をするわけであります。例えば気候のちよつとの変化に伴いまして直ちに発熱をする、而も風邪を引いて、その風邪がもとでけい肺というものが結核と併発いたしまして倒れて行つた、こういう例もあるわけであります。一度になりますれば、たとえそれが公傷に認定されなくても、又二度になつて公傷に認定されなくても、そのなつたという事実の中で、非常にこの病気というものの進行状態、或いはこれに対する予防非常にはむずかしい状態に現在の労働者は立たされておるということは、特殊な状態ではないかと思います。  それからけい肺患者というものが、やはり病気といいましても、いろいろ薬もあるわけでありますが、このけい肺患者に対する薬というものはやはり栄養補給的な性格のものしかないわけであります。従いまして毎日の食膳の中で栄養のある物をおやじに食わせる、ところが日本の家庭制度の中ではやはりおやじだけがいい物を食べて、小供がたくさんおる中で子供らに食わせないというわけには行かない。その場合にやはり人情としても家庭的な生活費が嵩んで行く、おやじが食わないでそうして家庭も辛抱して行こうというならばいいわけです。ところがなかなかそうは行かん。病人があるといつても、到底薬を買えない病人ということになりますと、けい肺患者の家庭については非常に惨めな生活を現在やつておるわけであります。このけい肺患者の苦しい実態、いわゆる死刑を予定されて、いつ死ぬかわからない、その死を待つばかりのいわゆる労働者の生活、これはここでいろいろ申上げても恐らく抽象論になると思いますけれども、昨年であつたかと思いますが「生きる」という映画があつたわけです。死を宣告された人間がどういう苦しい目に会つて、どういう人世観になるか、これはあの映画「生きる」の主題の人物のように、達観して最後の生きる途を迫るように人間は人格的にも高まつて行かなければならんとは思いますけれども、併しやはり死を予定された人間の心境というものは筆舌に尽しがたいものであると私どもは思います。そういう経験を持つております。  時間もたちますので、一度、二度の患者につきましても、これはまだ三度という状態までは進んでおらないにしましても、先ほど申しましたように非常に出勤率が下がるのであります。労働の能力が下がるという状態でたとえ配置転換をいたしましても、その病状を進めないために非常な苦労が要る。すでにけい肺の三度と同じような状態において療養をしなければ、又三度という本当に死に至る道程を、近道を行くということを考えるわけであります。この点につきましては、今後の法案の中にも十分いろいろ御考慮願いたいと思つております。  なお私は医学的には非常に無知な人間でありますけれどもけい肺という病気につきましては、これは絶対に治らないのかどうかということについて、私は結論から申しますと、是非治してもらいたいというふうに思つております。明治時代におきましては、結核というものは不治の病だということをいわれました。今のけい肺は今の時代において不治の病だといわれております。併し私は今の労働者の悲惨な実態の中から、是非何とか治してもらいたいというふうに考えておるわけであります。私はこのけい肺についての研究実態につきまして、二、三、いろいろ見たわけであります。例えば鬼怒川の療養所に見学に参りましたときに、一隅にけい酸を含んでおる岩石、恰好の岩石を分析されておるお医者さんがおられたわけであります。ところがその設備たるや、私の目から見て、素人の目から見ましても非常に貧弱な状態である。併し私のほうに三百四十一名の患者がおるのに、三池の岩盤を本当に調査されてもらつておるのだろうか、そういう中でああいう患者発生状況である。こういうことから見ても、まだこれに対する医師調査も十分でなかつた。こういうことを考えまする場合に、私はこのけい肺に対する研究所というものはもつと総合的に根本的な立場で私は作つてもらいたい。そういうことの中で今の不治と言われておるこの病気につきましては何とかやつてもらいたいというふうに考えます。三井の医学研究所というところでも勿論やつておられます。やつておられますけれども、やはり一企業における研究所の段階というものはおのずから限度があります。三池でもけい肺研究所がありましたけれども、二十五年であつたと思いますが、火災によりまして焼けまして、非常に残念でありましたけれども、私はそのような立場からけい肺に対する根本的な、一企業に任せるということでなくて、もつと総合的な立場でそういうものを作つてもらいたいというふうに考えます。  それからけい肺患者の生活の実態につきまして非常にたくさんの資料、いろいろの内容を聞いておりますけれども、主だつて特に皆さんがたに知つて頂きたいというのを二、三紹介いたしたいと思います。前原留雄という四十三才の掘進工がおりました。これは勤続八年であります。その掘進工は昭和二十八年の八月の十一日に休業いたしまして、約七カ月間の病床の結果、二十九年の三月一日に死亡したわけであります。この人の健保等級は十一級であります。級等級でありますから十一級であります。この級等級の十一級と申しますと九千円の手当しかありません。これは家族七人で、十三才の長女を頭に子供六人おります。これも併し結核合併症という病気で倒れておりますが、家計費が月最低二万八千円は要るのであります。家族七人で一万八千円はやはり要るのであります。それは全部借金でやつております。一日三百円の療養費で、そして家族七人で而も栄養を自分で取つて行かなければならん。これは、こういう状態はこれは死ぬということ以外にはないと思います。これは前原君の例であります。  原田君の例にいたしましても、勤続十四年、三十五才の男でありますが、二十六年の六月に初診をいたしまして、けい肺の認定が二十七年の十月の七日にあつたわけであります。死亡は二十八年の十二月の九日であります。この初診からけい肺の決定まで約十七カ月間、一年半に近い日数がかかつております。けい肺の認定通知というものが非常に遅れておるのです。こういうことがその患者の場合にとりましてはいわゆる私傷病で、その間けい肺の認定があるまでは取扱われておるわけでありまして、私傷病で給付が切れてからその認定の通知が来るという極端な例がこの例であります。ところが私傷病の給付が切られますれば全部自分の費用で見なければならん。そうなりますと私傷病の打切後の赤字というものは相当厖大な数字になりまして、この原田君の家族につきましては現在相当の借金を背負つて非常に苦しんでおるという実態があるわけであります。  なお、長くなりますが、藤木君の例をもう一つ申上げますと、これは四十才の男で勤続十七年であります。初病は二十五年の七月の二日、公傷打切りは二十八年の七月三日、死亡は二十八年の十一月十四日であります。これは休業中のこの人の給付は月一万一千円、家族七人、十三才の長男等子供を五人抱えて、毎月の最低の生活費が一万八千円といたしますと、赤字は月に七千円の赤字を毎月見ております。  この例の中で特にまだ皆さんがたに知つて頂きたいのは、三年間というその打切補償のために、非常に残念ながら職場をやめて行つた。やめて行つたところが十一月の十四日に死亡をいたしておる。これはやめてから死亡いたしております。これなんかは典型的な問題であります。打切解雇すれば事足りる、打切解雇したらばその人間の精神的に受ける問題、或いは経済的に受ける打撃、この問題は、月に二万三千円の病気の治療費、療養費というものが要るという実態の中で、この問題につきましても非常に三年の打切補償というものがむしろこの藤木政之君を死亡に至らしめたということを、家族の者も非常にそういうことで嘆いておりますけれども、こういう点につきましても十分考えて頂きたいと思います。今いろいろ申上げましたように結核との合併症で非常に誤診が多いということ、この点につきましても一言申上げたいと思いますのは、けい肺というものに罹ると非常にまあ肺が弱つて来るということで結核に侵される要素がある。そのために非常に結核とけい肺との判定がつきにくい状態であります。三井の場合、三池の場合、特にいろいろの医者のいろいろな角度から研究はしてもらつておりますけれども、安田という工員の場合におきましては、医師は結核ということを最後まで固執しました。併し組合としましては或いは本人といたしましては、経験年数の中からは、これは飽くまでもけい肺と同じ症状であるというふうに自覚症状も訴えたのであります。併し最後までいろいろやりましたけれども、やはりどうしても死ぬまでそれに対して黒白はつかなかつた。併し解剖をした結果、これはけい肺であつたということ、肺の中に岩粉がざくざく入つてつたという実態、こういう実態等も十分考えますれば、やはり結核患者等におきましても十分いわゆる掘進作業、粉塵作業に従事した人数に応じて検診等も十分にやつてもらいたい、こういうふうにも考えるわけであります。  それから初診から認定までの期間が非常に長い、これは先ほども申しましたように、この長い結果における労働者の被害というものは甚大であります。私傷病という形で取扱われる、或いは場合によつては打切られる、全部自分の自費で生活しなければならん、金がなければ借金をやらなければならん。そうして或る何カ月かしたらあれは公傷でした、或いはけい肺でしたという認定が来る場合があります。これは先ず会社の医師けい肺と認定して基準局に申請するまでの期間は半年か一年くらいかかる場合があります。基準局が認定するまでの期間にこれ又半年か一年の期間がかかつております。こういう状態の中で労働者は非常に苦しんでおるということもこの機会に申上げたい。  それから藤木政之君の例のごとく、三年の打切補償をやられたために、経済的にも或いは精神的にも打撃を受けて、長年の職場を離れたその打撃のためか、やめて三カ月か四カ月してもうすでに死んでおる。こういう例は今この藤木君の例を一つ申上げましたけれども、先ほどの六十数名の退職者の中にもそういう例が多々あるということを申上げたいと思います。  それからこの生活の苦しい実態の中でなお大きな矛盾がもう一つあります。これはけい肺患者という者は今なお医学上は治癒の見込がないというように言われております。併し治癒の見込がないということは、やめてからの失業保険はもらえないということであります。ところがこれにつきましては失業保険法の三十八条で月額千分の八を乗じた金額が徴集されますので、こういう非常に可哀相な人までもすでに初めからもう、やめても失業保険をもらえないという実態の労働者に対してもいわゆる失業保険を、これは年間にすれば千円を超す金額になるわけでありますが、こういう金額をやはり取るということにつきましても、やはり今の実態の中から考慮してもらいたいという事項であります。失業保険の係に行きましても、やはり社会事業として辛抱してもらわなくちやならん、こういうことを言いますけれども、むしろ社会事業的に或いは人道的にも救済すべき人間からまでもこういうものを取るということにつきましては、やはり十分御一考願いたい点であると思います。  最後に、私の下手ないわゆる言葉で申しますよりも、けい肺法制定に対する三池の労働者の声を率直に私は最後に申上げたいと思いますのは、丁度十二月の九日に死亡した原田儀一君のことでありますが、国会においてけい肺法制定運動が起つた当時より署名運動等に私と共に協力してくれた一人であつたわけであります。ところが三池におけるけい肺法制定の署名運動ということも前後四回に亘つてつております。その二回目の二十八年の三月だつたと思いますが、四山町の街頭でこの署名運動、けい肺法に対する署名運動を頼みますと市民の皆様に訴えまして、名もない市民の激励と、予定以上の人数に達する署名簿を手にして、二人手を取つて喜んだことがあつたわけでありますが、ところが今度けい肺法制定を見ずして不幸けい肺によつて倒れてしまつたという私の同志が最後に私に言つたことは、私は不幸にしてけい肺で倒れるけれども、あとあとにこういう苦しみを残してくれるな、是非けい肺法制定については努力してもらいたいということを私に言つたわけであります。私としてもこの機会に皆さんがたに聞いて頂くことについては非常に嬉しいわけでありますが、いろいろの言葉を申上げますよりも、この労働者の悲痛な声を是非聞いて頂きたいのであります。  なお九州では毎年労災に対する労使懇談会というものが福岡で行われます。これは二十七年のことだつたと思いますが、労働大臣代理といたしまして基準局長が参りまして、私がけい肺法制定についての質問をやりました際にも、けい肺法制定には努力したいということを、約束いたしてくれております。私は早速毎月開かれるけい肺患者の座談会にこのことを報告いたしました。そうして非常に皆も喜んでおりましたけれども、その後国会における審議状態が非常に進まず、先ほども申上げましたように、死刑囚にも似たこの患者の気持というものは非常に悲惨な暗い気持でおるわけであります。どうか一日も早くけい肺法制定について努力してもらいたい。このような悲惨な職業病についてはいろいろの事情も、或いは各政党、右とか左とか、革新とか保守とかいう一つの問題点、或いは問題の事情もあると思いますけれども、やはり私は今後の日本産業の生きる道ということは、生産性の向上を高めて行かなければならない、こういうことがいろいろ言われております。生産性の向上ということには、私に言わせれば、労働者が自律的に生産意欲を高めて行くということが、これが非常に重要なことだと私は確信いたしております。この自律的な生産意欲の増大をするということは、これは、懸命に働いた労働者に対してはやはり温い手当をしてやるということこそ私は必要であろうと思います。百歩先の目標を見て、一歩先のことを考えないで、一歩先のこういうけい肺法制定に関するこのような問題を考えないで、やらないで日本の生産性の復興という掛声ばかりやつて、本当の日本の産業というものは絶対復興しないであろうということを私は確信いたしております。どうか三池の労働者の今の気持というものを率直に申上げましたので、皆さんがたのよろしく今後の御審議をお願いするわけであります。終ります。
  32. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。次に、日本鉱山労働組合調査部部長細川英香君の御陳述をお願いします。
  33. 細川英香

    参考人細川英香君) 日本鉱山労働組合を代表いたしまして、けい肺の問題に関する参考の具体的な資料を提供いたしたいと思います。本日の会議の性格上私は誰が悪い、彼が悪いとかいうふうなことは申したくありません。ただ現場において実際見たり聞いたり体験して参りましたことを、要約いたしましてこの席上で発表いたしたい、このように考えておる次第でございます。  本論に入ります前に古河のほうから具体的なけい肺患者の数字が発表されております。これについてちよつとした疑問がありますので、私の見解を付帯的に申述べておきたいと思う次第でございます。発表されました数字によりますと大手関係が五百六十九名、その他中小関係が九十三名ということになつております。ここでちよつと考えられますことは、大手と中小に働く従業員の数の比率からいつて非常に中小関係患者発生の率が少いという事実であります。で、現在具体的な数字を私のほうで把握いたしておりませんので、確定的なことは避けたいと思いますが、私があとから述べるような理由によつて中小企業に働く従業員の諸君けい肺診断状況が悪いというものが、非常に劣悪であるということから、この数字はいささか低過ぎるのではないかと思うのでありまして、今後けい肺に関する認識とか医療設備の強化によりましてこの数字がずつと延びて来る可能性があるということを指摘しておきたいと思うのでございます。それともう一つは、あとで石炭関係の方がいろいろなお話をなさると思いますけれども現地におきまして私どもはこういつたけい肺に対する悲惨な状態を一刻も早くなくして行きたいという考え方から、けい肺に関するモデル協定或いは労働協約の基準案というようなものを作成いたしまして、経営者の方に最低限この程度のものは労働者のために確保して頂きたいというふうな要求を出して交渉をいたしております。併しそれはなかなか実現されません。で、そういつた交渉の過程の中で私どもが聞いておりますことは、冬山における事業主の方々の中にはけい肺協定を一刻も早く作つてもらいたいという意見を吐く人がおられるわけであります。こういつた点についも十分御調査お願いしたいと思うのでございます。  さて本論に入りまして、けい肺の問題は大体予防の問題、発見の問題、そして各種の医療補償の問題或いは配置転換の問題、こういつた四つの問題に大まかに分けられると思いますので、これについて一応具体的に事情を説明いたしたいと思う次第でございます。第一に予防の問題でございますが、このけい肺に対する予防の方法としては、人間自身が病気に対する抵抗力を強めるという方法と、更に環境を改善して行くという方法があると思うのでございます。で、この人間の病気に対する抵抗力を強めるということは、先ほど前者の方が御説明になりましたけれども賃金とか適正な労働時間とか、作業量、これに関係すると思います。併し本日の会合はこういつた資金とか、労働時間の専門的な研究会ではありませんので、私のほうは私のほうとしてはつきりした見解を持つておりますが、一応差控えたいと思いますが、ただ予防上こういつた労働条件の面に予防の本質的な問題が介在しておるということを指摘いたしたいと思うのでございます。そのほかいろいろあるのでございますが、一つの例を申上げますと、太陽光線に恵まれない炭鉱の労働者に対して太陽燈を照射するというふうな問題がございます。こういつた問題はすでに諸外国においては非常に大きな炭鉱が実現いたしておるそうでございますが、我が国におきましては太陽燈を常設いたしまして、坑内から上つて参りました労働者にこれを照射させるというふうな設備を持つておる炭鉱は私の知つておる範囲では全然ないという状態でございまして、こういつた点にも予防止の問題点があるのではないかと思うのでございます。  更に環境上の改善策でございます。これは防塵マスクとか或いは湿式、乾式の防塵さく岩機、更に通風上の問題というふうな措置があると思います。こういつた点につきましては、金属鉱山においてすでに七五%程度のところが協定によつで各種の保護措置を講じておられるという話でございますけれども炭鉱におきましては非常に遅れておるのでございます。私どもの組合が関係しておりますところでは、こういつたけい肺に関する協定を持つておりますのは三菱鉱業、松島鉱業、日鉄鉱業、日窒鉱業、中里鉱業所の五つ、これは正式の協定というよりか、協定でない申合せ事項的なものを含んでおります。とにかくこういつた五つの鉱業所で、これを人員比で考えて参りますと、大体四分の一程度でございます。而も協定の内容は非常に貧弱でございまして、防塵マスク、その部分品を無償で提供するというのが条文としては具体的に明示してあることくらいで、そのほかの問題はすべて労使の協議に委ねられておるというふうな現状でございます。ともかくもこういつたけい肺協定を持つておりますところはまだ非常にいいほうで、先ほど申上げましたように、残つた四分の三というふうな事業所がこういつた協定を持つておらないということは、私ども考えましてもどうも遺憾な点であると思うのでございます。従いましてこの防塵マスク、さく岩機、通風等の最低基準とでもいうべきものを早急に作つて頂きまして、この基準までは何とか引上げてもらうというふうにして頂ければ幸いではないかと思うのでございます。勿論こういつた面には費用の点が具体的に問題になつて来ると考えますが、これは基準法が施行と同時に相当の余裕期間を置いた、そういつた面を考慮して、けい肺法制定、その施行についても設備の面では相当の余裕期間を置くとか、或いは設備を購入するための貸金制度を考えるとか、いろいろ具体的な方法があると思いますが、そういつた点についても御考案を願いたいと考えるのであります。そのようなことによつて、漸進的ではありますが、一歩々々問題の解決はできるのではないかと、このように私ども考えておる次第でございます。  第二に、けい肺発見上の問題でございます。医学的に考えますと、けい肺は早期発見が非常に困難であるというふうに言われておりますが、それを除きましても、ほかに二つばかり重大な障害があるのではないかと私どもは思います。その第一は、現在炭鉱における医療の技術、特にけい肺に関する医療技術が非常に貧弱であるということ、それからもう一つは医療設備がこれ又甚だ貧困であるということ、これが第一点でございます。で、更に休業補償が十分に行われておりません。そのために労働者の諸君自身が積極的に早期発見に協力しないという状態に置かれるのであります。このうち初めの医療技術或いは医療の設備、この面について御説明を申上げますと、具体的には医療の技術の面では、医師けい肺に対する認識というものが非常に低いということ、更に医療の設備の面では、各山には、大きな事業体におきましては病院とか診療所を持つておりますけれども、小さな炭鉱では診療所も持つておらない。そのためにけい肺の発見に絶対的に必要なレントゲンというものがないわけでございます。そういつた点から早期発見が甚だ困難であるという実情でございます。こういつたレントゲン設備を持たない炭鉱で働いておる患者諸君は、どうもけい肺であるかけい肺でないかわからないというふうな状態になりましたときに、山を越えて汽車に乗つて都会の病院まで出て来なくてはならない。そういう煩わしいことをなかなか人間だからやらないわけでございまして、こういつた点は何とかして打開してやる必要があるのではないかと思うのでございます。  なお付帯的に申上げておきますと、労働基準法では、毎年健康診断をやるということが規定されておりますけれども、私どもがこういつた健康診断の内容を各事業所において見ておりますと、坑内のような粉塵作業をやつておるところはどうしてもレントゲン照射くらいはやつて欲しいのでございますが、費用の関係か何の関係かわかりませんけれどもレントゲン照射を定期診断のときにやる事業所は、私の聞いた範囲では殆んどありません。こういつた実情についても解明のメスを入れて頂く必要があるのではなかろうかと思うのでございます。このような発見のいろいろな障害を改善して行くためには、労働者或いは経営者の皆様も十分努力する必要があると思うのでございますが、現在の企業実態からできがたい点もあるのでございます。特に医療設備を整えるということは、急速にこれを実現することは不可能に近いのではないかというふうな面もありますので、大体炭田を中心といたしまして、労災病院或いは保健所、こういつた公的な医療機関けい肺部門を強化して、医療設備を持たないところの炭鉱従業員に対する或る程度のサービスをやつて頂きたいということが考えられるわけでございます。更に、病院を持つておりましても、医師の皆さんがけい肺について十分な知識を持つておられないと非常に困るわけでございまして、医師に対する講習会も当然考えられると思います。先般中央において講習会をやられたそうでございますが、その成果が大分あつたとは考えますけれども、まだ十分な成果を挙げておらない。と申しますのは、地方の医師諸君は人員が非常に不足である、或いは経費がない等によりまして、中央まで出て来れないわけでございます。従いまして私ども考え方といたしましては、将来地方の労災病院或いは保健所、こういつた医療センターを中心にけい肺の専門家を配属いたしまして、そうしてそれを単位にして医師の講習をやつて頂くとか、或いはその医療センターにいる専門家たちが直接山を廻つて指導するとか、こういつた措置を御考慮願いたいと思うのでございます。ともかく私が申上げましたように、現在の段階におきましては、民間の医療機関がこれはけい肺であるという自信を持つて断定するところが非常に少いために、現在けい肺の認定は殆んど官庁に依存している状態でございます。ところがこの官庁に依存するということによりましていろいろ弊害が起るわでございますが、時にこれは補償問題と関係して出て来ていると思うのでございます。  現在冬山におきまして患者発生いたしますと、関係書類を揃えまして、所属の基準監督署に届出るわけでございます。それが地方の基準監督局に廻り、地方の基準監督局で認定できる権限があるところはそこで認定する。その権限がないところは本省に持つて来るわけであります。ところが本省のほうに持つて参りますと、最低三カ月から一カ年ぐらいかかるわけであります。ところがこの認定がありませんと、山元におきましては労災の取扱をすることが非常に困難となりまして、私傷で健康保険の取扱をするという面が出て参ります。ところが健康保険は六カ月の期間しか適用がありません。結核であればずつと長いのでございますが、普通の病気では六カ月でございます。従いまして六カ月間に認定がなければ健康保険が切れてしまう。而も公傷というはつきりした確定がないので労災の適用をすることができない。つまりどこで保険給付を受けたらいいかという問題が出るのであります。従つてどもといたしましては、最低六カ月間に何とか認定ができるようにして頂きたいと思うのでございます。これには勿論本省のほうの予算の関係もあると思いますが、こういつた点についても十分御配慮を願えれば幸いではないかと考えます。  更に休業補償が十分でない。そのために労働者の諸君が積極的に診療を受けないという問題でございます。けい肺に罹りますような患者は非常に勤続年数の長い、つまり相当の年齢に達した人たちでございまして、多くの扶養家族を持つているわけでございます。私ども調査をいたしました七炭鉱、三十一人のけい肺患者についてこの扶養家族を調べてみますと、患者一人当り扶養家族数は算術平均で四・二人程度になつております。最頻度五人という状況であります。このように非常に多くの扶養家族を持つておりますために、自分が再起不能のけい肺と断定されることが非常に恐しいわけです。自分が扶養の義務を持つておりますので、何とか我慢して労働するというふうな状態にありますので、その間にどんどん病気が進んでしまう。このような経済的、心理的な原因というものも補償の面で或る程度カバーして改善してやる必要があるのではないか。それが発見のために一つの有効的な方法と申しますか、方法であるのではないかと考えるのでございます。  次に第三番目に各種の補償の問題でございます。けい肺患者に対する補償といたしましては、現在のところ労災法による補償と民間の企業体における補償があるわけでございます。大体民間における補償は労災法の及ばざるところを補うというふうな形で現在運営されております。併し問題点は、民間において補償がなされておる企業体は、先ほど申上げましたように、私のほうの関係では大体四分の一で、残るところの四分の三はただ労災のみに頼つておるという現状でございまして、こういつた点は第一の問題点として注目したいところでございます。次に、この民間の補償が非常に少い例でございますが、その内容を申上げてみますと、大体休業補償、打切補償、遺族補償、葬祭料について労災法で十分でないと思われる点を、各企業が会社の負担によつてつておるという規定がございます。更にこれを特に休業補償の面で考えてみますと、法定補償額というのは現在のところ平均賃金の六%ということになつております。ところがまあ協約の持つておりますところでは、これを一〇〇%或いは八〇%と押えまして、差額の四〇%或いは二〇%程度のものを会社が負担するというふうな形になつております。その他いろいろ保護の規定があるのでございますが、その二、三の例を申上げますと、例えばけい肺患者の子弟を会社が優先的に採用するとか、或いはまあ施設の面で十分配慮を払うとか、栄養補給金を支給する等々のことが規定してあります。併し補償の問題で特に問題にしたい早急な問題として考慮しなくてはならないという点は期間の問題でないかと思うのでございます。現在労災法の適用は三ケ年間でございますけれども、この三カ年間という期間は、不治の病といわれるけい肺患者にとりましては非常に短か過ぎるということは勿論でございますけれども、当面問題にしなくてはならない点は、本年にこの三カ年間の期間が来て、そうして労災補償を打切られるという患者がおるということであります。やはり私のほうで調べました労災適用患者の十四名のうち、二十九年に打切られる人が四名、三十年に打切られる人が七名、三十一年に打切られる人が三名という内容になつております。而もこの二十九年を各月別に考えて参りますと、五月に打切られる人が二人、六月、十月が各一人、合計四名というふうな状態がありますので、こういつた差迫つた問題として何とか御配慮をお願いしたいものというふうに当方としては思つておる次第であります。  次に、先ほど申上げましたように、休業補償が十分行われておらないので、労働者の諸君がなかなか診療を受けたがらないというふうな面があると言つておきましたが、現在御承知のように法定の休業補償は六〇%でございます。ところが休業補償額は平均賃金の六〇%となつておりますので、平均賃金が大きくなつたり少くなつたりしますと、必然的に補償額そのものが動いて来るわけでございます。ところがこの平均賃金というのは大体発病前の三カ月間の賃金を平均したものでございますので、この三カ月間にどれだけの労働をやつておるかが非常に大きな問題となると思うのであります。ところがけい肺患者は漸進的に病状が進行いたしまして、労働能力というものが非常に落ちて来る。そうして自覚するようなときには相当進行したときなのでございまして、結局この三カ月間に該当するときには賃金部分が相当程度下廻つていると考えなくてはならないと思うのであります。特にこういつたけい肺患者の該当しておりますところの採炭夫、掘進夫。仕繰夫、こうした坑内直接夫は月給者でもありませんし、日給の定額者でもございません。つまり請負給の職種なのでございまして、能率が下るということは、平均賃金がぐつと下るということを意味しておると思います。ここまでは常識で考えられるのでございますが、そういつた常識に基いて実際の数字というものを検討いたしてみますと、はつきりした傾向がれ出ておるわけでございます。先ほどから申上げておりますように、当方の調査によれば、この患者平均賃金が五百円でございます。ところが大体現在直接夫の平均賃金は七百円から八百円程度でございまして、これは日額でございます。七百円から八百円程度でございますから相当な開きがある。即ち二百円から三百円の開きがあるわけでございます。これは平均賃金でございますから、休業補償額六〇%をかければ相当まだ下廻つて来るのは当然でございます。ともかくそのように非常に不合理な状態に置かれるわけでございますので、この平均賃金算定の基礎については、けい肺患者の場合は特別の御配慮をお願いしたいと思うのでございます。  第四に、配置転換の問題でございますが、この配置転換の問題はやはり協定によつてきめられておりまして、四分の一程度の所が配置転換を適用されるようになつております。そうして残る所はこういつた配置転換条項を全然持つておらないう現状でございますので、こういつた点についても労働者のほうは労働組合を通じて協定の形で促進して行きますけれども、若し立法される際がございましたら、そういつた配置転換の面についてもまだ協約で結ばれていない事業体が非常に多いという点、御配慮の上におきめを願いたいと思うのでございます。  以上が大体私ども考えておる具体的な実例とその問題点でございますが、最後に、私ども調査いたしました具体的な数字なるものを御発表いたしまして、御参考に供したいと思うのでございます。これは現在も調査を続行中でございまので、まだまだ数字が出て来ると思うのでございますが、一応昭和二十九年の二月に行いました調査、昨日打切りました集計結果では次のようになつております。  先ず勤続年数は調査人員が二十七人、算術平均で十七年となつております。平均賃金調査人員が二十一人、算術平均で五百円でございます。家族構成は調査人員が二十四人、算術平均で四・二人、その内容を申しますと、家族零人が二人、一人が三人、二人が一人、三人が四人、四人が一人、五人が五人、六人が三人、七人が二人、八人が三人となつております。  療養法でございますが、これは調査人員二十六人のうち、自宅療養をやつておるのが二十三人、入院しておるのが三人という現状でございます。労災適用者でございますが、これは調査が三十一人、適用されておる患者が十六人、非適用が十五人、これは多分官庁に認定を申請しておるのではないかと思つております。職種でございますが、調査人員の三十一人中採炭夫が八人、堀進夫が九人、充填夫が一人、仕操夫が八人、坑内係員が二人、坑内工作が一人、選炭夫が一人、坑外傭夫が一人、この選炭夫は女の方でございます。坑外傭夫という人は男の人でございます。ただこの坑外関係の二人の方は、前歴として非常に長い坑内在勤の職種についておつたようでございます。  以上が当方の調査いたしました具体的な数字でございます。非常に長くなりましたけれども、以上を以ちまして日本鉱山労働組合のこの問題に関する意見を開陳いたしました。
  34. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。最後に三井鉱山株式会社保安部長佐伯有義君にお願い申上げます。
  35. 佐伯有義

    参考人佐伯有義君) 三井鉱山佐伯有義でございます。予防について現状お話しろというのですから、その点について申上げたいと思います。先ほどいろいろお話がありましたけい肺の問題につきましては、大抵発生箇所から申しますと、大体岩盤坑道掘さくに従事しておる人がこれに罹りやすいということになつておりますのですが、戦争中は相当無理な出炭をやりまして、この立て直しをやらにやいかんというような状態になりましたのですが、そのためにはどうしても従来の沿層坑道よりも岩盤坑道を掘進しなければいけないような状態になり、又出炭も追々増産をしなきやいかんような状態になり、又政府からの要請もありましたので、一層岩盤坑道の掘進というものが盛んに行われるようになりましたことは戦前と趣きを異にしております。で最近の情勢を見ますと、細かい数字はよくわからないのですが、昭和二十六年度の統計によりますと大体千トン当り十メーターぐらい掘つております。それから二十七年度はこれも大体十メーターちよつとオーバーするくらいの程度でありますのですが、これは二十七年度は多少人の影響もありますので、トン当りでいいますとちよつと工合悪いと思いますけれども、出炭がもう少し殖えて、大体似たようなものでないかと思います。それから二十八年度はまだ統計が全部できておりませんけれども、これはスト期間中を大体除きますと、六メーターから七メーターぐらいになつておるのじやないかと想像しでおります。これはまあこの三月終りますと大体統計ができますから数字が出て来ると思います。以上は大体大手状態であります。中小の炭鉱につきましては資料が十分ありませんものですからこれを調べることはできませんでした。併しもう炭鉱も大体整備が終りのほうに行きかかりましたので、これからの岩盤坑道の掘さくというものは、従来よりも少しずつ減るのじやないかということを考えております。又一方この機械化が非常に進歩いたしまして、これに従事せられる掘進夫の方々も大体一割から三割ぐらいの間で従来よりも減つて来るんじやないか、こういうことを考えますと、これまでけい肺を持病にせられたという人の数は今までのような率で殖えるものと考えられません。なお、この診断方面の厳密さといいますか、医学的の進歩によりまして従来罹つておる方の発見はまだあるかも知れません。それから、一方又集団検診を強行される上におきましてそういう方が発見されることも想像できます。いずれにいたしましても、これからは従来のような増加率を示すということはちよつと考えられんと私は思つております。  それからこの前に金属鉱山のお方からお聞きになつたと思いますが、炭鉱金属鉱山との遊離けい酸の発生といいますか、粉塵発生量についてちよつと申上げたいと思います。で炭鉱の岩盤と申しましても、金属山のようなけい酸分の多い岩盤を掘進しているのでありませんので、大体において半分とか或いは三分の一か遊離けい酸を含んでいないし、又硬さにおきましても、炭鉱のほうは金属山から見ると相当軟かいのでありまして、いわゆる有害になる粉塵というものは少いということになつております。それから炭鉱にはいつも危険な炭塵とか或いはメタンガスが発生いたしますので、延先には必ず通風設備をやつております。又炭塵抑制に散水をやつておりますので、この点はずつと粉塵発生量が少いと思います。この一例を挙げて見ますと、私のほうでやりました数字をざつと申しますと、扇風機を付けてあるときと、扇風機をとめたときと比較いたしますと、一番悪い所で五〇%ぐらいの粉塵、扇風機のないときを一〇〇にしまして扇風機を付けたときは五〇というのが最大でございまして、良好に行つている所は大体まあ三〇%前後しか残らんような状態になつております。これは坑道の大きさであるとか或いは扇風機の施設その他によつて多少影響はありますけれども、前とは非常に趣を異にしているところがあります。それから散水にしましても、作業前に、選鉱のほかの作業前に散水いたしますと、約二〇%前後の粉塵を抑えることができます。そういう意味におきまして金属山の発生する粉塵量よりも炭鉱のほうの発生する現状における状態は非常に少いのであります。その点を御記憶をお願いしたいと思います。  それから法的の制限が最近特にやかましくなりましたので、けい酸質区域として指定せられた所は全部湿式化しております。なおそのほかに追々湿式化するような状態になつております。又マスクも今度昨年の十一月から実施したことになつておりますが、マスクの規格も厳密になりまして、従来は一種、二種ありまして、九〇%は一種、それから六〇%は二種というような大ざつぱな規格になつておりますが、今度は四種類に分けまして、一種、二種、三種、四種ということになつております。炭鉱では一種、二種のものを使うことに大体なりますが、この一種と申しますと、従来の一種が九〇であつたやつが九五というように濾塵率の高いものを使うようにしております。追々これもメーカーのほうで作つておりますので、我々業者としては濾塵率の高いものを使うようにいたしております。  先ほど申しましたさく岩機のことをちよつと申上げたいと思います。現在炭鉱で使つておりますさく岩機は、これはなかなか急には参りませんけれども、先ほど申しましたようにけい酸質指定区域は全部湿式化されております。全体でどのくらいのさく岩機を使つたかと申しますと、湿式のさく岩機は四百五台使つております。それからそのほかに乾式のさく岩機として五千六十四台使つております。以上はこれは大体大手十九社の数字であります。中小のほうは私のほうで調査しにくいものでありますから、わかりかねております。湿式につきましては、業者のほうで非常に熱心にやつておりますが、従来日本で使つておる湿式さく岩機ではまだ十分でないところがありますので、最近におきましてドイツからさく岩機を輸入する。又スイベル式と申しまして、「のみ」の中に空気が行かないで、水だけ行くというようなものをドイツから取寄せてやつておるところもあります。これの一例を申しますと、三井、三菱、住友、常磐、それから松島炭鉱、大正鉱業というようになつております。追々これも日本でできるようになろうと思いますけれども一つパテントの問題がありますので、まあ内緒でやつておるような程度のところはこの表に載つていませんから、この数字よりも私は多いと思います。  もう一つ附加えて申しておきますが、マスクの問題でありますが、現在大手十九社で使つておるマスクの数は一万七千八百三十五ということになつております。これはいずれも二十八年十月現在でございます。  それから粉塵を測定する器具がなかなか完全のもので、而も現場において扱いやすいというものがありませんで、実に我々も困つておるわけでございます。これは学校の実験室とか或いは研究室でおやりになるようなものは相当ありますけれども、実用化したものはありませんので、只今状態としては非常に不便でありますけれども、労研式以外に方法がないというようなことに我々は想像しております。この方面も従来いろいろな方法でやつておりましたが、やや正確度を増しております。労研式だけにしても二十一個現在持つております。これはそう高いものではないのですから、追々普及するだろうと私は思つております。なお学校或いは研究所その他におきましていろいろのものをまだ研究の途中にありますので、追々この点も改善されると思います。  それから最近我々が非常に骨を折つてやや結論を出しかかつたのですが、これは同じ湿式化しても、空気と水と混ぜては非常に工合が悪いのでございますが、これを先ほど申しましたように、水だけで空気が混ざらんようにする。これが完全に実行できますと、約九〇%くらいまでは水で粉塵を抑え得るのでございますけれども、現段階においてはまだそこまで行つておりませんが、大体七〇%から六五%までくらいの間、それ以上抑えると、即ち言い換えてみますと、まあ残るのは三五%から一〇%くらいは残るというような状態にするために、さく岩機の「のみ」の中に通す水の量の測定をやつて、極力この粉塵の飛散するのをとめるように努力しています。これは近いうちに大体結論が出るのではないかと思つております。この点につきまして、官庁と業者が一致いたしまして実地に約一カ月間くらいの間労力を惜しまずに熱心にやつたわけでございます。それから一方、どうしても炭鉱では水を持つて来ることができないという個所が随分ありますので、これには乾式のものを使いたいという考え方で、最近におきましてドイツから、ヘミサイド会社で作つておりますケニーヒボンという粉塵を集める機械がございますが、これは現在日本へ入つておりますのは九個でございます。そのほかにまだこれに似たようなもので、日本で宝式と申しましてやはりそういうものを現在試作中でありまして、やがてこれができるだろうと思いますが、これも二、三台使つております。これは非常に便利なものでありまして、これがうまく行きますと、やはり水を使わずに同じ効果を現わします。幾ら拙いやり方をしましても、やはり六五%くらいの粉塵を抑えております。上手なところは九二・三%抑えております。これが最近のドイツの作品でありまして、最近のドイツの雑誌を見みましても、ドイツ全体で約二百四、五十しかまだ拡つておりませんで、値段が相当高いものですから、これがなかなか輸入の問題と絡みましてむずかしいのですが、値段を申上げますと、機械だけで申しますと約十万円ばかりの小さな金額でありますけれども、相当量数を使わなければならんことになりますので、相当金額が要ると思います。以上が現在我々が現場においてやつておることであります。  それから、先ほど大滝さんがお話なさいました業界としてのけい肺に対する予防及び診断とか、或いは補償とかいう問題の中の予防のほうでどういうことを我々が実際やつておるかと申しますと、先ほど申しましたドイツにできておりますケニーヒボンに相当する乾式の集塵機を助成して早く作りたいということから、昨年の十二月八日には常磐炭鉱に約三日間お邪魔をいたしまして、現場で実地にやつております。又三菱金属鉱業の大宮の研究所と、それから早稲田大学の房村先生をお邪魔をいたしまして、粉塵の測定についての講義を受け、又実際に測つて行く測り方についての基準をきめるようなこともやつております。それから、先ほど申しました湿式さく岩機の給水量の基準と濾塵率との関係もやつております。それから乾式の集塵機の濾塵率の測定、そのほか各社から銘々研究した問題をお互いに交流いたしまして、知識の向上と共に現場の強化に努めております。  なお将来我々が考えなければいかん問題は、先ほどマスクはつまらんとおつしやいましたので、我々もその点を非常に痛感しております。少くとも常時マスクをかけておりますれば、先ほど申しましたように、悪くも一〇%しか吸わないというような状態になりますので、この点につきまして更に研究をやつておりますので、三井鉱山及び三菱鉱山においてはすでにその一部分を試験中であります。これが成功いたしますれば、従来よりももつと除塵の効力があると私は確信をしております。  それからもう一つ先ほど申しましたスイベル式のさく岩機と申しますか、空気の入らない水を送る、これも先ほど申しましたように九〇%の塵埃を抑えることができるものであります。これも大同製鋼にこの試作を依頼しておりますが、何分日本で初めての「のみ」の作り方でありますので、いずれ成功すると思いますけれども、これは急には行かないのですから、止むを得ずやはりドィッから一部入れなければならんのじやないかと考えますが、いずれできるだろうと私は思つております。  なおそのほか風間内の集塵ということも三菱電機で目下研究しておりますので、これができますとやはり一つの風が次の作業場に移る前に完全に集塵されて行くというような状態になりますので、非常にいい結果だろうと思います。これも目下研究して製作に近いうちにかかるようになろうと思います。  これが我々がやりつつある予防に対する対策であります。以上であります。
  36. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。  以上を以ちまして一応参考人の方々の御所見を伺うことは終りました。順次御質疑のある方は御発言を願います。
  37. 赤松常子

    赤松常子君 私は途中から参りまして失礼いたしました。一つ細川さんにお尋ねいたします。伺つておりますと認定期間が非常に長過ぎますが、それはあなたのほうではどういうところに隘路があるとお思いでしようか。
  38. 細川英香

    参考人細川英香君) 認定期間が長くなつたということについて私ども考え方を申上げます。問題は二つあるのではないかと思います。先ほど申上げたのは、本省に来る部分が非常に長いと申上げました。地方で認定されることについてはまだはつきりした情報をつかんでおりません。そこで本省の部分について申上げますと、認定するまでには先ず労災課のほうに書類が廻つて参ります。労災課に廻つて来て、労災課から今度は衛生課のほうに廻りまして、そこで具体的に病状を判定するわけであります。そして又それが労災課に廻つて来て認定される、最終的な認定がなされるということになります。問題は労災課にはけい肺専門にやつておる方がおられるそうでありますが、労働衛生課は非常に人員が少いそうでございます。私の聞いておる範囲内では二人の人がやつておられるそうであります。併しけい肺の認定だけが本職ではありませんので、しよつちゆうほかの仕事をやつて廻られる。そのために認定が自然々々遅れて来るのであるということを聞いておりますので、こういつた人員の面に一つの隘路があるのではないかと考えております。  もう一つの隘路は、これは書類が不備なためになかなか認定ができないということがあると思います。その書類が不備なということは、けい肺に対する認識が非常に最近になつて高まつて来た。そのためにけい肺に対するいろいろな労災上の手間についてもみんながよく知つておらないという面があると思います。そのために提出するほうが悪いのか受取るほうが悪いのか、それはどつちがいいとも悪いとも言いません。併し不備な書類が基準局を通じて上に上つて来るのではないかというふうに考えられるのでございます。従いましてこれを解決する方法として、はつきりした様式をきめて、而もそれに基いて出先の基準監督署が不備なものが来たら、これこれが不備であるとすぐ指定してやれば、期間が相当短縮できるのではないかと考えております。  以上二点をお答え申上げます。
  39. 赤松常子

    赤松常子君 もう一つ細川さんに伺います。入院患者が五名で、自宅で治療しておいでになる方が二十六名とおつしやいました。これはベット数が足りないのでございましようか、経費の面から自宅でなさるのでございましようか。
  40. 細川英香

    参考人細川英香君) そこまではよく考えるというか、具体的な資料はつかんでおりません。ただ私の炭鉱における生活の経験と、いろいろな炭鉱を廻つて来た経験から申上げますと、結局調査資料を出しまして、それが集つて来た炭鉱がわかつておりますから、その炭鉱実態から申しますと、病院の設備が整つておるところでも自宅療養をされておる人がおる。なお病院のベッド数が足りないところは全部自宅療養という形になつておるようです。ただ一般的に言えることは、現在の炭鉱の病院の設備というものは非常に貧弱でございまして、最近私どもがわいわい騒いで結核病棟とかそういつた病棟を漸進的に作らしておるというふうな状態で、病棟そのもの、入院のための設備そのものが非常に不足しておるという事実はこれは率直に指摘できると思います。そのために短期療養というか、短期入院は、新陳代謝と言えばおかしいですが、入つて来れば又出て行くというので、一定の設備はあるわけですが、長期療養者となりますと、これはすぐ一ぱいになつてしまうわけです。特にけい肺のような何年もかかるような病気は、そこの病院の設備に入れておくといことがなかなか困難である。こういうふうな面も十分御配慮願えればいいのじやないかと思います。
  41. 寺本廣作

    ○寺本広作君 私も細川さんにお尋ねします。あなたのお話の中から非常にいいヒントを与えて頂きました。と申しますのは、あなたのお話で、けい肺に罹るような人は発病前稼働力が非常に落ちておるから平均賃金が非常に安くなる。現在坑内夫は七百円乃至八百円であるが、こういう人たちの平均賃金は五百円くらいにしかなつていないというお話でした。御承知のように平均賃金は休日や日曜などを入れてならすので、多少低くなるのは止むを得んと思いますけれども、それにしても開きがあり過ぎると思います。何か今度のけい肺法案の中にも平均賃金の手直しというような条文は入つておらんように思います。併しあなたのお話は確かに一つの急所を衝いた御意見だと思いますが、労働協約なり何なりで今のような平均賃金の手直しをやつておる実例がありますか。
  42. 細川英香

    参考人細川英香君) 私の調べた範囲内ではございません。ただ平均賃金の何%というパーセンテージを動かすことによつて補償額を高めようとする努力はなされておりますが、平均賃金そのものをずつと更に以前に遡つて、或る一定期間で、つまり正常なと申しますか、正常な労働がされておつた当時と認定されるときを基準として平均賃金を算定しよう、特にけい肺患者の場合というか、そういう規定は私の調べた範囲内ではございません。
  43. 赤松常子

    赤松常子君 もう一つ三井の佐伯さんにちよつとお尋ねいたします。マスクの使用者の割合を伺いたいのでございますが、一万幾らとおつしやいましたが、それは全労働者はどのくらいなんでございますか。
  44. 佐伯有義

    参考人佐伯有義君) 大体粉塵作業に従事しておる者は全部やつております。大体掘進夫が坑内全従業員の一割二、三分くらいのものだと思います。掘進夫は全部使つております。
  45. 赤松常子

    赤松常子君 それが一万幾ら……。
  46. 佐伯有義

    参考人佐伯有義君) そうです。大手十九社だけですから。
  47. 細川英香

    参考人細川英香君) それに関連して。只今一万人と申されたわけですが、別にこれはあら探しではありませんが、僕が只今石炭鉱業連盟炭鉱労働統計なる書類を持つてつております。この十一月分が最も最近のものじやないかと思うのですが、それによりますと、坑内直接夫は全国平均で実働労働者が十五万人ばかりになつておるわけでございます。でございますので、只今答弁なさつたのは大手関係のものに限られておるのじやないかと思いますが、その点についてはつきりしておいて頂きたいと思います。
  48. 佐伯有義

    参考人佐伯有義君) 今そういうふうに申上げたのです。大手十九社、十月の統計です。
  49. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 参考人の方々にお礼を申上げます。非常に長時間に亘りまして……。
  50. 十二村吉辰

    参考人(十二村吉辰君) もう一点だけ説明を落したので一点だけ申述べさして頂きたいと思うのですが、それはけい肺特別法案国会に上程されて何年かなるのですが、そのために炭鉱経営者の中には、未だ協定を結んでおらない労組が締結を迫ると、けい肺特別立法が今できるんだから、屋上屋の必要はないと言つて協定の締結を阻止しておる傾向がございます。この点は十分に御勘案願いたいと思います。
  51. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) そうですか、わかりました。その点につきましては佐伯さん、そういうやはり動きが業界の一部にございますか。
  52. 佐伯有義

    参考人佐伯有義君) 私は三井のほうですが、私のほうでも三池炭鉱がすでに協約を結んでおります。ほかの各山の患者は非常に少いのでありまして、それもやはり金属山から来た人がもう八割近くあるわけです。それについては我々のほうから進んでも言いませず、組合からも進んでは言つて来ません。やはり三池できめた程度のことは各山ではやろうとすればできるわけです。
  53. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 非常に長時間に亘つていろいろと御発言を頂きまして、誠に有難うございました。  本日はこれにて閉会いたします。    午後四時二十四分散会