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1954-03-02 第19回国会 参議院 労働委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十九年三月二日(火曜日)    午前十一時二十九分開会   ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     栗山 良夫君    理事            井上 清一君            田村 文吉君            田畑 金光君    委員            榊原  亨君            宮澤 喜一君            吉野 信次君            阿具根 登君            吉田 法晴君            寺本 広作君            市川 房枝君   国務大臣    労 働 大 臣 小坂善太郎君   政府委員    労働省職業安定    局長      江下  孝君   事務局側    常任委員会専門    員       磯部  巌君    常任委員会専門    員       高戸義太郎君   参考人    八幡製鉄現業労   働組合組合長  松永 徳夫君    東京大学教授  兼子  一君    弁  護  士 孫田 秀春君    明治大学教授  松岡 三郎君    東京都立大学教    授       沼田稲次郎君   ―――――――――――――   本日の会議に付した事件参考人の出頭に関する件 ○労働情勢一般に関する調査の件  (職業安定法違反に関する件)  (石炭鉱業における労働争議に関す  る件)   ―――――――――――――
  2. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 只今から労働委員会を開会いたします。  本日の会議に付しまする事件労働情勢一般に関する調査でございまして、前の委員会で御承認を頂いておりまするように、本日は職業安定法違反に関係する事件としまして、八幡製鉄現業労働組合組合長松永徳夫君に意見を開陳願うことになつております。午前中にこの事件を取扱いまして、午後一時から外務委員会との連合委員会を開会いたします。  それが終りましてから、更に炭労の運搬ストに対する賃金カツトの問題につきまして、参考人を招致いたしまして意見を求めることになつております。過日委員長及び理事の打合会において協議をいたしました結果、労働法学者並びに民法学者をそれぞれ二名づつ招致いたしまして意見を開くことになりました。で、委員長の手許において人選をいたしましたのは、東大教授兼子二君、明大教授松岡三郎君、弁護士孫田秀春君、それから都立大学教授沼田稲次郎君父は早稲田大学教授野村平爾君のいずれか一名でございます。参考人を招致することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 御異議ないものと認めまして、さように決定をいたします。午後の委員会におきましてはさように議事の進行を図りたいと思いまするので、御了承をお願いいたします。   ―――――――――――――
  4. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 更に三月四日木曜日でございますが、けい肺法案の審議を続行することにいたしまして、過般来学識経験者につきまして参考人として関係者おいでを願い、御意見を伺いましたが、四日木曜日の委員会には、金属関係の鉱山の経営者並びに労組側代表者おいでを願いまして意見を求めることにいたしたいと思います。御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) おいで願いまする方々の人選につきましては、委員長に御一任を願いたいと存じます。   ―――――――――――――
  6. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 更に三月上旬の現地視察の件でございますが、三月五日金曜日の日に午後一時に出発をいたしまして、紡績工場並びに附属寄宿施設、更に労働基準監督署等視察をいたしたいと存じます。視察個所足立労働基準監督署千代田紡績、これは小紡績でございます。それから鐘紡の南千住工場、これは大紡績でございます。これらの視察をいたしたいと思いますので、成るべく多数御参加を頂きまするようお願いをいたします。   ―――――――――――――
  7. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) それでは参考人意見を求めます。
  8. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 先ず私の組合の発足当時の状況から述べたいと思いますが、過去我々の組合は全部請負業者の下に働いておつたものでございますが、昭和二十三年職業安定法施行によりまして、当時政府方針で、好むと好まざるとにかかわらず、直傭になれというようなことで全部直傭になつたのでございます。当時の職業安定法精神からいたしまして、ボスの排除と労働民主化というようなことでございましたので、我々は忠実に職業安定法を守つて来たのでございます。ところが昭和二十七年の二月一日付を以ちまして職業安定法施行規則改正されたというようなことを官報で見ましたので、いろいろ県の職安課長とも折衝をいたしましたけれど、県のほうでは本省の通達であるので如何ともし難いというようなことになりましたので、昭和二十七年三月の下旬、私ども労働省に参りまして、いろいろこの問題について折衝を重ねたのでございます。ところが当時の労働省お話では、これは行政監察委員会勧告に基いて、日本資本主義後進性と、更に現在の国情に副わないというような理由で改正したんだというようなお話を閥きましたのでございますが、非常に我々もこの問題につきましては重大な関心を持ちまして、いろいろ折衝を続けて参つたのでございますが、その当時労働省のほうでは君たちの言うのはわかる。併しながらこれは口だけの話では非常に困るということで、何か形の上で書類を出したらどうかというようなお話がありましたので、私直ちに八幡のほうに帰りまして、要望書というような形で労働省のほうに出しまして、非常にその注意を喚起したのでございます。ところがその翌月、四月十五日の日に、故三鬼社長社葬がありましたので、私組合代表といたしまして、四月十五日に築地の本願守社葬に参りました砌り、更に労働省に参りまして、要望書に対しての回答がないということを迫つたのでありますが、労働省のほうではもう少し時間を貸してくれということであつたのであります。それで一応了解いたしまして帰つたのでございますが、その後労働省から出て来ました通知というものは誠に解釈に苦しむようなものであつた。特にこの中で一番重要な問題といたしまして関心を持ちましたのは、産業別認定基準というものがあつたのでございます。これを廃止するというようなことでございましたので、非常にその解釈に苦しんだのでございます。そういうようなことで労働省折衝しております間に、その後八幡製織所、これは無論全国だと思いますが、八幡製鉄所のほうでも企業合理化というような美名の下に請負復活を図つて来たというようなことであつたのでございます。それで昨年の十一月の臨時国会に私たち申請計を作成いたしまして、衆議院のほうに訴えたのでございます。いろいろ折衝して来たのでございますが、その当時江下局長さんにいろいろお話いたしまして、十一月の二日に委員会が済みました後、労働省に参りましていろいろ折衝し、更に十一月四日の日院内の政府委員室におきましていろいろ折衝しました結果、局長さんも現在の職業安定法改正によつて緩み過ぎていることはわかるが、何かの方法で、これを引締めて行きたいというように考えておるということでございましたので、その当時非公式ではございましたが、十二月一杯までには何かの方法で引締めたものを出そうというようなことであつたので、非常に期待を持ちまして帰つたのでございます。そういうような状態でいろいろ労働省折衝を続けて参つたのでございますが、そのことによつて現在どういうふうになつて請負復活が現われておるのかという事実を述べたいと思います。  これは昭和二十五年頃と記憶するのでございますが、元の職安法施行規則は非常に窮屈であり、やかましかつたその当時におきまして、製鉄所の中で名古屋岬仕事請負に出そうというようなことでございましたが、その細部の内容を申しますと、これは製鉄所の平炉並びに高炉の廃滓というようなものを捨てる所でございます。これはただ単に貨車で積んで来たものをスコツプで卸すというのが実情でございますが、これを当時奥村組と申します製鉄研の中の大きな請負業者が、機械化してやつたらやれるんじやないかというような考え方で、当時四百万円もするような機械を四国に注文いたしまして、その機械八幡で組立てて、その機械でやろうというような計画を立てたのでございますが、いろいろこれにも論議がございまして、我々は真向から反対いたしましたが、結局はその機械を以てやれるかやれないかというようなことで数回に亘つて現地実地調査をやつたのでございます。その当時、県の職安課長並びに八幡安定所、或いは製鉄所関係者並びに組合関係者に数回に亘つて延べ数百名の人を擁してこの実地調査をやりました結果、当時は非常に職安法がやかましかつたので一応くいとめたというのが実情でございます。それに更にその後におきましては、棧橋を造る、海の中に棧橋を数本造るということを業者にやらせるというようなことで一応許可になつたというようなのが一つの例でございます。なお又昨年の九月だつたと記憶するのでございますが、これは製鉄所の中の洞岡という場所に粉コークスのふるい分け工場、これは内容コークスの粉のやつを貨車で運びまして、それを機械にかけてふるい分けるということでございます。その工場と共に枝光焼成作業、というのは枝光という地域におきまして製鉄所の中でなま石を焼いて石灰を作るという内容でございますが、この二つのものを請負いに出したいということで製鉄所のほうから発表を受けまして、当時相当強硬に主張して参りましたのでございますけれども結論といたしましては枝光の点については大体これは一応見合わしておきたいということで洞岡粉コークス工場だけは請負いに頼んだのでございます。で、その粉コークス工場請負化につきましては、工場建物機械施設電話、一切のものを業者に貸与いたしまして請負いに出したという事実でございます。更に昨年の十二月二十四日の日に製鉄所のほうからかねて懸案であつたところの枝光焼成作業工場請負いに出したいというようなことが突然発表されまして、非常に押詰つた時期ではございましたが、あらゆる角度で会社折衝交渉いたしましたけれども会社は強引に本年一月一日付を以てこれを請負に出すということになりまして、現在その作業はやつておるわけでございますが、この枝光作業につきましても、建物工場、並びに機械電話一切のものを請負いに貸してやらしておるというのが実情でございます。  こういうふうに二、三の例を挙げましたのでございますが、派生的にはたくさんこういうようなことがあるのでございますが、例えばこういうようなことで、工場施設一切、電話までも貸与して請負業者請負いできると仮定いたしますならば、恐らく八幡製鉄所工場とも、これは請負いに出せるのじやないかというふうに非常に飛躍した考えをもてるわけでございます。これは職業安定法改正によつて伴うところの事実でございまして、いろいろこの問題を検討いたしますと、今度労働省から出ました案を見ましても相互に正しい契約に立つならばいいであろう、但し偽装されたものであるならばいけないというようなことのようでございました。こういうふうな事実がありまして、いろいろ我々の問題になつて来たのてございますが、それで昨年十一月に参りましていろいろ局長さんとお話しいたしました結果、十二月一杯には何らかの方法て出したい。特に問題になつているところの産業別認定基準を示すというふうにおつしやつてつたのが出ませんで、本年になりまして少し遅れまして出て来ました通牒というものは、昭和二十七年の要望書を出しましたときの通牒余り変りはない、よく申しますならば、若干色付けされておるのじやないかという程度のものが出たのでございます。それで非常に我々もこの問題を大きく考えまして、このたび又更に昨年からの引続きの職業安定法施行規則改正に伴うところの要請をして参つたのでございます。  で、これがもう一つ考えられるのは、ただ単にどうも八幡製鉄所だけがとやかく言つて来ると常に言われておるのでございますが、この問題は二十七年に私が東京に参りまして労働省関係者折衝いたしましたときも、どうも日本労働者職業安定法には無関心であるというような話があつたのでございます。それで私もいささか憤慨しまして、決して我々は無関心でいるのではない。ただ八幡だけがとやかく言つて来るというふうにお考えになる向きもありますけれども、決してそうではない。これは全国のあらゆる労働者十分関心をもつているけれども、ただ東京の、而も労働省まで我々が足を屈んでまで書わなければ関心をもたんとおつしやるのか、これは非常に我我としては遺憾に思うというふうなことまでやり取りしたのでございます。そういうことがありましたので、昨年参りましたときには、私たちは少くとも全国大会を以て、それで国会に臨みたいというような意見をもつておりましたけれども、いろいろな問題が複雑いたしましたので、とうとうその機会を得ませんでしたが、昨年十一月には北九州各地区の労働組合共願という形で出したのでございます。更にこのたび私がこちらに参りますときに手紙が来ておつたのでございますが、北海道のほうからも、この問題に十分関心をもつているということで、北海道現業労働組合のほうからも、私のところに来てよく事情を聞きたい、そうして大きく運動を展開して行きたいというようなことでございましたけれども、あいにく私の出立をいたしました日と、手紙の来ました日と同じでございましたので、とうとう会う機会を得なかつたのでございます。それで二十一日の日に、東京のほうに北海道から来ることになつておりましたが、どういう都合で来なかつたのかわかりませんでしたが、とうとう二十一日は来なかつたのでございますが、先月の二十七日即ち土曜の日に北海道現業労働組合組合長小林君ほか一名が参りまして、私と会見することになつたのでございます。非常に向うもせいておりますから、本日ここに臨めなかつたことは残念に思うのでございますけれども、その当時のお話をしてしつかり一つこの問題と取り組んでやろうじやないかというようなことで、不幸にしてその日は土曜で翌日は日曜であるというようなことで、のつぴきならん用事のため、電報が参つて北海道に帰られたのでございます。そういうことで決してこれは我々八幡だけの問題ではない全国的な問題であるということを特にお考え願いたいと思うのでございます。  更に請負復活しましての状態、この実例を二、三挙げて御説明申上げたいと思います。  昨年の十二月であつたと記憶するのでございますが、請負業者の中で労働組合結成したことは、これは名前を言つても差支えないのでございますが、一応ここでは伏せておきたいと思います。労働組合結成いたしまして、いろいろな問題について会社と交渉をしたということにつきまして、これは現場監督と申しますから、業者現場監督という立場は一応資本家側に立つのでございます。会社の指令であつたかどうかということについては問題は別としまして、その現場監督のものが、労働組合結成に非常に努力し当時の幹部であつた二、三のものを現場呼び出し、或いは町で呼び出し、煉瓦で殴るというような暴力行為が発生しまして、非常に問題になりまして、私たちは当時戸畑警察署の問題としまして、その問題を取上げているのでございます。そういうようなことがありまして、会社のほうにいろいろ折衝いたしましたけれども会社のほうでは我々が指示したのではないというようなことで、うまく逃げたと思うのでございますけれども、その事実には間違いないということでございます。更に同じ八幡製鉄所の中で起つた問題でございますが、これは下請業者の中で労働組合結成された。組合員三十二名が結束いたしまして会社折衝したという事実に対しまして、会社のほうでは労働組合員全員解雇を通知したというような事実があるのでございます。そういうようなふうで、或いは会社のと申しますか、ボス的存在と申しますか、暴力と申しますか、というようなことで、小さい労働組合は片端から切崩されているというような状態でございます。こういうような事実のあることも、特に銘記してほしいと思うのでございます。  いずれにいたしましても、我々の求めておりますのは、労働民主化ということでございますが、こういうふうで職安法が緩みが来まして請負がやらしよくなつたということで、こういう事実に基いて考えますならば、更に又昔に戻るところのボスの再現ということ、労働民主化の逆コースであるというふうに考えまして、我々は苦の職業安定法に戻してほしいというようなことで大体要請いたしまして参つたわけでございます。  以上が大体私の述べんとするところの概要でございますが、更に御質問があると思いますので、その中で具体的な問題はお答えしたいと思います。以上でございます。
  9. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。只今参考人の口述につきまして、労働省のほうとの関連が若干言明されておりますが、江下局長のほうから何か御発言することでございますか。
  10. 江下孝

    政府委員江下孝君) 職安法でいわゆる労働者供給事業が禁止されまして以来の、かいつまんだ経世が今松永組合長から述べられたわけでございます。大体私どももその趣旨はさようであると考えております。ただお話中にございました、まあ昭和二十七年に職安法改正されたということの点につきまして、いろいろ御意見がございましたけれども、このときにこれを改正しました趣旨はお言葉の中にもございましたけれども職安法による労働者供給事業の禁止の措置が理想としては非常にいいことでありますけれども現実にこれを各個々の企業に当てはめました場合には、相当窮屈な企業運営をやらざるを得ないという声が相当上つたのであります。で、お話の中にもありましたように、行政監察委員会監察の結果の勧告というようなものもございましたし、要はいわゆる典型的な労働者供給事業を禁止するというのがこの法文の狙いであるから、その趣旨に副う限りにおいては多少この規定を緩和しても差支えないではないかということを判定いたしまして、施行規則を一部改正いたしたわけでございます。  で、その後八幡現業組合から数々の陳情等もございまして、私も二、三度お会いいたしまして、この問題についてお話したことがございます。で、昨年の十一月に何らかの意味でもう少し地方でこの点についての指導、監督基準考えようということで、私もその後まあいろいろ部内でも相談をいたしたのでありますが、結局詳細な認定基準というものは、この際一応規則改正なつたから、これはまあ廃止した、これに代るものを作ることは現実には必要でないではないか、むしろこの典型的なボスを排除するというこの職安法精神が没却されておるというような面があるとすれば、その点をもつと強く押して行つたらいいんじやないかということに結論を得ましたので、改正基準は多少ずれた点は認めますが、一応解釈の敷衍いたしました通諜を一月に出したわけでございます。  それから枝光硝石灰のいわゆる作業でございますが、これはお話になりましたように、現地安定所におきまして、新しい職安法規定に基きましてボスに非ずという認定をいたして、これは機械設備等は勿論八幡製鉄所から借りておりますが、これに必要とする相当高度の技術なり経験がありまするので、その点からも、この点についてはボスではない、こういう判定をいたしたわけでございます。以上でございます。
  11. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 松永君にちよつとお尋ねいたしますが、あなたのほうの組合の、この職安法並びに規則の運用の変化によつて組合員の動きが若干あつたと思いますが、組合結成当時からずつと今日まで、人数からでも結構でございます。どういうふうな推移になつておりますか。おわかりになりますか。
  12. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 職安法に切り替えられました当時の組合員の数は、大体千百名くらいあつたのでございます。それがだんだんに作業が膨張いたしまして、現在では大体三千五百というふうに行つておりますが、実質は若干切れるんじやないかというふうに考えられますが、職安法改正によりまして伴うところの人員の異動というものは、例えば一つ作業を請けさせるということによつて、即解雇ということはあり得ないわけであります。これは会社といたしましてもその点非常に慎重に考えておる。若し即解雇なんということができますならば、これは大きな問題になつて来るんじやないかというふうに考えられるわけでありますが、一応配置転換というような形で、他の職場に配転はいたしておりますが、別の形で、或いは病気をいたしまして一ヵ月休んでおるというようなものが解雇になるというようなふうで、別の形で解雇になつて来ておるというわけでございます。実際問題といたしましては、職業安定法でこれを、例えば現場請負に出したからと言つて即首にするというふうなことはしておらないわけでございます。ただ別の形で大体私どもが今考えておりますのは、一ヵ月くらい病気をいたして解雇になるというのはおかしいと思うけれども会社方針としては、そういうふうな形で解雇しておることは事実なんでございます。
  13. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) そうしますと、大体現状はわかりましたが、仮に八幡でそういう請負仕事会社がしないで、全部あなたのところの組合員がその仕事をする。又できるとしうことになりますと、只今の三千五百名というものはもつと多数になるのじやないかと思いますが、その見通しはどんな程度でございましよう。
  14. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) ちよつともう一回、聞き漏らしましたから。
  15. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 千百名から現在三千五百名に組合員がなつている。それは別に請負工事に付するように全社が措置をしても、そのためにすぐ組合員解雇するというようなことはしなかつた、こういう工合に言明されたわけですね。そうしますと、請負に付している部分については新らしい労務者が入つて来ておるわけですね。その労務者会社側請負に付さなければ、当然あなたのほうの組合員がこの仕事に当るわけなんですね。従つて請負に付している仕事をあなたのほうの組合員がやるとするならば、三千五百名に何名ぐらい殖えるのか、こういうことですね。
  16. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) これは数のほうから申上げますと、例えば名古屋岬現場におきましては、大体六、七十人おつたわけです。これが一応請負に切り替えられまして、その当時は配転というような形で、別に配転いたしましたが……。更に洞岡紛コークス工場の問題につきましては、うち組合員は四名である。製鉄所の本来の作業員でございますが、作業員のほうは十七名おつた。これらのものが一緒になりまして、会社のほうの作業のほうも配転したということでございますが……。更に枝光の例の石灰工場につきましては、うち組合員が十七名と作業員が十八名だつたと記憶しておりますが、一応そういうふうなことで来ておりますけれども、今後、将来会社がそういうふうな意図の下にやるとするならば、大きなものは出ませんといたしましても、逐次出て来るのじやないかと思います。二、三年しますと、かなりの数になるのではないかというふうに考えております。
  17. 阿具根登

    ○阿具根登君 ちよつと関連して参考人にお伺いいたしますが、請負に切り替え、即首切りをやつておらない、但し病気をしたらば、首になるというふうなことが言われておりますが、そうすると仕事は殖えておるのだというふうに解釈されるわけなんですね。そうした場合に、あなたがたがやつてつた場合と、請負でやつた場合の比較があると思うのです。請負でやつた場合には相当低賃金で働く労働者ができて来ておると、こういうふうに解釈するのですが、その実態がありましたら教えてもらいたいと思うのです。
  18. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) これは常識論といたしまして、製鉄所が直営でやるよりも、業者がやる場合は安い賃金を出したいというのが常識だと思うのでございます。この事実を申上げますというと、確か昭和二十七年の六、七月頃と思いますが、その当時製鉄所我我作業ではなかつたのですが、製鉄所の中でスカフイングという作業があるのです。スカフイングの作業は御承知のように鍋塊の疵をとる作業でございます。これは当時製鉄所作業員がやつてつて、数は八名であつた。そしてベースは一万九千円であつたというようなことが事実でございましたが、それが不幸にいたしまして、大平工業という業者請負に出されましたので、結果は人員は四名である。そして日額は三百五十円ということになりますが、大体一万円ということになると思いますが、そういうふうに賃金の面と人の面を考えますならば、以前の四分の一の賃金でやつておるというのが実情でございます。それを更に大平工業のほうから、それら四名の者につきまして、もう一名減してくれというような要請がありまして、大平工業のストライキが起つたというのが実構でございます。それで特にこれははつきりしたことは申上げにくいのでございますけれど、製鉄所の中で一応百万円というふうに予定しておるような請負工事を、業者がいろいろ競争いたしまして、三十八万円で落札した事実があるということで、それで下で働いている労務者賃金は安いことは事実でございます。賃金が安いので、勢い基準法で定めるところの八時間労働というものは、実質は二時間余計に、形式的に二時間の居残りということになりまして、十時間稼がなければその日の飯は食えないということになつて来ますが、形式上は毎日二時間居残りということになつておりますが、実質は十時間というふうに追い込まれていることは事実でございます。
  19. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 今八幡製鉄の作業請負に付されるという実情と、それからそれぞれの賃金が述べられましたが、そこで二、三お尋ねしたいのですが、一つ八幡製鉄が自分でやつている仕事、それから現業関係、松永さんたちの現業関係、これはどういう工合に労働条件が違つておりまするか、併せてお伺いしたい。  それから更に請負に付しますものが今出て来たわけです。それからもう一つ別に日々に雇い入れるものがあると思うのです。そういう実態をお尋ねいたしたいと思いますのが一つ。  それからもう一つ、これは作業請負に付します場合に、どういう人たちがやつておるのか。前の請負業者か、それとも曾つて八幡製鉄の従業員であるとか、そういう八幡と特殊な関係にありますものが請負うのか。それから直営の仕事請負に付します場合にどういうことが行われておるのか。例えば百万円を三十八万円で請負うというような実態が行われておりますが、多少いわば表面だけの交渉でなしに、裏の事情等もあるかと思いますが、それについて関連して一つお答えを願いたいと思います。
  20. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 今の我々の労働条件につきましては、大体直営になつておりますので、ずつと請負とは形が変りまして、大体製鉄所作業員と同様な形でやつておるのでございますが、例えば一例を挙げますというと、請負でやつた場合には休憩所もない。休憩所のないこともありませんが、この休憩所たるやまさに業者がそこらあたりから鉄板を拾い集めて、それを休憩所の代りに立てておるというようなことでございますが、我々のほうでは、一応会社が定めるところによつたところの詰所も建てますし、浴場も建てます。あらゆる設備を完備しておるわけでございます。それと賃金の面につきましては、大体請負制度になつておりますので、一応これはそのときの状態で変つて来ることもありますけれど、これは組合会社といろいろ折衝いたしまして、持屯数というようなもの、査定委員会を作りましてやつておるわけでございます。  それから我々のほかに請負業者労働者がおることは事実でございますが、更に先ほど申上げましたところの三千五百というものは、一応現業所では定数だと考えておる。そのほかに非常に夏季になりまして、船が輻湊して入るし、それから冬季になりますというと、船の入港が少くなるというようなことで、ピークの対策といたしましては、別に職業安定所を通じましたものが約日々二百乃至三百ぐらい入つているわけです。例えば冬季の非常に少いときでも百五十ぐらい入つております。更に炭労のストあたりに関連いたしまして、船の来ないために非常に積み込みが多くなるというようなときになりますと、更に安定所のほうから三百、四百になるということは別にピークの対策として考えておるわけでございますが、一応今まで現業の組合員であるところの三千五、六百の人間につきましては、これは何かの形で一応必要であるというふうに認めておるわけでございます。それと最後の請負に出すということ、例えば先ほど申しました百万円を三十八万円で落札するというような形になるのでございますが、これは非常に微妙な問題でございまして、業者は非常に安く落札するのでございますが、ところがそれでは仕事はやりにくいのじやないかということは一応わかるのでございますが、そこで会社のほうと業者のほうと、会社のほうと申しますと一部のものでございますが、業者のほうといろいろ折衝いたしまして、例えば増工事というような形で、その分で厚め合せをつけるとかいうふうな手段をとつておる。最も我我会社に対して疑問を持つものは、例えば会社のほうの、今おります業者の中でも、枝光石灰の谷口工業というのは、曾つての清津の製鉄所におりましたところの人でございまして、この人は終戦後八幡に帰りましたけれど、会社の関係で、殆んど外地の人は解雇になつておるというようなことで、特別の繋りがある人は又何か飯を食う凝を与えてやろうとか、或いは一つお前を男にしてやろうというようなことがあるのじやないかということと、この実例はほかにも、清津組というような組を結成いたしまして、所内で請負をしておるものもあるのでございますが、特に考えなければならんのは、製鉄所の中で課長ぐらいの人で特別会社のほうと繋りのあると申しますか、或いは会社の最高幹部と非常に懇意なかたと申しますか、そういうような人は一応製鉄所方針といたしまして年令満期が五十五歳である、五十五歳になつてからの方法というようなことを考えまして、五十五歳になる前に、甚だしきは一年くらい前から満期になるように会社と仕組みまして、業者のほうの重役になつている。この場合製鉄所の課長は今度は請負業者の部長というような形で入つて来ておる人もあります。更にこれは極く少数ではありますが、悪質の人たちにおきましては、自分の満期はあと一、二年しかないということになれば、五十五歳でやめるのは勿体ないということで、一年か二年前にすでに業者と結託いたしまして、業者に有利なような作業を提供いたしまして、自分が満期になりましたならば、即その業者に人づて行きたいというような人もあるようでございます。なお、又製鉄所の中で、業者の人と請負の関係に携つておる中間幹部というこの方々につきましては、曾つてたち請負におつたのでございまして、よく実体を見ておるのでございますが、業者のほうからいろいろ盆暮の届けと申しますか、これが非常に多い。甚だしきものは、あの終戦のときには、食糧の足らなかつたあの当時でさえ、幹部の人は殿様暮しをしなかつたものはないと言われておつたくらいであります。これは会社に関係することでございまして、ここで申上げるのはどうかと思いますが、そういう実情でございます。で、これらのものを思い合せて考えますというと、職安法改正によりまして、請負業が非常に簡単にできるとするならば、非常にこういつた面の動きも活溌になるんじやないかということでございます。
  21. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 大体述べて頂きましたが、もう少し明らかにお願いをしたいと思うのですが、先ほど例をあげて、スカフイングの例をあげて、八幡の製鉄の従業員の場合で一万九千円、現業の場合が一万円ですか、それから請負に付しました場合には四分の一とこういう数字がございましたが、もう少し明らかに各賃金の水準をお示し願いたい。
  22. 寺本廣作

    ○寺本広作君 関連して、そのスカフイングというのはなんですか。話を伺つてつて、のみ込めないものだから一つ……。
  23. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) スカフイングという仕事は、大体鉄の銅塊があるわけです。鋼塊に疵がありまして、これをこのまま板に伸ばしますと疵がしみこんで何枚も疵になつちやう。駄目になつちやう。疵を一応すき取る作業があるわけです。すき取るというと簡単でございますが、機械で疵のあるところを取つちやう、この作業でございます。ちようどかき餅と申しますか、かき餅にひびが入つております。切りますとずつと下まで庇が出ちやうということで、割れますので、まあそういうふうな作業でございます。  今の賃金の問題につきまして、例えばスカフイングの問題につきましては、もと作業員がやつている仕事でございまして、作業員というのは、八幡で申します工員でございますが、工員のやつている仕事の、当時は八名で一万九千円であつたということでございます。これは我々の全然関知する作業ではありませんけれども、たまたま昭和二十七年の職安法改正によりまして、そういう作業が出るということで、相当これは人のことのようでありましたけれども、我々大きく取上げまして、労働省と再三手紙の上、或いは県の職安課長を通じまして、電報その他で交渉を進めたのでございますが、とうとう請負になつたのでございますが、それが請負になりまして、日額三百五十円であるから、大体一万円じやないかということでありました。その中には現業員の賃金は関係しておらんのでございます。ただ製鉄の作業員と私たち請負いとの比較でございます。
  24. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 スカフイングの例をとつたから悪かつたか知れませんが、具体的に作業として八幡製鉄所の通常いわゆる職工さんの給与と、それからあなたたち現業労働組合賃金水準と、それから請負のほうは四分の一と言われましたが、作業員の四分の一ということだろうと思うのですが、それをもう少しほかの例でもいいですけれども賃金水準の各々を一つ教えて頂きたい。
  25. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 今の四分の一の問題が非常に何か関連しているようでございますが、四分の一と申しましたのは、スカフイングの例をとつたのが四分の一でございます。例えばベースが半分になつたことと、人員が半分になつたということで四分の一ということでございまして、一般ではないのであります。大体作業員のベースの水準は一万九千円かそこそこ行つおりますが、現業員の場合は一万六千円くらいでございます。それから更に我々の中での組織を申上げないとわからんのでございますが、我々の三千五百の中に一応現業員というものはつまり製鉄の社員であるということで、例えば製鉄の中で現業員とか、或いは作業員とか、医務員とか、船員とか、事務員とかこういうふうに職種がありまして、現業員は元の製鉄の職工さんと言いますか、工員と同じ資格を持つておりますが、そのほかに約二千名ほどの日雇い形式の労務者がいる、こういうことで、これらのものと職夫と現業員の賃金の差がいささかございまして、職夫が大体一万二、三千円じやないかと思います。うちの場合を総合平均いたしますと、大体一万五千円程度だと思うのであります。それと、更に請負業者賃金を見ますというと、大体最高三百五十円くらいでございます。それからまあ大体ずつと落ちるのでございますが、一番高いので三百五十円、特に請負業者の中でも、優秀なる業者は約一万三千円ぐらいになるところもございます。これはちよつと話が別になりますけれども、二十三年の職安法施行当時に、製鉄所の中で相当請負がおりましたけれども、その中で非常に、どう申しますか、職安法に抵触するというようなものの大体が十三社ほどあつて、現業に切換えたのでございます。そのほかの業者は一応職安法から見てもボスというほどではなかつた。なお、又労使の間も円満に行つているというのが残されておりますので、それらの業者につきましては、大体一万三千円ぐらいのところもあるのは事実でございます。併し大体において日額三百五十円ぐらいから、それ以下でございまして、三百五十円とるにつきましても、どういたしましても残業しなきやならんというのが実情でございます。
  26. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 そうしますと、十三社が一方は現業に切換えられた、その大部分が残つたのだ。そうしますと、その他の職安法或いは施行規則の実施で整理された請負業者が幾つかあるわけでございますね、どのくらいありましたのか。それからそれが復活しつつある実情等をお示し願いたい。
  27. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 大体今職安法で整理されたというのが十三社でございます。それ以外のものにつきましてはいろいろ職安法から見てもいいじやないかというふうなものが残つておるわけでございますが、大体十二社が職安法から見まして非常に問題になつてつたのでございますが、現在我々のやつておりますところの当時の職安法で、非常におかしい、やらしてはいけないというようなものが、今請負復活しておるわけでございます。それが例えば先ほど申しますように、名古屋岬と甘い、或いは枝光硝石灰作業と言い、或いは又洞岡粉コークス工場というようなものが、それらのものであつたということでございます。
  28. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 ちよつと私も誤解しておりましたが、十二社が整理された。のそ中から名古屋岬だとか、洞岡だとかが復活したという話ですが、そうしますと、今のところ、あげられた個所から言いますと三つぐらいですが、三つじやなくて十二社が全部復活したわけですか。
  29. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) そうじやございませんが、十二社全部復活したわけじやございません。まだほかに三千五百残つておる限りにおいてはそうじやないわけです。ただ派生的にはよくあることなんです。例えば船が非常に入つて来たということによつて、この作業は現業でやるべき仕事であるけれども、現業の人員では間に合わないので、一応請負でこれだけやらせようというので、派生的なことがたくさんあるわけございますが、今挙げました三つの例は大きな例でございまして、そのほかにも派生的にたくさんあるわけであります。将来職安法がこのような状態で進むならば、我々の持つておるところの三千五百の作業場並びに製鉄所が本来の製鉄の工員のやつてつた作業場も共に請負に行くのじやないかというようなことが考えられるのでございます。
  30. 田畑金光

    ○田畑金光君 関連しますけれども、先ほどから説明を聞いておりましても、はつきり呑込めない点があるのです。それは区別の中には作業員、それから現業員、それから請負業者と、こう三つの区別があることもわかつたわけですが、この作業員と申しまするのは、いわゆる会社と正常な雇用関係で継続的な会社作業に従事するものだと解釈しますが、そうであるのかどうか。それから現業員も、承つておりますると、作業員的な性格を持つものと、それから日で雇い入れられるような日雇労務者的な性格を持つものと二つが内容としてあるような説明があつたわけであります。そうしますと、この現業員というのは会社と正常な雇用関係というものはないのか、或いは一部は作業員と同じように継続的な雇用関係があるが、他のものは日々雇い入れるという形式で雇用関係が保たれておるのか。もう一つ問題は請負の問題でありますが、請負に関しましては、いわゆる請負業者が抱えておる労働者松永さんの現業組合員から供給される労務者と、こういうふうな種類に分かれているのが、この辺の区別がはつきり呑込めないので、一つその点を明確に先ず整理して頂きたいと思うのです。
  31. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 非常にこれはわかりにくいと思いますが、作業員というのは、これは本来職業安定法があるとかないとかいうことは別にいたしまして、製鉄所の中に工員と従業員として最初から採用しているわけです。製鉄所の従業員として最初から採用してあるのです。つまり職工です。それから現業員というのは、請負昭和二十三年の職安法によつて請負業者から切替られたものが現業者ということになつたわけであります。その中で当時の千百名の、まあこれは全部職夫の形でやつたわけでございますけれども組合がいろいろ会社折衝いたしまして、丁度昭和二十三年でしたか四年でしたか、私が担当しておりましたので、七月二十四日から三十九日間連日交渉いたしまして、折角政府方針に基いて我々は請負から現業者に、製鉄所直営になつて来たのだ、それで全部職工と同じような形に持つて行けという交渉を続けたわけであります。ところが会社のほうでは、いろいろ問題が残りまして、今の職工になるにはいろいろ採用の規格があるのだ、規格にはめなければならない。三等車から二等車に乗り替えるのだから、二等車に乗るには二等車に乗るだけの資格がなければならんというので、採用の規格にはめなければならんというので、いろいろ折衝したのでございますが、三十九日の交渉の間で、最後的には会社のほうでも、私の主張は全員作業員と同じにしろという主張をしたわけでございますが、ところが会社のほうでは、これはできないということで、最後的には会社のほうも妥協案を出しまして、例えば作業員の、つまり職工の採用規格を下げよう、例えば製鉄所の中では体重が六十キロであるとか、身長幾らであるとか、視力が幾らであるとかいう規定があるわけてす。この規格を下げて、大体その当時八〇%ほど現業員という制度になつたわけであります。現業員という制度は、先ほど申しましたように、製鉄所の中には、作業員とか事務員とか船員とか現業員とかいう種別があるわけです。これらの種別の、まあ名前は違いますけれども会社の職工と同じ性格のものになつているわけです。それでその当時二〇%ほど落されたものが職夫の形でおるということ、更にその後だんだんに膨脹して来ましたので、当初は職夫という形で入れるわけでございます。入れてそのうちからだんだんに採用試験をいたしまして、そうして現業員に登用して行くということになるわけであります。それがまあ最初のうち至極会社のほうもまじめに現業員の採用試験を行なつておりましたけれども、どうも最近ではやはり現業員になりますというと、いろいろ裏付けがありますので、余りしたくないというふうなことで、二つのそういつたような性格というものがうち組合でございます。それで日々雇入という形式をとつておりますけれども、実質はこれは長い歴史を繙きますというと、請負業者当時から三十年もやつているという人もあるのです。製鉄所になりまして、ちよつと六年になりますけれども、二回も三回も、試験を受けて通らなかつた人もある、これは事実でございます。実質はそういうふうで、最初からずつと引継いで雇用しておりますので、実際は常用といえるが、これは会社のほうは日日雇入だという形式をとつて組合といろいろ問題が起つているわけであります。
  32. 田畑金光

    ○田畑金光君 そこでお尋ねしますが、現業員と申しますと、よく今の説明で大体わかつたような感じがいたしますが、内容は給与の面等の違いはあるが、取扱い方は作業員と変わりはないのだ、こう考えてよろしいわけですね。
  33. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 全く作業員と同じでございます。
  34. 田畑金光

    ○田畑金光君 ただこれが現業員と思われたのが、要するに先ほどの十二社の整理から来たものであるという、出て来た歴史的な違いから、一方は作業員であり、一方は現業員であると解釈してよろしいのですね。
  35. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) これはこういうことでございます。最初請負から切替えられましたときに、これが作業員仕事と若干性格が違うのでありますので、製鉄所の中に現業という部を一つ設けたのであります。それで勢い現業という名前を使つたのでございますが、それで現業員とか、作業員とか、医務員とか、船員とか、作業の実質と賃金が変つておりましても大体会社の雇傭の性格は同じでございます。
  36. 田畑金光

    ○田畑金光君 もう一つ、私先ほどお伺いしましたが、そうしますと、請負業者の下で働く者の中には、請負業者がみずから抱えておる労働者と、それからお宅の現業組合の中から供給される者と、この二つの労務者があるという見方でいいのてすか。
  37. 榊原亨

    ○榊原亨君 先ほどから私聞いておるのですが、なかなかわかりにくいと思うのです。こういう話をよくわかつているかたと違つて、我々が聞くには相当忍耐が要るわけでありますので、それは専門員において、よくお聞き下すつて、何か印刷物にでもして我々によくわかるようにして頂いて、そのわかるような条件の下にお聞きをせんとわからんと思うのですが、これは専門員のほうで一応御検討願つた上、資料によつてやることをお願いしたいと思います。
  38. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) まあいろいろ意見が出ましたが、松永君がいろいろ御陳情になつておりまするが、この御陳情になつておる目的ですね、一体どういうことをやりたいのか、その目的を一つ端的にここでおつしやつておいて頂きたいと思う。それがないのでよくわからないということになる。
  39. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 我々の目的にしておるのは、職業安定法改正によりまして、こういう事実が出て来たということで、二十三年度当時の職安法に還してほしいということでございます。
  40. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) それを具体的にあなたの八幡製鉄所の中で、還すということは具体的にはどういうことであるかということを、もう少しおつしやつて頂きたい。
  41. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) これは大体説明の中に、いろいろ説明して来たのでございますが、職業安定法昭和二十三年当時は非常に厳しかつたのて、請負業者のものが即直営になつて来たということが事実でございますが、その改正によつて逆戻りしておるということでございます。逆房りしておることによつて、例えば低賃金になり、労働強化になる。更に又我々が別の問題で会社折衝いたします場合でも、何かすると、会社のほうから、君たちがそういうことを言うなら、職業安定法を読んで来たのか、皆請負に変えてしまうぞというようなことでございます。
  42. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 その点は江下局長から一つ御説明願いたいのですが、職安の施行規則改正が行われ、それからそれについての通牒も出ております。どういう工合に改正されたのか、それから通牒はどの程度出ておるのか、それから手引だとか前の認定基準等一応それらの問題の所在を明らかに一つ
  43. 寺本廣作

    ○寺本広作君 議事進行……。労働省参考人併行してやられますか。参考人のほうから大体問題点を伺いまして、あとて労働省聞きますか。
  44. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) これは前々国会からの問題でもありますので、直接八幡組合の幹部のかたから、非常に複雑な問題のようだから、真相をよくお聞きして、そうしてその実情をつかんでからでないと、なかなか労働省局長と話をしても芯のあるところへ届きませんから、そういう工合にしたいという御意見が今あつて進めておるわけです。
  45. 寺本廣作

    ○寺本広作君 それではやはり労働省通牒ですか、施行規則改正とかは、あと廻しにして頂いて、やはりその事実を先に取扱つたほうがよろしいのではないのですか。
  46. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 実は事実を伺つたわけです。ところで、その事態をよく整理してという話だつたから、問題の所在だけを明らかにしようということで委員長から御説明ありましたから、その補足の材料を一つ労働省出して頂きたい、こういうことを要望したわけです。
  47. 田畑金光

    ○田畑金光君 やはり問題になる点を正確に把握しようとするなら、先ほどの八幡製鉄の現場実情というものをよく私たち呑込まんと、どこに問題がどういう形であるのか非常につかみがたいのです。だからこれはやつばり現場のまあ実情というか、歴史的な変化というか、二十三年当時と昭和二十七年の改正後どう変つて来たかということを呑み込むについても、事実に即してもう少し私たちに呑み込み易いようにやつてもらわんと、どうも要点を質問しようと思つても、なかなか質問しがたくて困つておるのです。その辺が先決だと思います。
  48. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 大体皆さんの御意見私同感なんですが、問題は組合の要望になつている点も大体私わかつたような気がするのですが、これを将来この委員会労働省にいろいろ質して行く上において、やはり身分関係がはつきりしていないとやりにくいと思うのです。職夫と先ほどおつしやつたのは、これは普通の通用語でいいますと常雇人夫ということですか。
  49. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 職夫は大体実質は常雇でございます。
  50. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 雇用関係からいつて常雇ですね。
  51. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) ええ、そうです。ところが会社のほうは飽くまで常雇じやないのだという主張でございますが、実質は常雇でございます。
  52. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) よくわかりました。それから現業員というのは普通の作業員と全く同じ雇用関係なんですね。
  53. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) そうです。
  54. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) いわゆる出勤簿に判を捺す人ですね。
  55. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) ええ。
  56. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) わかりました。それから請負業者というのは、この下に働く労務者というのは、会社とは全然面接の関係はないというわけですね。
  57. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) そうでございます。それは請負業者の持つ労務者でございます。
  58. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) それからもう一つ重要なことは、あなたの話の中で職安法の制定当時に請負業者が整理をされた。併し当時でも合法的だと思われるものは残つたといわれましたですね。合法的なものは残つたと……。そういう請負業者が当時もまだあつたわけですか。職安法の切替をするときに合法的なものが若干残つたとおつしやるのは、それは何名くらい残つたのですか。
  59. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) その数はわりません。今でも大体製鉄所の中で三百くらいあるのじやないかと想像されます。二十三年当時の請負業者が幾らあつたかということについては、ちよつと数がわかりかねます。
  60. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) そうですか。わかりました。そうすると、そのものはそのまま残しておいてもいいということなんですね、今後も……。わかりました。
  61. 阿具根登

    ○阿具根登君 非常にわかりにくいようですが、私はこういうふうに解釈したのですが、松永さんに聞いて頂きたいと思うのです。今度の職安法施行規則の第四条の改正によつて八幡製鉄所の工員の内部は三つにも分れておるので、非常にわかりにくいのだけれども、普通使つておる直轄という言葉も使つたならば、職工という言葉も使う、これは製鉄所自体がやつてつた。それからその次にあなたがおつしやつておるのは職安法がきまつてから、請負廃止によつて準直轄みたいになつているのが一つと、それから今度は請負業に復活した形になつて請負夫が出て来た。昔の請負夫が出て来た。そのためにあなたがたの受ける圧迫が非常に大きい。極端にいえば、あなたがたが今三千五百名で仕事をしておるものを全部昔のように請負夫に機械も器具も電話もすべてを貸付けてやらしてもいいようになつて来たのだ、それで非常に脅威を受けておる。その実態はかくかくかくかくであるから、こういう第四条の改正はやめてもらいたい。こういうふうに私は思つておるのですが、どうですか。、
  62. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 全くその通りでございます。これは今おつしやるように作業員がやつてつた仕事、大体作業員のやつてつた仕事は、元来請負とか何とかという仕事ではない。これは製鉄所の直轄でやるべき仕事であつたわけです。これは職安とは別にいたしまして……。ところが、我々のほうは職安法によつて請負におつた者が、特に矛盾があるというものが直傭になつて来た。それて今度職安法改正によりまして、折角職安法によつて請負から直傭になつた者が又逆戻りしているということで、本来の作業員のやつておる仕事も併せて請負に出しつつあるということでございます。
  63. 寺本廣作

    ○寺本広作君 一つ、いろいろ事例があつてよく呑み込めないのですが、石灰を焼く工場という事例というものは比較的想像し易い。あなたの御説明でも機械電話など全部貸付けておるという話ですが、その貸付というのは何か賃貸料でもとつておるのですか。ただの使用貸借ですか。
  64. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) これは元の職安法の二十三年の施行当時は、これだけの請負をやるならば、これとこれは業者が持たなければならんという基準があつたわけです。ところが今度改正になりまして、そういうものを一切貸しておるということになりましたが、職業安定所の一月六日の調査では、いずれ会社業者の間に賃貸契約を結ぶようになつておるというようなことで、見通しをつけて許可したのであります。
  65. 寺本廣作

    ○寺本広作君 そこで雇われておる労務者は、先ほどのお話では三十四、五名だというお話でしたが、元からの人が十八名と、何か下請の人が十七名、三十名ばかりというお話でしたが、その人たちが怪我したときの処置なんか、労災保険などには下請が入つておるのですか。八幡製鉄所が入つておるのですか。
  66. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) これは業者といえども怪我したときは労災保険を受けます。
  67. 寺本廣作

    ○寺本広作君 業者が保険金を払込んておるのですか、下請の……。
  68. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) そうです。
  69. 寺本廣作

    ○寺本広作君 それで石炭を焼く工場現場には、八幡の職員が監督か何かに来ますか。下請の人が全責任を以つて作業監督なんかやつておるのですか。
  70. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 元は、二十三年当時の職安法では専門的な技術が必要であるということになつておりましたが、それが改正になりまして、今業者のほうで一応の経験があればいいというふうなことになりまして、業者の中でそれらのものを二、三雇つておるようでございます。
  71. 寺本廣作

    ○寺本広作君 会社のほうは……。
  72. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 会社のほうから一名連絡員というような名称で出しておりますけれども、実質は指導員であります。
  73. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) ちよつと皆さんにお諮りいたしますが、わざわざ九州からおいでになつておりますので、若しお尋ねになりたいことがあれば、御本人に対してはいろいろ質しておいて頂きたいと思います。それが一応終りましてから、いずれも非常に複雑な問題でありますから、これは労働省のほうにおいて、八幡製鉄所に向つて只今八幡製鉄所の労務管理の実情を一遍細かに調べて頂いて、そうして資料を一つ委員会に提出されたほうがよくはないか。それから現業組合のほうも、今各委員からおつしやつたようないろいろな点がありますから、そういうものを総合して資料を一つ御提出願つたらどうか、こういう工合に考えます。その点を一つ委員の皆さんに御賛成頂ければ、そういう工合に注文したいと思います。
  74. 榊原亨

    ○榊原亨君 折角九州からおいでになつたのでありまして、あとからここを開こうと言つても、なかなかむずかしいと思うのです。今の話で専門員のかたははつきりわかつておられるでしようか。一つに専門員のかたにあとから私聞きたいと思いますが専門員はすつかりお呑込みが行つたかどうかお聞きしたい。若しお呑込みが行かないなら、一つ後刻でもお会いになつて、よく別室でお話を聞いて頂いて、それで我々はあとから聞くということでなければ、判断のしようがないと思うのですよ。専門員のかたがわからんと言うのなら、なお更我々はわからんのですが、そこのところはどうですか。
  75. 磯部巌

    ○専門員(磯部巌君) 私は三、三回伺つたので少し多くわかつているかと思いますが、(笑声)まあ非常によくわかつているとは申上げかねますので、今榊原先生のおつしやいましたように、なおよくその点を突つ込みまして、一つどものほうで、できるだけ御参考になるようにいたします。
  76. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 なお、それは詳しいお話を頂いたり、或いは調査願うことも結構ですが、まあ一般的の状態を初め聞こうとして大変お骨折りをかけたのですが、今寺本委員から焼成工場の点についてはお尋ね頂いて、お尋ねを頂いたような点が問題の具体的な大事な点だと思うのですが、そこでこの機会に他の工場についても、もう少し聞いておきたいと思うのです。そこで焼成工場お話がございましたが、名古屋岬貨車下し場、これも請負にされたようでありますが、その名古屋岬の実態は今のような点について、どういうことになつておりましたか。一つ御答弁を願いたい。
  77. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 名古屋岬の問題は先ほど述べたのでございますが、実際は高炉を平炉の廃澤を捨てる貨車であります。これは本来の仕事は、まあ大体職安法から見ますると、請負うべき筋の仕事ではないのであります。機械も要らなければ、機具も要らない。ただ製鉄所貨車で運搬して来たものをスコツプで掻き降すというだけのことであります。それを請負業者のほうは機械機具を持つていたら請負できるだろうというので、四百万円ばかりかけて機械を注文して請負をしようと努力した。ところが幸いそのときは食止めましたが、その後貨車降し場の位置が変りました。一つは廃澤を捨てる海の埋立であります。その擁立が政府との交渉の範囲が尽きて来たというので、別の場所に持つてつて捨てようということになつたのでありますが、別の場所と言いますと、戸畑を小倉市の境いでありますが、そこで戸畑市の持つ土地と小倉市の持つ土地を交換しようというような話が出ております。そこで製鉄所のほうでは、小倉市の土地を返すから、その土地をおれのほうへくれという交換条件に参りまして、場所が変つたのであります。場所が変ることによつて、海の中に今度は業者が桟橋を造つて、その上に線路を通して埋めようということで、その当時の職安法からみますというと、それが資材を持たなければできなかつたということ、それで桟橋を造る一切のものを業者に持たせるという形式で請負いに出したのであります。どうもあの辺が、職安法の問題ではちよつと非常に関係の薄いかたがおられるようで、わかりにくい点があると思いますけれども、それらのものが先ほど申しますような作業認定基準というものがありまして、この認定許可というものができれば、この仕事をするのには請負業者はこれとこれとを持たなければならない、これは会社が持つべきものだということがあつたのでありますが、それがなくなつたので、これをどうすればいいのか、一応請負を出していいものかどうかという、あてがう尺度がなくなつた、尺度が出てくれば、これは我々のほうでもおよそこれでいいんじやないかということがわかると思うんですが、それが作業認定基準という問題であります。
  78. 田畑金光

    ○田畑金光君 私同時に労働省にお願いしておきたいんですが、昭和二十七年に施行規則の第四条が改正なつた。まあ現行の規則はすぐわかりますけれども、先ほどから問題になつております認定基準、その改訂前の認定基準の資料、それから施行規則第四条の旧と現行の資料並びにこの労働省としていろいろ今まで措置されて来た事項があると思いますので、これを参考資料として適当な期日までに御提出を願いたいと思います。
  79. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 ちよつと先ほどのに関連してお尋ねしますが、そうすると、各古屋岬の廃滓の捨場云々というのが場所が変つたということですが、四百万円の機械を買うという話もあつたが、現在では桟橋があるだけで、ほかには機械設備というものはない、こういうことですか。
  80. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) これは貨車降しですから、機械なんか使えないんです。貨車廃滓を積んで来たやつを、蓋をあけてスコツプでかき降すだけです。機械なんか使えないわけです。これか実情でございます。
  81. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) それでどうしますかね。今の個別の細かい点、ほかにもまだあると思うんで、それを全部ここでやつてしまうか、或いはもう少しやり方を変えるか、まあ議事進行の問題ですけれども、一応お尋ねしておきたいと思います。
  82. 田畑金光

    ○田畑金光君 ここで細かいことをお尋ねしていても、午後と又非常にかち合いますので、この際やはり先ほど榊原委員からお話がありましたように、専門員のほうにおいて十分に一つ、折角上京されたことですから、お聞き願つておいて、又今吉田委員から御質問のあつたような具体的な事項も一つ参考資料として、お聞き願つておいて、我々に呑み込めるような資料を一つ我我は頂きたい、こう思います。そのように一つ進めて頂きたいと思います。
  83. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 それでは具体的の実例はあとにして一つだけ聞いておきたいと思うんですが、話によりますと、ここでの委員会の両方の言分を聞いておりましても、認定基準を、作業別でありますか、認定基準を作れ、或いは作るという話もあつた。そこで日雇労働者のほうでは認定基準が待たれていると思うんですが、そうすると、職安局長のほうでは、遅れましたけれども通牒を出しました、こういうことになつておりますが、その認定基準。それから現在残つております労働省との問題点だけを一つ明らかにして頂きたいと思います。松永さんに認定基準その他懸案になつておりますものを、ここでもう一度明らかにしてもらいたいと思います。
  84. 松永徳夫

    参考人松永徳夫君) 要望しておりますのは、我々が二十三年当時の職安法に還してほしいというんです。これに還してもらえば、当然その中に認定基準が出て来るわけです。こういうふうに基準が出て来ますと、請負をするのには、こんなものが必要である、こういうものがなければ、できないという尺度が出て来るわけです。それが今なくなつたので、労働省のほうで考えておられることと、県の課長が考えられていることと、地方の職業安定所考えていることとは、まちまちなんです。労働省のほうで伺うと、我々は全く労務供給をいいといつているんではない、その精神には変りはない。但し認定基準は今の現状ではあまり必要はないんじやないか、今の状態でやれるという見通しを立てているということでありますが、尺度がないので計れないんです。我々はその尺度を出してもらうについては、二十一年当時の職安法に還してもらえば、その中で尺度も出て来るということでございます。
  85. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 労働省のほうへ、八幡製鉄所労務者の管理の状況ですが、労務者の雇用条件別と申しますか、職種別と申しますか、並びに請負業者のほうで、まあそれに職場別が入るでしようが、そういうような項目に分けて、戦争前の、職安法ができる前の状態はどういう工合であつたか、職安法ができて、その第一回の実施をしたときの状況はどんなふうであつたか、職安法改正したあとの状況も一体どういうふうになつておるか、そういうものを一つ調べて、若干細かい資料を出して頂けませんか。そうしませんと、八幡製鉄所の労務管理の全貌というものは非常に複雑でよくわからない。その中で只今松永君のおやりになつておる組合の問題が部分としてあるわけだろうと思いますが、そういう工合にお願いします。よろしうございますか。その中には今問題になりました認定基準の問題も当然入つて来るわけですね。
  86. 田畑金光

    ○田畑金光君 それと同時に、私松永さんに質問することは差控えますけれども、専門委員室のほうで御調査願いたいことは、作業員のいわゆる組合、現業の組合、或いはその他の組合があるのかどうかわかりませんが、そういう労働組合の系列と申しますか、或いは構成、組織、運営、こういうような問題等についても、詳しく一つ調査しておいて頂きたいと思います。
  87. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 職業安定局長から先ほど認定基準等の話もございましたが、私ども一、二通牒等ももらつておりますけれども通牒、それから手引等、参考資料は全員に一つ配れるように御手配を願いたいと思います。
  88. 江下孝

    政府委員江下孝君) 今認定基準の問題が出ましたので、一つ私のほうから申上げておきたいと思います。認定基準と申しますのは、つまり仮装されたボスか、仮装した請負であるかどうかという点について、すべての産業に亙りまして、業種別に作つておるものでも何でもないのでございます。つまり認定基準と申しますのは、まあ言つて見れば、施行の細目なのでございます。その内容といたしましては、一般的な、つまりあらゆるものに通ずる共通的な一般原理的な基準というものも相当ありますし、而も業種別と申しましても、これは地方から照会に応じて、どうしても判定が困難であるという特定の業種十種目程度について作りましたものでございまして、決して従来から、認定基準というものを、全産業に亘つて、各職種ごとにこれを作つたというものでは実はないわけでございます。従いまして御要求があれば、一応廃止しておりますが、お出しいたしますけれども、この中には以上申上げましたような趣旨で作られておりますので、必ずしも八幡製鉄の問題にすぐそれが適用される、或いは考えられるというものは含まれないのではないかと考えております。
  89. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 江下局長から話がありましたが、今刊行されている本でも、或いは労働省安定局庶務課編というのもありますが、少くとも職業安定法が変つていないのだから、職業安定法精神については、制定当時の精神施行規則の具体的な内容についても、認定基準その他を含んで現に出ている。そこで認定基準は廃止したということだけれども、前の認定基準、それから関係資料を出してもらいたい。出さんことには、問題の法的なと言いますか、或いは取扱いの経緯がわかりませんので、そこで要求するわけです。
  90. 江下孝

    政府委員江下孝君) 提出したいと申しているのではない、一応内容を御説明しただけであります。
  91. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) それでは外務委員会との連合委員会が終了いたしまするまで休憩いたします。    午後零時流十五分休憩    ―――――・―――――    午後三時四分開会
  92. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 休憩前に引続き会議を開きます。  本日は石炭鉱業の部分ストに関連いたしまして、賃金カットの問題について参考人の御意見を承わりたいと存じます。本日は労働委員会の議事進行の都合によりまして、予定の時刻よりも大変遅れまして、お忙しいところをおいで頂きました参考人の方々に大変御迷惑をおかけいたしました。おいで願いましたことについてお礼を申上げると共にお詫びを申上げる次第であります。  御出席の参考人は、弁護士孫田秀春君、東京大学教授兼子一君、明治大学教授松岡三郎君、都立大学教授沼田稲治郎君でございます。それでは孫田先生、兼子先生、松岡先生、沼田先生の順序に従いまして、約三十分以内の程度で一通り御意見をお述べ頂きまして、そのあとで参考人に対しまして各委員諸君から順次御質疑をお願いいたしたいと存じます。それではよろしくお願いいたします。
  93. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) 御指名がありましたが、兼子教授は何か御都合がございますそうで、先にお願いするわけに行きませんか。
  94. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) それじやどうぞ。
  95. 兼子一

    参考人(兼子一君) 実は私迂遠でございまして、余り実情を承知しておらないものでありますから、その点から私の申上げるところは果して実際上適用してどうかということの自信ははつきりないのでございますが、一通り私のこの問題に対する考えを述べさして頂きます。  問題の一部ストの場合は、全部ストの場合或いは使用者側のロック・アウトのように全面的な操業停止の生じていない上に、当事者双方がそれにもかかわらず、それに匹敵した或いはそれ以上の効果を望んでおるということから法理上非常にすつきりしない状態になつておると存ずるのであります。併し個々の労働者と使用者との関係は飽くまで個別的な労働契約或いは雇用契約を基本とするものでありますから、それが組合の一部ストによつてどんな影響を受けるかという問題になると存ずるのであります。そういう点から甚だすつきりしない意味において、或いは組合側にとつても、或いは又使用者側にとつても実は予想しないようなことも起り得るのじやないか。即ち出勤者或いは就業者というものと使用者との間はいわば平時状態のままである。従つて業者はみずから組合の争議行為に関与しているわけではないのでありまして、その点からは或いは一部ストのために職場の仕事がなくなつて人員が過剰になるという結果、整理も問題になるかも知れない。或いは又出勤している以上は使用者側の労務命令に従わないというようなことに対しても懲戒というような問題が煙り得る。そういうふうな点においては出勤者に対してはいわば平時法が適用されざるを得ないということになつて来るわけです。  然らば一部ストのために賃金がどういう影響を受けるか。即ちフルに出勤者としては賃金請求権を打つかという当面の問題について考えますと、御承知の通り労働者賃金というものは双務契約でありまして、雇用契約に基いて労務供給の反対給付として被備考から請求できるものである。そうしてそれは使用者に対して労務を提供し、使用者から仕事を与え、その仕事をするということによつて賃金の請求権を持つという関係になるわけでありますが、本問の場合は、出動者としては、自分のほうは労務を提供しておるのであつて、従つてそのために働くことができないとすれば、或いは契約の本旨に従つた労務の提供ができないということになれば、それは仕事がないことだということになるわけです。而も仕事がないことは、この場合個々の出勤者の責に帰すべき事由とは考えられない。そこで使用者のほうで労働を請求する権利が、或る意味においては使用者が債権者であり、その場合債務者である労働者の責に帰し得ない事由によつて履行ができないという状態なつた場合、債務者が反対給付である賃金を請求することができるかどうかということは、双務契約の一方の債務が履行不能となつた場合に、他方の債務が残るかどうかという、いわゆる危険負担の問題になるわけであります。で、この点については民法の五百三十六条の二項で、若し履行不能が債権者の責に帰すべき事由によつて生じた場合には、被傭者は反対給付の請求権を失わない。但し債務を免れた関係で利益を得たときは、これを債権者に償還することを要するということになるわけであります。で、普通には、使用者が仕事を与えないために労働者が労務を提供できないということになりますと、特に不可抗力、その他止むを得ない事由のない限りは債権者の責に帰すべき事由と認められるということになると思うのであります。例えば使用者なり或いはその監督下にある従業員の過失で工場仕事場が焼けてしまつたということのために働けなくなると、或いは使用者が他から材料を仕入れて、それに加工するということが仕事内容である場合に、その材料の入手が順調に行かなくなつたために、労働者としては仕事が与えられないというようなことになれば、まさに債権者の責に帰すべき事由によつて履行することができないということになりますから、労働者は本来完全に賃金の請求権を持つわけであります。ただ現実にそのために通勤費が助かつたとか、或いは他で働いて或る程度の収入を得たということになれば、それだけ債権者に返さなければならない。従つて賃金からその分だけは差引かれるというようなことは起り得ますけれども、原則としては完全な賃金をもらえるということになるわけであります。  で、一部の従業員が、他と無関係にストに入つたというような場合、例えば第一組合がストをしたけれども、第二組合はそれに同調しないで出勤しているというために、出勤した第二組合の従業員の仕事が減少した、そのために働けないということになる場合には、第三組合の従業員としてはストに対しては全くの第三者である。従つて、丁度外部から仕入れをすることができなくなつたというふうなのと同様に、使用者としては第三組合労働者に対しては金額の賃金を支払わなければならないというふうになるんじやないかと存ずるのであります。  尤もこの点は、労働争議というものは常に資本家と労働者の階級的な闘争なんだと、だから労働者といえども常に連帯しているのだという点を強調しますと、組合以外の労働者であつても争議に対しては第三者ではないというようなことも或いは問題になるかも知れませんが、組合と使用者との関係に限定して考える限りにおいては、組合以外の者は第三者だ。従つて第三者としては、組合と使用者との間のごたごたはこれは内部のことであつて、自分の知つたことではないということが言えるわけです。従つてそのために仕事が与えられないことは、債権者である使用者の責に帰すべき事由だと、こういうふうに主張し得るわけです。併し本問のように、組合として部分ストをやつているという場合に、出勤したその組合の所属員は、成るほど自分ではストには参加してない、従つてその組合員と使用者との間の関係は、さつきも申したように平常関係である。平時関係であるということになつていますけれども、併し少くともストのために自分に仕事が与られないということをば、債権者である使用者の責に帰すべき事由だというふうにこれを責めることはできないものと考えるのであります。即ちこの限度では組合としてのストは個個の組合員の立場にも影響を与え、個個の組合員はそのストに対し全くの第三者だということは言えないことになるわけであります。そこでこの場合、使用者の出勤者に対する労務請求権の履行不能という問題は当事者双方の責に帰し得ない事由によるものとして、結局民法の五百三十六条の一項のほうで、債務者である出勤労働者は反対給付である賃金を受ける請求権を有しないという結論になろうかと存ずるのであります。  ただその関係が分量的、部分的に生ずるという場合にどう取扱うかということは、具体的に又実際的に問題になるわけでございます。理論的には成るほどストによつてその個々の労働者仕事量が減少した限度おいては、それの対価である賃金請求権も喪失する、失うということになるのですが、それは部分ストの影響による仕事の減少が及ぶ場合もある、及ぶところも及ばないところもある。従つて必ずしも画一的には判断できないということにはなろうと思います。で、ただ普通に請負給の場合は勿論ですが、日給、時間給というふうな場合でも、関連する限りにおいては、例えば出炭量の割合に応じて賃金というものも減るというふうなことは一応推定はされると思うのでありますが、常に画一的にそうなるというふうには断ぜられないと存ずるのであります。この点は、実際論としてはそうなるとその算定が非常に困難になるというふうな難点があるように言われるかも知れませんが、併しその点は先ほど申したように、本来ならば、使用者としてロック・アウトの方法もあるはずなのであつて、そこまで行けばはつきりと全部賃金を払わないということは言えるはずなんで、それを中途半端な状態で解決しようとするところに、組合側としても使用者側としても、先ほどから申したようにすつきりしないことが生ずるという点は、言葉の性質上止むを得ないのじやないかと思う次第であります。  簡単でございますが、私の意見はこの程度で終ります。
  96. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。  それでは続きまして孫田先生からお願いいたします。
  97. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) ちよつとお伺いしたいのですが、時間はどのくらい頂戴できますか。
  98. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 大体三十分以内ぐらいにお願いをします。
  99. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) 只今委員長から今度の具体的な石炭事業の部分ストについての意見というように言われたように思いますが、お呼び出しにあずかつた書面では、それを契機とする部分ストの関係についてと響いてあつたように私は承知いたしております。そこでその実際の具体的な問題に触れた部分だけをお話いたしますか、或いは部分スト一般というような意味でお許しを願えましようか。
  100. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) お答え申上げます。今具体的な問題になつて委員会で問題になりましたのは、石炭鉱業の部分ストが直接の原因で、賃金のカツト問題が起きたわけであります。従つてこの問題を研究いたすにつきまして、学者としてこの問題を十分お考えを頂きながら、一般問題として御意見をお聞かせ願えれば大変仕合せだと、こういう工合に考えたわけであります。
  101. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) さようでございますか、それでは部分ストの場合における……。
  102. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) ちよつと恐れ入りますが、実は兼子先生が大学のほうで御用件がおありになるので、直ぐお帰りになるそうでございます。従つて若し御質問がありますれば、ちよつと孫田先生の御発言の前に伺いたいと思いますが、如何でございますか。
  103. 阿具根登

    ○阿具根登君 兼子先生に御質問申上げますが、只今意見つた中に、ロック・アウト等の対抗手段を講じておつたならば、これは当然だ、こういうことを言われたのですが、そうすればそういう手段があるにもかかわらず、講じなくて使用しておつた。いわゆる炭鉱の実態は御承知のようにその日その日の人を繰込むわけであります。番割と申しますか、いわゆる上の人がおつて、そうしてその人の作業場所を指名するわけであります。そうしてその職について行くわけでありますが、そうしてそういうようにして仕事場の個所或いは仕事を指名してさせておりながら賃金を払う必要はない、こういうことはどうしても私らとしては考えられないのでありますが、ロツク・アウトの場合には当然支払わんのだ、こういうふうになつて来れば、ロツク・アウトしなかつた、対抗手段を講じなかつた場合には当然支払う権利があるのではないか、かように思いますが、この点どうでしようか。
  104. 兼子一

    参考人(兼子一君) 只今お話うちの職場を指定するというようなことをやる係は、これはどちら側なのですか。
  105. 阿具根登

    ○阿具根登君 勿論組合側で、而もこれは職制ということになつておりますが、これは職制上、上の人の指示を受けてやつている。会社側の指示を受けてやつているわけであります。
  106. 兼子一

    参考人(兼子一君) そうするとやはり会社側仕事を与えない形になつてしまつて、そのために労働者が働けないということになるのじやないですか。
  107. 阿具根登

    ○阿具根登君 例えばですね、仕事が、一部のストによつて仕事がなかつた場合には、それを繰込む場合に、仕事のあるほうへその人たちを転換させる、仕事を変えてやる。こういうことも十分講ぜられるわけでありますね。で仮に何人かの人が仕事ができなかつた仕事がなかつた場合の責任は、その命令をする人にあるのではないでしようかということをお尋ねするわけです。
  108. 兼子一

    参考人(兼子一君) 併し今申上げた通りに、例えばエレベーターがとまつているというような場合に、それはエレベーター係に指名しろという意味なのでしようか。エレベーター係に……、エレベーターがとまつているからエレベーター係になれということに持つて行けばいいんじやないかという意味なのですか。
  109. 阿具根登

    ○阿具根登君 そういうことではないのですね。例えばこれが炭鉱でない場合に、機械を、製品をやつてつた機械の製作をやつてつた。ところがその販売部門だけがストライキをやつたというのですね。だからその製品業者はいつもと同じ仕事をしている場合には、当然これは賃金は払うべきだ。生産はどんどんできている、当然これは金になるものであつて、その当時だけの問題であつて、当然金になるべき問題ではありますが、そういう場合に、その仕事を使用者がさせておつて、仮に販売部門のために一部の仕事ができなかつた場合には、その人をまだ他に同じような仕事をさせる部門がたくさんある場合には、使つている以上、出勤を認めている以上、仕事をさせるのが使用者の責任ではないでしようかというのです。
  110. 兼子一

    参考人(兼子一君) ですから私は仕事がほかにあつて、そうしてそれを現実にやることが、本来の雇用契約上の債務の、労働の提供として意義がある限りにおいてはそうなると思うのです。ですから今最後にお出しになつたような、工場内部ではどんどん生産している。それから外部の、例えばトラツク運転手の連中が、運び出す運転手のほうがストをやつているという場合であれば、やはりここで生産に応じた限度においては賃金をもらえると思います。
  111. 阿具根登

    ○阿具根登君 その場合ですね、例えば賃金を払わない意思において仕事場に入れておきながら、坑内で申上げますならば、もう坑内に下る道中もこれは仕事なんであります。御承知のように極めて危険な場所も通つて行く、その道中もこれは仕事の一環であります。そういう所に入れておきながら、仕事がなかつたというような場合は、仕事をさせるその人たちに義務があると思います。入れることを自分が指名して入れておきながら、仕事が仮になかつたとするならば、その使用した人に責任があるのではないか、こういうことを聞いているのでありますが……。
  112. 兼子一

    参考人(兼子一君) ですからそれに必要な、例えば遠方から通勤したために、通勤費がかかつているというふうな限度であれば、使用者のほうとして完全にロツク・アウトして、来なくてもいいということを言つていない限りは、その限度のものは払わなきやいかんと思います。
  113. 阿具根登

    ○阿具根登君 大体わかりましたが、例えば通勤等の場合のことをおつしやいましたが、通勤の場合は勿論そうでありましようが、坑内というものは、坑内そのものが非常に危険な状態に置かれておるわけなんですね。普通の道を歩いておるというのと違いまして、坑内で歩いておれば、その歩いておる上からまあ天井が落ちることもありましようし、或いは炭車が走つて来ることもありましようし、或いは機械の故障で怪我することもありましようし、実にこまい坑道でありますから、そういう所を通つてつておるということは、ただ組合員が勝手に、自分の勝手に黙つてつてつておるわけじやないのですね。坑内に下りなさいという繰込みを受けたからこそ坑内に下らなければならない、黙つて……。もうあなたお休みなさいと言われて下つたならば、これは当然私は賃金は払わないのだ、自分勝手に下つたのだと思うのですけれども、いわゆる坑内に下りなさいということを言つたならば、そういう危険な場所に下げておるならば、例えば仕事のなかつた個所が一、二あつたにしろ、それはそういう所に下げた人の責任であつて、先ほど兼子先生の、ロツク・アウトをやつておれば当然金を払わんでいいけれども、まあロツク・アウトをやつておらないからごたごたするのだという、そのごたごたというのは、当然払わねばいけないのではないか、こういうふうに考えるのですが、どうですか。
  114. 兼子一

    参考人(兼子一君) 私はだから必らずしもゼロになるというわけじやないのでして、ですから若しそこの危険な所を歩いて、そこまで行く労働力というものがあれば、それは本来払うべきだと思うのです。ただ実際運搬する石炭がないがために働かなくてもいい限度においては、本来個別的に考えれば賃金が減るわけだというわけです。だからそれを一つ一つ個人的に算定するということは非常にむずかしいだろう。従つて推定として、或る程度平均的な出炭量と、その減炭の減産の割合というふうなものが、一応そういうふうなものをきめる水準になるのじやないかと申上げたので、画一的にすべてのものを打切つていいということになるわけでなくて、人によつては、例えば或る職場で石炭が来ると来ないとにかかわらず常にそこにいなきやならん、そこで仕事をしなきやならないという職場もあり得るという点で考えなきやならないのじやないかと思います。
  115. 阿具根登

    ○阿具根登君 先生のお答えを総合すれば、その仕事に応じて、或いは坑内に入つてつてそういう危険な場所へおつても、その作業によつて賃金は減らすべきだ、こういうことなんですか。
  116. 兼子一

    参考人(兼子一君) いや、ですから仕事がなくなつた限度においては減らすことになるということを申上げたのです。ですから例えば最初の一審前線で石炭を堀つている人ですね。これがもう石炭を堀り続けて、結局石炭が詰つちやつて、それ以上掘れなくなつて出られなくなるというふうな状態になれば、これはもう仕事ができなくなるわけです。そうなればそれから先はもう仕事がないことになるわけです。
  117. 阿具根登

    ○阿具根登君 いえ、仕事がないようになる、そういう場合は、ないようになつたのが悪いのか、そういうもう掘り詰めて、石炭がないから採炭夫は仕事されないじやないか、そうする場合、坑内の現場が完全でない以上、やはりその保安を守るための仕事その他はたくさんあるわけなんですね。炭を堀らなかつたらばお前の仕事は何もないよということでなくて、坑内は御承知のように一万トン掘るために十二、三名の人の重軽傷を出しておるような危険な場所であつて、始終仕事はあるはずだ。そうしたならば、その危険な場所に入れておくならばそういう仕事をさせるのが当り前じやないか。それをさせないで以て置いて、そうして応量賃金だということはおかしいじやないか、こういうことをお聞きしたい。
  118. 兼子一

    参考人(兼子一君) まあ大体私のお答えは済んだと思いますけれども……。
  119. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 お急ぎのようですから簡単に伺つて参りたいと思うのですが、民法五百三十六条その他を引いて、まあ債権契約だ、こういうお話でございましたが、純然たる債権契約であるかどうかということはやはり問題があるのじやないかと思うのですが、その点は争わなくても、仮に本質が債権契約であるといたしましても、問題になつております炭鉱においてもそうでございますが、賃金問題については、賃金について労使双方協定をされた或いは協約をされた。そうすると問題が起りました場合には、この賃金に関する協約に従つてその法が解釈せられなければならんのじやないかと思うのでございますが、その点どういう工合にお考えでございましよう。
  120. 兼子一

    参考人(兼子一君) 個々の労働者と使用者との関係は、やはり個別的に締結される労働契約の効力なんですね。それで債権債務が発生するわけなんです。ただ労働契約があれば、その労働契約がその労働協約に合わせられるようにされなければならんということには行くわけないですけれども……。
  121. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 労働協約がある場合には、労働協約に合わせて債権債務の関係が発生する、こういう……。
  122. 兼子一

    参考人(兼子一君) ええ、そうです。労働契約が労働協約に乗つてしまう形になるわけですね。個々の……。
  123. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 問題になつております賃金問題を、炭鉱の場合には、昨年の十月以降の賃金を労使双方でどういう工合に協約するか、九月末前の賃金に対する協定が切れて、十月一日以降の賃金をどうするか、こういうことで労使双方が折衝しているわけです。そうしてその賃金の額についてはきまつていない。但し暫定的にそれまでの協定金額に従つてまあ今やつている。そこで協約がなくなつているわけではございません。でやり方それ自身は、従来のそれぞれの炭鉱での賃金の支払い方を踏襲して参つております。問題になりましたのは、運搬が部分ストライキをやつた。そうしますと、その作業の過程から言いますと、運搬以前の石炭を掘る、それから掘進をする、仕繰をする、坑道の修繕をする、こういうこれは殆んど作業の成績によつて賃金を払つて行く。こういう人たち賃金をどうするか。それから運搬はストをやつておりますが、これはどうするか。それからそのほかの仕事労働者の黄金をどうするか、こういうまあ問題になつておる。今のお話の中に定額給或いは時間給をもらつておる者については画一的には割切れないだろう。但し関連する限りでは出炭量に応じて推定せられる。まあロツク・アウトの方法もあるけれども、それがとられておらなければ、出炭量に応じて推定されると、こういうお話であつたと思います。ところがその後御答弁によりますと、例えば坑内に入つてポンプの番をしている、或いは開閉所の番をしている、これはまあ問題はないと思う、先生の御解釈でも。そこにおること、坑内に入つて作業場におることがその仕事の主たるもので、恐らく出炭量に応じて賃金を減額されるということが妥当であるとは恐らくお考えにならないと思う。そこで今阿具根君から笠間をいたしましたのは、労働というのがどういうことか。これは組合で部分ストを決定したのだから、その炭鉱全体の作業量が全部に影響するのはまあ当り前じやないか、責任を負うべきじやなかろうかと、こういう意味の一部御発言がございましたが、その点を先ず問題にし、お尋ねをするわけでありますが、坑内について言いますと、坑内に入る、これは特定の場所から先に入りますと、仕事についた時になります。人坑をします時が労働時間の始まりだと思うのですが、労働をいたしますということになれば、労働をしたことによつて賃金協定によつて賃金を支払うというのが普通じやなかろうか。或いはウオツチ・マンのように坑内に入つてウオツチをすれば、それは全額払うべきであろうし、それからなおあと定額給或いは時間給をもらつておる者については、これは私は全体の出炭量か減つたからといつてそれを減すというのは、そういう賃金協定がない以上、私はまあ賃金協定の下において賃金がすでに払われておる、債権債務の関係が活かされたいのじやないか、かようにまあ考えるのでございますが、具体的た例はおわかりにくいと思いますけれども、原則論については大体まあ御答弁頂けると思うのですが、どういう工合にお考えになりますか。
  124. 兼子一

    参考人(兼子一君) 只今賃金協定のお話がございましたが、併し賃金協定というものは、それに従つて個々の労働契約の賃金の水準が決定されるということだけであつて仕事がないために働けなくなるという結果生ずる問題は、やはり個々の労働者と使用者との間の、先ほど申上げた債権債務の関係なんであつて、そこで一方の債務の履行が、仕事がないためにできないという場合に、反対給付である賃金の請求ができるかという問題になるのじやないか、そういう意味からお答えしたわけです。
  125. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 協定書等をここで読み上げることは御遠慮すべきだと思いますし、それからお手許にもございませんから、私がここで読み上げますのは何でございますが、炭鉱の賃金作業量によつて動く賃金と、それからそうじやない定額定給のものがございます。それぞれについて或いは保証給等の制度も殆んどどこでも行われておるわけですが、問題は労働があつたかなかつたか、或いはどの程度つたかということも御意見の中にございました。労働がなかつた云々というようなお話ですが、その場合に、先ほども申上げましたのは、坑内に入ると労働時間に算入される、坑口を入るならば労働というものがあつたのじやないか、或いは作業場なら作業場に着きますとそこで労働が始まる、或いは工場の中で、或いは坑内の作業場で、仕事場にそれぞれいるだけの人間を仕事につける、こういう仕事がありましたら、それで労働はあつたということになるのじやなかろうかという質問が一つございます。
  126. 兼子一

    参考人(兼子一君) その点は、労働者の賛金というものは、成るほど日給とか時間給とかいう場合に、やはりそこに仕事をやるということが前提として与えられておるのであつて、ただ時計が進んで時間がたてば当然資金の請求権が出て来るというものじやないと思います。やはりそれに対する反対給付としての請求権であつて、ただ出来高払や請負制のように、現実の結果が出て、それに応ずるということでなくて、それを平均して現実に日給なり時間給というものでやつておるだけに、やはり現実仕事がないとするならば、それに対する対価を払うか払わないかという問題になるわけです。ただ先ほど申したように、それが使用者側の責に帰すべき事由で仕事がないという場合なら、これは全部請求できる。併し使用者側の責に帰すべからざる事由であれば、その場合には賃金の請求権がないということになるわけであります。
  127. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 使用者側の責に帰し得るかどうかということで、先ほど具体的に、番割というのですか、仕事につけるという話が出たわけです。坑内に入り、それでそれぞれ各本人についてその仕事を指示をする、こういうことがあれば、少くとも労働がそこで始まつたということは、これは言えるのじやないでしようか。
  128. 兼子一

    参考人(兼子一君) ですからその場所に行つて、行くまでの労働力というものが賃金にどのくらい入つておるかということは、それは問題になり得るのですよ。ですけれども、それから先石炭が来ないのにただぽかんとしていて、そして賃金が全部もらえるということまでにはならないと申上げたのであります。そこへ行つてつて来るがやはりそれに伴う、仕事に伴う一つ労働なのだから、その限度においては、出勤した者は自分の職場まで行つてそこに行き着く、それから又出て来るということは、やはり賃金の中に含まれておる労働量だということは言えると思うのですが……。
  129. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 今の御答弁の中で、石炭が出なければ云々ということで、直接石炭の出ることに関係のない仕事の分についても、ただ坑内に歩いて行く、或いは作業場まで行く云々ということではないと思うのですが、これは全体について関連がございますから、抽象的な話で出炭に応じて云々ということが言われるから、問題にするわけです。先ほど申上げましたような、例えば坑内に人つてウオツチ・マンをやる、こういうものについては、これは事態は明らかですが、坑内に入つてポンプならポンプのある所に行く、或いは開閉所なら開閉所のある所に行く、それで労働は十分ではないか。それに出炭があつたからなかつたからと言つて、それについて賃金を差引くというのは、これは協定にもございませんし、それからお話の通りに、石炭が出たから出ないからそれの賃金は差引くということは不当と言えるんじやないでしようか。
  130. 兼子一

    参考人(兼子一君) 只今申上げたように、いわゆる危険負担の問題というものは、これは当初、初めから予想してそんなものを協定したり契約したりするのは通常ないことでございます。そういう場合には初めて法律として規定が働くわけですから、協定にないからそういうものの適用はないということはできないんじやないかと思います。ですから私が出炭量に応じてと申しましたけれども、厳密に言えば、例えば時間給なり日給の場合には、そのうちの一割なり二割なりは普通の固定的な基本になるわけです。それ以外の石炭量に応じて来る部分というものは、数字的にどこまで考えるか問題ですが、理論的にはそういうことが考えられるんじやないかというわけです。
  131. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 一割なり二割は、これは作業量に応じなくてもいいというお話ですが、実は炭鉱の固定給或いは定額給についてはそういう事例はございません。これはこういうことが書いてございます。これは一例ですけれども、固定給は規定時間の労働に対して支給されるのであり、その規定時間は拘束八時間、だから八時間坑内へ入つて仕事をすれば、時間が八時間ということが前提になつて、そうして八時間働けば定額を支払う、こういうのが実際の事実なんです。それについて一割とか二割は固定的に支払うけれども、あとは応能的に賃金を支払うということについておらん。
  132. 兼子一

    参考人(兼子一君) それは私の申上げましたのは固定給という意味ではなくて、そういう一日八時間といつても、それに対して与える給与といつても、その中には先ほど申上げましたように準備のために往復するような労働も入るわけです。そういう部分のほかに、なお普通の場合八時間でなし得る仕事の量というものがあるわけで、その仕事の量のほうは仕事がないために減るということは考えられないんです。併しその仕事場まで行くまでの仕事とか、それの準備に使うようなことは、或いは仕事は具体的に減つても不変な要素だというふうに考えられることがあるわけです。その限度では賃金がもらえるというふうに言えるんじやないかと思います。
  133. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 問題は労働というものがどういう工合に考えられるかということにかかつて参ると思うんですが、ただ坑口なら坑口へ入る、或いは作業場に行けばということを申上げたんです。そこを固執されておるようでございますけれども労働時間という点から言いますと、協約の中に拘束八時間云々という点がありますからその拘束八時間が始まるかということですが、併しその労働の中身については瞬間だけで測るという仮に協定になつておるとすれば、労働の時間だけがこの事実問題として争われるんじやなかろうか、こう申上げたわけですが……。
  134. 兼子一

    参考人(兼子一君) それは仕事は普通の場合を前提として考えられておるだけで、普通の仕事に働いておる場合にそれに応じた八億間という意味であつて、ただ時間だけで中身がなくても何でもいいんだということは、賃金の性質からいつておかしいと思うんです。
  135. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 先生に只今の御質疑の中で一つだけちよつとお尋ね申上げたいと思います。大体労働協約がありましても、最終的には経営者労務者側々人との間における債権債務の問題、こういう工合におつしやつた。その点私ども了承いたしますが、そこで問題になりますのは、先ほどの質問の中で、例えば坑内の保全でありますとか或いは保安でありますとか、又一般的な監視でございますね、こういうような勤務に服する人ですね、こういうような人は一応仕事の性格上坑内へ一遍入りますれば、仮に出炭とかに関係のない仕事であつて、本来の業務ができるわけです。そういう人もやはり出炭量か部分ストによつてつたということによつて賃金差引の対象になし得るかどうか、こういう問題でありますが、如何でございましようか。
  136. 兼子一

    参考人(兼子一君) その点は先ほどから申上げましたように関連する限りということを申上げたのは、結局出炭量に関係なしにきまつている仕事をやるという場合は、それを提供していれば、出勤しやつていれば、それは賃金はもらえると思います。
  137. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) わかりました。
  138. 寺本廣作

    ○寺本広作君 委員長の今のお尋ねになつたことに関連するわけですが、先ほど先生からお話がありまして、個別労働者と使用者の関係は平時状態だと、部分ストの場合でも、出勤者はストには参加していないのだという前提でお話がずつと進められていると思うのですが。
  139. 兼子一

    参考人(兼子一君) そうです。
  140. 寺本廣作

    ○寺本広作君 出勤者も一部の者がそのストをやることに賛成をしている、部分ストをやるという組合の争議戦術の決定には出勤者も参加しておる。そうして部分ストが行われる場合には、企業全体が麻痺状態に陥るだろう。従つて自分たちが出勤しても正常の労務提供はできないだろうということがわかつてつて、坑内に入る、出勤するという場合に、やはりそ出勤者と使用者の関係は平時の状態であると、その者は部分ストには参加していないのだということが言えるでありましようか。
  141. 兼子一

    参考人(兼子一君) それは組合としてストをやるかどうかという決議の問題と自分自身が労働契約に基く労務の提供をしているかどうかということは別問題じやないかと思います。組合の意思決定にたとえ参画したからといつて、自分が出ていればやはり出勤者のほうに加えられると思う。
  142. 寺本廣作

    ○寺本広作君 その場合に出勤者が自分が意思決定に参加しただけでなく、自分が出勤しても平常のような労務の提供ができないであろう。企業全体が麻痺状態に陥るから、従つて自分が出勤しても平時のような労務の提供ができないだろうということがわかつている。そういう場合に出勤する。その出勤している者はストに参加していないのだ。業務の正常な運営を阻害するということが労調法に争議だと、こういう定義がありますが、その場合に企業全体としては正常な運営ができていない。従つて自分の作業場も正常な労務の提供ができないだろうと想像される。そういう条件の下で出勤するということが、やはり平時状態にあるものと判断されるでありましようか。
  143. 兼子一

    参考人(兼子一君) 私は先ほどから申上げましたように平時状態であるから、その代り半面においてもう仕事はないからと売買整理だと言われて首になつつて、その行為は不当労働行為じやないのだ、その代りこの労務に従わなければ懲戒されても不当労働行為じやないのだ、その場合においてはむしろ平時状態という形が残つておるのではないか。それから仰せのように、若しすべての職場の関係、有機的に関連しているのが、それが而も組合の管理によつて関係しているのだというふうなことになると、これはむしろすべて常に全仕事組合請負つているのだという形になつてしまうのじやないでしようか。そういうことこそ却つて普段から生産管理が行われているという感じになるのですがね。
  144. 寺本廣作

    ○寺本広作君 議論になりますので、これで……。
  145. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 兼子先生お急ぎのようでありますから、それではお引取りを願いたいと思います。どうも大変有難うございました。  次に孫田先生にお願いをいたします。
  146. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) それでは先ほど委員長の御了解を得ましたから、部分ストの場合における就労希望者の賃金請求権関係について一般的にお話を申しまして、最後に具体的な問題に入ろうかと存じます。  本問題は労働法学上いわゆる経営障害乃至は労働障害の一つの場合に属しておるのであります。広く経営乃至労働障害と申します場合には、例えば当該企業内の部分スト、他社の電源ストによる配電杜絶、原料の欠乏とか、工場の火災、擾乱、敵軍の進駐といつたようなことによりまして、企業者が就労希望者あるにかかわらず、その事業の全部又は一部休止の止むなきに至つた場合を申すのであります。かような場合において一体就労希望者の賃金請求権は如何なる運命にさらされるであろうか。事労働者の死活に関する重大問題でありますだけに、例えば第一次世界大戦後のドイツにおきましては、この経営障害の問題は労働法学上の一大課題としまして、一時学者の視聴をこれに集めたかの観を呈しておつたのであります。殊にベルリン大学のカスケル教授が一九二二年、従来の多数者の学説を一蹴しまして、前代未開の新説を発表し、又越えて一九二三年、ドイツ最高裁判所が部分ストによる経営障害の場合における賃金関係について画期的、独創的な見解を判示しまして以来、本問題は一層大きく取上げられまして、その論議がナチス時代にまでも持越されまして、未解決のまま第二次世界大戦に突入したという状態であつたのであります。恐らく本問題は今日なお論議の対象となり未だ定説というものはできていないのではなかろうかと思われるのであります。この点はその後の文献がありませんので、私よくわかりませんが、最近ドイツから帰朝されました松岡教授にそれらの点をお聞き願いたいのであります。  又立法例におきましても曾てのワイマール憲法下の一般労働契約法草案第七十六条第二項に一カ条規定があつただけでありまして、その後今日に至るまで立法上一向に姿を見ないところから見ましても、この問題はまさに三十数年来の未解決の問題と言つて過言ではなかろうと思うのであります。なお、その他の国々につきましてもお恥しながら不肖寡聞にして未だ適切なる学説、立法例等の存するを聞かないのであります。  さて部分ストに原因する経営障害、即ち労働障害につきましては、学問上これを二つの場合に分つ必要があるのであります。その一つは、就労希望者と部分スト参加者との間に何ら争議行為上の組織的連繋なき場合であり、他の一つは、就労希望者と部分スト参加者との間に組織的連繋のある場合であります。それでこれからこの二つの場合を分ちまして陳述いたすことにいたします。  先ず第一の場合、即ち何ら争議行為上の組織的連繋なき場合、これは更に正確に申せば、事実全く連繋なき場合と、連繋があつても、それが不明なる場合との二つを含むのでありますが、例えば出荷、出炭、焼検査、動力といつたような職種においてたまたま部分スト、即ち部門ストが行われまして、ために業務の全部又は一部に障害を来たし、この争議行為と全く無関係なる労働者仕事の全部又は一部を喪失するに至つたような場合がそれであります。この場合の就労希望者は部分スト行為とは何らの関係なく赤の他人、即ち第三者と見られるべきでありますから、この就労希望者の賃金請求権関係はもつぱら労働契約上の問題に属し、労働契約理論の立場から解明せらるべきであります。  併しこれに又二つの場合を分つことが必要であります。その一つは、使用者の責に帰すべき事由による業務休止の場合であります。即ち、例えば特殊部門の部分ストが、使用者の労働契約乃至業務上の義務違反のために勃発したような場合であります一この場合、部分ストにより業務上の障害を生じまして、業務の全部又は一部休止の止むなきに至つたといたしましても、それは使用者の責に帰すべき事由による休業でありますから、就労希望者は民法第五百三十六条第二項、第四百九十二条及び労働基準法第二十六条の規定によりまして、労働せざるにかかわらず賃金を請求することができるのであります。これと異りまして、次に使用者及び労働者双方の責に帰すべからざる事由による労務休止、只今も兼子教授からお話がありました場合であります。この場合につきましては、我が労働基準法には何らの規定がないのであります。もつぱらこれが解決を学説、判例に委ねておる形であります。尤も民法第五百三十六条第一項、同第四百九十二条の規定はございまするが、これらをそのまま適用して、市民法的に処置しますことは厳に慎しまねばならんことと考えます。労働法上の現象は、いわゆる抽象人格の上に立てられました独立労働の契約、即ち純債権契約の理論によつて処理すべきでなく、具体人格の上に立てられた従属労働の契約の理論によつて処理すべきことは申すまでもないことであります。かように考えますとき、この第二の場合の就労希望者の賃金請求権関係を如何ように解すべきか、頗る至難な問題となるのであります。ドイツ労働法学におきましては、私の知る限りでは今日までにこの点に関しおよそ六つの見解が現われておるのであります。時間の関係上詳細のことは申しかねまするが、その学説の特徴だけをかいつまんで申しますと、次の通りであります。  その一は、危険負担に関する民法の規定、即ちドイツ民法で申しますと三百一十三条、我が民法の五百三十六条第一項によるという説であります。部分ストによる労働障害は、使用者及び就労希望者双方の責に帰すべからざる事由によるものでありますから、当事者双方責を免かれる。労働者労働義務を免かれる。使用者は賃金の支払義務を免かれるというのであります。併しこの見解は純市民法的考察によるものでありまして、殆んど賛成者がございません。  次の説は、債権者受領遅滞に関する民法の規定による説でありまして、我が国の民法によりますと、四百九十二条になります。即ち受領希望者は労働現実提供をしておるのに使用者がこれを働かせ得ないのは、使用者の受領遅滞である。故に使用者は労働の対価たる賃金を支払わねばならないのだ。而も受領遅滞には債権者の過失を要件としないから、その考え方に基いて、賃金支払の義務を負わしても差支えないのだ、こういうのであります。併しこれも純個人法的見解でありまして、学者の賛同を得るに至らなかつたのであります。  第三番目は、使用者の労働設備整備義務の理論を以てする説でありまして、これによりますと、使用者は一般に労働者が実際に労働し得るようなふうに一切手配を整えてやる契約上の義務を負うているのだ、これは労働契約上の義務でありますから、勿論それに違反すれば損害賠償の問題も生じて来るわけです。ところで部分ストの結果業務に障害を来し、この整備ができなくなつたということは、何も使用者の責に帰するべきでないから、使用者は一切の義務を免かれるのである。そしてただ使用者の責に帰すべき事由によつてこの整備義務が履行されない場合、即ち働かせ得なかつた場合にのみ賃金支払い義務がある、こういうのであります。この説は、実は私の恩師カスケル先生の説でありますが、余りに珍奇に過ぎまして、且つ労働者の就労請求権との関係を説明し得なくなるというので、殆んど賛成者がございません。  第四番目は、経営共同体、即ちベツトリーブス・ゲマインシヤフトの理論に基く説であります。これは有名な一九二三年ドイツ最高裁判所の見解であるのであります。これによりますというと、一体この種の問題は個人法的、市民法的に考察すべきものではなくて、団体法的に考察すべきものである。即ち個々の労働者は雇入れと共に企業労働者団体の中へ組入せられる。この労働者団体は使用者と共に結び付いて、経営共同体なるものを形成する。かくしてこの共同体こそが企業の本体であり、賃金支給の源泉となるのである。然るに今一部労働者が、この共同体を裏切つて部分ストを起し、企業の本体と賃金支給の源泉を傷付けた場合、なお貸金支払の義務を使用者に負わしめ、支払の源泉を使用者の財産にのみ求めしむるということは不合理である。こういうのであります。これは私は面白い考え方だと思うのであります。この考え方は、その後労働裁判制度ができましてから、ドイツ労働最高裁判所の判決によつても著しく展開せられたのであります。  第五番目は、労働者相互の連帯、即ちアルバイトネーマー・ゾリダリテートから出発する見方であります。これによりますと、労働者が団結や団体行動によつて利益を享受する半面においては、その同僚である他の労働者の争議行為によつて仕事を失い、賃金請求権を失うことがあつても、連帯責任の理により当然忍ばなければならないとする説であります。で、前述しましたところのワイマール憲法下の一般労働契約草案第七十六条第二項は、要するにこの説を採用をされまして、そこでは次のように規定しておつたのであります。経営障害が労働者の争議行為の結果惹起せられたるものなるときは、労働者賃金請求権なきものとすると、こうあつたのであります。これ又私は一理ある考え方であると思うのであります。かくして第一段階の企業的連帯、即ちベツトリーブス・ゾリダリテートより第二段階の職業的連帯、ペルーフス・ゾリダリテート、即ち一つ企業の中だけでなくて、或いは他の電源ストのために配電がとまつて仕事がなくなつたという場合には、やはり職業的連帯によつて給料を失う。そういう第三段階の職業的連帯へ、更に又第三段階の国際的連帯、インテルナチヨナーレ・ゾルダリテート、即ち、例えば南洋のそれがしの国にストライキが起きたために横浜の仲仕が仕事がなくなつたというような場合があつたとすれば、その賃金請求権を我が国の仲仕が失つてしまうという、国際的連帯へといずれは進むべき運命のものであると学者は説明するのであります。  それから第六番目は、いわゆる範囲理論、スフエーレン・テオリーの展開でありまして、これはおよそ自己の業務範囲の事柄に対しましては、その本人が危険を負担すべきものであるという考え方でありまして、即ちこの考え方によりますと、部分ストによつて仕事がなくなつ労働者は、組合活動の当然の結果として、即ち自分の業務の当然の結果として賃金請求権が失われることになるのであろうと思われます。併しこの考え方は何となく漠然としてぴんと来ない憾みがあるのであります。  そこで以上諸々の見解がありますが、私は次のように考えたいのであります。即ち一、部分スト以外の事由による労働障害の場合には、企業者責任の理によりまして、就労希望者は労働せずとも、従属労働の現段階におきましては、なお賃金請求権を保有する。二が、部分ストによる労働障害の場合は、これに反しまして、経営協同体の理によりまして賃金請求権を失う、かように解釈いたしたいのであります。それが第一の場合で、仕事を失つた労働者と争議行為者とが全無無関係である第三者たる立場に立つている場合であります。これと異りまして、今度互いに争議行為上の組織的連繋ある場合、前段の場合と異りまして、仕事の全部又は一部を失つた就労希望者と部分スト参加者とが、争議行為上密接なる組織的連繋のある場合は、全く別個の観点から考察せられなければならないと思います。けだしそれは個別的労働法でありますところの労働契約理論の範囲のものではなくて、集団的労働法たる争議法理論を以て処理すべき性質のものだからであります。例えば組合の決議や指令に基いて、麻痺戦術として部分ストを決行したような場合におきましては、仕事を失つた就労希望者はもはや第三者ではなくして、スト行為自体の当時者として見られなければならないのであります。即ち部分スト参加者のみでなくして、就労希望者も又一様にこの争議行為の参加者として見られなければならないと思うのであります。そうして又この場合の部分スト、ストとは申しておりまするけれども、それは真正のストではなくて、分類学上ストとは違つた他の独立の争議形態であると見られなければならないのであります。それは要するに労働者が経済的地位の向上を目的とし共同的、組織的に使用者に加えるところの具体的積極的なる妨害行為を意味し、欧米で申しておりますところの狭義のサボタージユを意味するものにほかならないのであります。  由来我が国ではサボタージユと申しますと、単純に怠業と訳しておりますが、学問的にはそれは正しくないのであります。欧米ではそれは怠業、即ち時間的部分的スト乃至能率的部分ストと申しますよりは、むしろ業務妨害行為、オブストラツクチオニズムの意味に了解されておるのであります。サボタージユは、怠業のごとくに単なる労務停廃、即ちネガテイヴな行為から成立するものではなくて、消極、積極の両面行為を巧みに併用することによつて企業の全部又は一部を麻擁せしめようとする妨害行為だとされておるのであります。サボタージユには勿論種々の態様のものがありますが、それは一貫して麻痺戦術、妨害戦術に終始すところの、争議行為としては甚だ好ましからざるものがあるわけであります。この戦術は本来サンジカリズムの直接行動主義の危激思想に渊源したものであることも注意を要することであります。今念のためにアメリカ及びドイツの文献を一、二拾つてみると、次のようなことが書いてあるのであります。先ずアメリカのキヤツセルマンのレーバー・デイクシヨナリーを引きます。一九四九年版の四百七ページでありますが、サボタージユを次のごとくに説明しておるのであります。サボタージユは革命的且つサンジカリズム的労働組合が首唱する方策であつて工場施設を麻痺せしめようとする直接的な目的と、組織労働によつて支配される経済社会を確立しようとする究極的な狙いを持つものである。このうち平和的なサボタージユは、労働には従事するが作業能率を落すというのがその戦略であり、暴力的なサボタージユは、機械を取り外し或いは破壊し、或いは原材料、製品等を廃棄する等の行為をも含んでおる。アメリカにあつては極く少数の組合がこの方策を唱導したに過ぎなかつた。その最も著しい例はI・W・Wである、こう申しておるのであります。又ドイツのハルツングの、訳しますと、「ストライキ・その概念・種別及びその合法性の要件」という本であります、一九三四年の本の三十八ページにこう書いてあるのであります。サボタージユの実施は、一般にサンジカリズムの思想、内接行動、デイレクテ・アクチオンの影響によつたものである。従つて最もラテン系諸国において頻繁に行われたが、恐らくそれはその衝動的な行動に傾きやすい国民性によるものであろう。併しサンジカリズムの組織や思想のとるに足りないドイツでは殆んどサボタージユ現象は見れなかつた。曾つてドイツ労働総同盟がフランスのサンジカリズムの理論を模倣して、その規約の中に、ストライキと並んで大小各種のサボタージユ戦術を取入るべき旨を規定したか、実際にはその都度主要労働組合の反対に会い実施を見るに至らなかつた。つまりかような悪質な闘争手段はドイツ本来の国民性に合わないというものであろう、こう言つているのであります。実際サボタージユ戦術の主要形態は殆んど皆ラテン民族、殊にイタリヤ労働者の発明にかかるものでありまして、いわゆる安全運転、遵法闘争、工場占拠、生産管理等はいずれもイタリヤ民族の血の中から生まれた業務妨害戦術であるのであります。これを受け継いだかどうか知りませんが、我が日本民族にも又同様な血が流れてやしないかということを恐れるのであります。  然らばこの種の妨害戦術、麻痺戦術は労働法上不当、違法なる争議行為であるかと申しますと、それは一概には言えないのであります。不当、違法なるものもあれば、又そうでないものもある。今日我が国で問題になつている部分ストによる麻痺戦術のごときも、私は原則として正当なる争議行為であると考えるのであります。それが若し計画的違法行為を伴うとか、著しく法益権衡の原則を害するとかいう場合は別でありますけれども、然らざる限りそれは不当、違法なるものではないと見なければならないと思います。  さて、そこで本筋に入りまして、ここに問題となりますのは、搬炭部門の部分スト、簡単に搬炭ストと申しております。その搬炭ストと就労希望者の賃金請求関係のことでありますが、前申しました通り、この部門と関連ある職種部門の就労希望者は、搬炭ストが組合の決議や指令によつて行われていると見られる限り、搬炭スト参加者と一体的組織関係にあるものと言わなければならない。従つてかれとこれとは共に当該サボタージユ行為の参加者と見らるべきことは詮なきところであると考えます。然る以上は関連職種部門の労働者はいずれも争議行為者であることになるのでありまして、その賃金関係はもつぱら争議法の理論に立脚しまして判断せられなければならないことになるのであります。その結果どうなるかと申せば、これらの労働者は原則として一様に賃金請求権を失うということにならざるを得ないのであります。このことは一方に争議行為によつて使用者に損害を及ぼすことを許されておる半面において、労働者自身も又これに相応じて賃金喪失の責に任ずべきであるという衡平の原理に塞ぐものであります。使用者であれ労働者であれ、相手方にのみ損害を負わしめて、自己の権利をのみ主張するということは法理上許さるべきではないのであります。この原理によりまして、関連職種部門の労働者は、この麻痺戦術によつて全部の仕事が失われたら賃金請求権の全部を失い、又仕事の一部を失われたら賃金請求権の一部を失うということにならねばならないと思うのであります。  ちなみにこれについて蛇足でありますけれども一言申しておきたいことがあるのでありますが、それは小坂労働大臣が去る二月十六日の当委員会において答弁なされたと伝えられておる発言の中で、諸所にノー・ワーク・ノー・ペイの原則によつて賃金を差引くのだと述べておるのであります。併しこれは卑見によりますと、正確に言えば面白くないことだと思います。ノー・ワーク・ノー・ペイの原則というのは本来労使イーコルの原則を意味するものでありまして、純然たる契約法上の概念でありまして、ここに持出すべき原則ではないように考えます。本件は前述のごとく争議法上の権利法でありますから、もつぱら争議法の原則によつて解明せられなければならないはずであります。私が今申しました賃金喪失の結論は、つまり争議法の原理に基いてなされたつもりであるのであります。でこれを要するに争議参加者と見られる限り関連職種部門の各労働者は争議法の原理によつて一様に賃金請求権を失い、ただその可能なる部分の労働に対する賃金請求権のみを取得する、こういうのが私の考え方であります。ここに前段の場合、即ち就労希望者が部分ストに対して純然たる第三者たる地位に立つ場合と対比してみましても、かように解するのが正当であると考えられるのであります。  以上一通り本件についての理論的考察を試みたつもりでありますが、さて実際問題となりますというと、なお幾多の困難なる問題に逢著せざるを得ないように思うのであります。次にこの種一、二の問題点について補足しておきたいと思います。  その一つは関連職種の限界の問題であります。前述べましたサボタージユの本質上必然的に麻痺せしめらるべき関連職種というのが常にあるはずではありますけれども、実際上その限界極めて不明なる場合があることは想像にかたくないのであります。搬炭部門ストの結果、或いは遠く事務系統の者にまでも影響する場合もありましようし、又その影響の程度並びに態様におきましても、非常に多種多様なものがあるであろうことは察するにかたくないのであります。かような場合におきましてこの限界線をいずれに引くべきか、これは大きな問題であります。併し困難だからと言つて法理を曲げるわけには絶対に行かないのであります。然らばどう解釈したらいいか、私は次のように考えるのであります。即ちこの種の争議行為が組合の決議に基いてその組織的統制下に行われたということが明確なる場合におきましては、当該争議行為による使用者への加害は個別的労働者の加害ではなくして、組合そのものの加害と見らるべきものでありますから、ために例えば三割減炭の結果を生じたと仮定すれば、三割減炭の使用者の損害に対応する賃金喪失の危険、即ら損害はその労働組合員全員が井川的に角川すべきものと言わざるを得ないのであります。一体争議行為による危険負川の法理をできるだけ狭く解して、直接の関連職種部門に限定しようとする学説や判例の努力というものは、要するに労働者の危険負担を最小限の範囲にとどめて、その損害を軽減せんとする意図に出ずるものであると考えます。従つてこれは必ずしも不動の原理であるわけではないのであります。止むを得ざる場合においては原則に立ち返つて如上の法理による、即ち共同的負担の法理によるということも又許されるべきものと言わなければならないのであります。従つてこれに関連しまして、次の第二の問題が当然に起つて来ると思います。  それは個別的労働量の測定の問題であります。前に私は関連職種部門の労働者は、その可能労働量を標準として賃金の一部請求権を取得すると申しましたが、この可能労働量なるものの測定が実は至難な事柄であります。前申した通り、如何なる麻痺戦術においてもその影響は頗る多種多様であり、又頗る微妙なものがあるのであります。取りわけ搬炭部門ストのごときにありましては一層複雑なるものがあるであろうと察せられるのであります。従つて経営者側にとつてはこの貧金算定は全く不可能事であろうと言つても過言ではなかろうと考えます。そこで我々の考えねばならんことは、現在労働関係、つまり争議中の現在労働関係が何人の手中にあるかという点であります。平常の状態においては勿論労働関係は、経営権の作用として経営者の管理下にあるのであります。併し一旦争議行為に突入しました以上は、これと同時に労働関係は一転して労働組合の絶対的管理下に移行しておるものと児なければならないのであります。かようにして、又これに伴つて労働契約関係は平時より戦時へと転換し、その内容を変じ、両者著しくその性質を異にするに至るものと考えられるのであります。この結果として、使用者を本位とする履行の態様でありますところの、いわゆる債務の本旨に従いたる履行というがごとき平時の労働契約上の概念は、もはや争議事の労働契約については通用しないものと言わなければならんと考えます。即ちその履行の問題は今や経営者の手中より労働組合の“中に移つており、履行の程度及び態様は今は労働組合を本位として価値付けられ、評価せられる関係にあると思うのであります。かように争議事において労働関係が組合の絶対的管理下におかれておる限りにおいては、使用者が他の管理下にある労働量の算定乃至価値評価をするということは全く不可能なる事柄であり、又理論上不合理でもあると言わなければならんと思います。かくて使用者が裁判上立証し得る唯一のものは、ただ減炭の量定についてだけでありまして、各個労働者労働量の判定は裁判上到底これを立証することはできないと考えるのであります。そこで各個労働者労働量の判定は、管理権を有する労働組合自体がこれをなすのが合理的であるということになつて参るのであります。そしてこの場合、この判定は勿論使用者の立証にかかるところの減炭量を基準としてこれをなすべきことは言うまでもないことであります。かようにして組合から提示されました測定表に基き労働基準法の命ずるところに従つて使用者が各個労働者賃金を支払うという方法が最も労働者のためにも、又使用者のためにも有利なのではあるまいかと、かように考えられるわけであります。  雑駁なところでありますが以上であります。
  147. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。それでは続きまして松岡先生にお願いいたします。
  148. 松岡三郎

    参考人松岡三郎君) 私松岡です。両先輩の該博な知識を聞きましたが、私遺憾ながら根本的に違つた考えを持つております。  で最初に兼子教授に対する感想といたしますと、結論から言いますと、具体的に働く場所に行つたと、その場合に働く仕事がないということについて、その仕事がないことの責任が組合側にある。だから賃金債権はないという考え、この一番大事な点について反対です。孫田博士については最初から私外国の判例とか学説の読み方ということについては、私先ず私の意見を述べてみたいと思うのです。  今度の事件についてよく引用されるのは、一九二三年のライヒスゲリヒトの判決です。この判決を読みますと、部分ストに対しては賃金を支わなくてもいいという結論です。でこの結論が出る前に学者は非常にいろいろな議論をやりました。これは孫田博士の言われる通りであります。この結論に対しては併し理由があります。ドイツの実定法からは、賃金を与えなくてもいいという義務は出て来ないのだ。ただここに経営共同体乃至労働共同体という思想を持込むと賃金を払う義務はないということなんです。ところで問題はこの労働共同体という思想は一体どんなものであるかという問題です。これは一九二三年のライヒスゲリヒトではまだはつきりいたしませんでした。その後孫田博士が指摘されたように、その共同体思想は労働者の連帯思想だという考えが明白になつて参ります。学者の多くもその点を強調しております。その後に更に孫田博士が言われましたように危険範囲説、そのどの責任の圏内から具体的な事件が起きたかということを判断するという説です。いずれにしても連帯主義というものが賃金を払わなくてもいいという根本的な理論になつているのです。つまり部分ストについては労働者仲間の問題だという、イギリスで言えばフエロー・サーバント・シオリーという問題であります。この連帯思想というものが日本で採用できるかどうかということを考えるのは、当時のドイツと現在の日本とどう違うかということを考えなくてはならないと思うのです。こういうことを考えるのは昔の解釈法学から言えば、これは社会政策学者のやることだというように言われるかも知れませんが、私は労働法を考える場合に一番大切な点はこのことだと思うのです。  先ず私は率直に一番最初に言いますと、今孫田博士の言われましたベトリーブス・ゾリダリテート、いわゆる経営体における共同体思想というものは、御承知の通りにべトリーブスレート・ゲゼツツ、つまり経営協議会法という法律ができて、経営については労使が共同にやつて行くのだという、だからそこにおいて起つた責任は労使共同体がとるべき問題だ。だから賃金債権はないのだという考えだ。ところが今日本で経営協議会法があるかというとこれはない。然らば法律がなくてもそういう考えはあるかというとそれもない。日経連が経営については共同でやつて行こうと新聞で宣伝しておるだけです。連帯思想というものはベルーフス・ゾリダリテート、つまり職業における連帯思想というものについて、当時のドイツと今の日本とどう違うかということを私は検討いたしますと、例えばその前年のドイツの社会党の勢力関係を見れば私は相当わかるのではないかと思うのです。その前年の一九三二年九月に多数社会民主党、これは議員数が百八でありますが、独立社会党六十一、これが合同して、社会党が一大勢力を占めます。その党首は大統領であります。政権は得られませんでしたけれども、そのときの合同の綱領が今申しました連帯主義です。こういうゾリダリテートという考え方を強く打出しております。特に今孫田博士が言われましたようにインテルナチオナーレ・ゾリダリテートという考え方をここで打出して、一つの輿論にまでなりつつあるのだということを私は言つていいのだと思います。というのはその裏付を見ればよくわかります。その裏付は、職業別組合全国的組織に統一されて来ております。日本では御存じのように企業組合で相互の組合は喧嘩しておる。だからそこには連帯思想というものはありません。で、炭労なんかは比較的まだいいほうだと言われておりますが、建前が職業別なので連帯思想というものではないのです。で、この点は閑がありませんから統計で挙げませんけれども日本の現在と根本的に違つているということを私は考えるのです。で、又これを更に経済的に見ますと、労働組合が完全に独占している。だから独占しておりますから使用者が入る余地がない。そうだとすると、その今のストライキということについては独占した組合がすべて責任を負う。だから組合の責任は連帯思想、連帯責任だという考え方がここに出て参つたのです。  で、日本はどうでしようか。日本はこの点については皆さん御存じのように、ピケ破りがあつて暴力沙汰が行われているのでありますが、つまり独占が十分になされていない。で、この点については、だから完全に労働組合の責任とは私は言えないというふうに考えるのです。そうだとすると、日本において労働者仲間の連帯責任という理論は採用できないということになるのじやないかと思うのです。で、そうだとしますと、日本でこの問題を考えます場合には、どうしても兼子教授が言われましたように、民事的な債権債務ということで考えなければならいのです。併し兼子教授に書いたいのは、単なる民事的な債権債務だけの問題として取上げることは、これは反対です。やはり労働法の問題ですから、労働法の考え方をも取上げなければならない。私はそういう考え方で少し私の考えを述べてみたいと思うのですが、ただここで私は実際のことについて余り携つておりません。だから資料がない。で、そこで私の議論の手掛りとして、労働省の方に叱られますが、労働大臣が今まで速記録で述べられた思想というものを、一つ私それを仮想の敵として、議論を進めてみたい。それから又、今までの学説として、経営者の方だろうと思のですが、経営者の方から、自分と同じ学説だと盲われて配られたパンフレツトに出て来た思想というものを取上げて、私はここで検討してみたいと思うのです。  先ず労働省考え方について私が言いたいことは、考え方というよりも法律論に入る前に一つ私は言いたい。それは今度のイギリスの部分的な、部分ストに対する考え方の点ですが、労働大臣はこう言つておられる。「イギリスあたりのT・U・Cの考え方でも、部分的なストというもの或いはサボというものもやはりストライキの方法としては好ましくない、こういうふうな考え方で労組全体を指導するというように聞いております。」、これは昭和二十九年二月十六日、参議院労働委員会の吉田議員に対する答弁です。で、この点については、私は率直に言いますが、これは間違いです。で、イギリスのT・U・Cは部分ストに対して好ましくないということは少しも言つておりません。なぜならば、部分ストというものはない。で、今イギリスにあるものは、アン・オフィシャル・ストライキ、これは非公認のストライキと言うのです。T・U・Cは全国的に組織されておりますから、その組織に反対して個々の、日本で言えば山猫ストライキというものばかりです。T・U・Cが指導する部分的なストライキというようなものは、自分がやりたくないならばやるわけはないのですから、これは好ましくないとかそう言うはずはない。このアン・オフイシヤル・ストライキに対してはT・U・Cの大会で毎年私が見たところでは、四、五年続いて好ましくないと言つているのです。あたかもイギリスにおいても、イギリスは部分ストライキというものは無いものであるというようなことを前提として、今度の部分ストライキはいけないのだというように答弁される、間違つた答弁をされるということは、私は相当大きな悪影響を与えるものじやないかというふうに思うのです。  そこで問題は、では然らば何故イギリスでは部分ストライキはないかという問題、これを率直に申しますと、部分ストライキがないのは、日本で逆に部分ストライキがあるのはなぜかと言いますと、緊急調整決定があるからです。つまり乱暴な言葉で言えば、炭労に対するゼネスト禁止法があるからです。イギリスにはゼネスト禁止法がない。なぜないのだろうかと言いますと、これは労働組合がそういう法律に違反してストライキをやつて、そういう法律を撤回さしたからです。強制仲裁法に違反して、スト禁止を含むスト禁止法が出ますと、それに違反してストライキばかりやりました。イギリス人はゼントルマンで、法律には滅多に違反しない。ところが労働法に関する限り、ストを禁止する法律に対しては今年の初頭から、日本流に言えば違法なストライキをやつているというような状態です。そうだとすると、こういう部分ストライキに対する今の労政当局の考え方から言えば、結局違法なストライキを奨励するという形になるのじやないかという問題を心配するのです。このことは法律論に入る前に、非常に大切なことなので私は附加えます。  そこで先ず第一に、労働省が部分ストライキに対して賃金を差引いてもいいのだという議論の第一点は、やはりこの二月十六日の参議院の労働委員会における吉田議員に対する答弁というのでありますが、「ストをやる、そうして全体の機能を麻痺せしめよう、そういう意図がはつきりして、そうして部分ストに入つた、その際部分スト以外の職場の労働者が」……これは失礼いたしました。そのやはり同じ答弁ですが、要するにこういうことを言つておられるのです。部分スト以外でも、これに関連ある全労働者に対してノー・ワーク・ノー・ペイの前提において賃金を差引くことは当然である。つまり差引く根拠はノー・ワーク・ノー・ペイの原理だということなんです。この点については今孫田博士が御指摘になりましたが、日本でノー・ワーク・ノー・ペイの原理をとつているかというと、私は日本労働法ではノー・ワーク・ノー・ペイの原理をとつていない。例えば労働基準法第十一条で賃金の定義をしておりますが、例えば家族手当というようなものをこれに入れております。家族手当は家族が一人いるというだけの理由で、労働は同じでも賃金は高いのです。だから労働と関係しない賃金を与えている。だから労働基準法は私はノー・ワーク・ノー・ペイの原理を正確にはとつていないと言つていい。私は逆に言うと、ノー・ワーク・ノー・ペイの原理をとつている条文があるだろうかと思つて探してみると、それはとても少い。例えば労働基準法三十七条で、割増賃金の算定で、家族手当や何か除いている、こういう程度です。むしろノー・ワーク・ノー・ペイの原理をとつている条文を探すのに苦労している。労働基準法で男女同一の賃金ということを言つているが、これは男と女の問題だけで、私一生懸命探して、まだ見落しがあるかも知れませんが、二つ三つぐらいの条文しかノー・ワーク・ノー・ペイの原理をとつている法律がない。そうだとすると日本の法律ではノー・ワーク・ノー・ペイの原理をとつていないということが言えるのじやないかと思います。何故とつていないかということにつきましてお話ししますと長くなりますので、この点は省略いたします。  それからその次に労働省言つていることは、部分ストは債務の本旨乃至は労働契約の本旨に副わない労働だということなんです。この点については二段かまえの論議があります。この点については今読上げようとしたことでありますが、ストをやつて全体の機能を麻痺せしめよう、そういう意図がはつきりして部分ストに入つた、その際スト以外の職場の労働者が形式的に出勤しておつても、それでも意思がそこにないと判断する、その意思がそこにないという、その意思が何であるかということが問題ですが、そこに意思がないという意思を問題にされているということです。それからもう一つは、この組合の指令によつて全体を麻痺せしめるために行われたストであれば、少人数の者が休んでおつても、これは全体がその意図の下に行動しているのでございますから、その労務の本旨に適わなかつたという限度において賃金は当然払わないものであろうと思います。こういうことです。これはその労働の意思がないということを、組合全体の意思から出ているのだというようなことを言つておられるのです。  で、この点については一審最後に私の法技術的な解釈論を述べるときに詳しくは譲りますが、ここで皆さんに一言申上げておきたいのは、債務の本旨に従つてとか、労働契約の本旨に従つてというのは一体なんという意味だろうか、これが一つ問題だと思うのです。これについては今までの日本の通説と言つていいと思うのですが、債務の内容に従つて或いは契約の具体的な条件に従つてやるということだと思うのです。意思というものは問題ではない。だから履行の時期、場所、給付の内容が信義衡平の原則に超して、それを提供し、使用者のほうが仕事を与えればいつでもやれる、仕事を開始されるという状態であれば、私は意思なくして、意思というものは問題なくして、民法四百九十三条の労務の提供があるということを考えていいものだと思うのです。これはあとから申上げたいのですが、意思というのは履行の意思、働くという意思ならばいい。極端なことをいいますと人殺しを考えている意思で以て今のような状態を実現しても或いは恋人の顔を想像しながらそこへ出たとしてもこれは何ら妨げにならない、だから私は意思というものはここでは問題にする必要はないと思うのです。この点についてドイツの有名なシユタムラーも二つの条件を言つております。この契約条件に従うということと、それからその債権者がそれを受領せんとするときには正当な方法の受領となるようなものであるということを言つておりますが、私が今申上げた通りであります。で、労働省のほうの考えられていることはまだほかにあるのかも知れませんが、速記録の中に現われた点に対する私の一通りの感想をここで申上げたわけです。  それから先ほど申上げました経営者の方が有力な学説だといつて紹介された、むしろ今度の経営者の基本方針となるような学説というものをここで述べてみたいと思うのです。これは石炭連盟の方だと思うのですが、四つ挙げておられます。一つ労働条件の提示としての考え方です。つまり賃金の差引というものは労働条件の提示としての考え方だというのです。これによれば、現在は賃金については無協約であるから、一部スト時の就労労働者労働力をどう評価しても労働条件としてどういう賃金を提示しようとも自由であつて、何ら法に違反するものではないという考え方なんです。でこれは、この提案に対しては法律論上私は特に反対する理由はないと思うのです。なぜかというと提示であつて差引ではない、だから差引ではないのですから一部のものとして受取るには十分だと思うのですが、ここで私は一つ申上げたいのは、無協約であるからといつて賃金が定まつておるという考え方そのものです。で無協約であればもう賃金はすつかりなくなつたのだろうかという問題がある。私はこれは労働の原理に反する。労働する場合には定まつた賃金の下で働くということでありますから、客観的な一つの賃金債権というものは確定すると見なければなりません。これは私は実定法の根拠として、特に形式論を青いたくないのですが、労働基準法十五条、このままが適用になるかどうかわかりませんが、働くときには労働条件を明示しろということを言つている。つまり働くときには空白状態で働いているのじやない。従つて何らかの条件が定まつて働いているのだ。その条件の中で一番大切なのは賃金なんです。だから私は賃金が定まつていないで働いているということを考えるということは近代的な労働法律家のなすべきところじやないというように考えたいのです。  で第二に、この第三の学説と言われているのは、対抗手段としての考え方です。これは労働者の争議手段に対する使用者の対抗手段として、ロツク・アウトで堪えられない場合の争議行為の止むを得ざる対抗措置として、賃金減額措置も可能であるということを言つておられるのです。で私は対抗手段としての賃金差引ということを取上げる場合に、先ずロツク・アウトよりも軽いということを一自つておられますが、私はロツク・アウトと根本的に違う。ストライキは労働力を売らない。ロツク・アウトは買わないということです。言い換えれば消極的に一つの債務をしない、不作為という問題です。ところが賃金差引という問題は具体的な債権を差引くわけです。対抗手段ということを言つておられるのですから、債権ということがあるということが前提なんです。債権がないということが前提ではない、あることが前提です。だから具体的なる債権の差引ということは、人の財産を取るのですから泥棒ということになる。この点は例えば労働者がストライキをする場合に泥棒や人を殺してはいけないというのと同じ理論です。だからこれはいけないということを私は言つてもいいと思うのです。それから更に私はこの点について申上げたいのは、一体対抗手段として強行法規に反していいだろうかという問題です。ロツク・アウトの場合は就労請求権というものを断るのですから、はねつけるのですから、この点については債権関係を破るだけの問題です。ところが債権を保護しておる、例えば労働基準法二十四条というものを破るということは、労働者の生存権を侵害する。つまり労働者の生存権を守る強行法規に反するということなんです。この点は言い換えれば人殺しというものが争議行為で許されるだろうかという問題ですが、これは許されない。私は特に乱暴な言葉で言つておるわけですが、そういうことを言つていいと思うのです。  第三番目には、共同負担説というものがありますが、これによれば労務提供労働者が労務不提供労働者と同一組合に所属し、その団体の遂行する手段として一部ストが行われる以上、労務提供労働者もスト行為の一環として、形式的に出勤しておるものと見るべきであり、ストに対する責任は全組合員ひとしく共同して負担をするのである。従つて労働協約で約束したところの賃金は負担する必要がない。つまり共同負担説、これは先ほど申上げました連帯主義、連帯思想というものと結び付くものであります。ですから私は今の連帯責任、ドイツの連帯責任理論を正当化する地盤が日本ではないということを申上げることが、これに対する第一点の批評として出て来ますが、私はそれよりも先ずもつと考えたいことは、全組合員がストの決議に参加したことによつて組合の統制権がここまで及ぶだろうかという問題です。私はむしろ組合の統制権というものは、将来あるべき債権に対する統制権は及びますが、具体化された債権に対する統制権は私は及ばない。これを別な観点から言いますと、団体法上の連帯責任と債権法上の連帯責任というものは明らかに違うのだということだと思うのです。例えば組合が団体法上による責任を追及されるというときには、違法なストライキをやつたというときに、私は違法なストライキに対してやはり全組合員が責任を負うという形、私はその場合には個々の労働者も別な観点から責任を負うことがあり得る。併し今問題にしておるのは具体的な債権債務という問題ですから、団体法上の責任関係とは違つておるというように私は解したいのです。この点については私の最後の結論を申上げるときにもう一度触れますから、今一応入る順序としてこれだけ申上げておきたいと思います。  最後に、不当利得を中心とする考え方であります。これは恐らく兼子教授あたりから出たのではないかと思うのは、これによれば、就労しない労働者のみならず、就労したけれども正常な作業ができなかつた労働者も一体となつてストを行なつておると見るべきで、かかる労務の提供は労働協約で約束したもたでないから、かかる労働の提供については賃金債権を発生せず、使用者の受けたる収益の限度において不当利得の返還請求権があるわけであるというのですから、これは兼子教授の説による、まあ近いと言つておきましよう。この問題については私は非常に形式諭からやつてみたいと思うのですが、このストを行なつておる、その部分ストに参加しない者もストを行なつているということの法律的な意味です。で私はこれは厳格に言うとストではない。労働関係調整法の労働争議に該当する労働争議に参加しているけれども、労調法第七条の争議行為ではない。例えば昭和二十三年頃でしたか、この都電のときに、生産管理をやるのだと言つて組合が宣言しました。宣言しても何らストライキをやらないのです。で宣言し、それから決議した。だから宣言し決議したということが直ちにストライキ、争議行為にはならない。だから当時の検察庁は、あれは宣言だけであつて、争議行為でないから検察は出て行かないということを言つたことがあります。これは私は正しい解釈だと思います。で労働争議と争議行為というものをはつきり労働関係調整法で区別しておりますが、この区別をしておることは非常に大切なことなのです。で労働関係調整法を作るときに、争議行為の定義ということについて問題がありました。これは戦争と同じだから、現在のへーグ条約によれば、戦争するには予告が必要だという考えと、いや、事実上の戦闘状態であれば足りるのだという考えとが対立しました。当時末弘先生は、それは戦争状態じやなくて、戦闘という意味だから、決議とかそれから宣言とかは問題でないということを言われたことがあります。だからここで決議に参加したということは、私は労働法規上の責任はあるけれども、争議行為、つまり労調法第七条の争議行為の責任というものは断じてないということを考えるのです。  それから第二に私がここで申上げたいのは、争議行為に入つたからといつて、争議行為だから賃金差引という論理は出て来ないのです。で労働法上争議行為であれば賃金は差引くという実定法上の根拠を示してくれと言うと、これは示されません。どこにも計いてない。ですから、争議行為であるから賃金を差引くというものではないのです。これは論理的に言いますと、労務を提供しながら、つまり民法第四百九十三条の労務提供がないから、反対債権というものは与えないのだということを言つているに過ぎない。で何か皆が決議に参加すれば争議行為だから、それから生ずる損害は全部差引いてもよいのだという考え方は、何か争議行為ということによつて賃金が差引ける実定法上の根拠がある、或いは法理上の根拠があるような印象を与えますが、これは間違いだということをここで申上げたいのです。飽くまでも賃金債権というものは具体的な債権債務の関係なんです。団体法上の問題じやないということは、私はその点に関する限り兼子教授に対して全面的に賛成する。これはドイツの学者で言えばジンツハイマー教授の言われることに絶対に賛成だということをここで申上げておきたいと思うのです。だから私はここでもつとわかりやすい言葉で言えば、戦争と戦闘状態というものを区別すべきだということだと思うのです。戦闘状態に入つた法律関係を戦闘に入つていない者にまで及ぼすことはできない。特にこの団体法の責任を個々に及ぼすことは絶対にできない。そこに一本実定法上の根拠がある。一本法律でも労働省あたりで作られれば別問題ですが、そこまでまだ解釈論としては到底行かない。そこで今のドイツのような実態がないのですから、私は特に行かないということをここで申上げたいのです。  時間が大分たちましたから、今度はそういう意味で経営者側の法理論です。経営者側の法理論は、今申上げましたことを基礎としていろいろなことを展開しておりますが、ただここで一つ問題にしているのは、特色があるのは衡平理論ということです。衡平理論というのはたくさん書いてありますが、要するに形の上では一部の職場の労働者のみの就業拒否であるが、その物理的乃至経済的効果は当該職場のみならず、企業の組織的、有機的運営を阻害するものであり、特に減産を目的とする運搬関係のストは全企業的であるということです。これもやはりこの効果ということを問題にしているのですが、私は先ず第一にその前提として、物理的、経済的な効果を全企業に及ぼすということが、これから賃金債権、賃金差引の論理というものが出て来るだろうかという問題ですが、私はこれは出て来ない。でこれは、この効果というものは、例えばイギリスの一八〇〇年代の判決によれば、もう極端なこと、ストは結局乱暴なことじやないのですが、企業が重大な損害を受けるようなストライキでもこれはいいのだ。ただ公衆、パブリツク・ポリシーが迷惑するようなことがあれば、それは制限すべしという理論が出ましたが、今ではこの論理は通つていません。だから今の公共の福祉で制限をする、パブリツク・ベニフイツト、公共の福祉という考えはないのです。パブリツク・ポリシーとかパブリツク・ベニフイツトとかという考えはないのです。このように私はこの第二に対する批評を申上げたいのです。  損をしたときだけ法律上差引の義務があるのだといつたことに対して、儲かつたときはどうか、儲かつたときに分配する法律上の義務があるかどうかということになると、ないのです。これはやはり儲かつたときには、労働者が出かけて行つて、これだけのものをくれということしか言えないのです。で儲かつたときには手放しにして、損したときだけ差引くということを言うのは却つて衡平の論理に反するということを私は考えたいのです。  で時間が相当長くなりましたが、そのところそどころに私の感想を申上げましたが、ここで私は一つまとめてみたいと思うのです。先ず第一に、この問題については、純粋に個別的な民事法上の問題だということをここで申上げたいのです。でその場合に、特にドイツの連帯思想、労働者仲間の責任だという考え方をとる地盤が全く日本にはないということ。だからここで日本現実から出発しなくちやならんということをここで考えたいのです。そうだとすると、先ず第一に労務賃金債権の要件として、労働者がなすべきことは何かというと、民法第四百九十三条によつて労働の提供が、債務の本旨に従い現実になされたか否かということが問題です。でその場合に働くという意思、提供の意思というものがあれば、意思と経営者仕事を与えればその債務が実現する。そういうことであるか否かということによつて、判断すれば私は足りるのだということを言いたいのです。この点から言いますと、この部分ストに参加しない者が、現実に職場に行つて働くというつもりで行つた。働くという、先ず第一にこの定まつた時刻に定まつた場所に、それから例えば道具を持つてつたということは、動く意思というものが前提なんです。そのほかに先ほど申上げました動機というものは必要ない。これは人殺しとか或いは乱暴な言葉で言いいますと、いろいろなほかの瞑想はあるでしようが、使用者を何とかして困らしてやろうという瞑想はあるかも知れませんが、とにかく個別的な債権債務である限り、そういう一つの要件を示せば私は足りるのだということをここで申上げたいのです。だからまあ問題は、最後に兼子教授と違う点です。そういつた場合に仕事がない、その仕事がないことがどちらの責任であろうかという問題です。これが兼子教授の考え方は、今のドイツの考え方と同じように連帯債務という労働者仲間の責任から出ているという問題です。確かにドイツのように完全に労働組合が独占している場合にはそういうことが考えられるのですが、日本では考えられない。そこで私はストライキの本質というもので以てこれに対する回答をしなければならんと思うのです。  でストライキというのは一体何であろうかという問題です。例えば私が、今の私は大学教授の地位で俸給が少いというので、もつと俸給を上げてくれと言つて当局に申込みます。そうするとこの私に対して、お前は嫌だと言つて、ロツク・アウトをする。そこでその場合に一番大切なことは、ほかの者を、ほかの教授を雇つて来るのです。雇入権というものが資本家側にはある。これは現在の実定法からは非難できない。まあ沼田教授なんかそれには相当批判的ですが、私は資本家の雇入権というものは非難できない。つまりほかの教授を雇つて来る、講義をさせてみる。そうするとその教授が禄な講義をしない。すると考えてみると松岡があれだけの要求をしたのは、あれだけ立派な講義をしていたからだということになる。(笑声)これは非常に私例が悪かつたですが、つまり労働力を引上げて経済的な価値を相手に知らしめるということが、これがストライキの一審典型的な型なんです。そうして典型的な考えだから、ほかの者を雇つて来て働かせれば働かせられる。だからその場合に運搬部門の者がストライキをやつたというときに、資本家のほうではほかの者を雇つて来て働かせる権利がある。そして働かせればその仕事は続行できたであろうということは当然考えられる。  ところで問題はそういうことができるだろうかという問題。この点について一月十六日の田村議員に対する、ここだろうと思うのですが、田村議員に対する労働大臣の答弁によると、炭鉱関係の三十一万のうち数百人を教えるほどの者がこのストに従事しておるというくらいですから、数百人の者を雇うのは非常に簡単です、失業者は街に濡れているのですから……。このストによつて組合側はピケを張るでしよう。ピケというものはこれは実力関係なんです。実力関係で、ピケというものは完全に雇入れを禁ずる権利ではない。これは力関係において雇入れられないようにする。併し法律的には雇入れをすることができる。又できる権利がある。そして雇入れることは可能なんです。それを怠つたということは、使用者側が仕事を与えないということになり、これは使用者の責任だということに尽きるのです。この点についてはドイツの一九二三年の頃を考えてみると、そういうことはできないのです。雇入れようとしても、今申上げたベルーフス・ゾリダリテートという考え方が徹底しております。又実際に組合が統制権を持つておりますからできない。そういうことになると、これは不可抗力だ。だから資本家側労働者側も責任なし、或いは労働共同体の思想を出して、賃金支払義務なしということを言わなければなりませんが、日本の実態とストライキの本質というものを噛み合せると、単に兼子教授のように民事的に考えないで、呑むか、若しくはほかの者を働かせるかすれば仕事ができたにもかかわらず、できなかつたという全責任はむしろ資本家側にあるということを私は言いたいのです。この点が最初に申上げた兼子教授と根本的に違つた考え方で、この点は皆さんに十分に検討して頂きたいと思うのです。  更に私ここで皆さんに申上げたいのは、資本家側は要求を呑む権利がある或いは自由がある。それからほかの者を雇入れて働かせる自由だけじやなしに、ロツク・アウト権があるというのが日本の学説であり、アメリカあたりへ行きますとロツク・アウト権はない。この点については日本の学者は非常に保守的です。沼田さんなんかはこの点については保守的な考え方を持つておられるのですが、保守的な考え方に立つとロツク・アウト権もある。そういうこともしなくて仕事が与えられないということは、これは資本家側がその責任を負わなくちやならん。つまり言換えると民法五百三十六条第二項の反対債権というものを払わなくてはならない。だから来子教授も、そこへ出掛けて行つて仕事がなかつたということだけで賃金をもらえないということを言つているわけじやない。そういうことは絶対に、今日早く帰られたのですがへそういうことは言わない。それが資本家側の責任でないということを前提にしておられる。ところがそういう意味で、今申上げた意味で資本家側の責任だというのですから、賃金を支払わなければならんということをここで申上げたいのです。  要するに私は一つ考え方として、日本の実態に照らして、日本労働組合或いはその他の実態に照らして日本の民法を適用すべきなんだが、そこには労働法的なスト権の理論というものを考え合わせて、その結論では今度の場合には労務の、たとえ私に言わせるとロツク・アウトしないで、現在の場合でありますと賃金も全面的に支払わなくちやならんということになると思うのです。ただここで最後に附加えたいのは、請負給の場合は多少別ですが、そうでない場合には全面的に支払わなくちやならんということを申上げるわけです。これで私は終ります。
  149. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。  続きまして沼田教授の御意見をお願いいたします。
  150. 沼田稲次郎

    参考人沼田稲次郎君) 今までの所論でもう論じ尽された感がございますし、而も時間もかなり切迫いたしておりますので、簡単に考え方だけを申上げておきたいと思います。  この問題については、一つ考え方は、これは先ほどから松岡参考人が批判をいたされておつた労働大臣答弁に現われる考え方、つまりノー・ワーク・ノー・ペイといつた考え方であります。もう一つは、先ほど孫田参考人の述べられたいわゆるゾリダリテートの考え方、むしろゲゼルシャフト的な考え方にほかならないわけであります。そこで私はノー・ワーク・ノー・ペイということについて、そこからこの事態はどういうふうに考えられるべきかということを先ず検討してみたいと思うのでありますが、一体ノー・ワーク・ノー・ペイは、今松岡参考人は、大体日本にはこんなことは適用にならないのだとおつしやつておられたのです。確かに適用にならないと言えば適用にならないのでありますが、いわば資本主義社会の原則を述べたという点ではノー・ワーク・ノー・ペイという原則は適用になると言つてもいいわけです。ただその場合にどういう意味でこれが適用になるかということを吟味してみますと、一日のうち大部分働かなかつたからその部分のペイがないのだという意味では、毛頭日本はノー・ワーク・ノー・ペイの原則は適用にならないということは、これは疑いなかろうと思います。たとえ碁を打つていてもやはりちやんと月給をもらわれるのが、これは国家の機構の中においてもそうでありますし、個別資本の機構の中においてもそうであります。で、そういう意味では今ノー・ワーク・ノー・ペイという問題は全然出て来ない。つまりノー・ワーク・ノー・ペイというのは、労働力が買われてしまつたかどうかということに問題がある。やはり労働力を買つてしまつたら、買つた人間がこれは使わなければならないというのが資本主義社会の原則なんじやないでしようか。だから資本主義社会の労働契約の基礎は何かと言うと、労働力を買つて生産手段と結び付けてしまうという、この行為は使用者と労働者との間の合意という形式を近代においてもとらざるを得ない。その契約が労働契約なんです。そういうふうに考えてみますと、いやしくも買つてしまつた労働力について、それがいろいろの事情から働けないことがあつたとかいうことが出て来ても、直ちにそれを以て賃金の中で比例的に減らすという考え方が、これが近代のものなのかどうかということが疑問だと思うのです。むしろ労働日として、経済学ではよく言うことですが、労働日として買つている、その日の労働力を買つている。だから買つてしまつた以上はしようがない。私はロツク・アウトについてはかなり保守的だという御批判があつたのですが、ロツク・アウトというものの本質は労働力を買わないということだろうと思うのです。一定期間買わないということだろうと思います。労働契約ということが、単に一日一日で換算しがたい事情があつて、これがいわゆる継続的な債権債務関係というふうな観念になつて出ているわけですから、一般的に見れば、直ちにその日買わないということは今日の契約観念では許されないということだと、使用者がロツク・アウトを打つためにはやはり何らかの理由がなければならない。その何らかの理由とは何かと言つたら、先ず労働組合のほうで労働力を引揚げるというストライキ行為が行われるとき或いは行われる危険が現実に存するという場合にしか出て来ないのじやないか。そういう意味でロツク・アウトを私はできると思いますし、この部分ストに対しても私は使用者が、あとでも申しますが、使用者がロツク・アウトを打てると、こう考えているのです。又ロツク・アウトを打てなければ、実際賃金問題もすつきりして来ないのじやないか。ロツク・アウトを打てるにもかかわらず、ロツク・アウトを打たないでおいて、毎日これを黙つて受取つておる。而も先ほどの質問の中で、私は初めて具体的によくわかつたのですが、審判をやつておる。そして坑内へ入れておるという状態では、これはもう無条件的にこの労働力を一日分買つた考えるのが当然なのじやなかろうかというふうに考えられるのであります。  そこでそういうふうな事態を頭においてこの関係を見ますと、私はとにかく出て来たらいい、出て来てそのまま働かせてしまえば、それでもうその日の分を払わなきやいけないと考えるのが、これは最も普通の考え方であるべきだ。その際じやストライキじやないか、戦術として来ているのじやないかということが問題になるのですが、ストライキの戦術として来ておるからといつて、その労働力を買うか買わんかは使用者の勝手じやないか。そうすれば、買いたくないとすれば買わなきやいいんじやないか。買取つたからには、争議中といつてもやはり働かしておる。何もこれをストライキをやらせるために買つておるわけじやないので、やはりストライキ状態においても、なおこれを労働力を買つたのですから、そうした以上はやはり買つたことから来るいろいろな責任が出る。当然使用者が受取るべきだ、いやなら買わなきやいいじやないか、こういう問題です。  そこで部分ストというのは、もう少し実態に即して挑めて見ると、労働組合一つのコントロールした労働力をもつて、そして使用者にこの部分だけは売らないが、あとの労働力を買え、若し我々の要求を呑むならこの部分についても売ろうじやないか、運搬部門の労働力だけは売らない、ほかの部分だけは売つてやる。若しいやならば、全部買わないなら匿わない、でなかつたら我々の要求を呑んで、自分の欲しい労働力を買いなさい、こういうことでしよう、部分ストというのは、実態に即して眺めれば、ストライキといつて何か異常な階級闘争の最も熾烈な現われであるというふうにとられたくないならば、そうとられるより仕方がないだろう。つまり労働市場においてこれを考える限りは、この部分についての労働力は売らない、併しほかの部分は売る。併し使用者としては、それじやこの部分を埋めるためにはお前のところの組合員を使うぞと言つた場合に、おれはお断りだ、この部分だけは売らない、組合はそんなことには使われはしない、くやしかつたらどこからか連れて来い、でなかつたら全部買え、これが普通の部分ストというものの持つ経済的な意味でもあるし、そして資本主義の商品交換社会での考え方としては最も具体的な考え方じやあるまいかというふうに考えるのであります。  そうしますと、経営共同体的な考え方というものが入る余地があるかと言いますと、これはもう全然入る余地がない。で、成るほど経営においてずつと働いておるのがストライキ状態に入るというときには市場の関係に入ると考えて行かなきや性格が捉えがたいと思います。だから、私はここで先ほど孫田公述人がおつしやつたベトリーブス・ゾリダリテート或いはゲマインシャフトというような考え方は到底労働関係の近代的な考え方を捉えるカテゴリーにはなるまいというように私は考えております。ノー・ワーク・ノー・ペイというようなものも今言つたように非常に限定された意味で考えなければいけない。つまり買取つた労働力について、それを時間きめに割つてペイを左右するというような考え方がとらるべきじやないだろう。それから又ゲマインシヤフトの考え方を取入れて、組合全部が責任を負うべきだというふうな考え方に直ちに持込むのはこれはおかしい。勿論私は労働組合がゾリダリテート、連帯性がないとは私は思つておりません。労働組合は連帯的な関係にあると私は確信しております。日本においてもとよりそうであります。ただ日本の場合の連帯性というものの中には、ベルーフとしての連帯性、或いは職業としてそういうものの連帯性は弱いというだけであつて、そこへ発展して行くべきだということは、これはどの労働組合も、総評、産別、新産別、共に産業別組織による大同団結を叫んでおるわけでありますから、私はそこにゾリダリテートがないとは考えられない。誠に貧弱である。むしろその貧弱さを打ち越えて行くべきだと思つております。どちらかというと企業別のゾリダリテートがある。その場合にはそういう点は部分ストにおいても考えられると思うのであります。併しゾリダリテートの考え方があるからと言つて、それでは組合がその部分ストで減産した石炭、減産した、つまり資本が損をしたという部分全部をひつかぶらなければならない、そうして而もそのひつかぶり方が各組合員賃金をカツトするという形においてひつかぶらなければならないというのはこれは無理だと思います。大体如何にゾリダリテートの建前があるからと言つて、個々の労働者賃金体系というものまでも一体組合がどこまで左右できるかということは、先ほど松岡教授の指摘されたことく問題があります。そうして賃金カツトという考え方には、一つの相殺をする、相殺というような考え方があるように思われる。この考え方の基礎には、又同時に賃金組合に払えばいいというような考え方が出て来るじやないか、下手をすると組合が責任を負う、組合が責任を負う、それならば組合賃金を全部握つておるという頭に入つてしまう。そうしますと賃金組合に払つて組合からそれじや賃金を個々の労働者に払つてもいいかと言えば、それは労働基準法が厳に禁じておるということはこれは言うまでもない。今日の近代の法においてはそのようなことは許されない。やはり飽くまでも賃金は個々の労働者の手に渡る。そこで保護されておる。働いたものは当然もらう。つまり一たび働く場所へ行くことになつてしまつた者は、その賃金を当然取るべきであるという考え方が当然ではあるまいかと思うのであります。先ほどから何か賃金を相対的に減らせる、そうしてその間には範囲があつて、一方の職種に近いものについては或る程度減らさなければいかん、併し事務的なものに対しては減らさんでいいというような議論も多少出たかと思いますが、この考え方は、これこそもう実は自己矛盾を含んでおる。ゲマインシャフト的な考え方をするならば、これは全組合員一時に減らすという考え方しか得られないのであつて、その中に限界を設けて、特別に労働しなかつたたちのものだけ減らそう、余計減す。つまり賃金カツトに差別を見出すという考え方を若し持ち込むならば、これは基礎において、働いた者は当然働いた分だけ取るんだという頭が出て来なければいけない。ゲマインシヤフト的な考え方からすれば一律ということになる。でありますから私は当然そういうやり方で律すべきものではないと考えておるのであります。だから賃金をやりたくなかつたら、その労働力を買うために要求を呑むということが損か得かということを冷静にそろばんを弾くべきことが一つであります。  もう一つは、ここであえて、ロツク・アウトを打つかという問題が残されておると思います。もう一つここに注意しなければならんのは、番割をやつてしまつたから、だから買つたじやないかという先はどの質問もあつたのですが、これはそれじや或る特定の人間に対して番割をやらないということができるかというと、それはできないと思います。やはりそれは全部としてロツク・アウトをするか、或いはそうでなかつたら働かすしかない。そういうふうな形で一部の者に対しては受取る、その日の労働力は受取るけれども、一部の者は受取らないということになれば、やはり一種の差別待遇的なものが出て来るのであつて労働法の精神には反するというように思うのであります。  それからこれはもうすでに松岡教授が指摘されたことで、余り繰返すまでもないことですが、衡平の考え方であります。出炭量で減らすという考え方が実に危いということについては、孫田博士も先ほど指摘せられておつたように、たとえよしんば組合が責任を持つて賃金を減らさなければならないにしても、その標準を出炭量にだけ置けない。併しながら出炭量は一つのめどだというところが今大体賃金カツトを認める立場での基準を定める考え方なんでございますが、大体そんなに出炭量で直ちに賃金カツトをやつてしまうというようなことは、乱暴だろうということは明らかであります。たとえあとで最高裁まで争つた結果、どうしても賃金カツトがいいということになつたにしても、それを又一方的に勝手に利用して、出炭量に平均してカツトするなどということは、先ほど松岡教授が鋭く言われたように、正に泥棒に類することじやなかろうか、そのようなことをやるから、労働大臣が憂えられておるごとく、良識なき闘争になるのではなかろうかというふうに考えているのであります。(笑声)  とにかくもう大分遅くもなりますし、先ほどからもういろいろな議論が展開いたされておりますので、私自身はこれ以上、又質問でもございますればお答えいたさせて頂くことにして、取りあえず公述を終らせて頂きます。
  151. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 有難うございました。大変時間が遅くなりましたが、各委員の良識におきまして、これから質疑をお願いいたします。
  152. 阿具根登

    ○阿具根登君 孫田先生に一つだけお尋ねしたいと思います。この賃金カツトの問題は、出炭量を基礎として、そうしてその線を引くのはむずかしいから、組合からその資料を提出して判定すべきであろう、こういうことをお聞きしたと思いますが、一部ストのために出炭がゼロであつた、全然出なかつた場合はどういうふうにお考えになつておるか。
  153. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) 全然出ない場合は、賃金を支払う義務がないということになるのです。
  154. 阿具根登

    ○阿具根登君 そうしたならば、一部ストで全然出なかつた場合に、全然賃金を払う必要がないとするならば、坑内には一人も人間を入れないでよろしいと、こういうことですね。全然賃金を払わずに坑内に人間が入れということはおつしやらないと思いますから、全然坑内に人間が入らないでいいと、こういうことになりますか。
  155. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) 全然仕事がなければ入れんでもいいわけです。
  156. 阿具根登

    ○阿具根登君 一部のストライキをやつたために、これは坑口をストツプすれば一トンも出ません。一塊も炭は出ません。そうした場合には、全然賃金を支払う必要はないとおつしやるならば、これは賃金を全然もらわない人が坑内に下る必要はないわけです。そういうことはできないわけです。その点どういうふうにお考えになりますか。
  157. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) 意味がよくわからんですがね、どういう意味なのか。生産が一〇〇%とまつたら一〇〇%の賃金を失うと、こう申したのです。
  158. 阿具根登

    ○阿具根登君 出炭量を基礎にして労働者賃金考えるべきだと、こういうことになれば、出炭量に無関係な人がたくさん坑内におるわけです。
  159. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) そうです、保安要員……。
  160. 阿具根登

    ○阿具根登君 保安要員でなくても……、保安要員その他出炭量に関係のない人がおるわけです。坑外の何は別としてですね。だから出炭量を基礎にして云々ということは、私らにはちよつと間違いじやないかと思うんです。
  161. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) 行き過ぎだとおつしやるんですか。併しそれは組合員の共同の負担だという考え方、連帯責任ですね。
  162. 阿具根登

    ○阿具根登君 連帯責任だからゼロの場合は一つももらうものはもらえない……。
  163. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) ええ、なぜかというと組織的、計画的に行われたそういう争議行為だから……、それが実施された場合ですよ。
  164. 阿具根登

    ○阿具根登君 それが実施された場合に保安要員というものは……。
  165. 孫田秀春

    参考人孫田秀春君) 保安要員は別ですね、保安要員は普通の業務に従事しておりますから、これは別です。争議参加者ではないんだから、保安要員は。そうして会社の管理下にある者だから、これは別です。
  166. 沼田稲次郎

    参考人沼田稲次郎君) 若し質問がなければ、ちよつと私附け加えさせて頂きたいと思います。
  167. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) どうぞ。
  168. 沼田稲次郎

    参考人沼田稲次郎君) この部分ストの責任を全部で引受けるという考え方が、下手しますとこういうことになることを恐れるんです。と申しますのは、例えば二十四時間ストを打ちます。そうしてその次に又二十四時間一日おいて打ちます。つまり波状ストというやつを打ちます。そうしますと波状ストの二十四時間打つて次の三十四時間を打つまでの間、この間は争議がないのに出炭が減つた、平均出炭より減つておる。それ故にその間の賃金カツトをするという議論になつて来ます。もう一つ考え方は、ストライキが終つた。終つてからあとがストライキのあとの修復などをしなければならん。その間は予定通り出炭ができない、出炭が下る。これが因果関係はストライキにあるというような議論になる虞れがございますので、そういうことになれば、恐らくどこの国へ行つても少し滑稽になつて来るかと思いますので、やはり基礎は、この部分ストの考え方を私は確立されてから、やつぱり労働市場における労使のあり方というものはどういうものかということを考えておく必要があるということを申し添えさせて頂きたいと思います。
  169. 栗山良夫

    委員長栗山良夫君) 参考人の方々に一言御挨拶申上げます。非常に長時間に亘りまして、それぞれ貴重な御意見を寄せて頂きまして、当委員会の審議に非常な御後援を頂きましたことを、委員会代表いたしまして厚く御礼を申上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時三十七分散会