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参考人(房村信男君) どのような
方法で
お話するのか、実は心得ておりませんでしたので、十分に
準備がして参りません。日頃
考えておりますことを粉塵
自体の問題として一
通り申上げます。
お話申上げます順序は、この粉塵そのものについて、それから次に粉塵を計るのにどんな困難があるかということ、次にけい肺になる原因としての粉塵中の遊離計算、そういうような問題、それから最後にけい肺そのものは現在治癒が困難である。然らばけい肺を防ぐには先ずその粉塵を防止することが最大の問題になるわけでございます。そこで粉塵防止の問題、そういうような点について
お話したいと思
つております。
先ずこの粉塵でございますが、これは必ずしも発塵
作業場のみに粉塵が存在するわけではございません。この室内におきましても或いは街路におきましても多量の紛塵が浮んでおります。例えば一例的に申上げますと、東京都の街路で盛んなときには一万若しくは二万以上の粉塵が浮遊しておる可能性がございます。それから普通の東京都内の事務所等におきまして、
相当良好な通気、換気を行な
つておる所でも数千乃至一万の粉塵を見出すことはそれほど困難でございません。
炭鉱若しくは金属鉱山の
坑内におきましても当然多量の粉塵が発見されます。ところでこのけい肺問題とは少し離れますが、我々は粉塵があることによ
つて日常
生活において
相当の利益を得ておるわけでございまして、その一例を申上げますと、例えば冬太陽の光線が弱くなりましても或る程度の暖かみを得ている。或いは夏非常に直射日光を受けても或る程度の遮熱的な
効果を粉塵によ
つて受けておるわけであります。それから光の反対側、物の影に参りましてもそこが直ちに真つ暗にならない、それというのが空気中に浮んでおる粉塵による光の散乱のお蔭である、そういうようなふうに粉塵も我々の日常
生活に多少は貢献をしておるわけでございます。一体空気中に浮んでおる粉塵がどのくらいの大きさがあるか、それはその所の風の早さ、そういうようなもの、或いはその浮んでおる物質の性質によ
つて異りますが、通常浮んでおりますのは二、三十ミクロン以下の粒子と
考えられます。ここで申上げました一ミクロンと申しますのは一ミリの千分の一の大きさでございます。実際この中でけい肺の対象となりますものは、いろいろの説を参考にいたしますと、五ミクロン以下で〇・五ミクロンくらいのものが特に危険であるとされております。そういうような細かい小さな物質のかけら、そういうようなものが粉塵と
考えて頂ければよろしいと存じます。
次にその空気中に浮んでいるこのような粉塵を我々はどのような
方法で測るか、これには昔からいろいろの
研究が行われておりまして、各種の測定器具ができております。それを大別して
考えますると、先ず第一には一定量の空気をとりまして、その中に目方としてどれだけの粉塵があるか、そういうような
方法で測
つて参ります。これを普通重量法と申しておりますが、これは例えば脱脂綿或いは砂糖或いはレゾルチン、そういうような薬品を使いまして濾過いたしまして、そこに溜つた粉塵の目方を測
つて計算する
方法でございます。次には空気中の一定量の空気を取りまして、その中に浮んでおつた粒子の数を何粒あるか数を数える
方法でございます。これは計数法、数を数えると書きまして、計数法と申しております。
只今申上げました重量法と計数法とがこの粉塵を測る二つの大きな
方法でございます。これに対しましてそれぞれ三乃至四種類以上の機械がございまして、同じような
場所でそれぞれの機械で測
つてみますると、それぞれの値は殆んど一致しないというような
状況にございます。原理といたしましては、
只今申上げました目方を測る或いは数を数えるという
方法的にはきま
つておりましても、それぞれの機械には性能の差がございますし、それからそこへ測るほうの原理的な差異がございますので、なかなか一致した値が得られません。で実際そこに真に存在しております粉塵の量が或いは数がどれだけあるかということは、我々現在の力を以てしては知ることができない。我々は単に相対的にここが多い或いは少いということがわか
つているだけであるというような
状況にございます。これはいろいろと
研究しておりますのですが、非常に困難がございまして、なかなか真実の値に到達することができないような実に残念な
状態にあるわけです。併しながら一定の機械で一定の
方法で測定しておりますれば、相対的には多いか少いかということはわかります。
それから後ほど申上げます予防手段につきましても、或る予防手段をいたしましたときに、それがどれだけの
効果があつたかということは現在の相対的な測定
方法でも
相当詳しく知ることができるわけでございます。勿論真実の量を測る
研究も必要でありますが、それだけでけい肺問題が
解決するわけではございませんので、それはそれで相対値がわかるという程度で、その
方法を以て予防手段、予防的な
効果を向上するように現在は努力がなされておる次第でございます。一般的に申しますと、現在
日本では
労働科学研究所で昔考案いたしました労研式の塵埃計、それから
日本工業協会にございます粉塵防止
研究委員会、そこの
委員の知慧を集めまして創案いたしました粉研式コニメーター、この二つの器械が空気中における粉塵の数を測る機械として広く用いられております。このような器械について測りますと、普通
坑内等では大体一CC、一立方センチの中の粉塵の数が二千乃至三千というような程度が多いようでございます。勿論それは一例でございまして、その
作業状態或いは粉塵発生の防止の仕方によ
つてはおのずから異
つて参るわけでございます。
次に今度は粉塵の中に存在しておる遊離けい酸の問題がございます。遊離けい酸と通常申しておりますのは石英、普通俗語的には水晶と申しておりますが、SIO2という分子式を持
つております
一つの物質でございます。その石英を通常は遊離けい酸と申しております。一般の岩石の中には石英はいろいろの形で入
つております。が、他の物質、他の分子と結合した
状態のSIO2はこれを結合けい酸と申しております。それに対して他の何物とも結合しないで、SIO2だけの恰好で岩石の中に入
つておる、それを通常遊離けい酸と申しておるわけでございます。それでけい肺の原因としては遊離けい酸、
只今申上げました単独に存在しておるSIO2、これが極めて有害なものであるということはすでに証明された事実でございますが、他の物質と結合した結合けい酸、それがけい肺の発生にどれほどの
影響を与えるかということに関しましては、すべてのものについて全面的に検討が進んでおるわけではございません。その一部については
相当の害があるらしいことはわか
つておりますが、すべてについては、まだわか
つておりません。それで現在の階段におきまして、我々といたしましては、先ずその結合けい酸のほうは別問題にいたしまして、粉塵の中にこの遊離けい酸、単独の恰好で存在しておりますSIO2がどれだけあるかを調べるためにいろいろの努力を重ねて参りました。いろいろ調べて見ますと、鉱物学的にはこの単独のSIO2という恰好で岩石の中に入
つておりますものは、
只今申上げました石英というものだけではございませんので、他に同じ、分子式は同じでも構造的に多少異つたものが七種類以上もございます。併しその中で最も多いものがアルフアー石英、石英の前にアルフアーというギリシヤ文字を付けた恰好で呼んでおりますが、このアルフアー石英と申しますのが大
部分でございましてそれ以外のものは鉱物の標本として標本的な価値はございますが、実際の岩石
作業等に現われて参りますことは殆んどございません。そこで我々は
作業上の
立場或いは鉱山等の
立場といたしましては、このアルフアー石英だけを考慮すればよろしい。そういうような
立場で分析法の
研究を重ねて参りました。
ここに
一つの粉塵があつたといたしましてその中に石英が幾ら入
つているかということを分析で求める。一見極めて簡単のようでございますが、これが私
ども専門の
立場から申しますと決して容易ではございません。現在これに対しましてはつきりしております分析の
方法が約十六種類ございまして、或るものについてはその中の三つなり四つなりの分析の
方法の結果は一致しておりますが、ものが変りますと又他の
方法、他の幾つかの
方法がよく一致した値を得るというような
状況でございます。粉塵を構成しております物質の種類によりましてそれぞれ適当な分析法を用いなければ、信頼し得る値が得られないというような
状況にございます。この中で最も信頼し得る値が得られますものは、X線の回折法による
方法でございます。これによりますと極めて正確な値が極く短時間で得ることができるのでございますが、如何せんこの
只今申上げましたX線の機械は極く最近できました機械で、
日本でも僅か一、二台しかございません非常に高価なものでございます。どこでも簡単にその機械を用いて粉塵中の遊離けい酸を求めるというわけには参りません。そこでこれに代るべき簡単で比較的信頼のある
方法、こういうものに
研究が重ねられて参りましたが、まだこれならばという安心して分析を重ねられる
方法に到達しておりません。大体実用上満足すべき程度までにはな
つておりますが、今後更に
研究を重ねなければならないと存じております。以上で遊離けい酸の分析に関して如何なる困離があるかという点について
お話申上げました。
次に、最後に粉塵の発生を予防する手段として現在如何なる
方法が行われているかについて
お話しいたします。粉塵の予防ということに関しましては、先ず粉塵が発生する箇所で発生しないように予防すること、次に発生した粉塵を極力それを鎮静いたしまして、人に害を与えないようにする
方法、それから直接各
個人々々に適当な
対策を講じまして、粉塵を吸引しないようにする
方法、大別いたしますとこの三つに分つことができると存じます。最初に申上げました発塵防止、粉塵の発生を防ぐ
方法といたしましては、これを鉱山の例で申上げますれば、遊離けい酸に富んでいる岩石を鑿岩機で孔をあける、穿孔いたします折に、その穿孔に伴
つて発生しました粉塵を発生すると同時に水で濡らして除去する、或いは発生すると同時にそれを適当な
方法で機械的に吸引いたしまして、空気中に飛び散らないようにする
方法とがございます。初めに申上げました水で濡らして直ちに除去する
方法、これは湿式鑿岩法と申しまして金属鉱山では主として現在こういう方向に向
つて発塵の防止をいたしております。これもその
方法の巧拙によりまして抑制の仕方、発塵の防止の仕方はそれぞれ異な
つておりますが、初め何も用いないときに発生した粉塵を仮に一〇〇といたしますと、これを引下げまして二〇%程度まですることはそれほど困難でないように存じます。二〇%以上にいたしまするためには非常な注意と精密な鑿岩機等を要しまして、なかなか容易ではないと存じますが、二〇%程度までは大体現在の技術で可能であると存じます。
次に申上げましたことは、濡らさないで、水を用いませんで発生した粉塵を直ちに適当な装置で吸引いたす
方法、これは通常乾式集塵法と申しております。乾いた
状態で塵を集めてしまうという
方法でございます。これにつきまして現在
日本では三種の機械が行われておりますが、いずれもまだ試験期を脱しておりません。実用に供されておりますのは極く一、二の例しか聞いておりません。この
方法の中には先ほど申上げました湿式による
方法よりも更に
効果が大であると
考えられる場合もございますが、大むね水を使つた場合とほぼ同様の
効果ありと
考えられます。これが特に撒水管の敷設が
形式的に極めて困難である、或いは技術的に水を引くのは不可能であるというような場合に局部的に用いる場合と、或いは
坑内の鑿岩に水を用いますと岩盤を損めて
作業が著しく困難になる。そういうような箇所では乾式で集塵をしたいと望まれるわけでございます。特にこの湿式と軟式の例について
考えてみまするに、
日本の鉱山におきましては、まだ外国ほど
労働者が水で濡れることに対して非常にそれを苦痛に
考えるというような風習がございませんように見受けられますが、ヨーロツパ等におきましては、
坑内で
労働者が水に濡れることを極めて嫌
つておるというようなことが文献にございます。或いは湿式鑿岩によ
つて水に濡れますと、それが神経痛の原因になるというようなことが言われております。そこで海外におきましては湿式鑿岩よりも乾式集塵機を用いまして粉塵を採取するほうが好まれておるように見受けられます。
次に空気中に浮んでおる粉塵そのものを除塵するためにこれを鎮静いたしまして空気をきれいにする、この
方法につきましては多量の空気を吸引いたしまして、それを適当なフイルターで濾過すれば当然きれいになるわけでございますが、鉱山の
坑内では実際には極めて困難で殆んど行われておりません。昔の書籍等を読みますと、そのような機械が二、三設計されておるようでございますが、殆んど実用に供された例はございませんようです。一般的に鉱山で行われておりますのは、坑道の粉塵が浮んでおります所に水を撒きまして、撒水をいたしまして、その撒水の力によ
つて粉塵を沈降させようということが行われております。この
方法は実験の結果によりますと、水を多量に使用する割に
効果がございませんで、ただ徒らに
坑内を濡らし、
坑内の湿度を高め或いは坑木の腐朽を来たす、或いは落磐を招来するというような欠点のみが多いように
考えられます。最近では水の表面張力を引下げ或いは粉塵の持
つております電荷、電気の量でございますが、電荷の
関係で沈降を極めて容易にならしめるような一種の薬、これは通常外に出ておりますソープレスソープの類でございますが、そういうようなものを水に混ぜることによ
つて撒水の
効果を高めておる
方法もございますが、何分長い間にはその薬品に対する費用が多量になりますので、実験的には行われておりますが、極く一部を除いては実用化されておらないようでございます。
最後に
個人々々の吸引防止の問題でございますが、これは当然マスクを用いることが代表的な
対策でございます。現在マスクには第一種、第二種とございまして、粉塵数が多く且つけい肺の危険があるような所では当然第一種の濾過効率のよい高級なマスクを用いなければならないわけでございます。併しながらこれも当然マスクを用いましても多少の粉塵は吸引しなければなりませんので、このマスクだけを用いれば他の
方法はどうでもよいというわけにはならないと存じます。先ず基本的な機械そのものについての発塵防止をいたしまして、それで吸引し切れずなお且つ空気中に飛散したものをこのマスクを以て予防するというような少くとも二段がまえの予防法を講ずる必要があると存じます。
以上申上げましたことは、主として私の専門といたします鉱山及び
炭鉱の
立場から申上げたのでございますが、このほか工場等におきましても種々の予防
方法が行われております。そのうちで私の存じております点について申上げますと、先ず普通の工場等で最も発塵の激しいものの
一つであると思われまする鋳物工場等のサンド・ブラ
スト、ここにおきましては現在送風ヘルメツトというものを用いております。これは普通のマスクではそこに存在しております空気を吸引し、そのマスクによりましてそこの粉塵を濾過してれその空気を補給しておるわけでございます。如何に良好な性能を持つマスクを用いましても、そこに存在しております粉塵数が多ければ必然的に多量の粉塵を呼吸せざるを得ないわけでございます。そこでサンド・ブラ
ストのような場合に数万或いは数千個以上の粉塵の浮んでおる所ではかような
方法では不可能である。そこで新鮮な空気を清浄な個所からホースを以て送りまして、丁度潜水夫に陸の上から空気を補給いたしますように、清浄な個所から作
業者に空気を補給して、頭から被つたヘルメット内に新鮮な空気を入れてその排気を出してやる、こういうような
方法で粉塵を呼吸させないような
方法をと
つております。且つ又サンド・ブラ
ストの
方法そのものも変化いたしまして、発塵数の少い
方法に切替える。これは鋳物の技術の問題にな
つて来ますが、そういうような
方法で生産技術的に発塵防止法が行われておることを見聞いたしております。
以下極めて簡単でございますが、大体粉塵に関する諸問題について極く一
通りお話をした次第でございます。