○
参考人(頓所佐一君) 尾去沢鉱山の頓所でございます。申上げる前に、二十七年の十月の労働省の巡回検診の結果、本日
参考人として呼ばれました私
自身も
けい肺の第一度であるということを先にお含みおき願いたいと思います。当然現場
関係でございますので、医学的なことはよくわかりません。先ず順序としまして、足尾の石原君のほうから言
つたことと若干タブルかも知れませんが、その点は御了承願いたいと思います。
第一点の予防措置の問題でございますが、尾去沢鉱業所の
実態としましては、現在
けい肺予防には、ほかに手が打たれない、これ以外に手がないというところまで全部実施をいたしております。即ちウオーター・パイプラインの設置、これは延べにしまして三万八千四百メーター、この分につきましてなお仙台の監督局のほうから過日指摘があ
つたそうでございますが、なお二千メーターほど不足しているから、それを早く敷設せよというような命令があ
つたようですが、この点につきましては、私
ども現場に働くさく岩鉱員その他としましても若干異論が、ございまして、鉱量のない遠距離の切羽までこういう長いパイプを引いてもいいのかというような点も若干あると思いますが、結局そういうような所にはウオーター・タンクを現在や
つておりますので、その点については問題はないと思
つております。即ち給水
関係が全部完成したことによりまして機械は一〇〇%湿式化しております。
なお防塵
関係の問題でございますが、マスクといたしましては重松のTSのナンバー一〇、あれを使用しておりす。さく岩鉱員は一〇〇%使用しております。支柱はおおむね六〇%、運搬はその粉塵の発生の度合のひどい切羽のときに貸し与えておるわけであります。それから
先ほど進藤さんから説明のありましたウオーター・スプレヤー、ウオーター・カーテンの問題でございますが、尾去沢の
実態といたしましては非常に坑口が余計あいておりまして、通気は、私尾去沢に参りまして十一年ほどでございますが、ほかの鉱山と比較して見ますと著しく通気はよろしいということが言えるのじやないかと思
つております。ウオーター・スプレヤー、ウオーター・カーテンの問題につきましては、試験上若干やりましたが、尾去沢の
実態からしまして、果してこういうようなことが効果があるのかないのかというような問題よりも、むしろ今早急にこういうことをやる必要はないのじやないかというようなことで、効果面からい
つて考慮中であります。
次に吸塵
関係の、
先ほど進藤さんからも説明がありましたが、扇風機の問題でございますが、これは現在尾去沢におきましては、一番厚い切羽の、而も湿度の高い赤坂の上三坑道というところに五馬力を一台据付けております。なお最近の例によりまして、選鉱のほうに相当の
けい肺患者が出ておりますので、今年度一応予算を本店から許可になりまして、この選鉱のほうにも今年の九月頃には全部こうい
つたフアンの設置、そうい
つたことは終ることにな
つております。機械の台数その他は省略さして頂きます。
さて、尾去沢におけるところの
けい肺の罹患者数というような問題に入るわけでありますが、その前に、私
どもの鉱山は労働
組合と職員
組合と分れておりまして、職員
組合の概数はほぼ三百というふうに記憶しておりますが、それにこれから申上げる数字を加えて頂けば尾去沢の鉱山の従業員の数というものが出て参ります。即ち男が二千三百十七名、女が二百五十九名、合計二千五百七十六名、こういう数字にな
つております。それから二十七年の十月現在に労働省が行いました巡回検診の結果でございますが、X線所見による分類でございますが、
けい肺一度の者五百七十八名、二度の者二十七名、三度の者三名、このうち肺結核を併発しておる者が三十六名、肺結核併発の疑のある者が十六名、
けい肺措置要領の三によ
つて現在休業しておる者が、当時の数字より殖えておりますが、当時現在で四十三名、要領二の者が十四名、一の者が五百五十一名という数字を示しております。当然鉱業所要員の医師の方の診断その他によ
つて、労働省のこうい
つた巡回検診の基礎に基いていろいろと常時こうい
つた人
たちに対して措置要領に基いて管理を行
つておるわけでございますが、問題となりますのは、場所の医師、それから我々が見ましても、随分弱
つて来た、あの人はよろけではないかということを医師に具申いたしまして、そうして中央へ認定申請を出すわけでございますが、この場所の医師によるところの認定申請を行い、且つ労働省から最終
決定がなされるわけでございますが、その間の日時が非常に長いことでございまして、この問題につきましては、私
ども現場におります者といたしまして、
けい肺に侵されて而も
決定になるまでには当然健康保険の六〇%、いわゆる標準報酬日額の六〇%というもので生活をして行くのでありますが、尾去沢の
実態としましては、全鉱所属
関係では一番早い
決定をなされておるように聞いておりますが、それでもなお平均三カ月、約九十日という日数が消費されております。
一つの例を申上げるならば、これは私死骸解剖したときに立会
つたのでございますが、昨年九月十八日に死亡いたしました高橋永助という人間でございますが、十九日解剖いたしまして、組織標本をこしらえたわけでございますが、この組織標本をこしらえる期間を若干必要としますので、昨年の十月の九日に所轄大館の労働
基準監督署へ申請いたしたわけでございます。ところが二月二十八日現在未だに
決定の通知が来ておりません。即ち百四十二日た
つても未だ
決定がないということでございます。これは昨日全鉱に参りまして、労働省をプツシュいたしましたところが、大体十日頃で何とかできるじやないかというお返事があ
つたそうでございますが、このうち家族に子供が一人ございまして、そうしてお嫁さんを持
つているのですが、
ちよつと素行上の問題がありまして、鉱業所のほうに稼働することができ得なくして、現在組夫として各地を転々として歩いております。なお奥さんは子供二人を抱えて御主人からの仕送りがあるかないかということを日々心配しながら暮しておる。小屋に住んでおる気の毒な方でございます。こういうふうな問題につきましても、地方の民生
委員或いは地方事務所その他と連絡して、一応最低生活というものをどうにかこうにか親戚の援助その他によ
つて賄出さしておりますが、こういう問題もあるので、もう少し早く私
たちとしてはこれは認定をして頂きたいということでございます。
なお、認定に際して私
たち若干の疑問があるのでございますが、衛生課においては一応認定は終
つても、今度労災課に行きまして、労災課のほうで補償の問題がひつかかりまして、当然金の問題にな
つて来ると思うのでありますが、私
たちは中間報告を受けます際に、労災課との
関係において未だ
決定せずというような連絡がしよつちゆうあるわけであります。こういうような衛生課が一応
けい肺の、而も肺結核を合併したものという認定を加えながら、何が好き好んで労災課によ
つてこれを保留しておかなければならないか。保留することによ
つて現地の家族が著しく生活の困窮を来たしておる。こういうようなことについては私
たちは著しく疑問を持
つておる次第であります。
それから問題の
一つでございますが、現在、
先ほど石原君も御説明申上げておりましたが、
けい肺協定というものが私
どものほうでも、
組合と会社の間にその必要性を両者ともに認め合
つております。
けい肺協定の中に、
けい肺その他の家族で当然稼働でき得る人については優先採用をするというような条項がございます。それに従いまして私
どものほうでは優先採用を会社に対してしてもら
つているわけでありますが、こういう優先採用をしておりましても、三年を
経過して打切られておる現状でございまして家族を採用をさしてもら
つて、一応生活の問題については見通しをつけさせるということも必要でございますが、新らしく採用された人が
賃金が高かろうはずはないのでありまして、こうい
つた問題から、当然家族の生活の問題から来まして、本人がなお病院へ通うか若しくは入院して治療しなければならないのにかかわらず、三年を
経過したことによ
つて打切られておる。こういうことからいたしまして、打切り後に死亡する患者も著しい数があることでございます。こういうことは一にかか
つて療養期間の延長、即ち現行法の三年を以てしてはどうにもならない。即ち薬費その他全部家族が負担するということになりますと、子供を稼がしたとしても、子供だけのあれでは賄い切れないという現状でございます。現在打切りに
なつた人は三十三名と記憶しておりますが、これは労災法適用者だけでございます。
そのうちひどい例でございますが、或る一人の人の亡くなられましたときに、私解剖に立会
つたのでございますが、これは高堂清之助という人でございますが、二十六年の五月四日に死亡しておりまして、二期の肺結核合併症でございますが、この人の解剖のときの肺の状況でございますが、さすが解剖に立会うような強気な私でございましたが、この肺の状況を見たときたは、実は私も近い将来こういうことになるのかと思
つたときには慄然としたのでございます。即ち肺を取出して肺の形をしておるのが約三分の二程度でございまして、その上三分の一程度は全部腐
つてお
つて、いわゆる空洞にな
つてお
つて、それを押したところが、じゆつと音を立てて青いうみのようなものが飛び出して来たというのがございます。勿論二度、三度
けい肺だけという人で、打切り後もかなり元気で過しておる人もあ
つたのでありますが、どうしても肺結核を合併しやすいというところから、肺結核合併症の人が圧倒的に多いわけであります。こうい
つた問題については一応の薬その他はできておりますけれ
ども、この問題は三年やそこらではどうしても現在は治らないというところから、私
たちはこの療養期間の延長ということについて極力お願いしなければならないと考えております。これは会社側からの発表で、一応私
たちはそのくらいの費用はかかるのではないかというように考えておりますが、メリツト制の問題、その他から行きまして、
けい肺患者が一人出ることによ
つて一カ年ですかに大体百万円の金が会社が要るそうでございます。これは会社側の説明でございますので数字は私よくわかりませんが、この内訳は、一応六割は労災法補償によるところの六割であります。あと四割が貸金ベースからスライドして行くと、その補償の四割もスライドして行くわけでありますから、だんだん多くな
つて行くわけであります。その他社宅の問題、その他全部を会社が負担するわけでありますから、当然そのくらいの金額になるのではないかと考えております。現在のところでは力
関係によ
つて一応私
たちは会社に要求いたしましてや
つてもら
つておりますけれ
ども、こうい
つた問題についても十分国として考えて頂かなければいけないのではないかというように考えております。
次に配置転換の問題でございますが、
先ほど申上げました要領一、二、三の場合については問題はございませんが、一、二の問題、特に二の問題が一番問題になるのですが、これは粉塵のないところの現場に配置転換をさせなければならないという問題がありますが、尾去沢の
実態におきましては、甚だ残念ではございますが、未だ曾
つて労災法施行後配置転換を一人も行な
つておりません。あえて申上げるならば、故意に行な
つていないわけであります。ということは、配置転換をすることによ
つて、現在会社との間に
けい肺協定がございまして、本人のいたときの平均
賃金の三カ月分を一応一時金として転換補償として出すわけでございますが、この程度の金額では問題にならないというわけでございます。一応坑外の現場に出されるというと、
はつきり申せば衛生夫と申しましても雑夫程度しかできません。そうすると家族は何人あ
つても、家族手当というものは僅少でございますので、収入が六、七千円に落ちてしまうということによ
つて全然問題にならなくなるわけでございます。一番いい例を申上げますが、過去に起
つた問題でございますが、尾去沢で四人ばかり問題に
なつた人がございました。というのは、当時の
基準監督署において、果してこういうことを申上げてよいかどうかわかりませんが、実情だから申上げますが、一応業務上の傷病であるというので、監督署で六〇%の補償をしてお
つたわけでございます。
従つて会社も四〇%の補償をしてお
つた。ところが労働省から審査に参りまして、それは過渡期であ
つたのでああいう問題があ
つたと思いますが、四名ほどがこれは業務上の傷病でないというような
工合に直されました。七名のうち私
たち努力しまして三名だけは元のようにしたのですが、四名がひつかか
つた。その問題をいわゆる措置要領二として坑外に配置転換をさせたいという会社の申出があ
つたわけでございます。併しながら坑外に配置転換をすることにな
つて、
先ほど申上げましたように著しく収入が半分以下にな
つてしまうわけです。六、七千円にな
つてしまうということなんでございますから到底でき得ない。それよりもむしろ現場に戻して、そうして本人の
賃金を補償させながら、現場の或る程度楽なほかの仕事をさしてもらうことを採鉱課長その他に話しまして、会社側もこの
けい肺の問題については非常に理解があるので、仲間が文句を言わなか
つたらそういう措置をとろうというので、一応さく岩なら、さく岩の作業でございますが、一応さく岩作業には
一つのさく岩機械の修理の仕事があるので、このさく岩の修理、たまたま手掘り工夫ならダイナマイト運搬という仕事をさせております。そういうふうにして約一カ年乃至二カ年を
経過するうちに、現在一人を残して、全部又再び要領の三にな
つて休業しております。そういうような
実態からしまして、若しあのとき軽はずみに措置要領の二であるということによ
つて配置転換をさしてしま
つたら、当然再びこうい
つた問題に
なつたときには平均
賃金が七千円か八千円であるというわけでございます。現在はこの人
たちの平均
賃金は一人は六百三十四円七十三銭ということにな
つております。それからもう一人は四百二十八円六十五銭でございますが、そういうようなときに坑外からということになりますと、大体坑内から出た人で
けい肺にな
つている、昔戦時中或いは戦後いち早く坑外の雑夫程度に落ちた人の平均
賃金は大体三百円から三百五十円でございます。こういう問題が起りますので、当然配置転換の問題については、私
たちは少くも一生というふうなことを申上げたいのですが、そういうことも許されないとするならば、当然或る程度の期間というものはその収入によ
つて生計が営まれるような、なじむまでの期間というものは配置転換補償というものはやはり必要じやないかというふうに考えております。こういう制度がないことによ
つて、勢い現在ではむしろ会社側にお願いするという
立場で、仲間の者がみんな応援し合
つて、本人
たちの作業を分担するとか或いは軽い仕事につけてもら
つて、そのまま仲間の
賃金を分けてや
つておるという状態でございます。こういう問題も十分御考慮願わなければならんのじやないかというふうに考えております。
以上時間の
関係もございますので、簡単でございますがこの程度にいたしまして、あと御
質問がございましたならばお答えいたしたいと思います。